その18衣擦れ

 それは一番美しい恋の瞬間

 

 哲学青年と付き合うようになって毎晩電話をするとなると、お金がかかる。私と哲学青年で電話代を安くする方法も考えたが、哲学青年はなぜか携帯の契約変更が出来なかった。私と彼の住まいは歩いて15分くらいの距離。私たちは夜、約束の場所で会うことになった。真夏の夜空は星々が瞬き輝いていた。

 

 私たちは一番触れて握手程度、抱き合うなんてもってのほか。私たちは約束の場所のベンチで1時間語ってからそれぞれの家に戻った。

 

 7月の終わり、地元の町で夏祭りがあった。哲学青年と私は手をつながなかった。真夏もあってそんなことできなかった。祭りは人が多かった。私と哲学青年との移動は困難だった。狭い道を通るのに私と哲学青年との衣服に衣擦れがおきた。私と哲学青年はまだプラトニックな仲だ。私と哲学青年との衣擦れがおきるたびに、私はドキドキした。今まで彼とこんな密接に近づくことはない。私の上質にできたシルクのブラウスと哲学青年との清潔な黒いスーツに衣擦れがおきる。

 

 それまで2年以上彼とはしゃべるだけの仲だった。それが祭りの狭い道のせいで、私と哲学青年との衣服に衣擦れがおきる。充分官能的だった。私も哲学青年も当時お互い30代後半の年だった。その年齢で初々しい感性の官能を得たことは神に感謝した。しかし残念なことにそこには神だけでなく、悪魔も背後にいたのだ。お祭りのその日は金曜日の夕方だった。次の日の土曜日から悪魔がこの美しい恋に意地悪をする。