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スキルが強すぎてヒロインになれません 作者:奏中カナ

第2章 魔法と遺跡の街

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新たなる勇者③ 蓑虫とセイグッバイ

 

 ミノ、センマイ、ハチノス、ギアラ、ハツ、ザブトン、カイノミ、トモサンカク……。


「だめだ……肉の部位を数えてるのに全然落ち着かない……」


「いやそこは普通に素数とか数えようよ」


「だーかーらー算数でつまずいた人間に素数の話をされてもーーーーってハッ!? あたし声に出てた!?」


「そりゃもうばっちり」


 慌てて首をよじり、焚き火の反対側に横になっている高遠くんを見る。

 よかった! めっちゃスヤスヤ寝てるー!

 眠れぬ夜に内臓を数える女子だと誤解されずに済んだー!


「誤解とは一体」


「ちょっと太一郎くん、さっきから人の心読むのやめれくれる?」


「いやアリアちゃん全部声に出てるから」


 くああ、と欠伸を1つして、太一郎くんは胡座をかいたまま焚き火を枝でつついた。


 焼肉食べ放題(野生)も終了し、夜は更けて。

 あたしたちは交代で見張りをしながら夜を明かすことにした。


 今は太一郎くんが見張りの番で、あたしは寝袋にミノムシのようにくるまってごろごろしていたんだけど、なんだかなかなか眠れず肉の名をそらんじていたのだった。


 というのも最近、寝る時は高遠くんがお話を1つ聞かせて寝かしつけてくれていたから、なんだか無音だと落ち着かなくて。


「幼稚園児か?」

「高2だよっ」


 ちなみに題材は高遠くんの愛読書ギフトだ。

 語り始めて一節もする前にあたしが爆睡するからなかなかストーリーが進んでないけど。


「アーサー王物語ね。昔マヤちゃん家に遊びに言った時にちょろっと読んだなあ。どんな話だっけ?」


「『大きなカブ』みたいなお話だったよ」


「あーハイハイ、うんとこしょーどっこいしょー、やっと岩から伝説の剣が抜けましたーってか。

んなわけあるかーい」

「あたっ」


 ぺし、とミノムシの上から軽くチョップされた。


「でもアーサーオーはすごいんだよ、なんか巨人をやっつけたり1人で400人以上やっつけたりやりたい放題なんだよ」

「そんなアサイーみたいに言われても」


「だからそんなすごいのを投影された高遠くんはめっちゃすごいんだよ」


 えっへんとあたしは胸を張ろうとしたけど、ミノムシの中にあっては無意味なアクションだった。


「へーへー、お熱いことで」


「焚き火に近すぎるんじゃないかな?」


「天然か。……ところでさ、アリアちゃんのスキルのことだけど」


 あたしはさなぎのように固まった。

 そうだった、太一郎くんには見られていたのだ。

 あたしのマウンテンなゴリラスキルの片鱗をーー



「ごめんね、口封じなんてしたくないんだけど……」


「いやいやいや何の話? やめてくれる真顔で寝袋のままずりずり近づいてくるの、めっちゃ怖い」


 そうじゃなくて、と太一郎くんはあたしの侵攻を手で制す。


「言わない代わりと言っちゃなんだけど……

 マヤちゃんとさ、仲良くしてあげてくんないかなーって。元の世界に戻ってからも」


「?」


「マヤちゃんさ、友達少ないんだよね」


 あんなにかわいくていい子なのに? と不思議がると、太一郎くんはうれしそうに笑った。


「でしょ。でもああ見えてマヤちゃん相当な内弁慶でさ。

 俺みたいな気心知れた奴が一緒ならあの通りおしゃべりなんだけど、1人だとすげー人見知りすんだよね。

 でもって無駄に虚勢はるクセがあるから優しくされても強がってツンツンしちゃうし。

 そんでもってちょっと箱入りのお嬢様なもんだから、なんつーかハブかれてはないけど浮いてる感じなんだよね」


 中学までは俺もいたしまあ良かったんだけど、と、太一郎くんは燃える火を見つめた。

 高校はお互い男子校と女子校でバラバラになり、会う機会もめっきり少なくなっていたらしい。


「異世界に来てからも、俺とたまたま合流するまでは1人でずっと泣いてたみたいで……【縮小化】で物陰に隠れててさ。

 いやいや俺が見つけなかったら今頃どうなってたんだよ、とか思うとマジ怖いよね」


 パキン、と火の粉が音を立てる。

 やっぱりあたしの予想は当たっていた。

 太一郎くんとあたしは同じなのだ。異世界こんなとこに来てまで、たった1人の人を中心に自分の世界を回している残念なところが。


「ーー仲良くして()()()のはだけど、仲良くするのは、言われなくてもそうしたいって思ってるよ。

 だから黙っててもらう見返りだったら、他のことにした方がいいよ?」


「いや、それで十分。

 やっぱアリアちゃんいい子だね。マヤちゃんがいなかったら好きになってたかもしれないなあ」


「あ、また調子の良いこと言ってる。 マヤちゃんに怒られるよ」


「いやいや、これはわりと本気で……」


「うーーーーーーーーんむにゃむにゃーーーー」


 突如焚き火の反対側から聞こえた寝言すぎる寝言に、思わずおしゃべりがストップする。

 なんと高遠くんだった。吃驚するあたしの横で太一郎君が盛大に吹き出した。


「そろそろ寝な、アリアちゃん。彼次の見張り番だし、煩くして起こしちゃ悪い」


「う、うん、おやすみ……」


 あたしは言われるまま目を瞑りミノムシの擬態に専念し、人間て本当にむにゃむにゃとか言うんだな、と感心していた。






 翌朝は気持ちのいい快晴だった。

 あたしたち4人は全員が内心で「なんかこいつら昨日より肥えてんな」と思いながら順調に獣道を進み、今、森の出口に立っていた。


「ほらマヤちゃん、そろそろ手離して」


「…………わかってる」


「それじゃあアリアちゃん、元気でね」と言って握手を交わしてから、マヤちゃんはかれこれ数分、ちいさな手であたしの手をぎゅっと握って離れがたそうにしている。


寝床キャンプに便乗して肉まで奢ってもらったんだからもう迷惑かけらんないでしょ。そろそろ行くよ」


「うー……わかってるってば! でも、次いつ会えるかもわかんないし……せっかく仲良くなれたのに……」


 マヤちゃんはうるうると目を潤ませて口を尖らせる。

 そんな顔をされるとこっちまで悲しくなって、あたしは眉を下げた。すると、


「……いいんじゃないの、一緒に行けば」


 高遠君がぽつりと言った。


「旅の道具は2人分しかないけど、次の街でお金を稼げば買い足せるし。目的は同じなんだから、一緒に行動した方が心強いだろうし」


「……ううん、いい。私、太一郎と2人でがんばる」


 マヤちゃんは首を振り、あたしの手をそっと離した。


「前の街で、魔族に会って存在を知られちゃったんでしょう? だったらきっとまた狙われるし、固まって行動するより別れてた方がいいと思う。大体、あたしたちのスキルじゃ、アリアちゃんたちに守ってもらうお荷物にしかならないだろうし……」


 マヤちゃんの横で、太一郎君が珍しく飄々とした表情を崩して目を丸くしていた。


「次に会う時には、私たち、もっと強くなるから! だからその時に、今度こそパーティを組みましょう。私なら大丈夫! いざとなれば【縮小化】で逃げられるし」

「おいおいマヤちゃん、俺はー?」


 太一郎君はけらけらと嬉しそうに笑った。

 高遠くんはちらりとあたしを見て、「そっか」と呟く。


「分かった。僕たちも次に会う時は負けないように頑張るよ」


「ええ。まずはお互い死なないこと。約束よ」


 強がりでもなく、マヤちゃんはにっこり笑って、さあそうと決まれば先手必勝ー! と太一郎くんの腕を引っ張って走って行った。




「…………行っちゃった……」


 嵐のように現れ、肉とともに去った2人だった……。


 でもきっとあの2人にはまた会える気がする。その日まであたしも頑張らなくちゃ!と気合を入れた。


「さ、あたしたちも行こっか!」


「うん、でも……雨宮さんは良かったの?」


「なにが?」


「いや、その、……田野上君とは話が弾んでたみたいだし」


 高遠くんは珍しく歯切れ悪くそんなことを言う。


「そうかな。でも多分あたしってどっちかというとボケらしいから、あんな風にキレよくツッコまれた方がしっくりくるのかも」


 ミユちゃんとチカちゃんの容赦ないツッコミが懐かしくて、あたしは遠くの空を見る。


「そうなんだ……」


「うん……」


「…………………………………なんでやねん」


「まだ何もボケてないよ!?」


 た、高遠くんが疲れている! 早く次の街に行って休まなくっちゃ!


 あたしは今すぐ高遠くんを担いで数kmを駆け抜けるスキルを発動させたい衝動を抑えながら、【超遠視】で目を凝らす。



 視線の先には、2つ目の街。

 魔法と遺跡ダンジョンの街、『ラザル・ガロ』が待ち構えていた。



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