明治三十四年義和団事変ニ関スル最終議定書


千九百一年(明治三十四年)九月七日北京ニ於テ調印
同年十二月二十八日公示

独逸全権委員 ア、ムンム、フォン、シユワルツエンスタイン閣下
墺地利洪牙利国全権委員 男爵 エム、チカン、フォン、ワールボルン閣下
白耳義国全権委員 ジユースタンス閣下
西班牙国全権委員 ベ、ジー、ド、コロガン閣下
亜米利加合衆国全権委員 ダブリユー、ダブリユー、ロツクヒル閣下
仏蘭西国全権委員 ポール、ボウ閣下
大不列顛国全権委員 サー、アーネスト、サトウ閣下
伊太利国全権委員 侯爵サウルヴァゴ、ラツジー閣下
日本国全権委員 小村寿太郎閣下
和蘭国全権委員 エム、エム、クノーベル閣下
露西亜全権委員 エム、ド、ギールス閣下

及 清国全権委員 総理外務部事務 和碩慶親王奕劻閣下
             太子太傅文華殿大学士商務大臣北洋大臣直隷総督部堂一等肅毅伯 李鴻章閣下
         

ハ清国カ列国ノ満足スル如ク千九百年十二月二十一日ノ連名公書ニ列挙セラレ且清国皇帝陛下ニ於テ千九百年十二月二十七日ノ勅諭 附属書第一号 ヲ以テ其ノ全部納メラレタル所ノ各条件ニ遵応シタルコトヲ確認スル為メ茲ニ会合スルモノナリ



第一条甲 去ル六月九日ノ上諭 附属書第二号 ヲ以テ醇親王澧清国皇帝陛下ノ大使ニ任セラレ此ノ資格ヲ以テ故独逸国公使男爵「フォン、ケツテレル」閣下虐殺ノ件ニ関シ清国皇帝陛下及清国政府惋惜ノ意ヲ独逸国皇帝陛下ニ致スヘキコトヲ命セラレタリ
醇親王ハ此ノ使命ヲ果サムカ為メニ去ル七月十二日北京ヲ発程セラレタリ



第一条乙 清国政府ハ故男爵「フォン、ケツテレル」閣下虐殺ノ地点ニ於テ死者ノ官位ニ適合シ且羅甸語、独国語、清国語ヲ以テ右殺害ニ関シ清国皇帝陛下ノ惋惜ヲ表スルノ銘誌ヲ有スル紀念碑ヲ建設スヘキコトヲ声明シタリ

清国全権委員閣下ハ去ル七月二十二日ノ書簡 附属書第三号 ヲ以テ道路全幅ノ牌坊ヲ該地点ニ建設スルコト及去ル六月二十五日ヨリ其ノ工事ニ着手シタルコトヲ独逸国全権委員閣下ニ通知シタリ



第二条甲 千九百一年二月十三日及二十一日ノ各上諭 附属書第四号第五号第六号 ヲ以テ外国政府及外国臣民ニ対スル非企及罪悪ノ首犯者ニ左ノ刑罰ヲ科シタリ

端郡王載漪及輔国公載瀾ハ斬監侯ニ処セラレタリ而シテ若皇帝ニ於テ之ニ恩典ヲ加ヘ死ヲ免カレシムヘシトノ叡慮アルトキハ之ヲ新疆ニ遠謫シテ永久禁錮ニ処シ何等減刑ノ恩典ヲ加フルコト無カルヘキ旨約定セラレタリ

荘親王載勛 都察院左都御史英年及刑部尚書逍[注:趙の誤植か]舒翹ハ自尽ノ刑ニ処セラレタリ

山西巡撫毓賢礼部尚書啓秀及前刑部左侍郎徐承煜ハ死刑ニ処セラレタリ

吏部尚書協辦大学士剛毅大学士徐桐及前四川総督李秉衡ハ官位追奪ヲ宣告セラレタリ千九百一年二月十三日ノ上諭 附属書第七号 ヲ以テ昨年ニ於ケル最モ憎ムヘキ国際公法違犯ノ行為ニ反対シ之カ為メニ生命ヲ奪ハレタル兵部尚書徐用儀戸部尚書立山、吏部左侍郎許景澄、内閣学士聯元及太常寺卿袁昶ノ官位ヲ復セラレタリ

荘親王ハ千九百一年二月二十一日英年及趙舒翹ハ二十四日ニ自裁シ毓賢ハ二十二日啓秀及徐承煜ハ二十六日ニ死刑ヲ執行セラレタリ

甘粛提督董福祥ハ後日ヲ待テ刑罰ヲ確定スヘキモノトシテ先ツ二月十三日ノ上諭ヲ以テ其ノ官職ヲ奪ハレタリ

千九百一年四月二十九日及八月十九日ノ各上諭ヲ以テ昨年夏季ニ於ケル非企罪悪ノ有罪者ト認メタル地方官吏ニ各自相当ノ刑罰ヲ科セラレタリ



第二条乙 千九百一年八月十九日ノ上諭 附属書第八号 ヲ以テ外国人カ虐殺セラレ若ハ虐待セラレタル各市府ニ於テ五箇年間科挙ノ停止ヲ命セラレタリ



第三条 故日本国公使館書記生杉山氏ノ虐殺ニ対シ名誉アル補償ヲ為スカ為メニ清国皇帝陛下ハ千九百一年六月十八日ノ上諭 附属書第九号 ヲ以テ戸部侍郎那桐ヲ特使ニ任シ杉山氏虐殺ノ件ニ対スル清国皇帝陛下及其ノ政府ノ惋惜ノ意ヲ日本皇帝陛下ニ致スヘキコトヲ特ニ命セラレタリ



第四条 清国政府ハ外国若ハ各国共同墓地ニシテ汚涜セラレ又ハ其ノ所在墳墓ノ破壊セラレタルモノニハ各贖罪ノ紀念碑ヲ建設スルコトヲ約シタリ依テ関係公使館ハ右建設ニ関シ指示ヲ与フヘク清国ハ其ノ一切ノ費用ヲ支払フヘキコトニ列国代表者トノ協議商定ヲ経タリ而シテ此ノ費用ハ北京及其ノ近傍ノ墓地ニ対シテハ各一萬両地方ノ墓地ニ対シテハ各五千両ト予算シ該金額ハ支出ヲ了セラレタリ茲ニ其ノ墓地表ヲ添付ス 附属書第十号



第五条 清国ハ兵器弾薬及専兵器弾薬ノ製造ニ使用セラルヘキ材料ヲ清国版図内ニ輸入スルノ禁止ヲ承諾シタリ而シテ二箇年間該輸入ヲ禁止スル為メ八月二十五日ノ上諭 附属書第十一号 ヲ発布セラレタリ嗣後尚ホ列国ニ於テ之ヲ必要ト認ムル場合ニハ更ニ上諭ヲ以テ前記ノ期限ヲ引続キ二箇年宛延長スルコトヲ得



第六条 清国皇帝陛下ハ千九百一年五月二十九日ノ上諭 附属書第十二号 ヲ以テ列国ニ四億五千萬海関両ノ償金ヲ支払フコトヲ約諾セラレタリ此ノ金額ハ即千九百年十二月二十二日ノ連名公署第六条ニ指定シタル国家、団体、個人及清国人ニ対スル償金ノ総額ヲ表示スルモノトス

(甲) 此ノ四億五千萬両ハ左ニ示スカ如キ海関両ノ列国金貨ニ対スル相場ニ基キ計算シタル金貨債ヲ組成スルモノトス
一海関両ハ 三、〇五五「マルク」
      三、五九五「墺洪国」「クゥロンヌ」
      〇、七四二金弗
      三、七五〇「フランク」
      〇[注:磅 ]、三志〇片
      一、四〇七円
      一、七九六蘭国「フロレン」
      一、四一二金「ルーブル」(品位一七、四二四「ドリア」)
ニ相当ス

清国ハ右金貨債額ニ年四分ノ利子ヲ附シ別紙償還表 附属書第十三号 ニ示セル条件ニ従ヒ三十九箇年ヲ以テ其ノ元金ヲ支払フヘキモノトス

元金及利子ノ支払ハ金貨ヲ以テスルカ若ハ各支払期日ニ於ケル為換相場ヲ以テスヘシ

元金償還ハ千九百二年一月一日ニ始マリ千九百四十年ノ末ニ終ル償還金ハ毎年之ヲ支払フヘキモノトシ其ノ第一回ノ払込期限ヲ千九百三年一月一日ト定ム
利子ハ千九百一年七月一日ヨリ起算ス然レトモ清国政府ハ千九百一年十二月三十一日ニ終ル第一期六箇月分ノ利子ヲ千九百二年一月一日以後三箇年ノ期限内ニ支払フコトヲ得但右延滞額ニ対シテハ年四分ノ重利ヲ附スヘキモノトス

利子ハ六箇月毎ニ支払フヘキモノトシ其ノ第一回ノ払込期限ヲ千九百三年一月一日ト定ム

(乙)公債支払ハ左記ノ方法ニヨリ上海ニ於テ之ヲ行フヘシ 列国ハ各一名ノ委員ニ依リテ銀行者委員会ニ代表セラルヘシ該委員会ハ特ニ之カ為メニ指定セラレタル清国官吏ヨリ利子及元金ノ支払ヲ受ケ之ヲ各関係者ニ配分シ且之ニ対シテ領収証ヲ交付スヘキ任務ヲ有スルモノトス

(丙)清国政府ハ北京駐箚筆頭公使ニ償金額ニ対スル一ノ債権ヲ交付スヘシ而シテ右債権ハ追テ特ニ之カ為メニ指定セラレタル清国政府委員ノ記名セル小額債権ニ変換セラルヘキモノトス右ノ事務及債権ノ発行ニ関スル一切ノ事務ハ列国カ其ノ代表員ニ下スヘキ訓令ニ準シ前記委員会ニ於テ之ヲ処理スヘシ

(丁)債権ノ支払ニ充テタル財源ヨリ生スル収入ハ毎月之ヲ委員会ニ送付スヘシ

(戊)債権ノ担保ニ供セル財源ヲ列挙スルコト左ノ如シ
 第一 新税関ノ収入ヲ抵当トシタル旧外国債ノ利子及元金ヲ払ヒタル上存スル該収入ノ剰余金ニ海路輸入品ニ対シ現行税率ヲ五分税ニ引上クルヨリ生スヘキ収入ヲ加ヘタルモノ但外国ヨリ輸入ノ米穀類、穀粉、金銀貨及金銀地金ヲ除クノ外従来無税ニテ輸入セラレタル各物品ハ総テ五分税ヲ払フヘシ

 第ニ 開港場ニ於テハ新税関ノ管理ニ属スル旧税関ノ収入

 第三 塩税ノ収入総領但従来外国債ノ担保ニ充テラレタル分ヲ除ク

現行輸入税率ヲ現実五分税ニ引上ルコトハ下記ノ条件ヲ以テ承諾セラレタリ
此ノ税率引上ハ本議定書調印ノ日付ヨリ二箇月後ニ之ヲ実施シ而シテ右日付ヨリ遅クモ十日以内ニ運搬ノ途ニ上リタル商品ノ外其ノ適用ヲ免カルルコトヲ得サルモノトス

 第一 従価ニテ徴収シ来レル輸入税ハ為シ得ル限リ且成ルヘク速ニ従量税ニ改定スヘキモノトス此ノ改定ハ左ノ如クスヘシ即千八百九十七年、千八百九十八年及千八百九十九年ノ三箇年間ニ於ケル各商品陸上当時ノ平均価格換言スレハ輸入税及雑費ヲ控除シタル市価ヲ以テ評価ノ基礎トス但右改定ノ結了ヲ見ルニ至ル迄ノ間ハ従価ニテ徴税スルコト

 第二 白河及黄浦江ノ水路ハ清国ノ経費分担ヲ以テ之ヲ改良スルコト



第七条 清国政府ハ各国公使館所在ノ区域ヲ以テ特ニ各国公使館ノ使用ニ充テ且全然公使館警察権ノ下ニ属シメタルモノト認メ該区域内ニ於テハ清国人ニ住居ノ権ヲ与ヘス且之ヲ防禦ノ状態ニ置クヲ得ルコトヲ承諾シタリ此ノ区域ノ境界ハ別紙図面 附属書第十四号 ニ示ス如ク定メラレタリ即

 西方ハ 一、二、三、四、五線
 北方ハ 五、六、七、八、九、十線
 東方ハ 「ケツテレル」街ノ十、十一、十二線
 南方ハ 韃靼城壁ノ南址ニ循ヒ城垜ニ沿フテ画シタル十二、一線

清国ハ千九百一年一月十六日ノ書簡ニ添付シタル議定書ヲ以テ各国カ其ノ公使館防禦ノ為メニ公使館所在区域内ニ常置護衛兵ヲ置クノ権利ヲ認メタリ



第八条 清国政府ハ大沽砲台並ニ北京ト海浜間ノ自由交通ヲ阻害シ得ヘキ諸砲台ヲ削平セシムルコトヲ承諾シタリ而シテ右ニ関スル処置ハ実施セラレタリ



第九条 清国政府ハ千九百一年一月十六日ノ書簡ニ添付シタル議定書ヲ以テ各国カ首都海浜間ノ自由交通ヲ維持セムカ為メニ相互ノ協議ヲ以テ決定スヘキ各地点ヲ占領スルノ権利ヲ認メタリ即此ノ各国ノ占領スル地点ハ黄村郎房、楊村、天津、軍糧城、塘沽、蘆台、唐山、濼州、昌黎、秦皇島及山海関トス


第十条 清国政府は二箇年地方ノ各市府ニ左記ノ上諭ヲ掲示交付スルコトヲ約諾シタリ

(甲) 排外的団体ニ加入スルコトヲ永久ニ禁止シ犯ス者ヲ死刑ニ処スル旨ヲ記載シタル千九百一年二月一日ノ上諭 附属書第十五号

(乙) 有罪者ニ科シタル刑名ヲ列挙シタル千九百一年二月十三日、二月二十一日、四月二十九日及八月十九日ノ上諭

(丙) 外国人カ虐殺セラレ若ハ虐待セラレタル各市府ニ於テ科挙ヲ停止スル千九百一年八月十九日ノ上諭

(丁) 総督巡撫及各省各地方ノ官吏ハ各其ノ管轄内ニ於ケル秩序ニ対シテ職責ヲ有スヘク且排外的紛擾ノ再発並ニ其ノ他条約違反ノ事アルニ当リ直チニ之ヲ鎮定セス又ハ其ノ犯罪者ヲ処罰セサル場合ニハ該官吏ハ直チニ罷免セラルヘク且新官職ニ任命セラレ若ハ新名誉ヲ享受スルコト能ハサルヘキ旨ヲ宣言シタル千九百一年二月一日ノ上諭 附属書第十六号

以上ノ上諭ハ全帝国内ニ漸次掲示セラレツツアリ



第十一条 清国政府ハ外国政府カ有用ト認ムル通商及航海条約ノ修正並ニ通商上ノ関係ヲ便利ナラシムル為メ其ノ他ノ通商事項ニ関シ商議スヘキコトヲ約諾シタリ清国政府ハ償金ニ関スル第六条ノ規定ニ基キ今ヨリ左記ノ如ク白河及黄浦江水路ノ改良ニ協力スルコトヲ約諾シタリ

(甲) 千八百九十八年清国政府ノ協同ヲ以テ創始セラレタル白河航路ノ改良工事ハ各国委員ノ管理ノ下ニ再興セラレタリ天津ニ於ケル行政ノ清国政府ニ返還セラレタル上ハ清国政府ハ直チニ自己ノ代表者ヲ該委員ニ加フルコトヲ得ヘク且工事ノ維持費トシテ毎年六萬両ヲ支出スヘシ

(乙) 黄浦江更正及其水路改良工事ノ指揮監督ヲ掌ルヘキ水路局ヲ設置ス

該局ハ上海ノ海路貿易ニ於ケル清国政府ノ利益ト外国人ノ利益トヲ代表スル委員ヲ以テ組織ス経営ノ事業一般ノ事務ニ必要ナル費用ハ最初二十箇年間ハ毎年四十六萬両ト見積リ清国政府ト関係者タル外国人トニ於テ其ノ半額ヲ支出スヘシ水路局ノ組織、職権及収入等ニ関スル細則ハ附属書中ニ之ヲ記載ス 附属書第十七号



第十二条 千九百一年七月二十四日ノ上諭 附属書第十八号 ヲ列国ノ指定シタル旨趣ニ因リ外交事務衙門タル総理衙門ヲ改革セラレタリ即総理衙門ヲ外交部ト改メテ他ノ六部ノ上位ニ置クコトト為シ而シテ又前記ノ上諭ヲ以テ外務部ノ主要ナル官吏ヲ任命セラレタリ外国代表者ノ謁見ニ関スル宮庭ノ礼式ニ関シテモ亦既ニ商定ヲ経タリ此ノ件ニ関スル清国全権委員ノ書簡数通アリ別紙覚書ニ其ノ要点ヲ摘載ス 附属書第十九号



終リニ前記ノ各宣言及列国全権委員ヨリ発シタル付属文書ニ関シテハ仏文ヲ以テ憑ト為スコトヲ特ニ約定ス


斯ノ如ク清国政府ハ列国ノ満足スル如ク千九百年十二月二十二日ノ連名公書ニ列挙セラレタル各条件ニ遵応シタルヲ以テ列国ハ千九百年夏季ノ騒擾ヨリ発生シタル状態ノ終止ニ至ラムコトノ清国ノ希望ヲ承允シタリ之ニ因テ列国全権委員ハ第七条ニ記載シタル公使館護衛兵ヲ除キ千九百一年九月十七日ヲ以テ北京ヨリ全然列国軍隊ヲ撤退シ又第九条ニ記載シタル地点ヲ除キ同年九月二十二日ヲ以テ直隷省ヨリ撤兵スヘキコトヲ其ノ各自ノ政府ノ名ヲ以テ茲ニ宣言ス


本最終議定書ハ同文十二通ヲ作リ各締約国全権委員之ニ署名シ列国全権委員ニ一通宛ヲ交付シ清国全権委員ニ一通ヲ交付ス



 千九百一年九月七日北京ニ於テ


ア、ムンム(署名)
エム、チカン(署名)
ジユスタンス(署名)
ベージー、コロガン(署名)
ダブリユー、ダブリユー、ロツクヒル(署名)
ボウ(署名)
アーネスト、サトウ(署名)
サルヴアゴ、ラツジー(署名)
小村寿太郎(署名)
エフ、エム、クノーベル(署名)
エム、ド、ギールス(署名)
奕劻(署名)
李鴻章(署名)




附属書略









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