入管難民法などの改正案の衆院通過を巡り、衆院議長が再質疑を求める異例の発言を行った。審議の在り方を憂う事実上の「裁定」だ。与党は重く受け止め、強引な議会運営を改めるべきである。
外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正案が衆院を通過した十一月二十七日、大島理森衆院議長が与党の国対委員長を呼び、来年四月予定の施行前に政省令を含めた法制度の全体像を政府に報告させた上で法務委員会で質疑するよう求めた。
衆参にかかわらず、議長として個別の法案審議の在り方に注文を付けるのは異例だ。法制度の全体像が明らかにならないまま、衆院を通過させなければならない大島氏としては、やむにやまれぬ気持ちだったのだろう。
議長発言の中で最も重要な点は「政省令事項が多岐にわたると指摘されている」と述べたことだ。
改正案は外国人労働者の受け入れ見込み数や対象職種などを成立後に定めるとしている。これらは制度の根幹部分であるにもかかわらず、野党の追及に対し、政府側は「検討中」と繰り返した。
法律に明記せず、政府が政省令で勝手に決めればいいと考えているのなら、唯一の立法機関である国会を冒涜(ぼうとく)するものだ。
法案審議の過程では、失踪した外国人技能実習生の実態調査結果の集計を法務省が誤っていたことも明らかになった。
大島氏は今年七月に発表した所感で、財務省の森友問題を巡る決裁文書改ざんや厚生労働省による裁量労働制に関する不適切データの提示などを、法律制定や行政監視における立法府の判断を誤らせる、と厳しく指摘したばかりだ。
正しい情報の提供は法案審議の大前提であるにもかかわらず、安倍内閣は同じ過ちを繰り返したことになる。国民の代表である国会を、どこまで愚弄(ぐろう)するのだろう。
残念なことは不備のある法案や情報であるにもかかわらず、短時間の審議で衆院を通過させたことだ。与党としての矜持(きょうじ)はどこに行ってしまったのか。
かつて与党が衆院の委員会採決を強行した後、議長が補充質疑などを求める裁定を下したこともあった。
今回の「裁定」は来年の通常国会での再質疑を求めるものだが、せっかく裁定するのなら、衆院通過前に委員会審議のやり直しを求めることはできなかったのか。
現状は立法府の危機にほかならない。大島氏は議長としての指導力を一層、発揮すべきである。
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