強くてニューゲーム   作:トモちゃん
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レメディオス全国デビュー


24話

―ローブル聖王国首都ホバンス、王城の一室―

「おい、嬢ちゃんよ、もういい加減に休め」

 

ケラルト・カストディオは、もうどれくらい寝ていないだろうか。

このままでは、何時倒れてもおかしくない。

今この女に倒れられては、この国は終わりだ。唯でさえ、致命的な状況だというのに。

 

「悪いわね、オルランド。私は休んでる時間なんて無いの」

 

ケラルトはすっかりやつれ、目の下には隈が出来ている。

彼女は、姉と親友を同時に失ったのだ。それも、最悪の形で。

いや、姉はまだ生きているかもしれない。だが、その場合は自分が処刑しなければならない。

 

「逃げてもどうしようもねえぞ」

 

ジロリ、とケラルトが睨みつけるがオルランドは意にも介さない。

 

「どこにも逃げ道なんてねえんだよ。次、これからどうするかを考えろ」

 

常に戦場の最前線に立ってきたオルランドは、いざとなれば上官も部下も切り捨てる。

時には自分の命すら切り捨てる覚悟を持っていた。

 

「いやよ、全部私のせいだもの」

「何言ってんだ。あの時同盟を結んでなけりゃ、南部の馬鹿どもが暴走してた可能性だってあっただろうがよ」

「姉さまのことだって、私がちゃんと考えるようにさせていれば、こんなことにはならなかった」

「馬鹿かお前、何で手前の姉ちゃんの面倒まで、お前が見る必要があんだよ? レメディオスが馬鹿なのはあいつ自身のせいだろが。何でもかんでも、自分で出来ると自惚れてんじゃねえよ」

「……慰めるなら、もっとちゃんと慰めなさいよ」

「良いからとっとと寝ろ。これからもっと忙しくなるんだからよ」

 

聖王女の死後、聖王国は二つに割れた。

旧聖王女派の北部と、反聖王女派の南部に。

北部は、聖王として王兄のカスポンドを擁立したが、南部の貴族たちがこれに反対、聖王国は内戦勃発が間近だった。

聖騎士団を失った北部では、兵力で明らかに負けている。

魔導国に降り、その庇護下に入るのが最も現実的な選択肢だろう。

ケラルトは、その最終調整を行っていた。近日中に新聖王の承認を受け、決定することだろう。

 

南部の貴族たちの後ろで糸を引いている八本指という組織には、誰も気付いては無かった。

 

 

 

 

 

―バハルス帝国帝都アーウィンタール、帝城の一室―

皇帝ジルクニフは、報告書に目を通し、いつも通り頭を抱えた。

手についた抜け毛は部下に見られないよう、さっと払う。

 

「聖王女が崩御だと? 聖騎士団長に殺害されたというのは本当か? 」

 

帝国から聖王国までは相当の距離がある。

真贋の確認だけでもそれなりの時間がかかる。

 

「どうやら間違いないようですぜ。まあ、脳筋だって聞いてましたがね。いくら何でもあり得ませんよ」

 

聖王国を象徴する聖騎士団が、同盟を結んだ相手に攻め込む。

この時点で、国家として致命傷だ。

近隣国家全てを敵に回しても当然の行為だと気付かない奴が聖騎士団団長とは、聖王国はどうなっているんだ?

対魔導国の同盟相手として考えていたが、早まらなくて良かった。

 

「に、してもこの女の行動は訳が分からん。聖王女を殺害して逃げるとは」

「狂人の行動なんて理解出来る奴はいませんよ」

 

バジウッドの言う通りだ。

こいつは理解出来ないレベルの狂人だ。

 

「問題は、聖王国が、いつ内乱に突入するかだな」

「もうすぐでしょうな。それまでに魔導国の属国になれれば、少なくとも北部は助かるでしょうが」

 

どっちにしても聖王国は魔導国に食われる。

同盟相手として、都市国家連合は小さすぎる。

このままでは、帝国は遠からず完全に孤立してしまう。

 

「騎士団はどうだ? 」

「あいつらは、直接魔導国を見てませんからね。デミウルゴス、いや、魔皇ヤルダバオトを利用して魔導国に対抗するべきだって息巻いてますぜ」

 

ジルクニフが大きく溜息を吐く。

 

「バジウッド、暴走するような馬鹿が居れば切れ」

「分かってますって」

 

絶対者だった皇帝の権力が段々削られているような気がする。

魔導国はまだ、何も仕掛けてきてはいないというのに。

既に信用できる側近は、秘書官の数人と帝国四騎士、いや、一人魔導国に行ったので三騎士位だ。

 

フールーダからは、つい先日、手紙が届いた。

魔導王から、手紙くらい出せと言われたらしい。

研究の日々がたまらなく楽しいらしい。

毎日が新しい発見で、寝る暇さえ惜しい位だと。

ドワーフやドラゴンの友人が出来たと楽しそうに書いてあった。

誰のせいでこんな苦労をしていると思っているのか。

 

シクシクと痛み出した胃を押さえ、今日も政務に向かいあう。

もう諦めても良いんじゃないかなとか考えながら。

 

 

 

 

 

―リ・エスティーゼ王国王都、ロ・レンテ城内、ヴァランシア宮殿の一室―

「エイヴァーシャー大森林、エルフの国も魔導国の版図に加わるようですね」

 

新女王ラナーが優雅にお茶を淹れる。

 

「ええ、帝国で奴隷として扱われているエルフたちも買い取り、国へ帰すとか」

 

宰相レエブン候が飲んでいたカップを下ろし、答える。

 

「しかし分かりませんね。何故、魔導王陛下は帝国に金を渡すような真似を? 魔導国の力であれば、奴隷たちを返還するよう、実質命令することも出来るでしょうに」

「力で、無理やり言うことを聞かせるのは魔導王陛下の好みではないのでしょう。強引すぎる行為は反感を買いますからね」

「あれだけのお力があって尚、恐ろしいほど慎重なお方ですな」

 

そうで無ければ、あのような強者たちに絶対の忠誠を抱かせるほどの王たり得ないのかもしれない。

嘗て、王位簒奪を望んでいた自分はどれ程、身の程知らずだったのか。

 

「さて、女王陛下。クライム殿との婚姻の件ですが、反対するものはございません」

「そうですか。ふふ、やっと夢が叶うのですね」

 

この女王の夢がどんなものか、思い出したくもないが、自分に関係が無ければどうでも良い。

新王となるクライムには可哀想だが、いや、彼も想い人と結ばれるのだ。

きっと良かったと思うことだろう。

 

「それでは、儀礼についてのレクチャーを始めましょう」

 

平民出身の新しい王と美しい女王はきっと民の祝福を受けることだろう。

後に女性好みのラブロマンスとして謡われるかもしれない。

知らないということは、実に幸せなことだ。

 

 

 

 

 

 

―エ・ランテル、アインズの執務室―

「さて、例の愚かな女は、いつ頃やってくるでしょうか?」

 

デミウルゴスは心底楽しそうだ。

それも当然だ。彼は悪魔なのだから。

妹と親友に殺されそうになり、親友を殺した女などは悪魔の大好物だろう。

彼女の心中は、察するに余りある。

それだけに楽しみだ。今が底と思っているものを、更なる底に叩き落すのは。

 

「デミウルゴス? 余り趣味に走らないでよ? アインズ様のお名前を汚すようなことは許さないわよ」

 

溜息を吐きながら釘をさすのは、魔導国宰相にして正妃たるアルベド。

 

「で、どうだ? 恐怖公? 」

「はい、アインズ様。ここ数日中にエ・ランテルに到着予定というところですが、些か問題がございますな」

「やはりそうか。ここまで考えなしだとどうしようもないな」

 

アインズは掌で顔を覆う。

そんなはずは無いのに、頭が痛い。

 

「本当に、そのまま都市に侵入するつもりなのでしょうか? 」

「変装もしておりませんし、装備も聖王国の聖騎士のままですぞ。バレない方が難しいというものです」

 

常に、紳士としての態度を崩さない恐怖公も、流石に呆れ声だ。

もういっそ、こっちから迎えに行った方が良いんじゃないだろうか?

いや、民衆の前で悪に堕ちた聖騎士を斃す方が見栄えが良い。

彼女を利用して、反魔導国の戦力の旗頭にしようと考えていたが、この頭では無理だろう。

折角ここまで来たのだから、もう少し頑張ってもらおう。

多少の計画変更も余儀なくされたが、それもあと少しだ。

どうせ逃げることも出来ないのだし、焦る必要はあるまい。

 

「彼女は悪の道に堕ち、身の程知らずな野望を抱き、魔導国を侵略。それを阻止しようとした聖王女を殺害し逃亡した」

「自身の野望を阻害されたことを逆恨みして、アインズ様を狙ったというシナリオで宜しいでしょうか? 」

「そうだな、それで問題は無い。さて、この国に侵入するために、彼女には変装してもらわねばならん」

「しかし、手持ちの装備など無いように見えますが」

「良いか、彼女は悪の騎士なのだ。デミウルゴス? 」

「なるほど、そういうことですか。畏まりました。では、彼女の前を、行商人一行が不幸にも“偶然”通ることになるでしょう」

 

正義を標榜する聖騎士が堕ちていく姿を想像するのは、たまらない愉悦だ。

 

「正義が聞いて呆れるな。まさか、罪もない一般人を殺害して金品と衣類を強奪するとは」

「くふふ、そうです。衣服に付着した真新しい血痕について、職務質問を受けてもらいましょう」

「往来で剣を抜いて貰いますか。幼子などを人質に取ってもらうのはどうでしょう? 」

「うむ、これは聖騎士の掲げる正義を真っ向から否定する為のデモンストレーションだ。彼女にはトコトン悪役になってもらうとしよう」

「正義の執行者の筈が、悪魔であるデミウルゴスに力を借りることを望むなんて、本末転倒ですね」

「大通りのど真ん中で実行することとしよう。ああ、不幸にも命を落とした行商人は私が蘇生するとしよう。我が国の民なのだからな」

 

邪悪な聖騎士の亡骸を引き渡し、北部聖王国に恩を売っておくとしよう。

南の方も上手くいっているようだ。南側も安定した統治を行うためには、泥沼の内乱になるのが望ましい。

国民の誰もが平和を望むような、そんな状況でこそ、手を差し伸べるべきだろう。

そろそろ新聖王が暗殺され、南側が新しい聖王を担ぎ出す頃だ。

 

翌日、エ・ランテル近郊で街道を外れた商人一行が殺害され、金品などを奪われる事件が起こった。

魔導国政府は、街道沿いは警備のアンデッドが巡回しているので、必ず街道を通るよう声明を出した。

犯人はまだ、捕まっていない。

 




フールーダ「ジルクニフへ。わし、今超ハッピー。毎日がパラダイス。気が合うドワーフやドラゴンの友達も出来ました。ジルクニフも元気かな?わし、超元気」






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