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読売新聞│配信日:2018年11月12日│配信テーマ:その他  

[ALL ABOUT]吉澤嘉代子 歌の魔法に魅せられ


 ◇Pop Style Vol.622
 少女時代の純真から、まがまがしい妄想まであまたある創作の引き出し。アイドル然とした甘いささやきを、ドスのきいた叫びへと痛快に翻す歌唱。デビュー当時から才能が評価されてきたシンガー・ソングライター吉澤嘉代子さんが今、じわじわと世間に浸透してきている。作品を出すたびに新たな彩りを加えてきた彼女。今日7日発売のアルバム「女優姉妹」が、真の意味での飛躍の1枚となるだろう。
 ◆物語「色々そろえてます」 
 東京国際フォーラムの無機質な階段を、女性たちが滂沱(ぼうだ)の涙を流しながら下りていった。今年6月に開催された吉澤さんのコンサート。彼女たちは恋の傷痕を刺激されたのか、あるいは、少女から大人になる時の葛藤を思い起こしたのか。
 <改札はよそよそしい顔で 朝帰りを責められた気がした>
 「残ってる」。このタイトルのシングルが約1年前に発売されて以来、女性の支持が広がり続けている。好きな人と一夜を明かし、急に秋めいた街に取り残された女の子の物語。清冽(せいれつ)な朝の光景と、体に残るぬくもりが鮮やかに対比される。<浮かれたワンピースが眩(まぶ)しい><かき氷いろのネイルが剥げていた>と、物の表情を浮かび上がらせる一方、主人公の感情表現は努めて抑えている。
 「その朝帰りがうれしいものか、悲しく切ないものなのか、聴く人によって変わったらいいなと思って」
 YouTubeの再生回数は270万回超え。今年1月、テレビ番組の企画で、音楽プロデューサー2人がそれぞれ2017年の佳曲10傑に選出し、飛躍的に注目が集まった。「他の曲も知りたい」というツイッター上の声に対し、彼女が自らつぶやいた。
 「可愛(かわい)らしいのがお好きでしたら『未成年の主張』『らりるれりん』、モラトリアム真っ只(ただ)中でしたら『泣き虫ジュゴン』『ストッキング』がおすすめです!言葉がお好きでしたら『東京絶景』『綺麗(きれい)』がおすすめです!もしも『ケケケ』という曲を聴いてくださる場合は最後でお願いします!」
 照れ笑いを浮かべながら振り返る。「生々しい曲ばかり作っているイメージがついたかなと思って。それは物語の一つで、他にも色々そろえてますよと伝えたかった」
 15年から毎年リリースしたフルアルバムでは、少女時代、日常の風景、ダークな妄想と、異なるテーマを設けて物語を紡いできた。時に女子の集団の非情さをポップにあぶり出し、時にコミカルな振り付けでムダ毛の存在を問い、時に亭主の首を抱えた女の逃走をスイングジャズに乗せる。「自分の中にあるカードをどういう順番で出そうか、いつも考えています」
 ◆不登校、空想の世界へ 
 豊かに湧き出す創作の泉は、不登校児だった小中学校時代に育まれていった。人とコミュニケーションを取るのが不得意で、小説や歌集をめくり言葉や空想の世界に身を委ねた。「外に出るのが怖かった」という日々で、唯一の逃げ場が、親の経営する鋳物工場屋上にあった小屋。ほうきにまたがり“魔女修業”に励んだ。「本当はしゃべれるんでしょ。今ならお母さんいないからいいよ」。お供の愛犬に話しかけていた。
 「学校という社会に向き合えずに逃げたんです。高校生で曲を書いた時に初めて世の中とつながれると思った。逃げた先に今の仕事につながる扉があったことを、私と同じような子供たちに伝えたい」
 <魔女の宅急便に泣いた 十三歳の夏にはもどれないことを知る><もうわかっているよ わたしは特別じゃない>
 ファーストアルバムに収めた「ストッキング」は、社会の厳しさに直面して傷ついていた20歳の頃に作った。「それでも子供の頃の自分を連れていきたくて、泣きながら書いた曲でした」
 魔女になるのは諦めたのかと、よく尋ねられるという。「諦めてはいない。歌に魔法があるから。空は飛べなくても、人の気持ちをその場で動かしたり明日の献立とかささいなものを変えたりできる」。とはいえ、「その効力はもろくて、いつか薄れてしまう。自分の無力さに絶望する」。
 ◆全ての女性の傷 癒やす 
 <魔法は永遠じゃない 大切なとき思い出せない でも 言葉は永遠だって 何も変わらず 生きているって>
 今年6月に発表したシングル「ミューズ」は、苦しんでいる友達にひそかにささげた曲。うまく伝えられない思いを、形が変わらず残る詞に託し、言葉の力を信じる意志を冒頭につづった。
 「頑張ってとは言えない。頑張らなくてもいいよとも言えない。その子は頑張りたくてやっているから。戦っている姿をそのままたたえたい」。そう思って書いた詞が——
 <戦っている貴方(あなた)はうつくしい>
 「歌詞を書いた後につけた」というメロディーは、確固たる意志を持つかのように五線譜を懸命に駆け上がっていく。特定の思いを込めた曲が、全ての女性の傷痕を肯定する賛歌となって響く。コンサートで泣いていた人たちは、この歌にも心を動かされたのかもしれない。
     ◇
 ライブでは仮装するなど演劇風の演出が見もの。「MCが苦手で自分のままで出ていくのが苦しくて。せりふがある何かの役を得て初めて自分が自由になれると思い、そういうライブをするようになりました」    
 
 ◆大御所・松本隆さんも「いいね」 
 「松本節を取り入れようというのがずっとありますね」。吉澤さんが影響を受けた作詞家が、松本隆さん。昨秋、松本さんのイベント「風街ガーデンであひませう」に出演し、「さらばシベリア鉄道」(オリジナル・太田裕美さん)、「魔女」(同・小泉今日子さん)をカバー。また、「クミコ with 風街レビュー」のアルバム「デラシネ」では、詞・松本さん、曲・吉澤さんで共作も果たした。「ご一緒するのは、かなわないような大きな夢だったので、本当に光栄でうれしい体験でした」と語る。
 一方の松本さんに、吉澤さん評を聞いた。
 「彼女を知ったきっかけは、ツイッターだったかな。面白い女の子がいるなあと思った。売れていない頃だったけれど、着実に伸びて上昇気流に乗っているね。(気になる作品は)『屋根裏獣』(3rdアルバム)かな。江戸川乱歩趣味というか、少女が好きそうな妖しい世界。そういうものの強烈な系統は椎名林檎さんだけど、それよりちょっと柔らかくまとまってるところが好きだね。『東京絶景』(2ndアルバム及び同アルバム表題曲)も僕っぽい。不登校児だったと聞くけど、そういう人が食えるようになるなら音楽もいいね。(共作に関しては)作曲能力が高いから不安はなかったし、曲をもらってすぐ詞を書けた。僕には何となく、伸びるかどうか見極める本能があるみたい。だから、そのままでいいんじゃないかな。また一緒にできればいいね」
 
 ◆かよちゃんとずっと 
 吉澤嘉代子ちゃんとの時間。そしてこれから。
 出会いはかよちゃんの名曲「ものがたりは今日はじまるの」でした。音源を聞かせて貰(もら)って早く会いたいとウズウズしていて、あれは間違いなくトキメキでした。
 初めて顔を合わせたかよちゃんは、照れ屋で、震えるように小さな声で、申し訳なさそうに、子供の頃の夢が“魔法使い”だった話をしてくれました。
 不思議と、この人なら弱音や駄目な部分を見せても良いんだ、恥ずかしくないんだと自然に思いました。仲良くなりたいと思いました。
 それからずっと新曲が出るたび一ファンとして、そして一友人として、聞いてきました。かよちゃんの音楽は「悲しくてやり切れない時、寂しくて眠れない時」心を解きほぐしてくれる魔法のような力があります。
 でも一言に一括(くく)りにできるものでもありません。いつも鈍く化膿(かのう)したような痛みや捻(ねじ)れた切なさやキュートなおかしみが、登場する人たちに投影されています。まるで“ものがたり”を見ているように。
 そんなかよちゃんの作る世界に対して変わらないのは、どれだけ変化していくものがあったとしてもずっと大好きだということです。
 かよちゃんと私のものがたりもずっと続いていったら良いなと夢みています。邪魔にならないように、そっと大事に思っています。
 いつかまた面白いものがたりを一緒に作れたら良いな。
 「ミューズ」から引用します。
 
 かがやきは傷の数だけ
 いびつな傷跡が乱反射した
 戦っている貴方(あなた)はうつくしい
 (女優・吉岡里帆さん)
 
 ◆新作への思い たっぷり 
 ニューアルバム「女優姉妹」に込めた思いを、吉澤さんに存分に語ってもらった。
      ◇
 今回のテーマは「女性」。「少女時代」をテーマにした1枚目から一回りした感じです。特に、「鏡」をモチーフにしたいと思って、1曲目のタイトルにし、歌詞に多用しました。鏡は自分との対峙(たいじ)ですね。
 私はライブの前などずっと鏡を見て、自分に呼びかけます。「私は、プロだ!」。いつもそこに達してないんじゃないかっていう不安があって。普段の自分ではないもの、その曲の主人公になりきる感じです。
 「怪盗メタモルフォーゼ」という曲では「ダーリン」と、親愛なる自分に向けて呼びかけます。何者かになりたかった主人公が、最後は自分を抱きしめて人生の旅に出ようという歌。「最終回」は、いつか笑い話にして発散しようという曲。ストレスや悲しい傷痕をどう肯定するかという方法を並べたアルバムになったと思います。日常で自分がそれを出来ていないからこそ、曲を作っていくしかないんだなと思いました。
 子供の頃から変身願望が強くて、何かになりたかった。でも最後には、何者でもない自分を認めたいし、認めるという曲を書きたいんだと思います。
 
 ◇よしざわ・かよこ 1990年6月4日、埼玉県川口市生まれ。ヤマハ主催「Music Revolution」でグランプリとオーディエンス賞を受賞し、2014年にデビュー。ミュージックビデオは、吉岡里帆さん、モトーラ世理奈さんら旬の女優が登場して話題に。4枚目のフルアルバム「女優姉妹」は、バカリズム主演ドラマ「架空OL日記」の主題歌「月曜日戦争」など3枚のシングルを収録した。
  
 ◇文・清川仁

読売新聞2018年11月 7日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:清川仁

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