森田成也訳『永続革命論』の検討―エピローグ
中島章利
エピローグを検証する。≪ ≫は中島が付したものである。
●文庫P337、1行目
前章の締めくくりの≪部分≫で
●雑誌P193、上段1行目
前章の結論的部分で
●姫岡訳P256、1行目
前章の結論的部分において
原文 высказанное в заключительных строках предыдущей главы
森田訳で≪部分≫とあるのは、原文ではстроках文。≪部分≫と訳せる語ではない。姫岡訳からずっと引き継がれ、一度も訂正されたことがない。
「前章の結論的部分」という西島訳=姫岡訳部分が「締めくくりの」と修正された。
●文庫P337、1-2行目
数ヵ月≪後≫に裏づけられた。
●雑誌P193上段2行目 同一。
●姫岡訳P256、1-2行目
2、3カ月ののちに、事実として確認された。
原文 оправдалось в течение немногих месяцев 数ヶ月の間に的中した
в течениеは ~の間に、~の期間中に。 森田訳、西島訳のような「~後」ではない。森田訳、西島訳は姫岡訳の非本質的修正・継続。森田氏は姫岡訳を正しいものと見ていることになる。
●文庫P337、2-3行目
永続革命に対する批判は、ラデックにとって反対派から≪飛び離れる≫ための≪跳躍板≫として役立ったに≪すぎない≫。
全47文字中、赤32文字68.1%
●雑誌P193上段3-4行目 同一。
●姫岡訳P256、1-2行目
永続革命の批判は、ただラデックに反対派からの逃亡の跳躍板として役立ったにすぎないのだ。
原文
Критика перманентной революции послужила Радеку лишь рычагом для отталкивания от оппозиции.
永続革命論への批判はラーヂェクが反対派から遠ざかるための梃子代わりにのみなった。~梃子としてのみ役立った。
рычагомは梃子。「跳躍版」の意はない。「跳躍版」はбрусок для прыжкаであろう。またлишьは名詞рычагомにかかる。森田訳、姫岡訳ともに≪役立った≫にかかっている。不適格。
●文庫P337、5行目
しかし、変節にも≪さまざまな≫度合いがあるし、≪堕落にも≫≪さまざまな≫程度というものがある。
全38文字中、赤+ピンク36文字。94.7%
●雑誌P193上段7-8行目
しかし、変節にもさまざまな度合いがあるし、堕落にもさまざまな程度というのがある。
●姫岡訳P256、3-4行目
しかし、変節といっても、いろいろな等級、もろもろの水準の品質の低下があろうというものだ。
原文
Но и в отступничестве есть свои градации, свои степени унижения.
しかし、変節にもその度合い、その卑屈な態度の程度がある。
森田訳の問題点
1.森田訳の≪さまざまな≫という語は原文には存在しない。存在するのはсвои。
姫岡訳の「いろいろな」「もろもろの」を≪さまざまな≫と修正したが原文に存在しない語。
これはотступничестве変節 のことである。
2.森田訳では変節と≪堕落≫の両者があることになるが、原文ではв отступничествеにсвои градацииとсвои степени униженияの2つがある、となっている。姫岡訳よりも後退。
●文庫P337後ろから2行目
これは、≪彼が≫裏切りの最深部に≪まで≫落ちてしま≪った≫ことを意味している。
全31文字中、赤19文字、61.3%、赤+ピンク26文字、83.9%
●雑誌P193上段後ろから4-3行目
これは、彼が裏切りの最深部にまで堕落したことを意味している。
●姫岡訳P256、5-6行目
これは、裏切りの水準にまで堕落したことを意味している。
原文 Это значит опуститься на самое дно измены.
これは裏切りの最深部に転落することを意味している。
≪彼が≫は原文に存在しない。姫岡訳より後退。
≪まで≫も原文に存在しない。姫岡訳を訂正できていない。
落ちてしま≪った≫→過去形ではなく不定形опуститься転落すること 姫岡訳を訂正できていない。
西島訳、姫岡訳の「堕落した」を森田訳は「落ちてしまった」と修正。
●文庫P337最終行
政治的≪シニシズム≫の≪「証明書」≫≪とでも言うべき≫
●雑誌P193上段後ろから1-2行目
政治的シニシズムの「証明書」とでも言うべき
●姫岡訳P256、6-7行目
ただ政治的シニシズムに対する免許状といったていのものにすぎない
原文 которое является волчьном паспортном политического цинизма.
森田訳の問題点
1.≪「証明書」≫のかぎ括弧「 」は原文に存在しない。
2.森田氏が注で書いているようにこの語はволчьном паспортном狼の身分証明書 である。
本文ではそのまま訳出して、その解説を注で記すべきである。森田氏の訳し方は訳者の解釈を押し付けるもの。本末転倒。
3. ≪とでも言うべき≫ではなくявляется~である 姫岡訳の≪といったていの≫に引きずられたか?
姫岡訳のこの語も原文に存在しないのだから、森田訳は姫岡訳を訂正できていない。
4.≪シニシズム≫で読者に分かるだろうか? おそらく分からないと思う。日本語に訳すべきだ。
●文庫P338、3-7行目 引用文
≪何とか自尊心を保とうとするすべての破産者と同じく≫、≪この≫三人組も言うまでもなく、永続革命≪〔に対する攻撃〕≫を≪隠れみのにしないわけにはいかなかった≫。(……)/≪最近における/日和見主義の敗北の/全歴史の中で最も悲劇的な経験≫―すなわち中国革命―から、降伏者の三人組は、自分たちは永続革命の理論とは≪何の関係もない≫という安っぽい誓い≪をたてること≫によって逃れようとしている。
全156文字中、赤73文字、46.8%、赤+ピンク97文字、62.2%
●雑誌P193下段 引用文
何とか自尊心を保とうとするすべての破産者と同じく、この三人組もまたもちろんのこと、永続革命に対する攻撃でもって自分の身を隠さないわけにはいかない。近時における/日和見主義の敗北の/全歴史の中で最も悲劇的な経験―すなわち中国革命―から、降伏者の三人組は、それは永続革命論とは何の関係もないという安っぽい誓いをたてることによって逃れようとしている。
●姫岡訳P256後ろから5-3行目
自分を大切にする人にはお似合いのことだが、三人組は永続革命の背後に陣取る。日和見主義の敗北の最近の全歴史のなかで最も悲劇的な経験―中国革命―を、投降者の三人組は、自分は永続革命の理論とは関係がないという安手な誓いをたてることによって、抹殺してしまおうとした。
原文
"Как полагается всем уважающим себя банкротам, тройка не могла, конечно, не прикрыться перманентной революцией. От самого трагического во всей новейшей истории опыта поражения оппортунизма - от китайской революции - тройка капитулянтов отделывается дешевой клятвой насчет того, что она не имеет ничего общего с теорией перманентной революции.
森田訳の問題点
1.≪何とか自尊心を保とうとするすべての破産者と同じく≫
原文"Как полагается всем уважающим себя банкротам
自尊心をもっている破産者の全員が必要としているように
≪何とか≫などの語は存在しない。
2.≪この≫ 原文に存在しない。
3.≪〔に対する攻撃〕≫ 原文に存在しない。
雑誌版では〔 〕さえなく本文の中におり込まれていた。文庫版で〔 〕に入れたということは原文に存在しないことを認めたことである。ならば訳文本体からも外すべきだ。
4.≪隠れみのにしないわけにはいかなかった≫
не могла, конечно, не прикрыться перманентной революцией.
(もちろん、永続革命でもって)ごまかさないわけにはいかなかった。
ここまでは大半が森田氏のオリジナル部分であるが、残念ながら原文を正しく訳しているとは言えない。
5.≪最近における/日和見主義の敗北の/全歴史の中で最も悲劇的な経験≫
原文От самого трагического во всей новейшей истории опыта поражения оппортунизма
現代史全体における最も悲劇的な、日和見主義の敗北の経験 (日和見主義の敗北という経験)
森田氏は原文の構造を理解できていない。
всей новейшейは「現代史」。この中でсамого трагического опыта「最も悲劇的な経験」が起こったのである。そのопытаにпоражения оппортунизма「日和見主義の敗北」がかかり、経験の内容を説明している。
斜線表示 / / で分かるように、森田訳は姫岡訳を切り刻んで並べ替えただけで、誤訳を訂正できていない。
6.≪何の関係もない≫
原文не имеет ничего общего何の共通なものもない、共通なものは何もない
≪関係≫に当たる語は存在しない。姫岡訳からの引継ぎで誤訳。訂正できていない。ただし、姫岡訳が「自分は」としていたのを「自分たちは」と訂正したことは評価できる。原文ではонаであるが、これは тройка三人組 のことを指しているからである。
7.≪をたてること≫
原文に存在しない。原文はклятвой誓いによって だけ。
姫岡訳と同一。どうして訂正しないのだろうか?
●文庫P338後ろから4-3行目
プレオブラジェンスキーは、政治の問題ではいつもそうなのだが≪不明瞭なことを何か≫もぐもぐ言う≪だけ≫だった。
の が追加された。何のためか?
全47文字中、赤28文字、59.6%、赤+ピンク40文字、85.1%
●雑誌P194上段、2-3行目
プレオブラジェンスキーは、政治問題においていつもそうだが、不明瞭なことを何かもぐもぐ言っている。
●姫岡訳P256-257
プレオブラジェンスキーは、政治問題においていつもそうであるように、理解しがたいことをもぐもぐ言っている。
原文
Преображенский бормотал что-то невнятное как и всегда в вопросах политики.
プレオブラジェーンスキィは何やら訳のわからないことをいつものように政治の諸問題においてぶつぶつとつぶやいていた。
森田訳≪不明瞭なことを何か≫では「不明瞭なこと」と「何か」の連関が断ち切られてしまい、「何か」は「言っている」の目的語となってしまっている。そうではない。
森田氏も使っておられる研究社露和辞典の例文から
что-то детское 何やら子どもらしいところ。
≪だけ≫の語も雑誌版にはなかったのに文庫版でなぜか付け加わった。もちろん原文には存在しない。
文庫版では、姫岡訳、雑誌版の「言っている」が「言うだけだった」に時制が修正された。
●文庫P338後ろから2-1行目
注目すべき/なのは反対派の≪隊列の中で≫/国民党への/共産党の/隷属を擁護≪した≫者が≪すべて≫≪後に≫降伏者に≪なった≫、という/≪事実≫/である。
全55文字中、赤46文字、83.6%。赤+ピンク51文字、92.7%
●雑誌P194上段4-6行目
注目すべき/ことは反対派の隊列において/国民党への/共産党の/隷属を擁護した者がすべて後に投降者になった、という/事実/である。
●姫岡訳P257、1-2行目
注目すべき事実は、左翼反対派の隊列において共産党の国民党への隷属を擁護したものはすべて、投降者になった、ということである。
原文
Замечательное дело: все те в рядах оппозиции, которые отстаивали закабаление компартии Гоминдану, оказались капитулянтами.
注目に値すること。反対派の面々で、共産党の国民党への隷属を主張していた者全員が屈服者であることが判明したことである。
森田訳の問題点
1. 降伏者に≪なった≫。原文はоказались капитулянтами屈服者であることが判明した、屈服者であると判明した
оказаться +造格 ~であると判明する。 ≪なった≫ではない。姫岡訳を訂正できていない。また、単語自体としては降伏者、投降者でも間違いではないが、政治的文脈で語られているから「屈服者」がよいのではないか。
2.≪後に≫は原文に存在しない。姫岡訳にはなかったものが雑誌版で追加。後退である。
3.…擁護≪した≫者が≪すべて≫ 原文ではвсе те…, которые отстаивали
動詞は不完了体過去であるから、主張していた とすべき。
またвсе теであるから ~していた者すべてが、~していた者全員が と訳すべきである。
これも姫岡訳を訂正できていない。
4.反対派の≪隊列の中で≫ 原文はв рядах оппозиции 複数形なので団体やグループのメンバー、構成員、一員 の意になる。これも姫岡訳を訂正していない。
5.≪事実≫ 原文に存在しない。もしかするとделоをそう考えたか? しかしこの語に≪事実≫という語彙を当てるのはかなり無理があるのではないか? また森田訳「注目すべきなのは」の≪の≫に「こと」という含意があるからなおさら無理であろう。
●文庫P338最終行―P339、1行目
自らの旗に忠実でありつづけ≪た≫反対派メンバーの≪誰一人として、このような汚点を負っている者はいない≫。
全46文字中、赤16文字34.8%、赤+ピンク27文字、58.7%
●雑誌P194、6-8行目
自らの旗に忠実でありつづけた反対派メンバーのうち、このような汚点を身につけている者は一人もいない。
●姫岡訳P257、2-3行目
自らの旗印に真実であろうとする反対派は誰一人として、この恥辱の明白なしるしを意に介したりはしない。
原文
Ни на одном из оппозиционеров, остающихся верными своему знамени, нет этого пятна.
森田訳の問題点
1.忠実でありつづけ≪た≫ 原文はостающихся верными 忠実でありつづけようとしている
остающихсяは不完了体動詞оставатьсяから派生した能動形動詞現在で ~している
けっして過去形ではない。姫岡訳は少なくとも現在形であったのに。後退した。
2.≪誰一人として、このような汚点を負っている者はいない≫
原文は Ни на одном из оппозиционеров,……, нет этого пятна.
反対派の誰一人にもこの汚点はない。ないのは≪汚点を負っている者≫ではなく「汚点」である。
姫岡訳は後半がロシア語原文とまったく違う。森田訳は姫岡訳よりはずっとましであるが、正しい訳であるとは言えない。
●文庫P339、2行目
≪この≫/汚点は/まったくもって/恥ずべきもの/≪であった≫。
●雑誌、姫岡訳にはこの一文は欠落している。
原文 А пятно заведомо позорное. それにしても汚点は疑いもなく恥ずべきものである。
≪この≫ 許容範囲であるが原文には存在しない。不必要に挿入しないことが望ましい。
≪であった≫ 原文は過去形ではなく現在形。
●文庫P339、3行目
ボリシェヴィキ党の≪成立≫ 姫岡訳、西島訳の≪創立≫を≪成立≫に修正
●雑誌P194、9行目
ボリシェヴィキ党の創立
●姫岡訳P257、3-4行目
ボリシェヴィキ党の創立
原文 возникновения партии большевиков ≪成立≫ではなくвозникновения出現、登場
創立も成立も言葉は異なるが意味は同じ。成立と出現、登場は意味が異なる。森田訳は姫岡訳を訂正できていない。
●文庫P339、6行目
私の非難に答えて、/ラデックは/≪今回の≫懺悔≪声明≫とまったく同じく、≪当時すでに≫
全32文字中、赤11文字、34.4%、赤+ピンク28文字87.5%
●雑誌P194後ろから7-5行目
私の非難に答えて、ラデックは当時すでに(今回の自己批判書とまったく同じように)
●姫岡訳P257、5-6行目
ラデックは、私の攻撃に答えて、今日、自己批判書に書いているのとちょうど同じように
原文
В ответ на мои обвинения Радек уже и тогда, совершенно как в нынешнем покаянном письме,
私の非難に対して、ラーヂェクはすでに当時でも、まったく現在の懺悔の手紙の中でのように
森田訳の問題点
1.≪今回の≫ 原文は в нынешнем現在の、今日の
2.懺悔≪声明≫ 原文はпокаянном письме懺悔の手紙
姫岡訳、雑誌版西島訳ともに「自己批判書」だったが文庫版で「懺悔声明」に修正。不完全ながら前進。つまり、逆に言うと雑誌版の時点ではロシア語原文を恐らく見ていなかった。見ていたならば、どう間違っても「自己批判書」などという訳語は出てこないからだ。
しかしписьмеを≪声明≫とするのはなぜ? P337に登場するпокаянное заявление「懺悔声明」の語と―покаянное があることを見て―同じものと勘違いしてはいないか?
3.≪当時すでに≫ 原文はуже и тогдаすでに当時も、すでに当時でも
語順が反対。иによる強調がтогдаにかかっているから、逆にするべきではない。
●文庫P339、8-9行目
ラデックは広東政府を≪「農民と労働者の政府」≫と呼び
●雑誌P194上段後ろから2-1行目
ラデックは広東政府を農民と労働者の政府と呼び 姫岡訳と同一。
●姫岡訳P257、7-8行目
ラデックは広東政府を農民と労働者の政府と呼び
原文Радек называл кантонское правительство крестьянско-рабочим,
ラーヂェクは広東政府のことを農民・労働者の政府と呼んでいたのであり、または評していたのであり
文庫版だけにかぎ括弧「 」がついたのはなぜか? 原文には存在しないもの。姫岡訳、雑誌版からの後退。
農民≪と≫労働者の政府ではなく、農民≪・≫労働者の政府。原文は-であり≪と≫に相当する接続詞は存在しない。姫岡訳を訂正できていない。
●文庫P339後ろから7-4行目
≪それによって≫スターリンが/ブルジョアジーによる/プロレタリアートの/隷属化をカムフラージュするのを≪助けた≫。
●雑誌P194上段最終行―下段2行目
それによってスターリンがプロレタリアートのブルジョアジーへの隷属をごまかすのを助けた。
●姫岡訳P257、8行目
それによってスターリンがプロレタリアートのブルジョアジーへの隷属をごまかすのを助けたのであった。
原文 помогая Сталину замаскировать закабаление пролетариата буржуазией.
森田訳で≪助けた≫となっている部分は原文では不完了体副動詞помогая 助けながら
ブルジョアジーによるプロレタリアートの隷属を押し隠すのを助けながら
副動詞の文法的機能は、基本的には主動詞が表現するものと同時に行われる動作の表現である。場合によって原因や条件、付帯的状況を表すこともあり、後ろにもってくる場合もないではないが、この場合に、≪それによって≫…≪助けた≫ と訳すのは賛成できない。
雑誌版は姫岡訳に存在する≪のであった≫を外した以外は同一。文庫版では語順の入れ替えと隷属≪化≫の一文字を加えて≪замаскировать≫している。いずれにしても姫岡訳を訂正した痕はない。
●文庫P339後ろか4行目-P340、1行目
これらの恥ずべき行動、/≪この/最新の無知と愚劣さ≫、/マルクス主義の裏切りは、≪何によって覆い隠されたのか?≫ いったい何によってか? 永続革命に対する≪攻撃≫によってだ! (……)
(……)は文庫版にしか存在しないので外す。全73文字中、赤45文字、61.6%、赤+ピンク69文字94.5%
●雑誌P194下段2-5行目
これらの恥ずべき行動、/この/最新の無知と愚劣さ、/マルクス主義の裏切りは、何によって覆い隠されたのか?何によってか? 永続革命論に対する攻撃によってだ!
●姫岡訳P257、9-10行目
これらの恥さらしの行為、盲目の結果、この愚鈍、このマルクス主義の裏切りは、何によって覆いかくされたのか? 何によってか? 永続革命の告発状をもって!
原文
Чем прикрыться от этих позорных действий, от последствий, этой слепоты, этой тупости, этой измены марксизму? Как чем? Обличением перманентной революции!
これらの恥ずべき諸行動から、この盲目、この愚鈍、マルクス主義に対するこの裏切りの諸結果から、どうやってごまかすべきか? いったいどうやって? 永続革命を摘発することによってだ!
森田訳の問題点
1.≪何によって覆い隠されたのか?≫
原文はЧем прикрыться от~ 動詞不定形による無人称文である。チェルヌイシェーフスキィの(そしてレーニンの)有名な著作≪Что делать≫は『何をなすべきか』。これと同じ構造。
~からどうやってごまかすべきか? となる。 これはラーヂェクに対するトロツキーの皮肉である。森田訳は原文とまったく意味が違っている。ほとんど反対だ。文法的にもありえない訳だ。「トロツキーに対する根本的誤解の元になるようなもの」(西島栄)だ。どうしてこうなるのか? 私には理解できない。考えられる理由はただ一つ。森田氏が無人称文を理解していないことだ。
2.≪この最新の無知と愚劣さ≫
原文はот последствий этой слепоты, этой тупости, этой измены
森田氏はпоследствий をпоследнийと取り違えている。последствийは名詞последствие結果 の複数生格である。последнийは形容詞。下線部だけが違うだけで非常によく似ているから取り違えたものと思われる。しかし森田氏が格の用法を理解していればこの間違いは起こらない。
этой слепоты, этой тупости, этой изменыは女性名詞слепота, тупость, изменаの生格に指示代名詞этотの女性形этаの生格этойが結びついている。そしてこれらがまとまって後ろから中性名詞последствиеの複数形 последствияにかかっているのであるが、前置詞отはそれに続く名詞の生格形を要求する。この格支配によって中性名詞複数последствияがпосдедствийという複数生格形に形態変化しているのである。
последнийと考えると珍妙なことが起こる。этой слепоты, этой тупости, этой изменыはそれぞれ女性名詞生格であるが、3つあるから複数になる。したがってそれにかかる形容詞も複数生格にならなくてはならない。その場合、前置詞отの格支配によってпоследнихとなるはずなのである。しかしそうなっていない。森田氏は少なくともここで気づかなくてはならない。さらに言えば、女性名詞や名詞複数形にかかる形容詞の格変化形に -ийの語尾を持つものは存在しないということを森田氏は想起しなければならない。
≪この最新の無知と愚劣さ≫の≪と≫。これは原文では≪,≫である。接続詞ではないが、≪と≫と訳すことはありうることである。しかし何ゆえに この最新の無知≪と≫愚劣さ≪、≫マルクス主義の裏切りは と2つ目だけ≪、≫になるのか?
またこの訳し方では≪最新の≫―もちろん誤訳だが―という形容詞は無知と愚劣さだけにかかり、マルクス主義…にはかからないことになるが、原文ではот последствий, этой слепоты, этой тупости, этой измены марксизму? となっておりпоследствий―森田氏はこれを≪最新の≫と語訳しているのだが―は後ろの3つの句すべてと関連しているのだ。どうしてこんな非文法的なことが起こるのだろうか?
私たちは、ロシア語文法の基本中の基本に対する≪この最新の無知≫からどうやって身を守るべきだろうか?
3.永続革命に対する≪攻撃≫によってだ!
≪攻撃≫ 原文はОбличением摘発
森田訳は姫岡訳「盲目の結果」を≪最新の無知≫と誤訳して修正。改悪・後退。姫岡訳「何によって覆いかくされたのか?」も訂正できていない。姫岡訳「告発状をもって!」を≪攻撃によってだ!≫と修正。だが≪攻撃≫よりは「告発状」の方が原文の意味に近い。
●文庫P340、2-12行目
すでに一九二八年二月から降伏の≪理由≫を探しはじめていたラデックは、一九二八年のコミンテルン≪拡大≫執行委員会二月総会における中国問題決議をただちに≪支持した≫。この決議は/≪トロツキスト≫を清算主義者だと≪非難した≫。/トロツキストが敗北を敗北と≪呼んだ≫からであり、勝利した中国反革命を中国革命の高度な段階だと呼ぶことに≪同意しなかった≫からである。この二月決議では、武装蜂起とソヴィエト≪に向けた≫路線が宣言された。/革命的経験によって≪鍛えられた≫/政治的感覚を≪多少とも≫有している/人々にとっては、この決議は、嫌悪すべき無責任な冒険主義の見本であった。ラデックは≪このようなものを支持したのである≫。
全266文字中、赤143文字、53.8%、赤+ピンク231文字86.8%
●雑誌P194下段6-16行目
すでに一九二八年二月から投降の理由を探していたラデックは、一九二八年のコミンテルン執行委員会二月総会の決議にただちに肩入れした。この決議はトロツキストが敗北を敗北と呼び、勝利した中国反革命を中国革命の高度な段階と呼ばなかったことをもって清算主義者だと非難した。/この二月決議では、武装蜂起とソヴィエトの路線が宣言された。/多少なりとも政治的感覚を有していて、/革命的経験によって鍛えられた/人々にとっては/、この決議は、嫌悪すべき無責任な冒険主義の見本であった。ラデックはこれを支持したのである。
●姫岡訳P257、11-16行目
すでに一九二八年の二月に、投降の機会を狙っていたラデックは一九二八年、コミンテルン執行委員会二月総会の中国問題に関する決議を目敏く擁護した。この決議は、トロツキストが敗北を敗北と呼び、勝利的中国反革命を中国革命の高度の水準を示すものとして考察しないといって、われわれに敗北主義の烙印をおした。この二月決議では、武装蜂起とソヴィエトのコースが宣言された。政治的本能を欠いてはいず、革命的経験によってとぎすまされた人にとっては、この決議は、もっともいまわしく、無責任な冒険主義の見本である。ラデックはそれを支持する。
原文
Радек, еще с февраля 1928 года начавший искать поводов для капитуляции, немедленно присоединился к резолюции февральского пленума ИККИ 1928 года по китайскому вопросу. Эта резолюция объявляла троцкистов ликвидаторами за то, что они называли поражения поражениями и не соглашались победоносную китайскую контрреволюцию называть высшей стадией китайской революции. В этой февральской резолюции был объявлен курс на вооруженное восстание и на советы. Для человека, у которого есть мало-мальское политическое чутье, изощренное революционным опытом, эта резолюция представлялась образцом отвратительного и безответственного авантюризма. Радек к ней присоединился.
森田訳の問題点
1.≪理由≫ 原文はповодовきっかけ、口実(複数)
2.コミンテルン≪拡大≫執行委員会二月総会
原文はфевральского пленума ИККИ共産主義インターナショナル執行委員会二月総会。≪拡大≫の語は存在しない。姫岡訳、雑誌版どちらにもなかったもの。どのような見直しの結果追加されたのか? ИККИ=Исполнительный Комитет Коммунистического Интернационалаである。
3.≪支持した≫ 原文はприсоединился同調した
4.≪トロツキスト≫ 原文троцкистовトロツキー主義者たち。複数形。
また≪トロツキスト≫は政治的符牒、悪罵である。ここではトロツキー自身の言葉であるからそのような意味合いはない。
5.≪非難した≫ 原文はобъявляла宣告していた。不完了体過去。
6.≪呼んだ≫ 原文はназывали呼んでいた。不完了体過去。
7.≪同意しなかった≫ 原文не соглашались同意していなかった。不完了体過去。
8.武装蜂起とソヴィエト≪に向けた≫路線
原文はкурс на вооруженное восстание и на советы~を目指す路線
9.≪鍛えられた≫ 原文はизощренное鋭くされた
10.≪多少とも≫ 原文はмало-мальскоеごくわずかの
副詞ではなく形容詞。すぐ後ろにполитическое чутьеという名詞句がある。
11.≪このようなものを支持したのである≫ 原文はк ней присоединилсяこれに同調した
森田訳は姫岡訳を訂正できていないだけでなく、≪理由≫、≪鍛えられた≫など姫岡訳よりも劣る語を採用したり、≪拡大≫という原文に存在しない語―雑誌版にはなかったものだ―を採用するなど姫岡訳からの後退が見られる。また≪トロツキスト≫という姫岡の訳語をそのまま採用しているが、これは森田氏自身が姫岡批判の中で述べた「当時の急進主義の影響による訳文の偏向」(訳者あとがき文庫P480)に当たらないのだろうか?
一方、姫岡訳文末「支持する」を「支持したのである」と過去形に時制を改めた点は前進と評価できよう。ただし訳語は的確とは言いがたい。
●文庫P340後ろから3-2行目
プレオブラジェンスキーは、/この問題に対して―/ラデックよりも≪けっして利口なものではないが≫―≪正反対の側≫から/アプローチした。
全55文字中、赤21文字、38.2%、赤+ピンク51文字、92.7%
●雑誌P194下段後ろから2行目-P195上段1行目
プレオブラジェンスキーはというと、/この問題に対して―/ラデックよりもけっして利口なものではないが―/正反対の側から/接近している。
●姫岡訳P257後ろから3行目
プレオブラジェンスキーは、違った角度から、ラデックよりももっと拙劣に、これに接近する。
原文
Преображенский подошел к делу не менее мудро, чем Радек, но с другого конца. Китайская революция уже разбита, писал он, и притом надолго.
ラーヂェクよりも≪けっして利口なものではないが≫
не менее мудро, чем Радек 少なくともラーヂェクよりは賢明だが
森田氏はне менее を誤解して反対に、с другого концаから訳している。
менее より少ない をнеで否定するのであるから、「少なくはない」「少なくとも」―つまり「多い」のである。
≪正反対の側から≫ 原文はс другого концаもう一方の端から、反対の端から
姫岡訳、西島訳の「接近する」が「アプローチした」と時制が修正された。
森田訳は姫岡訳よりも原文に「少なくとも」「接近している。」正しいとは言えないが。
●文庫P340後ろから2行目-P341、2行目
中国革命は―と彼は≪書いている≫―すでに≪打ち砕かれた≫、しかも長期にわたって。新しい革命はすぐにはやって来ないだろう。だとすれば/中国問題で/中間主義者と/やり合うことに≪何か≫意味があるだろうか?
全88文字中、赤67文字、76.1%、赤+ピンク83文字、94.3%
●雑誌P195上段1-5行目
中国革命は―と彼は書いている―すでに敗北した、しかも長期にわたって。新しい革命はすぐにはやって来ないだろう。だとすれば、/中国問題で/中間主義者と/やり合うことに意味があるだろうか、〔原文はここで切れるが西島訳は続けている〕
●姫岡訳P257後ろから3-最終行
中国革命は―と彼は書いている―すでに敗北した、しかも長期にわたって敗北した。新しい革命は、すぐさまにはやって来ないであろう。だとすれば、中間主義者と中国問題でごちゃごちゃ論争するということは、何か引き合うことがあるだろうか?
原文
Китайская революция уже разбита, писал он, и притом надолго. Новая революция придет не скоро. Стоит ли в таком случае ссориться с центристами из-за Китая?
森田訳の問題点
1.≪書いている≫ 原文はписал書いていた 不完了体過去である。現在形ではない。писалの時制はどれも正しくない。
2.≪打ち砕かれた≫ 原文はразбита 崩壊している、破綻している。
完了体動詞разбитьから派生した被動形動詞過去разбитыйの短語尾でбыть+短語尾の現在。ゆえにбытьが省略されている。ここは過去の動作によって生じた現在の状態またはその結果が現存していることを述べている。それゆえそのすぐ後でи притом надолгоと続いている。
≪打ち砕かれた≫では状態ではなく動作を表現するし、その後のи притом надолгоと整合的でない。разбита は時制の問題はあるが姫岡訳、雑誌版がよい。
3.≪何か≫意味があるだろうか 原文はСтоит ли ≪何か≫に相当する語は原文に存在しない。
Стоит лиの訳は≪何か≫の語がない雑誌版がよい。文庫版は一番減点が多い。
●文庫P341、2-5行目
このテーマについて、≪流刑中に≫プレオブラジェンスキーは長大な書簡を≪送ってきた≫。≪これ≫をアルマ・アタで≪読んだとき≫、私は恥ずかしさを≪覚えた≫。≪いったい≫これらの人々は、レーニンの学校で何を学んだのか、私は何十回となくそう≪自問した≫。
全101文字中、赤73文字、72.3%、赤+ピンク97文字96.0%
●雑誌P195上段5-9行目
このテーマについて、プレオブラジェンスキーは長い書簡を送ってきた。これをアルマ・アタで読んだとき、私は恥ずかしさを覚えた。いったいこれらの人々は、レーニンの学校で何を学んだのか、私は何十回となくそう自問した。
●姫岡訳P257最終行-P258、2行目
このテーマについて、プレオブラジェンスキーは長い書簡を送って来た。これをアルマ・アタでよんだとき、私は恥ずかしくなった。いったいこの連中は、レーニンの学校で何を学んだのか、私は何度も、何度もこう自問してみた。
原文
На эту тему Преображенский рассылал обширные послания. Читая их в Алма-Ата, я испытывал чувство стыда. Чему эти люди учились в школе Ленина? спрашивал я себя десятки раз.
森田訳の問題点
1.≪流刑中に≫ 原文に存在しない。姫岡訳、雑誌版にもなかったのに文庫版で追加。いかなる「見直し」の結果であろうか? 後退。
2.≪送ってきた≫ 原文はрассылал不完了体過去。方々に出していたものだ。しかり。トロツキーだけに宛てるはずもない。
3.≪これ≫ 原文はихこれら 複数形である。
4.≪読んだとき≫ 原文はЧитая読みながら 不完了体副動詞。
5.恥ずかしさを≪覚えた≫ 原文испытывал чувство стыда 恥ずかしさを覚えたものだ。不完了体過去。
6そう.≪自問した≫ 原文はспрашивал себя自問したものだった 不完了体過去。
森田氏の訳文にも「何十回となく」とあるから動詞が不完了体になるはずだということは分かるが、やはりそれならそのように訳出すべきである。
≪そう≫にあたる語は原文に存在しない。
森田訳はロシア語文法の最重要事項の一つである動詞の体(アスペクト)にまったく無頓着である。このため姫岡訳をほとんど訂正できず、姫岡訳よりも後退している。「ほとんど」と言うのは姫岡訳は最後の部分で「自問してみた」と不完了体風に訳しているからである。森田訳は姫岡訳の中の動詞の訳語ニュアンスに注意しなかったようである。そして原文にありもしない≪流刑中に≫なる語を追加したことで、この部分に関しては最悪のテキストになっている。
●文庫P341、5-10行目
プレオブラジェンスキーの≪前提≫はラデックの≪前提≫と正反対だが、結論は同じだった。≪二人とも≫、メンジンスキー[当時のゲ・ぺ・ウ長官] ≪を通じて≫ヤロスラフスキーが自分たちを≪友好的に≫≪迎え入れてくれることを≫強く望んでいた。≪欠落1≫もちろん、革命の≪欠落2≫ためにである。≪これらの人々は出世主義者ではない≫。≪そうではない≫。≪彼らは出世主義者ではなく≫、単に無力で思想的に落ちぶれた人々なのである。
全155文字中、赤102文字、65.8%、赤+ピンク146文字94.2%
●雑誌P195上段後ろから2行目-下段6行目
プレオブラジェンスキーの前提はラデックの前提と正反対だが、結論は同じである。彼らは両方とも、メンジンスキー[当時のゲ・ぺ・ウ長官] を通じてヤロスラフスキーが自分たちを友好的に迎え入れてくれることを強く望んでいる。おお、もちろん、革命のためにである。彼らはけっして出世主義者ではない。そうではない。彼らはただ無力で思想的に堕落した人間なのである。
●姫岡訳P258、2-6行目
プレオブラジェンスキーの前提は、内容においてラデックの前提と正反対極にある。しかし、結論は同じである。彼らは二人とも、メンジンスキーの取り持ちをつうじて、ヤロスラフスキーが自分たちを友好的に迎え入れてくれるようにという偉大なる希望によって、鼓舞されているのである。ああ、もちろん、革命のためにである。彼らはどの点からみても出世主義者ではない。断じてない。彼らはただよるべのない、観念的に孤独な人間なのである。
原文
Посылки Преображенского были прямо противоположны посылкам Радека, но выводы были те же: они оба очень хотели, чтоб Ярославский их братски обнял через посредство Меньжинского. О, разумеется, для пользы революции. Это не карьеристы, нет, это не карьеристы, - это просто беспомощные, идейно опустошенные люди.
森田訳の問題点
1.≪前提≫ 原文Посылки諸前提 複数形。
2.≪二人とも≫ 原文они оба彼ら双方、彼らどちらも 雑誌版、姫岡訳がよい。文庫版は後退。
3.≪を通じて≫ 原文через посредство~の仲介で посредствоをはっきり訳出すべきだ。姫岡訳が勝る。
4.≪迎え入れてくれることを≫ 原文чтоб …обнял 抱擁してくれるように 希望、要求。
森田訳は姫岡訳と同一。これを訂正できていない。「見なおし」していない。
5.≪友好的に≫ 原文братски兄弟のように братски обнялだから≪友好的に≫よりも強い意味合い。обнять をпринятьと取り違えたことに起因している。3つの訳ともに不適。
森田訳は姫岡訳を踏襲するだけで、この原文が描く内容をイメージできていない。
6.≪欠落1≫ 原文О,おお 雑誌版、姫岡訳にはあったものが文庫版で消えた。いかなる「見直し」がなされたのか?
7.≪欠落2≫ 原文для пользы революции革命の利益のために 「利益」の語が欠落。3つの訳どれにも欠落している。森田訳は見なおししたが訂正できなかったことになる。
8.≪これらの人々は出世主義者ではない≫ 原文Это не карьеристы,これは出世主義者たちではない
9.≪そうではない≫ 原文нет否 強い否定である。姫岡訳が勝る。
10.≪彼らは出世主義者ではなく≫ 原文это не карьеристыこれは出世主義者たちではなく
●文庫P341、後ろから5行目
コミンテルン≪拡大≫執行委員会二月総会
●雑誌P195下段7行目
コミンテルン執行委員会二月総会
●姫岡訳P258、7行目
執行委員会二月総会
原文 февральского пленума ИККИ共産主義インターナショナル執行委員会2月総会
文庫版で原文に存在しない≪拡大≫の語が追加。なぜ? 理解できない。
●文庫P341後ろから4行目
私は当時すでに、中国≪における≫憲法制定議会のスローガン≪欠落≫≪を含む≫民主主義のスローガンのもとに中国労働者を≪動員するという≫路線を対置した。
全62文字中、赤45文字、72.6%、赤+ピンク50文字、80.6%
●雑誌P195下段8-10行目
私はすでに、中国憲法制定議会のスローガン≪欠落≫を含む民主主義のスローガンのもとに中国労働者を動員するという路線を提起した。
●姫岡訳P258、7-8行目
私はすでに、中国憲法制定議会≪欠落≫をも含めた民主主義的スローガンのもとに中国労働者を動員するというコースを、提起した。
原文
я тогда уже противопоставил курс на мобилизацию китайских рабочих под лозунгами демократии, в том числе и под лозунгом китайского учредительного собрания.
森田訳の問題点
1.中国に≪おける≫ ≪おける≫の語は原文に存在しない。文庫版で追加されたが不要。後退。
原文はкитайского учредительного собрания.中国憲法制定議会 である。
2.3つの訳とも в том числе и под лознгомを正しく訳していない。
в том числе и под лозунгом китайского учредительного собрания.
中国憲法制定議会のスローガンのもとに、をも含めた、~のもとにということをも含めた
●文庫P341後ろから3-最終行
ところが、≪欠落≫≪この≫不幸な三人組は≪今度は≫≪極左主義≫に走った。それは≪実に≫≪安直で≫、≪彼らに≫≪何の義務も負わせない≫。
全45文字中、赤12文字、26.7%、赤+ピンク38文字、84.4%
●雑誌P195下段10-12行目
すると、この不幸な三人組は極左主義に走った。それは実に安直で、彼らに何の義務も負わせない。
●姫岡訳P258、8-9行目
しかし、よるべのない三人組は『左翼』にとんぼ返りをうった。そうすることは、安くつき、彼らには何んの義務もかかってこない。
原文
Но тут злополучная тройка ударилась в ультралевизну: это было дешево и ни к чему ее не обязывало.
森田訳の問題点
1.≪欠落≫ тутここで が欠落。
2.≪この≫ 原文に存在しない。
3.≪今度は≫ 原文に存在しない。
4.≪極左主義≫ 原文ультралевизну極左主義的傾向 の方がよいと思う。
5.≪実に≫ 原文に存在しない。
6.≪安直で≫ 原文было дешево下らないものであった 過去形。
7.≪彼らに≫ 原文ее三人組に 意味は確かにラーヂェク、プレオブラジェーンスキィ、スミルガ達のことであるが、女性名詞тройкаを代名詞онаの対格ееで受けているから三人組と訳す方がよい。
8.≪何の義務も負わせない≫ 原文и ни к чему ее не обязывало 不完了体過去。時制を無視。
試訳 (そして)何ら三人組を縛ったりしてはいなかった
森田訳は姫岡訳をほぼ正しく訂正しているが、前半は余分な言葉の挿入があり、後半は時制の取り扱いが正しくない。
●文庫P342、1-2行目
ただ中国ソヴィエトのみ。≪欠落≫≪ただの≫一パーセントの割引もなし。
●雑誌P195下段後ろから5-4行目
ただ中国ソヴィエトのみ。≪欠落≫そこからただの一パーセントも割引なかれ。
●姫岡訳P258、10-11行目
中国ソヴィエト―そして、1パーセントといえども割引くな!
Только китайские советы и - ни одного процента скидки.
≪欠落≫ иそして が欠落している。
≪ただの≫ 原文に存在しない。それ以下の訳文だけで十分である。
●文庫P342、2-3行目
≪僭越ながら≫言わせていただくと、/≪このような≫立場以上に≪欠落≫愚劣なものを思いつくのは/難しい。
全39文字中、赤14文字、35.9%、赤+ピンク30文字、76.2%
●雑誌P195下段後ろから3-2行目
≪僭越ながら≫言わせていただくと、/これ以上に愚劣なことを思いつくのは/難しい。
●姫岡訳P258、11行目
これ以上に無意味なことを考えつくのは、―失礼ながら-難しい。
原文
Трудно придумать что-либо более нелепое, чем эта, с позволения сказать, позиция.
こう言っては何だが、この立場よりも何か愚劣なものを考えつくのは難しい。
≪このような≫立場 原文эта,…,позицияこの立場
≪僭越ながら≫ 原文с позволения сказать こう言っては何だが
≪欠落≫ что-либо何か が欠落している。
●文庫P342、3-4行目
ブルジョア反動期≪における≫ソヴィエトのスローガンは、赤ん坊のガラガラであり、つまりはソヴィエトに対する≪愚弄≫である。
全53文字中、赤34文字、64.2%、赤+ピンク46文字、86.8%
●雑誌P195下段後ろから2行目-P196上段1行目
ブルジョア反動の時期≪における≫ソヴィエトのスローガンは、子供用の玩具であり、したがってまたソヴィエトに対する≪愚弄≫である。
●姫岡訳P258、11-12行目
ブルジョア反動の時期における、『ソヴィエトを!』のスローガンは、子供のたわ言、ソヴィエトの愚弄である。
原文
Лозунг советов для эпохи буржуазной реакции есть побрякушка, т. е. издевательство над советами.
ブルジョア反動期≪における≫ 原文для эпохи буржуазной реакцииブルジョア反動期用の、ブルジョア反動期向けの
ソヴィエトに対する≪愚弄≫ 日本語の使い方が不自然。「~に対する」であれば「侮辱」と来るのが自然。「愚弄」を使うなら「ソヴィエトを愚弄するものだ」とすべき。
3つの訳ともдляを正しく訳していない。後半、日本語の使い方は姫岡訳が自然。
●文庫P342、4-6行目
しかし、革命期≪欠落≫でさえ、すなわち、ソヴィエトを直接≪建設する≫時期においてさえ、われわれは民主主義の≪スローガン≫を≪下ろしはしなかった≫。
全58文字中、赤39文字、67.2%、赤+ピンク50文字、86.2%
●雑誌P196上段1-4行目
しかし、革命期でさえ、すなわち、ソヴィエトを直接建設する時期においてさえ、われわれは民主主義のスローガンを下ろしはしなかった。
●姫岡訳P258、後ろから7-6行目
しかし、革命の時期、すなわち、ソヴィエト直接的組織の時期においてすら、われわれは民主主義のスローガンを無視しない。
原文
Но даже в эпоху революции, т. е. в эпоху прямого строительства советов, мы не снимали лозунгов демократии.
1.≪欠落≫ вにおいて
2.≪建設する≫ 誤訳ではないが、この場合は「創設」の方がよいのではないか。
3.≪スローガン≫ 原文лозунгов諸スローガン
4.≪下ろしはしなかった≫ 原文не снимали下ろそうとはしていなかった 不完了体過去。
森田訳は姫岡訳「無視しない」を「下ろしはしなかった」とほぼ正しく訂正した点で前進。ただし、これは完了体過去。原文は不完了体過去。
●文庫P342後ろから5行目-P343、1行目
民主主義的綱領―憲法制定議会、八時聞労働≪制≫、≪地主の≫土地没収、中国の民族独立、中国を構成する≪諸民族の≫自決権―≪なしには≫、≪これらの≫民主主義的綱領≪なしには≫、中国の共産党は、手足を縛られ、/中国の社会民主主義≪に対して≫、受動的にその陣地を明け渡すことを≪余儀なくされるだろう≫。/そしてこの社会民主主義勢力は、/≪スターリン=ラデック商会≫の援助のもと、/≪共産党の占めていた≫地位を占めることになるかもしれない/。
全178文字中、赤107文字60.1%、赤+ピンク124文字、69.7%
●雑誌P196上段後ろから8-2行目
民主主義的綱領―憲法制定議会、八時聞労働、地主の土地の接収、中国の民族独立、中国を構成する諸民族の自決権―なしには、これらの政策なしには、中国共産党は、手足をしばられ、スターリン=ラデック商会に助けられて共産党に取って代わりかねない中国の社会民主主義勢力に、受動的にその陣地を明け渡すことを余儀なくされるだろう。
●姫岡訳P258、後ろから2行目-P259、1行目
民主主義的綱領―憲法制定議会、八時聞労働、地主の土地の没収、中国の民族独立、民族自決権―なしには、中国の共産党は、手足をしばられ、スターリン=ラデック商会の援助によって共産党の地位を僭取しようとする中国社会民主主義に、受動的にその陣地をあけわたすことを余儀なくされる。
原文
Вне демократической программы - учредительное собрание; восьмичасовой рабочий день; конфискация земель; национальная независимость Китая; право самоопределения входящих в его состав народностей и пр. - вне этой демократической программы коммунистическая партия Китая связана по рукам и по ногам и вынуждена пассивно очищать поле перед китайской социал-демократией, которая может, при поддержке Сталина, Радека и компании, занять ее место.
民主主義的綱領―憲法制定議会、8時間労働日、土地の没収、中国の民族独立、少数民族のその構成員たちの自決権など―なしで、この民主主義的綱領なしで中国の共産党は手と足を縛られており、スターリン、ラーヂェクと一味の支援のもとにその地位を占めるかもしれぬ中国社会民主主義の面前で、陣地を受動的に明け渡すことを強いられている。
森田訳の問題点
1.≪制≫ 原文に存在しない。ここは「8時間労働日」と訳すべきであろう。
2.≪地主の≫ 原文に存在しない。何のために挿入したのか?
3.中国を構成する≪諸民族の≫ 原文входящих в его состав народностей中国の構成に入っている少数諸民族の自決権 народностьは「少数民族」のこと。
4.≪なしには≫、≪なしには≫ 原文Вне~なしに、~なしで 後の文の時制が現在形であることに対応する。森田訳は未来形で訳しているために、連動してこの語も誤訳している。
5.≪これらの≫ 原文этой この。複数形ではない。
6.≪に対して≫ 原文перед~の前で、~の面前で
7.≪余儀なくされるだろう≫ 原文вынуждена強いられている。また未来形ではなく現在形である。仮想的な未来の話ではなく、いま現在の緊迫した現実である。その緊張した雰囲気が訳文にも反映されなくてはならない。
姫岡訳はここを「余儀なくされる」と曖昧に訳している。原文はпридетсяではない。森田氏は結局、姫岡訳を訂正できなかった。
8.≪スターリン=ラデック商会≫ 原文Сталина, Радека и компанииスターリン、ラーヂェクと一味。「,」は「=」ではない。
9.≪共産党の占めていた≫ 原文ее 「共産党の」「共産党の占めている」の訳がよいのではないか?
●文庫P343、2-4行目
このように、/ラデックは/≪反対派を率いていた当時から≫、≪欠落≫/中国革命における最重要≪点≫を≪あっさり≫看過≪していた≫。というのは、彼は、/ブルジョア的国民党への/≪中国≫共産党の/従属を擁護していたからである。
全84文字中、赤47文字、60.0%、赤+ピンク79文字94.0%
●雑誌P196上段最終行-下段3行目
このように、/ラデックは/反対派を率いていた時から、/中国革命における最も重要な点を看過していた。というのは、彼は、/ブルジョア的国民党への/中国共産党の/従属を擁護していたからである。
●姫岡訳P259、2-3行目
かくして、反対派にありながら、ラデックは、中国革命において最も重要なことを見過ごした。というのは、彼は、中国共産党のブルジョア的国民党への隷属を擁護したからである。
原文
Итак: идя на буксире оппозиции, Радек все же прозевал самое важное в китайской революции, ибо отстаивал подчинение компартии буржуазному Гоминдану.
森田訳の問題点
1. ≪反対派を率いていた当時から≫ 原文идя на буксире оппозиции反対派の曳船に曳航されながら、反対派に助けてもらいながら の意。森田訳は意味が原文と反対になっている。これこそ「トロツキーに対する根本的誤解の元となるようなもの」(西島栄)ではないか! 姫岡訳も曖昧だが森田訳、西島訳よりはまし。
2.≪欠落≫ 原文все жеそれでもやはりが 欠落している。
3.最重要≪点≫ 原文に存在しない。原文はсамое важное最も重要なこと。姫岡訳が正訳。
4.≪あっさり≫ 原文に存在しない。姫岡訳、雑誌版にもなかったが文庫版で追加。なぜ?
5.看過≪していた≫ 原文прозевал看過した。見逃した。完了体過去。森田訳は不完了体過去の訳。≪看過≫という動作が反復・継続的であるはずはないのだが…? ここも姫岡訳が正訳。
6.≪中国≫共産党 原文компартии共産党 ≪中国≫の語は存在しない。
●文庫P343、4-9行目
ラデックは≪さらに≫、≪広東の冒険の後には、武装蜂起の路線を支持することによって≫中国の反革命を≪あっさり≫看過した。ラデックは今では、反革命期と民主主義のための闘争を≪飛び越え≫、/≪時間と空間を超越した≫ソヴィエトの抽象的観念でもって/過渡期の課題を≪払いのけている≫/。その代わりラデックは、白分が永続革命とはまったく≪無関係である≫と誓っている。≪結構なことだ≫。≪大いに≫慰めになる。(……)
全165文字中、赤106文字、64.2%、赤+ピンク140文字、84.8%
●雑誌P196下段3-10行目
ラデックはさらに、広東の冒険の後には、武装蜂起の路線を支持することによって中国の反革命を看過した。ラデックは今では、反革命期と民主主義闘争を飛び越え、/時間と空間を超越したソヴィエトの抽象的観念でもって/過渡期の諸課題を払いのけている/。その代わりラデックは、白分が永続革命とは無縁であると誓っている。それは結構なことだ。大いに慰めになる…。
●姫岡訳P259、3-7行目
ラデックは、広東の冒険の後に、武装蜂起のコースを支持することによって中国反革命を見過した。ラデックは今日、反革命の時代と民主主義のための闘争を飛びこえ、過渡期の任務のかわりに、時間と空間を超越したソヴィエトの抽象的観念/を防御的なそぶりでもって、もってくる。しかし、それに関して、ラデックは、永続革命とは何らの共通点もないことを誓っている。それは、愉快だ。それは慰めになる……。
原文
Радек прозевал китайскую контрреволюцию, поддерживая после кантонской авантюры курс на вооруженное восстание. Радек перепрыгивает ныне через период контрреволюции и борьбы за демократию, отмахиваясь от задач переходного периода абстрактнейшей идеей советов вне времени и пространства. Зато Радек клянется, что он не имеет ничего общего с перманентной революцией. Это отрадно. Это утешительно...
森田訳の問題点
1.≪さらに≫ 原文に存在しない。
2.≪広東の冒険の後には、武装蜂起の路線を支持することによって≫
原文
поддерживая после кантонской авантюры курс на вооруженное восстание.
武装蜂起を目指す路線を、広東の冒険の後に支持しながら(あるいは、支持したので)
поддерживаяは поддерживатьから派成した不完了体副動詞。
森田訳では≪広東の冒険の後には≫が先頭に来ているために、広東の冒険の後に中国反革命を看過した、のようにも読めてしまう。このような曖昧さは排さなくてはならない。この曖昧さをなくす最良の方法は上に試訳したように、原文の構造に忠実にこの句をподдерживая以下の副動詞節の中に収めた訳文にすることである。もう一つの方法は冒頭の句≪広東の冒険の後には≫の末尾にある≪は≫を取り除いて≪広東の冒険の後に≫と変更することである。
この部分は3つの訳ともに構造が同じである。つまり誤訳。森田訳は姫岡訳を訂正できなかった。
3.≪あっさり≫ 原文に存在しない。
4. ラデックは≪今では≫、反革命期と民主主義のための闘争を≪飛び越え≫、/時間と空間を超越した≪ソヴィエトの抽象的観念≫でもって/過渡期の≪課題≫を≪払いのけている≫
Радек перепрыгивает ныне через период контрреволюции и борьбы за демократию, отмахиваясь от задач переходного периода абстрактнейшей идеей советов вне времени и пространства.
時空を超越した、最も抽象的なソヴィエト(制度)という理念によって過渡期の諸課題を払いのけながらラーヂェクは反革命の時期および民主主義をめざす闘争の時期を、今では、跳び越えようとしている。
5.≪跳び越え≫ 原文перепрыгивает跳び越えようとしている。不完了体現在。
6.≪ソヴィエトの抽象的観念≫ 原文абстрактнейшей идеей советов最も抽象的な、ソヴィエトの理念。абстрактнейшейは最上級。
7.≪課題≫ 原文задач諸課題。複数。
8.≪払いのけている≫ 原文отмахиваясь от~を払いのけながら
森田訳と中島試訳によるトロツキー本人の文章をじっくり比べて欲しい。
森田訳では、ラーヂェクは…≪飛び越え≫て、…を≪払いのけて≫しまっている。時制は明白に過去形である。これを、≪飛び越え≫、≪払いのけている≫としているから現在形であるとすることはできない。そのような弁明は通用するものではない。
一方トロツキー本人は、不完了体副動詞иваясь「払いのけながら」、不了体現在перепрыгивает「跳び越えようとしている」を駆使して実に生き生きと、眼前で進行しつつある現実を描き出している。
この部分に関しても、3つの訳は字句の差異はあるが時制、文の構造は同じである。つまり誤訳である。森田氏はここでも姫岡訳を「修正」はしたが訂正できていない。
7.≪無関係である≫ 原文не имеет ничего общего共通なものは何もない、何の共通なものもない
8. ≪結構なことだ≫。≪大いに≫慰めになる。≪(……)≫
原文Это отрадно. Это утешительно...愉快である。慰めだ… ≪大いに≫は原文に存在しない。
●文庫P343後ろから5-3行目
スターリン=ラデックの反マルクス主義理論≪にもとづくなら≫、≪中国やインドで、そして東方のすべての国で、国民党の実験を違った形で、だが何らましではない形で繰り返す結果になるだけである。
全97文字中、赤30文字、30.9%、赤+ピンク67文字、69.1%
●雑誌P196下段後ろから8-5行目
……スターリン=ラデックの反マルクス主義理論は、中国、インド、その他東方のすべての国で国民党の実験を違った形で、だが何ら改善されていない形で繰り返すものでしかない。
●姫岡訳P259、8-9行目
スターリン=ラデックの反マルクス主義理論は、中国、インド、その他東洋の諸国にとって国民党の実験の改変された、だが改善されてはいない反復に過ぎないのである。
森田訳の問題点
森田訳のこの部分は、残念ながら、全体が完全に誤訳である。部分的に似た内容の句がでてくるが、原文の構造、連関をまったく捉えていない。全体を切り刻んで恣意的につなぎ合わせたものである。部分的指摘を行っても全体が理解できないので全訳を挙げる。
...Антимарксистская теория Сталина-Радека несет с собою измененное, но не улучшенное повторение гоминдановского эксперимента для Китая, для Индии, для всех стран Востока.
…スターリン・ラーヂェクの反マルクス主義的理論は、中国向けの、インド向けの、東洋のすべての国々向けの国民党の実験の改変された、しかし改善されてはいない反復を携えている。
森田訳の問題点
1.≪もとづくなら≫ このような文言は原文に存在しない。
原文は...Антимарксистская теория Сталина-Радека несет с собоюスターリン・ラーヂェクの反マルクス主義的理論は……伴っている と書き出されている。
2. ≪中国やインドで、そして東方のすべての国で、国民党の実験を≫
森田訳は≪中国、インド、東方のすべての国で国民党の実験が繰り返される≫となっている。文の文法的構造の破壊とそれによる意味の破壊。
原文はповторение гоминдановского эксперимента для Китая, для Индии, для всех стран Востока.
「中国向けの、インド向けの、東洋のすべての国々向けの国民党の実験の改変された、しかし改善されてはいない反復を」である。
森田訳は姫岡訳の≪改変された、だが改善されてはいない反復に過ぎない≫。この部分は姫岡訳がもっとも正確で原文に近い。西島訳、森田訳ともに不適格である。
●文庫P343、後ろから2-最終行
≪ロシア革命および中国革命の≫全経験にもとづいて、そして≪これらの革命に照らしてマルクスとレーニンの教えを深く熟慮した上で≫、反対派は次のように≪主張する≫。
全70文字中、赤44文字、62.9%、赤+ピンク60文字、85.7%
●雑誌P196下段後ろから4-最終行
ロシア革命および中国革命の全経験にもとづいて、またこれらの革命の光に照して検証されたマルクスとレーニンの教えにもとづいて、反対派は次のように主張する。
●姫岡訳P259、10-11行目
ロシアおよび中国革命の全経験を基礎として、またこれらの諸革命の光に照して検証されたマルクスとレーニンの教説を基礎として、反対派は次のように論じた。
原文
На основании всего опыта русских и китайских революций, на основании учения Маркса и Ленина, продуманного в свете этих революций, оппозиция утверждает:
ロシアの諸革命と中国の諸革命の全経験にもとづいて、これらの諸革命を念頭において考えぬかれたマルクスの学説およびレーニンの学説にもとづいて、反対派はこう主張している。
森田訳の問題点
1. ≪ロシア革命および中国革命の≫ 原文русских и китайских революцийロシアの諸革命と中国の諸革命の 原文は ロシアの(複数)、中国の(複数)、革命(複数)すべて複数形である。
2. ≪これらの革命に照らしてマルクスとレーニンの教えを深く熟慮した上で≫
原文 на основании учения Маркса и Ленина, продуманного в свете этих революций
これらの諸革命を念頭において考え抜かれたマルクスとレーニンの学説にもとづいて
文法的構造を示そう。
в свете этих революцийこれらの諸革命を念頭においてпродуманного考え抜かれた учения Маркса и Ленинаマルクスとレーニンの学説на основанииにもとづいて
продуманногоは完了体動詞продуматьから派生した被動形動詞過去продуманный「考え抜かれた、熟考された」の生格。この先行詞は同格であるучения。продуматьする主体は当然マルクスとレーニンである。
森田氏の誤訳の原因はこの被動形動詞を理解していないところにある。森田氏は≪熟慮した上で≫という訳文に明らかなようにпродуматьする主体を反対派だとした。とんでもないことだ。
原文をпродуматьせず、このような非文法的思考にна основанииもとづいている限りは、正しい訳などできるはずがない。
この部分は姫岡訳→雑誌版西島訳→文庫版森田訳の順に悪くなっている。文庫版森田訳は不正確の域を越えて完全に誤訳である。雑誌版までは不正確さは残るもののпродуманногоは少なくともマルクスとレーニンの学説の方にかかった訳文であった。文庫版でこの主体が「反対派」の方へ、「『左翼』にとんぼ返りをうった」(姫岡訳)。
森田氏にこう言っては何だが、残念ながらここも、森田氏が「当時の急進主義の影響による訳文の偏向が見られた」(P480)と批判している姫岡訳がもっとも正確である。
細かいことを言えば、マルクスの学説がロシアや中国の諸革命に照らして考え抜かれたものであることはありえないから「マルクスの学説およびこれらの諸革命を念頭において考えぬかれたレーニンの学説にもとづいて」とすべきであると思うが、トロツキー自身の原文はそうなっていない。致し方のないことである。
3.≪主張する≫ 原文утверждает: 主張している 不完了体現在
●文庫P344、1-2行目
新しい中国革命が既存の体制を転覆して権力を/人民大衆の手に移行させることができる≪とすれば≫、/≪それは≫プロレタリアート独裁の形態において/のみ≪であろう≫。
全69文字中、赤41文字、59.4%、赤+ピンク50文字、72.5%
●雑誌P197上段1-3行目
新しい中国革命は既存の体制を転覆し、権力を、プロレタリアート独裁の形態でのみ人民大衆の手に移行させるであろう。
●姫岡訳P259後ろから7-6行目
新しい中国革命は、現存する体制に打ち勝つであろう。そして、権力を、専ら、プロレタリアート独裁の形態の下に、人民大衆の手に移行させるであろう。
森田訳の問題点
можетの取り扱いが適切でなく、条件文に「変更」してしまっていること。
1.≪とすれば≫ 原文に存在しない。
2.≪それは≫ 原文に存在しない。
3.≪であろう≫ 原文に存在しない。原文は未来形でもないし、推測を表す文でもない。
原文
новая китайская революция может низвергнуть существующий режим и передать власть народным массам только в форме диктатуры пролетариата;
新しい中国革命が現行の体制を転覆することができ、権力を人民大衆に引き渡すことができるのはプロレタリアート独裁の形態においてのみである。
または
新しい中国革命はプロレタリアート独裁の形態においてのみ、現行の体制を転覆することができ、権力を人民大衆の手に引き渡すことができる。
森田訳の名誉のために言えば、文庫版森田訳だけが≪…ことができる≫という形でможетを表現している。この点は前進。
●文庫P344、3―5行目
農民を自己に≪従えて≫民主主義の綱領を実現するプロレタリアートの独裁≪に対立させられた≫「プロレタリアートと農民の民主主義独裁」は、虚構であり、自己欺瞞であり≪欠落≫、なお悪いことには、ケレンスキー体制か国民党体制≪になるだろう≫。
全101文字中、赤61文字、60.4%、赤+ピンク89文字、88.1%
●雑誌P197上段4-8行目
農民を後に従えて民主主義の綱領を実現するプロレタリアートの独裁に対置されたところの『プロレタリアートと農民の民主主義独裁』は、一つのフィクション、自己欺瞞であり、あるいはもっと悪いことには、ケレンスキー体制か国民党体制になるだろう。
●姫岡訳P259後ろから5-4行目
農民を指導し、民主主義を実現するプロレタリアート独裁とは対照的に、『プロレタリアートと農民の民主的独裁』は、一つのフィクション、自己欺瞞であり、あるいはもっとわるいことに、ケレンスキー体制、または国民党の冒険になってしまう。
原文
демократическая диктатура пролетариата и крестьянства" - в противовес диктатуре пролетариата, ведущего за собой крестьянство и осуществляющего программу демократии - есть фикция, есть самообман или хуже того: керенщина или гоминдановщина;
農民を率いる、そして民主主義の綱領を実現するプロレタリアートの独裁とは反対に、プロレタリアートと農民の民主主義的独裁は虚構であり、自己欺瞞あるいはさらに悪いものである。すなわちケーレンスキィ体制または国民党体制。
森田訳の問題点
1.≪従えて≫ 原文ведущего за собой~ 自分の後に~を引き連れている 能動形動詞現在
2.≪に対立させられた≫ 原文в противовес~とは反対に、~に対して
3.≪欠落≫ 原文илиあるいは、または
4.≪になるだろう≫ 原文に存在しない。未来形ではない。原文に存在するのはесть~である 判断辞。
姫岡訳、雑誌版にあった≪一つの≫が消えたことは前進。しかし、あとは姫岡訳を本質的にそのまま踏襲している。
●文庫P344、6-9行目
一方の側におけるケレンスキー≪=≫蒋介石の体制と、他方の側におけるプロレタリアート独裁とのあいだには、いかなる/中間的な≪欠落≫/革命的/体制も存在しないし、存在≪しえない≫。≪こうした≫≪抽象的≫定式を提起する者は、東方の≪労働者≫を恥知らずに≪欺き≫、新しい破局を準備≪することだろう≫。
全118文字中、赤78文字、66.1%、赤+ピンク103文字、87.3%
●雑誌P197上段9-14行目
一方の側におけるケレンスキー=蒋介石の体制と、他方の側におけるプロレタリアート独裁とのあいだには、いかなる/中間的な/革命的/体制も存在しないし、存在しえない。中間的体制の抽象的定式を持ち出す者は、東方の労働者を恥知らずに欺き、新しい破局を準備することだろう。
●姫岡訳P259、後ろから2行目-P260、1行目
一方の側におけるケレンスキーと蒋介石の体制と、他方の側におけるプロレタリアート独裁の間には、なんらの革命的過渡的体制もない、それはありえないのである。これと異なったふうに論ずるものは東洋の労働者を恥知らずに欺き、新しい破局を準備するのである。
原文
между режимом Керенского и Чан-Кай-Ши, с одной стороны, и диктатурой пролетариата, с другой, нет и не может быть никакого среднего, промежуточного революционного режима, а кто выдвигает его голую формулу, тот постыдно обманывает рабочих Востока, подготовляя новые катастрофы.
森田訳の問題点
1.ケレンスキー≪=≫蒋介石の体制 原文режимом Керенского и Чан-Кай-Шиケーレンスキィと蒋介石の体制 原文では接続詞и。決して≪=≫ではない。
さて、藤井一行氏の訳語「社会主義者=革命家」を捉えて、「=」の使い方を理解せぬものと「批判」した2000年のトロスキー=森田氏本人に登場していただこう。トロスキー=森田氏はこう言っていた。
日本語で「=」とすれば、これはたいていの場合、同格を意味します。たとえば、「革マル=ファシスト」と表記すれば、革マルはファシストだということを表現します。
(藤井訳『ロシア革命史』への翻訳上の疑問(2)投稿者:トロスキー 投稿日:07月13日(木)13時57分14秒)
トロスキー=森田氏によれば、ここでロシア語иは「=」、同格の意味になる。私はиをこのように訳すべきことをはじめて知った。
2.≪欠落≫ 原文промежуточногоどっちつかずの が欠落。
3.存在≪しえない≫ 原文не может быть存在するはずがない ここは強く訳出した方がよい。
4.≪こうした≫ 原文егоその 「中間的で、どっちつかずの革命的体制」のことを指す。
ここは代名詞をそのままもってくると日本語としては分かりにくいので工夫が要る。雑誌版のような訳し方がよいのではないか。
5.≪抽象的≫ 原文голую不毛な 森田氏はこの語を一貫して「抽象的」と訳す。なぜ?
6.≪労働者を≫ 原文рабочих 労働者たち 社会科学の著作である。正確さ第一。
7.≪欺き≫ 原文обманывает欺くものである 不完了体現在によって一般的真理を述べている。
8.準備する≪ことだろう≫ 原文подготовляя 不完了体副動詞。副動詞現在は主動詞と同時進行。ここは因果関係を表わす。森田訳は並列的・羅列的で単文が並んでいるような訳だ。
тот постыдно обманывает рабочих Востока, подготовляя новые катастрофы
東洋の労働者たちを欺いた結果、新しい破局(複数)を準備することになる。
7.8.の誤訳はこの部分のもっとも重大な部分に関わる。結局、姫岡訳以来のこの本質的誤訳は訂正されないまま、読者の前に差し出されている。
●文庫P344後ろから6行目-P345、1行目
反対派は東方の労働者に≪言う≫。/党内の≪陰謀政治≫によって/≪堕落した≫降伏者たちは/、スターリンが中間主義の種を蒔き、諸君の≪目をふさぎ≫、諸君の耳を≪抑え≫、諸君の頭を不明瞭にするのを助けている。一方では諸君は、/民主主義のための闘争を展開するのを禁じられることで、/剥き出しのブルジョア独裁を前に/無力にさせられている。他方では、/何らかの/非プロレタリア的独裁という/≪慰めの≫/展望が/諸君に/≪提示されている≫が、それによって、今後、国民党≪体制≫の≪新版≫が、すなわち労働者と農民の革命のさらなる破壊≪が準備されている≫。
全221文字、赤135文字、61.1%、赤+ピンク182文字、82.4%
●雑誌P197上段後ろから4行目-下段6行目
反対派は東方の労働者に言う。/党内の≪陰謀政治≫によって/堕落した降伏者たちは/、スターリンが中間主義の種を蒔き、諸君の≪目をふさぎ≫、耳を≪抑え≫、諸君の頭を不明瞭にするのを助けている。一方では諸君は、/民主主義のための闘争を展開するのを禁じられることで、/剥き出しのブルジョア独裁を前に/無力にさせられている。他方では、/何らかの/非プロレタリア的独裁という/慰めの/展望が/諸君に/提示されているが、それによって、今後、国民党体制の新版が、すなわち労働者と農民の革命のさらなる破壊が準備されている。
●姫岡訳P260、2-6行目
反対派は、東洋の労働者にむかっていう。みじめな投降者たちは、党内の陰謀をつうじて、スターリンが、中間主義の種を蒔き、諸君の目をふさぎ、耳を抑え、頭をまよわすのを助けている。一方、諸君は、むき出しのブルジョア独裁に直面して民主主義のための戦端をひらくことを禁じられ、無力化している。他方諸君たちに対して、展望は、非プロレタリア的独裁の一種として描かれ、それが諸君たちを解放するであろうというのだ。それによって、国民党の改造が、すなわち労働者と農民の革命の新しい抑圧が支持されている。
原文
Оппозиция говорит рабочим Востока: опустошенные внутрипартийными махинациями капитулянты помогают Сталину сеять семя центризма, засорять ваши глаза, затыкать ваши уши, затуманивать ваши головы. С одной стороны, вас обессиливают перед лицом оголенной буржуазной диктатуры, запрещая вам развернуть борьбу за демократию. С другой стороны, вам рисуют перспективу какой-то спасительной, непролетарской диктатуры, помогая тем в дальнейшем новым перевоплощениям Гоминдана, т. е. дальнейшим разгромом революции рабочих и крестьян.
森田訳の問題点
1.≪言う≫ 原文говорит言っている 姫岡訳と同一。
2.≪陰謀政治≫ 原文махинациямиペテン、策動、策略、奸計 陰謀はинтрига,заговор
森田訳、西島訳は姫岡訳と同一。
3.≪堕落した≫ 原文опустошенные堕落させられた опустошитьから派生した被動形動詞過去
4.≪目をふさぎ≫ 原文засорять …глаза目を傷つけ、目にごみを入れ
森田訳、西島訳は姫岡訳と同一。
5.≪耳を抑え≫ 原文затыкать … уши耳をふさぐ 日本語の表現として「耳を抑える」は不自然ではないか? 森田訳、西島訳は姫岡訳と同一。
6.≪慰めの≫ 原文спасительной救いの、救済の
7.≪提示されている≫ 原文рисуют描かれている、描き出されている 姫岡訳が正訳。
8.≪体制≫ 原文に存在しない。
9.≪新版≫ 原文новым перевоплощениям新たな変身を
これを≪新版≫とすることはかなり無理がある。≪新版≫とは前とは異なる新しい体裁、「結果」を指すが、原文の「変身」は文字通り「他の姿に変わること」に重点があるからである。変身にも、変化の結果としての「新しい姿」の意があるが、これを理由にして≪新版≫の語の根拠とするくらいなら、初めからこの訳語を使わぬ方がよい。
10.≪が準備されている≫ 原文помогая~を手助けしながら、幇助しながら
不完了体動詞помогатьから派生した副動詞。помогать「助ける」から派生しているのだから「準備されて…」などという語義は出てくるはずがない。この語の前にもзапрещаяという不完了体副動詞が出てきているのだが…。森田氏は副動詞にもまったく無頓着である。
●文庫P345、2-4行目
このような≪伝道者≫は裏切り者である。東方の≪労働者≫よ、彼らを≪信頼せず≫、彼らを軽蔑することを≪学べ≫! 彼らを≪諸君の隊列から≫放逐することを≪学べ≫!…。
全64文字中、赤38文字、59.4%、赤+ピンク64文字、100%
●雑誌P197下段7-9行目
このような伝道者は裏切り者である。東方の労働者よ、彼らを信頼するな!彼らを軽蔑せよ! 彼らを諸君らの隊列から追放せよ!…。
●姫岡訳P260、7-8行目そのようなことを説教するのは裏切り者である。東洋の労働者よ、彼らを信頼するな!彼らを軽蔑せよ! 彼らを諸君らの隊列から追放せよ!…。
原文
Такие проповедники являются изменниками. Учитесь не верить им, рабочие Востока, учитесь презирать их, учитесь гнать их прочь из своих рядов!..."
森田訳の問題点
≪伝道者≫ 原文проповедники伝道者たち。複数形。
≪労働者≫ 原文рабочие労働者たち。複数形。
≪信頼せず≫ 原文Учитесь не верить им彼らを信用しないことを学びたまえ。Учитесьが欠落。
≪学べ≫ 原文учитесь学びたまえ、学んでいただきたい。原文は丁寧な表現である。
≪諸君の隊列から≫ 原文гнать их прочь из своих рядовあなた方の間から(追い出すことを)
рядовと複数形になると単数形のときの「列」「隊列」から「組織やグループの構成員、メンバー、仲間」の意味になる。
姫岡訳、雑誌版西島訳、文庫版森田訳のすべてがна тыスタイル、上官が下級兵士に命令するような文体になっている。これは日本の革命運動内での用語の大半が軍事用語で書かれていることに符合する。しかし、原文はна выスタイル=丁寧表現で書かれている。「赤軍における『おまえ』と『あなた』」(1922年)という論文を書き、「軍事上の服従は、個人の尊厳を損なうことを許さない市民的・精神的平等によって補われているのだ」(和田あき子訳)と主張しえたトロツキーならばこそである。
このような指摘を理解できない人もいるであろうし、自分にはしっくりとこないと感ずる向きもあるだろう。トロツキーはすでにこう述べている。
「一部の人には、そんなことはささいなことだと思われるだろう。だが、それは正しくない! 赤軍兵士は他人をも自分をも重んじなければならない。人間の尊厳を重んずることは、もっとも重要な赤軍の精神的絆である。」(『文化革命論』現代思潮社P86)
かくして、トロツキーの翻訳において訳語の選択の問題はもちろん、いかなる文体で訳するかという問題も、ことは学術上の課題であるに留まらず、現在の日本における文化革命の課題でもあるのだ。日本語でどういう表現に移すかは現在の、そして今後の私たち自身の課題でもあるのだ。
2008年5月9日
〔参考資料―森田成也訳『永続革命論』エピローグ〕
前章の締めくくりの部分で表明された予言ないし懸念は、周知のように、数ヵ月後に裏づけられた。永続革命に対する批判は、ラデックにとって反対派から飛び離れるための跳躍板として役立ったにすぎない≪略≫。(姫)/スターリン陣営への/ラデックの/移行がわれわれにとってけっして予期せぬ事態ではなかったことは、/本書全体が/示しているものと思う。しかし、変節にもさまざまな度合いがあるし、堕落にもさまざまな程度というものがある。(姫)/ラデックは、/その懺悔声明の中で、/スターリンの中国政策≪略≫を/全面的に/復権させている。これは、彼が裏切りの最深部にまで落ちてしまったことを意味している。私に残されているのはただ、政治的シニシズムの「証明書」とでも言うべきラP338デック、プレオブラジェンスキー、スミルガの懺悔声明に対する私の回答から、若干の抜き書きをすることだけである。
何とか自尊心を保とうとするすべての破産者と同じく、この三人組も言うまでもなく、永続革命〔に対する攻撃〕を隠れみのにしないわけにはいかなかった。(……)(姫)/最近における/日和見主義の敗北の/全歴史の中で最も悲劇的な経験―すなわち中国革命―から、降伏者の三人組は、自分たちは永続革命の理論とは何の関係もないという安っぽい誓いをたてることによって逃れようとしている。(……)
ラデックとスミルガは、(姫)/ブルジョア的国民党への/中国共産党の/(姫)/従属を/頑強に擁護してきた。/しかも、蒋介石のクーデター以前においてだけでなく、このクーデター以降においても/そうだった。プレオブラジェンスキーは、政治の問題ではいつもそうなのだが不明瞭なことを何かもぐもぐ言うだけだった。(姫)/注目すべき/なのは≪略≫反対派の隊列の中で(姫)/国民党への/共産党の/隷属を擁護した者がすべて後に降伏者になった、という/事実/である。自らの旗≪略≫に忠実でありつづけた反対派メンP339バーの誰一人として、このような汚点を負っている者はいない。そして、この(姫)/汚点は/まったくもって/恥ずべきもの/であった。『共産党宣言』がこの世に現われてから四分の三世紀、ボリシェヴィキ党の成立から四半世紀も経って、これらの不幸な「マルクス主義者」たちは、国民党の≪略≫カゴ≪略≫に共産主義者を閉じ込めるのを擁護することが可能であるとみなしたのだ!
(姫)/私の非難に答えて、/ラデックは/今回の懺悔声明とまったく同じく、(姫)/当時/すでに、/ブルジョア的国民党から共産党を脱退させることでプロレタリアートを農民から「孤立」させることになると/言っておどかした。その少し前から、ラデックは広東政府を「農民と労働者の政府」と呼び、それによってスターリンが(姫)/ブルジョアジーによる/プロレタリアートの/隷属化をカムフラージュするのを助けた≪略≫。これらの恥ずべき行動、(姫)/この/最新の無知と愚劣さ、/マルクス主義の裏切りは、何によって覆い隠されたのか? いったい何によってか? 永続革命に対するP340攻撃によってだ! (……)
すでに一九二八年二月から降伏の理由を探しはじめていたラデックは、一九二八年のコミンテルン拡大執行委員会二月総会における中国問題≪略≫決議をただちに支持した。この決議は(姫)/トロツキストを清算主義者だと非難した。/トロツキストが敗北を敗北と呼んだからであり、勝利した中国反革命を中国革命の高度な段階だと呼ぶことに同意しなかったからである。この二月決議では、武装蜂起とソヴィエトに向けた路線が宣言された。(姫)/革命的経験によって鍛えられた/政治的感覚を多少とも有している/人々にとっては、この決議は、嫌悪すべき無責任な冒険主義の見本であった。ラデックはこのようなものを支持したのである。(……)
プレオブラジェンスキーは、(姫)/この問題に対して―/ラデックよりもけっして利口なものではないが―/正反対の側から/アプローチした。中国革命は―と彼は書いている―すでに打ち砕かれた、しかも長期にわたって。新しい革命はすぐP341≪略≫にはやって来ないだろう。だとすれば、(姫)/中国問題で/中間主義者と/やり合うことに何か意味があるだろうか? このテーマについて、流刑中にプレオブラジェンスキーは長大な書簡を送ってきた。これをアルマ・アタで読んだとき、私は恥ずかしさを覚えた。いったいこれらの人々は、レーニンの学校で何を学んだのか、私は何十回となくそう自問した。プレオブラジェンスキーの前提は≪略≫ラデックの前提と正反対だが、結論は同じだった。≪略≫二人とも、メンジンスキー[当時のゲ・ぺ・ウ長官] ≪略≫を通じてヤロスラフスキーが自分たちを友好的に迎え入れてくれることを強く望んでいた。≪略≫もちろん、革命のためにである。これらの人々は出世主義者ではない。そうではない。彼らは出世主義者ではなく、単に無力で思想的に落ちぶれた人々なのである。
コミンテルン拡大執行委員会二月総会(一九二八年)の冒険主義的決議に≪略≫対して、私は当時すでに、中国における憲法制定議会のスローガンを含む民主主義のスローガンのもとに中国労働者を動員するという路線を対置した。ところが、この不幸な三人組は今度は極左主義に走った。それは実に安直で、彼らに≪略≫何の義務も負わせない。民主主義のスローガンだって? 断じて否だ。「それは、トロツP342キーのとんでもない誤りだ」。ただ中国ソヴィエトのみ。ただの一パーセントの割引もなし。(姫)/僭越ながら言わせていただくと、/このような立場以上に愚劣なものを思いつくのは/難しい。ブルジョア反動≪略≫≪略≫期におけるソヴィエト≪略≫のスローガンは、赤ん坊のガラガラであり、つまりはソヴィエトに対する愚弄である。しかし、革命≪略≫≪略≫期でさえ、すなわち、ソヴィエトを直接建設する時期においてさえ、われわれは民主主義のスローガンを下ろしはしなかった。すでに(姫)/権力を掌握した/現実のソヴィエトが[ブルジョア]/民主主義の現実の/諸制度と/大衆の面前で/衝突するまで≪略≫このスローガンを下ろさなかった。これこそまさに、レーニンの言葉(小市民スターリンとそのオウムたちの言葉ではなく)で言うところの、≪略≫国の発展の民主主義的段階を飛び越さないということである。
民主主義的綱領―憲法制定議会、八時聞労働制、地主の土地≪略≫没収、中国の民族独立、中国を構成する諸民族の自決権―なしには、これらの民主主義的綱領なしには、中国の共産党は、手足を縛られ、(姫)/中国の社会民主主義に対して、受動的にその陣地を明け渡すことを余儀なくされるだろう。/そしてこの社会民主主義勢力は、/スターリン=ラデック商会の援助のもと、/共産党の占めていた地位を占P343めることになるかもしれない/。
このように、(姫)/ラデックは/反対派を率いていた当時から、/中国革命における最≪略≫重要≪略≫点をあっさり看過していた。というのは、彼は、(姫)/ブルジョア的国民党への/中国共産党の/従属を擁護していたからである。ラデックはさらに、広東の冒険の後には、武装蜂起の路線を支持することによって中国の反革命をあっさり看過した。ラデックは今では、反革命期と民主主義のための闘争を飛び越え、(姫)/時間と空間を超越したソヴィエトの抽象的観念≪略≫でもって/過渡期の課題を払いのけている/。その代わりラデックは、白分が永続革命とはまったく無関係であると誓っている。結構なことだ。大いに慰めになる。(……)
スターリン=ラデックの反マルクス主義理論にもとづくなら、中国やインドで、そして東方のすべての国で、国民党の実験を違った形で、だが何らましではない形で繰り返す結果になるだけである。
ロシア革命および中国革命の全経験にもとづいて、そしてこれらの≪略≫革命≪略≫に照らしてマルクスとレーニンの教えを深く熟慮した上で、反対派は次のように主張する。
P344●新しい中国革命が既存の体制を転覆して権力を(姫)/人民大衆の手に移行させることができるとすれば、/それはプロレタリアート独裁の形態において/のみであろう。
●農民を自己に従えて民主主義の綱領を実現するプロレタリアートの独裁に対立させられた「プロレタリアートと農民の民主≪略≪主義独裁」は、虚構であり、自己欺瞞であり、なお悪いことには、ケレンスキー体制か国民党体制になるだろう。
●一方の側におけるケレンスキー=蒋介石の体制と、他方の側におけるプロレタリアート独裁とのあいだには、いかなる(姫)/中間的な/革命的/体制も存在しないし、存在しえない。こうした抽象的定式を提起する者は、東方の労働者を恥知らずに欺き、新しい破局を準備することだろう。
反対派は東方の労働者に≪略≫言う。(姫)/党内の陰謀政治によって/堕落した降伏者たちは、スターリンが中間主義の種を蒔き、諸君の目をふさぎ、諸君の耳を抑え、諸君の頭を不明瞭にするのを助けている。一方では諸君は、(姫)/民主主義のための闘争を展開するのを禁じられることで、/剥き出しのブルジョア独裁を前に/無力にさせられている。他方では、(姫)/何らかの/非プロレタリア的独裁という/慰めの/展望が/諸君に/提示されているが、それによって、今後、国民党体制の新版が、すなわち労働者とP345農民の革命のさらなる破壊が準備されている。
このような伝道者は裏切り者である。東方の労働者よ、彼らを信頼せず、彼らを軽蔑することを学べ! 彼らを諸君の隊列から放逐することを学べ!…。