第4話 農民、もぐら種族になる
「それじゃあ、ステータスを確認して見て。それがあなたの『ギフト』よ」
「はい――――『ステータスウインドウオープン』!」
さっき、ハイネから教わったステータス画面の呼び出す呪文を唱える。
すると、自分の目の前に手のひらサイズの画面が映し出された。
どれどれ、自分のデータは……?
名前:セージュ・ブルーフォレスト
性別:男
年齢:16
種族:土の民(土竜種)
職業:農民
レベル:1
スキル:『土の基礎魔法Lv.1』『農具Lv.1』『爪技Lv.1』『解体Lv.1』『土中呼吸(加護)』『鑑定眼(植物)Lv.1』『鑑定眼(モンスター)Lv.1』『緑の手(微)Lv.1』『土属性成長補正』『自動翻訳』
「…………えーと」
「あら、どうしたの? 目が点になってるけど?」
「いや……色々と突っ込みたいことがあるんだが」
あまりにも予想外のステータスに、思わず、ハイネに対しての敬語も崩れる。
というか、これが俺の適性、か?
あまりにも突っ込みどころがありすぎるだろ!?
「そもそも、種族が『土の民』って何ですか」
「あらあら、ちょっと失礼……なるほどねえ、中々めずらしい種族に当たったわね。まず、『土の民』っていうのは、地中で暮らすことができる種族よ。確か、元々は人間種から進化したんじゃなかったかしら」
「『土竜種』ってことは、竜種ってことですか?」
「純粋な竜種とは少し違うわね。穴を掘るのが得意で、地面の中だったら、かなり強い種族だったと思うわ」
「いや! もぐらかい!」
スキルの中に『爪技』っていうのがあったから、嫌な予感はしていたんだが、やっぱり、これって、もぐらの種族ってことか。
一応、元人間ってことらしいし、両手の爪がちょっと長くなったような気がするが、体格に関しては、あまり変化はないようだ。
だが、せっかくのVRMMOの世界で、もぐら族かよ。
ちょっとだけ、へこむ。
そして、それに輪をかけて、へこむ要因なのが。
「職業が農民ってのは何なんだよ……俺は……俺は、そっちに進むしかないのかよ……」
そもそも、実家の農家を継ぐのが嫌で、ゲーム会社への就職を目指して、何とかこのVRMMOのβテスターへと滑り込んだのだ。
このアルバイトで成果を出せば、正社員としての道もあり得るって話だったし。
にも関わらず、目の前のステータスに記されているのは『職業:農民』の文字。
何か、こう、ゲームからも『お前は農民になれ』って言われているような気がして、本当に心が折れそうになる。
いや! このアルバイトをしっかりと果たして、頑張るのだ。
そして、地獄のような農園の労働力としての日々から抜け出すんだ!
「ふふ、何だか、面白い表情をしてるけど、私が見る限り、そこまで悲観するような能力じゃないと思うわよ?」
「本当ですか?」
「ええ。土属性に特化気味だけど、素手での攻撃スキルもあるようだし、中々面白そうな能力も多いわ。どういう道に進むかはあなた次第だけど」
慰めるような、どこか面白がっているような口調でハイネが笑う。
一応は、レア種族に当たったのは間違いないらしい。
「どちらにせよ、『ギフト』を受け取った以上はやり直しはきかないわ。ふふ、あなたの才能なんだから、それを活かすのが大切よ」
「……わかりました」
ここは気を取り直して頑張るとしよう。
冷静にスキルを見てみると、魔法スキルもあるし、ハイネが言っていたように爪による攻撃スキルもあるようだし。
それに『鑑定眼』っていうのは、相手の情報を見たりすることができるのか?
一応、『成長補正』もあるし、そういう意味ではバランスが悪いわけじゃない。
『職業:農民』さえなければ、心にダメージを負わなかったかもしれない。
「それに、『土の民』だったら、共通のスタート地点にいてもおかしくない種族だしね。めずらしい種族によっては、スタート地点が他の迷い人と異なる可能性もあったし」
そうだったのか!?
種族によっては、始まる場所が違うのか?
それは、まったく知らなかった。
「ええ。例えば、精霊種などは、人間に不信感を持ってるから、人間種などがいる村とか町にはいないの。迷い人と言えど、そういう環境に精霊種がいるのはおかしいから、よっぽど特殊な条件を満たしていない限りは『精霊の森』がスタート地点になるわね」
「なるほど」
レアで強力な種族にも、そういうデメリットがあったってことか。
いや、結果的に問題はなかったが、そういうことは選択する前に話してほしいものなんだが。
何となく、短い付き合いだが、ハイネってちょっと適当なところがある気がする。
「さてと、そろそろ、最後になるわね。あなたの
「そうですね」
さすがに、実名や本当の顔をゲームでさらすのはまずいし。
ハイネの話だと、自分には自分の顔に見えるようにしつつ、別人の顔のデータをかぶせることができるのだそうだ。
なので、それでお任せで顔を作ってもらった。
ビフォーと作られたアフターの分の顔を確認して、特に問題がなかったので、そのまま処理してもらう。元の自分よりも少しかっこいいのが何とも言い難いが。
「はい、これで大丈夫。あなた以外には、さっきの顔に見えているから。それじゃあ、これで、私からの説明は終了ね。この世界に関することは、あなた自身で調べてみてね」
何でもかんでも教えるのはゲームじゃないから、とハイネ。
その言葉にまっすぐ頷く。
「では、ここから、オレストの町へと送るわ。もしかしたら、また別の場所で会うことがあるかもしれないから、ふふふ、その時はよろしくね」
「はい、色々とありがとうございました」
ハイネにお礼を言うと、自分の身体がまた白い光に包まれているのに気付く。
「ふふ、改めて、この世界へようこそ。楽しんで行ってね」
そんなハイネの言葉を最後に、俺の身体は最初の町へと飛ばされていった。
スキルはどれほど適性があったとしても、最初はLv.1になります。
とりあえず、これでチュートリアル終了です。
色々突っ込めば、もっと色々なことを教えてくれるのですが、セージュはうっかりさんなので、大事なことを聞きもらしています。
そういう意味では、ハイネは親切なキャラではないのですよ。
ハイネ「あら、だって聞かれなかったもの」