玉城デニー知事が「話し合いによる解決」を求め、情理を尽くして対応してきたにもかかわらず、合意形成の努力を放棄し、強権を発動する。

 選挙で示された民意をこれほどないがしろにする政権が、かつてあっただろうか。合法的体裁をとった自治体への「パワハラ」というしかない。

 名護市辺野古の新基地建設を巡り、岩屋毅防衛相が来週14日にも海に土砂を投入すると発表した。

 土砂投入により埋め立てが本格化するが、防衛省の審査請求・効力停止申し立てを受け、県の承認撤回の効力を停止した国土交通相は公正な第三者とは言い難い。

 その処分だけとっても行政不服審査法の趣旨を逸脱しているのは明らかだ。司法の最終判断も待たずに政府が土砂投入を強行するのは、自治権の侵害である。

 さらに沖縄防衛局は3日、名護市安和の琉球セメントの桟橋から土砂を船に積み込む作業を始めた。

 台風被害で本部港の使用が認められなかったため、自治体の許可がいらない民間の桟橋を使うという「奇策」に出たのである。新基地建設に必要な埋め立ての賛否を問う県民投票までに既成事実化を急ごうとの思惑が透ける。

 県は桟橋の工事完了届がないままの作業など規則や条例違反を指摘している。「目的外使用」の問題も浮上する。

 そもそも民間桟橋を使うのは想定外であり、県と事前に調整し、了解を得るのが筋ではないか。

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 岩屋氏は土砂投入を表明した記者会見で「普天間飛行場の危険性を除去するため、一日も早く辺野古への移設を進めていきたい」と語った。

 しかし「普天間の危険性除去」という言葉は、新基地建設の方便になりつつある。

 県の試算によると、新基地は運用までに13年もかかり、工事費は最大で2兆5500億円に膨らむ。一日も早い危険性除去のために辺野古に移すという主張は成り立たなくなっているのだ。むしろ今必要なのは、普天間の一日も早い閉鎖に向けて計画見直しに着手することである。

 岩屋氏は「自然環境に最大限配慮し工事を進めたい」とも述べている。

 県が埋め立てを承認した際の「留意事項」には、ジュゴンやウミガメ等海生生物の保護対策が盛り込まれている。だが現在、3頭いたジュゴンのうち2頭の行方が分からなくなっている。留意事項に沿ってジュゴンなどの環境調査を実施するのが筋である。

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 辺野古の環境アセスメントは、専門家から「史上最悪のアセス」だといわれるほど問題が多かった。このまま工事を強行すれば、辺野古移設は「史上最悪の埋め立て」となる。

 辺野古・大浦湾一帯は、琉球列島に広がるサンゴ礁生態系の中でも、特に生物多様性が豊かな場所である。土砂が投入されれば、その「宝の海」が失われる。

 日本の国内法だけでなく米国の国家環境政策法など両国の関連法を適用し、最大限の規制をかけるべきだ。