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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ 作者:笹桔梗

第1章 チュートリアル編

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第9話 農民、初めてモンスターを倒す

「えい! このやろっ! どうだ!」

「ぷぎゅう!」


 俺が持っていたショートソードを何度も身体に突きつけると、目の前にいたモンスターが断末魔をあげて、力尽きて倒れた。

 さすがに初の戦闘だとかなりドキドキするな。


 それに、このぷちラビットってモンスターは見た目が可愛すぎだろ。

 その癖、がんがん体当たりしてくるので、油断はできないが、断末魔の叫びも含めて、ちょっとばかり倒すのに罪悪感があるぞ、これ。

 カミュに言わせると『この辺のモンスターはどんどん増えるから、あんまり気にするな』ってことらしくて、当のカミュはと言えば、『見本を見せてやる』と言ったが早いか、いつの間にか手にしていたメイスのようなもので、頭を一撃、という感じで片付けてしまった。


 それを見た時は、すげえなシスターとは思った。

 何というか、撲殺聖女って感じの攻撃だったぞ?

 その聖女改め不良シスターはと言えば。


「よーし、いいぞ。ちょっと危なっかしいが、そんな感じだろ」


 少し離れた場所で、おざなりっぽいけど拍手して褒めてくれた。

 どうやら、カミュにとっては、俺たちのような『迷い人』は武器の扱いとかにほとんど慣れていないものって認識だったらしい。

 まあ、確かに、向こうの日本の常識だとそんな感じだよな。


 ただ、俺の場合、他の似たようなゲームでは、なんちゃってなバーチャル世界で剣を振るったこともあるし、そもそも、あんまり思い出したくもないが、家業の関係で、たぶん、他の同世代のやつらよりは、この手の作業に慣れているのだ。

 そもそも、『解体』スキルを見た時は、あー、やっぱり、俺の経験とかも多少は反映されてるなって納得したくらいだからな。

 と畜場法で制限されている動物以外なら、スパルタで解体作業をさせられた経験とかもあるし。

 とは言え、最初から捕まえるってケースはあんまりなかったがな。

 うさぎとか鹿とかも捌いたことも当然あるし。

 もっとも、農業とは関係ない同級生とかに知られると、間違いなく引かれるから、自分から大っぴらに言ったことはないけど。


 その時と比べると、やっぱり、ゲームのせいか、血の出方なり、細かい痙攣とかはある程度は大雑把な感じで処理されているようだ。

 そりゃそうだよな。

 そんな部分までリアルにされたら、誰得なんだ? って話だし。

 俺みたいに慣れてる人間ならまだしも、と畜とかと無縁の暮らしをしてたやつなら、下手をすれば、宗旨替えをして肉が食えなくなるぞ。この手のリアルさって。


「ところで、この依頼って、倒したモンスターをどうすればいいんだ?」


 討伐系のクエスト内容によると、この『ぷちラビット』を狩ってこい、としか書かれていないんだよな。

 必要な数とか、そういうのがないのは、これがあくまでも新米冒険者のためのクエストだからみたいだけど。

 とりあえず、この場にはさっきカミュが倒した一匹と、今、俺が続けて倒した二匹分のぷちラビットの死体が残っていた。

 これをこのまま町まで持って帰ればいいのか?


「ああ、あたしが獲物を持って帰るためのアイテム袋を持ってるから、そこに入れて持ち帰ればクエスト完了だな。あんた用のアイテム袋は、冒険者カードと一緒に、後でギルドから渡されるから、今はないけどな」

「アイテム袋なんてあるのか?」

「もちろんだ。空間魔法の処理がされてるから、ただの袋に見えてもたくさん入るようになっているんだ。ちなみに、あんたらに渡すのは冒険者ギルドからの貸し出しってことになるからな。自分用のもっといいアイテム袋を手に入れたら、ちゃんと冒険者ギルドまで返却するようにな」


 あ、そうなのか。

 最初のうちは、冒険者ギルドからアイテム袋を借りる感じになるのか。

 カミュによれば、もっといいアイテム袋は、店で買うか、素材持ち込みで職人に作ってもらうか、なのだそうだ。


「もっと容量が大きいものが欲しかったり、時間停止を組み込んだアイテム袋が欲しければ、自分で頑張れってことだ。ただで貸し出す以上は、安い作りのアイテム袋にせざるを得ないしな。そもそも、ありがたみもないし」

「へえ、時間停止か」


 それはすごいな。

 やっぱり、魔法みたいなシステムが働いているんだろうな。

 まあ、カミュに言わせると、そっちのアイテム袋にも制約はあるらしいが。


「それはそうと、それなら、カミュが持ってる袋にぷちラビットの死体を入れればいいのか? だったら、さっさとやらないと、死体が無くなるんじゃないのか?」

「いや? 死体はそのままだぞ?」


 お前何言ってるんだ、って感じでカミュから見られた。

 えっ!? ってことは、もし倒すだけ倒してほったらかしだったら、あっちこっちにモンスターの死体だらけになるってことか?


「いや、その場合は他のモンスターが食べたりとかするから問題ないぞ。別に放っておいたら、死霊化するとかそういうものでもないし。あんたらの世界にもないのか? 食物連鎖ってやつ」

「いや、それはあるけどさ……」


 いや、でもゲームって普通、一定時間放置しておいたら、死体は消えて、素材は失われるってもんじゃないのか?

 それとも、そういう部分はリアルに作っているってことなのだろうか。


「正直、セージュ、あんたが何を不思議に思ってるのかは知らないけどな。死体はなくなるわけじゃないが、放っておくと、どんどん品質が落ちるのは事実だ。もちろん、そのまま、ギルドまで持って帰るなら、あたしもさっさと袋に放り込むが、あんた確か、『解体』のスキルを持ってただろ?」

「ああ、持ってるぞ」

「だったら、ここで解体をしていった方が、報酬が上がるぞ。そのまま、死体だけ持ち帰っても、解体費用の分だけ引かれるからな。やれることやった方がいいぞ」


 あー、なるほど。

 そこで、この『解体』のスキルが生きてくるってことか。

 うん? ちょっと待てよ?

 それで、『解体』スキルってどうやって使うんだ?


「カミュ、『解体』スキルって、どうすれば使えるんだ?」

「死体に刃物を突き立てて、『解体』って念じれば発動するはずだぞ? まあ、それに関しては、迷い人用のやり方だから、あたしはやったことがないがな」

「へえ……どれどれ?」


 早速、カミュに言われた通り、一匹のぷちラビットの死体に対して、ショートソードを立てて。『解体』と心の中で考える。


 と、ふぉん、という効果音が鳴ったかと思うと、次の瞬間、ぷちラビットの死体は消えて、きれいに捌かれて、他の部分は取り除かれた肉の塊だけが残っていた。



【素材アイテム:食材】ぷちラビットの肉

 オレストの町周辺に生息するぷちラビットのお肉。解体したてでまだ新鮮。



「うわ……これが『解体』か。ちょっとびっくりだな」

「あたしも初めて見たがびっくりだよ。てか、肉しか残らないのな、その『解体』スキルって」


 それはちょっともったいないな、とか言いながら、カミュも俺と同じように、自分が狩ったぷちラビットの死体へと近づいた。

 そして、手にどこから取り出したのか、宝石のついたナイフを持って、ぷちラビットの死体を処理し始めた。


「カミュ、それは何やってるんだ?」

「あたしらにとっての『解体』だ。あんたらのは血なまぐさくなくて便利かも知れないがな、ぷちラビットも、こっちの手前勝手な都合で倒された以上は、それなりの扱いをしてやらないともったいないだろうが」


 そう言いながら、手慣れた様子で次々と手順を踏みながら、ぷちラビットを捌いていくカミュ。

 血抜きの際には、その血も受け皿を出して、それもまた、どこからともなく取り出したガラスのびんへと移し替えて、蓋をして、アイテム袋へとしまったりもしている。

 その作業の流れは、流れるようで、見ていて惚れ惚れしてしまう。

 親父とかお袋とかの手際を見ているようだ。

 まあ、シスターの服を着たちっちゃ少女がやってるのは、違和感ありありなんだが。


「ほら、できたぞ」


 そう言って、解体が終わった分をカミュが示してきた。



【素材アイテム:食材】ぷちラビットの肉

 オレストの町周辺に生息するぷちラビットのお肉。解体したてでまだ新鮮。きちんとした手順を踏んで処理されているため、より美味しい。


【素材アイテム:素材】ぷちラビットの皮

 オレストの町周辺に生息するぷちラビットの皮。傷が少ないため、高品質。


【素材アイテム:素材】ぷちラビットの血

 オレストの町周辺に生息するぷちラビットの血。何に使うのかは不明。


【素材アイテム:素材】ぷちラビットの骨

 オレストの町周辺に生息するぷちラビットの骨。何に使うのかは不明。



 とりあえず、ウインドウにはいくつかのアイテムが表示された。

 表示されないものに関しても、いくつかの部位は残っていて、それも部位ごとに取り分けて、カミュは自分のアイテム袋へと片付けてしまった。

 システム認識の外側のアイテムもあるってことなのか?

 それに、カミュの捌いたぷちラビットの肉だが、俺が『解体』スキルを使ったものよりも品質が良くなっているようだ。

 どうも、『解体』ってのは必要最低限の処理しかしてくれないらしい。

 俺のスキルレベルが低いからなのかもしれないが。


 あと、皮の説明も、『傷が少ないため』という表記があるようだ。

 それで、カミュは脳天一撃で撲殺をしたのかも知れないな。

 そうすれば、刃物とかで切るよりも、皮が痛まないのかもしれないし。


「血とか骨は何に使うんだ?」

「いや、あたしも特に思いつかないが、あんた、サティ婆さんから依頼を受けてただろ? とりあえず、持っていけば何とかしてくれるかもな、くらいに考えていたんだが」

「え? あのサティトさんが?」

「ああ、婆さん、一応、店は開いてないが、この町で薬師をやってるからな。案外、何かの材料になるかもしれないだろ? まあ使えなかったら、血の方はあたしが買い取ってやるよ、大っぴらには言えないが、別の使い方があるしな」


 いや、あのサティ婆さんが薬師だったのか。

 というか、カミュ、明らかに血の使い道を知ってるよな?

 俺には教えたくないのか、教会として、あんまり公表できない使い方をするのか知らないが。少なくとも、教会でも血の買取りはやってるってことか。

 骨に関しては、農家に持っていくとそっちで買い取ってくれるそうだ。


 ふむ。

 そういうことなら。


「なあ、カミュ。残った一匹は俺が今のやり方で『解体』してもいいか?」

「できるんだったら、別に構わないぞ。こっちもそのつもりで、手順を見せたしな。ただ、さっきの戦い方見てる限りだと、刃物を使い慣れてないやつが、簡単にできるとも思わないが」


 お、それは俺に対する挑戦ってことでいいな?

 そういうことなら、きっちりとやってやろうじゃないか。


「ああ、それなら、少しだけ時間をくれ」


 そう、カミュに確認して、俺はぷちラビットの解体作業を始めた。

うわ、金髪ようじょ、つよい。

それはさておき。

モンスターは倒しても、光になって消えたりはしません。


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