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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ 作者:笹桔梗

第1章 チュートリアル編

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第2話 農民、チュートリアルキャラと出会う

 なるほど。

 このハイネというキャラがチュートリアルを進めてくれるというわけか。

 先程、ゲームに入る前に簡単な説明を受けたのだが、『細かい部分についてはすべて、ゲーム内のチュートリアルで行なうのでそれを参考にしてほしい』と言われていたのだ。

 やはり、VRMMOの場合、直接目にしたり、触れてみないとわからないことが多いのだろう。


「では、よろしくお願いします」

「ええ。それじゃあ始めるわね。まずはあなたのお名前を教えてもらえるかしら?」

「それは本名ってことですか?」

「ふふ、別に真名でなくても構わないわよ? あくまでもここであなたが表向き呼ばれたい名前でいいの。もちろん、ステータスには刻まれるけどね」


 隠したい名があるなら、そっちの登録は推奨しない、と。

 まあ、普通のMMOでも実名プレイはしないだろうし、俺の場合も本名のいつき青林せいりんをちょっと捻るだけでいいだろう。

 一応、このアルバイトの存在を教えてくれた友人も別の場所から参加しているだろうから、いつもと同じアバターネームでいいか。


「それでは、セージュで」

「あら、一応、家名も刻んでおいた方がいいわよ? 後からこの世界の中で手に入れることもできるけど、家名がなければ、こっちの世界だと無条件で平民って判断されることが多いの。ふふ、あなたたちは迷い人だから、どちらを選んでも構わないけど」


 今ならどちらでも選べるわよ、とハイネが尻尾を振る。

 つまり、これは難易度を選べるってことなのだろう。

 家名があると貴族や商人からも侮られなかったりもするそうだ。逆に、家名なしで始めるとちょっとゲーム自体が難しくなるってことか。ニックネームとか、名前にこだわりを持っているやつ以外は、普通に家名をつけて始めた方が良さそうだ。

 それにしても、名前ひとつで、難易度が変わるとは驚きだ。


 とはいえ、俺も別に辛い道の方が燃える性格でもないので、ハイネの言葉にはあっさりと乗ることにする。


「そう言うことなら、セージュ・ブルーフォレストで」

「はい、登録したわ。今から、あなたのここでの名前はセージュ・ブルーフォレストね。それじゃ、セージュ、引き続きあなたのことを教えて」


 そう言って、ハイネが尻尾のうちの一本を振ると辺りの環境が変化した。

 さっきまでは草原のような場所だったのに、今はどこかの図書館の閲覧室のような場所になっている。

 というか、今気付いたのだが、ハイネのふさふさした尻尾は一本ではないようで、ドレスの後ろから、いくつもの尻尾がはみ出していた。

 環境の変化もそうだが、ハイネの尻尾も興味深い。


 そんなことを考えていると、俺とハイネが立っている間の空間にステータスの画面が映し出された。


「さっきの草原地帯だと『一覧』が出せないから、場所を移させてもらったわ。そして、今、セージュの目の前に浮かんでいるのは、『ステータスウインドウ』と呼ばれるものよ。あなたの固有魔素を読みとって、あなただけの情報を蓄積して、それを見やすいように示してくれるの。私の解説が終わった後も、この画面が見たかったら『ステータスウインドウオープン』って呪文を唱えればいいわ。そうすれば、いつでも、この画面を呼び出すことができるから」

「はい、わかりました。それにしても、このステータス画面って、随分大きいんですね?」

「ふふ、安心して。今は登録と説明のためにわかりやすくしているだけだから。普段はもうちょっと小さく表示できるわ。それに、そのステータスはあなた専用だから、例え出した状態でも、他の人からは見えないから」


 なるほど。

 それぞれが使いやすい大きさに調節できるそうだ。


「後は、ステータスの空白を埋めていく感じね」


 ハイネに促されるままに、年齢、性別、などなどを埋めていく。


「次は、種族やスキルなどね。ねえ、セージュ。ひとつひとつ希望するものを『一覧』から選んでもいいけれど、もっと簡単に決定する方法があるのよね。さて、どちらがいいかしら?」

「簡単に決定する方法?」

「そうよ。ステータスのポイントを使って、スキルなどをひとつひとつ選ぶのが、あなたたちが思っているゲームの始め方だとは聞いているけど。この世界の場合、『ギフト』って形であなたの持つ適性のふさわしい選択を一度に行える手段があるの」


 両方のメリットとデメリットを説明するわね、とハイネ。


「ひとつひとつ選ぶ場合、あなたが得たいと思った能力がポイント内だったら、自由に手に入るわ。もちろん、特殊な適性が必要な種族やスキルについては、最初から選択ができない場合もあるけどね。どういう生き方をするか、その目標が明確なら、そちらの方がいいかも知れないわね。もちろん、デメリットもあるわ。まず、本来の適性が低い能力については、得たところで成長が遅くなったりするの。下手をすると、後々使えなくなってしまうこともあるわ」

「え!? 本来の適性……? ハイネさん、その本来の適性ってどういうことです?」

「あなたの固有魔素のことね。要するに、あなたが今までに経験してきたことなどの蓄積によって、ゼロの状態から上乗せされるかどうか、その差異の部分が本来の適性ね。剣を振るったことがない場合と剣を振るった経験が豊富な場合、それぞれどのくらいの補助が必要かの差、って言えばわかりやすいかしら? 能力を使うために大きな補助が必要だと、その分のリソースがそっちに注がれるからもったいないの」


 なるほど。

 ハイネが言っているのはプレイヤーズスキルのことか。

 適性が低いのに、その能力を欲した場合、余分にシステムのサポートが必要になるから、その点を注意する必要がある、と。

 ただ、適性が低いスキルでも、努力や鍛錬の積み重ねで改善できることもあるので、必ずしもそうとは限らないのだそうだ。


「ふふ、そもそも、あなたたちは魔法を使う経験がほとんどないんですって? そういう意味では、皆、魔法適性については不明ね。属性に関する適性はあるでしょうけど」

「ちなみに、『ギフト』の方法でのメリットは?」

「さっきも言ったけど、余計なリソースを割かないので、普通にステータスのポイント割り振るよりも多くの能力を得られることが多いってことね。そして、デメリットは種族、職業も含めて、選択肢がなくなるってことかしら」


 ハイネの説明によると、『ギフト』を受け取った場合、自動的に最適な種族や職業に割り振られてしまうのだそうだ。

 あくまでも適性がある、ということなので、もしかすると能力の組み合わせが悪いこともあるかもしれない、と。


「とは言え、普通には選べないような種族になるかもしれないし、スキルなどは後からでもゲットできるわ。『ギフト』はあくまでも先天的な適性に依るものだから。どちらがお得かは、個人個人で判断すべきことね」

「なるほど。ちなみに、その選択できるスキルの『一覧』というのは見ることは可能ですか?」


 その『ギフト』にするべきかどうか、選択の前にそもそも、今の自分で使うことができる能力を知れるなら、それに越したことがないだろう。

 能力もそうだけど、種族とか職業に関してもだ。

 もし仮に『ギフト』を受けるのなら、そういうゲームとしてはかなり重要な要素とかも、自分に一番あったという理由から、勝手に決められてしまうのだ。

 それって、VRMMOとしてはどうなんだろう、と。

 何となく、イメージとして、VRMMOって、自由が売り物なのが大切だと思うのだ。

 まあ、その辺はまだまだ技術的に追いついていないとか、システムの方の問題とかもあるのかも知れないけど。


「ええ、もちろんできるわ。ふふふ、聞かれなかったら、そのまま『ギフト』だけを勧めるつもりだったけどね。私としては、そっちの方が面白いから」

「えっ?」


 なんだそりゃ、とハイネの茶目っ気たっぷりの言葉に驚いてしまう。

 俺の目の前に立っているのは、AIで動いているNPCだよな?

 いや、最近の人工知能ってのはすごいとは聞いているし、嘘をついたり、人間をからかったりすることができるってのは知っているけど、それにしても、このチュートリアル担当の雰囲気はすごい。

 まるで、本当に生きている存在にたぶらかされているように思えるのだ。

 そもそも、身体の質感とか、ふさふさした耳とか尻尾とか、触ってもいないのに、細かい動きとかが、いかにも柔らかそうで、とてもリアルに作られていて。

 いや、リアル以上か。

 実家の仕事がら、野生の狐とかにも会ったことがあるけど、それと比べても野生のそれとは、毛並などが段違いなのだ。おそらく、開発者とかユーザーとかのケモノ大好き、もふもふ好きの願望とかも投影されてる気がしないでもない。

 自然な姿で、尻尾をふりふりさせている姿は、ちょっと、現実ではお目にかかれないだろうし。


「それじゃあ、『一覧』を見てみる? スキル構成を選んだり、『ギフト』を受け取る前だったら、そういうことも可能だから」

「ぜひお願いします」


 俺は選択肢の『一覧』を見せてもらうことにした。

ハイネは人をからかうのが大好きです。

尻尾のふわふわ感はケモナーさん垂涎の感触持ち。

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