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イソップ物語に『ロバを売りに行く親子』という話があります。知らない人もいると思うので、ストーリーを紹介します。
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とある親子がロバを売りに市場へ出かけていました。
それを見た人が言いました。
「せっかくロバを連れているのに、乗らずに歩くとは愚かな親子だ」
なるほどと思った父は、子どもをロバに乗せました。
しばらくすると、別の人が現れて言いました。
「元気な子どもが親を歩かせるとは、なんと不孝な子どもだ」
それを聞いた父はロバに乗り、子どもを歩かせました。また別の人が現れて言いました。
「親だけ楽をして子どもを歩かせるとは、ひどい親だ」
父は子どもと一緒にロバに乗ることにしました。また別の人が現れて言いました。
「ふたりでロバに乗るなんて、ロバがかわいそうだ」
父は子どもと協力して、ロバをかついでいくことにしました。しかし、不自然な姿勢をイヤがったロバが暴れだしました。
そこは不運にも橋の上で、暴れたロバは川に落ちて、流れていってしまいました。
(画像は許可を得て転載:絵本のPicitio「ろばとおやこ」)
さて、このロバを売りに行く親子。教訓は「主体的に考えず、他人の話に流されてばかりだと痛い目に遭うよ」ということです。
この寓話をもとにして、他人が言うことに右往左往する人を、林修さん(いわゆる林先生)は「ロバの親子症候群」であると、テレビで言っていました。ロバの親子症候群は、林さんの造語です。
この症候群にかかっている人は多くいます。
たとえば「○○を食べると体にいい」とテレビで流れると、次の日にはスーパーからその食品が消えている。「子育てには○○がいい、東大に子どもを行かせるためには○○するといい」と聞くと、それを実践する。
このロバの親子症候群を予防するためには、「思考の節約から脱却」を土台に、林さんが言う「遮断力」に加え、「目利き力」が必要になると思っています。
竹内靖雄は日本人は「思考の節約」に熱心であるといっています。つまり、複雑なことは極力省略し、考えないようにするのです。
ロバの親子症候群も、自分で考えることを放棄して、他人の意見をそのまま採用するという「思考の節約」が如実に現れています。
私は思考の節約と聞くと、NHKの「坂の上の雲」というドラマを思い出します。
秋山真之(本木雅弘)が新聞を読んでいると、兄の秋山好古(阿部寛)がそれを奪いとって破ってしまうシーンがあります。兄に向って「なにするんじゃ」と言う真之に好古はこう言います。
「新聞はお前にはまだ早い。おのれの意見もないもんが、他人の意見を読むと害になるばかりじゃ。こんなもんは長じてから読め」
思考の節約をして、他人の意見を聞いてばかりいると、主体性を失くしてしまうことを戒めたものだと思いますが、なかなか含蓄ある言葉であると感心しました。
主体性なくして、人生なしだと思います。
目利き力というのは、最近でいうリテラシーのことです。メディアリテラシーやヘルスリテラシーなど聞いたことがある人も多いのではないかと思います。
目利き力とは、情報が信頼に足るものか判別できる、得られた情報を論理的に分析できる能力であるとします。これはこれからの時代とても重要になってくると思います。
谷岡一郎さんは世の中の社会調査の過半数はゴミであり、ゴミを見分ける能力(リサーチリテラシー)を学ぶことを勧めています。
ゴミの中から、大切な情報をいかに選べるか。遮断力とともに、必要な能力です。
では遮断力とはなにか。遮断力というのも、林さんの造語です。
現代は情報が溢れかえっています。あれも、これもすべてを手に入れようとしたら、情報の波に飲み込まれてしまいます。それを選んだら、信念のもとにほかは捨てる必要がある。それこそが遮断力。
あれもこれもは、最終的にどれでもなくなってしまうんですよね。
林さんは、自分がロバを売りに行く親子の父になったら、最初の人の指摘だけを実践して、あとは無視するだろうと言っていました。
自分で考え、目利きして決めたのなら、あとは信念をもってそれをやり遂げていくだけです。
考えもせず、目利きもせずでやるから迷ってしまうのです。ほかの情報は遮断して、信念をもって実践するのも、ロバの親子症候群を予防するために欠かせない能力です。
まずは主体的に考えること。これなくして、人生を生きているとは言えません。主体的に考えることができない人は、他人によって生かされているのと同じです。
思考して決めるためには目利き力が必要です。そして、最後はほかの情報を遮断し、信念のもとそれを実践していく。情報化社会では、これらが大切だと思います。
目利き力と遮断力は一朝一夕に身につくものではないので、少しずつ涵養していきましょう。
【資料】
(1)「日本人らしさ」とは何か、竹内靖雄、PHP文庫、2000
(2)「社会調査」のウソ、谷岡一郎、文春新書、2000