性別や浪人年数などによる入試差別は許されない。一連の不正を受け「全国医学部長病院長会議」が、来春以降の入試の規範を示した。多様な人材が働きやすい医療現場の環境づくりも急務だ。
「お金がないから泥棒してもいいとはならない」。規範づくりに中心的にかかわった嘉山孝正・山形大医学部参与は会見で、医療現場の実態に合わせて入試制度をゆがめる不正をそう断じた。
不正が発覚した大学は、女性が出産などで離職した場合に系列病院で医師不足になる懸念があることなどを、不利な扱いをした理由として挙げていた。
規範では(1)国民から見て公平であること(2)国民にとって良い医療人、医学者になりうる人材を確保すること-の二つの尺度で何が不適切かを整理。性差や浪人年数、年齢により一律的に判定基準に差異を設けることや点数操作をすることは不適切とした。今後、規範から外れた入試を行ったと判明した場合は、処分の対象となる。
「全国医学部長病院長会議」は、全国の国公私立のほぼ全てとなる八十の医学部が参加しており、規範は不正を防ぐ一定の歯止めになることは期待できる。ただ、組織に調査権限があるわけではない。受験生や国民の納得を得られる入試を行っているのか、各大学には透明性を高める努力が引き続き求められる。
規範が忠実に実行されれば、女性医師は増えていくと考えられる。入試をゆがませる原因となった、若い男性医師の過重労働頼みで成り立つ医療現場を、女性も含めたすべての医師が働きやすいよう、改革を加速していくことも急務だ。
託児所整備などに加え、根幹の部分で現在提供している医療の中で合理化できるものがないのか、社会の合意も得ながら検討していくことも必要になるだろう。
すでに判明している入試不正の救済も道半ばだ。東京医科大は過去二年間の入試で不正に不合格となった百一人を追加合格の判定対象としたものの、募集人員などとの関係で、入学できるのは最大六十三人としている。希望しても入学できない可能性があることに、対象者からは怒りの声も上がる。
他大学の自主公表は遅れている。東京医大のように、追加合格があれば来年度の定員が減少する可能性もある。これ以上の混乱を避けるためにも、すみやかに対応すべきだ。
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