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スキルが強すぎてヒロインになれません 作者:奏中カナ

第1章 嘘とはじまりの街

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酷薄の森④ 人畜無害の証明

 

 白銀の騎士さんに声高に苦情を言われた高遠くんはしばらく眉間にしわを寄せ口を引き結んでいたけれど、やがて額に手を当てながら観念したように言葉を紡いだ。


「ええと、王立騎士団……ですか。

 ということは、あなたが王都から自警団に派遣されたという騎士の人ですか?」


「いかにも。ここ南は北に比べ魔族の手も薄く比較的平和だが、近頃この森の魔獣が凶暴化しているとの報告を受け、急遽人員配置措置が決定された。そして選ばれたのが俺だ」


「ああー、本社から地方に急な転勤ってやつですか!」


「ホンシャもテンキンも分からないが君が失礼なことを言っているのは分かるぞ!?」


 言って騎士の人は腰の大剣を鞘から引き抜くとあたしの方に向けて構えた。思わずびくっと肩が跳ね上がる。それを見て高遠くんはキッと前方を睨み、低い声で言った。


「……民間人の子供、なんて言っておきながら剣を向けるんですか?」


「ただの子供なら無論しないさ。騎士の剣は民を守るためのものだ。……しかしこの森の惨状を見て、君たちがただの民間人であるという保証がなくなった。

 ……わざわざ王都から出向いて来て見れば森の魔獣は討伐され尽くし、しかもその爪痕はどう見ても人のなせる技とは到底思えない。

 君たちは何者だ? どこから、何をするためにこの街に来た?」


「…………僕たちは」


「こことは別の世界から、魔王を倒すために召喚されて来た勇者です!」


「……は?」

「なっ……! 雨宮さん!?」


 自信満々にドヤ顔で答えてみたら、騎士さんにはドン引かれ、高遠くんには青褪められた。

 ……あ、これは何か大失敗した予感……。


「…………どんな適当を言うかと思えば随分バカにされたものだ。別の世界だって? 馬鹿馬鹿しい、そんなものが存在するはずがないだろう。

 ……それになぜ、我々の脅威の名が『魔王』だと知っている?」


 訝しがる騎士さんの声に、あたしと高遠くんは一瞬固まり、やがてその意味を理解すると一気に顔を青くする。


「……ま、まさか!?」

「それ、非公開情報だったのか……」


 二人一緒に呆然とする。あ、あの神さま、大事な情報端折りすぎ……!!


 どうやら『魔王』という呼称は通称ではなく、一民間人には知り得ない情報だったらしく、あたしたちは一気に超絶怪しい奴らへと格下げされてしまった。ほんと覚えてろよ神さま。


「やはり魔族か……? それにしては随分と間抜けに見えるが……」


「主にあたしを見ながら言わないでくれますっ!?」


「……まあいい。聞いて分からないことは剣で吐かす」


 言って、騎士さんは剣を握った腕を伸ばし、切っ先で高遠くんの携えた聖剣カリバーンを指し示す。

 抜いてみろ、ということのようだった。


「少年、君の力を見極め、それをもって処遇を判断させてもらう。魔の者でないというならばその剣技、存分に俺に見せてみるがいい」


「…………」


 つう、と、汗が一筋、高遠くんのこめかみを流れていく。何を躊躇っているのかは分かる。人間相手に聖剣カリバーンを使って、無事で済ます自信がないのだ。


「…………鞘のままか、余裕だな。では力づくで抜かせてみせよう!」


 言うなり騎士さんは大剣を構えて足を踏み出し、高遠くん目掛けて思い切り刃を振り上げた。

 速い、そして迷いのない洗練された動き。

 高遠くんは苦々しげに舌打ちをして、鞘から抜かないままの聖剣を掲げてその剣撃を受け止めた。


「…………ぐっ」

「ほお、丈夫な鞘だな。だが受け身で凌げる程王立騎士団も柔では無い!」


 軽々と剣を振り上げて、騎士さんは続け様に高遠くんに連続して攻撃を仕掛ける。

 重そうな剣だと言うのに軽々としたものだ、さすがに高遠くんも受け止めきれずに体制を崩す。

 その隙を逃すはずもなく、騎士さんは上から振り下ろしていた大剣を素早く沈み込ませ、思い切り聖剣の鞘に下からぶつけてて弾き飛ばした。


 宙高く回転しながら放り投げられた聖剣が、地面に落ちて重い音を立てる。

 歯を食いしばって手を伸ばした高遠くんの進路を、即座に騎士さんの長い剣が遮って塞いだ。


「…………」


「……勝負あったな。なんだ、その程度の力でどうやって魔獣討伐などやってのけたんだ? てんで弱いじゃないか」


「……そう、です。民間人ですから」


 高遠くんは重たげに言葉を落とし、悔しそうに俯く。

 きっとそれが正しい判断だ。下手にここで愛読書ギフトの超常スキルを使えば疑いを強固なものにしてしまう。だったら力を隠して大人しく敗北を認めるのは賢明な高遠くんらしい。


 だけどあたしは賢明ではなく、それどころか神さまも認める愚直な勇者だった。

 ……余計なお世話かもしれない、でも、高遠くんは弱くなんかない。このまま引き下がるのはなんか嫌だ!


 心に念じ、脳裏に浮かぶ文字に従いスキルを発動させようとしたその時。



「ーーーーおすすめはしませんよ」


「…………は」



 首筋に突如として生じたひんやりとした金属の感触に、全身の血の気が引く。


 かたかたと震える歯を噛みながら、視線だけを後ろに向け、どうにかその姿を捉えるーー


 あたしの背後に、ぴったりと張り付くようにして立っている白銀の鎧の騎士。その手に握られた細剣レイピアが、弦楽器にあてがわれた弓のように真っ直ぐに、その鋭い刃をあたしの首筋に沿わせていた。


「表皮の第一層を剥かれたぐらいでは人は死にませんが……ものすごく痛いですよ。ですから抵抗するのはおすすめしません」


 氷のように冷たいその女の人の声は、えげつない警告を淡々と紡ぎながら耳元で響いていた。


 いつの間に、と言おうとして、全く喉が震えず困惑する。少しも気配がしなかった。なんだこの人、忍者か!? ていうかこの状況なんかピンチなのでは? まずい、怖くて指一本動かせない。

 あと多分この人本気だ、ちょっとでも動いたら迷わず皮剥きし始めると思う。ピーラーの称号を与えよう。


「……ん、ルード、そっちは見るからに無力だろう。弱者を一方的に痛めつけるのは騎士道に背く行為だ」


「いいえ、むしろこの少女こそ警戒すべきかと。

 ……それに我々の目的は件の旅人の()()()()こと、こうでもしなければ恐らくーー」


 あたし達を挟んで会話を始めた騎士二人。その声で高遠くんは振り返り、ひっそりと捕虜っていたあたしに気づいた。

 そして、


 目にも留まらぬ速さで気の緩んでいた騎士さんの大剣を掻い潜ると、そのまま聖剣の柄に手を掛け勢いよく鞘から引き抜いた。


 風は制御されていたーーでも、ぶわっと震えた大気にその場にいた全員が身震いする。引き抜かれた刀身は金色に眩く輝き、高遠くんがどんな顔をしているかはよく見えない。


 目を細めるあたしの狭い視界の中で、高遠くんは聖剣を高く掲げるとーーーーそのまま思い切り、地面に突き立てた。


「…………おや」


「ちょ、ちょっとーー!?」


 身動きの取れないあたしと、騎士のお姉さんに向かって、剣の真下から激しく湧き上がった地割れの亀裂が、稲妻のように真っ直ぐ走ってくる。

 こ、これはーーーーモーセごっこやむなし!?


 大地を割る凄まじい剣圧に思わず目を瞑ると、後ろから冷たい籠手に首根っこをむんずと掴まれ、あたしは騎士のお姉さんごと真横に吹っ飛ぶ。


 コンマ数秒遅れてさっきまであたしが立っていた地点に地割れが走り、谷が出来た。


 亀裂はその後数メートル程森を横断するように走った後ようやく止まり、辺りに唐突な静寂をもたらした。


 しん、と沈黙が耳に痛い。


「……………」

「……………」

「……………」


「……あの、このタイミングで言ってもアレなんですけど、僕たち本当に魔王の手先とか怪しい者じゃないんで……」


 信じてください、と死んだ魚の眼で訴えた高遠くんだったけど、騎士の人も女騎士さんもあたしも「いやいやいや」と手をぱたぱた振って否定した。


 いや雨宮さんは違うでしょ、と恨みがましく突っ込まれたけど、命が惜しいから高遠くんのことはできるだけ怒らせないようにしよう、とあたしは肝に銘じるのだった。


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