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スキルが強すぎてヒロインになれません 作者:奏中カナ

第1章 嘘とはじまりの街

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聖者の休日① 土と雑草と嘘

 

 自警団本部での騒動から数日。

 晴れて自由の身になったあたしたちだけど、イデアの森に猪がいなくなってしまったので資金集めは小休止中だった。


 それよりむしろ、あたしたちを助けるために無茶をしたエリュシカが公務執行妨害的なアレで自警団の人たちからめっちゃ怒られ、フライパン殴打の治療費も含めて罰として自警団本部に美味しいお弁当を作って届けるという余計なお仕事を増やしてしまっていたので、その罪滅ぼしに忙しかった。

 二階の改装も終わって益々大繁盛の宿エーデルワイス、手伝う仕事には事欠かなかった。


 運動神経よし、頭よし、顔よし性格よし……と完璧超人だった高遠くんは、何をやらせても人並み以上にこなしてしまったので、調理補助から荷物運び、接客まで引っ張りだこだった。


 それに対して料理駄目、掃除駄目、洗濯駄目、接客計算全部駄目なあたしが出来ることといえば食器洗いぐらいだったんだけど、ついにそれすらも先日記念すべき10枚目のお皿をキレイなカケラに変貌させてしまってからは斡旋されなくなった。


 おのれ愛読書ギフト、もっと地味で生活に根ざした記録を載せといてくれれば良いものをーー! 10mのタコスなんか作ってどうするつもりなんだよ!!


 そういうわけで、あたしは再就職先である宿の庭の手入れに精を出していた。


 自然派にこだわっているエーデルワイスの野菜や鶏はそれだけに育てるのに手間がかかる。

 さすがに草を抜いたり虫を避けたり、ニワトリ小屋の掃除をするぐらいならあたしにもできる。

 もはや小学校の生き物係と何が違うのか分かんないけれど。


 エリュシカに借りた麦わら帽子を被り、朝からあくせく土と向き合っていたら、宿内の仕事にひと段落ついたらしい高遠くんも手伝いに来てくれた。


「雨宮さん、変わるよ? ちょっと休んできなよ」


「いえいえ……あたしにできることなんてこれぐらいですので……

 ところでニワトリをずっと見てて思ったんだけど、異世界でファ◯チキみたいなの売ったらめっちゃ儲かると思わない?? 魔王を倒したらあたし異世界コンビニを開業しよっかなあ、ふふふ……」


「……駄目だ、疲れすぎて更に頭が……」


 ごくりと唾を飲む高遠くんの後ろで、ニワトリがコケコケーと猛烈な抗議の鳴き声を上げていた。チッ。

 ちなみにこの世界のニワトリはちょっと色が変わってるし、小さな角のようなものも生えていた。味に遜色ないのはエリュシカの料理で証明済みだけど。


 高遠くんはものすごく心配そうに青ざめながらあたしの隣にしゃがみこみ、顔を覗き込む。


「あ、雨宮さん鼻の頭。土付いてる」


「え? あー、さっきこすったから」


「そこじゃないよ、こっち」


 言って高遠くんがあたしの顔に指を伸ばし、ようやくとんでもなく奇跡的な状況に身を置いていることに気がついた直後。


 甘い雰囲気をパワーショベルで根こそぎ撤去するような大声が庭に響き、高遠くんは指を引っ込めた。


「王立騎士団ギュスターヴ、失礼する! ここにアマミヤアリアとタカトオシンヤが潜伏していると聞き、非番なのに遥々出向いて……来た…………な、なんだアマミヤアリア、その今晩の夢に出そうな瞳孔開ききった虚ろな目は?」


「死人は夢を見ませんよ」


「待て、なぜ鎌を振り上げている?」


 庭の入り口に立つギュスタさんーー非番というのは本当のようで、白銀の鎧ではなく、ちょっと貴族感のある私服を身に纏っているーーはあたしを見てたじろぐと、助けを求めるように背後ーーそこに控えていたルードレイクさんを振り返った。


「藪蛇というやつです、ギュスターヴ様。その対価は死罪です」


「何故!?」


「相手が少年少女だからです。罪が重いですよ、早く謝った方がよろしいかと」


「ぬ……。うん、まあ君がそう言うのなら正しいんだろうな……何が悪いのかさっぱり分からないが、悪かった」


 誠意0パーセントの謝罪と共に頭を下げるギュスタさんに、あたしもなんだか一周して怒る気も失せて鎌を下ろした。立ち上がって汗を拭い、土を払う。


「暇なんですねギュスタさん」


「……暇じゃないさ、ただ君たちは未だ不審人物の疑い晴れぬ観察対象なんだ。こうして抜き打ちで視察に来るのもまた騎士の勤め。怪しい儀式や集会でもしていたら即刻討とうと思っていたが……アマミヤアリア、君、何をしているんだ?」


 ギュスタさんはキリッとした表情を崩し、物珍しそうに畑と土だらけのあたしの手、くわや山積みになった雑草をきょろきょろと眺めていた。

 王都出身のようだし、もしかしたら畑仕事なんて初めて目にしたのかもしれない。


「雑草抜きとアブラムシ駆除ですよ」


「アブラム氏?」


「そんなナマステを感じる名前では……害虫です。手強いですよー、魔獣退治より大変です!」


「何? さてはそこに君達の力の秘密が……」


「無いと思います、ギュスターヴ様」


 ルードレイクさんが冷静に突っ込んだ頃、騒ぎを聞きつけたらしいエリュシカがひょこっと庭に顔を出して「あれ?」と目を丸くした。


「アリアさん、騎士様とお友だちになったんですか?」


「んー、そんなかんじ」


「誰がお友だちだ。……フッ。今日こそは王立騎士団の栄誉に賭けて君たちの奇怪な能力の正体を暴かせてもらおう」


「すみません、田舎の休日とか何したらいいか分からーんと腐っていたので散歩でもしたらどうですかと勧めたらおかしなやる気を出してしまって……」


 申し訳なさそうに頭を下げるルードレイクさん、補佐官って大変なんだなあ。

 長い綺麗な髪を上品にまとめて、服装はシンプルなブラウスに軽い生地のロングスカート。


 休日だからか昨日の鎧姿とはガラリと変わって女性らしさが強調されているのが意外だった。でも、どっちもとても良く似合っていると思う。


 昨日はちょっとギスギスしちゃったけど、この二人はきっといい人だ。不満そうにルードレイクさんに文句を言っているギュスタさんに、あたしは一つ提案をすることにした。


「ギュスタさん、グラタン好きですか?」


「は? ……………………好き」


 唐突な質問に面食らいつつ、きちんと噛み砕いて考え、ちゃんと返答する。うん、ギュスタさん、たぶん育ちの良い素直な人だ。


「じゃあ一緒に食べましょう。畑仕事がひと段落したらランチにする予定なんです。エリュシカのグラタンは美味しいですよ」


 ギュスタさんはほんの少し目を輝かせ、しかしすぐに頭を振り咳払いをする。


「……その、馬鹿にするわけでは無いが、騎士が土弄りなど。そんな暇があるなら民の為剣の鍛錬に励むのが真の王立騎士団員……」


「アリアちゃん、このあたりの草を抜けば良いですか?」


「なっ……ルード、何を勝手に袖をまくっている?」


 スカートをたくし上げてしゃがみ、白い腕を土に伸ばすルードレイクさんに、ギュスタさんは素っ頓狂な声を上げた。ルードレイクさんは構わず淡々と返す。


「勝手も何も、非番なのは私も同じなので。そしてグラタン大好きですので」


「……いや確かに君も好物だったと記憶しているが……いやしかし、」


「ギュスタさんそっちのうねお願いします~」


「ギュスタ言うな!

 くっ……し、仕方ない。守るべき民の暮らしを知ることもまた騎士としての教養。このギュスターヴ・アルノーが本気を出したからには一本の雑草、一匹の害虫も残さずこの地に平穏をもたらすことを約束しよう」


「あっそれは雑草じゃなくて苗ですよ!」


 ふっふっふと言いながら腕まくりしてむんずと手近な草を掴んだギュスタさん、即座にエリュシカにめっと叱られて落ち込んでいた。やった、無能仲間が増えた!



 騎士団の二人は飲み込みが異常に早く、あたしはあっという間に領分を奪われてしまった。


 陽気を受けてすくすく茂っていた雑草は根が深いものも多く、根こそぎ抜くのは骨の折れる作業だったけど、四人がかりで取り掛かるとずっと楽になり、今ではほぼ摘み取られうず高く積もっている。


「……ふう、なかなか手強かったな、雑草というものは。この草はどこに捨てるんだ?」


「それは捨てないで後で畑に戻すんですよ。堆肥にするそうです」


「成る程。ではあちらの隅の方に運んでおきましょう」


 二人の騎士さんたちはひょいと山盛りの雑草を抱えると手を出す暇もなく運んで行ってしまった。


 ようやく高遠くんと二人きりになり、何だか久しぶりなのでドキドキするのを抑えつつちらりと見ると、高遠くんは何だか物憂げな顔をしていた。


「……どうしたの?」


「いや……ここに来てもう何日も経つけど、元の世界での時間経過はどうなってるのかなと思って」


 言われて、あたしも俯いてしまう。


 もしも異世界と元の世界で同じだけの時間が経っているとしたら、あたしたちは放課後突然姿を消したことになっているはずだ。

 行方不明になった日数的に、事件として扱われていてもおかしくない。


 ……あんまり考えないようにしていたけど、両親やお兄ちゃんのことを考えると胸が痛む。きっと心配しているだろう。


 それに、チカちゃんたち。

 また明日なんて行って別れちゃったし、もしかしたらあの時無理にでも一緒に出かけていれば……なんて気に病んでるかもしれない。そしたら申し訳ないなあ。


「……雨宮さん、大丈夫?」


「え? ああ、うん。ただチカちゃんとミユちゃんは元気かなあと思って……」


「ふーん……お友達?」


 何気ない高遠くんの言葉に耳を疑いぱちくりと目を瞬いた。そんなあたしの様子に高遠くんは怪訝そうにしている。まさか、まだ転移してからそんなに長い時が経ったわけでもないのに。


「高遠くん、もう忘れちゃったの? クラスメイトなのに」


「えっ?」


 珍しく間の抜けた声を出して、高遠くんはしばし脳内を家宅捜索するように押し黙って考え込みーーややあってから、閃いたように顔を上げ

 た。


「……ああ、篠崎しのざきさんと田邊たなべさんか!

 ごめん、クラス替えしたばかりだったからまだ下の名前までは……」


 高遠くんはそういうところ、律儀そうだったからちょっと意外だ。人の名前とかすぐに覚えちゃいそうなのに。でもまあ男子ならともかく女子、しかも同じクラスになって一週間程度だし、無理もないか。


 ……あれ、でも。


「高遠くん、転移した時あたしのことフルネームで呼んでなかった?」


 素朴な疑問に高遠くんはぴたりと動きを止め、焦ったような表情でだらだらと冷や汗を流し始めた。おお、レアな表情だ。


「それは……」


 そしてその明晰なる頭脳をフル回転させた様子で考え込み、ぐっと奥歯を噛み締めて、ようやく言葉を絞り出す。


「…………か、変わった名前だから……?」


 ……ああー。

 そう言われるのは慣れてる。


 そもそもチカちゃんがあたしに話しかけた第一声は「すっげえキラキラした名前だね」だったし、ミユちゃんに至っては「絶対に有里アリさんか亀有カメアリさんと結婚してね」と再三にわたって催促される始末だった。


 でもそのおかげで高遠くんの記憶のすみっこに引っかかっていられたなら万々歳、ノリで名付けた両親に感謝しなければならないな、と、あたしは一人実家と思われる適当な方角に向けて手を合わせ念を送るのだった。


 穏やかな表情のあたしを不思議そうに眺めつつ、高遠くんは何か窮地を脱したかのようにほっと息を吐いていた。




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