レキシの歴史の中では3枚目となるシングル「S & G」。レキシの池田本人に聞いたところ「P&Gじゃないですよ。ドルチェ&ガッパーナでもないし、サイモン&ガーファンクルでも……あ、それはまんまか」というグダグダした答えしか返ってこないので、蛇足とは知りながらご説明すれば、「SEGODON」と「GET A NOTE」の両A面シングルということでの頭文字ネーミング。そのたった3曲、されど3曲に込められた思い、レキシにしかわからない曲作りの秘話をうかがうことにいたしましょう。

※曲名クリックで試聴可能!!

get a note

──まずは「GET A NOTE」。この7月からTVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』のエンディング主題歌ですね。

「このお話をいただいたときには『無理じゃ』と思いました。そんなもの書けるわけがない。ただでさえレキシは歴史の歌を歌うっていう縛りがあって、それだけでうんうん唸って曲を作っているのに、お願いされて曲を作るということは、さらにそのお願いごとのテーマの縛りが加わるわけですから。無理無理って」

──自分が蒔いた種じゃないですか

「そうそう、そうなんだけど(笑)。まず、そもそも鬼太郎です。水木しげる先生です。『ゲゲゲの鬼太郎』の入り口はアニメでしたけど、その後にマンガも読みましたし、水木先生で言えば、偉人ものも戦記ものも読んでます。妖怪にも興味があったから画集も持ってます。SUPER BUTTER DOG時代から自分のことを子泣き爺って呼んでましたし、『鍵盤を弾いているふりをして、実はあずきを洗ってます』とかMCで言ったりしてましたし。つまり好き。ファンなんです。しかもアニメ化50周年ですよ。そうなるといいものが作りたい。自分のアルバムの曲でも同じですけど、納得したい。そう思ったらますますハードルが高くなっちゃって」

──そこはどのように乗り越えたんですか?

「悩みましたね。まずレキシ的な要素をどこまで入れるのか。妖怪、お化け……そこにレキシをトッピング……ってつながります? 柳田國男先生とか、民俗学的なところに接点があると言えばありそうなんだけど、それだと難しくなりそうで。そしたらスタッフから『妖怪のことは考えずに自由に作ってください』って優しく言っていただいちゃって、それに甘えて(笑)。そうしたら気づいた、『鬼太郎と歴史の接点って……あ、下駄だな』って」

──鬼太郎と言えば、あの「からーんころーん」は耳に残っていますね。

「そう。アニメの初期のシリーズのエンディングに流れていた『カランコロンの歌』。あのちょっと怖い感じを思いだして。そこから『下駄の音がしたんだ』っていうフレーズとサビのメロディが同時に浮かんできたんですね。その細ーい糸をたぐってたぐって行って、誰か後から登ってきて切らないでーって」

──芥川龍之介ですか?

「とにかく、そうして完成した曲です。下駄ということで言えば、土佐藩士に吉田東洋という人がいたんですけど、マンガの『おーい!龍馬』でその吉田東洋が暗殺されるシーンがあったんです。雨が降っている夜道をお供に提灯を持たせて吉田東洋が歩いているときに暗殺される。そのときに草履じゃなくて下駄なんです。当時、侍は普段は草履か草鞋を履いていて、雨のぬかるみ用に下駄を履いたんですよ」

──さすがの歴史豆知識。妖怪も、今とは違う夜の闇の深さが生んだような気がしますね。

「その夜道のシーンのイメージと下駄が印象的で、それがまた、夜・闇・下駄・鬼太郎……ってつながっていった。だから曲としても昼間と言うよりは夜だし、どこか土臭い感じにアレンジしましたね。最初はアコギで歌うようなフォーキーなイメージだったんだけど、メロディと歌詞に逆らわないで自然にアレンジしていったら、ボブ・マーリーの『GET UP, STAND UP』とか、そういう感じになっていって」

──水木しげる先生も90年代からレゲエ好きだったとうかがっております。

「そうそう、そうだった。土着的なものが引き合うんでしょうね。そこは意識してなかったですけど、もうこのインタヴューのあとからは、なるべくしてこうなった曲だと、そのエピソードも使わせてもらいます」

──ちなみに「下駄の音」が「GET A NOTE」になったのは?

「毎回、CDを作るときに足軽先生こといとうせいこうさんとミーティングみたいなことをしていて、そうしたら歌詞を見た足軽先生が『下駄の音ってゲタノートだよね』って。最初はカタカナで書いてたんだけど、英語にしてみたらNOTEって音符のイメージもあることに気づいて。じゃあ、『GET A NOTE』で『ゲタノオト』って読んでもらおうと」

──表記的には「SHIKIBU」や「KATOKU」にもつながりますし。

「そう。それとレキシを続けてきて思うのは、自分が好きなものに対して、ちゃんとリスペクトを持って曲にしないといけないってことなんですよ。わかりやすいとか、笑えるとか、そっちだけを追い求めるんじゃなくて、マジメに取り組んだオトナのふざけ具合って言うか。そのいい具合のところに曲を置きたかった。だからタイトルも笑わせるために付けるのではなくて、でも、ちょっとひねってるぐらいがいいのかなって」

──とはいえライブではふざけ切ってますけどね。

「いや、元々レキシっていう存在自体、やっていることがふざけているので(笑)。ライブではやっぱり笑いが欲しいんですけど、その手前の部分ではそこにチカラを入れ過ぎずに行こう、と」

──なるほど。そう思ってあらためて目玉おやじのアーティスト写真を見ると、鬼太郎の目に入っている目玉おやじの中にさらに顔が入っている。ある意味でシュールですね。

「気づきましたか。これはもうアート、芸術ですね。しかも今回はこの目玉おやじも西郷さんも『公認キャラ』なのが大変に光栄です。今までのは勝手に着てましたから」

SEGODON

──そして両A面のもう一曲が、大河ドラマ『西郷どん』のパワープッシュソング。

「これも悩みましたね。そもそも西郷さんっていうテーマは、デビューした頃からあったわけですよ。大きなテーマのひとつ。実際にデモ音源も何曲か作ったんです、西郷さんで。でも、うまく着地しなくて」

──今まではどうして完成に至らなかったんでしょう。

「考えてみたら『西郷さんは凄い人』っていうイメージはあるんだけど、じゃあ実際に何をやったのかが漠然としてませんか? 『上野の銅像の人』なのはわかるんだけど、どう凄いのかがわからない。それが自分の中にもちょっとあったんですよ。だから曲としてもピントがずれちゃってた」

──そんな大事なテーマが、また絶妙のタイミングでやってきた。

「まず大河ドラマの発表があって、鈴木亮平くんが主役に決まって。ちょうどその頃に九州の『宗像フェス』で二人とも出演することになったんですよ。出演日は違ったんだけど、映画『海街diary』で知り合いになっていたから、僕が前乗りして一緒にご飯を食べたんですね。『大河決まったね、凄いねー』とか『このタイミングで西郷さんの曲は作れないですねえ』なんて笑って話して。そうしたらこっちにもオファーが来た(笑)」

──つながってますね、俳優をやっていてよかった。

「そういうことってあるんだなあって。それで、あらためて西郷さんのことを調べたわけですけど、結局は知っているエピソードが多かったんですよ。でも、人物像のポイントがわかってきた。どういう偉業を成したかという偉人としてじゃなくて、西郷さんが魅力的なのは人柄なんだって。大きくて包容力がある、気は優しくて力持ち的な人のことをみんなが『せごどん』って呼ぶんだ、みたいなね。ほら、『へうげもの』みたいな感じで」

──またマンガですね。西郷さんはとにかく人物が大きい、と。

「そうです、おっきいんです。それは銅像のイメージも、鈴木亮平のイメージも全部含めて。そこが明確になったら書けましたね。歌詞には『SEGODON』っていっぱい出てきますけど、これはNHKさんからの『西郷どんと書いて「せごどん」と読むことを広めたい』っていう要望もありまして。あとはそうだなあ……あらためて歌詞を見ると、レキシ感があるのは『幕末』っていう言葉ぐらいですか(笑)」

──歌い出しは、もうSPITZと呼んでもいいような爽やかさですね。

「あ、そうか(笑)。メロディとアレンジも爽やかで突き抜けていて踊れる、これがテーマでしたからね。しばらくそれで『せごどーん』って叫んでいたら、エイティーズロック的なイメージがでてきて。そう言えば『KATOKU』もエイティーズだったし、鈴木亮平くんの大河ドラマのポスターにも合うし。それが今回のメロディとアレンジです」

──合わせて映像の『大河ドラマ「西郷どん」パワープッシュソング~その時、レキシが動いた~スぺシャルムービー』も話題になりましたね。

「映像も作りましょうっていう話が最初からあったんです。でも、今回、大河ドラマとの連動っていうスペシャルなんだから、普通のミュージックビデオにするのはなあって思って。それで『大河に出演も依頼されたと勘違いしてるレキシ』っていうのが思い浮かびまして」

──これもマジメに取り組むオトナのふざけ具合ですね。

「ふざけたオトナのマジメ具合かな……あれ? どっちだろう(笑)」

banashi

──そして「S & G」で言えば「&」的なポジションの「BANASHI」ですね。

「いつもシングルのカップリングには何をしようかって考えてるんですよ。前回で言えば『眠れるレキシ〜オルゴールで聴くリレッキシミュージック』。そういう意味ではおとぎ話や昔ばなしは前から考えてはいましたね。今回は『GET A NOTE』があるから怪談を入れるのも検討したんですけど、それだと面白くしたくなっちゃうでしょ」

──ここでもまたオトナとしての面白さの寸止め。

「だったらここは普通にまっとうな昔ばなしを入れようではないか、それがオトナというものだろう、と。なにしろアニメの『まんが日本昔ばなし』の世代でもありますから、このトラックは勝手に心の中でタイアップですよ。ゲゲゲの鬼太郎で、日本昔ばなしで、大河ドラマ……とくるんですから、今回のシングルは週末の夜(笑)」

──ストーリーはすんなり書けたんですか?

「まず図書館に行って、昔ばなしや土地の伝説の本とか読みました。前回のツアーからの流れで『稲穂の妖精』っていうテーマは決めていたから、田んぼとか稲作とかそういうお話を探してみたんだけど、ちょっと難解だったり、その時代の風俗がわからないとわからなかったりして、これは参考にならんと。だったら聴く人にわかってもらいやすい、オーソドックスな昔ばなしのフォーマットで書かせていただこうということに落ち着きました」

──サイズ感的にも入り込みやすいですね。

「実はもっと長かったんですよ。悪者のじいさんとかも出てきて。でも、こりゃ長すぎる! ってシンプルにして。それでひとりで一気に録ってます。狭い部屋にひとりで入って、録音ボタンも自分で押して。ひとりで4役をやってますけど、途中で止めて録らないで頭から終わりまで語りきってるところはちょっと自慢していいですか?」

──それはやはり声優デビューを狙っての?

「いやいやいや。でもまあ、意外といけるなって思ったけど(笑)。それはまあともかくとしても実写化は狙いたいですね。あと『そうじゃのう、吾作』っていうTシャツは作りたい」

──聴いてない方にネタバレになるので、この話はこれぐらいにしておきましょう。

 

──そして、初回限定盤には2017年の大阪城西の丸庭園でのライブドキュメンタリーが収録されています。

「あえて言わせていただければ、今回はこのDVDを買うぐらいの気持ちでいいと思います。それぐらいに貴重!」

──その貴重ポイントは、やはり吉本新喜劇の皆さんのご出演ですね。

「はい、たっぷり共演させていただいています。元々、座長の小薮千豊さんとは『コヤブソニック』で知り合っていて、大阪で大きいライブをやるなら小籔さんとコラボしたいというのが入り口。お願いしたところ、小籔さんも快く引き受けてくれたんですが、日程的に小籔さんは出られないって(笑)。でも、『台本とメンバーの人選は僕がやります』って責任を持って言ってくれて」

──DVDの映像からも会場の盛り上がりが伝わってきました。

「もうね、新喜劇の皆さんが出てきたときの歓声がその日で一番でかいんだから(笑)。日本武道館で松たか子さんが登場したときと、このときがレキシ史上でトップ2の大歓声。レキシさんにではなく(笑)。まあ、ご覧いただければ、壮大なコントをワタシが一番楽しんでいるのもおわかりいただけると思います」

──その他、リハーサルや楽屋風景などの映像もたっぷり。

「あんまりバックヤードを見せるのもなんだか恥ずかしいなあとは思いますので、そこも貴重!ま、だいたいは元気出せ!遣唐使(風味堂・渡和久)といちゃいちゃしているシーンですけどね(笑)。そこはオモテもウラも一緒なんだってことをご覧ください。もちろんライブ映像も入ってますし、お得です」

──ライブと言えば、11月から長いツアーも発表になっていますけれど、これまさかの「アルバムリリースなしのツアー」なんですか?

「誘導尋問か(笑)。そうですねえ……現在、鋭意レコーディング中ということはお知らせしておきます。まずは『S & G』を何度も聴いて、刮目して待ってて!」

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