DDH-183ヘリコプター搭載護衛艦「いづも」 出典 海上自衛隊
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・中国の空母保有への対抗措置として防衛省はF-35B導入を検討。
・軽空母「いずも」「かが」へのF-35B搭載で対中海軍力の劣勢を一挙に改善できる。
・F-35B導入コストはさほど大きくない。
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F-35Bの導入検討が報道された。共同通信によれば防衛省には「来年後半に見直す「防衛計画の大綱」に盛り込むことも想定」した検討が進められているという。
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▲写真 米海兵隊写真 F35B Photo by April L. Price
これはF-35Bを搭載した軽空母を作る話である。空自導入中のF-35Aの一部を軽空母用のB型に改める。それを現在ヘリコプターを運用している海自軽空母「いずも」、「かが」で運用しようとする検討である。
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▲写真 DDH-184 ヘリコプター搭載護衛艦「かが」 出典:海上自衛隊
なぜ、日本は軽空母を作ろうとするのか?
簡単にいえば中国への対抗である。日本は中国海軍力の成長に脅威を感じている。中でも日本が持たない空母を中国が保有した。これは日本にとってショックとなった。海軍力競争で日本が完全劣位に転落したことを意味するからだ。
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▲写真 中国 001A型航空母艦 Photo by GG001213
それに対抗するためには日本も空母を持つしかない。それがF-35Bの「いずも」型搭載検討である。
さらにいえば、F-35B軽空母は対中海軍力の劣勢を一挙に改善できる力を持つ。
なぜなら
1 中国空母を陳腐化
2 中国艦隊戦力の更新強要
3 中国潜水艦戦力の更新遅滞
を引き起こせるからだ。
■ 中国空母の陳腐化強要
軽空母導入により日本は海軍力の劣勢を改善できる。
その第1の理由は、日本導入により中国空母を旧式兵器化させられるためだ。
日本がF-35B搭載の軽空母を作ると中国の正規空母は建造中を含めて全て旧式化する。
艦載機の性能で圧倒的劣勢に陥るためだ。中国空母が搭載しているJ-15戦闘機は第4世代戦闘機である。第5世代のステルス戦闘機F-35には手も足もでない。レーダ探知できないF-35Bに対し中国のJ-15は一方的劣勢の立場に転落する。
実運用の差はさらに広がる。
現用の中国空母はカタパルトを持たない。このためJ-15戦闘機は発進時に重量制限が掛けられている。性能上は最大離陸重量33トンだが実際には28トンでの発艦も厳しい。しかも滑走路を長く取らなければならない。このため発艦の間隔も相当に間延びする。
日本軽空母にはそれはない。F-35Bはカタパルト無しでも満載重量で発艦できる。しかも着艦帯との取り合いもないため連続発進が可能となる。
結果、中国空母は日本軽空母に勝てない二線級装備となる。
なお、これは平時にも効く。プレゼンスにおいても中国空母は旧式扱いされる。日本軽空母と並べられた場合「中国空母は日本空母に敵わない」印象を与えられる。
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▲写真 J-15 出典:Garudtejas7
■ 中国艦隊戦力の更新強要
第2の理由は艦隊戦力更新を強要できる点だ。
日本軽空母登場により中国艦隊は日本に対して質的劣位に陥る。それは第1で述べたとおりだ。
対米劣勢に加え対日劣勢にも陥る。結果、中国は自国艦隊戦力を今以上に近代化しなければならなくなる。
これは駆逐艦以下にも及ぶ。空母にカタパルトを付け、ステルス艦載機を開発するだけではない。空母を護衛する055、052C/D、054Aといった駆逐艦・フリゲートもF-35によるステルス攻撃に対抗しなければならない。
特にJSM対艦ミサイルの登場は護衛艦に厳しい。かろうじてレーダで探知できる、いままでの対艦ミサイルよりも強力だからだ。ステルス性能が高いため正面からではレーダに映らない。ミサイル側はレーダを使わない画像誘導のため逆探知も効かない。その上、従来ミサイル同様におそらく高度2.5m程度の超低空を飛んでくるのだ。
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▲写真 JSMのモックアップ Photo by Strak Jegan
中国駆逐艦は探知できず迎撃もできない。もともと超低空対艦ミサイル迎撃には熱心ではない。ステルス化したJSMには全く対処はできない。
まず探知できない。軍艦のレーダで波の乱反射の中を飛んでくる対艦ミサイルの探知は難しい。その上、高ステルス性のJSMではミサイル反応が乱反射ノイズよりも小さくなるのだ。
仮に探知できても迎撃できない。中国迎撃ミサイルは基本的に陸上転用型である。米国製とは異なり海面乱反射対処や超低空目標対処能力は高くはない。一部の光学誘導あるいは電波・光学複合誘導タイプを除けばロックオンできないのだ。
結果、中華イージス以下のシステムも一気に役立たずとなり更新を迫られるのである。空母、艦載機、駆逐艦の更新の結果どうなるか?
中国海軍の数的増勢は難しくなる。90年代建造の旧式艦更新もままならなくなることからすれば、今後は艦隊規模は縮小することになる。