池田直渡「週刊モータージャーナル」:資本主義経済に対するテロ行為 ゴーン問題の補助線(1) (1/2)

» 2018年11月26日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

 ルノー日産・三菱アライアンスの複数の組織で重責を担うカルロス・ゴーン氏の逮捕を受けて、世の中は上を下への大騒ぎである。日仏経済界や政治レベルでの懸案にまで発展しかねない様相を呈している。

金融商品取引法違反の疑いで逮捕された、元日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏(2016年10月に撮影) 金融商品取引法違反の疑いで逮捕された、元日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏(2016年10月に撮影)

 今さらながら容疑について整理しておくと以下の3つである。

1. 有価証券報告書の虚偽記載

2. 日産自動車の資本金の私的流用

3. 日産自動車の経費の私的流用

 2と3については海外の住居だの、結婚式の費用だのとさまざまなうわさが飛び交っている。が、原稿執筆時点ではしかるべき機関が発表した確定事実はないし、日産自動車の記者会見でも「事実認定は済んでいる」と西川広人社長が述べたのみで、金額と具体的内容については言及はなかった。

 ただし、1の趣旨である「給与の過少記載」が年間約10億円(5年間)であることからみても、2と3もそれなりの額であろうことは察しがつく。

 1の問題の本筋は有価証券報告書への虚偽記載ということになる。企業には、利益を上げるために必要な経費があり、その中には当然役員給与も含まれる。投資家が株を買って配当を得られるようにするためには、必要な情報を有価証券報告書でオープンにして、誠実に情報開示するのは上場企業として当然の義務である。同報告書に虚偽があれば、投資家が投資判断を誤るので、そういうことを監視するために設けられたいろいろな権力機関から怒られる。

 ちなみに筆者は、本件は資本主義経済システムの根底を成す投資に対するテロ行為だと考えており、この件に関しての罪はかなり重いと考える。付帯して発覚するかもしれない脱税(これはどこの国にどういう比率で納税していたかによる)とは社会に与える影響が違う。

 では、その有価証券報告書は誰が発行しているかと言えば、法人としての日産自動車であり、そこに間違いがないことを保証しているのが監査法人である。

 未記載支払いのうち、多くを占めたとされるストック・アプリシエーション権(SAR)とは、事前に決めた株価を取引価格が上回った分に連動して支払われる成功報酬型の役員報酬のことだ。SARの対象となった役員は複数いるにもかかわらず、ゴーン氏の支払額のみが報告書に記載されなかった。実際に支払いが発生しているのであれば、それが虚偽記載に当たる認識は法人としての日産自動車になかったはずはない。だから一義的には虚偽記載の責めを負うべきは日産自動車とEY新日本有限責任監査法人である。

 法人としての日産自動車の責任は、具体的にはその多くを役員全体が負い、間接的に役員の任命責任の一部を株主が負うことになる。つまり、有価証券報告書の虚偽記載が発覚した初手から「こいつとこいつが悪者でした」という流れはどうも釈然としない。本来は日産自動車の虚偽報告書があり、その後に、虚偽記載を誰がどのように主導したかがつまびらかになって、初めて役員の中で罪の軽重が按分されるはずなのだ。明らかに手順を一段階飛ばしている。

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