SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[23718] 逆行戦記リリカルなのは(なのは×ユーノ)誤って一回全削除 並行世界編一部改訂とその八投稿
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2011/05/22 18:04
*ギャース!謝って前の物を削除してしまいました……。これまで感想を下さった方、誠に申し訳ございません。





なのはさんとユーノ君が逆行します。
なのは×ユーノです。
NANOHAやU-NOになることもあります。
若干なのはさんは病み気味です。
なのはさんは自重していませんw
ばっかっぷる、ばかっぷるw






失ったのは愛しい人

辿ったものは異なる未来

得たものはやり直せる時

――例え死が二人を別つとも

『逆行戦記リリカルなのは』始まります



[23718] プロローグ~例え死が二人を別つとも~sideN
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 20:50
『なのは、これを貰って欲しい』
『うん……指輪?』
『そうだよ。この間勢いでプロポーズしちゃったけど、こういうのは大事だと思ったから。地球の習慣であったよね』
『うん、あるよ。……ねえ、付けてくれる?』
『いいよ。……はい』
『わ、ぴったり。どうやって私のサイズ、知ったの?』
『あ、それね、ロストロギアなんだ。自動的に大きさを調節するんだよ』
『へえ……ってロストロギア!?大丈夫?危険は無いの?』
『大丈夫だよ。ロストロギアって言っても年代がえらく古いからなんだ。調べた結果、特にそれ以外の効果は無かったよ』
『そっか。なら大丈夫だね。嬉しいな……。でもどうしてこれにしようと思ったの?』
『それはね、僕が何年か前に発掘したものなんだ。一対の指輪でね、ほらこれが対のほうだよ』
『へえ……あれ?内側になんか書いてあるよ。文字かな?読めないけど』
『ああ、それはラーガ・アルデ・ミゴラス文明の文字だよ。両方に同じ言葉が書かれているんだ』
『どんな意味?』
『それはね……』






「え……」

なのは=T=スクライアは目の前の光景を理解できなかった。理解したくなかった。
今日は自分とユーノ=スクライアとの結婚式。……いつから好きだったか分からない、大切な幼馴染との結婚式。
その誓いのキスの瞬間だった。何故か彼に突き飛ばされた。
そしてなのはが見たものは


身体から

大量の血を流して倒れている

ユーノの姿だった。


「何……やっているのユーノ君。起きて。起きて。ねえ起きてよユーノ君。起きて、起きて……」

ユーノに必死に縋り付く。そうすればユーノが起きると信じるように。しかし

「駄目ですなのはちゃん!救急です!誰か転移魔法を!私は応急処置に入ります!」

長年の知り合いである、シャマルが止める。さらに周囲では怒号が飛び交っていた。

「くそっ!何処のどいつだ!?絶対に許さねぇ!」
「フェイトさんが真ソニックで犯人がいると思われる方向に飛んでいきました!」

しかしなのはにはそれらが思考のうちに入らない。

「ユーノ君、ユーノ君、ユーノ君、ユーノ君、ユーノ君ユーノ君ユーノ君ユーノ君ユーノ君ユーノ君ユーノ君ユーノ君……」

ただ、壊れたように繰り返していた。



結局、ユーノは助からなかった。犯人は反管理局団体の過激派。何度も煮え湯を飲まされ、これからも被害を受けるだろうエースオブエースの無防備な瞬間を狙っての犯行だったらしい。
実行犯はすでに死亡。……そう、実行犯は。まだ黒幕は見つかっていない。周囲は黒幕探しに躍起になっている。
そしてなのはは……以前にも増して前線に出るようになった。壊れかけた身体を気にせず。周囲の声も聞かず。



「なのは、少し休んだほうが……」

恐らく、自分の一番の親友であろう人物がそう言う。しかし

「うるさいよフェイトちゃん。休め休めって」

なのはは取り合わない。

「でも、ヴィヴィオの事とか……」
「いいんだよ。アイナさんとかザフィーラに任せているから」
「……っ!なのは!」
「うるさい!」

逃げるように立ち去る。


久しぶりの自宅。久しぶりに自分の愛娘に会う。

「なのはママ、もう止めて!パパだってママにそんな事して欲しいだなんて思ってない!」
「ユーノ君がそういう風に思っていない?そんなのは当たり前だよヴィヴィオ」

愛娘に笑顔を見せる。しかし、それは愛娘はおろか、他人に一度も見せたことのないような壮絶な笑顔で。

「死人は何も感じない、思わない。これはね、私がやりたいからやっているんだよ」
「なのは……ママ……」

愛娘の顔が恐怖に歪み、どこかに去っていく。その夜、もう一人の親友からヴィヴィオを預かるという連絡が入った。



そして……

「ミ ツ ケ タ」

その時がやってきた。



ここは反管理局、過激派の本部アジト。そこには幹部ともいえる人間が会議のため全員集まっていた。しかし

「警報警報!敵襲、管理局です!」

蜂の巣をつついた様な騒ぎになっていた。

「くそっ!敵の規模は!?」
「一人!ですがエースオブエースです!」

各所から悲鳴が上がる。我先にと逃げようとする。彼らも自分たちの組織がなのはの夫を殺したということを知っていた。
そして……彼女はそれを許さない。

「ふうん……逃げるんだ。いいよ逃げても。逃げられるのならね」

ソレが現れる。
手にはストライクカノン。彼女の愛杖レイジングハートではない。
身体だのヴィヴィオの事だのと小うるさいデバイスではない。
……彼との絆だった彼女ではない。

「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!それじゃあ始めるよ!」

ソレが壊れたように嗤う。魔力がチャージされていく。そして……。





過激派のアジトがあった場所の跡地の中心部。なのはは一人立っていた。
周りの制止を強引に振り切り、部隊が到着する前に自分一人で終わらせた。
だが、何も湧いてこない。達成感も、虚しささえも。

ふと今の自分の人間関係を考える。そして考えるまでも無い、自分で全部壊してしまったと思う。
だがそれを後悔してはいない。してはいけない。そうでなければ自分で愛した人の仇を取れなかった。そう思う。思い込む。

(あれ……)

視界が変わる。そこで気が付く。自分が倒れているのだと。リンカーコアを中心に全身から血を流しているのだと。
視界を前に向ける。仰向けでよかった。空がよく見える。今日も、空はとても青かった。

(もう一度、ユーノ君と空を飛びたかったなあ……)

そして目を閉じる。瞬間、視界の端で左手の薬指が光った気がしたが、気にしなかった。気にすることができなかった。




なのは・T・スクライア。享年26歳。過激派本部があった場所と思わしきクレーターの中心部で見つかる。遺体の凄惨さに比べ、穏やかな死に顔だったという。



[23718] プロローグ~例え死が二人を別つとも~sideY
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 20:51
「え……」

ユーノ=スクライアは目の前の光景が信じられなかった。信じたくなかった。
今日は自分となのは=T=スクライアとの結婚式。……いつから好きだったか分からない、大切な幼馴染との結婚式。
その誓いのキスの瞬間。何か、赤いモノが自分にかかった。
そしてユーノが見たものは


白いウェディングドレスを

自らの血で

真っ赤に染めている

なのはの姿だった。


「なのは、何で……。そ、そうだ治癒魔法を使わないと……」

しかし動揺しているのか、全く発動しない。それでも彼は使おうとする。

「くそっくそっ!どうして!どうして!」
「ユーノ君!私がやります!救急です!誰か転移魔法を!」

長年の知り合いである、シャマルが代わる。さらに周囲では怒号が飛び交っていた。

「くそっ!何処のどいつだ!?絶対に許さねぇ!」
「フェイトさんが真ソニックで犯人がいると思われる方向に飛んでいきました!」

しかしユーノにはそれらが思考のうちに入らない。

「なのは、なのは、なのは、なのは、なのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのは……」

ただ、壊れたように繰り返していた。



結局、なのはは助からなかった。犯人は反管理局団体の過激派。何度も煮え湯を飲まされ、これからも被害を受けるだろうエースオブエースの無防備な瞬間を狙っての犯行だったらしい。
実行犯はすでに死亡。……そう、実行犯は。まだ黒幕は見つかっていない。周囲は黒幕探しに躍起になっている。
そしてユーノは……全ての気力を失ったように、結界を張り自宅の自室に閉じこもっていた。周囲の声も届かない。


「ねえユーノ……。出てきてよ……。みんな心配しているよ……」

彼女の一番の親友であったであろう女性。しかしその声は彼に届かない。

「ユーノ!てめぇいい加減に出てきやがれ、この引きこもり!」

彼女の最も付き合いが長かった同僚。しかしその声は彼には届かない。

「パパ……出てきて、出てきてよぉ……」

彼女の、そして彼にとっても愛娘であるはずの子。しかしその声は彼には届かない。


そんなある日……。

「邪魔をするぞユーノ」

ユーノの、恐らくは悪友とでも呼べる存在。その彼がデュランダルで強引に結界を破り入ってきた。


「……」

しかし、ユーノは何も応えない。

「ふむ」

そしてクロノはおもむろに拳を握り

「ふっ!」

思い切りユーノを殴った。

「……」

しかし、ユーノは何も応えない。

「……成程」

クロノはそう呟くと、ユーノを再び殴る。一発、二発、三発、四発……。
そして、大体十発程殴ったあたりでようやく反応が返ってきた。

「……痛い。止めろ」
「む、ようやく無視するのを止めたか」

もう少し殴ってもよかったんだが、など呟きながら問いかける。

「で、何時まで引きこもっているつもりだ?このフェレットもどき」
「……さあ?」

クロノはさらに一発ユーノを殴る。

「例の黒幕だがな、漸く目星がついた。……問題は現時点での足取りが全く追えていないことだが」

それの言葉にピクリとユーノが反応する。

「こちらは順調に進んでいるといっていい。……もう一度聞く。何時まで引きこもっているつもりだ?このフェレットもどき」
「……」

しかしユーノは答えない。

「昔……それこそお前に会った頃にも言った。『世界はいつだってこんなはずじゃないことばかりだ』と。それでも僕は進んでいく。皆も進んでいく。
 ……なのはも、生きていれば進んでいっただろう。……さて、お前はどうするんだ?」

その答えは

「……クロノ」
「ん?」
「ふっ!」

ユーノの拳だった。

「何をする!」
「うっさい!人のことを散々殴っておいて!」
「反応しないお前が悪い!このフェレットもどき!」
「言ったな!この真っ黒クロスケ!」

そして始まる殴り合い。魔力を一切使わず、ただ殴り合う。二十代も半ばの男二人が殴りあっている光景は、傍から見るとシュールだった。

それも一段落した。お互いにあちらこちらを腫らした二人が倒れこむ。そして

「なあ、クロノ」
「何だ?」
「来年の執務官試験、何時だっけ?」
「お前……」

ユーノも、前を向くことができた。

「……書庫はいいのか」
「もう大丈夫だよ。僕がいなくても、できるようになっている。僕も、僕の道を進む」

それを聞くとクロノは笑った。

「そうか。だが執務官試験は厳しいぞ。書庫に籠っていた貧弱フェレットが通るかな?」

ユーノも笑った。

「何を言っているんだ?元々無限書庫は本局で最もきつい職場さ。無重力だからトレーニングも義務だ。……とはいえ戦い方は誰かに学ばないとな」

碌な攻撃魔法が使えないからベルカ式かな、ザフィーラにでも格闘を教えてもらおうか、などと言っているユーノを見て、クロノは言う。

「まあ、前向きになったのは結構だが、その前に迷惑をかけた相手に謝ってこいよ。フェイトとかフェイトとか」
「分かってるよ、このシスコン。……なのはの墓にも行かないと」

そんなこんな話をしていると

「ただいま……」

ヴィヴィオが帰ってきた。その声には力が無い。しかし

「おかえり!ヴィヴィオ」
「パパ!?元気になったの!?」
「うん。心配をかけてごめんね、ヴィヴィオ」

ユーノが復活しているのを見て元気になっていった。それを横目にクロノが言う。

「さて……僕も帰るかな」
「……そうか。じゃあな。ああ、それと、その、ありがとう、クロノ」

それに一瞬クロノはキョトンとした顔をして

「ああ、分かった。それじゃあな、フェレットもどき。ヴィヴィオも元気で」

去って行った。またね、おじちゃんと言っているヴィヴィオを横目にユーノは思う。さあこれからは大変だ、ヴィヴィオの事、皆の事、執務官試験の事。
しかしあの日から今までとは全く違う充実感が占めているのは確かだった。


その後、ユーノ=スクライアは無限書庫司書長を退職。ザフィーラや高町士郎・恭也の教えを受けて執務官試験を一発で合格。
80歳で引退するまで常に現役の執務官だったという。




そしてその日……。

(今日はなんだか体が軽いな……少し外に出るか)

とある日。普段、高齢で基本的に寝床から離れなれないユーノは調子が良かったので外に出ていた。

(空が、綺麗だなあ。なんだかなのはを思い出すや)

正確にはそれは違う。何時だって、彼女を忘れたことなどなかった。

(なんだか気持ちよくなってきたな……、少し、眠るか……)

目を閉じる。瞬間、視界の端で左手の薬指が光った気がしたが気にすることはなかった。



ユーノ=スクライア。享年101歳。老衰。自宅の庭にて、まるで眠っているように亡くなっていたという。







『それはね、死が二人を別つとも、っていう意味なんだ』
『……』
『なのは?……やっぱり少し重かったかな?』
『――ううん。そんなことは無いよ。すごく、すごく嬉しい』
『なのは……』
『ねえ、ユーノ君』
『なに?なのは』
『絶対に、幸せになろうね!』
『そうだね』





[23718] 第一話 再開~彼女の場合~
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 20:53
そうして、彼女は目を覚ました。

(あれ……?)

同時にひどい違和感を感じる。身体が妙に軽い。リンカーコアを中心とした鈍痛も無い。
部屋を見渡す。自分の部屋では無い?……いや、見覚えはあるここは……

(実家の、私の部屋……?)

そうだった。でも、と思い

(なんだか、全体的に古いというか、昔っぽいというか……)

そう感じる。そして気が付く。

(私、縮んでいる……!?)

思考に浸ってられたのはそこまでだった。

「なのは、朝よ。起きている?」

母である、桃子が来たからだ。

「お母さん……?」
「あら、起きてたの?感心感心。今日から小学生だものね」
「へ?」

思考が止まる。桃子は気にせずに続ける。

「へ、って……もしかして寝ぼけている?ご飯はできているから顔を洗ってきなさいね」

そして桃子は去って行った。しかしなのははいまだ混乱中。

(え?え?今日から小学生?どういうこと?)

しかし、とりあえず……

(顔を洗ってご飯を食べよう……)

そう結論を出すのであった。



そしてリビングに降りる。

「来たわね。改めておはようなのは」
「う、うん。おはようお母さん」

うわ-、お母さん全く外見変わってないよ……、などと思いながら食卓に着く。すでに自分以外はそろっていた。

「おはようなのは……どうしたんだ?なんだか調子が悪そうだが」
「おはよう、なのは。……まあ今日から小学生だし、緊張でもしているんだろう」
「おはよう、お父さん、お兄ちゃん。そ、そうなんだ緊張しちゃって」

とりあえず適当な理由があったからそれで誤魔化しておく。そして

「おはようなのは。あれ?なのは、それ、何?」
「おはようお姉ちゃん。それって?」

姉が何かを聞いてくる。

「ほら、その左手の。……指輪?」

そう、左手の薬指にはユーノとの結婚指輪が付いていた。

「え……?」

それに気が付いたとたん

「ちょ!?何でなのは泣いているの!?」

涙が溢れて、止まらなくなった。


それからしばらくして、なのはは泣き止んだ。

「にゃはは……。ごめんなさい」

謝っておく。うがーうがー何処の馬の骨だー、あなた落ち着きなさい、と夫婦が何か言っている。

「まあ、別にいいが。……しかしそれを付けて学校に行くのか?」
「うん!もちろんだよ!」
「没収されるかもしれないぞ?」
「ええ!?どうして!?」
「いや、そういった華美な物は身に着けて行っては駄目だと場合によっては校則で決まっているんだ」
「大丈夫だよ、多分」

レイジングハートも没収されなかったし、と思いながら答える。

「ならいいが。だが注意されたらちゃんと外すんだぞ」
「うん、分かった」

外さないけど。そうなったらどうやって誤魔化そう、と思うなのはだった。

「だけどなのは。よくさっき恭ちゃんが言ってたこと分かったね」
「?何のこと?」
「いや、だから華美だとか校則だとか」
「い、いや何となく、かな?」

ふーんと言っている美由希。

「あ、ヤバ。もう行かないと!」
「やれやれ、じゃあさっさと用意しろ美由希」
「はーい。それじゃあなのは、また後でねー」

そして出て行った。


小学校の制服に着替える。これを着るのもずいぶん久しぶりだ。そして、バスに乗って学校、そのまま入学式。アリサとすずかを見かけた。なんだかとても懐かしかった。
その後は特にすることも無く、両親と帰宅。夕飯を食べ、風呂に入り、自室に入る。ようやくなんだか実感が湧いてきた。


――そう、自分は戻ったのだと。


おもむろに結界を張る。

「あは、あはは、あはははは、あははははははははは!!!」

笑う。

「ユーノ君!ユーノ君!ユーノ君!ユーノ君!ユーノ君!」

そう、つまり彼と再び会えるのだ。やり直せるのだ!

「あはははは!ユーノ君!あははははははは!」

笑い、ひたすら彼の名を呼ぶ。しばらくの間、それは続いた。




(とりあえず、これからどうするか、だよね)

落ち着いた後、結界を解除して考え始める。

(ユーノ君とは……うん、会えるだけなら何もしなくてもいい、はず)

彼とは必ず会える。指輪を撫でているとそう確信できた。でも、とも考える。

(それだけじゃ駄目だ。今度は何があっても護り抜ける力が必要だ)

あの時、自分にもっと力があって、あの場で反応することができたら彼は死なずに済んだかもしれない。

(その為には……魔法の特訓、あと体力を付けないと。お父さんたちに剣を習うのは……却下。器用貧乏になるし、私、反射神経はともかく、運動神経は絶望的だし)

魔力で強化すれば別だが、そうでないと自転車にすら乗れなかった。そんなことを思い出す。

(……うん、自転車くらいは乗れるようになろう)

そんな決意もする。

(とりあえずお父さんたちに頼んで体力が付くような特訓メニューを相談しよう)

それ以外の事も考える。

(フェイトちゃんは今の時点ではどうしようもないけど、はやてちゃん、独りなんだよね……)

どうしよう、と考えているとふと思い出す。

(そういえば、リーゼさん達ってはやてちゃんの家を監視しているんだっけ。……う。魔法の特訓をしていたら気が付かれるかなあ?)

そこであれ?と思う。

(そういえば……魔法を隠す前提で考えているけど、別にばらしちゃってもいいんじゃないかな?)

そんな考えも浮かんだが、却下する。

(駄目だ。もしそんなことをやってリーゼさん達にばれるとする。すると管理局に知られるかもしれない。
そこからプレシアさんがここにAAA~Sランク程度の魔導師がいると知るかもしれない。そうしたら警戒してジュエルシードは別の世界に落とすかも)

かもしれない、ばかりだがなるべく不確定要素は排除しておきたい。

(と、なると……むしろはやてちゃんと接触しておいたほうがリーゼさん達の動きを把握しやすいか……)

うん、そういったことを抜きにしても友達になっておきたいし。彼女には迷惑をとてもかけた。償う相手が違うかもしれないが、せめて独りの期間を減らそう、そう考える。

(それから……お母さんに料理も教えてもらおう。胃袋からユーノ君をキャッチだよ)

未来でも料理はそれなりにできた。できたが流石に母桃子には適わなかった。特にプロであるお菓子関係は圧倒的である。当然だが。

(ユーノ君も当然、出来ると出来ないでは出来る女の子のほうがいいよね)

えへへ、としばし妄想に浸る。

(あとは……万一、ジュエルシードが落ちてこなかった場合)

その場合、次元世界に行って彼を絶対に捜す。だけど問題は

(転送ポートがないと、ミッドまで正確に行けない……)

そんな問題だった。自分は転送魔法は得意でも不得意でもない。得意だったのはヴォルケンリッターの面々だった。

(はやてちゃんに頼み込めば送ってもらえるかなあ?)

危険だから無理かな?そこまで考えがまとまったところで、なんだか眠くなってきた。

(あー、身体は子供だもんね……。当然か)

まあいいや、明日以降に考えよう。とりあえず体力付けるメニューは相談しよう。

(おやすみなさい……ユーノ君)

指輪を見つめながら、そう思う。なんだか今日は久しぶりにいい夢が見れそうだ。





[23718] 第二話 そして、再び出会いの日
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 20:57
そして、あれから二年の月日が経ち、なのはも遂に三年生になった。
その間、アリサとすずかの喧嘩(と、いうかアリサの一方的な攻撃)を仲裁して再び友達になったり、はやてと図書館で偶然を装って友達になったりした。
はやてと一緒に、桃子に料理やお菓子作りを教えてもらっている。ちなみにはやては週2、3回位のペースで高町家に宿泊している。
今ではすっかり四人仲がいい。とはいってもはやては学校には通ってないし、最初のほうはアリサには結構、すずかには若干怯えられていたが。
本人は気が付いていないが、原因は仲裁した時にあった。



なのはの平手がアリサに飛ぶ。

『何すんのよっ!!!』
『痛い?でもね』

そこでなのはアリサに顔を向ける。その、目のハイライトが消えた、能面の様な顔を。

『ヒッ!』

アリサの顔が恐怖に歪む。

『でもね、大切なものを奪われた人は痛いなんてものじゃないんだよ……』
『わわ分かったわっ!謝る、謝るわよっ!それでいいでしょ!』
『いいの?』

そこですずかにも顔を向ける。すずかは若干ひきつった表情で

『う、うん。それでいいよ』
『それじゃあ……ごめんなさい。私が悪かったわ』
『うん、じゃあこれで仲直り、だね』

表情が普通になったなのはがそう言った。二人はまるで信じられない生き物を見たような顔をしていた。

『えっと、高町さん、だったっけ?』
『なのはでいいよ。お友達になろう?』
『いいの?じゃあ私もすずかで』
『うん。ほら、アリサちゃんも』
『わ、私も?ええっと、うん、わかったわよっ!これからもよろしくねっ!』

そんなことを紅くなった顔でそっぽを向いて言うアリサ。それを見てすずかと顔を合わせ、笑うのだった。



魔法の訓練と体力作りも順調だ。今の所、リーゼ姉妹は気が付いていないようだ。少なくても、こちらには何のアクションも起こしていない。
体力は同年代と比べると圧倒的にある。だが、それでも勝てないすずかちゃんって何者?という気持ちもあったが。






そんなこんなで過ごしていたある日の事。いつものように屋上にて三人で昼食を取っていた。

「将来か……アリサちゃんとすずかちゃんは、もう結構決まってるんだよね?」
「家はお父さんもお母さんも会社経営だし。いっぱい勉強して後を継がなきゃぐらいだけど」
「私は機械系が好きだから、工学系で専門職がいいなぁと思ってるけど」
「なのははどうするのよ?」

そこでなのははうーん、と考える。もう一度教導官をやりたいな、とか色々あったがやはり一番はあれだった。

「わたしは、お嫁さんになりたいな……」

もちろん、ユーノ君の。声に出さずにそう思う。そんな反応に若干二人は困って

「あー、うん。頑張りなさいよ」
「そうだね、なのはちゃんならできるよ」

そんなぞんざいな返事を返した。だがなのははそれに気が付いていない。別の事を考えていた。

(確か、ユーノ君の広域念話が入る前後でこんな話題があったよね……そろそろ、かな)

あれから二年。あの未来でユーノが死んでからはそれ以上が経った。さすがに細かいところは覚えていないが、そろそろのはずである。

(嗚呼、ユーノ君、ユーノ君とまた会えるんだ!ユーノ君、ユーノ君、ユーノ君、ユーノ君……)

妄想で、顔がだらしなく歪む。だが、アリサとすずかは動じない。偶にこういったことがあるので慣れてしまっていた。

「あー、なのはまたああなっているわよ」
「そうだね……。いつもなら放っておくんだけど、そろそろ昼休みも終わりだから起こそうか」
「そうね……おーい、なのはー、起きなさーい」

アリサが肩を強く叩きながらなのはに呼びかける。なのはが戻ってきた。

「っは。アリサちゃん、どうしたの?」
「そろそろ昼休みも終わりだから帰るわよ」
「うん、分かった。片づけるね」

まあ、結局のところ、割と日常的な光景だった。





それから一日経った。念話は届かない。

(ええっと、落ちていないだけだよね)




さらに一日経った。念話は届かない。

(まだ、落ちないのかな?)




さらに一日。念話は届かない。

(まだ、かな)




さらに一日。

(……)




もう一日。望んでいたものとは違ったが、それが来た。





真夜中の事。それは魔力反応。どこかで大規模な結界が張られたようだ。しかもこの魔力は……間違いない。

(ユーノ君だ!ユーノ君だ!!ユーノ君だ!!!)

歓喜が全身を巡る。すぐに出かける準備をする。家族にはほぼ気が付かれるだろうが、関係無い。飛んでいく。

(今行くよ!待っててね、ユーノ君!)


そして、そこに到着する。間違いない。ここはユーノと出会ったあの森だった。

(結界、だ……ユーノ君はこの中。多分戦闘中。恐らくここでユーノ君は傷ついて、フェレットになる)

そこでふと思う。

(あれ……?でも今ここでユーノ君を助けたら、傷ついていないユーノ君、自分一人で封印を続けちゃうんじゃ?)

だが、そこであの光景がフラッシュバックする。大量の血を流し倒れているユーノの姿が。

(……!そうだよ!何を迷っているの!今回も助かるとは限らないのに!)

そして結界内に侵入した。


そこで見たものは誰よりも……何を差し置いてでも会いたかった人の後ろ姿。少し遠いが見間違えるはずがない。

(ユーノ君!ユーノ君!)

……それに気を取られていたのがまずかったのだろう。彼に相対していたのは金髪の黒い魔法少女と赤い狼。自分の一番の親友だった女の子とその使い魔。
彼女の魔法は既に放たれている。それは“フォトンランサー・ファランクスシフト”。
その膨大な量の魔力弾は無防備ななのはにも迫り、


「なのはっ!」
(え……?)


なのはを庇った彼を貫いた。


「え……?ゆーの、くん?」


結界が解ける。同時に



「ああ、あああ、あああああああああああああ!!!!!」



なのはの慟哭が、周囲に響き渡った。



[23718] 第三話 再開にして再会~彼の場合~
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:03
そうして、彼は目を覚ました。

(あれ……?)

同時にひどい違和感を感じる。身体が妙に軽い。
部屋を見渡す。自分の部屋では無い?……いや、見覚えはあるここは……

(スクライアの、テント?)

確かそのはずである。でも、と思い

(なんで……?)

スクライアへ帰ったのは執務官を引退してすぐが最後のはずである。そして気が付く。

(身体が、若返っている……!?)

思考に浸ってられたのはそこまでだった。

「おいおいおい、ユーノ大変だ!起きているか!?」

なんだか見覚えがある男が飛び込んできたからだ。えらい若返っている、むしろ故人だったはずの彼は

「カロ兄さん?」
「おうよ。おはようさんユーノ」

カローラ=スクライア。スクライアにいた時は兄のように慕っていた男だった。

「ど、どうして……?」
「あん?寝惚けてんのか?昨日お前帰ってきたんだろうが」

へ、と思う間も無く

「まあいいや。飯出来ているからさっさと目覚まして来いよ!」

嵐のように去って行った。

(え?え?どういうことだ?)

しかしとりあえず

(ご飯を食べてから考えよう……)

そう結論を出すのであった。



そしてスクライアの、まるで食堂のようになっている所に行く。

「来たな。改めておはようさんユーノ」
「う、うん。おはようカロ兄さん」

なんでこんなことになっているんだろう……もしかして……、などと思考に没頭しそうになっていると、カローラが話しかけてくる。

「何だ?今日は変だな。やっぱ緊張してたから疲れてんのか?」
「……?緊張って?」

疑問に思ったことを聞く。なにか昨日までやっていたのだろうか。

「だからさ、お前昨日まで初めての遺跡発掘の指揮取っていたんだろ?それでだよ」

その言葉にえ、と反応する。そして呟く。

「ジュエルシード……?」
「そうだな……っとそうだった!大変なんだよユーノ!」

その言葉にまさか、と思う。しかし

「ジュエルシードの輸送船なんだがな、襲撃を受けたらしい。このままじゃ金になんねえ」

予想は、当たってしまった。まあ管理局には連絡したみたいだけどな、と言う。そしてユーノは

「――行かなくちゃ」

そう決意する。しかしカローラが言う。

「は?何で?別に輸送艦の責任であってお前の責任じゃないだろ?封印も施してるんだろ?管理局だって行く。ほら、お前が行く必要は無いじゃないか」

しかしユーノは言い切る。

「それでも、僕は行かなくちゃいけない」

それにカローラはふむ、返事をして

「まあそこまで言うんだったら別に止めないが……。発掘現場責任者として、とかか?」

そんなことを聞いてくる。だが、ユーノは答える。

「――違うよ。僕の大切な人を守りに、かな」

はあ?となにを言っているのかわからない、という顔をしていたカローラだったが、ふと気が付いたのか別の事を聞いてきた。

「そういやユーノ。お前何時の間に左手に指輪なんてしてんだ?昨日は付けてなかったよな」
「え?」

気が付いていなかったユーノが左手薬指を見る。そこには、確かに彼女との結婚指輪がしてあった。
おもわず、涙がこぼれる。

「あー、なんか悪いこと聞いたか?」

カローラがばつが悪そうに聞いてくる。

「そんなこと、ないよ。……ありがとう兄さん。気が付かせてくれて」
「あー、ならいいんだ。ほら、行くんだろ?さっさと食って用意しろよ」

そして照れくさそうに答えるカローラ。ユーノはそれに気が付かないふりをして、そうだね、と食事を進めるのだった。



行く準備を進める。同時に思考を纏める。

(どうやら僕は戻ってきたようだ……しかもこのタイミングに)

とりあえず、替えの下着をいくつか。

(確かにこの体は全然僕の戦闘スタイル慣れていない。だけど今の僕でも、例え相手がフェイトだって倒せる。そのための経験値位はあるし、元々何度も模擬戦をした相手だ。あの時より強いということは無い)

着替えは最悪バリアジャケットで代用できるから別にいい。

(だから……なのはに頼らないでも、巻き込まないでも済む。……なのはを、魔法の世界に引きずり込むわけには、あんな最期を迎えさせるわけにはいかない)

それからサバイバル用のセットを。

(もちろん、会いたくて堪らない。なのは、なのは、なのは、なのはなのはなのは!)

あとはそれらをまとめるそれなりの大きさの袋。

(でも、絶対に会わない。会ったら絶対に未練が生じる。今回は万一にでも彼女が被害にあったり、魔法の事を知ったりしないようにするため)

最後に彼女の、そして自分の生涯の相棒だった彼女を。

「それじゃあ出発するよ、レイジングハート」
『分かりましたが……一体何処へ行くんです?』
「……」

今ひとつ締まらない始まりだった。





そして……

「地球か……久しぶりだな」

第97管理外世界地球・日本・海鳴。ユーノはそこにたどり着いていた。

「最後に来たのはアリサの葬式の時だから、体感としては10年振りくらいかな」

魔力を探知する。そして、簡単に発見できるこの魔力は……

「なのは……」

間違えるはずもない。彼女だった。

『マスター。何だかよく分からない感傷に浸っていないで今後の方針を決めましょう』

(いまいち空気を読めない)レイジングハートがそう提案してきた。

「あ、ああ、そうだね。まあ方針としては単純、探知・発見・封印だよ」
『実に分かり易いですね』
「まあね。あとどっかに結界張ってベースキャンプを作ろう。水は公園とかから取れるし、川もある。季節が季節だから場所さえ間違えなければ食べられるものは簡単に取れるし。烏とかを捕獲してもいい」
『ふむ、随分詳しいですね』

それにユーノは一瞬反応して

「……まあ、いろいろあったんだよ」

そう言う。

『まあ何でもいいです。それじゃあさっさと始めましょう』

そうレイジングハート。ユーノはそれに苦笑して

「そうか。それじゃあ始めようか」

行動を開始するのであった。




それから何日か経った。月村邸、旅館の近くなど印象に残っていたので覚えていた所を始めとし合計5つの封印に成功していた。そして今も


ここはなのはと初めて出会った森。……あの時は本当は魔法の事を何も知らない人間などを巻き込むつもりなど無かった。ここは管理外世界、魔法資質を持つ人間など極めて少ない。
だから広域念話をした時、期待をしていたのは万が一にでも念話が届く範囲に魔導師がいることだった。
――だけれども魔導師などいなく、代わりに自分の声に応えてくれたのはなのはだった。……思えば、自分はあの時から彼女に惹かれていたのかもしれない。勿論、今も。


「はっ!」

ユーノの拳がシードモンスターを正確に打ち抜く。魔力で強化されたそれは御神の特殊技法“徹”とあいまって一撃で破壊した。そのまま素早く封印。
そうして6つ目のジュエルシードを手にしたのだった。

「順調だね」
『……そうですね』
「?どうしたのさ、レイジングハート。なんだか歯切れが悪いけど」

まあデバイスには歯無いが。

『いえ……なんだか私、ただのジュエルシード格納庫だなあ、と……』

さもあらん。ユーノは昔の、未来の感覚を取り戻すために、調整と訓練の意味も兼ねて戦っている。本当は二刀小太刀が一番いいのだが、改造されていないレイジングハートにその形状は無い。
よってサブだった格闘で戦っている。ちなみにユーノは“徹”を小太刀以外でも使えるように努力した。結局格闘でしか使えなかったのだが。
ユーノはBJ、封印、結界といったものさえも自分で使っている。まさしくレイジングハートはジュエルシード格納庫だった。

「仕方が無いじゃないか。そのままじゃ僕の魔力は君とは相性が悪い。ある程度お金があったら改造するんだけど……」

そんな理由でまともにレイジングハートは使えない。

『……マスターの甲斐性無し。大体あんな格闘術何時覚えたんですか』

うぐ、と二重の意味で言葉に詰まる。まあそれはそれとして格納しようとする。しかし

『!7時の方角より敵襲ですマスター!!!』

その声とほぼ同時に気が付いたユーノは横に飛ぶ。そして敵の攻撃を回避。襲ってきた相手は赤い毛並みの狼。

(アルフ!と、いうことは……)

「バルディッシュと同じ、インテリジェントデバイス……。ジュエルシードの探索者」

木の上に、黒いバリアジャケットに金髪ツインテールの魔法少女がいた。

「ジュエルシード、頂きます」

いつかはぶつかると思っていたが、思っていたより早かった。そんなことを思っているとレイジングハートが発言する。

『マスター……』
「ああ、彼女はなかなかやる。ここは気を引き締めて……」
『何故ああいう輩は高い所から登場するんでしょうね。ナントカと煙でしょうか』
「……レイジングハート。まずは改造よりも先に空気を読むことを覚えよう」

何かいろいろと台無しだった。




ユーノが結界を張る。それが合図となり、戦闘が始まった。

アルフが突撃してくる。ユーノはそれをいなす。瞬間、フェイトがフォトンランサーを放つ。回避、フェイトとの距離を詰める。鉄拳。フェイトは回避。
アルフが後方から一撃。ユーノはそれが見えているかの様に横に飛び、回避。

「へえ……なかなかやるじゃないか」
「そうだね。油断出来ない」

しかしユーノが言い切った。

「いや、全く問題は無い。大体分かった」

そう、ユーノは過去のフェイトたちとの模擬戦―無論、一対一も二対一も含む―と照らし合わせていた。そして確信する。彼女達は自分が知る何時よりも弱い。それに加え実戦経験が足らず自分達の癖も理解していない、と。

「なんだって!?」

その挑発を受けたアルフが突進してくる。それが第二ラウンドの始まりだった。



圧倒的だった。先ほどと同じようにアルフの攻撃をいなした。その後はフォトンランサーがどこから飛んでくるのか分かっているかのように回避をし、距離を詰めてきた。攻撃をされたから回避をすればその先にはバインドが待っていた。自分は宙を舞っていたのに、何処に回避するのか分かっていたように。
そしてバインド外そうとした隙にアルフがやられた。防御魔法を使っていたはずなのに、それを易々と無効化して。未だにバインドから抜け出せない。完全にチェックメイトだった。



「わたしたちを……どうするの?」

フェイトが訊ねる。自分たちはあっという間にやられた。何もできなかった。正直とてもとても悔しい。だがそれを押し殺して聞く。一個だけ持っているジュエルシードが取られるかもしれない。

「うーん……。別に何をする気もないけどなあ……」

ユーノは答える。本音である。フェイトの事情は無論知っている。勿論、ジュエルシードをプレシアに大量にやるわけにはいかないが。数によっては次元震が地球まで及ぶかもしれないし。
だが、それを悩んだのが悪かったのだろう。後ろから回復したアルフが猛烈な勢いで突進してきた。ただし、ユーノではなくフェイトに。そして狙い通りに勢いも利用してバインドを破壊した。

「フェイト!こいつはあたしが一時的にでも食い止める!フェイトはでっかいのを!その隙に逃げるよ!」

アルフがそう言う。そしてフェイトは、一瞬呆けたがすぐに頷き、魔法の準備を始める。”フォトンランサー・ファランクスシフト”を。
アルフが攻撃してくる。それは先ほどまでとは毛並みが少し違った。

「む……」

だからユーノは少し手間取る。

「アルフ!引いて!」

魔法が完成する。アルフが引く。同時に発動した。

(まあ、あれ位ならシールドでなんとか……!?)

ユーノは気が付く。自分たち以外に結界内に入り込んでいる人がいることに。そして、その魔力反応は間違えるはずが無い。

(なのは!)

魔法はすでに放たれている。そしてファランクスシフトの魔力弾は無防備な彼女も巻き込む。気が付く前に体が動いていた。

「なのはっ!」

思わず名前を呼ぶ。しかしそんなことを気にする余裕は無い。まだ未熟な体では使うつもりが無かった奥義を使う。

(神速)

瞬間、視界がモノクロになりあらゆるものが遅くなり、しかしその中自分は普通に動く。だが

(少し、足りない“フラッシュムーブ”)

さらに魔法を使い加速。神速中に魔法を使うのはこの未熟な体には相当な負担だ。なのはの所に行く前に倒れそうになるが倒れるわけにはいかない。


そして、辿りつき、彼女を庇い、魔力弾をまともに受けた。


(良かった……今度は護れた……)

倒れる直前、彼女の顔が見えた。まるで、見たくなかったナニカを見ている様な顔だった。

(あはは、赤の他人が自分を庇っただけなのに、そんな顔をするなんて、やっぱりなのはは優しいよ)

そうして意識を手放した。その直前、声が聞こえた気がした。


「え……?……の、く……」


だけど彼は気にしなかった。気にする余裕は無かった。



[23718] 第四話 The girl meets the boy again.
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:05
「ああ、あああ、あああああああああああああ!!!!!」


なのはの慟哭が周囲に響き渡った。



あの光景をを思い出す。何も出来なかった自分。ユーノからただ流れる血。

「あ、あ……」

……彼女にとってはいまだに酷いトラウマだ。戻ってきてからも、思い出してしまって寝れない夜を過ごしたのは一度や二度ではない。

「ユーノ君ユーノ君ユーノ君ユーノ君ユーノ君……」

名前を呼びながら必死に彼に近寄る。そして、その体に触れようとした瞬間。

(え?な、何……?)

彼の体が、彼の魔力光によって包まれる。そして……

(あ……そっか……)

ユーノは、フェレットになっていた。





なのははそっとユーノに触れる。呼吸をしているのだろう、規則正しく動いている。つまり……

(無事だったんだ……。よかった……)

安心する。それと同時に緊張が解けたのかへなへなとその場に座り込む。

(そういえば、フェイトちゃんは?)

周囲に気を払う余裕も出てくる。だが……

(いない、か)

既にフェイトは消えていた。

(フェイトちゃん、もし今度出会ったら――)

物騒な方向に思考が行きかける。しかし、そこでユーノが視界に入る。

(……うふふふふふふふふふふふふふふ)

顔が緩んでいくのが分かる。

(ユーノ君、ユーノ君、ユーノ君!本物の、ユーノ君!!!)

戻ってから、この時を何度夢に見ただろう。いや、むしろ夢に見ない日のほうが少なかった。

(本当に、本当に、本当に!ユーノ君が!ここにいる!!!)

まあ予定とは少し違ったが。……それを自覚して自己嫌悪に陥る。

(う……。役に立たなかったなあ……。むしろ邪魔しちゃったし。ユーノ君、お、怒ってないよね)

そのまま思考がスパイラルしていく。

(お、怒っているかなあ。何で邪魔したんだ!とか。……いや、もし『もう君となんか会いたくない。二度と姿を見せるな』とか言われたら……)

冷静に考えればユーノがそこまで怒るわけないのだが。

(どうしよう……。もし、そうなったら私生きていけないよ……。……遺書ってどう書くのかな?)

どんどん思考がネガティブになっていく。

(駄目だなあ、私……。役立たずだし、お荷物だし、お邪魔虫だし、いまだに自転車乗れないし……)

そんな負の思考を破ったのは(空気の読めない)デバイスの声だった。

『そこの人』
「ひゃいっ!」

話しかけられると思っていなかった(むしろ彼女を忘れかけていた)なのはは思わず声が裏返る。

『貴女はマスターの知り合いなのですか?』
「え?」

本当に、分からない。

『違うのですか?先程から幾度かマスターの名前を呼んでいるようですが』
「え……?」

本当に、気が付いていなかった。そして、レイジングハートはさらに爆弾を投下する。

『……そういえば、マスターもあなたの事を知っているようでしたね。なのはさん、でしたか?』
「――!!!」

声に出ない驚愕の叫び。

「それ本当!?レイジングハート!!!」
『おや。私の事も知っているのですか。マスターから聞いたのですかね』

相も変わらずマイペースなデバイス。それにいらいらしたように急かす。

「いいから言うの!ハリーハリー!!!」
『やれやれ……。カルシウムが足りていませんよ。貴女位の年頃なら特にしっかり取ったほうが良いです』

それになのはは絶叫する。

「いいからさっさと言いやがれなのーーーーー!!!!!」

ぜい、ぜいと肩で息をしているとようやくレイジングハートが答えた。

『それはですね、先程あなたを庇ったでしょう?その直前に“なのは”とマスターが叫んでいたので』
「そ、そうなんだ……」

それを聞いてもしかしたら……という期待が湧いてくる。

『あと、この街に来た時に妙に感慨深い声で呼んでいましたね』
「そうだ!指輪!ユーノ君、指輪していた!?」

そうだ、確かあの指輪はロストロギアだとユーノは言っていた。こんな効果の事など聞いていなったが……死んで確かめるわけにもいかないから当然だろう。
あの指輪に書かれている言葉は『例え死が二人を別つとも』。いかにもそれっぽいじゃないか!

『ええ、付けていましたね。左手の薬指に。確か、ジュエルシードを発掘している時はそんなもの付けていなかったと思いますが』

次々と入る情報になのはは歓喜する。

(もしかして、もしかして、もしかして――)

あの、ユーノ君かもしれない。……私が愛して、私を愛してくれた。
それと同時に

(でも、今まで何で指輪の事を気にしなかったんだろう。……普通に考えれば、真っ先におかしい所だと思うのに)

疑問が一つ。まるで考えがそこまで行かないようにしているかのようだった。そんなことをなのはは思う。……まあ、今はそれよりも大事なことがある。

「他には!?他には何か無いのレイジングハート!?」

レイジングハートから情報を絞り取ることだ。

『他ですか……。いいえ、貴女のことは特にありませんね』
「いいから!例えばここに来たときほかに何を言ってたかとか!?」

どんなことからでも情報が入るか分からないのだ。

『ここに来た時ですか……アリサさんとやらの葬式以来だから10年振りだとかなんとか』
「え……」

まだ10年も生きていないのに何を言っているんでしょうね、これがこの国で言う厨二病とやらでしょうか、などとレイジングハートが言っているがなのはは聞いていない。

(そう……か……。あのユーノ君とは別人なんだ……)

期待して損した、などと思うがすぐにその考えを否定する。

(いやいや何を考えているの!勝手に期待して勝手に失望するなんて筋違いだよ。例え、どんな未来から来たユーノ君だとしてもユーノ君はユーノ君だ!)

それに、と考える。

(レイジングハートの話を聞いている限り、少なくとも私は感慨に耽るくらいには大切に思われているはず!)

そんなことを考えていると……

「う、ううん……」

ユーノが、目を覚ました。




「う、ううん……」

目を覚ます。そして現状を確認。

(フェレットになっちゃったか……これは痛いなあ……まあ、昔よりは早く回復できるだろうけど)

まあそれよりも一番大切なことは

(なのはは?)

それだった。そしてそう思っていると

「ユーノ君!」

突然、抱きしめられた。

「ユーノ君、ユーノ君、ユーノ君。会いたかった、あいたかったよお……」
(え、え、え、?)

ユーノは混乱中。でも、彼女が言っていることは、その、つまり……

「なのは……僕の事、分かるの……?」

そういうことだ。

「勿論だよ!」

その満面の笑顔は、実に75年振りに見るもので


「あ、ああ、あああああああ!!!」


歓喜の声を上げた。もしも、フェレットでなければ号泣していただろう。


「なのは!なのは!!なのは!!!なのは!!!!なのは!!!!!」


なのはは、自分が落ち着くまで優しく、優しく抱きしめてくれた。





「落ち着いた?ユーノ君」
「うん、ありがとうなのは」

そのまま二人で黙る。だがその沈黙は、別に居心地が悪いわけでなく、むしろ良いものだった。だがこういうのをぶち壊すのは例の赤いの。

『で、結局貴方達の関係は?正直さっきから話が見えなくて背中がムズムズするのですが』

お前の背中は何処だ、赤い球。

「……」
「……」
「……そうだね、説明するよ。ユーノ君に。私の予測が大分含まれるけど、いいかな?」
「お願い」
『何故私には説明してくれないのでしょうか、なのは』
「……レイジングハート」
『何でしょうかマスター』
「本当に、空気を読めるようになろうね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そういう、ことか」

大体の説明が終わり、ユーノは納得したように息を吐く。

「うん。今まで何で指輪とこの現象を結び付けられなかったのかは疑問だけど」
「多分、それまで効果なんじゃないのかな?指輪を身に着けた者同士が合わないとそこまで思考が至らない、みたいなね」

なるほどー、流石ユーノ君、と納得しているなのは。それからもう一体。

『……世界は不思議で溢れていますね』
「……意外。納得したんだレイジングハート」

それに諦めたような声色の答えが返ってくる。

『まあロストロギアですし。どんなトンデモ現象もロストロギアだと言われれば納得するしかありません』
「あー、確かに」

妙に納得したような返事をするユーノ。

『それでは私は休止モードに入ります。お二人で積もる話もあるでしょう?』
「「レイジングハートが空気を読んだ!?」」

そんな思わずツッコミがハモる。レイジングハートがそれに反論する。

『失敬な。幾ら私でも今の空気は読めますよ』
「普段あまり読めていないのは否定しないんだね……」
「なの」
『……否定はしません。休止モードに入ります』

そして、本格的に二人きりになった。




「……」
「……」

しばらく、心地の良い沈黙が続く。

「……」
「……」

一緒にいるというだけで二人は満たされる。

「……」
「……」

だが、それを破ったのはなのはだった。

「ねえ、ユーノ君」
「何、なのは?」

どうしても聞きたいことが一つだけあった。

「あのね、そっちの私とユーノ君ってどんな関係だったのかなって」

それにユーノはなんだか嫌な顔をする。フェレットなのに。それを見たなのはは遠慮する。

「あ、ううん。話したくないならいいんだ!ごめんね!」

しかしユーノは決意して言う。

「夫婦だったよ」
「そ、そうなんだ!」

なのはは嬉しそうに答える。だが

「すぐに別れたけどね」
「え……」

そう答える。なのはは何で、何で、何で、と顔に出している。それを見ながら変わらない声音で言う。

「……死別だった。結婚式の日、反管理局の過激派の連中にね、なのはは殺された。僕は、なのはが血に染まるのを見ることしかできなかった」

なのはが息をのむ。

「……僕はこうだった。僕はね、一番大切なものを護れなかったんだよ」

自嘲気味にユーノが言う。それを見て、沈黙するなのは。しかしなのはも決心して言う。

「ユーノ君、私もね……、夫婦だった。すぐに別れた。死別だった。結婚式の日、私の代わりに過激派の連中にユーノ君は殺された。私はユーノ君が血に染まるのを見ることしかできなかった。
 私は……一番大切なものを護れなかった」

ユーノも息をのむ。

「……」
「……」

二人で沈黙する。

「ねえなのは」
「何かな?ユーノ君」
「僕はね、生まれて初めて自分に嫉妬をするという経験をしている」
「実は、私も」

そんなことを言い合う。

「……」
「……」

再び沈黙。

「……」
「……」

そして

「……なのは」
「……ユーノ君」
「今度こそ、一緒に幸せになろう」
「――うん、今度こそ」

そのことを、再び誓い合った。



[23718] 第五話 方針確認
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:06
あれから――
二人はゆっくりとしようとしたが、その前に話さなければいけないことがある。
ユーノはそれを切り出すことにした。

「なのは、お願いがあるんだ」
「何かな?ユーノ君のお願いなら何でも聞いちゃうよ!」
「……ジュエルシードを探すのを手伝ってほしい。もちろんアースラがこっちに向かっているわけだけど、それまでに出る被害は無視できない。
 それと、フェイトを妨害するのを。プレシア=テスタロッサが大量に集めて、次元震が時の庭園以外に及ぶのを防がないと。……僕は、こうなっちゃったから回復までしばらくかかるし」

フェレットの体を見渡しながら言う。

「勿論手伝うよ。大体ユーノ君がそうなったのは私のせいだし、フェイトちゃんも放っておけないし」

二重の意味で。少し頭冷やしてもらうの。そんな考えも思い浮かぶが顔には出さない。

「よかった。ありがとう、なのは」
「私がユーノ君のお願いを断るはずがないじゃない。最初から手伝うつもりだったし、そもそもそうなったのは私のせいだよ。
 ……そういえば、お礼を言うのを忘れていた。ありがとう、ユーノ君。ユーノ君のおかげで私は何ともなかったよ」

照れくさそうに頭をかくユーノ。

「えっと、その、どういたしまして?」
「うん、本当にありがとう」

それを見て、なのはは穏やかに微笑むのだった。






そして……

「なのは!見つけたぞ!こんな時間に何でこんなところにいるんだ!」
「お、お兄ちゃん!?」

あれからもう少し二人でゆっくりとしていたが、考えれば今は真夜中。探しに来たのであろう、兄恭也に見つかった。

「全く……一体何をしているんだ」
「ご、ごめんなさい」

素直に謝る。必死に探していたのだろう、呼吸が乱れている。……そう、あの兄が、だ。なのははとても申し訳なくなった。

「あー、母さんか?……うん、見つかった。何とも無い。……ああ、これから連れて帰る。……分かった。父さんと美由希への連絡は任せる」

携帯で家に連絡しているようだ。その隙に二人は念話で方針を確認する。



(ユーノ君、ユーノ君のことどうしよう?)
(いいよ。魔法も含めてばらしちゃおう)
(いいの?)
(っていうか、なのはの家族たちに隠し事をするのはほぼ無理だよ。桃子さん以外の三人は平気で気配とか読むし、桃子さんも勘が鋭い人だし。
だから変に隠し事をせずに、証明が無理な時間逆行以外は話しちゃおう。……多分、前回も見逃されていたんだよ)

そうユーノは提案する。それにそうすれば士郎さん達が手伝ってくれるかもしれないし、それならなのはの負担もだいぶ減るはずだ。
素人ならともかく、彼らならよほどの相手でない限り大丈夫。クロノあたりでも室内という条件が付けば問題無く倒せるであろう。あのチーム吃驚人間は本気で凄い。

(うん、わかった。……えへへ)
(なのは?)

なにやらなのはの様子がおかしい。

(えっと、どうしたの?)
(だって、逆行以外は全部話すんでしょ。私達が結婚を前提に付き合うんだ、っていうことも含めて)
(……)

ユーノが硬直する。それになのはは

(――違うの?)

悲しそうに問いかけた。ユーノは焦る。

(いや、だって、僕今フェレットだよ!?なのは頭がおかしくなったと勘違いされるよ!?)
(別にどんな姿をしてようがユーノ君はユーノ君。全然構わないよ)

全く気にしてなさそうに答えるなのは。それにユーノは、はあ、とため息を吐き答える。

(うん、分かったよ……)
(うん!えへへー)

せめて向こうで話すときは人に戻らないと。なのはの嬉しそうな横顔を見ながらユーノはそう思うのだった。




「ん。それじゃあ後で」

恭也が電話を切る。そうこうしている内に話が終わったようだ。

「じゃあ帰るぞなのは。……どうした?なんだか嬉しそうだな」
「うん!」
「じゃあ行くか」
「待ってください!」

ユーノが声を上げる。

「……」
「……」
「……なのは、腹話術の練習でもしていたのか?随分上手いな」
「違うよ」
「違います」

即座に答える。

「……じゃあ、本当にその小動物が喋っているのか?」
「はい。そうです」

ふむ、と恭也は一言言って

「じゃあ、本当に帰るぞ。そこの小動物も連れて行く。それが今回の話に関係があるんだろう?」

そう促した。それになのはとユーノは、へ?となる。

「違うのか?」
「いや、そうなんだけど……。随分あっさり納得したなって……」

恭也はため息を一つ吐き

「……まあ、俺にも色々あったんだ」

そういって歩き出す。疑問符を浮かべている二人だったが、一緒に歩いていくのだった。







その後、高町家。リビング。複雑な空気が渦巻いていた。

「お帰り、なのは。……で、どこに行っていたんだ。恭也もご苦労さん」
「お帰りなさい、なのは。それで、何をしていたの?恭也もご苦労様」
「お帰りー、なのは。心配したんだからね。悪いけど庇わないよ。恭ちゃんもお帰り」
「ああ、ただいま」
「にゃはは……ただいま。えっと、ごめんなさい。えっと、説明は……」
「僕がします」

そうユーノが言う。しかし

「なのは。なのはが腹話術が上手なのは分かったから」
「それの練習でもしていたの?」
「凄く上手いねー」

取り合ってくれなかった。

「えっと、本当にユーノ君が喋っているんだけど……」
「一応、本当にその小動物が喋っているみたいだぞ」
「……」
「……」
「……」

間が開く。

「……本当?」

三人を代表して美由希が聞く。

「うん」
「らしい」
「はい、そうです」
「……」
「……」
「……」

再び開く間。そして

「「「えーーーーーーーー!!!!!」」」

三人の絶叫が響いた。真夜中だというのに近所迷惑なことだ。




それから少し経って、三人も落ち着いてきた。

「しかし……喋るフェレットなんてのが世の中にいるんだねえ……」
「お姉ちゃん、違うの。ユーノ君は本当はフェレットじゃないの」
「?どういうこと?」
「それも含めて今から説明してくれるだろう……。ああ、そういえば名乗ってなかったな。高町恭也だ」
「高町美由希だよ」
「高町桃子よ」
「高町士郎だ。……それじゃあ説明を頼む。ユーノ君とやら」

それにユーノははい、と返事をすると、翠色の光に包まれる。人間に戻っていた。それを見た四人はびっくりしたようだが、そのまま先を促す。

「ユーノ=スクライアです。よろしくお願いします。それでは説明を始めます」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「成程……。異世界に魔法にジュエルシード、か……」
「で、なのはがそれに巻き込まれて庇ったから負傷した」
「それで、なのはは魔法を使える資質があったから、詫びも含めて回収を手伝うと約束した、と」
「はい、納得していただけましたか?」

士郎、恭也、美由希が簡単に纏める。勿論、話せない事は話せなかったが、それ以外の事情大体説明した。

「まあ、納得できない部分もあるが、納得せざるを得ないだろう。目の前でフェレットとやらが人に変わっては、な」

士郎がため息をつきながらそう言う。

「とりあえず、ありがとうユーノ君。君のおかげでなのはは無事だ」

他の三人もそれに関しては全く同意見のようで、頷いている。

「……はい」
「それで、ユーノ君。なのはだけでなくて、俺たちにも手伝わせてもらえないか。腕には自信がある」

それは予想していた返事。ユーノは恩ある人たちを利用している様な気がして、少し暗鬱になったが顔には出さない。

「わかりました、お願いします」
「あれ、あっさりとOKしたね。本とかだとこういうのは駄目!と断られるのが相場なのに」

美由希の一言にドキッとする。

「そ、そういえばどのくらい強いのか聞いていませんでしたね。ナイフや棒で武装したチンピラを十人位相手にしても平気ですか?」

そして誤魔化すように問いかける。とはいえ、その程度全く問題無いだろう。

「問題無いな」
「全く」
「二、三倍いても大丈夫だよ」
「二、三倍程度なのか……修行が足りんな、美由希。明日からもう少しメニューを増やすか」
「ええーーー!横暴だよ恭ちゃん!」

何とか誤魔化せたようだ。そこで桃子が別の事を聞いてくる。

「そういえば……なのはには魔法を使える資質があるといっていたけど、私たちはどうなのかしら」
「ええっと、ちょっと待って下さい。……うん、ありません」

やはり、この世界でも使えないようだ。

「そうなんだ。でも何で?」
「魔法を使うのにはリンカーコアという器官が必要なのですが、なのはしかそれが無いんです。元々こちらの世界でも無い人のほうが多いですし」

へー、と質問の答えが返ってきた美由希が言っている。

「それでユーノ君は今どうしているんだ?もし行く当てがないならうちに来なさい。負傷しているんだろう?」

ああ、やはり高町家の人たちは変わっていない。ユーノは嬉しさと懐かしさを感じた。

「ありがとうございます、お世話になります。……それから最後になります、いいですか?」

そして、ある意味最も重要なことを言うことにした。

「何かな?」
「ええ、いいわよ」

ひどく、緊張している。そして……



「お嬢さんを、僕に下さい!!!!!」



言い切った。















間。















「「「「えええええええーーーーーーー!!!!!」」」」





高町家に本日二回目の大絶叫が響いた。だからお前ら、近所迷惑だとあれほど(ry



「な、ななな、ななななな何を言っているのかねユーノ君!!!」
「ですから、お嬢さんを、なのはを僕に下さい!絶対に、絶対に幸せにします!!!……絶対に、今度こそ」

ひどく混乱している士郎。腹を括ったのであろうユーノ。……そして赤くなった頬に手を当てて、とても嬉しそうにしているなのは。

「あらあら」
「ええー!ええー!?」
「……ほう?」

三人も、表面上はともかく、中身は大分混乱しているようだ。空の湯飲みを飲んでみたり、眼鏡を外して上下逆に付け直したり。

「しっ、ししししししかしだね、ここここういうことは二人とももう少し歳を取ってから……」
「分かっています!ですが、それまで結婚を前提としたお付き合いをさせてください!お願いします!!!」

酷く狼狽えている士郎。異世界やら魔法やらのファンタジーな話をしていたら末娘の結婚の話になっていた。な、何を言っているのかわからないが(ry
……そして、ユーノへの援護は別の所から来た。

「ふむ……。まあとりあえず様子を見るのならばいいんじゃないか?」
「……恭也?」

そんな息子の態度に、士郎も少し冷静になった。

「ここに来るまでになのはと会話をしているのを聞いたが、お互いにベタ惚れの様だった。俺は、こういうことに関しては自分が鈍感だと自覚しているが、それでもはっきりとわかる程度に。
 まあその時は小動物だと思っていたから混乱していたが。今まで話を聞く限り、特に問題ある性格ではないようだ。これからしばらく一緒に暮らすわけだから、問題が見つかってもそれを直させる。
 ……万一、今までの態度が完全に演技で、直せないような致命的な性根だった場合、叩き斬る。それでいいだろう?」

割と物騒なことを言う。それでも士郎は躊躇っていたが

「それに……なのはがあれだけ惚れているんだ。できれば、幸せにしてやりたい」
「お願いします!!!」
「私からもお願い!お父さん、認めて!」

納得した。

「はあ、とりあえず様子見、ということならな」
「これからよろしくね、ユーノ君」
「ありがとうございます!!!」
「ありがとう!お父さん、お母さん!」

そして、やったー、とユーノに抱き着くなのは。

それを、高町家の人々は優しく見守るのだった。



[23718] 第六話 それぞれの、過去
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:11
そんなこんなで一騒動会った後

「駄目なの!ユーノ君は私の部屋で寝るの!」
「いーや駄目だ!流石にそこまでは認めん!」

なのはと士郎が口喧嘩をしていた。



なのはとユーノの(結婚を前提とした)お付き合いが、一応認められた後、もう遅い時間なので残った話は後にして寝ようかという事になった。
……きっかけはそれである。
ユーノと一緒に寝たいなのはとそれを認めない士郎。話は平行線を辿っていた。

「何で認めてくれないの!?お父さんなんて嫌い!」

瞬間、酷く落ち込む士郎。

「なのはに嫌われたなのはに嫌われたなのはに嫌われたなのはに嫌われたなのはに嫌われた……」

どう見てもなのはのTKO勝利だった。

「じゃあ、認めてくれるよね?」
「しかしだなあ……。そ、そうだ桃子たちはどう思う?反対だよな!?」

それでもなお食い下がる士郎。周りを味方につけようとする。しかし

「あら、私は構わないわよ」
「まあ、なのはも赤飯前だし大丈夫だろう」
「恭ちゃん、赤飯前って……。まあ、二人とも子供だし、別にいいんじゃないかな?」

見事に失敗した。

「お父さん?み と め て く れ る よ ね ?」

判定でも勝ち、なのはが再び問いかける。

「だ、だけどな!」
「あはは……、大丈夫ですよ、士郎さん」

それにユーノが言う。

「?何がだね?」
「こういうことです」

ユーノが翠の魔力光に包まれる。ユーノはフェレットになった。

「……そういえば、回復するまでそうならないといけないんだったか」

皆の意見を代表するように恭也が言う。

「はい、そうです。……図々しいかもしれませんが、回復したら部屋のほうをお願いします」
「え?何で!?」

しかし、それになのはが反応する。

「何でって……流石にそれはまずいでしょ」
「えー?私、別にユーノ君にだったら襲われても構わないよ。むしろ襲って!」

それを聞いた士郎が再びうがーうがーと反応して、桃子に宥められている。

「……なのは、もう少し慎みを持とうね」
「う……。ユーノ君がそういうなら気を付ける」

まあ、なんだかんだでなのははユーノには逆らえないのだった。








結局。ユーノは回復するまでなのは部屋、回復したら客間ということで落ち着いた。
そしてここはなのはの部屋。二人はやってきたのだった。

「……ここも久しぶりだな」
「そっか、ユーノ君にとっては久しぶりか……。でも、私も久しぶりな気分だよ。この短時間で、色々あったから」

にゃはは、となのはが笑う。そう、色々あったが最終的にはとても良い形になった。

「それで、これからどうしようか?」
「これから?うん、ユーノ君と結婚するのは当然だよね。日本では私が16、ユーノ君が18にならないと駄目だけど、そもそもユーノ君地球に戸籍ないからね。
 前回は結婚する直前にコネを駆使して、お父さんが作ってくれたけど。でもミッドは男女とも15歳からだよね。だから中学を卒業したらすぐにミッドに移住して結婚しよう?
 それでね、子供は最低でも二人欲しいな。男の子一人、女の子一人。もちろん、もっといてもいいけど」
「……いや、そういう話じゃないけど」

ジュエルシード集めやらフェイトの事やらを相談したつもりだったんだけど。そうユーノが言うとなのはが赤くなる。
それを見たユーノが提案する。

「……でもそんなことばっかりっていうのも駄目か。そうだね、そんな話もいいかもしれない。……長くなるようだったら結界張ろう」

迷惑だしね、とユーノが言う。

「あ、じゃあ私がやるよ」
「うん、お願い」

消耗しているユーノの代わりに自分が、と提案。ユーノは気遣って貰っているのが分かっているので、素直に頷いた。
結界が張られる。張られた後、ユーノが切り出した。

「なのは、さっきの話を聞いてて思ったんだけど、ミッドに移住するの?」
「うん」

なのはがそう答える。

「管理局にも、入るの?」

そして、一番の疑問をユーノが訊ねた。

「うん、入るつもり。……やっぱりユーノ君は反対?」

肯定する。そして訊ねる。

「そうだね、反対だよ。……でも、理由があるんだよね?」

ユーノとしてはこのまま地球の日本で一緒に生きるつもりだった。こちらの方が治安がいい。万一次元犯罪者が来ても、なのはと二人なら少なくとも家族位は護れるはずだ。
だが、なのはもそれが分からないわけではないだろう。何か理由があるはずだ。

「……一番は、償い、かな」

そしてなのはは答える。出来る限り、直視したくなかった過去を。もしかしたら軽蔑されるかもしれないという気持ちを抑え込んで。

「……なのは?」
「私はね、はっきり言って最低だった。ユーノ君が殺された後、それしか見えなくなった。親友たちの声も愛娘の声も何もかも無視して、自分が破滅すると分かっていながら走り続けた。
 仇は……取れた。だけど、代償は親友達との関係で、愛娘との関係で、自分自身の命だった。得たものは、何も無かった。……それでも、死ぬ間際の私は後悔はしていないと思い込んだ」

ユーノは息をのむ。

「戻ってきて、落ち着いてから思った。……私がやったことは結局、何もかもを壊しただけだったって。
 ……ユーノ君。私を、軽蔑するかな?」

そういってなのはは俯く。ユーノの顔は見れない。
そんななのはを、人に戻ったユーノが抱きしめる。

「ユーノ……君」
「大丈夫だから。ぼくはそんなことでなのはを軽蔑しないから」
「――うん。ありがとう、ユーノ君。……でもね、正直に言ってまた同じことが起きたら自分を抑えることができる自信は無いんだ。
 だからユーノ君――」


―――――もう、私を離さないで。


その言葉にユーノはなのはを抱く力を強くして答える。

「――ありがとう、ユーノ君」

そして、しばらく二人は抱き合っていた。強く、強く。







「落ち着いた?」
「うん、ありがとう」

そして、ユーノがフェレットに戻る。

「だからね、今度こそみんなの力になりたいんだ。……そして、誰よりもヴィヴィオの力に。今度は親子じゃなくてもいい。ただ、あの子が幸せになる手助けをしたい」
「うん。そういうことなら僕も反対しない。むしろ協力するよ」

そうユーノが答える。

「本当?ユーノ君が本気で反対するなら私は諦めるよ」
「……ねえ、なのは。僕が今までの話を聞いて反対できると思っている?」

それになのははクスッと笑って

「思っていない!」

そう笑みを浮かべて答えた。ユーノもつられて笑った。






「ねえユーノ君。良ければユーノ君もどうだったか教えてくれないかな?……勿論、話したくなければ話さなくてもいいけど」

話したいことは終わったけれど、もう少しユーノと話していたい。そんな理由でなのはが聞いた。

「うん、いいよ。事件の後ね、僕は司書長を辞めて執務官になったんだ」

一瞬の間。

「ええー!?それ本当!?」

執務官試験は相当難関なのだが。……まあユーノなら筆記は一発だろうが。

「とは言え皆に力を貸してもらったんだけどね。……あの忌々しい黒いのにも」

なんだかんだで彼に尻を叩かれなければ自分は立ち上がれなかった。それは非常に感謝している。だが、不満が一つ。

「でも、なんでよりにもよって配属がクラウディアなのさ!?おかげであの黒いのにはどれだけこき使われたことか……」

そのユーノの様子になのはは苦笑する。そこでふとした疑問。

「ねえユーノ君。ユーノ君、攻撃魔法あんまり使えなかったけどそこはどうしたの?」
「それはね、士郎さん達やザフィーラなんかに訓練を付けてもらったんだ。基本、ベルカ式だよ」

ふんふん。しかしそこでさらに疑問。

「お父さんたちにって……もしかして、ユーノ君もあの吃驚剣術を使えるの!?」
「御神流ね。勿論使えるよ。奥義も一通り。免許皆伝も貰ったし」

それになのはが頭を抱える。

「どうしたの?」
「多分……ユーノ君、回復したらお父さん達に道場に呼ばれるよ。そうしたら色々な違和感から結局、ばれるような……」

指摘され、ユーノも頭を抱える。

「う……確かに。そういう違和感はあの人達には隠せそうもない。……回復するまでに、適当な理由を考えよう」
「頑張ってね」

あはは、と力なくユーノが返事をする。なのはは話を続ける。

「それで、ユーノ君はどれくらい生きたの?」
「101歳、のはず」
「ええー!?凄いな……」

自分の三倍以上だ。

「でもね、すずかはもっと凄いよ。僕ね、死ぬ前の5年位は基本、寝床から離れなれなかったんだけどね、偶に通信で話すとすずかはぴんしゃんしているんだよ」
「そ、そうなんだ……凄いね、すずかちゃん。……ねえ、みんながどうなったのか教えてくれるかな?」

ん、いいよ、とユーノが話を続ける。

「じゃあまずははやてから。はやては最終的に大将にまで上り詰めたよ。プライベートでは沢山の子供に恵まれてね、孫なんて20人以上いたんだよ。
 最終的にはヴォルケンリッターとリィンを一番上の孫に託してね、88歳まで生きたんだ」

20人!?凄いはやてちゃん、となのはが言っているのを見て次へ。

「次はフェイト。フェイトは、ずっと現役の執務官だった。でも40歳の前辺りで大怪我を負ってね、普通に暮らすのは全く問題が無いけど、執務官は引退せざるを得なくなったんだ。
 その後は内勤に……という話もあったけど、退職してとある孤児院の院長に収まったんだ。そのまま79歳まで生きた。結局生涯独身だったけど、孫ははやてよりも多いって笑ってたな」

成程、フェイトちゃんらしいや、となのはは言っている。

「フェイトには本当にお世話になったよ。執務官の先輩としてだけでなく、プライベートでもさ。良くご飯とか作りに来てくれたし、掃除洗濯なんかも。ヴィヴィオの事でも色々と。……どうしたの?なのは」
「……別に、何でもないよ」

何で不機嫌になっているんだろうと思ったユーノだったが続ける。

「よく考えたら、もう寝なきゃいけないからこれが最後ね。最後は……ヴィヴィオ」

なのはが真剣な顔になる。

「ヴィヴィオは、最初は管理局に勤めた。聖王教会にっていう話もあったんだけどね、そっちは断ってた。最初はね、前線にいた。だけどすぐに辞めた。……何でだと思う?」

なのはは少し考えたが頭を振る。

「結婚するから。万一のことが無いようにって。相手は……彼は容姿は平凡だったし、高ランクの戦技魔導師というわけでもなかった。でも、誠実だった。ヴィヴィオの事情もしっかりと受け止めてくれた。だから……僕は彼にヴィヴィオを託した」

なのはは真剣にそれを聞く。

「一度だけ、聖王教会の過激派がヴィヴィオと彼の間にできた子を狙ってきたことがあった。その時、ヴィヴィオや僕、それ以外の皆も離れていて直ぐに彼のもとには行け無い状態だった。……だからこそのタイミングだったんだろうけど」

いったん切る。しかしなのはは先を促す。

「でも、彼はその子を護る決心をした。子を連れて必死に逃げ、ひたすら知り合いにSOSを出し、彼らが到着するまでにひたすら傷を負ったという、客観的に見れば、とても無様なものだったけれども」

そこで一息。

「はっきり言って彼と過激派の戦力差なんて図るのも馬鹿馬鹿しいくらい圧倒的だったよ。……勿論、彼の方が劣っていた。彼が子を差し出したとしても、誰も攻めなかっただろうね。
 それでも、彼はそんなことをしなかった。そして……彼に援軍が来た。そして、それを確認して彼は倒れた。最終的に彼はその子を護ったんだ」

なのはは、変わらない表情で一つだけ訊いた。

「彼は、どうなったの?」

ユーノはうん、と頷くと答えた。

「実に11時間にも及ぶ手術の末、帰ってきたよ。ヴィヴィオ達を悲しませることは無かった」

それになのははそっか、と嬉しそうに頷く。

「以上だよ。まあ隠居はしてたけどヴィヴィオも彼も僕より先に逝く親不孝な真似はしなかったよ」

うんうん、となのはは自分の事のように嬉しそうである。でも疑問が一つ。

「彼って誰?私も知っている人?」
「秘密」
「ヒントだけでも!何処の馬の骨がヴィヴィオを持って行ったの!?」
「秘密」

どうやらユーノは答える気が無いらしい。

「うー。ユーノ君のいじわる」
「ははは。ほら、もう寝ないと。……もうすごい時間だし」
「わ、本当だ。……ねえユーノ君」
「何かな?」

なのはは、ユーノにお願いをする。

「……こっちに来て。今日はユーノ君の温もりを感じて寝たい」
「……うん。正直に言うと、僕もなのはの温もりを感じて寝たい」

そして、二人でベットに潜り込む。

「おやすみなさい……ユーノ君……」
「おやすみ……なのは……」

そして、疲れていたのかすぐに寝息を立てる二人。
その寝顔はとても幸せそうだった。



[23718] 第七話 彼女は、再び彼女を手にする
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:07
「う、ううん……」

朝の陽ざしの中、高町なのはは微睡んでいた。

「ううん……ゆー……の……くん」

幸せそうな寝顔で名を呼ぶ。先に起きていたユーノ=スクライアは寝たふりをしながら、それを見ていた。

(僕の名前を呼んでる……なんか幸せそうだけど良い夢を見ているのかな?)

もう少し見ていよう。幸い、時間はある。だが

『起きなさい!マスター!なのは!朝ですよ!』

机の上の赤い球が叫んだ。何故かハイテンションだった。

「にゃぁぁぁぁぁぁ!」
「うわっ!」

なのはとユーノが飛び起きた。









『おはようございます、二人とも。さくばんは おたのしみ でしたね』
「うー、おはようユーノ君、レイジングハート……」
「おはようなのは、レイジングハート。レイジングハート……、一体何処からそんな言葉覚えてくるのさ。あと何でそんなにテンション高いの?」

ユーノがレイジングハートに問いかける。

『暇でしたのでそこらからwebで。これ位全く問題ありません』

ユーノは頭を抱える。

「ねえレイジングハート……。君、もう少し落ち着いた性格だったよね?」
『いえいえ実は多少は遠慮していたのですよ。昨日の話を聞く限り、私とも大分付き合いが長いのでしょう?なら別に構わないかと思いまして』
「確かに、あっちでは今の性格の方が近かったけど……徐々にああなったのだと思ってた……」

なのはが呟く。

『それで――あれからどうなりましたか?』

レイジングハートが真面目に聞いてくる。ユーノも真面目に返す。

「うん。これからなのはと、なのはの家族たちに協力してもらってジュエルシード探しを続けることにした」
『ふむ……なのはさんはともかく、御家族もですか?魔法の資質が?』
「無いけれど、彼らなら大丈夫。……広いフィールドでフェイト――昨日の魔導師――と接触したりしない限り。狭い所なら、墜とせる」
『……それは本当に非魔導師ですか?』

呆れたようにレイジングハートが返す。

『それで、私はもしかしたらなのはさんに使われるのでしょうか?』

レイジングハートが少し寂しげに聞く。

「うん。……なのはの力になって欲しい」
『……わかりました。今までありがとうございました、マスター』

それを見たなのはは、前回は分からなかった彼と彼女の絆を知ると同時に、少し嫉妬した。

「ねえ、ユーノ君私は別に――」
「いいから。レイジングハート、なのはを頼む。僕の目が届か無い時に彼女が無茶をしようとしたら止めて欲しい」

それは、何時かも頼んだこと。それを聞いたなのはは罪悪感が湧いてきた。過去の、自分に。

『はい、エルダーマスター。それではマスター、起動パスを。……分かりますか?』
「あ、うん!分かるよ!」

少し呆けていたが、覚えているのでそう答えた。
そして唱える。



我、使命を受けし者なり
契約のもと、その力を解き放て
風は空に、星は天に
そして不屈の心はこの胸に この手に魔法を レイジングハート セットアップ



『 ―――Stand by Ready, Set up.』

そして、なのはは久しぶりに彼女を握ったのだった。





『成程……これは凄いですね』
「そうだよね」
「そ、そうかな?」

照れくさそうに久しぶりにバリアジャケットを纏ったなのはが言う。

『ええ。単純な魔力量だけでなく、私と相性もばっちりです。……エルダーマスターが譲り渡した理由が分かりました』

レイジングハートがそう答える。

『そして!これでジュエルシード格納庫からデバイスへと戻ることができます!』
「そ、そんなに気にしていたんだ……。ごめんねレイジングハート」
『い、いえ。エルダーマスターが悪いわけではありませんけれど』

フラストレーションが溜まっていたのか、そう言うレイジングハート。割と本気で謝るユーノ。あわててフォローするデバイス。

「まあ、もう一度頼むよ。なのはの力になってあげて欲しい」
『了解しました、エルダーマスター。これからよろしくお願いします、マスター』
「こちらこそ、またよろしくね、レイジングハート」

こうして、再び不屈の心は高町なのはのデバイスとなったのだった。





「それで、なのは時間の方は大丈夫?」
「えっと……うん、ちょうどいい時間だね」

そう言ってなのはは着替え始めた。

「ちょ?なのは、僕がいるんだよ!?」

ユーノが焦る。

「別に今さら、だよ。……昨夜も言ったけど、本当に、ユーノ君になら襲われても構わないし……」

赤くなりながらそう切り返すなのは。そのままほらほらとユーノに見せつける。
しかし、むしろユーノはそんな露骨な態度に冷静になったようだった。

「うーん……ごめんね、なのは。流石にそういう気分にはならないなあ」
「えー何で何で!?」

ちょっとショックを受けたように言うなのは。

「だって……昨夜も言ったけど、僕百歳越えだったんだよ。そして今は一桁。はっきり言って性欲無い。……そういった趣味も無いし」

がーん、とショックを受けるなのは。それを見て、流石に言い過ぎたか、とユーノはフォローを入れる。

「えっと、でも、もう少し年を取ればきっと肉体に引っ張られて出てくるよ!」
「……いいもんいいもん。今回はフェイトちゃんよりもエロい体になってユーノ君から私を襲わせるもん……」

でも、いじけていた。とりあえず、なのはの目標がまた一つ増えたようだった。







その後、朝ご飯を食べて、ユーノの見送りを受けて学校。その道中のバス内。なのはは寝ていた。それを見ている親友二人。

「うにゃー……えへへー……ゆーのくーん……」
「ねえすずか。あの寝言で偶に出てくるユーノって誰なのかしら?」
「うーん、私も知らないな……。昼休みにでも聞いてみようか」
「そうしましょう」

余談だが、二人はそれをえらく後悔することになる……主に糖分的な理由で。

「えへへーそれでね、ユーノ君はねー……」
「もういい!もういいから!」
「やめてなのはちゃん!!!」
「何で?聞いてきたのはそっちだよ?だから全力全開で惚気させてもらうんだから」
「うう……」
「聞かなければよかった……」

でも二人は知らない。まだ良かった方であるということを。
……もしユーノ本人がいたらなのはがどれだけ暴走するかを、二人は知らない。

「えへへー、ゆーのくーん」







某マンション。

「う……いてて」
「ご、ごめんねアルフ……」

フェイト=テスタロッサは自分の使い魔の様子を見ていた。外傷の様なものはなさそうだが……身体の中か?

「別にフェイトが悪いんじゃないよ」
「うん……。でもわたしがもっとしっかり治癒魔法ができたら」

昨晩、ジュエルシードを手に入れようととある少年と交戦。結果だけ見ればジュエルシードは上手く手に入れることができた。ただ……

「だけど昨日のあいつ、強かったね」
「うん……」

戦闘は完敗だった。何とか逃げるのには成功したが、大きな攻撃をした際に、たまたま結界に少女がいて、敵がその少女を庇ったから逃げられたに過ぎない。

「……悔しい」

フェイトは思う。自分は強いと思っていた。だけど、結果は手も足も出なかった。

「フェイト?」
「……何でもない」

珍しく、母親絡みのこと以外に感心を向けているフェイトをアルフは珍しく思った。

「だけど、何であの場に人がいたんだろうね」
「多分あの子が魔力を持っているんじゃないかな?多分それで侵入できたんだよ」
「ああ、なるほど、それもそうだね」

アルフは納得する。それから、方針の確認。

「それで、これからどうするんだい?」
「勿論続けるよ。アルフは良くなるまで休んでいて」

しかし、アルフは反論する。

「だけど、もしまた昨日の奴が出てきたらどうするんだい?」
「平気だよ。非殺傷とはいえまともに食らったんだから、しばらくは戦えないはず」

フェイトがそう言う。アルフも納得がいったようだった。

「なら……大丈夫か」
「うん。大丈夫だよ」

しかし彼女達は知らない。あの場に入り込んできた少女。彼女も魔導師であり、どのような魔導師であるかということを。

「それじゃあ少し眠るよ。フェイトも少し寝たら?」
「うん……私も少しだけ寝るよ」

だけど、今は休む時間。彼女たちは眠り始めるのであった。








夜、高町家。八神はやてはそれを呆然と見ていた。

「えっと、ユーノ君、身体良くなっていないでしょ。だから、あーん」



自分の親友(だと少なくとも自分は思っている)宅に来たら、フェレットがいた。思わず抱きしめると、凄い表情の親友がやってきて、それを取られた。
何故?、と疑問を抱いていると、そのフェレットと親友の家族から魔法やらなんだとファンタジーな説明を受けた。……それ以上に驚いたのは、親友がそのフェレットを自分の婚約者と言ったことだ。
混乱していたが、夕食時、親友の母親の

『ご飯くらいは、人の姿で食べましょう?』

という言葉でフェレットが人になったのを見て、一応は納得がいった。ただし何処の馬の骨が親友を持って行ったんだ!、という気持ちもあったが。……それに遭遇するまでは。



「えっと、なのは……。それくらいは大丈夫だから……」
「……嫌なの?」

寂しそうにしている、親友。それを見て焦る(元)フェレット。

「う……。お願い、します」
「うん!はい、あーん」
「うわー……」

甘い、甘い。今日の生姜焼き、砂糖なんぞ入れたかな?そんな現実逃避する。

「えへへ。おいしい、ユーノ君?」
「うん、美味しいよ、なのは」
「良かった!今日のご飯はね、はやてちゃんと作ったんだよ!ね、はやてちゃん」

あ、忘れられていなかった。ちょっとほっとする。

「うん。……ああ、そういえば自己紹介がまだやな。はじめまして、八神はやてや」
「……うん、はじめまして、ユーノ=スクライアだよ。えっと、八神さん?」
「はやてでいいで」
「じゃあ、僕もユーノで」
「うん。これからもよろしくな、なのはちゃんの彼氏のユーノ君」
「こちらもよろしくね、はやて」

えへへー、ユーノ君は私の彼氏……えへへー、などと言っている親友を見ながら、なんだかんだで彼との付き合いも長くなりそうだとはやては思うのであった。



[23718] 第八話 翠屋にて
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:10
ここは学校からの帰り道。なのはが迎えに来たフェレットユーノを肩に乗せ、話しながら帰路についている。
あれから、数日が経った。
小学生の男の子がジュエルシードを持っているのを見つけてシュークリームと交換してもらったり、ユーノが覚えていなかった神社の物を回収したりして計4つ手に入れた。

「うーん……ごめんね、ユーノ君」
「そんなことは無いよ。順調だよ」
「でも、私がもっと探査系が上手かったら……」

しかしなのはは不満だった。二つは活性化していなかったので戦闘は無かったし、残り二つも自分手も出す前に父と兄が片づけた。
何だか、自分が役に立っていないような気がしたのだ。

「うう、何で私そういう類の魔法苦手なんだろう……。得意だったらもっと楽だったのに……」

なのはが得意なのは砲撃・誘導弾・防御・飛行・バインド。得手でも不得手でも無いのは結界や転移など。活性化していないジュエルシードの様な細かい探査や治癒などは苦手である。

「うーん。でも人には得意不得意があるのはしょうがないよ。僕だって攻撃魔法は苦手だし。それに、僕はそんなものとは関係無くなのはに感謝しているよ」

本音である。勿論、高町家の人たちには感謝している。
が、それ以上になのはと再会する前と再会した後では精神的なものが全然違う。

「うん、ありがとう、ユーノ君。でも、もっと頑張るよ」

ユーノの言葉を素直に受け取るが、やはりそれでも役に立ちたいというなのは。

「頑張るのはいいけど、あまり無茶したら駄目だよ。最悪、アースラが来ればなんとかなるし。戦力的にもクロノがいるから問題無いだろうし」

だが、あまり無茶をしない様にと釘を刺すユーノ。

「分かっているよ。ユーノ君に心配をかけたくないしね」

そう、笑って答えるなのは。ところで、と話題を変える。

「ところで、フェイトちゃんはどうしたんだろう。全然かち合わないけど」
「うーん。活性化していない奴は気が付いていない可能性が高いと思うけど、残り二つはあっという間に倒してあっという間に封印してあっという間にその場を離れたからね。間に合わなかっただけかも」
「そっか」

そんなことを話して歩いていら……

「あ」
「あ」
「あ」

少女に会った。
黒を基調とした服に金髪。そしてそれをツインテールにしている少女。

「えっと……」
「えと、その……」

向こうもこちらの事を覚えているのか、挙動不審である。

「フェ……そこの君!」

そして、フェイトになのはは話しかける。

「……たしか、この間の結界にいた子、だよね」
「高町なのはだよ。良かったら、少しお茶しない?」

まるでナンパか何かのようだ、とふと思ったが誘った。

「ええっ、と、その、私は……」
「ほらほら、行こう?」

迷っていたが、そう言ってなのはは強引に手を引っ張っていった。








翠屋。

「いらっしゃ……あら、なのは。お友達?」
「うん、フェ……そういえば、名前聞いていなかったよね。良かったら教えて!」
「フェ、フェイト=テスタロッサ」

こういったところに来ることが無いのか、あたりをきょろきょろするように見ていたが、突然問われてあっさり答えるフェイト。

「うん、フェイトちゃんだね。さっきも名乗ったけど私は高町なのはだよ」
「名前も知らなかったの……?まあいいわ。ユーノ君もいるから外ね。ちょっと待ってなさい。紅茶とシュークリームでいいわね」
「はーい」

そう言って出ていき、外のテーブルに座る。フェイトもまだ戸惑っていたがテーブルに座った。

「えっと、何で私をこんなところに連れてきたのかな?」
「うーん。……なんとなく?」

そういうと、やや呆れたようになるフェイト。しかし、そこでふとした疑問。

「そういえば……、魔法の事は知ったの?」

声を小さくし、確認。

「うん」
「……」

肯定するなのは。瞬間、フェイトは辺りの警戒をする。

「……?何を探しているの?」
「この間の魔導師を。……彼はどうしているの?」
(僕の事?)

念話でフェレットのユーノが答える。

(……?使い魔だったの?)

そう驚いたように念話で言うフェイト。しかし二人は反論する。

(違うよ!)
(違うよ!ユーノ君は人間だよ!私の一番大切な人!恋人!婚約者!この間の攻撃で回復しきれていないんだよ!)

なのはの剣幕に、ちょっとたじろいだようだが、フェイトは安堵する。

「そっか……。まだ回復してないんだ」
「あ」

同時に気が付く。思わず与えないでもいい情報を与えてしまった。

「あう、その……」
「はーい、紅茶とシュークリームよ」

その時、桃子が紅茶とシュークリームを持ってやってきた。

「はい。なのはをよろしくね」
「あ……、えっと、別に私は……」
「それじゃあ私は戻るから。ごゆっくり」

フェイトは別に友達ではないと言おうとしたが、桃子はあっさりと帰って行った。
言いたいことはあったが、とりあえず目の前のシュークリームを食べてみる。

「……美味しい」
「そうでしょ、そうでしょ」

嬉しそうにそう言っているなのは。はい、ユーノ君、と少しフェレットのユーノに分けていたりもする。

そして、しばらくは(フェイトは)無言で食べていたのだが、食べ終わり、訊きたいことを訊くことにした。

「ねえ」
「何かな?」
「……聞かないの?」

てっきり、なぜジュエルシードを集めているのかを聞かれたり、持っているジュエルシードを渡したりするように言われるのだと思った。

「訊いたら答えてくれるの」
「そんなことは無い」

話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ変わらない、伝わらないこともある。だから答える気は無い。

「そうだよね。だから訊かない。今日は、本当にただフェイトちゃんとお茶がしたかっただけだよ」

そう言って笑うなのは。

「そうなんだ……」

そして、そのまましばらく二人は無言でいた。









「はい。これお母さんからお土産」
「……いいの?」
「別に気にしないでいいよ」

それから。紅茶を飲み終わったフェイトが帰ると言い、お開きとなった。

「うん、ありがとう」

フェイトが嬉しそうにお礼を言う。どうやら気に入ったようだ。

「それから……、もしジュエルシードがある所で会ったら手加減しないでね。私がユーノ君の代わりに戦うから」

そう宣言する。それにフェイトはびっくりしたように返す。

「本気?」

フェイトにとっては、なのはは魔法と出会ったばかりの初心者である。まさか、自分に戦いを挑んでくるとは思ってはいなかった。

「本気だよ」
「分かった。手加減はしない」

そう返すなのはにそう答える。あの魔導師が戦うのを許可したのだとしたら、油断できない相手である可能性は十分ある。

「それじゃあ」
「うん、またね!」

また、の部分にちょっと驚く。

「うん、また」

そう言って歩き出す。
うん、アルフにいいお土産ができた。フェイトはそう思いながら帰るのであった。









「お父さん達、お願いがあるの」

夕食後、ジュエルシードを探しの見回りの前になのはは切り出した。

「何だ?なのは」
「フェイトちゃん――お父さんは覚えていると思うけど、昼間に私と一緒にいた子の事ね――とは私に戦わせてほしいの」

それに三人は渋い顔になる。

「それはな……」
「なのは、それはひょっとしてユーノ君を傷つけた相手か?」

恭也が何かを言いかけたが、それを遮って士郎が問いかける。

「うん」
「……だからか?」

士郎が真剣に問いかける。

「……違うよ。あの子と、真剣にお話ししたいんだ。……一回勝たないとそういったことは聞かせてくれそうにないから」

なのはが答える。

「ならばいい。やってみなさい」
「「父さん!?」」

士郎の答えに、恭也と美由希が驚いたような声を上げる。

「何事も、経験だよ。……それに魔法には非殺傷というものがあって、ユーノ君に攻撃したのもそれだったのだろう?なら、大丈夫だ」
「それでも、今回そうだとは限らないし、非殺傷でも状況によっては駄目だって……」
「ユーノ君」

美由希がそう言って反論するが、士郎はそれを遮ってユーノを呼ぶ。

「はい」
「――なのはを頼む」
「はい!」

その答えに満足する。

「なのは」

そして娘も呼ぶ。

「何かな?」
「もしなのはに万一があったら、ユーノ君は無理を押してでもなのはを助けようとするだろう。そんなことが無いように、無茶だけはしないようにしなさい」
「――うん、分かった」

なのはも神妙な顔で頷く。

「それじゃあ、今夜も行くか」
「ああ」
「うん」
「うん!」
「はい」

そして、今夜も出ていく。さて、今夜の成果はどうだろうか?



[23718] 第九話 温泉、でも基本的にいちゃいちゃしているだけでござる
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:13
今日は海鳴温泉に行く。その車中。

「うわぁ……」
「うわぁ……」
「まあ、普段もこんなもんやよ」

アリサとすずかは開いた口から砂糖が止まらなかった。







あれから、実に順調にジュエルシードも集まっていたある日の事である。
今日は海鳴温泉に行く。面子は高町家、月村家、ユーノ、アリサ、はやてである。
そこで行く前にユーノの事やら魔法の事やらの説明を受けた。
アリサなどは初めは胡散臭い目で見ていたが、フェレットが人に変わったり、親友が何も無しに宙に浮いているのを見て諦めたように納得したのだった。

その車中である。アリサとすずか、それにはやてはそれを見ていた。と、言うか見せつけられていた。
親友と、その婚約者(恋人どころか)のいちゃいちゃっぷりを。相手は基本フェレットなのに。

「それでねユーノ君。できれば一緒に温泉入りたいなーって」
「いいよ。確か、混浴は無かったけど、家族風呂とかいうのがあったよね。それに入ろうか?」
「うん♪ありがとうユーノ君」
「どういたしまして」

うわー、甘い甘い。なのに隣のはやてが苦笑いを浮かべている程度なのが気に入らない。

「ねえはやて……何であんたは平気なの?」

だが、それ以上に気になったのでそれを訊く。

「いや……だって、普段もあんなもんやし……。大体、士郎さんと桃子さんも五十歩百歩やし」

諦めたように答えるはやて。

「普段から、なんだ……。ちょっとうらやましかも」
「すずか!?」

うらやましがるすずか。びっくりしたように反応するアリサ。

「まあ、なんだかんだでなのはちゃん、幸せそうだし。私もあんな相手が欲しいな……」
「まあ、気持ちは分からないでもないけど……」

「正直、羨ましいけど、自分にはあそこまで素直に甘えるのは無理」

「まあ、アリサちゃんは素直じゃないというか、ツンデレやからな」
「はやて……なんで考えていることが分かるのよ?」
「いいや。最初から声に出てたで」
「え?」

赤くなるアリサ。どうやら動揺していたようだった。

「まあ、あれや。すずかちゃんもアリサちゃんも、恋に恋するお年頃というわけで」

そんなことを言う、はやて。

「……そういうはやてはどうなのよ?」

それに赤くなったまま問いかけるアリサ。

「うーん。将来的には欲しいけど。でも、まあ今はなあ……」
「今は?」

先を促すアリサ。それにはやてはバカップルの方を見て答える。

「今は、あれを見ているだけでお腹一杯や」
「確かに」

苦笑して答えるはやて。それに苦笑して同意するアリサ。
その視線の先ではバカップルがいちゃいちゃしていた。

「ユーノ君、それでね、それでね……」
「うん、うん」








温泉に到着した。荷物を置くのもそこそこに、温泉に向かう。

男湯。

「……いいですね……」
「……ああ、いいな……」
「……うん、いいね……」

男三人でのんびりとお湯に浸かっていた。ちなみにユーノは人型。

「うむ……。実にいい」
「全くだね。癒される」
「温泉は、いいものですね……」

そのまま男三人、しばらくのんびりとしていた。



一方女湯。

「止めないでアリサちゃん!私にはユーノ君(9歳)の裸体を覗く義務があるの!!!」
「無いわよそんなの!大体(9歳)って何よ、(9歳)って!」

なのはが男湯を覗こうとしてアリサに止められていた。

「すずか達も手伝って!なのはの暴走を私一人じゃ止めるの難しい!」

そう言って、親友やその姉、母たちに協力を要請する。

「うーん。別にいいんじゃない?」
「私はこんな脚やし」
「私はそのはやてちゃんと一緒だから」
「別に、なのはちゃんはまだ小学3年生だから洒落で済むし、いいんじゃない?」
「それよりなのは。なのはは体力があっても運動は苦手なのだから、そんな風に真正面から壁を登るので無く別の方法にしなさい」

順番にすずか、はやて、美由希、忍、桃子。いずれにしろ、アリサの味方はいない。

「うん、分かったよお母さん!それじゃあサーチャーを……」
「魔法まで使おうとすんな」

なにやら魔法を使おうとした親友を一発殴る。

「うう、痛いよアリサちゃん……」
「大体、あんた後でユーノと二人きりで入るんでしょう?その時に見ればいいじゃない」

その言葉にはっとしたようになるなのは。

「……もしかして、気が付いていなかった?」
「うん……」

その返事に、呆れたように溜息を吐くアリサだった。



再び男湯。

「あはは……」
「……」
「……」

流石にあれだけの大声で騒げばその声は聞こえる。

「えっと、その、二人で入るというのは……」
「――なあ、ユーノ君」

ユーノが言い訳をしようとしたが、それを士郎が遮る。

「はい」
「本当に、なのはを頼む。なのはは幼少時に俺が大怪我を負ったことで、碌に我儘も言わない、言えないような、年齢不相応な娘になってしまった。
 だが、そのなのはが君の事に関してだけはああなる」
「……」

無言になるユーノ。

「……なのはと君が何かを隠しているということも知っている」
「……!」

真逆、こんなに早くばれるとは思わなかった。士郎は先を続ける。

「無理に聞こうとは思わない。何か、隠す理由があるのだろう?だがそれとは関係無く、ただなのはの父親として頼む。なのはを幸せにしてやってくれ」
「――はい!」

力強く頷くユーノ。士郎はそれに満足したようにしている。

「うんうん。ただ、本気で悲しませたら、多分斬りに行っちゃうと思うから覚悟しててね」
「あはは……。まあ、そんな事はありませんので関係ありませんけどね」
「おお、言うじゃないか。まあそれくらいの気概を見せてくれないと“義息子”とは呼べないけどね」
「なら、これで呼ばせてもらいますね、“お義父さん”」

そう言って、二人で笑いあうのだった。







その後、二人で辺りを散策したり、宴会であーんをしたりを始めとしたいちゃいちゃを存分に見せつけて親友たちに砂糖を吐かせた後。
なのはとユーノは二人きりで温泉に入っていた。

「うわー!見て見てユーノ君!星が凄いよ!」
「本当だね」

真夜中。家族風呂。二人で温泉に浸かる。

「ねえ、ユーノ君?胡坐をかいてくれない?」
「?いいけど」

そう言って胡坐をかくユーノ。そのユーノの前になのははもたれかかった。

「よいしょ、と。えへへ。ユーノ君」
「なのは?」

少し驚くユーノ。

「駄目?」
「そんなことは無いよ。……うん、なのはがとても感じられるよ」

嬉しそうにそれに答えるなのは。

「うん、私もユーノ君が強く感じられるよ。ねえユーノ君……」
「何かな?」

ユーノに話しかけるなのは。促すユーノ。

「私ね、ユーノ君と再会してからあの夢を見なくなったよ」
「あの夢?」

ユーノは問いかける。

「うん。ユーノ君が殺された、あの時の夢。……今まで、週に一回か二回は見ていたんだけどね」
「…………」

ユーノは黙る。

「ユーノ君、ありがとう。ユーノ君のおかげだね」
「……なのは」

礼を言うなのはにユーノは話す。

「ユーノ君?」
「士郎さんにね、なのはを頼む、幸せにしてやってくれと言われたよ」

なのはは少し驚いたように問い直す。

「お父さんに?」
「うん」

そっか、お父さんが……と、言っていたなのはだったが、そのうち静かになる。
その心地の良い沈黙の中、二人は互いだけを感じていた。
そうしてそのまま、二人はのんびり温泉に浸かっているのであった。




翌日。帰りの車中。

「えへへ、楽しかったねユーノ君」
「うん。そうだね、なのは」

なのはとフェレットになったユーノがいちゃついていた。
それを行きと同様に見ている三人。
そして切れるアリサ。

「うがー!うがー!!うがー!!!ええい、このバカップルめが!槍じゃ、槍を持てえい!」
「お、落ち着いてアリサちゃん。どうどう!」
「殿中や!殿中や!」

……訂正。混乱しているアリサとやや混乱しているすずかとはやて。
だがバカップルは気にしない。

「ね、ユーノ君!いつか二人っきりで来ようね!」
「そうだね、いつか二人きりで来よう」
「うがーーーーー!!!」

まあ、一応平和な光景である。あるったらある。










ほぼ同時刻。????。

「艦長。明日中には第97管理外世界に到着することができそうです」
「そう。ご苦労様」

とある部屋の中。艦長と呼ばれた女性と少年が会話していた。

「しかし……何故急に急いで向かうことになったのでしょうか?」
「本局から連絡が来たのよ。なんでも輸送艦の事故によりロストロギアがばら撒かれたらしいわ」
「ロストロギアが?」

緊張したように少年は問い直す。

「ええ。本来なら、封印魔法が施されているらしいけど、事故の規模によっては解けている可能性が高いと発掘責任者から連絡があったらしいわ。
 その情報が入ったので本局が調査した結果、人為的な事故の可能性が高いと判断したの。そして、人為的な事故ならば次元犯罪者がかかわっている可能性が高いから」
「成程……。把握しました」

納得して少年は頷く。

「それから、その発掘責任者だけれども、先に現地入りして集めているらしいわ」
「は?それは人間は正気ですか?輸送艦の事故で、別に責任は無いでしょうに。……そういえば、何故人為的な事故だと分かったのですか?」

急いで回収せねばならないほどのロストロギアを個人で集めるなど、かなり危険な事である。馬鹿か、よほどの自信家か、間違った方向の責任感がある人物か、或いはその複数か。
だが、少年はそれには軽く触れるだけで他の疑問を口にした。

「それはね……都合がよすぎるのよ。簡単に言うと数が多いロストロギアなのに、同じ世界の極めて狭い地域にばら撒かれたからね」
「ふむ。……ん?それは何故分かったのですか?」
「輸送艦の乗組員は、たまたま付近を通りがかった他の船に助けられたらしいわね。その時にログを持ち出していて、その中に貨物の落下データがあったらしいわ。勿論、通報を受けた時点で管理局に譲渡されたわよ」
「成程……。詳しい資料はこれでよろしいですか?」

大体を把握したので、さらに詳しい情報を得るため資料らしきものを手に取る許可を貰う。

「ええ。もし次元犯罪者がかかわっているとしたら、戦闘になる可能性は十分あるわ。期待しているわよ、クロノ=ハラオウン執務官」
「了解しました。リンディ=ハラオウン艦長」

そう言って敬礼をし、少年は部屋から出て行った。









ほぼ同時刻。????。

そこにはある女性がいた。女性の前には少女が入っているガラス管らしきもの。

「もう少し……。もう少しよ……」

女性は嗤う。

「あはははは、あは、あははははははは!!!待っていてね、アリシア!!!あは、あははははははは、嗚呼、アリシア!アリシア!!!」

目の前の少女が入っているガラス管。それと、周りの機器から漏れ出した光の中。

「嗚呼!嗚呼!!嗚呼!!!アリシア!アリシア!!アリシア!!!アリシア!!!!アリシア!!!!!あはははははははははは!!!!!」

女性は、ただひたすらに嗤い、名前を呼んでいた。



[23718] 第十話 なのはvsフェイト 初戦
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:16
対峙するのは二人の少女。一人は白く、一人は黒い。

「それじゃあ、始めようか」
「――うん。始めよう」

そして……!






温泉に行った日の翌日の事である。
その日もなのはは学校の帰り道で迎えに来たユーノと合流し、話しながら歩いていた。

「なのは、今日もお疲れ様」
「にゃはは、ありがとうユーノ君」

ただの道でもユーノと一緒にいると何だか違って見えるから不思議である。

「今日はどうだったのユーノ君?」
「うん。昼間に一個見つけたよ。これで十二個目だ」
「ええー!?もう!?」

昔とはえらい違いである。間違いなく昔より早い。環境やらなんやらが全然違うから仕方が無いといえば仕方が無いが。

「うん。僕も回復してきたから、ある程度は魔法が使えるしね」
「う……。ユーノ君が回復したら私が本格的にいらない子になってしまうような……」

さもあらん。今まで自分が必須だったといえるのは封印時とレイジングハートに格納する時のみ。
戦闘時は別に自分でなくても父兄姉が存分にその腕を振るっている。
このままユーノが回復したら、封印等は別にユーノがやればいい訳で、自分は正直必要が無い。

「……割り切って、得意なことを伸ばすように今まで魔法の特訓をしていたんだけど、苦手なこともやるべきだった」

反省する。戦闘に関することだけでは、戦う必要が無い限り役立たずだ。

「ユーノ君、今度そういった魔法のコツみたいなのを教えて欲しいな。良く考えれば、これから必要になることも多々ありそうだから」
「うん。……なんだか昔を思い出すね」

それは、なのはにとっては二十年近く、ユーノにとっては実に九十年以上前の出来事。

「……そうだね」

目を瞑ればあの頃の事が思い浮かんでくる。

夜、助けをを求める声に向かって行って、喋るフェレットと会った事。
初めてレイジングハートを握った事。
初めて空を飛んだ事。
巨大な樹と戦い、街を守る決意をした事。
初めて、敵対する黒い魔導師の少女と戦い、敗北した事。
その少女に初めて勝った事。

色褪せてはしまったけれども、今でも思い出せる、大切な思い出。
そしてその思い出は、全て共にユーノがいた。

「……懐かしいね」
「……そうだね」

そうして二人で思い出に浸っていたら

「!ユーノ君!」
「うん!」

ジュエルシードの反応があった。そしてこれだけはっきりしているということは無論、暴走中だろう。

「行くよ!」

そして、そのまま結界を纏うように展開し、レイジングハートをセットアップ。さらに飛行魔法を展開する。

「あっちだね!行こう!ユーノ君!」
「うん!」

そして、二人は文字通り現場に飛んで行った。









そして、二人はそこに辿りついた。

「結界だ……」
「結界だね……」

そこにあったのは結界だ。つまり……

「フェイトちゃん、だよね」
「十中八九、そうだろうね」

フェイトがいるのだろう。

「ユーノ君」
「うん。基本的には手出しをしないよ」
「……ありがとう」

なのははそれを確認する。

「それじゃ、入るよ」
「うん」

そして、結界に侵入した。








そこで見たものは予想通り、フェイトとアルフ。そしてこれまた予想通り、戦闘中である。
対峙するシードモンスターの素体は恐らく、亀。何故恐らくなのかと言うと……

「おっきい……」
「大きいね……」

恐ろしく巨体なのであった。

「と、言うかガ○ラ?なんだか火でも吐きそうだね」
「なんで亀なのにあんなに動き回っているんだろう……」

そう、なのはの言っている通り、某怪獣映画に出てくるあれに似ている。
フェイトたちはそれと戦っている。攻撃は簡単に当たり、相手の一撃を躱すのも楽なようだが相手はそれをものともしていない。

「とりあえず、加勢しよう!」
「そうしようか」

そう言いあい、フェイト達のもとへ加勢しに行く。

「!えっと、なのは?」
「加勢するよ、フェイトちゃん」

驚いたようなフェイト。なのははそれに答える。

「後で、ジュエルシードをかけて戦おう。だから、今は協力するよ」
「……分かった」

少し間があったが、そう返事をするフェイト。

「フェイト、そいつら信用できるのかい?」
「多分できるよ。それにこのままじゃ何時倒せるか分からないし」
「……フェイトがそう言うのならいいさ。あたしは従うよ」

アルフも一応であるが納得したようだった。




「来るよ!」

ユーノがそう言うと同時に咢が開かれる。そして……

「やっぱり火を吐いたよ!!!」
「っ!回避!」

火炎が吐き出された。
なのははシールドにより防御、フェイトとアルフはそれを回避。

「こっちからも反撃するよ!ディバインバスター!」

砲撃を放つ。それは容易く命中したが、相手はぴんぴんしている。

「効いていない!?」

割とショックだった。ダメージくらいは与えられると思っていたのに。

「うん。私達も結構攻撃しているけど、全然聞いた様子が無いんだ」

フェイトはその威力に少し驚いたようだったがそう言う。

「そうなんだ……。ねえ、ユーノ君、どうしたらいいと思う?」

敵の爪を回避しながらユーノに相談する。

「うん。さっきから解析しているけど、体の周りに強力な防御魔法のようなものが張ってあるみたい」

なのはの魔法が効かない位強力なんて、出鱈目だよね、すごいよジュエルシード、などと言っているユーノ。

「つまり……それごと吹き飛ばせる威力でやればいいのかな?」

なのはは相手の体当たりを回避しながら聞く。カートリッジは無いが、スターライトブレーカーならばいける、はず。

「いや。そうでもないんだ」

ユーノはそれを否定する。

「じゃあどうすれば?」
「うん。さっきも言ったけど、あくまで体の周りなんだ。……火を吹く時、口を開けたでしょう?そこには無かった」

なのはは理解する。

「つまり……」
「うん。火を吹く時に同時に叩き込めばいい事。防御魔法は僕がやるから、なのはは攻撃に専念して!」
「うん!フェイトちゃん!」

フェイトの名前を呼ぶ。

「何!?」

離れていたため、大声で返事をするフェイト。

「弱点は、火を吐いているときの口!そこを攻撃して!」
「分かった!」

そうして四人はタイミングを待つ。しばらく回避し、防御をしていたら、それが来た。

「!来た」
「アルフ!防御をお願い!」
「はいよ!」

身構えるなのはとユーノ。止まってしまうため、使い魔に防御を任せるフェイト。
そして、その咢から火炎が吐かれた瞬間。

「ディバインバスター!」
「プラズマランサー!」

魔法が放たれる。
その二重の魔法により、貫かれたシードモンスターは倒れ、核であったであろう亀の姿に戻って行った。









そして、話は冒頭に戻る。
対峙するの二人の魔導師の少女。一方は白く、一方は黒い。
シードモンスターを倒した後、封印し、どちらが所有するかを巡って戦わんとする、高町なのはとフェイト=テスタロッサである。

「それじゃあ、始めようか」
「――うん。始めよう」

そして、戦闘が始まった。




フェイトがフォトンランサーを放つ。なのははそれを回避せずに防御。

回避する様子が全く無かったのに少々動揺したのか、一瞬手が止まるフェイト。そこになのははディバインシューター。だがフェイトは回避、距離を詰めてくる。

バルディッシュの魔力刃による斬撃。なのははやはり防御。攻撃が全く通らない。動揺するフェイト。

そこでなのははアクセルフィン。距離を取る。追いかけようとするフェイトだったが、そこにアクセルシューターが飛んできた。

フェイトは回避。だが回避した先にも別のシューター。さらに回避。そこにもシューター。やはり回避。やはりシューター。

回避。シューター。回避。シューター。回避。シューター。回避。

大分体勢が崩れている。気が付けば、フェイトはなのはの大分前に来ていた。

そしてなのはからディバインバスターが放たれる。距離の短い、回避することができない状態での一撃。




しかし、そこに……

「スト……」

少年が割り込んできた。

だが、その少年になのはのディバインバスターが直撃。

「あ」
「あ」
「あ」
「あ」

そのまま少年は撃墜。慌ててフローターを少年にかけるユーノ。
こうして、なのはとフェイトの初戦闘は終わったのだった。



[23718] 第十一話 アースラでの説明と高町家での説明
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:18
「フェイト!逃げるよ!多分あの黒いの、管理局だ!」
「でも!ジュエルシードが!」
「いいから!捕まったら元も子もない!」
「……分かった」








「……どうしよう、ユーノ君」
「どうしようか……」

なのはとユーノは途方に暮れていた。戦闘に乱入してきた黒衣の少年。今は気絶している。間違いなくクロノである。
非殺傷設定だったし、ちゃんとフローターで受け止めることはできたしでそれ自体は別にいいのだが。
迷っていると、通信で話しかけてくる人物がいた。

『少々よろしいでしょうか?こちらは時空管理局本局所属アースラ艦長リンディ=ハラオウンです。こちらが身分証明になります』
「あ、高町なのはです」
「ユーノ=スクライアです。レイジングハート、僕の身分証明」
『はい』

二人とも名乗る。

『ん……?ユーノさんはジュエルシードの発掘責任者のユーノさんでよろしいでしょうか?』
「はい」
『と、なるとそちらのなのはさんは現地協力者の方ですか……。お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?』
「はい」
『では、人を送りますので。その人間にそのクロノ―その少年―も預けてもらえますか?』
「はい」

それからほどなくして人が来る。その人間にクロノを預けると二人はアースラに転送されたのだった。






そのまま、アースラの中を艦長室まで案内される二人。

「おおー(久しぶりだけどやっぱり戦艦は凄いなあ。……ちょっとデザインが古臭いけど)」
「んー」

感嘆しているなのはと何やら考えているユーノ。

「ユーノ君、どうしたの?」

その様子に何かあったのかと聞くなのは。

「いや、困ったことではないけど……。うん、やっぱり戻ろう」

そう言って翠の光に包まれるユーノ。そして人の姿に戻った。

「ユーノ君?もう大丈夫なの?」
「大体ね」
「なら、いいんだけど」

そうこうしている内に艦長室の前までたどり着いたようだ。
連れてきた男が部屋をノックする。

「艦長、失礼します」
「ご苦労様。戻ってもいいわ」
「は!」

そのまま敬礼し、去っていく男。そして、なのはとユーノは艦長室に足を踏み入れた。

「ようこそ、アースラへ。改めて自己紹介します、私は艦長の時空管理局本局所属リンディ=ハラオウンです」
「はい。高町なのはです」
「ユーノ=スクライアです」

改めて互いに自己紹介をする。リンディはお茶を進めてきた。

「まあ、まずはお茶でも」
「は、はい。いただきます」

そしてリンディは自分の緑茶に大量のミルクと砂糖を投入している。
なのははそれを見て、うわー、相変わらずだなぁ……、などと思っていたが、ふとユーノを見ると渋い顔をしてそれを見ていた。

(どうしたの、ユーノ君?いつもの事じゃない)

それになのはは限定念話で話しかける。これならリンディにも聞こえない。

(うん。あれ、止めさせたいなと思って)

なのははそれにびっくりする。

(ええー!?無理だよ!)
(でもね、リンディさん早死にしたんだけど、あれも原因の一つだよ)

なのはは問いかける。

(……早死にしたの?)
(うん。一時はフェイトの方が年上に見られるんじゃないかって位若々しかったけど、50代半ばくらいで急激に老け込んでね、そのまま60手前で亡くなったよ)
(そうなんだ……ありそう。うん、私も協力するよ)

そんなユーノの言葉に自分も協力するというなのは。

「一息ついたかしら?」
「あ、はい」
「それではユーノさん、説明をお願いしてもよいかしら」
「はい」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「成程、分かりました。これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」

そう宣言するリンディ。それを受けて返事をするなのはとユーノ。

「わかりました」
「わかりました」
「……」

リンディは少々黙る。それを不審に思ったのかユーノが訊ねる。

「あの……どうしましたか?」
「いえ……随分あっさり納得するなって……」

割と素直に答えるリンディ。それを受けてユーノも答える。

「勿論、僕も協力させてもらいますけど。最悪、全部持って行かれないように」
「……。それは、私たちが勝手に持っていくと?」

その言葉にリンディが反応する。

「まあ、貴女達がそれをしないと言っても、ロストロギアの保管やら売買やらをする部署は別ですし」

実際、前回はアースラが集めた分ははっきり言って買い叩かれた。それでも十分な値段ではあったけど。

「……。わかりました。信用してもらうためにも乗艦を許可します」
「ありがとうございます」

これで、ユーノの話はついた。

「私も協力します」

そうなのはが切り出した。が、リンディは取り合わない。

「いいえ。なのはさんも急に言われても気持ちの整理もつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて、それから改めてお話をしましょう」

しかし、なのはは反論する。

「でも、フェイトちゃんに対抗できる人がそちらにいますか?」

クロノがああなってしまった以上、リンディ位のものだろう。

「……。ですが!」

痛い所を突かれたのか、少々黙るリンディ。勿論先ほどの戦闘映像は見ており、なのはが十分戦力になることは理解している。

「……分かりました」
「分かっていただけましたか?それでは……」
「そちらの武装隊員を全員、呼んで下さい。私が纏めて相手にします」

どうやらなのはは戦力的に自分が疑問視されていると勘違いしているようだ。

「……いいえ、それは不要です。分かりました。高町なのはさん、貴女のアースラへの乗艦を許可します」
「ありがとうございます!」

流石に、武装隊員を減らすのは得策ではないと判断したのか、許可を出すリンディ。実際戦力としては願ったり叶ったりなのだ。
そしてそれを受けて礼を言うなのは。

「それでは先ず家族に説明をしたいので、明日からでよろしいですか?」
「はい。……ああ、私も御家族へ説明に伺いましょう」
「ありがとうございます」

そうしてなのはとユーノのアースラへの乗艦は許可された。
二人は説明のため、リンディとともに高町家に向かうのであった。








高町家。大分、時間も遅くなっている。

「えっと、ただいま」
「ただいま帰りました」

それに反応する面々。

「二人とも!遅いぞ!心配したんだからな、今何時だと思って……!?」

そこでもう一人、女性がいることに気が付く。

「お邪魔させていただきます」
「はい。……貴女が今回の件に?」
「はい。それも含めて説明させていただきます」
「分かりました。こちらです」

リビングに通す士郎。それについていく面々。



リビング。まず、互いに自己紹介。
その後、緑茶を出されたリンディが砂糖とミルクは何処かと聞いて、ひたすら笑顔で見つめてくる桃子に何も言えなくなってそのまま飲み始める、という一幕があったが一息ついた。

「では、説明を始めます」
「お願いします。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「以上です。何か質問は?」
「成程。大体理解しました」

魔法等の事は既に説明済みだったため、比較的簡単に説明は終わった。

「それじゃあまず一つ目。俺達は駄目なのですか?」

恭也が質問する。

「ええ。戦力的には十分なるとの話は聞いておりますが、申し訳ありませんが非魔導師は少々法に触れまして……」

納得する恭也。そこに美由希が質問する。

「法って、ユーノの時も疑問に思ったのですけれども、そちらの世界はなのはでも大丈夫なくらい就業年齢が低いのですか?」
「はい。こういった仕事には就業年齢がありません」

うわー、流石異世界、と言っている美由希。最後に桃子が訊いた。

「それで、なのは、それにユーノ君の安全に関してですけれども……」

それにリンディは頷いて答える。

「はい。民間協力者という扱いですので、基本的に無茶はさせません。勿論、全てが全てとは言いません。今回、あの黒い少女との戦闘を見越してなのはさんは協力を申し出ました。
 ですので、あの少女との戦闘になる可能性があるのは否定しません。無論怪我などを負ったら直ぐにサポートさせていただきます」
「……怪我ではすまない可能性は?」

一番、訊きたかったことを訊く。

「……無論、その可能性はゼロではありません」
「「「「…………」」」」

その言葉を受けて押し黙る高町家の面々。
それを破ったのは、なのはの言葉だった。

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

その言葉に反応してなのはの方を向く。

「……やらせて、欲しいんだ」

その言葉に反応したのは、両親だった。

「……ふう、仕方が無い、か」
「……そうね」
「父さん!?母さん!?」
「二人とも!なのははまだ子供だよ!」

だが士郎は言う。

「恭也、美由希。なのはの目を見ろ」

その言葉を受けてなのはを見る二人。

「……そうなった人間を説得するのは、ほぼ、無理だ。なら俺たちにできることは信じてやることだけ。
 ……リンディさん」

リンディに呼びかける。

「はい」
「なのはを、よろしくお願いします」

そう言って深々と頭を下げる。

「――はい。承りました」

そう返答するリンディ。さらに士郎は続ける。

「――ユーノ君」
「はい」
「回復、したのかね?」
「はい」

その返答を聞いて士郎はユーノに言う。

「道場まで来なさい。お話をしよう」
「……分かりました」

そして、二人は道場まで移動するのであった。









道場。なんだかんだで皆ついてきた。

「何で皆居るんだ?」
「気になって……」
「まあ、そういうことだ」
「にゃはは……」
「まあ、いい。ユーノ君、ここにあるものの内、好きなものを使いなさい」

そう言って木刀の束を指さす。

「はい」

その返事を聞き、自分も準備をする。




「良し。そちらも準備はできたかい?」
「はい」

準備が完了して、振り向く。そしてユーノを見て絶句する。

「……ユーノ君、それは……いや、いい。後で聞こう」

ユーノも準備はできていた。しかもその構えは――自分たちと同じ、御神流。
見れば恭也と美由希も自分同様絶句している。あの慣れた感じは一朝一夕では無いだろう。こちらに来てから自分たちを見て模倣したわけでは無い。
訊きたいことができたが、その問題は後回しだ。



「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術 高町士郎」
「……ユーノ=スクライア」

一瞬の間。
そして……



「「参る!」」



二人は、激突した。







(……強いな)

剣を交えて暫く経つが、士郎はそう思った。ただ同時に違和感も感じる。

(まるで、何かを確かめながら剣を振っているようだ)

そう思う。ただ、一つ分かる事はあった。

(これならば、本当になのはの事を――)

互いの剣が交錯する。そして、二人は距離を取った。

「……驚いたな。本当に御神流だ」
「……そうだね。もしかしたら技術は私よりも上?」

恭也と美由希がそんなことを言っている。
だが、二人の耳にそれは入っていない。

「さて、ユーノ君」
「はい」

士郎はユーノに話しかける。

「ここからが、本番だ」

そう言って神速を起動。常人では、御神に勝てないという理由、それが歩式奥義・神速。
そしてその領域で動くこと。それが完成された御神の剣士である。

(神速まで使うか!)

ユーノも起動。同じ領域で動く。

(……久しぶりだな、この感覚は)

思わず、目的を忘れてしまいそうだ。

(さあ、戦るか!)





そして……!






「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ユーノが、息を切らして倒れている。

「ふう……」
一方、士郎は息はかなり乱れていたが、しっかりと立っている。

「俺の勝ちだね」
「はい、ありがとうございました!」

結果はその通りだった。
さもあらん。体格・体力は士郎が勝っている。武器は同等。さらに、ユーノは動きがまだ体に馴染んでいない。そもそも体が未熟なので神速は長時間使えない。
結果は火を見るより明らかだった。

「それじゃあユーノ君」
「はい」

ユーノは姿勢を正して聞く。

「これで三度目だね。なのはを、頼む」
「はい!」

認められたようだ。
士郎は、ユーノ君、凄かったよー、などと言って末娘がユーノに抱き着いているのを見ながら問いかける。

「……それで、その剣術は誰から習ったんだい?」
「フワ、という人からです。次元漂流者―どこかの次元からやってきて帰れなくなった人―でした。本来なら、一族以外には教えないが、もう戻れないだろうし、お前一人にならと」

顔には出さず、嘘を言う。長く執務官だったので、さすがにこれくらいはできる。……実際、教わった人達の旧姓は不破だし。

「そうか。……その人は?」
「亡くなりました」
「そうか……」

残念そうな士郎。ユーノはそれを見て少し胸が痛んだ。それを誤魔化すように言う。

「皆さんの動きを見て驚きましたよ」
「そうだろうね、こっちも驚いたよ。……気が付いているだろうけれど、その剣術は俺達の物と一緒だ。正式名称は“永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術”と言う。
 フワ、とその人が名乗ったのならば、それは分派の不破だろう。俺の旧姓も不破だ」

そう言っていったん切る。

「それで、どこまで知っているんだい?」
「理屈は、歩式は神速三段がけまで。それ以外の奥義は、奥義之六・薙旋まで。名前は『閃』も知っているのですが」
「そうか……分かった」

大体理解する。

「まあ、いずれにしろまだまだ修行中の身です」
「それは俺も一緒さ」

そう言って笑う。

「良かったらこれからもちょくちょく戦ろう。相手がいたほうが良いだろう?恭也や美由希にもいい刺激になるし」
「はい、お願いします!」

ユーノのその返事に満足したようにうなずいている士郎。

「リンディさん」
「……何かしら」

呆けていたリンディに話しかけるユーノ。

「アームドデバイス、あります?小太刀は難しいだろうけどショートソード型のものを二本」
「うーん……どうかしら。悪いけど分からないわね」
「そうですか……」
「まあ帰ったら確認しておくわ。それでは皆さん、失礼します」

そう言って帰るリンディ。

「はい。……なのはの事を、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

そう言って頭を下げる士郎と桃子。

「はい。必ず、還らせます」

そう言って、頭を下げ返すリンディ。
そしてリンディは帰って行った。

「さて……それじゃあ夜ご飯でも食べるか」
「士郎さん、タフですね。僕はあまり入りそうにありませんよ」
「何、入るのだから君だって大概さ」

和やかにそう言いあう士郎とユーノ。だがなのはの一言で一変した。

「じゃあユーノ君!今日も一緒に寝ようね!」

空気が凍る。そう、今のユーノはフェレットではない。

「な、なのは?回復したからユーノ君は今日から客間だよ?」
「えー。でももう遅いし、明日からはアースラだし、非効率的だよ」
「し、しかしだなあ……」

そう言って周りを見渡す士郎。
桃子・にこにこしているだけ。恭也・諦めたような溜息。美由希・桃子と同じくにこにこしているだけ。最後にユーノに目が行った。

「……ユーノ君」
「な、何でしょうか?」

思わず背筋が伸びるユーノ。

「さあ、続きと行こうか」
「え?」

固まる。だがなのはが反応する。

「何で?お父さん!ユーノ君に当たっちゃ駄目!」
「な、なのは……。いや、確かに、でも、しかしだな……」

そのまま、口喧嘩と言うには一方的なものが続いていく。
色々あったが、本日の高町家も平和だった。



[23718] 第十二話 海鳴海上にて
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:23
眼下に広がるは、一面の、海。フェイト=テスタロッサはそれを見ていた。







あれから、ユーノとなのはがアースラに滞在するようになってから数日が経った。
その間、新たなジュエルシードは見つかっていない。……フェイトも、姿を見せていない。

「やはり……海中である可能性が高いか……」

まだ本調子ではないが、ある程度回復したクロノがそう言う。ちなみにクロノ、最初はなのはやユーノが協力するのに反対していた。
が、なのはとフェイトの戦闘時の映像や、ユーノとやった模擬戦、それにユーノの探査魔法の精度等を見て納得せざるを得なかった。

「そうだね。アースラの探査結果とか探査魔法とか、落下時のデータなんかを加味すると」

そう資料を見ていた女性、エイミィが答える。

「どうしましょうか?」

ユーノがここの最高責任者に問う。

「うーん……。海に潜って探すというのが一番安全なんだけど……。下手に魚とかに持っていかれたら探すのが困難になるわよね。
 ……強制発動させて封印しましょう。幸い、戦力は十分あるわ。クロノ、お願いね」

そう提案するリンディ。

「分かりました。それと、あのフェイトと言う魔導師の少女の事は?」
「あ、それね、ある程度は調査出来たよ」

そう言って、テスタロッサから割り出したプレシアの事を説明するエイミィ。

「……成程な」
「……」
「……」

頷いているクロノ。そして黙るなのはとユーノ。
二人には、プレシアの痛みがよく分かる。……こればかりは、経験してみないと分からないだろう。
だがそこに緊急連絡が入る。

『艦長!』
「どうしたの!?」
『はい!先ほど魔力反応がありまして、その地点を調査した結果、件の魔導師の少女とその使い魔らしき姿が!』
「分かりました!すぐにブリッジに向かいます!」

そうして5人は急いでブリッジに向かっていった。








それより少し前。海鳴海上。フェイトは使い魔と共にいた。

……わずか二個しかジュエルシードを持って帰れなくて、母をとても失望させてしまった。
恐らく、もう地上には無い。いくつか反応があったのは、現場に着いた頃には終わっていた。
ならばあとは海。いくつあるかはわからない。強制発動させて、封印をする。多ければ多いほど困難だ。だが多ければ多いほどいい。そして、それを母に持っていく。……今度こそ、母に喜んでもらう。
そして強制発動させる直前、自らの使い魔と会話していた。

「フェイト、別に無理しないでいいんだよ。なんならあいつから逃げてそのまま隠れても、時空管理局に行ってもいい。どうなってもあたしだけはフェイトの味方だから」
「うん、ありがとうアルフ。でも私は母さんの力になりたいんだ。……昔の、優しかった母さんに戻ってほしいんだ」

そう言うフェイト。アルフはその答えは分かり切っていたように溜息を吐く。

「まあ……フェイトがそう言うならいいけど。……ああ、強制発動はあたしがやるよ」

自分の主はあの忌々しい女の虐待で、本調子に遥かに遠い。ならば自分がやるべきだ。
そんなアルフの思いを汲み取ったのか、フェイトは素直に頷いた。

「……ありがとう」
「うん。……じゃあ始めるよ。用意はいいかい?」
「いいよ」
「よし!」

そして、アルフは魔力を放ち始めた……。




戦艦ア-スラ・ブリッジ。
そこに映っている映像には、強制発動させているジュエルシードを封印しようとしているフェイトがの姿があった。

「……このままなら、自滅するな」

クロノが呟く。そう、自滅する。それは誰の目に見ても明らかだった。
それを見ていたなのはとユーノ、二人が動く。

「……ユーノ君」
「うん、ここは任せて」
「ありがとう」

そして、転送陣に包まれるなのは。それを見て慌てる面々。

「何勝手な行動をしているんだ!?違反だぞ!?」
「このまま彼女を放っておいて自滅するのを待つんだろう?それは、僕となのはは許容できない。なのはを追いたければ、僕をを倒してからだよ」

そう言って、アームドデバイスを構えるユーノ。ちなみにユーノのアームドデバイスはショートソード型のものが二本。AIやカードリッジシステムは、無論無い。

「く……」

それにクロノが押し黙る。正直、本調子でもきつい相手。……それに本音では自分も自滅を待つなど気に食わないのだ。

「……いいでしょう」
「艦長!?」

リンディンの言葉に驚いたようになるクロノ。

「ただし、こちらからの援軍はありません。いいですね?」
「ありがとうございます!」

そうして転移するユーノ。クロノは、それを見送っていた。

「艦長、よろしかったのですか?」
「まあ……本音で言えば、反対よ。なのはさんの親御さんとの約束もあるしね。でも、二人の実力は思い知らされたでしょう?
 あれほどの実力があるのならば、無理矢理止めるのは難しい。なら、ユーノ君も送り込んだ方が安全よ」

そう言ってモニターを見る。そこには、ジュエルシードを封印している四人の姿があった。








「フェイトちゃん!」
「……なのは!?」

海上での封印中、このままでは拙いと感じ始めたころ、あの白い魔導師が来た。

「何しに来たの!?」

思わず、怒鳴る。貴女達さえいなければ……そんな気持ちもどこかにあったのかもしれない。

「手伝いに、だよ」

彼女は自分にその暴風の如き魔力から身を護るシールドを張りながらそう言った。

「何で!?」

分からない。彼女とはジュエルシードを巡って争う敵同士である。このまま自分が自滅するまで放っておいた方がいいに決まっている。

「……友達だから」

彼女は言う。

「ともだち?」

思わずおうむ返しに聞き返すフェイト。

「うん!そうだよ!」
「……」

そういうものらしい。だが、よく分からなかった。

「なのは!」

そこに、もう一人来る。あの魔導師の少年。

「ユーノ君!どうして!?」
「うん!許可を貰った!その代わり、援軍は無いけど」

そう答える少年。

「分かった!フェイトちゃん!」

突然呼びかけられてびっくりするフェイト。

「な、何?」
「封印するよ!」

その言葉に

「――うん!」

フェイトは頷いた。







そうして封印が完了した。その場には、六個のジュエルシード。

「……」
「……」
「……」
「……」

皆、安堵したように無言。

「……どうするの?」

フェイトが問いかける。一個でも多く持ち帰なければならない。しかしなのはとユーノは無言。

(……?)

まるで、何かを警戒しているようだ。
そこに……

「……!来た!」

ユーノが叫ぶ。同時にユーノとなのはが防御魔法を使う。
何事かとフェイトが思う前に魔法が降ってきた。自分を、狙って。
同時に六個全てのジュエルシードが姿を消す。
そして、その魔法の主は――

「母さん?」

その魔力を間違えるはずがない。母であるプレシアだ。
さらに、辺りに念話が響き渡る。





『あははははは!それじゃあ、ジュエルシードは貰っていくわ!!!』

かあさん?どうして?いまのはじぶんをねらったの?

『これで八個!たった八個では辿りつけるか分からない!けれども私は絶対に辿りついて見せる!アルハザードに!!!』

なにをいっているのかあさん?

『嗚呼アリシア、アリシア!アリシア!これで偽物なんかじゃなくあなたに会えるわ!!!』

だれ?だれ?ありしあってだれ?わたしそんなひとしらない

『聞いていて!?フェイト!貴女は人形、アリシアの偽物!アリシアとして作ったのに全然違かった!』

なに、なに、なに?なにを――

『フェイト、私はね貴女の事が――大嫌いだったのよ!!!』

え――――




崩れ落ちるフェイト。慌てて支えるアルフとなのは。声はそれきりだった。
そこに通信が入る。

『二人共!戻ってきてくれ!長々と念話してくれたおかげで敵の本拠地の大まかな位置が特定できた!』
「フェイトちゃんは!?」

流石にフェイトを放っておくわけにはいかない。クロノはそれに答える。

『連れてきてくれ。そこの使い魔!』

アルフにも話しかける。連れて行かれると聞いて警戒していたアルフが反応する。

「何だい!?」
『君も来てくれ。素直に来て、証言をしてくれれば君の主人の罪は軽減される可能性が高い。……そうでなくとも、君の主人を休ませる場所が必要だろう?』

一瞬、躊躇するがその言葉を信じようと決意する。

「……本当だね?」
『ああ』
「じゃあ、行くよ。フェイトを頼む」
『了解した』

そうして四人はアースラに転移する。
後には、荒れた海だけが残った。



[23718] 第十三話 時の庭園
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:30
アースラ。その一室。フェイト=テスタロッサはそこで何もせずいた。
アルフはなにやら自分のために時空管理局の人たちと話しているらしい。

(べつに、そんなことしなくてもいいのに……)

そう別にどうでもいい。自分は、母に捨てられた。よく分からないが、それだけは分かる。
自分は、アリシアとやらの偽物、人形だったらしい。
それも、どうでもいいことだ。母に捨てられた自分に意味など無いのだから。
だが、そこに……

「こんにちわ、フェイトちゃん」

自分の、自称友達が入ってきた。

「……」

だが、特に反応は示さない。どうでもいいから。

「ねえ、フェイトちゃん」

応えない。どうでもいい。

「あのね、フェイトちゃんはフェイトちゃんだよ」

……。どういうことだろう?

「もう一度言うよ。フェイトちゃんはフェイトちゃん。他の誰でも無い」

…………。

その時、通信が入った。

『なのは!そろそろ出撃用意!』
「うん、分かった。……フェイトちゃん」

そこで、フェイトは初めて反応を返した。

「……何?」
「フェイトちゃんは、何がしたいの?」
「……わたし、が?」
「うん。……それじゃあ行くね。最後に一つ、フェイトちゃんは、私の友達だよ!」

そう言って去っていくなのは。

(……………………)

自分は、自分。何か、答えが出そうな気がした。





それより少し前。アースラの一室。クロノがアルフより話を聞いていた。

「……こんな感じだよ。あたしらはあの婆の命令で、ジュエルシードを集めていた。前回帰った時なんか二個しかないって、フェイトは文字通り鞭打たれていた。
 それで、私が逃げようって言ってもフェイトが母さんのためだからと言ってね」
「大体事情は理解した。……その通りなら十中八九、情状酌量の余地ありと判断されるだろう」
「……それを聞いて安心したよ。……なあ」

アルフがクロノに問いかける。

「なんだ?そろそろ時間が無いから手短にな」
「訊きたいことがあるのさ。あの婆が言っていた事、フェイトが偽物だとか人形だとか、一体どういうことだい?」
「……プレシア=テスタロッサは、26年前に、一人娘を亡くしている。彼女の名が、アリシアだ。……それと、これがアリシアの写真だ」
「な!?」

その写真を見て、アルフは驚愕する。フェイトを小さくしたような少女だったのだ。本人と言えば納得するほどの。

「調査報告や、彼女のフェイトへの発言から、恐らくフェイト=テスタロッサはアリシア=テスタロッサのクローンだ」
「……」

無言になるアルフ。その表情には怒気が浮かんでいる。

「以上だ。協力、感謝する。あまり色々な所へ行くのは許可しないが、フェイト=テスタロッサの所へは行ってもいいぞ」
「いいのかい?」

意外そうな声を上げるアルフ。それにクロノは答える。

「……一応監視は付けてあるが、彼女の不安定な精神状態では、むしろ一人にしておくことの方が不安だ。それに、この艦はこれから戦闘区域に突入するのでな」
「わかった。ありがとうよ」
「礼はいい。それでは、僕は出撃準備があるので失礼する」

そう言って去っていくクロノ。アルフは、フェイトの所へ行くのだった。






アースラ、ブリッジ。そこに出撃準備を終えたなのは達がいた。

「いよいよ、だね」
「そうだね……」

皆、無言。そろそろ転送陣に行くかと言うところで、彼女達が入ってきた。

「フェイトちゃん!?アルフさん!?」
「何故此処に?部屋に戻れ!」

クロノがそう言うが、彼女は聞かず、リンディに問いかける。

「貴女が、ここの責任者ですか?」
「ええ、そうよ」

一拍。そしてフェイトは言う。

「通信装置を、貸していただけませんか?」
「私達に、どんなメリットが?」
「通信から、勝手に庭園の正確な位置を割り出してください」
「……」

リンディは黙る。大体の場所は分かった。だが正確には分かっていない。そして、今こうしていても何時ジュエルシードを使う準備が整うのか分からないのだ。

「……いいでしょう」
「ありがとうございます!」
「艦長!?それは……」

反対する意見も上がったが、リンディは一言言った。

「時間が、無いわ」

そう言われては納得せざるを得ない。
そして、フェイトが通信装置を起動した。







モニターには、どこか研究所のような場所が移っている。そこには一人の女性。それと、巨大なガラス管の様なものに入った少女。その顔はフェイトと瓜二つだ。

『……人形。管理局の設備を借りてまで何をしたいのかしら?』
「……母さん、貴女に言いたいことが」

フェイトはそう答える。

『人形が、母と呼ぶな!私の娘はアリシアだけよ!』
「あなたの言うとおり、わたしはただの人形なのかもしれない。それでも、わたしはあなたに産み出してもらった、育ててもらった、あなたの娘です!
 あなたさえ望むなら、わたしはどこまでもあなたと共にいて、あなたを守ります。わたしがあなたの娘だからじゃない。あなたが……わたしの母さんだから」

激昂するプレシア。それに話しかけるフェイト。

『あははは……!! 今更あなたを娘と思えとでも?……くだらない。言ったでしょう?私の娘はアリシアだけ、人形になんて、用はないわ』

そう答え、プレシアは強制的に通信を切った。






ブリッジには気まずい空気が流れている。それを破ったのはフェイトだった。

「あの……母を、お願いします」

そう言って倒れるフェイト。それを支えるアルフ。
元々、彼女は限界だったのだ。苛烈な虐待に加え、休養無しで動き続け、さらに暴走したジュエルシードを無理やり封印した。
今まで倒れていないのが不思議なくらいだった。
恐らく、プレシアに伝えたいことを伝えて、緊張の糸が切れたのだろう。

「医療班!すぐに彼女を!」
「はい!」

そうして連れられていくフェイト。
そして……

「そろそろ目的地に到着します!突入班は転送ポートへ!」

そろそろ着く場所まで来た。

「よし、行こうユーノ君!」
「……うん」
「ユーノ君?」

なんだか、ユーノの様子がおかしい。だが、すぐに元の様子に戻る。

「なんでもないよ。行こうかなのは」
「うん。……本調子じゃないなら無理はしないでね」
「大丈夫だよ」

心配したように言うなのは。問題無いと答えるユーノ。
そしてそのままクロノも一緒に転送ポートへ向かうのであった。







時の庭園。アースラは到着した。クロノを筆頭に武装隊員が降りてくる。その中には無論、なのはとユーノの姿もあった。
同時に傀儡兵が現れる。

「随分なもてなしだな」
「そうだね。まあ、問題無いだろう?」
「勿論。何も問題は無い」

そんな軽口を叩きあうクロノとユーノ。そこに迫る傀儡兵だが……。

「遅い」
「……だな」

機関部をユーノには斬られ、クロノには正確に打ち抜かれ、あっという間にやられた。

「それじゃ、なのは」
「うん!ディバインバスター!」

さらに、なのはにまとめてやられ、とりあえずはいなくなった。

「それじゃあ潜入するぞ!油断はするなよ!」
「……クロノ」

そう言うクロノにユーノは話しかける。

「何だ?」
「実はさっきの通信の時、プレシアの正確な場所を割り出していたんだ。成功した。でもちょっと転移するには難しい場所で、術者しか転送できない」

嘘である。別に術者でなくとも転送できる。が、ユーノはできるのならばプレシアに会う時は一人がよかった。

「……本当か?」
「ああ。僕がプレシアの邪魔をする。……それに、時間も無い」

巨大な魔力反応。あちらこちらが揺れている。恐らく、そろそろプレシアがジュエルシードを発動させるのだろう。
だがクロノは渋い顔をする。

「だがな……。流石に民間人をそこまで危険な目に合わせるためには……」

ユーノは答える。

「少しでも遅いと、ジュエルシードで次元震が起きる可能性が高い。資料は読んだんだろう?」

几帳面な男である。読んでいないはずが無い。ユーノは確信している。

「……背に腹は代えられない、か……。分かった。だが無理だけは厳禁だ。僕らも直ぐに行く」

渋々納得するクロノ。なのはもユーノに言う。

「ユーノ君」
「大丈夫だよ、なのは」

そう言って微笑む。なのははいったん目を瞑り答える。

「――分かった。絶対に無理をしないで。ユーノ君に万一があったら私……」

そう言って肩を震わせるなのは。そんななのはに――

「――っ!」

ユーノはキスをした。

「あう、えっと、その……」

フリーズするなのは。それを見てユーノはくすっと笑い

「それじゃあ、行ってくる」

転送陣を出現させ、転移した。

「……それじゃあ、僕たちも行くか。急いで、な」
「うん。行こう」

なのはも、クロノ達と共に急いで奥に向かうのであった。








時の庭園、最深部。
そこに浮かぶは八つのジュエルシード。強大な魔力が渦巻いている。
プレシア=テスタロッサはジュエルシードを使おうとする最終段階に入っていた。

「行きましょう、アリシア。アルハザードに」

しかし、そこに転送魔法により何者かが現れる。

「何者だ!?」

金色の髪に翠の目をした少年。無論、ユーノ=スクライアである。

「一体、何をするために来た!?」
「無論、ジュエルシードを暴走されないために。アルハザードなどには辿りつけない」

そういうユーノ。しかし、プレシアは取り合わない。

「そんなことは無い!私はアリシアとアルハザードに行く!そうして取り戻す!こんなはずじゃなかった全てを!!!」

叫ぶプレシア。ユーノは俯く。

「こんなはずじゃなかった事、か……」
「そうよ!何も知らない、分からない餓鬼が、邪魔をするな!!!」

瞬間。

「何も分からない、餓鬼、か……」

ユーノの雰囲気が変わる。
だが、狂気に侵されているプレシアはそれに気が付かない。

「ええ、その通りよ!邪魔をするのならば……!?」

ユーノが顔を上げる。その表情は、今までと全く違っていた。その顔は、一言でいうのならば憎悪。
恐らく、こうなるから自分一人がよかった。他の人間に、なのはにこの顔は見られたくない。

「……今までに、何度も思ったことがある」
「何!?」

その表情に一瞬怯んだプレシアだったが、すぐに元に戻り、訊き返す。

「なのはが、あんな最期を迎えたのは、僕のせいだ。僕があの時、助けを求めなければ、なのはは普通の女の子でいられた。
 その才能を開花させずにいられた。戦わずに、あんな恨みを買わずに、あんな最期を迎えずに済んだはずだと。そうなったのは僕のせいだと」
「な、何を……」

だんだん気圧されていくプレシア。だが、何を言っているのかは全く分からない。

「……だが、こうも思ったことがある。そもそも、僕が助けを求めた理由は何故だ?深い怪我を負ったから?その通りだ。ならば何故怪我を負った?
 ジュエルシードの暴走体を止められなかったからだ。ならば何故ジュエルシードは暴走などした?そう、それは――」

プレシアを見る。

「プレシア=テスタロッサがそもそも輸送艦を墜としたのからだ。それが、始まりだったのではないか?
 なのはがあんな最期を迎えたのはあの女が原因なのではないか」

一拍付き、続ける。

「無論、そんなに単純なことでは無いと理解はしている。だが、それでも僕はプレシア=テスタロッサを恨むのを止められない」

構える。プレシアも、何を言っているのかは理解できなかったが、あれは敵、アリシアを蘇生するのを拒む敵。それで十分だと、構える。
ジュエルシードの膨大な魔力がプレシアの周囲を渦巻く。
しかし……

「……え?」

一瞬にして終わった。いくら魔力があれど、それだけ。そもそも元々プレシアは研究者であり、戦う人間ではない。
プレシアが魔力に志向性を与える前に、神速を起動させたユーノが一撃を食らわせた。そのまま気絶するプレシア。

「やれやれ……」

甘い、かな。だが、もしもなのはと再会する前だったら殺してしまった気もする。八つ当たりが含まれていると思ってはいるが、ユーノはプレシアを恨んでいた。
まあ、今はそれよりも優先することがある。

「最後に、これをどうにかしないとな」

目の前には八個のジュエルシード。元々そうだったのか、それとも使用者が気を失った為かは分からないが暴走している。

「…………」

暴走する魔力を押さえこむ。

「…………!」

きつい、この未熟な体にはかなりきつい。

「!」

それでも、封印をする。一、二、三、四、五……

「封印、完了!」

同時にユーノは意識を手放した。








「ユーノ君!」

そこで見たものは倒れているプレシアと散らばっているジュエルシード。
そして……倒れているユーノ。

「え……」

あの光景がフラッシュバックする。

「あ……え……?」

だが、それを現実に引き戻したのはクロノの声だった。

「ユーノ!……よし、生きているな。プレシア=テスタロッサは……」

!生きているらしい。安堵すると同時にユーノのもとへ向かう。確かに、生きていた。

「よし。それじゃあプレシア=テスタロッサの連行と資料の押収を。……なのは?」
「何かな?クロノ君」

話しかけられ、返事をするなのは。

「……ユーノを連れて、先にアースラへ戻ってくれ」
「いいの?」
「ああ」
「分かった。……ありがとう、クロノ君」

クロノに礼を述べ。直ぐに戻る。万一のことが無いように丁寧にユーノを運びつつ。



こうして、プレシア=テスタロッサは逮捕され、同時に資料が押収された。
後にPT事件と呼ばれる事件は終わったのだった。



[23718] 第十四話 エピローグNoMark~再びの別れ、けれどもあの時とは違って~
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:34
無事に、ジュエルシード絡みの事件、後にPT事件と呼ばれる事件は終わった。

ユーノ=スクライアは特に後遺症は無いが、体に多大な負担がかかったのでもうしばらくフェレットでいることになった。
フェイト=テスタロッサとその使い魔・アルフは捜査に素直に協力している。
そして、事件の首謀者であったプレシア=テスタロッサは……?





フェイトは緊張していた。今日は事件が終わってから初めて母に会う日。母の状態は聞かされていたが、それでも不安だった。
あの、完全に拒絶されたことを今でもはっきりと思いだせる。やはりこのような短時間では完全に吹っ切れはしないようだ。

部屋をノックする。

「はい」

声が返ってきた。緊張しながら入る。


部屋の中のベッドの上。そこには自分の母がいた。随分と、老いた気がする。だけど、その顔は今まで自分が見たことのあるどの顔よりも穏やかなものだった。
何故ならば……

「あら……えっと、初めまして、かしら?」

プレシアは、記憶を失っていた。ジュエルシードの多大な魔力がどーたらこーたらとか、精神的なうんたら等の憶測は聞かされていたが、フェイトはあまり覚えていない。どうでもいいし。
少し、悲しい。そんな気持ちを出来る限り表に出さないようにして言った。

「はい。初めまして、です。私はフェイト=テスタロッサ。……貴女の、娘です」

名乗る。表には、出なかっただろうか?

「そう……。貴女がフェイト……」

記憶を失ったプレシアだが、今回の事件はちゃんと聞いている。
……自分が亡くなった実娘の代わりにクローンを作ったが、結局娘と認められなくて虐待していたということも。
身を起こす。フェイトに手招きした。

「?」

素直に近寄るフェイト。そして……

「あ……」

優しく、抱きしめられた。

「ごめん……なさい……」

抱きしめるプレシアがそう言う。
フェイトは、今では自分の生い立ちを知っている。自分がプレシアの亡くなった実娘アリシアのクローン、それも記憶を転写されたクローンという特殊な存在だということを。
自分の中にあった優しかった母の記憶は自分のものでは無く、アリシアの物だということも。
だが、今は確かに母は優しく抱きしめている。アリシアでなく、自分を。

「――っ」

涙が、溢れてきた。それは少し違かったけれども、ずっと、ずっと、自分が求めてきたものだった。

「……?」

ふと気が付くと、自分だけでなく母も泣いていた。
そのまま、しばらく二人で泣きながら抱き合っていた。







その部屋の前。アルフとクロノがいた。

「……入らないのか?」
「まさか。入れないよ」

冗談交じりにそう聞くクロノと笑って答えるアルフ。

「しかし……あの女がこうなるとはね……」
「確かにな……。おかげで捜査が進みにくいことも多々あって大変だ」

そう言って溜息をつくクロノ。同時に大丈夫そうだと判断してその部屋の前から離れ、移動する。
アルフは質問をしながらそれについて行く。

「それで、あたしたちはどうなるんだい?」
「まあそれはこれからの捜査次第だが、君とフェイトはそう大した罪にはならないだろう。……問題はプレシア=テスタロッサだな」

頷いて先を促すアルフ。

「……正直、彼女がどれだけの事をやっていたかの全貌は明らかではない。無論、記憶が無くなったからと言って彼女が犯した罪は消えるわけではない。
 収容所に入れられるか、或いは勤労奉仕になるか、それは分からない。勿論、どれだけの期間になるかも。
 ……だが、彼女の場合別の問題がある」
「別の問題?」

ああ、と頷いて続けるクロノ。

「身体がな、ボロボロなんだ。恐らく大分無茶したんだろうな。このままでは安静にしていても半年持たないらしい」
「……本当かい?」
「ああ」

それを聞いて怒りを露わにするアルフ。

「何でだい!?フェイトがせっかく幸せになったのに!何で!何で!?」

それを見て落ち着くように言うクロノ。

「落ち着け。僕はこのままではと言ったんだ。まず本局に移送して治療を受けさせる。その後、クラナガンにある、管理局のそういった施設に移す。
 そうすれば、もう少し長く生きられる。あと……そうだな、これはまだ確定された情報ではないのだが」

本来ならば半端に希望を与えるだけだから言うべきではない。でも、彼女には言っておくべきかもしれない。主に言わないように釘をさす必要はあるが。

「フェイトには秘密にしておくというのならば、もうひとつ教えることがある。……半端に希望を持たせるわけにはいかないからな」
「……分かった。そういうことならば言わない」

アルフは頷く。

「プレシア=テスタロッサから押収された資料の中にプロジェクトFを始めとする生命技術のものが多く見つかった。
 これを応用することができれば、さらに良くなる可能性があるとのことだ。その場合臨床試験と言う形になるだろうが。何しろ悠長に待っている余裕は無い」
「なるほどね……」

そう言って納得するアルフ。確かに、半端に希望を与えるだけの可能性はある。

「まあフェイトは幸せそうになったし、あたしは満足さ」
「そうか」

そう言って満足そうに笑うアルフ。クロノは相変わらずの仏頂面だがどこか穏やかだった。









高町家、なのはの部屋。ユーノがなのはにそれを切り出した。

「なのは。僕はアースラに乗って行こうと思う」
「……え?何で?」

なのはその理由を聞き返す。これから暫くユーノといちゃいちゃしながら過ごせると思っていたのだ。
なのにこの発言。……だが、ユーノは何も無しにそのようなことを言う人間ではない。

「うん。闇の書事件のため。……なのはは、何か考えていた?」
「うーん……。リィンさんを何とかするために今回の報酬で大容量のデバイスを貰おうと思ってたくらい、かな。適当な理由を付けて」

そうだった。闇の書事件がある。ユーノと暫くいちゃいちゃできると考えていたため、頭から、少しだけ、抜けていた。少しだけ。
確かに、はやてはほとんどうちの家族と言っていい状態だ。素直になぞるとは考えにくい。

「僕ね、今回の報酬代わりに無限書庫の利用許可を貰ったんだ。僕が司書長を止めた後の話だけど、書庫から夜天の書の取説な様なものが見つかって大騒ぎになったことがあった。
 正確な場所は分からないけど、何処の区画で見つかったか位は聞いている。
 ……夜天の書のリカバリーディスクの様なものも付属していたらしい。上手くいけば、バグはどうにかなるはずだ」

それを聞いておおー、と感心するなのは。

「まあ、書庫に潜るのは久しぶりだし、あの頃とはずいぶん勝手が違うから簡単にはいかないと思うけど」
「ううん。そんなことは無いよ。私には、出来ない。それにユーノ君だったらきっと大丈夫」

そう言うなのは。照れたようになるユーノ。

「まあ、それ以外にもいくつか考えていることはあるけど……。まあ一番重要なのはこれだから。 ……ごめんね、なのは。せっかく再会したのに」
「そんなことは無いよ。私はね、今すごく幸せ。ユーノ君がいるから。……生きて、いるから。ちょっと離れたくらいで、私たちの絆は無くならないよ!」

そう断言するなのは。頷くユーノ。

「でも……ちょっと寂しいから、お願い、聞いてくれる?」

なのははそうユーノに言う。

「何かな?」
「“ぎゅっ”てして欲しいな。ユーノ君をしっかり感じれるように」
「うん、いいよ。……僕も、なのはの事をしっかり感じたいし」

そう言って抱き合うなのはとユーノ。
そのまま、暫く二人は抱き合っていた。








そして、アースラが出発する日がやってきた。見送りになのはを始めとする高町家の面々がいる。

「ユ-ノ、元気でな」
「ユーノ、また来なよ」
「身体には気を付けるのよ」
「修行も怠らないようにな」
「ありがとうございます」

挨拶をする。ついでにお土産のクッキーを持たされた。

「なのはとは、いいのかい?」
「大丈夫ですよ。昨日さんざん話しましたし。……それに、これからも会えるんですから」

そう言って惚気るユーノ。それを熱い、熱い、とからかう桃子と美由希だった。



それからもう一方では……

「フェイトちゃん」
「なのは」

二人が話していた。

「ねえ、なのは?」
「何かな?フェイトちゃん?」
「私は、なのはの友達になりたい。……いいかな?」
「もちろんだよ!でも、既に私は友達だと思っているからね」

笑顔で肯定するなのは。

「ありがとう。……どうすれば友達になれるのかな?」

そうフェイトが問いかける。なのはは、それに答える。何時かのように。

「それはね、名前を呼んで。最初はそれだけでいいの」
「そっか……あれ?」

そこでフェイトは気が付く。

「……じゃあ、私はとっくになのはの友達だったのかな?」
「だから、そう言っているじゃない」

にゃはは、と笑うなのは。フェイトもそれにつられて笑った。




「そろそろだ」

クロノがそう告げる。

「少し、待って」

なのははそう言うと髪を止めているリボンを外してフェイトに渡した。

「思い出にできるの、こんなのしかないけど」
「じゃあ私も」

そう言ってフェイトもリボンを外し、二人はリボンを交換した。
フェイトは最後に言う。

「なのは!ユーノ!」
「何?」
「何かな?」

宣言する。

「……今度は、あんなにあっさりとは負けない。勝つからね!」

それを聞いて顔を合わせるなのはとユーノ。そして返した。

「負けないよ」
「僕も、簡単には負けないからね」

うん、と満足そうに頷いているフェイト。

「時間だ。いいか?」

クロノが告げる。ユーノとなのはがそれを聞いて目を合わせる。そして……

「んっ!」
「ん……」

互いに、口づけをした。しかもそれだけでは無い。

「んんっ……」
「んんん……」

なのはが舌を入れた。それに驚いたユーノだったが、すぐに舌を絡ませる。それを見て固まる面々。
そうして暫く互いに絡ませたり舐ったり歯茎を舐めたりしていたが、やがてどちらからとなく離れる。

「はふぅ……」
「ぷは……」

唾液の橋が架かる。それはきらきらと光を反射していた。

「それじゃあユーノ君!またね!」
「うん!またね、なのは!」

二人が別れを告げると同時に、時は動き出した。

「な、ななななな、なん、なん」

言葉になっていない士郎。

「あらあら」

若いわねー、とでもいうような桃子。

「……」

固まったままの恭也。

「……もしかして、なのはに先を越される?」

急に危機感が出てきた美由希。

「~~~~~~~」

固まったままのフェイト。恭也と違って真っ赤だが。

「へえ……」

興味深そうなアルフ。

「……」

頭痛を堪えるような仕草をしているクロノ。だが、仕事は行う。

「それじゃあ、転移するぞ」
「お世話になりました!」
「なのはも、また会おうね!」

そう言って、転移していく。その後には、誰もいなかった。




美由希がなのはに話しかける。

「でも意外だなあ」
「?何が?」

なのはは問い返す。

「ユーノの事だよ。まだ本調子じゃないんでしょう?それにを口実に、なのははもっとユーノの事を引き留めると思ったよ」
「あはは、そんなことは無いよ」

そのなのはの答えに、そう?と聞き返しす美由希。それになのははうん、と頷いて言う。

「大丈夫だよ。私とユーノ君の絆はちょっとやそっとでは壊れないよ。……それにお互い生きているんだ。必ず、会えるよ」

そのなのはの言葉に御馳走様ー、と言っている美由希。


なのははふと空を見上げる。それは、何時かと同じく真っ青だった。
だが、今はあの時と違って希望に満ち溢れている。なのはは、その空に自分とユーノのこれからことの思いを馳せるのだった。



[23718] 第十五話 闇の書と彼ら
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/12/01 21:18
時空管理局本局・食堂。クロノ=ハラオウンは以前自分達が関わった事件で出会った少年と会っていた。

「久しぶりだなユーノ。どうだ、進んでいるか?」
「……クロノ?どうしたの?ここで会うのは初めてだよね?」

もう一方の少年はそれに驚いた様な反応をする。今まで食堂で会ったことなど無かったが。

「まあ、昨日までなんだかんだで忙しかったからな……。今日は久しぶりにそれなりにゆっくりと昼食が取れそうだ」
「そっか。でも忙しくても食事と睡眠は大事だよ。特にクロノはまだまだ成長期なんだし。……成長期だといいね」
「大きなお世話だ」

背が低いことを気にしているクロノは若干不機嫌になる。

「あはは……。で、進行状況だっけ?」
「ああ」

ユーノは以前の事件での報酬代わりに無限書庫の利用許可を求めた。なんでも調べたいことがあるというと理由だった。



無限書庫――正式名称は第8管理世界・無限書庫。管理世界と言っても正確な世界の場所は特定できておらず、管理局でいくつか管理されている特殊な転送ポートから行けるだけの世界。
世界としての規模はかなり狭い部類に入るが、書庫としては破格の大きさであり、それ自体がロストロギアなのでは?、と言う説もある位に様々な情報がある。それこそ、美味しい料理のレシピ本の様なものから軽く世界を滅ぼせるロストロギアの情報まで。
ただし、そこは現状まともに利用できる状況とは言い難い。必要な情報を得るためにはチームを組んで数か月と言うのも当たり前であり、そもそも見つからない無いことも多い。



以上の事から、利用許可を出したとはいえ、一人で探しているらしいユーノの進行状況が気になったので話題代わりに聞いてみたのであった。
だが、返ってきた答えは予想外のものだった。

「うん。とりあえず大体は終わったよ」
「……何?」

驚愕する。前述のとおりチームを組んで数ヶ月が普通である。それがこんな短期間で大体終わったという。

「一体どんなことを調べていたんだ?」

興味が湧いたので訊ねてみる。

「……うん。それに絡むことでクロノに相談したいことがあるんだ」
「ほう。……ここで気軽に話せないようなことか?」

やや硬い表情のユーノ。それから何となく察してクロノはそう訊く。

「うん」
「そうか。ならば後で話そう。恐らく今日は定時に上がれるはずだ。終わったら連絡を入れる。うちでいいか?」
「いいよ。ありがとうクロノ」

ユーノは何も言わずに了承してくれたクロノに感謝を示すのだった。










その夜、ハラオウン家。

「ただいま」
「お邪魔します」
「いらっしゃい、ユーノ君。それからお帰りなさいクロノ」

クロノがユーノを連れてやってきた。

「……リンディさんも?」
「あら?私がいたら駄目な話なのかしら」
「いいえ。……むしろ、都合が良いです」
「ありがとう。実はクロノが友達を連れて家に来るのは初めてなのよ」

くすくす笑いながらそんなことを言うリンディ。

「母さん!余計なことを言わないでくれ!」

それに反応するクロノ。くすくす笑っているリンディ。苦笑いしているユーノ。

「それじゃあお話の前に夕飯でいいかしら。勿論ユーノ君の分もあるわよ」
「あ、はい。ありがとうございます。いただきます」
「遠慮しないでいいからね」

そして、食卓に着き、和やかに夕飯が進むのであった。





夕食後。三人で雑談に興じていた。

「へえ……じゃあプレシアさんも何とかなりそうなんだ」
「ああ。違法実験が中心だったが、結果として大きな人的被害が出ていなかった事が幸いした。彼女から押収した資料を元にした治療の臨床試験の、まあ悪く言えば実験体になった後、勤労奉仕と言う形になると思う。
 まあ、元々そうでもしないと長生きができない身体だったという理由もあるから、臨床試験を受けることは別に問題無く了承してくれた。フェイトにどう切り出そうか悩んでいた」
「そっか。フェイトともうまくやっているようで安心したよ」

そう言ってユーノは安心したような笑みを浮かべる。
それを見てからクロノが切り出した。

「……さて、それじゃあ本題に入ろうか。ユーノ、僕に相談したいこととはなんだ?」

その言葉にユーノも表情を戻す。

「うん。……まずは、この画像を見て欲しい」

そう言ってレイジングハートの取らせた後、自分の端末に転送させた画像を見せる。その画像にクロノとリンディは激しく反応した。

「それは……」
「まさか、闇の書!?」

そう。その画像に映っていた物はロストロギア、闇の書。十一年前に父を、夫を無くした事件の原因であるロストロギアである。
ユーノは無論、そのことを知っていて内心も大体予想が付くがそんなことはおくびにも出さない。

「……これを、何処で?」

厳しい顔をしたクロノが問いかける。ユーノはそれに答える。

「地球で。なのはの家によくお世話になっている、八神はやてという女の子の家に行った時に見つけたんだ。
 その時はあれってロストロギアじゃなかったけ、とかその程度だったんだけど、無限書庫の利用許可を得てからふと思い出して調べてみたんだ。吃驚したよ」

クロノと同様に厳しい顔をしたリンディも問いかける。

「その八神はやてという女の子の人物像を教えてくれないかしら?」
「いいですよ」

それを受けてユーノが説明をする。物心つく前から孤児で、さらに足が不自由なこと。それが原因で学校にさえ通っていないこと。ここ数年、なのはと知り合ってからは良く高町家に来ていること。
勿論非魔導師であり、さらにそれを悪用するような可能性は低いと思われること等々、色々と語った。

「……」
「……」

クロノとリンディは真剣な表情で何かを考えている。さらにユーノは爆弾を落とす。

「彼女の保護責任者は一応、ギル=グレアムという名前です」
「……!」
「……!」

反応する二人。だがユーノは気が付かないふりをして続ける。

「この人物がまた怪しいです。彼女の両親の遺産管理を驚くほど健全にしており、さらに多額の仕送りをしているにもかかわらず全く姿を見せない。
 それに士郎さんがはやての親権を取り上げようとして、ギル=グレアムを調べたらしいです。士郎さんは昔の仕事柄、割とそう言った関係に強い人物とのコネもあるらしいのですが、不明。
 確かにギル=グレアムという、彼女に仕送りをしている人間は発見できたそうですが、その日常が全く不明らしいです。何処で何をやっているのか。そのお金をどうやって調達しているのか。
 普通ならば、例えマフィア等でも分かるのに」

そこで一息入れてユーノは続きを言う。間違っていると分かり切っている仮説を。

「ですが、魔法が関わっているのならば別です。このギル=グレアムは、闇の書を何らかの形で狙う次元犯罪者かもしれません。
 その推測の元になったものもあります」

そう言ってユーノはさらに画像を出す。それにはとある使い魔の姿が映っていた。

「!!!」
「!!!」

やはり反応する二人。やはり気が付かないふりをするユーノ。

「この、猫の使い魔がはやての監視についていたそうです。二匹いて、直接監視していた一匹目は恭也さんにぼこぼこにされた後、転移魔法で逃走、
 サーチャーを使い監視していた二匹目はなのはに発見され、やはり撃墜、転移魔法で逃走。その二匹目をレイジングハートが撮った画像がそれです」
「……」
「……」

絶句すると同時に考え込むという器用な事をする二人。ユーノは続ける。

「ちなみにレイジングハートの話では、真っ当な治療設備を使わない限り治癒にかかる時間は早く見積もっても二月はかかるとのことです。
 それから……」
「……まだあるのか」

なんとか声を出したクロノが言う。正直お腹がいっぱいだ。内密にやらねばならないことがたくさんできた。

「うん。僕が調べていたのは闇の書だったのは分かってくれたと思う。でもね、調べていたらさらに別の事が分かったんだ」
「……別の事?」

うん、とユーノは頷いて闇の書と夜天の書について話した。悪意ある改造が元になっているのであろうということも。
それを聞いたクロノ達だが、そうだとしてもやらねばいけないことがある。

「そうか……。だが先ずやるべきことができた」
「そうね。ユーノ君、この画像は頂けるかしら?」
「はい、どうぞ」

ユーノはそれを渡す。
うん、と二人は頷いて目配せする。

「すまない、ユーノ。やらねばならないことができた。今夜は泊まってもらっても構わないが、僕はいそうにない」
「いいよ、帰るから。そんな予感はしていたしね」
「ありがとう。……では僕は調査を始めます」
「ええ。内密に、特にあの人には気が付かれないようにね」
「心得ています」

そう言って家を出る準備を始めるクロノ。リンディも片づけを始める。

「それじゃあ、僕も帰るよ。……これからは無限書庫でさらなる資料を集める。もしかしたら何とかなる方法が見つかるかもしれない。
 はやてはなのはの親友だし、僕も友人だから死んでほしくないからね」
「ああ。……もし、良きにしろ悪きにしろ何か新しい資料が見つかったら連絡をくれ。すぐに出れない可能性も高いが、その場合メッセージを入れておいてくれると助かる」
「うん。分かった」

そう言ってから、帰る準備をして家を出る。



「ごめんなさいね、なんだか追い出すような形になってしまって。それから今回の事を教えてくれてありがとう」

リンディが見送りに出てきた。とは言っても彼女もこの後すぐに準備をして出るつもりなのだろう。

「いえ。そんなことはありません。この話をする時点で予想できましたから」

そう言って答えるユーノ。

「そう言ってもらえると助かるわ。それじゃ、気を付けて帰るのよ」
「はい」

そして歩き出す。




帰り道。ユーノは思考に浸っていた。

(これで、クロノとリンディさんを動かすことはできた。後は、例のあれの資料か)

今回はジュエルシードの時と違い、時間もあれば頼れる人間もいる。なにより、なのはを巻き込むまいとする必要が無い。今度は、前回よりも余裕を持って当たる事が出来るであろう。

(それにしても、最初はあんな感じだったなぁ……)

無限書庫を思い出す。はっきり言って混沌と呼ぶのがふさわしい状況だった。

(これが終わったら書庫もなんとかしないとな)

無限書庫の情報量は非常に頼りになるものである。これから必要になることも多いだろう。

(まあそれよりも、今はこちらをやらないとな)

そう思い、とりあえず体を休めるためにねぐらに帰るユーノであった。









およそ一月後。もう一つの資料が手に入ったユーノはクロノに連絡を入れた。

「クロノ、今いいかな」
『ユーノか……いいぞ』
「例のあれの、重要な資料が見つかった。あるいは、何とかなるかもしれない」
『……本当か!?』

驚くクロノ。

「それで、そっちはどう?」
『ああ。……実は、連絡を入れていてくれたことは都合がよかった。そのことで話したいことがある。うちの場所は覚えているな?今夜来てくれ』
「分かった。覚えているから大丈夫だよ」
『そうか。ならまた後でな』
「うん、また後で」

そして通信が切れた。




「よく来たな、ユーノ」

その夜。再びハラオウン家を訪ねたユーノはクロノに迎えられた。

「うん。お邪魔します」
「ああ」

そして家に入る。



居間。そこに通されたユーノは茶を出されるのもそこそこに話し始めた。

「さて、前置き無しで初めていいかな?……そういえば今日はリンディさんはいないの?」
「ああ。母は仕事だ」

そう答えるクロノ。

「そっか。……じゃあ、クロノ。先に話してもらっていい?」
「いいぞ。……そうだな、何から話そうか……」


そしてクロノが話し始める。闇の書と自分たち親子、そしてギル=グレアムとの因縁。
ギル=グレアムは自分たちの恩人でもあること。彼は地球出身の魔導師であること。例の画像に映っていた使い魔は彼の使い魔だったこと。
確かに八神はやての後見人をやっていた事。使い魔は両方ともここ一月少し、全く姿を見せていないこと
それを調査をして、先日彼にそういった資料ごと問い詰めに行ったこと。
そうして、暫く誤魔化そうされたが、やがて素直に白状された事。闇の書を完成させ、八神はやてと共に封印するつもりの事。
吐露された彼の心の内。その様な相手だからこそ、情を移したくないと会わなかった事。
巻き込む人間を少しでも少なくするために彼女の家の周りに認識疎外の結界を張って独りにさせていた事。
だがその外でたまたま一人の少女と出会い、彼女に知り合いがたくさんでき、苦々しく思ったこと。しかし、同時にとても安堵したこと……等々。


「……」
「……」

話終えたクロノと話を聞いたユーノはしばらく無言。ユーノは知っていたが、やはり改めて聞かされると、複雑な気持ちだった。彼がやろうとしていることは間違っているが間違っていないのだから。
やがて、クロノが口を開いた。

「彼のことを悪く思わないでほしい、とは言わない。だが責めないで欲しい。彼にとって闇の書はそれだけの物なんだ」
「……うん」

ユーノは頷く。

「さて……。それじゃあ今度はそっちの話を聞かせてくれ」

その微妙な空気を消そうとするようにクロノが言った。

「ああ。これだよ。見てくれ」

ユーノはその資料を出す。それは一冊の本の様なものの、とあるページの画像だった。

「……」

クロノは無言。

「どう?これなら――」
「すまないが」

ユーノの話をクロノが遮る。

「……?どうしたの?」

ユーノは疑問を浮かべる。クロノは答える。

「すまないが、何と書いてあるのかが分からない。教えてくれるか?」
「ああ……。古代ベルカ語だもんね……。ごめん、そこまで配慮していなかった」

そこに書いている文字は古代ベルカ語。彼もただのベルカ語位なら読めるのだろうが、流石に古代ベルカ語は読めなかったようだ。まあその手の考古学者でもあるまいし、仕方が無いことだろう。

「それじゃあ説明するよ。これはね――」

そしてユーノは説明する。これは夜天の書の製作者の手記なのだと。そしてこのページには夜天の書の予備の取説と万一の時のためのバックアップを無限書庫に置いておくと書かれており、その場所も書かれていると。
ちなみに、ユーノが辿った歴史でもこれの発見から今から探そうとしたものが見つかった。

「……」

クロノは驚いたような顔をして無言。ユーノはこの男にそんな顔をさせたことに若干の満足を覚えながら続けた。

「でも、問題があるんだよね」
「……どういう問題だ?」

聞いたところ相当奥の区画である。ならば人の手が入っておらず、そこにいまだ残されている可能性が高い。

「……危険区域の先なんだよ。それも一番の危険区域」
「そうか……」

納得する。無限書庫にはいくつか立ち入り禁止となっている危険区域が存在する。しかもその中でも一番の危険区域。確か資料ではランクSをリーダーとした一個小隊が壊滅したとあった。
配置されている警備のロボット(のようなもの)や罠は、何故か資料の類には影響を一斉与えないらしいが。
……最も、そのような危険区域の奥ならば未だに残っている可能性は極めて高い。

「でも、僕はそれを取りに行きたい」
「本気か?」

ユーノがそう言うが、クロノは反対そうな顔をした。

「本気だよ。だってそうしなければはやては封印される。違うかい?」
「まあ……僕も感情では反対したいが、そうした方がずっと良いのは確かだ」

ユーノの問いにクロノは溜息交じりで答える。自分も少女一人を犠牲にするなど反対したいが、闇の書の被害は無視できない。

「だがどうする?管理局は動かせないぞ。リーダーがSランクの一個小隊が壊滅した前例もあるし、何より堂々と部隊を借り入れる理由が出せない。
 闇の書の主を救うためです等と言ったら、そこから色々な問題が出てくる。主が八神はやてと知られ、彼女が闇の書に恨みを持つものに狙われるとかな」

ユーノはそれに頷く。そんなことは承知の上だ。幸い、心当たりはある。彼女達ならば絶対に協力してくれるだろう。

「うん。それは分かっている。だから心当たりに協力を要請するよ」
「……心当たり?誰だ?」

クロノは純粋な疑問として聞く。

「うん、なのは。そろそろ夏休みに入るから協力してくれるはず」
「彼女か。……確かに、お前となのはが強いのは分かっているが、それだけでは不足だと思う。もしもお前たち二人で行くのなら僕は無理矢理にでも止めるぞ。書庫の利用許可を取り下げるとかな」

ユーノの答えにクロノは真剣な顔で言う。

「勿論、僕となのはだけではないよ」
「では、残りは?」

クロノの問いに一拍おいてユーノは答えた。

「闇の書の守護騎士・ヴォルケンリッター。もうすでに出現しているとのこと。主の為ならば、協力してくれるだろう。こちらから様々な資料を彼女たちに見せたうえで説得する」

ユーノの答えにクロノはぽかんとした顔で絶句する。ユーノはその珍しい顔を見ながら彼女たちの説得方法を考えるのであった。



[23718] 第十六話 激突!最強の夫婦VS雲の騎士団
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:55
とある無人の観測世界。

「それでは……双方、準備はいいか?」

問いかけるのはクロノ=ハラオウン。

「いつでも」

答えを返した片方は闇の書の守護騎士・ヴォルケンリッターのリーダー烈火の将シグナム。
彼女の傍には同じくヴォルケンリッターの仲間、ヴィータとザフィーラ。そしてやや後方にシャマル。
騎士甲冑を展開し、長剣型のデバイス・レヴァンテインを構えている。

「同じく」

答えを返したもう片方はユーノ=スクライア。
彼のやや後方には彼の恋人にして婚約者の高町なのは。
バリアジャケットを展開し、二刀小太刀型のデバイス・阿吽金剛を構えている。


一拍。


「始め!」


そして、双方が激突した―――――!









あの話の後、ユーノとクロノは細部を煮詰めた。そしてやはり守護騎士を仲間に引き入れたいと考えた。なのはからの証言で信用できる相手だと判断したことも大きい。
そしてユーノはクロノと共にギル=グレアムと会った。彼を説得や討論で説き伏せ、引き入れた。元々彼もできることならばこのような方法はしたくなかったのだ。
ただし交換条件として、いざという時には封印されるのを説得、最悪封印に協力するというものもついていたが。
そして八神はやてに連絡を取り、その日がやってきた。





八神家。リビング。対峙するは八神はやて、ヴォルケンリッターとグレアム、クロノ、ユーノ。(なのはもいるが、中立)
そこには静かな緊張感が漂っていた。

「まずは自己紹介からだね……。はじめまして、ギル=グレアムだ」
「あ、はじめまして、八神はやてです」

互いに自己紹介をする。そこでいきなりグレアムが大きく頭を下げた。

「すまない。私は自分の為に君を放置していたようなものだ。幾ら罵倒してくれても構わない」
「あ、いえ、その!今日会いに来てくれましたし!」

はやては自分の恩人とでもいう人にいきなり頭を下げられて混乱している。ヴォルケンリッター達は何かを言いたそうにしていたが、主が真面目な会話しているのに口を出すわけにはいかないと黙っている。

「その理由を説明したい。……いいかな?」
「はい。お願いします」

電話では魔法絡みだというくらいしか話していない。
グレアムはヴォルケンリッター達にも声をかけた。

「君達もしっかり聞いてくれ。何故、管理局が闇の書を目の敵にするのかを。闇の書が今までどれほどの被害をもたらしてきたのかを」
「……」
「……」
「……」
「……」

ヴォルケンリッター達は無言。だが早く話せという雰囲気を出している。

「では、始めよう。まずは……」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「そんな、馬鹿な……」
「なんで、そんな……」
「……」
「私達は、今まで……」

説明を受けたヴォルケンリッター達は愕然としている。確かに、言われてみて改めて考えてみると違和感がかなりあった。
それにに言葉だけでなく、具体的な資料や映像まで出たら信じざるを得なかった。

「以上だ。闇の書が極めて危険だという理由は」
「……」

はやても無言。グレアムは続ける。

「そして事件からしばらく後……私は地球に住む、とある友人が亡くなったという知らせを聞いた。その知らせに、そういえば、彼から前に送られてきた写真を見ていなかったと思い、探して見た。そして愕然とした」

一拍置く。

「その写真には友人夫婦と生まれたばかりの彼らの娘が映っていた。……それだけでは無かった。あの闇の書が写っていたのだ」

グレアムは続ける。

「そんな馬鹿なと思いながら私はそれでも確認のためにリーゼアリアに派遣した。……本物だった。私はチャンスだと思い、それを何とか封印しようと考え――後は今に至る。
 ……君を放置していたのは偏に私が、いずれ封印する娘に情を移したくなかったからだ。もう一度言う。幾ら罵倒してくれても構わない」

そう言ってグレアムは言葉を切る。はやてはしばらく無言だったが、やがて言葉を出す。

「……でも」
「?」
「でも、今それを話したっていうことは、何か別の方法が、私を死なせんでもええ方法が見つかったってことでしょうか?」
「ああ。後で説明する」

ヴォルケンリッター達が凄い反応をしているが、はやては気にせず話を続ける。

「……じゃあ、方法を変えたのは、私を死なせたくない、ていうことでええんですか?」

そのはやての言葉にグレアムは絶句する。……気が付いていなかった。

「……ああ。都合が良い話だと思うが、できることならば君を死なせたくは無い」

その言葉を聞いてはやては嬉しそうに微笑む。

「ありがとうございます、グレアムおじさん」

その言葉にグレアムは何かを堪えるように下を向く。顔から水滴が零れ落ちたが、それを指摘する者はここにはいなかった。






そしてグレアムが落ち着き、具体的にどうするのかという話になった。

「では、これから僕がどうするのかを説明します。……、とその前に、ユーノ=クスライアです、よろしくお願いします」

ユーノが話を引き継ぐ。先ずは、あちらは初対面であるヴォルケンリッターに自己紹介をした。

「ほう……お前が……。私がヴォルケンリッターのリーダーのシグナムだ」
「へー、お前がユーノ……。ヴィータだ」
「お前が、か。ザフィーラだ」
「あら、貴方がなのはちゃんの……。シャマルよ」

それを受けたヴォルケンリッターも自己紹介をする。
だが、少々意外な反応にユーノは思わずなのはを見た。なのははえへへ、と笑う。

「あー、なのはから散々惚気やらなんやらを聞かされているんだよ」

ヴィータが言う。ユーノは苦笑する。

「あはは……。では、説明を始めてよいですか」
「ああ、頼む」

それを受けてシグナムが答える。

「では、始めます。まず……」

ユーノは資料を出しつつ説明する。元々、闇の書は夜天の書という物で、確かに魔法の蒐集などの能力はあったが別段危険なものではなかった事。
しかし、何代か悪意がある改造が行われ、危険なものとなり、夜天の書という名も失われ闇の書と呼ばれるようになったこと。

「成程……。だから夜天の主の元に集いし雲、か……」

ザフィーラが頷いている。そしてシグナムが続きを促す。

「それで……どうにかなる方法とは?どうすれば主はやてを助けることができるのだ?」
「はい。この画像を。これは夜天の書の作成者の手記のとあるページです」

ふむ、と頷き、それを読む。流石に生まれた時代が時代なだけにちゃんと読めるようだ。

「成程……」
「シグナム!あたしたちにも見せろ!」
「ああ。すまんな、ほら」

納得しているシグナム。ヴィータにせっつかれて渡す。

「だがここに書かれている場所に今でも在るのか?」
「ええ、高い確率で」

疑問。ユーノはそれに無限書庫の事を教える。

「そのような場所なのか……」
「はい。ですが問題が。……最も、そのおかげでさらに現存している可能性が高いのですが」
「どういう問題だ?」

ユーノの発言にシグナムが訊く。ユーノはそれに答える。ある意味これが今回の本題だ。

「その区域は危険区域の中、少なくとも危険区域を通らねばならない所にあります。そしてその区域で嘗てランクSをリーダーとした一個小隊が壊滅したことがあります」

そう言うユーノ。だがヴォルケンリッター達の答えは決まっている。相談するまでもない。

「だけど……」
「そこに、主を救う可能性があるならば……」
「考える必要もないわね」
「ああ!行くぞ!」

ユーノは当然その反応が分かり切っていた。

「まあ、そう言うと思いました。僕となのはも行きます。戦力は多いほうが良いでしょうし」
「……お前たちが、か?」

それにシグナム達は疑問をはさむ。

「はい。……何か問題でも?」
「ああ。その話の通りならそこはかなり危険だ。お前もその立ち振る舞いを見る限りかなりの強者だとは分かる。ならば、少しでも確率を上げるためには、協力してくれるのは素直にありがたい。
 だが、なのははどうだ?確かに魔力は高いが、主の親友に万一の事があっては……」
「なら」

そこに今まで黙っていたクロノが珍しくニヤリと笑いながら口をはさむ。

「何だ?」
「なら、その二人とチームで模擬戦でもやってみるといい。必要なら適当な場所を提供しよう」
「ほう?……それは良い考えだな。今の生活に全く不満は無いが、やはり偶には体を思い切り動かしたいと思っていた所だ。皆も構わんな?」

シグナムもニヤリと笑って答える。

「んー。まあ実力が分かっていたほうが戦術を立てる時に楽だしな……」

ヴィータが答える。他の二人も大体同じ意見のようだ。

「ユーノとなのははどうだ?」

クロノは問う。

「別にいいよ」
「私も」

クロノは頷く。

「そうか。では後で場所時間を伝える。恐らく一週間以内にできるだろう」

そう言うクロノ。そのまま後は雑談という流れになった。







それから5日後に決まった。その間に起こったこと。

グレアムが高町家に行った。その際グレアムは高町家に謝罪と感謝を示した。高町家の面々は、無論かなりの勢いで彼を非難した。しかしはやてが間に入り、落ち着いた後に理由を説明すると納得はしないまでも一定の理解は示した。
溝は埋まったとは言えないが、少しだけ低くなった。

レイジングハートが改造に出され、カートリッジシステムが付いた。とは言ってもユーノとレイジングハートからあまり多用しないようにとなのはは釘を刺された。

ユーノのデバイスが完成した。銘は“阿吽金剛”。形状は無論二刀小太刀。カートリッジシステムや人格はおろか、魔法演算システムさえもついておらず、魔力の通りや耐久性を優先されている。
ユーノ曰く「いざというときに使わないからこれでいい」とのこと。クロノあたりは「そこまで来ると、デバイスと言ってよいのやら……」等と言って驚いていたが。
ちなみにユーノのデバイスの費用も、レイジングハートの改造の費用もグレアムのポケットマネーから出ていたりする。

後はせいぜい、なのはとユーノがそのいちゃいちゃっぷりを見せつけて、初めて見るヴォルケンリッターを中心に砂糖を吐かせた事くらいである。

そして、その日になった。






「成程……確かにここなら思い切りやってもよさそうだな」

シグナムがそう言って笑う。
無人の観測世界。ここで今からユーノ・なのはVSヴォルケンリッターの模擬戦が行われる。
それ以外にいるのははやてとクロノ。ちなみにグレアムはもう帰っている。

そして話はようやく冒頭に戻る。

「それでは……双方、準備はいいか?」

問いかけるのはクロノ=ハラオウン。

「いつでも」

答えを返した片方は闇の書の守護騎士・ヴォルケンリッターのリーダー烈火の将シグナム。
彼女の傍には同じくヴォルケンリッターの仲間、ヴィータとザフィーラ。そしてやや後方にシャマル。
騎士甲冑を展開し、長剣型のデバイス・レヴァンテインを構えている。

「同じく」

答えを返したもう片方はユーノ=スクライア。
彼のやや後方には彼の恋人にして婚約者の高町なのは。
バリアジャケットを展開し、二刀小太刀型のデバイス・阿吽金剛を構えている。


一拍。


「始め!」


そして、双方が激突した―――――!







その合図と同時にシャマルとなのはが後ろ下がり、他の四人は前に出る。
さらになのはは30近いアクセルシューターを出現させ、ユーノは邪魔ではないが、通り抜けるのは難しい位荒くバインドを広範囲に展開。

「チッ!」

ヴィータが舌打ちをする。一気に後方に突っ込むつもりだったのだが。
仕方が無い、まずは目の前の相手を潰す。シグナムとザフィーラもそう判断したようだ。



互いの得物が交錯する。長剣で斬りつけ、ハンマーで薙ぐ。長剣で突きを放ち、ハンマーを振り下ろす。
ユーノは基本的に防戦。回避し、魔法で、デバイスで受け止める。小太刀は本来、受けなどには向かないが、強度を優先させただけあって可能なようだ。
そしてそのまま暫く交戦している。
ヴィータは思う。

(やりづれぇ……)

やはり、簡単にはいかないようだ。
邪魔をするように無視できない威力の誘導弾が飛んでくるし、ユーノとある程度間が開くと、バスターも来る。
さらにそこかしこに罠の様なものがある。一度捕まった。簡単に抜け出せないくらい固いバインドだ。とは言っても流石にあれが全て本物でなく、ダミーも含まれてはいるのだろうが。
シャマルがそれの解除やらの(ちなみに捕まった時シャマルが解除してくれた)こちらの補助をしてくれているが、それでもばら撒かれている。
また、相手も単純な技量もかなりの手練れだといっていい。防御に専念しているが、見事にこちらの攻撃回避し、シールドで防いでいる。とはいえ油断していると斬撃も来る。
なのはもあれほどの戦技魔導師だとは思わなかった。
シグナムも似たような感じである。ザフィーラは自分とシグナム、そして偶にシャマルにも飛んでいく砲撃などの防御担当だ。



そのまま均衡状態は続く。
さて、どうやって破るかと思っていたらシャマルから念話が入った。


(みんな!)
(なんだ!?)

シグナムが代表して聞く。

(さっきからからなのはちゃんが全く動いていない!旅の鏡からリンカーコアを直接抜き出して戦闘不能にする!)

蒐集するわけではないが、確かにそれなら成功すれば一撃である。そうすれば誘導弾と砲撃が無くなる。
ただし、旅の鏡を使っている間、補助がなくなるが。最も、成功すればそれ以上の価値がある。

(分かった!やってくれ!)
(了解!)

そしてシャマルが旅の鏡を起動する。




シャマルは旅の鏡を起動する。

(ごめんなさいね、なのはちゃん)

後遺症は残さないが、暫く眠っていてもらう。それくらい成功すればこれは大きい。

(よし。……ここね)

だが旅の鏡を繋げたシャマルは

(え?)

そこから飛び込んできた桃色の奔流をまともに食らった。
ゼロ距離の砲撃をまともに受けたシャマルは気を失ったのであった。





(よし!成功した!)

なのはは内心でガッツポーズをとる。かなりシビアなタイミングを要求されることだが上手くいった。
前日のユーノと行った作戦会議、それでいくつかパターンが出たが、恐らく戦況が拮抗して、なのはが動かなければこうなる可能性は高いと二人は判断し、見事にそれに相手ははまってくれた。
これで補助は潰れた。相手は罠の解除や防御の増強、回復などに手間取るだろう。チーム戦で先に潰すべきは補助と盾なのである。
誘導弾の数をさらに増やす。一人いなくなった分を残りに回す。
さて、先程の理屈から言って次に倒すべき相手は……。




(シャマルが倒されたか!)

ザフィーラは内心で驚きを上げる。まさかあの奇襲が初見で破られるとは思わなかった。

(俺も出る!)

シャマルには悪いが放っておく。それよりも自分も前に出て、より積極的に二人のカバーをすべきだ。補助がいなくなったのだからきついだろう。
だが……

(何!?)

自分の前にユーノがいた。見ればシグナムとヴィータは数が増えた誘導弾で動きが制限されているようだ。
ユーノはそのまま連撃を繰り出す。

(くっ!)

シールドを張るが、それを徹して攻撃が入る。全てまともに入った。

(がぁっ!)

だが倒れない。自分は盾の守護獣。そう簡単に倒れてなるものか!
見れば相手は少し驚いたような顔。だがそれも一瞬。追撃を繰り出してきた。

(はぁっ!)

先程よりも厚いシールドを張る。確かに徹ってくるが、先程よりもダメージは少ない。どうやらある程度のシールドを徹す魔法か技術を使うらしい。
相手は振りかぶり、さらに攻撃。

(ふんっ!)

ならば、とさらにシールドを厚く張り、相手の攻撃を堪える。見ればシグナムとヴィータも誘導弾が減っており、こちらにも向かえそうだ。或いは、もう一人の方に行って欲しい。
しかし!

(ぐはっ!)

そのシールドが完全に徹された。
御神流奥義之肆“雷徹”。今のユーノの攻撃はそれである。余り多用はできないものだが。

(く……そ……)

そして、ザフィーラも意識を失った。





シグナムは現在の状況に内心、かなり複雑である。
悔しさや仲間をやられた怒り、主の前で良い所を見せられない情けなさから、素直に相手を讃える気持ちや思わぬ強敵を見つけた喜び等々。
そして今、ザフィーラもやられた。

(とは言えこの状況は不利だと言わざるを得んな……)

幸い、相手までは距離がある。今の敵は誘導弾だけ。ならば……

「レヴァンテイン・カードリッジロード」
「グラーフアイゼン・カードリッジロード」

カートリッジをロード。短期決戦で仕留めるしかない。
ヴィータもやはり同じ考えか、同時にカードリッジを使う。


自分とヴィータの前にユーノが立ち塞がる。
そして、ユーノの速度が今までより明らかに上がる、今まで防戦中心だったスタイルが攻勢に変化する。

(何!?)

一瞬動揺したが、すぐに戻る。最後のラウンドが始まった。



明らかに今までより速いスピード。それもスピードが速いだけでなく、全ての動作が速い。
単純な得物や腕、足の動きからこちらの攻撃に対する反応、そして、恐らく思考速度まで。
だが同時に思う。相手のスピードは確かに速い。だが一人。ヴィータと二人ならばなんとかなる。
そして、ついに捕らえた。

「紫電一閃!」

それは相手にまともに入り、カードリッジで増した威力はシールドごと相手を斬り、吹き飛ばす。ヴィータが追撃に入る。
しかしここまで来てシグナムは違和感を感じた。

(……!)

気が付く。誘導弾が一切無い。シャマルとザフィーラが墜ちたというのに妙に戦いやすかったのはそれか!相手の速度が上がったのに気を取られ過ぎていた!
残った一人に意識を向ける。

(!!!)

とんでもない魔力砲がチャージされている。さらにヴィータが設置してあった罠に捕まる。どうやらあれは吹き飛ばされたふりをして設置していたようだ。
しかもその罠、今までと違って隠蔽式だ。つまり、今までの動きを制限するためのそれ違い、罠に嵌める為の物。ここ一番で出すとはいやらしい。
……そこに意識を向けていたのがまずかった。自分にも翡翠色のバインドが絡まる。

「くっ!」

抜け出せない。とんでもない強度だ。シャマルが無事ならば或いは何とかなったかもしれないが。
そうこうしている内にユーノがなのはの傍に転移する。

そして……

「スターライトブレイカーーー!!!」

砲撃が放たれる。それは自分とヴィータを巻き込み、シグナムはそのまま意識を失った。







「戦闘終了、だな」
「……」

戦闘が終わり、クロノが呟く。万一の流れ弾を防ぐためにはやては傍にいる。呆然としているが。

「な、なあクロノ君!」

我に返ったはやてがクロノに問いかける。

「何だ?」
「いや、魔法使いの戦いってあんなにすごいん!?」

はやてはびっくりしたように問う。クロノは冷静に答える。

「まさか。あんなのはそうないさ。互いの技量から何からが高かったからな。ここまでの物はそうない」

はやては納得したようになる。

「あー。うん。そうやよね。なんだか安心した。……それにしてもなのはちゃんが、あんなごん太ビームを出せるとは思わなかったわ」
「……僕も、あんなものまで出せるとは思わなかった……」

思わずクロノも呟く。

「さて、彼女たちを回収しないとな」
「よろしくお願いします」

そしてクロノがヴォルケンリッターの回収に行く。こうして模擬戦は終わったのだった。



[23718] 第十七話 ドレッドダンジョン
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 21:59
無限書庫・危険区域。ここに、複数の人影があった。

「ここが、か……」
「はい。正確にはこの先から、です。無重力区域でもなく、上空には強力なAMFが展開されています。飛行魔法でさえ碌に発動できません。注意してください」
「分かった」

いわずもなが、ヴォルケンリッターとユーノ、なのはである。

「それにしても、ここは雰囲気が全然違うわね……。今までは確かに凄い大きさだけど書庫だったのに」

シャマルがそう言う。

「ええ。元々はこの近くも書庫の様だったらしいですけど、危険区域なので移動できるものは移動させたそうです」
「へえ?そうなの?」
「はい」

そしてユーノが皆に確認。

「では改めて方針を確認します。先ずここはかなりの広さです。以前壊滅した部隊が持ち帰った情報によると、迷宮のようになっていたようです。
 一日二日で攻略はできません。グレアムさんより貰ったこの特殊なアイテムを目印にすれば転移魔法も使えます。よってありがたいことに毎日家で休息がとれます」
「うむ。それは大変ありがたいことだ」

ザフィーラが頷く。自分たちが留守の間は高町家の人たちにお願いをしているが、やはり毎日主に出来ることならば会いたい。

「それでは気を付けていきましょう!」
「うん!」
「ああ!」
「おう!」
「うむ!」
「はい!」

そして、彼らはそこに足を踏み入れた―――。








八神家。本日の探索はここまでとして全員帰ってきた。
そしてその夕食時。(ちなみになのはとユーノは高町家に帰った。ユーノは高町家に寝泊まり。一悶着あったけど今回は客間)

「なあなあ、一体どんな感じだったん?」

はやてが興味津々に訊く。

「……」
「……」
「……」
「……」

全員やや渋い顔。

「あれ……。もしかして聞いたらまずいん?」
「そんなことはありません。しかし予想以上でして」

シグナムが苦笑いしながら答える。

「予想以上って……なんか凶暴なモンスターでもいたとか?」

はやてが疑問符を浮かべる。正確にはモンスターでなく、警備のロボットの様なものだが同じような物だろう。

「いえ……確かに強いモンスターもいたのですが、それよりも……」
「何なんだよ!あの罠の多さは!例の部隊が壊滅したのって、モンスターにやられたんじゃなくて罠にやられたに違いねーよ!」
「シーフというか、スカウトというか、エクスプローラーというか……。とにかく、そういった存在のありがたさがよく分かりました……」

順にシグナム、ヴィータ、シャマル。皆疲れたような顔をしている。

「だがなヴィータ。俺に漢探知だ、行け!などと言うのはどうかと思うぞ」

ちなみに漢探知というのは罠に関する専門職がいないとき、HPや防御力に優れる前衛が罠に引っかかるのを覚悟で突っ込んでいくことを言う。

「う、うるせーよ!…………ごめん」

小さく謝るヴィータ。それを聞きザフィーラは頷いている。

「はー。そんなだったんや……。で、どうしたん?まさか本当にザフィーラに漢探知させたわけじゃないやろ?」

はやてが疑問を投げかける。シグナムが答える。

「はい。ありがたいことにスクライアは元々遺跡発掘等を手掛けている人間らしく、罠の探知や必要ならば解除を引き受けてくれました。
 しかし、我々は素人なので……。ちょっとした不注意で罠を発動させてしまったりがありまして」
「なるほどー」

頷くはやて。

「ですが、早急にそういった言い訳を無くします。並行してスクライアからその手の技術も学びます。魔法で探知しようにも中には魔力に反応するものもありまして……」
「あー、あれか……あれはな……」

ヴィータが再び渋い顔。はやては訊ねる。

「どんなんだったん?」
「長い通路でな、ユーノに頼ってばっかりじゃあれだからってシャマルが探知したんだよ。で、それに反応してデスローラーが起動した」

デスローラーとは……まあ狭い通路とかで前や後ろからでかいローラーが轢きに来る罠だと思ってくれれば結構。

「ふんふん」
「しかも連動して大量に魔導砲台が出現。一発一発の威力はなのはの誘導弾くらい。結構痛い」
「うわぁ……」

はやては微妙な顔。

「ぶっ壊そうにも大分固いし……。後ろに戻りながら攻撃してようやく壊せた頃にはかなり戻っちゃって。で、今日はそこで終了したんだ」
「あはは……」

はやては苦笑い。そして宣言する。

「よし!みんなが私の為に頑張ってんのや!私はせめておいしいご飯を作るからな」

それにヴォルケンリッターは……

「いいえ。これは主、貴女の為だけではありません。我々が貴女を助けたいからやっているのです。それはそれとして、リクエストを受け付けてくれるのならば揚げ出し豆腐を」
「そーそー。あたしたちがやりたいからやっているんだよ。あたし花丸ハンバーグ」
「その通りです。主、貴女が気に病むことなど何一つありません。……鰹の叩きを」
「そうよ、はやてちゃん。はやてちゃんは待っていてくれればいいの。私は納豆ととろろとおくらとイカ刺しの爆弾が……」

全員、気にするなと答える。ついでにリクエストも出す。

「……ありがとう、みんな。……流石に一度に全部は無理やから順番にな」

はやては嬉しそうに笑い、皆に礼を言う。そのまま和やかに夕飯は進んでいった。






次の日。

「今日は昨日に比べて楽ね」
「そうですね。でも油断していると……」
「(ズボッ)」

丁度人一人分くらいの穴に腰まで嵌るシャマル。

「……お約束だな、シャマル」
「すいません、気が付きませんでした。シャマルさん、無事ですか」
「大丈夫。でもぴったり嵌っちゃって……」
「太ったんじゃねーのシャマル」
「そんな訳ありません!ちょっと手を貸してー」
「仕方無い、ほら」
「うう、ありがとうザフィーラ」

その間に罠の検分をするユーノ。

「……成程」
「どうしたの?」
「いや、どうもこの罠、嵌った人間に合わせて大きさを変えるみたい」
「……何でそんな罠?」
「……さあ?この後に何かあるかもしれないし……」
「いずれにしろ、気を付けて行くべきだということだな」
「そうですね」

そう言って進む一同。しかし、特に何もなかった。

「結局、あれは何だったのかしら」
「んー。連動する罠がすでに発動していたか壊れていたのかもしれませんね」






さらに次の日。

「えっと……この部屋、だよな」
「多分。さっきの扉に書いてあったことが確かならこの部屋のどこかに鍵があるはず」

そして罠に気を付けながら部屋に入る一同。
部屋の中には、頭がネコで、からだがニワトリの異様なけだものの彫像がある。
彫像はブロンズで、台座はオニキスでできている。飾り台の上には不自然な傷痕がある。

「キモっ!」

思わず呟くヴィータ。

「うわぁ……」
「これはちょっと……」
「……」

ちょっと引いている女性陣。気にせず調べるユーノ。

「あ。あった」

そして青銅製の鍵を手に入れて先に進む一行だった。





さらにさらに次の日。

「しかし……こう何度も回転すると方向感覚が狂うな」
「全くだ。しかも微妙な高さの落とし穴もたくさんあるし」

一面に回転床と落とし穴が敷き詰められた、中央でも反対側の壁が見えないほどの大部屋。さらにこの部屋では飛行魔法が使えない。その部屋に一同は苦戦していた。

「チクショウ、飛行魔法が使えりゃこんなの一発なのに……」
「……言うな」

結局一日だけではその部屋を攻略できず、次の日まで持ち越されるのだった。





もう少し後の日。

とある部屋。

「ウサギだ!」
「可愛い!」

兎の群れがいる。思わず近寄ろうとするヴィータとなのは。
しかし

「駄目!」

ユーノがバインドを使って無理矢理二人を止める。

「ユーノ!てめえ……!?」

文句を言おうとしたヴィータの目の前を極めて鋭い一撃が通り過ぎる。そのまま進んでいたら丁度首があったあたりだ。

「……」
「……」
「なのは!連中は耐久力はあまりないから一気に魔法で!」
「う、うん分かった!」

そして放たれた砲撃で壊滅する兎達。

「……世の中には恐ろしい兎がいるのね」
「全くだ」

思わず呟くシャマルとザフィーラだった。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





そんなこんなで攻略を進めた一行。苦節一月、遂にそこまで来た。

「これですね」
「漸く、見つかったか……」

感無量と言った感じの一同。

「でもなんていうか地味だな。もっと、こうダンジョンの最深部で宝箱に入っている!みたいなのを想像していたのに」

ヴィータがぼやく。事実、ここはただの部屋。あるのは本棚と椅子、机。例の物は本棚に入っていただけである。

「そんなもんだよ。クライマックスでみょうちくりんなボスが出てくるとかよりはいいでしょ」
「まあそうなんだけど……。こう、今までのイライラをぶつける相手がいないというかなんというか……」

そんなことを言っているヴィータ。ユーノは苦笑する。

「とにかく!主は助かるのだな」
「恐らくは。まず資料を検分しましょう」
「ん?持って帰ればよいではないか?」

シグナムの疑問にああ、とユーノは答える。

「そういえばその説明はしていませんでしたね。無限書庫にある本棚に一回収められたものは、それが書籍だろうがなんだろうが無限書庫の外には出すことができないんです。
 そのようなこともあって、この世界自体がロストロギアなんじゃないかとも言われているのですけどね」
「ほう、そうなのか。……分かってはいたが、面倒な所だな」
「あはは……」

確かに面倒だ。おかげで前回もそのまま書籍で渡すのではなく、資料に纏め直さねばならないことが多々有った。

「とにかく検分しましょう」
「ああ。それじゃあシャマルにスクライア、頼む」
「はい」
「了解よ」

とりあえずこういうこと向きな二人が検分を始めるのであった。






暫く後。

「ふう……」
「ふう……」

二人の検分が終わったようだ。

「……どうだった?」

シグナムが代表して問いかける。

「ええ。多分、大丈夫。……忘れていたけれど最初の闇の書、いや夜天の書はこうだったのね……」

答えるシャマル。感慨深そうに呟く。

「そうか、大丈夫そうか……」

皆も安堵の域を吐く。

「それに興味深いことも書いてあったわよ。……私達のオリジナルの話とか」
「へぇ?……まあ興味があるけどそれよりもさっさと直そうぜ」

ヴィータが言う。

「じゃあ一回帰って書を持って来よう。……良いかな」

ユーノが言う。皆が頷く。そして転移魔法を起動させ、帰って行った。






更に暫く後。

「はー、こんな場所なんや……。なんて言うか、地味やな。ただの部屋や」

皆、先程の部屋に戻ってきた。書を持ったはやてもいる。

「ですが外は危険ですので……。まあ終わったら無限書庫の安全な区域でも見て帰りましょうか。驚かれますよ」
「ホンマ!?いやー、楽しみや。無重力って話やし」

シグナムの提案に同意するはやて。ユーノが話しかける。

「それじゃあはやて。始めてもいいかな?」
「あ、うん。お願いします」

そう言ってユーノに書を渡すはやて。ユーノはシャマルに話しかける。

「それでは始めます」
「……」
「……」
「……」
「……」

ヴォルケンリッター達は皆真剣な表情。それに気が付いたはやてが皆に聞く。

「どうしたん?皆」
「いえ、ただ一旦我々は消えますので……」
「は?何で?」

はやては驚いたような声。

「この作業の最初は一回書の機能を全て停止させることです。その全ての中には我々も含まれておりますので……」

シグナムがやや申し訳なさそうに言う。

「……大丈夫なんやな?」
「はい。終わればそのままの我々が戻りますので」

安心させるように笑いながらシグナムは言う。その表情を見てはやても納得したようだ。

「ユーノ君……改めてお願いな」
「うん。任せて。……では、始めます!」

ユーノが宣言する。皆が頷く。それを確認するとユーノは作業を始める。同時にヴォルケンリッターが消え、はやての足に感覚が戻る。
作業が始まったのであった。






あれからかなりの時間が経った。

「……」
「……」

最初の方ははやてはなのはと話していたのだが、今は無言。

「……」
「……」

本当はユーノに今はどうなっているのか、順調か、あとどのくらいか訊きたいが邪魔をするわけにはいかないと黙っている。(ちなみになのははその横で夏休みの宿題をやっている)

「……ふう」
「ユーノ君?」

ユーノが息をつく。はやてが訊ねる。

「うん、出来た。じゃあ、再起動するね」

そう言って再起動させるユーノ。
そして周囲に光とともに再び現れる人影。

「みんな……」
「只今戻りました、主」

ヴォルケンリッターを代表してシグナムが答える。

「調子はどうですか?」

ユーノが訊ねる。

「ええ。能力的には変わったところは無いけれど……なんだか頭の中がすっきりしたような感じね」
「だな」
「うむ」

シャマルが答え、ヴィータとザフィーラが短く肯定する。
それを聞いて頷くユーノ。そしてはやてに話しかける。

「それじゃ、はやて。最後にやって欲しいことがあるんだけど……」
「?これで終わりやないの?」

はやてが訊き返す。

「うん。はやての権限を使って管制人格にアクセスしてほしい」
「管制人格?」

はやては疑問符を浮かべている。それにシグナムが思い出したことを答える。

「夜天の書の……ある意味その物の人格の様なものです。闇の書だった時とは違って主ならアクセスが可能なはずですね」
「へー。そんなのもおったんや。……私らの最後の家族やな」
「そうだな!」
「……」

はやては嬉しそう。ヴィータも嬉しそうに肯定する。ただユーノはやや渋い顔。周りがはやてに注意して気が付いて居なかったが、なのはは気が付いた。

「ユーノ君?」
「……なんでもない。はやて、方法は分かる?」
「うーん。流石にちょっとわからんなぁ」

大丈夫だと言ってはやてに先を促す。

「ん。じゃあここに書いてある方法を言うから。ゆっくりとでいいから。分からないことがあったら遠慮なく言ってね」
「分かった」

そしてそのままゆっくりと作業を進める。


そして―――――。

『主よりのアクセスを確認。管制人格、現出します』

そのような声が夜天の書より響く。同時に光が集まり、銀髪の女性が現れた。

「主、お初にお目にかかります。私が夜天の書の管制人格です」

そう言って女性は頭を下げる。

「うん。初めまして、や。私の名前は八神はやて。良かったら名前を聞かせてや」
「はい。……名前、ですか。申し訳ありませんが私に名はありません」
「そうなん?」

驚くはやて。思わずヴォルケンリッター達の方を向く。ヴォルケンリッターは肯定するように頷いた。

「はい。確かに管制人格に名前はありません。……主、良かったら名をやってくれませんか」

シグナムが提案する。

「せやな。ええかな?」
「はい。頂けるのならば喜んで」

はやての言葉に穏やかな顔で答える管制人格。

「うーん……。なら……。……リインフォース。夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る。
 強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール――――――――――――『リインフォース』」

その名を送る。

「…………はい。私などには勿体ない、美しい名前です。その名と主に恥じぬ様、お仕えいたします」

そして、リインフォースは嬉しそうに微笑み、その名を受け取った。



リインフォースはヴォルケンリッター達の方を向く。

「お前たちもすまなかった。今まであんな状態になっていたのに、私にはどうすることもできなかった」

謝罪と共に頭を下げる。

「気にするな。私達も気が付いていなかったのだから」
「その通りよ」
「ああ。お前が気に病むことは無い」
「っていうか、お前は気が付いていたのか……」
「……ああ」

ヴィータの言葉に暗い顔で頷く。

「そっか……。お前は、今まで一人で……。ごめんな」

その言葉に少し驚いたようになる。

「ああ。だが、今回でそれも終わりだ」

そしてユーノとなのはの方を向く。

「ありがとう。お前たちも、本当に感謝してもしきれない」
「そんなことは無いですよ」
「…………」

照れたように答えるなのは。だがユーノは相も変わらず渋い顔。不審に思ったはやてが訊ねる。

「ユーノ君?」
「……はやて。僕が呼んだのはね、はやてに彼女を会わせるだけではないんだ。……リインフォースさん」
「……何だ?」

そのままリインフォースに尋ねるユーノ。彼女は厳しい顔で答える。

「……正直に答えてください。後、どのくらい持ちそうなんですか?」
「…………」

リインフォースは無言。はやては焦ったように問う。

「何や!?どういう意味や!?」
「……。例のプログラムが劣化していたのか、それとも予想以上の改造だったのかは分からない。
 取り除ける範囲は取り除けたが、バグは完全に取り除けなかった。その部分は管制人格と密接に関わっていた。――そう、彼女が消えれば問題ないくらいね」

ユーノとリインフォース以外は皆息を飲む。

「無論、それを取り除かなければ再び主を巻き込んで暴走する。大分治っているから主以外の被害は出さないだろうけれど。
 ……リインフォースさん、もう一度訊きます。後、どれくらい持ちそうなんですか?」
「……保って二月」

その言葉に愕然とする皆。特にはやては慌てている。

「何でや!?何でなんや!?これから家族になろうって時に、何で!何で!?
 リインは今まで頑張ってきたんやろ!?何でこんなことにならあかんのや!!!」

その叫びに周りは悲痛な顔。

「主、心配しないでください。例え私は消えても「まあ一応なんとかする手段はあるんだけど」」

リインフォースの声をユーノが遮る。

「へ?」

思わず問い返すはやて。周りも呆然とした顔。そのままユーノは続ける。

「じゃなければこんな中途半端な状態で終わりにしないよ。……一応、どれくらい保つか分からなかったから多少は賭けだったんだけど。もし後数時間ですとかだったら無理だった」

そう言って笑うユーノ。呆然としたまま問いかけるリインフォース。

「手段が、あるのか……?」
「うん。一応ね。……ただ、はやて達と共に家で暮らすということはできそうにないけど」
「何でもええ!離れたって生きていれば会える!教えてやユーノ君!」

はやてがそう言う。ユーノが答える。

「うん。その為にははやての協力が必要不可欠だ。主権限が必要なところが多々あるから」
「分かった!」

勢いよく返事をするはやて。

「うん。やることだけを説明をしておくね。
 1・守護騎士プログラムを夜天の書より引き離す
 2・転生プログラムに手を加える 
 3・そしてはやてから引き離し、夜天の書を転生させる     簡単に言うとこんな感じ」

しかし周りはいまいち分かっていない様子。

「まあ詳しく説明すると……。そのバグはね、一回転生させれば何とかなるんだよ。……リインフォースさんも気が付いているんでしょう?」
「……ああ。だが主から家族を奪うわけにはいけない」
「……ありがとうリインフォース。でもリインフォースも家族やからな」

ありがとうございます、と答えているリインフォースを見ながらユーノは続ける。

「だから転生させる。守護騎士プログラムを引き離す方法は……その時に説明する。
 そして夜天の書の転生プログラムに手を加える。具体的には、主を決めてから転生するのではなく転生してから主を決めるように。 
 それともう一つ。何処に転生するか」
「……そこまで決められるようになるのか……」

驚いたように言うリィンフォース。

「ええ。ただし、そこ以外は無理だけど」
「何処や?」
「此処。無限書庫」

一同は無言。

「無限書庫を利用する。ここではやてから引き離せば、書庫が書を無理やり引き寄せてここに転生するから」
「……凄ぇな、無限書庫」

ヴィータが呟く。

「ただ、その関係ではやてと再契約しても書庫に収まった本だから外に出ることができない。つまり、リインさんは書庫から出ることができない」
「「「「「「……」」」」」」

皆、無言。だがはやてが口を開く

「……リイン」
「……はい」
「……私は、それでもリインに生きていて欲しい。生きてさえいれば、会える。私の我儘かもしれないけれど、もう、家族を失いたくないんや」
「はい!」

リインフォースは力強く頷く。そしてユーノの方を向く。

「ユーノ=スクライア」
「はい」

頭を下げる。

「本当に、ありがとう。私はお前に感謝してもしきれない」
「感謝は全て終わった後で」

本気で感謝されている。ユーノは少し罪悪感があった。
確かに分かっている限りこれしか方法は無い。しかし、一方でとある打算があってそれ以外の方法を捜すことを提案しなかった。
……彼女に無限書庫の開拓を手伝ってもらう。あわよくば、無限書庫を任せる。
そのような考えが。勿論、今回は彼女を救いたいという思いも大きいが。

「それでも、だ。私は――私達はお前達のおかげで救われた、救われる。だから、だ」

そう言って俯くリインフォース。彼女の顔から水滴が零れ落ちた。
はやてが手を伸ばし、その顔を拭う。その様子を周囲は見守るのだった。



[23718] 第十八話 エピローグA's それぞれのこれから
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/12/24 23:26
あれから数ヶ月が経った。
夜天の書は無事に転生を果たし、八神はやてが再びマスターとなった。
管制人格・リインフォースは周りの司書に勧められ、無限書庫の司書となった。
八神はやての足は順調にリハビリを重ね、学校に行き始めた。無論、聖祥大付属小学校である。見事になのは達と同じクラスになった。
フェイト=テスタロッサ達の裁判も無事終わり、フェイトは無罪、プレシアは身体が回復した後、勤労奉仕となった。
そんなある日。地球では十二月二十四日。クリスマスイヴの話である。







八神家。本日行われるパーティーの準備をはやてとなのはが中心になって行っている。

「そっか……。やっぱり士郎さんと桃子さんはこれへんか……」
「今日もすごく忙しいし、明日の仕込みもあるからね……」

二人が会話をしている。そのことを聞いてはやては残念そう。

「でもユーノ君とフェイトちゃんは来れるんやな?」
「うん!後アルフさんとクロノ君も。楽しみだって言ってたよ」
「そっか……。でもなのはちゃんは明日のユーノ君とのデートが一番楽しみなんやろ?」

からかうように訊ねるはやて。

「えへへ。分かる?」
「……知り合いで分からん奴はいないと思う」

照れたように言うなのは。ぼやくはやて。

「だけどフェイトちゃんに実際に会うのは初めてやなー。今までリインに会いに何度か向こうに行ったけど会わなかったし」
「まあフェイトちゃんも色々大変だったからね……。私も会ってないなぁ。ユーノ君は裁判の関係で何回か会ったみたいだけど」
「ふーん。……フェイトちゃんがちょっと羨ましいんとちゃう?」

ここの所通信以外でユーノとは全く会っていない。そんな状態を知っているためはやてはなのはに尋ねる。

「まあ勿論羨ましいけど……。大丈夫だよ。嘱託になるし、そうしたらもう少し会いやすくなるからね」

次元を隔てた恋は難しいものである。

「んー。でも心配じゃないの?浮気とか」

からかうように言うはやて。なのはは苦笑して答える。

「大丈夫。絶対ユーノ君はそんなことしないよ」
「おおー。信じとるなぁ。……でもほら、相手が強引に迫ってきたりとか」

その言葉に、んー、と考えるなのは。

「そんなことになってもユーノ君なら大丈夫だと思うけど。まあそんなことになったら……」
「なったら?」
「どうなると思う?私はそれに関しては目には目を、歯には歯を何て温いことは言う気は無いからね」

そう言って笑うなのは。
ちなみに目には目を、歯には歯をとは本来報復のやり過ぎを戒める言葉である。
そういえば笑顔って元々相手を威嚇するための物なんだっけ。はやては微妙に背中が寒くなった。

「さ、続きやろう?あとそろそろ誰かにケーキ取りに行って貰わないと」
「……うん。ヴィータにでも頼もうか……」

割と恐怖を感じたはやてはそのまま流されるのであった。






それから準備は滞り無く進んでいった。
シャマルがダークマターを作り出そうとしたり、ヴィータがケーキを味見しようとして見つかってはやてに怒られたりしたが。
アリサとすずかも到着し、残りの人間を待つだけになった。そして彼らも到着する。

「お、チャイムや」
「着いたみたいね」
「私、迎えに行く!」

宣言するや否や矢の様に飛び出すなのは。

入口につき、扉を開ける。

「メリークリスマース」
「メリークリスマス、なのは」
「えっと、メリークリスマス」

ユーノとフェイト、その後ろにアルフとクロノがいる。
とりあえずなのははユーノに抱き着く。抱ずりする。

「えへ~。ユーノ君分補給~」

その様子にユーノとフェイトは苦笑している。

「あはは……」
「相変わらず仲がいいね……」
「寒いから上がらせてもらえると嬉しいんだが」

クロノも苦笑しながら言う。

「あ、ごめんね」

素直に謝って家に上げるなのは。そして……

「じゃ、改めてユーノ君分補給~」

もう一度ユーノに抱き着く。抱ずりする。他の四人はやっぱり苦笑していた。






リビングに戻る。

「お帰りー。そしていらっしゃい。ちょっと遅かったけど何してたん?」

はやてが訊ねる。フェイトが答える。

「なのはがユーノ分を補給って言って抱き着いていたんだよ」
「あー……。相変わらずやなあ……」

はやても苦笑気味。

「んじゃ改めていらっしゃい。一応ビデオレターで顔は何度か会わせているけど、改めて自己紹介からといこか」
「そうね。そうしましょうか」

そして地球組とミッド組が互いに自己紹介をする。同時にパーティーが始まった。





「うーん!この鳥凄く美味いねえ……」
「ありがとな、アルフさん。なのはちゃんと二人、苦労した甲斐があったわ」



「あら……。このじゃがいもの団子?みたいなの美味しいわね」
「あ、アリサ。それね、母さんが持っていきなさいって持たせてくれたんだ」
「そうなんだ……。中に入っているのはプラムかな?シナモンシュガーが面白いね。デザートみたい」
「すずか、それね、バターソースとかでも美味しいんだって言ってたよ」
「そうなんだ」



「お!プレゼント交換でうさぎのぬいぐるみが当たったぜ!誰のかな?」
「ああ。僕だな」
「へ?クロノ?」
「ああ。エイミィに相談して一緒に探しに行ったら女性が多いからこれにしておけば、と言われてな。ついでにエイミィにも買わされた」
「あー……。そうなんだ……」



「はい、ユーノ君。ケーキだよ。あーん」
「うん。……美味しいね」
「うん!お母さんが来れないからケーキ位は、ってとても気合を入れていたやつだからね」
「そうなんだ。はい、なのはもあーん」
「えへ~」
「相変わらずだね、二人は」
「……フェイト、なんだか全然問題なさそうね……」
「へ?恋人ってあれが普通なんじゃないの?」
「「「無い無い」」」
「……そうなんだ」





そんな感じでパーティーは進んでいき、アリサとすずかが帰る時間となった。

「今日はありがとう。楽しかったわよ」
「ありがとう。楽しかったよ。フェイトちゃん達もまた会おうね」
「うん。アリサとすずかもまたね」
「またね、二人とも」
「またなー」

挨拶をして去っていく二人。リビングは一段落した雰囲気になった。



「でな、明日リインに持って行くケーキは私の手作りのケーキなんや」
「へえ。そうなんだ」
「うん。桃子さんからあまり難しくないやつのレシピを教えてもらったんよ」
「まあ難しいやつだと聞いたことが無い材料とか普通にあるからね……。桃子さん、プロだし」

そんな感じでまったり雑談している。
暫くそれは続いていたが、ふとなのはが訊いた。

「ねえ皆。これからどうするの?」
「これから……?私は今日ははやての家に泊まらせて貰うつもりだけど」
「あー。そうじゃなくって。こう、来年以降どうするつもりなのかなって……」
「あ、成程」

ちょっと上手く伝わらなかったが、もう少し聞いて納得しているフェイト。

「僕は特に変わらないな。来年も執務官業に忙しい」

と、クロノ。

「クロノ君はそうだよね。それで、エイミィさんとはどうなの?」
「エイミィさんって?」

なのはの言葉にはやてが訊く。

「クロノ君の恋人」
「ええーーー!!!クロノ君も恋人いたん!?」
「違う!彼女とはそういう関係じゃ無い!!!」

なのはの言葉にえらい勢いで食いつくはやて。それを否定するクロノ。

「クロノ。素直になったほうが良いよ」
「ユーノまで……。彼女とは本当にそういう関係では無い!」
「でもよ、クリスマスプレゼントの相談をしたら一緒に買いに行ったんだろ?ついでにプレゼントしたんだろ?デートじゃねえの、普通に」
「ほほう」

ヴィータの言葉にはやての目が光った……気がした。

「まあ詳しい話を聞かせてもらおか」
「だからそういう関係ではない!ええい!この話は終わりだ終わり!」
「ええーーー!ええやんええやん!横暴だー」

ぶーぶーと口を尖らせているはやて。なのはが助け舟を出した。

「まあまあはやてちゃん」
「なんや?」
「後何年かしたら結婚すると思うから、その時にこの時の話を出して思い切りからかってやればいいと思うよ」

いい笑顔でそんな事を提案するなのは。

「ほほう……。それ位の仲か。つまりクロノ君はツンデレなんやな。分かっとったけど」

同じくいい笑顔で納得するはやて。クロノは頭痛を抑える様な仕草をしていた。

「あはは……。なんだかクロノは大変そうだし、次は私が話をするね」
「どうぞ」

フェイトがそう提案する。はやてが促す。ついでにクロノは助かった、というような顔。

「私はね、管理局に入るつもり」
「へえ……そうなんだ。何処に入るつもり?フェイトちゃんくらいの実力だったらかなり自由に選べるでしょ?」

フェイトは管理局に入るつもりらしい。何処に入るのかを訊く。

「うん。地上にするよ。母さんがクラナガンの病院に入院しているから、地上だったら割と定期的に休みがとれるらしいし、会いに行き易いし。
 だから勤務地はクラナガンの何処かが良いかなって思う。クロノ達からはアースラに来ないかって誘われたんだけど」

フェイトは少し申し訳なさそうな顔。クロノは気にするなと言う。

「うん。ありがとう。でもその前に陸士学校に通うんだ。確かに実力的には問題無いかもしれないけど、それ以外の部分で学ぶことが結構あるだろうってユーノとクロノが勧めてくれたから。
 魔導師ランクのおかげで入学金から授業費からタダになったし、戦闘関連のカリキュラムがかなり免除されるから一年位で卒業できるみたいだしね」

フェイトはそう決めたらしい。なのははふんふんと頷いている。

「じゃ、次は僕かな」

続いてユーノが話し始める。

「まず、もう暫く無限書庫の司書をするつもり」
「ああ。お前とリインフォースは凄いらしいな。このままならば無限書庫が利用できる状態まで持って行けるかもしれないと噂されているぞ」

クロノがそう言う。ユーノはリインフォースと共に無限書庫を活用できる状態に持って行くべく奮戦している。
リインフォースは予想通り、予想以上に優秀だった。元々夜天の書という、蒐集した膨大な数の魔法のデータベースともいえる書。その管制人格だった彼女だ。
特に検索は非常に得意だった。だからユーノはあることができる。
フェイトが地上に行くからそこを埋める、等という単純なことではないが、執務官ならば色々と動きやすいだろう。
もう少し色々と出来る様になればこんな単純な方法を取らずとも何とかなるかもしれないが、あいにくまだ全然足りない。

「うん。だけどね、目途が立ったら僕は別の事をやりやいんだ」
「ほう?お前の天職だと思ったんだが。まあ他にやりたいことがあるのなら、そっちのほうが良いかもな。……で何をやりたいんだ?」

クロノが訊いてくる。

「うん。執務官」
「……執務官?」

クロノがおうむ返しに聞き返す。

「うん。……変かな?」
「ふむ……。いや、優秀な執務官が増えるのは喜ばしいことだ。お前なら実力的にも問題無いし、筆記や素行も多分大丈夫だろう。……もしかしたら一発で合格できるかもな」

クロノは納得する。

「じゃ、次は私やな。と、言ってもただ学校に行くでー、ってそれだけなんやけど」

はやてが話し始める。

「はやてちゃんはそうだよね。管理局はどうするの」

なのはが訊ねる。

「んー。別に気にしてなかったんやけどな……。なのはちゃんの話を聞いていたら嘱託をするのもいいかなって」
「私の話?」

なのはは疑問符を浮かべる。

「ほら、嘱託になったらユーノ君に会いに行き易いとかなんとか。私も嘱託になったらリインに会いに行き易いかなー、って思て」

なのはは納得顔。

「まあまだ考えている段階やねんけどな」

そう言ってはやての話は終わる。

「次は私達だな。私達も管理局で働くつもりだ」
「そうなんですか?」

シグナムがヴォルケンリッターを代表して言う。なのはが訊き返す。

「ああ。……無限書庫で懸命に働くリインフォースの姿を見ていたらな、こう、なんというか、自分達の現状にな……思うところが……」
「はは……」

苦い顔で言うシグナム。なのはは苦笑。

「とは言っても主を一人にするなどは論外だ。よって基本的には私とヴィータ、嘱託でシャマル。ザフィーラは基本的に主の傍に。主が嘱託になるのならば、その時は一緒にだ。
 さらにグレアム殿に協力してもらい、転送ポートを付けて出来る限り家に帰りやすくしようと思う」
「へー……」

ヴォルケンリッター達はそのような感じらしい。

「えっとじゃあ最後に私だね」

なのはが切り出す。

「私は嘱託として働いて、通信講座みたいなので勉強して、今度の夏休み辺りに短期集中プログラムを受けて、教導隊に入ろうと思う」
「教導隊?」

はやてが疑問符を浮かべている。

「隊員が百名ほどの部隊だ。但しそれぞれが一騎当千。エース揃いの部隊。……成程、確かに君ならなれるだろうな」

クロノがそれを説明する。

「へー……。そんな部隊もあるんやね」
「でもそんなことよりももっと重要かつ大事な目標はあるけど」
「?何?」

なのはの言葉にフェイトが訊ねる。

「ユーノ君のお嫁さん!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

ユーノ以外は呆れたような、或いはまたいつものかという顔。

「ね、ユーノ君!結婚しようね!」
「うん。結婚しよう、なのは」

なのはがそうユーノに言う。ユーノは穏やかに微笑み、それに同意する。
そのままいちゃつき始める二人だった。









その夜、高町家。ユーノが泊まっている客間になのはがやってきた。

「なのは?どうしたの?」
「うん。……今日くらいは一緒に寝たいな、って……」

一応、基本的にはユーノが客間で寝ている時は共に寝ていない。

「……そうだね。今日はクリスマスイヴだしね」
「うん!」

そう嬉しそうに言ってユーノの布団に潜りこむなのは。

「うーん。いい匂いー。ユーノ君の匂いー」
「はは……」

ユーノの布団に顔を埋め、そんなことを言うなのは。今日から使うものだから大して匂いなど無いはずだが。ユーノは苦笑気味。

「ね、ユーノ君」
「何、なのは」

なのはがユーノに話しかける。答えるユーノ。

「んー。何でもないよー。呼んでみたかったの」
「そっか」

なのはの返答に、やはりユーノは苦笑気味。

「じゃ、寝ようか。明日はデートだからしっかり休んでおこうね」
「うん!ねえ、ユーノ君」

再び話しかけるなのは。

「?何?」
「――私ね、今、凄く幸せ」
「――うん。僕も」

なのはの言葉に同意するユーノ。そのまま二人は眠りに入る。

「お休みなさい、ユーノ君……」
「お休み、なのは……」

今夜は、良い夢が見れそうだ。



[23718] 第十九話 新暦66・67年
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 22:02
あれから一年位の月日が経ったある日の事。私立聖祥大付属小学校屋上。

「なのは、なんで髪型変えたのよ?」

昼休み。なのは、はやて、アリサ、すずかの四人が弁当を食べながら会話に花を咲かせていた。

「うーん。……気分、かな?ユーノ君も可愛いって褒めてくれたし!」
「ああ、そうなんや……」

最近、基本的な髪型をサイドポニー(小)に変えたなのはにアリサが質問。その答えに周りは御馳走様、という表情。
なのはにとっては昔に戻しただけなのだが。……ちなみにBJのデザインも昔(或いは未来)の物のサイズを変更しただけである。当然、BJ時も髪型はサイドポニー。


そのまま話題は変化していく。先程の授業の話から、最近合ったことなど他愛もない話が続く。


「それでユーノ君、執務官試験に無事通ったって!」
「へえ。えらい難関なんやろ?」
「へえ。難関なんだ。……どれくらい?」

そんな中、出た話題にアリサが質問する。

「凄いよ。合格者は年間で10人位。中には一人も出なかった年もあるくらいだし」
「それは凄いね」

すずかも感心したような顔。

「そうだよ!ユーノ君は凄いんだよ!勿論ユーノくんはそれだけでなくてね……」
「そ、そういえばフェイトちゃんもそろそろ卒業なんやろ!」

何やら惚気話に移行しそうだったなのはの話を強引に遮り、話題を変えるはやて。なのはは別に気を悪くした様子も無く、それに乗っかる。

「うん」
「それだったらユーノ君とフェイトちゃん、二人を呼んでおめでとうパーティーでもせん?」
「あんたは適当な口実を付けて騒ぎたいだけでしょ。まあ、いいアイディアだとは思うけど」

アリサもそれに同調する。

「いいんじゃないかな?」
「うん!じゃ、今度ユーノ君とフェイトちゃんに予定を訊いてみるよ」
「なのは、頼んだわよ」

すずかも同意し、なのはも当然同意。そして昼休みも終わりになり、解散となった。








それから何日か後。

「それじゃ、改めておめでとう、ユーノ君」
「うん。改めてありがとうなのは」

高町家・なのはの部屋。そこでなのはとユーノが話をしている。
先程まで『ユーノ執務官合格+フェイト卒業おめでとうパーティ-』が八神家にて開かれていた。
それも終わり、帰ってきた二人は会話をしている。様々な話をしていたが、やがてユーノが本題を切り出した。

「さて、なのは。本題に行っていいかな?」
「うん。……これからの事、だよね」
『それは私も聞いても良い類の話なのでしょうか?』

レイジングハートが問う。

「うん。別に構わない。何かあったらそこを聞いてもいいから」
『分かりました。ありがとうございます』

礼を言うレイジングハート。そして結界を張り、話し始めた。

「さて……。それじゃあこれからJS事件までに起こった主なこと。大きく二つに分ける。僕らに直接関係があったことと無いこと。
 それらに関係する今回との変化点。疑問や意見があったら言って」
「分かった」

頷くなのは。ユーノは続ける。

「それじゃあ僕達に直接関係があることから。まずは来年のなのはが襲撃を受けて重傷を負った事件」
「まあそれは今回は何とかなると思うけど。襲撃があると分かっているし、対処法も分かっているし、前回とは違って自分の限界も分からずに疲労を溜めたりもしないしね」

そうだね、とユーノが肯定する。この件は今回は大丈夫だろう。

「それじゃ二つ目。無限書庫。これはリインさんがそのままなると思う」
「じゃあそれも大丈夫か」

無限書庫の有用性は無視できない。まあユーノがリインフォースと協力しておおまかな道を作った。後はそれを整備してもらうだけだろう。
何もかも手探りだったあの頃より、多分早く活用できるようになるはずだ。

「でもユーノ君が辞める時みんなに引き留められたんじゃない?」
「そうだね。でもまあ後はどうすればよいか、と言う方向性は見えた時期だったから、納得はしてもらったよ。……じゃあ次」
「うん」

ユーノは一拍入れ、続ける。

「エリオとキャロの保護。フェイトは今回は前回と立場も人間関係も違うから、どうなるか分からない。だから僕が保護しようと思う。感情的な面を抜いても、キャロなんかは犯罪組織にでも行ったら洒落にならないことになる可能性があるしね」
「ユーノ君がそう言うならそれでいいけど」

ありがとう、とユーノが続ける。

「できればさ、二人には直ぐに管理局に入ったりせずにちゃんと学校に行ったりとかして欲しい。その上で自分で選択して管理局に入るのならば止めないけど」
「そうだね。……前回のフェイトちゃんを悪く言うわけじゃないけど、ちょっと二人も子供らしく育てるべきだよね」

うんうんとなのはは頷いている。

「だから、エリオもそれまでは施設にいても、僕たちが結婚してミッドに本拠を持ったら位で引き取ろうと思う。なのははいいかな?」
「構わないよ」

ユーノはもう一度ありがとう、と言う。

「次は臨海空港で大規模火災。でもこれは……」
「どうしようもないよね。本当に事件性は何も無い、純粋な事故だったから」
「そうだよね。せいぜいそこの担当の人と知り合いになって注意を促すくらいか。正確な日取りが分かればまだ何とかする事はあるんだけど。なのはは覚えている?」
「流石にそこまでは……。ただ中学三年生になった後から夏の前だったというくらいしか……」

申し訳なさそうななのは。ユーノはそれを気にしないで、と言う。

「じゃあ次。機動六課設立。……絶対、素直に設立はしないよね」
「はやてちゃん、このままだと管理局に入るとは思えないもんね。入るとしても、少なくとも高校位は卒業してからだと思う」

今回のはやては管理局での出世にこだわる理由など無い。どころか魔法も碌に使えない。正確には使えるのだろうが使っていない、使う機会が無い。
せいぜい、飛んでみたいーと飛行魔法を使ったり、離れたリモコンを手に取るために魔法を使ったり、無限書庫でリインフォースの手伝いをした時に検索魔法と読書魔法を使ったくらいである。

「うーん。……でも、これからいろいろ状況は変わるし、それは様子見か。大体、ジェイル=スカリエッティを何とかするための部隊だからそれを達成できればいいわけだしね」
「確かにそうだね。別に六課にこだわる理由は無いもんね。スバルやティアナに会えないのは残念だけど」

なのははユーノの意見を肯定する。

「次。僕らに直接関係がなかったこと。ゼスト隊が壊滅した戦闘機人事件」
「ゼストさんが無事なら多分中将周りの状況が色々変わるはずだもんね。単純にジェイル=スカリエッティの戦力も減るし。メガーヌさんが無事でルーテシアが向こうに渡らないならさらに」
「それもあるけどね……フェイトの卒業後の配属先は首都防衛隊。なんでも勤務地がクラナガンだし、地上の他と違って同じくらいのランクの相手がいるから訓練も困らないだろう、って勧められたからそこに決めたらしいけど……」

なのはは顔を引きつらせる。

「つまり……」
「うん。フェイトの配属先はゼスト隊」

なのはは頭を抱える。

「どうしよっか……。っていうか、何時だったけ、壊滅するの。空港火災にまでは壊滅しているはずだけど……」
「僕も覚えてないよ……。流石にこんなことになるなんて想像もしていなかったから。とりあえずフェイトに注意を促すことと、対AMFや対戦闘機人の技術をそれとなく教えるくらいだけど……」
「……時間があるといいね。ちゃんと教えられるように」

ユーノは頷く。

「うん。……最悪の事態に備えて、アルフは現場に出ないようにお願いした。プレシアさんの面倒を見るため、って言う理由を付けてね。
 もし、アルフが危険な状況になったらフェイトも危ない、という事。後はそこから判断するしかない。フェイトに隊の様子もそれとなく聞く予定ではあるけど」
「……それしかない、か……」

なのはは万一のことを考えてか、大分不安げな顔である。

「後は……強いて言えばティーダさんの事、ヴァイスさんの事、アギトの事位だけど……」
「内容は分かっていても、何時、何処でが全く分からないもんね……」
「うん。さっきも言ったけど、こんなことになるなんて想像もしないし」
「そうだね」

そう言って頷く。

『しかし、随分様々なことがあるのですね』

それまで黙っていたレイジングハートが(無いけど)口を開いた。

「うん。……本当に、色々あった……」
「そうだね……」

懐かしがる二人。そう、色々あった。大変なことだけでなく、嬉しかったことも楽しかったことも。

『そうですか。……ふむ』
「どうしたの、レイジングハート?」
『いえ……。偶には貴方達の昔話でも聞きたいなと。勿論、今回とは違うのでしょう?よろしければ教えてくれませんか?』

そう言うレイジングハート。

「うーん。ユーノ君が良いなら。いいかな?」
「構わないよ。……出会いはちょっと恥ずかしいけどね」

そう言う二人。

「じゃあ始めようか。えっとね、私とユーノ君が初めて出会ったのはね――」

そうして話を始めるなのは。そのまま夜は更けていった。













それからさらに数ヶ月後。クラナガンにある時空管理局の病院。
プレシア=テスタロッサは大きな安堵を感じていた。

「本当に、無事でよかったわ……」
「はは……。ありがとう、母さん」

管理局に娘のフェイトが入った。しかし、その数ヶ月後、とある違法実験施設の調査中。その部隊は壊滅し、フェイトも意識不明の重体となった。
だが、数日前に無事意識を取り戻し、今はこうして少しの間なら会話もできるようになったのである。

「ごめんよフェイト。あたしもついて行けば……」
「アルフ、そんなことはないよ。アルフが異変を感じて応援になのはとユーノを呼んでくれたから、助かったんだよ」
「……まあこういう時に頼れる人間で真っ先に思い付いたのはあの二人だからねぇ。偶々、休暇でクラナガンでデートをしていてくれて助かったよ」

申し訳なさそうなアルフにフェイトは言う。

「それにしても、この間まで私が母さんをお見舞いするために来ていた病院に入院しているなんて変な気分」
「そうね」

冗談を言うフェイトにプレシアは笑う。

(それにしても……本当に過去の自分を殴りたくなるわね)

そんなことも思う。こんな娘を虐待していたなど。

「母さん?」
「何でも無いわ」

頭を振るプレシア。そして、ドアがノックされた。

「はい」
「失礼する」

入ってきたのは大柄な男。隊長であるゼスト=グランガイツだ。

「隊長!無事……ではなかったみたいですね……」
「ああ」

ゼストは確かに松葉杖をつきながらも自身の足で歩いてきた。
但し――左腕が無くなっていた。

「何はともあれ、テスタロッサ。生きていてくれてよかった」
「いえ……。隊長も、生きていてくれて何よりです」
「そうだな。……駄目だった奴もいるが」
「……そうですか」

そう言って沈鬱そうな表情を浮かべる二人。だが、ゼストはプレシアに向かい合った。

「テスタロッサの親御さんでよろしいのでしょうか?」
「はい」

頭を下げるゼスト。

「申し訳ございません。このたびの責任は隊長である、俺にあります」
「いえ……。無事にフェイトも助かりましたし、一番問題は犯罪者の某でしょう?気にするな、とは言いませんが気にし過ぎないでください。……尤も、フェイトに万一の事があったらどうなっていたか分かりませんけど」
「そうですか……。ありがとうございます」

プレシアの返答に礼を言うゼスト。再びフェイトに向き合う。

「テスタロッサ」
「はい」

答えるフェイト。

「……お前は、これからどうする?」
「これから、とは?」

質問を返すフェイト。

「ああ。管理局に居続けなくとも、一旦辞めて学校に行くなりなんなりしてからもう一度入局しても良い。前線を引いても構わないしな。お前はまだ若いんだ。いくらでも、選択肢はある」
「……。……隊長は、どうなさるんですか?」

再び質問を返すフェイト。

「俺は局員を続ける。今さら他の生き方などできん。……それに、あいつの事も気になる」

小さく付け足すゼスト。あいつとは自分の親友の事。最近、碌に連絡が取れていない。向こうも忙しい立場だから、と考えていたのだが何か違和感を感じる。
そして答えるフェイト。

「私も、続けます」
「……本気か?もし俺も続けるのなら、という理由なら止めておけ」

フェイトの答えに釘を刺すゼスト。

「いいえ。違います」
「ほう?ならば?」

問うゼスト。

「……今回の被害、どうなっていますか?」
「……壊滅。隊員の三割は死亡、残りも大抵重傷。そして再び魔導師として再起できる可能性があるのは俺以外はお前だけだ。
 ナカジマあたりは肉体的なダメージこそ小さかったが、コア付近が重傷だ。……あいつは早ければ来週中には退院できるらしいが」

正直に被害状況を伝えるゼスト。フェイトはそれを聞き、頷く。

「皆さん、私に良くしてくださいました。たった数ヶ月ですが、本当に嬉しかった。私が皆さんの分まで、等と大それたことは言いませんが、皆さんと同様にこの地上を守りたい。そう思います」
「……そうか。ならば止めん」

頷くゼスト。あの様な目をした奴を止めるのは、ほぼ、無理だ。ならば自分はその助けになるべき。……それが、自分の責任というものだろう。

「あの……一つ、いいですか?」
「何だ?」

フェイトが質問をする。

「クイントさんの状況は聞きましたけど、メガーヌさんはどうだったのかな、って……」
「……ああ、確かにお前はナカジマとアルピーノと仲が良かったな。……あいつは生きてはいるが、まだ意識を取り戻してはいない」
「……そうですか。娘さんのルーちゃんはどうしているのか分かりますか?」
「ナカジマの家族が面倒を見ているらしいぞ」
「そうですか。ありがとうございます」

そう言って礼を言うフェイト。

「それでは失礼する。他の連中の所にもいかねばならんしな」
「はい。……あの!隊長!」
「?何だ?」

最後にゼストに呼びかけるフェイト。

「リハビリ、頑張りましょうね!」
「そうだな」

少し表情を和らげるゼスト。そしてゼストは去って行った。



ゼストが去って行ったフェイトの病室。

「あの……母さん、アルフ」
「何かしら?」
「何だい、フェイト?」

二人に話しかけるフェイト。

「そういうわけだから、私は局員を続ける。……いいかな?」
「……フェイトがそう言うのならば、構わないわよ」
「……まあ、なんだかんだで頑固だからね、フェイトは」

一拍の間があったが肯定する二人。

「うん。……ありがとう。ふわ……」

礼を言うフェイト。同時にあくびが出る。

「ごめんなさい。少し寝てもいいかな?」
「ええ、お休みなさい、フェイト」
「お休み、フェイト」
「うん。お休み……」

そう言って瞼を閉じるフェイト。少しすると寝息が聞こえてきた。

「さて……私も病室に帰るわね」
「おや?もう行くのかい」
「ええ。一応、病人だからね。本当は添い寝の一つもしたいのだけど、状態が状態だしね」
「確かにね」

フェイトは、重傷患者であったのだ。そしてそのような患者のベットは押して図るべし。

「それじゃあ、またね、アルフ」
「ああ。あんたも養生しなよ」

ありがとう、と言ってプレシアは病室を出る。



病室に戻る廊下、プレシアは考える。

(本当に、無事でよかった……)

思考を続ける。

(全く、本当に過去の自分は何やっていたのかしらね)

先程と似たような考えを抱く。

(だけど……こうなった原因。それの一つは地上部隊の戦力不足らしいわね)

フェイトが目を覚ます前に聞いた話を思い出す。どうたらこうたら言っていたが、正直あまり覚えていない。フェイトの事で頭が一杯だったし。

(つまり戦力を強化すれば、あの子がああいう目に合う可能性は減るのね)

本当は反対したかった。だけど、あの子が本気でやりたいと言ったのだ。これまで自分がしてきた仕打ちを(記憶には無いが)考えると反対できなかった。ならば別の方向からサポートすべきだ。

(私が直接戦力になるのは無理ね。病人だし、年だし。それに私一人が入ったところでたかが知れている。……と、なると……)

思考を進める。

(他の手段で戦力を増やすこと。そしてそれを最終的には安価に量産できるくらいのレベルまで持って行くこと。その技術開発が目標か……)

目標が決まる。

(まあそれよりも先ずは自分の体を治しましょう。勿論あの子のリハビリの手伝いも)

手近な目標も確認する。丁度自分の病室の前に着く。そしてプレシアは自分の病室に入って行ったのであった。



[23718] 第二十話 新暦71年 前
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/07 22:03
「と、いうわけでリインフォース・ツヴァイと申します!無限書庫から動けない母様に代わり、マスターはやてのデバイスとなります!」
「うん。よろしくな、ツヴァイ」







あれからあったこと。
フェイト=テスタロッサは無事治療とリハビリを終え、退院した。その後体力やら感やらを取り戻すために訓練を重ね、前線に復帰した。
とは言っても、どこかの部隊に所属しているわけでなく、ゼストと二人で様々な部隊を渡り歩いている感じである。特にランクが高いので緊急時に呼び出されることが多いようだ。

プレシア=テスタロッサも退院し、明確な成果を上げ短縮された勤労奉仕期間も終わった。ただ、プレシアはそのまま技術開発部に所属することとなったが。

ゼスト=グランガイツも前述の通り復帰した。欠損した腕は義手である。ただし今は技術開発部(と、いうかプレシアが娘の為にもなるからと作った)のデバイスにもなる特別製の義手である。
試作品でその義手の具合やら、データやらを報告する義務があるが、概ね良好のようである。
だが、親友のレジアス=ゲイズとは上手くいっていないらしく、やきもきしているようだ。

ユーノ=スクライアは予定通りエリオ=モンディアル――正確にはそのクローンの少年だが――を違法実験施設から救い、保護した。
最初の頃は人間不信に陥っていたエリオと色々あったようだが、今の関係は良好といっていいだろう。彼は現在施設で暮らしている。

無限書庫は正式稼働を始め、司書長はリインフォース=ヤガミが就任することとなった。

又、ティーダ=ランスターは、偶々付近で任務を終えたばかりだったフェイトがその速度を生かし、助けに入ったことで大怪我を負ったが助かった。
その話をユーノとなのはが聞いた時、彼らは袖振れ合うも多生の縁、ということはあるのだな、と思ったという。

高町恭也と月村忍が結婚した。恭也は婿入りし、月村恭也となった。

クロノ=ハラオウンとエイミィ=リミエッタも結婚した。前回より割と早かったため疑問に思ったユーノがそれとなく尋ねた所、君たちに中てられたんだという答えが返ってきた。
なお結婚式で色々クロノはからかわれていたことを追記しておこう。

そして現在は新暦71年4月29日。そう、臨海空港での大火災があった日である。










八神はやては現在非常に大変な事態に陥っていた。たまたま居合わせた臨海空港で火災、それも大火災と言っていいほどの規模の物にあったからである。
ここには美味しいと言われているカレー屋に、半ばネタの為にザフィーラと二人だけで来たのだ。お土産にレトルトも二十人前ほど買ったが。
だが突然それに巻き込まれた。ザフィーラがいるから自分は安心だろうが……。

「助けてー!」
「くそっ!何でこんな目に!?」

目の前には逃げまとう人々。ザフィーラに頼んで出来る限りの人間を助けてもらってはいるが――絶対的な人手が足りない。
こういった時にどうすればよいのかわからないはやては自分をもどかしく思う。

(シグナムやヴィータやなのはちゃん達なら、やっぱり違うんやろな)

そう思う。シグナムやヴィータ、なのはやユーノやフェイトなら、自分と違い、どうやったら良いのか分かっているのだろう。自分の様な素人とは違うのだから。
けれどもはやては飛ぶ。そして魔力に任せて強引に障壁を張り、瓦礫を吹き飛ばし、懸命に助けようとする。

(きっついなあ……)

はやてが使っているものは飛行以外は魔法と呼ぶのはおこがましいものだ。ただ、膨大な魔力に任せて強引に護り、吹き飛ばしているだけ。しっかりとした理論による魔法とは効率が全く違う。
だから普通に魔法を使うより早く、当然限界が来る。と、いうか並の魔力量しかないのならばそもそもここまでできなかっただろう。

「主、大丈夫ですか?」

戻ってきたザフィーラがはやてに心配したように声をかける。

「んー、大丈夫、と言いたいとこやけど、ごめん。正直きつい」
「ならば主はもう休まれて下さい。後は自分がやりましょう」

全員は不可能でしょうが。その言葉を飲み込んでザフィーラが言う。

「ごめんな、ザフィーラ。情けない主で。後は……!?」

言葉を切るはやて。見れば自分の眼下では倒れようとしている巨大な柱。そしてその先には――一人の少女がいた。

「危ない!」
「主!」

飛び出すはやて。遅れてザフィーラも追う。

(えっと、確かこうだったはず!)

はやては魔法を使う。以前シグナムとフェイトの模擬戦を見た後に、フェイトにあの速い動きは何ー、と言った時に教えてもらった魔法・ブリッツアクション。
あの時は上手く距離を測れなくて、行き過ぎたり、全然移動できなかったりだったが――

(うっしゃ成功!)

今回は土壇場で成功。そしてそのまま、残った魔力で強引に障壁を張る。

「あ……」

そして障壁は一瞬だけ現れ――

「主!」

その一瞬でザフィーラがはやてと少女をその場から攫って行った。



「ふう……一安心やな」
「そうですね。……少々肝が冷えましたが」
「あー、ごめん。ありがとな、ザフィーラ」
「いえ。礼を言われる必要はありません」
「それでもや」

そして、その場から少女と共に離脱した二人は移動しながら会話していた。

「あー……アカン」
「主?」

はやての様子がおかしい。ザフィーラは不審に思い、訊ねる。

「倒れる。ザフィーラ、後はよろしく」
「任されました」

どうやら完全に魔力やらなんやらが切れたらしい。そのまま気を失うつもりのはやてだったが――

「あの!」

少女が声を上げる。

「んー……?なんや?」

それを半ば沈んだ意識で聞くはやて。

「あの!あ、ありがとうございます……」

礼を言う少女。

「…………。ん、分かった」

はやてはキョトンとした顔。そしてそれに返答をし、倒れるのであった。




そうしてその死者や多くの重軽傷者を出した事故は終わった。
非魔導師でありながらも懸命に人を助けた少女。彼女によって救われた人は多くは無かったが、確かにいた。
その少女は管理局から表彰された。普通はその後スカウトされたりするものだが……とある元提督によってそれは阻止された。




それより数日後。聖祥大付属中学校屋上。

「はやて、今日もどうしたのよ?えらい静かじゃない」
「んー。ちょっとな……」

昼休み。なのは、はやて、アリサ、すずかの四人が昼食を取っていた。

「それで、今度新作ケーキの試食会やるからお母さんが是非来て欲しいって」
「へえ。勿論お邪魔させてもらうわ」
「うん。期待しています、って伝えておいてくれないかな?」
「分かった」
「……」

いつもなら真っ先に反応しそうなはやてだが、今日は無言。正しくは今日も。ここ数日ずっとそうである。

「はぁ……、調子が狂うわ。本当にどうしたのよはやて?」

その様子にいい加減調子が狂うとアリサが訊ねる。

「うん。……そうやな。なあ、なのはちゃん」

それを気が付かないで何かをなのはに訊ねるはやて。

「?何かな?」
「――魔導師ってどうすればなれるんかな?」
「……はやて?」

そしてはやては理由を話し始めた。

「うん。ごめんな、アリサちゃん。なのはちゃんもすずかちゃんも心配かけて。ここ最近、何を考えていたか話す」
「……ようやく話す気になったのね」

少し安心したようなアリサ。なのはとすずかも同様だ。

「うん。あんな、私がこの間、ミッドででっかい火事に巻き込まれ他のは教えたやろ?」
「……うん」

暗い顔で頷くなのは。正直、なのははこの件に関して、ユーノと二人で無い責任を感じている。何故なら、前回よりも被害が大きかったから。自分もユーノも仕事中で、知ったのは全部終わった後だった。

「確か、表彰されたとか言ってなかったっけ?」
「確かに表彰はされたけどな……」

すずかの言葉に言葉を濁すはやて。

「けど?」
「現場でな、思ったんよ。もしも巻き込まれたのが自分とザフィーラでなく、シグナムとザフィーラだったら、ヴィータとザフィーラだったら、なのはちゃんとだったら、ユーノ君とだったら、フェイトちゃんとだったら。絶対、私より多くの人を救えるはずやって」

知識から経験から魔導師としての能力から、私より明らかに勝っているからな、とはやては付け足す。

「……」
「……」
「……」

そのはやての様子に思わず沈黙する三人。

「それにそれだけで無くてな……」
「無くて?」

はやての言葉に聞き返すアリサ。

「最後にな、女の子を助けた。多分私達より三、四歳くらい年下の。気を失う直前に聞いたその子のお礼の言葉がえらい耳に残ってな……」
「……」
「……」
「……」

そのはやての言葉に再び沈黙する三人。

「嬉しかったんよ。こんな自分でも助けることができたんだって……。それで、な」

そう言って言葉を切るはやて。

「そう言う事だったのね」

アリサが大きく息をつきながら言う。

「うん。だから、こう、将来は人を救うことがしたい、と……。
 自分にそう言った才能があるかは分からない。けどな、私の魔力は自分で言うのもなんやけど凄いらしい。他の人が望んでも得られない程。だからそれを生かすべきだ、と考えてな……」

それでなのはちゃんにどうやったら魔導師になれるかを聞いたんよ、とはやては言う。

「んー。それは将来管理局に入るっていう事?」

なのはは訊ねる。

「うん。そのつもりや」
「だったら、先ず向こうの学校に入るべきだと思う」

はやての返答になのはは答える。

「学校?」
「多分、魔法はシグナムさんやヴィータちゃん、ザフィーラさんにシャマルさん、リインフォースさんと、はやてちゃんの身内に教えてもらって、その上でしっかりと訓練すればかなりの物になると思う」
「うん」
「でもそれはそれだけ。必要なことはそれ以外にもある」

はやては神妙な顔で頷いている。

「別にはやてちゃんも何かに焦っているわけではないでしょう?」
「もちろん。変に焦って妙なことになるよりじっくり行きたいと思っている」
「なら全寮制の学校にでも入ってじっくりと、それこそ向こうの常識やら風習から学ぶべきだよ。こっちとは違うことも普通にあるからね」
「そっか……」

はやては納得顔で頷く。

「まあいずれにしろ皆に話すことから始めんとな」
「そうだね。リインさんにもね?」
「もちろんや。リインも家族やからな」

うんうんと頷いているはやて。

「あー、なんか肩の荷が下りた気分や」
「全く……。本当にあんたがそんなんだと調子が狂ったわ」

いつもの調子に戻ったはやてにアリサが言う。

「お?心配してくれたん?」
「悪い?」
「……」

素直に認めるアリサ。その反応に驚いたようなはやて。

「……何よ、そのリアクション」
「いや……アリサちゃんだったら『べ、別にあんたの心配なんてしてないんだからねっ!』と返すもんやと……」
「あ、私もそう思った」
「私も」
「あんた達、私を何だと思っているのよ……」

はやてだけでなく、他の二人も似たような反応を示すことにアリサは思わずぼやく。

「デレたね」
「デレたね」
「デレたなー」
「あ・ん・た・た・ち!」

こめかみに青筋を浮かべたアリサが叫ぶ。そのまま昼休みの時間は過ぎて行った。




そしてはやては家族と相談した結果、全寮制の士官学校を受験することになった。今はその受験勉強中である。
ちなみに普通の(陸士や空士)学校でなく、士官学校なのは事前に申請をすれば使い魔(守護獣)を連れて入学可能なものが見つかったため、過保護なヴォルケンリッター達が是非ここにとしたからだ。
そしてはやてからそれを相談されたリインフォースはおよそ半年後、一つ、或いは一人のデバイスをはやてに手渡した。
話は冒頭に戻る。



「はい!以後、よろしくお願いしますです!」
「うん。しっかしちっこいなあ……」
「あ、普通にサイズにもなれますよ」
「そうなん?」
「はい!」

ツヴァイが光に包まれる。そして現れたのは先ほどまでの人形サイズでなく、子供サイズのツヴァイだった。

「おおー!」
「この通りです」

ちょっと誇らしげなツヴァイ。

「話を続けてもよろしいでしょうか?」

説明の最中だったリインフォースが問いかける。

「あ、うん。よろしく」

はやてが先を促す。

「はい。リインフォース・ツヴァイは私同様ユニゾンデバイスと呼ばれる種類のデバイスです」
「ユニゾンデバイス?」

はやてが問う。

「ユニゾンデバイスというのはマスターと合体し、飛躍的な能力向上が出来るデバイスです」
「貴方と、合体したい……」
「?」

はやての一言に疑問符を浮かべるリインフォース。

「気にせんといて」

ネタだったのに普通に返されて少し赤くなるはやて。

「分かりました。但し、技術的には非常に難しい物なのです。もし相性が悪い場合、合体時間が実戦で使えないほど短かったり、最悪合体事故が起き悪影響が出ることだってあります。
 勿論ツヴァイと主は問題ありません。ヴォルケンリッター全員とも、主に比べて相性は落ちますが十分実践レベルのユニゾンが可能です」
「ほうほう」

頷いているはやて。

「それから夜天の書にある術式の内、全ては無理でしたから私が選んだ術式の内それなりの量を登録しておきました。もしも他に必要になりましたら教えてください」
「分かった」

頷くはやて。

「以上です。……私にとっては娘の様なものです。ツヴァイをよろしくお願いします」

そう言って頭を下げるリインフォース。

「うん。ありがとうリインフォース。改めてよろしくな、ツヴァイ」

それに返答するはやて。

「はい。改めてよろしくお願いします!母様、ツヴァイは行って参ります!」
「ああ。私の分まで外を見てこい」
「分かりました母様!」

リインフォースの言葉に元気よく返事をするリインフォース・ツヴァイ。こうして彼女は八神はやてのデバイスとなったのだった。



[23718] 第二十一話 新暦71年 後
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/09 20:23
「では、誓いの口づけを」

そして二人は向かい合う。
そしてそのシルエットが交錯し――







正月。高町家。
ユーノがエリオを連れて遊びに来ていた。
そして今現在、ユーノはなのはと二人で士郎、桃子と対峙している。

「士郎さん、桃子さん。今日は大事な話が有ってきました」
「……聞こう。予想はつくが」
「そうね」

どこか諦めたような表情の士郎と嬉しそうな表情をした桃子。

「お嬢さんを、なのはを僕に下さい!絶対、絶対、幸せにして見せます!!!」

なのはも嬉しそうである。
士郎は大きく息をつき

「なのはを、頼む。幸せにしてやってくれ。……絶対、本気で泣かせない様に」
「はい!」
「ありがとうお父さん!」

そう言った。




そして四人は居間に移動し、先にお雑煮を食べていた美由希とエリオと合流する。ちなみにエリオは四杯目。
和やかなムードで皆でお雑煮を食べる。

「しかし……覚悟はしていたがもうなのはは結婚か」

士郎が感慨深げに呟く。

「そうだね。私も覚悟していたけど先を越されちゃったよ。……私は年齢と彼氏いない歴がイコールなのに」

美由希がぼやく。

「向こうは男女ともに十五歳だからね!」

満面の笑みを浮かべたなのはがそう言う。

「そうだったな……っと、そういえば二人とも」
「何?」
「何でしょうか?」

士郎が二人に話しかける。

「うん。一つ、できればでいいのだけども、お願いがあるのだけど……」
「はい」

ユーノが先を促す。

「できれば、『高町』の姓を残してほしいんだ。恭也は婿入りしてしまったしね」
「僕は一向に構いませんけど……なのははどう?」
「私はユーノ君と一緒になれるのなら全然気にしないよ」

そう言いながらも二人は念話で会話する。

(あれ?何か前回と違うね。なんでだろう?)
(うーん。……多分、美由希さんがまだ結婚してないから、とかだと……)
(あ、そうか。前回は義兄さんが婿に来たんだっけ)

そんな会話をしていると。

「ユーノさんとなのはさん、御結婚なされるんですか?おめでとうございます!」

お代わりをよそってきたエリオに祝福された。

「ありがとう、エリオ」
「ありがとう、エリオ。……ああ、それでエリオ、なのはと一つ話し合って考えたことで提案したいことがあるのだけど……」
「?何でしょうか?」

ユーノは話を続ける。

「僕たちと、一緒に暮らさない?」
「……え?」

疑問符を浮かべているエリオ。ユーノは理由を説明する。

「一応、僕は君の保護責任者なわけだ。にも拘らず、今まで仕事で休暇が不定期だから、君と共に暮らさなかった。放っておくわけにはいかないからね。
 でも、君はそろそろ学校に通うのだろう?」
「はい」

本当は訓練校に入るつもりだったのだが、その前に魔法学校に通うことになった。
ユーノが(口調こそやんわりとしていたが)強く勧めたためだ。魔法学校を卒業した後でも訓練校に入学することはできるからと。

「なら昼間は大丈夫だし、なのはの所属は戦技教導隊。緊急出動がかからない限り、基本的に定時で上がろうと思えば上がれる部署だから」
「でも……新婚家庭にお邪魔をするわけには……」

エリオは遠慮をする。ユーノはそれにため息をつきながら言った。

「はぁ……。何度も言っているじゃないか。あまり我儘すぎるのもあれだけど、君は遠慮が過ぎる。もう少し我儘も覚えなさいって」
「……はい」

同じようなことはユーノだけでなく、なのはや高町家の人たちにも言われている。だから今も割と遠慮せずにお雑煮やらおせちやらみかんやらを食べているわけだが。
……施設ではそう言ったことは一切言われない。でも、もう少し我儘になっても良いのだろうか?

「なら……お願いします」

そう言った。よく分からないけど、もう少し考えてみよう。そう思い、返事をした。

「うん、こちらもよろしく、エリオ」
「よろしくね!」
「よろしくお願いします」

こうしてエリオは、二人と暮らすことになった。










それから暫く後。本日はなのはとユーノは二人で過ごしていた。すべきことは二つ。新居を決めることと式場の下見である。

「ここなどはいかかでしょう」

巡って三軒目。不動産屋に連れられて新居候補を見て回る。

「うーん……。立地はいいのですけど……少し、狭いですね。子供も増やす予定ですし……」
「左様ですか……」

なのはの言葉に少々落胆する不動産屋。どうでもいいことだがこの不動産屋、数ヶ月前になのはとユーノが初めてきた時、若いカップルだと内心あまり期待していなかったが、所属を知って椅子から転げ落ちたことがある。

「うーん、ならば……。少々遠くなりますが、次はこちらを見に行きましょう。よろしいでしょうか?」
「はい」
「お願いします」

そして車で移動する。


そこからやや離れた住宅地。

「ここです」
「へえ……中々見た目はいい感じだね、ユーノ君」
「そうだね」

そして入り、見る。
結果は……

「いいですね」
「そうですか!ありがとうございます!」

上々。不動産屋とそんな会話をしていると……

「あら?お隣に入居する人?」

隣の家から出てきた女性に話しかけられた。その女性の姿を見て驚愕する二人。

((スバル!?))

その姿は成長したスバル、或いはギンガ。幸い、驚愕は声には出なかった。さらには男性も出てくる。

「早えよ、クイント。なんで男の俺よりも用意するのが早いんだよ」
((ゲンヤさん!?))

やはり声にこそ出さなかったが、驚愕。ゲンヤは女性をクイントと呼んでいた。つまり――

(あの人が、スバルたちのお母さんでオリジナルのクイントさん……)
(本当に、そっくりだね……)

そんな会話を念話でかわす二人。

「そっちが遅いだけよ。……ところで私の顔に何かついているのかしら?」

クイントが話しかけてくる。

「い、いえ。そんなことはありませんけど……」
「ん?お前らは……新しく隣に入るのか?」

ゲンヤも話しかけてくる。

「えと、はい。なのははどう?」
「私はここでいいと思うよユーノ君」
「そうですか!ありがとうございます!」

安堵の息を吐く不動産屋。四人は会話を続けている。

「そうか!随分若いみたいだが、いずれにしろよろしくな。俺はゲンヤ=ナカジマ。こっちは……」
「クイント=ナカジマよ。ええっと、二人はなのはにユーノでよいのかしら?」
「はい。高町なのはです」
「はい。ユーノ=スクライアです。……今度、ユーノ=S=タカマチになりますけど」
「うーん……。どこかで聞いたことがあるような……?」

クイントは首を捻っている。だが、心当たりに辿りついたようだ。

「そうだ!フェイトの話に出てきた友人のバカップル!そうよね!?」
「え、ええ……多分……」

その勢いにちょっとたじろぐ二人。

「そっか、貴方たちが……」

頷いているクイント。

「それはいいが時間はいいのか、クイント」
「って、拙い、タイムセールが始まっちゃう!」
「重要だからな。主にお前たち三人のせいで」
「じゃあねー、これからもよろしくねー」

そして車に乗り込み、去って行った二人。それを見送るなのはとユーノ。
それに不動産屋が話しかける。

「えー……。よろしいでしょうか?」
「あ、はい」
「それではここで決まりでよろしいのですか?」
「はい!」
「ありがとうございます!それでは戻って、契約書等の記入などをお願いします」
「はい」

そしてなのはたちも不動産屋の車に乗り込み、戻るのだった。





クラナガン市内、とある祭儀場。

「では、こちらのプランでよろしいですか?」
「お願いします」

結婚式のプランを相談していた二人だが、決定したようだ。

「ありがとうございます!」
「そういえば……ウェディングドレスの試着ができるのですよね。してもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ。奥になります」
「はい。それじゃユーノ君、ちょっと試着してくるね」
「うん。僕はこれとかに記入しておくから」
「よろしくね」

そういって奥に行くなのは。
そして暫くして――出てきた。

「どう、かな……?」
「……」

ユーノは無言。不安になったなのははユーノに話しかける。

「えっと、ユーノ君?」
「――凄く、綺麗だ」

そう言うユーノ。なのはは嬉しそうに笑って言う。

「えへへ。そうかな?」
「うん」

そしてそのまま、暫くいちゃつくのだった。スタッフ南無。




もう暫く後。ユーノの部屋。二人は帰ってきた。

「ただいまー」
「ただいま。……ここでただいまって言うのも後少しか……」

ユーノが感慨深げに呟く。

「そうだね……。とりあえず夕飯作っちゃうよ」
「手伝う?」
「お願い」

そして二人で夕飯を食べ、風呂に入り、床に就く。
そして会話。

「それにしても、隣の家がナカジマ家だったとは驚いたね」
「あはは、そうだね」

ユーノの言葉になのはが笑って言う。

「本当に、クイントさんはスバルやギンガにそっくりだったよ」
「そうだね……。ね、ユーノ君!」
「何かな?」

なのははユ-ノに話しかける。

「ウェディングドレスの私、どうだった?」
「祭儀場で言ったじゃない」
「もう一度聞きたいの!」

その言葉にユーノは苦笑い。

「しょうがないなあ……。本当に、綺麗だったよ。……正直、なのはのウェディングドレスには、いい思い出は無かったけど」
「……そっか」

なのはは頷く。

「でも、それもおしまい。これからは、大丈夫」
「……そっか!ねえユーノ君、電気、消して……」
「……うん」

そして――。











それからさらに一月ほど後。地球ではそろそろ二月も終わり。そんなある日、ユーノはなのはに大事な話がある、と通信で言われた。
そして今はユーノの部屋。できるだけ人がいない所が良い、と言われたからだ。

「それでなのは。大事な話って?」

お茶を入れてきたユーノがそう言う。

「えっとね、その……」

言葉を濁すなのは。ユーノは言葉を待つ。

「その……出来たの」
「……?……まさか」

一瞬、何を言われているか分からなかったユーノだが、それを理解する。

「うん。……子供が、出来た」

そう、お腹をさすりながら言うなのは。

「そっか……」

ユーノは嬉しそうに笑う。

「知っている人は?」
「私とユーノ君以外は診てくれたシャマルさんだけだよ」
「そっか」

まあ彼女なら大丈夫だろう。普段は割と抜けているところも多いが、こと仕事に関してはそういったことは一切無い。

「じゃあまずなのはの家族たちに話そうか」
「うん!」

そしてその場はそう纏まった。




暫く後、高町家。なのはが大事な話がある、とユーノを連れて帰ってきた。
何だろうという疑問を浮かべる一同。

「それで……話とはなんだ?」

士郎がそう切り出す。

「はい。……子供が出来ました」

ユーノの言葉に一瞬で固まる一同。

「えーと、ユーノがこっそり飼っていた猫が、とか?」

そんなことを言う美由希。

「違うよー。勿論、私とユーノ君のだよ」

満面の笑顔でそう言うなのは。

「あらあら」
「……」

微笑んでいる桃子。それとは対照的に厳しい顔の士郎。

「……お父さん?」
「――ユーノ君」

それに不安になったのか、なのはは士郎に話しかける。しかし士郎はユーノに話しかけた。

「はい」
「殴らせたまえ」
「――はい」
「お父さん!?」

士郎の言葉に頷くユーノ。なのはは驚いた声を上げる。
しかしそのまま、士郎はユーノを殴る。鈍い音が二発分、居間に響き渡った。

「……ふう。これでいい。それじゃあユーノ君。なのはとお腹の子は任せるよ」
「はい!」
「え、え、ええ!?」

よく分からなくて混乱しているなのは。

「え?どういうこと!?とりあえずお父さんが認めてくれたのは分かったけれども!」
「士郎さんは、男親なのよ」

それに諭すように言う桃子。

「……よく分からない」
「そうかもね」

桃子は微笑む。

「まあ責任云々は今さらな話だしな。それに俺が18の時に恭也は生まれたのだし、美沙斗だって16の時に美由希を生んでいるからなぁ……。正直、これ以上強くは言えん」

士郎が補足を入れる。

「ええええええ!?なのはの子供!?八つも下の妹の子供!?私おばさん!?私はまだ彼氏ができたことすら無いのに!!!」
「お姉ちゃん、反応が遅いの……」

そんな美由希の反応に、思わずぼやくなのはだった。






「しかし、まさか初孫がなのはの子供だとは……」

その後。ユーノも交えて夕飯を食べた後、お茶を飲みながらそう言う士郎。

「本当にね……私も遂におばさんかあ……。恭ちゃん達が結婚した時から覚悟はしていたけど、なのは達に引導を渡されるとは……」

美由希もぼやいている。

「そうね、楽しみだわ。……男の子と女の子、どちらかしらね」
「おいおい桃子、ちょっと気が早過ぎだろう」

微笑みながらそう言う桃子の言葉に、士郎が笑いながら言う。

「ところがミッドではそうでもないんだよ!」
「あら。と、いうことは……」
「うん。分かるんだ。解析魔法やらなんやらで」

そのなのはの言葉に士郎と桃子は食いつく。

「それで、どっちなんだ?」
「うん。それでね――」

一拍おくなのは。そして答える。

「両方。双子だって!」
「ほう」
「あら」

嬉しそうに頷く二人。

「そうそう、それで二人に相談があるんだ」
「どんなだい?子育ての相談ならまだ少々気が早いが」
「あら。油断しているとあっという間よ」
「それもそうだな」

やはり嬉しそうにしている。なのはは続ける。

「名前だよ。ここに来るまでユーノ君と二人でマルチタスク――並列思考の技術――を大量に使って考えたんだ。
 それで女の子の方は私とユーノ君の名前から取って『優奈』にしようっていう話になったんだけど、男の子の方はいまいち決め手が無くて。良かったら二人に任せたいなーって……」
「それも大分気が早いと思うが……」

なのはの言葉に士郎が呟く。

「そうね……なにかあるかしら?」
「そうだな……。……『一臣』」

士郎が名を呟く。

「士郎さん、それは……」
「とーさん、それは……」
「?」
「?」

桃子と美由希の反応に、よく分かっていないなのはとユーノは疑問符を浮かべる。

「ああ。亡くなった、弟の名だ」

不破一臣。御神不破の正統伝承者だった士郎の弟である。

「……えっと……」
「まあ別に気にしなくても良い。まだ時間もあるのだからもっと良い名も思いつくかもしれないしな」

そう言う士郎。そのままこの話題は流れていき、やがてユーノも帰る時間となり、話は終わった。









さらに暫く後。聖祥大付属中学校屋上。昼休み。いつもの四人が昼食を取っていた。

「ここで四人でお昼を取るのも今日が最後、か……」

アリサが感慨深げに呟く。

「そうだね……。それに、なのはちゃんとはやてちゃんとは進路も違うしね……」

すずかもしみじみと呟く。

「うん。そうだね……。あと、はい、これ」
「「「?」」」

なのはが三人に何かを手渡す。これは……

「結婚式の、案内?」

そう、結婚式の案内状だった。

「えーっと……」
「えっと」
「あー、やっぱり来たか」

なんだか微妙な表情を浮かべているアリサとすずかと苦笑しているはやて。

「どういうこと、はやて?」
「ミッドの法では結婚は男女ともに十五歳からなんよ」

その言葉に二人も合点がいったようだ。

「うん。せっかくだから三人には手渡し。後ではやてちゃんの所にはシグナムさん達の分を、すずかちゃんの所にはお兄ちゃんと忍さんの分を郵送もするけど」

なのはが補足する。

「しっかし、なのはも結婚かあ……。私達の中で一番なのは予想通りだけど……」
「そうだね。ちょっと羨ましいよ」

そう言っているアリサとすずか。

「えへへ。それだけじゃないんだけどね」

更に嬉しそうにしているなのは。それを疑問に思う三人。

「?他に何があるのよ?」

代表してアリサがそれを聞く。
その言葉になのはが周りを見渡し、念の為防音結界を張る。

「……?なのは?」
「実は――――子供が出来ました!」



時が止まる。



「は?」
「へ?」
「えええええええええーーーーーーー!!!!!」

時は動き出す。叫ぶ三人。防音結界は正解だったようだ。

「ユユユユユーノ君との子供?」
「当たり前だよ。他の誰とも作るわけないよ」

はやての言葉にちょっと不機嫌になるなのは。

「あー、いや、そう言うわけじゃなくってな。ゴメン。でも子供、子供かあ……」
「何やってんのよあんたたちはっ!」

アリサは再び叫ぶ。

「何って――ナニ?」
「そう言う答えじゃないわよ!」
「え?事細かに描写してほしいの?」

なのはの言葉に真っ赤になるアリサ。

「え、遠慮しておくわ……じゃなくって!歳を考えなさいって言っているのよ!!!」

更に叫ぶアリサ。

「ユーノ君、社会人。私、半社会人、春から社会人。お互い割とすぐに育児休暇に入るけど」

言い聞かせるように言うなのは。そんななのはの態度に諦めたようなアリサ。

「はあ……分かったわ……。このバカップルめ。っとすずか?」
「は!」

放心したままの状態だったすずかに声をかける。戻ってきた。

「えと、なんていうか、おめでとうなのはちゃん」
「うん!ありがとう!」

そうして彼女たちの中学最後の昼食の時間は過ぎて行ったのだった。













そんなこんながあった後――遂にその日がやってきた。



花婿控室。

「しかし、君は割と落ち着いているな」
「まあ、君よりは落ち着いているかもね」

ユーノがクロノと話をしていた。

「やれやれ。予想はしていたが……まあ先を越されなくてよかったと思うよ」
「はは。なんだいそれ?」

クロノの言葉にユーノは笑う。その後も何人か来た知り合いと話しながら時間は流れて行った。



花嫁控室。

「しかし、あんた割と落ち着いているわね」
「そう?」

なのはがアリサとすずかと会話していた。

「そうだよ。もっと舞いあがっているのかと思ったのに」
「内心では、そうだよ」

そうなのだ。舞い上がっている。だがそれを自覚できるくらいにはなのはは落ち着いていた。

「ま、いずれにしろしっかりやりなさいよ」
「また後でね、なのはちゃん」
「うん。また後で」

そういって出ていく二人。なのははその後も何人か来た知り合いと話していき、時間は流れて行った。




そして――

「なのは……。本当に、綺麗だ……」
「うん。……ありがとう、ユーノ君」

その時間がやってきた。式場に入場する二人。
そのまま進んでいき、そして……。

「では、誓いの口づけを」

そして二人は向かい合う。
そしてそのシルエットが交錯し――互いに口づけをした。

周りから歓声が上がる。そして二人は――

「あ、あれ……?」
「あれ……?」

疑問の声を上げる。

「なのは、どうしたの?」
「どうしたの、ユーノ君?」

互いに声をかける。

「どうして、泣いているの」
「だって、泣いているよ」

そう、二人は泣いていた。そして泣いたまま抱き合う二人。さらに歓声は大きくなる。

「えへへ、ね、ユーノ君」
「うん、なのは」

そして二人は再び――

「幸せになろう」
「幸せになろう」

誓い合った。













おまけ1 

ブーケトスの時がやってきた。

「私の物よ!」
「いや、妹に先を越された私が!」

特にシャマルと美由希が張り切っている。
それを見たヴィータがぼやく。

「なあシグナム……」
「何だ?」
「何でシャマルっていつもあんなに焦っているんだろうな。別に歳食うわけでもないのに」
「知らん」

ヴィータのぼやきを切り捨てたシグナムだった。
ちなみにブーケはシャマルと美由希が戦りあっているのをよそに、すずかが入手したことを追記する。






おまけ2

「それで、明後日からユーノさんとなのはさんと一緒に住むことになったんです」
「へえ。そうなんや」

エリオがはやてと会話をしている。

「糖尿病にならんように気を付けるんやよ」

そんなことを冗談交じりに言うはやて。しかしエリオは疑問顔。

「……?何でですか?」
「へ?だってあの甘々バカップルと一緒に暮らすんやで!?」

エリオの返答にびっくりするはやて。

「へ?バカップル?ユーノさんとなのはさんが?」
「……当然やろ?」

エリオの返答にびっくりを通り越して戦慄するはやて。

「……そうなんですか。あれが普通じゃないんですね……」

エリオがぼやく。思えば自分がまともに接したことがあるカップルなど、ユーノとなのは以外では士郎と桃子くらいだった。
え、両親?あれは人間だと思っていない。

「はは……」

苦笑いを浮かべるはやて。この子、今の恋愛観のまま育てたらどうなるんかなー、とか思ったのであった。



[23718] 第二十二話 新暦72年
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/24 21:03
第6管理世界、アルザス。ル・ルシエの里。族長の家。
ル・ルシエの族長とユーノ=スクライアが対峙している。

「……と、いう訳なのです。私個人としてはあの様な年齢の娘を追放などしたくはありません。ですが先のヴォルテール暴走の時の被害はあまりに大きすぎた。
 多数の重軽傷者は勿論、死者も十人は下らない。族内の世論を考えると、幾らまだ幼い娘だとは言え、追放せざるを得ません」

そう言って一息つき、茶を一口飲む族長。何故この二人が対峙しているのかというと訳がある。
ユーノはキャロの件の為に、事前にちょっとした理由を付けて知り合いになっていたのだ。ちなみにその時、遠回しに気を付けろとは言っていたのだが……無駄に終わったようである。
連絡先も教えてあった。まあ族長は管理局の執務官と連絡が取れるのなら何かあった時便利かも、といったレベルだったのだが。

「付け加えるなら里に居たままでは、それこそ今回の件で恨みを買った人間に殺される可能性すらあります。いや、恐らく起きるでしょう。今の里の空気を考えると」
「そうですか……」

そう言う族長は本当にキャロの事を案じているようだ、とユーノは感じた。まあ感ではあるが。
それにしてもキャロがヴォルテールの暴走によってル・ルシエで出した被害がここまで大きいものだとは思っていなかった。
案外、あんなに幼い少女を追放した理由は、彼女が住人に殺される前に行った処置ということだったのかもしれない。

「わかりました。それでは彼女の事は任されましょう」
「ありがとうございます。……キャロのことをよろしくお願いします」
「はい」

大きく頭を下げる族長。その表情には安堵は浮かんでいた。

「それではキャロを呼んできます。少々お待ちください」
「はい」



そして暫くして族長が幼い少女を連れて戻ってきた。少女の肩には小さな竜。勿論キャロとフリードリヒである。

「キャロ、こちらは管理局のユーノ=スクライアさん―いや、今はユーノ=S=タカマチさんだな―だ」
「はい」

不安げ様子のキャロ。

「……強い力は争いと災いしか呼ばない。そしてお前が行ったことと今の里の様子は分かるな」
「……はい」

俯くキャロ。

「……お前を、このまま里に置くわけにはいかない。追放処分とする」
「……」

無言になるキャロ。

「とはいえ、流石にお前くらい幼い娘を当ても無く放り出すほど非情ではない。よってタカマチさんにお前を預ける」

顔を上げるキャロ。

「よろしくね」

笑いかけ、手を差し出すユーノ。しかしキャロはその手を見たままだ。

「……」
「……」

しかしユーノはそのまま待つ。やがてキャロがおずおずと口を開いた。

「……わたしが」
「うん」
「わたしが、何をしたのかを知っていますか?」
「知っている」

無言になる。

「……」
「……」

再び口を開く。

「いいんですか?」
「いいよ」

そしてまた間が開く。だがキャロはおずおずとユーノの手を取った。

「よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「キュクルー」

そして頭を下げるキャロだった。









そのままその夜は族長宅に泊まり、翌朝。二人(と、一匹)は出て行った。
そして都市まで行き、ターミナルに行き、ミッドに行く。
そしてクラナガン。

「ここが、ミッドチルダ、ですか。凄い……」

キャロがその大都市振りに驚いたような声を上げる。キャロは里を出てからというもの、驚き通しだ。

「さて……。まあ疲れただろうから役所云々は明日に回して今日はうちに行こうか」
「はい。……でも本当にいいんですか?新婚なんですよね?」

そう訊くキャロ。ここに来るまでに色々と話をした(新婚云々はその中で聞いた)。
その中で自分のこれからの処遇なども聞いた。これから自分は彼が保護責任者になって、そのまま引き取られるらしい。

「気にしなくてもいいよ。なのはも賛成してくれたし、エリオも賛成してくれたし」
「エリオ?」

初めて聞く名に疑問を浮かべるキャロ。なのは、という女性が彼の奥さんだとは聞いているのだが。

「あれ?言っていなかったっけ?エリオっていうのは君同様、僕が保護責任者をやっている男の子だよ。一緒に暮らしているんだ。歳は君と一緒だね」
「そうなんですか」

少し安心する。同じ歳の子がいれば少しは気が楽かもしれない。

「じゃあ行こうか」
「はい」

そして移動する。






「ここだよ」
「ここ、ですか」

着いたのはやや大きめ(キャロはミッドでの標準的な大きさの家を知らないが周りと比べて)の家。

「さ、入ろう」
「はい」

そして入る二人。

「ただいまー」
「お、お邪魔します……」
「違うよ」
「?」

ユーノの一言に疑問符を浮かべるキャロ。

「ただいま、だよ」
「あ……」

そんな声を上げる。

「え……と……。た、ただいま……」
「うん。お帰りなさい。あ、靴は脱いで入ってね」
「分かりました」

そしてリビングに移動する。





「お帰りなさい、ユーノさん。えっと、そっちの子が?」
「あれ?エリオ?学校は?」

エリオがリビングにいた。

「今日は半日だったので」
「そうなんだ。うん、こっちの子だよ。……ほら、キャロ」

そして自分の背中に隠れているキャロに促す。

「え、えっと……」
「僕の名前はエリオ=モンディアルだよ。よろしくね」

迷っているキャロを見て先にエリオが自己紹介をする。

「あ……。えっと、キャロ=ル・ルシエ、その、よろしくお願いします!」

そう言って勢いよく頭を下げるキャロ。

「うん。これからよろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」

その様子に少し眉をひそめるエリオ。どうしたのかと少し不安そうなキャロ。

「えっとね、そう畏まらなくていいよ。僕たち同い年なんだよね?」
「あ、えっと、うん。そうみたいだね。ユーノさんから聞いたよ。……これでいい?」

口調を治すキャロ。

「うん。改めてよろしくね」
「うん」

そうして挨拶をし合っていた二人だったが家のチャイムが鳴った。

「あれ?僕が出てきます」
「いや。別にいい」

エリオが出てくると言うがユーノが止める。

「?何でですか?」

エリオの疑問にユーノは無言でリビングの庭に面した大きな窓を開ける。するとそこには……

「あれ?気が付かれちゃった?」
「ルー?」

紫色がかった髪の色をした少女がいた。少女はよいしょ、と靴を脱いでそこからリビングに入ってくる。

「やっほーエリオ。遊びに来たよー」

そこで彼女は見慣れない少女に気が付く。

「あれ……?あ、そっか。わたしはルーテシア=アルピーノ。隣の家に居候しているんだ。よろしくね」
「えっと、キャロ=ル・ルシエ。よろしく」

話には聞いていたのか、自己紹介をするルーテシア。自己紹介を返すキャロ。
ちなみにルーテシアはナカジマ家に居候している。……母メガーヌは未だ植物状態である。
手を差し出すルーテシアにおずおずと手を出すキャロ。そして二人は握手した。

「よし。じゃあエリオ。キャロも交えて遊びに行こうか」
「え、でもキャロは来たばかりだから疲れていると思うし……」
「わたしは構わないよ?」

エリオがキャロに気を使うが、キャロが構わないと言う。そしてエリオはユーノの方を向く。

「えと……」
「ああ、いいよいいよ。行っておいで。あまり遅くなる前に帰ってくるんだよ」
「はい!」
「はい」
「はーい」
「キュクルー」

そして出ていく三人(+一匹)だった。


こうしてキャロは高町家の一員となったのであった。キャロはその後エリオやルーテシアと共に魔法学校に通うこととなる。








それから数ヶ月後。

「初めまして。スバル=ナカジマです」
「初めまして。高町なのはだよ」
「初めまして。高町ユーノ、ユーノ=S=タカマチだよ」
「初めまして。エリオ=モンディアルです」
「初めまして。キャロ=ル・ルシエです。こっちはフリードリヒ」
「初めまして。ルーテシア=アルピーノです」
「ルーは初めましてじゃないでしょ……」

隣のナカジマ家に次女のスバルが陸士学校から長期休暇という事で帰ってきた。
そして妹分がよく世話になっているという事で隣の家に挨拶をしに来たのだ。
出してもらったケーキ(なのはの手製)に舌鼓を打つ。

「んー。美味しいです」
「良かった。多少ならお代わりもあるからね」
「いいんですか?ならお願いします」
「はいはい」

ちなみにこういった物も作るときは割と多めに作る。

「なのはさん、わたしもー」
「えっと、わたしもお願いします」
「はいはい、ちょっと待ってね」

元気よく皿を出すルーテシアとおずおず皿を出すキャロにも乗せる。

「わーい。なのはさんのお菓子はおいしいから好き」
「うん。ありがとうね」

そして雑談に興じる。陸士学校でどんなことをやっているのかという話やら、なのはとユーノの惚気話やら。
そしてその中、なのはが訊いた。

「ねえスバル。一つ訊いていいかな?」
「何でしょうか?」

疑問を訊くなのは。

「何故魔導師になろうと思ったのかな?それと、何故管理局に入ろうと思ったのか」

それを受けてスバルが話し始めた。

「一年以上前の事ですけど……臨海空港の大火災を知っていますか?」
「……うん」

勿論知っている。今回も巻き込まれていたのだろうか?

「それに巻き込まれたんです。母さんともギン姉ともはぐれ、一人さまよっていました。恐怖に不安に疲労。やがて私はへたり込みます。
 そこに狙ったように柱が倒れてきました。動けませんでした。ただ、恐怖だけでした。でもそこに割り込んできた人がいたんです」

そして一息つく。続ける。

「そしてその人は私を護るように大きな障壁を張りました。それは一瞬しか持ちませんでしたけど、その一瞬でその人の使い魔が私ごとその人を攫っていきました。私は助かりました。
 その人はその後魔力切れですぐに倒れてしまって一言しかお礼を言えませんでしたけど。そして救助され、その時の事を思い出して思ったんです。ああ、あの人みたいに誰か人を助けてみたい、と」
「………」
「なのは?」

なのはは何かを考えている。不審に思ったのかユーノが話しかける。

「ねえスバル。その使い魔、いや、多分守護獣って青い大きな狼じゃなかった?」
「あ、はい。そうです。……もしかして知っているんですか!?」

声を大きくするスバル。なのはは答える。

「うん。多分、私の友人」
「是非紹介してくれませんか!もう一度お礼が言いたいんです!あの後管理局に訊ねても規則がどうとかで教えてくれませんでしたし」
「いいよ」
「ありがとうございます!」

そう言って大きく頭を下げるスバルだった。


そしてその暫く後、スバルは恩人――はやてとザフィーラ――に再会することとなる。








さらに数ヶ月後。

ミッドチルダ。クラナガンのとある病院。高町なのはの病室。そこになのはとユーノがいた。そして、さらに二人。

「うーん。可愛いなあ……」
「可愛いねえ……」

勿論、二人の子供である一臣と優奈である。二人とも今はベッドの上ですやすやと寝ている。ちなみに一臣が兄で優奈が妹。
先日、無事に出産が終わったのだ。

「でもユーノ君があやすのが上手すぎて少しへこんだよ」

そう言うなのは。実際、自分では全く泣き止まなかったのにユーノがあやしたらあっという間に泣き止んだ。

「はっはっは。孫や曾孫どころか玄孫の面倒も見たことがあるからね!流石に来孫はないけど」

誇らしげなユーノ。

「うー……」
「まあまあ。これから学んでいけばいいじゃない」

少し拗ねるなのはにユーノはそう言う。

「そうだね。教えてね、ユーノ君」
「うん。まあ油断しているとあっという間に大きくなっちゃうけどね」
「大丈夫!その場合はまた新しく作るから!」

親指を立てるなのは。互いに顔を見合わせる。

「そっか」
「そうだよ」

そして二人で笑う。

「そういえば明日士郎さん達が来るって」
「そうなんだ」

そしてなのはがふぁ、と欠伸をする。

「ごめんユーノ君。少し寝てもいいかな?」
「いいよ。ゆっくり寝なよ」
「うん。ありがとうユーノ君……」

そして瞼を閉じるなのは。暫くすると寝息が聞こえてきた。
ユーノはなのはと子供たちを穏やかな表情で見つめていた。



[23718] 第二十三話 新暦73年
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2011/01/15 19:00
ミッドチルダ、クラナガン、高町家。

「こんな所ですね」
「ありがとうございます」

本日は一人、客人が訊ねに来ている。彼の名前はティ-ダ=ランスター。執務官志望の青年である。
彼はとある事件で知り合った(と、いうか救ってもらった)フェイト=テスタロッサから現役(でも子育て休暇中)執務官であるユーノを紹介され、筆記の模擬試験の様なものをやっていたのである。

「しかしこういう言い方はなんですけど、予想以上にできていました。この調子なら、多分筆記は問題無いと思いますよ」
「ありがとうございます。……入院中は、基本的にリハビリと見舞いに来てくれた人との会話以外は、ひたすら勉強していましたからね」

そう言って笑うティーダ。

「後は実技と面接ですね」
「そうですね。……実は少々実技の方は不安だったりします」
「おや?そうですか?」

そんなことを言うティーダ。

「ええ。やっぱりあんなことが一度あったから不安なんですよ。確かに復帰して、以前の調子を取り戻しまたし、魔導師ランクも一つ上がりましたけど」
「成程」

納得の声を上げるユーノ。

「うーん。なのはがいればそこらへんを相談に乗ってくれたと思いますけど……」
「ああ、大丈夫ですよ。心理的なものですから」

そういうユーノに大丈夫だと伝えるティーダ。
ちなみになのはは仕事中である。管理局は子供が数えで三つの年まで育児休暇を取ることができる。
できるがこの夫婦、最初の一年以外は交代で休暇を取ることにした。来年はなのはが休み、ユーノが仕事である。
そんな感じで和やかに歓談していると

「ただいま帰りました」
「ただいまです」
「ただいまー」

エリオとキャロ、そして(何故かこちらに)ルーテシアが帰ってきた。

「お帰り、三人とも」
「はい。……あれ」
「ああ、ティーダ=ランスターだよ。よろしくね」
「あ、はい。エリオ=モンディアルです」
「キャロ=ル・ルシエです」
「ルーテシア=アルピーノ」

ティーダと互いに自己紹介している。

「ティーダさんがケーキを買ってきてくれたから食べようか。手を洗っておいで」
「やった。ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして」

お礼の言葉にティーダは笑って返事をする。

「じゃあ休憩してもう少し続けましょうか」
「お願いします」

そして休憩に入るのであった。
なおティーダはこれから幾度か、勉強を見てもらいに高町家に来ることになる。。








「はあ……『超人人造兵士計画』ですか……」
「そうよ。『スーパーメンシェンゾルダート計画』」

あれから何日か後のクララガン・高町家、リビング。本日の客人はプレシア=テスタロッサ。そしてその娘であるフェイトの使い魔・アルフである。
茶を飲みながら歓談している。ちなみにプレシア、ユーノやリインフォースは茶飲み友達であったりする。

「まあつまり、非魔導師を魔導師にすればいいじゃない、という発想から生まれたものだけど」
「一度は考えますよね、魔導師の数の問題になると。実現はできそうなんですか?」
「ええ。理屈の上ではね」

その言葉に驚きの反応をするユーノ。未来でやっと実現が始まるか始まらないかだったのだが。

「どのようにですか?」
「あまり詳しいことは話せないけど……二つ案があってね。一つは魔力をバッテリーの様に溜めたものを運用するという方法」

プレシアは茶を一口飲む。

「もう一つは人造リンカーコアを体内に埋め込む方法。両方とも問題は小型化とコストね」
「ふむ。とりあえずの目標は?」

ユーノが先を促す。

「Cランクくらいを安価に量産、かしらね、とりあえずは。先に実現できそうなのは前者の案」

そして溜息をつくプレシア。

「だけど実戦で使えるくらいの時間を保つとなるとね……、さっきの言った通り大きさが……。
 ドラム缶ぐらいの大きさと重量を目標にして、ロボットみたいに乗り込む形……この場合は二足歩行が問題よね。縦揺れとか。蜘蛛脚かしらね、先ずは。
 だけど強化人工筋肉でも埋め込んで、背負わせた方が早いかもしれないわ」

でもそうなると万人に拒否反応が出ないような人工筋肉の研究も必要よね、等と愚痴っている。

「僕は頑張ってくださいとしか言えませんけど……」
「いいわよいいわよ。こうやって偶に愚痴を聞いてくれるだけで十分」
「でもさあ、本当に無茶はよしておくれよ。あたしがあんたについているのも、フェイトにそこら辺の監視を任されたからなんだし。最近は助手みたいになってるけど」

アルフも口を挟んでくる。ちなみに幼女形態。最近はずっとこの姿である。

「あー……。ごめんなさいね、アルフ」
「全く……。研究に没頭すると気にしなくなるんだから。もう60代も半ばなんだろ?とてもそうは見えないけどさ」
「私もとてもそうは思えないわね」

昔の記憶が無いためか、どこか他人事のように答えるプレシア。記憶を失う前より老け込んだとはいえ、実年齢よりは明らかに若く見える。

「とにかく。無茶をしようとしたら無理矢理止めるからね」
「もう既に何回か止めているじゃない。それに無茶しようとしてしたわけじゃないわよ」
「自覚が無い方が質が悪いよ……」
「はは……」

溜息をつくアルフと、どこか拗ねたようなプレシア。それを見て苦笑しているユーノ。
そしてふと思う。自分も昔、こんな会話をアルフとしたなあ、と。

「……?どうしたんだい?」
「いや。なんでも」

そんなユーノの視線に気が付いたのか、声をかけてくるアルフ。何でもないと答えるユーノ。
そのまま暫く茶を飲みながら談笑していた。







さらに数ヶ月後。やはりクラナガンの高町家。本日の客人は……

「ほう、成程。参考になる」
「そうですか?ならよかった」

ヴォルケンリッター・盾の守護獣ことザフィーラである。
今日は休日。珍しく彼の主であるはやてとユーノの妻であるなのは、そしてその共通の友人であるフェイトの予定が上手く重なったので、三人で遊びに出かけているのだ。
基本的にザフィーラははやてと共にいるわけだが、女性だけのほうが良い時もあるだろう、という事で今日は離れている。あの二人がいればよほどのことが無い限り大丈夫であろうし。
ちなみに基本的にはやてと共にいるもう一人、リインフォースⅡは現在リインフォースⅠの元で定期検診中である。……デバイスがデバイスを整備するという割とシュールな光景である。
そんなこんなで、他のヴォルケンリッター三人は仕事中という事もあり、高町家に来たザフィーラであった。ついでに一つ、ユーノに用があったのだ。

「しかしザフィーラさんから探査魔法を教えてくれ、と頼まれるとは思いませんでした」
「覚えてはいるが、より効率的な運用や広範囲に及ぶものをな。勉強になった。礼を言う」

リインフォースが手隙ならあいつに頼んだのだが、と言って茶を啜り、煎餅を齧るザフィーラ(人型)。同じく茶を啜り、煎餅を齧るユーノ。

「やっぱりはやてがそっちの方に進むからですか?」
「ああ。主は災害救助の方に進むつもりらしいからな」

ユーノの言葉を肯定するザフィーラ。そしてそれを聞いていたルーテシア。

「……災害救助犬?」
「狼だが……まあ似たようなものだな」

その言葉も肯定する。
ちなみにエリオとキャロとルーテシアは本日は、高町家にてユーノの手伝い(主に一臣と優奈の面倒見)をしたり、居間で桃○をやっていたりする。
後、ザフィーラに“さん”づけで呼んでいる。初めて会った時は狼の姿だったが、直ぐに人型になったからだろう。

「僕も参考になりました。やっぱり防御技術と純粋なタフネスでは敵いませんね」
「流石でそこで負けるわけにはいかんからな」

ユーノとザフィーラは庭で簡単な模擬戦もしたりしていた。とは言っても魔法使用は無しの物だが。
そのような会話をしているとチャイムが鳴る。

「チャイムだ」
「僕が出てきますね」

そう言って返事を聞かずに出ていくエリオ。暫くして帰ってきた。

「ユーノさん。お客さんです」
「お邪魔するよ」
「邪魔するわね」
「アルフにプレシアさん。こんにちは」

来たのはアルフとプレシアの二人だったようだ。

「ありゃ。ザフィーラもいたのかい?」
「珍しいわね。人型でいるなんて」
「別に人型を嫌っているわけでは無い。主の学校では守護獣として傍にいるわけだからな、あの姿のほうが良いだろう。
 家も女性が多いのからあちらの方が気楽だ。そして何より主があの姿を喜んでくれている」

そう言い、茶を啜るザフィーラ。腰を下ろす二人。

「ふーん。そうなのかい」
「ああ」
「あ、これはお土産ね。中身はどら焼きよ」
「ありがとうございます、……おや」

どら焼きを渡され、お礼を言いながら茶を入れていると再びチャイムが鳴る。

「またチャイムだ」
「今度は私が出てきますね」

今度はキャロが出ていく。暫くして帰ってきた。

「ユーノさん、お客さんです」
「又かい?今日は多いね」
「お邪魔します。これはお土産です。」

入ってきたのはティーダだった。先ずお土産を渡す。割と有名な所のクッキーである。

「ティーダさん」
「お邪魔します。今日は合格の報告にやってまいりました!」

そう言い、笑顔を浮かべるティーダ。

「おお!おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「誰かと思えばティーダじゃないかい」

そんなティーダに声をかける人物。アルフである。

「あれ?アルフ知り合い……そういえば元々フェイトの紹介できたんだっけ。知っていても不思議ないか」

そう言って納得したようなユーノ。しかしそんな言葉に反応するのが一人。

「へえ……。フェイトの知り合いの男……」

プレシアである。そんなプレシアに声をかけるティーダ。

「えっと。初めましてですよね。ティーダ=ランスターです」
「初めまして。プレシア=テスタロッサよ」

そしてその姓に反応するティーダ。

「テスタロッサってもしかして……」
「ああ、フェイトの母親だよ」

補足を入れるアルフ。

「それで――貴方はフェイトのどういった知り合いなのかしら?」

何かプレッシャーの様なものを放ちながらそう問うプレシア。ティーダは若干たじろぎながら答える。

「友人で恩人です。昔危なかったところを救ってもらいまして。それから色々あって友人になりました」
「ほう……。具体的には?」
「えっと、偶に妹の事で相談に乗ってもらったり」
「へえ……」

やはりプレッシャーの様なものを放っているプレシア。

「――アルフ」
「なんだい?」

そしてアルフに話しかける。

「どんな人間かしら」
「そんなことは本人の前で問う事じゃないだろうに」

溜息をつくアルフ。

「良いから答えなさい」
「はあ……仕方ないねえ。えっと名前はティーダ=ランスター。歳は20代半ば。現在は航空武装隊に所属する執務官志望の一等空尉。合格おめでとさん」
「えっと、ありがとう」

戸惑いながらも礼を言うティーダ。

「家族構成は妹一人だけ。両親を始めとする他の血縁はいない。現在はその妹も全寮制の陸士学校に入ったので実質一人暮らし。
 性格は……まあシスコン気味だけど、あまり問題がある性格では無いね」
「ふむふむ」

頷いているプレシア。

「まあシスコン気味なのは、仕方ないんじゃないかね。妹が幼いころに両親が亡くなって、それからずっと育ててきたんだから。
 妹のティアナもブラコン気味だし。陸士学校に入ったのだって、さっさと安定した公務員になって、兄に心配をかけないようにするため、とか言っていたしね」
「そ、そうなのか……」

ティアナが陸士学校に入った理由を知らなかったのか、少し驚いているティーダ。

「まあこんな所だけど。満足したかい、プレシア?」
「……。まあ今は保留しましょう」
「何を!?」

プレシアの発言に思わず声を上げるティーダ。それらの会話を苦笑して聞いているユーノと、我関せずといった感じのザフィーラ。

「まあティーダさんも座ってください。お茶を入れますから」
「ありがとうございます」

出された茶を飲むティーダ。
そのまま基本的には穏やかに雑談する五人だった。



[23718] 番外編1 IF  Dead end 魔王再臨 (鬱注意)
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/08 00:37
さよならフェイトという意見が多かったので悪乗りして書いてしまいました。
もしフォトンランサー・ファランクスシフトが殺傷設定だったらという話です。
鬱です。鬱です。鬱です。補足の指輪の項目を読むともっと鬱です。










……それに気を取られていたのがまずかったのだろう。彼に相対していたのは金髪の黒い魔法少女と赤い狼。自分の一番の親友だった女の子とその使い魔。
彼女の魔法は既に放たれている。それは“フォトンランサー・ファランクスシフト”。
その膨大な量の魔力弾は無防備ななのはにも迫り、


「なのはっ!」
(え……?)


なのはを庇った彼を貫いた。


「え……?ゆーの、くん?」


そして、彼から止まることの無く流れ出る大量の血。素人にだってわかる。間違いなく致命傷だ。

「あ、あ、あ……」

なのはは声を出そうとするが声にならない。その時向こうでは

「逃げるよフェイト!さっさと行かないと!」
「でも、でもアルフ……」

逃げようとしているアルフと人を殺してしまったことで動揺するフェイト。……その動揺が仇となった。

「こうなったら引きずってでも……!?」

瞬間。

感じたことが無い感覚をフェイトとアルフが襲う。
それは殺気。
それも圧倒的な殺気。
膨大な、半ば物質化しているのではと勘違いさせるほどの殺気。


「あ、あ……」
「うえ…あ……」


声を出そうにもただの音にしかならない。殺気は目の前にいる少女から噴き出ていた。

彼女はフェイトが殺してしまった人間の元まで行く。






なのははユーノの元まで来た。だけど何も感じない。

心が、渇いていた。

ただ、憎悪と虚無感、そして殺意のみが支配していた。

ユーノをそっと一撫で。そして彼の首にかかっていた彼女を取る。


――さあ、終わらそう。


『な、何を……』
「我、使命を受けし者なり」

レイジングハートが絶句する。

「契約のもと、その力を解き放て」

『あ、貴女は一体……』
「風は空に、星は天に」

答える気が無いと理解したレイジングハートは覚悟を決めた。

「そして不屈の心はこの胸に この手に魔法を レイジングハート セットアップ」
『 ―――Stand by Ready, Set up.』



そうして、“ソレ”は現れた。





魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。

魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。

魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。

魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。

魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。

魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。

魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。

魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。

魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。

魔力がチャージされていく。

フェイト達はあまりの殺気に中てられて動けない。





そして……





「スターライトブレイカー」




その桃色の光の奔流は、フェイトたちを飲み込み消滅させた。後には塵さえ残らなかった。








終わった。そう、終わってしまった。何もかも。

(ユーノ……君……)

彼の前に来る。抱きしめる。血で汚れるが構わない。

(あ、ああ、あああああああああああああああああ!!!!!)

叫びが出るが、声は出ない。

(何で、何で、何で、何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で
何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で
何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!!)

(何で、私は戻ったの!!!)

彼と幸せな時を過ごすためではなかったのか!だが、そこで彼女は気が付く。

(ん……戻った?)

……気が付いて、しまった。

(ああ、そっか……)

もしかして、また、自分が死ねば。その手に魔力が集まっていく。



そして、“それ”は彼女を貫いた。



ふと思い出す。それは、自分にとってはもう思い出せないようなずっと昔の出来事。



『ねえ……ママ、ユーノさん』
『何かな?ヴィヴィオ?』
『二人はいつ結婚するの?』
『え……』
『え……』
『え、じゃなくて!いつまでもバカップル見ている子供の気持ちにもなってよ!?それに……』
『それに?』
『それに弟か、妹が欲しい!』
『……』
『……』
『…なのは』
『ひゃ、ひゃい!』
『僕の子供を産んでくれ!』
『う、うん。分かった……え?』
『僕と、結婚、して欲しい!』
『あう、その、えっと……。その、不束者ですが、よろしくお願いします!』
『……』
『……』
『あれれー。ふたりとも顔真っ赤だよー』
『も、もうヴィヴィオ!ママたちをからかうんじゃありません!』
『そんな顔で言っても説得力が無いよーだ』
『だ、だから、そのね、ヴィヴィオ』
『――なのは』
『な、何かなユーノ君』
『幸せに、なろうね』
『――うん!』
『うわー……うわー……。ばかっぷるだー……』



(こんどこそ、しあわせになろうね、ユーノくん……)

彼の隣に寄り添うように倒れこむ。流れ出る血がその衣服を真っ赤に染めていった。
そして、高町なのはは、二度と目を覚ますことは無かった。



[23718] 番外編2 IF  彼が少しだけ早く戻っていたら (鬱注意)
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/12/05 12:48
ユーノ君が逆行したのは本編よりも数か月前です。
やっぱり鬱です。注意。










時の庭園。

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ!」

フェイト=テスタロッサは急いでそこに向かっていた。


つい先ほど侵入者があったとの警報が鳴った。しかし、何も現れない。
フェイトは嫌な予感がした。


「ここだ!」


普段、入るのを許されていない部屋。ここに母はいる。
……杞憂で済めばいい。自分が折檻されるだけなのだから。


「母さん!」


しかし、そこで見たものは、何やら巨大なガラス管に入っている自分と同じ顔をした女の子。


「あ、ああ、ああああああああ!!!」


それに血を流して倒れている母親と、血に塗れた、恐らくは双剣と思わしきデバイスを持った金髪の少年。


「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


バルディッシュを起動させ、斬りかかる。


「え?」


だがあっさりいなされ、バインドで拘束された。


「くそっ!くそっ!!くそっ!!!」


バインドは解けない。そうこうしている内に少年は転移魔法を起動させた。


「母さん!かあさん!!!かあさああああああああああああああん!!!!!」


母を殺された。何もできなかった。逃げられた。


「殺す、殺す!殺す!!!絶対に、殺す!!!!!」


しかし、顔は覚えた。あの少年に、絶対に復讐する。
フェイト=テスタロッサはそう決意した。











それより少し後。ギル=グレアム邸。

「ん……?」

ギル=グレアムは自分の使い魔リーゼアリアとのパスが切れたのを感じた。
彼女は今は闇の書の主である少女の監視をしているはずだ。

(なんだか嫌な予感がするな……)

そう思いながら、彼はもう一人の使い魔であるリーゼロッテを呼び寄せるのであった。







ほぼ同時刻、第97管理外世界、地球。


「はぁっ!!!」
「疾ッ!!!」


高町士郎はとある少年が張った空間の中、戦っていた。




少し前。高町士郎は末娘の友人の家を訪ねていた。
彼女は足が不自由である。さらにまだ九歳にもなっていないにもかかわらず独り暮らしをしている。
よって最近はよく面倒を見ていた。娘にも彼女にも内緒だが、最近は彼女の名目上の保護責任者から親権を奪おうと色々していたりもする。
今日は定期検診の日。一緒に医者に行こうとして迎えに来ていたのである。
チャイムを鳴らそうと思ったが、ふと庭を見ると猫の死体と思わしきものがあった。
嫌な予感がした士郎は合鍵を使って入っていったのであった。

そして、その予感は的中する。
見慣れない少年が少女に剣を振り下ろそうとしていた。
迷わず奥義“神速”を起動させ少女をさらう。少女が車椅子に乗っていないのが幸いした(ちなみに少女の車椅子は大破されて傍にあった)。

……恐らく、あの少年は強い。飛針、鋼糸はある。流石に小太刀は無い。代わりにあるのは二本の特殊合金製の警棒。この装備では少女を守り切れるか分からない。
呆然としている少女を抱えたまま、士郎は迷わずそのまま出て行こうとする。が、その瞬間、辺りが妙なものに包まれた。

……士郎は知らない。それは結界と呼ばれるものであることを。
しかし、逃げ切れなくなったことだけは理解した。

「やれやれ、このまま出してくれると嬉しかったんだけど」

そう言い、構える。小太刀でなく二本の特殊合金製の警棒を。

「……」
「だんまりかい?君を倒せば解除されるのかな?」

「……」

無言で、少年も構える。その構えは……。

(御神流!?)

驚愕。だが体に染みついた本能で動く。“神速”起動。そして……

(神速を使うか……。本当に御神流とは!)

相手も、起動。同じ領域で動く。ここに御神流同士の決闘が始まった――。






(チッ!この少年は本当に強い!)

得意とする“虎切”が回避された。これだけの強敵は久しぶりだ。……恐らく、静馬以来。さらに……

(妙なものを鋼糸代わりに使うな……)

士郎は知らないことだが、少年は魔導師、と呼ばれる存在でもある。彼らが使う、魔法。そのバインド。少年はそれを鋼糸代わりに使っていた。

(くっ!)

斬撃が体をかすめる。かろうじて回避できた。
体格では自分が勝っている。ただし相手の鋼糸は相手にしたことが無いパターン。体力はまだ分からない。そして、経験は……?

(真逆、彼の方が上か!?)

ありえない!一体どんな人生を送ってきたらそうなるのだ!?……それとも見た目通りの歳ではないのか?




そうして、しばらく戦いが続いていたが、“それ”が起こった。
……士郎は思わぬ強敵を前にすっかり忘れていた。
そう、少年が、元々何のために少女の家に侵入していたのかということを。
少年がさら加速する。恐らく、歩式・奥義之極み“神速三段がけ”。対抗すべく、自分もその領域に入る。が、

「はやてちゃん!!!」

彼は自分を素通りし、少女の前に元へ向かう。まさか、向こうに行くとは思っていなかったことで、反応が遅れてしまった。




八神はやては自分に迫ってくるそれを呆然と見つめていた。

(ああー。これは駄目やな)

死ぬ直前って流れる時間が遅くなるって本当やったんね。そんなことを思う。

(……あっちにいったら、お父さんとお母さんに会えるかなあ?)

そう考えれば、それも悪くない気がする。思えば、ずっと独りだった。でも

(なのはちゃんに会ってからは、人生そんなに悪くなかったんやけどな)

そんなことも思う。彼女には、いくら感謝してしもきれない。

「―」

なにやら自分のために戦ってくれていた、彼女の父親が叫んでいる。彼がこんな吃驚人間だとは思わなかった。確かに家に道場とかあったけど。

(士郎さんもおおきにな。私の為なんかにこういうことしてくれて)

嬉しかった。自分が、ちゃんと思われていると、理屈でなく理解できたから。
だから、最期には彼だけでなく、皆に感謝と別れを。

(さようなら、みんなありがとう。なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、石田先生、士郎さん、桃子さん、恭也さん、美由希さん、デビットさん、鮫島さん、忍さん、ノエルさん、ファリンさん)

そして、斬撃が彼女を一閃し、彼女は亡くなった。

八神はやて。享年八歳。
彼女の死とともに本棚より一冊の本が消えたが、それを知っているのは極限られた人物だけだった。




「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

士郎が、彼を殺そうと迫る。しかし

「!!!!!」

彼は、一瞬で消えていた。気が付けば、妙な空間も無くなっていた。

「……」

警戒する。

「……」

どうやら、いなくなったようだ。

「……」

目の前には末娘の友人の亡骸。

「……!!!」

悔しかった。これだけ自分が無力だと思ったのは久しぶりだ。

(とりあえず、警察か……)

どう説明したらいいのか。……警察だけでない、末娘にも。そう思いながらも士郎は動きを再開するのであった。









ほぼ同時刻、聖祥大付属小学校。三年生になったばかりの高町なのはは授業中なのにもかかわらず、微睡んでいた。

(……)

そして、彼女は夢を見る。

夢の中では自分がいた、ヴィヴィオがいた、フェイトがいた、はやてがいた、皆がいた。そして何より、自分の隣にユーノがいた。
自分は笑顔だった。皆も笑顔だった。ユーノも――笑顔だった。

そんな、そんな、とてもとても幸せな夢。

(えへへー。ゆーのくーん)

……だが、それが叶うことは、もう、無い。
彼女が、八神はやてが何者かに殺された事を知る、数時間前の出来事だった。



[23718] 番外編3 マテリアル“翡翠の守護者”
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/08 00:36
なのポやっていないのでどうやって奴らを本編に絡ませたらいいのかわかりませんので、番外編で出します。







そして、魔力のチャージが完了した。

「ユーノ君!引いて!いくよ全力全開!スターライト!ブレイカーーーーー!!!」

桃色の巨大な魔力砲撃が放たれる。
その桃色の光の奔流は高町なのはのマテリアル“星光の殲滅者”を飲み込み、なのはとユーノは勝利を確信した。
しかし!

「え……?」

光が消えて視界が露わになる。星光には傷一つ付いていない。何故ならば……



「悪ぃな、星光。遅くなった……」



彼女を守っていたのは自らのシールドだけではない。新たに現れたマテリアル。彼のシールドにも包まれていた。


モノクロになっているだけのバリアジャケット。その魔力光。その魔法。
――何より、彼を銀髪に変えただけのその姿。

「ユーノ君の、マテリアル……!?」

そんなものは前回はいなかった。硬直しているユーノとなのはをよそに、二人は会話していた。

「遅いですよ、翡翠」
「あ?別に間に合ったんだから構わねえだろ?」
「いいえ、そんなわけにはいきません。どうしてですか?」
「だーかーらー。ちょっと遊んでただけだって」

そこで星光は気が付く。

「少々右半身が負傷してますね。……誰かに会いましたか?」
「あー。ロリハンマーにな」
「ふむ……鉄槌の騎士にですか。勝ったんですよね?」

少々ばつが悪そうにしていた翡翠が答える。

「当然。三段がけから雷徹でな!まるで案山子みたいだったぜ!」

それを聞いた星光は翡翠に怒鳴る。

「何をやっているんですか!そんな体に負担がかかるものを使って!別に使わないでも倒せるでしょう!?」

そこで星光は気が付く。

「……もしかして、私を早く助けるために、ですか?」
「ち、ちげーよ。そんなわけねえだろ!」

翡翠はそっぽを向く。しかし顔が赤くなっているのでバレバレだった。星光はそれを見て穏やかに微笑み、言う。

「そうですか……。では遅れたのですから埋め合わせを」
「あ?なんでそんなことしなきゃ……?」
「なんでも、です」

そう言う星光。それに呆れたように翡翠は言う。

「まあ簡単なのならな。で、なんだ?」

それに星光は顔を赤らめて言った。

「“ぎゅっ”てしてください」
「は?」

翡翠が問い直す。聞き間違えか?

「ですから、そのぅ、“ぎゅっ”てしてください」
「……ああ、うん、分かった」

つられるように顔が赤くなる翡翠。
耳まで真っ赤になった星光。
そして、翡翠は星光の体を優しく抱きしめるのであった。




ユーノのマテリアルがこちらを向く。

「悪ぃな、待たせたか?」
「いや、そうでもない」

ユーノがそれに答える。

「それじゃ、名乗るか。俺は“永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術 翡翠の守護者”。【サツリク ノ ヤイバ】セットアップ」

ユーノも応える。

「僕は“永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術 ユーノ=スクライア”」

ユーノのほうは既にデバイスは起動している。

一瞬の間。そして



「「参る!」」



翠と翠が交錯した。








おまけ1 それを見ている二人

「おおー。何というか、若いなあ」
「……」
「どうしたの?なのは」
「……もう我慢できない!ユーノ君!私たちもいちゃいちゃするの!!!」
「え?あ、ちょっとなのは!アッーーーーー!!!」







おまけ2 彼のマテリアル

「アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

クロノ=ハラオウンは頭痛を堪えるように頭を押さえていた。

「アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
「あーはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

見れば、隣のフェイトも似たような感じである。

「ふっ。幾ら有象無象が来ようともこの 最☆強 天☆才 絶対☆無敵である“黒衣の殺戮者”に敵うものなど存在せん!!!」
「おおー。流石兄やん、かっこいーーーーー!!!」

妙な動きをしながらそう言っている自分のマテリアルとやららしい少年。さらにそれを絶賛しているフェイトのマテリアルとやららしい少女。

「おお!流石は我が妹!この良さが分かるか!星光やら翡翠やらとは格が違うな!アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ……ゲホッゲホッ」
「ああ、兄やん!ほらのど飴!」

むせていた。頭痛が痛い。今ならこの言葉の意味が分かる気がする。

「おおぅ……。優しい娘だよ、我が妹は……」
「そんなことないよー。でももっと褒めて!」

のど飴を舐めながら目頭を押さえている。正直、無視してさっさと帰りたかったが、そういうわけにもいくまい。

「あーちょっといいか?」
「む?貴様もこれから私がやる“かっこいいポーズ百選”が見たいのか?」

さらに頭痛が酷くなった気がする。

「冗談だ。で、戦るのか?」
「別に君たちが大人しくアースラまで着いてきてくれればそうでなくとも良いがな」

ようやくまともになった。少し安心して言う。
相手はふむ、と言うとのど飴を一気に噛み砕く。雰囲気が一変した。

「そういうわけにもいくまい。始めるとしよう。“捧げよ魔力を!今宵は殺戮の宴なり”【アクエリアス】セットアップ」

そして、その手にデュランダルに似たデバイスが展開される。

(やれやれ。楽に済みそうにはないな……)

そして、戦闘が始まった―――――



[23718] 並行世界の出来事その一 (ネタ ギャグ 壊れ ハーレム) 改訂
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2011/05/22 18:02
壊れ、ハーレム注意







「なのは!」
「ユーノ君!」

互いを抱きしめる。彼は、彼女と再会した。
彼の名前はユーノ=スクライア。つい先ほど未来の記憶を取り戻した逆行者である。恐らく、目の前の彼女も。
二人の指には同じデザインの指輪。多分これが原因なのだろうロストロギアだ。
まあそれは別に良い。そして彼はその人生を思い出していた。

(なのはとの結婚式でなのはの代わりに死んで、フェイトと添い遂げて、はやてと一緒の墓に入ったんだ……あれ?)

酷い違和感を感じる。いや、別に三つだけではない。もっと、それこそ十以上の記憶がある。

「ユーノ君、ユーノ君!会いたかった……」

必死に抱き着いている彼女を見て安堵を感じると同時に冷や汗を流す。

……そして感じる魔力反応。これは……

「ねえゆーのなんでなのはとだきあっているのかないまきがついたけどゆーのもゆびわをしているよねわたしもしているんだよそのゆびわをしているっていうことはわたしのゆーのだよねもちろんわたしもゆーののものだけどもういちどきくけどなんでわたしのゆーのなのになのはとだきあっているのかなねえゆーのこたえておはなししようちょっとあたまぴかちゅーしようか……」

目からハイライトを無くしている、フェイトのものだった。

「……っ!フェイトちゃん!」

あははーと笑いながらバルディッシュで斬りつけてくるフェイト。避けるためにいったんユーノと離れる。なおも斬りつけてくる。

「ふむ……この程度か」

しかしそこで間に入ったのは烈火の将。その攻撃をあっさり防いでいた。

「シグナム!?なんでもう出ているの!?」

目から光が戻ったフェイトが叫ぶ。しかしそれを無視してシグナムはユーノに話しかけていた。

「久しいな、ユノユノ。会いたかったぞ」

その左手には指輪があった。

「ええっと、久しぶり、シグシグ」

ユーノも答える。つい、そんな呼称が口をついて出ていた。

「おお!私の事を覚えているか!……いや、或いは、私の事も、かな」

シグナムがそんなことを言う。

「どういうこと……?」
「教えてくれる、シグナム?」

二人が疑問をはさむ。が、

「いや、そこからは私が説明するで」

そこに現れたのは夜天の王と残りのヴォルケンリッター、さらに……

「「リインフォース(さん)!?」」

夜天の書の管制人格、リインフォース。そしてザフィーラも含めて当然のように左手に指輪をしていた。

「説明してくれるんだよね、はやてちゃん」
「もちろんや。簡単に言うとな、みんなユーノ君と一緒になった未来の記憶を持っているんやよ。……ザフィーラとリインフォースは違うけどな」

はやては続ける。

「あの日、記憶を取り戻した私はその知識を利用して夜天の書を修復した。そして皆と再会した。その時、気が付いた。皆同じ指輪をしている、と」

なのはとフェイトは息をのむ。つまり……

「全員が、ライバル……」
「そういうことか」

そういうことだ。

「まあ、重要なことが一つだけあるけどな。……なあユーノ君。ユーノ君は誰と一緒の記憶があるん?」

緊張した空気が漂う。それを破ったのはなのはだった。

「私だよ!ユーノ君、私を抱きしめてくれたもん!」
「だが私の事も覚えていたぞ」

シグナムの言葉に、うぐ、と沈黙するなのは。

「で、ユーノ君、誰のなん?」
「……いん」
「は?」

ぼそぼそと小さく呟く声が聞こえなかったのか、はやては問い直す。

「全員分だよ!異なった記憶がいくつも!!!」

ユーノが絶叫する。それを聞いたはやては指示を出す。

「そうか……。大丈夫やでユーノ君!私らは既に管理局に所属しとるから、ちゃんと養ってあげるでー。皆、プランBや。ユーノ君を八神家のものに!」
「了解しました!」
「了解!」
「了解です!」
「……了解」
「……了解です」

まあザフィーラとリインフォースはあまり気合が入っていなかったが。それを見たなのはとフェイトが焦る。

「拙いの……。フェイトちゃん!私たちも共同戦線を!」
「うん。私も言い出そうと思っていた」

そして、フェイトの攻撃でユーノから離れていた赤い球を拾う。

「いくよ……『我、使命を……』」
『まどろっこしい。Stand by Ready, Set up.』

過程を省略されて一気に戦闘態勢に入ることができた。まさか……

「レイジングハート!?まさかレイジングハートもなの!?」
『はい。そう通りです。勝利の暁には私にも』

レイジングハートもだった。仕方ない、背に腹は代えられない。

「私も忘れないでおくれよ!……思い出したのはついさっきだけど」
「アルフも!?」



――そして、激突が始まるであろう瞬間だった。地面から、それが迫る。

「よし!ユーノさんゲット!」
「「「「「「「『セイン!?』」」」」」」」

そして大量のガジェットと共に現れる彼女ら。すなわち……

「ナンバーズ!?」
「ええい、新たな勢力か!?」

ナンバーズ。ただし時期が悪かったのか、出現したのはドゥーエ、トーレ、クアットロ、チンク。セインも含め、当然のように指輪をしている。

「セインちゃん、よくやりましたわー」
「うむ、ここは姉たちに任せておけ!!!」
「ありがとー。あとでラボで!」

それになのはたちも反応する。

「ふん、ガラクタめ、なの。AMFもリミッターもなければ貴女たちなんて一撃なの!!!」

流石に言い過ぎだが、似たようなことは誰もが思っていた。だがそれを聞いたクアットロが馬鹿にしたように言う。

「あららー。お馬鹿さんねー。……知ってるかしらー、魔導技術より私たちの技術のほうが簡単に強くなれるんですよー。ましてや私たちの生みの親はあのドクター。
 ……さて、それに私たちの未来知識が組み合わさったらどうなるかしらー?」

その言葉に反応してガジェットをよく見れば、今まで見たことが無いタイプだ。
そして全員が理解する。彼女らを侮っていてはやられるのはこちらだ、と。



そして……第一回ユーノ争奪戦争の幕が上がった―――――






おまけ1 その頃のナカジマ家

「なんだか出遅れた気がする……」
「どうしたの?スバル?」
「ギン姉?いや、別に……あれ?ギン姉、左手のそれ……?」
「ん……ああ、気にしないで」
「え、あ、まさかギン姉も……?」
「ギン姉“も”ってスバル!それ!まさかあなたも……?」





おまけ2 その頃のランスター家

「ティアナ、最近はなんだか熱心に勉強しているが何かあったのか?」
「兄さん?べ、別になんでもないよ!(そろそろユーノさんが無限書庫に勤めるはず!私も早く勤められるレベルにならないと!)」





おまけ3 その頃のドクターSのラボ

「……なあウーノ」
「何でしょうドクター?」
「……他の皆はどこに行ったんだい?」
「私も詳しくは。ただ、運命の相手を奪ってくるとしか」
「……」
「……」
「働かせすぎたかな?確かにクアットロなんかは中々よいアイデアを出してくれているからなあ」
「……もう少し、休みを増やしましょうか」
「……そうしよう」







ちなみに描写はありませんが、あとノーヴェ、ウェンディ、ヴィヴィオ、アインハルトに手を出しています。



[23718] 並行世界の出来事その二 改訂
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2011/05/22 18:03
その一から大体十年位後、ぶっちゃけstsの前後位です。この世界ではstsも無印もA'sも無いけどw







ここはミッドチルダ・クラナガンにある高町・テスタロッサ家。

「と、いう状況になっているの」
「うう……。そうなんだ……」

なのはが新しく来た自分の娘(予定)に今現在の状況を説明していた。







それは少し前の事。執務官であるフェイトがとある違法研究所の摘発を行った。
そこで発見したのは見間違えるはずのない、聖王のクローン。ヴィヴィオだった。

――ただし、例の指輪をしていたが。

無論、フェイトはその娘を保護した。そして、その娘が目を覚ましたと聞き、面会。
こんな感じだった。


『!?……えっと私を保護してくれた……』
『久しぶり、ヴィヴィオ』
『え……フェイト、ママ……?』
『うん』
『え、え?えーーー!?』


それから大体のことを聞いて、顔を引きつらせるヴィヴィオ。
詳しくはなのはも一緒にとそのままさっさと保護責任者になり、さっさと自分たちの家に連れてきた。
それから再開を喜びあい、落ち着いた後ヴィヴィオが例の事を訪ねてきたので説明した。
ちなみにこんな感じである。






皆ユーノが好き。

出来れば自分一人を見て欲しいけど、ユーノには全員分の記憶があるらしい。

ユーノの性格からいって、そのままでは誰か一人に絞ることはできないだろう。ってゆーか無理だって言った。

なら何人かなら。

えー?でも誰をにするの?私あぶれるなんて嫌だよ。みんなそうでしょう?

うん。だからローテーションを組もう。

……順番は?

……OHANASHIAIかな?

……受けて立とう。チームはどうする?

自由で。ただし事前にちゃんと申告しておくこと。

新規がいたらどうする?

多分ユーノ君に接触してくるだろうから、ちゃんと説明する。それ以外でも発見したら説明すること。

了解。では第一回目はどうする?

無人の観測世界の使用許可取れたでー。今からでもOKや。戦ろうか?

よし、戦ろう。

あのー……。僕の意見は?

ん?じゃあ誰か決めてくれるの?

……。





そして時間軸は冒頭に戻る。

「うん。落ち込んでいても仕方が無い。ユーノさん、私のこと覚えているかなあ?」

ヴィヴィオはそれを聞き、少々落ち込んでいたが前向きに考えることにしたようだ。

「多分、覚えていると思う。あの後から今までに何人か出てきたけど、みんな覚えていたし」
「まあユーノ君に恋人としての記憶が無かったら、私の娘としてユーノ君の娘にもなればいいの」

一応慰めるフェイトと、慰めているんだかいまいち分からないなのは。

「嫌だよ!?あ、いや、ママの娘になるのは望むところだけど」

そう言うヴィヴィオ。それを聞いてなのはは嬉しそう。

「うん。私ももう一度ヴィヴィオと親子になれてうれしいよ。……前回は自分の意志ではないとはいえ、途中で放り投げたようなものだから」
「ありがとう。私も嬉しいよなのはママ」

うーん、中身はかなりの歳かもしれないけどやっぱり娘はかわいいなあ、とヴィヴィオを抱きしめて頬擦りするなのはと嬉しそうにしているヴィヴィオ。
フェイトはそれをにこにこしながら見ていたが、玄関のチャイムが鳴ったので出ることにした。

「はーい」
「フェイトさん、今来ました。ヴィヴィオもあったそうですね」
「私も今着きました。ティアナさんとはそこで会いまして」

来たのはティアナとアインハルトだった。

「うん。上がって上がって」
「お邪魔します」
「お邪魔します」

そして二人は促され、高町・テスタロッサ家に上がる。



そうして、ヴィヴィオとアインハルトが再会を喜んだりしていたが、なのはは重要な課題を切り出した。

「さて……ヴィヴィオ」
「うん」
「例の争奪戦、私たちのチームに入らないかな?」
「えと、でもその前に詳しいルールーとかを話して欲しいんだけど」
「あ、ごめんね。いきさつしか話してなかったか」

なのはは気が付いて謝る。

「じゃあ詳しいことを説明するよ。……こほん。
 
 『汝、ユーノ=スクライアを欲するのならば己らの力を持って最強を証明せよ!』

 これがコンセプト。ルールは……
 
 1・この戦争に参加できる条件は例の指輪
 2・戦争の幹事は前回の優勝チームより選出すること。
 3・チーム戦とする。チームの上限は無いが規則1により人数が絞られるだろう。無論、少ない方が勝利後の報酬も大きい
 4・チームは戦争三日前までに決めること
 5・戦争は半年に一度
 6・幹事は戦争に勝利したら、一月以内に次の戦争の日程を決め、メンバーに公布すること。半年±五日まで
 7・戦争の舞台は基本的に無人の観測世界で行う。幹事は借入許可を得ること
 8・戦争に使用可能なものは魔法・レアスキル・IS、及びそれを使用、強化するための物品(デバイスなど)。ガジェットや質量兵器の持ち込みは不可
 9・勝利したチームは半年間、ユーノと共に過ごせる権利が与えられる。敗北したチームのメンバーは自主的にユーノに会いに行くことはできないし、連絡することもできない。緊急時は除く
 10・もしも上記のルールに違反したり、虚偽を行ったりした場合は他のメンバー全員からの制裁と無期限参加禁止の措置が取られる。

 ……以上だよ」

ヴィヴィオはそれを聞き、ふむふむと頭の中でまとめている。次の質問。

「それで、チームはどうなっているの?」

なのははうんと頷き、答える。

「いい質問だね。チームは基本的に三つだよ。先ずは私たちのチーム。ごちゃまぜだから、他からはなのはちゃんのとかテスタロッサのとか呼ばれているよ。
 メンバーは私、フェイトちゃん、アルフさん、ティアナ、アインハルトちゃん、それにレイジングハート」
「……レイジングハートも?」

ヴィヴィオは驚きの声を漏らす。

「うん。私もびっくりしたんだけどね、最近レイジングハートがデータの中に隠しておいた、とあるデータを使って人化できるようになったよ。
 ロストロギアみたいなもので量産は不可能らしいけど。同時に、インテリジェントデバイスからユニゾンデバイスに変わったし」

それを聞いたヴィヴィオはさらに驚いている。ふとした疑問。

「じゃあ、今のママの戦闘スタイルはどうなっているの?」
「ユニゾンレイジングハート+(開発部に作らせた)ストライクカノン」

それを聞いたヴィヴィオは顔を引きつらせる。

「ええー……。そ、そうだ。今レイジングハートは何処にいるの?」

どんな火力かとりあえず考えないことにして、話をそらす。

「本局でフルメンテ中だよ。ヴィヴィオの事を伝えたらすぐに会えないのが残念だって」
「そっか」

ヴィヴィオは嬉しそう。

「じゃあ、次のチームに行ってもいいかな?」
「うん、お願い」

次に移る。

「次は通称八神家。チームは勿論はやてちゃん、ヴィータちゃん、シグナムさん、シャマルさん。八神家は以上だけど、デバイスだからリインフォースさんとツヴァイとアギトもいるから」
「リインフォースさん……?」

はて、リインフォースと言えば彼女だか、母はさん付けなどしていたか?

「多分、ヴィヴィオは会ったことが無いと思う。夜天の書の管制人格だよ」
「そういえば、話に聞いたことがある気がする……」

うん、確かに聞いたと思う。

「そっか。ちなみに大きい方のリインさんをアインス、小さい方のリインをツヴァイと分ける時は呼ぶからね」
「分かった」

頷く。

「アインスさんとツヴァイとアギトは違うの」
「うん、違うみたい。アインスさんはザフィーラと一緒になった記憶があるみたいだしね」
「そうなんだ……」

ちょっと安堵するヴィヴィオ。焼け石に水だとも思うが。

「うん。じゃあ最後。チーム戦闘機人。メンバーはドゥーエ・トーレ・クアットロ・チンク・セイン・ノーヴェ・ウェンディ。それにスバルとギンガ」
「……なんだかとても問題がある名前があったんだけど。っていうか、ドゥーエって人、死んでなかったっけ?」

メンバーを聞いていろいろ突っ込みどころがあるヴィヴィオ。

「私達の歴史では死んでいたけど。まあパラレルワールドだしね」
「パラレルワールド……。ジェイル=スカリエッティとかどうなっているの?パラレルワールドだから犯罪者でもなかったとか?」

次の疑問を聞く。

「ううん。そんなことは無いよ。でもこの繋がりができたからね……そこからなんやかんやで自首して、最高評議会とのつながりとかを始めとする諸々を連中が手出し出来ないスピードでやったんだよ。
 そこからね、情状酌量の余地ありと判断されて、今は勤労奉仕中。同時に最高評議会とか亡くなった、もとい無くなったよ。
 最初の方はいろいろ混乱とかもあって大変だったけど、今では地上の治安もだいぶ良くなったし」
「あはは……」

ヴィヴィオは苦笑いしている。

「ちなみに前回の勝者。油断は禁物だよ。あのマッドSのせいで大分強化されているから」

ヴィヴィオはうん、と頷いている。
そして、なのはは再度訊ねた。

「さて、ヴィヴィオ。もう一度訊くよ。私達のチームに入らないかな?勿論、一人のチームになることも認められてはいるけど」
「よろしくお願いします」

流石に一人などという、無謀な真似はできない。

「うん。それじゃあこれからよろしくね、ヴィヴィオ。さっそくだけど何ができる?それで戦略を練ったりしないといけないから」
「うん。ええっと――」

そのまましばらく夜は更けていく。さて、次回のユーノはどうなるのだろうか?













おまけ 彼女の過去

色々と話を聞いて驚いた。そんな予感はしていたのだがその人数の多さに、だ。
そして、母と呼んでいた人がもう一度親子になろうと言ってくれた。嬉しかった。


だけど……自分が、貴女ををもう一度そう呼んでもいいのですか?
貴女が愛した男性(ヒト)を、貴女を愛した男性(ヒト)を奪った、この私が。




多分、私がユーノさんの事を好きになったのは初めて会ってすぐ、それこそ一目惚れに近かったと思う。
学校に通うようになってから一番嬉しかったのは実は帰りの待ち合わせ場所が無限書庫だったことだ。だって、毎日ユーノさんに会えるから。
そして、少しでも会える時間を増やすように、自分を見てもらえる時間を増やすように、司書の資格を取るなどを始めとした様々なことをやった。


そして、確かに会える時間は増えた。見てもらえる時間も増えた。でも私は、娘のような存在としか見てもらえなかった。
理由は、まず年齢差。例えば「私、ユーノくんのお嫁さんになるー」等と言っても「うん。でももっとヴィヴィオが大きくなったらね」と流されてしまい、例え本気で言っても相手にされない。
そして、何よりも大きかったのは母の存在だった。


ユーノさんと母。その関係ははっきり言ってほとんど恋人か夫婦だった。
でも二人にそれとなく聞いてみても互いは友達だというばかり。最初は照れ隠しかと思っていたが、どうも本気で言っているらしいと気が付いた時には非常に驚いたものだ。
周りも、何度も二人の仲を進展させようと努力をしてみたが、一向に二人の仲は進まず、どうせそのうちくっ付くだろうとあきらめていた。
ともあれ、私にとって最大の障害ともいえるのは母だったわけだ。


そして年月が経った。やはり私はユーノさんから娘のような存在としか認識されていない。
私が十五歳になって暫く経った頃、二人に結婚することにしたと報告された。
ようやく、二人が自分の想いを自覚した。……私にとっては自覚してしまった。そういうことらしい。
きっかけやらなんやらの惚気トークを聞かされていた気がするが、良く覚えていない。
そんなことよりも、自分の中では母に対する憎悪にも近い嫉妬が渦巻いていた。
何で、何で今まで気が付かなかったのに何で!
……だが、同時に諦めのような感情もあった。元々勝ち目が極めて薄いとは自覚していたし、何より私にとってとても大切な二人なのだから幸せになって欲しい。その思いも事実だった。
だが……その数日後、例の事件が起きた。


母が任務で死亡。
初めて聞いた時は耳を疑った。信じられなかった。
自分にとって誰よりも強く、そして無敵の存在であった母。まあ子供心の誇張が入っていることは自覚していたが。
その母が任務によって死亡。通信が終わった後もおかしい、そんなことがあるわけ無いとずっと思っていたが、遺体を見たら理解してしまった。
――母は、死んでしまったのだと。
深い、今までの人生で最も深い悲しみに覆われた。一晩泣いた。
……だが、それからが問題だった。


一晩泣いた後、私は自分の中で悲しみ以外の感情が湧いているのに気が付いた。
――それは喜び。暗い、昏い喜び。母が亡くなったことを、私は喜んでいた。
……これで最大の障害は消えた。そう思った。
罪悪感は確かにあった。だが当時の私はそれを気にしなかった。……それよりもやりたいことがあったから。


粛々と母の葬儀は進められ、終わった。
泣いている人、何で死んだと罵倒している人、その他にも様々な人がいたがその数はとても多かった。やはり母は慕われていたのだろう。
私はユーノさんに引き取られる。任務に行く前に籍だけは入れていたのだ。周りには帰ってから伝えるつもりだったようで非常に驚かれていた。
ユーノさんは確かにそこにいて参加していたが、心ここに在らずといった感じだった。その様子を見て、周りは後追い自殺でもするんじゃないかと心配したが、私が監視をすると言って帰らせた。
……その夜の事である。


私は母達の寝室だった部屋で寝ているであろうユーノさんの元に行った。予想通りと言うかユーノさんは起きていた。寝れないのだろう。
私も寝れないと言い、眠気が出るまで話したいと言った。ユーノさんは了承してくれた。そして、私はお茶を入れにリビングに行った。
……そして、ユーノさんのお茶に一服盛った。強力な媚薬である。
私はそのまま部屋に戻り、ユーノさんにそのお茶を飲ませた。
そのまま、暫く話しているとユーノさんが挙動不審になってきた。薬が効いてきたのだろう。だが、私はそれに気が付かない振りをして話を続ける。
やがて、ユーノさんが部屋に戻るように言った。しかし、私は嫌だと言い、同時に暑くなってきたと誘惑するように上を脱いだ。
……それがきっかけとなった。
私はユーノさんに襲われた。いや、この場合は襲わせたといった方が正しいか?
だがいずれにしても嬉しかった。彼とこのようになることを何度夢見た事か!
たとえユーノさんが呼んでいるのが母の名前だったとしても、見ているのが私でなかったとしても、私は嬉しかったのだ。


そのままその夜は何度も何度も行為を行い、やがて二人で泥の様に寝た。
だが翌朝、私が目を覚ますと目に入ったものは自殺をしようとしているユーノさんだった。
私は必死に止める。しかし、彼は昨晩の行為は許されないものだ、母にも私にも申し訳が付かない、せめて死んで詫びると聞かない。
だが、私も必死に止める。その過程で話す。ずっと好きだったこと、でも母がいるから半ば諦めていた事、母が亡くなったからなんとかしようと思い、薬を使った事等々。
……今思えば本当に何故薬など使ったのか。もし急にこんなことになったらユーノさんがどうなるかなど予想できたはずなのに。よほど焦っていたらしい。本当に、ユーノさんには申し訳ない。
やがてユーノさんが落ち着いてきた。私も大丈夫だと判断して離れる。その後、説教から始まって様々な話をした。
まあ、私たちの関係はこんな感じで始まったのだった。


それから。私たちは親子でありながら肉体関係もあるという、傍から見れば極めておかしい関係になった。
勿論最初の方はユーノさんは拒んだ。だけど私は強引に攻める。やがてユーノさんが折れる。それが最初の頃のパターンだった。
なんだかんだでユーノさんも最終的には折れるのだから、彼も何かを埋めるような感情があったのだと思う。
だってその頃、行為の最中に私でなく母の名を呼ぶことが多かったから。ユーノさんはそのことを自覚していなかったから私も表に出さないようにした。本当はすごく悔しかったけれど。
だが、やがて私を見てくれる方が多くなり、母の名前を呼ぶことが無くなっていった。
私はとても嬉しかった。……心の奥でずっと罪悪感は燻っていたけれども。


そして、母が亡くなってから三年ほどの月日が経ったある日。私が妊娠していることが発覚した。
まあ正直、ずっと避妊などしていなかったのだから今まで妊娠していなかったことが逆に疑問なくらいだったし、それほど驚きは無かった。嬉しさはあったけれど。
そしてユーノさんにそれを告げる。まあ駄目だと言われても生むつもりだったがたぶん大丈夫だろう。そんな予感があった。
それは的中する。じゃあ結婚しようかと言うところまで話は進んだ。私は嬉しかった。……やはり心の奥で罪悪感は燻っていたけれども。


そして私とユーノさんは結婚した。周りの人たちは祝福してくれた。……なんでもこうなるのではないかという予想が一、二年ほど前からあったらしい。
その後、私は第一子を出産。女の子だったその子は“なのは”と名付けた。さらにその後二人、計三人の子宝に恵まれ、私は生涯をユーノさんと共に過ごした。
ずっと幸福に包まれていた。結局心の奥の罪悪感は無くならなかった。




そんな私が、貴女を再び母と呼んでも良いのですか?貴女の最も大切な男性(ヒト)を奪ったのに。
勿論分かっています。貴女の娘だったのです。そして私自身も母親だったのです。私が全部吐露しても、貴女は私を許し、母と呼ばせてくれるでしょう。
だからこれは私の問題です。……私の、罪悪感の問題です。貴女の、最も大切な存在を奪ったという。
でも……私はもう一度、貴女を母と呼びたい。例えこの罪悪感が消えないものだとしても、それでももう一度貴女と親子になりたいのです。貴女を母と呼びたいのです。
ですから、再び貴女の事を呼ばせてください。“なのはママ”と。








もう何年かしたらみんなで一緒に住んだりが始まります。そうなってからが本番だ。頑張れユーノ、いろんな意味でw



[23718] 並行世界の出来事その三
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2011/05/22 08:11
壊れ注意











ここはとある無人の管理世界。
今、その世界には静かな緊張と言うべきものが漂っている。


――そう、ユーノ争奪戦争が始まろうとしているのである。


そして、その戦場と定められているフィールドから離れたところで二人の少女が向かい合っている。

「キシャァァァァァァァ!!!!!」
「シギャァァァァァァァ!!!!!」

但し、互いを威嚇するような雄叫びを発していたが。








キャロ=ル・ルシエはル・ルシエ始まって以来の天才と言われている。
幼くして白銀の飛竜・フリードリヒだけでなく、大地の守護者とも謳われている真竜ヴォルテールをも従える。
ヴォルテールを従えた当初は強い力は争いと災いしか呼ばない、とされる意見もあったのだが、彼女はその意見をヴォルテールを完璧に使役することで封殺した。
その後、彼女は実力だけでなく、その実力を鼻にかけない素直な性格や、年に似合わない聡明さから周囲の人気を集め、ル・ルシエの中でも一際目立った存在となる。
その彼女がある日、管理局に入ると言い出した。当初は反対する意見もあったのだが、最終的になんだかんだで彼女が頑固だと知っている両親などがそれを後押しし、許可を受けたのであった。


そんなキャロ=ル・ルシエには誰にも言っていない秘密がある。
彼女には未来の記憶があるのだ。その記憶によってかつて、同じ時期には不可能だったヴォルテールを制御した。それによりヴォルテールを止めようとして亡くなった両親を助けることができた。
……もう、二度と会えないと思っていた両親と共に過ごす。それは満ち足りた日々だった。
間違いなく満ち足りた日々。しかし彼女が手に目をやると、その指にはとある指輪。それを見た彼女は思う。

……もう一度、彼に会いたい。彼と共に生きたい。

目を閉じれば彼の姿が思い浮かんでくる。それは、一人の槍騎士。里を追放され、世話になった人に自分同様に世話になっていたかつての少年。自分の夫だった男性。
その姿はもう鮮明には思い出せないほど幼い頃のものから、共に老齢の域に達した頃のものまで。

一度思ってしまえばもう止まらなかった。彼は今の時期ならすでに自分にとっても恩人である女性に保護されているはず。
ミッドに行こう。そして、もう一度彼に会おう。……そして、再び共に生きよう。
それからの行動は早かった。宣言し、皆を説得して認めてもらった。両親が真っ先に認めてくれた。
彼らと離れるのは勿論寂しい。しかし大丈夫。今生の別れではない。又、会いに来ればよいのだから。
そして皆に見送られ、キャロはミッドチルダへ旅立った。



そしてキャロはミッドについた後、彼がどこにいるのかを調べた。普通は勿論個人情報保護とかやらなんやらで教えてはくれない。
……しかしそれは真っ当な方法だったらである。彼女はかつて知り合いだった情報を取り扱う人物と接触、金銭を支払い教えてもらった(ちなみに子供が自分を見つけたことをえらく驚かれた)。
それによると彼は現在とある家で過ごしているらしい。その家は高町・テスタロッサ家という。
そこでふと違和感を感じる。
テスタロッサ、ふむ、恩人の旧姓だ。高町、恩人の親友の姓だ。だが彼女達はこの時期ルームシェアをしてはいたが一軒家など持っていなかったはず。そもそも彼はこの時期は施設暮らしではなかったか?
しかし彼女はそれよりも一刻でも早く彼に会いたいとその家に向かう。
そして、その家の前に来た時

「……」
「……」

彼に会うよりも早く、彼女に再会した。







ルーテシア=アルピーノは、物心がついた時からどこか心の奥で現状に違和感を感じていた。
確かに自分に父親はいないがそこでは無い。何か、いないはずの人間がいて、いるはずの人間がいないような。
しかし、優しい母や、その母の同僚、或いはその同僚の娘等に囲まれ幸せな日々を送っていた。

そんな幸せな日々だったが、ある日その違和感の原因を理解する。
その日、手に目をやるとその指にはとある指輪。昨日までは無かった。それを見て、全てを思い出す。
一度死んでしまった母。自分を助けてくれた母の元上司。友人である、彼のものだったユニゾンデバイス。親友でもあり、最大のライバルだった彼女。
……そして、一人の槍騎士。最初に出会ったときは敵だった、かつての少年。自分の夫だった男性。

……もう一度、彼に会いたい。彼と共に生きたい。

そう思ったら後は早かった。彼はこの頃、施設で生活しているはず。幸いここはミッドチルダ。何処にいるのか調べて会いに行こう。
そして彼がどこにいるのか調べた。普通は勿論個人情報保護とかやらなんやらで教えてはくれない。
……しかしそれは真っ当な方法だったらである。彼女はかつて知り合いだった情報を取り扱う人物と接触、金銭を支払い教えてもらった(ちなみに子供が自分を見つけたことをえらく驚かれた)。
それによると彼は現在とある家で過ごしているらしい。その家は高町・テスタロッサ家という。
そこでふと違和感を感じる。
テスタロッサ、ふむ、彼の恩人の旧姓だ。高町、その女性の親友の姓だ。彼はこの時期は施設暮らしではなかったか?
しかし彼女はそれよりも一刻でも早く彼に会いたいとその家に向かう。
そして、その家の前に来た時

「……」
「……」

彼に会うよりも早く、彼女に再会した。







「……」
「……」

キャロとルーテシアは対峙する。互いに無言。

「……」
「……」

そして同時に気が付く。

「!!!」
「!!!」

相手の左手には自分がしているのと同じ指輪。その指輪に刻まれている言葉。そしてその予想される効果。それから推測される相手の状況。
……まあつまり――相手が再び敵となったということを。

互いに拳を握る。ここは住宅地。派手な魔法は使えない。
よって……

「「はぁっ!!!」」

互いに魔力で強化した拳を突き出す。それは双方綺麗な軌道を描き――

「「がはっ」」

見事に互いに突き刺さる。二人が崩れ落ちる。惚れ惚れするほどのW.K.Oだった。
まあこれが、キャロ=ル・ルシエとルーテシア=アルピーノの再会だった。






エリオ=モンディアルには未来の記憶がある。――但し、二種類。桃髪の幼馴染と添い遂げた生涯と、紫髪の幼馴染と添い遂げた生涯。
それを思い出したのは研究所で実験体と扱われていたある日。
未来の記憶を生かし、そこから逃げようにも実験体として扱われた日々によって体が衰弱している。諦めざるを得ない。
しかしそれでも彼はその日々に耐える。いずれ、助けが来ることを知っているから。
そして彼の記憶よりも若干早くそれは来た。その先頭に立っていたのは自分の恩人である女性だった。
そして彼は再び救われ、女性が再び自分の保護責任者になってくれた。

……そこからが違和感があった。まず女性はフェイト=テスタロッサと名乗った。テスタロッサ。T=ハラオウンでなくそう名乗った。
さらに女性は保護施設でなく、自分と共に暮らさないかと言ってきた。前回とは違う。
戸惑いながらも彼女がそう言ってくれるなら、とそれを承諾した。
更にそこから自分の記憶と違うことが起きる。連れてこられたのは一軒家。この時期は彼女は親友とルームシェアをしていたはずだが。
そのまま彼女の使い魔を紹介される。基本的にいつも家にいるから、自分がいないときには彼女を頼るよう言われた。はて、確か彼女はこの時期よく無限書庫の手伝いに行っていたはずだが。

そしてしばらくしたら、もう一人の同居人である、女性の親友が帰ってきた。さらに彼女が連れてきた少女を見て驚く。自分の同僚だった人物だ。
思わず名を呼んでしまう。予想通りという反応をされた。そして根掘り葉掘り聞かれ、話さざるを得なくなった。

話が終わると、皆ほっとしていた。何故だろう、と思っていると彼女達からも聞かされる。今の彼女たちの状況を。
……驚いた。同時に少し腹が立った。自分はノーマルだ。同性愛の趣味は無い。そう勘違いされたらしい。まあ、ごめんと謝られたが。



そうして暫く経つ。キャロやルーに会いに行かないのか、と訊かれたが会いに行かない。
今回のキャロは前回とは違い家族と暮らしているらしい。フェイトが教えてくれた。ヴォルテールと関わりにならなかったのだろう。
ルーテシアは条件になっているらしい指輪をしていないとスバルから聞かされていた。……自分を覚えていないなら積極的に会いに行かなくても……。本音は、忘れられたのが怖いだけなのだが。
でも、いずれ踏ん切りが付いたら彼女達に会いに行こう。……怖いけど、会いたいという心もまた、あるのだから。
……そう思っていたある日の事だった。



ふと、家のそばで二種類の魔力を感じる。それは、恐らく自分がよく知っているの人間の物で――。

(あれ……。もしかして、これ……)

そして家を出る。そこで見たものは

「……」
「キュクルー」

予想通りの人間達が予想外の状態で倒れている姿。それから片方の少女の竜が心配そうに鳴いている姿だった。


彼女達を家に運ぶ。鍛えているし、多少魔力で強化したので子供の体でも問題無い。
その過程で気が付く。二人とも、例の指輪をしている。もしかして……という感情が湧く。
そのまま介抱していると、二人がほぼ同時に目を覚ました。

「うう……」
「ううん……」

二人に声をかける。

「お早う二人とも」
「「エリオ(君)!?」」

二人が驚きの声を上げる。同時に嬉しそうに声をかけた。

「そっか。エリオ君も私の事覚えてくれているんだ……。嬉しいな……」
「ありがとう。……嬉しい、エリオ……」
「うん。……僕も二人にもう一度会えて嬉しいよ」

そのまま再会を喜び合う。そして一段落した後、キャロが自分の違和感を訪ねた。

「ねえエリオ君。確か今の時期、エリオ君って施設暮らしじゃなかったっけ?」
「んー。でもパラレルワールドだし、そんなこともあるんじゃないかな。私のお母さんも普通に生きてるしね」

ルーテシアが口をはさむ。

「あ、そうなんだ。ルーちゃん、よかったね」
「うん。ありがとう」
「そうらしいね。聞いていたけど、よかったね、ルー。……それはそうとして、何でそうなっているのかの理由を教えるよ」

そしてエリオが現在の状況を説明する。話が進むにつれてだんだん二人の顔が引きつってきた。

「あははは……。ユーノさんも大変だね」
「ある意味自業自得。……ん?どの世界でも一途だったとしても、自業自得になるのかな?」

二人は苦笑しながら感想を言う。そしてルーテシアがエリオに訊いた。

「それでエリオ。……私達二人の、どっちの記憶があるのかな?それともユーノさん同様二人とも?或いは――全く違う記憶?」
「…………」

キャロも真剣な表情をしている。エリオは答える。

「両方とも、だよ。僕の記憶は二つ。片方はキャロと、もう片方はルーと添い遂げた記憶だよ」

その返答にほっとしたようになり、その後少々不満げな顔の二人。そして、どちらかともなく切り出した。

「……ねえ」
「……そうだね」
「?」

それに疑問符を浮かべるエリオ。話は続く。

「……何時にしようか?」
「フェイトさん達と一緒でいいんじゃないかな?私達じゃ無人の観測世界を借りることなんてできないし、その時にちょっと間借りしよう」
「そうだね。そうしようか」

何やら物騒な雰囲気の会話が続く。どういった内容か予想が付いたエリオだったが――

「あ、エリオ君。私今晩のホテル、決まっていないんだ。だから今晩泊まらせてくれると嬉しいな」
「あ、うん。大丈夫だと思う。むしろフェイトさんとか歓迎してくれるだろうしって――そうじゃなくて!」

遮られた。突っ込む。

「?どうしたのエリオ君?」
「どうしたのエリオ?」

疑問符を浮かべる二人。

「そうじゃなくて!何で戦うこと前提になっているのさ!?」

叫ぶ。だが二人はその叫びに表情を変える。笑みを浮かべるが目は笑っていない。

「じゃあエリオ君がどっちかを決めてくれるの?……当然、私だよね」
「何を言っているのかな、エターナルロリータは。……当然、私に決まっているよね」

そしてうふふふふと笑い声を上げる二人。エリオは小さくなる。

「それは、そのぅ、何と言いますか、二人とも僕にとっては同じくらい大切なわけでして……」

それを聞いて頷いている二人。

「うん。エリオ君は優しいからそう言うと思っていたよ」
「だから私達は先人の知恵にならうことにしたんだよ。……それはそうとして、エリオ。私も今夜泊めて」

そして口論になる。

「何言っているのルーちゃん!?ルーちゃんは家があるじゃない!」
「そう言ってエリオと一緒に寝るつもりでしょう?汚い。いつまで経っても子供みたいな見た目だったくせに汚い」
「将来の体型は関係無いよ!……仕方ない“私の”エリオ君と私も一緒だけど今夜は一緒に寝てもいいよ」
「何を言っているの?“私の”エリオと私も一緒だけど寝てもいい許可を私が出してあげたのに」

そう言って何やらオーラの様なものを背負いうふふふふと笑う二人。
その様子を見ながらエリオは今度ユーノにこういう時はどうしたらいいかを絶対に訊こうと決意したのであった。





その後、結局キャロは相互監視をかねてアルピーノ家に居候、ついでにル・ルシエから出てきた時の理由を果たすために士官学校に通うことになる。ルーテシアも一緒に。
そして、二人はユーノ争奪戦争の際、エリオ争奪戦を繰り広げるようになった。
竜魂召喚フリードリヒやらヴォルテールやら地雷王やら白天王やらが出てくるせいで非常に派手かつ広範囲である。
勝敗は現在3分け。……そう、一度も勝敗が付いていない。おかげでエリオの周りは常に騒がしい。
一度、自分たちと違って二人だけだから一緒になったら、と言われたが二人は首を横に振る。
……何故ならば、“前回”も同じように相手に打ち勝って彼を手に入れたのだ(正確には先に告白する権利)。なのに自分からそれを言い出すのはプライドが許さない。

そして今回も……。






フリードリヒもヴォルテールもガリューも地雷王も白天王も、もはや戦闘続行は不可能だ。そして互いに魔力切れ。
……しかし、まだ残っているものがある。

いつかと同じように互いに拳を握る。

「「はぁっ!!!」」

互いに拳を突き出す。それはいつかと同じように双方綺麗な軌道を描き――

「「がはっ」」

いつかと同じように見事に互いに突き刺さる。いつかの様に二人が崩れ落ちる。そして勿論、いつかと同じく惚れ惚れするほどのW.K.O。

まあこれが、キャロ=ル・ルシエとルーテシア=アルピーノの毎回のエリオ争奪戦の結果である。
















多分、もう暫くしたら覚悟を決めたエリオが二人に一緒にプロポーズでもするでしょうw



[23718] 並行世界の出来事その四
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/12/23 19:44
「昨日今日明日とユーノ君、ザフィーラ、クロノ君、エリオ、ロッサ、師匠、ティーダさん、ゼストさん、それにマッドSが『ドキッ☆男だらけの温泉旅行』に行っとる。
 そこで対抗して我々は、八神家にて例の面子+キャロルーで『ドキッ☆女だらけの大宴会~ポロリもあるとええなぁ~』をやっとるんよ」
「はやてー、一体誰に説明してるんだよ?」





と、いうわけで八神家に集まって飲み会なんぞをしている面々。中には仕事の都合で来られなかった人間もいるが。一応、彼女らは別段仲が悪いわけではないのである。
持ち寄った料理に舌鼓を打ち、酒やジュースや茶を飲む。




「それでな、書を修復して一番驚いたのは勿論あの事やけど、その次に驚いたのはシャマルが普通に美味い料理ができるようになっていた事や」
「え!?嘘!シャマルさんが!?」
「せやで。今、なのはちゃんが食べているきんぴらごぼう、シャマル作やでー」
「……確かに普通に美味しいね」
「あたしたちもすげー驚いたんだよ」
「……ひどい。わ、私だってやればできたんだから!」
「まあ実際に作られた以上否定できないけど。だけどどうしてできるようになったんだ?」
「ちゃんと、レシピ通り作るようになったから」
「いや、それが普通やろ?」
「慣れると目分量でやったり、適当なアレンジを加えたりするでしょう?そういうのは失敗の元だから一切やりません。
 おかげでうちのキッチンは計量カップや計量スプーン、ストップウォッチ機能付きのキッチン時計が大活躍でした」
「……成程」




「それにしても前回はヴィヴィオにやられたねー」
「ええ。私の使う【覇王拳】と対をなす【聖王拳】、まさかこちらは使えるようになっているとは……」
「うん。あっちのアインハルトさんとの決戦は、今でも覚えているよ……」
「覇王拳?聖王拳?」
「【聖王拳】とは私が使う拳のことです。体内を走る魔力の流れを操作し、超人的な力を得ます。極めた者は他者の内部から人体を破壊することも。
 指先一つで真竜をも打ち倒すことができる、古代ベルカにて最強と謳われていた拳です。無限書庫で見つかった資料を基に再現したので、私はそこまではできませんけど」
「【覇王拳】とは勿論私が使う拳の事です。体内の魔力を覚醒、全身あるいは武器に転化させ如何なる物体をも外部から打ち倒す拳。ベルカ式魔法の元になったものです。
 現代のベルカ式のそれよりも使いにくいが強力な技術などもあります。何より特徴はその分派の数で、108とも88とも言われており、どれが正統か分かりません。
 私が使うものは【覇王金剛拳】をベースに【覇王迅雷拳】を組み合わせた物。
 分派は非常にバリエーションに富んでおり、戦闘機人やサイボーグが使う【覇王機人拳】や、守護獣が使う【覇王牙爪拳】といったものから
 爆発物を投擲する【覇王爆殺拳】やまるでロボットの様なデバイスに乗って使う【覇王電人拳】といった拳法なのか疑わしいものまであります。
 いずれにしろ、極めた者は戦艦の装甲すらも易く粉砕する、無双と謳われていた拳です」
「最強と無双、並び立つはずもなく昔から争っていたそうです。聖王拳は基本的に聖王の系譜が使いますが覇王拳は違います。分派が多すぎですから」
「そ、そうなんだ……」






そんなこんなで宴会が進んでいき、ある時はやてが前に進み出て、声を上げた。

「よっしゃ!んじゃ今日のメインイベントやー!」

その言葉に皆が振り向く。

「メインイベント?何をするの?」

皆を代表してなのはが訊く。うんうんと頷くはやて。

「いい質問や。ここにいる面子はキャロルー以外は皆一回ユーノ君とくっついとる。勿論わかっとるやろ?」

頷く一同。

「だけどな……中にはどうやってくっついたか非常に気になるのもおる!ドゥーエとかトーレとかクアットロとかアインハルトとかクアットロとか!クアットロは特にわからんから二回言った!」

やっぱり頷いている面々。だけどちょっと違う反応の人も。

「へ?私も?クアットロとかトーレとかと違ってそこまで問題があるように思えないいけど……」

と、ドゥーエさん。

「いや、あんたJS事件で死んでたから……。ちなみにうちのほかの面子に確認したところ生きていたケースは無いそうや」
「へ?」

驚き顔。

「え、え?私、そんなに死亡率高いの?……私が死んでた人ー」

周りに問いかける。次々と手が上がる。ちょっと落ち込むドゥーエ。それに声をかけるセイン。

「ほ、ほらドゥーエ姉!あたしの所では生きていたから!」
「でもそれだけ……」

やっぱり落ち込んでいるドゥーエ。けれどもマイペースにはやては進める。

「まあそういうわけや。このくじで決まった人間からそのいきさつを話すってことで。話したくないことがあったら話さんでもええけど。
 ええかな?時間の都合上、全員分出来るとも思えんけど」
「いいんじゃないかな」
「確かに気になるしね」

賛同する一同。決まったようだ。よし、とはやては続ける。

「それじゃ、記念すべき一人目は……私かい」

引いてきたくじに書かれている名前を見てツッコむはやて。

「じゃ、はやてちゃんどうぞ」

なのはが先を促す。

「うん。じゃ、話すな」





出会いは闇の書事件の後、なのはちゃんに紹介されて、やな。
まあそれから十数年友人やった。間違い無く男友達では一番親しかったけど……そういう感情は向けていなかった、正しくは気が付いてなかった。
ま、偶に八神家に夕食招待したりしていたけれど。それが変わったのはあることが境やな。

「出会いなんかは私の所と一緒だね。それであることって?」

うん。……もう何でそこまで互いにイライラしていたのか忘れたけどな、その鬱憤を晴らすために一緒に飲みに行ったんや。
で、お互いぐでんぐでんになるまで酔った。

「何となく先が読めた気がする……。でもユーノがそこまで酔うのは珍しいね」

うん、私もそう思う。で、察しの通り次の日朝目を覚ましたら

・知らない天井
・ガンガン痛む頭
・全裸の自分
・隣には自分と同じく全裸のユーノ君
・なんだか違和感がある股間
・ついでにベットのシーツには赤いシミ

というコンボだったんや。

「やっぱそんな感じか!」

そんな感じだったんよ。で、混乱のあまり騒いで頭が痛んで蹲ったりしていたらユーノ君も目を覚ましてな。
もう大変や。やっぱり混乱のあまり騒いで頭が痛んで蹲ったりした後にな、きっぱり責任を取るって言ってくれた。

「おおー。じゃ、そこから……?」

いや。私は混乱のあまり昨日ことは忘れるからユーノ君も忘れて、と言ってささっと服を着てそのホテルから逃げるように帰った。

「……ヘタレ」

そう言わんといてー!?大体ユーノ君のことどう思っているのか自分でも気が付いていなかったし……。
で、それからなー。ユーノ君の顔はまともにみれんし、気が付くとユーノ君の事を考えとるし……。

「自覚したんだね……」

うん。でもな……気恥ずかしくってなあ……。やっぱりユーノ君と会えん。

「……ヘタレ」

だからそう言わんといてー!?だけどな、ある日とあることが発覚してなあ……。

「とあること?」

うん。なんか体調が悪いなー、と思ってシャマルに診てもらったらな……妊娠、してた。

「うわ……」

一発大当たりやったんやな。まあ危険日では無かったけど。確かに中々こんなー、とは思っとったけど。
で、勿論父親は誰だと大騒ぎや。シグナムとヴィータは相手を殺さんばかりの勢いやし、ザフィーラはずっと無言でプレッシャーを放っとるし、シャマルとリインは場合によっては……、てな感じやし。アギトはそうでもなかったけど。

「間違い無くそうなるな」
「うん、なるな」
「ええ、そうね」

そして白状させられた。無限書庫にこれからカチコミをかけんとばかりに盛り上がる八神家!そこで鳴るチャイム!

「うわ、もしかして……」

その通り、ユーノ君や。アギトに迎えられてリビングに入ってくるユーノ君。勿論リビングのボルテージは最高潮。選択肢によっては死にかねん。

「はは……」

で、そんな空気の中な、ユーノ君はいきなり私にプロポーズしてくれた。『はやて。あれから落ち着いて考えたけれど、やっぱり僕は君が好きだ!責任云々は関係無い!僕と結婚して欲しい!』と。

「ほほう」

一気に、こう、なんというかさっきまでと違った方向で混乱するリビング。勿論一番混乱する私。
もう一度、畳み掛けるようにプロポーズの言葉を贈るユーノ君。私は一息ついてそれを受け入れた。

「そんな感じかー」

うん。ユーノ君も私同様あれから想いに気が付いたって言っとった。本当に、嬉しかった。
その後妊娠の事実を伝えるとユーノ君もひときしり混乱した後にえらい喜んでくれてなー。後はとんとん拍子に進んでいった。
ユーノ君はシグナム達と色々OHANASHI、もといお話ししたりしていたけど。
あ、ちなみにユーノ君、リビングの空気、読めてなかったらしいで。緊張でそれどころじゃなかったって。





「以上。私のいきさつはこんな感じやな」

話し終わったはやてが茶を飲む。

「はやてちゃんはそんな感じかー。しかし一発大当たりとは……」
「まあそんなことになったら我々は間違いなく無限書庫に突入しただろうな」

周りも口々に感想を言っている。一息入れたはやてが次のくじを引く。

「んじゃ次いこか。次は……セイン!」
「へ?あたし!?」

ちょっと驚いたようなセイン。

「そうやで。じゃ、はい」
「え、えっと……」





あたしがユーノさんの事を知ったのはJS事件の際に要注意人物として渡された資料に書いてあったから。
それで、表には出てこないけど、無限書庫からゆりかごの情報が出てくる可能性が十分あるっていうことで終盤に暗殺に向かったんだ。

「ふむ。私と違うな。セインは暗殺になど行かなかった」
「あたしも行ってないっスね」
「と、いうかそんな任務があったら先に私から行くと思うけど。私も捕まった?」

うん。勿論先にドゥーエ姉が行ったんだけど、捕縛されちゃったの。結構な戦闘だったらしいよ。あ、その前に最高評議会は殺ってた、もといけりをつけといたらしいけど。
その後あたしが向かったんだけど……今までのデータからISが予想立てられていて、周囲が感知魔法と隠蔽型の罠だらけで捕縛されちゃったんだ。

「へー……」

それで事件、更生プログラムを終えた後、その縁で私とドゥーエ姉の保護責任者はユーノさんになったんだ。

「私と同じね」
「私のところは一人だけシスターシャッハが保護責任者になっていたな」
「あたしもところも」

う……。そうなの?あの人苦手だな……。嫌いな人ではないんだけど。
それはそれとしてあたし達は無限書庫で働き始めたり、保護責任者だからって同居したりして、それからだんだんと惹かれていってやがて……。





「こんな感じかなあ。ドゥーエ姉とデッドヒートを繰り広げていたことを付け加えておく」
「成程……。そこで私が勝ったのが私の世界か……」
「そうなの?」
「そうなのよ」

話終えた後、納得をしている二人。他も感想を言っている。

「ふむ、やっぱりどっかで違いがあるんやね。んじゃあ次行こうか」

はやてがくじを引き、話を先に進める。

「じゃあ次は……チンク!」
「む、私か。じゃあ始めてもいいか?」

チンクが話し始める。ちなみにこちらの世界では眼帯は無い。

「どうぞどうぞ」
「うむ。では……」





私が初めてユーノと出会ったのは、偶然だった。その日、珍しく街を歩いていてな、ちょっとしつこい連中に絡まれた。
仕方ない、叩きのめすかと考え始めたあたりで割って入った人間がいた。それがユーノだった。

「……ベタやな」

私もそう思う。それで、強引に手を引かれてその場から去り、離れたところで二、三言葉を交わして別れた。
これが最初だな。

「それだけ?」

ああ。最初はそれだけだ。無論礼は言ったぞ。
その一月後位か。やはり街中を歩いていたらな、再会した。

「ほう?」

向こうもこちらを覚えていてな、少し嬉しかったよ。多少話をしたら何でも久々の休暇で暇をしていて街をぶらぶらしていたとか。
友人連中は皆仕事をしていて一人だとかでな、暇だったら付き合ってくれないかと言われてな。

「ナンパ?」

そこまで考えてはいないと思う。単に互いに一人だったから誘っただけだろう。
私も暇だったし、もし何かあっても叩きのめせるだけの自信はあったからな、付き合うことにした。
とは言っても本当にそこら辺をぶらぶらしたり、映画を見たり、食事を奢ってもらったりしただけでそのようなことは無かったが。

「デートだね」

確かにデートだな。当時は全然そのようなことを考えなかったが。
そしてその日は適当な時間で別れた。

「ふむふむ」

それでさらに半年後位にな、また会った。公園を歩いていたらなにやらベンチで昼寝をしている男がいて、それがユーノだった。

「ユーノ君、何でそんなところで寝ているの?」

後で聞いたがやはり久々の休暇で暇していて外に出かけたが、つい陽気に誘われて寝てしまったらしい。
私も暇だったからな、一応知り合いだし万一物盗りにでも会ったら後味が悪いと思ってそのまま横に座った。
だが私も陽気に誘われてな……。目が覚めたらユーノに膝枕されていた。

「うわぁ……」

飛び起きたよ。ついでに笑顔で挨拶をされた後、からかわれた。
その後、そのままベンチに座って話をした。その中で連絡先を教えあった。私は偽造というか、官警に職質などをされた時の連絡先だったが。
そしてしばらく話をして別れた。

「それで?それで?」

ああ。それから暫く、四年ほどだな、偶に会って話をしたり、出かけたりした。
……気が付いてはいなかったが、自分の中でユーノの存在は徐々に大きくなっていった。
そのような日々だったが、私たちは行動を本格化させた。

「いわゆるJS事件やね」

そうだな。私は自分の中で何かが引っかかったまま姉妹の為に、ドクターの為にと働いた。忙しくなってユーノに会えないのは残念だと思ったな。
そんな中、渡された要注意人物リストにな、ユーノが載っていた。

「へえ。……ユーノ君の仕事は何かを知らなかったの?」

管理局に勤めているが、前線でなく後方だとしか。
正直、非常にびっくりしたよ。動揺した。その私の様子を見たウーノとクアットロに訊かれてな、知り合いだと白状した。
その場は知り合いでも容赦はするなと釘を刺されただけだったが……。後日、ある命令が私に下った。

「……どんな?」

無限書庫司書長ユーノ=スクライアを誘惑、籠絡し、出来れば味方につけろ、最低でも無限書庫は中立でいるようにしろ、と。

「うわあ……」

私も最初は嫌だ、無理だ、やりたくない、できない、というか私のような体型で大丈夫なのか、いや、でも……と大分混乱したよ。
だが結局はやりに行った。それが皆の為になると思っていたからな。

「……」

まあ結論から言えば失敗したよ。
仕事帰りに部屋で待ち伏せし、そういった香も焚いて、止めろと言うユーノを機人としての力も利用して強引に組み伏せた。だけど出来なかった。
こう、どんどん自分の中でよく分からない感情が溢れてきてな、そこをユーノに突かれた。
そして私はユーノと顔を合わせることができず、何か言っているユーノを無視して逃げ帰った。……よく、分からない感情と共にな。

「……」

それから暫くは酷かった。その感情はどんどん大きくなり、私はそれに気を取られて失敗をいくつもやった。
……やがてもっと大きな、致命的な失敗をするのではないか、と危機感を抱いた私はクアットロにある頼みをしに行った。……感情を薄くする処置を。

「……」

処置をする直前、ユーノの事を思い出した。
でもそれも一瞬、次に目を覚ました時にはよく分からない感情は小さくなっていた。……決して、無くなったわけではなかった。

「……」

ノーヴェやセイン、ウェンディには何度も大丈夫なのか訊かれたな。私はそれに毎回問題無いと返すだけ。
そしてそのまま話は進んでいく。そして何度目かの機動六課との交戦中、ユーノと再会した。

「……」

後で聞いたが資料で私の事を知り、説得するために来たらしい。だが私は取り合わない。しかし私の中で大きくなるよく分からない感情。
そのせいで後れを取った私はだったが、セインに助けられ、その場を離脱した。

「……」

幸い、大きな怪我などは無かった。ユーノが気を使ってくれたのだろう。
私以外も大体うまくいったようで、それは起動した。『聖王のゆりかご』が。

「……」

だが完全になるまではまだ時間がかかる。奴らは必ずここに来る。……恐らく、ユーノも来る。薄くなった感情だがその確信があった。
……今度こそ、後れを取るわけにはいかない。私はもう一度クアットロに頼み、今度は完全に感情を無くしてもらった。

「……」

そしてその時。予想通りユーノは来た。だが感情が無くなった私は何も感じない。
何かを叫ぶユーノ。私はそれを気にせず、スティンガーを投擲しランブルトレイターを発動する。
高密度のAMFの中、きついだろうに防御魔法を起動させ、防ぎ、なおも私に叫ぶユーノ。だが私は何も感じない、気にしない。

「……」

投擲、起動。感情と共に思考も低下しているのか、私はそれ以外何もやらない。
防御、叫ぶ。ユーノもそれ以外はすることを忘れたようにただそれだけを繰り返す。
……それを何度繰り返したか。徐々に、私の失ったはずの感情の中で、何かが膨れ上がってきた。

「……」

そして、私は攻撃が出来なくなった。スティンガーが無くなったわけでもない。ただ……ユーノを、傷つけたくなかった。
崩れ落ちる私。ユーノは、私を支えてくれた。

「……」

そしてユーノに抱きしめられた時、私の中の何かが決壊して、感情が膨れ上がったよ。
私は外見相応の様に泣きじゃくり、ユーノの名を呼び、ユーノにしがみついた。ユーノはその間、ずっと私を優しく撫でてくれた。

「……うわー、ラブだ……」

暫くして落ち着いた。同時に理解した。

――この感情が恋なのか、愛なのかと。

私はユーノに恋をしているのだ、ユーノの事を愛しているのだと。気恥ずかしさのあまりユーノの顔を見られなかった。
……そう悠長なことを言っていられる事態でもなくなったのだが。

「……どうしたの?」

簡単に言うと全部終わったんだな。ドクターはフェイト=テスタロッサに捕まり、クアットロは高町なのはの壁をぶち抜く砲撃に貫かれた。
そして私はユーノに抱きかかえられた。いわゆる、お姫様抱っこと言うやつで。慌てる私。ユーノはそれを気にしない。

「はは……」

そして途中で何人か助けながら、無事に脱出した。

「事件が終わったんだね」

ああ。私達が敗北したというのに、私は実に晴れ晴れとしていた。
そして私は、管理局に引き渡される寸前、ユーノに告白した。

「おおう」

ユーノは『僕も君の事が好きだ。……だから、待っている』と答えてくれた。
今までの生涯で、一番嬉しかった。

「ふむふむ」

そして私は妹達と共に更生プログラムを受けた。時々ユーノも訪ねてくれてな、冷やかされたよ。
やがてそれも終わり、出所する日が来る。勿論、ユーノは待っていてくれた。
出所して、最初にユーノが私にかけた言葉は『おめでとう、チンク。それで、僕と結婚しない?』だった。

「うわー……」

私は最初、何を言われているのか全く分からなかった。落ち着いてそれを理解した途端、真っ赤になった、そうだ。後でノーヴェから聞いた。






「勿論私はそれを受け入れ、そして……。といった感じだった私は」
「ず、随分チンク姉は色々あったんだね」

思わず言うセイン。自分よりかなり濃い。

「まあな」

ちょっと誇らしげなチンク。皆も口々に感想を言っている。

「なんというか、何処のお話、って感じやな……。ま、それはそれとして次いこか」

頷く皆。はやてはくじの箱に手を入れる。

「はてさて、次は……」

そうして夜も更けていく。さて、次は一体誰の番だろうか?















続くかもしれない様な気がしないわけでもないといいかもしれない



[23718] 並行世界の出来事その五
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/12/23 19:45
前回の超あらすじ
・惚気合戦開始
・チンクさんマジヒロイン











「はてさて次は……ティアナ!」
「わ、私ですか……」

ティアナが少し驚く。

「うん。よろしく」
「は、はい。ええっと……」







切っ掛けは……その、私の一目惚れでした。

「一目惚れ!?あのティアが!?」

うっさい!私だって実際体験してみなかったら信じないわよ!

「あー……。ゴメンね」

……まあ分かればいいのよ。それで出会いは私がフェイトさんの補佐官をしていた頃。フェイトさんが無限書庫に用があるからと連れて来られてでした。

「私も同じようにティアナに紹介したなあ。執務官になった後もユーノとコネがあると便利なこともあるだろうって思って」

ありがとうございます。多分、こちらでもフェイトさんは同じように考えて紹介して下さったのだと思います。けれども……私はそれどころではありませんでした。

「まあさっきの話から行くとね……」

ええ。その男性を見た時、何というか、その……全身に電流が走ったと言いますか……。恋に落ちました。
今まで、一目惚れなんてあるわけ無いと馬鹿にしていたのに……。

「フォーリンラブやな」

はい。それで挙動不審になってしまってフェイトさんに心配をかけました。
フェイトさんに申し訳ないと思うと同時にユーノさんに変な子と思われていないか心配になりました。

「うわー……ティア可愛い」

うっさい。それで仕事は……まあ頭を切り替えられたから問題無かったのですが……、その、勉強に手が付かなくなってしまって……。

「何となくわかる気がするなあ」

ええ。ユーノさんのことが気になって手に付かなくて……偶にフェイトさんに勉強を見てもらっていたのですが、心配をかけました。
そんなある日。見かねたフェイトさんが、私じゃなくてユーノに教わったら、と勧めてくれたんです。自分もユーノに教わったからきっとティアナも十分合格できるレベルになるよ、と。
……フェイトさん、自分の教え方が下手だと勘違いしたみたいだったんですよね。多分、フェイトさん少しへこんでいたと思います。本当に申し訳ないです。

「いや、私に謝られても」

それはそうですけど、なんとなく。それで本当に慌てましたよ。でもフェイトさんはそんな私をよそにユーノさんに連絡を取って了承を取り付けてしまいまして。
それで私は慌てて、でも嬉しくて、でもどうしたらいいかわからなくて、でも嬉しくて、でもどうしたらいいかわからなくて……、と分かり易く混乱しました。

「ふむふむ」

それでユーノさんと二人きりでの勉強会が始まりました。最初の方は本当にいろいろ大変でした。主に私の精神的に。
私はどうしたらよいのか分からなくてひたすら混乱したり、赤くなったり。ユーノさんはそんな私を調子が悪いのかと心配してくれたり……。

「はは……」

……まあ、けれども人間は慣れるもので、ユーノさんに勉強を教わることにもだんだん慣れていきました。少なくとも、普通に勉強を教わる事が出来るくらいには。
最も、ユーノさんと接していくにつれて私は更にユーノさんに惹かれていきましたけど。

「それで?」

はい。それで私は見事一発で合格することが出来ました。ついでにユーノさんから攻撃用以外の魔法もそれなりバリエーションを教わり、戦闘非戦闘問わず幅が広がりました。
戦争時、私の戦闘方法を性格が悪いとおっしゃられた方もいますけど、私にとってそれは褒め言葉です。

「単純な魔法のバリエーションならリイン、はやての方が多いんだけど……お前はそれを応用する力が凄いからな……」

ええ。時に不意を打ち先手を取り、時に幻術で惑わし、時に罠に嵌め、時に味方と連携し強化や火力支援を、時に遣り合わずに追うことができるくらいに撤退・孤立させ各個撃破、そして時に正面から打ち砕く。
もう一度言いますが、私にとって性格が悪いとか、卑怯だとかは褒め言葉ですよ。

「そ、そうか……」

はい。っと横道にそれましたね。それで執務官試験に合格した報告をユーノさんにしに行った時……告白しました。

「おおー」

とは言っても、ユーノさん、その時点で私からはそういった感情を向けられていることに気が付いていなくて、考えたことも無かったから、少なくともすぐに付き合うことはできない、と断られました。

「まあユーノ君はそういうやろうな……。それでどうしたんや?」

はい。まあ一回宣言した以上は怖いものは無い、と開き直ってユーノさんに攻め入りました。休暇のたびにユーノさんの元に行く私。
執務官となり、忙しくなりましたが別に構いません。ユーノさんと共に過ごせるときが私の最高の休暇ですから。日頃の世話から、デート等色々やりました。
――そして足かけ三年、見事陥落に成功しました。







「以上です。私の場合はこんな感じでしたね」
「それにしてもティアが一目惚れか……。なんか場面場面を想像してみたらティアが凄くかわいい」
「うっさい」

スバルの言葉に反応するティアナ。とは言っても本気で嫌がっている素振りは無いが。周りも感想を言っている。

「はー……。一目惚れか。そんなこともあるんやね。次は……フェイトちゃん!
「私?」

はやての言葉に少し驚いたように声を上げるフェイト。

「うん。ほら」

くじを見せるはやて。

「あ、本当だ。それじゃあ、えっと……」







私とユーノの出会いは、私が母さんの命令でジュエルシードを集めていた、いわゆるPT事件の最中。
白い魔導師の少女―なのは―と初めて出会ったのと同じ時だった。

「私の所と一緒だね」

そっか。それで、紆余曲折の末、PT事件は終わった。私とアルフはクロノ達に捕まって母さんはアリシアと共に虚数空間に消えた。

「資料と一緒ですわね」

うん。そして……なのはと親友になった。

「そうストレートに言われるとちょっと照れるよ」

うん、私も。それでその後は暫くビデオレターでやり取りをしていたんだけど、なのはの話にちょくちょくユーノっていう男の子の話が出てくるんだよね。
多分、あの元フェレットの男の子の事だとは思ったけど、興味を持ったんだ。

「へー……」

それで裁判の時、証言してもらうためにユーノが来た。まともに話すのはそれが初めてだった。
結構、いろんな話をしたんだよ。なのはの事やら魔法の事やらから始まって、私が全く知らないような文明の話とか。私はこれまで母さんの事と魔法の事しか考えてこなかったからユーノの話は新鮮だった。

「ふむふむ」

そしてその後もいい友人だった。クロノが義兄になったから、間違いなく最も親しい異性の友人だった。
少しそれが変わったのは、執務官試験の勉強に付き合ってもらった後からかな。

「どう変わったの?」

うん。その後からユーノの事を意識し始めたんだ。とは言っても恋愛的な意味では無かったけど。

「……どういう意味ですか?」

結構、執務官試験で一緒に過ごした時間が長かったから、今まで良く見えなかったユーノの欠点が見えてきたんだ。
具体的には――私生活。

「……ああ、成程」

多分、みんな分かっていると思うけど、ユーノ、私生活はあまり頓着しないというか、顧みないというか……だらしないでしょ?

「ええ。そうですよね」

だから、偶にユーノの家の掃除をしに行くようになったんだ。気が付いたら洗濯をやるようになって、御飯を作ったりするのが普通になったけど。

「はは……」

まあそんなこんなで年月が経った。気が付けばユーノの部屋の私の私物もだいぶ増えた。マグやら、歯ブラシやら化粧品なんかはもとより、普通に、ベッドこそないけど私の布団とか、下着まであったからね。

「同棲?」

してないよ。一応、なのはとルームシェアしていた。
そしてJS事件が終わって、なのはとヴィヴィオは親子となった。一緒に暮らさないかと誘われたけど……偶に遊びに行くのならともかく、親子水入らずを邪魔するのも、と思って断ったんだ。
それで適当な場所を探そうと思ったんだけど……忙しくて。

「……ああ。それで……」

うん。それで半ばユーノの所に転がり込むような形になっちゃったんだ。まあ、長い任務の後にある程度のまとまった休暇という形が普通だから、それほど気にはならなかったよ。

「周りの反応はどうだったの?」

私もユーノも気が付いていなかった、というより気にしていなかった、というのが正しいね。
後ではやてに聞いたところ、すでに何年か前からの状態が状態だったから誰も気にしていなかったらしいけど。

「はは……」

それからさらに何年か経って、ある日、家計簿をつけていた時にね、気が付いたんだよ。

「何を?」

結婚していたほうが税金やら保険やらが安いんだよ!
だから「ユーノー。結婚しようか。税金とか安くなるし」「そうなの?じゃあ結婚しようか」「うん。じゃ、明日役場に行こうよ」「分かった」って……。







「私の場合はこんな感じ。恋愛の、恋の部分をすっ飛ばしたんだよね。愛はあったと思うけど」
「……三秒ルートかい」

話を聞いたはやてがぼやく。周りも感想を言っている。

「ちなみに結婚したことはアルフ以外には一年くらい気が付かれなかったよ」
「そんなにですか!?」

ティアナがつっこむ。

「うん。だって結婚しても変わったのはせいぜい肉体関係が増えたくらいだったし。アルフは初体験後の私からの繋がりで分かったらしいけど。最中は切ってたんだけどね。
 姓も、仕事の時と、役場に出している正式なのは別でも大丈夫だったし」

皆微妙な反応。基本的に苦笑い。

「知られた後は、え、そんなに最近なの!?、という反応と、ちゃんと報告しろ、という反応の二種類だったなあ……。
 それでクロノに結婚式位挙げろ、って言われて……その時にこの指輪を貰ったんだよね。その頃から恋愛の恋の部分が芽生えたんだ」

そんなことを言っているフェイト。

「ま、まあそれはそれとして、次に行こう。次は……」

そして続いていく。さて、次は――――?










おまけ1 その頃のクラナガン市内、とある居酒屋

二人の女性が向かい合って飲んでいる。テーブルにはビールの大ジョッキが二つとつきだし。

「それにしても、こうやって女二人で飲むのも久しぶりねー」
「そうね」

片方の女性の名はクイント=ナカジマ。そしてもう片方の女性の名は……

「やっぱあんたが再婚したからかな。まさか隊長と再婚するとは思ってもみなかったけど」
「あらそうかしら?」

メガーヌ=A=グランガイツといった。



「そうよ。部隊にいるころはそんなことは全然匂わせなかったのに」
「あら。割とその頃から好意は持っていたわよ。最も、交際して再婚を望むほどではなかったけれど」

そう言うメガーヌ。クイントは訊く。

「じゃあどうして?」
「ルーテシアがね、あの人に凄くなついてね……。それにあの人もまんざらでないみたいだったし、やっぱり父親が必要なのかなって思って。勿論、そこから一緒に過ごす時間も増えて、惹かれていったのは間違いないけど」
「へー……」

微妙に納得したような顔のクイント。

「まあ今日はそこら辺を肴に飲みましょうか」
「あら。惚気るけど良いの?」
「良いわよ。こっちも旦那とのことを惚気させてもらうから」

そんな話していると注文した物も来る。そうして女二人の飲み会は続いて行った。











おまけ2 男だらけの温泉旅行 場面1

将棋盤をはさんで二人の男が向かい合っている。一人は無限書庫司書長ユーノ=スクライア。もう一人は元次元犯罪者、現時空管理局技術部所属ジェイル=スカリエッティ。
パチリ、と駒を打つ音が聞こえる。

「む……」

ユーノが打ったその一手。ジェイルは考え――

「詰みだ。私の負けのようだね」
「はい。僕の勝ちですね」

敗北を宣言した。同時に勝利を宣言するユーノ。
そしてそれを傍で見ていた二人。

「なあエリオの坊主」
「なんですか、ゲンヤさん」
「お前、将棋のルール分かったよな。……何であそこから投了宣言するか分かるか?」
「全く分かりません」
「だよな……。何手先を読んでいるんだよ、あの二人は……」

そんなことを言っている。

「はっはっは!これでチェス、碁と続いて三種目目は私の負けか。これで一勝二敗。いや、今までこういったゲームは興味が無かったが、対等な対戦相手がいると楽しいものだね!」

負けたのにも拘わらず上機嫌なジェイル。次の物を取り出す。

「次はこれだ。ふむ、軍人将棋?」
「なんでそんなのがあるんだ、この旅館?」

思わずユーノがぼやく。

「おや?知っているのかね?」
「ええ」
「ふむ。私は知らないのでルールを一回把握させてもらうよ。今度は私が勝たせてもらうからね」
「いいえ。今度も僕が勝たせてもらいますよ」
「はっはっは!そうかそうか!」

やはり上機嫌なジェイルとなんだかんだで楽しそうなユーノであった。









おまけ3 男だらけの温泉旅行 場面2 (壊れ注意) 

「いいや、ノーヴェはうちの娘だ!」
「何を言っているのかね!ノーヴェはうちの娘だよ!」

夜の露天風呂。ゲンヤとジェイルが言い争っている。

「だがあの娘はクイントのクローンなんだろう!?ならばうちの娘だ!」
「私があの子を生み出した!だからうちの娘だ!」

きっかけはささいなこと。旅行に行く少し前、ノーヴェが思わずゲンヤを父さん、と呼んだ。
ゲンヤはノーヴェがギンガとスバル同様、妻クイントのクローンだと話に聞いていたし、素直でないながらも自分を慕ってくれているのは何となくわかっていたのでいっそうちの子にならないかと言った。
それを聞いて黙っていなかったのはジェイル。何故ならば彼は今となっては――立派な親馬鹿になっていたからだ。

「だがあの子は俺を“父さん”と呼んだ!」
「ただの言い間違いだ!ノーヴェもそう言っただろう!」

念の為言っておくが、普段二人は仲が悪いわけではない。むしろ良い。特にゲンヤは最初こそ不信感があったが、今ではいざと言う時にギンガやスバルを診てもらえる相手として信頼している。

「大体、そっちはそう呼ばれたことがあるのか!」
「くっ……!」

言葉に詰まるジェイル。それは実は今のジェイルの最大の目標だったりする。

「はっはっは!どうやら俺の勝ちのようだな!!!」
「くぅっ!」

高らかに勝利を宣言するゲンヤ。項垂れるジェイル。
そしてそれを見ていた他の人間。

「だが一番はあの子の意志だと思うが」
「あの二人以外は皆分かっているよ、クロノ」
「それもそうだな」

そんなことを言っている。

「はーはっはっはっはっは!!!」
「くっ!我が娘たちよ、何時か父と呼ばせてみせるぞー!」

そんなジェイルの叫びが夜空に響き渡った。












続いたけれどまた続くとは限らない。
後どうでもいいことだけど軍将の審判やったのはエリオ。



[23718] 並行世界の出来事その六
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2011/01/01 18:22
前回の超あらすじ
・人生を一番謳歌しているのはスカさん












「ま、まあそれはそれとして、次に行こう。次は……ヴィータ!」
「あたしか」

ヴィータに当たったようだ。ウーロンハイで口の中の物を流し込むヴィータ。

「ふう……。じゃ、はじめていいかな?」
「どうぞどうぞ」







あたしとユーノとの出会いは闇の書事件の最中。白い魔導師―なのは―を追いつめた時に現れたのがユーノとフェイトだった。

「私の所と同じだね」

そっか。で、まあ紆余曲折の末事件は終わった。で、その後にあたし達とユーノ達は改めて自己紹介をし合った。その頃はまだそういった感情は無かったな。
それで暫くは友人だった。

「ふんふん」

それが変わったのはなのはが墜ちた事件。あの時だ。

「ほう。どう変わったんや?」

あたし達な、二人でえらく鬱になったんだよ。あたしは現場にいたのに守れなかったと、ユーノは魔法を教えてこちらの世界に巻き込んだと、そういう責任を感じてな。

「……何度も言っているけどそれは二人に責任は無いよ。私が調子に乗って体調管理を怠っていただけなんだから」

そう言われてもあたし達は納得しないだろう?

「うん」

まあそういうわけで二人してかなり鬱になっていたわけだ。
喧嘩もした。あたしの責任だ、いや僕の責任だ、何言ってやがるあたしに決まってんだろ、馬鹿言うな僕に決まっている、みたいな感じでな。

「うわ……」

なのはの前ではそんなところを見せないようにしたけど。
まあそれでな……なんていうか、徐々にお互いの傷?を舐めあう関係みたいになって……。なのはが退院する頃には一緒にいるのが普通になってたな。

「へー……」

多分、お互いどこかで互いに依存していたんだと思う。
それで後はまあ……フェイトみたいに、だな。流石に税金云々な理由では無かったけど。







「以上。簡単にだけどあたしはこんな感じ」
「依存ってどんな感じだったん?」

周りが感想を言っている中、はやてがそんな疑問を言う。

「んー。ピーク時は二日もユーノに会わないと精神的に不安定になっていたな」
「そこまで来ると精神病だと思うんやけど」

はやてがぼやく。

「……まあ実際そうなんだよな。自覚があったけど病んでた。ユーノが見知らぬ女と話していると無意識にアイゼンを握りしめててふと我に返る、みたいなこともあったし。
 ユーノと二人でカウンセリングを受けに行ったこともあったな。年が経つにしたがって落ち着いたけど」
「うわあ……。ま、まあ次に行こう。えっと次は……気になるのが来たなあ。クアットロ!」
「あら。私ですかー?」

クアットロがそう言う。なんだか話したくて堪らなそうだ。

「凄い興味深いんだけど」
「私も興味深いな」

セインとチンクがそう言う。

「あら、そうかしら。それでは話しますわー。ええっと……」







私とユーノさんの出会いは私が無限書庫に潜入任務を負った時でしたわ。

「潜入任務……?私の所はそのようなことをしていなかったぞ」
「私の所もしていなかったな」
「っていうかその手の工作は私がやると思うけど」

あら?そうですの?ちなみにドゥーエ姉様が無理だった理由は後で。そして他の面子を見渡してみると……見事に適任者がいない。
トーレ姉様やディエチちゃん、ノーヴェちゃんは戦闘専門だし、セインちゃんやウェンディちゃんは性格があれ。チンクちゃんは外見に特徴があり過ぎ、セッテちゃん、オットーちゃん、ディードちゃんに至ってはまだ生まれていない。
強いて言えばウーノ姉様ですけど……ウーノ姉様はドクターの傍から離れるわけにはいきませんし。と、いうわけで私になったのですわ。

「性格があれって……。まあそれはともかく、何で書庫に潜入したの?」

あら。そういえば言っていませんでしたわね。まあ簡単に言うとロストロギアの奪取ですよ。幸い、持ち出せる状態でしたしね。

「へー……」

でもそれが持ち出せる状態だとは言え現実に持ち出せるかというとまた別問題。司書長権限が必要な所にあったのですわ。
だから最初はドゥーエ姉様がプロテクトなんかを破って何とかしようと思ったのですけど……。

「無理だったんだね。書庫のそういったのは凄いからね……。性格も悪いし。主にユーノさんのせいだけど」

ええ、その通り。精々、侵入した痕跡を残さないのが精いっぱいだったとのことでしたわ。

「正直それでも凄いと思う」

だから如何にかして司書長殿を丸め込む必要が出てきたのですわ。よって他で長期潜入任務をしているドゥーエ姉様は駄目。

「それでお前が潜入したのか」

その通りですよ。籠絡するために。それに無限書庫の司書長なら味方に付けることが出来たら他にも役に立つことがあるだろうって。
そして私は髪型を変えて眼鏡を外し『フィーア』という偽名を使って無限書庫の司書になりました。

「ああ、だからユーノはお前の事を『フィー』と呼んでいるのか」

ええ、そうですわ。
そして私は籠絡作戦を開始しました。それこそ無意識と思わせての肉体的な密着やら弁当作りやらなんやらから始まって、やや親しくなっていったら普段の生活の面倒まで。
何度か高町なのはと鉢合わせて張り合ったりすることもありましたね。

「……私と?」

ええ、そうですわ。……多分、貴女も彼に好意を持っていたのでしょう。
何はともあれ、そうやって私は彼を利用するために籠絡しようとしていましたわ。けれども……。

「けれども?」

……けれども、私は本気になってしまいました。自覚はありませんでしたけどね。

「おおう」

今まで周りにいないタイプで。最初こそ内心馬鹿にしていたのですけど、その人柄に触れていくうちに……。

「うわー……。とてもあのクア姉とは思えない」

うっさい、ですわ。まあそれで結局迷っている内に帰還命令が下されました。私は葛藤しましたが帰還しました。結局目的は果たせませんでした。
そして……私達は行動を本格化させました。

「JS事件の始まりだね」

ええ。そうですわ。そして事件は……まあ私達が敗北しましたね。
ええ、今でもあの最後のあの壁をぶち抜いてきた桃色の破壊光線は忘れられませんわ。偶に夢に出てきます。

「はは……私達との事件の差異は無いのかな?」

多分、ありませんわね。ドゥーエ姉様やトーレ姉様、チンクちゃんにセインちゃんにノーヴェちゃんから聞いたものから考えると。

「あたしは訊かれていないっス……」

まあその頃には予想が出来ていたから。
それで話が再び動くのは私が軌道拘置所に入ってから。
私は周りの司法取引やらなんやらの言葉には耳を傾けず、ただそこに居ました。楽しみはあの無限書庫で働いていた日々を思い返すことくらいでしたわね。

「……」

そんなある日、私を訪ねてきた人がいたのですわ。

「ユーノ君?」

ええ。私は彼を見た時、嬉しさやら失望やらが沸き起こりました。

「嬉しさは分かるけど何故失望?」

ああ、彼も管理局に従って私にでも会いに来たのかと思って。どうせ記録で私が無限書庫にいた事は知られているのでしょうしね。
まあそうではなかったのですけど。

「と、いうと?」

ただ単純に私に会いに来たくれただけでしたわ。そして私とまるで久しぶりに会った友人と雑談をするような感じでその日は終わりました。

「……」

それから何度か会いに来てくれました。けれども彼は私に司法取引云々とかそういった話は一切しませんでした。そしてある日、私は彼に訊ねます。

「何を?」

何故そういった話をしないのか、と。彼は言いました。友人に会うのがおかしなことかな、と。

「あー、言いそう」

ええ。それで私はその言葉に一瞬呆けました。そしてまた不満が出てきました。

「どんな?」

私は友人か、と。そしてその日、彼が帰った後にその不満の理由を考えて……自覚しました。

「おおう」

自覚したからにはいろいろ考えが止まりませんでした。彼の傍に居たい、とか彼と共に生きたい、とか彼を他の女に取られたくない、むしろ次に会った時結婚報告とかされたらどうしよう、とか……。

「……なんだかクア姉が凄く可愛いんだけど」

うっさい、ですわ。それでいっそ司法取引に応じようか、とかいや、そんなことは……と迷っていたある日、私に一通のメールが届きます。

「……誰から?」

ウーノ姉様からでした。勿論検閲はされていたのでしょうけど。

「内容は?」

ただ一言『自分に素直になりなさい』と。……どうやらウーノ姉様には全てを見透かされていたみたいだったのですわ。出所した後、聞いたところでは私の様子が書庫にいた頃から変だったとかで。
まあそれで……私は決心をしました。

「そっか」

ええ。そして妹達に遅れること一年少し、私も社会復帰プログラムを受け始めました。妹達にはとても驚かれましたわね。
その後、出所して、ユーノさんが保護責任者となってくれて、私は再び無限書庫で働き始めました。
そして何時かの様に、但しあの時とは違って自分の本心から彼の事を手に入れるために行動を開始して……。







「まあこんな感じですわね。それで陥落に成功して結婚をしました」

そう言って一息つくクアットロ。周りも感想を言っている。そんな中はやては訊く。

「んー……。でもあんたの罪状だととても簡単には出てこれるとは思えへんけど。どうやったん?」
「まあ司法取引、というやつですよー。それにそちらでは私が潜入していないのでしょう?そちらでその頃にやった罪状はありませんし」
「それにユーノの影響か、性格が大分丸いからな。だから内容が違うとかもあるのだろう」

クアットロが答え、チンクが補足を入れる。

「あら?そっちの私はそんなに性格が悪かったかしら?」
「ああ。性格が悪い、という意味ではお前と変わらんがあっちはそういった意味で無く、外道だったな。満面の笑みで『無力な命を弄んだり蹂躙したり、もがく様を観察するのが楽しい』みたいなことを言っていたぞ」
「ふむ……確かに、彼の影響を受けなければそうなっていたかもしれないわね」

チンクの言葉に頷いているクアットロ。

「ふむ……気になるのが一人終わったとこで次にいこか。次は……」

そうして続いていく。次は誰になるのであろうか?










おまけ 男だらけの温泉旅行 場面3

「ほう、これが酒か……」
「なんでえ。飲んだことが無かったのか?」

宴会場。夕食時。ずっとウーロン茶を飲んでいたが、勧められて酒を口にしたジェイルが漏らした一言にゲンヤが反応する。

「ああ、初めてだよ。クアットロが作ったブランデーが入ったケーキを食べたことはあるが、それは飲酒にならないだろう?ちなみにケーキは凄く美味かった!」
「そういやうちに来た時も酒は飲んでいなかったか」

親馬鹿発言は無視して頷いているゲンヤ。

「で、どうだい?」
「ふむ。中々に美味いね。少々鼻にアルコールが来るが」

ちなみに飲んでいるのは日本酒の様な酒。

「熱燗だしな。で、どうだいもう一杯?」
「貰おう」

そう言って猪口を差し出すジェイルに注いでやるゲンヤ。

「いや、酔っ払いたちが酒を飲む理由が少し分かった気がするよ」
「そうかい。だがあのザル達に張り合って飲まない様に。ああなるぞ」
「はい?」
「ん?」
「む?」

そう言ってユーノ、ザフィーラ、ゼスト、そしてクロノをを指さすゲンヤ。クロノは撃沈済みで既に寝ている。

「……気を付けよう。私も注ぐべきなのかな?」
「そうだな。それが酒飲みの礼儀だな」

そして空になったゲンヤの猪口に酒を注ぐジェイルだった。












続いたんだけど最後まで続くとは限らない。
ちなみにクアットロルートは選択肢を少し変えると、なのユノクアルートへ。その場合、なのはさんとクア姉は普段は仲良く喧嘩をしていますw
なのはさんが(一悶着あったがクア姉にも懐いた)ヴィヴィオを味方につけようとすると「私はなのはママの味方でもクアママの味方でもなくてパパの味方」って言われたりとかw



[23718] 並行世界の出来事その七
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2011/01/22 20:17
前回の超あらすじ
・四番目の姉がこんなに可愛いわけがない(六番さん・仮名)








「ふむ……気になるのが一人終わったとこで次にいこか。次は……シグナム!」
「私ですか」

フェイト、トーレ、チンクと共に熱燗をやりながらおでんをつついていたシグナムがはやての方を向く。

「せやで。ほな、よろしく」
「はい。それでは……」





私とユーノの出会いは……まあヴィータのそれとあまり変わらんな。闇の書事件の最中だった。
事件が終わった後、改めて自己紹介などし、友人となったのも同じだ。

「ふむ。それで?」

ああ。そして暫く月日が流れた。その間、小さな事件はいくつかあったが……割愛してもいい所、だな。ユーノも直接関係は無いし。
ユーノとは正月やらなんやらの時に皆と共に会ったり、偶に主が夕飯に連れて来たり、模擬戦の時に結界を張るのを依頼したりして会っていたくらいだな。……ああ、勿論書庫が忙しくない時だぞ。
……まあ主や高町、テスタロッサなどと比べると親しいわけでは無かったな。

「ふんふん」

話が動くのは私がある任務の際に瀕死の重傷を負った時から。

「瀕死の重傷?そんなこと……まあ無かったわけやないけど、何時や?」

新暦73年頃ですね。

「そんな時期にはそんなこと無かったなあ」
「あたしのところもなかったなあ」

そうなのですか?……では、まさしくそれが分岐点だったのでしょう。とにかく私は重傷を負い、運びこまれた。

「それで?」

ああ、純粋な負傷はシャマルが何とかできるレベルだったのだが……その傷を負わせた弾丸に特殊なものが使われていてな。

「どういう?」

私達のような存在、つまり魔法生命体用の特殊なものが使われていたらしい。なんでも古代ベルカの遺跡から発掘した物を弾頭に組み込んだようでな。
そして……私は魔法が使えなくなった。

「え?どうやって?」

後で聞いたが、正直私では理屈は理解できなかった。主やシャマル、それにユーノは分かったそうだが。とにかく、私は魔法が使えなくなってしまったわけだ。

「ふむ」

正直、凄くショックだった。いや、そのような言葉では生温いな。私は何故生きているのかとまで思ったよ。魔法を使えない、主を護ることができない私など、とな。

「……なあシグナム。怒ってええか?」

いえ。その件では散々主に説教されましたから、できれば遠慮をしたいです。まあ当時は動揺していたと……。

「まあええか。それで?」

はい。それで……暫くは無気力状態だったのですが、やがて少しは立ち直り、戦うことができないのなら他の事をやろうと、家事を覚え始めました。

「ふんふん。で、ユーノは何処に絡んでくるんだ?」

ああ。……ユーノはな、原因と対処法を無限書庫で必死に探してくれていた。当然他の仕事もあり、忙しいのに。
私の事は管理局的に言えば高ランクの魔導師が一人殉職したのと大して変わらないからな、仕事にできないから勤務外時間で必死に探してくれていたんだ。
勿論、主を始めとする他の人間も探してくれたが、やはりそこで働いているユーノには敵わない。検索の質も、時間も。
それで、私はその役に立たないから、せめて差し入れ位はしようと思って、差し入れを持って行ったんだ。

「ほうほう」

そしてな、無限書庫に入り、ユーノの姿を見た。こちらに気が付いていないようで背中を向け、検索魔法を行使している。
その無数の本が舞う中心にある背中を見て感じたんだ。

「どういう風に?」

――ああ、あいつも男なんだな、と。
正直、今まではあまりそう感じていなかったからな。私はその時からユーノの事を異性として認識するようになった。

「へー……」

そして、そう意識したらな……段々惹かれていった。
なんというか、それまでとは全然違うんだ。こちらに向けてくれる言葉から笑顔から何まで。勿論、私の精神的なものが影響しているのだろうが。

「そういうものなんだ」

ああ。そしてある日な、気が付いた。

「何て?」

私は、ユーノの事が好きなのだと。……恋に時間は関係ないというが……まさしくそんな感じだったな。
そして、ほぼ同時に私の治療法も見つかった。

「そっか」

ああ。そして私は無事に再び魔法が使えるようになった。
そして私は勢いに任せてユーノに告白した。

「おお」

あの時のユーノの反応は今でも覚えているよ。少し固まった後、一言『……え?』と言われた。
もう一度言葉をぶつけると、酷く吃驚していたな。そして考えたことなど無かったから、すぐにはそう言う関係にはなれない、と断られた。

「私の時と似ていますね」

そうだな。その後も同じような感じだ。開き直って攻め入ったからな。
そしてJS事件後、ユーノと恋人になった。






「そして一年ほど交際した後、結婚して……、といった感じだな」

そしてシグナムは一口酒を飲む。周りが感想を言っている中、はやてがシグナムに訊ねた。

「で、あのユノユノ、シグシグ、ってのは何なんや?」
「いや……恋人となったのは良かったのですが、どういうのが恋人らしいかよく分からなくて。それで主に相談したら、愛称で呼びあったらどうだ、と言われまして」
「……あー。多分、洒落で言ったんだと思うんやけど……」
「そうなのですか?」

少々驚いたようなシグナム。

「多分。……まあ次行こーか。次は……シャマル!」
「私の番ですか」

デザートの自家製プリン(セイン作)を食べていたシャマルが顔を上げる。

「せやで。ほなよろしく」
「分かったわ。じゃあ……」






出会いは、シグナムやヴィータちゃんと変わらないわね。事件の後、自己紹介をし合って友人になったところも含めて。

「ふんふん」

それで、二人同様そういった感情は無かったわ。友人だった。
でもね……

「でも?」

無限書庫の開拓が進むうちにね、段々ユーノ君は忙しくなっていって……何度か、医局に運び込まれるようなことがあったのよ。

「うわ……。こっちでは一回あった程度だったはずだけど……」

そうなの?まあそれでね、私にとって何と言うか、目が離せない、危なっかしい存在になっていったのよ。

「ふんふん」

何度言っても睡眠時間は少ないし、栄養のバランスも偏っているし……。

「はは……」

まあ、それで思ったのよ。

「何て?」

言うだけじゃ駄目だ。ちゃんと私が面倒を見ないと、って。

「うわー……」

それで何此れとユーノ君の世話を焼くようになっていったわ。
そして後はヴィータちゃんやフェイトちゃん同様、段々一緒にいることが自然になって……。





「私の場合はこんな感じね」
「んー……。なんて言うか駄目な夫の世話を焼く女房?」
「……あまり間違っていないのが何とも。生活習慣が駄目なところなわけだけど」

そんなことを言うはやてに、何ともいえない顔で答えを返すシャマル。周りも感想を言っている。

「ヴィータちゃんやフェイトちゃんは一緒にいることが自然になって、っていう感じだったみたいだったけど、私はね、何というか『私がいないと駄目になるんじゃ』っていう感じだったの。
 でもね、優しいし、感謝しているのは伝わってくるし……」
「……本気で駄目な夫の世話を焼く女房やな。……次にいこか。次は……また気になるのが来たなあ。トーレ!」
「私か」

前述の通り、フェイト、シグナム、チンクとおでんをつついていたトーレが反応する。

「ある意味クア姉以上に気になるんだけど」
「そうか。まあ聞け。では……」





始まりはJS事件の最終段階で、私はドクターの研究所にてフェイト――当時はお嬢様と呼んでいたな――と交戦、敗北、捕縛され、目を覚ました所からだ。

「何があったの?」

私は……全ての記憶を失っていた。

「……え?」

記憶喪失、という奴だ。とは言っても最初は無論、信じてなど貰えなかったな。

「まあ、そうだろうな」

ああ。それでもそれなりに、素直に様々な質問に答えたりしている内に一応信じてもらえた。そして私も更生プログラムを受けることになった。

「ふんふん」

……だが正直、私は精神的にな、不安定というか……そんな感じだった。何しろ記憶という、いわば精神の背骨の様なものが無くなってしまったわけだから。
妹達と同じ施設だったのならまだ多少は違かったのだろうが、私は前線指揮官の様なポジションでもあったからな。妹達とは違う施設にいたんだ

「成程……」

そんな中、一人の男が私を訪ねてきた。それがユーノだった。

「それで?」

それで話をした。正直新鮮だった。何しろ施設にいる人間は私が目を覚ました時からいたからな。正直記憶も無いのに犯罪者扱いされていたからな……苦手意識を持っていたんだ。
それに言った通り精神的に不安定で、気弱になっていたからな……。
ああ……ちなみにこの後、ユーノは私の保護責任者になるのだが……、後で聞いたところ、既にその頃にはユーノが私の保護責任者になることはほぼ決まっていたらしい。前線でないとか、いざという時の隔離が容易だという理由やらなんやらでな。

「気弱なトーレ姉……ちょっと見てみたいかも」

それで、月に一回くらいユーノに会うようになった。正直、それが一番楽しい時間だった。私は段々とユーノに惹かれていった。いや、寧ろ依存に近いかもしれない。新たに出来上がっていく精神の背骨、その中に確実に食い込んでいくのだから。
……今考えると、弱っている時に精神的に付け込まれた、という見方もできるが。無論、ユーノにそんな考えは無かったのだろうが。

「はは……」

まあ、当時の私はそこまで考えなかった。正確には考えが頭に回らなかった。
そして出所し、無限書庫で働き始めた。そうしたらな、とあることに考えがいった。

「どういう?」

ユーノとの関係だ。今はまだ保護責任者という事で共にいられる。だが……いずれは、離れなければいけないのだろうか、そんなことは嫌だ、と。……言った通り、依存気味だったこともあってな、そう思った。

「なんかトーレ姉も可愛いんだけど」

よって私はな、ユーノとずっと一緒に居られるようにと行動を開始して……。






「と、いった感じだ。そして見事私とユーノは結婚した」

そして酒を一口飲むトーレ。そして周りが感想を言っている中、セインが訊ねる。

「でもなんて言うか、今のトーレ姉からはそんな気弱な所が感じられないんだけど。その後もそんな調子だったら今もそんな感じでしょ?」
「ああ、それはな、やがて信頼されるようになって、武装して危険区域の開拓を任されるようになったんだ。そして戦闘を繰り返すうちに段々自信を取り戻していった」
「へえ……」

トーレの説明に納得の声を上げているセイン。チンクも訊ねる。

「結局、記憶は戻ったのか?」
「ああ。だが、一番上の子供も成人する頃でな……殆ど無意味だった。……正直、もっと早く戻っていればせめてセッテ位は説得したかったのだが……既に死んでいたからな」

多分、セッテは完全な調整は済んでいなかったのだろう、と何ともいえないような表情で言っている。

「あー……だからトーレ姉はセッテには一番厳しくて、一番甘いんだ」
「セッテに限らず妹達には皆、厳しく甘いつもりだがな」

セインの言葉にそう言うトーレ。

「記憶喪失、か……。そんなこともあるんやな……。まあ次にいこか。次は……」

そしてはやてが話を進める。さて、次は――。









つ、続いたけど最後まで続くかは分からないんだからねっ!
後、この話ではトーレさんはシスコン。別にセッテに限らずシスコン。
後、シグナムルートではメイドシグナムが見られたりとかする。
ついでにシャマルルートのユーノ君は、全ルート中一番私生活が駄目な人。



[23718] 並行世界の出来事その八
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2011/05/22 18:04
前回までの超あらすじ
・そろそろあらすじを考えるのが面倒になってきたからこれまでの話を読んでね!






「まあ次にいこか。次は……ギンガ!」
「私ですか」

セインやウェンディと味噌仕立て鶏団子鍋を食べていたギンガが反応する。

「よろしく」
「はい。と言っても皆さんみたいに色々あったわけではありませんけど。では……」






私とユーノさんの出会いはお見合いの席でです。

「……お見合い?」

ええ。後でユーノさんに聞いたところ、何でもちょっと断れないような筋から、結婚とは言わないがいい加減見合い位したらどうだ、と言われたそうです。
それでユーノさんが周りに、直接の面識は無くて、予め断るという事を伝えられて角が立たないような人間はいないか、と相談したらしいんです。
そうしたら紆余曲折の末、私に話が回ってきました。

「へー……。何時ぐらいの話?」

えっと、チンク達が養子に来た頃でしたね、確か。

「ならまだ独身でいたかったのかもね」

かもしれませんね。まあユーノさん、自分を過小評価するところがありますから、もしかしたら面識がある人間ならともかくそうでない人といてもつまらない思いをさせるだけ、とか思っていたのかもしれません。

「確かにね」

はい。話を戻します。
最初、自分にそんな話が来たときはびっくりしました。更にそれがかなりのお偉いさんだと知って二度びっくりしました。
まあ形式だけで本当に結婚までいくわけでは無いから、と聞かされて納得しましたけど。
それで適当に話をして美味しい物を食べてくるだけだから、と言われて私はお見合いに行きました。

「ふんふん。それで?」

まあそれでお見合いの席で会話をしている内に……何というか意気投合したというか。

「どんな風に?」

手間がかかる妹達のことで。

「ユーノに妹なんていないと思うけど」

えー……っと、その、なのはさんとかハラオウン提督を始めとする幼馴染達のことです。

「……」
「……」
「……」

ま、まあとにかくそういった事で意気投合した私達は、そのお見合いが終わった後も連絡を取って、やがてそういう関係になって……。






「私の場合はこんな感じでした。私が戦闘機人であることもあっさり受け入れてくれて……嬉しかった」

そう言って一息つき、お茶を飲むギンガ。そこに話しかけるフェイト。

「手間がかかる幼馴染って……そっちの私達、どんなだったの?」
「……名誉の為、秘密にしておきます」
「ええ!?」

ギンガの返答に思わず叫ぶフェイト。
そうこう話をしていると、はやてが次のくじを引く。

「次は……おー、また気になるのが。アインハルト!」
「私ですか」

なのはとヴィヴィオと自作のレアチーズケーキを食べていたアインハルトが顔を上げる。

「よろしくな」
「はい。では……」






私が初めてユーノさんと出会ったのは、無限書庫に行った時ヴィヴィオさんに紹介されて、です。

「ふんふん」

当時の私には悩みがありました。それは覇王流の事です。

「どういう?」

……気が付いたのです。覇王流とは覇王イングヴァルトが自分の為に、自分専用に編み出した流派です。

「それで?」

それはつまり覇王の肉体、つまり成人男性の体格等が前提のものです。
確かに当時の私は成長期ではありましたが、例え成長しきったとしても女である私が成人男性と同じ体格になるわけがありません。性転換手術を受ける気もありませんし。

「成程ね」

はい。尤も、ならばイングヴァルトの覇王流をベースに自分の、アインハルト=ストラトスの覇王流を作ればいい、という結論には達していまして。

「ならどういう悩みだったの?」

はい。イングヴァルトの記憶は受け継いでいます。しかしそれは完全なものではありません。
よってベースにするにも元々不完全なものだったのです、イングヴァルトの覇王流は。
そこでどうするか、と考えていた所、ヴィヴィオさんに何か資料があるかもしれないと無限書庫を紹介されまして。
当時は無限書庫とはどういった所なのか知りませんでしたが、話を聞いて納得し、行き、そしてユーノさんを紹介されました。

「それが出会いだね。さっき言った通り」

はい。そうです。それからユーノさんやヴィヴィオさんに検索魔法を教わり、検索を始めました。
勿論ユーノさんは仕事もありますから、偶にしか手伝ってもらえませんでしたけど。

「それで?」

それで最初は司書ではないので整理済みの所で探していたのですが、それらしいものは見つからなくて。
だから未整理区画に行きたかったのですが、そこは司書資格を持っていないと行けません。
ですからユーノさんやヴィヴィオさんに勉強を教わって司書資格を取りました。

「へぇ……」

多分、その頃からユーノさんを意識し始めたんだと思います。まあ優しい年上のお兄さんに憧れる思春期特有のなんとやら、だとは思いますけど。
それで司書資格を取り、パートタイマーな司書をしながら探していたある日、その光景を目撃しました。

「どんな?」

緊急依頼がありまして、ユーノさんも検索に加わっていたんです。
あの大量の本が翠色の光に導かれて舞う光景。それはとてもとても綺麗で……目が離せませんでした。

「確かにあれは綺麗な光景だよね」

はい。何というか……魔力光というか、そういった物に惚れたというか……強く、恋を自覚しました。

「ほほう」

そしてその後、ユーノさんにそれとなくアプローチを始めました。でも子供なのでそういった方向で受け止めてもらえなかったようですが。
さらになんやかんやでイングヴァルトの手記が見つかり、さらにそこからイングヴァルトが覇王流の元にした武術が分かった辺りでユーノさんに告白をしました。
……けど相手にしてもらえませんでした。まだ十五にもなってませんでしたし……。

「……そうだよね。歳の差が一番の敵ですよね」

ええ。……まあしかし、それから開き直ってユーノさんに攻め入りました。ここらへんはティアナさんと似てますね。
そして六年。六年かけてユーノさんを陥落させるのに成功しました。






「以上です」

そう言って茶を飲むアインハルト。そのアインハルトに訊ねるヴィヴィオ。

「それでできたのが、今のアインハルトさんの……?」
「はい。ちなみにその後、そのイングヴァルトが元にした武術を元に、更に私自身で私の、アインハルト=ストラトスの覇王流を作り上げました」

そう言うアインハルト。周りもいろいろと言っている。
そんな中、はやてが話を進める。

「やー……。じゃあ次に行く……前に一つええかな?」
「何かな?」

皆を代表してなのはがはやてに訊く。

「うん。あんな、キャロ達の世界ではユーノ君、誰とくっ付いてたんやろな、って思て」

その言葉に皆の視線がキャロとルーテシアに向く。
その視線を受けて答える二人。

「なのはさんでした」
「私の所も」

その二人の言葉に勝ち誇った笑みを浮かべるなのは。キャロは言葉を続ける。

「でも……」
「でも?」
「でも、その、なのはさん、結婚式で亡くなられまして……。狙撃され暗殺されました」

その言葉に皆無言。しかしなのははあっけらかんとしている。

「あ。それ多分私の世界だね。……ねえキャロ」
「はい?」

そしてなのははキャロに訊ねる。

「その……私が死んだあと、ユーノ君はどうだった?」
「はい。その、亡くなった後暫くはショックで引きこもっていられまして……なのはさんのお葬式にも出られませんでした。
 しかしその後、詳しくは知りませんけどクロノさんに発破をかけられて立ち直り、執務官になり、なのはさんを殺した組織の壊滅を始めとする様々なことをやりました。現役を引退した後101歳で老衰で亡くなられました」
「……そっか。ちゃんと立ち直ってくれたんだ」

キャロの言葉を受けてなのはは安心した様子だった。
しかしそこでキャロに言葉をかけるルーテシア。

「私の所と違うね」
「へ?」

目をぱちくりさせるキャロ。

「どう違うの?」
「うん。私の所で結婚式で亡くなったのは、ユーノさん」
「あ、それユーノ君のだ」

なのはだけは納得している様子。そのなのはに訊ねるフェイト。

「なのは、ユーノのって?」
「うん。どうもユーノ君と話をするとね、私たちは微妙に違うみたいなんだ。違いは分かると思うけど、結婚式でどっちが殺されたか」
「……そうなんだ。…………でもさ」
「?」

納得した様子のフェイトだが、何かを言いかける。

「でも?」

なのはは先を促す。

「でも、そういう事ならお互いの片割れは何処に行ったんだろう?」
「うーん……」

そこに口をはさむはやて。

「どっか別の並行世界に行ったんちゃうかな?或いはある日突然思い出したりな」
「かもね」

はやての言葉に同意し、笑うなのは。

「さて、疑問も一つ片付いたとこで次行こか。次は……」

さて、次は―――。







おまけ ユニゾンデバイス三人


時間軸的には半日ほど前。時空管理局本局技術部デバイスルーム。

「と、言う訳で我々は一泊二日で人間ドックです」
「人間ドックです!」
「いや、あたし達はデバイスだからオーバーホール……」

リインフォースⅠ・Ⅱとアギトがいた。

「やはり年に一度は人間ドックを受診したいですね」
「そうですね母様!」
「だからあたし達はデバイス……」

二人にぼやくようにツッコんでいるアギト。

「さて。それでは二人とも、準備を」
「はい!」
「今さらだけどデバイスにオーバーホールされるデバイスっていうのも妙な話だよな」

やっぱりぼやいているアギト。

「ところで母様、レイハ姉様は?」
「明日来ます。私とレイジングハートが受診するのは明日です」
「そうですか」

頷いているツヴァイ。

「それではよろしくお願いします母様!」
「よろしくな」
「ええ。では始めましょうか」

そしてオーバーホールが始まったのであった。









続くといいなあ。
あと少し改訂。具体的にはリインフォースⅠはザッフィーの嫁に。他のssを読んでいたら自分の中でそうなっちゃいましたのでw



[23718] 特別編 バカップルの日常 12歳デート編
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/12/23 22:19
私立聖祥大付属小学校、屋上。
現在は昼休み。なのは、はやて、アリサ、すずかの四人が昼食を取っている。

「しかし今日はなのは、えらく機嫌がいいわね」
「えへへ。分かる?」

そんな中、上機嫌だったなのはにアリサが声をかける。

「まあね。っていうか一発で分かるわよ」

うんうんと頷いているはやてとすずか。

「そうかな?それで何でだと思う?」
「ユーノ絡みでしょ」

即答するアリサ。なのははびっくりしたような顔。

「……凄い!何で分かるのアリサちゃん!?」
「分からいでか」

呆れたような表情のアリサ。この親友があんな(だらしない)表情の時は九分九厘彼氏絡みだ。

「昨日連絡が入ってね、仕事が予想以上に早く片付いたから明日デートしようって!」
「あー、そう」

もはや返事もぞんざいである。しかしなのはは気にしていない。ちなみに明日は土曜日。

「うん!そうなの!」
「――ねえ、なのはちゃん」

そんななのはにすずかが声をかける。

「何?すずかちゃん」
「うん。参考までにデートって何をやっているのかな、って」
「すずか!?」

びっくりした様なアリサ。すずかに声をかける。

「そんな、そんな話を聞いたら糖死するわよ!」

必死である。

「でも興味ない?」
「う……まあ興味があると言えば興味があるけど……」

アリサも年頃の女の子。興味は勿論あるのだ。

「でも、なのはから聞いていたら惚気で昼休みが終わっても話が終わらないわよ」
「あー……そうだね。どうしよう?」
『ならば私がお話ししましょうか?』

その時、なのはの首にかかっていたレイジングハートが話しかけてきた。

「えっと……レイジングハート、だったかしら」
『はい。私はメンテ時以外は基本的にマスターと共にいますので』

ふむ、と考えるアリサ。

「じゃあお願い」
『承りました。前回のデートでよろしいですか?』
「うん。……っとそういえばはやては?」

いつの間にか消えていた親友を探す。しかしすぐに帰ってきた。

「ブラックコーヒー買ってきたでー」
「お帰りなさい、はやてちゃん」
「……随分、用意がいいわね」

呆れたような声を出すアリサ。

「それじゃあお願い」
『はい。では……』








ミッドチルダ。首都クラナガン。中央ターミナル。考えるフェレット像前。

「あ」
「あ」

なのはとユーノは丁度出会った。まだ待ち合わせ一時間前である。

「は、早いねユーノ君」
「なのはこそ」

二人は苦笑する。

「それじゃあちょっと早いけど行こうか」
「うん!何しようか?」
「うーん……」

そして二人は立ち去って行った。






「……待ち合わせ一時間前?」
『ええ』
「いやー……予想通りやな」
「確かにそうだね」

呆れたような声を出すアリサと納得しているはやてとすずか。

「それで?続きは?」
『はい。では……』





なのはとユーノはメインストリートを腕を組んで歩く。なのはが左、ユーノが右。なのはの利き手が左手であるからである。
周囲は微笑ましいものを見るような目で見ている。……まあまだお互い10ちょっとの歳だから当然と言えば当然か。

「映画館か」
「映画館だね」

映画館の前で立ち止まる二人。

「見ようか?」
「うん!」

そして映画館の中に入って行った。






「映画か」
「割と普通ね」
『そうですね。……周囲を気にせずポップコーンをあーん、で食べさせたりしなければ』

そんなレイジングハートの声にうわぁ、という反応をしている三人。

『映画そのものが始まったら流石にしませんでしたけど』
「そ、そっか。……ところでどういう映画?」
『それはですね……』










予告編



「ふんふん。つまり例の魔導師集団昏睡事件の調査が今回の仕事なんやな」
「ああ」

機動六課。隊長室。JS事件の事後処理も落ち着いてきた今日この頃。隊長の八神はやてに昔馴染みでもあるクロノ=ハラオウン提督からの連絡が入ってきた。

「しかしなんで六課になんや?いや、確かにそういうのも仕事ではあるけど」

疑問が一つ。それを訊ねる。後解散まで二月も無い六課に頼むのは何故だ?下手をすると調査中に解散して、別の部隊が担当になるが。

「……驚くなよ。それはな……」

――闇の書らしき反応が全ての現場に残されていたからだ。

そのクロノの言葉にはやては真剣な顔で頷いた。






「全力全開……」
「集え明星……」

互いの魔力のチャージが完了する。

「スターライト」
「ルシフェリオン」


「「ブレイカーーー!!!!!!」」



互いから強大な魔力砲撃が放たれる。
しかし!

「ぐっ……」
「ぐぅ……」

それは互いに拮抗。
そのまま暫く力比べをしていたが、互いを飲み込むような形で霧散した。

「互角、か……」
「このままでは埒があきませんね」

互いにぽつりと漏らす。そして先に動いたのは星光の殲滅者だった。

「仕方ありません。ルシフェリオン、リミットオールリリース。モード・ファイナルシューティング」
「なっ……」

星光の殲滅者が黒い輝きに包まれる。そして―――――






超高速で動く。

「はあっ!」
「はっ!」

今まで純粋な速度で劣ったことは無い。

「がぁっ!」
「せいっ!」

しかし今回の敵は自分と同等の速度で動く存在、自らのマテリアル“雷刃の襲撃者”。
現在、真・ソニックフォーム。敵もそれに当たる状態。……そのバリアジャケットを見てちょっと自分の今の姿を省みたことは秘密である。
ザンバーが交錯し、雷が互いを襲う。
そうして暫く互角を演じていたが、均衡は突然破られた。

「はああああああっ!」

灰色の毛並みの大狼が襲いかかってくる。目の前の敵にのみ意識を向けていた事で反応が遅れた。
しかし!

「がぁっ!」

横合いから赤い毛並みの大狼が灰狼を襲う。

「アルフ!」
「フェイト!来たよ!」

助けに来た、自らの使い魔に声をかける。久々に見る狼形態だ。
一方、雷刃の襲撃者も自らの使い魔と話をしている。

「灰狼、どうしたの?」
「助けに来たんですよ。……まあオリジナルに邪魔をされましたが」

そして互いに向かい合う。

「続けるよ。今度こそ、僕が勝つ!」
「そうはさせない」
「始めましょうか」
「フェイトの邪魔はさせないよ」

そして、フェイトと雷刃が消えたと見間違うような速度まで加速し、アルフと灰狼の拳が轟音と共に交錯した―――――






八神はやては自らのマテリアル、闇統べる王と対峙する。しかし彼女の傍には……

「すまんなあ、数の暴力っていう形になるけど。……さっさとあんたを倒してなのはちゃん達の援護に行かんとな」

彼女の守護騎士、ヴォルケンリッターが勢揃いしていた。一方の闇統べる王は一人。しかし彼女は笑っている。

「……?何がおかしいんや?」

それを不審に思ったはやてが訊ねる。

「ふん、数の暴力か。しかしこれならどうだ。――現れ出でよ!」
「なっ……」

闇統べる王がその言葉と同時に指を鳴らす。すると彼女の傍に四つの闇が現れ、人型を取る。


「召喚に応じ参上仕りました」

青い髪をした幼い少女がそう言う。

「我ら、闇統べる王の守護騎士でございます」

短い白髪の女性がそう言う。

「闇統べる王の元に集いし闇」

大柄で褐色の肌。筋肉質で黒髪。そして狼の耳と尻尾を持つ男性がそう言う。

「我らフィンスタニスリッター、何なりと命令を」

最後に、赤髪をポニーテールにしている女性がそう締めた。


はやて達は彼女らを見て絶句している。だがそれを気にせず闇統べる王は彼女らに命令を下す。

「命令は三つ。無慈悲に殺せ。残酷に殺せ。そして、確実に殺せ、だ」
「「「「了解!」」」」

その言葉と共にデバイスを構える面々。同時に正気に戻ったはやて達もデバイスを構える。
そして、両軍が激突した―――――






「決着を付けよう」
「ああ」

烈火の将シグナムとそのマテリアル、業火の将が対峙する。先程からの戦闘で互いはボロボロだ。
レヴァンテイン/フレイマールを構える。

「「勝負!」」

互いの剣が交錯する。

「「カードリッジロード!」」

互いのデバイスからカードリッジが排出される。

「紫電一閃!」
「紅蓮刃!」


「砕け散れ!!!」


そして……!






スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、ギンガの五人はピンチに陥っていた。隊長達が他の敵たちを抑え、自分たちが大元を叩く仕事を請け負った。
だが……

「アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!所詮雑魚はいくら群れようとと雑魚よ!この超☆天才且つ超☆無敵たる“黒衣の殺戮者”に勝てる道理などは無い!」
「うっせぇよ。少し黙れ黒」

目の前の二人、恐らくクロノ=ハラオウン提督とユーノ=スクライア無限書庫司書長のマテリアルと思われる存在に手も足も出なかった。

「ぬう!なんだと翡翠!」
「さっきからギャーギャー耳障りだと言っているんだよ!」

片方ならば十分対処可能である。六課の隊長陣の方が強い。しかしこの二人、コンビネーションが完璧に近いうえ、隊長達とは全く違う戦い方である。
こちらの動きを予測し、妨害、罠に嵌める。実力を発揮させない。そんな戦い方である。

「やる気か?」
「てめーがその気ならな!」

そのまま殴り合いを始める二人。
しかしスバルたちは動かない。大分きつい状態だというのもあるが、さっきも同じような状態になった時、奇襲しようとしたらそれ自体が罠だったからだ。
だが、そのまま何もしないわけにはいかない。ティアナが皆に指示を出そうとする。
そこに……

「ぬう!」

水色の魔力光が黒衣の殺戮者を襲う。黒衣の殺戮者はシールドを張る。同時に自分達を翡翠色の魔力陣が包み込み、負傷と疲労を癒していく。

「チ……。流石に奇襲で一撃、とはいかんか」
「助けに来たよ」

クロノ=ハラオウン提督とユーノ=スクライア無限書庫司書長が現れた。まさかこんなお偉いさんが来るとは思っていなかった五人が固まる。
しかしそんな五人をよそに嬉しそうな声を上げるマテリアル二人。

「会いたかったぞ!オリジナル!!!」
「はっ!ようやく来やがったか!」

そしてクロノとユーノが五人に声をかける。

「ほら。さっさと行け。君達は君達の仕事を全うしろ。この紛い物の始末は僕達がする」
「まああれだよ。『此処は俺に任せて先に行け!』っていうやつ。勿論僕らはちゃんと帰るけどね」
「――ありがとうございます。御武運を」

五人を代表してティアナが返事をする。そして駆け出す五人。そしてそのまま去って行った。

「いいのか?何もしないで」
「何、前菜は食い飽きた。これからはメインディッシュだ」

何もしないで五人を見送ったマテリアルに声をかけるクロノ。返事をする黒衣の殺戮者。

「じゃあ戦るか」
「そうだね」

言葉を交わす翡翠の守護者とユーノ。

「「「「参る!」」」」

そして戦闘が始まった―――――







【Material Wars!】



制作予定、全く無し!
公開予定、当然無し!











『こんな映画ですね』(注!上記の内容とは異なります)
「へえ……」
「面白そう……」
「そうやな」

感嘆の声を上げる三人。

「見に行くのは……無理ね。いつかDVDみたいのがリリースされたらはやてに入手を頼んで見ましょう。はやて、いい?」
「ええよ」

はやてがアリサの提案にOKする。ちなみに八神家にはミッドのディスク規格の物を地球の電源やテレビで見られる、無駄にハイテクなレコーダーがある。

「じゃあ続き良いかな?」
『はい。では……』






映画館から出てきた二人。お昼に丁度良い時間である。

「お昼、どうしようか?」
「えへへ。実はね、お弁当作ってきたんだ」

ユーノの問いに嬉しそうに答えるなのは。

「そっか。じゃあ公園に行こうか」
「うん!」

そして二人は公園に移動する。


「ここならいいかな?」
「そうだね」

公園。いい塩梅の木陰の芝生があったのでそこに二人で座る。

「ユーノ君、はい、あーん」
「あーん」

そして当然の様に食べさせ合う二人。

「どうかな?」
「うん、美味しいよ。はい、なのはもあーん」
「あーん」

そうしてお昼の時間は流れていった。







「これまた予想通りね……」
「そうだね」
「あーんだけやったの?」

納得の声を上げているアリサ、すずか。レイジングハートに問うはやて。

『ええ。この間はだけでしたね』

そう答えるレイジングハート。

「“は”なんや……」
「“は”なのね……」
「“は”なんだ……」
『はい。“は”です』

三人の反応を力強く肯定するレイジングハート。

「……まあいいわ。次に行きましょう」
『はい。では……』






お昼を食べた後。ユーノが大きな欠伸をした。

「ふぁー」
「ユーノ君?」

なのはがユーノに声をかける。

「あ、ごめんね、なのは。次は何処に行こうか?」
「んー……」

なのはは少し考える。そして膝をポンポンと叩いた。

「なのは?」
「はい、ユーノ君、膝枕。少し寝たら?」

しかしユーノは少し困ったように言う。

「でも折角のデートなのに……」
「いいから。私はユーノ君と一緒にいればどこだって構わないし」

しかしなのははそう言う。

「それは僕も同じだけど……じゃあ、お願いしていいかな?」
「勿論!」

そしてなのはの膝枕に頭を乗せるユーノ。少しして寝息が聞こえてきた。
なのははそれを優しく見守っていたが――

「ふぁ……」

自分も陽気に誘われ、眠くなってきた。

「んー……レイジングハート」
『何でしょうか?』

レイジングハートに話しかける。

「私も寝るからお願いね」
『分かりました。良い夢を、マスター』
「うん。お休み、レイジングハート……」

そしてなのはも夢の世界へ旅立って行った。



そして数時間後。ほぼ同時に二人は目を覚ました。しかし……

「う……もうこんな時間」
「あはは……よく寝たねー」

もうすっかり夕暮れ時である。

「うう……結局午後は寝ていただけだった……」
「まあまあ。そんな日もあるって」

ちょっと落ち込んでいるなのはをユーノが慰めている。何時に起こして、などと言っていなかったのでレイジングハートは責められない。

「……まあいいか。またデートしようね、ユーノ君」
「うん。そうだね」

そして、二人は笑いあうのだった。







「午後はずっと寝ていたんかい」

思わずツッコむはやて。アリサとすずかも苦笑気味。

『まあマスターは弁当を作るのに四時起きでしたから。……そんなに早く起きなくても良かったのに。エルダーマスターも仕事に支障が無い程度の疲労があったのでしょう』

フォローを入れるレイジングハート。

「で、それでそのまま転送ポートの前まで来てその日は別れた、と」

はやてがそう言う。

『いえ。違います』

しかしレイジングハートは否定。

「違うん?」

ちょっと驚いた声を上げるはやて。そしてレイジングハートが続ける。

『ええ。では……』






中央ターミナル。二人は戻ってきた。

「今日は楽しかったね」
「そ、そうだね」

なのはの様子が少し変である。ユーノは当然気が付き、なのはに問う。

「どうしたの、なのは?」
「えっとね……、その、ユーノ君。今日は帰りたくないな……」

そう顔を赤らめて上目使いで言うなのは。そして――ユーノも、その言葉の意味を理解できないわけが無い。

「えぇっと……その……、家とかは大丈夫?」

そんな場違いなことを聞くユーノ。

「う、うん大丈夫。地球は今日は土曜日だし、フェイトちゃんの所に泊まるって言ってあるから」

まあそんな言葉を馬鹿正直に信じているのは士郎だけだろうが。尤も桃子も恭也も美由希も、なのはとユーノの仲を応援しているのであまり問題は無い。

「そ、そっか……。じゃあ……家に行こうか」
「う、うん……」

そして、二人はユーノ宅に向かうのであった……。






『以上です。これから先は日本では十八歳未満は禁止ですので自主規制します』

そんな言葉で締めるレイジングハート。

「……」
「……」
「……」

思わず固まる三人。

「……いやあ、進んどるなあ、なのはちゃん」
「進み過ぎよ……」
「あはははは……」

何とか声を出す三人。

「ところでそのなのはは何をやっているのよ」

アリサがそう言う。そして話し中、全く声を出さなかったなのはを見る三人。
その顔は――だらしなく歪んでいた。

「あー……あれはユーノとの何かを妄想している顔ね……」
「せやな……」

そして話す三人。

「――ねえ。私達も何時か恋人出来るのかしら」
「出来るとしてもあそこまでのバカップルは難しいと思う」
「そうだよね」

そんなことを言っている。そしてチャイムが鳴った。

「お。チャイムや」
「なのはちゃんを起こして教室に帰らないと」
「そうね。おーい、なのは、起きなさい」

アリサが肩を強く叩きながらなのはに声をかける。

「っは。アリサちゃん、どうしたの?」
「戻る時間よ」
「そうなんだ。じゃ片づけよう」

そしてなのはは片づけ始める。
結局というか当然というか、なのははずっと上機嫌だった。



[23718] 特別編 バカップルの日常 正月編
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2011/01/01 18:23
10歳編





元旦。海鳴市。八束神社。人が初詣でごった返す中、高町家+八神家+ユーノ、アリサ、すずか、忍、それにお呼ばれしたフェイト+アルフがやはり初詣に来ていた。

「こうも人が人が多いと嫌になるねえ」
「凄いね」

人の多さに辟易しているアルフと人の多さに感心しているフェイト。

「おっしゃ!初詣や!パーカー広げて小銭を取らんと!」
「主、落ち着いてください」
「だいたいそれは犯罪よ、はやてちゃん」

はしゃいでいるはやてとそれを諌めているヴォルケンリッター。
そして賽銭箱の近くにやってきた。財布から金を取り出そうとしている美由希がふと隣を見ると財布から万札を取り出している妹の姿。

「なのはなのは!それ一万円!」
「?そうだよ?」

間違えたんだと思って声をかける。しかし妹から返ってきたのはそんなのは知っていると言わんばかりの返事。

「多過ぎだよ!」
「そう?これくらいでユーノ君と今年も一年健やかに過ごせるんだったら、むしろ少な過ぎると思うけど」

ツッコむと何を言っているんだ、と言わんばかりの返事。当然真顔。

「これは自分で稼いだお金だしね。それにほら」

と、隣のユーノを見るように促す。するとやはり万札を取り出しているユーノの姿。

「ユーノも多過ぎだってば!」
「そうですか?これくらいでなのはと今年も一年健やかに過ごせるのだったら、むしろ少な過ぎだと思いますけど」

なのはと全く同じ答えが返ってくる。やっぱり真顔。

「それにしたってそれは多過ぎ!」
「そうですか?……ふむ、そうかもしれませんね。それほどお金がかかる生活はしていないから別にいいかと思ったのですが」

ツッコむと、割と素直にお金をしまい、小銭を出すユーノ。

「じゃあこれはなのはとの結婚資金に充てます」
「あ。じゃあ私もそうしよう」

それを見てなのはもお金をしまい、小銭を出す。
そんな二人の姿を見てなんだか微妙に頭が痛くなる美由希だった。





「あー……。やっぱ餅はええなあ……」
「雑煮うめー」
「わ。凄い伸びる」

高町家。リビング。初詣から帰ってきた高町家(恭也を除く)+八神家+ユーノ、アリサ、すずか、フェイト、アルフがくつろいでいる。(ちなみに恭也と忍はそのままデートに行った)

「美味しい……」
「流石よね」
「ありがとう」

雑煮やおせちに舌鼓を打つ面々。士郎にシグナム、ザフィーラ、それにヴィータは酒も飲んでいる。
そしてテーブルの端。魔法も使っていないのに、結界を展開しているバカップル。

「はい、あーんユーノ君」
「うん、あーん」
「えへへ、美味しい?」
「うん、美味しいよ。なのはは何が食べたい?」
「数の子!」
「ん。はい、あーん」
「あーん」

そしてそれを見ている四人。

「正月でもいつも通りね……」
「そうだね……」
「まあむしろ変わったらそっちの方が驚きやけど」
「確かにね」

慣れたものである。

「それにしても……さっきからなのはが食べているのは……」
「数の子、里芋、くわい、わかさぎのローテーションだね」
「えっと……子孫繁栄、子宝祈願、子孫繁栄、子宝祈願」
「へえ……。意味があるんだ」

微妙な表情で顔を合わせる。ただフェイトだけは感心したような顔。

「気ぃ早過ぎとちゃうん?」
「まあなのはだから……」
「そうだね、なのはちゃんだしね……」
「それもそっか。なのはちゃんやしな……」

そんなことを言い合っている。

「くるみ(家庭円満)とかはいいのかな?」
「訊いてみるの?あれから?」
「……無理だよ」
「それになのはちゃんのことやから『別にそんなのに頼らないでも何時だって私とユーノ君はラブラブなの!』とか言いそうやしな」
「確かに。あ、ユーノが海老を食べさせた。海老はどういう意味?」
「長寿祈願ね」

観察している。

「まあ今年もあの二人は問題無さそうやな」
「そうね」
「そうだね」
「そうだね」

四人はそれきり気にしないことにした。

「どうかな?黒豆は私が煮てみたんだけど」
「うん。丁度いい甘味で美味しいよ」
「良かった。どんどん食べてねユーノ君。はい、あーん」
「あーん」








16歳編



「いいや!雑煮は味噌に決まっている!」
「何を言っているんですか!雑煮はすましが最高ですよ!」

ミッドチルダ。クラナガン。高町家。本日はミッドの暦で元日に当たる日。ナカジマ家の人間も来て皆で料理に舌鼓を打っている。
そんな中、ゲンヤとユーノは雑煮の味で揉めていた。

「あの味噌の食欲をそそる香りが分からんのか!?」
「さっぱりしているすましの良さが何故分からないんですか!?」

一方他の面々。

「おー。すましもおいしいね」
「味噌のお雑煮もなかなかおいしいね」
「わ。このおもちっていうの、凄い伸びる」
「喉に詰まらせないよう気を付けてね、キャロ」

順にルーテシア、エリオ、キャロ。

「おお。この黒豆美味しいです、なのはさん」
「ありがとう、ギンガ。今回は色々バタバタしていたからそれしか作れなかったけど」
「おせちって手間がかかるもんね。だからうちは新年は一日目が天ぷら、後はカレーだけは作って適当よ」
「あたしは天ぷら好きだから問題無し!子持ち昆布美味しいなー」

順にギンガ、なのは、クイント、スバル。

「いいか?味噌味のお雑煮はこってりしてるのに素材の味をさらに活かしてくれるから最高なんだよ!!!」
「すまし仕立てのお雑煮はさっぱりしてて、素材そのものの味が楽しめて最高なんです!!!」

未だに言い合っている二人。だが議論の内容が内容なので誰も気に留めていない。

「ところで一臣君と優奈ちゃんはいいんですか?」
「大丈夫だよ。丁度皆が来る少し前に寝付いたんだ」
「あ、そうなんですか。まだ会ったことが無いから、後で会わせてもらっていいですか?」
「勿論いいよ」

和やかである。

「へえ。お雑煮以外のお餅の食べ方もあるんだ?」
「そうだよ。キャロも食べる?」
「ありがとう、ルーちゃん。じゃあそっちの黄粉の奴を少し分けて欲しいな」
「いいよ。はい」
「わーい。ありがとう」
「僕は磯部が好きだけどね。磯部の美味しさの六割は海苔の美味しさで決まると思う」

ちびっこ達も和やかである。

「……いいぜ。なら拳のみで決着を付けようじゃねえか」
「……そちらがその気なら構いませんよ」

一方野郎二人は殺伐としている。

「はっ!現役執務官だからって舐めるなよ!魔法抜きならギンガだろうがスバルだろうがクイントだろうが俺は負けねえぞ!」
「元より僕は魔法抜きでも十分戦えますよ?」
「君達は新年早々何を争っているんだ……」
「あけましておめでとー」

そして二人が一触即発の空気となった時、クロノとエイミィがカレルとリエラを連れて新年の挨拶にやってきた。

「丁度いいところに来た!クロノ、雑煮はすましだよな!?」
「何を言っているんだ!当然、味噌に決まっているよなあ!?」

そしてそれに絡む二人。一方のクロノ。

「?雑煮とは何だ?」

そもそも雑煮を知らなかったようだ。それにキョトンとして顔を合わせる二人。

「よし。じゃあクロノ、食べてみなよ」
「まあ遠慮すんな」
「待て。ついて行くから引き摺るな」

自分を引き摺っていく二人に抗議の声を上げるクロノ。まあ当然である。

「ほら。これが最高のすましの雑煮だよ」
「ほら。これが至高の味噌の雑煮だ」
「何で僕は新年早々こんな目に合っているんだろうな……」

突きつけられた二杯の雑煮を前にそうクロノはぼやくのであった。



なお雑煮に関しては女房に勧められて渋々食べたところ、

「なんでぇ。すましも悪くないな」
「味噌もなかなかいけますね」
「……餅にお汁粉以外の食べ方があるんだな」

となったので結果オーライである。



[23718] 補足と説明
Name: 舞う奥の細道◆d2f398e0 ID:cab5c406
Date: 2010/11/24 21:02
ここでは話の補足をしていきます。性質上ネタバレを含みます。分からないことがあったら、感想に一言書いていただければここで答えるかもしれません。




プロローグ *QとAが逆でした。いりじうむさん、ありがとうございます。

Q.指輪『例え死が二人を別つとも』 A.この話のもう一つの始まりの鍵。指輪の内側には『例え死が二人を別つとも』と書いてある。一応ロストロギアだが、能力ではなく年代によって。指の大きさに合わせてサイズを自動調整してくれる、地味に便利な指輪。その真の力は時間逆行。対になる指輪を身に着けて死んだ二人のパワーオブラブによって、魂とでもいうものが時間を遡る。とはいえ完全なものはできなかったのか、同じ未来から、同じタイミングで遡るとはいかなかった。なのはとユーノは外していないので気が付いていないが、内側の文字は消えている。一回限りの使い捨てアイテム。ちなみに出てきた遺跡を探しても完全に同じものは見つからない。トンデモ設定を付ける時のロストロギアって便利だよね。

Q.ラーガ・アルデ・ミゴラス文明 A.筆者が適当に作った文明。一応愉快型ロストロギアが多いとかいう脳内設定ががが。*変えときました。ironさん、ありがとうございます。

Q.どうやってユーノやなのはを殺したのか? A.狙撃。魔法と薬物で感覚を超強化して某Gも真っ青な位置から質量兵器と魔導兵器を合わせたので。実行犯が死んだのは魔法と薬物の副作用。あんたいったいどれだけ使ったんだ。

Q.どうして犯人たちの目的が分かったか? A.犯行声明が来た。ちゃんとこうやって自分たちの思想を世の中に顕示しないのはテロリストとは言いません。ショ○カーってテロリストじゃないんだぜ。

Q.なんで周りはなのはを無理やり止めようとしなかったのか? A.でも止まりませんでした。そうこうしている内に仕事も大量に溜まって……という感じ。特に最終局面ではヴィータが力ずくで止めようとしましたが、そんなことになると分かり切っていたなのはさんに、不意打ちででかいのを一発くらってヤ○チャになってしまいました。

Q.なんで他の人が無理やりユーノを出さなかったか? A.説得できないので無意味。あと結界が固いから面倒。SLBだってカートリッジ無しじゃ破れません。それをぶち破ったクロノ、まさに力こそパワー。同時にスクライア家はひどいことに。

Q.ユーノは御神流使えるの? A.少なくとも未来という名の過去では使えます。奥義も一通り。U-NOですから!あ、もちろん御神不破です。

Q.ユーノ、身体酷使しまくったのに長生きしすぎじゃね? A.ノリです。

Q.もう一つの始まりの鍵ってことは……他に何かあんの?出てきていないだけ? A.出てきています。それはなのはとユーノの愛です。パワーオブラブ。


第二話

Q.はやて、入り浸り過ぎw A.ええ、そう通りです。事情を理解している高町一家はむしろ歓迎していて、専用の茶碗とか箸とか歯ブラシとかあります。泊まるときは大体なのはと一緒に夕飯作ったり。桃子さんしか知らないことだけど士郎さんはグレアムから親権を奪おうと画策している。

Q.あれ?塾は? A.通ってません。流石に小学生レベルならポカとど忘れ以外大丈夫です。「そんな暇があったらロードワークか花嫁修業をしていたほうが有意義なの」

Q.非殺傷設定はー? A.その辺は次回と次々回で。


第三話
Q.カローラ=スクライア A.オリキャラ。ユーノの話をスムーズに進めるため必要だった。ユーノの兄貴分。5つ上、カローラという名前が女っぽいのでそう呼ぶと不機嫌になる、10年後位にはベルカ式空戦AAAでスクライア護衛隊隊長になっている等の脳内設定が。なんとなく、ある程度才能がある年上じゃないとユーノとそういう絡みをしているのが想像できなかったんですよ。

Q.レイジングハートw A.どうしてこうなった。気が付けばこんな性格にw

Q.ユーノ、魔法バリバリ使ってんのになんでなのはさんに気が付かれないの? A.同時に隠蔽魔法も使っているから。万一にでもなのはに違和感を与えて魔法に踏み入れさせないように。VSフェイアルではそんな余裕がありませんでした。

Q.フェイト達弱過ぎじゃね? A.相手が悪かった。長年の付き合いがあるユーノです、自分達以上に自分を知っているでしょう。仮にユーノがフェイト達で無い同ランクの魔導師コンビを相手にしたらもっと苦戦します。最悪、やられるでしょう。

Q.神速関連 A.別に神速だからって全てが止まるわけじゃないですよ、周りがすげー遅くなるだけで。あと、身体の負担は本当。魔法使って云々は俺設定。だって神速使う魔導師なんてオリキャラか魔改造キャラだけだし。えらい負担がかかります。体が出来上がればだいぶ減るけど。後、神速中はデバイスを介して魔法を使えない。デバイスの処理速度が間に合わないから。生身で使うしかない。

Q.だから何で非殺傷設定なのにユーノはなのはを庇ったのよ? A.俺設定に“なのはの様な膨大な魔力を持つ非魔導師(だとユーノは思っている)に大量の魔力を流されると場合によってはショック死する”と書いてある。


第五話
Q.チーム吃驚人間 A.士郎、恭也、美由希、そして美由希の実母、御神美沙斗のこと。ユーノにとっては、士郎をはじめとして師とも呼ぶべき存在でもある。……ちなみにユーノ、お前さんも片足どころか腰までどっぷり突っ込んでいることをお忘れなくw

Q.俺にも色々あった A.詳しくはとらいあんぐるハート3にて!18歳未満の良い子はやっちゃ駄目だぞ!残念なことにユーノ君は出てこないけど。なのちゃんはクロ君の嫁、なのはちゃんとなのはさんはユーノ君の嫁。


第六話
Q.ミッドは男女ともに15歳から A.勿論公式にそんなのはありません

Q.ユーノ、お前引き籠っていただろうw A.男の子には意地があるんです。中身は爺だけどw

Q.すずか A.いやもう、凄いです。川寿あたりまでぴんぴんしてます。その後は徐々に。享年119歳。

Q.はやて A.この過去でのはやてはこんな感じ。名有りのキャラか、名無しのモブとくっついたかは各人の想像にお任せします。いずれにしろ、ヴォルケン達が認めるような男であることは間違いない。

Q.ヴォルケンリッターとリィンを A.まあ大分未来ですから何とかする術の一つくらいはあるでしょう。

Q.フェイト A.この過去でのフェイトはこんな感じ。予想はつくだろうが、ユーノに気があった。なのはが生きていた時は気が付いていなかったけど。ユーノがなのはの事をいつまで経っても過去ではなく現在形で想い続けているのに気が付いていて、断られるのがオチと言い出さなかった。本編といいフェイトさんマジ苦労人。そのうち幸せにしてやりたい。

Q.ヴィヴィオ A.もしヴィヴィオがモブとくっついたら多分こんな感じだろうと。彼は高ランクではないとか言っているけど一応、攻撃力の無い総合A(原作ユーノみたいな感じ)とか、始まりは“彼”の一目惚れだったとかの脳内設定も。


第八話
Q.なのはの得手不得手 A.作者の想像。とはいえ砲撃、防御、飛行が得意なのを否定する人はあまりいないと思う。

Q.なんでフェイトはなのはにホイホイついていったの? A.まだなのはを敵と認識していなかったため。名前をあっさり答えたのも思わずだけでない。

Q.紅茶とシュークリーム A.土産はともかく、それ以外はなのはさんの小遣いから差っ引かれています。従業員割が適用されているけどw。なのはさんは写真のポップでお金貰っていたり、桃子さんの兄弟が多いのでお年玉を沢山貰っているので、無茶しなければ大丈夫。


第九話
Q.あれ?アルフと会わないの? A.病み上がりということもあり、念のためフェイトと一緒に行動しています。ちなみに別にユーノに回収されたということは知らないし、そもそもジュエルシード自体が探知しにくいのでしらみつぶしに捜していて、温泉の時はたまたまその近辺に来ていた。*てるきんさん、ありがとうございます、加筆しました。


第十二話
Q.展開早! A.実際、ジェルシードはもう海中にあるものしかありませんし。あとフェイト、それにプレシアも大分焦っていますので。

Q.何で全部持って行かれちゃったの? A.クロノはまだ転移してきていないし、なのユーはバリアを張っていますので。

Q.何でプレシアはあの段階でフェイトにネタばらしをしたの? A.鬱憤が溜まっていたから。全然ジュエルシードが集まらなくてイライラしていたのでしょう。


第十三話
Q.何でフェイトはわざわざ通信装置を借りたのさ? A.しっかりとした設備があるから弱っている自分でもなんとかなると判断した。

Q.倒れるフェイト A.原作よりも集まってなくてあれ以上に無茶をした+その為プレシアの虐待も苛烈だったから。

Q.ユーノの、プレシアに対する恨み A.多分、ユーノが自分以外で一番恨んでいるのはプレシアではないかなーと思いまして。原因ですし。


第十五話
Q.無限書庫 A.勿論基本俺設定ですので。念の為。


第十七話
Q.特殊なアイテム A.一対になっていて、互いの場所から相互に転移できる。これが無いと *いしのなかにいる!* になる可能性あり。結構高い。

Q.ヴォルケンリッターのオリジナル A.多分、マテリアルみたいに元になった人物がいるんじゃないかなーと。

Q.あれ……闇の書って外部からの干渉を受け付けないのでは? A.その為の取説です。複雑かつ正しい手順でやります。


番外編
Q.殺気 A.とんでもないです。魔王様にとってはバインドなんぞおまけです。

Q.なんでユーノはこんな短絡的な行動をとったの? A.時間が中途半端にあったから。もう少しあったら別の手段を取れたはず。時の庭園を探すのに手間取った。そしてプレシアを殺害、無印を無しに(元々スクライアで見つけた遺跡なので、自分以外の誰かがジュエルシードを発掘しているのを知っている)。その後、はやてを殺害、A'sを無しに(放置していたらなのはを襲うだろうし、万一、それまでに何とかできなかった場合ヴォルケンがいると最悪の手段、はやての殺害が極めて困難になる)。この後は地上部隊に入り、ゼスト隊に所属して例の襲撃時にスカリエッティを殺害、STSを無しにして管理局の崩壊と、それによって地球に次元犯罪者が流入するのを防ぐ予定。しかし襲撃時、スカさんに拾われた復讐鬼フェイトが立ち塞がる!

Q.なんで最初から結界張ってなかったの? A.少しでも魔法を抑えめにしてなのはが違和感を感じるのを抑えるため。乱入者が来るなんて思っていないし。

Q.なんでユーノは士郎さんが襲ってきたときに違和感を感じなかったの? A.そりゃ、そこまで考える余裕が無かったからです。

Q.なんでなのははユーノがとっさに結界張った時に気が付かなかったの? A.寝ぼけていたから。はやてが原作でユーノの念話が分からなかったのと同じ理屈です。その日、もしなのはが真面目に授業を受けていたら、結末が変わったかもしれません。

Q.虎切 A.御神流奥義之壱“虎切”のこと。士郎の虎切は最も上手いとされている。

Q.静馬 A.御神静馬。故人。美由希の実父。御神宗家の最後にして最強の正統伝承者。実力は士郎より上だったらしい。ちなみに士郎は御神不破。美由希の実母・美沙斗が十六歳になってすぐにプロポーズしたあたり、中々熱い男。何よりも、娘の美由希の成長を願っていた人でもある。「……なぁ美由希。お前は、強い剣士と…淑やかな娘、どっちになりたい?どっちにも、ならせてやる……。俺たちが、ならせてやる…」

Q.翡翠の守護者 A.オリキャラ。マテリアルユーノ。ツンデレ。誰を守護するのかは言うまでもない。こっちのユーノがベースなので当然御神流を使える。無論、結界・防御・検索・知識等もオリジナルと同等。オリジナル同様割と平気で無茶をする性格。

Q.星光の殲滅者 A.ご存知高町なのはのマテリアル。なんだかんだで翡翠とラブラブ。基本無表情だが彼の前でのみ割と表情が変わる。

Q.三段がけ A.御神流歩式・奥義の極み“神速三段がけ”のこと。

Q.雷徹 A.御神流奥義之肆“雷徹”のこと。名前しかないので詳細不明。多分すごい徹。

Q.黒衣の殺戮者 A.オリキャラ。マテリアルクロノ。アホの子の兄だからアホな性格に。でも決める時は真面目に決める。宴宣言もする。殺戮者ですから!作者は個人的にはとても気に入ったが、多分二度と出てこない。出まくるとウザイし。アクシス=アクシス=エフェクトス

Q.あれー?アリすずは? A.そこまで出ると何が何だか。今さらですが。大体ここのアリサは家以外はただの人です。人外魔境と戦かったりしたら死ぬ。すずか?うん、大丈夫かも。

Q.高町・テスタロッサ家 A.この世界ではフェイトはハラオウン家に養子入りしていません。多分プレシアさんと何かあったんでしょう。何も考えていないけど。エリオも住んでいて、良くキャロルーが襲撃してくる。そしてエリオを巡って二人で殴りあっている。

Q.キャロの両親 A.本編で全く情報がありませんので……。いない理由はこんな感じかなあと。

Q.なんでエリオ達も例の指輪を……? A.いや、一組しかない程貴重な物ではありませんよ。でも発動するには結構なパワーオブラブが必要だけど。

質問を追加しました。影法師さん、ありがとうございます。
Q.ちょっとフェイトがその一でヤン○デレていたのに理由が薄くないかい? A.あくまでもどうやってくっ付いたからですので。フェイトルートは結婚してからが本番……の、はずw。結婚後、何かあったんでしょう。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.0064690113067627 / キャッシュ効いてます^^