基幹業務パッケージ「奉行シリーズ」を手掛けるオービックビジネスコンサルタント(OBC)。設立以来、40年近くにわたり国内中堅・中小企業のIT化をサポートしてきた同社は、2018年2月にSaaS型アプリケーション「奉行クラウド」シリーズを発表、クラウド戦略を一気に加速させた。本格的に製品のクラウドシフトを進める中で、同社は日本IBMが18年8月に開始したパートナーとの新たな取り組み「IBMソリューションリーグ」に会員企業として加わった。OBCがこれに参加した狙いや、期待している成果などについて、OBCの営業本部マーケティング部部長の西英伸氏と、営業本部広域営業ブロック部長の石原徹氏に聞いた。

ユーザーの意識の変化を見極め、満を持して投入した「奉行クラウド」

 奉行シリーズのクラウド化は、これまで段階的に進められてきた。まずは14年に第1フェーズとして、「IBM Cloud」「Microsoft Azure」など、主要ベンダーのIaaS上における奉行シリーズの動作サポートを発表。15年には第2フェーズとして、「マイナンバー」「ストレスチェック」「人材管理」など、従来の奉行アプリケーションだけではサポートしきれない周辺業務を「奉行クラウドEdge」シリーズとして展開を始めた。

 第3フェーズとなる奉行クラウドは、OBC自らがユーザーに提供するSaaSという位置付けであり、ここで本格的な奉行シリーズのクラウドシフトが始まったといえる。18年10月現在、会計の「勘定奉行クラウド」、給与計算の「給与奉行クラウド」、販売管理の「商奉行クラウド」がリリースされているが、19年には、仕入・在庫管理、人事管理、法定調書作成、固定資産管理、申告書作成といったアプリケーション群が順次、奉行クラウドのラインアップに加わる計画となっている。

 こうした段階的なクラウド戦略について、西氏は「奉行シリーズを利用しているお客様の意向を伺ってきた結果だ」と話す。OBCでは毎年、全国の主要都市でプライベートイベント「奉行フォーラム」を開催しており、17年の同フォーラムで行ったアンケートによると、基幹系業務アプリケーションにおけるクラウド利用の意向は全体の6割を超えていたという。

 「マイナンバー管理や従業員に対するストレスチェックの義務化、そして間近に控えた消費税率の変更など、企業に関わるさまざまな法律や制度の改正が相次ぐ中、これまで基幹業務のクラウド化には慎重だったユーザーの意識が一気に変わった。現在、各社のIaaS上でのユーザーも合わせて、奉行シリーズをクラウドで活用されているお客様はすでに全体の3割に及んでいる。この割合は今後も増え続けるだろう」と西氏は語る。
 
OBCの西英伸・営業本部マーケティング部部長

パッケージとクラウドの双方で深めてきたIBMとのパートナーシップ

 OBCは、8月にスタートしたIBMソリューションリーグの会員企業になった。とはいえ、両社のパートナーシップそのものの歴史は非常に長く、IBM製PCサーバー上で奉行シリーズを稼働させるインテグレーション案件は、これまでに数多く展開されてきた。また、OBCのクラウド戦略の第1フェーズである「IaaS上での奉行シリーズサポート」においても、最も早い段階で動作検証が完了したクラウドの一つが「IBM Cloud」(旧SoftLayer)だった。

 「当社では、中堅・中小企規模向けの『奉行iシリーズ』のほか、大規模企業向けの『奉行V ERPシリーズ』も提供している。IBM Cloudの場合、奉行iシリーズをクラウド上で動かしたいというお客様だけでなく、より高いパフォーマンスが求められる奉行V ERPシリーズを使いたいというお客様に対しても、『ベアメタルサーバー』という実用的な選択肢を提供できる点が大きなメリットになっている」(石原氏)

 OBCにとって、IBMソリューションリーグへの加盟は、これまで自社でも行ってきた、パートナーシップによるソリューション提供の規模拡大を加速すると同時に、新たな販売パートナーとの協業にもつながるという点において魅力的であるという。

 同社は長年、奉行シリーズがサポートする基幹業務の周辺部分、業種、業態別に求められるソリューションについて、パートナーと連携してユーザーに提供するという戦略をとってきた。こうした連携ソリューションは「奉行Solutions」というブランド名で展開されており、100社を超えるパートナー企業が名を連ねている。

 「IBMソリューションリーグについて聞いたとき、企業同士の連携で新たなソリューションを生み出し、ビジネス機会を拡大していくという点で、われわれの行っている施策ととても概念が近く、親和性が高いと感じた」と西氏は話す。
 
OBCの石原徹・営業本部広域営業ブロック部長

新たなパートナーとのコラボレーションが生みだすシナジーに期待

 IBMソリューションリーグには、18年10月末現在でOBCを含む50社以上の企業が参加しているが、その中にはOBCのパートナー企業も多数含まれている。例を挙げると、OBCのパートナーとして建設業向けの連携ソリューションを提供している建設ドットウェブ(どっと原価NEOシリーズ)やアイキューブ(本家シリーズ)、レッツ(レッツ原価管理Go2)といった企業も、IBMソリューションリーグの参加企業だ。

 OBCと奉行Solutionsの提供企業が同時に加盟していることにより、「IBMの製品やテクノロジーと絡めたインテグレーションを提供している販売パートナーに対し、万全のフォロー体制が確立できる」ことが、IBMソリューションリーグに参加した大きな理由の一つだ。「加えて、これまでわれわれだけでは行き届かなかったような規模、業種、業態、地域のお客様に対しても、他のリーグ参加企業やIBMの営業チーム、販売パートナーとのコラボレーションを通じてリーチできる可能性が高まることを強く期待している」と石原氏は語る。

 OBCでは今後、IBMソリューションリーグの本格的な始動に合わせて、他のパートナー企業との相互理解を深めていく方針。西氏は「これまでお付き合いのなかったソリューション企業や、パートナーとのコミュニケーションを通じ、どのような連携や展開が可能かを互いに理解し合う機会を持ちたい。その中で、これまで以上に多様な業種、業態、規模のエンドユーザーに対し、どのような仕組みを提案できるのかといったソリューションマップを共有していきたい」と力を込める。

 また、石原氏は、「IBMソリューションリーグを通じたコラボレーションによって生まれるソリューションマップは、それを提案する販売パートナーやエンドユーザー自身にとっても大きなメリットになるのではないか」と言う。

 「販売パートナーやエンドユーザーが、コスト感も交えながら、そうしたソリューションマップを共有できるようになれば、システムの将来的な姿を見据えたシステムプランはより描きやすくなる。提案がしやすく、導入担当者の負荷も少なくなるという意味で、連携ソリューションがより大きなシナジーを生み出せるようになるのではないだろうか」と期待を寄せた。