OVER PRINCE 作:神埼 黒音
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ドタバタ劇を繰り広げる一行が、王都へ向かう前後へと話は遡る………。
「で、わざわざ俺の所に来たのか」
「ゼロ様は幾らでも積む、と」
とある寂れた洞窟の中……見るからに精悍な男と、その筋の人間であると一目で分かる男が密談を行っていた。八本指の警護部門、六腕のゼロから出された使者と、かのブレイン・アングラウスその人であった。
ブレイン・アングラウス―――かつて御前試合で近隣諸国最強の戦士と名高いガゼフ・ストロノーフと決勝戦で刃を交え、後々の語り草になる程の名勝負を繰り広げた稀代の剣豪である。
「ストロノーフを仕留めろ、か……悪くない話だ」
「………では?」
「一つだけ条件がある……その勝負に、要らん茶々を入れるな。そん時は誰であれ殺す」
「承知しております。こちらも邪魔が入らぬよう、万全の態勢を整えております」
使者が厳粛な表情で重々しく頷く。その態度から、「その条件」を必ず出されるであろう事を予測していた事が窺えた。そして、それに対する準備も。
「万全の態勢ね……奴の子飼いは死に物狂いで歯向かってくるぞ」
ブレインが何処か遠い目をして、洞窟の天井を見る。
戦士長という役職の下には当然、大勢の部下が着く。そのどれもがブレインにとっては一刀の下に切り捨てる事が出来るが、それでは折角の勝負が台無しだ。
ブレインは知っている。
調べ抜いている。
他ならぬ、ガゼフ・ストロノーフの事ならば、何でも欲した。
どんな小さな情報でさえ金を払い、奴の周辺を、本人を、調べ倒した。
殺せる機会があるなら、いつでも仕掛けられるように。
自らの”武”を練りながら、虎視眈々と相手の隙を狙っていたのだ。
だが、調べた結果は……余り芳しいものではなかった。ストロノーフの子飼いの部下達はみな忠誠心が厚く、ストロノーフの為に死ぬ事も厭わない。
(一騎打ちなど望むべくもない、か………)
ストロノーフの日常は公務に追われる日々であり、常に周辺には屈強な部下達が存在していた。
趣味もない為、休日に外出する事もなく、王城に詰めて鍛錬といった具合である。
隙がない。無さ過ぎる。まるで鉄人のような人生であり、日常であった。
無理やり仕掛けようにも……
(奴の意思など無視して、必ず忠誠心過剰な部下達が邪魔に入る)
思い切って夜襲でも仕掛けようと思った事もあるが、即座にその考えは捨てた。自分は奴を真正面から堂々と打ち倒したいのであって、《暗殺》したい訳ではないのだ。
周囲の騒音を掻き消す為に、自分がいま所属している”死を撒く剣団”の連中を使おうと考えた事もあったが、ストロノーフから鍛えに鍛え抜かれた部下達の前では軽く一蹴されるだけであろう。
「ま、貴族連中からは奴が危機に陥ったとしても、誰も助けは来んだろうがな」
「えぇ、王国を担う戦士長殿は、高貴な方々からは好かれておらぬ様子で」
白々しく使者が言う。
貴族と平民の間には、簡単には拭えぬ程の階級の壁がある。平民でありながら声望高く、人望厚い戦士長など、忌々しい地虫に過ぎない。
ストロノーフを殺すとなれば、助けるどころか、むしろこちらを応援さえしてくれるだろう。
それも手弁当片手にワインを持って、だ。
「……で?万全の態勢とやらを聞かせろ。俺は口約束なんてもんは信用しない事にしてるんでな。納得が行かなければ、この話は無しだ」
「冒険者を使います」
「馬鹿か、お前は?ストロノーフを殺すのに協力する冒険者が何処に居る」
眉間に、危険なものが走る。時間を無駄にしたと思ったのだ。
こんな下らん話を持ち込む連中など、躊躇なく斬り捨てるべきだろうか?その結果、六腕とやらが敵になっても一向に構わない……むしろ、自らの武を練る絶好の機会。
歓迎すべき事ではないか。
「普通ならば、そうでしょうな」
「ほぅ……その口振りだと、普通じゃない相手だと言う事か?」
ガゼフ・ストロノーフは言うまでもなく、英雄である。
庶民の憧れであり、いつかは自分も、と思える輝く太陽のような存在。王国に住まう冒険者の中で、奴に憧れを抱かない人間など居ない。
王国に対しては忠誠心なんて無くても、ストロノーフが死の危機にあると分かれば、たとえどんな冒険者であれ、それを救おうと何らかの努力をするだろう。
「敵国の人間であれば、話は変わります」
「帝国の人間か……浅はかな考えだな。奴の声望は隣国にも響いている」
いや、敵国だからこそ、奴の名は雷鳴のように響いているのだ。
何せ、それが”敵”となって、自らに剣を向けてくるのだから。戦場でガゼフ・ストロノーフと遭遇するなど、帝国の連中からすれば悪夢でしかない。
戦争の度に奴の名は轟き渡り、帝国の連中の中にはトラウマとなって戦場に立てなくなった者まで居ると聞く。むしろ、王国よりも帝国の人間の方が、ストロノーフと敵対するような話になど乗って来ないであろう。
「ご安心を、アングラウス様。この話を、諸手を挙げて歓迎した者が居ります」
「ハッ……大方、金目当てのワーカーか何かだろう。そんなヘボが何百人居ても意味がない」
「………確かな実力があれば?」
男がブレインの耳に口を寄せ、何事かを呟く。
胡散臭そうに聞いていたブレインであったが、次第に眉間に寄っていた皺がほぐれていく。
「なるほど。ゼロというのは単なる力馬鹿ではないらしいな」
「我等の頭は力だけでなく、様々な選択肢を提示し、人を統御されます」
「面白ぇ。この話………乗った」
ブレインが腰の刀から親指を使って刃を押し出し、瞬間、強く押し込んで鍔元を鳴らす。
固い約束、誓いを表す―――金打であった。
その顔には凶暴な笑みが張り付いており、今にも走り出しそうである。
「王都へ―――――待ってろ、ストロノーフ」
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―――――帝都アーウィンタール 某酒場
「ふふっ………あっははッ!ひっひっひ!」
”使者”が帰った後、エルヤー・ウズルスは酒場で哄笑をあげた。
もう耐え切れない。爆笑だ。
こんな美味しい話が転がってくるなんて。
「やはり……選ばれし者には、それに相応しい話が舞い込んでくるのですね」
痛飲といった勢いで飲んでいた為、ワインがもう空になる。
咄嗟に立たせていたエルフの頭に、グラスを投げつけた。派手な音が鳴ってグラスが砕け散る。
「使えんグズが。主人のワインが無くなる前に注文しろ」
「も、申し訳ありま……あぐッ!」
その言葉が終わる前に、腹へ蹴りを叩き込む。
グズでどうしようもないエルフが体をくの字に曲げ、苦悶の表情を浮かべた。
周囲の客がそれを見て眉を顰めたが、わざわざ苦情を言ってくる者は居ない。帝国ではエルフなどの亜人を奴隷とする事が法で認められており、誰に何を言われる筋合いもないのだ。
言ってきたとしても、「奴隷への躾だ」と言えば済む話である。
「くくっ……まぁ、良い。今日の私は酷く気分が良いのですよ」
「あ”、あり、がとう、ございます………」
グズエルフが涙を浮かべながら頭を下げる。
そう、貴様ら劣等種はそうやって頭を下げていろ。この人類史に名を残す、剣の天才であるエルヤー・ウズルスに仕える事が出来るなど、劣等種には過ぎた境遇である。
(それにしても、ストロノーフとアングラウスの一騎打ちか……)
”近隣諸国最強”の名を欲しいままにする戦士と、剣を取っては”海内無双”と名高い剣豪。
両人とも、目の上のたんこぶと言っていい存在である。
この両人の所為で、自分の名が一段低く見られている感すらあるのだ。いつかこの手で斬り捨て、その屍を晒してやろうと思っていたが、絶好の機会が訪れた。
依頼の内容は、自分に取っては実に簡単なものである。
両人の一騎打ちに必ず横槍を入れるであろう、ストロノーフ麾下の子飼い連中を抑える事。
天才である自分なら、片手で済ませられる仕事である。
奴の麾下にどれだけの部下が居るのか分からないが、自分は300を超える野盗の群れとすら対峙した事があるのだ。先頭に居る15人ばかりを斬り捨てた時、残りの連中は我先にと逃げ出した。
(凡人や、凡人の群れなど、そんなものだ……哀れではあるがね)
才がない故に、群れざるを得ない。
数に頼るしかない。
そうしなければ生きていけない哀れで、情けない生き物達である。
(いずれにせよ、どちらかが死にますね………)
あの両人が刃を交えるなら、それは間違いない。もしやすると、一瞬で勝負が決まるかも知れない……達人同士の戦いとはそんなものだ。
だが、残った方もタダでは済まない。
深手を負った”勝者”を一刀の元に斬り捨てれば、自分こそが、このエルヤー・ウズルスこそが最強の剣士の立場を手に入れる事が出来るのだ。
(いっそ、その場に居る者を全員殺し、口封じをしましょうか……)
さすれば、二人とも自分が倒したと公言出来る。
何せ、実際に二人の死体が転がっているのだ……誰がそれを否定出来ようか。
この世界では事の真偽など関係なく、大声で、堂々と吹聴したもの勝ちなのだ。
かの両人を倒したともなれば城へと招聘され、皇帝陛下への謁見すら許されよう。あの人材好きで有名な陛下だ……さぞや良い地位を提示してくれるに違いない。
(皇帝陛下直下である白銀近衛の隊長辺りか……?ふふっ……)
エルヤーは注がせたワインを飲み干し、自分の輝かしい未来に乾杯した。
「さぁ、王都へ―――――私の輝かしい伝説が始まる」
■□■□■□■□■□
―――――帝都アーウィンタール 歌う林檎亭
腕利きのワーカーである「フォーサイト」のメンバー達が根城にしている店。
そこでアルシェを除くメンバーがテーブルを囲み、思い思いにグラスを空けていた。
リーダーである、仲間想いのヘッケラン・ターマイト。
エルフの血を半分引き、弓を巧みに扱うイミーナ。
多くの人々を救う為、神殿の教義に逆らってワーカーとなった神官ロバーデイク・ゴルトロン。
ヘッケランとイミーナは高いワインを空けながら、豚肉が入ったシチューを満足気な顔で口へと運び、酒が全く飲めない、下戸のロバーデイクだけは水を飲んでいた。
「で、この前の話だが……どう思う?」
ヘッケランの言葉に残りの二人が反応する。
「普通に考えたらパスね。普通に考えるなら、だけど」
「おや、含みのある言い方ですね。普通に考えないのであれば?」
「興味は、ある……とか言っちゃったりして?」
イミーナの言葉にヘッケランとロバーデイクが苦笑を浮かべる。
確かに、興味はあるだろう。
いや、誰だって興味があるに違いない―――かのガゼフ・ストロノーフとブレイン・アングラウスが、一騎打ちをすると言うのだ。
自分達への依頼内容は汚れ仕事を引き受けるワーカーに相応しく……その一騎打ちに横槍を入れてくるであろう戦士長の部下達を抑える事、であった。
「部下の皆様方はさぞかし、お強いだろうよ……栄誉も名誉もある騎士様方だ」
「そうね。だから普通に考えるならパスって言ったの」
「しかし、八本指と言うのは随分と物持ちなのですな。あれ程の報酬を示してくるとは」
依頼内容の危険さもあるだろうが、前に200、後ろに150という大金である。
決して、軽く出せる金額ではない。しかも、金だけではなく望む種類のマジックアイテムすら特別報酬で付けるとの提示すらあった。
あらゆる犯罪に手を染めている組織とは聞いているが、どれ程の悪事を重ねればそれだけの報酬を軽々と提示出来ると言うのか。
それも、自分達だけではなく、複数のチームへ打診したと聞いている。
「ちなみに、グリンガムの所は断るつもりらしい。その昔、ブレイン・アングラウスにこっぴどくやられたらしくてな。老公も例の慎重さが出て断ったらしい」
ヘッケランの言葉に二人が頷く。グリンガムが、かの剣豪と戦った事があるというのは驚きではあったが、一度戦って敗れているなら、こんな話を断るのは当然だろうと思ったのだ。
老公に関しては言うまでもない。
百ある依頼の中から、選びに選び抜いて一つを取るか、取らないか、と数ヶ月の時間を掛けて考える事すらザラであるのだ。
ほんの少しでも危険の匂いを嗅いだのなら、間違いなく断るであろう。
「付け加えるなら、天賦が参加するとの報告があった」
ヘッケランの言葉にイミーナとロバーデイクが顔を顰める。出来るなら、顔も合わせたくない相手だし、共に仕事をするには余りにも不安定で怖い相手だ。
「じょーだんでしょ。あんな馬鹿と仕事をするなんてゴメンだから」
「概ね、私も同意ですね」
二人の言葉に頷きながらも、ヘッケランは「だが」と言葉を続ける。
「剣の腕だけは確かだ。今回の依頼内容に限って言えば、有用な奴ではある」
「剣、ね……中身は屑じゃん」
高い金を払ってまでエルフを奴隷として買い込み、虐待を繰り返しては使い潰して廃棄する。イミーナからすれば、その首を捻じ切りたい程に怒りが湧く相手だ。
エルヤーは奴隷にしたエルフに暴力を振るうだけでなく、性の捌け口にも使っており、嘘か本当か、妊娠したエルフを斬り殺したとの噂すら流れている。
「だがな、アルシェの事を考えると、ここらで大きく稼ぐのも悪くないんじゃないかと思ってな」
「うーん……借金かぁ………」
「確か、金貨300枚でしたな」
先日、ここに借金の取立てに来た男とトラブルになり、アルシェ……いや、正確に言えば貴族位を剥奪されたアルシェの両親が浪費癖を止められず、借金に借金を重ねているとの話を知ったのだ。
フォーサイトのような腕利きのワーカーですら、金貨300枚というのはとんでもない大金である。文字通り、全員が命を賭けねば手に出来ない報酬だ。
「今回の報酬は偶然にも350枚ときてる。ちょっと運命を感じちまってな」
「ぷはっ……運命?似合わない台詞は止めて欲しいんだけど」
「ふむ……ですが、全額をそのまま渡すのは良い話とは言えませんよ」
「そりゃそうだ」
今度はロバーデイクの言葉に二人が頷く。当然の事だ。
自分達は全員が同じ立場であり、報酬も人数割りである。一人に報酬を傾けるなどありえない。
あくまで、ドライに。あくまで、ビジネス。
でないと何の保障もなく、法の加護もなく、守ってくれる権力もなく、ただただ自分達の力だけを頼りにして生きるワーカーとして失格であろう。
そんな甘い集団が生き残れるような、生易しい世界ではない。
「あくまで、貸すだけだ。その後、両親とは縁を切って貰う。法的にもな」
「ちょっと……幾らなんでも勝手に決めすぎでしょ!」
「些か性急では?アルシェはまだ子供です……親から離れると言うのは……」
「―――知った事か。俺達の妹が困ってる。泣いてる。だったら無理やりだろうが、嫌われようが、俺は俺のやりたいようにやる。そう決めたんだ」
ヘッケランの暴言(?)に、二人が黙り込み……遂に笑い出した。
散々、これまでビジネスとして話していたのは何だったのか、と。
「あんた、馬鹿じゃん?最後で台無しじゃん?」
「説得にも何にもなっていませんね。神も呆れるでしょう」
「うるせぇな!」
こうしてフォーサイトは様々な事情からその仕事を受ける事にし、その後は野次馬的な話で大いに盛り上がる事となった。力の世界で生きる者としては、やはり興味が尽きないのだ。
ガゼフ・ストロノーフと、ブレイン・アングラウスという両雄の戦いは。
武の極地、そう言いきっても過言ではない戦いである。
もしも、闘技場でそのカードが組まれたら全席が史上空前のプラチナチケットとなって即完売。皇帝陛下以下、四騎士すら来場してその戦いを固唾を飲んで見守るに違いない。
今回の依頼はある意味、その戦いの最前列に立つ事が出来る、と言って良い。
逆説的ではあるが、その戦いを見ようと思えば、本来ならこちらが金貨数百枚を払わなければならない立場であろう。闘技場でやれば一日で金貨が何十万枚動くか分からないカードである。
ヘッケランは思う。
今回の依頼を達成する時間で言えば、5分か10分か、その程度であろう、と。
自分達が騎士を押さえ込んでる一瞬の間に、その背後で決着が着く。
その勝負を見ている暇はないだろうが、どちらが勝ったかリアルタイムでその結果を知る事が出来るのだ。そして、恐らくは後世に伝説の一戦として語り継がれるその場に、自分達の名を残す事が出来る。
薄汚れたワーカーである自分達が、だ。
悪くない。全く以って、悪くない。
アルシェの事が無かったとしても、命を賭けるだけの価値は、十二分にある。
「でだ、お前らはどっちが勝つと思う?」
「ストロノーフじゃん?戦場じゃ、四騎士すら足元にも及ばなかったらしいし?」
「私はアングラウスを推しますよ。一度敗れた男が再び挑むのであれば、それ相応の勝算があっての事だと思いますので」
「剣だけで言えばエルヤーも戦士長に匹敵する、って噂だぜ?」
「馬っ鹿みたい。あんな屑が勝てるなら王国も終わりっしょ」
「王国と言えば、かの蒼薔薇の重戦士、ガガーラン殿もおりますな」
「ぁー!私はやっぱガガーラン推し!あの人ならストロノーフも捻じ伏せそう!」
「流石にそれは無いでしょう……試合形式では戦士長殿が勝ったとか」
「ちっがうの!ガガーランは何でもアリのストリートファイトでこそ本領発揮っしょ?ルールに守られた試合形式じゃ本当の力を出せないんだってば!」
「何でもアリと言えば、エ・ランテルで大魔獣を屈服させた男が居るとか聞きましたな」
「猛獣使いっしょ?適当に吹いてるだけで、尾ひれ付きまくってるってオチ」
「まぁ、冒険者やワーカーは吹聴してナンボの世界ではありますが………魔獣と言っても、大抵はゴブリンや荒鷹などですしね」
「俺が言うのも何だが……お前ら、ちゃんと仕事もするんだぞ……?」
もはや闘技場での賭博話と変わらない内容になってきたところでヘッケランが釘を刺したが、熱くなった二人は更に様々な冒険者や、はたまた魔法詠唱者の名前まで挙げ、イミーナが酔い潰れるまで話が終わる事は無かった。
「……遅くなった」
「おぅ、アルシェ。稼げる話が一つ来た―――――王都へ行くぜ?」
■□■□■□■□■□
―――――エ・ランテル
「留守とはの……」
そう独り言ちたのは、世界に四人しかいないとされる英雄を超えた者―――逸脱者フールーダ・パラダインその人であった。帝国の最重要人物とも言える存在が何故、王国に居るのか?
それは、只一人の人物を見定める為であった。
「生まれながらの異能、か………本当ならば羨ましい話ではある」
嘘か真か、通常の二倍の速度で魔法を習得出来るタレント持ちの人間が居ると言う。
高弟達はみな、眉唾ものだと大笑いしていたが、自分は笑う事が出来なかった。
それが本当の話であるなら、自らの”魔”と”智”を超える可能性があるのだ。笑えない。笑える筈がない。首に縄を付けてでも、無理やり自分の弟子にしたい。
―――いや、しなければならない。
自分は禁術によって老化を停止させてはいるが、最近では緩やかに自分が老いていっている事を感じるのだ。堰き止めた水が少しずつ溢れ、零れているような状況。
いずれ堰き止めた水は抑え切れなくなり、遂には溢れ出すであろう。
その時にはこれまでの皺寄せと言わんばかりに、洪水のような《老い》が自らを襲うに違いない。何も残す事なく、一言も発する暇もなく、自らの体は朽ち果てるであろう。
数百年の時間が、一気に襲い掛かるのだ。肉も骨も、脳も、何もかもが残らない。
(見つけなければならない。育てなければならない)
その時が来るまでに。
自らを超える存在を。
居ないのであれば、自らを超えうる存在を育てるしかない。
自分はこれまでも若い人材であれ、名も無い人材であれ、魔法の才能があると評判を聞けば何処にでも会いに行った。面談した。遠国であれ、近国であれ、関係なくだ。
時には孤児院も見た、スラム街や暗黒街、思い余って浮浪者の群れすら見た。
だが、自分が思ったような存在など一人も居なかった……今居る高弟達も優秀ではあるが、天才でもなく、英雄でもなく、ただただ、優秀なだけなのだ。
自分を超え、魔の深遠を感じさせ、それに近づかせるような逸材とは遂に出会えなかった。
不幸である。何処までも不幸である。
人を導くばかりで、辿り着きたい魔の深遠にはまるで近づけない。徒労とも言える日々。
どれだけの時間をかけ、情熱を注いでも、毎日は繰り返すだけであり、変化などない。
―――数百年の停止、停滞である。
時に叫び出したい程の衝動に襲われ、世界に向けてありったけの呪詛を吐きたくなる。
何故、自分にはこれだけの試練が降りかかるのか。
何故、自分には師と呼べる存在が居ないのか。
何故、自分に匹敵する才の持ち主と出会えないのか。
自分はただ、魔法の深遠に近づき、それを感じたいだけだというのに……。
(そのニニャと言う人物のタレントが本物であれば………)
可能性は、ある。
そう考えたからこそ、高弟達の反対を振り切って一時、帝都より離れたのだ。
元より、帝都や帝国などより、自らが求める魔や、それに連なる存在の方が遥かに大事なのだから。あの帝都が滅びる事によって自らを超える存在が出てくるというのであれば、自分は喜んで帝都を火の海にでもするだろう。何の躊躇も、遠慮も無く。
その結果、億の人間が死のうが、百万のモンスターが死のうが、どうでも良い話である。
(それにしても、王都へ行ったとの事だが……)
転移を使えばいつでも行ける場所ではあったが、まるで興味がなかったのだ。
帝国は優秀なジルの下、その治世は安定してきたが、このリ・エスティーゼ王国というのは救いがたい程の病魔に侵されている。
ジルが手を下すまでもなく、木が枯れるようにして朽ち果てるであろう。
(なればこそ、早めにこの国から連れ出しておく必要があるの………)
戦争や混乱の中、その人物が死亡する可能性がある。
まして、冒険者という職業についているなら危険なモンスターとの戦闘もあるだろう。そんな下らないものに《可能性》を潰されては堪ったものではない。
「行くかの―――――朽ち往く国の、王都へ」
モモンガ、ハムスケ、蒼の薔薇、ニニャ、ガゼフ、ラナー、クライム、
八本指、六腕、ブレイン、天賦、フォーサイト、フールーダ……
様々な群雄達が、様々な思惑を秘めて王都へと集結し……いよいよ、華と嵐の国堕とし編へ突入!
この前代未聞の状況の中、生き残るのは誰だ!?
★☆★☆★☆★☆★☆
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アルベド
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デミウルゴス
「手数を絞り、たった一撃で、最高のタイミングで放たれる広範囲殲滅魔法ですよ。あぁ……想像するだけで体がゾクゾクします……恥ずかしながら、私は勃起してしまいましてね……」
シャルティア
「私の下着もかなりまずぅい事になっていんすぇ。デミウルゴスには負けないでありんす」
アウラ
「あのさぁ、競う所が間違ってると思うんだけど………」
マーレ
「ぼ、僕もス、スカートの中が……(小声)」
セバス・チャン
「マーレ様、それは男としての成長でございます」
マーレ
「ほ、本当ですか!僕の”これ”が、モモンガ様のお役に立つんですね!?」
セバス・チャン
「勿論でございます」
コキュートス
「コノ御様子デハ、御子様ノ御誕生モ近イデアロウ……爺ハ、爺ハァァァァァ!」
悟くん
「こっちはこっちで酷いな!」