オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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それから村長の家に行って様々な情報を得た。エンリから教わったものばかりだったが、人間側が持つ地図を見られたことは大きかった。
タレントや武技なども世界に浸透している内容で教われたことは大きい。
村長たちには自分たちが異形種だとは伝えず、二人旅している仲間だとパンドラのことは紹介した。
エンリにも十三英雄の絵本など貰っていたが、王国の法などが纏められている物はもらっていなかったので、ありがたく頂戴した。暗号などで書かれた物を解読できるようになる眼鏡を用いればこの世界の書物の文字を読めることは確認済み。
案外エンリは情報持ちだったのか、それとも開拓村ではその程度の情報しか得られないのか、エンリから聞いていた情報とほとんど似通っていた。
違った部分といえば、村の状況。さすがは村を治める人間というべきか、農業で得られている収入と王国へ納める税収、農業地としての村の現状などは詳しかった。
この一帯はあまり農業に適していない土地柄なのか、あまり農作物が育たない。せめてもう少し水があれば大分違うということ。
そして今回半数の村人を失ったために次の徴税がとても厳しいということ。農家の数ではなく、村単位で収めなければならず、前と同じ量が要求されたら畑を耕す人数が明らかに足りないと。
「それは王国戦士長殿に懇願してみましょう。王に進言できる立場なのでしょう?」
「そうですね……。王国戦士長様は平民出身と聞きます。どうにかできないか相談してみます」
そこからもいくつか話していき、満足できるほど話したと思えた頃にモモンガは村長と一緒に村へ出ていた。村人たちの埋葬は終わったらしい。
もらう家については後から決めることにした。というか、家を建てる場所だけ決めて自作するつもり満々だった。外観だけ村の家を真似て、内側はちゃんとした家にするつもりだ。グリーンシークレットハウスよりも価値の劣る仮宿だが、《転移門》を用いて帰ってくる拠点に設定するつもりなので、それなりにマジックアイテムも用いるつもりだった。
そんなことを考えていると、門番の智天使から連絡が届く。直接召喚した存在は《伝言》を用いずとも意思疎通ができるようだった。
『モモンガ様。こちらに貧相な装備をした乗馬した部隊が向かってきます。数としては三十ほど』
『王国戦士長か?お前たちは不可視化できたか?』
『いえ。モモンガ様によってかけられた《星に願いを》にもそういった効果はありませんでした』
『それも後程つけなくてはな。では死の騎士も含めて村の周囲にはいるようにしろ。姿は見せるな。……やってくる連中のレベルはわかるか?』
『一人だけ三十台。あとは十台後半のみです。どれも姿は戦士風です』
『わかった。そいつらには攻撃するなよ?一応は味方のはずだ』
『わかりました』
陽光聖典は魔法詠唱者の部隊のはずなので警戒を解く。とはいえ、パンドラと一緒に出迎える予定だが。
「村長殿。戦士風の騎馬隊がこちらに向かっていることをシモベが認知しました。埋葬も終わったようですし、村長以外はどこかに避難させましょう。何かあったら大変ですので。三体ほど私のシモベを守りにつけましょう。村長殿には申し訳ありませんが、村の代表として来ていただいてよろしいですか。我々が守りますので」
「ええ、もちろんです」
村の入り口に移動する。村長は村人たちを村の集会所へ移動させた後に合流してくれた。
それから数分してようやく姿が見えてきた。門番の智天使の探知能力が優秀だと確認できたのは僥倖だった。
そしてやって来た一団。その中でも一人だけが前に出てくる。
「私はリ・エスティーゼ王国所属の王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフだ!そちらにいるのはこの村の村長か?」
「はい。私がカルネ村の村長です」
馬に乗ったままそう言ってきた王国戦士長。レベル三十台はこの世界ではかなりの実力者らしいが、本物かどうかモモンガには判断できない。
さっきまで帝国の身に偽装していた連中を相手にしていたのだから。相手が身分を詐称している可能性はある。
なので、素直に尋ねた。
「村長殿。彼は本物ですか?」
「ええと、私には判別できません。会ったことがないので……」
「そうですか」
では本人を信じるしかない。そのガゼフ本人は村長の顔を見た後、モモンガとパンドラの方を見る。そして警戒し始めるが、不審なことはしていないはずだった。
「村長殿。そちらの二人は?」
「こちらはモモン様とパンドラ殿です。村が襲われていたところを助けていただきまして」
二人から名乗ることはしなかった。そもそもが根無し草。たとえ王国で上位の立場にいる者であっても、二人が傅く理由はない。
村長の言葉を聞いてガゼフは馬から降りる。そして二人に向かって頭を下げた。
「モモン殿、パンドラ殿。村を救っていただき感謝する」
「……はぁ?」
モモンガは咄嗟に絶望のオーラを出さなかった自分を褒めたかったほどだった。
アンデッドとしての感情抑制が起こらなければ、また激情を漏らしてしまうところだったからだ。