オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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ガゼフファンの皆様ごめんなさい。
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モモンガの低い声を聴いて納得していたのはパンドラのみ。だが、他の人間は誰一人としてモモンガから発せられた怒りというか、失望の理由を推察できなかった。
パンドラが一歩を踏み出すが、モモンガが手を上げてそれを制止する。
「いい、パンドラ。王国戦士長殿。お伺いしたいことがございます。この村は襲撃された結果、半数以上が亡くなりました。それは私たちがこの村の危機に気付くのが遅れたためです。そこで聞きたいのが村人たちの処遇。村としての形は残せるでしょう。家や畑など、無事な部分も多いですから。
ですが税収は今までと同じ物は不可能でしょう。働き手もその後を担う子どもたちも一斉に亡くした。戦争における徴兵もです。今回のものは戦時行為、いわゆる戦時被害者に該当するのでしょう。王国の法を少々確認しましたが、そういった項目はありませんでした。どうなるのです?」
さっき村長の家にいる際にパンドラに確認させたが、そういった突発な行為における被害者への救済措置は一切書いていなかった。パンドラ曰く最後の方に追加された第三王女の方策は目を見張るものがあるそうだが、目的のものはなかった。
だからこそ、村長と一緒になって確認すべきと思い問い合わせたが、ガゼフの首は無惨にも横に振られた。
「いや、モモン殿。おそらくだが税収も変わらず、手当てなども出ないだろう。私も法を全て把握しているわけではないから断言できないが、そういう被害に遭った民に手当てが出た事例を知らない。なんとか手を尽くそうとは思うが……」
「その『手』、というのは王への進言ですか?」
「ああ、そのつもりだ。陛下は此度の帝国騎士の侵略に心を痛めて我々の派遣を許可くださったほどだ。貴族さえ説得できればおそらくは」
「そうですか」
(無理だな。その貴族の横槍で今回の作戦が決行されているっていうのに。……王国の庇護下に収まり続けるのは危ういな)
ガゼフが現状の王国の状況、貴族の裏切りに気付いていない可能性が高いとモモンガは判断する。つまり、それなりの立場には居ても、政治的には内外から邪魔だと思われている存在。
そして本人曰く法には詳しくないということから政にも詳しくはない。見るからに武人というような佇まいから、政治には関わってこなかったのだろうと判断した。
「では重ねて。今回親などを亡くした子どもはどうなるのですか?村の現状から養うのも難しい子どももいるはず。孤児院などに引き取られるのでしょうか?」
「孤児院か、貴族への奉公に出されるか。多くはその二つだろう。決めるのはその子たちとその子たちの責任者。家族が亡くなっている場合は村長による判断で決められることが多いはずだ」
「なるほど」
一応子どもにも選択の余地があるらしい。最悪パンドラに村長を言いくるめてもらってエンリたち姉妹が過ごしたいようにさせればいい。
「こちらからも聞きたい。モモン殿、襲ってきた帝国騎士はどうされたのですかな?」
「全滅させました。これでもそこそこの魔法詠唱者と剣士なので。パンドラ、鎧を」
「はい」
ロンデスの鎧をガゼフに渡す。帝国の鎧など、村長は扱いきれる物ではなかったためにガゼフに渡すことにしていた。さすがに敵国の鎧は売れもしないし所持していても危うい。
渡した鎧を検分して、ガゼフはそれが帝国の物だと納得したらしい。
「なるほど。これを持ち帰って王と相談しよう。帝国から賠償金を取れるかもしれない。そうしたら被害に遭った者たちへの補填もできるだろう」
(無理だよ。法国の奴らなんだから。金なんて取れるわけがない。本当に相手は知らないんだから言いがかりもいいところだ)
モモンガは本当は法国の仕業だと言うつもりはなかった。陽光聖典を見ればわかると思うし、こんな大掛かりな作戦を執っている以上、失敗など許されない。それにこの世界ではかなりのエリート集団のようだから、目の前の連中にどうこうできるとも思えなかった。
装備も貧弱、レベルは10台ばかり。魔法軽減のマジックアイテムを装備しているようにも見えない。
第三位階の天使となればそこそこのレベルはある。MPさえ尽きなければそれなりに戦える存在でもある。
『モモンガ様。法衣のような物を来た人間たちが村の周辺に来ました。天使も召喚しております』
『そのまま監視していろ。お前たちから見て脅威になりそうな相手はいるか?』
『いえ。取るに足らない存在のみです』
『わかった。村の防衛と村人の保護、グリーンシークレットハウスの安全を最優先。今来た王国戦士長たちはどうなってもいい』
『畏まりました』
門番の智天使からの連絡に指示を出して目の前にいる人間たちの対処に戻る。とはいえ、王国には期待できないとわかったのでもう十分だが。
「そういえば王国戦士長殿。村の復興のために王国から人員が派遣されたりするのでしょうか?あと、今後こういうことが起きた際に対処するような、村に在中するような戦力も」
「……すまない。それも無理だろう。ここに来るまでいくつかの襲われた村を回ってきたが、そこで生き残った人々をエ・ランテルまで連れ出したのも我々だ。村などの護衛のような者も基本的には統治している人間に任されているため、王国から派遣されるようなことはないだろう。そもそも王国は徴兵制。国自体が独自に持つ戦力は限りなく少ない」
「そうですか。それは失礼しました。浅学な身のもので」
これ以上王国戦士長と話すこともない。王国戦士長が陽光聖典に負けても勝っても、どちらでも良かった。この村を守るにはその勝負の結果はどうでも良かった。
「パンドラ。先ほど村長殿から聞いた話でどれほど改善できるか検討するぞ。その場しのぎではなく、永続化させることが目標だ」
「はっ。それでは、失礼します」
パンドラと共にその場を去る。そのまま先程尋問に使った家の前まで来て一つ溜め息をつく。ガゼフたちからはそれなりに距離が離れているのでここなら話を聞かれることもない。
「あの者、村長殿への侘びの前にモモンガ様への感謝が先でしたね。上に立つ者として、下の者を顧みない態度はいかがなものかと」
「全くだ。被害者を労うのが最初だろうに。それに王国に何か期待するのはやめた方が良いな。俺がそれなりの魔法とマジックアイテムを使えば、農作物や防備ならどうとでもなるよな?」
「この世界基準の物に限定すれば、すぐにでも」
「よし。じゃあ陽光聖典とやらを撃退したら取り掛かるぞ。とはいえ、一度問題点を洗い出して、そこから宝物殿を確認してからだな。まずは陽光聖典だ」
外のシモベに確認をするが、陽光聖典は村を包囲するように陣形を整えているようで向こうから攻めてくるつもりはないらしい。ガゼフを逃がさないことを優先しているようだ。
「あの者はどうしますか?正直にぃ申し上げますと、王国が信用ならないとわかった以上、助ける意味は薄いかと」
「だが、法国の思い通りというのも癪だな。……死にかけたら助けるか。負けたということは次はカルネ村だ。カルネ村だけは死守する。それと無欲と強欲は装備しているな?」
「はい。門番の智天使の永続化に溜まっていた経験値をほとんど消費しましたので。これからも経験値を貯めたいと思います」
「よし」
そう確認していると、村長が慌てたようにこちらにやって来た。ようやく陽光聖典の存在に気付いたらしい。
「モモン様、パンドラ殿。法国の特殊部隊が天使で応戦準備をしているようです」
「わかりました。ご安心を。この村の警護は私のシモベに今も続けさせていますから」
「それと、王国戦士長殿が話し合いたいと」
「協力要請でしょうね。向かいましょう」