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【社説】

南シナ海「規範」 骨抜きにしてはならぬ

 南シナ海の紛争防止に向けた「行動規範」作成について、中国の李克強首相が「三年以内の交渉妥結」を表明した。具体的な時期を明示したことは歓迎するが、中身を骨抜きにしてはならない。

 李首相は十一月中旬、訪問先のシンガポールで演説し、東南アジア諸国連合(ASEAN)との「行動規範」策定交渉について、中国最高指導部の一人として「三年以内」とのタイムスケジュールを初めて示した。

 行動規範は南シナ海での領有権をめぐる紛争を防ぐための国際的に重要なルールであり、策定に消極的だった中国が重い腰を上げたことは評価したい。

 だが、ASEANが二〇一三年以降、法的拘束力のある行動規範の早期策定を求めてきたのに、中国が人工島建設などを強行し実効支配を強めてきたのは、「平和の海」実現に非協力的だったと批判されても仕方がない。

 転機は一六年の国際仲裁裁判所の判決だった。中国が主張する南シナ海での権益が公に否定され、中国は表向きは規範策定に前向き姿勢に転じた。

 「三年以内」と踏み込んだのは、米国の対中強硬姿勢があったからである。ペンス米副大統領はシンガポールでの東アジアサミットで、中国による南シナ海の軍事拠点化について「違法であり危険だ」と厳しい表現で非難した。

 一方、李首相はASEANに「南シナ海問題の解決のカギは我々の掌中にある。外部の干渉を排除しよう」と、連帯を呼びかけるエールを送った。

 「三年以内」の表明には、経済支援で親中派に転じたフィリピンが二一年までASEANと中国の調整国の役に就いたことを背景に、自国主導で行動規範を策定しようとの狙いも透けて見える。

 米国の干渉を排除し、ASEANを露骨に取り込むような姿勢であれば、規範が法的拘束力を持つものになるかどうか疑問も残る。

 中国艦艇が九月、南シナ海を航行中の米駆逐艦に四十一メートルの距離まで接近するなど、危険な行動をしているのも気がかりだ。

 南シナ海は日米にとっても重要な海上交通路であり、中国が排除しようとする「外部」ではない。日米が連携してASEANを後押しし、本当に海の安全を守れるようなルールを策定してほしい。

 近く、アルゼンチンで開かれる米中首脳会談でこの問題を議題とし、両国首脳が直接対話することが重要である。

 

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