東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

記者殺害捜査 米国の理想を死なすな

 サウジアラビア人記者カショギ氏殺害事件に対するトランプ米大統領の声明は、自由と人権より米国の利益を優先させ、皇太子の関与は追及しないあきれた内容だった。幕引きにしてはならない。

 カショギ氏は十月、結婚に必要な書類を取りにトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館に入った直後、窒息死させられた。遺体は切断され見つかっていない。

 サウジ政府は当初、事件そのものを否定。その後、過失による死亡、計画された犯行だったと、説明を二転三転させてきた。ムハンマド皇太子の関与は否定している。

 米メディアは「中央情報局(CIA)が暗殺は皇太子の指示と断定した」と報じていた。

 しかし、トランプ氏の二十日の声明は「皇太子は知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれない」と曖昧にした。

 また、サウジが米国に四千五百億ドル(約五十兆円)を投資することにより数十万人の雇用を創出、米防衛産業からの武器売却は千百億ドルに上ると、具体的な数字を挙げて指摘した。

 サウジはイランと戦うための重要な同盟国だとして、今後もサウジとの関係を重視していく考えを強調した。

 声明は、冒頭も末尾も感嘆符付きで「米国第一」と述べている。

 命より自国の懐が優先なのか。これが米大統領の声明かと疑う。

 さすがに、米議員からは超党派で批判が噴出、サウジへの武器禁輸法制化への動きもあるという。

 トランプ氏の声明に先立ち、ドイツ政府はサウジへの武器輸出全面停止を発表した。

 国連のグテレス事務総長と会談したトルコのチャブシオール外相は、国連による調査は求めなかったものの、サウジの協力不足に対する不満を漏らしている。

 皇太子関与の有無を明確にし関与があれば責任を追及するよう、米国内と国際社会双方から、トランプ氏への圧力を強めたい。

 日本政府は「殺害を強く非難する」とコメントしているが、原油輸入量の約四割を占めるサウジ追及には及び腰だ。しかし、透明性がなく、信頼できない国と付き合いを続けることになる。

 トランプ氏の振る舞いで、人権や報道の自由の守り手だったはずの米国の理想も権威も、失墜してしまうだろう。

 米国自身のためにもならない。トランプ氏には、強く翻意を促したい。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】