オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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外が見える家の中から村の外を確認する。どこからどう見てもユグドラシルの
この考えはガゼフたちには適応されないようだったが。
「あれは……。法国の特殊部隊か?」
「ご存知なので?」
「周辺国家で天使をあれだけ召喚できる部隊は噂に聞く法国の六色聖典の一つしかないでしょう。我々が全力で戦っても勝算はあるかどうか……」
(まあ、レベル差的にそうだろうな。そもそも数で負けてるし)
戦士団は総勢三十名。一方天使の数は四十を超えている。天使には命令をさせておいて魔法詠唱者が攻撃魔法を使って来ればその時点で戦力差は二倍超になる。
だからこそ、次のガゼフの言葉は予想できた。
「モモン殿、雇われないか?」
「お断りします。そのような義務はありません」
「王国には緊急時徴兵という制度もあるが……」
「王国民ではない我々には適応されませんね。ただ立ち寄っただけの旅人ですので」
ガゼフがモモンガの方をじっと見てくるが、一切受け入れるつもりはなかった。というか、下手に助ければ王国の上層部に目をつけられかねない。またこの村を危険に晒すつもりはないので、ガゼフに力の一端を見せるつもりはなかった。
「国同士の面倒事に巻き込まれるのはごめんです。ただし村の方は我々で守りましょう。この村には愛着があります。できることならこの村の近くで事を起こさないでほしいですがね」
「あなたほどの御仁が村を守ってくれるというのであれば後顧の憂いなし。感謝する」
ガゼフはそのまま家から出ていき、戦士団と作戦を立てるようだ。あの戦力ではやれることなどたかが知れているというのに。
「パンドラ。奴らの戦いを観察するぞ。武技とやらも見られるかもしれん」
「はっ」
遠隔視の鏡を用いて交戦状態になった戦士団と陽光聖典の争いを観戦する。だが、思っていた通りというか、戦士団が圧倒的に不利だった。
数の差と、装備の差というか。天使たちを戦士二人でどうにか倒している状況だ。ガゼフのみ単体で複数の天使を撃破していたが、天使は補充されていき焼け石に水だった。
そのガゼフの動きを見てモモンガは首を傾げていた。武技というものを初めて見たが、スキルとは異なることは分かる。だが、どう違うのかが正直わからない。
戦士でもMPを消費することで大技を出すことは可能だった。自分に対する能力向上付与などもできたし、それが武技とどう違うのか。
「パンドラ。武技についてどう思う?」
「おそらくは過度に使用すると肉体に負荷がかかるものなのかと。あの者が大技のような物を使う度に動きのキレが悪くなっているように思います」
「MPとHPは別個のものだったが、こちらの武技とやらはHPを削って使うものなのか?」
「もしくは疲労などのバッドステータスが課されるものなのかと」
「あー、そういう可能性もあるか。……つまりは欠陥品ではないか?」
「MPの代替をしようとしたスキルの亜種、なのかもしれません。スキルと重ね掛けできるのであれば有用かもしれませんが」
とはいえこの世界独自の能力であればパンドラやモンスターたちは取得できない可能性があるし、モモンガには前衛職ではないので必要のないものだ。
優先順位はかなり落ちることになる。
「まあ、使えたら好しということで。さて、そろそろ向かうか。戦士共はほとんど地に伏しているし」
「お供いたします」
モモンガたちは魔法を用いることなく歩いて向かう。その間にシモベたちに指示を出していく。
あとは、やはり誰かしらは脳を喰らうために生け捕りにするようパンドラへ言い含めた。
もう少しで相手の肉眼に入るだろうというところで周りを注視してみると、戦士の方は何人か息絶えている。息はあっても虫の息という状態の人間が多い。
もう立っているのもガゼフのみ。天使の数は依然としてたくさん。勝負は決した。村を守るために専守防衛に入る。
ちょうど天使の持つ剣によってガゼフが脇腹を貫かれた。代わりの者が現れるタイミングとしては適していた。ガゼフも地面に伏した。
そこへ二人、《
「さて、陽光聖典の諸君。一応話し合いを始めようか。まあ、貴様らを生かして帰すつもりは毛頭ないが」
ガゼフは困惑していた。初対面からして怒らせてしまった王国の村を救ってくれた御仁。何故怒っていたのかわからなかった。自分たちでは救えなかった村を救ってくれたというだけで、感謝しきれない恩人だというのに。
ガゼフは戦士ゆえに、魔法詠唱者の強さのことはわからない。一般常識の部分と、第三王女と懇意の中であるアダマンタイト級冒険者蒼の薔薇に所属する魔法詠唱者が群を抜いて優秀だということくらい。
だが、その脇に控えていた従者のような白銀の騎士パンドラの強さは一瞬で理解した。佇まいもそうだが、直立しているだけなのに感じられる覇気に一切無駄のない動き。そして全身鎧をものともしない膂力。
相対すれば勝負にならない。それぐらいの差があると感じられた。たとえ王国の至宝と言われる装備で全身を固めても、子どもとドラゴンが戦う以上の差があると感じた。
そんな二人組だからこそ、こんな国家間の争いに手を貸してはくれないとわかっていた。関わる必要性がない。だから、協力要請を断られたのは当然だろうと思った。
だというのに、今は目の前に立って法国の特殊部隊と応対している。どういった心情なのかはわからないが、自分に向けられた怒りのような物を感じる。
(ああ……。あなた方は義憤で立ち上がってくれる御仁なのか……。俺が倒れた後なら、国家間の争いとは受け取られない……)
絶対的強者が立ち上がってくれたことで、安心して気を失った。近くに天使が湧いて出る程いても、巻き添えで自分が死ぬことになっても、あの村だけは守られると確信して。