OVER PRINCE   作:神埼 黒音
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蒼の薔薇

「どうやら、この地点ではなかったようね」

 

 

どれだけの時間が経っただろうか。

ラキュースとティナはようやく、と言った感じで溜め込んでいた息を吐き出した。

気配を隠し、ひたすらに対象を待ち続けるというのは根気と集中力が要るものだ。

イビルアイに関しては問題ないだろうが、ガガーランとティアが担当しているC地点の方が心配だ……ガガーランは直情型であり、ティアは気分屋だ。

 

 

「ガガーランとティアは大丈夫かしら……」

 

「心配ない。二人ならちゃんとヤる」

 

「そうね……うまくヤッてくれれば良いんだけど」

 

 

二人は遠くにいるチームメンバーにそっと声援を送る。

その向こうでは悲鳴を上げている元骸骨が居るのだが、今の彼女達には知る由もない。

 

 

 

 

 

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一方、イビルアイの足元には三人の男どもが転がっていた。

二人は黒粉の運び人、一人はそこそこの規模の商会で働いている商務員だった。

このような取引に本人が出てくるような事はまず、無い。代理人を立てて、自らは安全な場所で成果を受け取るのが常である。

 

それで良い。

今回は「常に監視しているぞ」と脅しをかけるのが目的なのだから。

どれだけの武力があろうとも、これは一挙に解決出来るような類の問題ではない。千里の道も一歩からと思うしかないのだ。

 

 

 

「さて、この分だと他の地点は待ちぼうけか。リーダーとティナはともかく、ガガーランとティアの方はナニをして遊んでいるやら」

 

 

 

 

 

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「暴れんなよ……暴れんなよ……」

 

 

猛牛と化した女戦士が足を押さえ込んでいる。

彼女が本気になってホールドしなければならないほどに、相手の力が強いのだ。

 

 

「心配ない。星を数えてたらすぐ終わる。けど、終わった後も離さない」

 

 

女忍者の方は様々な拘束具を惜しげもなく使い、足を押さえ込んでいた。

本来ならモンスター用に使う高価な拘束具であり、決して冗談に使えるような安い物ではない。

 

 

 

控えめに見ても地獄絵図であった。

モモンガは思う。何故、こんな事になったのだ―――――と。

自分はユグドラシルを楽しんだ人達に混じり、最終日をにこやかに終わろうとしていただけであったのに。

あれだけ息苦しさを感じた玉座の間すら酷く懐かしく思える。

あそこに居たら、自分はこんな事になっていなかったのではないのか??

 

 

「あ、あんたらっ!垢BANどころか、これ電子犯罪になりますよ!わかってます!?」

 

「バンバン……?遠慮すんなって事か?安心しろ、遠慮なんてねぇよ」

 

「あんたの耳、どうかしてんのかよっ!」

 

 

もはやモモンガ―――――とか言ってる場合じゃない。

鈴木悟として本気で貞操の危機を感じてきた。

ここが電子空間であるとか、もうそんな問題じゃない。

こいつらはゲーム内だとか、プログラムだとか、ダイブ空間だとか関係なく、次元の壁を侵食して襲ってきそうなのだ。

 

 

そりゃいつかは童貞を捨てたいとは思っていた。思っていたさ!

でも、相手が酷い……酷すぎるだろ!

おっさんのようなゴツイ女戦士に、中身がおっさんの女忍者―――――ダブル・おっさんである。

ワールドチャンピオンも裸足で逃げ出すだろう。

 

 

 

「ぐ……こんのっ………離れろッ!」

 

 

 

モモンガが渾身の力を込め、右足を蹴り上げる。

ボールは友達、と言わんばかりに女戦士が跳ね飛ばされ、木々に頭から突っ込んで転がっていく。

何やら凄い音がしたが、あの女戦士なら大丈夫だろう。

ナザリックの黒棺(ブラック・カプセル)に放り込んでも平気で生還してきそうなのだから。

 

 

 

「ガガーランは死んだ。私が独り占め」

 

「あ・ん・た・も・離・れ・ろ」

 

 

 

ガシっと音が出る勢いで女忍者の顔を掴み、アイアンクローの体勢に持っていく。

太ももの辺りで頬をスリスリしていたのが強烈に気持ち悪かったのだ。

 

 

「王子の手。良い匂い。ふんすふんす」

 

「匂いを嗅ぐな!本気でへ、変態じゃないか!」

 

「変態じゃない。変態という名の忍者」

 

「いいから、離れろ!」

 

 

顔を掴み、そのままの勢いで遠くへと投げ捨てる。

慈悲は無い、と言わんばかりに女忍者が跳ね飛ばされ、木々に頭から突っ込んで転がっていく。

何やら凄い音がしたが、あの女忍者なら大丈夫だろう。

逆に餓食狐蟲王に卵でも産み付けそうな勢いだったのだから。

 

 

 

身の安全を確保し、付けられていた拘束具を即座に解除する。

拘束無効の指輪をしていたのだが、あの二人がしてきたのはそういう類の拘束ではなく、何かもっと、邪悪なモノがほとばしっていたのだ。

ペロロンチーノさんが言っていた「だいしゅきホールド」という単語が頭に浮かび、背筋にゾッとしたものが走る。

なんてものを、なんて時に思い出したんだ。

 

とにかく1秒でも早く、この場所を離れよう。

ワールドエネミーと戦った時ですら、これ程の緊張感や恐怖感はなかった。

咄嗟に《飛行/フライ》を唱え、かつてはよく訪れていたバザーの方角へと飛ぶ。

離れれば離れる程、安全になる。そう信じて飛ぶしかない。

そして、この地には二度と戻らない。そう堅く決意したモモンガであった。

 

 

 

(あれ、そういえば……コンソールが出ないのに、どうやって飛行を………)

 

 

 

そして、これまで考える余裕すらなかった事柄に……

ようやく気付くのである。

 

 

 

 




果てない死闘を制し、遂にワールドエネミー2体を撃破したモモンガ様。
でも気を付けて!
この世界の女性キャラは全部ワールドエネミーになる可能性があるよ!


PS
沢山の感想や評価など、本当にありがとうございます。
初投稿で右も左も判らないままですが、地道に更新していこうと思います!