<女王騎士物語>
2004・6・20全面的にリライト2006・4・16
・あまりにも平凡極まりない作品。
作品のストーリーは、主人公の熱血少年であるエルトが、国の正義を守る「女王騎士」を目指して奮闘し、やがて晴れて騎士になった後も、試練と悪人退治のバトルを繰り返すというもので、「正義の熱血ヒーローが卑劣な悪人を倒す」という王道バトルものの基本法則をことごとく踏襲したものとなっています。「王道」であることを最大の売りとしているわけです。
具体的に、この手の王道バトルもの少年マンガの基本法則としては、次の3つが挙げられます。まず、ストーリーが分かりやすく、単純明快でなくてはなりません。何も考えずとも読めるような分かりやすい展開であることが理想です。そのためには、読者が親しみやすい「お約束」の展開でも構わないわけで、むしろ「お約束」である方が喜ばれます。とにかくテンポよくストーリーを読み進めることが重要で、お約束のストーリーを気持ちよく読み進める快感を読者に与えねばなりません。
- 「ストーリーがわかりやすいこと」
- 「善人、悪人の区別をハッキリさせること」
- 「正義が勝ち、悪が滅びること」
そして、次に、主人公たちが「正義」に燃える善人であり、それを全面に押し出して行動する「熱血」であることが重要です。そして、それに対抗する存在として、誰の目にも悪い奴だと分かるような「卑劣な悪人」を出すことがさらに重要です。これらも、ひとつの「お約束」と言えます。卑劣な手段を満載した悪人を出すことで、そんな悪人に対して怒る主人公に対する感情移入度が高まり、読者が主人公とともに気持ちよく熱血し、気持ちのいい快感を得ることが出来るのです。
そして、最後に、正義である主人公たちが、悪人に対して「勝利」しなければなりません。これもまた「お約束」でしょう。「勝利」しないことには読者は快感を得られません。少年マンガでは、たとえ一時的にピンチに陥って負けることはあっても、最終的な主人公たちの勝利は絶対的に必要不可欠なのです。勝利することで、読者は至上の快感を、究極の快楽を得ることができるのです。「女王騎士物語」も、まさにこの基本法則を完全に踏襲しており、全編がお約束の展開の連続となっています。ある意味では、「お約束」であることをひとつの売りとしていると言ってよいかもしれません。ガンガン編集部は、このような「王道バトル系少年マンガ」を載せることで、一般層を幅広く読者に取り入れた「メジャーな少年誌」を目指そうという方針にこだわっており、この「女王騎士物語」は、その方針を露骨なまでに貫徹したものとなっています。編集部の意向をこれ以上ないほど受け入れた(受け入れさせられた)作品であると言えるのです。
しかし、編集者にとっては自分たちの目指す理想の内容であっても、読者にとってそれが面白いわけがありません。この「女王騎士物語」は、あまりにもお約束を踏襲しすぎてオリジナリティがまったくなく、実に平凡極まりない作品にしかなっていないのです。いくら王道・お約束志向とはいえ、何か他の作品とは異なる独創性は絶対に必要でしょう。しかし、この作品の場合、とにかく「王道バトル系少年マンガでメジャーな誌面を目指そう」という編集部の意識ばかりが目立っており、不自然なまでに熱血・王道ばかりを強調した、お約束の展開だけのマンガに成り果てている感があります。これでは、「王道」「熱血」「バトル」をこよなく愛する少年マンガ熱愛者には喜ばれても、それ以外の読者にとってはまったく面白さが感じられない凡作にしかなっていないのです。
・絵も平凡すぎる。
そしてもうひとつ、絵柄もあまりにも平凡すぎるもので、見た目にもこれといった魅力が感じられません。昨今のジャンプ系によく見られるような、低年齢を意識したライト感覚の、どこにでもありふれたような絵柄です。これではまったくもってオリジナリティに乏しく、あえてこのマンガを手にとって読もうとする人も少ないと思われます。
絵の画力レベルにもまったく見るべき点がありません。他のガンガンの少年マンガ、例えば「666~サタン~」や「マテリアル・パズル」に比べればまだマシなのかもしれませんが、それでもおしなべてレベルは低いもので、雑な筆致と仕上がりの汚さが目立ちます。このところの路線変更以降のガンガンでは、こういった雑で仕上がりの汚い絵の作品が目立つようになり、特にこのような少年マンガ系の作品では顕著です。このような雑で質の低い絵の作品が乱立することで、ガンガンの見た目のイメージも少なからず落ちてきた感があります。マンガという絵で見せるメディアである以上、絵のオリジナリティや画力レベルは絶対に必要です。それなのに、あたかも昨今のジャンプ系マンガをなぞったかのような、平凡かつ質の低い絵の作品ばかりを載せることに一体どれだけの意味があるのでしょうか? ジャンプのようなメジャーな少年誌を目指すためには、見た目もジャンプのようにする必要があるとでもいうのでしょうか。なんとも理解しがたい状況です。
・露骨なまでの編集部の後押し。
そして、このような平凡な作品を、自分たちの目指す路線の作品だからという理由だけで、露骨なまでに後押ししようという編集部の行動もあまりにも滑稽です。新連載当初から、可能な限りのバックアップを続けている様子ですが、肝心の作品が面白いとは言えないので、さして成果は出ていません。
中でも最もおかしかったのが、2004年当時に行われた「ガンガンヒーローフェア」でしょう。「666~サタン~」「マテリアル・パズル」「女王騎士物語」と、ガンガンの中でも最も売れていない三つの作品を集めて、推進のためにフェアを行ったのです。自分たちの求めるメジャー志向の少年マンガがまったく売れていないことが、そこまで悔しかったのでしょうか。当時のガンガンでは、他のより優れた作品が他誌に飛ばされ、あるいは打ち切りになるという事態が頻発しており、そんな理不尽な処遇の一方で、自分たちが推進する、しかしまったく面白みのない作品ばかりを後押ししようとする姿勢はあまりにも滑稽でした。
そして、「女王騎士物語」の単行本6巻の発売時には「人気急上昇!」なる煽り文がありましたが、本当に人気急上昇なのか、その気配がまったく見られないのはどういうことでしょうか。本屋でも取り立てて入荷冊数は増えていないようですし、ネットでの売り上げも非常に低いレベルに留まっています。特に最近になって話題になったという話も聞きません。単に、編集部が「人気急上昇」という煽りだけで売ろうとしているとしか思えません。
・しかし、まったく面白くないわけではない。
・・・と、ここまで、この「女王騎士物語」が、極めて平凡で面白くないと記述してきたわけですが、実はこのマンガには面白いところもあります。
この手の「お約束」全開でなんのひねりもないマンガは、普通に読んでいたのでは到底楽しめません。しかし、ここで発想を転換し、その「お約束」をネタとして楽しむという読み方があります。「女王騎士物語」は、そのあまりの王道・熱血・バトルを強調したお約束全開の展開が執拗なまでに繰り広げられているため、その「お約束ぶり」をナナメから見て、笑って楽しむことが出来るのです。つまり、このマンガは、そのバカバカしいまでの王道ぶりをネタとして楽しむネタマンガであり、バカバカしいお約束全開の作品内容を嘲笑しつつ楽しむという行為が考えられるのです。つまり、このようなバカバカしいマンガを描く作者を嘲笑のネタにして楽しむという、極めてダークサイドな楽しみ方を推奨できてしまうのです。そして、このような楽しみ方はインターネットでは既に広まっています。そして、このような楽しみ方を見出す人間は、元々雑誌が想定した読者である低年齢層の子供ではありえず、ある程度マンガをよく知っている高年齢層のマンガマニアが中心です。つまり、このマンガは、本来の低年齢向けの少年マンガではありえず、高年齢のマンガマニアに対してネタマンガとして受けている状況に陥っているのです。
・しかも萌え要素まである。
そして、これも当初の少年マンガ路線からは外れた要素ですが、このマンガはいわゆる「萌え」要素がかなり強い作品でもあります。
このマンガの絵柄は、確かにジャンプ系のありがちな少年マンガのイメージが強いものですが、それに加えて、キャラクターに対する萌え要素もかなり感じられるものになっているのです。女の子のキャラクターが明らかな萌え系であり、しかも連載の序盤でなぜかメイドキャラが頻繁に登場したり、今時のツンデレ系のお嬢様も出てくるなど、作者が意図して採り入れたのかどうかは定かではありませんが、とにかく明らかに萌え要素を感じる内容になっているのです。そして、これがまたマニア系の読者に妙な人気を集めてしまい、上記の「ネタマンガ」化と併せて、マニア読者に対してひねくれた人気を獲得するに至っているのです。また、それとは別に、このマンガのライトな絵柄の男性キャラクターが、なぜかマニア系の女性読者、特に「腐女子」に対して受けている点も見逃せません。これも当初の想定からは外れた人気でしょう。元々、ガンガンのこの手の「メジャー誌を目指した少年マンガ」は、それ以前のガンガンの「キャラクター人気が全面に出たマンガ」に対して対抗する目的で作られた側面があります。ところが、実際には、女の子キャラの萌え要素に腐女子に受けている男性キャラと、むしろマニアに対する人気で作品が保たれている状況なのです。これは「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」にも言えることですが、これが本当に編集部が目指す路線なのでしょうか。「キャラクター路線に対抗して王道全開の少年マンガを打ち出したはいいが、いざやってみるとマニアにキャラ萌えで受けている罠」に陥っているように見受けられます。
・随所に織り込まれた小ネタもある。
そして、このマンガは、色々な他作品から採ってきた小ネタがかなりたくさん散りばめられています。そして、これもまたマニアに人気を得ているのです。特にゲーム(RPG)系のネタが顕著であり、ロマサガあたりから採り入れたネタは一部の読者にかなり受けたようです。つまり、このマンガは、一種のネタマンガとも言えるもので(先ほどの、お約束ぶりをネタとして嘲笑して読むという意味でのネタマンガとは違い、様々な他作品のネタをたくさん採り入れたマンガという意味)、その意味でもかなりマニアに対して受けている側面があるのです。つまり、このマンガは、まずバカバカしい王道お約束ぶりを笑って読み、さらには出てくるキャラクターに萌えまくり、そして随所に散りばめられた小ネタを楽しむという、極めてマニア的な読み方が出来る作品なのであって、当初の方向性である低年齢向けの王道少年マンガからは既に大きく外れており、実はマニアにしか受けていないという事実が浮き彫りになってくるのです。
・「女王騎士物語」はガンガン版「ハヤテのごとく!」になりうるか。
ところで、このような「萌え要素」のある「ネタマンガ」として、皆さん思いつくマンガがないでしょうか? そう、今のサンデーで大人気を獲得している「ハヤテのごとく!」です。確かに、この「女王騎士物語」は、「ハヤテ」にかなり近い要素を有しており、絵柄もなぜか似ています。その点を踏まえて、「このマンガも『ハヤテ』のように面白く読めて人気も出るのではないか」とする意見が一部にあるようですが、果たしてどうでしょうか。しかし、残念ながらその期待は薄いと言わざるを得ません。大人気マンガ「ハヤテのごとく!」に比べれば、そのネタの質と量には大きな格差があり、「女王騎士物語」のネタはインパクトでかなり見劣りがします。また「女王騎士物語」が基本的に王道お約束全開のバトル系少年マンガであって、その描写が作品の大半を占めているために、さほどネタにページを割けていないという点もマイナスポイントです。
さらには、今では「ハヤテのごとく!」以外にも、大きな人気を得ているネタマンガがたくさんあり、それらに対抗するのも難しいと思われます。「ハヤテ」の作者の師匠による怪作「さよなら絶望先生」、少年ジャンプで突如現れたネタ全開マンガ「太臓もて王サーガ」などはいまや大人気ですし、「女王騎士物語」と同じスクエニ系でも「まほらば」や「ぱにぽに」(アニメになってさらに凶悪化)など、ネタがふんだんに入った人気マンガが存在しており、これらのマンガに比べれば、「女王騎士物語」のネタには切れがなく、さほど印象に残るものではありません。この程度のレベルのネタでは、これらの人気マンガには太刀打ちできないでしょう。さらには、萌え要素に関しても、さすがにあの「ハヤテ」には及ばないでしょう。「女王騎士物語」の女の子キャラクターは、「ハヤテ」ほど前面に出てくるわけではなく、あくまで少年マンガの一キャラクターとして男性キャラクターと並列に登場するのであって、そこまで過度な萌え要素は期待できません。最初からラブコメとして描かれている「ハヤテ」とはまるで違います。ついでに言えば、スクエニ系の「まほらば」や「ぱにぽに」にも萌え要素では大きく見劣りします。
・「低年齢向けの王道少年マンガとして打ち出したはいいが、実は萌えとネタでマニアにしか受けてない罠」
以上のように、この「女王騎士物語」、王道・熱血ばかりを強調したお約束全開の「少年マンガ」としては極めて平凡で面白さはまったく感じられず、むしろそのバカバカしいお約束ぶりをマニア読者にネタ扱いされて笑われ、しかも萌え要素と小ネタまで備えていてそれもマニアに受けているという、極めてゆがんだ作品になっていると言えるのです。しかも、その萌えとネタに関しても、他のマンガに比べればかなり見劣りするものであり、決して印象に残るほどのマンガにはなっていません。総じて中途半端でひねくれた笑いしか提供できていないのが現状です。そして、このような明らかに見劣りするマンガを、編集部の路線に合うという理由だけで延々と連載を続け、あまつさえまったく人気もないのに不自然なまでに後押しを繰り返すとは、あまりにも読者を無視した方針であると言わざるを得ません。この「女王騎士物語」、まさに今のガンガンのゆがんだ編集方針を象徴する作品になっていると言えるでしょう。