オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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第13話

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 モモンガがエンリとネムを連れて村に戻ると、すでに埋葬の準備は整っているようだった。モモンガはパンドラと合流した後に、村長に案内された家へ捕らえた男を連れていき、尋問を始める前に音が外へ漏れ出ないように魔法をかける。

 そこから、男へ魔法をかけた。

 

「《支配(ドミネート)》。お前たちが今回この村を襲った理由を話せ」

 

「はい。私は上層部の命令を受けて、王国の村々を襲いました。私は嫌だったのですが、これが人類を救うことになると信じて行動しました」

 

「村々を襲うことが結果として人類を救うことになるだと?お前たちが襲った村は何かをしでかしていたのか?」

 

 モモンガたちもカルネ村については詳しくない。秘密裏に麻薬などを作りだしている可能性もあったので、問いただしてみる。

 

「いえ、村には何も非はありません。村を襲うことで王国の最強戦力である王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフを誘き出すことが目的です。我々はその陽動役、後詰めとして陽光聖典がやってくる手筈になっています」

 

「………………そうか」

 

 たかだか一人を殺すためだけに無辜の人間を殺し尽くし、それが人類のためだと宣う。それだけで人類に絶望しかけた。だが、全員がそうではないと思い直して、情報収集に徹することにした。

 

「その王国戦士長は問題がある人物なのか?」

 

「人間性というより、存在が問題です。彼が生きている以上、王国は帝国に併合されない。王国は余りある土地を、人員をただの権力闘争の駒としか考えていません。王国は早々に潰した方が人類のためなのです」

 

「だからお前たち帝国は、極秘裏に最強の戦力を潰そうとしたと?」

 

「いえ、我々は帝国の人間ではありません。スレイン法国の者です」

 

「はぁ?」

 

「偽装して関わりから逃れようとしたのでしょう。そもそも極秘裏に行いたい作戦であれば所属を示す類の物は隠してしかるべきかと」

 

 パンドラの説明に納得する。てっきり帝国が悪の親玉だと考えていたが、本当の黒幕は法国らしい。

 

「何故法国がそこまで帝国に協力する?そもそもこんな作戦をしたとしても、その王国戦士長を誘き出せるとは限らないだろう?」

 

「王国と帝国では帝国の方が人類存続のための芽があると判断したからです。王国は今王派閥と貴族派閥で別れており、貴族派閥が台頭するには王国戦士長が邪魔であるために協力しております」

 

「腐っているな……。法国は何故そこまで人類救済に躍起になっている?」

 

「それが六大神の教えだからです。六百年前に降臨為された六大神が人類の存続のために我々に施しを下さったからこそ、今日まで人類は存続できたのです。だから、その意思を継いでおります」

 

「うわぁ……」

 

 宗教国家の上に、神が現れたと信じている。異世界だろうがなんだろうが、モモンガは神様なんてものを信じていない。本当に神様なんているのであればリアルはあんな世界にはならなかった。

 ユグドラシルでは神の名をつけたモンスターやらエネミーは倒してきたが、それもゲームの話。

 ユグドラシルに関わる世界とはいえ、神の存在など眉唾物だった。それにユグドラシルで神を冠する存在が、人間なんて守るわけないともわかっている。

 

(要するに、頭がおかしすぎる国だ。そんな頭がおかしい連中に生贄として選ばれた場所がここら一帯か……。まずはその陽光聖典とやらを叩き潰してやる。その上で情報収集をして、徹底的に潰すか……?またいつ、ここが襲われるかわかったものじゃない)

 

 後詰めとして来ているのであれば、近くにいるのは確実。それの撃退をしなければならない。目撃者を徹底的に排除する傾向にあることから、その王国戦士長とやらを屠った後はカルネ村を落とす可能性が高い。

 

「その陽光聖典とやらはどれくらいの実力だ?」

 

「所属する隊員全員が第三位階を用いることができるエリート集団です。法国が誇る六色聖典の一つで、彼らのおかげで人類は延命できています。特に陽光聖典は天使を召喚することに重きを置いています」

 

「……うん?パンドラ、俺の聞き間違いか?第三位階でエリートと聞こえたんだが」

 

「いぃいえっ!聞き間違いではございません!その者は確かに第三位階を用いることができるエリート集団と言いました!おそらくこの世界ではそれがかなりの高水準なのかと。人外魔境と呼ばれるトブの大森林を鑑みるに、人類やモンスターの能力はこの周辺ではその程度なのでしょう。もっとも現地民が魔法を使っている様子をまだ確認していないために、現地民には何かしらのブーストがかかっている可能性もありますが」

 

 第三位階はユグドラシルでは初心者が使うような魔法だ。レベルも二十台くらいであらかた覚える。というか、その程度は初心者エリアで数時間プレイしていれば越えられる地点だ。初心者エリアを卒業するくらいには第五位階くらいは使える。

 天使などの召喚系魔法はレベルカンストしても目晦ましや壁として使えなくもない。戦法としては間違ってはいないが。

 

「そろそろ陽光聖典か王国戦士長が来る頃かもな。外も警戒しなければならん。パンドラ、タブラさんに変身して喰らえ」

 

「了解いたしました」

 

 変身後、パンドラはパクリとロンデスの頭を喰らった。その後死体を残しておくのは嫌だったために、鎧だけ剥いで後は燃やした。証拠の物品さえ残っていればいい。

 パンドラはたっちの姿に戻った後も、取得した情報を咀嚼しているようだった。頭を傾げているが、たっちの姿では似合わないと思っていたモモンガ。

 そのパンドラからブレインイーターした結果が告げられる。

 

「その者の話した内容に偽りはありませんでした。気になる情報もいくつかありましたが、その中で現地民の持つ特殊な能力が二つ。生まれつきの能力、タレントと戦士のみが扱える武技というスキルのようなものです」

 

「ああ、そういったものは聞き忘れていたな。脅威になり得るのか?」

 

「武技という方は身体能力を上げたり、感覚を鋭くさせる物なので同レベル帯に逢わなければ問題ないかと。タレントの方は千差万別のようで、所有者も少なく、本人の資質に合わない場合もあるようですが、未来予知、などがあるようです」

 

「……それは、危険だな」

 

 スキルのようなものだと思うことにしたが、未来予知というのは本当に厄介だ。どの程度先の未来が視えるのかにもよるが、戦闘を有利に進める一因にはなる。

 こちらの動きもわかるかもしれない。これを聞いてモモンガはパンドラにある魔法をかけていく。

 

「パンドラ。お前には監視対策の反抗魔法をつけていなかったな。その未来予知に適応されるかわからんが、念のためだ。執拗なくらいつけてやろう。つけるのは《核爆発(ニュークリアブラスト)》でいいか。これに効果範囲拡大化と魔法位階上昇化と魔法距離延長化をかけておけば大惨事になるだろう。……フフ、村を滅ぼそうとする愚か者には相応しい鉄槌じゃないか?」

 

「ありがたき幸せ、モモンガ様。あと得られた情報では、陽光聖典のリーダーがタレントを持っているようです。その者の能力は召喚したモンスターの性能を若干上げる物、ということ」

 

「なるほど?魔法の才能があればたしかに優秀だが、そんな能力を戦士が持っていても意味がないと。スキルなら自分の好きなように得られたが……」

 

 融通が利かない、という意味ではそこまで脅威でもないが、普遍的に用いれる超級の力。そしてその能力と本人の資質が合致した場合。もしかしたらレベル差を大幅に埋めてくるかもしれない。

 

「パンドラ。今後仮想敵国として法国を設定する。王国の上層部も怪しいが、それは様子見だ。カルネ村は王国所属。この小さな村では庇護下に入らないと生活は厳しいだろう。……場合によっては、敵対する。何にせよ、目下の危険を排除してからだ」

 

「はっ。まもなく陽光聖典の者たちが陽動部隊の全滅を察知する頃合いでしょう。問題は王国戦士長がここに来るか、ということですが」

 

「そのように王国側も謀っているのだろう?来なければ来ないで無能だし、来たら来たで腐っている。……ふむ。どちらにしても未来がないな。カルネ村の自立も考えるべきか?」

 

「ギルドマスターであったモモンガ様なら村の一つの独立も可能かと」

 

「あれはユグドラシルの下地があってこそだ。俺、別に支配者でもなくてただの調停役だからな?……それはおいおい、だな」

 

 家から出て、村長を探す。どうやら埋葬は終わったらしい。こちらが話があるように目線を向けていると、村長の方からやってきてくれた。

 

「モモン様、尋問の方は終わったのでしょうか?」

 

「ええ、滞りなく。彼の者は私の方で処分しました。この鎧は証拠品です。……彼らは帝国の者ではなかった。法国の部隊だそうです。彼らは王国戦士長を排除するために今回の行動を行ったようですね」

 

「そ、そんな……」

 

 酷いとばっちりもあったものだ。だからこそ村長の顔も青褪めていく。王国戦士長を殺すためにこんな辺境で作戦を行わなくてもいいものを、おそらくは王国の貴族の考えで実行された。

 自分たちの領土に関わらなければいいという身勝手な理由で。

 

「村人には帝国の者ではなかったときちんと周知した方が良いでしょう。そして、さっきまでのは陽動部隊。本命がまたこの村を襲う可能性があります。口封じで」

 

「……モモン様。これ以上あなた方に迷惑をかけるわけにはいきません。旅の方なのでしょう?この場を去って、王国から離れた方が良いのではないでしょうか?帝国は優秀な人材を身分関係なく徴用すると聞きます。貴方様方なら、どのような場所でも活躍されるでしょうから」

 

「いいえ。私はまだ恩義を返せてはおりません。村長殿、本命からも私たちが守りましょう。それに一度救った命です。二度も変わりませんし、むしろ私たちが去ったせいでまた命の危機があるというのは寝覚めも悪い。もうしばらく、関わらせてもらいます」

 

「それは……。ですが、その対価を村では支払えません。今の私たちには渡せるような物も残っておりませんので……」

 

 命を救ってもらったお礼。そう村長は言うがモモンガからしてみればその捉え方はおかしい。これはモモンガにとってお礼と誠意をもったお返しの途中であり、何かをもらうようなことじゃない。

 

 それに、エンリたちを傷付けられて怒りが沸き上がっているのも事実。感情抑制もかなりの頻度で起こっている。

 モモンガとしても怒りのぶつけ先を探している現状、叩き潰しても良い相手を前にしてそれを逃すつもりもない。

 

「いえ、村長殿。言った通りこれは恩返しなのです。……ですが、何も渡していないことに引け目を感じるというのであれば。家の一つとこの周辺の情報をください。私たちは根無し草。森の中に仮宿はありますが、きちんとした住居も必要でしょう。それに冒険者になる予定もありますので、居住地はしっかりしていた方が良い。こんなどこの者とも知らない二人組を信用する。それが対価ではどうでしょうか?

 対価とはお互いが釣り合う条件でなければなりません。貰いすぎも渡しすぎも、少なすぎてもダメなのです。そして信用、心の持ちようとはかなりの大きな比率であり相応の対価。そこに家と情報まで要求する始末。これは村を守るという生命の対価として相応しいのでは?」

 

 こう捲し立てはしたが、ようはこれで納得してくれというゴリ押しにすぎない。事実情報も家も欲しい。表向きの居住地があれば宝物殿のことも隠しやすくなる。そして今回の一件でモンスターよりよほど人間の方が面倒だと悟った。

 まだいびきをかいて寝ているトブの大森林南の支配者の方が可愛げがあるほどだ。

 村長は渋々ながらもその条件で納得してくれた。引け目を感じていることと、命を助けられたからか信用してくれている様子から純粋に良い人なのだなと思った。

 だからこそ、やはりこの村は守らなくてはと思うモモンガだった。

 

 

 




この世界の上層部っていうか特権階級?ほとんど腐ってると思うんだが。


まともなのは竜王国と聖王国と評議国だけか。
ドワーフもまともか……。亜人系はわりかしまとも?








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