THANK YOU FOR PLAYING!
「変わってねえな…………ここも、まあ、データの世界だから当然か」
白色のパーカーに革で作られた藍色のジャケット羽織った青年が、ヴァルマンの街とその周辺の森を一望できる崖上に立って、布袋を肩に下げながら景色を見渡す。
雲一つない快晴の空には鳥が飛び交い、ヴァルマンの街の奥に広がる海から反射される太陽の光は、宝石のようにキラキラと輝いている。街も、海辺に建設された大きなカジノの影響もあり、遠目からみても盛大な賑わいを見せていた。
「パパァァァぁあああああああああ!」
「私の……息子ぉぉぉぉおおおおおおおおお!」
その時、崖下からとある親子の悲痛な叫び声が響き渡る。
「うぐぐぐあばばばば……誰か助けて、誰か……誰かぁぁぁぁぁ!」
何事かと青年は崖下を覗く。
するとそこには、明らかに村人にしか見えない貧弱そうな親子二人が、グリーンスライムに追い詰められて岩を背に腰を抜かしていた。
このまま放置すれば、鉄球をぶつけられたかのような衝撃を受け、毒のダブルコンボで確実に村人の親子は死んでしまうだろう――というのは、昔の話だ。
「落ち着けよ」
青年は、すぐさま崖下へと降りると、親子二人の肩を優しくポンッと叩く。
助けが来たと勘違いしたからか、親子二人は身体の震えを抑えると安堵の溜め息を吐く。
「モンスターはもう人を襲わねえ、ペットにしようとする奴らもいるくらいなんだ……ほら」
証拠と言わんばかりに青年は、グリーンスライムをぷにぷにと指で突く。
「で、でも追いかけて来たぞ⁉」
「追いかけてきただけだろ? モンスターも一応生物なんだ、たまたま通りがかったあんたらが気になってついてきただけじゃねえのか? モンスターはこっちから攻撃を仕掛けない限りは人を襲わねえよ」
信じられないのか、村人の父親は呆けた顔でグリーンスライムを見つめる。暫く見つめたあと、何も攻撃を仕掛けてこないことから安心したのか、ホッと胸を撫でおろす。
「それに、戦っても死ぬことはもうないんだぜ? 何も怖がる必要ねえよ」
「いや……頭ではわかっていても、やっぱりどうにも信じられなくてねえ。まさか……こんな世界になるとは思っていなかったからさ。本当……英雄さんたちには感謝してもし足りないねえ!」
大丈夫とわかって強気になったのか、村人の父親はグリーンスライムをぷにぷにと突いて大きな笑い声をあげ始めた。
「さて……どうする少年?」
そして青年は、まだ呆けた顔で腰を抜かす少年に語り掛ける。
「え……どうするってどういうこと?」
「グリーンスライムはもう人を襲わない。でも……倒せば経験値が手に入って強くなれるし、アースクリアで使える100ブロンズのお金が手に入るんだぜ?」
「え……でも、僕、弱いし」
「まあ戦うのは辛いし、たくさん痛い思いもするだろうけど……死にそうになったら強制的に戦いが終わって怪我を治療してくれる、だから頑張れば確実に強くなれるしお金も手に入るぜ? 真面目に働くのが馬鹿らしくなるくらいにな」
青年の問いかけに、少年は悩んだのか目を瞑って首を傾げた。
しかしすぐに答えが出たのか、少年は目を開くと首を左右に振る。
「いいのか?」
「うん、別にいい。僕は別に痛い思いをしてまでお金を得たいとか思ってないし、安全に暮らせるならそれでいいや」
簡単にお金が手に入るその手段に「もったいない」とは言わず、青年は微笑を浮かべて「そっか」と少年の頭をポンッと撫でる。
「それにね、アースクリアのお金ってアースクリアでしか使えないでしょ? アースにはモンスターがいないから簡単にお金を稼げないって聞いたんだ。だから僕ね、今のうちにたくさん商売の勉強をして、いつかその知識を活かしてアースでお金持ちになりたいんだ!」
「それがお前の夢なのか?」
「うん!」
少年の答えに満足したのか、青年は少年の頭から手を離すと再び歩き出す。
「あんた……どっかで会ったか?」
去り際に村人の父親がそう問いかけてきたが、青年は手をぷらぷらと振るだけで質問には答えず――、
「少年! 自信を持って進めよ、この世界はもう……なりたい者になれる世界なんだからな!」
代わりにそれだけ叫んで、その場を去っていった。
そして青年は歩き始める。
人を見かけるだけで襲いかかるようなモンスターが徘徊する、常に危険が付き纏う木々に囲まれた森の中を。
だがそれは、かつての話。
かつて殺気に満ち溢れていた森の中は、大自然に囲まれて澄んだ空気を生み出し、清々しい雰囲気に包まれている。小鳥がさえずり、花が咲き乱れ、ヴァルマンの街へと向かう旅人を歓迎しているかのようだった。
「……懐かしいな」
ここは、青年が何度も歩いた道だった。
強くなるために、武器を持たず、毎日のように通ってモンスターへと向かっていった。
そして、傷だらけになって、全身から血を垂れ流しながら、モンスターに出会わないようにとすがるような思いで街を目指した。
そんな、辛くて苦い思い出の詰まった道。
でも今は、それがとてつもなく美しい思い出に感じられた。
辛い過去があったからこそ、今がある。
きっと、今のこの世界がなかったらそう思うことはなかったのかもしれない。でも、青年はやり遂げた。過去の辛さを覆す、希望に満ち溢れた今を手に入れたのだ。
「さって……これから何をして生きようかな」
モンスターの侵入を防ぐために建設されたヴァルマンの街を覆う巨大な外壁。その唯一の入り口である外壁の門前の道で立ち止まり、青年は背伸びした。
「ゆっくり考えていくか…………なんせもう、なりたいものになれる世界だしな」
モンスターの危険がなくなった今、門は常に開かれヴァルマンの街の活気が外側からでも見て窺える。
そんな街の中でこれから何をしていくのか? 無限に広がる選択肢を想像し、考えるのがめんどうになって背伸びをしながら、青年は欠伸を漏らした。
「…………おかえり」
その時、青年にとって心地の良い、澄んだ声が響き渡った。
声に反応し、青年は道の先にある開かれた門へと視線を戻す。
そこには、宝石のように煌びやかな長い赤髪を風になびかせた女性が立っていた。
その女性は、大人っぽさの溢れるスタイルの良い身体つきにも関わらず、似合わない大きなリボンを後頭部につけ、青年を今にも泣きそうな感極まった表情で見つめている。
暫く見つめ合ったあと、女性は突然走り出し、長い赤髪を上下に揺らしながら青年の胸元へと飛びついた。青年はそれを当然のように受け止める。
「ただいま……アリス」
そしてそう返すと、青年はそこにいることを確かめるように女性を優しく抱きしめた。
お互い、たくさん話したいことがあった。これまでのことや、そしてこれからのことも。
しかし二人は、何も言わずに抱きしめ合った。
多くの言葉はいらなかったのだ、それが今、お互いに一番求めていることだとわかったから。
「ねぇ……鏡さん、ボク……聞いて欲しいことがあるんだ」
「ん? …………なんだ?」
「あのね―――――」
きっと、今後も辛いことは起きるのだろう。
この先、平和を求めたはずの人間同士が争うこともあるのかもしれない。
だがそうだとしてもそれは、人が望んでそうなってしまう世界なのだろう。
なら、青年はそれでいいと思った。
自分たちの意志で進んでいけるのであれば、どんな結末であれそれは――
「ボクと、結婚して欲しいんだ!」
自由な世界であった証のはずだから。
~FIN~
いつもご閲覧ありがとうございます。星月子猫です。
最強人種に引き続き、LV999の村人も完結することができました。
ひとえに皆さんに継続してここまで読んでいただけたおかげです。いっぱい元気をもらえました。
さて、LV999の村人はいかがだったでしょうか?
弱者だったからこそ強者になれたなど、作品に込められたメッセージを感じ取ってもらえたなら幸せです。
LV999の村人は、RPGを題材に執筆しております。
なので物語も、丁度、王道のRPGゲーム一本分くらいの長さで完結とさせていただきました。
多分ゲームとかにすると、丁度それくらいの長さになるはずです 笑
また、RPGゲームでよくある、私も大好きな展開をたくさん盛りこませていただきました。
・敵が味方になる
・表の世界をクリアしたと思ったら、突如現れる裏の世界
・クラスチェンジ
・RPGの定番、物語後半に乗れる飛行船etc
RPGの要素をたっぷりとつぎ込ませていただきました。実は気付いていて楽しめていたなら幸いです 笑
さて、話は切り替わりますがお知らせです。
完結後のお話『激闘! 結婚式!』(番外編)を収録したLV999の村人⑧が、2019年1月25日発売になります。⑧巻部分にあたる第八部が校正さんの手により色々と加えられていたり、私自身、血反吐を吐いて加筆しまくったり、鏡をアリスとクルルが取り合う最後の戦いが収録されているので、ぜひとも興味がある方はお手にとっていただけると幸いです。アマゾンでの予約が始まっておりますので、気になる方はそちらでぜひぜひ。
また、おかげさまでLV999の村人はシリーズ累計90万部を突破することができました。
100万の夢にはあと一歩届かずでしたが、コミック版LV999の村人は今後も続いていきますので、100万の夢はそちらに託したいと思います。本当に応援、ありがとうございました。
また、LV999の村人はもうお腹いっぱいだよぉ~という方にもお知らせがございます。
LV999の村人の完結と同タイミングで、LV999の村人の主人公、鏡と対極に位置する男が主人公の新作が公開されています。
バトンタッチの意味合いも込めての新作です。またこの新作は「LV999の村人の世界と繋がりがございます(ほぼ関わることはありませんが、いずれ個人でゲーム化した時にクロスさせやすいように)」
タイトルは「フラグクラッシャー【間違いだらけの異世界現代化計画】」
その世界に住む住人の力が強いがために、文明が発展することなく争いを続けてきた世界を、異世界に転移されまくってようやく元の世界に帰ってきた男が、とりあえず知識はないけど見様見真似で文明を取り入れ、争いをなくそうと動き出す物語です。
以前に少しチラッと話していましたが、最弱だった男が、好きなように生きるために最強を目指して努力するLV999の村人と対極で、
最強として生まれた男が、その力に苦悩し、ただの人間(最弱)を目指していく物語となっています。
どうしてそういう考えに至ったのか、その主人公がどんな能力を持っていてどれくらい強いのか?などは、物語を通して少しずつ展開していく予定です。
無論、この作品にもいつも通り、あるメッセージ性を込めて執筆していくつもりです。感じ取っていただけたら幸いです。
ただ一言で言うと最強です。最強主人公大好きな人も冷めてしまうくらい最強の主人公です。
知ってる人ならわかるかもしれませんが、最強人種4の主人公よりも強いです。
強いというか、誰も勝てないです。能力はネタバレになるので明かせませんが、「多分これが一番チートだと思います」と言えるくらい、これ以上存在しないだろってくらい最強なので、ご注意です。
ただ、最強主人公がドヤ顔で無双するようなお話ではないので、そういうのを期待している方はこれまた注意です。カタルシスを得られるシーンは勿論ございますが、俺TUEEEみたいなことはあまりありません。
読んだらわかるかもしれませんが、どちらかというコメディー寄りで、最強という設定は、物語を展開していくうえで必要になってくるサブ要素程度に考えていただけると嬉しいです。
つまり愛と希望と友情の物語というわけですね。
そんなこんなで、読んでくれると嬉しいです。読んでいっぱい感想もらしてくれると幸せです。
ではでは、引き続きフラクラでお会いしましょうorまた、どこかでお会い致しましょう。
ありがとうございました!
とある世界に魔法戦闘を極め、『賢者』とまで呼ばれた者がいた。 彼は最強の戦術を求め、世界に存在するあらゆる魔法、戦術を研究し尽くした。 そうして導き出された//
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。 世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
※タイトルが変更になります。 「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」 異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。 弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
4/28 Mノベルス様から書籍化されました。コミカライズも決定! 中年冒険者ユーヤは努力家だが才能がなく、報われない日々を送っていた。 ある日、彼は社畜だった前//
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。 自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
放課後の学校に残っていた人がまとめて異世界に転移することになった。 呼び出されたのは王宮で、魔王を倒してほしいと言われる。転移の際に1人1つギフトを貰い勇者//
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中! 魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする だが、創造の魔王プロケルは絶望では//
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。 運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。 その凡庸な魂//
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
《アニメ公式サイト》http://shieldhero-anime.jp/ ※WEB版と書籍版では内容に差異があります。 盾の勇者として異世界に召還された岩谷尚//
※漫画版もあります! コミック アース・スター( http://comic-earthstar.jp/detail/sokushicheat/ )さんで連載中!//
記憶を無くした主人公が召喚術を駆使し、成り上がっていく異世界転生物語。主人公は名前をケルヴィンと変えて転生し、コツコツとレベルを上げ、スキルを会得し配下を増や//
飯島竜人は異世界に転生し、リュート=マクレーンとなった。 転生先の肉体の最適職業は村人で、家も普通の農家で普通に貧乏だった。 ゴブリンやらドラゴンやらが闊歩する//
勇者の加護を持つ少女と魔王が戦うファンタジー世界。その世界で、初期レベルだけが高い『導き手』の加護を持つレッドは、妹である勇者の初期パーティーとして戦ってきた//
辺境で万年銅級冒険者をしていた主人公、レント。彼は運悪く、迷宮の奥で強大な魔物に出会い、敗北し、そして気づくと骨人《スケルトン》になっていた。このままで街にすら//
◆カドカワBOOKSより、書籍版14巻+EX巻、コミカライズ版7+EX巻発売中! アニメBDは6巻まで発売中。 【【【アニメ版の感想は活動報告の方にお願いします//
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
魔王を倒し、世界を救えと勇者として召喚され、必死に救った主人公、宇景海人。 彼は魔王を倒し、世界を救ったが、仲間と信じていたモノたちにことごとく裏切られ、剣に貫//
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。 あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。 「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」 これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//