森田成也訳「5 永続革命(『スターリンの偽造学派』より)の検討

中島章利

 

 論述の都合上、森田訳を細かく分け、それぞれに番号を付した。

 

1

 

5 永続革命(『スターリンの偽造学派』より)

 

永続革命論に関しては、いずれ特別に論じる≪つもりである≫。ここでは、二つの資料に言及するにとどめておこう。

 

*原注 その後、筆者によって『永続革命論』が出版された。それゆえ、本書ではこの理論の性格については≪割愛する≫。

 

Перманентная революция

   68. О теории перманентной революции придется когда либо сказать особо. <8> Здесь ограничусь двумя справками.

 

8 С того времени автором выпущена книга "Перманентная революция"; характеристика теории здесь поэтому опускается.

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

革命≪略≫論に関してはいずれ≪略≫特別に論じるつもりであるここでは二つの資料に言及するにとどめておこう。

 

*原注 その後筆者によって『永革命が出版された/それゆえ/本書では/この理論の性格については/割愛する

 

【森田訳の問題点】

ア 論じる≪つもりである≫ 原文≪придется~ことを余儀なくされるだろう≫ 現代思潮社版と同一。ロシア語版から訳せば絶対に森田訳のようにはならない。

イ 割愛する 原文опускается省略されている 不完了体現在。опускатьの被動。

 

2

 

ブハーリンの永続革命論

 

1918年初め、ブハーリンは、十月革命について論じたパンフレットの中で次のように書い≪ている≫。

 

≪帝政≫の倒壊は、≪それに≫先立つ革命の全歴史によって準備されたものである。

しかし、この倒壊と、貧農によって支持されたプロレタリアートの勝利―たちまち全世界に無限の地平を切り開いた勝利―は、まだ有機的時代を開始するものではない。()ロシア・プロレタリアートの前にはかつてないほど先鋭な形で、国際革命の問題が≪提起されている≫。()ヨーロッパで形成された諸関係の総体はこの不可避的結末≪へと行き着くだろう≫。かくして、ロシアにおける永続革命は≪ヨーロッパにおける≫プロレタリア革命へと移行しつつあるのである。(ブハーリン『ツァーリズムの崩壊からブルジョアジーの没落まで』、78頁。強調は引用者)

 

 В начале 1918 года в брошюре, посвященной Октябрьской революции, Бухарин писал: "Падение империалистского режима было подготовлено всей предыдущей историей революции. Но это падение и победа пролетариата, поддержанного деревенской беднотой, победа, раскрывшая сразу необъятные горизонты во всем мире, не есть еще начало органической эпохи... Перед российским пролетариатом становится так резко, как никогда, проблема международной революции... Вся совокупность отношений, сложившихся в Европе, ведет к этому неизбежному концу. Так, перманентная революция в России переходит в европейскую революцию пролетариата". (Бухарин, "От крушения царизма до падения буржуазии", стр. 78. Подчеркнуто нами).

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

1918≪略≫初め/ブハーリンは/十月革命について論じたパンフレットの中で/次のように書いいる。

 

帝政の倒壊は、それに/先立つ/革命の///によって準備されたものである。

しかしこの倒壊と、貧農によって支持されたプロレタリアートの勝利―たちまち全世界に無限の地平切り開いた勝利まだ有機的時代を開始するものではない()ロシア≪略≫・プロレタリアートの前には/かつてないほど先鋭な形で、/国際革命の問題/提起されている。()ヨーロッパで形成された諸関係の総はこの不可避的結へと行き着くだろう。かくしてロシアにおける永革命はヨーロッパにおけるプロレタリア革命へと移行しつつあるのである。(ブハーリン『ツァーリズムの崩壊からブルジョアジーの没落まで78。強調は引用者)

 

【森田訳の問題点】

ア 書い≪ている≫ 原文≪писал書いていた、書いていたものだった≫ 不完了体過去。時制の無視。現代思潮社版よりも後退。

イ ≪帝政≫ 原文≪империалистского режима帝国主義体制 まるで意味が違う。ツァーリスト体制」とした現代思潮社版の踏襲。これもロシア語版から訳したなら絶対に森田訳のようにならない。カンニングしたが相手の答えが違っていたのだ。原文を見ていない証拠である

ウ ≪それに≫ 原文に存在しない。

エ ≪提起されている≫ 原文≪становится(鋭く)なりつつある 森田訳はставитсяと取り違えている。

オ ≪へと行き着くだろう≫ 原文≪ведет к~に導くだろう、~をもたらすだろう≫ 現代思潮社版は≪導く≫

カ ≪ヨーロッパにおける≫ 原文≪европейскуюヨーロッパ的な≫ この前で≪в Россииロシアにおける≫とあるから≪ヨーロッパにおける≫であれば≪в Европе≫となるはずだ。森田氏は内容を理解せずに訳している。

ブハーリンはこう言っている。下線部の原文に注意。

「ロシアのプロレタリアートの面前で国際革命の問題が今までになく鋭くなりつつある…ヨーロッパでв Европе形成された諸関係の総体は、この不可避的な結末をもたらすだろう。こうしてロシアにおける永続革命はヨーロッパ的なевропейскуюプロレタリア革命へと移行しつつある。」(拙訳) 

ヨーロッパで形成されたヨーロッパ的諸関係はロシアでもヨーロッパ的革命をもたらすだろう、とブハーリンは言っているのだ。

現代思潮社版は≪ヨーロッパの革命≫としている。

 

3

 

 このパンフレットは次の言葉で≪締めくくられている≫。

 

 ≪血ぬられた古い≫ヨーロッパの火薬庫に、ロシア社会主義革命のたいまつが投げ込まれた。それは消えなかった。それは生きている。それは広がりつつある。そして、それは、不可避的に、世界プロレタリアートの偉大な勝利せる蜂起へと合流するだろう。(144)

  

  Брошюра заканчивалась словами: "В пороховой погреб старой окровавленной Европы брошен факел русской социалистической революции. Она не умерла. Она живет. Она ширится. И она сольется неизбежно с великим победоносным восстанием мирового пролетариата". (стр. 144).

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

このパンフレットは次の言葉で締めくくられている

 

 血ぬられた古いヨーロッパの火薬庫にロシア社会主義のたいまつが投げ込まれたそれは消えなかったそれは生きているそれは広がりつつあるそして、それは、不可避的に、世界プロレタリアートの偉大な勝利せる蜂起と合流するだろう(144)

 

【森田訳の問題点】

ア ≪締めくくられている≫ 原文≪заканчивалась終わっていた≫ 過去形。時制の無視。

イ ≪血ぬられた古い≫ 原文≪старой окровавленной古い血塗られた≫ 語順が反対。

 

4

 

 このときのブハーリンはいかに一国社会主義論から遠く隔たっていたことか!

 ≪誰もが知っているように、ブハーリンは、「トロツキズム」に反対する全カンパニアの主要な―本質的には唯一の―理論家であった。そしてこのカンパニアは、永続革命論に対する闘争に集約される≫。しかし、それ以前の、革命的変革の溶岩がまだ≪冷めていなかった≫時には、ブハーリンは、≪見られるように≫、ロシア革命を特徴づけるにあたって、彼が数年後には容赦なく攻撃≪することになる≫規定以外の≪いかなる規定も≫見出さなかった。

 

Как далек был Бухарин тогда от теории социализма в отдельной стране!

   Всем известно, что Бухарин был главным и, в сущности, единственным теоретиком всей кампании против "троцкизма", резюмировавшейся в борьбе против теории перманентной революции. Но раньше, когда лава революционного переворота еще не успела остыть, Бухарин как видим, не нашел для характеристики революции иного определения, кроме того, против которого он через несколько лет должен был беспощадно бороться.

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

このときのブハーリンはいかに一国社会主義≪略≫論から遠く隔たっていたことか!

 /誰もが知っているように、/ブハーリンは、「トロツキズム」反対する全カンパニアの主要な―本質的には唯一の―理論家であった/。そしてこのカンパニアは、永続革命≪略≫論に対する/闘争に集約される/しかし/それ以前の、/革命的変革の溶岩がまだめていなかった/にはブハーリンは/見られるように/ロシア革命を特徴づけるにあたって、/彼が/数年後には/容赦なく攻撃することになる規定以外のいかなる規定も見出さなかった。

 

【森田訳の問題点】

ア ≪誰もが知っているように、ブハーリンは、「トロツキズム」に反対する全カンパニアの主要な―本質的には唯一の―理論家であった。そしてこのカンパニアは、永続革命論に対する闘争に集約される

 関係代名詞節に代表される、原文の立体的構造が切り刻まれている。関係代名詞を寸断せずとも充分に訳せるし、その方が文に締まりがある。また≪誰もが知っているように≫ではなく≪Всем известно, что ~はみんなが知っている、~は誰もが知っている≫。森田氏はкак известноと混同している。

試訳を挙げる。

 

 ブハーリンが、永続革命論に反対する闘争に要約される、あらゆる反「トロツキズム」キャンペーンの主たるそして、本質的には、唯一の理論家であったことは、誰もが知っている。(拙訳)

 

イ ≪冷めていなかった≫ 原文≪не успела остыть,冷める()がなかった

ウ ≪見られるように≫ 原文≪как видим見るように、見ているように

エ 攻撃≪することになる≫ 原文≪должен был~するはずだった≫ 過去形。時制の無視。

オ ≪いかなる≫ 原文≪иного別の、他の≫ 森田訳は原文とも現代思潮社版とも異なる勝手な作文。現代思潮社版は≪異なった≫で、当たらずといえども遠からず。

 

5

 

ブハーリンのパンレットは党中央委員会の出版社「プリボイ()」から≪出された≫。当時は誰もこのパンフレットが異端だと≪非難しなかった≫だけでなく、その反対に、誰もがそれを、党中央委員会の≪まごうことなき公式見解が示されている≫ものと≪みなした≫。こうして同パンフレットはその後数年間に多くの版を重ねた。さらに、二月革命について論じた他のパンフレットとともに、『ツァーリズムの崩壊からブルジョアジーの没落まで』という共通の題名のもと、ドイツ語、フランス語、英語、その他の諸言語で≪再刊された≫。

 

Брошюра Бухарина вышла в издательстве Центрального комитета партии "Прибой". Не только никто не объявлял эту брошюру еретической, наоборот, все видели в ней официальное и бесспорное выражение взглядов Центрального комитета партии. В таком виде брошюра переиздавалась много раз в течение ближайших лет, и вместе с другой брошюрой, посвященной Февральской революции, под общим названием "От крушения царизма до падения буржуазии", была переведена на немецкий, французский, английский и др. языки.

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

ブハーリンのパンレットは≪欠落≫中央委員会の出版社「プリボイ()から出された。当時はもこのパンフレット異端非難しなかっただけでなく、その反対に誰もがそれを党中央委員会の/まごうことなき/公式/見解/が示されているものと/みなした。こうして同パンフレットその後数年間多くの版を重ねた。さらに、二月革命について論じた他のパンフレットとともに『ツァーリズムの崩壊からブルジョアジーの没落まで』という共通の題名のもと≪略≫、ドイツ語、フランス語、英語、その他の言語で≪欠落≫再刊された

 

【森田訳の問題点】

ア ≪出された≫ 原文≪вышла出た≫ 原文は能動態。意味に大きなずれはないが特に受動態にする必要性はない。現代思潮社版≪出版された≫

イ ≪非難しなかった≫ 原文≪не объявлял宣告したりしなかった≫不完了体過去。反復された事実を述べる。

ウ ≪みなした≫ 原文≪видели思っていた、考えていた

エ ≪まごうことなき公式見解が示されている≫ 原文≪официальное и бесспорное выражение взглядов(党中央委員会の)見解の、公的で争う余地なき表現≫ 森田訳では≪公式見解≫という名詞句に≪まごうことなき≫という形容詞がかかっている。原文では≪официальное бесспорное≫という2つの形容詞が≪выражение表現≫の語にかかる。

オ ≪再刊された≫ 原文≪была переведена翻訳された≫ どうしてこれが≪再刊された≫となるのか? 不思議だ。現代思潮社版も≪翻訳発行された≫である。

 

6

 

1923年、同パンフレットは―おそらくそれが最後だと思うが―ハリコフの党出版社「プロレタリー」から出版された。≪その序文の中では、次のような確信が表明されている≫。同書は、新しい党員や青年等にとってだけでなく、「わが党の地下活動時代における古参ボリシェヴィキ≪部隊≪にとっても」、「巨大な関心を引き起こす」ものであろう、と≫。

     

 В 1923 году брошюра была - по-видимому в последний раз - издана харьковским партийным издательством "Пролетарий", которое в предисловии выражало свою уверенность в том, что книжка "представит огромный интерес" не только для новых членов партии, молодежи и пр., но и "для старой большевистской гвардии подпольного периода нашей партии".

拙訳を挙げる。 

1923年にパンフレットが―おそらく最後の―ハーリコフの党出版社「プロレタリー」によって出版された。「プロレタリー」出版社は序文で、冊子が「党の新しいメンバーたちや青年等にとってだけでなく、「わが党の地下活動時代の古参ボリシェヴィキ闘士たちにとっても」「きわめて興味深いものであろう」という確信を表明していた。

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

1923、同パンフレット/―おそらくそれ最後だと思うが―/ハリコフの党出版社「プロレタリー」から/出版された。そのの中で/次のような確信が表明されている。/同書は、≪欠落≫新しい党員青年にとってだけでなく「わが党地下活動時代における/古参/ボリシェヴィキ/部隊にとっても」、「巨大な関心を引き起こす」ものであろう、と

 

【森田訳の問題点】

ア ≪その序文の中では、次のような確信が表明されている≫

この訳文では、確信表明の主体が誰なのか曖昧である。曖昧化の原因は能動態である原文を受動態で訳し、関係代名詞котороеの先行詞издательствомの存在が訳文から消失していることである。この点、現代思潮社版も曖昧。

イ ≪部隊≫ 原文≪гвардии≫ ここは部隊ではなく、≪精鋭分子、ベテラン、闘士≫の意だと思う。現代思潮社版も≪闘士≫

 

7

 

ブハーリンが≪自己の見解をあまり確固として保持する人物ではない≫ことは、十分知られている。しかし、≪ここでの≫問題はブハーリンではない。もし、レーニンの革命論とトロツキーの永続革命論とのあいだには越えることのできない深淵が≪ある≫とか、党の古い世代がこの二つの理論の非和解性という認識にもとづいて≪教育されていた≫という≪伝説≫、≪すなわち1924年秋にはじめて作られた伝説を信じるとすれば≫、いかにしてブハーリンは、1918年初頭に、この理論を名指しで、すなわち永続革命論と呼びながら、まったく罰せられることなくそれを唱道することができたのだろうか? どうして誰も、≪文字通り≫全党の誰一人として、≪欠落≫ブハーリンに反対しなかったのか? ≪いかにしてなぜ、このパンフレットが、中央委員会の公式出版社から出されたのか? いかにしてなぜ、レーニンは≪沈黙したのか?≫いかにしてなぜ、コミンテルンは永続革命を擁護するこのブハーリンのパンフレットを多くの外国語で≪出版した≫のか? いかにしてなぜ、ブハーリンのパンフレットはレーニンの死のほとんど直前まで党の≪教科書としての地位を維持していた≫のか? いかにしてなぜ、将来にスターリン的狂信の中心地となるハリコフで、ブハーリンのパンフレットが1923年時点でもまだ再刊され、さらには≪党の青年層に対してだけでなく、古参ボリシェヴィキ部隊に対しても熱烈に推薦される≫などということが起きたのか?

 

     Что Бухарин в своих воззрениях не очень стоек, достаточно известно. Но дело идет не о Бухарине.

   Если поверить легенде, созданной впервые осенью 1924 года, что между ленинским пониманием революции и теорией перманентной революции Троцкого была непроходимая пропасть, и что старое поколение партии воспиталось на понимании непримиримости этих двух теорий, то каким образом Бухарин мог в начале 1918 года совершенно безнаказанно проповедовать эту теорию, называя ее по имени: теорией перманентной революции? Почему никто, решительно никто во всей партии не выступил против Бухарина? Как и почему выпускало эту брошюру официальное издательство Центрального комитета? Как и почему молчал Ленин? Как и почему Коминтерн издавал брошюру Бухарина в защиту перманентной революции на многочисленных иностранных языках? Как и почему брошюра Бухарина продержалась на положении партийного учебника почти до смерти Ленина? Как и почему в Харькове, в будущем центре сталинского изуверства, брошюра Бухарина переиздавалась еще в 1923 году и пламенно рекомендовалась, как партийной молодежи, так и старой большевистской гвардии?

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

ブハーリンが自己の見解あまり確固として保持する人物ではないことは十分≪略≫知られているしかし、ここでの/問題/ブハーリン/ではないもしレーニンの革命≪略≫論とトロツキーの永革命≪略≫論とのあいだには越えることのできない深淵があるとか党の古い世代この二つの理論和解という認識にもとづいて教育されていたという/伝説、/すなわち1924≪略≫秋にはじめて作られた伝説/を信じるとすれば、いかにしてブハーリンは、1918≪略≫初頭にこの理論を名指しで、すなわち革命≪略≫呼びながら、まったく罰せられることなくそれを唱道することができたのだろうか? /どうして/誰も/文字通り/全党≪略≫/誰一人として/ブハーリンに反対しなかった/のか? /いかにしてなぜこのパンフレットが/中央委員会の公式出版/から出されたのか? いかにしてなぜレーニンは≪欠落≫沈黙したのか? いかにしてなぜコミンテルンは永革命擁護するこのブハーリンのパンフレット多くの外国語で出版したのか? いかにしてなぜブハーリンのパンフレットはレーニンの死のほとんど直前まで党の教科書としての地位を維持していたのか? いかにしてなぜ/将来に/スターリン的狂信の/中心地となる/ハリコフ//ブハーリンのパンフレットが1923時点でもまだ再刊され/さらには//青年/層に対してだけでなく、/古参/ボリシェヴィキ/部隊/対して熱烈に推薦されるなどということが起きたのか?

 

【森田訳の問題点】

ア ≪自己の見解をあまり確固として保持する人物ではない 

原文≪в своих воззрениях не очень стоек自分の見地があまりしっかりしていない 保持する人物などの文言は原文に存在しない。воззрениеは見地、観点、考え方。ウシャコーフ、オージェゴフなどの露露辞典参照。

イ ≪ここでの≫ 原文に存在しない。

ウ ≪ある≫  原文≪былаあった、存在した≫ 過去形。時制の無視。

エ ≪教育されていた≫ 原文≪воспиталось教育された≫ 完了体。

オ ≪伝説≫ 原文≪легенде作り話、デマ、虚構≫ 現代思潮社版も≪伝説≫

カ ≪すなわち1924年秋にはじめて作られた伝説を信じるとすれば≫ この位置でよいのか?

キ ≪名指しで≫ 原文≪называя ее по имени:その名前を挙げて呼びながら≫ 日本語で≪名指しで呼ぶ≫は非難する、の意になるから適切でない。

ク ≪文字通り≫ 現代思潮社版に存在するが原文には存在せず。不思議な現象だ。何を底本にしているのか?

ケ ≪欠落≫ ≪решительноきっぱりと≫が欠落している。

コ ≪いかにしてなぜこのパンフレットが、中央委員会の公式出版社から出されたのか?≫ 原文≪Как и почему выпускало эту брошюру официальное издательство Центрального комитета?≫ 意味に間違いはないが、ここは原文に忠実に能動態で訳した方がよい。責任の所在を明確にしている文だからである。現代思潮社版も能動態で訳している。

 拙訳 どのようにして、何故にこのパンフレットを中央委員会の公認出版社が発行したのか?

サ ≪沈黙した≫のか 原文≪молчал黙っていた≫のか 不完了体。

シ ≪この≫ 原文に存在しない。

ス ≪出版した≫ 原文≪издавал出版していた≫ 不完了体。反復されていた事実を述べている。

セ ≪教科書としての地位を維持していた≫ 

原文продержалась на положении партийного учебника党の教科書の位置にあり続けた

ソ ≪党の青年層に対してだけでなく、古参ボリシェヴィキ部隊に対しても…推薦される≫

原文рекомендовалась, как партийной молодежи, так и старой большевистской гвардии党の青年たちにも、古参ボリシェヴィキの闘士たちにも推薦されていた

не только...,но(а)...ではない。

 

8

 

ブハーリンのパンフレットは、その後に彼が書いたものや≪最近の≫スターリン的史料編集全般と、革命の≪性格規定≫の点で異なっているだけでなく、革命の≪担い手≫の≪性格規定≫に関しても異なっている。たとえば、ハリコフ版の131頁では次のように述べられている。

 

政治生活の焦点と≪なった≫のは()≪惨めな共和国協議会≫ではなく、ロシア革命の来るべき大会[第二回全露ソヴィエト大会]≪であった≫。この動員活動の中心に立っていたのは、ペテルブルク・ソヴィエトであった。≪ペテルブルク・ソヴィエトは、その議長として、プロレタリア蜂起の最も輝かしい≪擁護者≫であったトロツキーを≪これ見よがしに≫選出した≫。

 

   Брошюра Бухарина отличается от дальнейших его писаний и от всей вообще новейшей сталинской историографии в характеристике не только революции, но и ее деятелей. Вот, например, что говорятся на странице 131 харьковского издания: "Фокусом политической жизни становится... не жалкий Совет Республики, а грядущий съезд российской революции. В центре этой мобилизационной работы стоял Петербургский совет, который демонстративно выбрал своим председателем Троцкого, самого блестящего трибуна пролетарского восстания"...

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

ブハーリンのパンフレット/その//書いたものや最近の/スターリン的史料編集全般と、/革命の性格規定の点で異なっているだけでなく革命の担い手の性格規定に関しても/異なっているたとえば、≪欠落≫ハリコフ版の131では次のように述べられている。

 

政治生活の焦点となったの()/惨めな/共和国/協議会ではなく≪略≫、ロシア革命の/来るべき/大会[第二回全露ソヴィエト大会]であった。この動員≪略≫活動の中心に/立っていた//ペテルブルク・ソヴィエト/であった。ペテルブルク・ソヴィエトは、/その議長としてプロレタリア蜂起の最も輝かしい擁護者であったトロツキーをこれ見よがしに選出した/

 

【森田訳の問題点】

ア ≪最近の≫ 原文≪новейшей最新の≫ 

イ ≪性格規定≫ 原文≪характеристике特徴づけ≫ 森田訳はいささか大仰ではないか?

ウ ≪担い手≫ 原文≪деятелей.働き手たち、活動家たち

エ ≪なった≫ 原文≪становитсяなってきている≫不完了体現在。時制の無視。

オ ≪惨めな共和国協議会≫ 原文≪жалкий Совет Республики共和国の惨めなソヴェト≫ この共和国はРеспубликаと大文字で書かれているから、臨時政府に代表されるロシアのことである。また大文字表記=固有名詞のСоветを≪協議会≫と訳すと小文字表記=普通名詞のсоветと混同される。

カ ≪であった≫ 原文は≪грядущий съезд российской революции≫で現在形。時制の無視。

キ ≪ペテルブルク・ソヴィエトは、その議長として、プロレタリア蜂起の最も輝かしい擁護者であったトロツキーをこれ見よがしに選出した≫

またしても関係代名詞構文の寸断。原文は≪Петербургский совет, который выбралТроцкого …にトロツキーを選出したペテルブルク・ソヴェトは…≫で、文意の中心点はペテルブルク・ソヴェトにある。森田訳ではこれが散漫になっている。

ク ≪擁護者≫ 原文≪трибуна司令官≫。≪擁護者≫の語彙もあるがここは文脈からいって≪司令官≫の方がよくはないか?

ケ ≪これ見よがしに≫ 原文≪демонстративно誇示するように、示威的に≫ 森田訳では≪見せびらかす、ひけらかす≫の意になり文脈に合わない。

 

9

 

さらに138頁には≪こう書かれている≫。

 

1025日、蜂起の輝ける勇敢な≪擁護者≫にして、倦むことなき炎のような革命の使者たるトロツキーは、ペテルブルク・ソヴィエトにおいて、集まった人々の万雷の拍手の≪中≫、「臨時政府はもはや存在しない」と軍事革命委員会の名において宣言した。そして、この事実の生きた証拠であるかのように、≪新しい革命によって地下生活から解放されたレーニンが、嵐のような拍手喝采を浴びながら登壇した≫。

  

 Дальше, на стр. 138 "25 октября Троцкий, блестящий и мужественный трибун восстания, неутомимый и пламенный проповедник революции, от имени Военно-Революционного комитета объявил в Петербургском совете под громовые аплодисменты собравшихся о том, что "Временное правительство больше не существует". И, как живое доказательство этого факта, на трибуне появляется встречаемый бурной овацией Ленин, освобожденный из подполья новой революцией".

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

≪略≫さらに138頁にはこう書かれている。

 

1025/蜂起の/輝ける勇敢な/擁護者にして、倦むことなきのような革命の使者たる/トロツキー/は、ペテルブルク・ソヴィエトにおいて、/集まった人々の万雷の拍手の中/「臨時政府はもはや存在しない」/軍事革命委員会の名において/宣言した/そして、この事実の生きた証拠であるかのように、/新しい革命によって地下生活から解放されたレーニンが/嵐のような拍手喝采を浴びながら/登壇した

 

【森田訳の問題点】

ア ≪こう書かれている≫ 原文に存在しない。原文では≪:≫だけである。

イ ≪擁護者≫ 同前

ウ ≪中≫ 原文≪под~の下

エ ≪新しい革命によって地下生活から解放されたレーニンが、嵐のような拍手喝采を浴びながら登壇した

原文≪на трибуне появляется встречаемый бурной овацией Ленин, освобожденный из подполья новой революцией.

原文は2つの部分からなる。前段は≪на трибуне появляется встречаемый бурной овацией Ленин嵐のような歓呼に迎えられているレーニンが登壇しようとしている≫  появляется不完了体現在。森田訳は時制を無視している。現代思潮社版も過去形になっている。

встречаемый≫は被動形動詞現在で≪迎えられている(ところの)≫。

後段はレーニンにかかる。問題なし。

 

10

 

192324年に、≪欠落1≫トロツキズムに反対する討論なるものの洪水があふれた。それは、十月革命によって構築されたものの多くを破壊し、新聞、図書館、閲覧室を水浸しにし、党と革命の≪発展史≫における最も偉大な時代に関係する無数の文書を泥と瓦礫の下に≪欠落2≫葬り去った。≪そのため≫、今ではこれらの文書を≪少しずつ掘り出して、元の姿に再現することを余儀なくされているのである≫。

 

   В 1923-24 году развернулось наводнение так называемой дискуссии против троцкизма. Оно разрушило многое из того, что возведено было Октябрьской революцией, затопило газеты, библиотеки, читальни, и под илом и мусором своим похоронило бесчисленное количество документов, относящихся к величайшей эпохе в развитии партии и революции. Теперь эти документы приходится извлекать по частям, чтоб восстановить то, что было.

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

192324年に、≪欠落≫トロツキズム反対する討論なるものの洪水があふれた。それは、十月革命によって構築された/もの//多く/を破壊し≪略≫、新聞図書館閲覧室を水浸しにし、/党と革命の発展史における最も偉大な時代に関係する無数の文書を/泥と瓦礫の下に/葬り去った。そのため、では≪欠落≫/これらの文書を少しずつ掘り出て、/元の姿に再現する/ことを余儀なくされているのである。

 

【森田訳の問題点】

ア ≪欠落1≫ ≪так называемойいわゆる≫が欠落している。現代思潮社にはちゃんとある。

イ ≪発展史≫ 原文≪развитии発展≫ ≪史≫は存在しない。現代思潮社版は正訳。

ウ ≪欠落2≫ ≪своим自分で、自ら≫が欠落している。

エ ≪そのため≫ 原文に存在しない。

オ 少しずつ掘り出して、元の姿に再現することを余儀なくされているのである 原文приходится извлекать по частям, чтоб восстановить то, что было

 原文はчтоб節以下のことをするように、извлекатьすることをприходится≪余儀なくされている≫という構造。

森田訳ではприходитсявосстановитьにかかるように訳されており正しくない。

≪掘り出して≫は現代思潮社版の踏襲。現代思潮社版は≪埋めた。…掘り出すことを余儀なくされている≫となっている。こちらの方がまだしも原文に近い。 

 

拙訳 あったところのことを復元するために、少しずつ引き出すことを余儀なくされている。

 

11

 

レーニン時代のコミンテルンと永続革命

 

1921年に、トロツキーの多くの旧著のひとつである。≪欠落1≫≪『総括と展望』≫が英語で出版された。≪この著作は≫、永続革命論を最も完全な形で叙述したものであった≫。

≪この≫英語版には、「1921312日、クレムリン」と≪記された≫著者による序文が付されている。≪この序文は、1919年に同書のロシア語版が出版されたときに書かれたものである≫。≪同書は、≫≪この≫ロシア語版の出版≪から≫1921年の英語版の出版≪まで≫のあいだに、さまざまな言語で多くの版が≪出された≫。1919年の序文の中で、著者は、この問題をめぐってかつてボリシェヴィズムから筆者を≪分け≫隔てていた意見の相違≪がいかなるものであったか≫について語っている。≪とりわけ≫、序文は次のように述べている。

 

≪それゆえ≫、≪プロレタリアートは、いったん権力を握ったならば≫、ブルジョア民主主義革命に自己を限定することはできない。プロレタリアートは、永続革命の戦術を受け入れることを余儀なく≪されるだろう≫。すなわち、社会民主党の最大限綱領と最小限綱領との仕切りを破壊し、ますます≪急進化していく≫社会改革を実行し、ヨーロッパ革命に≪欠落2≫直接の支持を求め≪欠落3≫ることを≪余儀なくされるだろう≫。≪以上のような≫立場が、もともと190406年に書かれた≪本書≫において≪展開されているものである≫≪欠落3≫。

  

 69. В 1921 году вышло на английском языке одно из многих изданий старой работы Троцкого "Итоги и перспективы революции", заключающей в себе наиболее полное изложение теории перманентной революции.

   Английское издание снабжено предисловием автора, помеченным "12 марта 1919. Кремль", и написанным для русского издания брошюры, вышедшего в 1919 году. Между этим русским изданием и английским изданием 1921 г. вышло немало изданий на разных языках. В Предисловии 1919 г. автор говорит о тех разногласиях, какие отделяли его в этом вопросе раньше от большевизма. Предисловие гласит между прочим: "Таким образом завоевав власть, пролетариат не может ограничить себя буржуазной демократией. Он вынужден принять тактику перманентной революции, т. е. разрушить барьер между минимальной и максимальной программой социал-демократии, вводить все более и более радикальные социальные реформы и стремиться к прямой и непосредственной поддержке европейской революции. Эта позиция развернута в настоящей брошюре, первоначально написанной в 1904-1906 г. г." и т. д.

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

1921年にトロツキーの/多くの≪欠落≫/旧著の/ひとつである。/≪欠落≫総括と展望』≪欠落≫/が英語で出版された。この著作は、革命≪略≫最も完全な形で叙述したものであった。

この英語版には、「/1921312/クレムリン/と記された/著者による序文が付されている/この序文は、/1919年に/同書のロシア語版/出版された/ときに書かれたものである/。同書は、このロシア語版の出版から1921年の英語版の出版までのあいだ≪欠落≫さまざまな言語で多くの版が出された1919年の序文の中で著者は、この/問題をめぐって/かつて/ボリシェヴィズムから/筆者/分け隔てていた/意見の相違がいかなるものであったかついて語っている。とりわけ、序文は≪欠落≫次のように述べている

 

それゆえ、/プロレタリアートは/いったん権力を握ったならば/ブルジョア民主主義革命自己を限定することはできないプロレタリアートは革命の戦術を受け入れることを余儀なくされるだろう。すなわち、社会民主党の/最大限綱領と/最小限綱領と/≪欠落≫仕切りを破壊しますます急進化していく社会改革を実行しヨーロッパ革命直接の≪欠落≫支持を求めることを余儀なくされるだろう。以上のような立場もともと190406年に書かれた本において展開されているものである。

 

【森田訳の問題点】

ア ≪欠落1≫≪『総括と展望』≫ 原文≪"Итоги и перспективы революции"『革命の総括と展望』 ≪革命≫の語が欠落。現代思潮社版にはちゃんとある。

イ ≪この著作は≫ 原文に存在しない。形動詞構文である原文を不必要に寸断したことによって強制された無用の文言。

 この部分を訳せばこうなる。

  永続革命論の最も完全な叙述をそのうちに含んでいる『革命の総括と展望』が…(拙訳)

ウ ≪この≫ 原文に存在しない。

エ ≪記された≫ 原文≪помеченным日付けの入った

オ ≪この序文は…である≫ ≪この序文≫の語は原文に存在しない。

カ ≪同書は≫ 原文に存在しない。オ、カは原文の形動詞構文を破壊することによって生じている。原文に忠実に訳してみる。赤色部分が原文の形動詞

 英語版には、「1919312日、クレムリン」と日付けの入った、そして1919年刊行のパンフレットロシア語版のために書かれた、著者の序文が添えられている。(拙訳)

キ ≪この≫ 原文に存在しない。

ク ≪…から≫~≪…まで≫ 原文≪Между этим русским изданием и английским изданием 1921 г.このロシア語版1921年の英語版の間に≫。現代思潮社版は正しく訳している。

ケ ≪出された≫ 原文≪вышло出た≫ 原文は能動態。

コ ≪分け≫隔てて 原文≪отделяли切り離していた、隔てていた≫ 誤訳というほどではないが、≪分け隔て≫とすると日本語の語感として≪差別待遇≫を連想させられる。

サ ≪がいかなるものであったか≫ 原文≪тех , какие

 森田氏はкакиеだけに目を奪われこれを疑問詞と解して訳しているが、そうではない。техを先行詞とする関係代名詞какие 構文。≪…を隔てていた相違≫

シ ≪とりわけ≫ 原文に存在しない。

 原文は≪Предисловие гласит между прочимちなみに内容はこうである

ス ≪それゆえ≫ 原文に存在しない。

セ ≪プロレタリアートは、いったん権力を握ったならば≫ 

原文≪Таким образом завоевав властьこうして権力を獲得したので

森田訳のような条件文ではなく完了体副動詞構文。序文の日付けが1919だから≪握ったならば≫という条件文ではなく≪獲得したので≫という完了体副動詞になるのだ。

ソ ≪余儀なくされるだろう≫ 原文≪вынужден強いられている、必要に迫られている≫ 未来形ではなく現在形。また、既出の≪приходится余儀なくされている≫とは語が異なるから訳し分けるべきである。

タ ≪急進化していく≫ 原文≪радикальные急進的な、抜本的な≫ ≪~化していく≫ではない。

チ ≪欠落2≫直接の 原文≪прямой и непосредственной公然たるそして直接的な≫ 現代思潮社版は≪直接かつ率直に≫

ツ ≪欠落3≫ 原文≪стремиться к ~するよう努力すること≫が欠落している。現代思潮社版は≪…努力せねばならない≫としており、ほぼ正訳。

テ ≪余儀なくされるだろう≫ 同前。

ト ≪以上のような≫ 原文に存在しない。原文は≪Эта позицияこの立場

ナ ≪本書≫ 原文≪настоящей брошюре当パンフレット≫ 現代思潮社版は≪この小冊子を≫としており正訳。

ニ ≪ものである≫ 原文≪развернута展開されている≫短語尾であるから述語である。

ヌ ≪欠落3≫ ≪и т. д.≫が欠落している。 

 

12

 

「最大限綱領と最小限綱領との仕切りを破壊する」こと、これこそブルジョア民主主義革命の社会主義革命への成長転化の定式である。このような成長転化の前提条件はプロレタリアートによる権力獲得であり、≪権力を獲得したプロレタリアートは、≫≪それが≫置かれた状況の論理によって、「ますます急進化していく社会改革を実行する」ことを余儀なくされるのである。

 

  "Разрушить барьер между минимальной и максимальной программой" это и есть формула перерастания буржуазно-демократической революции в социалистическую. Предпосылкой такого перерастания является завоевание власти пролетариатом, который, логикой своего положения, вынужден "вводить все более и более радикальные социальные реформы"...

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

/最大限綱領と/最小限綱領と/≪欠落≪仕切りを破壊する」こと、これこそブルジョア民主主義革命の社会主義革命への成長転化の定式である。このような成長転化の前提条件はプロレタリアートによる権力≪略≫獲得であり、権力を獲得したプロレタリアートはそれが置かれた状況の論理によって、「ますます急進化していく社会改革を実行することを余儀なくされるのである。

 

【森田訳の問題点】

≪権力を獲得したプロレタリアートは、≫ 原文которыйによる関係代名詞構文なのだが、またしても文が寸断されているため、前提条件としての権力獲得とプロレタリアートの任務との関係が曖昧になっている。≪それが≫は≪своего自らの≫と訳さないと何のことか分かりにくい。試訳を挙げる。

このような成長転化の前提条件は、自らの立場の論理によって、「ますます急進的な社会改革を実行すること」…を強いられたプロレタリアートによる権力の獲得である。(拙訳)

現代思潮社版は≪プロレタリアートはその立場の要請する論理によって≫としており、森田訳よりずっと上質。

 

13

 

≪ところで≫このパンフレットを出版したのは≪どこか≫? 出版≪社≫はその犯罪的名前を隠す必要があるとはまったくみなさなかった。≪表紙≫には次のように印刷されている。「Published by the Communist International, Moscow, 1921」、すなわち「共産主義インターナショナル発行、モスクワ、1921年」と。パンフレットの最後の頁には、「コミンテルン印刷所」と≪欠落≫記されている。コミンテルンの議長はジノヴィエフだった。コミンテルンの日常活動≪を仕切っていたのは≫ブハーリンだった。この出版が≪両者の知らないあいだに行われたということはありえないし≫、≪この種の≫出版がこれだけではなかったのだからなおさらである。ロシア語での出版が、党の中央委員会≪の目をかいくぐることなどありえないし―それがまさに中央委員会によって出版されたのだからなおさらだ―、とりわけレーニンの目をかいくぐることなどありえない≫。なぜなら、当時、十月革命の≪意味をどう解釈するかという問題≫は、≪すべての党員の≪欠落1≫前に、とくにその指導的カードルの≪欠落2≫前に≫きわめて先鋭な形で≪提起されていたからである≫。

 

   Кто же издал эту брошюру? Издатель совсем не считал нужным скрывать свое преступное имя. На заглавном листе напечатано "Published by the Communist International, Moscow, 1921" т. е. "Издано Коммунистическим Интернационалом. Москва, 1921 г". На последней странице брошюры отмечено по-русски: "Типография Коминтерна". Председателем Коминтерна был Зиновьев. Повседневным работником Коминтерна был Бухарин. Издание не могло пройти мимо них, тем более, что таких изданий было не одно. Издание на русском языке не могло пройти незамеченным ни для Центрального комитета партии, - тем более, что оно им же и было издано, - ни для Ленина, в частности: в тот период вопрос об истолковании смысла Октябрьской революции стоял очень остро перед сознанием каждого члена партии, особенно же ее руководящих кадров.

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

ところでこのパンフレット/出版したのは/どこ/? 出版はその犯罪的名前を隠す≪略≫必要があるとはまったくみなさなかった紙には/次のように印刷されている。「Published by the Communist International, Moscow, 1921」、すなわち「共産主義インターナショナル≪略≪発行モスクワ、1921」と/パンフレットの最後の頁には「コミンテルン印刷所」と記されているコミンテルンの議長はジノヴィエフだった/コミンテルンの日常活動を仕切っていたのは/ブハーリン/だったこの版が両者の知らないあいだに行われたということはありえないし、この種の出版がこれだけではなかったのだからなおさらであるロシア語での出が、中央委員会の目をかいくぐることなどありえないし―それがまさに中央委員会によって出版されたのだからなおさらだ―、とりわけレーニンの目をかいくぐることなどありえない。なぜなら、当時、十月革命の意味をどう解釈するという問題はすべての党員の前に、とくにその指導的カードル前にきわめて先鋭な形で提起されていたからである

 

【森田訳の問題点】

ア ≪ところで≫ 原文に存在しない。

イ ≪どこか≫ 原文≪Кто же一体誰が≫ 語順からすれば≪いったい誰がこのパンレットを出版したか?≫となる。

ウ 出版≪社≫ 原文≪Издатель出版者≫ この語には≪出版社≫の意味もあるがКто жеとの対応関係を考えても、本来の語義出版者≫とすべき。現代思潮社も≪出版者≫としている。

エ ≪表紙≫ 原文≪заглавном листе表題の頁、タイトル頁≫ 森田訳≪表紙≫は本の一番外側のことだ。ここは表紙をめくって表題が印刷されている頁のこと。現代思潮社版は≪表題のページ≫で正訳。

オ ≪欠落≫ 原文≪по-русски:ロシア語で≫が欠落している。現代思潮社版にはちゃんとある。

カ ≪を仕切っていたのは≫ 原文≪работником働き手

キ ≪両者の知らないあいだに行われたということはありえないし≫

  原文не моглоありえなかった≫過去形。時制の無視。現代思潮社版は≪できなかった筈だ≫としている。訳語に問題はあるが時制に関しては正しい。

пройти мимоの原義は≪気づかない、触れない、避けて通る≫

пройти мимо них彼らに気づかれないこと、彼らをすり抜けること≫

ク ≪この種の≫ 原文≪такихこのような≫

ケ ≪の目をかいくぐることなどありえないし…ありえない≫ 

原文≪не могло пройти незамеченным ни для Центрального комитета партии, , - ни для Ленина, в частности:党中央委員会にとって気づかれぬものとしてすり抜けることもあり得なければ、特にレーニンにとって気づかれぬものとしてすり抜けることもありえなかった

 原文は森田訳のような現在形ではなく過去形である。またни,ни… …でもなければ…でもない、という構文。

コ ≪意味をどう解釈するかという問題 原文вопрос об истолковании解釈の問題≫森田訳は冗長。原文は引き締まった名詞句。

サ ≪すべての党員の欠落1前に、とくにその指導的カードルの欠落2前に 原文перед сознанием каждого члена партии,особенно же ее руководящих кадров.党の各メンバー意識に対して、とくにその指導的幹部たちの意識に対して

 ≪すべての≫ではなく≪каждого члена各メンバー≫。≪сознанием意識≫が欠落している。現代思潮社版は≪胸中に≫としている。当たらずといえども遠からず。欠落させている森田訳よりははるかによい。

シ 提起されていたからである≫ 原文≪стоял立っていた、控えていた≫

 

14

 

そこで再び≪問わなければならない≫。≪いったい全体≫、≪このような≫もっとも≪先鋭な大問題≫に関わって、≪党≫中央委員会のみならずコミンテルンもまた、永続革命論の擁護と解釈に全面的に≪捧げられた≫パンフレットを普及するなどということが≪どうして≫ありえたのか? ≪しかも≫、≪事態の歩みはこの理論の正しさを裏づけたと主張する筆者の新版序文を特別に付した形で≫。≪もしかしたら≫、1924年まで、ボリシェヴィキ党とコミンテルンの≪トップに≫は、盲人≪か≫無知蒙昧な輩、あるいはなお悪いことに、メンシェヴィキと反革命家≪ばかりが≫いたのか? ≪諸君、≫何百、何千とある同様の問題の一つであるこの問題に≪欠落≫答え≪てくれ≫たまえ。

 

   Приходится снова спросить: каким образом по самому большому и жгучему вопросу не только Центральный комитет, но и Коминтерн могли распространять брошюру, полностью посвященную защите и истолкованию теории перманентной революции, при чем в специально написанном к новому изданию предисловии автор утверждал, что ход событий подтвердил эту теорию? Неужели же до 1924 г. во главе большевистской партии и Коминтерна стояли сплошь слепцы, невежды, или еще хуже, меньшевики и контрреволюционеры? Пусть нам ответят на этот вопрос, - один из сотни, тысячи подобных же вопросов?

 

●現代思潮社版との同一度、類似度

 赤=同一、ピンク=類似、網掛け=語順入れ替えあり。入れ替えの様相は//で表示。≪略≫=意味にほとんど影響ない省略、≪欠落≫=欠落がある

 

そこで再び問わなければならない。いったい全体、このようなもっとも/先鋭な//問題に関わって、≪欠落≫党中央委員会のみならずコミンテルンもまた、革命の擁護と解釈に全面的に捧げられ/パンフレット/普及するなどということが/どうして/ありえたのか? /しかも、事態の歩みはこの理論の正しさ裏づけた/主張する/筆者/新版/序文を/特別に≪欠落≫/付した形で/。もしかしたら、1924年までボリシェヴィキ党とコミンテルンのトップには、盲人か無知蒙昧な輩あるいはなお悪いことにメンシェヴィキ反革命家ばかりがいたのか? 諸君、何百、何千とある同様の問題の一つであるこの問題に答えてくれたまえ

 

【森田訳の問題点】

ア ≪問わなければならない≫ 原文≪Приходится余儀なくされている≫。≪そこで≫は原文に存在しない。ここは現代思潮社版≪私はふたたび問わねばならない≫に酷似。

イ ≪いったい全体≫…≪どうして≫ 原文≪каким образомどのようにして

ウ ≪このような≫ 原文に存在しない。

エ ≪先鋭な大問題≫ 原文≪большому и жгучему вопросу重大で焦眉の問題

オ ≪党≫中央委員会 ≪党≫の語は原文に存在しない。現代思潮社版にも存在しない。

カ ≪捧げられた≫ 原文≪посвященную当てられた、費やされた

キ ≪しかも≫ 原文≪при чемパンフレットの普及に際して≫ чемраспространять брошюруを受ける。森田氏はпри чемпричёмと混同している。

ク ≪事態の歩みはこの理論の正しさを裏づけたと主張する筆者の新版序文を特別に付した形で≫

 原文≪в специально написанном к новому изданию предисловии автор утверждал, что ход событий подтвердил эту теорию新版に寄せて特別に書かれた序文で、著者は事態の歩みはこの理論を確証したと主張していた

 特別に≪付した≫ではない。≪написанном書かれた≫である。написанномнаписатьから派生する被動形動詞過去。

ケ ≪もしかしたら≫ 原文≪Неужели本当に…か? まさか? 疑惑、疑念、驚きを表わす語である。

コ 盲人≪か≫無知蒙昧な… 原文≪,≫ ≪か≫ではない。これは現代思潮社版も同じ。

サ ≪トップには…いた≫ 原文≪во главе стояли先頭に立っていた

シ ≪ばかりが≫ 原文≪сплошьまるごと、全部≫ 語順からして、ここは≪トップには…ばかりがいたのか≫とするのではなく≪…の先頭に立っていたのは、全部…か?≫と訳した方がよい。

ス ≪欠落≫  ≪намわれわれに≫が欠落している。

セ ≪諸君≫ 原文に存在しない。

ソ 答え≪てくれ≫たまえ 原文≪Пустьответят答えるがよい、答えたまえ

 

 

以上の検討から明らかになったことの要点をいま一度箇条書き的にまとめよう。

まず、先行訳としての現代思潮社版(1968年刊)の当該部分は英訳テキストが優れているからであろうが、幾つかの瑕疵はあるものの全体として良質の翻訳である。

これに照らしてみた森田訳は

1         現代思潮社版をかなりの程度踏襲している。誤訳も含めて2参照。

2         オリジナル部分ではかなり誤訳が生じている。

3         原文に存在しない語の挿入が非常に多い。

4         原文や現代思潮社には存在している語の欠落が多い。

5         時制の無視が甚だしい。

などである。もちろんこれ以外にも多々あるが省略する。

ロシア語テキストの入手の容易さなど1968年刊の現代思潮社版よりもはるかに恵まれた条件下にありながら、森田訳の翻訳テキストとしての出来の水準は現代思潮社版にはるかに劣る

森田氏によれば「後発性」はすぐれて先進性実現の条件となり得るはずであったが、氏においては「後進性」の実現形態となり終えた。すなわち森田氏言うところの「複合発展の法則」は森田氏において「歴史的後発性の特権」を発揮しなかったのである。これもまた歴史の皮肉というものであろう。