オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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17 陽光聖典

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「何者だ、貴様ら!」

 

 ニグンは唐突に現れた二人組に生かして帰さないと一方的に告げられた意味が分からなかった。そもそもどうやっていきなり現れたのかもわからなかった。

 話しかけてきた方の見た目が貴族風にも見えなくはない豪華な魔法詠唱者の姿をしていたので可能性としては一つの魔法が浮かんだが、こんな田舎にそんな凄腕がいるはずがないと思い、その可能性を放棄する。

 

 魔法とは優秀な師の元で長年学ぶことによって上達するもの。風貌こそ金持ちのようだが、こんな田舎に、凄腕であろうが貴族であろうがいるはずがないと捨て置く。

 後ろに立っている白銀の全身鎧も見て、金に物を言わせて買い占めた貴族か、たまたま入った遺跡で大物を引き当てただけの人間だと判断した。

 自分たちを超える魔法詠唱者など、帝国にいるフールーダ・パラダインしか存在しないと。

 

「ただの漂流者さ。今はそこの村に恩義を感じているだけの」

 

「その漂流者が王国戦士長を庇うだと?」

 

「いや?こいつが負けたから来ただけだ。お前たちは特殊部隊らしいし、この作戦は法国が関わっていると知られるのはマズイのだろう?なら、口封じをされたら困るんでね。あの村は俺たちの恩人が住む村だ。そこを滅ぼされるのは困る」

 

「それで話し合いというわけか」

 

 正直条件次第では受けても良いとニグンは考える。こちらの要件はガゼフの抹殺。それさえ果たせればいい。生きて帰さないというのも交渉のための方便だと。

 

「そちらの条件は何か?お互いの箝口令とこちらの示談金というところか?」

 

「ふむ。まともなところか。それに王国への過度の介入禁止も加われば及第点だったが、こちらの要件はもう少しある。今後一切のカルネ村への不可侵不接触。そしてお前たち法国の内部情報に詳しい人間を三人ほど引き渡してもらおうか。もちろんその三人は人間としてではなく物としての譲渡だ。どんな末路を辿っても、関与しないこと。こんなところでガゼフの身の引き渡しとそちらを見逃す条件としようじゃないか」

 

「フ、フ、フザケルナァ!それのどこが条件だ!こちらから攻め入ったとはいえ、こちらの不利すぎる条件など受け入れられるかぁ!」

 

 途中までは良かった。その程度で済むのかと思っていたが、最後の隊員の引き渡しなどできるわけがない。いくら情報漏洩を防ぐための呪いがあるとはいえ、陽光聖典の隊員は一人一人が人類救済のための至宝の存在だ。

 その三人を失うというのはたとえガゼフを殺せたとしても釣り合いが取れるかどうか。王国の現状を見逃すこともできはしないが、隊員を渡すというのもできはしない。人類の未来のためとはいえ、三人を選んで切り捨てるというのも酷なことだ。

 

 あと、向こうはこちらが陽光聖典だと知っていた。先に攻め込んだ陽動部隊からバレたのはわかるが、簡単に口を割る連中ではないことを知っている。そのことから向こうには情報を引き出すための何かがあるとわかっていた。

 もしかしたら呪いも突破できるかもしれない。それを踏まえたら余計に隊員を渡せるわけがなかった。六色聖典に所属しているために法国の内情には全員が詳しい。引き渡してしまったら法国へ不利が生じるかもしれない。

 

「全滅よりはずいぶんとマシだと思うが?ああ、お前たちが全滅しただけだったら法国にこの村へ手を出すことの意味が伝わらないからな。全滅は避けてやる。パンドラ、追加だ。一人は情報用、もう一人は法国へ逃げ帰らせるために確実に残せ」

 

「かっしこまりましたっ!」

 

 白銀の騎士が綺麗な敬礼を見せる。その態度からも魔法詠唱者の方がリーダーだというのがわかる。

 だが、向こうの驕る態度も直接戦ったらそれまでだ。相手はニグンの胸元に忍ばせている秘密兵器の存在には気付いていない。魔神すらも屠る最高位天使がこちらにはいる。それをただの人間二人にどうにかできるはずがない。

 向こうのいきり立った鼻柱を叩き折ってやろう。そうニグンは決意した。

 

「その要求は受け入れられん。各員、天使をあの二人へ集中せよ。ガゼフは力づくで持って帰る」

 

 天使が四十近く、二人へ殺到する。白銀の騎士もガゼフほどの強さはないだろうと思っていた。そんな人間が隠れているわけがないと。

 その思考は、次の瞬間に弾け飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面倒だ。パンドラ」

 

「はっ!」

 

 一閃。ただそれだけで群がってきた天使は跡形もなく消えていった。レベルで言えば二十程度。それを八割方しか再現できないとはいえワールドチャンピオンでありレベル100のパンドラの一撃に耐えられるはずもなかった。

 幾分強化されていても、塵芥に等しい。

 

「バ、バカな……。一、撃?」

 

「さっさと三人寄越せ。情報の精査のためにそれぐらい必要だと思っただけだ。それ以外はさっきの条件を守れば見逃すと言っているだろう?無駄な抵抗はよしたらどうだ?」

 

 モモンガとしてはさっさと帰って今後の村のことを考えたかった。法国が誇る特殊部隊が手も足も出なかったと分かればもう手出しはされないだろうと考えて穏便に済ませようとしているのに。

 

「最高位天使を召喚するっ!他の者は時間を稼げ!」

 

 そう言って隊長らしき人間が取り出したのは水晶でできた、ユグドラシルにも存在したマジックアイテム。ユグドラシルに関連した世界だとは思っていたが、ユグドラシルの物まであるとは。

 

「あれは――」

 

「魔封じぃの水晶っ!」

 

 マジックアイテムフェチのパンドラもその水晶が何か理解していた。やはりああいうものがあるために油断するべきではない。

 特に熾天使(セラス)級が出てくればモモンガと相性的な意味でも危うい。そのため魔法を発動する準備をしていたが。

 

「顕現せよ!威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!」

 

次元断切(ワールドブレイク)!!!」

 

「えっ!?ちょ、おまっ!魔法最強化(マキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)!」

 

 現れた瞬間世界さえも引き裂く一撃によって消滅させられた他称最高位天使。その一撃は世界にどう影響を及ぼすかわからなかったので余波となりそうな部分をモモンガは咄嗟に打ち消していた。

 その余波で向こうの隊員の半数が塵も残さず消え去り、地面は大きく引き裂かれ、上空の雲まで割れていたがモモンガの魔法によってどうにかそれ以上の被害は食い止められたらしい。

 

 他称最高位天使は光の粒子になった後、その光はパンドラの両腕へと収まっていった。まるで天使を簒奪するかのような現象だ。

 相手が茫然としているが、その前にモモンガはやることがある。

 

「パンドラァ!せめて相手を確認してからそれを使え!第七位階程度に使う技じゃないだろ!熾天使級だったらわかるし、先手必勝っていうのもわかるけどさあ!」

 

「も、申し訳ありません!モモン様に苦労をかけないように一撃で屠ろうとしたのですが……」

 

「あーもー!罰としてあそこの地面直しておけよ!あと、適当に三人捕まえてこい。向こうは戦意喪失してるし」

 

「わかりました。あの隊長らしき男はどうされますか?」

 

「あの男が一番情報を知ってるだろうが、ああいう立場の人間が上に報告した方が次がなくなるだろ。あいつは捕らえるな」

 

「はっ。……おや」

 

 パンドラが上空を見て首を傾げる。モモンガも上を見てみるが、なにかがあったわけではない。

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、初めてのことなのでよくわかりませんが、おそらくモモン様にかけていただいた対抗魔法が発動したのかと。誰かが覗き見していたようです」

 

「法国だろうな。まあ、これでカルネ村が安全になったんだ。俺は王国戦士長たちを運ぶから、捕虜と地面任せたぞ」

 

「畏まりました」

 

 その日、法国のとある神殿とその周囲が大爆発に巻き込まれて死者多数の被害を被った。法国はその復興と対策から王国への介入を減らすことになる。

 その後陽光聖典の隊長から告げられた内容に、さらに頭を抱えることになった。

 

 

 




運が良かったね、ニグンさん(白目)。






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