デミウルゴス「さすアイ」
―エ・ランテル、執務室―
王国は魔導国に降ることになった。
腐った貴族たちとその一族は全て粛正した。
デミウルゴスとセバスは上手くやってくれたようだ。
二人から上がってきた報告書を読んでいるが、創造主同様、嫌い合っていても息はピッタリ合うようだ。本人たちは絶対に認めないだろうが。
何にせよ、これで王国のまともな連中は、必死にアインズを守ろうとするだろう。
デミウルゴスは、自分たちの仕事を確認する主を神妙な面持ちで見つめている。
自分たちは、主の期待に応えることが出来たのだろうか。
「アインズ様? 何故、デミウルゴスにあのような役目をさせたのですか?」
執務中のアルベドは申し分のない、敏腕美人秘書と言っても過言ではない。
「ふむ、第一の目的は、私に敵対することの愚かさを知らしめることだ」
「なるほど、アインズ様が斃されれば、デミウルゴスによって世界は蹂躙される。故に、アインズ様を全力でお守りしなくてはならないということですね」
「うむ、では、デミウルゴス、その他の狙いは何だと思う? 」
至高の主は、謎かけのように訊ねてくる。お前なら簡単に分かるだろう? と。
「はっ、もう一つはアインズ様の潜在的な敵を炙り出すことだと愚考致します」
「正解だ。表立って敵対することを避けようと、お前と私を敵対させ、漁夫の利を得ようという輩が現れることだろう」
「そうね、でも、アインズ様? その位でしたら、私どもで潰していけば良いのではないでしょうか? 」
アルベドが素直に疑問を口にする。
「その疑問は最もだ。だがなアルベド、一々表に出たものだけを潰していくのは手間だ」
「ああ、なるほど、そういうことですか」
「分かったかデミウルゴス。そうだ、お前の役目は、こいつらをコントロールすることだ」
「いつでも好きな時に、好きな場所で、反乱を起こさせることが出来るということですね」
「そうとも。お前が掌握した八本指を上手く使え。あれらは人間の世界で暗躍するのに長けている。上手く諜報機関として有効に活用しろ。後ほど、私が魔法をかけておく」
先日、王都を訪問した際、ついでに支配してくるよう、主から命令された連中だ。
人間にしては、そこそこ強い六腕―約一名、不遜な二つ名を名乗っていた為、つい殺してしまったので現在は五名になっている―とかいう者たちも居たが、確かにあの程度の連中のほうが人間社会では怪しまれることも無いだろう。
連中には、法国の前世のやり方を活用させてもらおう。
特定の状況下で質問に答えれば、死ぬという魔法を流用し、記憶操作の魔法が発動するようにしておく。
記憶を完全に消去するようにしてしまえば、復活させたところで情報が漏れることは無い。
安心して、危険な任務にでも使えることだろう。どうせ犯罪者だ。使い潰したところで問題は無い。
「さて、アルベド、その目的は何だ? 」
「反乱分子を纏めてコントロールすることで、統治の安定を図る、ということでしょうか」
「それも一つだ。デミウルゴス。」
「はっ、民の不満の解消。また、アインズ様のお力を定期的にお示しになることによる示威行為も兼ねているかと」
「良く分かっているな。今の民は私の力を見ている為、反乱など起こす輩はそうそういないだろうが、数百年、数万年後の民は私の力を知らない者も出てくるだろう」
「そうした無知な者たちに、アインズ様のお力を定期的にお示しになる道具として活用するということですね」
「それ以外にもある。私は、永久的な敵性国家を作るという方針は撤回する」
デミウルゴスとアルベドは驚きを隠せない。永久的な敵性国家というのは、非常にメリットの多い案だと思っていたからだ。
「先に言った通り、定期的に戦争を行うことは私の力を示す為に重要なことだ。では、それ以外の理由は何だ? 」
「はい、アインズ様のお作りになられるアンデッドの材料として、また、強欲と無欲に蓄積する経験値としてでございます」
「そうだな、そして、国の運営の為でもある」
「と、仰いますと?」
「うむ、国が安定すれば、いずれ経済は停滞する。刺激のない世界は緩やかに衰退するのだ。流れない水が澱むようにな」
「なるほど、戦争特需が期待できるという訳ですね」
「それだけではない。人口は、増えすぎても減りすぎても良くない。ちょうど良いバランスというものがある」
「くふふ、戦争を利用して、人口調整も行えるということですね」
「以上を踏まえて、一つの国家を敵とすることをどう思う? 」
「恐れ入りました。確かに、一つの国家であれば、戦争特需も人口調整もそれに隣接する国だけになりましょう」
「デミウルゴス、お前を利用しようとする愚か者どもをコントロールして見せろ。お前なら容易いだろう? 」
「お任せ下さい。このデミウルゴス、必ずやこの大役、成し遂げて御覧に入れましょう」
やはり至高の主の叡智は自分たちの及ぶところではない。
ナザリックが誇る知者二人は、主の叡智に感嘆する。
「ふふふ、頼もしいな。では次の報告書は、聖王国と竜王国か」
「アインズ様、聖王国は先日の建国祭への招待を拒否した身の程知らず共です。殲滅するべきと愚考致します」
「落ち着けアルベド。短慮は避けねばならん。私はこの世界の慈悲深き神として君臨するのだからな」
「承知致しました。では、竜王国についてはどう致しましょう? 」
建国祭に招待したは良いが、国が滅亡の危機では動くことも出来ないだろう。
にも拘らず、少なくとも書面で謝罪してきたのは非常に好感度が高い。ぺロロンチーノ風に言えば、好感度メーターが爆上げだ。
「良し、竜王国は救ってやるとしよう。魔導国に恭順することを条件に、援軍を出す。そうだな、ここは亜人混成チームを送ろう。デミウルゴス、アベリオン丘陵の亜人連中は投入できるか? 」
「問題はございません。すぐにでも編成致します。総大将はコキュートス、副将にはマーレを付けましょうか」
「うむ、それと、パンドラズ・アクターにも魔導国の援軍の情報を伝えろ。見栄えが良くなるように上手く配置するように指示しておけ」
「畏まりました。パンドラズ・アクターならば上手くやることでしょう」
「ああ、それと、ノワールを呼べ。あいつの実力も確かめたい。それとクアイエッセは呼ぶなよ。あれはフールーダより鬱陶しい」
ノワールとは、漆黒聖典隊長の新たな名前だ。黒っぽいからという理由で安易に決めた。
法国がスルシャーナを裏切ったと知って、絶望した彼は生きる気力を失った。
流石に、でっち上げで死なれては寝覚めが悪いと思ったアインズは、法国に赴きこう言った。
「今までのお前は死んだのだ。スルシャーナへの信仰と共にな。今日、只今より、お前にノワールの名を授けよう。アインズ・ウール・ゴウンの使徒として、新たな生を授ける」
新たな名を授かった隊長は、再び立ち上がる気力と、絶対不変の信仰を得た。アインズを見るその目は、前世で良く知っている。狂信者のそれだ。
マイルドな信者なら欲しいが、ガチ勢の狂信者は欲しくない。どうして皆、程ほどに留めてくれないのか。
今世において、国の支配は面白いように簡単に進んでいる。
自分に心酔するものも多く、それ自体は悪くないのだが、何故か、どいつもこいつも忠誠心が突き抜けていく。
帝国の皇帝と四騎士のような関係が良かったのだが、アインズは、もう半分諦めの気持ちでいた。
「聖王国の方に戻るぞ。使者を送ってきたか。どんな奴だ?」
「はい、聖王女の片腕、ケラルト・カストディオと九色の二人、オルランド・カンパーノとパベル・バラハです。ケラルトは姉のレメディオスと共に聖王女の腹心です」
「レメディオスだと?」
思わず大きな声を出してしまった。酷い名前を付ける親もいたものだ。可哀想に、きっと、子供の頃は名前のせいで苛められたことだろう。
「アインズ様? どうされました? 」
「ああ、酷い名前だと思ってな。可哀想に」
「そうですか? 聖王国では、それ程変わった名前では無いようですが」
「何? あ! (思い出した。レメディオスってあの聖騎士団長だ。そうか、あいつが“あの”レメディオスだったか)」
前世において、先代の聖王女への狂信から聖王を殺害し、内乱を起こした聖騎士、レメディオス・カストディオ。
彼女は感情を制御できず、内乱を起こした後、貴族たちを手当たり次第に切り殺し、国内を混乱に陥れた最悪の騎士と伝えられている。主にナザリックのせいで。
後に、レメディオスという名前は感情を抑えきれない癇癪持ちを示す言葉となり、転じて、最上級の侮辱の言葉になった。類義語にフィリップがある。
「ああ、いや何でもない。私の勘違いだ。気にするな」
流石に後世にこんな名前の残し方は同情する。今世ではもう少しマシな扱いにしてあげよう。
「え? はい。畏まりました」
「ケラルトは神官だったか。実質、宰相の地位だと思って良いな。では謁見の場を用意せよ」
「畏まりました。ですが、ある程度の日数は待たせるべきと愚考致します」
「そうだな、我が国を見学する時間も欲しいだろうしな。その辺の調整はアルベド、お前に任せよう」
「万事、このアルベドにお任せ下さい」
謁見までの間、アインザックたちと冒険者組合について話し合うとしよう。
今世は、時間を作って自分たちも冒険に出かけよう。
自由に時間が出来た頃には冒険する場所が無かった。そんな悲劇は、もう二度と繰り返してはいけない。
委員長「ちょっと男子~、ちゃんと掃除しなさいよ!」
男子A「何だよ、うるさいな。委員長のレメディオス」
男子B「や~いや~い、委員長のレメディオス~」
委員長「何ですって? レメディオスって言う奴が頭フィリップなんだからね!」
先生「貴方たち、そんな汚い言葉を使っちゃいけません」
子供たち「「「は~い」」」