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スキルが強すぎてヒロインになれません 作者:奏中カナ

第1章 嘘とはじまりの街

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旅のはじまり②  スキル

 

 神さまと聖女さんは、おまけで来たあたしに大分説明を端折はしょったらしい。


 何も知らされていないことに吃驚しつつ高遠くんが教えてくれたところによれば、あたしたちが飛ばされたこの国は、大陸の最北の地・王都で魔王という何だかいかにも悪そうなやつと戦争をしていてとってもピンチ。


 だけどこの世界の創造主たる神さまは、一度創った世界には干渉不可能という神様業界の戒律のせいで、人間を助けたくても手出しできない。


 でも別の世界には干渉可能。ということで、あたしたちの世界でスカウトをかけて、スキルを与えて世界を救う勇者として召喚することにしたーーってことらしかった。


 今いるところは大陸の最南端。

 王都までは七つの町が点在しているので、とりあえず力をつけながら旅をして北を目指す、というのが当面の目標みたいだ。


 ちなみに微妙な愛読書以外に何の餞別もくれなかった侘しい神さまだったけど、この世界の言語や文字を理解する能力はサービスで付けてくれたそうだ。とりあえず会話や読み書きに苦労する心配はなさそう。



「ふんふん。それで、世界を救ったら何でも一つ願いを叶えてくれるんだっけ?」


「そういうキャンペーンやってないらしいよ」


「ええー……」



 想像を絶するブラック召喚だった。

 無賃無休無期限、生命の保証無しなんて……快く承諾した高遠くん釈迦如来、と思いながら思わず拝んでしまう。


 しかもあたしを含めて7人の現代人が召喚されたっていうから驚きだ。

 高遠くんみたいな相当ないい人か、もしくはあたしみたいな相当な変な人に違いない。うん。この先会うことがあったらちゃんと仲良くできるかちょっと心配だな……



「とりあえず、早くこの森を出て最初の町に行きたいよね。時間、まだ明るいからお昼みたいだけど、暗くなったら怖いし。お腹も空いて来たし」


「……うん、結構歩いたしね、……ていうか雨宮さん」


「え?」



「歩くの速くない?」



 言われて、なんだかいつの間にか高遠くんの声が随分遠くから聞こえるなあということに気づき、立ち止まって振り返ってみる。


 するとどうやら、優に10メートルぐらい後方に高遠くんを置き去りにして、あたしは鬱蒼とした森の中を一人颯爽と歩いているのだったーー超スピードで。


 やけに空いてしまったディスタンスを埋めようとせっせと歩く高遠くんを見つめながら、思わず頭を抱えてしまう。


 や、やってしまった……!


 ……心当たりはある。さっき脳裏に一瞬浮かんだ文字。

 あたしは目を閉じて、体に漲る不思議な感覚に意識を集中させて目を凝らしたーー



 ーースキル【競歩レースウォーク】。



 愛読書ギフトに刻まれた記録によれば、人類は走行に至らずに時速15km以上の速度で歩くことができるそうだ。普通に歩いた場合の四倍以上の速度だ。


 うんうん、それじゃあ片思いの相手を遥か彼方に抜き去って世界の頂上トップを目指してしまっても仕方ないというもの……いや、仕方なくない!!

 ここは「も~歩くの早いよ~待ってよ~」とか何とか言ってか弱さを演出する場面だったのでは?? なんで先陣切っちゃったの??


 確かに、早く進みたい、もっと早く歩ければって思った記憶はあるけど。だからってこんな逞しいスキルが勝手に発動されるとは……!

 恐るべし神さまの授けた能力スキル。気をつけないと高遠くんに強そうなイメージを持たれてしまう……!


「雨宮さんて逞しいんだね」


 手遅れでした。感心したみたいに手を叩かれて、いやあそれほどでも、と笑いながら心で血の涙を流す。


 追いついた高遠くんは気持ち歩幅を狭めてとぼとぼ歩くあたしを不思議そうに振り返りながら、木漏れ日に目を細めて息を吐く。


「どうやらこの森には敵はいないみたいだね。……それにしても道なりに随分進んだけど、いつごろ出口に着くのかな」


「……たぶんもうちょっとじゃないかな……500mぐらい。目立った障害物等なし」


 進行方向をぼんやり見つめながら答えると、やけに具体的だねと高遠くんは首を傾げた。

 具体的にもなる、だって()()()()んだから。


 あたしはまたまた脳裏に勝手に浮かぶ文字をなぞり、溜息をついた。

 スキル【超遠視スーパーヴィジョン】。

 このスキルを使えばあたしは、1.6km先に立つ人の顔だって肉眼で認識できる。

 愛読書ギフトにそう書いてあるからだ。


 つまりこういうことだったーー

 本の内容を自分のスキルに出来るシステムにより、あたしは愛読書である人類の世界記録集、そこに記された数多の超人的記録、つまり人類の限界的身体能力を全て、自由に使えるようになってしまったらしい。


 そんなわけで今なら素手でクルミ300個割れるし高度300メートルからバンジージャンプしたってへっちゃらなのだ。

 少なくともヒロインタイプのスキルはほぼ皆無かなと思う、悲しいけど。


 意図せず人間離れしていく自分を嘆きつつ、あたしは絶対にこの無骨な愛読書やらスキルやらを高遠くんに露呈しないようにしなければと心に念じた。

 だって世界を救うのには便利でも、恋においてはとんでもない障害にしかならなそうだったからだ。



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