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眼鏡とあまのじゃく ~真逆の君に恋するなんて、絶対あり得ない(はずだった。)〜 作者:筏田
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はじまり

 一番最初は「結構かわいい」と思った。だけどそれからすぐに「イヤな女」だと思い知らされた。そしてその次は――



 ***



 あれは、入学したてのまだ一回目の席替えもしていない頃だった。


「えーと、資料集の14ページの上の図を見て下さい」


 現代社会の授業中。教壇に立つ先生にそう言われて慌てて机の中から資料集を取りだした。

 その時、ふと隣の席が目に入った。そこに座る女子生徒は資料集を忘れてしまったらしく、することもなくただぼんやりと片肘を付いていた。 


 どうしよう、と彼は考えた。隣の女の子とは今まで喋ったことがない。だけど困っているのを知っていて見て見ぬふりをするのも良心が痛む。

 彼は思いきって声を掛けた。


「北岡さん」


 隣の女子の茶色い頭がこちらを振り返った。

 化粧をしているのか、隙が無く整った小さな顔。そこから向けられた目つきに怖じ気づきながらも彼は続けた。


「資料集、見ますか」


 すると彼女は、怪訝そうに答えた。


「いや、いい」

「え……」


 彼が呆気にとられていると、彼女は後ろを振り向き、そこに座っていた女子に「ねーねー、ちょっと見せて」と愛想良く頼み込んだ。

 後ろの女子は「えー、しょうがないなー」と笑いながら当該ページを開いて見せる。だが北岡の方は体を捻っておりだいぶ見づらそうだ。


「はいじゃ、次は教科書の30ページ。えー……と、誰に読んでもらおうかな」


 教師が「出席番号30番の者」と指名をすると、教室の左の方からたどたどしく朗読する声が聞こえてきた。



 彼はちらりと横を見る。隣の北岡は先ほどのことなどなかったかのように、涼しい顔で教科書に目を落としている。

 くすくす、という笑い声が後ろから聞こえる。もしかしてすげなく断られた自分のことを嘲っているのかもしれない。


(何だよ、くそ……)


 別に下心があった訳ではない。ただ数秒間のあいだだけ資料集を共有するだけで、そんな風に意識をするほうがどうかしている気がする。親切心で申し出たのに、何故それを厄介ごとのように扱われなくてはいけなかったのか。とんだ恥をかかされた。北岡の澄ました横顔が視界に入るだけで、苦々しい風が心の中を掻き乱していく。


 とりあえず彼は、今後どんな些細なことであれ、二度と彼女とは関わり合いにならないようにしよう、そう胸に決めたのだった。





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