今こそプロアマひとつに…ボクシング存続かけて30日から理事会開催
ボクシングの国際統括団体の組織運営を問題視する国際オリンピック委員会(IOC)は、30日から東京で理事会を開催。2020年東京五輪で存続か除外かの審議を行う。今月3日に選出された国際協会(AIBA)のガフール・ラヒモフ新会長(67)が、麻薬の売買に関与する国際犯罪組織の一員とされる疑惑や、16年リオ五輪での相次ぐ不可解判定など問題が山積。国内ではアマとプロの統括団体が団結し、29日に存続を訴える決起大会を都内で実施する。
国内のボクシング関係者は、IOC理事会での“ジャッジ”を祈る心境で待っている。日本連盟の鶴木良夫副会長は「除外はあってはならない。けど、どうなるか分からない。後は神頼みしかないんです」と、手のひらを合わせた。
AIBAはリオ五輪以降、ドーピング違反への対応遅れや相次ぐ不可解な判定、八百長の買収疑惑など問題が山積。不透明な財政面も指摘され、五輪競技からの除外を警告されていた。その中で行われた今月3日の会長選(モスクワ)では、米財務省から「ウズベキスタンの代表的な犯罪者の一人で、ヘロイン売買に関わる重要人物」と指摘され、IOCが最も問題視してきたラヒモフ氏が当選。反対票を投じた日本連盟の内田貞信会長は「こんなにも危機感がないのかと、がく然とした」と振り返った。
会長選は土壇場で立候補権を得たアジア連盟会長のセリク・コナクバエフ氏との一騎打ちで、ラヒモフ氏が86対51で当選。五輪存続へ危機的な結果となったが「それでも当初は2割程度しか予想されなかった反対票が4割近くも増えた」と日本連盟関係者。別の関係者は「諦めるには決して悪くない反対票だった。存続に向けた“ウルトラC”があるかもしれない」と期待を寄せる。
10月のユース五輪(アルゼンチン)は当時暫定会長だったラヒモフ氏の入国を拒否して実施。関係者からは、その例を持ち出し「東京もラヒモフ氏を入国拒否にすればいい」「アジア連盟会長のコナクバエフ氏で新たな国際団体を設立すれば」などという声も上がっている。鶴木副会長は「最悪、除外と審議された場合、スポーツ仲裁裁判所に訴えるとか二の矢、三の矢を考えないと」と話した。
では、実際に存続の可能性はあるのか。東京五輪・パラリンピック組織委員会の関係者は「感触としては、まず実施されるだろう」と話す。主な理由として「チケッティングの設定があり、この時期での除外は五輪の開催プラン自体に悪影響を及ぼすから」。東京五輪終了後の20年10月には、24年パリ五輪で実施すべきかどうか、全競技の検証が行われる。「危機にあることは間違いなく、IOCは厳しい警告とプレッシャーはかける。最も問題視されるのがラヒモフ会長の対応」と関係者。予断を許さない状況に変わりはない。
◆アマの未来憂う100万人署名活動
プロアマが一つになっている。8月に日本連盟の山根明前会長(79)が辞任し、長く断絶状態にあった両者の関係が雪解けした。
五輪存続に向け、日本連盟は10月末から「100万人署名活動」を実施。全国各地のアマ大会、選手が所属する学校、プロ興行などで署名を呼びかけている。「五輪から外されてしまう可能性がある。皆さん、署名をよろしくお願いします!」。14年国体ライトフライ級優勝の元IBF世界ミニマム級王者・京口紘人(25)=ワタナベ=は、20日に観戦した後楽園ホールの興行でリングに上がり、マイクを握って訴えた。
元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者・内山高志氏(39)は、拓大4年時からライト級で全日本選手権3連覇。日本連盟から署名活動の参加を打診され「(都内で新設する)ジムの会員にも書いてもらおうと思う。東京五輪でできなくなると、頑張っている選手たちがかわいそう」と協力する。
日本連盟は12月31日まで署名を集めるが、11月25日までの一時集計で約25万人分が集まった。27日に日本オリンピック委員会(JOC)を通じ、IOCのバッハ会長に渡す予定。日本プロボクシング協会との共同声明もIOCに提出し、プロの世界王者経験者らで構成される「世界チャンピオン会」にも協力を要請した。また、20年東京五輪の開催地を予定する東京・墨田区は29日に日本連盟との共催で、IOC理事会に向け、存続を求める決起大会を東京スカイツリーで行うことも決めた。
前WBA世界ミドル級王者・村田諒太(32)=帝拳=は、12年ロンドン五輪同級金メダリストとして選手の未来を憂う。AIBAがIOCから除外の警告を受けた10月初旬に「東京開催なんだから、東京ではボクシングのムーブメントを起こしてほしい。力になれることがあれば」と日本連盟に期待していた。プロアマ一体となった今こそ、火をつける絶好機だ。
◆高山「世界王座と同じ価値」金メダル目指す
WBA世界バンタム級王者・井上尚弥(25)=大橋=が、18日の全日本選手権決勝の生中継で解説を務めた。プロがアマの大会で解説するのは初めて。自身は神奈川・相模原青陵高3年時の2011年にライトフライ級で優勝し「自分が育ったアマの大会。プロとアマが切磋琢磨(せっさたくま)していけたら、ボクシング界全体がレベルアップする」と仕事を全うした。
高校卒業後にプロデビューし、3階級制覇など17戦全勝(15KO)。世界最高峰の技術は、アマ時代の国際大会でも培った。「いろんなタイプの選手と試合をできるのがアマのいいところ。対応力、テクニックの引き出しが育つ」。元世界3階級王者の長谷川穂積氏(37)も、プロの世界戦で日本選手が敗れた際に「アマで経験を積んでいないまま、いきなり世界レベルの選手と試合をしている。ピンチの脱し方を勉強する前に王者になった」と試合経験の少なさを指摘していた。
アマはプロと違って数日間で何試合もこなし、実戦で技術を磨ける。アマを経由せずにプロになった選手はできない経験だ。井上は五輪の除外危機に「あってはいけないこと。参加国も多いし、それだけは阻止したい」と存続を願っている。
プロで元世界主要4団体ミニマム級王者の高山勝成(35)=名古屋産大=は、東京五輪を目指して昨春にプロを引退。活動拠点の名古屋や地元・大阪でのトレーニングと並行して署名活動を行い、五輪競技存続を切望する。「選手の立場では何も決めることはできないが、チャンスが来た時にベストパフォーマンスを見せたい」。来春のアマデビューを目指し、8オンスのグラブで最長12ラウンドを戦うプロから、10オンスで3回決着するアマのスタイルへ、“モデルチェンジ”を図っている。
アマ転向時は当時の日本連盟会長・山根明氏から選手登録を拒まれたが、今夏に山根氏が辞任すると日本ボクシング界初のプロ出身アマ選手となった。アマはファイトマネーがないため、貯蓄や後援者からの支援で活動している。「多くの方々に支えていただいている。全ては東京五輪で金メダルを獲得するため。プロの世界王座と同じ価値があると思う」。プロからアマという前例のない戦いに挑む男も、IOC総会の決議を見守っている。
◆五輪金メダリストからプロの世界王者 第3回の1904年セントルイス(米国)大会から実施され、1920年ストックホルム五輪を除き全大会で行われてきた。女子は2012年ロンドン大会から実施種目入り。五輪金メダリストからプロの世界王者となったのは、60年ローマ大会ライトヘビー級のムハマド・アリ【〈1〉】、64年東京大会ヘビー級のジョー・フレージャー、68年メキシコ市大会ヘビー級のジョージ・フォアマン【〈2〉】、76年モントリオール大会ライトウエルター級のレイ・レナード【〈3〉】、92年バルセロナ大会ライト級のオスカー・デラホーヤ【〈4〉】、12年ロンドン大会ミドル級の村田諒太(村田以外は全て米国)ら。