<社説>「違法」な桟橋利用 国策なら何でもありか

 法を守るべき国が、届け出の不備で使用できないはずの民間桟橋から土砂を搬出していた。ずさん極まりない。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に伴う新基地建設に向けて、政府は名護市安和の民間桟橋から運搬船に土砂を積み込む作業に着手した。
 安和桟橋は民間事業者がセメントの出荷に使うため設置を申請し、2016年に許可されている。ところが、県の公共用財産管理規則で定める、桟橋設置工事の完了届けを事業者が提出していなかった。
 作業開始後、県の行政指導を受けて届けが出されたが、申請通り設置されていることを県が立ち入り検査で確認するまで使用は許されない。
 それだけではない。赤土等流出防止条例に基づき必要とされる事業行為の届け出もなされていないことが判明した。4250平方メートルの敷地を、赤土を含む岩ずり(砕石された岩石)の堆積場として使用するには県の許可が必要だ。
 条例では千平方メートル以上の一団の土地で事業行為をする者に、事業開始45日前までの手続きを義務付けている。県は作業を停止し届け出を提出するよう指導した。
 玉城デニー知事は、土砂搬出に関する手続きを「違法」と断じている。
 政府は、新基地建設の既成事実化を急ぐことで、反対する県側の抑え込みをもくろんでいる。玉城知事が安倍晋三首相と会談してからわずか5日後に土砂の搬出に動きだしたのはその表れだ。
 だからといって、必要な手続きを経ていない施設を使用することは許されない。県から「違法」と指摘された防衛省は土砂の積み込みを中断せざるを得なかった。岩屋毅防衛相は「不備があれば改める」と釈明している。
 事情を知りながら桟橋や土砂堆積場を使用したのなら極めて悪質だ。知らなかったのなら、国の機関としてはあり得ない失態といえる。単なる不注意では済まされない。
 この間の辺野古を巡る政府の動きから浮かび上がってくるのは、新基地建設のためならなりふり構わない安倍政権の強権姿勢だ。
 政府機関でありながら一般国民の権利利益を救済する仕組みである行政不服審査制度を使って「身内」の国土交通相に工事再開を認めさせた。そして今回の拙速な民間桟橋の使用である。国策なら何をしても許されると言わんばかりだ。新基地ありきで思考停止に陥り、冷静さを失っているように見える。
 岩屋防衛相は県と政府の集中協議に関し「十分に丁寧な段取りを踏ませていただいた」と述べた。確かに言葉遣いは丁寧だが、やっていることは乱暴そのものだ。
 政府は頭を冷やして考えてほしい。圧倒的多数の県民が反対する中で県内移設を強行することが民主主義国家の振る舞いとしてふさわしいのか。答えは明らかだろう。新基地建設は即刻断念すべきだ。