エピローグ①
大通りの被害は甚大だった。
だけど死傷者は1人もいなかったと聞いて、あたしはほっと胸を撫で下ろした。
「アリアさん、アリアさん!」
「あ、エリュシカ」
物見矢倉から下り、外に出て来た街の人に囲まれていたあたしに駆け寄り、エリュシカが飛び付いてきた。
「し、死んじゃったかと思いましたよぉー」
「エリュシカの弓のおかげだよ、ありがと」
うりうりとふわふわの頭をめいっぱい撫でてやると、エリュシカはうんうんと泣きながら頷いた。
「ルードレイクさんは大丈夫?」
「はい、意識もはっきりしてます。今はお父さんが代わりに。大事には至らなそうです」
そっか、よかった……。ギュスタさんにも早く教えてあげなくちゃ。
けどしばらく会いには行けなさそうだった、取り囲む人の熱がすごすぎて。
「しかしお嬢さん、とんでもない弓の名手だ!」
「相当な手練れとお見受けする。ぜひ英雄として我が街の名誉市民に!」
「いいえ、自警団長としてずっとこの町を守ってほしいものですわ!」
「ええーと……あはは……」
16人ぐらいに同時に話しかけられ、身動きも取れずたじろいでいると。
「雨宮さん!」
その声だけは聞き逃すわけがなかった。
あたしはまっすぐにその声の持ち主を見据える。
道の向こうから駆けてくるその姿。あたしは群衆を掻き分けて走り出した。
「高遠くん!」
駆け寄ってまず体を確認する。大怪我はなさそうだったけど、牙が掠めたのか背中の生地が斜めに破けて、その下の肌に赤い傷が走っていた。
「い、痛そう……」
「かすり傷だよ」
泣かないでよ、と明るく笑い、それから、少し気恥ずかしそうに顎を指で掻く。
「情けないけど助けられちゃったね、ありがとう。
……でも驚いた、あんなスキルがあったなんて」
「…………」
「ようやく分かった。今までもおかしいとは思ってたんだ。
雨宮さん、君の
ごくり、と唾を飲み込む。
そうだよ高遠くん、あたしはゴリラ。高速で地を駆け、山を登り、怪力を誇る女子……これからはどんな重たい物でもあたしが運んであげるからねーーー
「うん。あたしの
「
「スブック……。って、え? 何て?」
拍子抜けするあたしの前で、高遠くんはうんうん頷きながら話し続ける。
「略してゆみはや。女子高生の間で大流行って言ってたもんなー。前後編で映画化もされるんだよね!」
「あっソウナンダー……」
「さすが雨宮さん、女の子らしい本の趣味だね。
多少描写が人間離れしてるって聞いたことあるけどまあ漫画だしね、それなら身体能力が高いのも納得だよ」
あはは、とスッキリしたような表情で笑う高遠くん。
うわー…………。
すげー言い出しづらいー……。
「あ、あの……」
「お見事でした、屈強な旅の方!」
言いかけたあたしの勇気を、いつの間にか横にいた自警団のお姉さんが打ち砕く。
「町を壊滅せんとする大型魔獣の討伐、正に英雄の所業。町を代表してお礼を申し上げます。格闘技だけでなく優秀な
仕事の依頼ではありませんでしたが、是非功績に見合ったお礼をさせていただきたいのです。何か希望の物がありましたら何なりとお申し付けください」
「いいんですか? じゃあありがたく」
「ま、待って高遠くんその前に話が……」
高遠くんはぽんと手を打つと、お姉さんに告げた。
「では、次の町に行くために旅の資金の援助を。
それから、街を救った
わあっと歓声が湧く。
武器屋の店主らしいおじさんが何人か、お嬢ちゃんうちのにしな! いやうちのだよ! とやんややんや声をかけてくる。
今夜は祭りだ!と町は大賑わいで、あたしの「あの……」という蚊の鳴くような声は誰の耳にも届かない。わっしょいわっしょい。
「…………でもまあ」
隣にいる高遠くんを見上げる。
すると高遠くんもあたしを見ていたようで、目が合うとにっこり微笑んでくれた。
「高遠くんがいいなら、それでいっかあ……」
あたしはふへへと、頰を掻いて笑った。
「ねえアリアさん、何か食べたいものありませんか? 私何でも作りますよ!」
エリュシカが手を挙げて言った。
そうだな、それじゃあ……。
「この世界にもある料理だといいんだけど……」
頑張って作りますよ、とエリュシカは頷く。
「あたし、パンケーキが食べたいな」
前略神さま様。
どうも可愛いヒロインにはなれそうにないですけど、あたし、これからも頑張ろうかなって思います。