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スキルが強すぎてヒロインになれません 作者:奏中カナ

第2章 魔法と遺跡の街

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秘色の魔法使い① 極貧とクエスト

 

「一泊3000Gでございます」

「は?」

「え?」

「この街では一番良心的な宿代ですよ、冒険者さま」


 最北の街・王都を目指す旅の途中。

 2つ目の街ラザル・ガロは、牧歌的な雰囲気のあったカーシュ・エイムに比べると広さ、人口、活気ともに倍以上の規模のある都会だった。

 王国軍の南部拠点もあり守りも固く、3つ目の街に行くための船が出ているという大きな港まで有する、まさに南の中枢とも呼べる街らしい。


 そんなラザル・ガロに着くと、賑やかで美味しそうな匂いのする繁華街を見物もせず、まっすぐに宿を探したあたしたちだったけれど、待ち構えていたのはシビアなお金問題だった。


 数日森を歩き続けようやく柔らかいベッドで休める、と思ったあたしたちは、宿の受付のお姉さんの無慈悲な言葉にフリーズからの常温解凍、たっぷり数十秒のラグの後ようやく二の句を継げたのだった。


「いやいやいやその強気の価格設定じゃまるでミラコスタじゃないですか。でもこの宿どう見ても浦安のパートナーホテルレベルですよ? お値段見直しましょう?」

「雨宮さん落ち着いて、ここ千葉じゃなくて異世界だから……」


「ちなみに食事付きですと5000Gになりまして、さらにオプショナルサービスを付けますと……」


「た、高遠くんダメだ、森に戻ろう? ベッドはないけど寝袋があるし、水(川)も飲み放題だし、ごはんだって狩をすれば食べ放題で……」


「雨宮さんしっかり! 僕たちは野生に帰るために異世界召喚されたんじゃなかったはずだ!」


 高遠くんが青ざめながらあたしの肩を掴んでゆさゆさと揺する。脳みそがいい感じにシェイクされてあたしはハッと正気を取り戻した。

 あ、危ない……またついうっかり錯乱してしまった……


「あ、あのっ、どうしてそんなに高いんですか!? 前の街では10分の1以下のお金で十分な部屋が取れたんですけど……」


 あたしの問いかけに、あら、と受付のお姉さんは合点がいったように頷いて答えた。


「カーシュ・エイムからいらしたのですか? それでは驚かれるのも無理はありませんね。

 このご時世、宿というのは冒険者さまをメインターゲットにした施設です。そしてこの街で最も高所得な職業というのが、冒険者さまなのです」


「冒険者?」


 ほぼ同じ角度で首を傾げたあたしと高遠くんに、お姉さんはサラサラと簡単な地図をメモに書いて手渡してくれる。


「まずこの街で紹介されているクエストの報奨金相場を見てみることをおすすめしますよ。森がいいか当方の宿がいいか、決めるのはそれからでもよろしいかと」


 高遠くんが受け取ったメモを横から覗き込む。ラザル・ガロ冒険者案内所、4階建、週末は大変混雑します、新規の方は予約をしてからの来所をお勧めします……と書かれていた。





『ここが最後尾です』と書かれた札を後ろの人にパスしてから20分ほど経って、ようやく入り口が見えてきた。


「待ってる間にメニューぐらい回して欲しかったよね、何にしよっかなーハハッ」

「雨宮さん落ち着いて、パンケーキ屋さんの列じゃないから」


 ハッ、待ち時間が長すぎてまたしても目的を見失っていた……そう、冒険者案内所はめちゃくちゃ並んでいた。


 列の前後から聞こえた他のお客さんの話によると、ラザル・ガロの街の周囲には、神さまが超古代に建設した遺跡ダンジョンなる建物がいくつもあって、その内部に古代技術の集大成であるレアアイテム『遺産』が眠っているらしい。


その遺産の発掘を求めてこの街の富裕層の人々が依頼を出し、冒険者と呼ばれる各地から集まった遺跡探検家の人たちに高額の報奨金を賭けて攻略をさせている、ということだった。


 遺跡は今や魔獣の巣窟になっていることがほとんどで、超高難易度ながらハイリスクハイリターン、一攫千金を夢見る冒険者たちにとっては正に夢のようなチャンス。宝くじを買うような感覚で多くの人が日々更新される依頼を受けに訪れているらしい。


「しかし遺跡の数と難易度の差に対して、依頼クエスト一覧の閲覧可能時間が1組3分ってのは厳しいよなー」


「そうでもしないとこの人数捌き切れないけどな。慌てて適当な依頼を受けて病院送りになった冒険者が何人いたことか」


 そんな会話が耳に入り、高遠くんは心配そうに表情を曇らせた。高遠くんのそんな顔は見たくないーーそう思った時、人類の限界値がピンポーンとまたまたあたしの脳裏に浮かぶのだった。


「では次の方、閲覧スペース3番にお入りください。3分経過しましたら依頼表を一枚持って申請カウンターへ移動となります」


 案内所の職員さんが持ってきた紙の束はうず高く積もる山のようだった。製本して殴ったら殺傷能力高そう。


「……手分けして目を通して、無難な物を選ぶしかないかな。危険なものだけは選ばないように気をつければ……」


「高遠くん、あたしがんばるよ!」


「え?」


 よっしゃー、と気合を入れると、「では閲覧開始です」の声がけと同時にあたしはスキルを発動した。



 スキルーー【超速読ラピッド・リード】さらに重ねて【超暗記ペタバイト・メモリー】!



 瞬間、あたしの極貧な脳内に洪水のように情報が流れ込んでくる。依頼内容、難易度、褒賞額、指定条件ーー依頼の詳細が、フラッシュのように瞬いては層のように蓄積されていくのを感じる。


 およそ1秒に2〜3枚のペースで紙の山を処理していく。でも全部理解しているし、全部忘れないはずだ。


 なぜなら人類は1秒に25000ワードを速読し、6万桁の不規則な数字を完璧に暗記することができるから。


 元の世界ではあたしは元素周期表を覚えるのに数時間要しテストの次の日に全部忘れた(チカちゃん曰く鳥ブレイン)けど、あたしの愛読書ギフトにそう書いてあるから、今はへっちゃらなのだ。


 神さまありがとうございます。ひいては高校に戻ってからもこのスキルだけは継続させてほしいものです、進級のために。


「……ええと、3分。閲覧時間終了です……」


 時間を計測していた職員さんが引き気味に呟く。

 あたしはふうと息を吐き、砂の中から一粒の宝石をすくい取るみたいに、頭の中に検索をかける。


 ここにある依頼表の中で一番褒賞額が高くて、難易度もほどよく、そして騎士と弓術士の条件で申請できるクエストはーー


「これでお願いします!」


 あたしは紙の山、上から127番目の一枚を選ぶと、頭の上に掲げた。


「かしこまりました。では確認しますので申請に移りましょう」


 促されるまま、申請カウンターに移動する。足どりの軽いあたしの後ろで、高遠くんが目をぱちくりさせて驚いていた。


「あ、雨宮さん今の、全部ちゃんと読んでたの? いつのまにそんな……」


 そう、何を隠そうあたしと高遠くんはクラスメイト。


 同じ2年A組で一日何時間も授業を受けている者ならば、たとえ4月の一週間の間だけでも十分に「雨宮さんなんで進級できたの疑惑」を抱けるはずなのだ!

  当てられても珍解答で授業を混乱させるだけだから既に先生たちもあんまりあたしを指名しないのだ!

  すごかろうすごかろう。


「あはは、やだなー。もちろんスキルだよ」


「スキル? 弓道漫画で速読の?」


 あたしはバカだった。どのくらいかというと自分で自分の設定を忘れるぐらいには、である。



「あの……あれなの……主人公が学年1位にならないと弓道部退部の危機に瀕してしまい、なぜか突然秘めたる力が覚醒して教科書を一晩で丸暗記するという超展開がありまして……」


「ギャグ漫画なの?」


 死ぬほど冷や汗をかいてなんとか窮地を脱した。

 元の世界に戻っても高遠くんがゆみはやを読みませんように……近所で全巻買い占める覚悟を胸に秘めあたしはひとまず安堵の息を吐いたのだった。


 しかし。


「あ、すみませんアマミヤ様。お二人の条件ではこちらの依頼表を受理することはできません」

「えー!?」


 申請カウンターで依頼票をチェックしていたお兄さんが、ほらここ、と指で示した項目を見る。


「えーと……職業指定有。遺跡内部の進行に必要なため、パーティに1名以上の魔術師ウィザードを含むこと……」



 …………。


 バカだから細かいこと無視してしまった……。


 あたし、説明書のちっちゃい※とか読み飛ばすタイプだから……

 ごめんなさい人類の限界値ハイエンドのみなさん……せっかく素晴らしいスキルを借りたのにほんと残念でごめんなさい……。


「た、高遠くんごめんね……。あたしもう一回並び直すからどこかで時間つぶして……」


「いや、せっかく見つけてくれた依頼票だし。報奨額もかなり良い。すみません、該当の魔術師を同行できれば依頼を受けることは可能ですか?」


「はい、その場合は直接申請カウンターにお通ししますよ」


「わかりました。またすぐに出直します」


 高遠くんはそう言って会釈すると、依頼票を片手に出口の方へ歩き出す。あたしは慌ててその後について行った。


「高遠くん、探すって?」


「魔術師を探せばいいんでしょ? この街には冒険者がうようよいるみたいだし、好条件の依頼なら協力してくれる人もきっとすぐ見つかるよ」


 にっこりと笑って高遠くんは言う。

 勝手にスキルを使って自滅したあたしを気遣ってくれているのだ。優しい。優しすぎる。さすが現人神。心で拝みながらしかしあたしは思うのだったーーーー


 自ら2人旅ルートを外してしまった……!


 しかも魔術師って何? めっちゃ頭良さそうじゃない?

 まず赤点より1点上だっただけで「みんな、雨宮が41点を取ったぞ!」とか担任の先生に暴露されてクラス全員に泣きながら胴上げされるようなことにはならなそうじゃない?(あたしに去年起きた実話です)


 しかもなんか女の人が多そうなイメージ! それもクールで知的な年上美人系! 対極! あたしとはカテゴリの違う生命体!


 そんな人とパーティを組んだら高遠くんだってあたしの残念さに幻滅してしまうに決まってる……それだけは避けなければ!



「とりあえず繁華街に行って、それらしい人に声を……」


「探してくる」


「え?」


「あたしが魔術師のひと探すから、高遠くんは休んでて! 大丈夫、とびきり高齢でもはや枯れ果てた熟練のヒゲの長いおじいちゃん魔法使いみたいなのを探してくるからね!」


「なんかすごい指定入ってるのは何?」


「それじゃ! すぐ戻るからっ!」


 あたしは角を曲がるとスキルを使って高速で駆け出す。


 大丈夫、こんなに人がたくさんいるんだもん、三角帽子に真っ白なヒゲを生やした完璧攻略対象外なレジェンド系魔術師の1人や2人いるはず!いてくれ!



 あたしは希望を胸に繁華街を100m9秒58で駆け抜け、100mしないうちに、物の見事にゴロツキなお兄さんに激突エンカウントした。

 ※都会を全力疾走してはいけません。



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