二〇二五年国際博覧会(万博)の大阪開催が決まった。中身の議論を深め、議論の過程も大切にしてほしい。会場などですったもんだした〇五年の愛・地球博(愛知万博)が参考になるかもしれない。
大阪万博は、三波春夫さんが「世界の国からこんにちは」で歌った一九七〇年以来、二回目。
「人類の進歩と調和」がテーマで「太陽の塔」や、米国館の「月の石」などで記憶される。丘陵地を開発した会場に、半年間で六千四百万人余が押し寄せた。展示された携帯電話の原型や電気自動車が「進歩」「未来」を予感させた一方で、「五時間並んで月の石を見たのは一分間」「人の頭を見に行った」とも評された。
今回は「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマ。大阪湾に市が造成したままになっている人工島「夢洲(ゆめしま)」のうち百五十五ヘクタールを活用。「世界中の最新技術やアイデアを集め、健康で豊かに生きる方法を探る場にする」という。
地元などでは、「経済効果は二兆円」「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を誘致する」といった議論が先行。「二〇二〇年東京五輪後の景気浮揚策」ともいわれ、安倍晋三首相は「大阪万博は地域経済活性化の起爆剤になると確信する」とコメントしている。総事業費は交通アクセスを含めて二千億円という。ツケは市民に回る。万博は半年間だけ。跡地はカジノなどになりそうだ。
愛知万博も当初は、行政主導型の開発事業に見えた。森林を大規模開発して万博を開き、跡地は住宅地として再開発する計画で、最初の大阪万博に似た展開だった。
しかし、「森を削るな」との環境保護団体の反対運動をバックに、パリの博覧会国際事務局(BIE)が「跡地開発は自然破壊」と行政側などに警告。行政などの検討会議に反対派の市民らも参加して、白熱した議論を繰り広げた。手間を掛け、主会場は既存の県立公園に変更され、森林は極力保全されることになった。
この力業で「環境万博」のコンセプトが固まった。二千二百万人余が訪れた万博本番の成功は官民合意に至ったこの面倒な過程があったからこそともいえる。
今度の万博では、会場の問題はほぼなかろう。ぜひ市民を巻き込んで活発な中身の議論を期待したい。その過程も見たい。しゃべくりの人材は豊富なはずである。高齢化や格差拡大といった今日的課題にも目を向けてほしい。「いのち輝く」ための答えになるように。
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