第23話 ちゃんと責任とってよね
抱いて……って、単に抱き締めてって意味じゃないよな?
うむ、酔っていてもそれくらいは俺にも分かるぞ。
アリアは俺の上に跨ったまま服を脱ぎ始める。
すぐに下着しか身に着けていないあられもない姿に。
「すげー綺麗な身体……」
俺は頭に浮かんだ感想をそのまま口にした。
すると彼女は、はにかんだように顔を赤らめてから、
「……ありがと。……でもそれを今から、あなたのものにしていいわ?」
「マジか」
「……うん」
相手が娼婦であれば、きっと俺は何の躊躇もしなかったに違いない。
だが彼女は違う。
清廉で、高潔で、どこか神聖さすら感じさせるほどの美少女。
しかもまだ十代の半ばという、子供から大人へと移り変わるその途上にある。
畏れ多いのだ。
彼女は高嶺の存在であるべきで、俺みたいな庶民のおっさんが触れて穢してしまってはいけない。
だから俺は彼女を抱くことはできない。
いや、抱いてはいけないのだ。
たとえ彼女の方から求めてきたのだとしても、俺は年上の男として、その一時の気の迷いを正し、護ってやらなければならないだろう。
……素面のときだったらそれができたはずだ。
けれど、このときの俺は酔っていた。
「ん」
「っ……」
突然、アリアが自分の唇を俺の唇に押し付けてくる。
まるで強い火酒を流し込まれたかのような熱がそこから一気に広がっていく。
燃え上がるその火を、酔っている俺に消せるはずもなく……。
俺は欲望の赴くままにアリアを抱いた。
目が覚めると、すぐ隣に美少女の寝顔があった。
アリアが俺と同じベッドの上で寝ていたのだ。
視線を下に向けると、シーツに包まれた彼女の身体は、何一つ身に着けていない生まれたままの状態である。
そして俺の方も。
……夢じゃなかったのか。
いや、はっきりと記憶している。
酔っていた割に、俺は昨晩のことを鮮明に思い出すことができた。
俺はアリアと一線を越えてしまったのだ。
思っていた通り彼女は処女だった。
「何やってんだよ、俺は……」
メアリを抱いてしまったときを、遥かに超える罪悪感に襲われる。
マジで酔った俺、アホかよ。死ねよ。
酒を飲んでも飲まれるなって言うだろうが。
てか、そもそもどう考えてもウェヌスの入れ知恵だよな?
酒を飲んだときの俺のチョロさを知って、アリアを焚きつけやがったんだ……。
「ん……」
と、色っぽい吐息を漏らして、アリアが小さく身動ぎした。
その振動でシーツがずり落ち、白い肌が露わになる。
下半身が熱くなった。
アリアの瞼が開く。
目が合った。
寝起きで頭が回らず状況を理解できていないのか、しばし彼女は「?」という顔をしていたが、やがて昨晩のことを思い出したようで見る見るうちに頬が赤くなっていった。
シーツを上げて顔を半分まで隠して、
「……は、恥ずかしいわ」
その表情と仕草がとても可愛かった。
こんな美少女が俺なんかと……
「ねぇ」
「……な、何だ?」
「ちゃんと責任とってよね」
「俺を酔わせてハメたのはそっちだよな?」
いや、俺もハメたか……って、何言ってんだ。
我ながら酷いオヤジギャグだった。
俺は表情を引き締める。
「アリア」
そして真剣な声で彼女を問い詰めた。
俺なんかでは説得力がないだろうが、しかしここはしっかり言っておかなければならない。
「何であんなことしたんだ? ……幾ら合格を勝ち取りたいからって、好きでもない男に身体を売るような真似までして。そんなやり方で、お前は本当にそんな自分を誇ることができるのか?」
「…………ばか」
今、馬鹿って言われたぞ……?
俺が面食らっていると、アリアはますます機嫌悪そうに唇を尖らせた。
それからボソリと、
「……好きでもない男にあんなことしないわよ」
「え?」
「だーかーらっ……」
怒ったように言ってから、いきなり俺の身体に抱き付いてきた。
そして耳元で囁かれる。
「……あなたのことが好きだから、いいと思ったのよ」
「マジですか」
「マジよ。わたしはあなたが好きなの。だから何も後悔なんてしてないわ。…………は、恥ずかしいんだから、言わなくても察してよっ」
「昨日の夜のことの方がよっぽど恥ずかしい気が……」
「や、やめてよ……。……あたしも酔っていたのかもしれないわ」
「飲んでないだろ?」
「愛に酔っていたのよ」
もっと恥ずかしい台詞が飛んできた……。
「……俺なんかでいいのか?」
「違うわ。あなたがいいのよ」
そんなにストレートに言われると、おじさん困っちゃうぞ。
「けど俺は見ての通りおっさんだぞ?」
「別に気にしないわ。あなたが何歳だろうと。だって、あたしが好きになったのは、そういうところじゃないもの」
「アリア……」
「~~~~っ」
自分で言っておきながら恥ずかしかったのか、さらに顔を赤くするアリア。
物凄く可愛い。
ったく、ズルいぜ。
こんなの責任を取るしかないじゃねーか……。
自分の手で手折ってしまったこの美少女を、俺は絶対に裏切ることができないと思った。
『おめでとうなのじゃ!』
これまでの俺たちのやり取りを聞いていたのか、いきなりウェヌスの声が響いた。
どこにいたのかと見渡してみれば、部屋の壁に立てかけてあった。
『これで晴れてアリアはおぬしの嫁――もとい〝眷姫〟となったぞ! くくくっ、昨晩はお楽しみじゃったのう』
「……お前、もしかして見てたのか?」
『生憎、鞘に納められていたせいで喘ぎ声しか聞こえんかったわい』
あ、喘ぎ声って……。
ちらりと見ると、アリアが顔を沸騰させんばかりに赤くしていた。
『あんっ……ルーカスっ……いいっ……』
「やめろよ!?」
「やめてよ!?」