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【ゴルフ】

スイングも人生も超個性的 崔虎星、45歳男子ツアー盛り上げる

2018年11月29日 紙面から

フィニッシュを後ろから見るとこんな感じ(大西洋和撮影)=東京よみうりCCで

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 国内男子ゴルフツアーに参戦している韓国の45歳、崔虎星(チェ・ホソン)が急激にブレークしている。日本では6年間プレーしているが、脚光を浴びるようになったのは今年の夏から。誰にもまねできない超個性的なスイングと派手なガッツポーズがネットに流れ、世界的に人気が沸騰した。その勢いに乗り、前週のカシオワールドオープン(高知)で優勝。29日開幕のグランドチャンピオン大会、日本シリーズJT杯(東京よみうりCC)に5年ぶりに出場する。今やツアーに欠かせない存在になった崔虎星とは-。 (大西洋和)

 イメージカラーはオレンジ。キャディーバッグ、帽子、靴そしてパターに至るまでオレンジでそろえる。といっても、同じくオレンジ色をトレードマークにする米ツアーのイケメン、リッキー・ファウラー(米国)とはまるで違う。ゴルフ場以外で会えば、決しておしゃれとは言えない45歳のおじさん。それが崔虎星だ。

 日本ツアーにやってきた2013年から賞金シードを獲得し、今季も前週まで6600万円余りを稼いで賞金ランク9位につけている。日本参戦以来、最高の成績だ。だが、ジュニア時代から活躍、期待を担ってプロ入り-といったエリート選手たちとは一線を画する。ここまで来るには並大抵ではない苦労があった。

 韓国南東部の漁師町・浦項(ポハン)で生まれた崔虎星は、恵まれた家庭ではなかった。子どものころから家業の漁業を手伝うため、小さな船に乗った。バランス感覚のよさは、この時身に着いた。地元の水産高校を卒業し、水産加工会社に就職した。ところが20歳のころ、マグロ解体作業中に右手親指の一部を切断、腹の肉を移植した。この事故で兵役に就けなくなった。

 「友達はみんな(兵役に)行っているのに。一人になってしまって、いろいろ考えた」。それからデパートの店員、製鉄所の作業員、スーパーの販売員、炭鉱作業員など職業を7回替えた。そしてたどり着いたのが、ゴルフ場のアルバイト。3食住まい付きの条件にひかれた。練習場のボール拾いなどが主な仕事だった。

 25歳のある日、社長から「お客の心を知るためにゴルフをやりなさい」と言われ、初めてクラブを握った。教えてくれる人はなく、スイングは見よう見まね。初ラウンドのスコアは140か150くらい。心掛けたのは、思い切りスイングすること。これが性に合った。次第に上達し、2年後にセミプロのテストに合格。有給休暇をとって下部ツアーに出るようになった。「もっと大きな海に出たい。マグロをつかみに行くつもりで」と、練習に熱がこもる。さらに2年後の2001年には下部ツアーで2勝して賞金王に。レギュラーツアーのメンバー入りし、08年に初優勝した。

 日本には12年の出場予選会に挑戦して31位になり、13年にデビュー。その直前にインドネシアプロ選手権(日本ツアー共催)で優勝した。ガッツポーズをつくるときに発する「ゲッ」という掛け声は、自分自身を勇気づけるため。ポーズをつくったときにまねをするギャラリーも増えてきた。それを見たら、喜んでもらうためにもう1回やることもある。

 日本人選手たちからは「トラさん」と呼ばれる。優しくて温厚な性格だが、「虎星」という名前はちょっと怖そう。「由来は(両親に)聞いていない。虎は夜、星のあるところで獲物を狩る。そのあたりに意味があるのかな。僕もゴルフを夜にやったら、もっとうまくなるかもね」。高知県で開催されたカシオワールドOPで優勝賞金4000万円を手に入れ「マグロじゃなくて、クジラが捕れた!」。今でも信じられない。

 韓国の練習場で見初めたモデルの黄真雅(ハン・ジンア)さんと14年前に結婚、中学生の息子2人は合唱団に入っている。幸せな家庭も手に入れた。国内の女子ツアーではイ・ボミやキム・ハヌルら韓国勢が観客動員の大きな原動力になっているが、男子ツアーにはそんな存在がいない。日本が大好きなトラさんは、それを聞いて「骨が折れるまでガンバリマス」と笑った。

 

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