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[37300] 【短編】ブレイクタイム(ユーなの)
Name: 銀◆4b281239 ID:143043a1
Date: 2013/06/20 10:32
 無限書庫。時空管理局本局にある、世界のあらゆる記録の詰まった巨大な書庫である。
 ここに勤める司書達は、今日も各部署からの依頼や未発掘の文献の調査に精を出している。


 そして、この無限書庫の司書達を纏める人物こそ、世間一般では考古学士としても有名なユーノ・スクライアである。
 無重力の書庫内で、ユーノはリボンで束ねたクリーム色の髪を揺らし、複数の本を調べていた。一般の司書なら一度の検索魔法に二、三冊が限度だが、ユーノはそれを六冊以上も駆使し、必要な情報のみを書類に纏めている。ユーノの作業スピード、効率、そして仕事量は司書数人分にまで匹敵している。
 仕事が出来、性格も紳士的でおまけにルックスもいい。女性司書達からの人気が高いのも頷ける。最も、朴念仁の本人は全く気付いていないが。


 さて、いくら数人分の仕事が出来る司書長とはいえ、中身は人間である。当然、休憩時間が必要となってくる。だが、ユーノは仕事に没頭しており、自分の時間が来たことに気付いていないようだ。
 根っからの仕事人間であるユーノは有給すら使わずに司書としての仕事を楽しんでいる。そんな仕事熱心な彼の性格は長所であると同時に、人事部の悩みの種でもあったのだ。
 普段ならば近くにいた司書の誰かが知らせて漸く休憩に入るのだが、この日は珍しくユーノに来客が来ており、それを知った司書達は敢えてユーノに知らせようとしなかった。

「ユーノ君っ」

 着々と進んでいたユーノの作業がピタリと止まる。聞き覚えのある女性の呼び声に、ユーノは驚いた表情で振り向いた。

「なのは?」

 ユーノの視線の先にいたのは、彼の幼馴染。
 時空管理局の戦技教導官にして「不屈のエースオブエース」の異名を持つ、高町なのはであった。
 2人は立場や仕事の都合上、昔より会うことが少なくなっていた。少し前まではなのはの養子であるヴィヴィオが無限書庫を待ち合わせ場所にしていたため、ユーノと少し話す時間があった。しかし、ヴィヴィオが成長してからは待ち合わせの必要がなくなり、会う機会も減っていった。
 だが、なのはは何故か今ユーノの目の前にいる。

「どうしてここに?」
「丁度通りかかったから来ちゃった」

 亜麻色のサイドポニーを揺らし、少女時代と変わらない笑顔を見せるなのはに、ユーノの頬が少し赤く染まる。
 どうやら、今日は早朝訓練と午後からの教導の時間が大幅に空いているらしい。そこでまずは昼食を取ろうと移動していたところ、無限書庫の前を通りかかり、寄ってみたということだそうだ。
 そこで漸く、ユーノは昼休憩の時間になったと気付いた。

「お昼、一緒に食べる?」
「あ、うん」

 手も止まってしまったし、ユーノに断る理由はない。何より、折角のなのはと会話できるチャンスを逃す手はない。休憩に出ることを司書達に報告し、ユーノはなのはと2人で食堂へと向かった。
 余談だが、この時ユーノは周囲から暖かい視線を感じたとのこと。




 食堂に着いたユーノとなのはは、昼食にサンドイッチを取りながら互いの近況について談笑した。
 2人はもう10年程の付き合いである。他にも異性の知り合いはいるが、ユーノにとってなのはは命の恩人でもあり、魔導師の弟子でもある特別な関係だった。なのはにとっても自分を魔法世界に引き込んだ存在であり、異性の中ではユーノ以上に仲の良い人物が思い付かない程慕っている。
 故に彼らを知る周囲の人間からは未だに恋愛関係にまで至ってないことが不思議に思われていた。

「そこでクロノの奴がまた人を扱き使うんだよ」

 話題は2人の共通の友人である提督の愚痴にシフトしたようだ。
 クールな表情で次々に資料請求してくるクロノが容易に想像でき、なのはは苦笑する。
 昔と同じ魅力的な笑顔。しかし、全てが昔のままという訳にもいかない。特に制服の上からでも分かる、凹凸のある体は少女が大人の女性へと成長したことを証明していた。
 ユーノは中性的な顔だと言われるが、立派な男だ。女性の体、特に好いている女性ならば猶更気になる訳で。

「ユーノ君?」

 思わず見惚れていたユーノは、なのはに声をかけられ我に返る。
貴方の体を見ていました、なんて正直に言えるはずもなく、ユーノは頬を染めながら何でもないと誤魔化した。

「ユーノ君、ひょっとして眠い?」

 なのははどうやら、ユーノがボーとしていたのは仕事の疲れが溜まって眠いからだと判断したらしい。
 疑われずホッとしたユーノ。だが、次の瞬間には彼の顔を更に真っ赤に染めることが起こる。

「じゃあ、どうぞ?」
「ええええっ!?」

 なのははユーノの傍に寄り、自身の膝をポンポンと叩く。そう、膝枕を勧めてきたのだ。
 ユーノの視線はなのはの無邪気な笑顔と、タイトスカートから覗く白い太腿の間で揺れ動く。

「お、お言葉に甘えて……」

 結局、誘惑に負けてユーノはなのはの膝を借りることとなった。
 最初は恥ずかしさで寝ることなんて出来ないと思っていたが、太腿の柔らかさとやはり日頃の疲れが溜まっていたためかすぐに眠りこけてしまった。
 ユーノがすやすやと眠っている間、なのはは幼馴染の寝顔を堪能することにした。

「ふふっ、ユーノ君の寝顔可愛い」

 ユーノがなのはを異性として気にしていたように、実はなのはもまたユーノを気にしていた。
 というのも、最近教導隊の同僚が寿退社することを発表したのだ。幸せそうに指輪を見せてくる同僚に、なのはも羨望の念が湧いていた。
 思えばクロノは既に結婚し、昔同じ職場で働いていたグリフィスとルキノも婚約していると風の便りで聞いた。そこで自分もそろそろいい相手を見つけてもいいのではないかと思い始めたのだ。


 その時、真っ先になのはの頭に浮かびあがったのがユーノだった。ユーノといえば顔も性格も良く、無限書庫司書長という肩書もあって時空管理局内の人気物件の一角として一部に知られている。
 勿論、そんな評判がなくともなのははユーノが昔から優しく礼儀正しいことを知っていた。
 しかし性格は変わらずとも外見は年を重ねるごとに変わるもの。出会った時には同じだった身長は自分を追い抜かし、男性らしい体つきに成長した。
 因みにユーノを男として意識した瞬間、なのはの顔は火が付いたように赤く染まったとか。


 このように、双方とも少なからず意識しているのだが、どちらも恋愛関係に疎すぎるために進展しないのだった。
 2人の共通の知り合いであり、クロノの妻でもあるエイミィ・ハラオウン曰く、「2人とも仕事好きだし、そういう話はまだ当分先かな」とのこと。





 休憩時間もそろそろ終わりが近付く。普段は無視したり忘れる程だが、親しい相手と過ごす場合は名残惜しいものだ。

「ユーノ君、よく寝てたね。普段ちゃんと寝てる?」
「えっと……論文とか書いてて夜更かし気味かも」
「ダメだよ、ちゃんと睡眠は取らなきゃ!」

 こんな風に気軽に話せるのも幼馴染だからこそである。
 どちらかが告白をすれば、こんな関係が崩れるかもしれない。それならば、今はまだこのままでいいのだろう。

「あはは、気をつけます」

 無限書庫前まで着き、別れの時が来る。

「じゃあここで。今日はありがとう」
「ううん、久しぶりにユーノ君と話せて楽しかったよ」

 笑顔で手を振り、2人は別れる。無限書庫に戻ってきたユーノに進展がないことを悟り、司書達は落胆の溜息を吐いた。
 これで今日の休憩時間は終わり。若い男女は片や無限書庫の司書長、もう片方は戦技教導官に戻る。次の休憩時間は何時になるだろうか。


 2人の「幼馴染」という関係が壊れ、新たに「恋人」という関係になるのはまだまだ先のお話。




あとがき

どうも、銀です。
軽い気持ちと頭でユーなの短編を書いてみました。

タイトルの意味についてですが、

・ユーノとなのはの休憩時間
・2人の関係がブレイクするまでの時間
・作者の休憩時間

このような意味を込めて付けました。

皆様の休憩時間に軽く楽しんで頂けたら幸いです。



[37300] 【短編】近くて遠い未来の図(ユーなの)
Name: 銀◆4b281239 ID:3f1ab2d7
Date: 2013/07/12 14:57
 最近、結婚の話題がよく出るなぁとユーノは思った。


 無限書庫には様々な部署からの依頼が来る。裁判の記録や次元世界の歴史、中には美味しいお茶の入れ方なんてものもあった。
 なので必然とユーノには所属部署を問わず、局内の顔見知りが多くなる。その内の1人が資料請求のついでに、左手薬指に填めた指輪を見せてきたのだ。ユーノはおめでとう、お幸せにねと心からの祝いの言葉を贈った。


 更に、合わせるかのようにスクライアの中でも兄のように慕っていた幼馴染から、遂にプロポーズを成功させたと報告が来たのだ。
 手紙と同封された写真には嬉しそうに笑う未来の夫婦の姿。結婚式の招待状も同封されていたので、ユーノは休暇の申請をしなきゃとボンヤリ考えていた。


 今朝の新聞にも、芸能人の結婚が報じられていた。
 ここまで結婚の話題が集中すると、まるでユーノにも「早く結婚しろ」と促しているようだ。

「結婚かぁ……」

 ユーノはまだまだ20代前半。だが、無限書庫司書長という肩書きとそれに見合う稼ぎはある。十分結婚の可能性はあった。
 しかし、最大の問題はユーノ自身にその気がないことだ。男女関係よりも仕事を優先してしまうせいで、結婚どころか彼女すらいない。

「司書長、ご結婚するんですか?」
「え?」

 ふと、資料を纏めて持ってきた司書がユーノに話しかける。
 そんな予定のないユーノは何故そんなこと聞かれたのか分からなかったが、自分の手元を見て納得する。
 どうやら、結婚のことを考えすぎた所為で婚活雑誌やらが検索で引っかかって、ユーノの手元に集まっていたのだ。婚活雑誌まであるなんて、改めて無限書庫はすごいとユーノは思った。

「何でもないよ。知人が結婚するから気になってね」

 らしくもないミスに苦笑しながら、ユーノは婚活雑誌を書庫に戻す。
 だが、司書は納得してないようにユーノを見つめていた。

「本当ですか?」
「な、何が?」
「エースオブエースさんとは何もないんですか!?」

 突然凄い剣幕で訪ねてくる司書に、ユーノは一瞬たじろいだ。
 エースオブエース、高町なのはとユーノの関係は司書達の間でも話題になっていた。ただの幼馴染にしては仲良すぎじゃないか、何か頬染めてるし、もう早く付き合っちまえよ等々。
 それは司書達だけではない。2人の知人であるフェイトやはやてにも、両者の関係は相思相愛に見えていた。

「なのはとはただの幼馴染だよ。家族みたいなものさ」

 ところが、ユーノもなのはもお互いに幼馴染で大切な存在の一点張り。どちらも鈍感かつ、恋よりも仕事を優先させるタイプなので全く進展しない。そんな2人に周囲は毎度やきもきさせられているのだった。




 仕事が終わり、ユーノも自宅へと帰ると疲れを流すために風呂に浸かる。常日頃から頭を使うユーノがリフレッシュ出来る貴重な時間である。

「ふー、何とか有給とれたな」

 ユーノが有給を取ることは極めて珍しく、人事部は最初耳を疑ったという。次に身内の都合と知った時には納得したような残念そうな表情を浮かべたが。
 溜息を吐き、濡れたクリーム色の前髪を拭いながらユーノは天井を見つめる。普段眼鏡を掛けているユーノの視界は、今はぼやけている。無防備な表情は中性的な顔立ちも合わさり、女性にしか見えない程色気を出している。
 ボーっとした頭の中では今日、司書が言ったことを思い出していた。

「なのはとは何もないんですか、ねぇ……」

 なのはとは今も昔も大事な幼馴染で、命の恩人である。しかし、ユーノも立派な男。なのはが異性として気にならないと言えば、それは嘘になる。
 結婚、エースオブエース……ユーノは試しになのはと結婚した場合を想像した。




 朝。ユーノが目覚めると、誰かが朝食を作っている音がする。ベッドから体を起こし、居間へ向かうと、エプロン姿のなのはがベーコンエッグを3人分焼いているところだった。

「あ、ユーノ君。おはよう」
「おはよう、なのは」

 笑顔で挨拶を交わす夫婦。すると、今度は娘のヴィヴィオが早朝練習から帰ってきた。

「ママ、パパ、おはよう」
「おはよう、ヴィヴィオ」

 ユーノとなのはは帰ってきた娘を笑顔で迎える。そして妻の作った朝食を3人で仲良く食べた。
 学校へ行くヴィヴィオを見送ると、ユーノは無限書庫、なのはは教導官として演習室へ出勤する。それぞれの仕事場までは夫婦仲良く移動である。
 昼休みはなのはと重なることが少ないので省略。帰宅時間も、なのはとはズレがある。稀に泊まり込みなんて場合もある。

「おかえりなさい、ユーノ君」
「パパ、おかえり!」

 帰宅出来た時は、なのはとヴィヴィオが迎えてくれる。
 風呂に浸かり、遅い夕食を食べながら、なのはと2人きりで今日あったことを話す。
 ヴィヴィオは明日の朝練の為に早く寝てしまい、家での会話の機会はあまりない。その分無限書庫に遊びに来た時に談笑しているので寂しくはない。
 そして、2人で仲良く同じベッドに就眠。朝へと戻る。




「……今とあまり変わらないな」

 ユーノは妄想の結果、今の生活とあまり変化ないと結論を出した。
 なのはと一緒の時間が少し増えるのは嬉しいが、今のままでも度々会って話をしている。更には10年前にフェレットの状態でなのはの傍にいた為に、妄想した生活が普通に思えてしまったのだ。
 本来なら夫婦の営みなどが入るのだが、哀しいことにユーノは紳士かつ純情なので妄想出来なかった。
 ヴィヴィオも、無限書庫に来た時によく会っており、仲も既に良好なため今更親子になっても変わらないと思われる。

「今と変わらないなら、無理に結婚しなくてもいいんじゃないかな」

 そもそも、自分がいきなりプロポーズしても、付き合ってすらいないなのはに受け入れられるとは限らない。なのはは自分のことをただの幼馴染として見ている、と考えているので恋愛関係に踏み込むこと自体があり得ないと思ってしまう。
 結婚に対する1つの結論を導き出せてユーノは満足したように頷いた。




 翌日。時間が空いたので戦術の本を読みに来たなのはに、ユーノは丁寧に教えていた。
 最初は魔法の師匠とはいえ戦闘向きではない自分が戦術を教えられるのかと思ったが、知識はあったし、なのはの強い希望により教えることになったのだ。

「ここはCが前に出て……」
「そんな攻め方もあるんだね~」

 密着し、仲睦まじく本を読む男女。どこからどう見ても恋人にしか見えない幼馴染2人に、司書達は殴る壁はないものかと考えたとか。




あとがき

どうも、銀です。
続きを書けと言われたので、3分で考えたネタを書いてみました。

入浴シーンもあるので、軽く楽しんで頂けたら幸いです。



[37300] 【短編】Friends or Lovers?(ユーなの)
Name: 銀◆4b281239 ID:143043a1
Date: 2013/06/20 10:36
 その日、無限書庫が揺れた。

 勿論物理的にではなく、司書達がある話題にざわついていたのだ。

「朝っぱらから騒々しいね」

 落ち着きのない司書達の様子を、犬耳を生やした少女は呆れた表情で見ていた。
 その少女、アルフはフェイトの使い魔だ。昔は主人と同じ戦線に立っていたのだが、戦闘サポートがいらなくなった現在は家事やフェイトの義兄夫婦の子供達の世話を担当している。その面倒を見ていた双子も大きくなり、時間に余裕が出来たアルフは久々に昔馴染のユーノの手伝いに来たのだ。
 因みに、少女の姿はフェイトの魔力を喰わないよう変身魔法で保ったものであり、アルフ本来の姿は大きな狼である。

「何かあったのかい?」

 ここまで司書達がそわそわしているということは絶対に何かがあったはずだ。アルフはとりあえず受付嬢に事情を聞いてみた。

「あ、アルフさん。実は……」

 受付嬢の勿体ぶった話し方に、アルフはただごとではないのかと息を呑む。


「司書長がエースオブエースとお泊まりデートなんですよ! しかも旅館ですよ! 旅館!」


 この日、アルフは久々にもう1つの真の姿である大人形態になり、浮かれる司書達を鬼の形相で纏め上げたという。

 そもそも、アルフが無限書庫に足を運ぶことになったのも、ユーノが留守中の無限書庫の手伝いをしてほしいと頼んだからである。
 しかし、発掘以外に休暇を取らないことで有名なユーノが何故なのはと2人きりで旅行へ行くことになったのか。
 それは、数日前まで遡らなくてはならない。




 管理局のエースオブエース、高町なのは。一度白い制服を着れば誰もが恐れる、天下無敵の鬼教導官と化す。そんな彼女も、オフの日に街を歩けばごく普通のよき母親だ。
 今日も食材の買出しを終えて商店街を歩いていると、ある催し物が目に入る。カランカランとベルを鳴らしたおじさんが、ガラガラを回した奥様にティッシュを渡している。商店街名物、福引である。
 地球ではよくある光景だが、都市の発達したミッドチルダでは珍しいものだ。ミッドに移り住んで約10年は経つなのはもここでは初めて見掛けた。

「お姉さん、券持ってるんだったらやってみない?」

 珍しさと懐かしさで眺めていたなのはは、偶然目が合ったおじさんに声を掛けられた。
 丁度、買い物したスーパーで福引券を数枚貰っている。たまにはいいか、となのはは券を取り出してガラガラへと足を運んだ。




〔それで、見事に1等を当てたと〕
「にゃはは……」

 やるからには、3等のコーヒー詰め合わせぐらい持ち帰りたい。全力全開でガラガラを回した結果、なのはは1等の温泉旅行招待券を当ててしまったのだった。このことをフェイトに通信で報告すると、案の定驚きと苦笑が混ざった表情で返されてしまった。
 ここまでならば、問題はなかった。だが、物事はそう都合よくはいかない。
 第一の問題に、券が2名様ご招待であったこと。これは愛娘ヴィヴィオと家族旅行に行けばいいと考えていた。
 しかし、第二の問題が正にそれだった。ヴィヴィオはストライクアーツの選手として日夜修行をしている。そして、なのはが次の休暇を取れそうな日程にヴィヴィオはチームメイトのリオ、コロナ、アインハルトと、コーチのノーヴェの家に泊り込みの修行をする約束をしていたのだ。

「フェイトちゃんは執務官の仕事で出張中だもんね……」

 更に間が悪いことに、もう1人の親友はやても海上司令としての仕事で予定が取れなかったのだ。

〔ごめんね、なのは〕
「ううん、こっちこそ邪魔してごめんね。お仕事頑張ってね」

 報告を終えると、なのはは2枚のチケットを眺めて頭を悩ませた。一緒に行く相手がいないならいっそ1人で行くか。それとも旅行自体を諦めるか。

「……ユーノ君は大丈夫かな?」

 ふと、幼馴染の無限書庫司書長を誘っていないことに気付く。司書長として忙しい日々を送るユーノはきっと休む暇はないと考えていたのだ。しかし、聞いてもいないのに決め付けるのはまだ早い。少しの可能性を信じて、なのははユーノと通信を繋いだ。

〔はい?〕
「もしもし、ユーノ君。今ちょっといい?」
〔どうしたんだい? なのは〕

 意外にも、ユーノはすぐに出た。夜中だということもあるだろうが、ユーノが今はそれほど忙しくはない証拠だった。
 なのはは手短に旅行券を得た経緯、そして一緒に旅行に出掛ける相手がいないことを話した。

〔運がいいのか悪いのか……〕

 ユーノもフェイトと同様、なのはの現状に苦笑する。そこで、なのはが自分に連絡を寄越した動機を理解する。

「それでね、もしよかったら……」
〔いいよ〕

 なのはの言葉を最後まで聞かず、ユーノは一言答えた。なのはは言いたいことを遮られて一瞬驚いたが、OKを貰えたと分かりすぐに喜びの笑顔を浮かべる。

「い、いいの? 忙しくない?」
〔論文も書き終わったし、有給も有り余ってるからね〕

 基本的に有給を使わない、そもそも存在すら忘れるユーノは人事部が驚く様を容易に想像でき、また苦笑する。
 ともあれ、論文も調査もない時間というのはユーノにとって珍しい時間だった。そんな時に来たなのはの誘いは正にグッドタイミングだ。

〔それに、なのはと出掛けるのも久々だから、楽しみだよ〕
「う、うん! 私もユーノ君と旅行、すっごく楽しみ!」

 優しく微笑むユーノに、なのはは頬を染めて頷く。
 それから2人は時間ギリギリまで旅行の計画を話し合った。通信を終えた後もなのはの興奮は収まらず、掛け布団を抱きしめながらユーノとの旅行を心待ちにしていた。




 そして、旅行当日。
 無限書庫のことはアルフに任せ、ユーノはなのはと待ち合わせた駅で待っていた。移動手段が電車の理由は、お互いに車を持っていないからである。

「ユーノ君!」

 キャリーケースを転がしながら、なのはがやってきた。ピンクのワンピースに白いボレロと、彼女のイメージによく似合っている服装だった。

「ごめんね、待たせちゃった?」
「ううん、そんなことないよ」

 なのはが来たのは待ち合わせ時間の約5分前だ。しかし、ユーノが着いたのは10分前。
 相手を待たせてはいけない、と考えたのはお互い一緒で、今回はユーノの方が早かったようだった。

「あ、私服のユーノ君って久々に見たかも」

 緑系統のパーカーにカーキ色のズボンという簡素な私服は、普段スーツ姿のユーノに新鮮さを与えた。

「そうかな? 変だった?」
「ううん、ユーノ君らしくて似合ってるよ」
「ありがとう。なのはもピンクが似合ってて可愛いよ」

 ユーノに褒められ、なのはは頬を赤く染めた。実は朝早起きして、似合う服を探していたのだ。
 会って早々に互いの私服姿を褒める2人を傍から見た通行人からは、仲のいい恋人にしか見えなかったとか。




 目的地の旅館はミッドチルダ南東の山地にあった。長い間列車に揺られたあとはバスに乗り換え、パンフレットに書いてあった停留所から更に徒歩とクラナガンからは結構な距離があった。
 その間も、ユーノとなのはは互いの近況やなのはの故郷、海鳴市にいた時の思い出話を語り合った。教導官として普段から自身も鍛えているなのははさておき、ユーノは趣味が遺跡発掘の為に見た目とは裏腹に体力があった。

「すみません、今日予約した高町ですけども」
「はい、お待ちしておりました」

 旅館の外見も木製の素朴な感じが出ており、なのは達は地球にいるような感じがしていた。最も、ミッドにも最初から温泉の文化はあったようだが。

「あれ? 鍵は1つですか?」

 カウンターから部屋の鍵を渡された時、ユーノは1つ違和感を感じた。
 ユーノはなのはと別々の部屋に泊まるものだと思っていた。しかし、受け取ったルームキーは1つだけ。

「はい。同室と聞いてましたが」

 カウンターの言葉に、ユーノの顔が青くなる。
 以前なのはの家に居候していた時期があったが、それは双方とも幼い時の話だ。だが、今は20歳を超えた大人。幼馴染だからと言って付き合ってもない男女が同室で止まるのはマズいのではないか。

「どうしたの? ユーノ君」

 しかし、当のなのはは全く気にしていないようだ。昔のような感覚でいるのか、それとも自分が男として見られていないのか。ユーノはやや肩を落としながらなのはについて行った。

「……恋人よね? あの2人」

 事情を知らないカウンターには、やはり2人が恋人か夫婦にしか見えなかった。




 部屋は旅館らしく畳を敷いており、窓からは木々に囲まれた風景が一望できた。
 地球の旅館となんら変わらない風景に、なのはは故郷を懐かしんだ。一泊しか出来ないのが残念だが、ユーノもなのはもそこまで時間がとれるわけでもない。

「ユーノ君、お風呂入りに行こっ」
「えっ、うん」

 旅館の雰囲気を満喫し、すっかりご機嫌のなのはは、ユーノを連れて一番の目玉である温泉へと向かう。
 その間も、ユーノはなのはと同じ部屋で1泊することに躊躇いを感じていた。
 勿論、ユーノはなのはが好きだ。だがそれは幼馴染としての好きで、男女関係の好きかどうかはハッキリとしていない。

 なのはは恋人でもない男と同室で、躊躇いはないのだろうか?

 純粋かつ真面目なユーノの頭では、疑問と葛藤が渦を巻いていた。

 幸いにも温泉は男女分かれているので、ユーノはなのはと別れ男湯へ進んだ。
 他に誰も入っておらず、貸切状態である。ユーノは体を流してから湯船に浸かった。

「ふー……」

 自然に囲まれた露天風呂は丁度良い温度で、ユーノの疲れた体を解してくれる。リラックスしたユーノの頭は冷静さを取り戻していた。

「いつからだっけな……」

 なのはを女性として見始めたのはいつからだろうか。昔は同室どころか、隣で寝ることも平気だったはずなのに。
 普段は幼馴染として接することが出来るのに、肝心なところでは意識せざるを得なかった。


 ふと、隣からカラカラと浴場の戸が開く音がした。きっとなのはだろう、とユーノは考えた。だが、温まってぼやけた頭で思考したことは間違いだった。
 竹で作られた塀の向こうには、一糸纏わぬなのはがいる。出るところは出て、締まるところは締まった肢体にお湯を掛けるなのは。ピチャリ、ピチャリと水音がする度に、ユーノはなのはの入浴シーンを想像してしまう。

『何を考えているんだ、僕は!』

 顔を真っ赤にし、顔に湯を掛けるユーノ。他に客がいないことが幸いである。

「ユーノ君ー」

 塀の向こうからなのはに呼ばれ、ユーノはビクッと反応してしまう。妄想したのがバレたのか、と不安が頭を過ぎる。

「そっちの湯加減はどうー?」

 だが、聞こえてきたのは相変わらず温泉を楽しんでるなのはの声だった。
 考えすぎだ。らしくない。ユーノはお湯で濡れた髪を振り、妄想を払う。

「うん、とても気持ちいいよー」
「こっちもー」

 折角誘ってもらって来たんだ。なのはと一緒に旅行を楽しもう。
 ユーノは再び思考をゼロに戻し、自然の空気と温泉の心地よさを堪能した。




 温泉から上がり、温泉浴衣に着替えたユーノとなのははヴィヴィオやフェイト達へのお土産を選んだり、夕食に新鮮な山菜を美味しく頂いたり、のんびりとした時間を過ごした。


 そして、なのはは再び温泉に浸かっていた。夜景も綺麗、とパンフレットに書いてあったので、夜も入らなきゃと考えていたのだ。
 ユーノも入る予定だったのだが、アルフからどうしても見つからない資料があると通信が入ったので後で入ることとなった。

「星がすごいなぁ」

 上を見上げると、夜でも明るい都市部では決して見られないであろう星空が煌めいていた。
 最初に入った時とはまた違う楽しみ方に、なのはは本当に来てよかったと満足していた。

「ユーノ君も楽しんでくれたし……」

 今日一日、ユーノと一緒にいた時間を思い出す。
 昔と同じように微笑むユーノ。しかし、少年時代にはなかった大人の格好良さが加味されて魅力的に見える。今日も待ち合わせを先に越されたり、キャリーケースを運んでくれたり、優しいところも昔と変わらない。
 長所をそのままに、より紳士的に成長したユーノになのはは内心ドキドキしていた。

「うぅ、今更同じ部屋で寝るのが恥ずかしくなってきた……」

 予約した時は小学生時代と変わらない感覚だった。しかし、こうも格好良くなったユーノに異性として意識するなという方が無理だった。

「ユーノ君はそんなこと考えてないだろうし……」

 自分達は家族のようなものだ。この関係は今も昔も変わらない。だから、もしかしたらユーノは自分との異性関係を考えてないかもしれない。
 さっきまで旅行を楽しんでいたなのはに、悶々とした気持ちが広がる。ユーノのことを考えると心臓が締め付けられるようだった。
 これは一体何だろうか。


 なのはを現実に戻したのは、カララという戸が開く音。しかも、女湯の方だ。

「なの、は……?」

 出入り口を見ると、腰にタオルを巻いただけのユーノが立っていた。

「――っ!?」
「ご、ゴメン! 入ってるなんて……あれ?」

 なのはは声にならない悲鳴を上げる。出ていれば、無限書庫司書長があえなく前科者になるところだったので出なくてよかった。
 慌てて目を隠し、後ろを向くユーノだが、何か異変に気付き首を傾げる。

「ど、どうしてここに?」
「でも暖簾にはちゃんと男湯だって……まさか!」

 ユーノともあろう人間が、まさか男湯と女湯を間違えるはずがない。考えられる理由としては、なのはが入っている間に男湯と女湯が入れ替わったのだろう。

「じゃ、じゃあ後で入り」
「待って!」

 入り直す、というユーノの言葉を遮り、なのはは呼び止める。

「一緒に、入ろ?」

 顔を耳まで赤く染めて体を両腕で隠しながら、なのはは涙目でユーノにを誘った。
 この時、何故入るように誘ったのかなのはにも分からかった。このままでは体を冷やしてしまうから? フェレットモードだったからとはいえ、昔はよく一緒に入ったから?
 理由はともかく、ユーノはなのはの魅力に押され、視線を逸らしながらゆっくりと湯船に浸かった。


 互いに体を見ないよう、背中合わせに座る。他に誰か入ってくるかもしれないから、入り口からはユーノがなのはを隠すような位置で。
 意識していた相手と、裸で一緒にいることになるなんて。2人は時間が止まったかのように何も話すことが出来なかった。

「あの……ユーノ君?」

 先に口を開いたのはなのはだった。

「ゴメンね。こんなことになって……」

 折角の旅行なのに、気まずい雰囲気を作ってしまった。なのははユーノに申し訳なく思っていた。

「そんな、僕がよく確認しなかったから……ゴメンよ、なのは」

 それはユーノも同じだった。一歩間違えれば旅行所か2人の関係すら壊しかねなかった。謝ってばかりの2人は、状況の可笑しさに思わず笑みが零れる。
 顔を合わせないまま、2人は仲直りの印に手を握った。

『ユーノ君の背中、こんなに大きいんだ』
『髪を下ろしたなのは、綺麗だなぁ』

 胸に秘めた想いを打ち明けないまま、2人は他人が来ない内に、逆上せないよう温泉から出たのだった。




「これは……」
「うん、勘違いされたかも……」

 見つからないよう別々に浴場から出た後、部屋に戻ってみると布団が敷かれていた。
 旅館ならば当然ではあるのだが、2人が頭を抱えている理由は隣り合わせに敷かれていたからだ。
 いくら鈍い2人でも、この状況で漸く旅館の従業員から恋人、或いは夫婦だと見られていたことに気付くことが出来た。

「えっと……とりあえず離そうか」

 ただでさえさっきまで混浴というアクシデントがあったというのに、隣り合わせとなると緊張して眠れない。
 ユーノは片方の布団を持って引き離そうとした。

「待って、ユーノ君」

 しかし、意外にもなのははそれを止めた。気まずくて眠れないのはなのはも同じはずだが、今日は何故だかユーノと寝たい気分になったのだった。

「私と一緒じゃ、ダメ……?」

 髪を下ろしたまま、浴衣という新鮮な姿でユーノを見るなのは。顔が紅潮してるのは温泉で温まったから、だけではないのだろう。
 なのはの弱々しいお願いに、ユーノは断りきれず掴んだ布団の端を放した。

 就寝時間になり、混浴した時と同様背中合わせになって寝るユーノとなのは。しかしどちらも、すぐ後ろの相手が気になって眠れないでいた。

『ユーノ君、もう眠ったかな?』
『なのははもう寝たよね?』

 胸の高鳴りを抑えることが出来ず、結局2人が眠りに付いたのは布団に入って1時間以上経過してからだった。




 朝、ユーノが目を覚ますとなのはは布団におらず、代わりにメモが枕の上に置いてあった。

「「ユーノ君おはよう。お風呂に行ってきます」か……」

 温泉といえば朝風呂も欠かせない。きっとなのはならそういうのだろう。
 朝風呂は構わないが、昨晩のようなハプニングに遭いかねない。ユーノは苦笑しつつ、まずは布団を畳むことにした。


「ふふっ、ユーノ君の寝顔可愛かったなぁ」

 一方女湯では、早起きしたなのはがユーノの寝顔を思い出して笑みを零していた。




 アクシデントはあったものの、旅行は無事終了。お土産も買い、列車に揺られクラナガンへ。

「また行こうね、ユーノ君」
「うん、なのは」

 それはまだ自覚のない恋心だが。
 「幼馴染」から「恋人」になる日は遠くはない……はず。




おまけ

 ユーノがお土産を持って無限書庫の様子を見に行くと、アルフ含む司書達がこぞってユーノを取り囲んだ。

「それで、どうだったんですか!?」
「進展しましたよね、司書長!?」
「流石になんかありましたよねコノヤロー!?」
「さっさと白状しちまいな!」

 訳の分からないことでいきなり詰め寄られ、ユーノは混乱した。

「え、ちょっ!? 何のこと!?」

 気迫に押されっぱなしのユーノがやっと答えた一言。これだけで、司書達はまたもや司書長がやらかさなかったことを察した。

「さ、仕事仕事」
「チッ、絶対進展あると思ったのにな」
「へへっ、毎度あり」
「あの朴念仁カップルが簡単に進展する訳ないって」

 蜘蛛の子を散らすように仕事に戻る司書達。中には賭け事までしてるようなのもいて、ユーノの頭には疑問符だけが残った。
 そして、アルフはお土産のハムに大喜びしていた。




あとがき

どうも、銀です。

よかれと思ってユーなの短編を本気で書きました!

楽しんでいただけると幸いです。



[37300] 【短編】ユーノインワンダーランド(ユーなの)
Name: 銀◆4b281239 ID:10f1c9c3
Date: 2013/06/20 10:37
 その日、無限書庫が揺れた。

 勿論物理的にである。

「大変だー! 司書長が閉じこめられた!」

 未開区域の探索中、誤ってトラップを発動させてしまい、ユーノが本棚に閉じ込められてしまったのだ。
 無事だったユーノ以外の調査メンバーは、慌てて外に助けを呼びに出た。が、今回は楽に解除出来そうもないトラップだったために救助が難航していた。
 特に、道を塞いでいる壁が硬くて中にも入れない。

「皆さんどいて!」

 そこへ声を上げたのは、高町なのはだった。たまたま無限書庫の前を通りかかったところ、大事な幼馴染のピンチと聞き飛んできたのである。
 自身の杖、レイジングハートを構え、ピンク色の魔力を高めている。その様子だけで、これから彼女が何をしようとしているのかがすぐに分かった。

「全力全開……!」
「ちょ、ちょっと待った! 高町空尉!」
「ダメですって! 中の書物まで吹っ飛ぶから!」
「発掘中断! 高町空尉を取り押さえろ!」

 なのはの砲撃ならば、壁どころか未発掘の書庫すらぶち抜いてしまうだろう。司書達はユーノを救うことで頭が一杯のなのはを必死に押さえた。




 一方、閉じ込められたユーノは頭を抱えていた。
 閉じ込められた場所は文字通り、本棚に囲まれた状態であり、座るスペースはあれど狭く暗い。
 灯りは魔法で出しているので問題はないが、流石に何時間も閉じ込められていては酸欠になってしまう。

「僕としたことが、情けないなぁ……」

 ユーノは苦い表情を浮かべながら、罠を発動させた時のことを思い出す。


 書庫の探索は順調だった。今回の区域はどうやら次元世界の童話や伝記が納められているようだ。
 本棚を整理しながら、ユーノは珍しく仕事とは別のことを考えていた。先日、一緒に旅行に出かけたなのはのことだ。
 アクシデントとはいえ、混浴したり一緒の部屋で、しかも隣り合わせの布団で寝てしまった。いくら鈍感なユーノでも、なのはを女性としてはっきりと意識せざるを得なくなっていた。
 亜麻色のサイドポニー。白い制服からも見れる女性らしい曲線。包み込むように優しい声と笑顔。少女の可愛らしさは、明らかに大人の美しさへと変化していた。

『いや、でもなのははきっと僕を幼馴染のフェレットだと思ってるんだろうな』

 仮に、ユーノがなのはに惹かれているとしても、なのはの方も同じかは分からない。旅行でも、同室で予約を取られていた。もしかすれば、なのははユーノを異性としてみていないかもしれない。勿論、第三者から見ればそんなことはないのだが。
 長い間に作られた強固な絆は、お互いを異性として意識させることを妨害していた。

「はぁ……」

 なのはへの想いは果たして本当に恋心なのか。ユーノは悶々とした考えを抱きながら本を手に取った。それが罠の起動スイッチだとは知らずに。


 普段のユーノならば外見から本ではないことを看破していただろう。気付いた時には、地響きと共に本棚が動き出し、閉じ込められていた。

「どうしたものか……」

 外ではきっと救助活動の真っ最中だろう。中からはどうすることも出来ない。ともなればユーノに出来ることは1つ。

「本を読もう」

 ユーノはその場に座り、近くにあった本を取って読みだした。普段は検索魔法を使って数冊の本を一度に読むのだが、いつここから出れるのか分からない状況で余計な魔力の消費はしていられない。それに、一度に読んでしまえば時間を潰せるものがなくなってしまう。
 本の中身をパラパラと捲る。どうやら童話らしく、ユーノの知っている言語で書かれており挿絵も載っていた。

「えっと、タイトルは……」

 1ページ目まで戻り、タイトルを確認しようとした時、異変が起きた。本の中が眩い光を放ち、次の瞬間にはユーノを吸いこんでしまったのだ。
 暗い空間の中、ドサッと落ちる謎の本。密室の為、ユーノが消えてしまったことに外の人間は誰1人として気付かなかった。




 ユーノは、まるで栓の抜けたプールのように渦を描きながら吸い込まれるような感覚に襲われた。
 そして、気が付いた時には広い野原に座り込んでいた。

「うっぷ……」

 外傷はないが、先程味わった感覚のせいで気分が悪くなるユーノ。しかし、無限書庫に閉じ込められていたはずなのに、今は外に出ている。しかも、時空管理局の本局内とは思えない程の自然が目の前に広がっていた。
 一体、ここは何処なのか。

「本の中の世界……?」

 ここは、物語の世界だとユーノは推測した。本に吸い込まれた以上、そう推測するのが一番妥当だろう。
 問題はここがどんな物語なのか。そして、どうやって元の世界に戻るか。

「えっほ、えっほ」

 頭を捻らせるユーノの目の前を何かが通り過ぎて行った。
 それは白い兎のような着ぐるみを着た少女だった。肩からは大きな懐中時計を掛けており、時々確認しては急ぐように走っていく。

「……ヴィヴィオ?」

 よく見れば、その少女はよく見知った人物。なのはの娘、ヴィヴィオだった。因みに着ぐるみが彼女のデバイス、クリスを模している。

「ちょ、何でヴィヴィオがここに」
「急がなきゃ遅れちゃう~!」

 驚くユーノを無視して、ヴィヴィオは走り去っていく。クリスの着ぐるみは実に走りにくそうであった。
 唖然としながらも、ユーノはとりあえずヴィヴィオの後をついて行ってみた。




 いつの間にか野原を抜け、暗い森の奥へと進んでいく。

「あれ、分かれ道だ」

 暫く歩いていると、ユーノは分かれ道に着いた。分岐点に看板はあるが、字は読めない。ヴィヴィオも見失ってしまい、ユーノはどちらへ進むべきか分からなかった。

「どっちに進むか……」
「お困りかい?」

 二者択一。どちらを選ぶか悩んでいると、誰かから声を掛けられた。
 その人物はオレンジの獣耳と尻尾をを生やした少女で、看板に寄りかかりユーノを見ていた。

「……アルフ?」

 またもや見知った人物に出会い、驚くユーノ。しかも今度は普段の姿そのまんまなので驚きようがない。

「あるふぅ? アタシはチェシャ犬だよ」
「ちぇ、チェシャ犬?」

 しかし、アルフのような少女は別人だと答える。よく見ると尻尾がストライプ模様になっている。
 違和感を感じながらも、ユーノはどちらへ進むべきか聞くことにした。

「アル……チェシャ犬はどっちへ進むべきか知ってるの?」
「どっちにでも進めばいい」

 答えになってない。ユーノはがっくりと肩を落とした。

「でも、そうだね……右へ進めばお茶会をやってるよ。行ってみたらどうだい?」

 続けて答えるチェシャ犬。お茶会、つまり人がいると言うことだ。もしかすればヴィヴィオがいるかもしれない。

「うん、そうするよ。ありがとう」
「ん。気を付けな」

 チェシャ犬と別れ、ユーノは右の道を進んだ。




 また暫く進んでいくと、チェシャ犬の行っていた通りお茶会が開かれていた。
 塀で囲まれた空間に長机と数個の椅子が並んでいた。しかし、お茶会を開いているのは2人だけのようだ。
 この異様な光景以上に、ユーノは参加している人物に驚いていた。

「あれ、お客さん?」

 そう答えたのは幼馴染の1人、フェイト・T・ハラオウンだった。お茶会をしているだけならまだよかった。
 だが、格好は何故かバニー姿。肩と谷間を露出させたバニースーツは、なのは以上に豊満なスタイルを扇情的に写している。惜しむべきは、テーブルクロスの所為で網タイツが見えないことだろう。

「いらっしゃい」

 もう片方はこれまた幼馴染の女性、八神はやてだ。
 はやての格好はワイシャツとミニスカートに、シルクハットを被っているというフェイトより露出の少ないものだ。だが、あくまでバニー姿より少ないというだけであり、ワイシャツのボタンは胸元まで開いており、恐らく下はノーブラ。ミニスカートもヒラヒラで風が吹けばすぐに捲れるようなものだ。

「とりあえず、2人共歳を考えようか」

 漸く言葉を捻り出すユーノ。しかしどちらもやけに似合っており、美貌も合わさって普通の男ならば即魅了されるであろう。幼馴染の過激な姿に、ユーノの頭は沸騰しそうだった。

「まぁまぁ、とにかくお茶をどうぞ」
「悩みがあるなら全部吐いてみ? すっきりするよ」

 しかし2人はユーノの言葉を無視して、強引に席に座らせた。
 どちらも動く度に胸が揺れ、ユーノは目のやり場に困った。

「実は、元に」
「分かる分かる、恋の悩みやろ?」

 ユーノの聞きたいことを遮り、はやては勝手に話を進めた。

「ちょ、違」
「相手はどんな人? 年下? それとも年上?」

 フェイトもすっかりその気になってユーノに問う。
 恋の悩みがある、という点は強ち間違いではないので、ユーノは顔を赤くして慌てていた。

「フェイトもはやても待ってよ! 僕が聞きたいのは」
「私はフェイトじゃないよ。三月ウサギ」
「私もはやてやなくて、帽子屋さんな」

 フェイトとはやて、改め三月ウサギと帽子屋はユーノに自己紹介をする。さっきのチェシャ犬のように、現実のフェイトとはやてとは別人なのだろう。
 全く自分の話を聞く気のない両者に、ユーノは溜息を吐いた。本当の2人ならこんなことはないのに。

「さぁさ、お茶でも飲みながら話してみ?」
「貴方の抱えた大きな悩みを」

 しかし、知っている顔だからか不思議と安心感が生まれる。加え、本物の2人でないなら相談しても構わないかもしれない。だって、ここは本の世界なのだから。
 ユーノは意を決して三月ウサギと帽子屋に、なのはのことを話した。


「それは恋だね」
「せやな。ちゅーかラブラブやないの。何で付き合わないん?」

 ユーノが話を終えると、どちらも揃って答えた。因みに双方とも途中で紅茶に砂糖を入れなくなっている。

「僕も彼女も、お互いを家族のようなものだって思ってた。彼女は今も、かな」

 ユーノとなのはの間に強い絆があっても、それはあくまで「ライク」の範疇。片方が意識しだしたとしても、噛み合わなければ崩れ去るだけ。そして、それは強いほどお互いを傷付ける。
 ユーノはなのはの傷付く姿を二度と見たくなかった。

「それに、僕じゃ釣り合わないよ」

 ユーノが思い出したのは、なのはが墜ちた事件のこと。
 傷付いた彼女を見て、全ては自分の責任だと感じたのだ。
 もし、なのはと会っていなければ。
 もし、なのはに魔法を教えていなければ。
 自責の念から、ユーノはなのはへの想いを堅く閉じ込めていた。

「本当に、それでええの?」

 ユーノに問いかける帽子屋。先程までと違う真剣みを帯びた声に、ユーノは言葉に詰まる。

「相手も、もしかしたらと思わないの?」

 続けて、三月ウサギもユーノに言葉を投げかける。

「量ってもいない天秤で決めつけるのは早いんとちゃうか?」
「相手が喜ぶ可能性は否定出来ても、悲しむ可能性は否定出来ないんだね」
「本当は量ることが怖いだけなんやろ?」
「悪い方を肯定することで行動を起こすこと自体を否定する」
「「君は臆病者だ」」

 2人の意見はユーノの心に重く圧し掛かった。

「……おっと、お茶のおかわりはいかが?」

 またふざけたように帽子屋が紅茶を勧める。
 しかし、ユーノは自問していた。果たしてこれでいいのか。
 自分が臆病のままならなのはを傷付けなくて済む。しかし、いつまで自分の心を抑えていられるか。

「それとも、先に進んでみる?」

 三月ウサギがある木を指差す。そこには、さっきまでなかった扉があった。
 自分の心に決着を付ける前に、まずは元の世界に戻らなくてはならない。

「先に進むよ。お茶、御馳走様」

 ユーノは立ち上がり、ドアへ向かう。

「気を付けて」
「悩みたかったらまたおいで」

 三月ウサギと帽子屋は優しい笑顔でユーノの後姿を見送った。




 扉の向こうは、綺麗にガーデニングされた庭だった。草の壁には白い薔薇が所々で花を咲かせている。
 庭の奥には何故か法廷があった。ここは裁判所なのだろうか。

「えーと」

 そして、ユーノは何故か庭に入り込んだ瞬間トランプで出来た兵隊に手錠を掛けられ、法廷に引き摺り出された。
 これではまるで、自分が被告だ。ユーノは自分の身に起きたことが理解出来なかった。

「これより、ユーノ・スクライア被告の裁判を始めまーす」

 すると、クリスの着ぐるみを着たヴィヴィオがラッパを吹きながら開廷宣言をした。どうやら本当に裁判をするらしい。

「女王陛下のおなーりー!」

 次にヴィヴィオは裁判官席を指し、お辞儀をした。
 すると、下手の方から女王らしき女性が裁判官席へ歩いて来た。女王は白いドレスを身に纏っており、亜麻色の髪をサイドポニーに纏めている。
 彼女もやはり、ユーノの見知った人物だった。

「なのは……」

 自分が想っていた女性だった。彼女がこれから自分を裁こうというのだ。ユーノにとって、これほど笑えない話はなかった。
 裁判官席に着いたなのはは、ユーノの罪状が書かれた洋紙を読み始めた。

「被告、ユーノ・スクライアは嘘を吐きました。自分に、そして私に」

 信じられない、という風に周囲がざわめき出す。ユーノ自身も、心当たりがあり息を呑む。

「ですが、もう1度だけチャンスを与えましょう。ユーノ君」

 洋紙を置いたなのはは、ユーノをじっと見つめる。

「自分の正直な気持ちを言いなさい」

 正直な気持ち。ユーノは女王の、そしてこの物語の意図が理解出来た。
 この言葉を言ってしまったら全てが終わってしまう。

「僕は……」

 ヴィヴィオを含めた周囲が見守る中、ユーノの意識はなのはしか捉えていない。
 ユーノは遂に意を決し、はっきりと口にした。



「僕は君が好きだ、なのは」



 ユーノは本棚に囲まれた空間にいた。足元には、読もうと思って開いた本が落ちている。
 元の世界に戻ってきたのだ。

「一体何だったんだ……」

 一瞬で戻ってきた為、告白した時の前後の記憶が曖昧であった。ユーノのおぼろげな記憶によれば告白と同時に体が光に包まれて、大砲に打ち出されるように空へ吸い込まれたのだ。

「この本は……わわっ!?」

 ユーノが本を手に取ろうとした時、再び地響きが鳴り出す。
 本棚が動き出し、罠が発動する前の位置へ戻っていく。

「司書長!」

 書庫の入り口からは発掘隊の呼び声が聞こえる。上手く罠を解除したらしい。

「怪我はありませんか?」
「うん、ありがとう。心配かけてゴメン」

 心配する司書達に囲まれるユーノ。彼の救助に時間を割いたため、この区域の発掘は明日に繰り越されたこと。なのはがユーノを助けるために何度か書庫をぶち壊そうとしたこと。大人モードのアルフがなのはを叱っていること。様々な報告か舞い込んでくる。

 ふと、ユーノはあの本の落ちてる場所へ振り返る。

「司書長?」
「……いや、何でもない」

 ユーノは首を振り、未開区域を出る。
 後に残った本のタイトルにはこう書かれていた。


「You know in the wonderland」




あとがき

どうも、銀です。このSSは

・タイトル、適当
・話、適当
・台詞、適当
・配役、必死

で送りしました。

誰か三月ウサギと帽子屋を描いてくれませんかねぇ。(他力本願)



[37300] 【短編】快活な愛(ユーなの)
Name: 銀◆4b281239 ID:591279d1
Date: 2013/06/21 13:10
まえがき

どうも、銀です。
よかれと思って書き続けたこの連作短編にも一つの区切りが見えてきました。

今回の内容は少し過激になっていますので、注意してお読みください。




 今日も一日、教導官としての仕事を終えた高町なのはは自宅の浴場で疲れを落としていた。
 職場では真面目な教官で、時空管理局のエースオブエース。尊敬と畏怖の視線を受ける彼女も、自宅では一児のよき母親。そして、バスルームではごく普通のか弱い女性だ。

「ふぅ……」

 バスタブの中で大きく体を伸ばすなのは。年相応に育った乳房が湯船に浮きそうになる。その辺の男性ならば即魅了してしまいそうな光景だ。
 最も、なのはの心は既に1人の男性が占めていたが。

 幼馴染にして、無限書庫司書長。ユーノ・スクライア。

 特に最近はユーノと大きく関わることが多かった為、何かとすぐに彼のことを思い浮かべてしまう。

「ユーノ君……」

 思わず彼の名前を呟いてしまうなのは。
 2人きりで旅行に行った時はアクシデントで混浴してしまい、更には隣り合わせの布団で一夜を共に過ごしてしまった。
 そして先日、ユーノが書庫に閉じ込められてしまった事件。なのはの心境は何時になく穏やかではなかった。書庫の壁を書物ごと粉砕させてまで、ユーノを救出しようとした程だ。
 結局、発掘隊がユーノの救助に成功。強行手段を取ろうとしたなのははアルフにこっぴどく叱られたのだった。

 一体何時から、なのはの心にはユーノがいたのか。

「うぅ……何だかモヤモヤするなぁ」

 なのははユーノを想う度に感じる「もの」の正体が未だに分からなかった。




 風呂から上がったなのははヴィヴィオが眠ったことを確認し、自室である人物に相談することにした。

「もしもしー。なのはちゃん?」

 数多い同性の幼馴染の1人、八神はやてだ。一見、なのはより幼い感じの普通の女性だが、はやては時空管理局の海上警備部捜査司令で階級もなのはより高い。
 今は自宅でのんびり寛いでいたらしく、すぐに通信が繋がった。

「はやてちゃん、今ちょっといい?」
「ええよー。どうしたん?」

 仕事の疲れを癒している最中に、自分の悩みを聞いてくれる親友に感謝し、なのはははやてにユーノへの想いを打ち明けた。

「やっとかい!」
「え?」
「あ、いやぁ、こっちの話」

 話を聞いたはやての第一声はツッコミだった。というのも、2人の相思相愛の仲に気付いていないのは当人達のみであり、周囲にいたはやて達は寧ろ何時になったらくっ付くんだとやきもきしていた所だった。
 因みに、なのはの惚気話に対応すべく、はやては途中からブラックコーヒーを入れていた。

「けど、そのモヤモヤの正体は間違いなく「恋」や!」
「こ、恋!?」

 ズバリ、と言ってのけるはやてに驚くなのは。
 仕事人間の自分にはまだまだ無関係だと思っていたような言葉。しかし、相談したはやてにそう言われた瞬間、胸の奥が熱くなるのを感じた。

「そう! 今まで幼馴染としてしか見てなかった男の子を、何時の間にか異性として意識してた! つまり、なのはちゃんはユーノ君が好きなんやー!」

 今までの歯痒さを放出するかのように、熱を込めて説明するはやて。内心ではリア充爆発しろ、と思っていたとかいなかったとか。

「……そっか、私ユーノ君のこと……」

 相談していたはずのなのはは、すっかり頬を赤らめて胸に手を当てていた。

 ユーノの爽やかな笑顔。
 真面目で、優しいところ。

 ユーノの魅力的なところを思い出す度、心のモヤモヤが恋心への確信に変わっていく。

「うぅ……これからユーノ君に会いにくくなるよ~」
「なんでやねん!?」
「は、恥ずかしくて……」

 恋心を自覚した瞬間弱気になるなのはに、はやては容赦なく突っ込みを入れる。

「そんならさっさと告白すればええんや」
「こここ、告白!?」

 ストレートなワードに、なのはは耳まで赤くなる。

「じゃあ誰かにユーノ君が取られてもええんか?」

 はやての鋭い言葉がなのはの心を抉る。
 女性人気の高いユーノならば、何時彼女が出来ても不思議ではない。
 最も、ユーノ自身もなのはが好きであり、はやてもユーノになのは以外の彼女が出来ることはないことは理解している。だが、なのはには涙目になるほど効果があった。

「でも、どんな顔で告白すればいいのか分かんないよ~」

 ユーノを取られるかもしれないという不安もあって、ますます弱気になるなのは。

「そんなの簡単や。いつも通りのなのはちゃんでおればええ」
「いつも通り?」

 そんななのはに、はやては母親のように優しい笑顔で諭す。

「慌てることなんて何もあらへん。なのはちゃんはなのはちゃんのまま、素直に気持ちを伝えたらええ。そうすれば、ユーノ君もキチンと答えてくれる」
「はやてちゃん……」

 親友の助言に、なのはの中の不屈の心に火が付く。
 教導も恋も全力全開。それでこそ高町なのは。ならば、元気に想いを伝えればよい。

「ありがとう! 私、頑張る!」
「いえいえ。結果知らせてなー」

 すっかり元気の出たなのはに、笑顔で手を振り通信を切るはやて。
 思い立ったが吉。なのはは明日に備え、就眠した。


「ふぅ……私も恋人探そっかなー」

 天井を見上げ、ぼんやりとそう呟いてみるはやてであった。




 そして、翌日。
 いつも通りの朝を迎え、出勤したなのはは空いた時間を使って無限書庫を訪れた。
 とはいえ、なのはもユーノも簡単に時間が取れるような身分でもない。この機を逃せば、次は何時になるやら。

「ユーノ君、ちょっと今いいかな?」
「待って。……うん、大丈夫だよ」

 仕事が一段落付いたユーノを呼び出すなのは。
 その時が近付くにつれてドクンドクン、と心臓の鼓動が早くなる。頬は自然と紅潮し、なのははユーノの顔を見れなくなる。

『ううん、大丈夫! 全力全開でないと、ユーノ君に失礼だもん!』

 心の中で不安にディバインバスターを打ち込み、覚悟を決める。

「ユーノ君」
「何だい? なのは」

 優しく微笑むユーノに、震える唇で言葉を紡ぎ出した。


「あのね。私、ユーノ君のこと――」




あとがき

どうも、銀です。

タイトルの由来は菜の花の花言葉です。なのはにピッタリの言葉ですね。



え、違う?告白シーンが途中?



告白ぅ?何それぇ?
俺☆作者。鈍いなぁ、寸止めだよ!

さぁ存分にデスクトップを殴ってください!

続きはSLBを右から左へ受け流せるようになったら書きます。お楽しみに!



[37300] 【短編】ブレイクスルー(ユーなの)
Name: 銀◆4b281239 ID:3f1ab2d7
Date: 2013/06/21 14:43
 高町なのはは不機嫌だった。
 ぷくーっと頬を膨らませながら、自販機で買った缶ジュースを睨めっこをしていた。
 理由は単純。ユーノ・スクライアへの告白に失敗したからだ。




「あのね。私、ユーノ君のこと――」

 数分前までは心臓を高鳴らせ、告白の言葉を紡ぎ出そうとした。


「あ、ちょっと待って」


 しかし、言い出す前に司書長宛ての通信がかかってしまう。本局の執務官から仕事の依頼が来てしまったのだ。
 勿論、この執務官は真面目に仕事をしている最中だ。加えて、彼はなのはを邪魔しようとは微塵も考えていないだろう。
 それでも、タイミングの悪さになのはは内心にて怒りの感情をこみ上げていた。

「ごめんごめん、お待たせ。それで、何だっけ?」

 だが、ユーノはなのはとの話を優先するために、必要な資料を一覧にして後で提出するよう告げて切ったのだった。
 なのはは、一度ぐらい途切れた程度で挫けるような女性ではない。気を取り直して、再度告白しようとした。

「あのね、ユー」
「大変です司書長! 未発掘区域の遺跡が調査中に崩れました!」
「ええっ!? ちょ、なのはゴメン! すぐ戻るから!」

 ところが、なのはの告白に割り込むような形で事件が入ってきてしまった。
 慌てて現場へ向かうユーノ。またしても告白を邪魔され、なのはは意気消沈しながら帰って行ったのだった。



 ユーノが悪い訳ではない。ただ、自分の運が悪かっただけだ。
 分かっていても、なのはの心に取り付いたモヤモヤは晴れなかった。

 そこへ、なのはに通信が掛かる。相手を確認した途端、なのはの暗い感情はすぐに吹き飛ぶこととなった。

「なのは、さっきは途中でゴメン」

 通信モニターの先には、事故を解決して時間を取ったユーノがいた。
 そうだ、ユーノがなのはとの話を放って置くわけがない。
 さっきまで膨れていたなのはの表情は、すぐに明るく切り替わっていった。

「ううん、事故じゃ仕方ないよ。大丈夫だった?」
「特に怪我人も出なかったし、すぐに片付いたよ」

 ユーノの穏やかな表情に、なのはの心臓は再び鼓動を早めていく。
 今こそ、絶好のチャンスだ。なのはは緊張しながら口を開いた。

「あのね、さっき言いたかったのは……私」

 なのはは恥ずかしさのあまり、ユーノから視線を逸らしてしまう。
 しかし、それが不味かった。なのはの目に映ったのは現在の時刻。丁度、休憩時間が終わる1分前を示していたのだ。

「ああっ!? じ、時間!」
「えっ? あ、本当だ」
「ごめんね、ユーノ君! またあとで!」

 驚くなのはの様子に、ユーノも時間に気付いた。
 慌てて通信を切り、なのはは急いで訓練場に戻っていった。
 結局、時間ギリギリで間に合ったが、告白は三度目の失敗をしてしまった。



「はぁ……」

 すっかり日も暮れ、終業時間を迎える頃。
 なのはは今日一日、告白することが出来ず、すっかり落ち込んでいた。
 今から無限書庫に行っても、多忙なユーノと話せるかどうか。

「明日! 明日こそは……」

 明日の昼休みに告白をしようと決意するなのは。しかし、表情は何処か晴れない。

「……やっぱり、今日お話ししたい」

 今日告白すると決めた以上、明日に先延ばしすることをなのはは納得しなかった。まだチャンスがあるなら挑戦してみたい。
 なのはは最後のチャンスに賭け、無限書庫へ向かった。

 しかし、なのはは無限書庫に行く必要はなくなった。

「あ、なのは」

 教導隊の隊舎の前で、ユーノが待っていたからだ。
 ユーノはなのはが出て来たことに気付くと、読みかけの本を閉じて近付いてきた。

「ユーノ君、どうして?」
「なのはの話、まだ聞いてなかったから」

 驚くなのはに、ユーノは優しく言った。
 今日なのはが何かを伝えようとしていることに気付いたユーノは、聞くために仕事を早めに切り上げ、なのはを待っていたのだ。

「ユーノ君……ありがとう」

 ユーノの優しさに、なのはは泣きそうな程感謝の気持ちで満たされていった。

 無言のまま、帰路を歩くなのはとユーノ。
 いざ2人きりになると、なのはは何と話し出せばいいのか分からなくなってしまったのだ。
 一方のユーノも話の中身までは察せなかったようで、なのはからの話を待つのみ。

「あ、あのね! ユーノ君!」

 漸く、なのはが言葉を発する。ただし、緊張のあまり若干声が上擦ってしまったが。
 そんななのはの様子を気にせず、ユーノは首を傾げる。

「何だい?」
「えっと、今日私が言いたかったのは……」

 今度こそ邪魔が来ない内に言ってしまいたい。しかし、恥ずかしさの所為で上手く口を動かせない。
 心臓の鼓動が加速していき、今にも沸騰して消えてしまいそうなほど体温が上昇してく。
 やめてしまおうか。
 一瞬過ぎった考えに、なのはは心の中で首を横に振る。

『言わなきゃ! 待っててくれたユーノ君に、伝えなきゃ!』

 臆病な感情を突破し、なのはは全力全開で気持ちをユーノに告げた。


「私、ユーノ君が好き! 大好きなの!」


 遂に言い切った。なのはは、頬を紅潮させ、潤んだ瞳でユーノをじっと見た。

 なのはの告白に、ユーノは目を大きく見開く。
 ユーノもまた、なのはにいつか告白するつもりだったからだ。
 つい最近、ユーノはなのはよりも先に自分の気持ちと向き合った。一冊の不思議な本がきっかけだったが、ユーノの想いは子供の頃からずっとなのはに向けられていたのだ。
 だが、なのはが魔導師として戦い、傷付く度に自分は彼女と出会わない方が良かったのではないか、と思うようになっていった。
 なのはを傷付けたくない。その一心で、ユーノはなのはへの想いを封印した。

 その事実を受け入れ、ユーノはなのはへの恋心を自覚した。
 時期を待ち、自分から告白するつもりだったはずが、まさか相手から言われるとは。

「ゆ、ユーノ君?」

 ユーノの表情が驚愕から苦笑に変わり、なのはが心配そうに声を掛ける。自分の告白は失敗なのか。それだけが、今のなのはにとって気掛かりだった。

「なのは」

 一息吐いたユーノは、先程までと変わらない優しい口調でなのはの名前を呼ぶ。
 全力全開で来られたのだ。ならば、こちらも同じように返さないと。


「僕も君が好きだ。世界で一番、なのはを愛してる」


 ユーノの返答に、なのはは一瞬固まり、すぐに溢れんばかりの笑顔を見せる。

「ユーノ君!」

 なのはの感情はとうとう爆発し、喜びの涙を流しながらユーノに抱き着く。
 そして、どちらからともなく唇を重ねた。時間の許すまで、深く深く。


 長い長い時を経て、2人は「幼馴染」から「恋人」へと関係を前進させたのだった。



 それから、数日後の朝。

「ユーノ君♪」

 ユーノと腕を組み、ふやけた顔で通勤するなのはの姿があった。
 ユーノも、迷惑どころか可愛がるようになのはの頭を撫でている。
 幼い頃から積み重なった好感度が恋人同士になったことでメーターを振り切り、ラブラブな生活を送ることとなったのだ。

「あ、ユーノ君。襟が曲がってるよ~」
「わっ。ありがとう、なのは」

 ユーノのワイシャツの襟を直すなのは。最早、新婚夫婦の空気であるとは、無限書庫司書の弁。
 進展のない関係にやきもきしていた周囲は、既にウンザリするほど甘さに充てられていた。

「じゃあなのは、今日は仕事終わりまで会えないけど」
「うん! お夕飯は一緒だよね!」

 仕事モードには切り替えられるようで、なのははユーノから名残惜しそうに離れる。
 そして、別れのキスをしてから2人はそれぞれの仕事場へ向かった。
 暫く会えないのは残念だが、ユーノはなのはの愛情がたっぷりと詰まった手作り弁当を持っている為、終始ご機嫌だった。


 いまや周囲も砂糖を吐くほどのバカップルと化したなのはとユーノ。
 2人の放つ甘々空間は留まることを知らない。




あとがき

どうも、銀です。

くぅ~疲れまし(ry

これにて、恋人になるまでの話は完結となりました。
ここまで読んで頂きありがとうございます。



さて、次どうしようかなっと。



[37300] 【短編】たった2人だけのプール(ユーなの)
Name: 銀◆4b281239 ID:3f1ab2d7
Date: 2013/07/12 16:59
 夏。ミッドチルダは連日、猛暑日が続いていた。
 容赦なく降り注ぐ日光に、サラリーマンは汗を流して働き、主婦は日傘を差しながら買い物をする。ストライクアーツの選手達も、小まめに水分補給をしながら練習に励んでいる。
 つまり、暑さに真っ向から勝てる人間など殆どいないということだ。

 それは、当然不屈のエースオブエースも変わりない。

「これで午前の訓練は終わりです。水分をキチンととって、午後に備えておきましょう」
「はいっ! ありがとうございました!」

 号令と共に、解散していく航空隊の面々。彼等を教導していた高町なのはも、端麗な顔には滝のように汗を掻いていた。
 夏場の訓練は時間をずらし、早朝から日が昇り切る前まで行われる。理由は日射病や脱水症状を防ぐためだ。実際、昼まで訓練を続けた結果、教導官の方がダウンしてしまった例もある。
 それでも、暑いものは暑い。なのはは女性用のシャワールームで汗を流しながら、この猛暑をどうにか出来ないかと考えていた。

「はぁ……ユーノ君はいいなぁ」

 なのはは、つい最近結ばれた幼馴染兼恋人のことを思い浮かべる。
 無限書庫は室内の為、暑さなど関係なかった。わざわざ涼む為に無限書庫に来る者までいる程である。

 なのははシャワーの水を止め、身体を拭く。現在、シャワールームの水は身体を冷やす為にデフォルトで冷水になっている。

「プール、行きたいなぁ」

 白い制服に着替えながら、なのはは欲望を口にする。
 夏、冷たい水と連想すれば、次に出てくるのはプールか海だ。
 ユーノに水着を見てもらいながらイチャイチャし、尚且つ涼むことが出来る。中々いいアイデアだ。
 ふと口にした考えにすっかり乗り気になったなのはは、早速ユーノと連絡を取ることにした。

〔プールかぁ、いいね〕

 なのはとのプールデートは、ユーノにとっても魅力的だった。
 身体を涼めるのは勿論、愛しの彼女の水着は是非とも見たい。
 とんとん拍子に話を進め、2人は明くる日のプールデートを楽しみにし、午後の仕事をこなしていった。



 しかし、そう上手くはいかなかった。
 プールデート前日になって、ミッドチルダの大型プールパークはスライダーの不備が見つかって、点検の為に数日休園となってしまったのだ。

「そ、そんなぁ……」

 休園のニュースをテレビで見たなのはは失望のあまりか弱い声をあげてしまう。
 ただプールに行けないだけではない。ユーノとのデートも潰れてしまったのだ。不屈のエースオブエースも、流石にこの時は凹んでしまった。

「どうしよう……」

 なのははすぐに代替案を考えようとする。夏場のデート。簡単に涼めて、尚且つユーノとイチャつけるような場所。

「……そうだ!」

 そして、とっておきの作戦を閃いたのだった。




 デート当日。
 水着を持って来いと言われたユーノは、プールバック持参でなのはの家の前にいた。

「海に行くのかな?」

 ミッドチルダにも、ビーチはある。しかし、クラナガンからかなり離れているた為に交通費と時間が掛かってしまう。
 なのはの為だし仕方ないと、ユーノは一応海に行く分の資金を持っていた。

〔あ、ユーノ君。入ってきていいよー〕

 ドアチャイムを鳴らすと、インターホンからはなのはの声が聞こえてきた。
 手が離せない状況なのだろうか?
 ユーノは首を傾げながらも、言われた通りドアを開ける。

「いらっしゃい、ユーノ君」

 中に入った瞬間、ユーノは目を見開いた。
 なのはの姿は彼女のイメージカラーに似合った、白と青のビキニパンツだったからだ。
 ふくよかな胸は水着から零れそうな程張りがあり、細いくびれとのボディバランスは世の男性の視線を簡単に奪える程魅惑的だ。

「な、なのは!?」

 何で家の中で水着に着替えているのか。そう聞こうとしたが、ユーノは驚きのあまり上手く声が出せず、口をパクパク動かすのみ。
 扇情的な姿のなのはは、恥ずかしさが残っているのか、頬を桃色に染めている。

「えっと、プールに行けなかったから……ウチのプールに入ろうと思って」

 モジモジしながら、今日の案を伝えるなのは。よく見ると、浴室のドアが開いている。
 これだけで、ユーノはなのはが考えたことを理解した。つまり、浴槽をプールに見立てて2人で楽しもうということらしい。

「で、でもユーノ君が嫌だったらいいんだよ!? 海とかに行っても」
「ううん」

 慌ててなのはは取り止めようとするが、漸く我に返ったユーノは首を横に振る。

「なのはの水着姿を独り占めできるし、こっちの方がいいかな」

 照れて頬を掻きながら、ユーノはなのはの水着姿を眺めて言った。


 ユーノもトランクスタイプの水着に着替え、冷水の入ったバスタブに入ろうとした。

「じゃあ、お邪魔します」
「ど、どうぞ」

 バスタブには既になのはが入っている。水着の肩紐がなければ、入浴中にしか見えない。
 そっと、ユーノはなのはの隣に浸かる。水の冷たさが、夏の暑さとは違う理由で火照った体を冷やしてくれる。

「どうかな?」
「冷たくて、気持ちいいよ」

 微笑むユーノに、なのははホッとした。
 しかし、ここは狭いバスタブ。泳ぐことは出来ないどころか、肌と肌が密着してしまう。
 水着を着ている状態だが、2人はまるで混浴しているような錯覚までしていた。

「えと、水鉄砲とかもあるよ!」

 なのはは錯覚を振り払うべく、用意した遊具を持ち出そうとする。
 だが、ユーノはなのはの手を掴んで阻止した。

「ユーノ君……?」
「なのはを見ている方がいいな」

 ジッとユーノに見つめられ、なのはの心臓の鼓動が早くなる。そして、どちらからともなくキスをした。浴槽の中で抱き合い、舌を絡める。
 強すぎる刺激と甘い雰囲気に、2人はもう我慢できなくなった。
 ユーノがなのはの水着に手をかけ


「なのはー、ただいま」


 ようとしたところで、玄関から聞き覚えのある声がした。
 思わず心臓が止まりそうになる2人。

「あれ、浴室のドアが開いてる?」

 入ってきたのはなのはの幼馴染、フェイト・T・ハラオウンだった。
 フェイトは現在、別の場所に住んでいるのだが、なのはとヴィヴィオの様子を見に度々帰ってくるのだ。

「なのはー?」

 浴室を覗くフェイト。彼女が見た光景は、バスタブの中で抱き合っているなのはとユーノだった。しかも、ユーノの腕でなのはの水着が隠れてしまっている所為で、フェイトには2人が裸でいるように見えてしまっていた。

「……お邪魔しました」
「フェイトちゃん待って!」
「これには深い事情が!」

 気まずそうに帰ろうとするフェイトを、なのはとユーノは必死に止めようとした。
 誤解とは言い切れない状況だった為、仕方ないと言えば仕方ないが。

 その後、無防備すぎると散々フェイトから説教を受け、後日フェイトとヴィヴィオ同伴で改めてプールに行くことになったなのは達であった。



あとがき

どうも、銀です。

いっちょ甘々なのを頼むと沢山の方からオーダーを頂き、才能のない頭で考えさせて頂きました。
その結果が

ベタなプールネタ<アブノーマルな水風呂ネタ

だよ!いかに作者が変態かが分かりますね。

ではまたネタが浮かんだ時にでも。



[37300] 【短編】ティーブレイク(ユーなの)
Name: 銀◆4b281239 ID:3f1ab2d7
Date: 2014/05/20 15:34
 無限書庫では、今日もユーノ率いる司書達が各部署から要求されてくる資料の手配に追われていた。
 書庫の発掘が進むにつれて人員増加も行われ、データ提供の仕事は幾分か楽になる……はずだった。
 が、実際は人員増加の情報を知った部署が仕事の量まで増やしてしまい、結果的には変わらない。
 寧ろ、新人の教育に時間も割くので、余計に忙しくなったのだった。

「だから! 少しは仕事の量を減らせってば!」
「これでも少なくしてるつもりだが?」

 多忙がピークに達し、司書長ユーノが珍しく怒号を飛ばす。
 その通信相手、クロノ・ハラオウン提督は冷ややかな目でいつも通りの仕事依頼をしているところだった。

「今から送る3つの管理世界の情報と歴史、発見されたというロストロギアの詳細と影響。それからグループリストに記載された人物達の犯罪履歴。これを今週以内だ。期限さえ守れば、別の仕事を優先させてもいい。これ以上何処を譲歩しろと?」
「管理世界の何処か1つぐらいは自分でやったらどうだ」

 クロノは現在あるロストロギアを取り巻く犯罪集団を追っているらしく、捜査に必要な資料を毎度のように請求していたのだ。その請求量は膨大だが。容赦のないクロノに、ユーノは悪態をつく。仕事のやり取りだが、お互いに軽口を言い合えるのは少年時代からの古い付き合いだからだろう。
 クロノが多量の資料を「無限書庫に」ではなく、ユーノに直接請求するのも、ユーノを信用しているからだった。

「簡単なのが2、3あった方が新人を鍛えるのに役立つだろう?」
「あーもう、分かったよ。けど、期限ギリギリだからな?」
「1分遅れぐらいなら許してやる」

 最終的にユーノは引き受け、クロノはしてやったりという笑みのまま通信を切った。
 不満気だが、ユーノ自身は休憩時間を忘れてのめり込む程、仕事が好きな人間である。
 どんなに忙しくなることよりも、クロノに良いように使われているということが彼にとって気に食わないことだった。
 改めてユーノは今日やる仕事を確認すると、既に午後の3時を迎えていたことに気付いた。
 珍しく昼休憩を早めに取ったこともあり、小腹が空き始めていた。
 司書長室に行けば、何か摘めるものがあるかもしれない。
 しかし、この忙しい状況で自分だけ休憩に入るのも悪い気がする。

「少しでも負担は減らさないとね」

 そう言ってユーノはボードから離しかけた手を戻し、再び検索魔法を発動させた。
 積まれていた書類の山から6冊が浮かび上がり、ページが自動でパラパラとめくられていく。その書物に記された内容から必要な情報のみを抽出すると、調べ終えた本は別の山を作っていく。
 ユーノのすごいところは、この検索魔法を多くかつ素早く駆使出来るところにあった。
 無限書庫に長く務めている司書ですら、検索魔法の複数掛けは3冊が限度。それも、1ページずつを読み進めるぐらいのスピードでしか使えない。
 この効率の良さから、ユーノの仕事量は司書数人分に匹敵する。司書が増えた現在ですら、無限書庫の仕事を回しているのは実質ユーノ1人だと言われる程だ。

「次は……」

 既に20冊ほど調べ終えたユーノは、更に検索を続ける。
 ここまで働いて、よく過労で倒れないなと司書達はいつも感心していた。
 そんなユーノへ来客が一人、無重力空間の中を進んできた。

「ユーノ君っ」

 時空管理局の戦技教導官にして、現在はユーノの恋人である、高町なのはだった。
 2人が結ばれて以降、なのはがユーノの元を訪れることも多くなっていた。
 しかし、全力全開で砲撃魔法をぶっ放す彼女も検索魔法は使えないようで、ユーノと少し話したり、戦術の指南書を読むぐらいしかやることがないのだが。

「やぁ、なのは。ゴメンね、今手が離せなくて」
「ううん、忙しそうだし」

 ユーノは笑顔で彼女を迎えるが、その間も作業を続けていた。
 忙しそうな彼氏に、なのはは邪魔ならすぐに帰ろうと考えた。
 その時、きゅくる~と何処かの仔竜が鳴いたかのような音がユーノの腹から聞こえた。
 その瞬間、なのははジト目でユーノを見つめる。

「ユーノ君、お昼食べた?」
「う、うん……」

 昼食を取ったのは間違いなく事実だった。
 が、なのはは納得せず次の質問を吹っかけて来た。

「何食べたの?」
「……カ○リーメイト」

 彼女の視線に耐え切れず、ユーノは正直に答えてしまった。
 現在、司書長室のゴミ箱には、定価200円の健康食品の箱が入っているだろう。
 やっぱり、と呆れたなのははユーノに詰め寄る。

「ちゃんと食べなきゃダメだよ! 特にユーノ君は働きすぎてるんだから!」

 ユーノを叱るなのはだが、彼女も一般的な隊員と比べ働きすぎな一面もあった。
 最も、昼食はしっかりと取るのでユーノを怒ることが出来るのだが。

「そんなことだろうと思って、サンドイッチ作ってきたから。少しだけ休憩取って」
「う……」

 なのはお手製のサンドイッチ。そう聞いた瞬間、ユーノの腹の音が再び鳴り出す。
 強気な彼女と、自分の正直な身体に負け、ユーノはキリのいいところで休憩に入ることにした。
 因みに、司書に知らせると「もう少し早く休憩取ってください」と逆の意味で叱られた。
 司書長室のシックな木製テーブルの上に、色鮮やかなサンドイッチの並んだ皿が置かれる。
 そこに、なのはが淹れてくれた紅茶が加わって、ユーノは漸く落ち着くことが出来た。

「さ、どうぞ」
「頂きます」

 部屋にあった貰い物のティーバッグだが、大好きな彼女が入れてくれた紅茶は一段とユーノの身体に温もりを染み渡らせた。
 サンドイッチも、決して手の込んだものではない。ごく普通のハムサンドと卵サンドだったが、なのはが自分のことを想って作ってくれたものと思うと、ユーノにとってはどんな高級料理よりも美味しく感じた。

「ご馳走様」

 一度食べてしまえば空腹感には勝てず、完食するまでに時間はそれほどかからなかった。
 人間、健康食品で栄養を賄うだけではダメなのだと、ユーノは改めて思い知る。

「お粗末様。あ、ちょっと動かないで」

 笑顔で答えると、なのはは不意にユーノに近付く。
 そして、口元に付いていた卵を舌で舐め取った。
 なのはの不意打ちに、ユーノは一瞬何をされたのか判断が遅れ、すぐに顔を真っ赤にした。

「えっと、まだ時間もあるし……デザート、いる?」

 大胆な行動を取ったことで、なのはの方も火が付いてしまったようだ。
 時計を見れば、あと40分くらいは余裕がある。
 完全無欠の司書長も、今は世話を焼かれる困った彼氏。甘いデザートの誘惑に乗らない訳もなく。
 紅潮するなのはの隣にユーノが座り、耳元で囁く。

「十分味わわせてもらうよ」

 ティーカップに残った紅茶に映る2つの影が重なる。
 2人の甘いティーブレイクはもう暫く続くようだった。




あとがき

どうも、銀です。

最近、糖分が足りないので舞い戻って来ました。

司書長室でイケナイことをするユーなの、誰か書いてくれませんかねぇ?



[37300] 【短編】アンブレイカブル(ユーなの)
Name: 銀◆4b281239 ID:3f1ab2d7
Date: 2014/10/10 18:13
 無限書庫司書長、ユーノ・スクライアは最近仕事中にも関わらず、ボーっとする時間が増えて来た。
 普通の人間が傍から見れば、しっかり仕事をしているように見えるのだが、無限書庫をよく手伝いに来るアルフや、働いてから長い司書達曰く「手を動かしながら、意識は上の空」だとか。

「オイ」

 今日も仕事中に意識を何処か遠くへ飛ばしていたユーノは、通信画面先の相手からの呼び掛けで無事に自分の身体へと戻ってくることが出来た。
 ユーノ自身にはボーっとしているという自覚はなく、気付いたら仕事の相手が不機嫌そうにこちらを見ているという感覚であった。

「何かあったのか? 遂に働きすぎで壊れたか?」

 その通信先の相手、クロノ・ハラオウン提督はユーノの様子に珍しく心配するような言葉を掛けた。最も、一番ユーノを働かせているのはクロノ自身だが。
 しかし、当のユーノはクロノの言葉と、検索する本を普段よりも余計に取り過ぎていたことで漸く自分が意識を飛ばしていたことに気付いた。

「え?あ、ああ。大したことはないよ」
「……はぁ。何かあったんだな。仕事に支障が出てるんだ、今ここで言え」

 ユーノは心配ないと苦笑して誤魔化そうとしたが、少年時代からの付き合いであるクロノにはすぐに見抜かれてしまった。
 これ以上は誤魔化しきれないし、仕事にまで影響があるのなら仕方ない。何より、クロノなら何かいいアドバイスを知っているかもしれない。ユーノは渋々だが、思い切ってクロノに打ち明けることにした。


「実は……なのはにプロポーズしようと思うんだ」


ガタァッ!

 ユーノの発言を盗み聞きしていた司書達が一斉にどよめく。あるものはショックのあまり席から立ち上がり、またある者は持っていた資料を落としてしまった。そしてある使い魔は驚きすぎて全身の毛が逆立っている。
 だが、ユーノが司書達の方を見ると、彼等は一瞬で何事もなかったかのように元の仕事へ戻っていた。立派な野次馬根性の成せる神業である。

「……それで?」
「うん、指輪も勝ったはいいんだけど、中々タイミングが出来なくて……」

 流石のクロノも、ユーノのカミングアウトに驚きすぎて椅子から転げ落ちそうになっていた。
 何とか耐えて話の続きを聞き出すと、内容は相変わらずの悩みであった。
 ユーノの恋人であるなのはは、現在戦技教導官として忙しい日々を送っている。というのも、そろそろ空戦魔導師のランクアップ試験が近く、試験内容を考えるのとそのための訓練に付き合うので普段の数倍は忙しくなっていたのだ。
 対するユーノも、何処かの管理世界で新たなロストロギアが発掘されたとか、技術発展を進めた次元世界に新しく管理世界になるよう申請するとかで、その為の資料作成が大量に舞い込んできたのだ。
 互いが仕事で中々時間が合わず、ユーノもプロポーズするタイミングが掴めないでいたのだった。

「クロノはいいよ……相手が同じ職場だったんだし」
「それは、まぁ」

 クロノの相手は、同じ艦で働いていたエイミィだったためにプロポーズのタイミング自体で悩んだことはない。プロポーズの内容では大幅に悩んだようだが。
 しかし、ユーノは最早プロポーズの中身以前に大きな壁があったのだ。

「だったら、落ち着くまで待てばいいじゃないか」
「うん、そうなんだけどね。はぁ……」

 クロノの言う通り、なのはが忙しいのはランクアップ試験が終わるまでの間。それ以降ならば、ユーノの空いた時間に合わせてもらえればプロポーズのチャンスは出来る。
 ユーノもそう考えてはいたのだが、懐に仕舞っていた小箱をふと取り出して溜息を吐く。指輪を買ってしまった以上、早くプロポーズしてしまいたいという気持ちが前に出て来てしまうのだった。

「全く、いっそ彼女の帰宅時間に合わせて渡しに行けばいいんじゃないか?」

 このクロノの適当な発言に、悩んでいたユーノは思わずハッと顔を上げた。



 一方、なのはも結婚という言葉には敏感になっていた。
 試験対策の訓練メニューを作っている間、なのはの耳に入ってくるのは何故か結婚の話題ばかりだった。
 イケメン俳優が結婚したというニュースや親戚が結婚するので式に行ってきたという話、果ては自分が今度結婚するという報告まで。
 20代後半を目前にし、結婚に興味深々だったなのはをまるで挑発するかのように話題は尽きなかった。

「今まで興味はなかったんだけどね……」
「うん、とりあえず私にケンカ売ってるん?」

 久々に連絡してきた友人が結婚の話を持ち出し、はやては思わず握り拳に力を込めた。
 ユーノがいるなのはならまだしも、相手すらいないはやてには結婚という言葉は遥かに縁遠い代物なのだ。

「けど、こういうのって女の方からプロポーズしてもいいのかな?」
「話聞けや」

 そんなことを気にせず悩みを打ち明けるなのはに、はやては燃えそうな位怒りに溢れた拳を何処へぶつけようか考えていた。

「うーん、プロポーズに男も女も関係ないと私は思うけどな」

 しかし、ちゃんと友人の相談に乗っている辺りはやては寛容だった。
 聞く話によれば、元部下だったルキノとグリフィスが結婚した際も、プロポーズはルキノ側からだったらしい。
 つまり、好きな方からプロポーズすればいいと、はやては考えていた。

「そっか……分かった。ありがとう、はやてちゃん」
「どういたしまして。それじゃ、いい結果を期待しとるよ」

 はやてとの通信を終えると、なのはは一大決心をしたように立ち上がった。思い返せば、告白もなのはからした。ならば、プロポーズをしても何の問題もない。
 幸い、訓練メニューも完成済みだ。空いた時間は今しかないので、なのはは早速無限書庫へと足を運んだ。



「……フェイトちゃんと一緒に、お見合いでもしてみようかなぁ」

 1人残されたはやては、未だに仕事一辺倒なもう1人の親友を思い浮かべポツリと呟くのであった。



 時刻は9時を少し過ぎたぐらい。
 ユーノはなのはと2人、手を繋いで夜道を歩いていた。
 最初はユーノがなのはを迎えに行くはずだったのだが、無限書庫になのはが現れてしまい、出鼻を挫かれてしまった。
 さっさと指輪を渡してプロポーズをしようにも、

「なのh」
「ユーノく……あっ」

 といった具合に、発言が見事に被ってしまい、妙に間が悪くなっていたのだ。

「何だい? なのは」
「ゆ、ユーノ君からお先、どうぞ」

 そして、互いに発言権を譲ってしまい、話しが全く前へ進まない。
 傍から見れば、手を繋いだカップルがイチャつきながら帰っているようにしか見えないが、本人達は至って真面目なのである。

「……じゃあ、僕から」

 同じようなやり取りを数度繰り返し、このままでは埒が明かないので、ユーノが先陣を切ることにした。
 電灯の真下に立ち止まると、ユーノは内ポケットから藍色の小箱を取り出す。

「なのは、結婚してほしい」

 小箱を開け、指輪を見せると同時に、ユーノはとうとうなのはにプロポーズをした。
 頬を染めつつ、しっかりと恋人を見つめるユーノは、もう立派な男性の表情をしていた。
 今まで手を繋いでいた彼氏から突然のプロポーズを受けたなのはは、呆然とユーノの顔を見つめていた。

「さ、先に言われたぁ~!」

 そのすぐ後、なのはは何故か頭を抱え出した。自分もプロポーズをする気だったなのはは、先に言われてしまったことがまず悔しかったのだった。何事にも全力全開な、なのはらしい。
 しかし、なのはの反応に困惑したユーノは、プロポーズを受け入れられなかったのかと心配する。

「えっと、なのは? 返事は」
「あ、え、えっと!」

 ユーノに聞かれ、なのはは自分がプロポーズを受けたことを思い出し、慌てて向き直る。
 心臓がバクバクと脈打ち、今にも破裂しそうな勢いである。が、先を越された以上は全力で答えるしかない。なのはは潤んだ瞳でしっかりとユーノを見据え、深々と頭を下げた。

「不束者ですが、よろしくお願いします!」



 後に、無限書庫司書長と不屈のエースオブエース。管理局の有名人2名がやっと結婚したと言う号外が配られ、なのはの故郷である海鳴市も含めちょっとした騒動になるのだが、それはまた別の話。




あとがき

久しぶりです。銀です。

今回で、2人は無事ゴールインです。時期的に言えば、ブレイクスルーの1、2年ぐらい後ですね。
長々と放置しておりましたが、ゴールインまで書いてキッパリ終わらせようと思い、今回の話を書きあげました。この前後の話はまた短編で書こうと思えば書けるしね!

タイトルは、「砕けない」という形容詞。何が砕けないのかはご想像通り。
ぶっちゃけ、ブレイクで合わせたかっただけです、はい。

ではでは、また機会がありましたら。


フェイトとはやてのお見合いだったら喜んで参加します。あと、誰かユーノとなのはが子作りに勤しんでるSSを書いて(ry


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