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スキルが強すぎてヒロインになれません 作者:奏中カナ

第2章 魔法と遺跡の街

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新たなる勇者② 自己暗示とアリス

 

「神さまの〝投影〟だって一目ですぐに分かったわ。いかにもアーサー王って感じだったもの」


 鹿肉をはむはむとお上品に味わいながら、マヤちゃんは高遠くんに言った。

 その横で太一郎くんも美味しそうに肉を食む。


 2人はあたしたちとは違う地域に住んでいた高校生で、同じ高校2年生だそうだ。


「へえ、花木さんは児童文学好き? 『アリス』ほど投影が分かりやすい愛読書ギフトもないよね」


 高遠くんはそう言ってマヤちゃんの服を見た。

 頭につけたリボン。フリルがふんだんにあしらわれた水色のスカート。白のエプロンとタイツ。ピカピカの黒い靴。

 髪型こそ黒髪のボブと、おそらく元の世界での彼女そのものだったけど、小動物っぽい雰囲気が身長150センチに満たないだろう小柄なマヤちゃんにはよく似合っていた。


 可愛い。とっても可愛い。あたしもこの愛読書ギフトにすれば良かった! 読んだことないけど!


「アリスは女の子なら大抵は読んだことあるからね。本棚にあっても珍しくはないよ」


 ぼ、暴論だ!!

 つまりアリス未履修のあたしは女の子失格!?

 女の子資格剥奪!? 人のオネエ疑惑に震えてる場合じゃなかった!!


「ねぇねぇアリアちゃん、アリアちゃんの愛読書ギフトはなあに? 私の予想だと恋愛系少女漫画! どう? 正解は?」


 

 ギネスブックでーーーす。



 モアイ像みたいな顔をしてると高遠くんが代弁してくれる。


「『ゆみはや』だよ、今度映画化する」


「ああ! 私あれ大好き! 全巻持ってるもの。私たち趣味が合うね、アリアちゃん」


「サフデスネ」


 アーサー王もアリスもゆみはやも知らんがな。


「でもま、アリスはちょっと少女趣味すぎよね……次の町に着いてお金を貯めたら着替えを買いたいわ」


「へえ、もったいない。よく似合ってるのに」



 高

 遠

 く

 ん

 が

 女

 子

 を

 褒

 め

 た

 !



 あたしは衝撃のあまり手にした鉄の串を【スキル】でへし折っていた。

 慌てて靴で踏みつけて隠す。幸い、高遠くんとマヤちゃんは話に夢中で気づかなかったようだ。

 ちらりと隣を見ると、太一郎君が相変わらずのんびりとした笑顔のまま、しかし目はしっかりとあたしの足元を見ていた。


 小さく首を振って目だけで「言わないで」と訴える。

 太一郎君は静かに頷いてくれた。

 さっきから思ってたけど、たぶんこの人は……


「それにしても、アーサー王に『ゆみはや』?

 騎士ナイト弓術士アーチャーなんて超攻撃的パーティーじゃない。羨ましいなあ。ねぇ太一郎」


 マヤちゃんの言葉に太一郎君は「そうだね。マヤちゃんの言う通り」と頷く。

 それでマヤちゃんは満足そうに鼻を鳴らして、焚き火に手をかざしながらふうとため息をつく。



「私と太一郎、2人ともサポート系スキルだから。

 戦闘もイマイチ捗らなくってねー」



 マヤちゃんの愛読書ギフトは『不思議の国のアリス』。

 今のところ使えるスキルは2つ、

縮小化ストレンジ・ボトル】と【巨大化ファニー・ケイク】だそうだ。


【縮小化】の方は、さっき見たように手のひらサイズに変身できる。

【巨大化】の方は一軒家を破壊するぐらい身長を大きくできるみたいで、使い用によっては強力な攻撃スキルにもなる。ただし、


「この前うっかり太一郎を踏み潰しそうになっちゃって。それ以来【巨大化】は控えてるの」


「歩くの疲れないからって最近は常に【縮小化】して俺の肩に乗ってるんだよね」


 太一郎君は、ともすれば乗り物にされてるようなものだけど、嬉しそうに言った。


 2人はどうも昔からの幼なじみらしく、たまたまお互い一緒に神さまに呼ばれて召喚されたらしい。

「腐れ縁なの」とマヤちゃんは口を尖らせて言った。


 太一郎くんは、ハロウィンの仮装チックなマヤちゃんと比べると、シンプルなシャツにダウンジャケット、動きやすそうなパンツにスニーカーというあまりにも普通の格好をしていた。

 〝投影〟の影響はあたしと同じく分かりづらい。少なくともファンタジーではなさそう。


「太一郎の愛読書ギフトはジャンルがちょっと変わってるからね。スキルも扱いが難しいの」


「へえ。ジャンルって?」

「自己啓発本」

「わお」


 それはまた……。

 神さまもあたしのギネスブック並みに頭を痛めに違いない。


「タイトルは『やればできる〜楽して1000%の力を出すための100の方法〜』。

 まあ内容的には『気の持ちようで大抵のことはなんとかなる』みたいなもんで、ひたすら言葉で励まし続けるような本なんだけどさ。

 どうも登場人物のない愛読書ギフトを投影すると、スキルも本の内容を変則的に解釈したものになるみたいだね」


 太一郎君は言って、そうだなあ、とあたしの方をちらりと見た。


「試しにアリアちゃんに俺のスキルを使ってみよう」


「へっ!?」


「ちょっと……」


「大丈夫よ高遠君。太一郎のスキルは基本攻撃はできないから」


 そんな怖い顔しないでも、と、マヤちゃんはニヤニヤ笑った。


「アリアちゃん、ちょっとこれ持ってくれる?」

「う、うん……」


 太一郎君はあたしに一本の鉄串を手渡すと、淡々と言った。


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「…………ハッ!?」


 パキッ、と小さな音を立てて、指先の鉄串が真っ二つに折れた。


 念のため言っておくけど、あたしのスキルは発動していない。どころか、指にものすごい力を入れた覚えすらない。


 そう、太一郎君に言葉をかけられてる間、あたしは何も考えていなかった。ということはーー


「……つ、ついにあたし、リアルゴリラに……?」


「アリアちゃん何言ってるの……?

 ふふふ、これが太一郎のスキル、【瞬間式暗示サジェッション・コード】なの」


 えっへん、となぜか本人ではなくマヤちゃんが解説&ドヤ顔してくれた。


「暗示……対象の能力を、言葉によって一時的に向上させるスキル、ってことかな?」


「そ。まさに自己啓発って感じでしょ?」


 思い込ませることで不可能を可能にする本、それがスキルとして落とし込まれるとステータスアップのような効果を持つ、ということらしい。


 自己暗示も可能で、味方に使えば強化スキル、敵に使えば弱体化スキルとして有用なのだと太一郎君は言った。


「ただ、暗示の内容が反映される程度が弱かったり、持続時間も短いし、まだ魔獣相手には効かなかったり……って感じで使いこなすには時間がかかりそうなんだよね。

 今のところは俺に能力強化をかけて戦闘も何とか凌いでる感じ」


「私に暗示かけても良いって言ってるのに、もうちょっと安定してからって言ってなかなか聞かないのよね。だから私って戦闘ではまるで役立たずなの」


 可愛らしくくちびるを尖らせてマヤちゃんは太一郎君を睨む。意に介さず太一郎君はニコニコと笑うだけだった。


「へえ……でもそれって、使いようによってはものすごく強力なスキルになりそうだね。まるで洗脳みたいだ。ちょっと怖いな」


 感心したように高遠くんは頷く。

 あたしはなんとなく、ニッチ系な愛読書ギフトのマルチなスキルという点で太一郎君への親近感をますます増すばかりだった。


「なあにアリアちゃん、太一郎なんかじーっと見つめて。コイツはやめた方がいいわよ、ニコニコ人が良さそうに見えて中身は結構腹黒いんだから」


 ぽん、とマヤちゃんに肩を叩かれて慌てる。


「あ!? ごめんね、じろじろ見たりして」


「いーえ別に。アリアちゃんみたいなかわいい子なら大歓迎」


 太一郎くんは冗談めかしてそんなことを言った。

 困惑しているとマヤちゃんが太一郎くんの脇腹をぼすっと殴った。いいストレートだ。


「太一郎。そろそろ怒るよ」


「はいはい。マヤちゃんに怒られるのは別にいいけど、そろそろ止めないとさすがに怖いしね」


 言って太一郎くんはちらりと高遠くんを見た。

 でも高遠くんはさっきから静かに小枝を折って火を焼べているだけだった。興味のない話が続いたからか、若干不機嫌そうにも見える。


「でもアリアちゃんがかわいいのには私も同意だわ。なんだかとっても面白そうだし。ねえアリアちゃん、せっかくこんなところで知り合えたんだし、元の世界に戻ったらどこか一緒に遊びに行かない?

 その、ちょっと遠いけど会いに行けない距離じゃないし、私会いに行くし……」


 明るく提案しながらも、マヤちゃんはどこか不安げにもじもじと膝の上で両手を絡ませていた。

 なんだかその姿がいじらしくてあたしはつい笑ってしまう。


「もちろんいいよ。あ、そうだ、映画にする? えーっと、ゆみはや? の」


 マヤちゃんが好きって言ってたし(あたしも好きだという設定だし)何気なく提案して見たら、思いがけず場の空気が固まってしまった。

 あれ? 何を間違った?



「雨宮さん、あの映画確か……」


「元の世界じゃ、今週公開予定だったなー」



 高遠くんと太一郎くんが言いづらそうに呟く。


 そっか、あたしたちはしばらく元の世界には帰れないのだ。

 今週始まる映画が、映画館の上映リストから消えるまでなんて、そんな短い期間ではないぐらい、しばらくは。

 今元の世界ではどれぐらいの時間が経ったんだろう?

 急に不安になって、あたしはしゅんとうな垂れてしまった。


 そんなあたしを見兼ねて、マヤちゃんは、「いいじゃない、レンタルでもすれば」と手を打ってくれた。



「それにしてもこんなに早く他の勇者に会えるなんて思ってもみなかったわ。私たち以外の勇者はもう王都に着いてるのかしら?」


「さあ……どうだろうね。そもそもどこの誰があの神さまの怪しさ満点の勧誘に応じたのか」


「相当な物好きか変人だよな、人のこと言えないけど」


「……でも、あたしみんなに会えてうれしいな。 同じ世界の仲間がいるんだって思うと心強いよ」



 焚き火を囲み、星空の下で、思い思いに燃える火を見つめる。



「……早くみんなで帰れるといいね、僕たちの世界に」

『グーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』


 しんみりとした空気を裂くようにあたしのお腹の音が鳴り響き、鹿パーティー第二弾(チキチキ内臓ホルモンの部)が幕を開けたのだった。



 高遠くんに『腹で返事をする女』と思われたショックであたしは大いにやけ食いした。



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