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スキルが強すぎてヒロインになれません 作者:奏中カナ

第1章 嘘とはじまりの街

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襲撃③ 幕引きの弓

 

 大きな洋弓ロングボウとたった一本の弓矢。

 魔獣相手には頼りないそれを大切に抱え、あたしは屋根と屋根の間を【跳躍】スキルで飛び越えながら大通りの真ん中を目指していた。

 物見矢倉。あそこまで行けば敵の正面を狙える!


 とう、と2m強の距離をジャンプしながら、100m9秒58の速度で走り抜ける。

 下では高遠くんが懸命に戦っている。力ではまさっていても、斬っても斬っても回復するんじゃいずれこちらの体力が尽きる。

 けど不死身なんてずるすぎる! ギュスタさんが言うようにぜーったい何か弱点があるはず!


 あたしは確信を持って駆け抜けていたものの、さてそれが何かまでは見当もつかなかった。

 起死回生の得策もないまま、大通りの中心に辿り着き、屋根の端からスキルを使って物見矢倉に飛び移る。


 無事に着地を決め、数十メートル先の敵を見据えた。

 とりあえずせめて時間稼ぎに目玉の1つでも潰しておきたい。


 ーースキル、【超遠視スーパーヴィジョン】!


 瞬間、ぼやけていた猪の頭部が鮮明にあたしの眼に映る。


 大きな牙、イボのある上向いた鼻。そしてぎょろりと溢れそうな目玉。

 そしてその上に、


「…………ん?」


 何か光った。あたしは更に目を凝らす。


 猪の額、その中心。スキルを使わなければまず見えない程の小さい何かが輝いている。


 それはあの魔族の瞳と同じ、怪しい赤色の光を放つ宝石のようだった。


 あ、あやしすぎる……!


 絶対あれじゃん! 絶対あれが弱点じゃん!

 あたしは確信を持って数十メートル先の豆粒のようなそれを指差してツッコミを入れた。


「高遠くーーん! おでこーー! あの宝石さえ砕けば倒せそーーー!」


 力の限り叫んでから、いや、でも地上4メートル近い位置にあっては剣撃も届かないのでは? と思い至る。


 あたしの声だけは微かに届いていたようで、ぜえぜえと息を切らす高遠くんが振り返り、矢倉に立ったあたしを視認して目を剥いた。


「雨宮さん!? 何してるの!?」


 振り返りながらも、手にした剣で猪の猛撃を去なす。動きが鈍ってきた。疲弊している。押し切られるのも時間の問題だ。


 あたしは手にした弓を見つめた。

 そして視線の先、数十メートル離れ、振りかぶる巨大な頭の中心にわずかに光る小さな点を見た。


 弓矢は一本。


「…………十分だよね、愛読書ギフト


 まったく、人類って頑張りすぎだ。

 全くもって可愛げというものに欠ける。



 あたしは両足を開きしっかりと踏み締めて、足場を固定した。

 姿勢を正し、弓を構え、たった一本の矢を弦に充てがう。


 スキルを使って筋力を最大まで引き上げ、右の拳を弦ごと後ろに引き寄せる。

【超遠視】で的を定める。風の流れ、飛距離、弓に触るのなんて生まれて初めてなのに、全部手に取るように分かった。


 得物はちょっと旧式だけど、数十メートル先ぐらいなら余裕だろう。


 だって人類は、280メートル先の的だって正確に射抜けるんだから。



「高遠くん、あたし多分、守られるような女の子じゃないかもしれないけど……」



 それでもできればこれからも一緒にいたいなと、あたしは今のうちに願っておいた。


 視界は良好クリーンだ。何にも迷うことはない。



「スキルーー【超遠距離射的パーフェクト・ショット】!!」


 


 渾身の力で放った矢が真っ直ぐに飛んで行く。


 当たる。何の疑いもなくそう思える。

 吸い込まれるように切っ先は一点を目指す。


 そうして寸分の狂いもなく命中した矢により赤い宝石が砕かれると同時に、あたしは叫んだ。


「がんばれ、高遠くんーー!」



 振り下ろされた最大出力の聖剣カリバーンの剣圧が視界の先を薙ぎ倒す。




 こうしてあたしのヒロインごっこは、あっけなく幕を閉じるのだった。


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