東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

秋篠宮さま発言 大嘗祭の性格を問うた

 天皇即位後の儀式である大嘗祭(だいじょうさい)について、秋篠宮さまが「国費で賄うことが適当かどうか」と疑問を呈された。宗教色が強く、憲法の政教分離上の問題を指摘する声はある。深い議論が必要だ。

 「宗教行事と憲法との関係はどうなのかというときに、やはり内廷会計で行うべきだと思っています」と秋篠宮さまは述べた。

 内廷会計、つまり「内廷費」は天皇家のプライベートなお金だ。それに対し「宮廷費」は国賓を招いたり、外国訪問するなど公的活動に使われる。

 「大嘗祭自体は私は絶対にすべきものだと思います。ただ、できる範囲で身の丈に合った儀式で行うのが、本来の姿ではないかなと思います」(秋篠宮さま)

 天皇が即位後、初めて迎える新嘗祭(にいなめさい)が大嘗祭だ。皇位継承に伴う最も重要な宮中祭祀(さいし)と位置付けられる。だが国費投入は政教分離を定めた憲法に反しはしないか…。確かに一九九五年の大阪高裁は原告の訴えを棄却したものの、「政教分離規定違反の疑いを一概に否定できない」と指摘した。

 秋篠宮さまの発言は、憲法との整合性、莫大(ばくだい)な費用を考慮しての問題提起と受け止める。

 そもそも戦後の新皇室典範には大嘗祭の規定がない。四六年の衆院で担当大臣は「信仰に関する点を多分に含んでいるため、皇室典範に姿を現すことは不適当」との趣旨を述べている。

 国民統合の柱を国家神道とした時代から、戦後は大転換した。憲法に政教分離を明記した。さらに皇室典範も国家の法になった以上、信仰を含む大嘗祭の文字は記すことができなかったのである。

 前回の大嘗祭の際も、当時の閣議では「宗教上の儀式としての性格」「国がその内容に立ち入ることはなじまない性格の儀式」であることを確認した。だが、公的性格があると政府は解釈し、宮廷費からの支出となった経緯がある。来年の大嘗祭についても現政権は「前例踏襲」である。

 むしろ秋篠宮さまが宮内庁長官らに進言しても「聞く耳を持たなかった」と漏らされた。大嘗祭の性格と公費のあり方に関する貴重な意見が封じられていた事実も驚きである。

 来年五月の代替わりで皇位継承順位が一位になる人だ。天皇は国政への権能を有しない。とはいえ、天皇家としての重要行事について、憲法との関わりに疑念を呈した秋篠宮さまの言葉は、国民への問い掛けでもあるだろう。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】