オバロ短編集   作:わかめ大使
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タイトルを変えました。短編集にして気に入ったやつ、書きやすそうなやつ、評価が良いやつを時間が出来たら長編にして書くかもしれないです。
例のごとくネタを使いたい人がいれば使ってください。


冒険者・ゼロ

 王国の辺境に位置するカルネ村は帝国の鎧を付けた兵士たちに襲われていた。

 村人が住んでいた家々には火がつけられ、そこに住んでいた家主たちの幾人かは剣で切り付けられ、血の海に沈んでいる。

 

 このまま何も起きなければ、それまで襲撃者たちが襲ってきた集落のように村の壊滅は必至だったことだろう。

 例えば超位魔法を使えるような骨が居なければ、村人のほぼ全てが、斬られ、あるいは焼かれてその生涯を閉じた事だろう。

 

 そこに人を超えた実力の者が居なければ。そして普通はそうなるだろう。

 

 たまたま辺境の村に人外染みた実力者が居るということ自体、村人にとってはありえないほどの幸運で、襲撃者たちにとってはあり得ないほどの不幸だった。

 

「嘗めるなああああああ!」

 

 無力な村人、それもただの娘を狩るだけの簡単な仕事だと考えていた帝国風の装いをした侵略者は思わぬ反撃に遭った。

 当然反撃された方は怒る。

 そして少し冷静になって、所詮はただの時間稼ぎにもならない誤差でしかないと気づく。

 

 それは襲う者、襲われる者お互いの共通認識だった。

 

 だからこそ襲撃者はフルフェイスの兜の中で厭らしい笑みを浮かべる

 

「ただの村人のくせに無駄な足掻きをしやがって」

「すぐに楽にしてやる」

 

 そう言って振り上げられた剣は少女に届くことはなかった。

 

 グチャッと何かが潰れたような音がして周囲に液体が降り注ぐ。

 その液体の出どころは今まさに剣で刺殺されそうになっていた少女ではなく、頑丈な鎧に覆われた狼藉者の方だった。

 

「無駄な足掻き、ではなかったようだな。こうしてこの俺、拳聖のゼロが辿り着いたんだからな」

 

 それまでその場に居なかった人物の声に残った兵士と少女はしばし呆然とする。そしてその男を認識したとき、頑丈な兜ごと人間の頭がはじけ飛ぶという理解しがたい現実もこの男なら可能だと本能で把握するのだった。

 

 縦にも横にも大きな男。

 はちきれんばかりの筋肉が醸し出す暴力の香りは、たった今まで殺しを楽しんできた兵士たちよりも濃い死の香りで、その一方で胸元に燦然と輝くアダマンタイトのプレートがその男の輝かしい経歴を物語っている。

 

「アダマンタイトの冒険者だと!?だが、冒険者であるなら国家間の出来事に干渉することは許されていないはず!今この地は我々帝国軍の策源地である!速やかに退避されたし!」

 

「……言いたいことはそれだけかよ」

 

 そしてもう一人の異分子が現れる。

 南方特有のカタナと呼ばれる武器を振り切った状態で、言葉を放った兵士の後方二メートルほどのところに立っている。

 

 兵士は言い返そうとして声が出ないことに気づいた。

 何故なのか。

 それを考えているうちに思考は闇の中へと沈んでいった。

 

「相変わらず良い腕をしてるな。ブレイン。こいつ、斬られたことに気づかずに死んだんじゃないのか?」

 

「抜かせ。こんな奴らいくら切ったところでれべるあっぷって奴には程遠いぜ」

 

 それもそうか。と言いながら、ゼロと名乗った男は少女の方に近づいていく。

 荒事に慣れた大男が近づいてくるのはただの村娘にとっては恐ろしい光景ではある。時と場所が違えば、事案として公権力にしょっ引かれそうな光景だが、力こそ正義な場所ではそれは通用しない。

 

 自分の背後に庇った小さな妹のお姉ちゃんと呼ぶか細い声に勇気を奮い立たせ、払える対価は何でも差し出そうという覚悟をよそに、ゼロという男が差し出してきたのは瓶に入った青いポーションだった。

 

「嬢ちゃんの拳。なかなか良かったぞ。だがポーションは飲んどけ。拳がぶっ壊れるぞ」

 

 そのゼロの言葉に自分の拳の状態を確認すると確かに酷いことになっていた。恐らく鉄でできた兜をまともに素手で殴れば普通はこうなる。目の前には素手で兜ごと人間の頭部を粉砕した人間がいるが、これは例外というものである。

 

「……冒険者の方。助けていただいてありがとうございます」

 

 そうして改めて襲ってきた痛みに顔をしかめながら、何とか礼を言う。

 

「しかし困ったことになっちまったな」

 

 カタナを持った方の男が、言葉だけは困ったようにつぶやくが、本心はそうではないのがよく分かる好戦的な笑みを浮かべる。

 

「さっき死んだ奴の言うように国家間の争いに冒険者は不干渉。ゼロ。どうする?」

 

「そう言ってるが、てめえ笑ってんじゃねえか。やることは決まってんだろ?」

 

「……バレちまったか。この程度の奴らなら経験値の足しにもならねえだろうが、少しは役に立ってもらおうって寸法だな」

 

 カタナ使いの方はそう言うと火の手の上がる村の中心部へと走っていく。その様をしょうがないなと笑いながら、追従しようとするゼロに少女から声がかけられた。

 

「……どうして助けてくれるんですか?」

 

「どうして、か。決まってんだろ」

 

 ゼロはそう言うと少女の方に向き直って宣言する。

 

「弱者を救わないと師匠に怒られるからだ!」

 

 その宣言は先ほどまでの恐ろしい印象が一瞬で吹き飛ぶほどの、とても情けないものだった。




ゼロさんの喋り方が分からんのでツッコミ待ち。
もしゼロさんが八本指ではなくまっとうに冒険者としてやっていたらっていう話。

以下裏設定
・ゼロの師匠はユグドラシルプレイヤー。これは多分想像できると思う。
・ゼロとブレインのレベルは原作よりも格段に高い。
・ゼロの本名はゼロではないと思うので、とりあえず個人的に考えた裏ストーリー。
孤児か捨て子で犯罪組織に与するしかなかった将来のゼロがユグドラシルプレイヤーに運良く拾われ、それまでの人生をゼロから新たに始めろと言う意味でゼロという名前を貰った的なカバーストーリーを妄想。原作ではどうだったかは知らん。






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