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[6617] ネギえもん(現実→ネギま +四次元ポケット) エヴァルート完結
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2012/05/05 21:07
 なぜか突然ねぎまの世界に飛ばされ、ポケットには四次元ポケットが設置されていた男の話。

 なんで四次元ポケットと未来道具を持っているのかは本人も知りません。
 原作知識はおぼろげにあり。
 主人公はヘタレ。巻き込まれ型。逃げようと努力してドツボにはまるタイプ。

 ほんの少しのネギま知識と未来道具を携えて、三十路(目前)男が行きます。




──────




 戦いの音が森の中に響いている。




 まあ、なんだ。いきなりだが、俺は森の中で目を覚ました。時間は夜。
 森の中でぶっ倒れていて、なにかがぶつかり合う音で目が覚めた。
 なんだようるせーな。と思いつつ、その音の方向へ、草木を掻き分て行ったら、なんか悪魔と表現するしかない悪魔と、刀を持った少女が戦っている現場に出くわした。
 ちなみに悪魔の顔なんとなく竜っぽい。だから悪魔っぽい竜か? いや、竜面の悪魔か?

 そんなのが、俺の目の前で戦っていた。

 頬をなでる風。戦いの息吹。それらは到底夢とは思えない。とんでもなくリアルだった。

 ああ。とうとう俺もリアルファンタジーに出会ったか。
 目の前の非常識な事態に対して、俺の頭はすごく冷静だった。
 いきなりのバトル。そこから巻きこまれる冒険譚。中2の頃に思い描いたすばらしき世界。
 だがすでに成人式もはるか昔、そろそろ三十路。それでもこんな世界を目の前にすると、感動は覚える。男はいつでも心に中2の病を持っているから!
 修正。一部大興奮。
 でもここでこっそり見るだけ。
 授業中に思い描いた学校を占拠したテロリストととの戦いとかそういうレベルじゃない。


 現実の戦い。


 そんなの無理! 戦いとかOKOTOWARI! 当たり前だ。こう見えてもおじさん一般人。カラーテもブラックベルトも持ってません。しがないサラリーマンです!!
 ヘタレで結構。大人は安全な場所で勇気あるものを応援するだけさ。
 GANBARE少女! フレフレ少女!!
 悪魔っぽい竜顔は当然人類の敵だろ! たぶん!!



 でも、そうやって心の中で応援見物していると、少女大ピンチ!!
 悪魔と表現するしかない悪魔っぽい竜ズラにって長いからこれ以後悪魔に吹き飛ばされ、デカイ木にたたきつけられてダウン。
 そこに向けて悪魔さんなんかすごく『必殺』って感じなのを放とうとしてるよ。


 口からすごいビーム撃つよ! って感じで光が集まってるよ。召喚獣みたいでかっこいいよ!!


 ……でもこれは、やばいんじゃね?
 明らかに。大ピンチだよね。やばいよね。俺逃げるべきだよね。巻きこまれないように!!



 そう思った瞬間俺は、走り出していた。



 なんというか、少女の方に。
 なんというかほら、体が勝手に。
 というか女の子のピンチに男の子が見ているだけとか無理! 助けて当然!! なわけない。心の中じゃすっげー怖い! ホントに体が勝手に動いてるレベル! 俺涙目!!

 涙目だろうが体が勝手に動く。少女と悪魔の間に入り、でっかいビームの前に立つ。
 そのまま俺はズボンのポケットに手をいれ、マントのようなものをひっぱりだしていた。
 なにこの行動。白旗でもあげるの!? 自分でもイミフ!!


 でもその瞬間。頭の中に、声が響いた。
『ひらりマント~』
 ててれてってれー。


 おい、ちょっと待て。


 直後。悪魔の放ったどでかいビームが跳ね返る。
 その背後にいたと思われるその悪魔っぽいやつの主っぽいのと一緒に吹っ飛ばした。

 俺呆然。
 当然呆然。
 なにこれ。なぜに『ひらりマント』? なぜに俺のポケットから?
 俺タダのサラリーマン。ドラえもんなんて会った事もない。
 というかここはどこ? この森って俺知らない場所よそういえば。
 幸い私は誰ではないが……


「……あの……」


 はてなマークをあげまくっている俺に、背後から少女が声をかけてきた。
 びっくー。
 やばい。こういう展開はやばい。俺はタダの一般人。さっきのアレは例外。自意識過剰というわけでもないが、少女の声に答えると次もありそうで嫌だ。
 俺は平穏普通な生活が好きなのだ。
 漫画みたいな生活は漫画を見ているだけでいいのだ。憧れはしたけど、当事者にだけはなりたくない!


「ありがとうございます。助かりました。あの、あなたは……?」


 ビークール!! 冷静に。勤めて冷静にだ俺。
 俺の危険レーダーが言っている。かかわっちゃなんねえと。
 いや、だったら最初から助けないのが一番だったんだけどさ……
 体が勝手に動いたんだから仕方がない。

「おっと、名乗る場合は自分から名乗るべきじゃないのか?」

 ともかく、まず顔は見るな見せるな振り向くな。これ鉄則。俺は頭がさえているからとりあえずこの『ひらりマント』を顔に巻いた。三角にして口と鼻を隠すように。でかくて胸まで隠れたが、まあいい。
 これでOK。
 これでこの少女に再会してもう一度戦いに巻き込まれて……なんて中2も真っ青な展開に突入することはない。
 そして自分からは名乗らない。完璧。完璧だぜ。



 でもね。そんな事関係なしに、驚くんだ。
 だって。



「そ、そうですね。私の名前は桜咲刹那──」


 この先も自己紹介続いているけど、もう聞いてなかったね。
 戦っていた時の姿を思い出す。
 半デコに刀。
 オージーザス。懸命でない俺様でもさすがにもうよくわかったよ。もう説明するのも面倒だね。『ネギま』だね。ここ俺の住んでた世界じゃないね。以下省略でいいよね。
 い、いやいやいや。違うね。希望的観測を捨ててはいけないよ。この子はちょっとコスプレしていただけとか、あれはしーじーとか。ほら……いわゆるドッキリ。ね?
 むしろ、いまさらだけど、これ夢じゃねーのかなー。
 現実逃避って、素敵よね。


「……聞いているのですか?」
「あ、ああ……」


 やばい。冷静に分析(笑)している間に正面にまわられている。
 顔はマントで見えないが目と髪の毛が見えているのがちょっと不安だ。

 ……あれ? 漫画……と認めるのも癪だが、で想像していたより身長大きいな少女。


「それで、あなたは、何者ですか?」


 うわぁい。沈黙してたら刀構えられてるー。
 いわゆるアレだね。俺不審者なわけだね。
 顔もいきなり隠したしね。どう見ても不審者だよね。超不審者だね。
 連行する気満々だね。

 シミュレーション開始!
 素直に色々白状する。→下手するとさっきの事とか認められてスカウトされる。危険いっぱい。よくあるパターン。
 黙秘するorごまかす。→ここで不審者としてたたききられる。

 正直どっちも嫌だ。
 俺ヘタレだから痛いの嫌い危険大嫌い。平穏大好き。
 一般人とか言ってもさっきのアレ(ひらりマント)で信憑性ないしなぁ。つーかなぜこんなの持っているのか俺が知りたい。


「……名乗るほどのものじゃない」

 よし決めた。逃げよう。
 名乗れと言ってこっちは名乗らないとかアレだが逃げるから気にしない。
 俺は、俺は、クールに決めるぜ!

 信じる心は力になると信じて。『ひらりマント』の出てきたポケットに手を入れる。
 こいつが出てきたという事は……
 神様! 信じているよ神様!

 そして俺は、ポケットから帽子を取り出した。
 ……なんか知ってるのとデザインが違って普通の帽子(学生帽っぽい)だったけど!
 お願い神様!


 また、頭の中に声が響いた。
『石ころ帽子~』
 ててれてってて~。


 ありがとう神様!!
 そして俺は、ポケットから出てきたその『帽子』をかぶった。


「なっ!?」


 狼狽してる狼狽してる。半デコ少女狼狽中。
 そりゃびっくりするよね。なんでもない帽子をかぶった途端目の前で人が消えたら。
 でも違うのだ。俺のハートはドキドキだけど、目の前にいるのだ。だからお願い。そのままいなくなってね!

 俺はじりじりと、その場を移動する。
 半デコ少女は、しばらく周囲を警戒したが、その後俺を探してか去っていった。
 すげえ。『石ころ帽子』すげえ。

 そしてこの状況が一番すげえ……
 これ、神様に感謝すればいいのかな。怒ればいいのかな?



 怖いので帽子をかぶったまま俺は森を脱出するために歩き出した。




──────



「……消えた?」
「いえ、サーモグラフに反応があります。そこにいます。が、認識が出来ません」
「生命反応も魔力反応も感じない……いや、感じているがいると認識できていないということか」
「はい」
「先ほどの反射といい、他者にその存在を意識させないといい、どれほどの化生だ。夜の散歩もたまには悪くないな」
 闇夜に浮かぶ、二つの人影が、先ほどのやりとりを、空から見ていた。



──────



 森を歩く間に、ポケットを確認する。どうやら、俺が手を突っ込むポケットはすべて四次元ポケットにつながるらしい。
 タバコを吸おうと上着のポケットに手を入れたらスモールライトが出てきてびっくりした。
 驚いた事に、取り出すとその使い方もわかる。どうなってんだ俺。
 だが、これはすごい。この世界がネギまの世界だったとしても、そんな事は関係ない。
 もし。あくまでもしだが(往生際悪いとか言うな)、ここが『ネギま』の世界だったとしても、この未来道具さえあれば、原作なぞ無視して左団扇な生活は確実に可能なはずだ。
 なにせあの『フエール銀行』を使えば10円預けておくだけで1週間で9千万だぜ。ギャンブルより確実に儲かるんだ。もう最高。
 閉じこもりきりでも聞かれたら株でもうけたとか言えば問題ないしな。
 すばらしきかな未来道具。

 うん。そうだ。それがいい。そうしよう。
 安全に仕事もしなくていい平凡な生活。ああ、夢のヒキコモリ生活。楽な老後。なんて素敵な未来道具。
 未来道具による薔薇色の未来に思いをはせ、俺は森を歩く。
 幸い街の光が見えているので迷うことはない。
 鼻歌まで歌っちまうくらいだぜ。

 森を抜けて周囲の安全を確認して、『石ころ帽子』を脱ぐ(『ひらりマント』はタバコを吸おうと思った時ポケットに戻した)
 これでほっと一息。



「おい」



 つけませんでした。
 いきなり背後から声をかけられましたよ。半デコちゃんとは別の声に。
 おかしいね。ちゃんと安全確認したつもりだったけど。
 というか『石ころ帽子』ちゃんと発動してたのか?

 平静を装って振り向く。そこにはちょうど空から着地した二つの人影があった。
 あー。そっか。ロボか。
 なんで即座に声をかけられたかすぐに理解した。
 ロボはだめだよな。ロボは。『俺』じゃなくて『体温』とかを追ってくれば石ころ認識関係ないもんな。だから外すまでは声かけなかったわけか。声は認識出来ないから。
 そして俺の安全確認なんて無駄だよ。
 ロボに金髪幼女だもん。原作キャラだよ。真祖の吸血鬼とロボだよロボ。シロートの安全確認なんかじゃ無駄だよ。なんでこんな連続なんだよ。

 名前は、忘れた。なんだっけな。ロボは個性的だったから覚えてる。でも幼女はなんか汎用人型兵器っぽかったような……
「……たしか、茶々丸と、え、えー……キティ?」
 ロボはお辞儀をしてきた。
「なぜその名を知っているー!」
 幼女は怒った。
 しまった。変なところだけ覚えてたおかげで逆鱗に触れたようだ。


 なんか指をぺきぽきしてる。
 やべ。


 即決!

 →・逃げる!!

 俺へたれなんでせっかくだから逃げるを選ぶぜ!
 タケコプターを使って透明マント使って。はっはー。すげえぜ未来道具。

「なっ!? 魔力も使わずに飛んだだと!? しかも、また消えた!」
「……データ解析不能。今回は発見できません。声だけは聞こえますが……」
「声の方向からさがせ!」
「はい」

 透明マントすごいな。透明マント+石ころ帽子なら今度こそ完全な透明人間だね。存在そのものがなくなるね。


 さて。何度も言うが、俺はヘタレだ。いくら四次元ポケットと未来道具があるからって戦いたいとは思わない。
 道具を持っていても使う俺は一般人なのだ。
 防御が間に合わなければ死んじゃうのだ。

 よって俺は逃げる! ヒキコモリ王に、俺はなる!
 このまま外に出て、原作とはかかわらず生きていけば俺安泰。完璧な人生設計!


 だから、ちょっと調子に乗って相手を馬鹿にしちゃってもしかたないよね。
 あの幼女あの学園から出れないはずだから。
 どうせ2度と会わないと思ってたし。
 幼女状態ならあんまり怖くないはずだし。


「きさまぁぁぁぁぁ!! 絶対に殺してやるー!!」


 ……うん。ちょっとあおりすぎたんだ。
 敷地から脱出したのはいいけど、ぎりぎりですっごい吼えてるんだ。幼女。


「貴様覚えておけ。その面、声は覚えたぞ! 絶対に忘れん! ナギと同じく絶対に、絶対に殺す!!」


 ああ、涙目幼女はかわいい。
 でも、怖い。
 でも、もう2度と会う予定はないから平気。

 だから俺はかっこよく決めて去るんだ。
 最後くらいは姿を現して。


「まだまだだね。キティ」


 気分はテニスのプリンス様! でもポーズは仮面ライダー響鬼!! しゅっ!
 大人になっても中2の心は忘れない。それが俺!!



 ──調子に乗っているとも言う。



 でもこれもまた、あとで後悔するんだ。
 神様俺の事嫌いなんだ。絶対。
 自業自得とは言わないで。




──────




 交番へ行った。
 とりあえず、記憶喪失からはじめよう。俺は異世界人。どうせ戸籍はないんだ。調査されても見つからないはず。
 見つからなければ、施設や行政の方でいろいろしてくれたはずだ。記憶喪失で身元不明と認定されたら仮だが戸籍も作れたはず。俺のいた世界ではだが。
 まあいくらなんでもこっちとあっちが大きく違うなんてないはずだ。
 俺はもう二十歳超えてそろそろ三十路のおっさん。日常生活に支障がなければすぐ自由の身だろう。
 一人暮らしが可能にさえなれば、あとは未来道具で好きに出来る。ふふふふふ。魔法使いがいるという事さえ抜かせば元いた世界と一緒。
 原作なんかとかかわらなきゃそうそう危ない目にもあわないだろう。俺の新しい人生を謳歌するしかない!


 ……というか、もしもボックスがあれば記憶喪失云々なんてする必要なかった。と思い至ったのはかなり後になってからだった。俺アホだね。
 法律知識より便利なものあるのにね。最初にそれ気づいていればね。後悔しても遅いけどさ。



 交番の巡査さんはすごくいい人だった。
 ここはどこでしょう? と聞いて、なにもわからないないんですと泣いて説明したら、親身になってくれた。
 俺の演技力もすばらしいね。

 ああ。このお茶うめぇ。
 巡査さんが色々電話している間に入れてくれたお茶をすする。


「ああ。よかった。君の学生証が出てきたよ」


 お茶を飲んでいたら暑くなったので脱いだ上着を見て、電話中なにか気づいた巡査さんが喜ばしい顔で俺に声をかけてきた。
 新発見。俺以外の人だと、普通のポケットになるのか。これでタバコをとってもらえる……な?
 な、なんか、今、不穏な事いわなかったか?


「これで、君の身元も早くわかるよ。安心しなさい」
 ニコニコしながら、上着のポケットから学生証を取り出しているのが見える。
「は?」

 がくせい、しょう?

「やはり、麻帆良学園の生徒だったね。制服を着ていたからそうだとは思ったけど」
「な?」
 なん。だと……?

 まほらの、生徒? 中学生? そういえば、服がリーマンスーツじゃない! いまさら気づいた!!


「ちょっ! か、鏡を見せてもらってもいいですか!?」
「おお、記憶がよみがえってきたかい?」
 と、壁にかかっている鏡を指差した。


 鏡に駆け寄る俺。


 そこに写っていたのは、男子中学生な俺だった。まさにあの頃。中2でブイブイいわせていた頃の俺がいた。


「なにぃぃぃぃぃぃ!!?」
 半デコ少女が想像より大きかったんじゃない。俺が小さくなっていたのか!!


 みんな、俺一つ勘違いしていたよ。
 これは現実来訪系じゃなくて憑依だったんだよ!
 な、なんだってー!



 自分の姿を見て驚くその姿を見て、巡査は彼に同情した。
 まさか、自分の姿を見て驚くほど、記憶が混乱しているとは。
 がんばりたまえ。私は君の味方だと思うのであった。



 この後俺は連絡を受けた担任教師と寮の寮長とやらが迎えに来た。
 なんか俺、昨日から行方不明だったのだそうだ。

 病院行ったが嘘記憶喪失とはバレなかった。
 当たり前だ。『こいつ』の記憶なんてないんだから。
 記憶以外は日常生活に支障がないので、あとはいつもの生活をして、記憶が戻るのを待つしかないと言われた。
 まあ。戻るわけないと思うが。
 両親は俺が無事だっただけでそれでいい。と言っていた。

 よって俺は、麻帆良の学校へ通うこととなった。
 やばいよ。俺あの幼女に喧嘩売ったままだよ。
 めっちゃやばいよ。

 未来道具があるからって、不意打ちとかされたらどうしようもないよ。



 助けてドラえも~ん。








 ──YA☆DA★






 ……天の声が聞こえた気がする。






─あとがき─
 思いつきで書いた。
 続く予定はない。

 続いた。




初出2009/02/15 以後修正



[6617] ネギえもん ─第2話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2012/02/25 21:26
初出2009/02/19 以後修正

─第2話─




 せっかくだから勘違い属性もつけてみようと思う。




──────




 とりあえずわかったことがある。
 まず、『石ころ帽子』のように、未来道具の形が本来と違うものがあるという事。未来道具のデザインが、『ネギま』の雰囲気にあうよう今風にリアレンジされているのだ。
 効果は一緒だが、出してもこの世界の雰囲気を壊さないようになっている。

 そして、四次元ポケットは、服を変えても俺が手をポケットにつっこめばそこにあるという事だ。
 これは便利。なぜこうなっているのかはわからないが、これは便利。
 不便なのは他人のポケットに手をつっこんでも四次元ポケットにつながるという事。
 まあ。人のポケットに手をつっこむなんて事自体滅多にないから問題ないけど。


 これでポケットが奪われる心配とかがなくなったので一安心。
 これさえあれば未来は約束されたようなものだからな。
 あとは、安全に卒業さえ出来れば!
 出来れば……ね。


 ちなみに転校とかも考えたけど、両親が説得出来そうになかったので諦めた。
 転校する理由が幼女怖いじゃそりゃ無理だろうけどさ。
 い、いや、正直にそんな事言ってないよ。全然言ってないよ。
 ちゃんと他にも理由あるよ!

 理由の一つに、今この時期が問題だ。
 一つ前に、中2中2で中2の体と言ったが、すまない。ありゃあ嘘だ。
 今の俺はすでに中3だ。いや、あの時はまだ中2だったのかもしれないが、今はもう中3なのだ。
 どういう事かと言うと、記憶喪失の検査入院から退院したら、春休みが終わり新学期になっていたという事だ。
 つまり、転校しようと手続きをしようとしても、早くても夏休みが終わってからね。とかばっさり叩ききられるのだ。
 時期的にこの時期が一番危険なんだよ!


 ちくしょう。


 これもポケットの中に『もしもボックス』がなかったのが原因だ。
 このポケット、取り出したいものを考えながら取り出す形なのだけど、出てこなかった。つまり、ポケットの中に入っていないという事。
 これさえあればこんな毎日を恐怖におびえて過ごす事もなかったのに。
 ついでに『ソノウソホント』もなかった。


 ちくしょう。


 でも『地球破壊爆弾』はあった。これはマジぱねぇ。なぜか未来道具取り出すと使い方もわかるんだけど、これ説明がすごい。


『地球を破壊します。粉みじんDEATH!!☆』


 22世紀おそろしす。最後の星が逆にイラっとくるくらい恐ろしい。



 あと、俺がなんでここにいるのかは知らん。
 ただ、『○×占い』でこの体の元の持ち主の事を聞いたら、『死んでいる』が『○』だった。
 俺がこっちに来る前になにがあったのやら。春休みに制服着て森の中とか……
 ま、そのあたりの細かい事は気にしない。むしろ今『俺』が四次元ポケットと未来道具を持って若い体でやり直せる。という事だ。
 すばらしい未来が俺を待っているという事だ!
 これで、俺が、平穏に暮らせれば、文句はないのだが……


「あなたは何者なんですか?」


 いきなり、あの半デコに見つかりました。
 顔隠してた意味なかったとです。


 まだ、金髪幼女じゃなかったのが幸いとです……


 ちなみに彼は気づいていないが、桜舞い散るこの頃、彼が恐怖する幼女は風邪と花粉症で寝こんでいたりするのでおびえ損だったりする。



 しかしおかしい。
 俺は今、体に貼っておけばあらゆる災難から逃れられる『厄除けシール』を貼っている。
 なのになぜだ!? これは厄じゃないのか未来道具! まさか原作キャラと絡むってのは業界的に言えばご褒美とか言うんじゃないだろうな。違うからな! 絶対違うからな!!


 だから少女、コッチを見るなぁぁぁぁぁ!!




───桜咲刹那───



 あの日、あの時私の戦った召喚獣は、予測を大きく裏切り、強かった。
 結界に力を奪われていても、あの巨大さ。あの力と速さ。すべてが、私一人を上回っていた。
 召喚主も巧妙で、私は龍宮とは分断され、援軍すらも期待できない状況まで追いこまれる事態にもなった。


 もう駄目か。と思ったところで、突如現れた『彼』。


 私を助けた後、はっとなにかに気づき、手に持っていたマントらしきもので顔を隠した行動が、逆に印象的だった。

 それゆえ彼は、なんらかの理由で、その正体は隠しておきたいのだとわかった。
 大きい布で隠そうとしているが、着ているものが麻帆良の制服である事もわかる。
 私と同じくらいの年齢。そして、あれほどの力を反射できる者。少なくとも、私の知る学園関係者の中にはいない。


 こうして隠す理由は二つ。
 外から学園に潜入するため。か、学園にいながら、力を隠したい者。
 このどちらかだろう。

 学園に潜入するためならば、こうなった時点でそれは失敗。これならばいい。
 しかし、力を隠し、学園に在籍しているとなると見逃せない。例え私を助けてくれた者だとしても。こちらの可能性が限りなく低いとしても。

 少なくとも、この学園。いや、お嬢様に危険となる存在かは、確認しなくてはならない。


 私は正面にまわり、彼を問い詰めた。


 正面にまわってみて気づいたのは、その独特の気配。
 このような場にいるというのに、彼は一般人にしか見えないのだ。
 あの召喚獣を一撃で撃退出来る者の纏う気配ではない。
 それはつまり、それほどに擬態に優れているという事なのだろう。
 この場ではそれが逆に不自然となっているが。

 

 だが、その違和感ゆえか、思わず、刀を構えてしまった。
 この違和感が、それの出来る彼が、とてつもなく恐ろしく感じたから。
 もしこのまま、人里に入られれば、誰も彼があれほどの事が出来るなど、想像もしないだろうから。


 そのせいなのだろう。私は、彼から答えを得る事は出来なかった。



 彼は一言「名乗るほどの者じゃない」と言い、共に取り出した帽子をかぶるのと同時に、私の目の前から消えたのだ。
 まるで、最初からその場にいなかったかのように。
 呪文の詠唱も、気の使用での瞬動術なども、なにも使わずに。

 取り出した帽子も、なんの力も感じられないただの帽子にしか見えなかった。
 それゆえ逆に、私はそれを阻止する事も出来なかった。
 あまりにも自然体の動き。


 油断をししていたわけではない。
 警戒していなかったわけでもない。
 相手が、こちらの想像をはるかに上回っていただけだ。


 彼がいた事に、あの戦いの中現れるまで気づかなかったのも納得がいった。
 私とは、レベルが、違いすぎる。


 報告の後、その日他にはなにも起きていないと聞いた(ちなみにエヴァは彼の事は報告していない)
 結界の方も撃退され、逃げ出した者以外は感知していないと聞く。
 それゆえ、ほとんどの人は、侵入しようとして失敗し、すでに逃げたと考えている。
 なにより、学園にいて、そのような実力を隠したままでいられるとは誰も思わなかったからだ。

 私は、そうは思えなかった。
 直接見たからこそわかる恐ろしさ。
 私にだけはわかる事。
 他の人は信じていないが、彼ならば、私に会い、警戒された後でも目的は遂行できたであろう。
 だが、その被害は今だ出ていない。


 それゆえ、彼は、この学園にいる。

 学園に害をなそうとしているのか、そうでないのかはわからない。
 だが、見つかるリスクをもってしても、彼は学園にいる。

 私は理由もないが、確信していた。
 そして、それを確信できるのも私しかいないと思った。


 もし、あれほどの力を持った彼がこの学園にいるのならば。
 そして、もし害意を持って潜んでいるのならば、どれほどの事を成そうというのだ。どれほど恐ろしい事が出来るのだ。
 だが、その事実には、誰も気づいていない。


 これは、私にしか出来ない事だ。
 考えすぎかもしれない。ただの杞憂かもしれない。
 私を助けてくれた彼は、ただ静かにすごしたいのかもしれない。

 杞憂であればいい。
 そう思っていた。



 その日、私が彼を見つけるまでは……



 それは、まったくの偶然だったのだろう。

 その背中を見て、すぐにわかった。

 あの日、あの時見た背中そのままだったのだから。




──────




 くそっ、記憶喪失として登校して数日。
 クラスのみんなは親身になってくれるが、すごくよそよそしい。
 なんというか、みんな罪悪感を感じているというか。償いをしようとしているというか。
 春休みに制服着て森の中にいたとか。その前日から行方不明とか。『こいつ』はすでに死んでいるとか。両親は「生きていればそれでいい」とか。


 そこから導き出されうる答えが、あまりにもへヴィなんですけど。


 そのおかげで『こっち』の両親に心配かけたくない。なんて俺が思っても不思議じゃないよね。
 これも転校とか、未来へ時間跳躍とか、姿をくらますとか。部屋に引きこもるとか。そういう決断を妨げてる原因なんだ。
 『こっち』の両親の記憶はないが、それでも普通に学校に行っている。と、安心はさせてやりたい。
 知らなくても。異世界の俺でもある『こいつ』の親だから。


 ただ、それゆえクラスのやつらは気にしているようなんだよね。基本はいい奴等なんだよ。でも、どこかで少しエスカレートして、歯車が狂っただけなんだろ。
 俺は知らないから全然気にしていないんだけど、それでも彼等は気にしてる。俺がなじむには、まだ時間が必要なんだろうね。
 だから、帰りは一人で帰っているのが現状だったんだ。
 しかもなぜか寮も二人部屋なのに俺一人。これも色々想像できて嫌だ。
 というかこれ、俺の部屋にネギが来るフラグとかじゃないだろうなぁぁ!!

 厳しい現実が多すぎて鬱になる……



「聞いているんですか?」



 ……うん。いきなりあんな事考えてたのは、ぶっちゃけかっこつけて現実逃避してただけなんだっ☆!
 なんと悲劇的(笑)な心の心を背負った影のある少年。俺の左手がうずきやがるぜ。的に。
 ちょっと鬱になってるのはむしろ半デコちゃんに睨まれているこの現状からなんだ。
 ガキ(クラスメイト)の悩みなんて正直興味ないんだ。
 むしろこのまま原作に巻きこまれるかもしれないって心配だからなんだ。


 だから、聞いていなかったからってそんなににらまないでください。
 お願いします。でも俺ちょっとMっ気あるかもなのでぞくぞくします。
 嘘ですしません。



 やっと現状を報告するが、今オープンテラスの喫茶店のところで対面で問い詰められています。
 ものすごい勢いでにらまれています。
 なにか品定めするようにも見られてます。
 周囲に人がいるので下手な事はされなさそうなのが救いです。

 さて、どうしよう。
 正直、あの時とは違ってすでに逃げ場はない。

 学園の生徒とバレているわけだから。
 とりあえず、身の安全を図ろう。
 全部正直に話して、未来の情報と引き換えに安全を買おう。
 おお、案外これいけるんじゃないか! もっと早く気づけよ俺。この駄目っ子めっ☆


 というわけで、正直に話す事にした。


 俺は異世界から来てなんかスーパーな道具を持っていて少し先の未来を知っている記憶喪失だがただの一般人だからバトルはカンベンな!



 ……ねーよ。



 自分で言おうとしてまとめたが、正直、これは、ない。
 未来を知ってるのに記憶喪失でスーパーな道具持ってるけど一般人て、つっこみどころ満載じゃねーか。矛盾だらけじゃねーか。
 しかも俺『ネギま』原作の記憶はかなりあいまいだ。雑誌立ち読みでコミックスも集めてなかったしな。


 こんな事言ったら確実に。

「ふざけないでください!」

 とか怒られるの間違いないね。











 ……ちょっと言われてみたいとか思った。



 断じて俺Mじゃないよ。どっちかと言うとSだよ。こういう真面目な子をおちょくって怒らせるの、けっこう好きなのは、俺の悪いクセなんだと思う。
 でもやめられないんだ。
 人の目もあるから1回くらいは大丈夫とか、俺ってホント危機管理がなってないよね。



「……実は、俺は宇宙から来た刑事で、とある宇宙悪党を追ってここにやってきたのだが、この体の主が運悪く着任した時亡くなりかけていたため、彼を救うため半分同化しているんだ」

 仕方がない。本当の事を話そうと前置きして、俺はどこかで聞いた事もあるインスタント(3分間)ヒーロー&宇宙刑事の話をまぜこぜして話してみた。

「それに、本来ならば、関係ない事に介入してはならないのだが、君のピンチに思わず助けてしまった。どうか、黙って見逃してはもらえないだろうか?」


 言っておいてなんだが。これもねーな。


 だが、荒唐無稽な話から、ちょっと嘘を混ぜた話にシフトすれば、タダの嘘も信じやすいという心理的ななんたらとかを利用するためなのだ!
 この次はもっとマシな事を言うための準備なのだ!
 決して怒っている顔が見てみたいとかそういう動機ではない!
 これは相手の冷静さを失わせる一手。
 そういう駆け引きなのだ!
 そういう事なのだ!
 俺ってすごーい。さらまんだーよりはやーい。



 さあ。おじさんの手で踊ってみてくれ!






「そ、そうだったんですか……」




 ……



 …………へ?
 な、なんか、すっげー純真な目が、俺を見てるよ。


「そのような理由があったのに、私を助けてくれたなんて、なんとお礼を言えばよいのか……」


 しっ……

 しんじたぁぁぁぁぁぁ!?
 なんかすげー目がきらきらしてるぅぅぅぅ。
 ヒーローをはじめてみたって純粋な子供の目をしてるぅぅぅう!(巻き舌若本風で)
 そういう意味で踊って欲しくはなかったよぉぉぉ!!?


「い、いや、困っている人がいたら助けるのは当たり前だ。ただ、なにも言わずに消えたのはすまない」
「いえ、いいんです。そのような理由があったのでしたら。もしその事実が明るみに出ると、フェレットにされるなどの罰があると想像出来ますし」
 フェレット? ああ、そういえば魔法使いとバレるとオコジョにされたりするんだっけ。それを知ってるからか。
 それで、こんな荒唐無稽な話にも理解を示してくれるわけか。
 魔法使いがいるんだから、宇宙人がいても不思議はないって事?
 だとすれば、むしろラッキーか!!
 ナイスだ俺。ナイス話題チョイス!
 なんか知らんが、ラッキー。



「しかし、その宇宙悪党を一人で探すのは大変でしょう! 私にも手伝わせてもらえませんか!?」


 ……アンラッキぃ。

 や、やばい。ものすごくヤヴァイ。
 宇宙から来た悪党なんていやしませんよ! つーか君お嬢様の護衛があったはずでしょ! 他にも仕事があるでしょ!

 一瞬そうして俺を監視するのかとか思ったけど、全然そうじゃなく俺を純真きらきらした目で見てる。
 これが演技ならこの子すごいね。土下座するね。
 いや、むしろ土下座させてください。


 やばい。これは確実に嘘を嘘で塗り固めていくフラグだ。
 一つの嘘のために新しい嘘をつかねばならないフラグだ。
 でもここで『うっそー』なんて言ったら確実にたたききられる。確信できる。彼女のそれを裏切ったら俺の命はない。絶対。


 なんで、なんで君は、そんな憧れを見つけたような目でおじさん見てるの?
 なんでこんなあからさまな嘘を信じてしまうほど純粋なの?


 せっちゃんはなんで信じるんー?
 人を信じられる心を持ってるからですよー。


 心が、痛い。
 ……おじさん今、罪悪感に抱かれて溺死しそう。
 あと、君の将来が、ちょっと心配だよ。



 記憶喪失なのは、記憶の方は『彼』がまだ眠っており、人の記憶を勝手に見るのは犯罪だから記憶喪失としてあると告げた。
 この記憶見るの犯罪ってのはこっそり相手にプレッシャーをかけてるつもり。
 記憶なんて見られたら……見られたら、……逆に、信用してもらえないかなー。かなー。


 あと、あの時何者かに助けられた事はすでに報告してあるが、俺の事は秘密にしてくれるそうだ。


 それは、ホントに、助かる。
 原作にかかわる気は、ホント、ないから。



 でも、俺、君の前では、宇宙刑事やらなきゃならないと思うと、逆に、死にたい……
 超死にたい。


 まさか三十路直前でこんな宇宙刑事ごっこをもう一度味わうとは思わなかったぜ。
 黒歴史ノートを他人に見られたくらいの比じゃないぜこれは。
 大人になって黒歴史ノートを人の前で朗読させられるくらいのレベルだぜ。
 致死レベルだよこれ。



 この後半デコちゃんに宇宙刑事のパトロールくらいは手伝いたいので。と電話番号とか宇宙悪党の事をなかば強引に聞かれた。
 ちなみに暗号として宇宙悪党を見つけた時は『子供』とか『迷子』とか、そういう感じで話そうとも決められた。
 君ってそんなに強引だったっけ?



「では、宇宙パトロールがんばってください」
 と応援され、その場は別れた。




 だが、俺の精神的苦痛以外は、おおむね安全領域に達して彼女から俺は解放された。
 下手に学園長に引き合わされたりとか、警備員にスカウトされたりとか、未来道具の事を根掘り葉掘り聞かれたりとかしなかったのだから。
 特に俺魔法使いと関係ないから、京都とかの旅行でこき使われるの目に見えてるし。
 だから、うん。良かったと思うんだ。


 うん。
 そうだよ。俺の精神的苦痛なんて、命の危険にくらべれば、100万倍マシだよ……
 ちょっと邪気眼的に宇宙刑事ごっこをやっていると思えばいいのさ。
 毎回罪悪感とか恥ずかしさに耐えればいいのさ。

 ひゃはー。




 ……あれ? 目から変な汁が出てきた。
 おかしいな。






 でも、これからが、本当の地獄のはじまりだったんだぜ。






───桜咲刹那───



 思い出す。
 幼少の頃少しだけ見たことのあるテレビで活躍するヒーロー。
 あれはフィクションであったが、己の使命や、ヒーローの立ち居地は自分に共感できるところが多くあった。

 それゆえ、それでも負けない彼等の姿に、少女は憧れを抱いた。
 その姿は、お嬢様をお守りする私の理想。


 あの強力な召喚獣の一撃を事も無げに跳ね返し、私の前から一瞬にして消えた、あれほどの者。
 どれだけの使い手で、どのような人なのかと思えば、まさか宇宙刑事だったなんて!



 魔法使いが存在しているのですから、宇宙人がいても不思議はありません。
 あの強さも、宇宙的なものなら納得できます!

 宇宙人も、魔法使いと同じように、地球の人間にはその存在を教えてはならないとの事。


 それなのに、私を助けてくれた事は、本当に感謝しなくてはなりません。
 私など、彼がなにか悪い事を考えているかもしれないと、疑っていたのに。


 私に正体を明かした時、彼は、ひどく疲れて見えました。
 そうだ。ここで彼は孤独なのだ。
 地球にたった一人で、その正体は誰にも明かせない。

 私にも、その気持ちは良くわかります。

 少しでも、彼の力になりたい。
 私がそう思うのも当然でした。
 それゆえ、少し強引にですが、彼への連絡先や、探している宇宙悪党の事を聞ききだしました。

 これで少しくらいは、力になれるかもしれません。



 そして、上手くすれば、姿を隠す方法。例えば『変身』を教えてもらえ、その姿で堂々とお嬢様を守りにいけるかもしれない。


 ──ガッチャマン的な姿に変身した刹那を想像ください。


 ……少し、下心が出ました。
 反省しなくては。

 そう思った時、私の視界に、あるものが入って来た。
「こ、これは……!!」




──────




 半デコちゃんと別れてすぐ。携帯電話が鳴った。
 ちなみに俺の登録数は両親と学校を除けば彼女が実質初めて。
 涙がなくては見れないね。

 オチは森の中でなくしたから新しく契約しなおした。なんだけど。


 んで、俺は、彼女からの電話を聞いて、真っ青になった。


 だって……

 だって。見つけたって言うんだもん。
 俺の探しているだろう宇宙悪党の手がかりを……

 いるはずないのに、見つけたって、彼女が嬉々として、言うんだもん……





 ……ボスケテ。




──────




 仕方なく待ち合わせの場所へ行ってみると、なんか人だかりが出来てた。
 何事かとかきわけて行ってみると、その中心には半デコちゃんがいた。
 俺に背を向けているので、彼女は気づいていない。
 むしろ、彼女もこの人ごみに戸惑っているようにも見える。


 ……まさかほんとに宇宙人見つけたとかないよな。
 そのせいでこうなってるとかないよな。

 一応これ『ネギま』なんだから。




 彼女が振り向くと、なぜこんなに注目されているのか理解が出来た。
 半デコちゃんのお腹がぽっこり膨らんでいる。

 麻帆良の制服の上着を押し上げるようにして。
 お腹の中に、もう一つ新しい生命がいるレベルの膨らみようで!



「まあ。あれが、かしら?」
「あんなに若いのに……」
「サイテー」
「嫉妬の心は父心……」
「怨怨怨怨」




 ……俺の時が止まった。




「な、なぜに?」
 いくらなんでも、さっきの今でお腹が膨れるはずもない。
「あ、よかった。見つけました。今、あなたの子(宇宙悪党)がここにいますよ!」


 うん。いい笑顔だね。
 すごくうれしそうな笑顔だね。

 そうだよね。宇宙人なら周囲の人の視線にさらすのまずいよね。
 だから、服の下に隠したんですね。
 ナイスな判断だね。

 ただ、そうやってお腹を持ち上げて、嬉しそうに言うのは、やめて、欲しいな。



「マジなのか……」
「最近の若い子は……」
「サイテー」
「なんとうらやま……いやけしからん!」
「怨怨怨怨怨」




 視線が、視線がいたいぃぃぃぃ!!!




「な、なぜこんなに注目されているのでしょう?」
 視線には気づいているようだが、なぜこうなっているのかわからないように、少女は首をかしげる。



「きみなぁぁぁぁぁぁ!!」
 思わず叫んだ。この子すごい天然だ!
 天然すぐる。
 天然通り越して純粋すぎる。




「うわ、怒った」
「これだから最近の若いのは……」
「サイテー」
「なんだ、この、マスク……」
「怨怨怨怨怨怨」




 俺まで変な目で見られてるじゃないか! というかなんだこれ!? なんてプレイ!?
 宇宙刑事かと思ったら、別の精神攻撃!?
 魔法使い目前だった俺への新手のいがやらせ!!?
 もうやめて! 俺のMPはもうゼロどころかマイナスよ!




 とりあえずこの場から逃げ出す。
 そろそろ石を投げられかねない。




「ねー、彼ってさ~」
「あいつって……」




 ……俺さ、記憶喪失って触れこみだから、今結構話題なんだよね。
 それがさ、こんな状況で逃げるのってさ……



「あ、今動きました!」
 うれしそうに報告しないでください!!



「ひそひそサイテー」
「ひそひそひそクズ」
「ひそひそ死ねばいいのに」



 人ごみを抜ける間にどんどん尾ひれがついている気がするぅ!




 ……あれ? また目から変な汁が。





 これが、これが、嘘をつく事への罰ですか? 神様。





──────





 でも、服の下にあったものの方が最悪だった。


 彼女が取り出したのは、ボーリング球のようなものだった。
 たまにちかちか目(?)が光ってる。


 おい。


 おいおい。


 おいおいおい。おいおいおいおいおいおいおいおい!!
 これクロスものだったのか? おかしいだろ。おかしいだろこれ。


 なんでここにザンダクロス脳があるんだよ。劇場版かよ。鉄人兵団かよ!


 よりにもよって人類総奴隷化をたくらむ一番最悪の敵である鉄人兵団かよ!!!


 この作品は『オレえもん ネギまと鉄人兵団』とかいうタイトルだったのかよ!?
 語呂がぴったりなのが余計に腹立つ。


 い、いや、おちつけ。落ち着いて元素を数えるんだ。
 すいへーりーべ……

「やはりこれは……」

 ああ、いきなり俺が固まったから半デコ少女が不安そうにしている。

「ああ。よくわかったね」
「いえ、いかにも怪しかったので!」


 いい笑顔だ。

 うん。だから、服の下に隠してたんだね。
 わかるよ。この理解も2回目だしね。よーくわかったよ。
 目からまた汁が出そうになるくらい。




 人の優しさが刃になるって俺この時初めて知ったよ。
 こっちの方が、心には、効くね。




「ありがとう。君のおかげで世界は救われる。あとは俺に任せてくれ」
「あの、なにか私にもなにか手伝う事は出来ませんか?」

「これだけしてもらえればもう十分だ。あとは俺の仕事。君は、君の仕事に戻るんだ。それが俺の一番の助けとなるから」
「はい!」

 彼女ははじけるように笑顔になり、走っていった。



 俺は人気のない場所に取り残される。



 彼女の背を見送りながら、その時俺は、優しく微笑んでいたと思う。
 人間こういう時は、もう笑うしか出来ないものだと知ったよ。



 神様は俺の事嫌いなんだ。絶対。
 自業自得とは言わないで。





──────





 はー。一難去って、また一難。


 一人になって、未来道具を取り出す。
『○×占い~』
 てけてってて~。
 最初にも使った占い道具を出す。これは質問に○か×かで答えてくれる道具だ。的中率は100パーセント。聞き方さえ間違えなければ、確実な情報ソースとなる。
 少なくともこれで、本当に鉄人兵団が来るかわかる。
「まずは、鉄人兵団は地球征服をたくらんでいる?」
 ○ピンポーン。
「それは人類総奴隷化?」
 ○ピンポーン。
「すでに尖兵は送られている?」
 ○ピンポーン。
「それは俺の手の中にある?」
 ○ピンポーン。


「……」
 ぐったりするしかない。
 ど、どうすりゃいいんだこれ……
 原作ラストは確か、タイムマシンで歴史改ざんしてたけど、あれ認めると俺この世界の未来人認めないとならないって事かなぁ。
 俺に被害がなきゃ認めるのは全然かまわないんだけど。
 そもそも関わるつもりないし。


 ただ、俺はドラゴンボール的な未来支持派だから、改ざんしても改ざんしてない未来は残ると思ってしまう。
 未来の可能性は無限にあるに一票。

 だから、俺は、あえて、あいつ等を倒す!
 ここで過去を変えても、変えていない過去が残る。だから、ここが変えない過去であり、ここ以外が変えた過去だ。


 と、結論。


 問題は、どうやって鉄人兵団を倒すかだな……





──────





 メカトピア本星。メカトピア帝国。
 ここは。3万年前、遠い惑星の人間に嫌気が射した科学者が、知性を持つロボットを作って建国したのがはじまりである。
 しかし地球の人間社会と同じような競争社会の歴史を辿り、現在に至った。彼等はすでに生命として完成していると考えており、『生き物』達はロボット以下としか考えていない。
 すべての『生き物』の進化の頂点として自らを認識し、他の『生き物』を支配、管理、使用して当然と考えている。
 その一環が、他の星への侵略であり、管理、労働力化するための奴隷の確保なのである。


「シカシ、人間ハ脆クテイカンナ。マタ全滅シテシマッタ」
「これからマタ、増ヤセば良イダケではアリマセンカ将軍。人間ハ我々ト違イ勝手ニ増エルノデスカラ」
「其ノ通リダナ! ゲハハハハハ」

 醜い電子音の笑い声が鳴り響く。


 帝国における本隊は、地球侵略が始まっているというのに今だ本星にいた。
 今だ宇宙にすら出ていない文明レベルの低い地球など、難易度としては昆虫収集をするようなレベルと彼等は考えている。
 はっきり言って楽勝。
 ゆえに本隊出発も、前線基地が出来るまでするつもりも無く、ノンビリもノンビリとしていた。


 ごとん。ごと。


「?」


 だが、そこに転送されてくるボーリング球のようなものがあった。


「……『ジュド』カ、ナゼ、ココニ?」
「ガガ、危険……危険……アノ星ハ……」
 ボーリングの球が、チカチカ光る。


 カッ!!


 一瞬の光。
 それにより、メカトピアそのものがのみこまれ、崩壊してゆく。


「バッ!? バカナァァァァァ!!?」


 その時、宇宙に、綺麗な花火が生まれた。




──────




「メカトピア帝国本星に生き物はいるか?」
 ×ブブー。



 俺はすぐに行動へ移した。

 やった事はシンプル。このザンダクロスの頭脳に『片付けラッカーデラックス』を吹きかけ、それを持ち主(鉄人兵団)に返すだけ。
 ただ、返す際、『地球破壊爆弾』をお土産として一緒に。だ。

 ちなみに『片付けラッカーデラックス』は吹きかけると持ち主の元へ自動で戻るという物で、しかも一定距離以上進むと瞬間移動に切り替わるというまさにデラックスなやつ。劇場版緑の巨人伝で出てきた。旧版アニメしか知らない人にはわからない道具だな。


 お、そうしている間に爆弾が爆発した。
 『惑星ノ消滅ヲ確認シマシタ。粉ミジンDEATH!!☆』
 イラッ☆!
 うん。わかった。これ、2度と、とりださねー。


 『○×占い』で確認。うん。地球の危険は去った○、か。よし。地球は救われた。よかったよかった。
 これで魔法使いVSロボット兵団とか完全に別の作品になる危険は去り、俺の平穏も守られたわけだ。

 ほんとーによかった!







 俺がそうやって安堵していたころ。


「……帰るところ、なくなっちゃった」
 空を見上げ、一人の地球偵察用地球人型ロボット少女は、そうつぶやいた。



 地球は救われた。


 でもそのうち、星ごと再生にいく事になるとは、思ってもいなかったんだ。
 少女ロボ+彼のコピーロボ=新しいメカトピアでファイナルアンサー。




──────




「ひそひそ」
「ひそひそひそひそひそ」
「こそこそこそ」


 翌日学校。


「……」
 うん。噂がさ、すごいね。
 ひどい事になってるね。
 主に俺が悪役で。
 ひどすぎて報告する気も出ないヨ。
 触るだけで妊娠とか、ありえないヨ。



 昨日とは違う意味で、俺クラスからよそよそしくされるようになたよ……



 みんなー。それ誤解だからー。
 そんな理由で記憶飛ばしてないからー。



 ……でもまあ。俺としてはこの前よりこっちの方がマシかな。
 これで彼等のよそよそしさはなくなったし。
 話しかけられる事も少なくなったけどさ。



「ちょっと職員室まで来ようか」
 先生。『頭冷やそうか』的な目で指差し指定呼び出しかけないでください。



 誤解ですから。



 ……そーいやザンダクロスの体はどれくらい降ってきてたんだろ。まいっか。魔法使いの人達がどうにかすんべ。
 脳みそなけりゃただのガラクタだしな。


 現実逃避乙!
 地球を救ったのに報われない彼だった。




 ちなみに、3-Aでも某パパラッチの存在で大騒ぎとなったが、当人はスタイル昨日見たままだし、いきなり膨れるはずもないわけなので、一瞬にして鎮火したそうな。



 めでたしめでたし。









─あとがき─
 うん。見事な勘違い。

 ぶっちゃけ刹那を孕ませたくてやった。
 後悔はしていないが反省もしていない。
 鉄人兵団とか単にその状況にマッチしたためのガジェットなんだ。
 深い意味はあるかもしれないけど今はないんだ。

 ちなみにフラグは立ってねーですからー。むしろバキバキですからー。



[6617] ネギえもん ─第3話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/06/26 20:30
初出2009/02/22 以後修正

─第3話─




 やっとネギが出てくるヨ!




──────




 半デコお嬢ちゃんとの衝撃的再会から翌日。
 職員室で担任にこっぴどく絞られたあと。
 つまり今は放課後。

 なんとか解放され、今日も今日とて一人で帰宅中。



 今、俺の危険感知出来そうなセンサーがビンビン危険を注げている。
 可及的速やかに安全を確保せねばならないと!


 必死にポケットを探る。


 あったぁぁぁぁぁぁ!
 『厄除けシール』が無意味と悟り、金髪幼女の復讐におびえた俺は、ついに幼女に出会わないで済む道具を発見した。
 これがあれば、これがあればあの幼女に会わなくてすむようになる!
 念じればそれに応じた道具が出てくるから、あるんじゃないかと思ったんだ!


『さよならハンカチ~』
 ててれてってれ~。

 ふふふふふ。こいつの効果はすごいぜ。見て驚け!

 使用方法&効果。
 別れたい相手に向かって振ると、相手はひとりでにその場から立ち去り、二度と会えなくなる。
 二度と会えなくなる。


 そう! これを使えば、あの金髪幼女と2度と出会わなくなるのだ!!
 すばらしい! なんとすばらしきかな未来道具!!

 あとはこれを幼女の目の前でこれをふれば……めのま、え?
『使用方法:別れたい相手に向かって振る』
 相手に向かって振る。
 相手に向かって、振らなきゃならぬ。


 ……向かって?
 あの確実に怒っているだろう幼女の前で?


 ばかぁぁぁぁぁ! そもそも目の前に出れるか! 怖くて出れるか! 怒れる幼女にそんな事している暇あると思うのか! 相手は幼女にロボがいるんだぞ。
 見かけたらまず安全のために逃げるわぼけぇぇぇ!!!


 床にたたきつけた。
 激情にまかせ、何度か踏む。


 くそっ、ぬか喜びさせやがって。

 だが、まあ。一応なにかの拍子に使えるかもしれない。
 常時手に持って機会をうかがうとかだと他人に出会えなくなる可能性があるから使えないし、いきなり取り出せるかかなり怪しいが、まあ、使う機会はあるかもしれない。

 壊れてないだろうな。そんな事を思いつつ、『さよならハンカチ』を拾おうとしたその時。



「おい」



 ……声をかけられました。
 どこかで聞いた事のある声です。
 第1話くらいで聞いた覚えのある声とシチュエーションです。

 ぎぎぎぎぎぎぎ。と、しゃがみかけたまま、首を動かしそちらに向ける。

 階段の上に、いた。
 あの幼女が、にやりと笑って腕を組んで、俺を見下ろしている。
 獲物を見つけた肉食獣みたいな目をして。


 金髪幼女が現れた!



 俺、オワタ!!



 い、いや、今がチャンスだ! いきなり襲い掛かられていない。このまま右手で落ちたハンカチをつかみ、そして振る! そうすれば、奴から解放される!!
 俺ならばそーする。誰だって、そーする?
 俺は、奴に注意したまま、ハンカチに手を伸ばす。


 今だー!


 そのときいたずらな風が吹いた。
 幼女のパンツが見えた。
 ハンカチも跳んでった。


「あ、パンツ見えた」
 思わず言った。


 とび蹴りを食らいました。
 あごにすげーいいのを食らいました。

「こ、ころすき……か……」
「むしろ死ね!」


 お前が悪いのだろう幼女。
 あんなところに立っている、お前が悪いのだ。


「そうは、思わんか? キティ」
「その名で呼ぶなぁぁぁぁ!!!」


 ストンピングでとどめを刺されかけました。
 ごろごろ転がって逃げたのよ。
 でも逃げられなかったのよ。


「ちょっ、やめっ、ふべっ」

 馬乗りになってボコボコにされてます。

「お前が! 死ぬまで! 殴るのを! やめない!!」

 せめて泣くまでにしてください。
 もう泣いてますから。


 くっ、やばい。このままだと幼女に殴り殺される。墓石に幼女の手によって死亡とか書かれるのは嫌だ。
 とりあえず、逃げよう。
 逃げが俺の基本だからな!


 こんな時こそ未来道具の出番!

『タンマ・ウォッチ~』
 いわずもなが、時を止める道具!
 取り出さずに、ポケットの中で持ったままボタンを押す。

「ザ・ワールド!」
 思わず口にする。

 時が止まった。
 ふ~。これで幼女も止まる。あとはハンカチ回収→振る→オサラバのコンボだけだ。


「な、なんだと……?」


 ……幼女の声が聞こえました。あれー?
 馬乗りのまま、止まった時の中をきょろきょろしている幼女がいる。
 あれー? そういえば、『タンマ・ウォッチ』って、時計に触れてる人に触れてても効果あるんだっけー?
 あれー?


『作動時点で使用者の体に他の者が触れていれば、時間停止の影響を受けずに済む』
 ばいうぃきぺでぃあ。


 あれー?

「貴様、なにをした!」
 首絞めないでー。


「ま、まて。ついうっかりだ。今解除する。ちょっと放せ。でないと俺等二人このまま時間の流れに取り残されるぞ」
「む……? し、しかたないな」
 取り残されるのはスイッチを切らない限りって意味さ。消して深い意味はないよ。深読みするのはご勝手に。


 ああ、時が動き出して幼女も驚いてる驚いてる。


 ……って、あれ? なんか、幼女の顔が、俺の首に近づいてきててません?


 ちょっ! こら! まさか俺の血を吸おうっていうのか!?
 無意味だから!

 俺の血に主役のネギみたいな効果ないから!!
 俺ただのモブその1で一般人でしかないから!!


 やーめーてー。





───エヴァンジェリン───




 本日は、年に2回の学園都市メンテによる一斉停電がある。


 それに乗じ、封印結界への電力を停止し、一時的にだが、私の魔力を取り戻す計画が実行出来るようになった。
 これで憎きスプリングフィールドの体液を搾り取り、私は完全復活を果たす。

 まあ、詳しい事は3巻などを参考にしろ。
 ちょうど今は143ページをすぎた頃だ。

 ……3巻?

 なんの事だかよくわからんが、まあいい。


 そして、力を取り戻した後、次は私の前から逃げだしたあの小僧を探し出す!
 絶対に見つけ出し、確実に、いたぶり殺す!
 『サウザンドマスター』と同じようになぶってくれる!



 だが、予想以上にそいつの発見は早かった。



 茶々丸と共に、電算室から計画の準備のため一度我が家へと戻ろうとした時、そいつはいた。

 忘れもしないあの背中。
 あの頭。
 あの顔。
 あの姿!

 歩く私の目の前に、あの日私を侮辱した奴がいた!


 くくくくくく。なんと今日はついている。
 こんな日、こんなところでこいつを見つけられるとは、なんたる僥倖!
 夜にはスプリングフィールドの血を飲み呪いを解除できる上、今は私を侮辱した愚か者も処刑出来る。
 今日はなんてついている日なのだ。


 茶々丸に「楽しそうですね」と言われた。ああ、今気分は最高にハイってやつだ!



 私は奴に声をかける。


 くくくくく。驚いている驚いている。
 地面に這いつくばるよう物を拾っているとは、無様だな。


 その表情を見て私は楽しむ。


 だが、いたずらな風がいきなり吹いた。
 ちょっ!?


「あ、パンツ見えた」


 見えたじゃなあぁぁぁぁぁぁぁい!!!

「へぶっ!」

 階段から奴にとび蹴りを食らわす。

 その後折檻コース。
 だからその名で呼ぶなと何度も言っているだろう!!
 すぐそのような余裕みせられないようにしてやる!


 一度逃げられそうになるが、そのまま奴の腹の上に乗り、渾身の力で顔面を殴りつける。


「お前が! 死ぬまで! 殴るのを! やめない!!」


 そう言い、殴り続けていると──


「ザ・ワールド!」


 ──奴がいきなりそのような事を口にした。



 ピタッ!!



 その瞬間、すべてが、止まった。

「な、なんだと……?」


 木が風でなびいた瞬間に、停止している。空で羽ばたく鳥が、空中で止まっている。
 茶々丸が……いや、あれは元々微動だにしない奴だから止まっているかはわからんが、止まっている。
 風の流れが、木々の動きが、生命の息吹が、すべてのモノが、私以外のすべてが、停止していた。


 一瞬思考が止まる。


 なんだ、これは……?

 まるで、時間が止まったかのようだ。
 時の流れに、本当に取り残されたかのようだ。
 私は、自分の下にいる奴を見下ろす。

 この状況下、動いている者は、私とこいつだけ。
 私はこのような事は出来ない。


 やったとしたとすれば、この男以外に、いない!


「貴様、なにをした!」
 奴の首を絞める。


 だが、奴から出た言葉に、私は驚愕させられる。


「ま、まて。ついうっかりだ。今解除する。ちょっと放せ。でないと俺等二人このまま時間の流れに取り残されるぞ」


 な、に?
 今、こいつはなんと言った?
 うっかりだと? うっかり? こいつはうっかり、時を止めたとでも言うのか?
 うっかりで止められるものではないだろう!!?

「む……? し、しかたないな」
 口から思わずそう漏れた。混乱していたとも言うが。

 その時、首にかかった手の力も緩んだのだろう。
 奴が息をはくのと共に、周囲も動き出した。



 こいつは、一体何者なのだ。
 時間停止などという、奇跡にも等しい事を、うっかり引き起こしただと?
 空間を限定し、外界と時の流れを隔絶した小世界。いわゆる『別荘』を作成するのにも、多大な労力がかかるというのに、お前はそれ以上の事をうっかりでやっただと?
 しかもそれをあっさり解除した。
 その上、魔力をひと欠片も使わずに、だ。


 こいつは本当に何者なのだ!!?


 こいつは、危険だ。危険すぎる。
 今まで生きてきた経験の中から、確信する。

 一見すると一般人のようにしか見えない。
 だが、それこそが脅威。
 一般人にしか見えないという事は、誰にも警戒されないという事だ。
 そして、実力を測れないという事は、それだけで巨大なアドバンテージとなる。
 この私ですら、こいつの本当の実力は、まるで測れない。それはまるで、あの『サウザンドマスター』を彷彿させる底の見せなさだ。


 だが、確実にわかる事は、今の、魔力を封じられた私では、こいつに勝てそうにないという事だった。
 くそっ、この呪いさえなければ!!



 ……いや待て。



 こいつの血を吸えば……ひょっとすると私の呪いも、奴の血族の血を吸わずに解けるのではないか?
 明らかに一般人にしか見えない。が、それは高度な擬態のせいだ。
 ひょっとすると私が気づかないだけで、スプリングフィールドの一族以上の魔力を隠しているのかもしれん。

 今日の夜ならば計画通り牙も出るが、今だと牙は出ていない。
 が、まあ、首を噛み千切って飲んでもいいだろう。
 私を侮辱したのだ。苦痛がともなうのならばむしろ好都合。


 ……おいこら、今そこで噛み付くだけになるとか思った奴、呪いが解けた後で氷漬けにしてやる。覚悟しろ。


 とりあえず、可能不可能は、やってみてからだ。



 私は奴の首に、思い切り牙をつきたてるべく、動き出した。




──────




 倒れ、馬乗りにされた俺に幼女の唇が俺の首に向かってくる。
 ……これ、見られたらまた変な噂立つのかなぁ。
 なんて冷静に変な事を思う。

 でも、幼女に噛み付かれる経験もそうそうないからそれもいいかなー。とか思うが、いや吸血鬼に血を吸われるのはまずいだろ! とぎりぎりで気づいた。

 が、遅かったかもしれん。


「エヴァンジェリンさん?」

 思わず首にあまがみをくらいそうになったところで、俺達の背後から声がかかった。


「……ちっ」


 おお。その言葉が響いた瞬間、幼女が俺を折檻するのをやめてくれた。
 何者だこの天使は。
 俺は今幼女に馬乗りにされたままなので、幼女が陰になり、その姿を確認する事は出来ない。


「な、ななななな、なにをしているんですかー!?」
 今の状況を確認したのか、あわあわとしている声が聞こえてくる。

「なに、ちょっとしたスキンシップだ。新しい友達を作るのを、先生は邪魔したりはしないだろう?」
 うっとうしそうに、幼女はその声に答えを返している。

「あ、ソレはいいことですね!」

 ……い、いやいや。この状況を見てなんでそう言えるのさ。
 これ(馬乗り幼女)のどこがお友達なのさ。
 この子も半デコちゃんクラスの純真さだねぇ。誰だか知らんけど。


 そのまま幼女がゆっくりと俺の体を離れる。

 その際。


「くくく。続きは今日の夜にしてやる。停電の時間を楽しみにしているがいい」


 小声でささやかれた。
 っ! 停電!? 今日の夜。そうか。今日がその日か!
 って、楽しみにしてろってちょっと待て! まさか俺も巻きこまれるって事か!?
 完全にターゲッティングしてるって事かー!?


 やばい。どうにかして対策しないと!
 ……原作にかかわりたくなかったのに、関わるきっかけは自業自得とは、最悪だヨ。


「それで、見回りか? ネギ先生?」


 うおっ、主人公出て来てたー! さっきの声はそうだったのか。
 しかし、幼女、『先生』という部分に皮肉たっぷり。


「はい!」
「そうか。それじゃ私は一度帰る。また会おう」
「エヴァンジェリンさんもまた明日!」

 また明日って事はさっきの言葉そのままの意味だと思ってんだろーなー。
 さっきの皮肉も通じてないんだろうなー。
 幼女はネギにそう言って、俺を置いたまま茶々丸と去っていった。


 うわー、ネギに背を向けたあとの顔、すげーにやついてるー。
 俺の方見てさらににやついたー。



 だが俺は知っているんだー。
 幼女が負ける事をー。



「あの、立てますか?」

「ん? ああ、すまない大丈夫だ」

 転がっている俺に手を差し伸べてくれたのでその手をとって立ち上がる。

 ……ん?

「エヴァンジェリンさんとお友達なんですね」
「んー」
 これは、お友達という事に反応したわけじゃない。別の違和感に頭をひねっていたから出た声だ。

「でも、安心しました。ちゃんとエヴァンジェリンさんにもお友達がいて。クラスで少し浮いちゃってますから」

 ネギがうれしそうに話している。が、俺はそれも聞いていなかった。


「一ついいかな先生?」

「はい?」

 きょとんとした表情で、俺を見返してくる。
 スーツ姿で、背中に杖。後ろでまとめた髪にめがね。
 おまけでオコジョ。黙っているのは俺がパンピーだからだろう。
 うん。俺の知るネギ・スプリングフィールドの姿そのものだ。


 だが……


「君の氏名は?」

「ネギ・スプリングフィールドです」

「年齢は?」

「10歳です」

「……せ、性別は?」

「女ですけど?」

「ワン、モア、ぷりーず」

「僕は、女です」


 ……


「お……」
「お?」
 ネギが疑問符をあげる。






「おんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」








 俺の絶叫が、虚空に響いた。








───超───



「……?」
「どうしました超さん?」
「なんでもないヨ」
 今、一瞬だけ、時計が起動した……?

 気のせい? いや、そんなはずはない。
 なにかワタシの知らない事が起きているという事カネ。












─あとがき─
 うん。要素がどんどん増えているような気がするヨ。

 うっかりで時を止めるとかもうね。
 幼女を増やすとかもうね。


 正直ここでTSかよ! って怒れる方もいるかもしれないが、私は後悔しないし反省もしない!
 ただ、主人公と一緒に「女ぁ!?」設定を変えるなよぉー! と受け入れ拒否の人は主人公と同じ心境ですので、とりあえず笑顔で「この豚野郎」と言いつつ新しいジャンルに目覚めるのを半裸で待機してみてください。

 ただしおじさんは責任はとらないし謝らないヨ。



 そして受け入れOKな人。

 もう後戻りは出来ないヨ!



 ちなみに『タンマ・ウォッチ』の使用法が完全理解出来ていなかったのはポケットから『取り出して』いなかったから。
 だから説明が遅れて来た。もしくはその時にポケットから少しでも姿を現したのだろう。

 あと彼の感じた違和感はネギのスーツが女物になっていたというところ。ちなみにズボン。
 それとネギも子供先生で珍しいのでああいった質問は受けなれていると思われる。



 ところでカモの性別が気になる人ー?



[6617] ネギえもん ─第4話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/03/09 21:10
初出2009/02/25 以後修正

─第4話─




 主人公が表舞台に向けてアップをさせられはじめました。




──────




 はっ!


 い、いかん。一瞬意識が跳んでいた。

 状況を整理しよう。

 『ネギま』の主人公。ネギ・スプリングフィールドが女だった。

 以上。
 つまりTS。トランスセクシャルの略ですね。わかります。
 ……う、うん。わかった。うん。大丈夫。それだけだ。問題ない問題ない。
 このくらいの差異で、展開が大きく変わったりはしないだろ。せいぜいラブ米がないくらいだ。
 本屋ちゃんのラブがどうなってんのかはわからんが、まあ、百合とかもアリだろうから平気だろ。
 アスナの子もむしろ女の子なら同室抵抗が少ないだろうし、あれ? むしろメリットのが多い?
 なんだ。問題ねーじゃん。
 ついでに俺のネギ同居フラグもつぶれたわけだし。悪い事全然ない。いい事ばかり。
 うんうん。



 一人部屋で俺が納得しようとしていると……



『こちらは放送部です。これより学園内は停電となります。学生の皆さんは極力外出を控えてください……』
『こちらは放送部です……』

 校内放送が響いてきた。



 ……あ、あれ?

 あれー!?

 部屋!? ここ俺の部屋!? ここ俺の部屋だよ!
 いつの間に!? いつの間に戻ってきたの!?
 ネギに会った時には4時間くらい余裕があったはずなのに!


 あ、ありのまま、今起こった事を話すぜ!

『俺はネギが女だという事実を突きつけられたら、いつの間にか部屋にいた』

 な、なにを言っているのかわからねーと思うが、俺はどういう事かはなんとなくわかる。
 頭がどうにかなったのだ。
 催眠術とか超スピードとかそんなチャチャなモンじゃぁ断じてねえ。


 ネギが女という事実を、俺の脳が理解する事を拒絶して思考停止におちいっただけだ。


 ぶっちゃけ呆然としていただけってヤツだぜ。
 やれやれだ。


 会話をしたのはなんとなく覚えている。自己紹介もしたな。あの後普通に別れて部屋に戻ってきたのも思い出した。



 だが、ネギ女のインパクトがでかすぎて意識が半分すっ飛んで、幼女対策まったくしてねぇぇぇぇぇぇ!!


 部屋の中で俺は頭を抱え天を仰いだ。



「ケケ」
「っ!?」

 部屋の外。廊下から、笑い声が聞こえた。


「ケケケケケ」

 ドアがガチャガチャとなる。


「ケケケケケケケケケケ」

 ドアチェーンのかかったままのドアが開き、暗い闇から伸びた人形の手が、そこに見える。


 ガチャガチャチャガチャガチャ!


 ドアがゆれる。


「ケケケケケ!」

 人形の目が、ドアの隙間から、俺を、見ていた。


 うわっ、こわっ!

 そう思った瞬間。そいつに向かって、部屋にあったペットボトルを投げつけた。


 キィン!


 鈍い光がきらめいたと思った瞬間、ドアチェーンと一緒に、ペットボトルが真っ二つとなり床に落ちた。
 水が、周囲に撒き散らされる。


「おいおい」


 こりゃやばいと思い、窓へと走る。
 一度距離をとらないと使う道具を考える余裕もない。




「ケケケケケケケケケケー!!」


 ドアから小さな人形が1体飛びこんで来た。


 あれは。

 あの茶々丸を小さくしたような人形は……


 チャチャゼロだ!


 この時期すでに外に出られたんだっけか?
 それとも停電で幼女に魔力が戻ったから一時的に外出OKになったって事か?
 詳しい事はわからん。

 が、俺を狙っているのは間違いない!

 つーかよりにもよって幼女の分身ともいえる存在が相手かよ。もうちょっと侮ってよ。
 いや、侮っているから本人じゃないのか?



 どの道大ピンチだ。


 今なんの対策もしてない。
 つまり、俺が素の状態で道具を使ってどうにかしなきゃならん。

 ど、どうにかなるのかー!?



 だれか、誰か助けてぇぇぇぇぇ!!



「ケケケケケ。ニガサネーゼ」


 背後から、声がする。
 駄目だ、相手のが早い!
 窓から逃げる暇すらねえ!!



「スグ楽ニシテヤルカラヨ!」


 背後で刃が振り上げられたのがわかった。



 ぞくぅ!!



 背筋が凍る。
 やばい、本気でやばい!!

 このままじゃ──




 ──死!?



 い……


 嫌だ。


 嫌だ!!



 こんなところで、こんなところで、死んでたまるかぁぁぁぁぁぁ!!!!














 『秘剣“電光丸”』




 ぎぃぃぃいぃぃぃぃいん!!!





 刃と刃のぶつかりあう音が、彼の狭い部屋の中に響き渡った。





───チャチャゼロ───





「オイオイ。オイオイオイ」


 チョット待テヨ。
 ナニモンダ、コイツ。

 俺は今、驚かされていやがるゼ。
 オウ、初めましてダナコノヤロー。俺はチャチャゼロダ。
 見ヅレーだろうから、わかりやすいようひらがな混じりだがムシロ感謝シロヨ。


 シカシ御主人も人がワリーぜ。こんな仕事をくれるなんてヨ。
 コイツ相手に好きに暴れていいとは太っ腹ジャネーカ。


 ナメテかかるなと言われたが、ソノ通りだったゼ。

 最高だ。最高ダヨコイツ。

 久しぶりの外デ、扉の外から脅カシタ後、無様に逃げる様はシロートそのモノだったクセに、刀ヲ抜いた後の雰囲気ガ異常ダゼ。


 詐欺ニモ近い。
 ナンナンダこの雰囲気。マスタークラス(達人)のプレッシャーとシロートの気配を同時に感じるジャネーカ。


 シロートかと思ッテ舐メテカカッタラ大火傷ジャスマネー。


 今まで御主人と戦ッタ中には存在シナカッたタイプダ。
 トイウカ、そもそも達人と素人ヲ同時に感ジるトカありえネエ。

 戦闘力5にも満たないゴミミテーな力しか感じネーノニ、動きは御主人クラス。俺ト同等。
 どれだけフェイントをシテモ、死角から狙ッテモ、全部防ぎヤガル。完全に見切ッテヤガル。
 動きハシロートナノニ、シロートじゃネエ。俺ノ動きガ見エテネエのに見えてイル。ナンダよコレ。

 攻撃にイタッテハシロートの振りが達人の鋭サヲ持っているナンテ反則ダロ。
 シロート同然の動きと達人の動きが混ジッテ、ソレがトンでもないフェイントになってイヤガル。
 余裕と思ッテかわそうとスルと予想以上の鋭サ。
 動キと太刀筋ガ合わネエから、攻撃ガ読めネエッたらありゃしネエ。
 御主人クラスデモこんな芸当できヤしネエゾ。

 知ラナかったら、最初ニ油断シテオ陀仏ダ。
 知ってル俺デサエ致命傷ヲ受けネエので精一杯ナンダカラナ。


 シロート混ゼルの止メテ完全な達人ノ動きヲしたラドンナレベルにナッチマウンダ?



 すげーゼ御主人。
 コイツ、化けモンだゼ。



 シカモ笑ッテやガル。
 コイツ、俺デ遊んでヤガル。




 ヤベーナ。コレだと、停電ガ終わるマデに勝負ガつかネーカもしれネー。
 ムシロ、負ケルかもしれネー。



 ヤベーの相手にしちまったヨウだゼ御主人ヨ。






 コイツ、『サウザンドマスター』クラスダ。





──────






 死ぬ!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!


 『秘剣“電光丸”』に振り回されながら、俺は思う。
 これはレーダーと電子頭脳を搭載した刀で、たとえ目を閉じていたり、目線を相手から離していても相手の位置を探知して、振り回すだけで斬り合いが出来る。すごい道具だ。


 現に今チャチャゼロの攻撃はまったく目で追えていないが、刀が勝手に防いでくれている状態だ。ただ、互角なだけで、勝ち目はまったくない。
 どちらの攻撃も当たらないのでは、勝負はつかない!


 モウ駄目! モウ駄目だから!
 体力の限界!
 人間の限界。

 俺の限界!!




 ポケットから他の道具出したい!
 でも無理!

 なぜなら、この刀を両手で振ってるから!
 片手で振ったら相手のパワーに負けて絶対弾き飛ばされるって!


 チャチャゼロ強いよ!
 強すぎるよ!!


 あは、あははははは。
 笑えるね。笑うしかないね。
 人間絶望的な状況になると逆に笑ってしまうってのは嘘じゃないね。
 前は精神的絶望だったけど今回は肉体的絶望もだよ。
 あはは。すごいね。


 俺の体力がなくなって刀を手放すか、それとも停電が先に終わってくれるか。
 そのどちらかのデスマラソン状態DEATH!!
 絶対負けます!!
 主に俺の体力、握力的な問題で。


 あはは。あはははは。

 あはははっはあ。




 って笑ってられるかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 くそっ!
 くそくそくそくそくそ!!


 こういう事になりたくなかったのに!

 絶対なりたくなかったのに!!

 なのに、なんでこうなってんだよ!


 俺はただ平穏に生きたいだけなのに!
 死にたくないだけなのに!!


 はいそこ自業自得とか言わない。


 くそっ!
 絶対、絶対絶対絶対生き残ってやるからな!!


 覚悟を決めろ。
 プランはある。
 命が差し迫った今、ひらめいた考えがある。
 だがこれは一つの賭けだ。


 失敗したら死ぬ!

 しなくても死ぬ!


 なら覚悟を決めろ!

 次の一瞬にかけるんだ。

 頭の中で、プランを組み立てる。


 チャチャゼロの刃をはじきながら、タイミングを計る。

 3。


 俺の考えと相手の動きを読み取り『秘剣“電光丸”』がチャチャゼロを誘う!

 2。


 刃と刃がぶつかり合い、はじかれあう。

 1!


 相手と自分の距離が開いた!


 ゼロ!!


 その瞬間、俺は『秘剣“電光丸”』を手放した!!


「ナッ!?」


 次の瞬間、レーダーを持つ『秘剣“電光丸”』のみが、チャチャゼロを追いかけ、襲いかかる!!


「シャラクセエゼ!!」


 だが、数瞬の打ち合いの後、主のいない『秘剣“電光丸”』はあっさりとはじき飛ばされた!



「モラッタ!!」



 いいや、それでいい。『秘剣“電光丸”』は俺の思ったとおりの仕事をした!
 狭い部屋の中で、刀に押されさがったチャチャゼロと、引いた俺の距離が、もっとも遠くに離れたのだ!



 この距離が非常にベネ!!
 さらに、ほんの少しの時間も稼いでくれた!
 これだけ距離と時間があれば!!



 俺がポケットから取り出したのは、パチンコとその弾。



「ソンナモン当タルワケネーダロ!!」



 刃を振り上げたチャチャゼロが、俺に襲い掛かってくる。



 ああ。君みたいな人間以上の能力値を持つ存在はそう思うだろーな。
 そして、思わず油断するだろうな。



 だがな。これも未来道具なんだよ!!




 引き絞ったゴムの力を、解放する!!



「ナッ!?」

 チャチャゼロが驚愕の声を上げた。






───チャチャゼロ───





 ナ、ナニガ起きたンダ……?


 なにが起きたのかわからなかっタ。


 刀ヲ手放シタノは明らかに『誘い』ダ。
 だが、ナニガあろうとチャンスは逃せネエ。


 『誘い』に乗って俺ハ斬りカカッタ。


 斬りカカル俺ニ、奴が一見ナンデモないパチンコを放ツ。
 ダガ、コレは当タルとマズイ。直感デそう思ッタ。
 普段ナラバ笑ッテ叩き落ス。ダガ、今回バカリは、カワス事ヲ選択シタ。

 カワス。
 ソシテ、俺の刃ガ奴に届ク。


 コレまでの経験カラ言エバ、コレで俺ノ『勝ち』ダ。



 油断なんてシテネェ。
 ドライバーのような弾丸ナンテ、俺ハ、完全ニ見切ッテイタ。
 アンナ速度、楽勝ダッタはずダ。
 完全ニ回避したハズダ。


 それなのに、倒れテいるのが、俺ナノハ、ナゼなんだ!?


 シカモ、ナニガ起きたかわからネエ。

 ナンデ俺は、ナンデ俺は……


 ナンデ俺は、五体がバラバラになって、床ニ転がっているンダ!?



 混乱する俺ヲ見下ろす影ガ現れた。



 奴ダ。



「オマエ、ドウヤッタ……?」

 どうしてコウなったノカ、俺ハ、知りたかった……




──────




「残念だけど、それは教えられねーよ」


 チャチャゼロの問いに答え、俺は、安堵のため息をついた。
 あ、危なかった。
 本当に、危なかった……


 目論見どおり成功して本当によかった。
 死ぬかと思ったよ。


 あの時使ったのは、まず、チャチャゼロがバラバラになっている事からもわかるように、『分解ドライバー』。

 そして、もう一つ。
 それを打ち出したパチンコ。
 その名も『必中パチンコ』。狙った的に必ず当てる事の出来るゴムパチンコだ。
 これを使って、物体の中央に当てなくてはならない『分解ドライバー』をチャチャゼロの体の中央に当てたのだ。

 回避したチャチャゼロに向かって、慣性の法則とか無視した動き。というか瞬間移動したようにかわした場所へ移動して突き刺さったのを見た時は、さすがに驚いた。
 下手にはじこうとか壁を作ったりしてもホントに瞬間移動して命中とかするんじゃないかこれ? 

 必ず当てるという看板に偽りなしとは、さすがだよ未来道具。


 本当に、助かった。
 本当に賭けだった。
 準備もなにもなかったから、本気で死ぬかと思った。
 アドリブで道具をあそこまであつかえたのだから、自分を褒めてやりたい。


 あー、つかれた。
 チャチャゼロとの戦闘でぼろぼろになった部屋を片付けながら思う。

 だが、これで俺の危険も終わりだ。

 あとは停電が終わるのを待つだけ。



 ……



 そう考えたら、ちょっと好奇心がわいてきた。


 あの幼女はネギに負ける事が確定してるわけだし。



「オイテメー。コレカラドースンダ?」


 チャチャゼロがふてくされたように聞いてくる。


「どうしようか。どうせキティはネギの方相手にしてんだろ?」
「知ッテンノカヨ」

「まーね」
「知ッテル理由ハ秘密カ?」
「そのとーり」

「俺ノトドメハ、刺サネーノカ?」

「刺さねーよ。人の家族勝手に奪っちゃ駄目だろ」
「ッ!?」
「どした?」
「ナ、ナンデモネー!」
「あっそ」

 そう言いながら、胴体と手足パーツを集め、大きめのコンビニ袋へ入れてゆく。

「モウチョット優シク扱エヨ」
「やられたクセに態度のでけー奴だな」
「ケケケケケ」


「どうでもいいんだけど、お前電力戻ったらどうなんの?」
「別荘ニモドリャスグ復活デキッカラ気ニスンナ。動ケネーダケダシ」
「んじゃ気にしねー」


 そのまま俺は窓を開け、コンビニ袋を持たない方の手でチャチャゼロの頭を持ち、『タケコプター』で出発。
 ちなみに『タケコプター』はチャチャゼロの視界に入らないようにして。頭設置でゼロが胸ね。一応。

「? ドコ行クンダ?」
「君を届けに行くんだよ。近くに置いときゃ茶々丸とかが勝手に回収するだろ?」


 つか、とりに来られても困るし。


「ついでに決着も見てきますかねー」
「ケケ。ソノ後御主人モ倒スッテワケカ。容赦ネーナ」


 しねーよ。


 そんな自殺志願者じゃねー。
 そもそもネギが勝つ事が決まってんだ。
 大体原作よりこっちへチャチャゼロまわしたりして負担増えてるだろーからより負け決定だろ。

 おお、俺のバタフライ効果もいい方向に進んでるじゃねーか。さりげない主役サポート。いいね!

 あとは負けた幼女にチャチャゼロを返して、もう俺にかかわるなと釘を刺して、俺は、平穏を手に入れる!!
 負けた時のごたごたに乗じて約束させよう!!

 あとついでに馬鹿にした事を謝ろう。
 そもそもこれがはじまりだからな。



 そんなわけで、俺はネギが戦っている橋の方へと出発した。




──────




 決戦場である橋上空に到着した。

 おー、やってるやってる。

「……コレ、ドーヤッテ浮イテンダ?」
 俺の左手で胸の部分に抱かれるようになってるチャチャゼロが聞いてくる。
「きぎょー秘密です」
「ケケケ」
 笑いで返事ってそれどういう意味だ?

 まいっか。


 橋の方は、チカチカなにか光っていた。
 おー。あれが魔法の光か。すげーな。


 丁度ネギVS幼女は、佳境に入ったところだった。
 最後の最後の大魔法の撃ちあい。


 確かネギがくしゃみして勝ちだっけ?



 あー、いや、その後予定より早いタイムアップでネギの勝ちか。思い出した思い出した。



 そんな事を思い出していると、魔法と魔法がぶつかりあい、拮抗し、その後大きな光を放った。


 お、やっぱりネギがくしゃみで撃ち勝った。
 でもネギは魔力切れで、幼女は余力ありか。全裸だけど。ちなみに凹凸のない体に興味はない。
 性別が変わっていても、展開は変わっていないようでなにより。


 この次とどめを刺そうとしたところで、時間切れ。
 はいはいネギの勝ちネギの勝ち。


 俺はそれにあわせて、橋の上に降りてゆく。


「ケケケ。御主人ノ勝チダ」

 いーや。ここで茶々丸が気づくんだよー。



「!! マスター!」

 ほら、気づいた。







「彼です!」

 ……俺の存在に。


「ふん。今ちょうど終わりだ!」


「……あれ?」
 これ、俺の間抜けな声。


 どかーん!!


「うわあぁぁぁぁぁぁ!」

 爆発と共に、ネギが吹き飛ばされた。

「ネギ!!」
 ツインテールの少女。たぶんアスナが、吹き飛ばされたネギを抱き止めるのが見える。

「気絶させただけだ。殺してしまっては血の価値が失われてしまうからな。しばらくそうしていろ神楽坂明日菜。今の貴様等に用はない」


 コウモリを集めたマントを装着し、幼女が、俺の方へと向き直る。




 ……あれ?





 ネギ、負けちゃった?
 うん。負けちゃった。



 ネギ、敗北?
 うん。敗北。



 幼女、勝利?
 うん。勝利。





 あるぇー?




「さて、次は貴様の番だぞ」
 すごい眼光で、幼女が、俺を、見てます。



 時間切れは?

 幼女封印復活は?

 ネギ勝利は?



「ケケケケケケ」
 俺の手の中で、チャチャゼロが楽しそうに笑ってた。










 ネギ、負けちゃった。








 あるぇー?











─あとがき─

 ネギ、負けちゃった。


 普通にシリアスな感じでVSチャチャゼロバトル。たぶん今回が一番シリアス。
 バトルマンガにおける初回主人公覚醒とか発動の回。彼の内面に変化があるわけじゃありませんが。

 ちなみに彼はチャチャゼロが油断して本気で戦っていなかったから勝った。と思ってます。
 しかしチャチャゼロは最後まで油断しておりません。

 それと今回、彼は『秘剣“電光丸”』は両手でないとあつかえませんでしたが、『スーパー手袋』などの力アップ道具を装備すれば片手で振り回す事も出来るようになります。
 これでマスタークラス相手に防御しつつ他の道具を使うというのが可能。
 たぶん『スーパー手袋』はゴム手袋じゃなくてイかした手袋にリデザインされてるね。



[6617] ネギえもん ─第5話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/03/14 01:31
初出2009/03/01 以後修正

─第5話─




 ついに主人公、表舞台に立つ。




──────





 ……ネギ、負けちゃったよ。


 いや、そうじゃない。なんで電源が戻らない?

 なんで!? なんでなしてどうしてなぜなになでしこー!!



「チャチャゼロをくだしたか。やはり侮れんな貴様は」


 パニクってる俺に向って幼女が言ってきた。
 なんか感心してるけど、しなくていいですから。


「……一つ、質問させてもらっていいかな?」
 そう言いながら、茶々丸にチャチャゼロの体の入ったビニール袋と頭を渡す。
 ぺこりとお辞儀するところが好感触。チャチャゼロは楽しそうに「ケケケケケ」と笑ってた。

「なんだ?」

「そろそろ停電の時間終わりじゃないの?」

「ふふ、ふはは。残念だったな。時間ならば、まだまだ残っているさ」
「はい。メンテナンスは通常の10分遅れで終了となります」
「茶々丸の妨害工作によってな!」


 ……はい?


「貴様と戦う可能性もあるのだ。これくらいの保険はかけておいてしかるべきだろう?」



 ……ぱーどん?


 今、なんて言いました?



 ひょっとして。



 ……ひょっとして。





 俺の、せい?




 ネギが負けたのも、俺がこうして大汗かいてるのも、全部俺の責任なわけ?

 自業自得なわけ?

 一番最初に幼女おちょくったのが、すべての元凶?



 マヂで!?



「今回はあの夜や昼間とは違う。私の本当の強さ、貴様に思い知らせてくれる」
 ようぢょが指をごきごきと鳴らしとります。


「は、ははははは」
「ほう、こんな時でも笑うか。随分と余裕だな」


 逆ですよ! ないから笑っちゃってるんだよ!
 だから目つきを鋭くしないでください。


 はー。もうね。ホントにもうね。

「は~。しかたない。やるしかないか」

 覚悟を決めなくては。
 全部俺のせいなのだから、その責任くらいはとらないと。
 せめて、最低限の流れは、原作と一緒にしておかないと。


 あーもう。過去に戻って過去の自分をぶん殴ってやりたい。
 いや、俺の支持する理論的にそれ無意味だけど。
 気分的にはすっきりするかもしれないけどね。


「なんだその不満そうな顔は」
「俺は平和主義者だからな。喧嘩は嫌いなんだよ」
「これは喧嘩などではない。殺し合いだ」

 吸血鬼的に笑わないでください。

「もっとやだよ。話し合いで解決しようぜ」
「断る。そもそも最初に喧嘩を売ったのは貴様だろう?」
「それを言われるときつい……」

 それを言われるともうがっくりと肩を落とすしかない。

「はぁ~。俺は平穏に過ごしたいだけなのに……」
「その平穏に過ごしたい奴が真祖の吸血鬼に喧嘩を売ったのだろうが」

 まったくだ。
 ぐうの音も出ないよ。

「では、はじめようか。多いといっても、限りある時間だからな」

「ったく。キ……」
「その名で呼ぼうとするなと言っているだろうが!」
「じゃあ幼女」
「それも却下だ!」
「わがままやなー」
「貴様が失礼なだけだ!!」

 ぶすーっとしやがった。
 ふふふ。こうして精神を乱すとはまだまだ未熟。
 ……だといいな。


「とりあえず、この前馬鹿にしたのは謝る」
「ふん。心のこもっていない謝罪などいらんわ」

「それでも言っておく。んで、俺が勝ったら、もう俺にかかわってくるな。平穏無事に生活させてくれ」

「ほう。では私が勝ったら、貴様は私の下僕として一生過ごしてもらおうか?」

「OK」

「「なーっ!?」」
 外野から驚きの声。たぶんツインテとオコジョだ。

「随分とあっさり決めるな。それは余裕か? 余裕の表れか?」

 あ、青筋出てますよ。
 いや、即決したのは、それなら殺される事はないかなーってな考えで、思いっきり保身からなんだけど。

「いいだろう。その言葉、後悔させてやる! 茶々丸は手を出すな。こいつは私が、直々に殺す!」
 茶々丸チャチャゼロ抱えてるしな。つーか殺しちゃ下僕に出来ませんよー。

「はい」
 茶々丸が返事を返し、幼女がふわりと浮かび上がった。


「後悔しないよう最大限努力するよ」
 その言葉と共に、俺も道具を取り出す。


 ばさり。
 と音を立て、俺はマントを装備した。
 一見すると、幼女のマントと同じようなマントを。


「ほう、それか……」

 うそ? これ知ってるの?

「それは、あの召喚獣の攻撃を跳ね返した時、手に持っていた物だろう?」

 あー。それか。あれ見てたのか。
 てことは、あの時最初から見てたって事かよ。


「だが、この私の魔法があのような小物と同じだと思うな!!! リク・ラク──」

「あ、そーだ。お詫びの方法思いついた。俺、君の呪いの解き方、知っているよ?」
 そういいつつ、手は懐の中に。

「─ラ・ラックラぁあー!? なんだとー!?」

 魔法を溜めたポーズのまま、驚く幼女。


「いや、まさか、スプリングフィールドの血をすすれとか言うのではないだろうな!?」
「いやいや。正確には、君を呪いから開放出来る道具がある。だからどうかな? ぜーんぶ水に流すってのは?」


「くくくくくく、はははははは。はーっはっはっはっはっは」
 天を仰いで笑いはじめた。

「それがあればネギ先生を狙う必要もないわけだしさ」
 笑い続ける幼女に俺は言う。

「くくくくくく。ふははははは。これは、これは愉快だ! いいだろう!」

 あー。うん。これは、続きはあれだね。

「貴様をくだし、私の下僕とし、呪いを解除させようではないか!」

 やっぱり。

「そして、私が満足するまで貴様をこき使い、私に喧嘩を売った事を永遠に後悔させてやる!!」


「まぁ、そーくるだろーねー」
 実際それで満足するとは思ってない。
 ぶっちゃけ時間稼ぎだから。


「マスター。残り時間11分となりました」

「おっと、どうやらこれ以上話している暇はないようだな。一気に決めてやろう! リク・ラクラ・ラックラ──」


 ちぃぃぃぃ。
 茶々丸さんそういう事は伝えないでください。

 個人的にはもう少し時間を稼ぎたかった。
 目標はタイムアップで原作再現なのだが、しかたがない。



 懐から、用意していた道具を取り出す。



『吸音機~』
 てけれてってて~。

『スイッチを入れると周囲の音が完璧に吸い込まれ、無音状態になります』
 ちなみに原作とは形が違い、今風に小型化され、かなり小さい。おかげで携帯が楽でベルトとか上着にはさめます。



 スイッチ、オン!






 シィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!





 周囲から、音が消える。


「─!?」



「─────! ──!!」



 俺はおもむろにスケッチブックを取り出し、マジックで文字を書く。
 ちなみにスケッチブックもマジックも授業で使うヤツをポケットに放り込んでいただけで、未来道具じゃない。


『ふはははははははは。呪文を唱えられなければ大魔法は使えまい!』


「──!! ────!」


 はーはーはー。なに言ってるかさっぱりわからーん。

『なに言っているのかさっぱりわからーん(笑)』


「───!!」

 じだんだしながら俺を指差しても聞こえないものは聞こえない。


「──!」

 幼女が腕を振るった。
 キラリとなにかが一瞬きらめき、俺の体に絡まる。

「っ!」
 やはり『人形使い』の糸がきたか!

 幼女がにやりと笑い、腕を引くのが見えた。


 だが、そっちも甘い!!

 俺は、このマントの真の力を発動させた。





「─!?」





───エヴァンジェリン───




 音を奪われた。
 奴の言動(スケッチブック)にはイラッと来たが、時をたやすく止める程の貴様なら、この程度はやってのけるとは思っていたよ!


 呪文を詠唱出来なければ、無詠唱魔法以外はすべて使用が不可能になる。
 チャチャゼロを退けるほどだ。白兵にも自信があるのだろう。
 ただの魔法使いならば、それで終わりだろうな。

 だが、私をただの魔法使いと思うな!
 真祖の吸血鬼を、なめるなよ!!


 人形使いの糸を操り奴へと絡める。
 そのまま、血溜りに沈め!!


 にやり。
 奴が、笑った。



「─!?」



 突如、糸が空を切った。

 馬鹿な! 完全に、奴を捕らえていたというのに!


 奴のいた場所から、大量のコウモリがあふれでる。

 なっ!?
 とっさにそれらのコントロールを試みる。


 が!


 !? こいつら、私の命令を受け付けない!?
 すでに他人の支配下にある? これは……!


 ありえない。

 頭の中に湧き上がった疑念を振り払い、そのコウモリの群れを視線で追う。

 コウモリ達は上空で集まり、そして、人の形を作り上げた。



 バ、バカな……!



 それは、奴だった。
『ハイ残念~』
 スケッチブックにふざけた事を書いた、奴がいた。




 エヴァンジェリンが反射の出来る存在と推理したマント。それはそもそも、『ひらりマント』ではない。このマントは『ドラキュラセット』と呼ばれるセットの物なのだ。

『ドラキュラセット』
 牙とマントを装着するとドラキュラとなれる。早い話吸血鬼になれるセット。当然弱点も吸血鬼基準となるが、相手も吸血鬼ゆえ、今回その弱点をつかれる心配はない。
 ちなみに今回使用したのはマントのみ。


 だが、まさかマント一つで吸血鬼になれるなど想像もしない彼女は、当然混乱する。




 奴が、コウモリに、変化した、だと!?

 それは!
 それは、私と同じ、吸血鬼の能力だ!!
 だが、貴様という同族がいたなど、私は知らんぞ!
 そもそも貴様はさっきまで人間のにおいしかしていなかったではないか!


『ふふふ。ならば、俺の秘密を教えてやろう!』
 そう奴が書きなぐった後、奴はそのスケッチブックを私に投げつけてきた。

 思わず、私はそれを受け取る。
 ページのはしには、『ページをめくれ』とあった。

「?」
 そこには。


『実は俺、お前の孫なんだ』


「!!!?」

 一瞬頭が真っ白になる。
 どういう事だ!?
 時を操る能力を持つ男であるがゆえ、さまざまな可能性を思い浮かべてしまう。
 スケッチブックから視線をはずし、奴を再び見る。


『ウッソー』
 そこには、大学ノートにそんな文字をでかでか書いて馬鹿にするよう笑う奴がいた。

『貴様ー!! ふざけるなー!!』
 スケッチブックについていたマジックで暴言を書きなぐる。

『騙される方が悪いのさ。バーカバーカ!』
『馬鹿とはなんだ馬鹿とは!! このアホー!!』

『そもそも孫に心当たりあるの?』
『あるかアホ!! 子供すらおらんわ!!』

『だったらまだ───』
『ばっ! 馬鹿な事を───』




 激しい筆戦が続く。こいつ、て、手ごわい!!





───ギャラリー───





(……文字書いてる間に攻撃すればいいのに)
 下で見ていた明日菜はそう思った。

(マスター。残り時間がもう……)
 茶々丸は心配していた。

(ケケケ。完全ニアッチペースダナ)
 チャチャゼロ。

(きゅう)
 ネギ。

 もう一個はどうでもいいや。
(ひでぇ!)





──────





『しまった!! こんなくだらない口喧嘩をしている場合ではないではないか!!』
『あ、やっと気づいた』

『貴様~』
『はっはっは』


 ちっ、この時間稼ぎもここまでか。
 じゃあ、次のプランへ移行だ!!


 最後の文を書き、大学ノートを上に放り投げる。

「「「「!?」」」」」

 すべての視線が、放り投げられた大学ノートの方へと集まる。



 よし! ソッチを見ろ!!
 その隙に!



『モンスターボール』&『透明マント~』
 てけててっけて~。

『モンスターボール』
 ボタンを押すと龍、河童、天狗、ヤマタノオロチなどの伝説上の怪物が出せる。
 ところで、この『モンスターボール』、このデザインいいのかな? 赤と白でボタンて。……はっ、黙っとけって電波が届いた!

『透明マント』
 かぶせると透明になる。

 ちなみに透明マントはボール自体を見えなくするためなんだぜ。



 落下してきた大学ノートを受け止め、それを幼女に見えるよう突きつけつつ、手の中にある『モンスターボール』を空に掲げ(見えないが)、発動!!



『いでよ、ヤマタノオロチ!!』
『なっ!!?』

 ……お嬢ちゃんもけっこう付き合いいいよね。
 ちゃんとスケッチブック片手に反応してくれるなんて。



 俺の手の中から這い出るよう、それは湖に出現した。



 そこに現れたのは、巨大なる龍。
 湖を覆いつくすほどの、巨体。
 日ノ本の神話に存在する、八つの頭を持つ獣。



「──────!!!!」

 幼女がスケッチブックに文字も書かず、声にならない悲鳴を上げている。
 


 くっくっく。驚いてる驚いてる。
 日本神話の怪物だもんなー。
 だが残念ながら、こいつは幻なのさぁー!

 『桃太郎印のきびだんご』も『スモールライト』も効かないなんて幻以外にありえないからな。
 どんな攻撃がきても無意味! これで残りの時間を稼ぐ!


 そのために『モンスターボール』を攻撃されないよう透明にして隠したんだもんね。
 音を封じた本当の目的はロボに「あれは実体がありません」と伝えられないようにするためだもんね!


 ふふ。完璧完璧!
 あとはタイムアップまで金髪幼女が幻を相手にしていればよいだけ!




 卑怯? ずるい?
 そんな事はどうでもいい。
 俺の目的はあくまで『平穏』!

 俺は戦士でもなければ、立派な魔法使いでもない。

 どんな手を使っても、最終的に──





 ──勝てばよかろうなのだぁぁぁぁぁぁぁ!!



















「シギャアアアアアアアアアアアア!!」

 ヤマタノオロチが、吼えた。




 ……あれ?




 空気の震えが感じられる。

 あれ? なんかびりびりと空気が振動してますよ? 音が、音が聞こえますよ?



 ばきーん!



 はれ? 『吸音機』がぶっ壊れましたよ? 許容量オーバー。とか、出てますよ。
 あふれた今までの音より、オロチの声のがでけーですよ。


 今度はヤマタノオロチ、八つのアギトを開いて、なんか、見たことあるよーな光を口に集めはじめましたよ。
 第1話参照っぽい光ですよ。でもすごさはアレの比じゃねーですよ?
 当社比100万倍とかいうレベル差ですよ。




 ……これ、マジで、やばくね?




「ちょっ! まっ!」


 だめー!! それだめー! というか幻じゃないのねこれ! 説明にも『幻』とは書いてないね! そういえば原作でも木々なぎ倒してたね! 日本神話になってたね!!
 『スモールライト』が効かないのは本当に『効かない』のね!
 しかも仕様がこの世界バージョン対応になってるっぽいよ! なんか怪獣ってレベルじゃなくてホントに神獣ってかんじになってるうぅぅぅぅぅぅう!!!(若本風)



 キャンセル! キャンセール!!
 マントをずらしてボタンれーんだ!!


 あ、幼女が涙目でこっち見てる。
 大丈夫だ幼女。
 問題ない。なにも問題なーいから!

 ねっ!☆

 とりあえず微笑んでおいた。


 ほれキャーンセル! キャーンセル!!




 カッ!!!!




 光はあふれたが、それだけでなんとかボールへ戻す事に成功。
 あ、あぶねー。
 あんなのに暴れられたら洒落にならねーって。


 巨大な光が収まったところで。



「……な、なぜ、やめた?」
 幼女が、うめくように言ってきました。


「それは……」
 え、えーっと、コントロールできなかったからとか言ったら、どんな折檻が待ってるのでしょう?

 これは二度とつかわねー。というか使えねー。他に龍とか天狗とか出せるみたいだけど、絶対出せねー。なんせコントロール不能だからね。あはは。


 答えないでいたら、橋に光が戻ってきた。




 あ、タイムアップ。





───エヴァンジェリン───





『しまった!! こんなくだらない口喧嘩をしている場合ではないではないか!!』
『あ、やっと気づいた』

『貴様~』
『はっはっは』


 こ、この男は! この男はどこまで私をおちょくれば気が済むのだ!!
 あの『サウザンドマスター』もたいがいだが、こいつもそれに匹敵する!



 そう思った瞬間、奴は持っていた大学ノートを上に投げた。


 今までにない行動に、思わず警戒する。
 そのせいか、飛翔したノートを目で追ってしまう。

 だがそれは、そのまま落下し、奴の手の中に納まった。

 なにがしたいのかはわからなかった。だが、手に取った大学ノートを広げた瞬間、私は戦慄を覚える。




『いでよ、ヤマタノオロチ!!』
『なっ!!?』



 勢いよく開かれた大学ノート。

 そこに書かれていた文字に。



 神話のみに存在する、伝説の名前。
 神に屠られた、獣の名前。


 そんなものを、この場に召喚するというのか!?


 馬鹿な。そのような事、出来るはずがない!





 奴が天に、残った手を伸ばす。





 ……だが、それは、顕現した。


 召喚の陣も、呪文の詠唱も、触媒も、魔力も。なに一つ用いず、世の理を無視し、それは、その場に現れた。




 そこに現れたのは、巨大なる龍。
 湖を覆いつくすほどの、巨体。
 日ノ本の神話に存在する、八つの頭を持つ獣。



 神話の怪物。



「──────!!!!」


 無意識のうちに、私は悲鳴をあげていた。

 それを一瞬直視しただけで、正気を持っていかれそうだ。
 禍々しい狂気と、猛々しい神気を纏ったそれ。



 その存在は、まさに、『本物』だった。



 ばっ、ばかな……神話級の龍を、神に屠られた獣を、日ノ本を象徴する神器を内包していた存在を、ただの人間が、召喚した!?



 空気が震える。

 沈黙のくびきを打ち破り。

 その咆哮が、世界を蹂躙する。



 自分の存在そのものが、揺らぐのを感じた。



 まるで時が歪んだかのように、自身の体感する時間が、一気に伸びる。
 生命の危機に、精神のみが加速し、すべての動きが遅く感じる。


 8つの首が、私の方を向き、そのアギトを開いた。
 ゆっくりと。

 膨大な力が、そこに集まるのを感じる。
 ゆっくりと。



 なにが、どのようにして集まっていくか、知覚出来るがゆえ、その恐ろしさがより鮮明となる。



 このような力、ここで放ったらどうなるのか、わかっているのか!?


 私だけではない。この学園。いや、日本そのものが、割れるぞ!!




 だが、奴は笑っていた。

 それどころか、早く撃てといわんばかりに手を前後に振り、オロチをせかしている。





 私は、真祖の吸血鬼となって初めて、群の人間ではない、人間個人の『暴力』を、怖いと感じた。





 オロチのアギトに力があつまり……







 ……光が、あふれた。



「い、いやああぁぁぁぁぁぁ!!」
 思わず両手で、視界を覆う。






 だが、いつまでたっても衝撃は来ない……




 恐る恐る目を開いてみれば……




 見えたのは、やつの手に、ヤマタノオロチが吸いこまれゆく光景だった。




「……な、なぜ、やめた?」


 奴は、答えない。


 答える必要などは、ない。




 奴が私を攻撃する必要がなくなったから、攻撃をやめたのだ。
 攻撃して倒すよりも、より屈辱的な方法を、奴は知っているのだ。



 最初から、奴は、これが狙いだったのだ。



 体から、魔力が抜ける。



 そう、時間切れ……


 私の、自滅……




 私は、そのまま、湖面へと、落下を開始した。





──────





「あっ!」
「っ! いけません。魔力がなくなればマスターはただの子供。このままでは湖へ! あとマスター泳げません」

 茶々丸とツインテの声が聞こえる。
 茶々丸の反応が遅かったなあ。どしたんじゃろ。まいっかむしろよい事!


 確かこれで、ネギが助けて大団円のはず!
 さあネギ! 原作修正として、助けに行くのだ!!



「きゅう」



 って、気絶したままだあぁぁぁぁぁぁ!!!!

「しまったぁぁぁぁぁ!!!」

 自分の事ばっかりでネギの事考えてなかったぁぁぁぁぁ!!



 茶々丸が追っているが、明らかに間に合わない。



 このままでは、誰も間に合わずに、幼女は水面に叩きつけられてしまう!



「ちくしょー!!!!」


 なんだかよくわからんがちくしょー!!






 『タンマ・ウォッチ』






───エヴァンジェリン───






 ……ああ、前にも、こんな事があったな。


 はじめて、『サウザンドマスター』に助けられた時も、似たような状況だった……


「危なかったね」

「おい、なぜ助けた?」
「さあ」

「おい貴様。私のものにならんか?」

「私は貴様を気に入っているのだ。貴様がうんと言うまで地の果てまで追って行ってやろう」

「登校地獄!!」

「~~~~~~~っ!!」

「まあ、心配しないで。あんたが卒業する頃にはまた、帰ってくるから」

「本当だな……?」


 ──10年前。

「『サウザンドマスター』は、死んだ」


 死んだ。
 アイツの笑顔が、鏡を割ったように、割れる。


 ……うそつき。



 水面が、近づいてきた……


 私は、ゆっくりと、目を閉じ…… 


 覚悟を……



 ふわり。



 ……激突の衝撃は、来なかった。




 私は、奴の腕に抱かれ、中空に浮かんでいた。



「……なぜ?」


「なぜ、助けた……?」




 お前に、私を助ける理由など、ないはずだ……





──────





「なぜ、助けた……?」


「えーっと……」


 この後修学旅行編で君の力が必要だから……なんて言えないし。
 そのうえネギに助けてもらう予定だったけど失敗した。てへっ☆。とかも言えないし。



「とりあえず、負けた事を噛み締めさせずに死んでもらっても面白くないから。かな」

「なっ!? なんだとぉぉ!?」

「ん~? なんだ? 事実だろ? もう一回やるか?」
 俺、自慢じゃないが、弱い相手には強気なんだぜ!!

「いいだろう、やってやろうじゃないか!」
「ってこら、マジでここで暴れるんじゃねえ! いてて、髪をひっぱるな! てめー落とすぞ!!」
「やれるものならやってみろ!」
「やってやろーじゃねーか!」
「さ、逆さづりにするなぁぁぁぁ! マントしかつけていないんだ! セクハラだぞセクハラ!」

 ちなみにいまさらだが、今ヴァンパイアマントつけてるから空も飛べるし力も並以上にあるのだ。

「安心しろ。幼女に興味はまったくない!」
 あったとしても一流のロリコンだから安心しろ!

「なんだと貴様ぁぁぁぁ!」
「どの道怒るんじゃねーか!!」



「ねえ、エヴァンジェリンていつもこうなの?」
「いえ、こんなに楽しそうなマスターははじめて見ます」



「きゅう」





───────





 つっこみランク『達人』明日菜の「いい加減にしろ」つっこみを食らい、しぶしぶ橋の上に戻ってきた。


 俺は主に引っかき傷。
 幼女はほっぺがまっかっかだ。


 ちなみに明日菜はヤマタノオロチを見て『すごー』と怪獣映画を見たレベルの驚きだったようだ。
 幼女とは大違い。肝が据わっているね。使った本人でさえ驚いたってのに。
 てかそもそも「ヤマタノオロチってなに?」だったようだ。バカレッド恐るべし。
 それと茶々丸はアレを見て、一瞬処理能力を超え、思考停止におちいったらしい。エヴァ落下に間に合わなかったのはそれが原因だ。

 オコジョは知らん。
(ひでぇ!)


 ネギとか怪我人は『お医者さんカバン』や『すぐ傷を治す絆創膏』などの治療用未来道具を使ってさくっと治療。
 『お医者さんカバン』は医者と同じ事が出来る(宇宙からきた未知のウイルスを退治したり、人間以外でも未確認の動物の病気を治せる)
 『すぐ傷を治す絆創膏』は患部に貼ることで、骨折もあっという間に完治するというものだ。他にも傷を治す塗り薬など、色々ある。
 ……俺これで内科も外科もやれるなぁ。医師免許ないけど。
 ちなみに『万病薬』って必ず治癒出来るわけではないが、どんな病気にも効果のある薬もある。


 治療を済ませると、ネギが目を覚ました。


「はっ、エヴァンジェリンさん!?」
 飛び起きて、あたりをキョロキョロと見回す。
 そして、しゅんとなる。

「……僕、負けちゃったんですか」
「そうだ。お前は負けたのだ。だから血をよこせ!」
 ふふふふふふ。と笑いながら近寄る幼女。

「てい!」
 そんな脳天に背後からチョップ!!
「きゃふ!」

「つーか見てたぞ。ネギと最後の撃ちあい、負けたじゃん」
「だがその後私がとどめを刺した!」

「とどめとかそういうレベルじゃなく、たった10歳を侮って油断かつ力負けして全裸にされる600歳はまず恥を知るべきだと思う」

「なっ!?」

「俺ならその時点で負けを認めるね。むしろこれはネギの勝ちだね」
「そ、そうなんですか……?」

「そうそう」
 かなり強引に話を原作に戻そうと努力する俺様。
 いろんな矛盾は無視して勢いでそういう雰囲気に持っていけ俺!

「だからこの勝負ネギの勝ち!」
「勝手に決めるなー!」

「俺がネギの勝ちと言ったら勝ち! 俺に負けたんだからネギの勝ち」

「えっ!? エヴァンジェリンさんに勝ったんですか!?」

 あ、そーか。そういやずっとネギ気絶してたっけ。

「ああ。勝った。勝った俺がそう言っているんだ。だからネギの勝ちだ。つまりこいつはこの中で最弱!」

「きっ、貴様ぁぁぁぁ!」
「はっ。ただの幼女に興味はない。女社長か女医さんか司書さんがいたら俺のところへつれてきなさい!」
「そんなのここにいるか!」
「ならなおの事お前に用はない!!」


 ネギをほっぽって幼女の頭をつかみ、攻撃を回避する俺。
 俺に頭をつかまれ、手をぶんぶん振り回す幼女。


「いーかげんにしなさい!」

「ぎはま!」
「のつる!」
 ハリセンで幼女ごとつっこまれた。
 つっこみ少女ツインテやりおるわ。



「と、いうわけで、こいつに一瞬でも撃ち勝ったんだ。ちゃんと誇ってもいいと思うぞ」
 とりあえず、ネギの頭をなでた。
 つーか、ネギの目からすると完全一般人の俺が言っても説得力ないか?
 いやいや、俺一応幼女に勝ったから言う資格はある!


「……」
 そうしたら、なぜかじーっとネギに見られた。

「どした?」

「い、いえ。僕の尊敬している人に似てるなー。と思って」
「へー」
 たぶん、『サウザンドマスター』の事だろう。ネギの、父親か。そういや、俺の元々と同じかちょっと年上くらいの年齢なんだよな。ナギ。
 なのに、こんな出来た子がいるなんて……
 それなのに、三十路目前の俺ってば……


「ど、どうしたんですか?」

「いや。なんでもないヨ」
 不思議と、悲しくなっただけだヨ。


 どうでもいいけど、なでてポッとならず、お父さんみたいって、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからんね。
 どの道ネギは10歳だから当然俺の趣味の範囲外だがなー。


 いて。なぜか金髪幼女に蹴られた。
 なにすんだ。


「つか、俺が勝ったんだから、約束は守れよ」
 幼女に言う。
「約束ですか?」
 なぜかネギが聞き返してきた。
 だから……

「ああ。俺が勝ったらネギ先生の言う事を聞くようにって」
 適当言ってみた。

「ええっ!?」
 ネギ驚く。
「だから平然と出鱈目をならべるなー!」
 幼女憤慨。
「あれ? 間違ったかな?」

「正確には、彼が勝ったらマスターは彼にはかかわらず、平穏に生活させる事。です」
 茶々丸が訂正する。
「そうなんですか~」
 ほえーっと声を上げている子供先生。
 ホントこうして見るとただの子供だよな。

「ふん。約束は約束だ。もう貴様にちょっかいは出さん。安心するんだな」

「ん。ありがと」

「ちょっ、こら! 頭をなでるな!」

 ぐーりぐーりぐーり。
 ネギとは反対の手で、撫で回す。
 ……なんというか、すげーなでやすい位置にあるなこの頭達。





 ちなみにこの日、停電の夜には湖に巨大な影と謎の咆哮が聞こえる。という七不思議が生まれる事となった。





───超───





 キィン!

 また、時計が動いたネ。
 やはり、ワタシの知らない何かが起きてるヨ。





───???───





「……はてさて。彼は、なにものなんじゃ?」
 遠くから、この決闘を観察していた者が、そうつぶやいた。


 この学園は、魔法的にも特異な場所だ。
 ここには世界樹があり、魔力がとても集まりやすい。それゆえ、魔力が集まり、『妖怪』のようなモノも生まれやすいのだ(西洋風に言えば『悪霊』)
 他にも表に出せないようなお宝──例えば図書館島の蔵書など──を狙う賊もまれに侵入する。
 そういった表に出せない事柄から学園と、人々を守るため、結界が存在し、『妖怪』の発生を防いでいる。当然それでも発生するが、そうなった場合それを退治する警備員がこの学園にいるわけだ。
 なにが言いたいのかというと、停電で結界が失われた今日は、その『妖怪』モドキ(下手すると本物)が大量に発生しやすい。という事だ。

 だが、ヤマタノオロチが召喚された瞬間。学園内に進入していた他の召喚系存在、『妖怪』は、その存在によって自らを維持する事が出来ず、その場からすべて送還される事となった。
 場に出現した『ソレ』が強大すぎて、他の者が存在出来るだけの許容力が場から得られなくなったためだ。
 場を維持するために、世界が彼等を拒絶したのだ。
 もし、結界が存在している中で召喚されていたら、結界そのものが崩壊していたかもしれない。

 さらに、あの瞬間、オロチの召喚を目の当たりにしていなかった者は、それが召喚されたとは気づかなかっただろう。
 他の者は、自己を守るために、認識する事を拒絶したに違いない。
 自らの正気を、保つために。




 神話にのみ存在するはずの八ツ首龍。




 ゾッ。
 今、その存在を思い出しても、背筋が凍る。
 圧倒的な禍々しさ。猛々しいだけではすまない神気。




 神話級の獣。溜めこまれた世界樹の魔力を使用し、神器という触媒と、相応の儀式をもってしなければ、呼ぶ事すらも叶わぬ存在。

 それを、儀式も、触媒も、魔力もひと欠片として感じさせず、召喚する者。




 そんな存在が、この麻帆良にいたなど、聞いた事もない。



 そもそもそれは、『人』なのか?



「これは、調査してみる必要があるようじゃのう」


 ほっほっほっほっほと笑いながら、そのぬらりひょんはヒゲをなでるのだった。



「……これ、『???』 とする意味ないんじゃないかの?」






──────





 みんなねぐらへ帰る事になりました。


「それじゃあ、戻るな」
「はい。治療、ありがとうございました」
 幼女は茶々丸に乗って帰り、俺はネギ達と別れ、自分の寮へ帰った。



 彼と別れ、彼女達の部屋へと帰る途中。


「ところでネギ」
「なんですかアスナさん?」
「あの人、誰?」
「エヴァンジェリンさんのお友達ですよ。今日の放課後も仲くしていました」
「ふーん」
「エヴァンジェリンさんがあの人の上に馬乗りになって──」
「って、なによそれー!?」





 ……なんか、俺の背中に悪寒が走ったヨ。









─あとがき─
 主人公。自分のまいた種を自分で刈り取るの巻。
 そして再び新しい種をまいたの巻。


 自業自得。この言葉がこれほど似合う主人公も珍しい。


 しかしおかしいな。ラストはちゃんと原作と同じ予定になるはずだったのに。
 おかしいな。エヴァと彼はバリバリ敵対するつもりだったのに。
 おかしいな。


 もうインフレが原作を超えた気がするヨ。
 だがもう止まらないヨ!


 そうそう。このオロチ召喚で幽霊の相坂さよが影響を受けた事を心配する人もいるかもしれませんが、影響を受けたのは『召喚』された者なので、この学園に『自縛』している彼女には関係ありません。
 もし影響を受けていたとしても、何事もなく次の日目を覚ましていますので問題ありません。
 ひょっとするとさよを探すなんてネタになるかもですが、その際はこの文章は見なかった事に。
 ちなみにカモは召喚の時本能で反射的に目をつぶって耳をふさいでいたので影響なし。


 関係ないけど湖を覆う程度だとヤマタノオロチ本来のサイズよりまだ小さいですね。
 もしくは橋の架かる湖が半端なく大きいとか? この可能性は盲点だたアル。



[6617] ネギえもん ─第6話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2012/03/20 21:09
初出2009/03/05 以後修正

─第6話─




 今回はエヴァ編後始末。これにてエヴァンジェリン編完結。




──────






 無事エヴァンジェリン戦も終わり、その翌日。
 エヴァはその日ふてくされて学校休んだ。





───エヴァンジェリン───





 ベッドの中で、私は昨日の事を思い出した。


 たった一人でチャチャゼロを退け、私をも圧倒したあの男。

 正面から堂々と戦い、私を圧倒し、破ったという点ではあの『サウザンドマスター』にも出来なかった事だ。
 アイツはやらなかっただけかもしれんが。
 めんどくさいとかいう理由で。

 落とし穴ー。にんにくー。登校地獄ー。

 ……思い出しても腹立たしい。


 だが、昨日の事を思い出しても、不思議と腹は立たなかった。
 むしろ、すがすがしかった。

 ひょっとすると私は、ずっと願っていたのかもしれない。
 自分より強い者に、正面から戦い、倒されるという事を……
 自分より強い者に、私を裁いて欲しかったのかもしれない……



 ただ、約束してしまった。

 もう2度と、彼にはかかわらない事を……

 ……それが、なぜか、無性に悲しい。




 なぜなのだろう……?




 なんなんだろう。この気持ちは。





 そんな事を思いつつ、ベッドでグダグダ(モンモンと)していると。





「うーっす」

 奴が突然、私の家を襲撃してきた──
 ちょっ!

「き、貴様! もう係わり合いになりたくないとか言っておきながら、なんの用だ!」
「俺は付き添いだよ」

 ──ネギを連れて。


 むかっ。


「どうして授業に出てくれないんですかー」

「なんで私に負けた貴様の言う事を聞かねばならんのだ」
「そんなー!」

「まーまーネギ先生、今日くらいは許してやれよ。昨日俺にボコボコにされて今実は足腰立たないだけなんだから」

「そ、そうなんですか?」
「んなわけあるか!」

「もしくは俺の事を考えてモンモンしてベッドから起きられなかったとか?」

「なっ!? そ、そっちのがあるか!」
 ちょっ、なんでそれを!? モンモンはしてないぞ! モンモンは!


「まあいいや。ちょうど俺もお前にやり忘れた事があったからな。ネギ先生の頼みと一緒にしかたなーく来てやった。感謝しろよ」

「するか!」

 だから全然うれしくもない!
 ないんだからな!!


 ……忘れ物?

「……な、なにをする気だ? か、体なら許さんぞ!」
「誰がンな事望むか!」


 一瞬にして否定されてしまった。


「おいネギ。なんでお前もそっちに逃げる」
「え? いや、あはははは」
「そこのオコジョの入れ知恵か?」
「あは、あはははは」
 今度は小動物が乾いた笑いをあげた。


「ったく。そうじゃなくて、お前の嫌だと思った事をしたワビを入れていなかった事を思い出してな」

「は?」


 ま、まさか……


「つまり、呪いを解く道具を貸してやると言ってる」


「ほ、本当かー!?」

 思わず身を乗り出した。
 はっきり言って馬鹿にしたワビならば、破格といってもいいじゃないか!

 昨日のあの言葉は戦いの駆け引きかと思ったが、本気だったとは。
 少しだけ見直したぞ。


「ああ。ほれこれだ」

 奴が取り出したその『道具』に思わず飛びついた。


「おっと」

 ひょいっと目先からそれが消え、私は床に激突する。


「ぐぐぐぐぐ……」


「だが、一つ条件がある」
「なんだ! 呪いから開放されるならば、なんだろうか気にしないぞ! 金か? 魔道書か? 私か!?」


「ネギに『サウザンドマスター』の事を教えてやってくれ」

「なっ!?」


「本当は授業に出ろって言いに来たんだけど、呪いが解けたらそもそも学園からいなくなる可能性があるからな。だから授業に無理して出ろとは言わない。その代わりにだ」


 そりゃ、呪いが解けたら即効でこんな場所出て行ってやるが。


「これでいいかな? ネギ先生?」
 奴がネギに言う。


 それが、この小娘ためというのが少し気に入らん。


「え? え、あ、でも、どうして僕が『サウザンドマスター』について知りたいという事を?」

「それは秘密だ。ただ、子供が親に会いたいと思うのは、当然の事だろう?」


 親に会いたい。か。ふん。なにも知らないのだな。
 奴ならすでに。10年前、死んだよ。


「それとも迷惑だったかな?」
「い、いえ! あ、ありがとうございます! 」


「それに、こいつ案外優しいから卒業までいてくれるかもしれないしな」
「そうだと僕もうれしいです!」


 笑顔で私を見るな小娘僧ども。



「そ、それで、これどう使うんだ?」

 ネギの期待の視線に耐えられなくなった私は、ヤツの手にあるその『道具』を見る。


 ……なんだこれ。ただの、布? 風呂敷?
 いや、こいつの持ち物だ。
 こいつと同じく魔力などなく平然と『奇跡』を起こすのかもしれん。


「せかすなよ。一度使い方を見せてやるから。茶々丸さん。適当な種。あと鉢植えに土を入れて持ってきてください」

「……おい、なんで茶々丸だけに敬語なんだ?」

「敬うべき存在だから」

「敬うべき者ならむしろ私の方だろうが!」
「敬われたいなら敬われるほどの威厳を見せろこの幼女」
「貴様ー!!」


 こら、頭を抑えるな!
 この! このー!


「仲いいんですね~」

「もって来ました」
「ありがと」


 こ、こいつらぁぁぁ!



「あ、ネギ。悪いんだが、ここから先は企業秘密になるから、むこうで茶々丸さんと遊んでいてくれないか?」

 奴がそう言い、ネギと茶々丸は素直に一度階段を降りていった。



「とりあえず、確認してくれ。これ、なんでもない種と鉢植えだね?」
「ああ」


「はいそれではお立会い。この風呂敷。それをこの上に乗せてみます」

 やはり風呂敷だったのか。
 なんだ? 手品か?

「まあ、見てなさい」


 むく。むくむくむく。


「っ!?」

 なんだ? 風呂敷の下で、なにかがうごめいている!?


「そういえば、これなんの種なんだろ」

 知るか。


 むくむくむくむくむくー!

 風呂敷を押しのけ、向日葵が現れた。


「わぉ。向日葵だ」

「なんだ、急成長させただけじゃないか。この程度なら並の魔法使いでも出来るぞ」


 詠唱や魔力をまったく必要としないというのは驚異的だが。


「ま、本番はこれから。それでは、これをさかさまにしてかぶせますよ~」

「……ま、まさか!?」
「そのまさかで~す」


 そのまさかだと!?

 しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる~。

 まるで、時間を巻き戻すかのように、向日葵が鉢植えへと戻ってゆく。


 そして奴は土を掘り返し、また種を取り出した。

「大変よく出来ました~」



「バ、バカな……!」



「そ。正確に言えば、これは、成長させているわけじゃない。時間を進めたり、戻したりしているんだ。つまり、これを使えば、君の力が封印される前の状態にまで戻れるって事。その気になれば、人間にも戻れるよ」

「なっ……!?」


 絶句! も、もう、言葉も、出ん。
 こいつは、時を止めるだけではなく、進める、戻すまでこんなにお手軽感覚で出来るのか!
 な、なんなんだコイツは。どこまで、どこまで出鱈目なのだ!

 私が、人間にすら、戻れるだと!?



 ……だが、デメリットもすぐ気づく。
 そうも都合よくはいかない話のようだな。


「……一つ聞くぞ」

「はい、なんですか?」
 ……なんでいつの間にか先生みたいな格好になってるんだ貴様は。

「体が15年前に戻るという事は、記憶もか?」
「そういう可能性もありますね」

 あっさりと肯定したか。
 くそっ、この男!

「……それは、茶々丸の事も、忘れるという事か?」
「その可能性もありますね」
「……少し考えさせろ」
「はーい」



 肉体は元々不老不死だ。15年程度戻ってもなんの問題もない。


 ただ……


 ただ。



 ……茶々丸。


 馬鹿騒ぎする、クラスメイト……



 15年分の……





──────






 いきなりネギに呼ばれました。
 幼女がふてくされて授業をサボタージュしたそうです。


 知恵を貸してくださいと言われましたとです。


 ……ネギ君。いや幼女その2。確か原作だと君は人に頼る事を知らない少年だったと思うが、いきなり俺に頼るような幼女になるとはさすがに予想GUYだよ。
 まあ。人に頼らないってのは協力者が自分の生徒ばっかりだからってのもあるんだろうけど。そりゃ先生が自分の生徒に頼るのって字ズラだけで考えるとまずいよな。

 ネギの場合はそこに10歳という例外がくっつくんだけど。


 つか、合流した時オコジョとネギしかいなかったから、俺を誘ったのはオコジョあたりの入れ知恵かもしれんな。
 仮契約とかはOKOTOWARIだからな。

 でもまあ。なんとか原作の流れに持っていくためにも、最後のフォローくらいはしておかねばなるまい。
 よく覚えていないが、勝ったからこそ『サウザンドマスター』の情報を得られたはず。
 だが今回はネギが負けちゃってるから、幼女にその話を聞いておかなきゃならない。




 彼はそう考えているが、原作では次の日カフェテリアでばったり遭遇して、そこからの会話から話題として発展しただけであって、勝敗自体は大きく関係なさそうだったりする。

 


 ま、主役の君達との絡みもこれで最後。
 残念だが俺が手助けするのはここまでだ。修学旅行以降はモブ1になるのだ。


 わかったな!!


 願わくば『ネギま』との関わりはこれで終わりますように。





「いやー、しかし、ダンナはすごいっすね」
 幼女の家に向かう途中、オコジョが話しかけてきた。

「ちなみにネギと仮契約とかはお断りだぞ?」
「ぐっ、い、いや……」

 やっぱ考えてやがったか。

「それと、魔法の師匠とかも却下。そもそも俺は魔法使いじゃない」

「え? 魔法使いじゃないんですか?」

「で、でもよ、昨日の夜はすげーの召喚してたじゃねーか!」

「アレは他人に教えて出来るものじゃないし、他の事も人に教えられるものじゃない。今回は忘れ物があるからつきあうけど、次はもうない。俺は平穏に暮らしたいんだ」

「そっすか~」

 オコジョがっくり。
 ネギは実際にそれを見ていないから、そこまで俺に注目はしていないようだ。むしろ幼女をどうやったら授業に引っ張れるかを考えているらしい。


 ただ、ここでネギ側の話が聞けて、流れの確定情報が手に入ったのは助かった。
 昨日会った時は、ネギが女だって事実に脳がバーストして聞く事も聞けなかったし。
 どうやらネギが女である以外は俺の知る流れと一緒で、唯一違ったのが、俺が関わってしまった今回の敗北のみ。
 つまり、俺が関わらなければ変わらなかった。と。

 ……ごめんなぁ。これに関してはちゃんと最後までフォローするけん。



 そんなわけで、俺はネギと一緒に幼女の家にやってきた。



 入ったらすげー驚かれた。
 そりゃ、まあ、もうちょっかいかけるなと言った方から来たら驚くわなぁ。


 とりあえず、情報の餌として呪い解除の方法を提供する。


『タイム風呂敷』
 まあ、有名だから説明は不要だろ。
 これを使えば、力が封印される前に時間を戻す事も楽勝なわけで。

 ただ、さすがにこれを今、ネギには見せられないので退出させる。
 石化を解けるアイテムなんて流れ崩壊にもほどがある。
 これ以上俺のせいで剥離しないでくれ。

 石化解除ならお嬢様がいるからさ。



 ちなみにこの時、幸運にも、茶々丸を追い出す事にも成功したので、茶々丸の映像記録にも『タイム風呂敷』の事は残らない。珍しく彼の行動が彼に味方した瞬間であった。
 後々見せておけばよかったとなる可能性も否定は出来ないが。



 でも、俺は素直に彼女の呪いを解こうとは思っていない。
 だって呪い解けちゃったら、修学旅行での学園長との取引がなくなり、勝利がなくなっちゃうもん。



 『タイム風呂敷』の事を説明する。
 時間を進めたり戻したり~。


「体が15年前に戻るという事は、記憶もか?」

 うん。そこ疑問に思うよね。

「そういう可能性もありますね」
 しれっと言う。
 本当は記憶がそのままで、子供になったり大人になったり出来る。
 肉体の成長。という点を無視するなら、不老を可能にする道具でもあるのだ(記憶はそのままだから、体で覚えた事も忘れないのかもしれないが、実験していないので不明)
 だが、それは伝えない。

「……それは、茶々丸の事も、忘れるという事か?」
「その可能性もありますね」


 言わなければ、誰もが思いついてしまう、この可能性。


 たぶん。この子はこれで呪いを解かないだろう。原作を見ていた限り、なんとなく、そう思う。
 まあ、だからこそ、記憶は無事って事は秘密にしたんだが。

 このリスクがあるからこそ、彼女は、この方法で呪いを解かない。
 だから俺もこれを提示した。


 つかどーせそのうちネギが成長して呪いはとかれんだろ。
 だから俺は気にしなーい。
 俺の知ってる原作ではまだまだ実現しなさそうだったけど。


「……少し考えさせろ」
「はーい」


 計画通り。


 どこかの新世界の神っぽいイメージで。


 くくくくく。
 どうした幼女。たかだか15年の記憶だろう?
 屈辱の記憶だろう?
 一緒に捨ててしまえばよいではないか!
 ふはははは。



 なぜか枕をぶつけられた。
 声に出していたらしい。


 おかげで誰が使ってやるものか! と言われた。
 おかしい。なんか予定と違う気がする。



「誰が貴様の手など借りるか! 誰が『サウザンドマスター』の事など教えるか!」



 ……うん。良いですか皆さん。
 こうした、ちょっとした心の緩みが、大きな落とし穴となるんですよ。
 家の戸締り。ガスの元栓。勧誘電話。
 ちゃんと気をつけましょう。

 皆さんわかりましたね~。



 じゃねぇぇぇぇえ!!



「おいこら幼女。人が善意で提案してやったのにどっちも破るってのはどういう了見じゃコラ。それを使うか使わないかはお前の自由だが、『サウザンドマスター』の事は話してもらうぞ」

 あぁん?

「ふん。こんな不良品を渡すお前に問題がある。受け取り拒否なのだから当然だろうが」

 ごらぁ!


 俺と幼女でにらみ合う。


「というかなぜあの娘のためにお前がそんな事をする!」


 アホか! ここで京都の事を知らないと修学旅行編がはじまらねーだろうが!
 京都やめね。そーですね。ってなったらどうする!
 そんな事もわからんのか!


 とは口が裂けてもいえないが。


「ま、あれだ。せっかくネギが探しているんだ。協力くらいしてやってもいいだろ」

「……」
 あ、なんかじとーっと見られてる。
 ちょっと苦しかったかな。


(……なぜあんな小娘にそんな気を使うのだ。なんか、気に入らんぞ)

「ならば余計に言いたくなくなった!」



 くそ、このわがまま頑固幼女が!
 いっそ実力行使すんぞ。
 泣かすぞ。
 今完全に幼女なんだから素の俺にも負けるクセに。



 がるるるるるー。
 しばらくにらみ合うが、どちらも……というか幼女がひこうとしない。


 はー。仕方ない。
 ここは三十路直前である大人の俺がひいてやろう。


「わがままなやっちゃな。しかたない」

 と、俺は懐から一つの人形を取り出した。


『コピーロボット~』
 てけてれってて~。
 『コピーロボット』。鼻を押すと本人そっくりになるロボットの事です。


「なんだそれは?」
「俺にどうにかされるのが嫌だって言うわがまま幼女のために用意する代替え案だよ」

「ほう」
 俺が折れたからか、少しだけ機嫌が良くなったようだ。

 ったく手間のかかる幼女だ。


「もっとも、これがあるからって呪いが解けるわけじゃないし、どうなるんだかはわからないからな」
「どういう事だ?」


 確か、修学旅行の最後は呪いの精霊を勘違いさせる方法を取っていたはずだ。
 コピーロボを使い、それと似たような事。呪いの軽減くらいは出来るのでは?
 こんな感じの理由であとは自力でどうにかしろ。とうながしてみようと思う。


 実際出来る事を例えに出すんだから、餌にはなるだろ。

 本当に出来るのかはしらん。
 それっぽい事を言って情報を引き出すための方便だから。


「これを使って自力でどうにかしろって事だ」

 ぽいっと幼女に『コピーロボット』を放り投げ、使い方を説明する。

「鼻を押してみ?」
「こうか?」


 幼女が二人に増えました。


「なにいぃぃぃぃ!!?」
 本体と思われる方がすっげー驚いてる。

 そんなに大声上げんな。
 耳がキーンとするじゃないか。


「ど、どうしたんですか!?」
 幼女の悲鳴を聞き、茶々丸とネギ&肩にオコジョが部屋に駆け上がってきた。

「マスターが、二人?」
「えええええー!?」
 ネギも茶々丸も驚いてる。

「バ、バカな。私が、もう一人? しかも、そっくりそのままだと!?」


 めっちゃカオス。


「魔力とかどう?」
 俺が混乱する彼等を無視して一番聞きたかった事を聞く。
 どこまで再現されるのかなー。

「はい。オリジナルと同等の能力を持っています。なにかお見せいたしましょうか?」

 おぉ。さすが未来道具。すげー。
 あ、本体があんぐり口をあけてる。


「口調が一緒なら、見分けつかねーな」
 これはオコジョの言葉。

「なんなら見分けをつかなくしてやろうか? 小動物?」
「おおおおおー!?」
「冗談です」

 当然その気になれば同じになる。今そうしないのは混乱を最低限にする配慮か? 『コピーロボット』すげぇな。


「あ、あ……」
 あ、茶々丸が判別出来なくて本物見たりコピー見たりでおろおろしてる。茶々丸にも見分けつかないのか。ちょっと迷惑な道具だな。


「ちなみにオリジナルには逆らわないから。本体に成り代わるとかはないので安心しろ。ついでに解除しなければ変身しっぱなしだから」
 そう言い、『コピーロボット』を一度人形に戻す。

「あ、ああ……」

「お前確か『人形使い』とか呼ばれてたよな。それで呪いの身代わりとか作ってみたらどうだ?」
「むっ……」



 まあ。このくらいの餌があれば、今度こそ話してくれるだろ。



「ちなみにこれで拒否すれば実力行使もありえる」
「半分脅迫じゃないか!」

「もうワビのついでとか、そういうのめんどくさくなった。さっさとしゃべれ」


「……貴様は性格も『サウザンドマスター』に似ているな。憎たらしいところがそっくりだ」


「言っとくが別人だからな?」
「そんな事はわかってる!」
「ならいい」


「そんなわけだ。今度こそ話してもらうぞ」

「ちっ、しかたがないな」


 幼女がどっかりとベッドに腰をおろし、ネギの方へ向き直った。


「そもそもだ。探していると聞いたが、奴は10年前に死んだぞ」

「はい。皆そう言います。でも僕は、会ったことがあるんです」

「……なんだと?」

「6年前のあの雪の夜。僕は確かに、あの人に、会ったんです」


 その時にもらったのが今ネギが持ってるその杖なんだよな。確か。


「そんな、奴が、『サウザンドマスター』が生きているだと?」


 わー。幼女ちょっと涙ぐんでるよ。やっぱ好きな人が生きてるってのはうれしいんやろなー。


「でも、手がかりはこの杖の他にはなにひとつないんですけどね」


「京都だな」
「え?」

「京都に行ってみるといい。どこかに奴が一時期住んでいた家があるはずだ。奴の死が嘘だというなら、そこになにか手がかりがあるかもしれん」

「き、京都!? あの有名な、えーっと、どこでしたっけ。でも困ったな。休みも旅費もないし……」


 あ、なんかこのやりとり覚えがある。原作再現成功って奴か!?
 とりあえず、修学旅行で行き先の中に京都があったぞ。クラスの選択どうなってる? とか聞いたら、茶々丸が「京都です」とフォローしてくれて、ネギは飛び上がって喜んでいた。


 ふう。というわけで、無事『サウザンドマスター』情報をネギに引き渡す事に成功した。
 引き渡した場所が違う気がするけど、まあ平気だろ。


 未来道具でお父ちゃん探してやればいいだろ。とか思う人もいるかもだけど、それやるとその後の予定(原作)が滅茶苦茶になるので平穏を望む俺はやれない。
 というか基本的に俺が干渉しなけりゃ大きな被害もなく結果オーライで進むんだしさ。

 関わって今回みたいにネギ敗北とかなったら今度こそ取り返しつかないだろ。
 特に修学旅行編に関しては。

 だからヘタレとか腰抜けとか言われてもかまわないから、絶対に手は出さない。
 それで俺は平穏。ネギの物語も安泰なのだから文句なしだ。



「それじゃ、お礼にこれお前にやるよ」
 『コピーロボット』を金髪幼女に渡す。
 あんまり道具を人には渡したくないが、さすがにあげると言ってしまったし。



「あ、……ありがとう」

「ん? なんか言ったか?」

「な、なんでもない!!」


 今度はぬいぐるみを顔面に食らいました。
 俺なにかした?




 『コピーロボット』。

 どうせ、これがあってもどうしようもないと思ってたんだ。
 だって、作品最強である『サウザンドマスター』の呪いだよ。
 どうにか出来るワケがない。
 出来ちゃいけない。

 それに、この方法じゃ呪いは解けないし、上手くいって短時間なら学園の外へ出られるようになるくらいだろう。
 それくらいならいいよな。

 そのくらいの認識だったんだ。








 でもね。俺は、『人形使い』と呼ばれた真祖の吸血鬼をなめてたんだ。









 まさか、あんな事になるなんて……





──────





 その後適当にお茶して、解散となりました。
 お茶美味しかったです。


 あー、つっかれた。
 これでもう、学園祭までは確実に本編には関わらないで済むー。

 思いっきり伸びをする。


 ん? なんでそう断言できるかって?


 はっはっはー。だってウチのクラス、修学旅行は北海道に決まっているのだ!
 すでに決まっているこればっかりはさすがに、絶対どうがんばってもひっくり返る事はない。よって俺が修学旅行編に関わる事はない!
 北海道に行く俺が京都の方に関われるはずがないのだ!
 絶対にないのだ!!

 だからこうして原作との齟齬を埋める努力をしたのだ!

 俺みたいな異物がいなければ、あとは原作通りの流れとなるだろう。
 いやー。よかったよかった。

 そして学園祭は実質危険はない! この時期さえ潜り抜けてしまえば、俺はもう安泰! 完璧。完璧よ!




 あーっはっはっはっは。あーっはっはっはっはっはっは。





──────





 帰りの際。
 どんな気まぐれか幼女が茶々丸と一緒に扉のところまで俺達を送り出しに来た。


「ああそうだ。あれ使って授業を身代わりさせるなんてセコイ事すんなよ」

「誰がするか!」

「じゃあ、エヴァンジェリンさんがちゃんと出てきてくれるんですね!」
「出るか!!」
「えー」

「ネギ先生。ネギ先生が怖くて授業に出るのも怖いからこうやって言っているんだよ」

「そんなわけないだろうがー!」

「と、いうわけで、授業に出てこなかったら逃げたと馬鹿にしてやれ」

「ぐぐぐ、貴様~」
「なんだ幼女? 逃げ幼女?」


 なんというか、幼女反応が面白くてどうしてもおちょくってしまう。


「や、やめてください~」

 おちょくってったらおろおろしたネギに止められた。
 お茶の時からのパターンである。

 いい子や。ネギ先生。


 つーか原作でもあの後ってちゃんと授業出てたのかな。
 記憶にないからわからんね。

 というかこれからは俺の領分じゃないからしーらね。



 別れを告げ、去ろうとした時、幼女が俺に声をかけてきた。



「そうだ、最後に一つ聞いていいか?」

「なにかなー?」

「貴様は、何者だ?」
「は?」

「私と戦った時、お前は確かに私と同じ吸血鬼だった。だが、今は違う。今の貴様は明らかに人間だ。もう一度聞く。お前は、何者なのだ?」


「人間だけど?」

「そういう意味ではない」

「ただの一般人だけど?」

「まだ言うか……」

 幼女が怒りマークを浮かべとります。


 え? そういう意味じゃないの? じゃあ、どういう意味だ? アレか? 『人形使い』とか『闇の福音』とか『金色の戦士』とか『宇宙刑事』とかか?
 ならさすがに『一般人』とかはあの後じゃもうアレか。
 こうなったらもう空気を読みつつ開き直って厨ニ的な名乗りをするべきだな。


 俺を象徴するもの。それはこの未来道具。確か、全部で千種類以上入ってたはず。

 ……ん? 千?

 千。

 せん。か。


「そうだな。あえて言うなら、俺も『サウザンドマスター』だ」

 そう。俺のポケットには1000種以上の未来道具がある。『千の未来道具を持つ男』! ゆえに俺もこの名を名乗る資格がある!



「なっ、なにぃぃぃぃぃ!?」
「えええええええー!?」


 幼女二人がすッげー驚きやがった。

 耳がきーんとしたよ。


「ちなみに種族は人間な。吸血鬼化は弱点も吸血鬼になるからあんまりやりたくないのが本音だ」
 つーか幼女と違って俺の場合太陽も弱点になりそうだし。
 ちなみに『ヴァンパイアセット』の弱点とはその能力が使えなくなるだけで、灰になるとか苦しむとかはではないのでヨロシク。



 ……なんか返事が返ってこない。
 ちょっとしたジョークだったんだけど、なんかまた調子に乗りすぎたか?
 いや、だって丁度千種類の道具だし。すっげえ偶然だけど、ここまでくると名乗ってみたくならね?


「す……」
 畜生は無視。
「ひっでえ!」


 うん。OK。今のうちに撤退をしよう。


「それじゃ、俺は帰る。この話は忘れてくれ。じゃーなー」


 呆然とする幼女二人とオコジョを置いて、俺はすたこらさっさとその場から去る。
 茶々丸がお辞儀してくれた。

 あの子はいい子や。
 もう関わる事もないけどさ。



 お別れに響鬼のポーズでさようなら。しゅっ!





───エヴァンジェリン───





 ネギの小娘と私は、奴が去ってゆくのを呆然と見ているしかなかった。

 貴様は何度私を驚かせれば気が済むのだ。



 まさか、もう一人の『サウザンドマスター』を名乗るとは。



 その実力は『ヤマタノオロチ』などを召喚したのだから、納得するしかないが。


 しかし、わかればわかるほど、奴の存在がわからなくなる。


 あの『サウザンドマスター』クラスの事を成しながら、感じる力は一般人。
 ただの一般人にしか見えないのに、神話級の龍を召喚できる力を持つ。

 そういう意味では、トンでもない力を持ちながら、呪文は5、6個と言ったアイツと同じで出鱈目の塊だ。



 まったく、貴様は憎たらしいほど、あの『女』に似ているよ。
 実は血縁とかいう事はないだろうな?





───ネギ───





 今日もエヴァンジェリンさんが授業を休みました。
 聞いたところによると、またサボタージュのようです。

 どうにかしないと!
 と思っていたら、カモ君があの人に相談してみたらいいと言ってきました。


 僕は気絶していて見てはいなかったのだけど、あの人はあのエヴァンジェリンさんを軽くあしらったとんでもない実力者なんだそうです。


 一見するとただの一般人にしか見えないそうなんですが、エヴァンジェリンさんですら見破れない擬態をしていて、そこからもすごい実力者である事がわかるんだよアネさん!
 とカモ君が興奮してました。


 昨日エヴァンジェリンさんと仲良く話していた事もありますし、あの人なら、エヴァンジェリンさんを授業に出すための良い知恵を貸してくれるかもしれません。


 でも、エヴァンジェリンさんに会ったあの人は、僕の想像もしていなかった事を言い出しました。



「つまり、呪いを解く道具を貸してやると言ってる」

「その代わり、『サウザンドマスター』の事をネギに教えてやれ」


 ええええええー!?


 呪いを解けるというのも驚きだけど、『サウザンドマスター』の事を教えてくれなんて。確かに、呪いが解けたらエヴァンジェリンさん学園からいなくなっちゃうだろうけど……


 ……でも、どうして僕にそこまでしてくれるんですか?


 それは、僕が『サウザンドマスター』の娘だからですか?
 英雄の忘れ形見だからですか?



「子供が親に会いたいと思うのは当然の事だろう?」


 あの人の答えた理由は、とてもシンプルな理由。
 それは、とても簡単な答え……


 他の大人の人は、生きていると言っても信じてくれなかったのに。
 みんな、『サウザンドマスター』は死んだと言って、教えてくれなかったのに。
 この人は、話してもいないのに、僕の心を当然だと考えてくれている……?
 僕はそれを、信じていいですか?


「それとも迷惑だったかな?」
「い、いえ! あ、ありがとうございます! 」
 そうだよね。
 人の善意を無為にしちゃいけないよね!


 呪いを解く方法は詳しく教えてもらえなかったけど、エヴァンジェリンさんが二人になっていたのには驚きました。
 あれが呪いを解くための道具なのかな?


 その後、本当に教えてもらいました。
 京都です。
 京都に手がかりがあります。

 しかも、修学旅行の行き先が京都です。

 これはもう、運命と言うしかありません!!


 ただ、あの人の修学旅行の行き先は北海道でした。
 もし一緒ならうれしかったんですけど、残念です。

 なぜかその時エヴァンジェリンさんは笑ってました。


 その後お茶いただいて、解散となりました。


 帰る際、『分身』を作る人形を使って授業はサボってはいけませんと注意しようと考えてたら、その前にあの人に注意されてしまいました。

 でも、僕が注意するよりも効果がありそうです。

 ちゃんと明日から授業に出てくれるといいんだけど。
 封印が解けて、学園から自由になったとしても。



 最後の別れ際、エヴァンジェリンさんがあの人に、「何者か?」と問いかけていました。

 それは、僕も気になります!

 あの人は最初はぐらかしていましたけど、少し悩んでから、こう言いました。



「そうだな。あえて言うなら、俺も『サウザンドマスター』だ」



「なっ、なにぃぃぃぃぃ!?」
「えええええええー!?」




 衝撃の事実。としか言いようがありません。




 びっくりしている間に、あの人は去っていってしまいました。





 『サウザンドマスター』。僕の探している『母さん』と同じ称号。





 僕の生徒の皆さんと同じくらいの年にしか見えないのに。


 そんなに、すごい人だったなんて……



 ……あれ? でもあの人、自分は魔法使いじゃないって言ってなかったっけ。
 じゃあ、魔法以外の千?
 それとも、魔法使いじゃないという言葉が嘘?





 真偽の程は、わかりません。





 この事は忘れろと言われたけど、忘れられそうにありません。





 たぶん黙っておけという意味なので、僕の胸にしまっておこうと思います。







───エヴァンジェリン───





「……」
 私は、驚いていた。

「……まさか、本当に成功するとはな」

 確認するように、私は両の手を見る。


「ケケケケケ」
「チャチャゼロか」

 チャチャゼロがここの場に現れたという事。
 それは、これが本当に成功したという証明。


「体の方はどうだ?」
「アア、驚イタ事ニソノママクッツキヤガッタゼ」

 バラバラになったチャチャゼロの体は、断面(?)を合わせるとそのまま接合。機能を取り戻した。つけ直してみれば、完全な無傷。
 チャチャゼロの体は、壊されたのではなく、分解された。というのが正しい状態だったらしい。

 まったく、アイツのやる事は不可解でいかん。


「ソーダ御主人」
「なんだ?」

「クダラネー話ダガヨ」
 くだらないならするなと言いたいところだが、この従者が「くだらない」という事は、その逆の意味である事が多い。

「俺、アイツニ、バラバラニサレタンダケドナ」
「ああ」

「アイツ、ソノ時俺ニトドメ刺サネーデ、人ノ家族勝手ニ奪ッチャ駄目トカ言ッテタゼ」
「っ! なんだと?」

「殺ソウトシタ奴ニ向カッテヨ」
「……」

「アイツ、俺等ノ事知ッテイルハズナノニヨ」


 あいつは初見で、私の名を平然と言い放った。
 つまり、私が元600万ドルの賞金首であった事を知っているはずだ。
 私が何者で、なにをしてきたか知っているはずだ。

 それなのにあいつは、そんな事を言ったのか。
 チャチャゼロを、私の、家族。と。


 ……私の、家族、か。


「……」
 そして、この呪いの件。
 ひょっとして、あの布もなにか他に意味があったのか?

「なんなのだろうな、あいつは」
「シラネー」


 本当に腹の立つ男だ。
 これほど私を腹立たせたのは、あの女。ネギの母親であり、奴と同じ『サウザンドマスター』だけだ。
 しかし、ナギと同じく、とても興味深い。
 ……だが、もう奴と会う事もない。


 ちょっかいは出さないと、約束してしまったから。



「マアイイヤ。調子ハドーヨ?」

「……悪くないな」

 奴からもらった、私そっくりと成る存在。いわゆる『分身』を作る分類不明の道具(魔法の道具なのか、アーティファクトなのかすらわからない)

 私は奴の言ったとおり、それを呪いの精霊に私と誤認させ、私の『分身』に呪いを肩代わりさせる事に成功した。
 あまりにも、あっさりと。拍子抜けするほどに。それほど『それ』は、私そっくりだったのだ。

 これにより、『分身』がきちんと学園にいるならば、私は学園の外に出る事も、魔力を使う事も可能となったのだ。

 ただし、その魔力は本来よりもだいぶ制限しなければならない。
 一定以上の魔力を持ってしまうと、呪いが『分身』に騙されず、本体である私を再び捕らえてしまうからだ。呪いの方もそこまで無能ではないわけだ。
 まあ、この制限は腹立たしいが、全然使えなかった今までよりはマシだろう。

 それでも並の魔法使いなどには負けないがな。強さのクラスで言えばAほどは楽にある。

 もっとも学園内では逆に魔力を隠さねばならないが。私が自由に動けるようになったという事は当然秘密なのだ。
 監視されるのもまっぴらだからな。


 だが、魔力の制限など今は大きな問題ではない。
 『分身』に雑務をすべて任せれば、私自身は学園の外へ出られるのだ。

 再び自由を手に入れたのだ!

 これほど、うれしい事はない!!


 さて。どうしてくれよう。
 この自由の身で、どうしてくれよう!


 だが、そこで、ぴたりと止まってしまう。


 ……困った。外に出られるようになったからといってなにをすればいいのかさっぱりわからなかったのだ。

 あまりに唐突すぎて、やりたい事が思い浮かばない。


 とりあえず、ナギの足跡でも探してみるか。


 だとすれば、私も京都へ行って奴の情報を集めてもいいだろう。
 だが、当然3-Aとして修学旅行へはいけない。

 となると、単身で京都へ行かねばならなくなる。


 行くのはいい。
 飛んでゆけばいいのだからな。

 問題は、ナギの住んでいた住居の正確な位置がわからない。という事だ。

 しかも京都は魔都であり、関西呪術協会の膝元でもある。魔法を使って派手には動けない。
 となると、移動は公共の交通手段などを使わねばならないが、15年間学園に引きこもっていた私は、切符の買い方などがさっぱりわからないときている(地名も変わっているところもあるだろうし)

 茶々丸が使えれば、そのような事問題もないが、この場合茶々丸を連れていけるわけもない。
 ちっ、こんな事ならなんでも茶々丸任せにせず、覚えておけばよかったよ。



 どうしたものか……



「アイツ誘ッテ案内シテモラエバイージャネーカ」

「っ、ばっ! あ、アイツは、あいつは……」


 確かにアイツはこの事情をすべて理解している、私の唯一の協力者となれる存在だ。

 だが、あいつと約束をした。
 私はもう、あいつにちょっかいをかけないと。

 約束してしまった。


「破ッチマエバイーダロ」
「約束を違えるのは私のプライドが許さん」


 『悪い魔法使い』だからこそな。


「ンジャ、シャーネエナ。カワリニ俺ガ遊ンデ来ルカ」


 そりゃ貴様はちょっかいをださないと約束などしていな……


「それだー!!」
「ハ?」


 それだ! 面白い余興と、さらに些細な復讐にもなる!

 これだけの魔力が回復すれば、問題なくやれるだろう。




「ふふふふふふ。ふはは。はーっはっはっはっはっはっは」



「イ、イッタイナンナンダヨ」





──────





 あれから数日。
 平穏な日々が続いていた。

 もう俺はご機嫌である。


 あの戦いの次の日は、幼女とねんごろになったとか噂が新しく広まっていて、さらにひどい状況になりかけたが、俺の努力もあって、少しずつ誤解は解けてきている。
 避けるクラスメイトへ、めげずに声をかけたかいがあったというものだ。

 そろそろ修学旅行だし、班行動なので、どうしても彼等のどこかに俺が入らなければならない。
 俺が入って子供達に嫌な思いをさせるのはちょっと遠慮したかったので、その努力も実ってきてうれしい限りだ。
 ちなみに修学旅行をサボるとかも考えたが、ここでも両親への配慮によって却下となった。そもそも俺と級友の関係が良好なら問題ないのだから。


 今日は、挨拶を返してくれる子も増えた。


 幼女の件でどこかから呼び出しをくらう様子もない。

 ふー。最初はどうなるかと思ったが、幼女の一件が終わってから、俺にもやっと運が向いてきたようだぜ。


 これからはずっと俺のためのターン!














 ……そう思っていた時期が、俺にもありました。







「えー、まず最初に。修学旅行の行き先ですが」

 担任が、入ってきたとたんそう口を開いた。

「このクラスの行き先は、皆さんの希望通り、無事京都へ変更となりました」


「なにぃぃぃぃぃ!?」


 俺思わず絶叫。


「はーい」
 クラスメイトは全員素直に返事。

 ええええええー!?
 なんだそれ!? 昨日まで行き先は北海道だったろ! てか驚いたの俺だけ!? なんでみんないきなりOKなの!? なにこれ!? なんのドッキリ!?


「それと、こんな時期ですが、転校生を紹介します」

 俺の絶叫をさっくり無視して、担任は話を進める。
 完全に俺無視ですかあぁぁぁー!


 さすがにこっちはクラスメイトもざわついた。
 おかげで俺も少し冷静になる。
 しかし、この時期に転校生とは、随分中途半端な時期だな。
 ……この時期に転校できるって事は、案外本気で転校考えれば、転校できたのか?


 とか考えたが、そういうのは入ってきた転校生のおかげで全部吹っ飛んだ。



「エド・マグダエルです。皆さんよろしくお願いします」


 どこかで見た事のある金髪美男子がそこにいた。
 面影があるどころじゃない。
 長い金髪に、あの幼女を思わせるパーツ。あの挑発的な笑み。
 なにより、俺に目をあわせて、声は出さずに俺を呼びやがった。


「ちょっ! おま!」
 思わず立ち上がる。


「あら、知り合い?」
「はい。先日少し」
 エドと呼ばれた、明らかに中身幼女のアイツが担任に答える。

「あらそう。知り合いなら、エド君のお世話お願いね」


「……あんぐり」


 ……まさか、本気で呪いの身代わりを作って、魔力取り戻しやがったのかよ。成功したのかよ。
 ほんの少しの時間とかじゃなくて、完全に独立して動けるようになってんのかよ。
 原作じゃ学園長死ぬほど苦労してなかったか? それなのにこっちは平気なのかよ?
 すげぇな幼女。
 おじさん、予想外だよ。


 でもそれで、男装(幻術なんだろうが)して転校してくるとか、ねーよ。
 なんだよその本体そのままの長い髪。男でそれねーだろ。漫画でしか見た事ねーよ。お前はどこの漫画の登場人物だ。
 あ、『ネギま』か。


 俺、呆然。当然呆然。
 奴、俺の隣に着席。


「よく一発で見破った」
「いや、そんだけヒントがあればいくらなんでも気づくだろ……」
 俺はもう、うめくしか出来ない。
 ニヤニヤすんな。


(……しかしまさか、ひと目で幻術を見破られるとは。こいつほどでもないが、このまま学園長のじじいに会っても見破られないほど擬態には自信があったのだが。やはりこの男、伊達に『サウザンドマスター』を名乗っただけはないな)


「てめーもう俺には関わらないって言ったじゃねーか」
「知らんな。私はエドであり、お前の約束した美しく、たおやかな淑女の事などまったく知らん」

 屁理屈だぞそれ!

「つまり、行き先を京都に変更したり、それをクラスメイトが不思議に思わなかったのはお前のせいというわけか」
「さてな」


 しれっと答えやがって。
 そういやお前催眠術とか使えたな。それでか?


「3-Aの方はどうしたんだよ」
「ちゃんと通っているさ。呪われている『私』がな」


 コピーは通わせんなって言っただろうが!
 ごめんよネギ先生。今そっちに行ってるのコピーだわ。


「恩を仇で返しやがって……」

「貴様の方こそ呪いを解けるとか言ってまるで役に立たん手段だったではないか」

 あぁん?

「ちゃんと解けるだろ。呪いは」

 ごらぁ!

 デコがぶつかり合うくらいの距離でにらみ合う。


「本音は嫌がらせだろ? 嫌がらせなんだろ?」

「当たり前だ。私をあそこまでコケにしてただで済ますはずがないだろうが」


 うわ、すっげーいい笑顔。

 嫌がらせですかそうですか。
 『コピーロボット』あげた恩をそのまま仇で返しますか。さすがですね悪の魔法使い。
 そんなに俺が嫌いですか。そうですか。

 あとで泣かす! 絶対泣かす!! 覚えとけ!


 とうとうデコ激突。
 ごつごつ。


「ふふふふふふ」
「ふふふふふふ」



「せんせー。二人の笑いが怪しいでーす」


「無視して授業はじめますよー」
「はーい」








 えーっと、つまりこれで、また原作に齟齬が生まれたわけですね。

 また俺の余計な事で、余計な心配が生まれたわけですね。

 とりあえず、幼女はそう簡単に正体を他に現せないわけだから、原作に関わりそうにないのが救いかな。
 呪いが解けていないから、修学旅行ラストは問題ないと思うけど。

 ただ、俺が京都に行く事になったのがネックだけどね。
 つーか、生身で京都行けるようになったから、俺への嫌がらせもかねてここに来たんだろうね。
 幼女この先京都行けるなんて知らないだろうから。
 なんつー迷惑。



 まあ、どの道ネギに迷惑はかけないようにしないと……
 修学旅行編は負けられない戦いだからなぁ。
 下手すりゃ死んじゃうし。絶対関わりたくもねぇ。





 はぁ。これで関わりなくなったと思ったのに。










 せんせー。俺、平穏な生活が欲しいでーす。










 ──MU☆RI★DA☆NE!!









 ……久しぶりに天の声が聞こえた。













─あとがき─

 彼の自業自得生活は、まだはじまったばかりだ!!

 第一章完! という感じで、主人公が何者なのかが明かされてみたりしました。

 千の未来道具を持つ男で『サウザンドマスター』。もうやっちまった感バリバリですね。こうして調子に乗って大変な目にあうというのに。

 この男、後悔はしても反省はしない。本当に駄目な男だとおじさん思うヨ。
 そしておじさんは反省も後悔もしないからバランス取れてるヨ。


 あと、皆様すでにご理解のほどとは思いますが、彼はナギの事を男と思ってます。
 だって『ネギま』原作じゃそうだから!


 ちなみに未来道具ことドラえもんのヒミツ道具は総数約2000個ほどあるらしい。



 本編とは関係ないけど思いついたネタ。というかタイトル

 『とある科学の秘密道具』

 ……イける!!




[6617] ネギえもん ─第7話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/03/09 21:50
初出2009/03/09 以後修正

─第7話─




 修学旅行準備編その1。新たなる出会い。




──────





 ……とりあえず。まさか俺の二人部屋一人在住がこんな伏線になっていたとは、正直予測していなかったヨ。


「ふん。狭い部屋だな」

「だったら自分の家に帰れ」

「ったく。なんだ。飲み物くらい用意していないのか」

「勝手に冷蔵庫開けないでください」

「なんだ、いかがわしい本とかないのか」

 それはポケットの中にしまってあります。

「殺風景な部屋だな」

「それはお前の従者が暴れまわったせいだ」
 本当はもっとボロボロだったんだぞ。『復元光線』で直さなきゃ家具がないレベルで。
 まあ。持ち運べる物はポケットに放りこんである。というのもあるけど。

「ふん。知るか!」


 冷蔵庫を開け、ベッドの下の本を探し、部屋に文句をつけた金髪の美少年。
 今日、俺のクラスに転校してきた転校生。



「今日から私の住む部屋に、文句をつけてなにが悪いというんだ」



 うん。転校生のエド・マグダエルと名乗った、魔法で男に変装した幼女が、俺のルームメイトになったんだ。




 こんなの予測できるかあぁぁぁぁあ!!



 ふー。いやいや。ちょっと待て。
 とりあえず頭を冷やそう。

 こんな時こそビークール。格言にあるじゃないか。KOOLになれって。


 現状でも確認しながら、頭を冷やそう。
 冷静に。冷静に。な?



 まず。


 幼女こと真祖の吸血鬼に『コピーロボット』を渡しました。
 ネギに『サウザンドマスター』の情報を聞かせるためです(『タイム風呂敷』は失敗)
 いくらなんでもそれでどうにかなるなんて思ってはいなかったのが本音です。

 そしたら幼女、見事呪いの身代わりを立てる事に成功。
 彼女は『コピーロボット』にほとんどの呪いをおっかぶせて、ロボが学業していれば自由に学園の外に出られるようになったし、ある程度の魔力も取り戻しました。


 なので、俺に復讐するため。俺に嫌がらせするため、俺のクラスに転入して、しかも俺の住んでいる男子寮にも入寮してきました。

 名前はエド・マグダエル。お前隠す気ないだろって感じな偽名です。


 俺への嫌がらせのためにここまでしやがりました。



 現状確認終了。



 ……ありえん。

 『自由になった』から『なので』のつながりが理解できません。

 幼女よ。そこまで俺が嫌いなのか。
 そこまでやるのかお前は。
 そこまで俺が嫌いか!
 俺もお前なんてきらいだ!


 大体自由になったんだからコピーを置いて一人で旅立てばいいじゃねーか!
 いや、旅立たれても修学旅行編困るが。
 すっげー困るが。

 いやむしろコピーが原作再現してくれるかもしれんが。
 それならそれでいいが確定してくれないと俺の心が持ちませんが!



 ……あとで絶対この幼女泣かそうと思います。



「いちいちうるさい奴だな。さすがに夜寝る時は帰るさ。こんな狭いところで貴様なんぞと寝ていられるか」

「ならさっさと帰れ。なんなら俺が送り返すぞ」
 『どこでもドア』とかで。

「その点は無用だ。このあたりでいいな」


 ……うん。簡単に言うと、こいつ俺の部屋と自分の家を『ゲート』とかいうのでつなごうとしやがった。


 ちょっ、やめ!
 俺の部屋にそういう事するな!
 誰が感知するわからねーだろ!


「ふん。バレるようなまねはしない」

 そうかもしれないけどよー。

 いや、ちょっと待て。
 俺様の頭に一つのプランがきらめいた!


「なら、ちょっと待て。お前の家でいいんだな?」

「……なにをする気だ?」

「いいから見てろ」


『ワープペン~』
 てけれてってて~。

 好きな場所の名前を言いながら壁面などに円を描くと、『どこでもドア』と同じようにその場所と行き来出来るようになる。
 一見するとただの落書きのようだが、小さな円なら手を突っ込んで品物のやりとりなどをすることができるし、大きな円なら人がくぐってその場所へ行き来することもできる。

 なにより魔力を使ってないから魔法使いにはまずバレないハズ!


「また、出鱈目な物を……」
 説明を聞いた幼女があきれているが無視。


 これを使って、幼女の家と俺の部屋をつなぐ。ちなみに出入り口はポスター。不要な時は片づけておけるし、いざとなったら侵入不可能にしやすいから。

 ふふ。真の目的が一番最後の幼女宅からの無断侵入を防ぐため。とは奴も思うまい。


「これは便利だな。はがれないようにちゃんと固定しておかねばなるまい」


 バレテーラー。


「ちっ」
「貴様の考えなどお見通しだ」

 観念したのでおとなしく空間をつなぐ。魔法とか使って入ってくんなよ。来るならこれ使えよ。来る時はノックしろよ。

「きゅきゅっと完成。そんなわけだ。さ、帰れ。そして二度と来るな」
「うわ、腹の立つ笑顔だ」


 お前だって同じ笑顔を教室でしてたよ。


 しぶしぶながらも、幼女。いや、今は幼女じゃない。ええいややこしい。中身幼女をポスターに押しこもうとする。


「ああ、そうだ」
「なんだよ」

「明日エド用の物を買いに行く。つきあえ」

 ぴきっ。
 なんかむかつく。


「お子様だから荷物持ちに案内役に保護者が必要なんですね。わかります」

 ぴきっ。
 相手も同だ。


「ふん。ありがたく思えよ。この私をエスコートできるなんて、100年に一人いるかどうかだ」


 他に見物している者がいたら、この瞬間周囲の空気がゆがんでいるようにも見えただろう。


「ま、しゃーないな」
 だが、俺はその空気をあっさりと放棄する。

「む?」
 怒りの空気が霧散したからか、拍子抜けしたような表情をエドは見せる。


「その姿じゃ茶々丸さん連れて行くわけにも行かないだろうし、魔法も使うわけにもいかないんだろ? せっかく外に出られるようになったんだもんな。案内くらいはしてやるよ。よろこべ?」

 本音は喧嘩はしたくありません。許してください吸血鬼様。なんだが。魔力が戻ったこいつに不意打ちなんてされたらひとたまりもありませんよ。


「なっ!? ば、馬鹿! このバーカ!」

 なんか知らないが、馬鹿呼ばわりされました。
 さっさと引っ込んでいきました。

 引っ込んだ後、待ち合わせ場所と書かれた紙がこっちに放り込まれてきました。



「……なんやねん」



 ホントに幼女の考えはようわからんわ~。






 ……あ、誤って誰か入ってしまわないようにクリアケースかぶせとこ(パカパカ開くように上だけ固定)





──────





 ……なんでだ?

 一応だが、ルームメイトであるはずなのに。

 一応だが、直通の通路が作ってあるはずなのに。



 なんで、わざわざ外に出て、他の場所で待ち合わせなんてしているんでしょうね。



 面倒なので直接迎えに行こうとしたら向こう側の入り口をバリケードでふさがれてましたよ。

「ココハ通行止メダゼ」
 ってチャチャゼロに言われた。


 なんでやん。


 『どこでもドア』とかで襲撃かけてもいいけど、大人げないから、素直に待ち合わせの場所で待っている事にしましたヨ。

 機嫌を損ねるのが怖いわけじゃないからね! 幼女の事を立ててやっただけだからね!

 勘違いしないでよ!




 ……




 うん。まあ、予想通り、遅刻ですねあの中身幼女。



 やっぱりいつか泣かすしかないね。
 俺心優しい(ヘタレ)からやらないけど。





 突然だが。彼が『本気』で彼女と関わらないようにしたいのなら、それはすでに実現が可能だろう。
 だが、すでに何度か関わってしまい、少し彼女に対し情が出てきている。
 それにより、彼が『本気』の手段をとりにくくなっているのである。
 これは、育ててもらった覚えもない両親を敬っている事と同じ。
 『ネギま』という物語と無関係ならば、悲劇を背負った彼女に対し、もっと親身になっていただろう。

 結局、関わりはじめたら、見捨てる事は出来ないのだ。
 つまり彼はそんな損する性格なのであった。





 あの遅刻中身幼女を待っていると、ガラの悪い数人の男が、嫌がる女の子を路地裏に連れこむのが見えた。

 ……なんか、漫画でしか見た事ないような状況を発見しましたヨ。



 分析かーいし!



 女の子は原作キャラ。というかネギのクラスの子じゃない。
 見た感じモブ!
 つまり、原作と関係のない子!

 しかし、意外とかわいかった。
 なにより、原作キャラじゃなかった!!

 大事な事なので、2回言いました。


 なら、遠慮なく助けに行こう。
 『ネギま』ストーリーと関係ないなら、ハッスルできるしな。
 一般人相手ならば、助けて、ひょっとすると、LOVEなんかが目覚めちゃったりしちゃったりして!


 ポケットから一本の黒いベルト。『ブラックベルト』を取り出し、気合を入れてベルトの上からまく。
 ちなみにベルトは出したシャツに隠れるから見えないのでヨロシクだ。



 そして、路地に入っていった。



「数人で女の子囲むなんて恥ずかしいと思わないか?」

「んだとテメェ! ヒーロー気取りかよ!」

「さあ。ここは俺に任せて、君は逃げなさい」
「は、はい! すぐに、助けを呼んできますから!!」

「あ、テメェ! いきなりなにしやがんだ!」

「ふっ、クズが吼えよるわ」


 2度目だけど、相手が弱いと思うと、俺、強気になるんだ。


 ガラの悪い男達は全員がいっせいに襲い掛かってきた。
 その数はなんと1ダース!!


 ……いすぎだろ。



 うおー。ちょっとこえー。だが、信じているぜ未来道具!

『ブラックベルト』
 こいつは身につけると柔道の達人になれるベルトだ。ただし、触れたもの全員をぶん投げてしまう欠点付きだが。
 つまりは、投げたくない人には触れなければいいだけの話。
 少女はすでに逃がした。よってここにいる彼等は、全部ぶん投げOK!




 俺は、一瞬で全員を投げ飛ばした。




 身近にいたものをそのまま投げ。
 殴ってきたものはその腕をつかんで。
 蹴ってきたものはその足をつかんで。
 同時に来てもなんのその。
 俺に触れようとするものはすべてをその威力そのままに投げ飛ばす。

 俺に触れようとしたものすべてが、俺に触れる前に投げられ、すっ飛んでゆく。

 ナイフを取り出した奴なんてもうセガールばりに激しく投げ飛ばしたよ。
 ぐるんぐるん回ってたよ。

 ちなみに触れられても投げるから、拳が俺に当たった瞬間相手が吹っ飛んでるなんて事もある。俺ノーダメージ。
 崩れた体勢からも、平然と投げるとかとんでもないよ。







 一陣の風が吹いて、立っているのは俺一人。






 お……


 俺。



 俺TUEEEEEEE!




 背中を激しく打ちつけ、悶える男達。
 なにが起きたのかもわからず、マトモに息も出来ず、激しく苦しそう。
 全員しばらくは動く事も出来ないようだ。


 そんなにおびえたような目で見るなよ。
 俺が強いんじゃない。未来道具がスゲェんだぜ!!


「相手が悪かったな。これに懲りたら大人しくしていろよ」
 去る時のポーズは響鬼のポーズ! しゅっ!


 長くいて顔を覚えられても困るしね。

 さっさとスタコラサッサだぜ。



 しかしすげーなこの『ブラックベルト』。もうなんというか、柔道というかスーパー柔道って感じ。
 殴ろうとした相手の力そのまま利用して放り投げるとかさ。本当にこれ柔道か? むしろ合気とか投げ技版セガールと言っても差し支えない。
 絶対設計思想間違ってる。



 まいっか。



 さーて、ベルトをはずして……はずして……あれ? 気合入れてきつく結びすぎたかな。



「あっちです!」

 おや、どうやら助けたお嬢さんが駆け寄ってきているようだヨ。
 でも駄目だよお嬢さん。今の俺に飛びついたりしたらぶん投げちまう。もうちょーっと待ってなヨ。



「お願いします。助けてください!」
「「「おう!!」」」


 ……は?

 なんか、すげー野太い男達の声が聞こえたよ。しかもたくさん。
 ふとベルトに注目するのをやめて、そっちを見る。




 そこには……




 なんかすげーごつい男達が100人くらい走ってきているのが見えました。


 ちょっ! 知ってる! こいつら知ってるヨ!!



 カンフー少女と100人抜きされる男達だよぉー!?



「女性を助けるために単身残った少年を助けるのだー!」

 ああ。そっか。俺を助けに来てくれたのね。
 本当に助けを呼んで来てくれたのね。


 男津波には驚いたけど、俺への援軍なのね。



「あ……」

 あ、少女が俺に気づいた。
 うん。そうね。あんなに人数いたのに、こんな短時間で倒してるとは思わないよね。

 もう大丈夫さー。そう思い、手を上げるんだけど……


「まずはお前からだぁぁぁあ!」



「ちょっ! まぁ!?」


 一刻を争う事態に、見張りのごとく裏路地前に立っていた俺。
 ゴロツッキーの仲間と勘違いされたようです。


 問答無用で襲い掛かってきやがりました。







 101人バトルマニアが現れた!






 まてぇぇぇぇぇぇぇ!!!






───クーフェイ───





 アイヤー。

 すごい人がいたものアル。

 人が紙ふぶきのように吹き飛んでいくアルヨ。

 瞬く間に、人数が半分になたネ。


「くそっ! こんなに強いのにいたいけな少女を手篭めにしようとは、なんという不届きな奴!」
「待っていろ路地裏のしょうねーん!」
「なんでこんなシロートにいぃぃぃぃ!!」


 シロート。いや、違うネ。
 ワザと隙を見せているだけアル。

 そこを攻撃させて、その力で投げる。

 投げ方も綺麗で、しばらく息が出来なくて動けなくなるだけで、実質ダメージのない優しい投げネ。
 受身を取らせないところは辛辣アルが。
 柔術や合気に似てるアルが、ベースは柔道アルカ?

 よくわからないアルネ。



 でも、一つだけいえるネ。


 この人、強いアル!





 ワタシはこの人に勝負を挑んだヨ!




「フェイ部長だ! フェイ部長直々に出てきたぞ!」




 ワタシ以外の全員が彼の周りから去り、ワタシが彼の前に立つ。



 正面に立ってみると、よくわかたアル。

 立つ姿は本当に隙だらけすぎるアル。
 本当にシロートにしか見えないアルよ。


 少しでも武道を学んだものなら、即攻撃したくなるほど隙だらけ。

 これが呼び水となってみんな飛びこんだアルな。


 でも、どこへ打ちこんでもそれが当たる気がしないネ。


 カウンターを効率よく行うには理想的な姿アル。


 参たネ。攻め口が見当たらないヨ。



 警戒していたら、あっちの方から動いてきたアル。

 しまたアル。



 今までずっと受けに徹していたから、攻めてくる事は意識から外していたヨ。





──────





 毎度毎度毎度毎度毎度!!


 なんでこうなるんだ。どうしてこうなるんだぁぁぁぁぁ!!!


 押し寄せてくる漢(おとこ)達の津波を次々と空へ放り投げながら俺は思う。


 俺はただ、女の子を助けただけなのに!
 そりゃちょっとは下心はあったよ。

 でも、そのご褒美に男の子100人プレゼントとかはねーだろうがよぉ!



 なにこの100倍返し! 倍は倍でもどんなレベルの倍返しだー!!



 つーか一人相手に100人とかで囲むんじゃねー!!
 俺を無視して俺を助けに行けよ!
 全員で来るなよ!

 いや、100人相手に戦えてるから囲むのか?
 強い奴に向かって行くのがバトルマニアってやつですか?


 くそっ、助けた少女はどうにかして止めようと男達の後ろでなにか言っているようだけど、こいつらまったく聞いてねえ。


 お前等頭に血が上りすぎだ。


 どうにかして、一度こいつ等を静かにしないと。
 そうすれば、少女の話をこいつらも聞いてくれるだろう!


 そんな事を考えつつ、来るものを放り投げていたら(つか『ブラックベルト』の恩恵で体が勝手に動くからね)




「ヤアァァァァ!!!」


 そんな声と共に、一人の少女が飛び蹴りで突撃してきたあるヨ。




「アナタ、強いアルネ。一つ勝負アルよ!」



 げっ……


 よりにもよって原作キャラ登場。
 原作キャラじゃないから助けたのにそれが呼び水ってなんやねん。



「フェイ部長だ! フェイ部長直々に出てきたぞ!」

「わあぁぁぁぁぁぁぁ!」


 しかも歓声がすげぇ。
 もう真打登場って感じですよ。
 俺様圧倒的悪役って感じですよ。


 だが、今がチャンスかもしれない。

 さっきのように男達が問答無用に襲い掛かって来ているわけじゃない。
 全員が俺とカンフー少女に注目をしている。

 ここで、誤解を一気に解く!!
 今がチャンスだ!



 そう周囲を観察し、考え、俺は行動へ移した!


「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 両手を広げ。突然妙な構えをはじめる。
 例えるならば、キグナスの星座を描くような動き!



 カンフー少女も俺のいきなりの動きに戸惑っているようだ。



 勝ったな。俺は心の中で確信し、跳躍した。



「跳んだ!?」

 ギャラリーがさらに驚く。


 カンフー少女も俺を迎撃するために構える!


 だが、俺は相手の目前に着地!
 両膝を地面につけ、そのまま腕を振り下ろす!











「まっいりましたぁぁぁぁ!!」








 でたぁぁぁぁ!
 オレサマーさんのジャンピング土下座だぁー!











 この時俺は、生身で時を止める事に、成功した。










 これで見事相手側の戦意を喪失させる事に成功。
 助けたお嬢さんの話もやっと聞いてもらえ、俺も無事解放。


 ふう。危機は去った。
 俺の心の色々なナニカも去っていったが。



 だが、誤解は解けた!!



 こうして、ギャラリーも襲撃してきた男達も、助けた女の子も、去ってゆきました。
 さすがに「ごめんなさい」や「ありがとうございました」とかはちゃんと言われたよ。


 でもみんなさ、そんな俺を生暖かく見ないで。
 そそくさと去らないで。
 ほら、一応俺、自分の中じゃ勝者だから……


 おかしいな。丸く治めたはずなのに、なぜか心は晴れないよ。




「大丈夫アルか?」


 ……なんでこのカンフー娘はまだいるんでしょう?


「大丈夫大丈夫。大丈夫だからもうあっち行きなさい?」

「うん。わかたアル!」

「よーし。わかってくれたか」

「それじゃあ改めて勝負アル!」

「するかぁぁぁぁぁぁ!!」


 あんな情けない姿見せたのになんでさ!


「しないアルか?」

「しないアル。そもそも俺用事があるの」

「仕方ないアルね!」

「ああ」

「その用事につきあった後戦ってもらうアル!」


「だからそういう事じゃなあぁぁぁぁぁい!」





「おい」

 背後から声をかけられました。
 ……なんかこれ、3回目だね。


「なんで貴様は待ち合わせの場所にいないで、そんなところで遊んでいるんだ?」


 これにはな。深そうで深くないわけがあるんだ。


「つーか、まさか見ていなかった。なんてオチはないだろうな?」

「ああ。残念だが見ていた。無様だな」

「うるせえ」


「誰アルかこの人?」


 ……こういう遭遇って平気なのかな。まあ、正体がばれなければ、きっと平気だろ。


「ああ。俺のルームメイトでね。ついでに転校生。彼の日常品の買い物が今日の用事」


「そうアルか~」


「……どーやらお前の正体には気づかないみたいだな」
 小声で耳打ち。
「当たり前だ。じじい(学園長)にさえ気づかれん自信があるぞ」

「そうなのか。そりゃすげえ。安心した」
「……」
「どした?」
「いや、なんでもない」
(……お前は自分のすごさに気づいていないのか、それともそれは演技なのか)



 当然偶然なのだが、それは彼女も気づかない。



「どしたネ?」

「なんでもないアルよ」
 聞こえても困るので、この話題はここまでにしておこう。失礼な言い方だが、バカの勘はバカに出来ないからね。


「というわけで、もう行かなきゃならないから、これでお別れな?」

「わかたアル! 荷物持ちなら任せるアルネ! そしたら戦うアルよ!」

「いや、だから……」


 戦わねーって。
 なんのために俺土下座をしたと思ってんのよ。


「つか、俺君より弱いんだけど。確実に」

「そんな事ないネ。ワタシ騙されないアル! それに無益な戦いを収めるためにああいう行動は中々出来ないアルよ。むしろあのまま戦っていたら後味悪かたネ。今度は心おきなく戦えるアル!」



 ……そうですか。あの土下座は逆効果でしたか。


 いて。なんで中身幼女が蹴ってきますか?

 なんでそんな不機嫌な顔してますか?

 そりゃ買い物で案内するって言ってまだ出発できないんじゃ不機嫌にもなるかもしれないけどさ。俺だけのせいじゃないんだぜ?

 つかお前が遅刻したのが悪いんだろうが。


「おい。いい加減にしろ。こんなくだらない事をしている場合ではないだろう」
「くだらなくはないアルよ!」


 なんか、びしっと電撃が二人の間に走ったように見えましたよ。


「ほう、私に喧嘩を売る気か?」
「アナタも強いアルネ。負けないアルよ!」

「いい度胸だ」


 なにこのにらみ合い。


 ざわざわ。


 なんかまたギャラリーが集まってきてるぅ!
 今度は修羅場とか言われてるぅ!



 新しい噂のネタは男の子をふくめた三角関係ですかそうですか。




 って、オマエラァァァァァ!!




 このままここで二人が戦いかねなかったので間に入って仲裁に入りました。




 カンフー少女とは後で一回戦うと約束し、中身幼女の背中を押してさっさと撤退。




「まあ、男を選んだわ」
「ウホ、いいガチホモ」



 ……あれ? なんかデジャブを覚えるよ。
 なにこれ。
 なにこの目から変な汁出るフラグ。





 この後、昼と夕食となぜか幼女用の服を奢らされました。
 というかエド用の買い物した覚えなかとです。





 当然次の日から再びクラスのみんなから距離を取られるようになりました。
 中身幼女のエドが普通に話しかけてくるのが逆に致命的であります。







 めでたしめでたし。








 そろそろ言っていいかな。
 全然めでたくねぇんだよおぉぉぉ!!








 ピコーン。

『まほら武道会参加フラグが立ちました』




─あとがき─

 今回は修学旅行までのつなぎの話。
 この出会いはわざわざここでやらんでも。と思った人は術中にはまっている!
 ……といいな。

 どこか2話に似ている展開。
 一度回復したと思ったらまた失墜する。
 それが彼!


 エヴァンジェリンがエヴァンジェリン(大)とかで来ると期待した人は残念だったなぁ!
 案外やってきたけどあの騒ぎを見て変身しなおした可能性あるけどさ。



[6617] ネギえもん ─第8話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/03/11 21:41
初出 2009/03/11 以後修正

─第8話─




 修学旅行準備編その2。『宇宙刑事』、爆現!




──────





 やあ。俺だよ俺。そう。俺俺。

 今俺、事故っちゃってさ。
 示談金としてちょっと金が必要なんだ。

 だから、今から銀行に金を振り込んで欲しいんだ。

 お前しか頼る奴がいないんだよ。

 頼むよ!!



「……てな事言われて、ホントに金を振り込みに行こうとするお前ありえない」
「う、うるさい!」


 そんな事を俺と中身幼女外見名称エドは銀行のATM前で話しております。
 いわゆるアレです。俺俺詐欺。正式名称振り込め詐欺。


「俺が通りかからなかったら振り込んでたとかマジありえない」
「こういうハイテクは苦手なんだ! しかたがないだろう!」


 そうですね。こうしてお年寄りは引っかかっていくんですね。
 詐欺じゃないんですか? って話聞かないお年寄りを相手にする銀行員の人マジで乙。
 つーかハイテク関係ねえ。


 ちなみに奴が電話を受けたのは寮の部屋電。

 どうやら俺が外出しているところに侵入して電話を勝手に受けたらしい。


「勝手に入るなよ」
「私の部屋でもあるんだぞ」

「マジありえない」
「うるさい!」



「テメーら静かにしろー!」
「きゃー!」



 俺達以外の客が、頭を抱えてうずくまった。
 あ、修正。俺も頭は抱えた。



「そんな事より、むしろ今の状況のが、なんで?」
「それこそ私の知った事ではない」


 うん。今丁度銀行強盗に人質にされてるんだ。
 他のお客さんと共に。

 なんでここ日本なのにマシンガンとか持ってんの? さすが元々は漫画の世界。
 ぶっちゃけさっきのきゃっきゃうふふな会話は現実逃避でありました。
 あはは☆



 ……もう色々ありえん。






 くいくいと、すそを引かれた。

 振り向くとそこには半デコちゃんがいました。


「あれ? なんでここに?」

「いえ、このかお嬢様が事故を起したと電話があり……」



 君もかあぁぁぁぁぁぁ!!!



「いいから静かにしろー!」


 俺達人質のいる天井がどががっと撃たれましたよ。
 人質とって立てこもるとか、状況が漫画過ぎる。ありえないよホント。

 でもこうして巻きこまれているんだから困るよなぁ。


「おい」
 とりあえず、人間相手にはすでに楽勝である中身幼女へ聞いてみる。
 耳元でひそひそと。

「無理だ。桜咲刹那がいる。私がなにかすればバレる可能性は150パーセントだ。一回気づかれてさらに気づかれるくらいの意味でだ」

 どこのヨハネスブルグの例えだ。
 つかお前なんでそのネタ知ってんだよ。


「ちっ」
「むしろお前がやればいいだろうが。時を止めれば誰にも気づかれずにやれるだろう?」

 うん。そうなんだけど。


 問題は、ここに半デコちゃんがいるという事かな。
 俺、人と関わっちゃなんねえと彼女に言ってあるからね。それで俺が解決とか、おかしな話じゃん?

 というか、どちらかというと、期待されている気が……
 ほら、視線的にさ、なんか微妙に、活躍を期待する感じの。


 いやでもだから無理。とか否定すると、半デコちゃんが無茶しそうだし……



 一瞬で、強盗全員を。しかも俺とバレず、半デコちゃんには『宇宙刑事』として……


 ……嫌なヴィジョンが浮かんだ。


 いわゆる、『変身』をして正体がばれないからOKとか言えば、万事解決。
 これなら他の人にばれないという事で、半デコちゃんも納得の展開&期待に答える事が出来る。

 ただし、俺(の心)が、死ぬ。


「おら、車はまだかって言ってんだー!」
 外に向かって銃を乱射する銀行強盗。


「ちっ、うるさい奴等だ」


 つか幼女の方も抑えが効かなくなってきてるー。



 しかたない。俺が、俺が泥をかぶろう。


「しかたがない。俺がなんとかしよう」
「え?」
「ほう」


 半デコちゃんと中身幼女が俺を見た。


 床に落ちていたボールペンとレシートを手に取り、きゅきゅっと一筆。

 そしてポケットから一つのベルトを取り出し、人質の中から立ち上がる。


 人質達の視線が集まる前に……





「装着!」





 そんな声が、銀行内に響いた。






───桜咲刹那───





 『宇宙刑事』キタァァァァァ!!





───エヴァンジェリン───





 変態が現れた!!



 ぶふはっ!!
 私は思わず噴出した。






「ジャスティスボンバー!」



 直後私は爆発した。





──────





 俺、爆現!!



 装着の言葉と共に、俺は変身した。



『きめ技スーツ』
 ベルトの形をした道具。これを腰にはめ「装着!」と言うと、ヒーローに変身できる。
 紙に技名をペンで書いてベルトに入れ、その技の名前を言うとその技が発動する。


 これはヒーローになるというより、必殺技を使うための道具だ。装備して得られるものはヒーローの姿と、必殺技のみ。
 だが、必殺技があれば十分!
 こいつで、銀行強盗を瞬殺してくれる!


 まあ、ちゃんと保険でバリア系の防御手段は用意しておくけど。



「待てい貴様等!」

 片手をあげ、銀行強盗へ声をかける。


「だれだてめぇは!」

「通りすがりの、『宇宙刑事(笑)』だ」


 ちなみにヘルメットの下には涙が滂沱のごとく流れているヨ。
 半デコちゃんのきらきらした目が俺に突き刺さっているヨ。


「人質を取っての銀行強盗とは、断じて許しがたし! よって即必殺!!」
 俺は問答無用でスーツ付属の剣を振り下ろした。


「ちょっ!」
 大した口上もなしにいきなり武器を振りかぶった俺に驚く強盗達。
 そもそも目の前に赤い宇宙刑事が出てきたら呆然ともするよね。





「ジャスティスボンバー!」




 ちゅどーん!





『ジャスティスボンバー』
 俺がさっき作った必殺技。効果:悪人は爆発と共に車田飛びで吹っ飛びます。





 銀行強盗全員が車田飛びで吹っ飛んだ!






 ……一緒に中身幼女も吹っ飛んでました。





「あ……」




 ……『悪人』と設定したから、自称悪の魔法使いも一緒に吹っ飛びましたわ。
 あ、銀行員の一人も吹っ飛んでる。
 


「きゅう」

 強盗と同じく幼女も気絶したぁぁぁぁぁ!!
 幻が解けないところが真祖の吸血鬼としての面目を保っているといったところか。




 ……あ、後が、後が怖いです安西先生。




『諦めなさい。そこで人生終了ですよ』




 やすにし先生いぃぃぃぃ!!



 俺の脳内安西先生はぽっちゃり系とは思えない速度で逃げてった。





 後の事は後で考えよう(現実逃避)





 呆然とする人質を尻目に、俺は一言。





「ふっ、悪は滅びた。それでは皆さん。ジャスティスオサラバ!」

 俺の作った必殺技その2。『ジャスティスオサラバ』。
 観衆の見ていない場所へ移動し、変身を解除出来る。正体を守るための技。


 この場合は人質達の背後に登場したのさ。


 『宇宙刑事』が消えてびっくりしている人質を尻目に変身を解き、俺は半デコちゃんに近づく。変身幼女も抱きかかえてくれているから、丁度いい。


「エドを支えてくれてありがとう」

「ひゃっ!」
 いきなり現れたからか、驚かせてしまった。

「ああ、すまない」



 この後警察が突入してきて、床に倒れている犯人達を、首をひねりつつも確保。



 そのゴタゴタの間に中身幼女を担いで脱出。
 事情聴取とか面倒ごめんですからね。
 特に中身幼女に関しては。
 ……なんで俺がこんなフォローを。
 あ、俺が気絶させたからですね。そうですね。





──────





 数ブロック離れ、ほっと一息。


「あの……」


 はわっ!

 振り向くと、半デコちゃんがいました。



「よかったんですか?」

「え? なにが?」

「その、銀行強盗へ……」

「ああ、平気平気。さっきのように変身していれば問題はない。君の場合はこの姿のままだったからな」

「そうなんですか! それは、よかった」


 うん。そういうわけだから。安心してね。
 変身したのはむしろ『俺』って周囲の人にバレないためでもあるけどさ。


「と、ところで!」

「はい?」

「あの……その……」

 ちらちらと、俺のベルトバックルあたりを見ている。



 あー、そういう事か。


 変身道具が欲しいのだね。
 それで、姿を隠して、お嬢様を守りたいわけだね。


 確か、修学旅行編ではネギと一緒にお嬢様の護衛をするんだっけ。
 そこで、彼等。いや、彼女達かここだと。と、仲良くなるんだよな。

 となると、これでそれを与えると、明らかに原作とは違う展開が待っている。


 このかがサルにさらわれた時颯爽と現れる変身刹那。
 シネマ村でサムライ剣士から変身する刹那。
 スクナのところで変身しつつ翼を出して跳ぶ刹那。
 全部裏方に徹しつつ表に出るときは変身している刹那。


 ……それはそれでちょっと見たいかもしれないが、俺見に行くわけじゃないからどうでもいいや。

 つかそういう冒険嫌。ひさしぶりに言うけど俺はヘタレだから、安全確実が一番なの。
 原作の流れそのままサイコー。
 ヘタレ関係ないという話は聞こえない。

 慎重になるのは幼女の時道具渡して失敗したからなんだがネ!(コピーロボの件)


 よって、君に変身道具などを渡すわけにはいかない!
 仮面などかぶらず、仲良くしたまえ!


 よってそのような希望は諦めてもらおうか!



「一つ聞こう」

「はい?」
 突然、語りだした俺に、びっくりした半デコちゃん。


「ヒーローはなぜ、変身するかわかるかい?」

「自らの正体を隠すため。でしょうか?」


 いきなりの質問なのに、よく答えてくれた。そして、反射的にその答えが出たという事は、それが君の持つ変身のイメージなのだね。


「うん。それも答えの一つだね。だが、本当はそうじゃない。ヒーローの変身とは、その正体が知られる事によって、身近な人が狙われてしまう事を防ぐためでもあるのだ」


「っ!」


「つまり、変身とは自分の身を守るためにするんじゃない。自分の身近な人を守るためにするものなのだ!」

「ガーン!!」


 ふっ、どうやら、俺の言いたい事は、伝わったようだ。

 ちなみに俺は、描写的にはリングサイドのコーナーに置かれたいすに座って真っ白状態です。


 もうね。自分の言ってる事そのまま自分にイテエェェェェ!


 勘弁してください。


 自分の正体は自分のために隠してます。全然他人のためなんじゃないです。


 言ってる自分に一番響く口撃ってなんぞこれえぇぇぇぇぇぇ!


 なんだこれ。言った事がそのまま自分にもダメージ入るって、これなんて自爆技?



「君はどうだ?」
「……」

「君は、身近な者を守るために、変身を望むのか? それとも、自分の身を守るために、変身したいのか?」

 心の痛みを抑えながらも、俺は続ける。こう言うとちょっとかっこいい。少し癒された気がする。


「……」


「もし後者ならば、君に必要なのは、道具としての変身ではない」


「……え?」


「なぜなら君は、すでに『変身』しているからだ。自分自身の身を、守るために」


「っ!?」


 これは、展開を知っているから言える言葉。
 それゆえ、彼女を諦めさせるにはもっとも有効。
 本当の姿を隠しているのを知っているから出来る断言だ。


「変身している者に、変身する道具を与えるわけにはいかない」

「……」

「そして、君に必要なのは、その真逆。あとは、言わなくてもわかるね?」

「……」
 少女は、もう、なにも答える事は出来ないようだ。



 ぐふぅ!
 また俺は心の中で血を噴出す。
 イメージ的には口と目から血を流してる。白目向いてな!
 言った事が全部自分に当てはまる。
 彼女を説得するたびに自分にダメージが入る。手に負えねーぜ。



「俺の話になるが、正体を、明かしてもいい人間は、いる」


 少女は、はっとして、顔を上げた。


「それは、信じられる、仲間」


 そう。ネギ先生とか神楽坂明日菜とか。お嬢様もそうだね。
 確か、修学旅行中誰かに見せたくない翼を見せたはず。
 それが出来たから、彼女達との距離が縮まったはずだ。
 このくらいのアドバイス(?)なら問題ないはず!


 つーか、俺にも正体明かせる事の出来る人いねーかなー。


「俺の場合(宇宙刑事)で言うなら、君。君には、いるかい? そういう仲間が」


「わ、わたしは……私には……」


「今思いつかなくてもいい。でも、いつか思い出してみるといい。本当に守りたいものが、なんなのかを。その時君は、はじめて本当の『変身』が出来る」


「……」


「君がなにを望んでいるのか、俺にはわからない。ただ、その時勇気が出せるよう、俺は君を見守っていよう。勇気が足りないと感じたら、空を見るんだ。最初に目に入った光。それが俺だ」


 そう、天を指差す。


 少女も釣られ、空を見た。


 もし、こんなので本当に勇気が出るのなら安いもんだけどな。


「それじゃ、俺はもう行くよ。また、迷子を見つけたりしたら、教えてくれ」


「はい」


 中身幼女を担ぎ、俺は半デコちゃんの前から姿を消す。



 ふー。適当な話だったが、どうやらごまかせたようだぜ。
 地獄のような心の痛みだった。
 この心の痛み、インフェルノペインと名づけよう。



 つーか、そのまま流れどおりに話が進めばなんとかなるから。
 恐れずに進めばいいよ!

 俺の犠牲は無駄にしないように、原作通り進むといいよ!





───刹那───





 ……あの人は、私がなにを望んでいるのか、すべてを見通したかのように、語りはじめました。

 変身するのは、自らを守るためではなく、身近な人を守るため。
 自分が傷つく事を恐れるのではなく、他者を傷つかないようにするため。


 そして、すでに変身しているものに、変身はあたえられない……


 あの人は、気づいている。


 そして、必要なのが、なんなのかも、知っている……



 私に、足りないのは、勇気……



 でも、駄目です。



 私は、あなたのようなヒーローにはなれません。




 このちゃん……





───エヴァンジェリン───





 今私は、奴の背中にいる。不覚ながら、奴の攻撃で少しの間気絶していたのだ。
 なんなのだあの理不尽な衝撃は。私の魔法障壁など関係なく私を吹っ飛ばすとは。なんだあの飛び方。おかしいだろ。理不尽だろ!


 ……


 桜咲刹那と奴の会話は、ある程度聞いていた。
 自分の身を守る以外に姿を変えるなど、馬鹿な話だ。
 身を守るために姿を変えるのは当然の話だ。


「仮面を被ってでも近くで守りたいとは、いじらしいじゃないか。くれてやってもよかっただろう?」


「やっぱり起きてたのか」
「ふん」

 そういえば、修学旅行中、桜咲刹那はあのネギの小娘と共に関西呪術協会への親書を守る任務を与えられていたな。


「言ったろ。自分の姿を隠すための変身なら、道具は必要ないって。大体姿を隠したいなら覆面でも被ればいいんだ」


「まったくだ。だが、貴様の期待する桜咲刹那は、貴様の言った事など出来んよ。あいつは私とよく似ている。だから、よくわかる」


 そう。よくわかる。
 自分と同じように、生まれの不幸を背負った存在。
 それゆえ、誰にも受け入れてもらえないと、確信している存在。


「そうかな? 俺は信じてるよ。あの子がちゃんと、変身出来る事を」


 だが、この男は断言する。


「そんな事はない。勇気を出したところで、受け入れてもらえる事などはない。それがわかっているから、奴はその一歩を踏み出す事など出来ない」


「半分人間じゃないとか関係ないさ」

「っ!?」

 こいつ、知っているのか。
 知っていて、そう言っているのか!?


「すでに受け入れられているんだよ。彼女も、君も、気づこうとしていないだけなんだ。見ようとしていないだけなんだよ」


 どこまで知っていて、それを言っているんだ!?

 そういえば、コイツは私を倒したあの夜。私を600歳と言ったな。私の正確な年齢など、知る者などいないはずなのに。なぜあの時気づかなかった。

 ……こいつ、私の事も、どこまで知っているんだ!?


「そこを見る事が、彼女には必要なのさ。勇気を出すって事さ」


「……貴様に、貴様になにがわかる!」


 今は、あの桜咲刹那の事を話しているはずなのに、私はまるで、自分の事のように叫んでしまった。


「わかるよ。大丈夫。あの子には、ネギがいる。近衛このかがいる。神楽坂明日菜がいる。桜咲刹那は、自分を受け入れてくれる世界が身近にある事を、受け入れる勇気がまだないだけなんだ」


 なぜお前は、そこまで確信できるのだ。


「彼女はその一歩を踏み出すだけ。勇気を出せば、あとは受け入れてもらえるのに」


 だから、仮面は邪魔だというわけか。


「……ふん」


 あの娘には、受け入れてくれる者が存在する。か……

 確かにそれならば、奴の言う変身は出来るかもしれないな。
 それに、私とは違い、異形であったとしても、そいつ等と共に生きて行けるだろうからな。

 私と違い、置いて先に逝ってしまうなんて事もないだろう。



 ……ああ。


 ああ、そうか。私は、受け入れてもらえる奴が、うらやましいのか……



 自分には、出来ない事を実現できる、あの娘が……


 それはそうだ。
 あの娘と違い、私の手は、血に汚れている。


 受け入れてもらえるはずなどない。


 経緯はどうであれ、私は悪の……


「そんな事はないよ」


「え?」


 まるで、私の心を読んだかのように、奴の声が響いた。


「君も望めば、手に入るよ。共に生きられる世界をね」


 それは、なぜかとてもとても、優しい声だった。


「……」

「だから、勇気を出して、一歩踏み出してみればいい。受け入れられている事を、受け入れてみるといい」


「無理だ……」


 そうだ。無理だ。今まで生きて、受け入れてくれるものなど、誰もいない! 誰も、いなかった! 共にあったのは、チャチャゼロのみ! 私は、どこまで行っても、いつも一人だった!!
 あのナギでさえ、結局は私を置いて、どこかへ行ってしまったんだぞ!



「ま、そう簡単には無理だよな。なに、いざとなったら、俺がどうにかしてやるよ」


 男は、その言葉を、何事もないかのように、言った。
 まるで、当然であるかのように、言った。





 それは、彼にしてみれば、『タイム風呂敷』で人間に戻してやるとか、どうせ彼女の悩みは『ネギま』の主人公であるネギがどうにかするだろうとか、そういう深い考えあっての言葉ではなかった。

 だが、彼女にしてみれば……





 ……それは、お前は、私と共に歩んでくれるという事なのか?

 お前は、私を受け入れてくれるという事なのか?



 お前が、与えてくれるとでもいうのか……?



 私は、この世界に、なにかを期待しても、いいのだろうか?



「……ふん。くだらん」

「うおっ、いきなり会話の根本を叩き壊す一言を叩きつけやがった!」

「それよりも、さっきはよくもやってくれたな!」

「いきなりそれを持ち出すか」

「正体を隠すための仮装はまだいい! だが、私まで攻撃するとはやってくれる!」

「いや、あれ、やられる条件があるんだが、お前もそれに当てはまっただけだ。なにか心当たりあるだろ?」


「……」
 お前を変態だと笑った事だろうか。


「ないな!」


「その一瞬生まれた間を問い詰めたい。小一時間くらい問い詰めたい」

「うるさい! うるさいうるさいうるさーい!」

「ええい、背中で暴れるんじゃねー! つーか目を覚ましたんなら降りろ!」

「断る!」



 とりあえず、もう少し貴様の背中にいさせろ。


「ったく」


 奴も、無理に私を降ろそうとはしない。






 ……人の背中はやはり、温かいな。






 私は、いつまで、この温もりを、感じていられるのだろうか……










 さあ、次は修学旅行です。




─あとがき─

 ついに『宇宙刑事』本格的に爆現。

 もう一回宇宙人だそうかと思ったけど自重。

 そのせいか後半がなんとなくシリアスなのは気のせいだと思いたい。


 それと、「仮面を被ってでも近くで……」というのがエヴァ自身にも当てはまっている事に気づいていない彼女でした。
 しかし、今回刹那の話のはずだったのに、いつの間にかエヴァに対して完全に詰んできたような気がするのは気のせいだろうか。


 ちなみに背負われているエヴァンジェリンの姿はエドの姿なので、ご注意を。
 あと当てるほどねーんでそれを言うのは幼女を悲しませる事となるからな!



[6617] ネギえもん ─第9話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/03/13 21:42
初出 2009/03/13 以後修正

─第9話─




 ついに修学旅行編突入。




──────





 修学旅行出発数日前。





───学園長───




 学園長。近衛近右衛門は、一つの報告書を読んでいた。


 『彼』の調査書である。


 神話級の龍。『ヤマタノオロチ』をたった一人で召喚した者。

 一体どれほどの者かと思ったが、結果は、ただの『一般人』以外ありえないという答えだった。

 なにをどう調べても、ただの中学3年生。生まれも育ちもただの少年。
 魔力もなければ、気も使えないただの少年。

 根も葉もない噂──何人もの女性を泣かせたや100人の不良を倒した──があるが、調べてみればそのような事実もなく、授業態度は良好。成績も普通。ただし、現在はその噂のせいでクラスでは少々浮き気味。
 それを除けば、たんなる中学3年生の少年。

 唯一不審な所があるとすれば、現在『記憶喪失』である点だけ。

 だが、この記憶喪失の理由。痛ましい事だが、なぜこうなってしまったのかは、納得がいく。
 現在のひどい噂も、これの余波である可能性もある。
 むしろそのような噂や事態におちいっても学校を休まない強さを見ると、好感を覚えたくなる子であった。


 100人の者が調べても、100人が一般人と断言するほどの『一般人』。ただの、中学生。



 しかし、一方で彼が『記憶喪失』として発見された時の日付は、記憶があった。
 桜咲刹那君が、報告した正体不明の存在。

 誰もが一蹴したあの報告。


 今ならば、あの報告が事実だったと理解できる。
 今ならば、確信する。
 彼女が見た存在は、彼だったのだ。


 ここから考えられる仮説は、いくつかある。

 あの日、彼は、別の『彼』に入れ替わっていた可能性もある。
 前世の記憶が蘇ったという可能性もあるだろう。
 元々力を隠していたという可能性もある。
 ひょっとすると、その日とは全然関係ないのかもしれない。
 ただ桜咲刹那を助けただけなのかもしれない。


 様々な可能性が思い浮かぶが、そのどれも、証拠は皆無。


 ただわかるのは、彼が人知を超えた力を有しているという事。
 得体の知れない何者かが、この麻帆良に入りこんでいるという事実。


 だが、自分は確信していても、これでは駄目だ。
 誰も信じられない事。それは真実でも、事実ではないのだ。



 彼は一般人。
 これは、彼の本当の力を見ていない者への事実。


 完全なる隠蔽。なんという擬態能力。


 自分もあの日、あの時、彼がわざわざエヴァンジェリンの場所へ現れ、その実力を示さねば彼という存在に気づかなかったであろう。

 しかもそれを知れたのは、当事者達以外では自分のみ。
 他の者は、自らの正気を保つため、あの事実を、認識すらさせてもらえなかった。


 ただ、彼がエヴァンジェリンと戦ったのは、彼女が彼の平穏を脅かしたからだ。という。
 彼女によれば、こちらから手を出さねば、無害なのだそうだ。
 彼は、平穏に生活する事を望んでいる。
 その平穏を乱すものには、容赦はしない。


 すなわち、あの時わざわざ『ヤマタノオロチ』を召喚したのは、ワシが見ている事を察知し、警告の意味をこめてだったのかもしれない。


 自らに手を出すとこうなるという事を、学園最強ともいえる真祖の吸血鬼を倒す事によって宣言したとも言える。


 あの『闇の福音』をメッセンジャー代わりにするとは、なんと大胆な事か。


 だがしかし、それをはいそうですか。と受け入れるわけにはいかない。
 それはあまりに無法だからだ。
 力があれば、なにをしても良い。それを認めてしまう事になるからだ。


 仮に、平穏が本心としても、違うにしても、こちらから接触する事は慎重を期さねばならない。


 藪をつついて龍が出てくる可能性がある以上は。


 だが、先延ばしにして、事態を悪化させる事はさけなければならない。
 今年は、世界樹の件もあれば、ネギ嬢ちゃんの件もある。


 少なくとも、彼が本当に平穏を望んでいるのかくらいは確かめなくてはならない。


 唯一の救いは、彼が向かう修学旅行先が、北海道であるという事。
 これを見る限り、平穏を望んでいるというのは確からしいと察せる。

 念のため、この修学旅行中に彼を観察し、どのような人間なのかを見極めるとしよう。
 本当に平穏を望んでいるようならば、そのまま大人しくしているだろう。違うならば、対策を立てればいい。


「いやはや。困ったもんじゃのう。『彼の目的を明らかにせねばならない』のと『学園を危険にさらしてはならない』。この両方をやらねばならないとは、責任者のつらいところじゃの」


 その後ため息をつきつつ、こちらこそ平穏がほしいわい。とつぶやくのであった。


「……せっかくこれほどの者なんじゃ。いっそこのかを守ってくれんかのう」




 さらに、報告書にはもう一つの記述があった。

 彼の血縁の中。そこに、魔法世界出身者が、いるのだ。
 遠縁も遠縁で、ほぼ他人だが、彼にもその者の血が流れている。
 最も、そんな遠縁を気にしだしたら、ほとんどの人間に対し注意を払わなくてはならなくなるが。

 深い意味はないはずだが、なぜかこれが、気になった。




 しかし、老人は知らない。
 今確認している予定と、実際の予定が、変更されていた事に。
 エヴァンジェリンの催眠術によって、彼のクラスの行き先が京都に変わっていた事に。
 それはわざわざ、それに気づく可能性のある学園長まで上らないよう、細工されていた事に。

 彼に注目していたが故、他の者への注意がおろそかになったとしても、それは仕方のない事だろう。
 そもそもエヴァンジェリンに魔力が戻って、彼の隣にいるなど、想像の斜め上を行っているのだから。

 予想外の幸運と、不運により、彼は何事もなく、修学旅行へと出発する。





 より、誤解を招く事となる、修学旅行へと。




──────




 俺は、全力を尽くした。
 修学旅行でネギ先生一行とかち合わないために。
 そこで絶対にまきこまれないために!


 幼女という情報提供者(主に茶々丸経由だが)から得た情報を吟味し、彼女も説得。


 どうでもいいけど、コピーロボの見てる事リンクして自分もわかるようにしてあるんだって。科学と魔法の融合ですよ。すごいですね。そもそも茶々丸は動力が魔力で他が科学なんだってさ。作者は当然あの子達。コピーは科学100パーセントですよ。
 さすが『人形使い』。俺よりも道具を使いこなしてるよ。


 く、悔しくなんてないんだからね!


 まあ。おかげでネギクラスの情報をスムーズに手に入れられたから、結果オーライなんだが。
 ちなみに茶々丸→幼女コピー→幼女本体→俺と情報が流れた。


 そして、その努力は見事実り、日程上はまったくかち合うことはなくなった!
 今回は幼女の時とは違って、俺が目標とかではないから、あいつ等とかち合わない限りは巻きこまれる可能性はないはずだ!

 自分から近づかない限りは巻きこまれないはずだ!







 ……だが、まさか、ホテルが一緒だとは、盲点だたね。


 いや、同じ学園だから、十分可能性はあったけどさ。これだけのマンモス校なら男女とか学校、学部とかで別になると思ってたんだよ。
 普通そう思うだろ? 俺もそう思ってたよ。
 困ったもんだね。



 でもね。今度は修学旅行以外のところで、大ピンチになっているんだ。



 すでに修学旅行1日目の夜。


 俺が風呂をびばのんのと堪能しようと思って部屋を出発したあと。
 ちなみにエドこと中身幼女は大浴場には行かず、俺達が泊まっている部屋に備え付けてある風呂に入っている。さすがに男湯に入るのは抵抗あるんだろうね。
 あと、俺等の泊まっているところは洋室。確かネギ達は原作だと和室に泊まってた気がする。

 しかも、聞いて驚け! なんと俺の班は俺と中身幼女のエドしかいないのだ!
 他のメンバーはなぜか当日に欠席をしやがったのだ! 噂か!? 噂のせいか!? 俺がいるせいなのか!?
 それとも本当にただの偶然で病欠なのか!? 気になるが、そっちよりなぜか中身幼女と二人で班行動する事に決定しました事の方が疑問です。
 あれですね。隔離ってヤツですね。目から汁出していいですか? あのわがまま娘と二人きりって、みんなヒドス。


 あと、えーっと……


 えーっと……





 ……はい。現実逃避乙ですね。現実に目を戻しますよ。




 風呂を行くために歩いていると、あのカンフー娘に見つかって、捕まって、彼女の班のところまで連れてこられたんだ。
 たぶん忍者の子とかに紹介する気なんだろ。とか思ってたんだけど……




 ロビーにつれてこられてさ。そしたらさ、いたんだよ。カンフー少女の班に。




 学園祭に大事件を引き起こす。
 未来から来た火星人。
 俺の未来道具に唯一対抗出来うる可能性を持つ存在。



 超鈴音。



 彼女が。


 カンフー娘と出会ったのは武道会参加フラグじゃなかったのかよぉぉぉぉぉぉ!!!



 修学旅行中ネギに関わらず済むー。と思ってたらこの仕打ちかよ!
 神様って本当に俺の事嫌いなんだな!



 うわ、見てる。めっちゃ見てる。茶々丸から情報とか回ってたら、未来道具の事いくつかバレてんのかな。だったら嫌だな。でも俺君の方にも関わるつもりないから。



 とりあえず、あれだよ。微笑んでおくよ。


 僕は敵じゃないヨ(味方でもないけど)
 人間笑顔が一番だヨ。


 でもまあ、彼女の目的は人類殲滅とかでもないから、目をつけられてもあんまり怖くない。







 ……この時の俺は、そう思ってたんだ。






 そりゃね。正体不明の人物と、学園が要注意指定している人物が仲良さそうに会話していたらね。
 警戒もされるよね。





 つーか、まさか俺が、超以上の危険人物と思われていたとかね。
 もうね。




 ありえないヨ。





───超鈴音───





 彼本人に会ったのは、この時がはじめてだたネ。

 情報としては知てたけど、まさかクーがここで連れて来るのはワタシも予想外ヨ。


 彼の方も、ワタシと会うのは予想外だたようネ。

 つまり、偶然。

 いや、彼の場合は演技かもしれない事を考慮に入れないといけないネ。
 なにせ相手はあの超一流、エヴァンジェリンを実力で圧倒する存在。


 ……直接会ても、本当に、またくそうは見えないネ。


 でも、その擬態が彼の恐ろしさ。
 茶々丸からデータとして情報をもらてなければ、確実に見落としていたヨ。


 ただ、データを見て、いくつかわかた事はある。


 エヴァンジェリン戦で見せた、彼女を助けたあの動き。
 あれは、瞬間移動などではない。

 あれは、時間停止。


 そしてそれは、『時計』の起動時間ともタイミングがあう。


 さらに、魔法の道具とは違う、奇跡とも言える事象を可能とする道具。


 見たところ、彼はどちらかといえば、『こちら』側の人間。ワタシと同じ側の人間ヨ。
 魔法ではなく、科学で魔法と同じ事を成す人間。


 ただ、まさか、魔力の補助もなく、時空を操る人間がいるなんてネ。

 私の科学の一部は、魔力に頼るところがある。
 魔力は、科学より簡単に物理的限界を超える事が出来るからだ(例をあげるなら飛行)
 一部、『時計』のように世界樹クラスの魔力補助がなければ使えないという制限もあるが、あくまで一部。
 それで魔力を使わない理由にはならない。


 だが、彼は違う。魔力を使わず、あの事象を実現させている。
 魔力を使い、物理的限界を超えた技術より、なお難しいハードルを超えた、その先にある技術を。


 どこかの誰かが言ていたネ。

 高度に発達した科学は、魔法と区別がつかない。と。

 きっと彼は、その高度に発達した、科学という名の魔法を使う存在ヨ。
 この言葉を、そのまま体現した存在ヨ。


 彼は茶々丸の前で、『サウザンドマスター』と名乗たネ。

 彼が自身では魔法を使えないと言たのも収集済み。



 それはつまり、『千の科学を操る男』。これが、その真の意味。



 しかし、見れば見るほど、ただの一般人にしか見えないネ。



「!?」



 あちらを見た瞬間、微笑まれた。
 彼は、私を知らないはず。
 エヴァンジェリンが教えた? それはない。彼女にそれをする利も、意味もない。
 今の段階で警戒されるような事はしていない。


 それなのに、すべてを見透かされているような気がしたヨ。


 まさか、『サウザンドマスター』は私にあてたメッセージだたトカ?
 そんな事はない……とは言い切れないのが恐ろしいネ。


 なにせ彼は、私の知る歴史の中にも存在しないイレギュラー。


 正直、敵に回したくはないネ。
 魔法使い達より、私と『同じ側の徒』である彼の方が強敵かもしれないからネ。
 もし、本当に彼が『科学の申し子』ならば、個人的資質に大きく頼る魔法使いより、科学の本質。

『誰でも平等にその効果が発揮出来る』

 をたやすく実現させてしまうから。


 これならば、彼が一般人並の雰囲気しかもっていない事にも説明がつく。
 そしてそれは、一般人が『サウザンドマスター』クラスの力を持てるという証明にもなる。



 ……これほど恐ろしい力はないネ。





 彼が敵に回り、誰かと手を組まれたら、正直勝ち目はない。






 なら、簡単な話。彼を、敵に回さなければよい。それだけの話ネ。





 彼が味方についてくれればよい。それだけで計画成功の可能性も飛躍的に高まるネ。
 彼がいれば、実現するヨ。

 中立に徹してくれるなら、それでかまわない。

 例え味方にならなくても、敵に回さない方法はいくらでもあるネ。
 敵の敵にしてしまえばよいわけヨ。





 私の計画の、邪魔だけはさせないヨ。

 これは、絶対に成功させなくてはならない。





 私の、夢のためにも、ネ。













 しかしその後、私はとんでもない思い違いをしていた事に気づかされる。

 彼を見誤ていたネ。『千の科学を操る男』。彼は、自分は『違う』とは言ったが、『使えない』とは一言も言っていない。『違ければ使えない』。その先入観に囚われてしまうとは、私もまだまだ甘いということカ。
 これで、『闇の福音』を最後、どう圧倒したのかも納得がいたヨ。







 彼は本当の意味でも、『サウザンドマスター』だたネ。








 私で御しきれる存在ではなかったヨ。


 彼の存在は、危険すぎる。






───学園長───





 修学旅行初日の夜。

 ワシは、京都で超の引率観察をしていた瀬流彦先生からの連絡を受け、愕然とした。

 超と、彼には初見の一般生徒。つまり、『彼』が接触していると報告を受けたからだ。 


 バカな! 『彼』は今、北海道にいるはずでは!?


 あとでわかった事だが、書類のミスで、学園長側に回る方の表記が間違っていた事が発覚する。
 あちらの学校側ではちゃんと処理されているので滞る事はないが、学園長側のみが把握出来ていなかった状態になっていたのだ。

 これは別に、マンモス校であるこの学園ならばさして珍しい事でもなかった。
 学校ごとにちゃんと機能しているなら、細かいミスは学園長にわざわざ報告する必要はない。
 すべてを学園長まで報告させ、チェックしていたら、それこそ一番上は情報でパンクしてしまうからだ。


 そう。これは、よくあるミス。
 問題にもならない、些細なミス。


 だが、この時ワシは、どんな些細な事も報告するようさせていた。おかげで実務でパンクするかと思ったほどだ。
 それなのに、その報告はあがってこなかった。

 それはつまり、誰かが意図的に差し止めたという事になる。
 しかも、この急な変更にしても、それによる不満は誰も言ってこなかった。これは、何者かが、一般生徒、先生を扇動したか、なんらかの力によって、操った証明ともいえる。が、証拠は当然ない。
 さらに、この変更は彼のクラスメイト全員の申し出であり、こちらに上がらなかったのはただの書類ミス。おまけに彼一人のみが変更反対という念の入れよう。
 どこの誰が見ても、クラスの総意で決まり、報告はただの書類ミスにしか見えない。これで、誰が誰を疑おうか!

 発見した時、完璧すぎて、腹が立つほどだった。
 知っている者が見れば、あまりに不自然。だが、疑われても、それがどうした。と言わんばかりの完璧さ。


 学園側の決めたルールを、こちらの用心を逆手とり、見事にそれを上回ったのだ。


 そして、学園のナンバーワン要注意生徒、超鈴音。
 彼女との接触に、京都はこれほど適した場所はない。
 こちらの力も、監視もおよばない。関西呪術協会の膝元。

 しかも、今そこにはネギ先生もこのかもいる。
 なにかを起すにはうってつけの状態だ。


 平穏に生活したい? なんと白々しい!!


 すべてはこの接触のためのブラフであったか!

 もしものために誰か魔法先生を送る? いや、駄目だ。今魔法先生を送るなど、関西呪術協会との関係悪化が目に見えている。
 それに、凄腕数人は念のため『彼』対策(観察)として、別任務と称し北海道へ送ってしまった。
 いっそ関西呪術協会に彼の事を……どう説明しろというのだ! 一般人にしか見えない彼の危険性。それを他者に説明の出来るならば、ワシがすでに他の魔法先生に理解させておるわ!
 彼の擬態、それはこのためだったというわけか!


 京都には正体秘密の魔法先生。瀬流彦先生はいるが、彼は超を見ていなければならない。しかも、正直彼は若く、影も薄い……のは関係ないが、『彼』に太刀打ち出来るレベルとは到底思えない。
 藪を突いて龍を出してしまうのがせいぜい。逆効果だ。


 つまり、彼はこの京都の中で、関西呪術協会も、こちらの監視もなく、自由に動けるというわけである。


 事情を察したワシは、もうただ指をくわえ、『彼』がなにもせず戻ってくる事を祈るしか出来ない。
 なんという事だ。魔法ではなく、ただの謀で破れるとは。


 若い彼に、これほどの謀が行えるとは思いもしなかった。
 ワシはまだ、彼を侮っていたという事なのだろう。


 学園の要注意人物超との接触。
 それは、なにをたくらむという事なのだ。彼は一体、この学園でなにをしようというのだ。
 それとも、京都の地で、なにかを引き起こそうというのか!?


 無事、生徒達が戻る事を祈るしか出来ないとは。


 よかろう。ならば君への考えを改めよう! 若造などとは決して思わん! この屈辱は、ワシの心に刻みつけよう!

 もしワシのかわいい生徒を誰か傷つけてみよ。ワシがこの命を賭してでも貴様を成敗する!



 この瞬間、『彼』の危険度は、学内一だった超鈴音の上へと移動される事となった。












 ……いやー。偶然から生み出される誤解って、こえーなー。





──────





 カンフー娘&未来少女班の自己紹介を受け、軽く話したあと、開放された。

 ちなみにいたのはカンフー娘と未来少女に博士の人と料理の人でした。忍者の子はいなかったとさ。
 どうにも肉まんをご馳走したかったらしいらしい。『超包子』をお勧めされました。


 肉まんはとてもおいしかったです。


 もうこの子等と知り合いになったから彼女等の経営するところに行こうかな。いやでも、他の子と鉢合わせする可能性もあるから、自重しよう。




 というわけで、当初の目的通り、お風呂にやってきました。

 原作でネギは混浴に入っていた覚えがあったので、ちゃんと男湯女湯が別れている場所を確認済みですよ。

 ここで言うのもなんだが、俺は風呂が好きだ。
 特に温泉サイコー! 岡崎、サイコー!


 あとプールとかで泳ぐのも好き。ただし風呂で泳ぐ。テメーは駄目だ。
 風呂はのんびりと入る場所だ。遊び場じゃない。戦場なんだ! 油断は死を招くぞ!
 それほど風呂に価値はあるのだ!


 ゆえに危険があろうとも安全に安全のシミュレーションを重ね。もう完璧に安全な場所を選択して入りに来たのだ。
 まさにパーフェクト!
 わは。わはは。わははははは。


 おっと。温泉が近くてテンションアゲアゲだぜ。
 さー。のんびり入るぞー。




──────




 からからからー。
 彼がスキップ気分で男湯ののれんをくぐった後……


 すっごいいたずらな風が吹いて、男湯と女湯ののれんが吹き飛ぶのであった。


 そして、ばっちゃん従業員がやってきて、それを直してゆく。


 当然、男女を逆にして、だ!!



 あとは、わかるな?




──────




 はーびばのん。

 いい湯だね~。貸切だぜ~。
 カンフー娘に捕まっていたせいで逆に人がいなくなっていてラッキーだぜ~。

 もうぐったりびばのんだぜ~。


 ぐで~。



 温泉、サイコー。





 からからから~。からからから~。ぴしゃ。


 あ、誰か入ってきた。
 貸切じゃなくなるのは残念だが、裸の付き合いって奴も温泉の醍醐味だ。「いい湯ですね~」「まったくですな~」とか。

 首だけをくてっと向けて、入ってきた人を確認。




「わ~、すごいね~。これが露天風呂っていうんだ~」
「そっすね~」





 ……





 え゛?



 入ってすぐの湯船に寄りかかって大の字状態でいる俺の逆さまになった目と、入ってきたその子の目が、ばっちりあった。





 そこにいたのは、ネギ。それと、オコジョだった。





 俺、思考停止。




「え? ええええええー!?」


 ネギは、俺の姿を見て、パニックを起した。

 手をばたばたさせて、バランスを崩し、そのまま濡れた床に下りて。



 丁度そこに、まるで図ったかのように、バランスを崩したネギから落ちたオコジョがいて……



「ぐべっ!」
 つるっ。



「え゛?」




 ネギが、滑ってそのまま、俺の方へ突撃してきた。





「はわ。あわわっわわわ!」
「ちょっ、まー!?」







 俺はそのまま、ネギ突撃ダイビングの直撃を食らった。








 どぼーん。






 本能的に思わず、後ろに逃げようとしたのがまずかった。

 俺はネギを受け止めきれず、あおむけに湯船へ沈む事になる。




「がぼ、がぼがぼがー!」




 お、俺の顔に。なにか、やわらかいものが! ネギか!? ネギという名の重しかー!?


 し、死ぬ! 死ぬから!! 早く、早くどいてー!


「ががぼー!」
「きゃっ、ふあっ! や、やめ、やめてくださいー!」


 ちょっ、こら、頭を、なにか手のようなもので押さえるなー!
 息が! 死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ!



「い、息が、だ、だめれす、ひゃうっ!!」



 俺の方が限界だー!
 もう出させろー!!





 どういう風にネギが彼の顔にのしかかっているのかは、ご想像にお任せいたします。






「はー、はー、死ぬかと思った」

「ぼ、僕もです……」

 二人でぐったり。
 ネギの方はなぜぐったりしてるんだ……?
 君、頭は湯船の外にあっただろ……?


 おかしい。なぜここにネギが入ってくる。
 アイツは混浴の方に入ってハプニングが起きたんじゃないのか……?


「……って、あれ?」


 ここ、男湯のはず。
 考えていた事の矛盾に気づき、思わずネギの体をじーっと見てしまった。
 女の子なのに、なんでここに……


「あ」
「あ」


 下から上に移動したら、ネギと目が合った。



「きゃー!」


 ネギはオコジョボムを投げた!
 魔法の力で水の抵抗を無効化した!



 パオーンに大・命・中!!



 俺は死んだ。


「かっ、こっ、こ、こけーっ……」
 こ、これは、女の子、には、絶対わから、ない、ダメー死゛……

「パオーんが……ぱおーが迫ってせま、せま、せままままま……」
 オコジョも精神ダメージがマックスだ。



「せ、責任をとってくださーい!」

「あ、アホか、か! こ、れで、責任取らなきゃ、なら、なかった、ら。お前が橋で、エヴァンジェ、を、裸にひん剥いた、時、に、あれを、娶らにゃ、ならんだろう、が!」

 湯船の縁から上半身を床に倒れふしながらも、俺は反論をする。
 あ、あんなわがまま幼女を娶るなんてお断りだ!


 いや、なんか違う気がする。でも痛みで頭まわんない!



「ですけどー!」


「はっ! ちょっと待て!」


 思い出した。ネギがここにいるということは、下手すると半デコ少女も入ってくる!?
 そんな事になったら、もう俺は死んでお詫びするしかなくなる!
 12歳以上は銭湯的ルールでアウトだ!!


「え?」


 激痛を我慢し、俺は、言う!
「もういろんな不運が重なったと俺は納得して、責任は全部俺が取るから!! 俺が悪いでかまわんから! ここでこれ以上会話するのはまずい! 他に人が入って来る前に一度ここを出……」



 からからからー。

 扉が開く音が響いた。



 俺、オワル!!



「あ、ネギせんせ……い?」


 入ってきたのは、半デコちゃんだった。
 ネギは入ってきた彼女を見て固まっている。

 俺は、とりあえずパオーンが痛くて動けないけど、湯船から上半身出して床に突っ伏しつつ目はつぶって、誓って半デコちゃんは見てない。


「え、えーっと……」

 ネギがなにかを言おうとしているが、なにもいえない状態になっているようだ。

「……」
 半デコちゃんはたぶんフリーズしているんじゃないかな。入り口のところで。
 音から判別しただけなんだけど。


 は、ははは。もうね。俺の人生、ここで終わってもおかしくないよね。
 今まで生きてきて一番悪い事をしている気分だヨ。

 必殺ジャスティスボンバーで今の俺なら確実に車田飛びできるね。

 『宇宙刑事』失格だよね。




「ひゃああ~!」



 今度はなによ!?



「はっ! この悲鳴はこのかさん!?」
「このかお嬢様!?」


 あ、そういえば、そんな展開だったっけ。



「お嬢様!」
「あ、刹那さん!!」


 ネギと半デコちゃんが脱衣所へと走ってゆく。


 俺は、必死に腰を叩く。
 ぴょんぴょん跳ねたいけど、ここでそれをやったら確実にアレでソレで叩ききられそうなので自重!
 ちなみに近くの湯船には小動物がぶつぶつ言いながらぷかぷか浮いてマス。



 その後俺の頭の上をサルとお嬢様が飛び越えて、半デコちゃんがずんばらりんして助けてたようです(音的に)


「なんかよーわからんけど、助けてくれたん?」
「あ、いや……」
「ひゃっ」

 ばしゃーんと誰かが落下した音。

 ばしゃばしゃと誰かが逃げた音。


「あ……」
「ちょっ、なによ今のー」

「こ、このかさん! あの、刹那さんて……!」

「その前に、ちょっとええか?」
「はい?」


「その人、誰なん?」


「……」


 うん。俺ですね。


 裸の少女達の真ん中に俺、爆現!!


 て感じで、彼女達の中心に、倒れふした俺がいます。



 ひくっ、少女達の顔が引きつった。



「ストーップ!!!!」



 突然俺は大声を上げ、いきなり立ち上がる(腰にタオルは巻いてるよ!)


 びっくりしてフリーズしている少女達を尻目に、湯船から脱出し、脱衣所で服(ジャージ)を着る。


「OK屍はロビーにさらしておいてくれればいい。やってくれ」
 彼女達に背を向けたまま、入り口に立って親指を立てた。



 ガシ、ボカ。俺は倒れた。スリープ。



 これから俺は、風呂にも『スペアポケット』をタオルに貼り付けてでも持っていこうと心に決め、意識を失うのであった。



「……なぜお前はこんなところで寝ている」
 その後俺は、無事ロビーに放置されていたのを探しに来た変身幼女に発見され、ずるずる引きずられ、部屋へと戻るのであった。






 こうしてそのまま、俺の修学旅行一日目は無事終了する。





 ちなみにこの後、事故で男湯と女湯が入れ替わっていた事を知り、彼女達は悪い事をしたと反省する事となる。
 ロビーへ謝りにやってきたが、その時すでに彼はエドに回収され、部屋に戻っていた。

 その時、「彼は北海道に行くはずだったのに、今ここにいるのはおかしい。彼も関西呪術協会の関係者なのでは?」とカモに疑われたが、刹那とネギが違うと擁護する事となった。
 明日菜の「そもそもエヴァンジェリンを倒すだけの実力があるんだからこんな小細工する必要ないでしょ」ってのが決め手で疑いは晴れたが。
 エヴァを倒したという事実には、刹那が驚きつつも、納得していた。
(でもどうやら、彼の正体を正確に知っているのは私だけのようですね)
 ネギ達は彼を魔法使いかもしくは刹那のような武芸者のような認識のようであった。
 自分だけが本当の正体を知っている。それが少し嬉しい刹那であった。


 力を借りる事に関しては、あの人は関係ないし、平穏に過ごしたいと聞いていたので、黙っていようという事になった。
 そもそも明日菜が再起不能(リタイヤ!)になるほどボコった後でもあるし。刹那もネギも、親書を運ぶくらい自分で出来ないでどうする。という気持ちもあったのだろう。
 それは、彼等の美点ではあるが、欠点でもある。
 ただ、北海道にいるはずなのに、なぜ京都にいるのかは確認しないとわからないので、謝る時に聞こうと相談は終わったのだった。


 彼が巻きこまれない。それは、彼にしては非常に幸運な事だが、それが、本当に幸運な事なのかは、今はまだわからない。


「ところでネギ。あの人なんであんなに弱ってたの?」
「え? いや、あはは」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃー」
「うわっ、あんたどうしたの!?」

 明日菜の質問に、ネギが真っ赤になって、カモが狂ったように笑い出したのが印象的でした。
 ちなみにカモは正気を保つため、この時の記憶を封印する事にした。





(責任、取るって、言われちゃった)

 ぴこーん。
『なんかもう死ねばいいよ』フラグが立ちました。





───おまけ───




 ふ、二人きり……

 他の班員はなぜか病欠となり、意図せず奴と二人だけの班行動になってしまった。
 しかも、今日からしばらくはこの部屋には二人きり……

 となると、この部屋ならわざわざ変身している必要はない!?
 では元の姿でヤツと……
 い、いやいや。なにを考えているんだ私は!


 そわそわ。


 ベッドが、並んで、二つ……
 いやいやいや。別にただ並んでいるだけだ。
 全然深い意味はない。

 私の家にあるベッドより全然小さいではないか。せいぜい、その気になっても、二人で寝れるサイ……


 ぎゃわー!!


 そわそわ。


 ふ、風呂にも入った。
 下着も新しい物を……
 
 ま、待て待て。なんでこんなに緊張する?
「いざとなったら、俺がどうにかしてやるよ」
 ほわー! な、なぜ今そんな言葉を思い出す!!

 なぜだ!? 私はこんなキャラじゃなかったはずだ!
 まて。こういうときは元素を数えて。すいへーりーべ……



 ……



 そわそわ。



 遅い。いつまで待たせる気だ!?


 し、しかたがない。探しに行ってやろう。


 探しに行ったらロビーでぶっ倒れていた。
 のぼせたのかこのバカめ。


 ……本当に、この、ばかが。







─あとがき─

 学園長には状況から危険視され、クーフェイが縁で超鈴音と出会いました。そう。あの出会いはこれが狙い!
 んで、ネギ相手に『もう死ねばいいよ』フラグ発生。

 ……おかしいな。
 修学旅行開始でシリアスのはずが、なんか、微妙に、イチゴの香りもする。
 おかしいな。

 前半シリアス風の分後半がアレでソレなのは反動です。

 反動蹴速迅砲ってヤツです。孔明の罠でもいい。
 敵ばかりの彼に、ちょっとしたプレゼントです。
 ただし死亡フラグが同伴出勤。


 とりあえず、彼は世界にも人にもほおっておいてもらえません。
 悪い意味で。

 彼が逆に関わらないというのは、本当に彼にとって良い事なのか、それとも悪い事なのか。
 もうしばらくしたらわかると思うので、のんびりお待ちください。


 あ、そういえば今回未来道具一個も登場してない。
 まあ、そんな回も1回くらいはあるよね。



[6617] ネギえもん ─第10話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/03/27 20:48
初出 2009/03/15 以後修正
改稿 2009/03/18 以後修正

─第10話─



 修学旅行二日目。




──────





 二日目朝。目が覚めたら、朝でした。

 さて。今日から自由行動か。
 今日はネギと合流する明日菜班達は奈良公園に向かう事が幼女コピー情報からわかっているので、あとは安心だ。
 というか、この日って原作でなにがあったんやっけか。
 次の日が山場ってのは覚えがあるんだけど……

 思い出せないって事は、ストーリー的に大きな事は起きなかったって事だろ。



「そういや、昨日ネギ先生達外に出てた?」
 朝起きて、そういえばと思い、中身幼女のエドに聞いてみた。

「ほう。ぐーすか寝ていただけかと思ったが、ちゃんと察知していたのか」

 まー、一応夜なにか起きるとは覚えてたからね。

「そっか。ならいいや」
「結果は聞かんのか?」

「近衛このかが誘拐されそうになったけど、無事取り戻せた。だろ?」
「わかっているのか。つまらん」

「どーせ君も見てただけなんだろ?」
「あの程度になんで私が手助けしてやらねばならん」


 本当に大ピンチになってたら飛びこんでたんだろうけどなー。


「ま、君はそうだろうね」
「お前はなにもしてやらんのか?」

「藪をつついて蛇は出したくないからね。俺が関わる事によって過剰な反応が返ってきたら本末転倒だろ」

「……案外バカじゃないようだな」
「なんでもかんでも手助けしたら育つものも育たないしな」


 本音は関わりたくねー。だがな。


「それに、子供の喧嘩に大人が出て行ってどうするよ。向こうも大人が出てきたら考えるけどね」

「東西の争いを子供の喧嘩あつかいか。ははは、面白い」

「そんなわけで、基本傍観という事で」
「うむ。では行くぞ!」
「おー」


 今日の自由行動は、ネギのクラスと鉢合わせしなければ好きにしていいと、幼女の行きたいところにお任せしてある。
 他の班員も、幼女の熱弁を受け、一任していた。旅行に行ける事が嬉しいのか、張り切ってたからな。もっとも他の彼等来ていないけど。
 ちなみにナギの住居探索は三日目以降の予定。そもそも流れ通りなら、4日目に幼女はネギと一緒に行けるからね。



 旅館を出ようとしたところで、俺の携帯がなった。


 半デコちゃんからだった。
 シィット! そんな巻きこまれ手段があったか!


 そしたら幼女に奪われて、電源を切られようとしたが、きり方がわからなかったのか、そのまま真っ二つにされた。

「おいぃぃぃぃい!」
「これは今日終わるまで預かっておく」

「預かるじゃねえよ! 叩き壊してるじゃねーか!」
「知らんな」
「知らないのは電源の切り方だろこのハイテクオンチが」

 きりきりと頭を握る。

「うるさい! ちょっと力をこめすぎただけじゃないか!」

「素直に謝る事も知らんひねくれっ子め!」


 すぱっと奪い返す。


「ったく。今日の自由行動中一応これ使うんだからな?」
「う……」


 そう。担任とかに連絡をしたり使うのだ。
 迷子になった時とか、定期連絡とか。
 最近は便利になったよね。


「まあ。相手が俺でよかったよ」


『復元光線~』
 あーら不思議。この光を当てると壊れたものを壊れる前の状態に直してくれます。
 『タイム風呂敷』でも同じ事は出来るが、これは壊れる前以前には戻らないし、壊れた後に進める事も出来ない。
 あくまで直すだけ。だが照射するだけなので、どれだけ大きなものにも使える。


「ぴかっとな」
 真っ二つだった携帯が時を巻き戻すように直ってゆく。

「また出鱈目な事を」

「というわけで、許してやる」
「だが断る」

「……」

「電源を切れば許してやる」

「なぜお前が許す方向に話が進むのか、俺には理解できないのだが。俺が言ってた事、聞いてたか?」

「うるさい。今日は私が決めた日程だ。他の誰にも邪魔はさせん。大体貴様も関わらないと言ったばかりではないか」

「いや、そうなんだけどね。つーか、俺昨日ネギに見つかったんだよ。俺修学旅行は北海道と言ってあるから、それ関係の説明くらいさせてくれてもいいんじゃない?」


 お前が勝手に行き先変えたからな。


「そんなもの旅行が終わってからでかまわないだろう!」

「んじゃあせめて電話とか出来ないってメールくらいは送らせてくれ」

「……め、めーる? これで手紙も送れるのか?」

「いまどき珍しい人種もいたものですね」


 実演という事で半デコちゃんに今日は返事が出来ないのですまないと回答。
 メールの返事で、昨日の事は事故だったと知りました。という謝罪メールが来たので、許すと回答しておいた。
 あと、北海道から京都に変更になった経緯も説明。ネギに伝えておいてくれとも送っておきましたとさ。今回の件について協力とかそういう話題は出てこなかったので、そのまま知らんフリした。


 めるめる。

「おおー。これがめーるか。最近は便利なものだな」

「文明開化の音がしたね」

「う、うるさい! 別にそんなものなくとも、魔法があれば同じ事が出来る!」

「そんなんだから文明に取り残されるんだ。せっかくだからエド名義あたりで携帯持ったらどうだ?」

「む……?」

「今なら俺のアドレスと電話番号がおまけについてきます」

「……考えておこう」




 そんな事がありつつ、二日目の自由行動。幼女主導での京都観光がはじまりました。





───エヴァンジェリン───




 修学旅行二日目。
 私は奴と、ふた、二人きりで、京都観光へ行く事となった。
 べ、別に全然意識などはしていないぞ! ないんだぞ!!


 だが、二人で出発となった時、桜咲刹那から奴に電話がかかってきた。
 奴が電話に出ようとする。



 むかっ。



 おいこら。なんのためにあの小娘のクラスとかち合わないよう行き先を決めたと思っているんだ! このアホが!


 電話を強引に奪い、電源を切ろうとしたが、切り方がわからず、力を入れすぎて壊してしまった。


 あ……


 す、すまない。

 そう言葉に出したいが、素直にはなれない。
 どうしても、憎まれ口が出てしまう。

 だが、奴はそんな私を見透かしてか、あっさりとそれを修理してみせた。

 相変わらず出鱈目な奴め!

 少しでも悪いと思った私がバカみたいじゃないか!


「というわけで、許してやる」
「だが断る」


 それで私が感謝するとは思うな! 感謝なんてしていないからな!


 だが、電話が直ったという事は、また桜咲刹那からの連絡を受けられてしまう。

 奴は、電話を受けられないとめーるを送ると言った。

 めーるに関して実演を受ける。
 これは便利かもしれないな。うん。

 今度携帯電話という物を持とう。


 私は心に決めた。
 決して奴の電話番号が知りたいとかではないからな!
 桜咲刹那が知っているからというわけではないからな!
 携帯とやらが便利だからだ!



 再び奴の携帯の電源を切り、我々は出発となった。





 観光をしていると、奴の行動が一つ気になった。
 誰もいないところ。風景をわざわざ写真に残しているのだ。


「なにしているんだ?」
「写真を撮ってるんだよ。今日来れなかった彼等に、これと一緒になにがあったか話してやろうと思ってさ」
「はぁ?」


 修学旅行に来れなかったあの3人のため、だと?


「中学の修学旅行ってのは、基本的に一生に1度だからな。来れなかった彼等に、少しでもそれが伝えられたらいいと思って」


 なんだ、それは? なんだその自分のせいで来れなかったとでもいうような顔は。
 奴等は貴様の噂など関係なく楽しみにしていた。
 あの3人が来れなかったのはあくまで偶然だ。誰のせいでもない!
 なのになぜ、貴様が気に病んでいるのだ!


「言っておくがな、奴等が来れなかったのは偶然だぞ! 私がなにかしたわけでも、お前がなにかしたわけでもない。奴等の体調管理が悪いだけだ!」

「ははは」
 少しびっくりしたような顔をして、奴は笑顔となり、私の頭をなでてきた。


「それでも、してやりたいのさ。おせっかいだとしてもな」


 なんなんだこいつは。戦いの時、敵にはまったく容赦をしないくせに、こういった者達への配慮は欠かさない。
 クラスでも根も葉もない噂で浮いているくせに、それを気にしたそぶりはまったく見せない。
 それどころか逆に、クラスの奴等へ気を使っているほどだ。
 ただの嫌な奴かと思っていたのに、変に優しいところもある。
 ガキのクセに、妙に大人びたところがある。

 一緒にいればいるほど、ワケがわからなくなるよ。



 ますますお前の内面を、知りたいと思ってしまうじゃないか……



「ふん!」
「ぐえっ!」


 思わずボディブローをかましてしまった。

 ……だ、誰がこんな奴の事を知りたいと思うか!!
 こんな奴ただの下僕候補1にしか過ぎん!


「て、てめえ……」
「うるさい!」



 全部、全部。私のペースが狂うのは、全部お前が悪い!





──────





 一方その頃。
 ネギ先生は本屋ちゃんに告白されていた。





──────





 無事帰ってこれた。
 もうこの幼女の行動はホントに読めない。
 突然ボディーブローとかなんやねん。


 ……入ってすぐ、ロビーでもだえるネギ先生がおりました。

「……なにしているんだアイツは」

 中身幼女もあきれています。


 ……あ、思い出した。そういえば、本屋ちゃんの最初の告白って修学旅行中だったか。
 てことは、今日ネギとの仮契約になるんだな。
 つか、本屋ちゃんマジ百合なのね。





───ネギ───





 み、宮崎さんに、告白されちゃった……

 ま、まって。僕、これでも女です。スーツとか服装はズボンが多かったり、動きやすい格好が多いけど、女なんです。
 なのに宮崎さんが、僕を好きだって。
 でも宮崎さんは女の人で、僕も女で、しかも先生と生徒で……

「ううー。あああー」

 ロビーでごろごろと、転げまわって悩みます。


 そもそも。そもそも僕は……


「責任は全部俺が取るから」


 はわー! なんでこんな時にあの人の顔がー!?





───3-Aの面々───




「どうしたのかな、ネギ先生?」
「なにやらただ事ではないご様子」


 ごろごろ転がるネギ先生は、生徒に心配されていた。


「なんか風の噂だけど、ネギ先生告白されたとかって聞いたよ?」

 誰かわからないが、そう声を上げた。

「な、なんですってー!?」
 ネギ先生LOVEな委員長。雪広あやかが声を上げる。


 一体、誰が!?


「まさか、3-Aの誰かが!?」

「あ、いいんちょ!」
 佐々木まき絵がネギの方を指差した。



 そこには、旅館に戻ってきた、男子生徒二人の姿があった。



 ごろごろ転がったネギが、そのままロビーに入ってきた男子生徒の一人の足に激突する。
 当然、ぶつかった相手は、『彼』である。


「……ネギ先生、なにやってんの?」

「はわっ!」


 その男子生徒の顔を見た瞬間。
 彼女は顔を真っ赤にして、飛び起きた。


「知り合い、ですの……?」


 そして、あわあわとあせり。うつむいて、ぼそぼそと、なにかをつぶやき、そのままその男子生徒の前から、逃げ出してしまう。



 その姿はまるで……



「どうしたんだろうね?」
「私が知るか」

 そう言って、男子生徒二人は去っていった。



「なななななー!? な、なんなんですのあれはー!!」
「いいんちょいいんちょ! 落ち着いて! 落ち着いてー!」

「あの二人意外とかっこよかったね~」
「金髪の方すごい美形だったー」
 その他のクラスメイトの声。


 髪の長い金髪美男子を連れた男……


「あ、でもさっきのあの人、私知ってるかも」
「そうなのですか!?」
「あ、私も知ってる~」
「あ、私も~」

 その『彼』の噂を、みんなで上げていく。
 出るわ出るわ出るわ。

 中学生を妊娠させたとか。
 小学生と路上で抱き合っていたとか。
 女性の家に入り浸っているとか。
 男子ともねんごろになっているとか。
 その被害者100人だとか。
 それらの事は記憶喪失となって、すべてなかった事にしたとか。

 出るわ出るわ出るわ。


 そんな人間が、ネギ先生をたぶらかそうとしている?


「それは、本当なのですかー!?」
「本当にその人かは知らないよー」

 
 麻帆良のパパラッチこと朝倉に確認に行く。告白の件についても、聞くためだ。


 まさか彼が、その噂の彼?

「ああ。その噂の当人なら、そうだね~」

「なっ、なんという事でしょう!」

「ただ、その噂、全部噂でウラの取れてるのは一個もないから、デマって事も」

「ですが火のない所に煙は立ちませんわ!」


 実際妊娠事件は目撃者多数だし。
 男子とねんごろもかなり信憑性は高く。
 記憶喪失も事実。

 事実をふくんでいるため、この噂は彼にとって悪い方向で性質が悪かった。

 ちなみに昔桜咲刹那と噂にあがった事は忘れ去られているようだ。


 だが、確定情報ではない。


「あらあら。それなら、直接聞いてみたらどうかしら?」

「それですわ!!」



「一応、こっちでも告白の件とかウラとってみるね~」


 こうして、彼女達は一度解散した。




 この後は原作の流れどおり、朝倉魔法バレが発生し、カモとパパラッチが同盟を組む事となりましたとさ。




──────





 ……あの、いきなりですけど、なんでしょう。これ?


 今俺、なぜか3-Aの子達の部屋のある階の廊下で、正座させられています。
 夜、飲み物を買いに出てきてみたら、こうなってます。


 目の前には、3-Aの子達。


 ほら、ショタLOVEの委員長とその他あんまり主要じゃないネギクラスの面々てやつ?
 いや、こっちだとネギ女の子だから……まいっか。LOVEは変わってないようだし。


「さて、話していただきましょうか」

「えーっと、なにをでしょう?」

「とぼけないでください! 多くの女性では飽き足らず、ネギ先生までその毒牙をかけようとしたのでしょう!! ネタは上がっているのですよ! こうなったら雪広財閥の全権力をかけ、社会的に葬ってもよいのですよ!」



 えええええー!? なにそれ!? 俺なにしたのー!?



「心当たりがおありでしょう!?」


 こうやって囲まれて、尋問される、心、あたり……?
 しかも、ネギ関係……?



 ……昨日の、温泉の一件を思い出した。



「いや、昨日のアレは……」


「昨日のおぉぉぉぉ!!!?」


 委員長が、驚いている。
 周囲の子達はきゃー。じゃあネギ先生それでーとか声が上がった。
 え? 違う、の……?


「昨日!? 昨日もあなたはネギ先生にナニカしたんですか!? したんですね!?」


 ひえー。藪を突いて般若が出てきたー。


「まさか、やましい事をネギ先生にしたんじゃないでしょうね! どうなんですか!?」


 ……

 ……し、しました。特大の事を。
 事故だからと言っても、そんな事知られたら、それこそ万死に値するクラスの事を……



「あ、え、い、いや……」


 事故とはいえ、女の子の裸を見た俺は、その問いに答えを返せなかった。
 やばい。この態度はやばい。

 これじゃ俺はナニカしましたと言っているようなものだ。



 だが、この瞬間。




「ちょーっと待ったー!」


 そこにパパラッチが現れた。




 結論から言おう。
 原作にもあったネギの唇争奪戦。それが開催される事となった。



 ……俺も、参加する事となって。



 なんかよくわからんが、巧みな話術でみんな乗せられたようだ。


 しかし、幸運だった。彼女がやってきたために、俺のあの態度が誰にもばれていなかった。となると、昨日の件がばれるのを防ぐため、オコジョが行動を起したという事か。
 借りが出来てしまったな。だから参加はしてやろう。仮契約はしてやらんが。


 ところで、もしネギ先生が受け入れるなら拒否する権利は誰にもない。とか言ってたけど、このゲーム自体ネギの唇を奪うゲームだよね。
 拒否とか意味なくね?



「あなたのような馬の骨には決して負けませんからね!」
 委員長さんに言われました。
 ちょう敵視されてます。
 まあ。君から見れば俺明らかに危険人物だもんね。あんな噂漂う奴をネギに近寄らせたくないよね。
 安心してください。ネギに変な事とかするつもりはないから。
 でも、これだけ想われているネギはある意味幸せ者だよね。


 他の人達はワリとあきれた目で見てます。
 むしろ俺VSいいんちょの対戦が見ものみたいです。
 やめてよね。俺が本気を出した彼女にかなうわけないじゃない。




 準備期間中に逃げようかと思ったけど、3-A武道派少女が見張りにいて逃がしてもらえませんでした。



「ふっふっふ。楽しみアル」
「その実力、見せてもらうでござる」
 ……格闘少女ズが原作よりやる気があふれているのは俺と戦えるからですか?
 こっちもやめてください。枕オンリーといっても、勝てる気しません。
 ちなみにこれ、約束の1回と数えないそうです。一対一の勝負じゃないからってさ。とほほ。
 あと、彼女達メインキャラは争奪戦開催決定後にやってきたため、さっきのやりとりは聞いてない。



 ところで。俺の枕ないんだけど。
「ハンデです」

 俺一人なんだけど。
「ハンデです」


 男なんだからこの程度の困難切り抜けろだって。

 花嫁さらいに行く花婿じゃないんだから。



 ……まあ、いいや。



 はじまったらさっさとスタコラサッサすりゃいいんだから。
 今後の展開に影響が出ないように。


 戻ったらまた幼女怒ってんだろうな~。
 まだ飲み物も買ってないしな~。








 時間になり、ラブラブキッス大作戦が、はじまった。



「さあ、いくアルよ!」
「ござるな」



 俺の目の前で、見張りをしていた格闘少女ズが、枕をかまえる。



「おーけーおーけー」

 俺は、ぺろりと指を舐め、逃げる体勢に入った。





───雪広あやか───




 あの時、私以外の誰も気づいてはいませんでしたが、私は、見逃しませんでした。

 私が「やましい事をネギ先生にしたのか?」と言った時の、彼の動揺を。


 あの動揺。あれは、明らかに、ナニカをしていた態度だった。
 あれは、まさに、その身が語っていました!

『私は、ネギ先生に、君には話せないような、後ろめたい事を、しました』

 と。


 最初は噂の真偽を確認し、ネギ先生にふさわしい男かを見るつもりでしたが、もう別問題です。
 むしろ確認できました。噂なんて生ぬるいじゃないですか!

 まさか、昨日すでに、ネギ先生に後ろめたい事をしているなんて!

 私達3-Aの宝物。

 そのネギ先生に!


 この時点で、私は。雪広あやかが。彼をネギ先生に近づけてはいけない。と、確信したのも、当然でしょう。


 これ以上、ネギ先生をたぶらかせてなるものですか!
 その上、飛び入りでネギ先生の唇を奪おうなど、断じて許してなるものか!

 ネギ先生の唇を奪うなど、万死に値します!!




 彼女は、本能的に感じ取っていた。
 彼が、自分の人生、最大のライバルになるであろうと。


 ここで、2度とネギ先生に近づかないようにしておかなければ、大変な事となると、確信していた。


 彼女は、ネギに、すでに失われてしまった妹の姿を見ていた。

 それゆえ、彼女の幸せを願っている。


 幸せを願っているがゆえ、『やましい事』をしたなどという不埒者を、許してはおけなかった。

 それは、姉として、当たり前の事だった。




 彼女がもし、昨日の顛末を知ったら、彼に万死を与えるどころじゃすまなかっただろう。
 そういう意味では、彼は、まだ幸運だったのかもしれない……



 ……え? どの道万死だからそれ以上ないって? そーかもねー。





───長谷川千雨───




 ったく、くっだらねー。
 なんで私がこんな事を。那波に村上にピエロめ逃げやがって。


「つべこべいわず援護なさいな。ネギ先生は私が守るのですから! あの不埒者に万死を与えてやります!」

「枕で?」


 ただのゲームだろコレ。ついでに先生に男の友達がいてもいいじゃねーか。


「安心なさい。こんな事もあろうかと、枕にショットガンを仕込んでおきましたの!」


 ……


「なに。ちゃんとゴム弾ですから死にはしませんわ。ついでにいざとなったら当家が責任を持ってもみ消しますので。おほほほほほほ」


 ……オイオイ、マジかよ。なんでそんなに怒ってんだよ。
 そんなにあの子供先生大事なのか?
 そういやなんかすげー悪い噂のある奴だとか言ってたっけ。

 だからってそこまでするか普通?


「いや、やりすぎだろ……」

「なにをおっしゃいますか! あの方はネギ先生になにか後ろめたい事をしたのは確実なんですよ! あのネギ先生を狙っているんですよ! 即座に排除しなくてはネギ先生が汚されてしまいますわ!」

「別に手を出したわけでもないのにそこまでするか?」

「ですから手を出す前にどうにかするんじゃないですか!!」


 ああー。なっと……く?

 いやいやいや、納得しちゃ駄目だろ。
 納得するって事はこいつらの考えに染まるって事だ。

 それは断固お断りしなくては。


「やっぱいいんちょ。私やっぱかえっちゃ……」




 その時。




「ふー。なんとかまいたか……」


 そんな声と共に、いいんちょの目標であるあの男が、この場に現れた。


「見つけましたわー!!」
「げっ……」


 な、なんて間の悪い奴……


「格闘少女ズの次は君か……」


 あの男がげんなりとしている。
 そもそもあの二人相手にこっちまで逃げて来ていたのが驚きだ。
 ただの一般生徒にしか見えねーのに、意外にすごい奴なのか?



 どぱぁん!
 廊下にあった花瓶が爆砕した……


 ちょっ!


 奴もびっくりしている。
 そりゃ、枕からゴム弾が出たら驚くだろうし、花瓶が粉砕される威力なんて足も止まるよ。


「次は外しませんわ!!」


 いいんちょが、男に枕を向ける。


「ちょまー!」

 体をひねり、散弾をかわす男。
 オイオイ。あんたも散弾をかわすって何者だよ……


 そして、そのままこちら。


「すばしっこいですわね!」


 枕を向けようとしているいいんちょに向かって走ってくる。


 って、はやっ!
 なんだこの動きとスピード!

 それはまるで、稲妻みてーだ!


 一瞬にして、いいんちょの横を通り抜けた。


 それでも、いいんちょも負けないくらい超反応して、振り返り、そのまま動く男に標準を定め、枕ショットガンの引き金を……



 ……って? え?



 位置が入れ替わったせいか、いつの間にか、アイツと、ショットガンの銃口の後ろに、私がいる事に気づいた。
 図にするとこう。委員長=男=私。

 もし、奴が、ゴム弾をかわしたら……?
 そもそもあれ、散弾じゃ……?


「もらいましたわ!」
 いいんちょの奴、熱くなりすぎて私が見えてねぇ!
 それとも、私は男の影になっていて見えないのか!?




「くっ!」


 だぁん!!


 発砲音。
 ついで来る、衝撃……








 ……は、なかった。




 ……え?



 あのゴム弾は、花瓶を爆砕させるほどの威力。
 あんなもの、誰も当たりたくはないだろう。

 その威力を、あの男は、知っているのに……


 それなのに。

 私の目の前に、その、男がいた。


 私には一発のゴム弾も来ていない。それはつまり、彼が、銃弾すべてを浴びたと言ってもいい。
 この男は、弾丸をかわせるはずなのに。

 その威力を、知っているのに……

 

「迷惑かけて悪かったな」
 男は、そう言って、私の頭に一度手をぽんとのせ、微笑えんだ。とても、優しい声で。


 ……なんであんたは、こんな馬鹿みたいな状況で、笑っているんだ?


 そのまま彼は、いいんちょの方を振り向き。
 いいんちょも、私がいた事に気づいて一瞬驚き。彼もそれに頷き返した。


 グッジョブ!


 そんな感じで二人は親指を立て。


 いいんちょは、一人親指を、下にむけた。

 その瞬間。



『ジャッジメント!!』



「うぼぁー」

 変な空耳が響いて、なぜか奴が真上に吹っ飛んでいった。 

 そのまま、床に落下……


「正義は、勝つ!!」


 委員長がポーズを決めると、床に落下した男が、ピンク色の爆発に包まれた。


「うぉい!!」

 思わず叫んだ。
 なんじゃそりゃー!!


「しまった! 逃げられた!?」


 しかも、煙がなくなったら、男は消え失せていた。
 な、なんなんだ今の……?


 ここまで来ると、あのショットガンも完全に演出のようにしか見えない。
 多分カメラで観戦している奴等は大興奮大喝采だろう。
 まるで特撮かなにかだ。


 つーかおかしいと思ってるの私だけか!?
 この場合私がおかしいのかー!?


「おまちなさーい!」
 いいんちょは一人、どこかへ駆けて行った。


「……や、やっぱついていけねぇ」


 この3-Aのノリは、やっぱり苦手だ……


「……このままズラからせてもらうか。ホームページの更新もあるしな」





 彼女がげんなりしつつ歩き、角を曲がったところで、そこを、監視の新田先生が通りかかった。
 が、すでに通り過ぎた彼女を発見するにはいたらなかった。

 ほんの少しの幸運が、彼女に舞い降りた瞬間である。



 それと補足だが、近衛このかは、昨日彼の背中しか見ていないので、この彼と昨日の彼が同一人物だとは気づかなかった(顔は明日菜にボコボコにされ判別不能)





───カモ───





「へっへっへ。予想外だったが、まさかダンナまで巻きこめるとは思わなかったぜ」

「あの人ってなんなの?」


 本日俺の相棒となった朝倉の姉さんが聞いてくる。


「すげー人さ。あの人から仮契約をもぎ取れりゃ、最高だぜ!」


 アネさん達は頑なに力を借りようとしねえが、仮契約さえしちまえば、もう身内も同然。力を貸してくれるに違いねえ!
 ……ところで、もっと確実なネタあった気がすんだが、思い出せねえんだよな……(正気を保つため忘れた)


「へー。噂じゃかなりアレな人だけど、いいの?」

「そりゃ仮初の姿って奴だ。情報に踊らされてるぜ」

「そっか。それじゃこれでウラが取れたと。と」

「これでダンナとも仮契約が出来て、カード一枚につき5万オコジョドル儲かるから大金持ちだぜー!」

「ひゅーひゅー!」

「さあダンナ! ネギのアネさんの唇をぶちゅーっと!」

「え? でもあの人、負けちゃったよ」


 いいんちょジャッジメントを食らって、床にぼてりと落ちたダンナが見えた。


「なにいぃぃぃぃぃぃ!? なんでダンナが!? ダンナをもってすれば、こんな勝負楽勝じゃねーか!」

「あっさり負けちゃったねぇ」

「ん? いや……いない?」


『おまちなさーい!』
 委員長がダンナを探して走り抜けていく。


「ダ、ダンナはどこ行っちまったんだ?」


「ここだよ」


 ダンナの声が、入り口から響いた。


「ひゃぁ!?」
 朝倉の姉さんびっくり。

「あ、そっちは俺に気にせず解説続けて」
「は、はあ」


「ダ、ダンナ……?」
「ああ。棄権しにきたんだ。さっきので失格になったとしておいてくれ」

「は、はあ」

「悪いな。俺に助け舟を出す意味もあって、こんな事を企画してくれたんだろ? 期待には答えられないが、助かったよ。ありがとう」


 ぽふぽふと、あの人は、オレッチの頭を撫でた。

 オ、オレッチはただ、仮契約のためにやっただけだってのに。自分のためにやったってのにダンナってば……
 オレッチは、いつも誰かに叱られて生きてきた。やる事は必ず怒られた。今回も怒られると覚悟してた。それなのに……
 それなのに……
 そんなオレッチに、ありがとうなんて……

 アタイ、ダンナになら、操をささげてもいいかも。


「このクラスはいいクラスだね。ネギ先生がすごく慕われているのはわかった。それじゃ、俺もう帰るから」

「はーい。意外と、悪い人じゃないって伝えておいてもいいけどー?」

「いやいや。噂どおりの悪人のままでいいよ。下手に話を広げると、今度はネギに迷惑がかかる。このまま俺みたいな奴の事は忘れてもらってけっこう」


 そう言って、ダンナは、いつもの敬礼にもよくにて、その後手首を返すポーズをとってオレ達のいる部屋から出て行った。

 そのままもう、ダンナをカメラで捕らえる事は出来なくなっちまった。さすがすげぇぜ。


「案外いい人だね」

「むしろダンナいい人過ぎるんだよ。今回もそれで損したに違いねぇ」


 得もないのに、ネギのアネさんのため、エヴァンジェリンに『サウザンドマスター』の事を教えて欲しいと頼むとか。
 さっきの、アネさんに迷惑がかからないように自分が悪くてかまわないとか。
 昨日も、悪くもないのに、自分が悪いと言っ……昨日? きのうー?


「そっかー。珍しい人もいたもんだねぇ」

「そうなんだ……よ?」


 ……ん?

「なあ、姉さん」

「何よ?」


 ふとカメラを見て、気づいた。


「ネギのアネさんが、5人いるように見える……」
「え……?」


 なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!?




──────




 はじまった瞬間、カンフー&忍者少女に襲撃を受けたけど、ポケットの中に用意しておいた『デンコーセッカ』を服用し、逃げ出した。
 武器が枕のみだったのが幸いでした。投げたのをかわしたら拾いに行かなきゃならないからな。


『デンコーセッカ』
 薬剤。服用すると電光石火の速さで動き回ることができる。瓶入り液体であり、この際はポケットの中で蓋を開け、指で舐めとる形で服用。当然効果時間は短くなるが、服用の早さという点を優先した。
 ちなみに四次元ポケットの中は上下はないので、蓋を開けたままでもこぼれるような心配はない。


 でも、逃げた先には委員長がいました。
 こっちは装備が反則です。
 枕の中にショットガンですか。ネギのタメに俺を排除する気満々ですね。
 という事は、あの動揺、彼女にはバレたって事か。さすがネギラブっ子鋭すぎる。
 でもそういう手段を選ばないお金持ち。おじさん嫌いじゃないです。
 対象が自分なのは困ったものだけど。

 即効逃げようとしたけど、立ち居地を失敗。
 名前覚えてないけど、メガネちゃんを巻きこんでしまいました。

 というか、委員長さん反応力高すぎです。『デンコーセッカ』に反応できるって、どれだけ超反応ですか?(単に効果が薄くなってきていただけ)
 つまりそれだけ怒ってるという事ですね。ネギを守る事が力になった。愛は強し。わかります。

 幸い『デンコーセッカ』を服用中だったから、弾丸は止まったように見えた。
 もう、覚悟を決めて、『ウルトラくすり』を服用。

 こっちは飲むと体が鉄のように硬くなるので、ダメージ自体はなし。メガネちゃんがちょっとびっくりしてたけど、説明するのも面倒なので、笑ってごまかしつつ、そのまま決着。
 ちなみに薬はカメラとかには写らないよう影にして飲んだので誰にも見られてはいないと思う。


 ジャッジメント爆発は、多分委員長が用意したんだろ。俺は知らね。
 ショットガンの弾になにかあったんじゃね?


 煙にまぎれて俺は撤退。


 この後小動物に棄権を伝えて、俺は『石ころ帽子』を被ってこっそり本屋ちゃんの方を確認しに行った。
 俺が関わったから、またこれで原作に齟齬が生まれてもらっては困るから。
 ちなみに『石ころ帽子』は監視カメラに写っていてもかぶっている『俺』は認識できないので俺とばれる事はないので安心だ(カメラには写っていても人は俺がいるとわからない)


「友達からはじめましょう」
「はい!」


 別に俺がなにかをせずとも、本屋ちゃんは本物のネギと出会えてました。


 無事、仮契約終了。


 ふー。よかったよかった。
 俺が関わって仮契約失敗。明日俺がどうにかしないと! なんて展開を期待した奴もいるかもしれんが、そんな事なかったぜ!




 やっぱり、『俺』がメインキャラに絡まれなければ、原作と変わらず進むんだよ。

 そう、俺は確信した。
 







 だから悪いな。
 正座させられる君達は見捨てねばならん。

 本当に、すまない。

 しゅっと『石ころ帽子』を被ったまま、いつものポーズでロビーのネギ達に別れを告げた。












「……それで? 言い訳は?」
「ございません」



 部屋に戻ると、予想通り怒りマックスの幼女に叱られました。
 二日連続でなにやってるんだって。



 ロビーのネギ達と同じように。俺も部屋で、正座&説教を食らいました。



「大体だな貴様は──!!」
「すみませーん」




 ぺこぺこ。




 こうして俺の修学旅行二日目は、終わりを告げる。






───おまけ───




 クーの話に出てきていた御仁と枕が武器ながら、戦う機会を得た。
 昨日他の班員に紹介したらしいのだが、丁度拙者は席をはずしていたので、この時が初対面でござった。

 勝負がはじまり、あの御仁が構える。



 この方、でき……





 ……ない!! とんでもないシロートでござる!




 だが、その認識は一瞬にして覆された。拙者がそう油断した瞬間、あの御仁は我等をまいてしまったのだから。

 その速さ、まさに電光石火。

 実戦であったならば、あの油断は致命的。あの速度。気づいた瞬間に死んでいてもおかしくはない。
 いやはや、これが百聞は一見にしかず。でござるか。
 これが、クーの言っていた、あの御仁の怖さ。


 世の中は広いものでござるな。





─あとがき─

 主人公、3-Aの子達と出会うの巻。
 噂の確認で召集されたのに、一人で勝手に自爆。おかげでネギの守護者に目をつけられてしまいました。

 警戒するではなくてすでに危険人物指定です。
 そりゃあネギにやましい事をしたなんて知ったら仕方もありません。
 真実が知られたらどうなる事やら。

 キスイベントでキスをする側で参加する主人公は珍しいと思う。
 いや、それだけですが。

 ちなみに『ジャッジメント』はショットガンの弾丸に仕掛けがしてあったんです。多分。
 気になる人は彼と道具が空気を読んだという事で(第1話で『ひらりマント』発動したみたいに……あれ? これのがありそうじゃね?)
 それでも納得いかない方は、彼の帰りを待つエヴァの姿でも想像していればいいさ。



[6617] ネギえもん ─第11話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/03/31 21:58
初出 2009/03/27 以後修正

─第11話─




 ついに修学旅行編もクライマックス!




──────




 ふー。どうやら、修学旅行も無事に終わりそうです。

 初日。お嬢様の温泉での誘拐未遂のところにいたが、完全背景だったので問題なし。
 二日目。ネギの唇争奪戦に巻きこまれたが、速攻棄権し、予定は狂うことなく本屋ちゃんの仮契約も成功。問題なし。

 そしてなにより、関西呪術協会の奴等とは一切接触していない。
 初日俺が背景に少し関わったくらいじゃ結果は変わっていないようだった。
 ならば、幼女の時のようなイレギュラーは発生していないはず! 敵が警戒するとか、戦力を増強させているとかはないはずだ! よって、問題なし!!


 今日さえ俺が干渉しなければ、きっと原作と同じ流れのまま進むだろう。
 幼女の時みたいにネギ敗北とかなる事もないだろう。


 あとは夜幼女があのでっかい鬼を倒しに行けばいいだけ。
 たしか、リョウメンノスクナだっけ? いや、リョウメンスクナ? スクナでいいや。

 それを倒して、お嬢様が本部を回復させて、めでたしめでたし。と。


 そこに俺が絡む余地はまったくない!



 だが、ここ初日二日目を見ていると、俺がほいほい外に出るのは危険だ。非常に危険だ。
 もう「俺が歩けば原作に当たる」というような格言が出来そうなくらい危険だ。
 日程の2/2で原作イベント遭遇。しかも二度ある事は三度あるということわざがあるから、部屋の外に出るだけで危ない。



 よって俺は、今日はこの宿の部屋に引きこもる事を決断した!



『病気になる薬~』
 ぺけててってて~。

 未来の世界の子供たちがお医者さんごっこに使う薬で、これを飲むと偽の病気となり、顔が真っ赤になって熱が出たり、顔が青くなって体温が氷のように冷たくなったりする。本人の気分はなんともなく、水を飲めば元に戻る。


 これを使って、本日の観光はお休みするのだー!


 か、完璧だ。今日ほど俺がネギ達の邪魔をしない完璧なプランはないぜ。
 俺が歩かなければ原作に当たらない!

 これで、ネギ達の、邪魔をする事は、絶対に、ない!!


 ベッドの中で、ひょいっと服用する。



「……顔が赤いな」


 服用して上を向いたら中身幼女が目の前にいた。


 おいおい。なんで俺のベッドを覗きこむようにしてんだよ。恥ずかしいじゃないか。
 顔が赤いのは薬の効果のせいだが。


 ……あ。

 幼女を見て気づく。

 しまった!
 幼女が一人で観光に行くという可能性を失念していた!
 本来なら他に人がいるから問題ないはずだが、今は俺と幼女のみ。
 だとすると、他の班に入れられて回る可能性がある。しかも、ネギ達を避けていないコースで。
 こいつも俺と同じイレギュラー。
 俺よりむしろこいつが乱入する方がもっとまずいだろ!


 や、やばい。だが、もう薬を服用してしまった。

 これは、しかたがない!


 俺を置いて部屋を出ようとする幼女のすそをつかむ。


「……いて、もらえないか?」


 こうなったら悪いが、俺を看病してもらって、一緒にここで時間をつぶしてもらおう。
 悪いな。明日、『サウザンドマスター』の住居に行けるから。
 今日は我慢してくれ。



「……し、仕方ないな。盛大に感謝しろよ!」


「ありがとな」


「っ!」

 俺の手を払いのけ、ドアの方へ走っていってしまった。


 げっ、まさかあれか? イエスと言っておいて実はノーという極悪なプレイなのか!?


「た、担任に伝えてきてやる! 看病してやるから起き上がるな! 大人しく寝ていろ」

「あ、はい」

 体を起そうとした瞬間、そう言われ、俺は安心してベッドに戻った。




 ふ~。これで安心だZE!





───エヴァンジェリン───





 修学旅行三日目。
 今日から京都におけるナギの住居探しの本番だ。

 幸いと言ってはなんだが、他の班員もいない事だし、自由行動すべてを住居探しに当ててしまっても問題はないだろう。
 私の行きたいところは昨日行ってしまったからな。

 どうせ奴は文句を言いながらもついてくるはずだ。


 なにせ奴は、私の下僕候補1号だからな!


 などと考え、奴が起きる前に着替えを済ませたのだが、奴の様子がおかしい事に気づいた(ちなみに着替えは部屋風呂の脱衣所でしている)


「おい」

「んっ……」


 奴のベッドを覗きこむと、その奴は、息が荒く、顔も赤かった。
 明らかに、体調を崩している。


 見た限り、風邪だろう。
 私も魔力を封じられていた時は花粉症などにかかった事もあるからな。この程度ならわかる。
 こいつも、風邪くらいは引くのだな。


 ……そういえば、一昨日は風呂でのぼせたのか、そのままロビーで放置され、昨日は私が遅くまで説教していたな。
 しかも、ここは疲労も溜まる旅先。
 ならば、体調を崩しても、ある意味不思議ではない。
 一般人なら。の話だが、そんなところまで一般人を擬態しなくてもいいだろうに。


「……顔が赤いな」
 大丈夫か? そう声をかけたつもりだが、出た言葉は見下した声。
 まったく私は。こんな時くらい優しい言葉もかけてやれないのか。


 私の声に気づいたのか、奴がこちらを見た。



 熱によって上気したほお。
 艶っぽく濡れた唇。
 潤んだ瞳。
 荒い吐息。


 ……少し、色っぽいとか思ったが、気のせいだ。


 目の前に私がいる事に認識しているのか、いないのか、それもよくわからない。
 視線を虚空にさまよわせている。
 これは重症だな。



 しかたがないな。担任に言って、薬と、今日の観光は無理だと伝えてくるか。


 そう思い、私が立ち上がろうとすると。


 熱で真っ赤になった奴が、私の服のすそをつかみ……


「いて、もらえないか?」


 ……そう言った。



 どきっ。
 思わず、心臓が高鳴る。


 いつも、堂々とし、私にも一歩も引かない強気の男。
 それが、今、私にだけ見せた、弱さ。


 いて欲しいなど、言うような奴には思えなかった。
 こいつもナギと同じで、ひょうひょうと、一人でどこまでも歩いてゆく奴だと思っていた。



 その奴が、熱にうなされたとはいえ、そんな姿を、私に見せたのだ。
 しかも、「ありがとう」と言われてしまった。



 ……



 ま、まったく、しかたがないな。
 看病くらいしてやるろう。


 こいつに恩を売っておいてもまったく損はないからな。


 感謝しろよ。この私。真祖の吸血鬼に看病された者など、今まで一人もいないのだから。



 特別に、ナギの住居を探しに行くのは、後に回してやろう。



 私の予定を崩したのだから、貸し一つだな。そうだ。貴様にちょっかいをかけないというのを無効にしてもらうか。


 これはいい考えだな。


 うん。私に迷惑をかけたのだ。これくらいでなくてはな。



 うん。





──────





 無事、今日はこの旅館で中身幼女と観光はお休みとなりました。

 幼女が担任に報告と、薬を貰ってきてくれました。

 医者にかかるか? と言われたけど、今日一日寝ていれば夜には良くなるので、明日まで寝て駄目だったらかかる。とやんわり断った。

 風邪と診断されるのが目に見えてるからね。




「……お前でも、風邪をひく事もあるんだな」


 薬を持ってきた中身幼女が、バカにしてきました。
 はっ、安心しろよ。実際風邪なんてひいてねーから間違いじゃないんだぜ!


「修学旅行だから、少しはしゃぎすぎたみたいだな。まあ、今日の夜までには治るよ」

「そうか。……というか、お前ならばこの程度の病。あっさりと治せるんじゃないか?」

「命の危険もないのに、なんでも超常の力に頼ってたら堕落するばかりだからな。このくらいならのんびりと治すくらいがいいのさ」

 実際には水を飲むだけで治っちまうからなぁ!
 ソレっぽい事言って誤魔化すしかないのさ!


「ふん」


 悪いな。愛しのナギ住居を探しにいけなくてよ。
 まあ、明日には行けるから気にすんな!










「おい」

 しばらくして、声をかけられました。


 ……あれ?


 なんでお前幼女の姿に戻ってんの?


「お前、その姿になっちゃ駄目じゃん」
「気にするな」


 そう言いながら、幼女が俺のオデコに手をのせる。

 あ、ひんやりつめてー。

 これ、ホントに熱がなくても気持ちいいわ~。


 あー。そういや、昨日正座で説教されていたから、寝不足だったっけ。
 丁度いいや。このまま、二度寝するべかー。



「すー」





───エヴァンジェリン───





 ……寝たか。
 熱でつらいくせに無茶をするな。

 私も、ひどい風邪のつらさ位は、理解している。


 思わず、元の姿に戻り、この手で奴の熱を奪ってしまった(魔術的処置だ。悪化を促すとか勘違いするなよ。氷嚢と同じようなものだ)
 人としての温もりまで、一時的に戻ったのを、感じる。


 ……力にばかり頼っていると、堕落する。か。
 だからお前は、普段から一般人とかわらない生活を続けているのか?


 こいつが、徹底して一般人を装う気持ちは、私にはよくわかる。
 大きすぎる力。人と違いすぎる力は、悪意しか呼びこまないからだ。
 この男は、自らの平穏を乱す敵には容赦はないが、敵とみなさないものには、優しすぎるきらいがある。昨日見せた、修学旅行を休んだ班員への配慮などがそうだ。
 それゆえ、周囲を守るためにも、擬態を徹底して行っているのだろう……
 あの、桜咲刹那に言った、「変身は、身近な者を守るためにする」この言葉のように。
 こいつにとって、その『一般人』の仮面は、まさにその変身そのものだ。


 それなのに、私という平穏を乱す可能性のある異物が、傍らにいる。
 本当に平穏を望むのならば、私を追い出すのが筋だ。
 こいつが本気になれば、それも簡単だろう。
 それなのに、こいつは、それをしない。
 私は、お前の敵でしかないはずなのに……


 なぜ、私を傍に置いたままにするの?
 なぜ、エドの正体を知っても、普通の友達と同じようにつきあえるの?

 なぜ?
 なぜ?
 なぜ?


 こいつといると、吸血鬼として当然だと思っていた事が、次々と剥がれ落ちてゆく。


 だが、それも悪くないと感じる、自分がいた。




 今、彼女にとって、この日々はとても新鮮で、かけがえのないものだった。


 この日々は、ただ、普通の日々を過ごすという事。
 『サウザンドマスター』が、彼女にしてみるがいいと、言った事。
 だが、呪いという枷のせいで、逆に実現しきれていなかった事。



 しかし、普通の日々を体験した事のない彼女にとって、それがなんなのか、まだ理解できていなかった。


 それゆえ彼女も、悪意を呼び寄せると知りつつも、彼の傍を、離れられないのだ。

 そして、彼女もまた、気づかない。
 彼が追い出さないのもまた、彼が、彼女を、すでに敵とみなしていないのだという事に。




 なぜ、私は、こいつの事が、こんなにも気になるのだろう……?




「ふん」


 私の目の前でぐーすか寝おって。
 寝首をかかれても知らんぞ。

 本当にバカな奴だ。
 そう思いつつ、奴の顔をつつく。
 


 つついていると、私の指が、奴の唇に触れた。



 ふっ。



 奴の息が、私の指に触れる。


「っ」


 まるで、指が熱を持ったように、熱く感じた。


「……」


 その熱が、指を伝わり、そのまま、頬へ、頭へと移り、私の脳を、焼く。



「……」



 そのまま私は……



「……」




 奴に、引き寄せられるよう、自分の唇を近づける……




 とくん。とくん。とくん。




 自分の鼓動だけが、とても大きく響く……





 とくん。とくん。とくん……






 私の唇が、奴の……







 とくん。とくん。とくん……









 唇に……












 こんこん。
「マグダエルくーん。いるかしらー?」
 担任の声が、響いた。



「ひゃぁぁぁあ!!?」



 思いっきり飛び跳ねた。
 ちょっ!? ま、まぁっ!?



「ど、どうしたの!?」
 担任がドアを開けようとしている。


 ま、まずい。今エドの姿ではない。この姿はさすがに見つかるのもまずい。

 変身。ああ、間違えた! 違う。これでもない!


 あせあせ。





───担任───




 はい皆さんはじめまして。彼等の担任です。
 今から他の子達の引率のために旅館から出なければならないんですが、『彼』の方を一応見ておこうかと思い、部屋にやってきました。
 マグダエル君が『彼』を看病すると言ってきましたが、生徒だけに看病させるのも問題かと思って。
 それに、『彼』の悪い噂。私は今年からこのクラスの担任となったので、『彼』の『事情』は聞いているけれど、その『過去』は完全に把握していない。なので、彼の悪い噂が本当なのか嘘なのかは完全に判断できない(だから最初職員室に呼んだ)
 授業態度などは非常に良好で真面目。そんな噂があるとは思えないのだけど、念のためにね。


 でも、ノックしたら、中から少女の悲鳴が聞こえた。

 何事!?


「大丈夫!?」
 私が入ってみると、大慌てしているエド君と、ぐっすり寝ている彼がいた。


 あれー? 少女はー?


 なんでマグダエル君の服が少し乱れてそんなにあわててるのー?
 見た限り、人の隠れられるスペースや怪しい場所もないわよねー?
 ひょっとしてさっきのかわいい声、あなたが出したのー?


「な、なんのようだ!」

「い、いえ、私も一度外へ出なくちゃならないからね。マグダエル君にそれを伝えておこうと思って」


 とんでもない剣幕だったので、一体なにがあったの? とは聞けなかった。


「でもいいの? 他の班に入って観光してきてもいいのよ?」


 そう。これも聞かなければならなかった事。
 なんなら先生が看病するし。


「ふん。こいつのいない班と一緒にまわるつもりはない!」


 わぉ。


「そう。なら、彼の看病お願いね」

「当然だ」


 ものすごい勢いで扉を閉められた。

 どうやら、彼の事はマグダエル君に任せておけばよいようだ。


「やっぱりあの二人転校当初から怪しいとは思ったけど、やっぱり。腐腐腐腐腐腐腐」


 タイミング的にマグダエル君が。アレしてコレしようとして。こいつはすまんかった。

 教師としてはアレだが、このくらいの趣味はいいだろう。
 これは漫研員の一人であるパルちゃんにも教えてあげた方がいいわよね。
 腐腐。腐腐腐腐腐腐。



 先生、心の中では応援するわよー。




──────




 一方その頃。

 ネギ一向は無限回廊に閉じこめられ、関西呪術協会の刺客と戦っていた。


「俺は、女は殴らんのや!」
「僕女ですけど!?」
「お前みたいな、ズボンはいとる奴が女なわけあらへん!」

「えぇー!?」

 こんなかわいい子が女の子のはずがない。
 それと同じくらい理不尽な理論であった。




──────





 昼になった。



 なにやら、いいにおいがして、目が覚めた。

「ああ。丁度良く目が覚めたな」

 そこには、お粥を入れた土鍋を持った幼女が立っていた。
 ひょっとしてお前ずっと幼女の姿のままだったのか?


「粥を作ってきた。感謝しろよ」

「……え? 作ってきたってまさか?」


 そのまさかだった。
 宿の従業員に頼んで厨房を借りたのだそうだ。


「……ちゃんと頼んだのか?」
「当たり前だ」

 催眠術的に。

「全然お願いしてねーじゃねえか」


「いいから食え!」

「えー」
 だってどう考えてもアレな料理しか考えられないじゃーん。

「わがままな奴だ。しかたがないな。ほれ、口をあけろ」


 幼女にあーん強要されたぁ!

 なんたる屈辱。


「どうした? ほら、口をひらけ」


 うわ、なんか面白そうに笑ってやがる。


「このやろう」

「なんなら流しこんでもいいぞ?」

「病人にも容赦ないなお前!」

「強引に流しこまれるか、口を開くかだ。どうする?」

「俺が自分で食べるというのは?」
「ない」


 即答でした。


「へいへい。あーん」

「あ、あーん」


 おい、なんでそっちが少し恥ずかしそうにする。


「……はぐ」

「ど、どうだ……?」

「……意外に。美味しいじゃないか」

「意外にとは、貴様今舌も麻痺しているようだな」


 おい、だからって連続で俺の口に運んでくるな。熱い。熱い。熱い。


「火傷するだろーが!」


 カウンター気味にチョップを一発かましておいた。


「い、いたいじゃないか……」
「障壁があるくせに嘘つくな」

「き、貴様の前では障壁は展開していないんだ。気をつけろ!」

「はぁ?」


 意味がわかりません。


「うるさい! いいから食え!」

「はいはい、あーん」


 素直に口を開いたら、またすごい勢いで詰めこまれました。


「あむぅ、熱い! 熱いつーの!」


 結局全部食べさせてもらいました。



 ……これ、仮病とかわかったら、たぶん俺殺されるな。



 ちなみに粥は水をふくんでいるので、『薬』の効果が一度切れるが、もう一回風邪薬と見せかけて『薬』を飲んだので問題ないさ!





───エヴァンジェリン───





 ……もう昼か。奴を見ていただけなのに、時間がたつのは早いな。


 昼。し、しかたがないな。病人のために、粥くらいは作ってやろう。


 本当に、しかたがないな。


 私は厨房を借り、病人のため仕方がなく、粥を作った。


 粥を持っていくと、丁度奴も目を覚ましたところだった。

 私が作ったものだと教えたら、少し引いていた。

 失礼な。私が作ったのだ。まずいはずがあるわけあるまい。


 2、3失敗したがな。


 厨房の床にコックが数人倒れているがな(ちなみにエヴァが粥を作るのは当然初めて。教えたのは彼等。コックに拍手を!)



「いいから食え!」

「えー」


 だからこれは大丈夫だ。味見もした。
 病人のために体のいいものもちゃんと入っている。

 食え!

 それでも嫌というならば、しかたがない。


「わがままな奴だ。しかたがないな。ほれ、口をあけろ」


 最終手段だ。
 き、貴様が悪いんだぞ。
 素直に食わんから!


「どうした? ほら、口をひらけ」


 さすがにお前も、これは恥ずかしいようだな。
 ふふふふふ。私の加虐心に少し火がついてしまうではないか。

 もう貴様に拒否は許されんのだ。



「へいへい。あーん」


 観念した奴は、口を開いた。

 そうそう。素直が一番だ。


「あ、あーん」


 ……だ、だが、この行為、思ったよりも、恥ずかしいな!



「……はぐ」

「ど、どうだ……?」

「……意外に。美味しいじゃないか」

「意外にとは、貴様今舌も麻痺しているようだな」


 お、美味しいだと?
 まさか貴様が、素直にそんな事を言うとは思いもよらなかったぞ!

 そうか。美味しいか。美味しいか!
 そのまま、スプーンを何度も奴の口へと運ぶ。


「火傷するだろーが!」


 あ、すまない。つい……


 うれし……いわけじゃないからな! 貴様が熱がるのを見たかったからだ!


 まったく。チョップなどかましおって。
 障壁を張っていると貴様の体温や匂いが感じられない事を逆手に取るとは、貴様策士だな。
 すべては貴様が悪いのだ。

「はぁ?」


「うるさい! いいから食え!」
「はいはい。あーん」


 ちっ、こいつもう慣れたのか。

 私の方は、まだ慣れないというのに……



「ご馳走様でした」

「うむ」

「そしてこの屈辱は忘れない。次お前が寝こんだら同じ事をしてやる」

「ぶっ! な、なにを言っているんだ!」


 本当に、貴様はいきなりなにを言い出す!


「はっ、愚か者め。魔力が戻った私はもう風邪などひかぬわ」

「げ。そうだったか。それは盲点だった」



 ……この時ほど、魔力が戻ってしまった事を悔やんだ事はない。



 別に深い意味はないがな!





──────





 一方その頃桜咲刹那はせっちゃんシネマ村大活劇の巻。をしていた。
 あとネギはちゃんと勝利&脱出し、一時休憩中。





──────





 飯を食べた後、さらに3度寝。


 目を覚ましてみると、俺の腕を枕にして、幼女が同じベッドに寝てました。


 シィット。腕の感覚がねーぜ。


 やってくれましたね。俺が病人だからって容赦したりはしませんか。


 ったく。こんな狭いトコで寝るな。オデコに肉とか書いたろか。


「ん……んん……」


 寝返りをうって外側を向いていたのが俺の方を向いてくる。

 そのまま、俺の胸に顔をうずめはじめた。

 それはまるで、子供が親の温もりを求めるように……


 あー、そういや友達の娘(3歳)もこんな感じだったな。集まった時日向で昼寝していると、いつの間にか腹の上で寝てるとか。
 子供のそういう無邪気なかわいさはいいよね。思わず守りたくなる。特に赤子の愛らしさは異常。

 そんな事を思い出したせいか。俺は思わず、感覚のなくなった手を気合で動かして、幼女の頭をなでた。
 ……キレーな髪してんな。


「……ったく。ホント、こうして寝ている分にはただの幼女なのにな」




 そしてそのまままた眠くなったので、4度寝へと洒落こむ事にしたのであった。



 これだけ眠いって事は、俺、ホント疲れてたんだなぁ。
 実はマジで風邪ひいてたりして。まさかなー。





───エヴァンジェリン───





 昼食も終わり、土鍋を厨房へ戻して戻ってみると、また奴は寝ていた。

 病人は寝る事が仕事だ。

 しっかり寝て、しっかり治せばいい。


「……」


 奴の寝顔を見る。


「ふあ……」
 そうしたら、私も少しだけ、眠くなってきた……
 弱点は克服しているが、やはり昼は眠くなるな。なにもしていないと特にだ(──食後だから吸血鬼とかあんまり関係ない気もするけどネ。ばい天の声)


「……」


 目の前に、ベッドがある。
 だが、私のベッドには今寝具がない。


 ふと、思いついた。
 奴は、寝ている。別に、自分が仮眠をとるわけではない。少し、休むだけだ。
 奴が目を覚ます前に、抜け出してしまえばいいのだ。


 うむ。これはまさに、パーフェクトプラン!


 もぞもぞと、奴のベッドへともぐりこむ。


 ……暖かい。
 熱があるから、少し暑い。かもしれんが。


 だが、この暖かさは、とても、心地よい……

 彼の温もり……彼の、におい……


 ……なぜだろう……


 ナギと一緒にいた時よりも、安心する……




「……すー」

















 ……はっ!


 い、いかん。思わず寝てしまった!


 周囲を見回す。


 どうやら、奴はまだ寝ているようだ。


 あ、危なかった。
 もし、奴が先に目を覚ましていたら、もう、恥ずかしさで死んでいたところだ。

 危なかった。本当に、危なかった。

 さ、今のうちに脱出を……



 がし。



 ……あれ?


 頭が、なにかにしっかりと、つかまれている。


 体には、腕らしきものがまわされている。


 ちょっ、こらあぁぁぁぁぁぁ! 私の事を抱き枕の替わりにしているんじゃなーい!!
 いや、私も抱きついていたが!


 おまっ、このままお前が目を覚ましたら大変な事になるだろうが! 主に私の羞恥心的に!
 今でもすでにマックスハートだというのに!
 力でひきは……いや駄目だ。起きる!



 このままだと私は、ある意味一生こいつに頭が上がらなくなる!



「なんだ? さびしかったのかさすがお子様」
 なんてこいつに、もう一生バカにされるに違いない!




 私の人生最大のピンチだ!


 放せ! はなせー!!





 奴が目覚めそうになったところで、コウモリ変身で脱出すればいいと気づいた。





 本当に、危なかった……






 ……そういえば、担任が来た時も催眠術を使えばよかったのだな。
 あの時もパニックを起して気づかなかった……





──────




 そのころネギ一行は、無事関西呪術協会総本山に到着していた。




──────





 夜になった。


 よし。無事夜。予定通り進んでいれば、すでにネギ達一向は本部に到着している。これでもう、俺が病気でいる理由はない。

 よって水を飲んで、復活!


「なんだ。もう平気なのか?」


 もうばっちりさ幼女!

 ただ、一個疑問なんだが、目を覚ました時、なぜか幼女がものすごく荒い息でいたのだが、なにがあったんだ?



「なんでもない! 全然なんでもない!!」



 念のため熱を測ろうとデコに触れようとしたら逃げられた。
 病気をしないはずのこいつでも、あの『薬』を誤って飲んだりしたら外見上は病気に見えるから気になったのだが、そもそも『薬』はポケットの中だった。昼の時しまい忘れたのかと思ったけど、違ったし。
 おかしいな。じゃあなんでだ?










 その後夕飯も風呂も済ませ、二人でインディアンポーカーをしていた時、それは起こった。
 600歳のクセにこういうのあんまり強くないのな。
 ちなみに風呂は部屋風呂で済ませた。温泉入りたかったけど外出てカンフー娘&忍者に捕まったら洒落にならんから。その際幼女に「風呂、覗くなよ」と言ったらぶん殴られた。冗談なのにそこまですっことねーべ。



「……どうやら、呪術協会本山が壊滅したようだな」

「ん?」

「じじいが電話を受け、そう言っている」


 そういえばこの幼女、コピーとリンクしてむこうの事も把握できてるんだっけ。便利やなあ。
 どうでもいいけど、誰が入ってくるかわからんから幼女のままでいるのやめれ。
 看病したから貸し一つで約束なしとかなんやねん。


「ああ。そうなんだ。てことは、大人が出てきたのかな」

「そのようだな」


 どうやら、ちゃんと俺の知っている通りの展開になっているようだ。
 今日観光を諦めた価値もあったというもの。



 あとは、幼女が救援に行って、終わりと。



「んで、学園長はどうするって?」

「私にネギを救出しに行って欲しいと言ってきたな」

「なら安心だ」

「ああ。これはいい機会だ。ふふふふふふ」

「みょーに嬉しそうだな」


 修学旅行に行けるというのは、すでにかなっているのに。


「当然だ。これで私は、この呪いとも完全にオサラバ出来る」

「……は?」


 ぱーどん?
 なに言っとりまんねん?


「言っている意味がわからんか? 今回の事で、呪いが一時的に私から離れる。つまり、その後呪いをコピーに誘導し、私と完全に切り離してしまえば、呪いはコピーに残り、私は完全に解放されるというわけだ!」

 つまり、ここで一度切れる呪いのリンクを、『コピー』の方に繋ぎ直させるのね。それで、『コピー』とのリンクを切り、自分ははれて自由の身。と。


「まじ?」

「マジだ」


 ちょっ、マジか!?
 『コピーロボット』をあげた影響がこんなトンでもないとこに!?



「わははははは。ついに、ついにこの時が来た! この時が来たぞー!」



 幼女が立ち上がり、両手を天へ掲げると、幼女から、光があふれ出した。



「ふははははは、ははははははははははー」



 うわ、やべー。でもネギ救出行ってもらわないとならないから止められねえぇぇぇぇぇ!
 どうする!? どーすりゃいいのー!?





 PON☆





 そんな軽い音と煙があがった。



「へ?」



 そこにいたのは、どこか人形チックに、二頭身になった、幼女だった。
 とってもチャチャゼロ風味。



「わははははは。わはははははははは。は、は?」


 高笑いをあげていた幼女も自分の姿に気づいた。 


「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「それは俺の台詞じゃあぁぁぁぁぁ!!!」


「……どうやら、コピーの方と混線してしまったようですね」

「ほわっ!?」

 突然茶々丸さんの声がして、驚いた。
 声は、SD幼女からしている。

「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!」

 まだ叫んでいる幼女の体から。


「……どゆこと?」
「現在、マスターの本体が学園の方にあり、マスターの意識のみが、そちらに残っています」
「つまり、コピーの体がこっちに来て、本体はあっちに行っちゃったわけ?」
「はい。状況から見て、呪いをだました瞬間に、マスターがさらに刺激を与えた結果、本体の方へ呪いがまた戻り、登校地獄の力で、学園に引き戻された。という可能性が考えられます」


 んで、中途半端に呪い解除も成功して、精神は開放。それにより、残ったコピーの体が魔術的つながりのあった精神に引きずられ、こっちに来てしまった。と。
 茶々丸の声が聞こえるのは、幼女の体が『コピーロボット』だから。だからこうやって他の音声出力が出来てるってワケね。電話みたいに(茶々丸が学園で実際しゃべってるかは不明だが)
 そんな事も出来るのか。すげえなハイテクロボズ。
 ちなみに学園にいる本体インコピーは気絶(仮死)状態だそうだ。SD幼女を見ればわかるが、『コピー』状態になっていない。つまり、一度機能が解除されたのだろう。



 混ぜるな危険。
 そんな言葉が、俺の頭に浮かんだ。



「これ、元に戻すには?」
「学園へ戻り、もう一度マスターが再び『コピー』への呪い転化を行えばよいかと思われます」

 ちなみに本体の指でコピー(SD幼女)の鼻を押して起動。『コピー』の体で儀式。成功すれば『コピー』に呪いが発動し、正常化(エド現状に戻る)。そうすれば本体精神が押し出され、本体に精神が戻る。こんな流れ。

「……それ、今日中に出来る?」
「こちらにマスターを連れて来ていただければ、今日中も可能ですが、現状を打開するには間に合いません」

「ですよねー」
 そもそもエド状態に戻しただけじゃ全力出せねーじゃん。この質問前提からして無意味だった。パニクってんな俺。


 とりあえず、ため息ついて、ひと呼吸。


「えーっと、エヴァさん? いけますか?」
 思わずちょっと優しく声をかけてしまった。


「無理に決まっているだろう! この体、『分身』ではなくただの人形の体だ!」


 つまり動くSDキティ人形。
 髪とかが生えているのは、魂部であるエヴァ本人の精神にあわせ、『コピーロボ』が変化しているせいだろう(外見のみ)
 販売すれば大売れ間違いなし!!


 じゃねぇ!


「じゃあどうすんだ!? このままじゃ鬼神が復活してネギ達全滅だぞ!」

「……こうなったら貴様が行け」
「……え゛?」

「大人が出てきたら貴様が出るのだろう!? そんな鬼神など、神話の龍を従える貴様なら、いくら病みあがりでも勝てるだろうが!」

 シリアスな幼女の声。それが、どんな事態かを、物語っていた。




 ……







 ……ああ、そうきた、かー。









─あとがき─

 みんなすまない。クライマックスと言ったが、次回に続く。嘘ついた。
 ふと書きあがってみれば、エヴァといちゃついていただけだった。本当にすまない。

 ……なんて謝らないがなー!!

 今回はスーパーエヴァンジェリンタイム。
 二日間放置されていた分拡大1話のスペシャルタイムでお送りいたしました。
 なんというか、彼等だけ見ると、普通に修学旅行しているなー。エヴァ、普通に修学旅行を楽しんでるなー。

 とりあえず担任グッジョブ。キスミスは基本! 拍手をお願いいたします。


 もういろんな意味で彼は死ねばいいと思うヨ。
 責任もってエヴァンジェリンを泣かせばいいと思うヨ。



 というわけで、次回ついに真クライマックススクナ戦。再び彼が表舞台に立ちます。



[6617] ネギえもん ─第12話─
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/05/12 22:03
初出 2009/03/31 以後修正

─第12話─




 再び主人公、表舞台に立つ。




──────





 時は、彼が部屋風呂に入る時エヴァをからかってぶん殴られたり、風呂上りで少女が男に見とれていたりとかし終わり、二人でインディアンポーカーをやっていたころに戻る。





───学園長───




 ここ二日は、気が気ではなかった。
 だが、幸いなのか、ただ、動きがつかめないだけなのか、京都から、不穏な連絡はやってこない。
 逆に、ネギ先生は、非常に良くやっているようだ。

 さりげなく、エヴァンジェリンを呼び出し、囲碁を打ちつつ、奴に関しての情報を収集しようと思ったが、芳しくはなかった。
 それもそうである。彼女はすでに奴に破れ、近づくなと約束をかわしてしまっている。
 奴に対しての情報は、彼女もほぼ持っていないと言ってもいい。

 だが、この学園で、奴に対抗出来うる可能性は、ワシと彼女しかないのだ。
 いざとなれば、彼女を解放でもなんでもして、ワシと共に、立ち向かってもらわねばならなくなるかもしれない。

 特に今日はネギ先生が関西呪術協会へ到着すると思われる日。いざという時の為に、準備は怠れない。


 そして、その心配は、見事に的中してしまった。



 関西呪術協会本山の壊滅の報。



 いくら日本が平和だからといって、この学園と同じく、結界に守られたあそこをたやすく壊滅させる者がいた!?


 真っ先に思いついたのは、当然奴。


 だが、ネギ先生の報告によると、白髪の少年との事だった。


 奴ではない? 奴ならば姿を変える事など造作もないだろう。やはり奴か? それとも別なのか?
 いや、今はそれを考えている場合ではない。


 まさか、本当にエヴァンジェリンの力を借りねばならない事態になろうとは。


 エヴァンジェリンへの説得は比較的簡単だった。


 外に出たい上、思いっきり力の使える場所の提供。しかも修学旅行同行と、説得しやすい条件が重なっていたのが幸運だった。

 完全開放状態ならば、奴が現れても、不覚はとらないかもしれない。
 こちらで切れる最強のカードが、この時切れるとは、なんと幸運な事か。




 ……だが、それは、甘かったと言わざる得ない。





 まさか、儀式が失敗するとは……





 煙の晴れた魔方陣の中心で、エヴァンジェリンが目を回している。

 彼女の従者。茶々丸の話だと、修学旅行が終わるくらいまでは、目を覚まさないだろうとの事だ。


 儀式の最後に違和感があった。
 聞けば、奴にもらった物があるという。


 それを聞いた時、ワシはハンマーで殴られたような衝撃を受けた。


 まさか、これも奴の手のひらの上だったというのか!?
 ワシがこういう事態にエヴァンジェリンを送りこむ事を予測し、儀式を失敗させる罠を仕掛けておいたというのか!?


 くそっ、奴はどこまで先を見通しておるのだ!


 こうなったら、ワシが……ぐわぁ! くっ、儀式が、中途半端に生きておる。
 部屋から、出られんだと!? これでは、もうなにも出来んではないか!


 最悪だ。


 このままでは、このままでは京都が!
 関西が!



 そして、ワシはあの山に封印されたものの存在を思い出す。



 まさか、あれを復活させるのか!?


 あんなものを!?


 確かに、このかの力を使えば、制御も可能だろう。
 だが、奴があれを復活させてどうするのだ?
 格で言えば、伝説級の大鬼より、神話級の龍の方が、上だ。
 やはり、別の存在が襲撃をしてきたのだろうか?

 いや、目的が読めないのだ。『きっと違う』、『大丈夫』などと考えては、今回のような罠にはまる。
 明らかにヤツは、この修学旅行で策を弄しているではないか。

 そもそもアレだけでも、京の町など簡単に壊滅させられるのだ。


 18年前を思い出せ。ナギがいなければ、京はおろか関西一帯が焦土と化すと思ったほどではないか。

 神話級の龍から劣るとはいえ、そんなものを解き放たせるわけにもいかない。




 奴であろうが、別のなにかであろうが、阻止しなければならないのは変わらないのだ。



 だが、ワシはもう、この学園から動く事が出来ない。




 なんと、無力な事か……




 すまないネギちゃん。
 ワシがふがいないばかりに……









 ……だが、さらに理解の出来ない事が、起きた。



 奴が、ネギ先生と、その生徒。そして、このかと、京都を守るために、あの場に現れたのだから……





───超鈴音───




 ……京都でリョウメンノスクナノカミ復活が起きようとしているネ。
 歴史通りならば、これは完全に防がれるから、安心ヨ。

 ただ、てきり茶々丸が来ると思たケド、来る様子がないネ。

 これでは、スクナを調べられないヨ。

 しかたがない。
 もてきてよかた、スパイ道具。


 小型のカメラを、京都の山へと飛ばす。
 これで茶々丸が来なくても問題ないネ。










 そして、私は、知る。


 彼を、見誤っていた事を。


 この時、知る。





───桜咲刹那───





 リョウメンスクナノカミの開放。
 カードの力を使ってのネギ先生の元への召喚。


 その後私達は、白髪の少年の魔法から、一度大きく後退する事を余儀なくされた。



「ネギ先生、その手は!?」



 先生の手が、少しずつ、石になりはじめていた。


「大丈夫です。かすっただけですから」


 ネギ先生。


 こんなにも、小さいのに、こんなにも、傷だらけで、それでも、全力で。
 それなのに、私は……!


 自分の弱さが、嫌になる。こんな時も、全力を出し切っていない。すべての力を使っていない自分に、嫌になる。

 だが……だが……!!



 怖い……



 ただ、先生であるだけなのに、ここまでがんばれるネギ先生が眩しくて、そんな自分が、情けなくて、思わず彼女から、目を背けた。
 さまよった私の視線は、最終的に、空に到達する。



 キラッ。


 それは、天に光った光……

 それは、ただ飛行機のライトだったのかもしれない。
 それは、星の輝きだったのかもしれない。
 それは、目の錯覚だったのかもしれない。


「俺は君を見守っていよう。勇気が足りないと感じたら、空を見るんだ。最初に目に入った光。それが俺だ」


 その光が、私を、見守ってくれている。



 ……そう考えただけで、なぜか、勇気がわいてきた。



 見守ってくれている人がいる。
 自分は一人じゃない。
 それは、父や母が、守ってくれているのと、似た感覚。
 だが、その感覚を知らない少女は、それとはわからない。




 私の心に、勇気がわいてくる事を感じた。




「……お二人は、今すぐ逃げてください。お嬢様は私が救い出します」

「えっ?」

「お嬢様は千草と共に、あの巨人の肩の所にいます。私なら、あそこまで行けますから」

「で、でも、あんな高い所にどうやって!?」



 当然、驚きますよね。明日菜さん。でも、私は行けるんです。



「私、二人にも、このかお嬢様にも秘密にしていた事があります。この姿を見られたら、お別れしなくてはなりません」

「え?」

「でも、今なら……あなた達になら……!」


 バサァッ。

 白い翼が、広がり、羽が、舞う。


「これが、私の正体。奴等と同じ、化け物です……」


 例え、あなた達と別れる事となっても、私は、後悔は、しない!!
 大切な人を、守るためなら!



「ふぅーん」
 さわさわ。

 わひゃぁ!?
 明日菜さんが、いきなり私の羽に触ってきた。

 もふもふ。
 むぎゅむぎゅ。

「あ、あの、明日菜さん?」


 バッチィィィィン!!


 背中を、思いっきり叩かれた……

 痛ぁい。

 その後、明日菜さんにバカと言われました。


 こんな私を、かっこいいって、言ってくれました。


「このかがこの位で誰かの事を嫌いになると思う? ホントにバカなんだから」

「あ、明日菜さん……」

「私達も同じ。このくらいじゃ嫌いにならないわよ。秘密だって言うわけないじゃない! だって私達、友達で、仲間でしょ!!」


 私に向けられた、明日菜さんの、笑顔。


 ……あっ。……ああ。
 あの人が、言っていた事は、これだったんだ……


 こんなに、嬉しい事があって、いいの……?



「行って来なさい! 私達が援護するから!」

「は、はい!!」



 バサッ!


 私は、飛んだ。大丈夫! 絶対、助ける! このちゃん!!
 そして、見ていてください!


「天ヶ崎千草! お嬢様を返してもらうぞ!」



 式二体を切り裂き、私は、このちゃんを、救い出した。




「せっちゃんその背中……キレーな羽。なんや天使みたいやなー」




 そう言われた時。
 私ははじめて、この世界に、受け入れられたんじゃないかと、思った……




 天の光が、私を祝福するように、瞬いているように見えました……




 私にも、いましたよ。



 秘密を打ち明けられる、仲間が。






 その時、もう一度、天の光が、輝いた気がした。





───ネギ───





 刹那さんが飛び上がった後やってきた白髪の少年と僕達は激突した。

 その中で、アスナさんが、白髪の少年の障壁を砕く!


「今だアネさん!!」


 耳元で聞こえる、カモ君の言葉。
 うん! いくよ全力全開!!


「ああああああああ!!」


 僕全力の拳が、白髪の少年の頬を捕らえた!





 時が止まったかのように、静けさが訪れる……




「や、やったの……?」

 アスナさんが、ほっとしたように、言う。


 まだ、です!!


「体に直接拳を入れられたのは、はじめてだよ。ネギ・スプリングフィールド」


 まだ、相手は倒れていない! 動け! 動け僕の、体!

 まだ、終わってない! まだ、倒せてない!! 僕が倒れたら、戦える人は、他に、いないんだ!

 だから!


 だから!!



 動いて僕の体!!




 ボッ!!

 白髪の少年の肩が、動く。



 駄目だ。この攻撃は、よけ……







 ゴッ!!












 次の瞬間、白髪の少年が、吹き飛ばされていた。





───フェイト───





「!?」

 ありえない事が、起きた。


 ネギ・スプリングフィールドを殴ろうと拳を振るったら、僕が、吹き飛ばされていた。
 なにが起きているのか、わからない。自分でも、なにをされたのか、わからなかった。

 転移魔法とか、超スピードとかそんなものじゃ断じてない。


 気づいたら、吹き飛んでいたのだ。


 完全なる意識の外側。
 自動障壁すら、働かない、認識すら出来ない、完全なる一撃。

 理解出来ない攻撃。


 この僕が、なにをされたか、わからない……?


 この事実。
 理解できない事実。


 得体の知れない攻撃。

 ゾッ。

 それを、一瞬、この僕が、恐ろしいと感じた。


 ありえない事だ。
 僕が、恐怖を覚えたなんて……



 吹き飛ばされた僕は、桟橋の上に着地を定め、その、攻撃した存在を、見ようとした。
 この時初めて、僕は蹴られていたのだと認識する。



 だが、その主の顔を、確認する事は叶わなかった……



「『吹き飛べ』」


 この一言と共に、空中にいた僕は、まるで真祖の吸血鬼にでも殴られたかのような衝撃を受け、湖の端まで、吹き飛ばされる事となったのだから。


 また、理解が出来なかった。


 たった、たった一言だ。


 その言葉が発せられただけで、僕はトンでもない衝撃を受け、吹き飛ばされた。


 拳を受けたわけではない。
 蹴りを食らったわけじゃない。
 魔法を詠唱(とな)えられたわけではない。
 無詠唱の魔法を直接叩きこまれたわけでもない。


 障壁でも防げない、『何か』を、食らったのだ。



 なにをされたのかわからなかった。



 たった一言と共に、僕は、五体がばらばらになるかと思うほどの衝撃を受け、吹き飛ばされたのだ。




 吹き飛ばされ、湖に沈む際、遠くから見えたあの姿。




 あれはまるで、なにかの冗談か、悪夢のようだった。





───ネギ───





「『吹き飛べ』」

 その言葉と共に、白髪の少年は、湖のはるか彼方へと、水しぶきをあげ、吹き飛んでいった。


「え?」
「え?」
「え?」

 僕とアスナさんとカモ君は、三人で変な声をあげるしか、ありませんでした。


 天の光が、瞬いたかと思った瞬間。
 そこには、右手に一冊の本を持ち、マントを羽織り、肩に、エヴァンジェリンさんによく似た人形を乗せ、夜店で買えるような赤いヒーローのお面をつけた、男の人がいたからだ。


 変装しているつもりなのかもしれないけど、それは、どう見ても、あの人だった。
 一瞬、その背中が、あの雪の日僕を助けてくれた『母さん』の姿と、重なった気がしたけど、お面のせいで、台無しです。



「小娘ども、よく耐えたな」
 肩に乗っていたエヴァンジェリンさんによく似た人形が、僕達に声をかけてきた。


「え? エヴァンジェリンさん?」


 彼の肩から降りてきたエヴァンジェリンさん人形は、エヴァンジェリンさん本人だった。


「ちょっとした手違いでな。あのデカブツは、こいつが倒す」


 とても偉そうなしぐさで、親指をくいっとあの人のほうへ向ける。
 でも、人形がなので、そのしぐさは逆に、かわいかった。
 不謹慎にも、そう思っちゃった。


「……なんで、そのお面かぶってるの?」
 あ。アスナさんがついにつっこみを入れた。


「気にするな。俺は通りすがりの宇宙吸血鬼。お前達の知る男ではない」

「そういうわけだ。私の下僕その1とでもしておけ。ははははは」

「誰かそいつ抱えて頭を撫でておいてやってくれ」

「おっけー」
「ちょっ、こら神楽坂明日菜やめんか!」

 なでなで。
 あ、僕も撫でさせてもらおう。

「やめんかー!」

「ア、アネさんたち……」


 珍しくカモ君があきれてました。


「ネギ」
「は、はい!」

「よく、がんばったな。あとは、俺に任せておけ」

 あの人は、しゅっといつもの、敬礼に良く似て、その後手首を返すというポーズをとって、スクナの方へ歩き出しました。

 ……か、かっこいい。


 お面のせいでちょっとしまらないけど。
 でも、あの人やっぱり、正体隠す気ないよね。
 それとも、いわゆる天然。なのかな。天然の人ってはじめて見ます(本人自覚なし)


「と、とりあえずはだ小娘。今からアイツをよく見ておけ。このような大規模な戦いにおける、魔法使い……ではないが、その役目の見本となるには間違いない。目をそらすなよ!」

「はい!」

「またヤマなんとかのなんとか召喚するの?」
 アスナさんが聞いてる。ヤマタノオロチ。ですよ。

「ふん。あんなものに必要ない。あれは相手が私だから使ったのだ!」
「その姿でふんぞり返ってもかわいいだけよ~」
「だから撫でるな~」




──────




 一方彼は、ゆっくりと、スクナの方へと歩を進めているだけだった。


 近衛木乃香を失い、コントロールを離れた鬼神スクナが、その腕を振り上げる。


 彼は、立ち止まり、右手に持っている本を、開いた。




 ぱらぱらぱら……




 ページがめくれる。



 ここから、呪文を唱える……?
 ネギは思う。

 そんな。どれだけ早い詠唱を持っても、間に合うはすがない……
 常識的に考えても、いや、非常識的に考えても、詠唱の時間が、足りない。

 相手は腕を振り下ろすだけ。

 それに対してこちらは何小節もの呪文を唱えなければならないのだ。
 あのサイズの存在に、ダメージを与えるとすれば、それこそ長大な量の。


 いや、そもそもあの人は魔法使いじゃないと言っていたじゃないか……



「いいから黙って見ていろ」


 そんなネギに向かって、明日菜の手の中にいるエヴァンジェリンが一言。



 一方。彼等の上空。スクナの近く。


「おのれ、神明流の剣士め。しかし、スクナの力を持ってすれば、すぐに取り返して……」


 今回の事件の主犯である彼女の視界に、スクナと、吸血鬼のマントをつけ、ヒーローのお面を被った男が入った。



「あれは……」
 同じく上空。桜咲刹那。




 すべてのものの視線が、彼に集まった時。


 彼女達は、信じられないものを見る。




















『エターナルフォースブリザード』











 たった一言の言葉。



 それだけだった。





 だが、それだけで、鬼神リョウメンスクナノカミは、一瞬で凍りつき……







 そして、粉々に、砕け散った。







 それは、ありえない事だった。





 詠唱もなしに唱えられた、魔法。
 たった一言の呪文。



 たった一小節。たった一言。




 それだけで、1600年前より存在する大鬼神を凍らせ、粉々に出来るなど……




 そのような魔法体系は、誰も知らない。




 いや、あってはならない。





 たった一言で『奇跡』を引き起こす。





 それは、まさに、『神』の所業と言ってもよいからだ。
 『光あれ』で光を生み出した、その御業と。









 さらに信じられない事に、エヴァンジェリンは気づく。





「!? ばっ、バカな……!」

「どうしたのエヴァちゃん?」


 抱きかかえていた神楽坂明日菜が、異変に気づき、身を乗り出したエヴァに聞く。


「鬼神が、『死』んだ……」

「は? なに言ってんのよ。あんなになっちゃ当たり前じゃない」
 身を乗り出すほどの事でもないじゃない。

「ええい、この意味もわからん大馬鹿娘が!」

「なによそれ!?」

「ああいう存在はな、人間と違って、死なないんだよ! だから封印されていたんだ。それを、『死』なせたんだぞ! しかも、ヤツは今同じ闇を纏う吸血鬼であるのにだ! それが、どれほどの事か、わかっているのか!?」
 そう。私と同じで! あれは、人の手では、死なないのだ!! 死ねないのだ! それを、それを!!!

「わかんない!」

「きいぃぃぃ!!」


 バカレッドに説明したエヴァンジェリンが悪い。







 かつて、人の身では封印する事しか叶わなかった伝説の鬼神。


 『鬼』となり、世に災いをもたらす事のみしか出来ぬ存在。


 どれだけ苦しかろうと、括られ、開放されぬ、凶(マガツ)の塊。


 『鬼』として、世界に縛られた存在。
 災いの、源。




 それが、ついに永遠の安らぎを与えられた。


 唯一にして無二の、安らぎ。


 憎しみからも、怨みからも、すべてから開放されるそれを、ついに与えられたのだ。


 与えられたものの名は。





 『死』





 それは、永遠からの開放。永遠の安らぎ。




 かつて人の身では封じる事しか叶わなかった伝説の鬼神。



 それがついに、『死』をもって開放された。




 人の手では封じる事しか叶わなかった鬼神が、今、祓われたのだ。




 人の、手によって。


 しかも、『鬼』と同じ、闇を纏う者の手によって……







 それはまさに、信じられない事だった……






 鬼神の破片が、きらきらと輝き、舞い散る。


 その中を、男がマントをひるがえし、戻ってくる。


 それはまるで、彼等の勝利を、自らの解放を、祝福しているかのようだった……






「おい小娘」
「は、はい!?」
 エヴァンジェリンが、ネギに声をかける。

「私は、確かに、アイツを見ておけとは言った。大規模な戦いにおける、役目の見本と言った。奴は、確かにそれを見せた。だが、あれは例外だ。参考にもならんというか参考にするな。というか出来ん!」

「つまり、エヴァちゃんにも無理?」
「お前は喋るなバカレッド!」
「なによー」

「本来ならば、従者が抑えている間に呪文を詠唱。そして大火力の魔法を発動するものだ。究極的にはただの砲台。……というのだが、奴は例外中の例外中の例外だ」


 病み上がりとはいえ、自信満々ゆえ、心配はしていなかったが、たった一言で、私の『おわるせかい』と同等の以上の魔法を放てるなんて理不尽以外にない!
 大技を決めるにはタメ時間がかかるという弱点もないなんて、貴様どれだけ出鱈目なのだ!
 あれに匹敵するとすれば、それこそ奴と同じ『サウザンドマスター』くらいだ!
 そもそも貴様、魔法使いではないと言っていたではないか!


「は、はい……」

「む、さすがにつらそうだな……」


 ズ……


 その時、桟橋にある水溜りが、動いた。



「!」








──────





 やっと俺のターン!



 彼女にお前がやれって言われた時。


 ああ、これはもう、俺がやるしかない……


 そう、覚悟を決めた。



 儀式に関して俺に知識はない。その知識もある彼女が、学園に急いで戻れとも言わず、俺にやれと言うのだから、儀式的にもう一度は期待出来ないのだろう。
 道具を駆使すれば、儀式をもう一度お膳立てする事も可能かもしれない。
 だが、「やれ」と言った彼女に、「やっぱ儀式もう一回」なんてふざけた事言ったら、儀式後スクナの前に、俺が殺されるだろう。

 ここで「もう一回」なんて、この切迫した事態に俺を信頼した彼女を侮辱するにも程がある行為だからだ。

 そして、信頼を裏切るというのは、どんな道具をもってしても、取り消す事の出来ない、最低の行為。
 いくら俺が、自分の安全を望む身勝手な人間でも、守らなければならない誇りがある。


 つまり、彼女がその言葉を口に出し、任された時点で、俺が、やらなければならないのだ。

 プライドが高く、悪ぶっているが、心根は優しい。その彼女が、シリアスな声で、本来なら頼りたくない、敵であるはずの俺を指名した、その時点で……


 逃げ場はない。俺が逃げたらネギパーティーが終わる。
 話が終わる。
 俺も終わる。

 そして、俺を信頼した、彼女の誇りも終わる。


 だから俺は、覚悟を決めた。こうなったら未来道具無双やるくらいの勢いでいってやる。

 俺があの巨人を彼女の代理として倒せばいいんだろコン畜生が!!

 と、思ったんだけど。



「40秒で支度しろ」

「短けえよ!」

「時間がないんだ。文句を言うな!」



 てなオチがついたもんだ。


 だがこの時俺は、いわばスーパー俺。
 せかす幼女には内緒で、時を止めてこっそり準備したのさ。


 準備完了で、マントをばさりと羽織ったら終わっていたかのような雰囲気をかもし出してみた。
 俺カッコE-。


「……なんだそのお面は?」
「気にするな」
 こんな事もあろうかと用意しておいた『装着』不能時半デコちゃん&敵に俺の顔を知られない対策だよ(メイン比重は半デコちゃん)


 そいで幼女人形を肩の乗せ。


 再び『タンマ・ウォッチ』で時を止め、『どこでもドア』で出発。


 現場に到着し、すでに装備していた力を使って攻撃。


 幼女戦でも使った『ドラキュラセット』。そこに『ウルトラリング』を加えてパワーをアップさせて、あの白髪小僧を蹴飛ばした(飛び蹴り)
 『ドラキュラセット』は弱点で無効化されない限り空も飛べるし基本能力も吸血鬼になりパワーアップも出来るから便利なのよね。ついでに吸血鬼は今回重要だし。
 次いで『ウルトラリング』。この指輪をはめると凄まじい怪力が発揮できるものだ。

 吸血鬼パワー+怪力。これで、時を止めたまま、ネギを殴ろうとしていた白髪小僧にライダーキック。


 卑怯と言われようが気にしない。


 ここで時間停止解除。


 そして、その次使ったのが、これ。

『魔法事典』
 最初はなにも書かれていない本だが、呪文や動作を書きこみ、それを行うとその魔法が使えるという道具。
 つまり、これがあれば、好きに魔法が作れてしまうのだ!


 そこで書きこんだのがこの魔法。


『エターナルフォースブリザード』
 効果。
 一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。
 相手は死ぬ。


 それは、ネット界に伝わる伝説の魔法。
 すべての魔法使いが認めた、究極魔法の一つ。

 ネット界に属する誰もが一度は聞いた事あるかもしれない伝説にして究極の魔法!

 まさか俺が、その使い手だったとは思うまい!!
 くっ、左手が、うずきやがるZE!


 だが、この『魔法事典』は、誰がその呪文を唱えても魔法が発動するという欠点を持つ。

 なので俺は呪文以外に『魔法事典を持つ』『目標をきちんと思い浮かべる』など使用条件を付け加え、ただ呪文を『唱える』だけでは発動しないように注意してある。
 それと、最初の使用条件にこれを使えるのは俺だけ。と条件を細かく書きこんであるので、他の人は絶対に使えない!
 完璧。完璧だ!


 ちなみに、呪文を逆から唱えると、その効力が消えるが、それも当然俺が逆に唱えなきゃ効果はない設定仕様にしてある。
 スクナは俺が『どーざりぶすーぉふるなーたえ』と唱えない限り復活しない!
 ……偶然間違っても言わないな。こんな言葉。


 この魔法が通用しない場合は、大人しく『スモールライト』とかを使おうと考えていたが、無事通用したのでなにより。
 しかも氷で粉々は、幼女の代理という事でも原作再現がきちんと出来てよかったと思う。

 幸い、このあたりの幼女無双回は、そのインパクトもあってか、よく覚えている。

 極力原作との流れを変えたくなかったから、白髪小僧も吹き飛ばしただけに済ました。
 本音はここでアレを始末してしまえればいいのだけれど、なんかアレ本名は『三番目』とかいう意味の名前みたいだから、下手すると余計ひどい事になりかねない。
 俺の読んだ事のある原作は魔法世界の大会決勝くらいまでで、その時点じゃその正体はまだ不明だったからな。下手に次の遭遇で原作より強化されていてもネギが困るし。『四番目』になってたりしたら洒落にならん。
 倒しておきたいけど、倒せる気がしないから、今回は放置の方向性で。

 原作そのまま! それが一番!(だから幼女と同じになるよう吸血鬼化しているわけだ)

 本音は俺が目をつけられたくない。なのだが!!
 ヘタレとでもなんとでも言いやがれ!
 こちとらやっぱりパンピー一般人だ!


 だから、最初の段階で原作と同じように『吹き飛ば』した。


 ちなみにあの『吹き飛べ』というのも『魔法事典』に書きこんだ魔法の一つだ。

 効果は、真祖の吸血鬼、エヴァンジェリンが全盛期の力で殴れるのと同じ衝撃を相手に与えるというもの。
 原作を再現するのも苦労するぜ。



 以上。これが、今回の俺無双の顛末だ。



 俺は、見事スクナを倒し、無事幼女人形を抱えるツインテ少女とネギのところへと戻る。


 だが、ここでまだ安心してはならない。
 なぜなら、あの白髪小僧こと三番目の奇襲が残っている。
 はくはつと言うより『三番目』のが楽だからこれからそう呼ぼう。

 原作では奇襲で色々あって幼女が体を貫かれ、攻撃して撤退の流れだったよな。
 覚えている。覚えているぞー。

 うん。さすがにそれは無理。俺今マントで吸血鬼になっているけど、痛いの嫌。
 だから、察知したという事でお帰り願おう。

 もう相手の計画は頓挫しているわけだから、いけるはずだ。


 先に一言言って、引いてもらおう。


 そうだな。ここは最後だし、かっこつけて。

『ふっ、Kid。別格の相手に不意打ちを考えるのは悪くないが、察知されていたら無意味だぜ』
 ひゅー。これだ!
 そして『ばれていたのかい』『素直に帰れば許してやる。俺はエヴァンジェリンの代理。彼女の力を行使する者だ』『真祖の吸血鬼の力では分が悪い』撤退!! こういう流れだ!
 こうすれば、俺の上に幼女がいるように見える。すべて幼女の力。俺安全。原作補完完成!
 か、完璧すぎる。
 このプランしかない。レッツゴーだ!

 どこにいるか俺にはさっぱりわからないが、『三番目』に言葉を伝える分には問題ない!
 届け、俺の想い!

 
「ふっ、Kid。別格のあ……」



 どごがぁん!!


 そんな音と共に、ネギの背後から、『三番目』が吹っ飛んでいくのが見えた。




 ……あれー?




 なんであの魔法が発動しているの?
 俺どこかで『吹き飛べ』って言った?


 ……


 『ふっ、Kid。別格』→『ふっ、キッド。べっかく』→『ふ、きと、べ』→『吹き飛べ』→魔法発動。




 っておいぃぃぃぃぃ!!!!




 なんつー判別の方法で魔法発動しとんねん!
 確かに『三番目』の事考えていたが! 『本』持ってたが!!
 『あつい』が「『あ、つい』でに……」とか『あづい……』でもOKな方式かよ! 濁点あいまい自動修正判別機能つき親切設計なのかよおぉぉぉぉ!

 滑舌の悪い人も安心だネ☆

 なんてありがてぇ機能つき。ありがたくて涙がでらぁな!!


 嬉しくない涙だがな!!


 余計な事すんなやー! 喧嘩売るなやあぁぁぁぁ!!



 このド利口さんがー!!



 感情にまかせ、俺は『魔法事典』を湖に放り投げた。
 ぶっ壊れる!? なくす!? 次襲われたらどうする!? あとで道具で回収して直すし他の道具でどうにかするよ!



 穏便に帰ってもらおうと思ったのにぃ!!



 ばしゃん。
 『魔法事典』が湖に落ちる。

 波紋が広がったその場所で、異変が起きた。

 ……



「……」


 本の落ちた、湖の水面。そこから、体の半分が砕けた『三番目』が再び現れた。
 状態的にナメック星で悟空にとどめ刺される直前のフリーザ様。



「まさか、あの状態の僕を、正確に叩いてくるとは、思いもよらなかったよ」


 なんで『そこ』から出てくるのあーたーぁ!?
 しかも俺の覚えのある原作の姿より、すっげーボロボロなんですけどぉぉぉぉ!!
 めたくそボロボロなんですけどおおぉぉぉぉぉ!!!


「しかも、ただの本での追撃。居場所を察知していてもとどめを刺さないのは、余裕かい?」


 ちがうねえええええぇぇぇぇぇぇぇん!
 めっちゃ偶然なんですー!!
 そんなに睨まんでくださいー!


「ちょ、ちょっと待て。『三番目』! えっと、えーっと……」


 ちょうパニクッた俺は、思わずさっきまで頭の中で呼んでいた名前を呼んでしまう。


「っ!」
 一瞬、さらにトンでもない目つきになったあぁぁぁぁぁ!
「君の事は、覚えたよ。今後、絶対に、忘れない!」


 パシャッ。


 そのまま、水がはじけるように、消えていきました。



 しまったぁぁぁぁぁ! 今その名前知ってるはずないんじゃったぁぁぁぁぁ!!
 脳内でちゃんと名前を呼ばないのが仇となったぁぁぁぁぁ!


 ごかいじゃぁぁぁぁぁ!!

 待ってえぇぇぇぇぇぇ!!!



 思わず追いかけて、空へ飛ぶ。

 ただ単に逃避しただけともいうかもしれないが、気にしない。



「あ、こら!」



 幼女が呼んでる気もするが、気にしない。
 ちょっと一人で泣かせてくれ。あとでちゃんと回収しに来るから。





 飛び上がると、半デコちゃんがこちらに降りてくるのが見えました。


 仲の良いあの二人を見たら、すさんだ心が少しだけ癒された。
 半デコちゃんの白い羽、いいよね。
 お嬢様のお姫様抱っこ、美しいよね。




「よくできたな」



 とりあえず、すれ違いざまに、頭を撫でておきました。
 心が、ちょっと和んだ。



 半デコちゃんはこのかお嬢様の嫁。なせかそんな言葉が思い浮かんだ。



 構図的に逆じゃね?
 自分の想像に自分でつっこんでみた。





───桜咲刹那───




 ネギ先生達の方へ合流するために降下していると、あの人がこちらへ飛んできました。
 お面を被っていますけど、それは『宇宙刑事』として正体を明かさないためですね。


 そういえば、まだ主犯を捕まえていなかった事を思い出し、あの人は彼女を捕まえに行くのだと察しました。


「よくできたな」


 彼はそう言い、すれ違いざまに私の頭を撫でてくれました。
 ……本当に、見ていてくれたんですね。


「ほめられたなー」


 このちゃんも嬉しそうです。

 私も、とても嬉しいです。


「はい!」


 この時私は、自分でも驚くくらい、いい笑顔が出来たと思います。





───明日菜───




「行っちゃった」


 白髪のガキがいなくなったら、いきなり空を飛んで、森の中へと飛んで行っちゃった。
 どうしたんだろ、あの人。


「相手を追ったのだ。とどめでも刺す気なんだろう。アイツは敵に対してとことん容赦がないからな」

「そうなの?」


 私の手の中にいるちびエヴァちゃんがそう言う。
 そんなにひどい人のようには見えないけど。見た感じ普通の人だし。
 どちらかというと、いたたまれなくなって逃げてったように見えたけど、気のせいかな……


「さすがに、あのガキはもうこの近辺にはいないとは思うが、主犯のあの女はまだいるだろうからな。それにとどめを刺すのだろう」

「ああ、そっか。あっちも捕まえないとならないもんね。そっかー」

「しかし、あのガキ、人間ではないな。動きから見て、人形か、あるいは……」
「いや、そりゃ体半分砕けて動ける人間いないから……」


 アレで動いてるんだから、どう考えても人間じゃないでしょ。


「……」
「……」
 気まずい沈黙。

「ま、まあ。あれだけボロボロにされた上、ワザと見逃されたのだ。修学旅行中はもう安心だろう」

 なんで見逃したのに安全なの? と聞いたら、自分で考えろと言われた。わかんないから聞いてるんでしょうがー!

「うるさい! その方がお前達にとって安全な方法という事だ。わからないならそれで納得しろ!」


 そっかー。じゃあ納得するー。なら安心ねー。



 ごとん……


 そんな音と共に、ネギが倒れるのが見えた。


「ネ、ネギ!?」


 駆け寄ると、もう右半身が石になってる。

 このままだと、窒息して死んでしまうかもしれないって……

「ど、どうすんのよー!」
「おい、あいつは、あいつはどこへ行った!」
「あんたが主犯を追っていったって言ったじゃない!」
「こ、こんな時にー!」

 おろおろ。

 ど、どうすればいいのー!?


「あんなアスナ……」


 このかが、声をかけてきた。


 え……?





 このあと、このかの仮契約の力で、みんなの怪我も、石化も、治ったのよ。





 めでたしめでたしね!




──────




 起きてしまった事はしかたがなーい!


 ふー。OK落ち着いた。
 うっかり逃げてきちまったが、冷静に思い返してみれば、あの後石化解除の仮契約タイムがあったな。
 だが、その前に俺があそこに残っていたら、ネギの石化を『タイム風呂敷』で回復出来てしまう。
 下手すると、幼女に思い出されてお嬢様の仮契約がなくなっていたかと思うとぞっとするぜ(原作崩壊という意味で)


 こっちに来ていれば、さすがに無理だからな。
 いやー。怪我の功名って奴だね。

 よかったよかった。


 俺の方は、主犯であるあの女の人を捕まえて帰って来れば、ああ。そういう目的で飛んでいったのか。となるから、大安心。


 チャチャゼロが儀式失敗のせいで来てないから、これも俺が担当せにゃならんわけだし。丁度いいよね。


 あの女の人は、上空から発見、『石ころ帽子』、『ショックガン』接射コンボで一発昏倒でした。

 さすがの魔法使いも、超不意打ちでは対処出来なかったみたいだね。



 捕まえて連れ帰ってみると、無事お嬢様も仮契約成功していて、みんなの怪我は治っておりましたとさ。

 どうやら、『タイム風呂敷』の事も知られていないようなので、セーフ。


 カンフー少女とか忍者娘がいるのが見えたので、彼女達と会わないよう半デコちゃんを呼び、主犯の人を引き渡す。

 あと、半デコちゃんに今回この件に俺はいなかったとしておいてくれと言いふくめておいた。
 俺の『事情(笑)』を知っているからこの説得は簡単だった。

「いいかい。俺は今日ここにはこなかった。これを成したのはエヴァンジェリンだ。報告も全部俺じゃなくてエヴァンジェリンがなんとかした。そうしておいてくれ」

「はい」


 これで、この場にいなかった人には、スクナは幼女が倒した事になる。
 よしよーし。これでこの事実の原作補完も完了だ。


「あの」

「なに?」

「ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げられた。


「別に礼を言われるような事はしてないよ」


 ホントにね。
 本来なら俺がいなくても問題なかったんだから。


「それでも、言わせてください。私は、あなたのおかげで、勇気を持てました。あなたのおかげで、私は一族の掟を理由にして逃げずに、このちゃんを守っていけそうです」


 え? そっち?
 つーか、そういえば、この子、この時点じゃまだ、逃げる気が残ってなかったっけ?
 なんか、かわった?

 ひょっとして、俺が関わって初めてよい方向に向かった?



 実際は他でもよい方向はあるが、ソレに彼は気づいていない。



「そっか。それはよかった。その気持ち、忘れるなよ」

「はい!」


 うん。なんかいい笑顔で笑ってくれた気がする。
 原作と違う気がするけど、それでも、これはこれでよかったんだと思う。





 ネギ達が本山へ戻ろうとしている。俺はそのまま宿に帰るので遠くから見送るだけだ。
 ネギが探しているようだけど、半デコちゃんが事情を伝えてくれるはずなので気にしない。


「ところで、なんでお前ここにいんの? 残って『サウザンドマスター』の家、彼女達と一緒に見てきたら?」

 俺の腕に抱えられ、胸のところで偉そうにしている幼女に聞く。
 そう。なぜか、半デコちゃんと一緒にSD幼女が運ばれてきたのだ。

「いや、私はいい。奴を探すのは、奴の娘に任せるさ」

「……え? いいのか?」

「かまわん。この体では不自由すぎる。ついでに言えば、あとで場所を聞いて、こっそり行ってもいいわけだからな」
「お守りはしねーからな」

「ふん。場所さえわかれば一人で来れるわ!」

「まぁ、迷子になったら迎えには行ってやるから安心して行ってこい」

「……まったく」

「ん? どした?」
 なんかがっかりしてる?

「なんでもない! そうだ。お前魔法は使えないと言っていたじゃないか! なのになんだあれは!!」

「ノンノン。俺は魔法使いじゃないと言っただけで、魔法を使えないなんて言った覚えはないよ」

 キラッ☆と笑顔で言っといた。

 イラッ☆とSDエヴァアッパー型頭突きを食らいました。

 あ、あごに……な、なんて体の張り方をしやがる……


「痛い! 死ぬほど痛い!! 今吸血鬼になってなかったら死んでた! たぶん死んでた!!」
「吸血鬼がこの程度で死ねるか! このドアホ!」

「ちっ」

「大体、お前は、病み上がりなんだ。あまり無茶はするな!」


 ……そういえば、そんな設定もありましたね。
 仮病だったから、忘れてたよ。


 ん? 今、なんか、心配されてた?
 いやいや、ないね。心根は優しいけど、俺に対しては当てはまらない極悪幼女だぜ。
 嫌がらせに男装してやってくるような奴だぜ。
 看病の貸しとか言って死闘の結果した約束を反故にするような策士だぜ。
 未だに憎まれ口を叩き合う間柄だぜ。


「し、心配なんてしていないからな! また明日お前が倒れられたら、面倒極まりないからだ!」


 ホラね。


「てめーはもう少し人を心配するとか出来ねーのか! 大体がんばった俺に労いの言葉もなしか! お前の不始末を俺がしてやったってのに!」
「誰が私の不始末だ! 大体お前の道具がなければあの儀式は成功していたんだ。すべてお前が原因だろうが!」
「その道具がなけりゃお前京都に来てねーだろうが! そもそも儀式を邪魔したのはお前だ!」
「ソレとこれとはまた別だ!」
「いてて、髪をひっぱるんじゃねー!」

 ぎゃーすかぎゃーすかと、俺とSD幼女の口げんかが、しばらく森の中に響く事となった。




 彼がもし、この世界の『サウザンドマスター』が女だと知っていたならば、さっきの言葉で、色々と気づけただろう。
 だが、彼はナギが男だという先入観があり、エヴァの想いはそちらにあると思っている。
 それゆえ、気づかない。
 その事実に気づいた時、彼は、一気にそれを理解するだろうが、それはまだまだ、先の話。




 そういや、明日の事なにも考えていなかったや。
 幼女が人形になってるし。どーすっかねー。
 いっぺん学園に戻って幼女戻してもいいし、そのままごまかして観光してもいいし。



 ま、明日は明日になってから考えればいいかー。



 こうして、俺の、修学旅行珍道中は、無事終わりを告げる。


 残りは省略だが、気が乗ったら番外編なんかで語るかもだと。
 ……なに言ってんだ俺。





───エヴァンジェリン───




 ……奴の言ったとおり、桜咲刹那が、この世界に受け入れられている事を、受け入れた。


 本当に、奴の言ったとおりになった。


 アイツの言った事を、そのまま実現出来るとは、まっすぐというか、純粋というか、アホというか……

 ……だが、あいつの言った事は、あいつが、『他人』に対して言った事は、ことごとく実現している。


 なら。ならば……




 私も……?



「ところで、なんでお前ここにいんの? 残って『サウザンドマスター』の家、彼女達と一緒に見てきたら?」



 思考に没頭しそうになったところで、あいつから声をかけられた。
 ……ああ。その事か。


 別にもう、急いで調べる事もあるまい。どうせ場所はネギの小娘が知るのだ。あとはゆっくりと別の機会に調べに行けばいい。
 今この体で不便だしな。

「お守りはしねーからな」

 当然だ。私は小娘どものようにわざわざ過保護にしてもらう必要などはない。
 背後関係のわからない存在に、自らを強烈に印象付け、ワザと囮となるなんて馬鹿もいいところだ。
 相手は人間ではなく人形。それゆえ、体を入れ替え復活などという可能性もありえる(かなり低いが)
 だが、次、この修学旅行中、襲われるとしたら、あいつが優先される。それほど強烈なインパクトを与えた。
 奴は、敵が人形であり、小娘達には手におえない事を即見抜いて、そこまでしたのだろう……
 どうしてお前は、最終的にはそんなに、敵でない者に、他人に甘いんだ。


「迷子になったら迎えには行ってやるから安心して行ってこい」


 ……なんでそこでお守の発言が出る!
 結局お前は私の事をなんだと思っているんだ!


 それなら最初からついて来い!



「……まったく」

「ん? どした?」


「なんでもない! そうだ。お前……」




 いつの間にか、喧嘩になっていた。
 なぜだろうな。こいつとこうしているのは、なぜ、こんなにも楽しいんだ。







 ……そんな事をしていたら、あいつの事をじじいが警戒していたと伝えるの忘れてしまった。
 まあ、どうせあいつも気づいているだろうから、いいだろう。





───桜咲刹那───




 次の日になりました。

 ネギ先生が目を覚ましてすぐ、旅館に飛ばした紙型が大暴れしているとわかり、大急ぎで旅館に戻る事となりました。


 戻る時、アスナさんに、いい笑顔になったって言われました。


 そんなに、変わりました?



「せっちゃんよりかわいくなったでー」


 えええ? そういう意味なんですかー!?
 このちゃんそれ、プロポーズと受け取っていいですかー!?(混乱中)





 この後私達は、一度旅館でのんびりしたあと、ネギ先生とアスナさんと、もう一度、彼にお礼を言いに行きました。
 私が電話をして、ロビーの方に来てもらい、ネギ先生がお礼を言っておられました。

 彼は笑って、「俺はその件の事は知らないけど、その人に会ったら俺からも礼を言っておくよ」そう言ってネギ先生の頭をくしゃくしゃにしていました。
 なんだかお二人、兄妹みたいですね。


 その後私達はネギ先生の母上。『サウザンドマスター』が20年前に住んでいた住居を訪ねました。

 案内してくださった長は、彼女の無二の友だったと聞きます。
 ネギ先生は、ナギさんの事を熱心に聞いておられました。



 写真を見せてもらいましたが、このナギさん(15歳時)。どこか、あの人に似ている気がします。
 私の、気のせいでしょうか。



 ただ、長も彼女の行方は知らないようでした。
 手がかりはネギ先生に渡したようですけども。




 最後に、あの家で写真を撮り、私達の修学旅行は、こうして無事、終わりを告げたのです。




───ネギ───




 あの人は、風のように現れて僕達を助け、風のように去っていきました。



 次の日、旅館に戻った後、僕達は改めて、あの人にお礼を言いに行きました。

 そうしたら、あの人は笑って。
「俺はその件の事は知らないけど、その人に会ったら俺からも礼を言っておくよ」
 そう言って僕の頭をくしゃくしゃに撫でました。

 あくまで正体は秘密なんですね。それでも来てくれたのは、僕に直接お礼を言わせてくれるためなのかな。


 頭を撫でられた時、なんだか、昔、あの雪の日に、母さんに頭を撫でられたのと、同じ感じがしました。

 不思議な、感じです……


「ただ、次のピンチもヒーローが助けてくれるとは限らないからな。今度は自力でどうにかしろよ」

 そう言われ。

「はい!」

 僕は、はっきりそう返事しました。





 そのあと僕達は、母さんが20年前に住んでいた住居を訪ねました。


 いくつかの手がかりと、長さんから、母さんについて話してもらえました。



 今から20年前の母さんの写真も見せてもらいました。15歳くらいですから、アスナさん達と同じくらいの時ですね。



 この頃すでに『サウザンドマスター』だったんだから、僕もがんばらなくちゃ!



 でも、なんだろう。やっぱり母さん。雰囲気が、あの人に似ている気がする。
 いや、あの人が、母さんに、似てるって事かな?




 だから僕は、あの人の事が気になるのかな……?



「責任を……」



 お・も・い・だ・し・たー!!



「ど、どうしたのネギ真っ赤になって!」


「ああああアスナさん~。ななななな、なんでもないです~」


「変なネギね~」
「手がかりが手に入って少し興奮してるんじゃねぇっすか?」
「ん~。なんか違う気がするんだけどな~」




───フェイト───





 奴は、何者だ……


 吸血鬼のマントを羽織り、ふざけた赤いお面をかぶった男。
 冗談みたいな姿に反し、悪夢みたいな強さ。


 しかも、奴は、僕の、名前を知っていた……
 僕を、知っていた……?

 そんな、バカな……


 外の世界の人間で、僕を知っているなんてありえない。


 僕を知っているのは……



 奴は、本当に何者なんだ。強さの底も、まったく見えない。


 気配は吸血鬼だった。
 だが、それはフェイクだ。
 わざわざ上に吸血鬼の匂いを纏い、その本質を覆い隠している。


 僕は騙されない。その下にある奴の本質は、まったく違う。


 アレは、人だ。それも、特大の『一般人』。

 ただの、人にしか見えなかった。


 だが、それも違う。
 その強さは、世界に括られた、災い集合体といわれる『鬼』に、『死』を与えるほどの出鱈目さ……
 それが、『一般人』であろうはずがない。


 ……つまり、二重に偽装してあったという事。


 なんと用心深い。

 しかも、あれほど完璧な擬態。
 あれほど完璧ならば、平時ではすれ違っても奴とは気づけないだろう。


 先ほどのような戦場でなければ逆にわからないだろう。


 覚えたと言ったが、彼の雰囲気に該当する人間は、世界人口の4割強にのぼる。


 見つける事など不可能に近い。
 唯一の手がかりは、ネギ・スプリングフィールドに近しい者かもしれない。くらい。
 当然、僕の把握していない関西呪術協会の関係者という可能性もある。
 関東からの援軍という可能性も、ただ京の危機を察知した部外者の可能性だってある。

 はっきり言って、あれから関係性を推理するには材料が足りなすぎる。

 せめて、顔を確認できていれば、また違ったかもしれないが、それも叶わなかった。
 ただのお面だというのに、それを動かす事すら出来なかった……

 しかも、見逃された……最後の一撃。あれがただの本でなければ、完全に、とどめを刺されていただろう……
 僕の存在を完全に看破した上で、侮辱するために、本を投げてきたのだ。
 余裕なんてレベルではない。完全に、遊ばれたのだ。

 奴は僕の名前を知っていて、居場所も看破した。それは、いつでも、どこにいても、追って倒せるという意味……
 僕を逃がしても、なんの問題もないという、圧倒的な、自信の表れ。




 悔しいが、僕の、完敗だ。




 この、屈辱は、絶対に、忘れない……




 忘れない、ぞ……!






 彼の心に、『彼』が、ネギ・スプリングフィールド以上に刻まれた瞬間であった。





───学園長───




 ワシは報告をうけ、困惑していた。

 リョウメンスクナノカミが、祓われたというのだ。

 人の身では、倒し、封印するのが精一杯であるはずの鬼神が、『死』を与えられ、祓われたというのだ。


 しかも、それを成したのは、エヴァンジェリンであるという。



 この時点で、ワシには、それを成したのは、奴である事がわかった。



 エヴァンジェリンは今学園で意識を失っており、京都に行けるはずもない。しかも、京都にあって鬼神を祓える程の実力者。


 そんな存在、他に都合よく存在するはずもないではないか。


 むしろ、奴の目的が、リョウメンスクナノカミを祓う事にあったと見る以外にない。
 あの日ネギ嬢ちゃんに近づき、エヴァンジェリンに罠を仕掛け、ワシの目を晦まして京都へ行った目的。それが、リョウメンスクナノカミを祓う事。


 だが、リョウメンスクナノカミを祓う意味がわからない。捕縛もせず、調伏もせず、祓ってしまっては、鬼神の力の恩恵もなにも受けられなくなる。

 あるとすれば、鬼神を失った事により、封印していた力の陰陽のバランスが崩れ、陽が多分にあふれ出る事くらいだ。

 これにより得をするのは、それを封じていた霊脈を守護する関西呪術協会と、京の都という聖地のみ。


 スクナを封じていた陽の力が開放されたという事は、京の守護力が増したという事でもある。
 魔都である京都が、より安定する基盤を手に入れた。そのくらいだ。


 だからこそ、困惑する。
 奴に得がまったくないではないか。
 確実に、裏があるとしか思えない。

 まさか、なんの目的もなく、あの大鬼神を祓うなどという事もあるまい。

 あれほど用意周到に準備を重ねての行動だ。
 意図がないなどというはずはない。


 だが、その意図は、まったく読めない。


 捕らえた賊は、奴とは別の目的で動いていた事がわかっている(事情聴取を受けた千草などは、彼の存在をまったく知らなかった)

 むしろ、この襲撃者達も、奴の目的に利用されたと考えた方が、納得がいく。


 奴と彼女達にはつながりはまったく見えない。
 それはそうだ。奴は、彼女達と一切接触していない。

 彼は、ただ修学旅行を楽しんできただけ。

 どこをどう調べても、出るのはせいぜい、京を救ったという事実だけ。
 それ以外、奴がこの件に関わった事実など、ひと欠片も出ない。
 きっと、これが表に出た場合のため、ネギ先生達に近づいていたのだろう。助けに来たと言えば、それだけで疑う理由はなくなる。なんと抜け目のない男だ。

 その裏に、なにかが隠されているなど、誰も思わないだろう。
 想像すら、出来ない。



 すべては、一般人を擬態する、あの男の手のひらの上。



 ワシだけは、奴がやったと判断が出来る。

 だが、これもまた、奴の手のひらの上だ。ヤツに裏があると考えられるからこそ、奴がやったとわかるからこそ、エヴァンジェリンがやった。という捏造を、事実にしなければならない。
 奴のした事を認めれば、獅子身中の虫を飼う事となるだけ。学園を自由に操る力を与えるだけだ。どちらが学園に不利益か、わかりきっている……

 ワシには、奴の出した選択肢を、ただ受け入れるしか出来ないのだ。それが、最善であるがゆえに。
 しかも、奴にしてみれば、どちらを選んでくれてもかまわない選択肢。


 なんと恐ろしい謀を仕掛けてくるのだ。


 奴の本当の姿。
 ワシだけが、知っている。
 これは貴様の策の上で必要な事だったのだろう。
 だが、ワシに存在を知らせた事。ワシを甘く見た事。ワシを挑発した事。ワシを操れると考えている事。


 そのおごり、いつか命取りにしてくれる!


 一千年の魔都京都。世界にある12の聖地が一つ。その一つの霊脈を開放し、貴様は、なにを企む。

 今はまだ、貴様の野望がなにかはわからない。



 だが、必ずや貴様の野望を阻止してみせよう!



 必ずだ!!
















 ……こう並べてみると、彼が本当になにか企んでいるみたいだね☆


 普通に考えれば、ただ助けただけ。でも、裏を考えはじめるとあーらふしぎ。偶然て、恐ろしっ!!








 彼の受難は、まだまだ続きそうだ。






─あとがき─

 リョウメンスクナノカミは強敵だった。まさか、あの『エターナルフォースブリザード』を発動させる時が来るとは思わなかったぜ。
 くっ、使った反動か。俺の左腕の紋章が、うずきやがる! やめろ、俺に近づくな! くうっ、心臓のインフェルノペインまでうずきやがった!
 封印を、急がなくては、でなくては、今日も、ちゃんこか……


 そして、彼が頑なに独白で他人の名前を呼ばなかった努力がやっと身を結びました。
 一番、目につけて欲しくない人に目をつけられてしまいました。

 でも再登場は魔法世界編なのでしばらく影も形もありません。残念無念。

 そしてほとんど関わらなかったがゆえ、広がる誤解。完璧すぎる謀。
 ぐうぜんてほんとうにおそろしいよねー。


 これからは、誤解解決編となってゆきますので、少しずつ彼も幸せになっていくんじゃないですかねー。


 しかし、あのちびエヴァが今回限りとは、とても残念でござる。商品化したら絶対売れるよ!
 あと、もう『彼』の外見は黒髪のナギ(男15歳版)でいい気がしてきたヨ。



[6617] 中書き その1
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2009/05/12 20:25
初出 2009/05/12 以後修正

─中書きその1─



※ここから先、第13話からは、主にエヴァンジェリンがヒロインとして描かれるいわゆるエヴァルートに入ります。
 これによりエヴァ以外のヒロインの描写が省略されたり、メインになる話がとばされたりして話がちょっと飛び飛びになるかもしれませんが、ご了承ください。
 それらは後々番外編。もしくは別ルートで補完したいと思います。

 とりあえず、エヴァルートを終わらせてから、他はゆっくりと枝葉を伸ばして行こうと思います。
 他ルートがあるとすれば、ネギルート、とか、かな? 予定はまだ未定です。







[6617] ネギえもん ─第13話─ エヴァルート01
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2012/02/25 21:27
初出 2009/05/12 以後修正

─第13話─




 ネギ、師匠を求めるの巻。




──────




 HEY YO。みんな、お手紙コーナーの時間だZE!
 なになに? 『日常的にバリアとか張っておいた方が安全じゃね?』

 OH! そいつはいい考えだぜスティ~ヴ。早速修学旅行の最終日にそいつはやってようじゃないか! なにせ『三番目』に喧嘩を売った形だからな!
 これで、いきなりダンプに轢かれても安心DAYO!!


 でもそうしたら、幼女に「敵を誘っているのか。お前らしい」と言われました。


 バリアがわかるのかと聞いてみたら、見る者が見ればよくわかるのだと言ったとです。
 魔力は感じないが、バリアによって空気の流れなどに違和感が出るのだそうだ。わかる奴は相当なレベル。つまり、幼女や『三番目』クラスをおびき寄せようとしているようにしか見えないんだと……

 早い話、こうして対策をした方が、『三番目』に見つかりやすくなるという事なのだ。
 一般生活では安全になるが、魔法使いやその道のプロなどの超一流にはわかり、逆によってこられてしまう。
 そのレベルの者は、必ずといってこの不可視バリアに興味を持つだろう。だって。

 つまり、バリアを張っていると、『三番目』はおろか、それ以外の超一流にも目をつけられる可能性があるわけだ。


 ……それ、逆に意味ないよね。
 ちょう意味ないよね!

 せっかく学園ではワリと平穏に暮らせているのに、自分から他の人にアピールするの逆に無意味だよね!(ちなみに彼は自分がすでに学園長に目をつけられているとは夢にも思っていない)


 結論として、学園で平穏にすごしたければ、むしろバリアはなしで今までそのままの方がいいってさ。
 ちなみに幼女んちと寮に作ったゲートは平気みたい。直接出入りを見られない限りは。

 だから俺は、バリア装備は諦めて、今までどおりそのまま生活する事になりましたとさ。
 そもそも普通に生活している分なら、この安全大国日本において『道具』を使うほどの危険もないわけだしな。



 どうせ修学旅行が無事終わった今、次のイベントは学園祭。夏休みの魔法世界までは安全なんだしな。ひゃっほー。




 そう、思っていたんですが……




 修学旅行も終わり、次の日日曜の昼間。
 そんな平穏な日常の中、俺は今広場で黒服の方々に囲まれて、冷や汗だらだら流しているんだ!


 おかしいなー。なんで俺、命の危機を感じてるー?
 誰だ? 普段生活している分には命の危険なんてないなんて思った奴は。



「……心当たりがない。とは言いませんわよね?」
 そして、黒服の中央。俺の目の前には、現在俺最大の天敵(?)とも言える、委員長兼お嬢。雪広あやかが腕を組んで立っているのでした……



 まあ、アレだよねアレ。全部修学旅行のおかげだよね。



 修学旅行が終わるとさ、ネギ、今後のために弟子入りするじゃん?


 なんかさ、なんでかさ。それでネギが師匠と求めたのが、俺っぽいんだよね……


 そりゃ、修学旅行にスクナ倒したの、俺だけどさ。
 幼女に押しつけようと思ってたんだけどさ。


 その前に、こんな事が起きるとはね……



 簡単な経過説明。



 修学旅行が終わっての日曜日。明日菜が起きると委員長withクラスメイトが襲撃してきたコミックス第7巻最初の話のアレ。
 原作と違うのは、このかと一緒に刹那が帰ってきたという事。
   ↓
 ギャーギャー騒ぐクラスメイトに明日菜爆発。全員退室させようとする。
   ↓
 その明日菜がクラスメイトを押し出している際ネギが
「刹那さん。あの人の連絡先を教えてもらえませんか?」
 と耳打ち。
   ↓
 だがネギ限定ぢごく耳の委員長は聞き逃さなかった。
   ↓
 このままネギ先生に会わせるわけにはいかない!
   ↓
 会わないよう釘をさそう。



 そんなわけで、雪広財閥の力を使って呼び出し。

 のこのこやってきた俺は、こうして委員長さん&執事。それと子飼いの黒服さん(執事)達に囲まれて、今に至るというわけでありました。
 金持ちの本気というヤツを、今見てます。
 お金持ちにかかれば、俺の携帯番号なんて楽勝ですよね。


「……あのー」


 おずおずと、俺が口を開こうとすると、ギン。といった感じで、にらまれます。
 ネギっ子LOVEのいいんちょさんに。
 ネギは絶対守るオーラが出てます。
 いやはや愛されてるなぁネギ。


「修学旅行の時は逃げられましたけど、今度はそうはいきませんよ?」

「確かに、もうヤサ(寮)も連絡先も知られてるしなぁ」


 手で顔を覆って、うめいてみる。
 下手に寮は襲撃するなよ。中身幼女がいたりしたらお前等逆に返り討ちだから。
 幼女本体は今家で修学旅行の疲れを癒しているから幸運だったな!


「私も、鬼ではありません。そりゃ、ネギ先生に素敵な方が現れれば、その方に任せるのがスジと思っていますよ? ですが、今私の評価では、まったくもって駄目駄目です」

 アレですね。お父さんならぬお姉さんは認めません! というヤツですね。
 安心してください。そんな気はサラサラありませんから!

「いや、俺も、平穏に過ごしたいなーと思ってます」

「それを実現したいならば、まずはその身の潔白を証明していただきましょうか!」


 ぱちんとお嬢が指を鳴らすと、黒服さん達が丸くてでっかいマンホールみたいな石を持ってきた。


 ……あれー。これ、どっかでみたことあるよー。


 確か、『真実の口』とかいうどこかの観光名所じゃないかなー?


「さあ。ここに手を入れ、私はネギ先生にやましい事はなにもしていません。と宣言してください。そうすれば、一瞬にして身の潔白が証明できます。そうすれば、私も認めざるえませんわ」


 あー。俺の知ってる奴そのままだね。
 たしか手を口に入れると、偽りの心がある者はその手首を切り落とされたり、手が抜けなくなったりするんだよねー。
 ローマの休日は名作だよねー。


 ちなみに、雪広あやかは、修学旅行の時彼が本当にネギへ後ろめたい事をしたのかは調査は行っている。
 だが、幸か不幸かあの時は関西呪術協会の天ヶ崎千草による近衛木乃香誘拐計画が動いていた。そのため、あの温泉騒動を知る者は当人達以外に存在せず、事実は確認出来なかった。
 調査だけを見れば、あの件は自分の勘違いかもしれない。それでも、彼の態度はなにかやましい事をした事を示している。それゆえ、当事者に対し、こうして確認もしようとしているのである。


「……本物?」

「当然ですわ」

「なんでここに?」

「ちょっとレンタルしてきました」

「レンタル出来るモンなのアレー!?」


 すげぇやお金持ち。
 つーかこの世界だと魔法があるからマジ判定されても不思議はない。ちょう怖い。


「ところで、手が抜けなくなったりしたらどうなるの?」
「ご想像の通りですわ」


 つまり万死に値してノーロープバンジーもありえるって事ですかー!?


「さあ! 手を! 私に認めて欲しくば、身の潔白を証明なさい!」

「ちょっ! こら、待て! そっちの用意したものだとそれが嘘だろうが本当だろうがそっちの自由に出来てもおかしくないだろ!」

「私がそんな事する人間だと思いますか!?」


 おもいませーん。お嬢そういう面でもすっごい公明正大な子だと思うからー。


「大体コレは本物なんですから、そんな必要はありません! そもそも後ろめたい事がなければ抵抗する必要もないはずです!」


 くっ、痛いところをついてきやがって!

 こうなったら道具で……


 がしっ。


 ……って、黒服執事さん!? なんで俺の両腕をつかみますか!?

 両手つかまれていたら道具出せないんですよ!
 や、やばい! ひょっとしてコレ、今までで一番ピンチなんじゃないかー!?


 まさか、一番の危機が魔法使いではなく、ただの人間の手で引き起こされるとは。
 ふっ、人間の敵は、やはり人間か……


 なんて厨ニ的な言葉に酔っている場合じゃねー!


 ぐいぐいと、手を『真実の口』へ引っ張られる。


「ちょっ、ちょっと待て。落ち着け。安心しろ。決して、決して手は出してない!」


 少しでも時間を稼ぐのため、俺の口から出た言葉。


「まあ。それは安心」
 お嬢が笑顔で答える。


 だが、むしろそれは、致命的。


「って、出来るわけないでしょうがー!!」


 お嬢が『真実の口』をちゃぶ台返しした。
 くるんくるんと石で出来たマンホールが宙を舞う。黒服執事さん大慌て。
 お嬢。ネギに関するとたまに人間超えるよね。


「つまりそれは、それに近い、やましい事をしたって事でしょうがー!」


 しまったぁぁぁぁ!

 ちゃうねんー。
 でもやましい事をしてしまったのは確かにほんとやねんー。
 でもちゃうねんー。


「もう手を入れるまでもありません! あなたの存在は、万死に値します!」



 やっぱり万死ですかー!



 なんか黒服の人とか、手袋とか装備してなにやらアップをはじめているんですけど。なにこれ。俺今から某顎と鼻の鋭いカイジ的な地下労働所にでも送られちゃうの?
 それともやっぱりノーロープバンジー!?


「ネギ先生にもうちょっかいをかけるなと言おうと思いましたが、いっそ行方不明となり、永遠に会えないようにした方がよさそうですわね。ウチの会社のタメに地下へレアメタルでも探しに行ってきていただきましょうか。安心なさい。一生使い切れないくらいのお給料は与えますわ」


 ひょぇー!!
 お金持ちを本気で怒らせてしもうたー。俺外国留学フラグオンー!
 てゆーかそのお給料ってそもそも使い道がなくないー!?




「あ、すみませんいいんちょさーん!」

「ハイなんでしょうネギ先生!」

 
 あやかの、すごい、変わり身。

 背後から声をかけてきたネギの方へ振り返るお嬢。
 般若が女神に変わる様を、俺は見た。


「人を探しているんですけどー、って、あ」

「あ」

 しまったという委員長の声。
 ネギの視線の先には、俺。


 見つけたー。というような感じで、ネギがやってくる。


「ちっ」

 いいんちょと黒服執事達がいっせいに舌打ちしたぁぁぁぁぁ!

「お嬢様、さすがにここでは……」
「しかたがありませんわね」
「次の機会に……」


 聞こえてる。聞こえてるよそのちょう不穏な会話!


 つまり、ここでどうにかしても、根本的な解決にはならないということか!



 ……はっ、ならば!



「ネギ、今、俺がいなくなったら困るか?」
 近づいてきたネギに聞く。


「はい。困ります!」

 笑顔でネギ回答。


「くっ……!」


 そう。ネギが困るのならば、ネギを想うネギっ子LOVEの委員長は俺をそう簡単に行方不明などには出来ないはずだ!

 OKネギ! いつもは地獄の使いだけど、今は天使に見えたよ!

 まあ。根本的な解決にはなってないけどね。むしろ悪化した気もするけどね。



「あなたなかなかえげつない手段とりますわね」
「君に言われたくないよ」

 お嬢がまたくるりと振り返り、ネギには聞こえないよう顔を突き合わせ二人でひそひそと。
 正確には俺の襟首をお嬢がつかんで顔を近づけてきた。

「絶対認めませんよ?」
「認めなくていいから許してください(平穏に生活する事を)」
「(交際を許せと)本気で言っているんですか?」
「本気で言えば許してくれますか?」
「許すわけないでしょう!」
「ですよねー」
「絶っ対、認めませんわ……!」

 こうして、誤解は深まっていく。


 そしてそうやって顔を近づけてひそひそ話す二人は、はたから見るとちょっとアヤい関係にも見えた。


 そんなひそひそと話す二人を見て。
「お二人とも仲が良いんですね~」
 ネギはそう素直な感想を言った。


 この剣呑な雰囲気の俺達を見てもその感想。ある意味君は大物だよなネギ(はたから見た自分達の姿に彼は気づいていない)


「ほーっほっほほ。その通りですネギ先生。ですから、今度彼に連絡を取る時は、私を通してくれると助かりますわ」

「あ、それは助かります!」


 お、それは、俺にとっても悪くはない。
 委員長を通せば、俺とネギが接点を持つ事が少なくなって、俺が巻きこまれる可能性が減るしな。




 だが、本人気づいていない。
 委員長を通さないで来る接点とは、ずばり彼が巻きこまれたくないと思っている件である事に。




「どころで、彼となにか? どこかへいらっしゃるのでしたら、お供いたしますよ」

「あ、すみません。いいんちょさんにはちょっと……」


 ガーン!


 あ、すっげーショック受けてる。

 だから、すねた感じで睨まないで。お願いだから睨まないで。
 ちょっとかわいい。とか関係ない事思って現実逃避するから睨まないで。


「あ、安心しろ。天に誓ってなにもしない。俺嘘つかない」

「当然です! ネギ先生。気をつけてくださいね!」

「? なにをですか?」


 なんという無邪気な笑顔。俺を完全に信頼している笑顔。


 ガガーン!


 再び大ショックのお嬢。


「お、覚えていらっしゃーい!」


 そしてそのまま、走って去ってった。
 黒服執事達がマンホールをごろごろ転がして行ったのが印象的でした。


「……どうしたんでしょう?」

「気にするな」

「ダンナも大変だなぁ」



 天然でなにが起きていたのか気づかないネギ。
 それと、哀愁を漂わせる俺がいた。
 あと小動物に同情されても嬉しくない。



「あの……」

「なにを言いたいのかわかっている。だがとりあえず、場所を移動しよう」

「え……?」


 いろんな意味で、早いところネギとの関わりは切っておいた方がいい。日常の平穏のタメに。
 そう思ったので、さっさと目的地へと歩き出した。



 どうにもネギはツインテちゃんと手分けして俺を探していたみたいだけど、いざという時の集合場所が目的地だったのでそのまま出発した。







 ……この時、その集合場所の違和感に気づいていれば、よかったんだよなぁ。




──────




 幼女の家を襲撃した。


 元の体に戻ってぐーすか寝ていた幼女を叩き起こす事にする。俺がネギに頼まれる前に、幼女に師匠になる事を頼んでおかないとならないからだ。
 ネギが勝手に入っていいんですか? とか言ってるけど、茶々丸さんが普通に入れてくれたんだから気にしない。


(遠慮なく家にあがれるなんて、やっぱりエヴァンジェリンさんとも仲が良いんだなぁ)



 叩き起こした。



「き、貴様いきなりなにをする!」

「おはようネギを弟子にしろ。お願いがあってきたんだネギを弟子にしろ。聞いてくれないかネギを弟子にしろ」

「全然お願いする気などないだろう貴様!!」

「頼むよ。な? 俺がこうして頭を下げているんだ。な?」

「全然下げてないだろうが!」

「下げてるだろ。ふんぞり返った分通常より下に」

「それは下げるといわん!!」

「うん。俺もそう思う。ちょっとやってみたかったんだよ。ネタとして。というわけで、ネギを弟子にしろ」

「なにがどういうわけだ意味わからん!! 大体なんで私が弟子を取らねばならんのだ! アホか!」


 お前の方こそアホか! お前に師事しないで誰に師事するってんだよ!
 お前以外にいないじゃないか。
 これ以上俺に原作剥離の心配をさせないでくれ!

 ただでさえ魔法世界行きが怖いんだから!
 主に俺が『三番目』に色々やっちゃったせいで!


 ……とは、もちろん口が裂けても言えないんだが。


「大体、魔法くらい貴様が教えてもいいだろうが!」


 それこそアホかー!
 俺は反則技で使っているだけで、お前達みたいに身についてるわけじゃないの!
 大体お前達の魔法形態なんて知らねーから教えられるはずもないだろ!

 ついでに言えば『魔法事典』なんてあんな主に優しい気の利いたド利口道具2度と取り出したくもないし使ってやりたくないの!

 なにより委員長が怖いんだよ!


「俺が教えていいなら教えてるっつーの! それが出来ないからお前に頼んでんだよ! お前は意外に面倒見もいいし、魔法の知識も豊富だ。戦いの厳しさも教えられる。いいところを上げだしたらキリがない。俺以外にそれが出来るのはお前くらいしかいないんだ! だから頼む!」


 土下座とまではいかないが、ベッドに両手をつけて、頭を下げる。



 しーん。



 ……あRE? なんでしーんとなりますか?



 みんな引いてる?
 やっぱいきなり土下座モドキはやりすぎかな?



(エヴァンジェリンさんの事、すごく信頼しているんですね。でも、それは僕のためなんですね……? なんだろう。それなのに、胸がざわざわする……)
(なんでそんなに必死で頼むのだ。なぜ、そこまでこの小娘の事を気にかけるのだお前は!! だが、お前はそこまで、私を信頼してくれているのか……複雑な気分だ……)
(……ダンナ、オレっちにはその擬態能力が高すぎて感知できねーんだが。い、一体、どっちがどうなんだー!? それとも本命は別にいるのかー!?)



「た、確かに、貴様に匹敵する魔法使いは私くらいしかいないからな。しかたない。今度の土曜日もう一度ここへ来い。弟子にとるかどうかテストしてやる。それでいいだろう?」


 しばらく静かだったが、幼女がなんとか知ってる流れの答えを出してきた。


「おう。それでいい」

「これで駄目だったら文句は言うな!」

「OKOK。俺はそれで全然OK。ネギもそれでいいよな?」


「え? あ、はい! 僕は、不満ありません」

「そうだぜダンナ。助かったぜ。元々エヴァンジェリンに頼もうと思ってたからよ。手間が省けたぜ」
 オコジョがそう答える。


「……え?」

「本当にありがとうございます」
「ダンナは先生にはならねえって断言してたからな。ダンナもなにか理由があるんだろ? わかってるよオレっち達も!」


 ……え? あれ?


「それじゃ、さっき俺を探してたのは……?」



 なんで?



「探していたのはですね。あの、その……」



 ……なんで、語尾がどんどん小さくなってくの?



「せ、責任についての話を……」



 ネギが、ぽつりとつぶやいた瞬間。






 ……空気が、凍った。






「なななななな、なんの話だー!」

 幼女大爆発。




 俺、フリーズ。




 責任……? 責任て……あ、あー。あれかなー。ほら、あれ。あれあれ。そうソレ。ボケるまでもなく散々ネタになってる、後ろめたい事。修学旅行初日の、お風呂、の、事、かなー?



「ふ、ふつつかものですが……」


 ネギが俺に三つ指立ててきました。


「誰に習ったのそんな事ぉ!?」

「刹那さんですけど」


 ああ。電話番号聞く時とかに聞いたのね。納得納得超納得。



 じゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!



「いや、あれは温泉ハプニングの罰という意味でね。人生全部の責任を言ったわけじゃないんだヨ?」



 ……あの時の会話を思い出してみる。
 『責任をとってくださーい!』『──エヴァンジェを裸にひん剥いた時に、あれを娶らにゃならんだろうが!』『──俺は納得して、責任は全部俺が取るから!』省略ダイジェストより。



「……あ、れ? そう、とれ、なくも、ない?」


「つーか、あの時あの流れでああ言ったらそれ以外とれねーぜダンナ」

 横になってプカプカタバコをふかしているオコジョがいた。
 そういやお前もあの時一緒にいたな。


(へへへへへ。修学旅行中は記憶を封印していて忘れていたが、これでダンナに責任を取ってもらえれば、ネギのアネさんの戦力も超パワーアップ!! そしてアタイも、ダンナとずっと一緒。えへへ)
 パオーンのトラウマを別の欲望でいつの間にか乗り越えたカモは、そんな事を思った。


「ほら、証人もいます!」


 くそっ、カモ助め! そこまでして俺に仮契約させたいか! 修学旅行の時は駄目だったから、今回はこのような直接的手段で来たのだな!



「おい、どういう事だ!? 責任とはどういう事だ!!」


「ぐげ。ちょっ、ストップストップ……きまってる……首に……」


 幼女俺の首を後から絞めないでー。タップターップ!



 ネギ事情を説明中。
 俺、冷たい床でぐったり。

 茶々丸さんすら俺放置。


 超放置。


 そういえば、チャチャゼロいないな~別荘の中かな~。それとも自由に動けるからどこか出かけてるのかな~。
 ぐったりしながら、そんな関係ない事を思った。


 あ、意識がちょっと薄れてきた……



「ちょっと待て。それなら、私も橋の上で同じ目にあったぞ! しかも逆さづりにまでされた!」

「でも僕には責任を取ってくれるって!!」

「それならば私はヤツと一緒のベッドに寝た事があるぞー!」

「ええええええー!?」



「や、やっぱダンナとエヴァンジェリンは……」
「マスター……」



「……」

 俺はゆっくりと起き上がり。
 幼女二人に近づいた。

 そして。



「ふん!」


 ごちん!!


 ネギと幼女の頭をがっちりキャッチし、ぶつけあわさせた。


「いたたたた」
「ぐぐぐぐぐ」


「アホかお前達は!」


「だがな!」
「ですけどー」

 幼女二人が涙目で俺の方を見る。



「ったく。誰も責任を取らないなんて言ってねーだろうが」


「なっ!?」
「えっ……?」

 一方青くなって、一方が赤くなった。


「ああ。女の子の柔肌を見た責任、俺の命で償おう!」


 俺は、ポケットから、一本のカッターを取り出した。


「……カッター?」


『なんでもカッター』
 乗用車だってらくらく真っ二つ。なんでもきれいに切り落とす万能カッター。線なんて見えなくても17分割だってらくらく可能DEATH!!
 ※一瞬でそれ成す場合は使用者に相応の技量も求められます。


「これで、自分を真っ二つにして、お前達に詫びようじゃないか!」


 ぱぱらぱっぱぱー。


「ちょ、まっー!」
「だ、駄目ですよー!」

「ダンナー! さすがにそれはやりすぎー!」
「さすがに、それは……」

 上から幼女1、幼女2、オコジョ茶々丸さんと続く。


「止めてくれるな! 少女達の柔肌を見てしまったのならば、コレくらいせねばワビにもならぬというもの! いうものなのだー!」

 切腹するように、上着をはだけようとする。


「茶々丸、とめろ!」
「はい。マスター!」

「ダンナー。ストップストップー!」


「離せー! 離すんだー!」


「わかりましたー。わかりましたからー! 責任は取らなくていいですからー!」
「そうだー! ネギがこう言っているんだ。やめろー!」


 幼女はおろかオコジョまで飛びかかってきて俺の自害を阻止する。


「……しかたないな」


 俺は、しぶしぶカッターの刃をしまい、ポケットにしまった。


「そうだ。それでいい」
「そうです。死んじゃったら駄目です!」



 そしてそのまま流れるように。



「本当に、スマンカッタ。これで許してくれ」


 今度は少女達全員に向けて、土下座。


「は、はい。わかりましたから、頭を上げてください」
「そうだ。許してやる! もういい!」


 くくくくくく。


 計画通り!!


 頭を下げながら、俺は某新世界の神のように笑う。
 あ、ここでこうやって笑うの2回目だな。


 ネギならばきっと止めてくれると思っていた!


 そして、このとどめの土下座!
 ふはは。この俺様は、観衆100人の前で土下座を敢行出来る男。平穏のためならば、土下座などたやすい事なのだ!

 情けないだろう! 幻滅するだろう!!

 おっと。
 駄目だ。まだ頭を上げるな。

 長くすればするほど、情けなく見える!

 30秒過ぎたら頭を上げよう。

 いや、35秒過ぎたらだ!


 見ろ! 俺のパーフェクトドゥゲェーザを!!


 そして、幻滅するんだ! 俺の情けない姿に!!




 土下座。確かにそれは、一見すると情けない行動だ。だが、時と場合。さらに魂のこめ方によっては、これほど堂々と、雄々しく、気高い姿はないのである。
 彼の土下座は、その土下座として、姿、形、気位。すべてが、パーフェクトだった。





(そんなに、誠実に、僕の事を考えてくれたなんて……)
(……こいつ、ここまで誠実な男だったのか)



「さすがダンナ。男の鑑だぜ……」

「……素敵です」

「「「!?」」」

 なぜかそう言った茶々丸にネギエヴァカモは驚きの視線を向けた。




──────




「はー。ひと段落ひと段落……」

 俺の割腹騒ぎもひと段落し、みんなでお茶を飲む。
 これで、ネギも俺なんてヘタレを諦めて、目が覚めただろう。
 しかし、なんか知らんけど、茶々丸さんがお茶を目一杯入れてくれた。表面張力一杯に入れてくれるのはいいんですが、飲みにくいです。



 テーブルにあるカップに体を曲げ、顔を近づけて飲むその姿を茶々丸は見て「そのヘタり具合……やっぱり素敵です……」と、つぶやいていた。
 変な萌えに茶々丸が目覚めた。



「すみませんでした。勘違いしてしまって」
「いやいや。俺も言い方が悪かったよ。そんなわけで、あの件はもうこれで手打ちな」

「はい」

「まったく。はた迷惑な」
「ああ。正直俺もスマンカッタと思う」

 幼女がむくれている。


 そうだよな。なんで怒ったのかと思えば、万一お前がナギとーさんとうまくいって、きゃっきゃうふふになった時、俺が責任とってたりしてたら、俺、お前の息子だもんな。お前にとっては悪夢だよな。
 俺にとっても悪夢だよ。ネギと将来が決まるなんて、死刑死亡フラグ立ちまくりじゃないか。委員長とか委員長とか委員長とか。
 『責任』の話とか出されたらソレこそ本気で消されるよ。「10歳の少女になにしたんだー!」って。
 弁解の余地もなく土に返れるよ。
 それに夏休みの魔法世界一周旅行も拒否できなくなるじゃないか。
 そんなの困るよ。

 困るので、この件については、もう他の人には言わないよう、ネギに釘を刺しておいた。


 ただ、一つ言っておくが、ネギが嫌いというわけじゃないからな。他の要因が問題だ。ネギがただの女の子で、現在20歳だったら大歓迎だったよそりゃ。喜んで責任取ったよ。
 でもそうじゃないんだ。すまないな。


 ネギの方だって、俺があの時不用意に「責任を取る」なんて言っちゃったからこうなのであって、実際俺に恋してるとかはないだろうし。
 原作の『ネギ』だってまだまだ恋とか2の次だっただろ。本屋ちゃんの時、告白されただけで「結婚しなきゃー」とか言って悩んでた気もするし。
 変なところで律儀なんだからよ。



 ま、今後関わりが薄くなってくりゃ俺の事なんてすぐ眼中にもなくなるさ。
 こんなヘタレなおじさんの事はわすれてくんさい。



「あ、あの!」

「ん?」

 ネギが、なにか決意したような目で、俺を見た。


「僕、必ず、あなたの隣に立てるくらいまで強くなりますから!」


「は?」

 どゆこと……?
 俺みたいなパンピーの隣なんて……
 ……ああ、そっか。俺スクナも倒した上『サウザンドマスター』名乗ってたっけ。つまり、俺と同じくらいになる。イコールパパンに近づくって事だもんな。

 目標があるって事は良い事だよ。
 つってもすでに君、素の俺より100倍くらい強いだろうけど。


「ああ。楽しみにしているよ」

「そ、そうしたら……」

「ん?」

「ふん小娘。まだテストにも受かっていないのに気の早い話だな」

「あ……」

「すでに言ったからには、弟子入りテストの件は反故にはしない。だが、私のテストは厳しいぞ」

「が、がんばります!」


 よし。がんばれネギ!
 俺は応援はしているぞ。遠くから!

 いざとなったら『道具』でドーピングとか認めるし。絶対弟子になるんだ!


 ……あー。てことは、もうしばらく見てないと駄目って事かぁ。


 はー。おかしいなぁ。もう原作と関わりない平穏な日々が続いてるずなのにー。


 まあ。夏休みまでは平穏だから、いいかー。
 夏は『三番目』が心配だから、いくつかの『道具』と俺の知識を与えてあげてもいいよなー。
 『道具』があれば、ネギ達だけで解決出来るようになるし、魔法世界には行かなきゃ俺は安全だろうし!!

 お前も行けよってのは聞こえない。
 もう何度目かわからんが、俺はヘタレなのだ。ノットバトラーなのだ。執事じゃなくてバトルする人って意味だぞ。
 あんな気も休まらないトコいってられっかよ。



 ま、そのあたりは夏休みが近づいてからでいいだろ。
 もう学園祭までは危険もないんだし、それが終わってからでさ。






 だが、彼は、忘れている。学園祭の前に、爵位級の悪魔がやってくる。という事を。
 すっかり、忘れていた。

 もっとも今まで一度も話題に上がっていない事から、最初から存在そのものを忘れている。というのが正しいのかもしれないが。






 この後ツインテ少女明日菜がやってきて、ネギは他に用事があるからと、帰って行きました。





 取り残されるのは俺と幼女。



「それじゃ、俺もいったん帰るわ。ネギの事、頼んだぜ」

「む? あ、あああ~」


 なんで手をさまよわせてんの?


「そ、そうだ。せっかくだ。夕食くらい食べていけ」

「茶々丸さんが作る料理があるなら食べよう」

「ふん」


 それはあるのかないのかどっちなんだ?



 結局ご馳走になってワープペンの通路を使って帰りました。
 ああそうそう。幼女側の出口って押入れ(クローゼット)なんだよ。
 どっちかというと、幼女の方がドラえもんぽいよねコレだと(逆に考えればクローゼットに自分の部屋があると言えるのだが、それに気づかない彼だった)


 ……ところで幼女。なんでTVゲームもって俺の部屋に押しかけてきますか?


 明日授業あるんですけどー?
















 ちなみに俺、格ゲーはストⅡからの格ゲー黄金世代(ゴールデンエイジ)だぜぇ!!




───エヴァンジェリン───




 ったく。修学旅行中なにをしているんだアイツは!


 あんなに温泉にこだわっていたのは、あの小娘と一緒に風呂に入るからだったのか!?
 そのせいでのぼせたというのか!?
 いや、男湯と女湯のノレンが入れ替わった事故だとは聞いたが。


 だが、なぜあの娘には『責任をとる』と言い、ソレより早く、橋の上で見られた私にはなにも言ってこないのだ! 私なんて逆さづりにまでされたんだぞ!


 しかも、あの娘のタメに、私に頭を下げるなんて。


 お前が、頼むなら、頭など下げぬとも、受けてやるさ……


 なんでお前は、そこまであの娘に、気をかけるんだ……
 それは、ナギの娘だからか?
 それとも、ネギだからか……?




 ……しかし、なんなんだ、この気持ちは。


 奴を、ネギにとられるかと思ったら、一瞬目の前が真っ暗になった。
 それゆえ、ムキになってしまった……


 なんなんだ、この気持ちは……





 彼女はまだ、その気持ちがなんなのか、完全に把握出来ていなかった。
 なぜかは、ナギが女性であるから。こう言えば、もうわかっていただけるだろう。この気持ちは、彼女が初めて持った気持ちなのだ。

 いや、本当は最初からわかってはいるのかもしれない。だが、まだ、認める勇気がないだけなのかもしれない。
 600年にもおよぶ孤独。そして、それまでに犯してしまったその悪に、彼女はその光を求める事にためらいと、恐怖を覚えたのかもしれない。
 たった一人で生きてきた彼女が──他者を最も求めるその感情──それに気づいてしまった時、彼女は、最も恐れる、拒絶による孤独に戻る恐怖とも、向き合わねばならなくなるから。

 それは今が、あまりに、心地よすぎるから。

 それゆえ、彼女がそれをはっきりと認識するのは、もうしばらく、時がかかりそうである。





 ……とりあえず、テストはものすごく難しくしてやろう。
 成功率はそうだな。一桁。いや、5パーセント以下くらいの難易度だ。

 元々私は弟子をとる気はない。奴の頼みでしかたなく、テストをしてやるだけだ。
 それに、これくらいクリアしてもらわねば、真祖の吸血鬼の弟子など務まらん。
 奴の期待にも答えられないだろう。

 そのテストに合格が出来たのなら、色々不服だが、最強に育ててやろう。
 奴が私に任せたという事は、そういう事なのだろうからな。


 
 そしてネギは、茶々丸に一撃を入れるという成功率3パーセント以下のテストは成功させた。



 ……やはり、あのナギの娘だな。



 しかたがない。奴に頼まれた事でもある。その信頼を裏切ってはならないからな。
 私がお前を、最強に育ててやるよ。




 例えそれが、最強のライバルを作る事となっても。
 彼女は、彼の信頼に答える事を、選んだ。
 京都で彼女の信頼に、彼が答えたのと、同じように……



 もっとも授業をするのは主に彼女のコピーで、彼女本体は彼の隣にいるが。







 彼は、テストの結果を見て、ほっと胸をなでおろす。
 大きな変化があるようには見えなかったから。
 ちなみに、ネギの怪我は、『すぐ傷の治る絆創膏』で跡も残らず治りました。




───おまけ───




 ネギの戦いのスタイル選択のところ。
 その日はたまたま、エヴァ本体が授業していた。


「修学旅行での戦いから、お前の進むべき道は二つ考えられる。二者択一だ」


『魔法使い』
 前衛をほぼ完全に従者に任せ、自らは後方で強力な術を放つ安定したスタイル。

『魔法剣士』
 魔力を付与した肉体で自らも前に出て従者と共に戦い、速さを重視した術も使う変幻自在なスタイル。


「修行のためのとりあえずの分類だ。どちらも長所短所はある。小利口なお前は『魔法使い』タイプだと思うがな」


「……一ついいですか?」
「なんだ?」

「『サウザンドマスター』のスタイルは?」

「言うと思ったよ」

 エヴァはふっと笑う。

「私やあの白髪のガキの戦いを見ればわかるように、強くなってくればこのわけ方はあまり関係なくなってくる」


「……」
 ネギは、あの戦いの数々を、思い出す。


「が、あえて言うならば。奴のスタイルは『魔法剣士』。ついでに、もう一人の方も一緒だ。従者を必要としないほど強力なところまでふくめてな。私も時々血が繋がっているのかと思うほど、奴等はその出鱈目さが似ているよ」

「……」

「やっぱりって顔だな」

「えっ、いえ……」

「ま、ゆっくり考えるがいい……」


 考えて考えて考え抜いて、そして、ウチにためこんで……

 ……そして、一人で、闇に、落ちて……

 ……


「……いや、やはり、やめだ。お前は、『魔法使い』タイプにしろ」

「え?」

「お前は、一人で溜めこむタイプだ。それは確かに私の弟子向き、『魔法剣士』向き、とは言える。だが、お前はその溜めこんだモノに押しつぶされ、自滅するのがオチだ」


 そうだ。お前の本質は、光。お前が輝き、そして、他者も輝かす、光。
 確かにお前は、守る者がいて、それを守る時、もっとも力を発揮するだろう。だが、『魔法剣士』ならば、お前はその守る者の重さに押しつぶされるだろう。
 逆に。光を仲間と補いあい、高めあえば、さらなる高みへと進めるはずだ。
 人間とは本来、一人で戦うものではないのだから。お前には、ソレの出来る才能がある。多くの仲間を集め、人を惹きつけ、その力を最大限に発揮し、発揮させるという才能が。守り、守られるという才能が。

 それに、一人は、やはり、辛いから……

 お前は、私と同じ道を歩む必要はない。お前は、私達とは違う道で、最強になるべきだ。

 闇しか選べなかった、私と、違って……


「その点『魔法使い』は役柄パートナーと様々なモノを分かち合う。だから、お前は、お前の仲間と共に……はっ」

 全員の視線が、エヴァンジェリンに集まっていた。


 しまった。うっかり言わなくてもいい事を言ってしまった!


「あ、いや。決めるのはあくまでお前だ。こ、これは参考程度に聞いておけ。近衛木乃香。話がある。こっちへ来い!」


 近衛木乃香をつれ、エヴァンジェリンは階段を降りていった。


「エヴァちゃんはやさしいな~」
「ふん」


 彼との関わりゆえか、エヴァンジェリンは思わず、そんな事を口走っていた。
 それだけ、エヴァンジェリンは、ネギの事を気に入っていると言ってもいい(彼とのあの感情は別にして)
 そういう意味でも、ネギの本質は、光なのだろう。

 だがこれは、彼の知る原作にはなかった言葉。彼の知る本来のエヴァンジェリンならば。彼と出会わなかった彼女ならば、そもそもそんな事も思わなかっただろう。

 それが、どう効果するのかは、今は誰にもわからない。



 その言葉を聞いたネギは、その後、丁度喧嘩していたアスナと仲直りしようとするが、結局原作と同じく風呂に入っていた明日菜を呼び出し失敗。同じようによりこじらせる事となったのだった。




─あとがき─

 ネギ、弟子入りをするの巻。
 弟子入りというより、その後の騒動のが重要かもですが。
 エヴァ気持ちに気づく第1段階に突入。
 あそこまで想いにあふれてて自分で気づいてないんかい!? とか思われそうですが、あえて無視している可能性のが高いです。
 600年分の孤独は刹那と違ってそう簡単に溶けはしないって事でしょう。
 まあ、しばらくしたら気づくので、もうしばらく理解できない気持ちにモンモンする彼女をお楽しみください。

 それと、彼の知らないところで、ちょっとずつ、彼の知る展開との齟齬が発生し始めました。
 まあ、エヴァといつも一緒にいるんですから、影響が出ない方がおかしいわけですが。

 これが、どのような結果をもたらすのでしょう?


 次回は海に行きます。
 サービス回? さあ?

 ネギ弟子テストの件とか図書館島地下の件とかは気が向いたら番外編や別ルートで補完します。
 あとエドと携帯買いに行った話とかも。


 ネギルートがあったりした場合、師匠にしてほしいと頼まれたり、あの責任の話はもっと、彼が逃げられない致命的な場面で切り出されたりするのかもしれません(もしくは責任の話を盾に師匠にさせられたりとか)
 たぶん。
 今回はエヴァルートなので、さくっとバレ&誤解解消されてしまいました。ここだとネギは彼に『憧れ』以上の感情は持たない……のかな?



[6617] ネギえもん ─第14話─ エヴァルート02
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2009/05/14 21:24
初出 2009/05/14 以後修正

─第14話─




 南国バカンス編。




──────




 ハローハローでこんにちわー。


 メイデイメイデイおたすけあれー。


 ただいま俺は、南の島へ来ておりまーす。



 ほら。ネギとツインテ少女が喧嘩して、委員長がネギを励ますために南の島につれてきたってエピソードがあったじゃん?
 俺はよく覚えてないけどたぶんあったよ。このあたりの事良く覚えてないよ。これほどの大喧嘩イベントなかったら泣くよ(原作崩壊的な意味で)



 そこに巻きこまれたんだよね。
 3-A半数くらいの女の子+エドと一緒に南の島へご招待されてるんだよねー。


 なんで委員長に敵視されている俺が一緒に来てんだよテメー。ハーレムじゃねーか。とか思う子もいると思う。

 だが、違うんだ。



 あのお嬢、ここで俺を消す気なんだ。



 実は俺、お嬢に招待とかされたわけじゃないんだ。
 学園でやっていた福引で幸運にも南の島行きのペアチケットを当てたら、この南の島へつれてこられたんだ。
 つまり、孔明の罠だったんだよ!
 じゃーんじゃーん。
 げぇ! いいんちょぅ!!



 お前『フエール銀行』で無制限に金が増えてくクセに福引旅行なんかに喜んでノコノコ来てんじゃねー。とか思う人もいるかと思う。そりゃ、南の島を買うくらいの金は貯まっている。その気になれば星だって作れる。
 だが、福引当たってご招待なんてのは、お金とは別の問題だろ!? 俺こういうのはじめて当てたんだよ!
 だから、一度経験してみたかったんだ!! 貧乏性とかそういう次元じゃない。福引を当てて、旅行! これはある種のロマンなんだ! わかってくれとは言わない。だが、仕方がないな。と思ってくれ……

 ……誰に言い訳しているのかといえば、うかつな自分に。なんだが。




 視界にちらちらと黒服執事さんが見えます。


 前回、地下王国留学ご招待にとアップを開始していた人達ですよ。
 クラスメイトの安全と、俺の危険を担っているわけですよ。

 前回のネギ発言遭遇もあってか、行方不明とかだとネギがいぶかしむかと考えたのか、事故死とかを狙ってるんだよきっと。
 しかもここ海外。さらにお嬢の私有地。その後ネギを慰めるオプション付き。


 もう完璧すぎるほどだよネ。



 俺のあまり役に立たない危機感知能力がすでにレッドアラートを鳴らしているのだからどれほど危険な場所につれてこられたのかよくわかります。



 なんというデンジャラスゾーン。




 金持ち(権力アリ)の本気という奴を、俺は今見ているぜ!




───雪広あやか───




 この時、雪広あやかは本能的に感じ取っていた。


 ネギ先生が、あの男に惹かれはじめているという事を。



 彼をネギ先生に近づけないよう努力しても、ネギ先生が彼に近づいてしまったら意味がない!


 くっ、ちょっと悪そうな奴に真面目な子があこがれてしまうのは、いつの時代も一緒なのですね!


 だからといって、ネギ先生に、「あの男は危険です。近づいてはなりません」とは言えない。

 「その危険がいいんです」とか回答されたらもう涙目だし、「あの人はいい人なんです。いいんちょさんなんて嫌いです」なんて言われたら自分が立ち直れなくなってしまう。


 そもそもこういうものは、人に言われて気づけるものではない。
 感情が理屈などではどうにも出来ない事は、自分でもよくわかっているからだ。


 ならば、ネギ先生が彼を嫌いになればよいのだ!
 ネギ先生があの男の危険性を認識すればよいのだ!



 というわけで、南国幻滅作戦を計画したのであった!


 計画的にはこうです。


 南の島で開放的な気持ち。奴、その駄目な姿をネギ先生に過分なく見せつける。
    ↓
 ネギ先生奴の正体を知り、幻滅。
    ↓
 私が説得。ネギ先生真実の愛に目覚める。「もう2度と近づきません!」
    ↓
 ハッピーエンド。



 か、完璧! まさに完璧ですわ!!



 ……という予定だったのですが。


「海だー!」


 なぜか、クラスメイトの大半もネギ先生について一緒に来ているんですか!
 これでは奴に見つからないようネギ先生に奴の駄目さを見せるのは難しくなってしまうじゃないですか!(3-A面々が騒がしくて彼にこちらが来ているのを隠すのが難しくなる)

「和美とハルナさんにもれたのはマズかったわねあやか」

 私のルームメイト、ちづるさんが私にそう言った。

「あなた達もです!」

 勝手についてきて!


 この場にはあの危険な男がいるんですよ!!
 私の心配も知らないで!

「あらあら」

 ……ちづるさんなんで奴の方を見ていますか? 駄目ですよ、アレは危険な男です。獣で野獣なんですから。


 まあいいですわ。これで一緒に他のクラスメイトも奴の危険性を認識して、クラス全体の安全を図りましょう。


 聞けば、ネギ先生以外にも彼にたぶらかされかねない子達も多いようですし。


 奴の周囲には黒服さん方の配置してありますから、いざという時はすぐ対処できるようにしてありますから、安全も完璧ですしね(主にネギへ近づけさせないため)


 さあ。この南国で、開放的な気分になってネギ先生に幻滅されるとよいですわ~。


 ほーっほっほっほっほ。






 さすがの彼女も、彼を抹殺とか嫌がらせとかは考えていたりはしなかった(前回ネギがいて欲しいと言ったから)
 今までの反省からか、彼の排除ではなく、ネギの心変わりを促すというやり方にアプローチを変えたのだ。
 ずばり彼の勘違い。彼のレッドアラートってマトモに機能した覚えがないな。




──────




 ふふふふふ。どうやら黒服は俺を亡き者にしようとしているようだが、そうは問屋がおろさない!


 俺は見切っている! 俺が一人にならない限り、不審な事故死など出来ないという事を!
 お嬢の子飼いではない誰かが見ていれば、狙撃や怪しい事故など起せないからだ!
 それに3-Aの子の前で死亡事故なんてのは、いくらお嬢とて望むまい!

 よって、誰かの視界に必ず入るよう心がければ俺は安全という事なのだー!!
 不意打ちに超弱い俺だが、それを阻止するすべは道具を使わずとも、心得ているのだー!


 ふふふふふ。完璧。完璧すぎる。


 最後の飛行機事故とかは危険だが、幸いにもエドが一緒に来ているので、さすがに墜落とかはないだろうし、帰りなら『どこでもドア』とかで逃げてもいいしな。


 つまり、もっとも危険なこの南の島を生き残ればよいという事だ!


 危険だと思うならさっさと帰ればいーじゃねーか。という言葉は理解するが、この目の前に広がる海を堪能せずに帰るなど、泳ぐの好きだと宣言した俺様の沽券に関わるというもの。


 ああ、綺麗な海。透き通った海面。泳ぎたい。死ぬほど泳ぎたい。
 いや、海に入ったら思う壺なのだが。死にたくない。


 バリアとかは泳ぎを堪能するのに邪魔だから使いたくないし……


 くっ、お嬢は俺が泳ぐの大好きだと知っての策か!? だとすれば、なんという孔明。
 この旅行といい、なんたる策士!
 スクナなどより手ごわいわ!


 しかたない。溺れる事のない浅瀬でのんびり危険を感知させながら泳ぐとしよう。

 なぜ危険を感知させるかと言うと、それはずばり!!


「なー、エドー」

「……なんだ?」


 俺と一緒に、ビーチでパラソルの下、ベンチに座って横になっていた中身幼女に声をかける。
 福引はペアチケットだったので、こいつが勝手についてきた。
 最初はなんでやねんと思ったが、今はむしろ好都合!


「泳がないか?」
 ウホ、いい誘い。

「断る」

「えー」


 貴様、こんなにもすばらしい海があるというのに、泳ぎに行かないとは何事だ!
 生命とはすべて海から生まれたんだぞ。すなわち泳ぐとはえーっと、いいから泳ごうぜ!!


「……ああ、そうか。そういやお前泳げなかったっけ」

「ぐっ……」


 ……そういや、こいつ泳げないんだよな。吸血鬼だから。は関係ないのか? この世界だと。まあ、泳げないのは事実だからどうでもいいか。
 つか、それなのになんで強引についてきたんだ?





 泳げないエヴァンジェリンがなんで来たか。なんてのは、そろそろ説明するだけ無駄だと思うので、省略するよ。
 それと、ペアチケットだったのは彼ならエドをつれてくるだろうというのは雪広あやかも予測の上。
 この二人は怪しい関係との噂もある。それが事実だったりすれば、ネギ先生も「不潔です!」とか言って目を覚ますだろう。という計算もあったからだ。
 この計算力。さすが雪広あやかである。

 だが、あの二人を見せても「仲良しですよね!」と純粋な一言で片付けられ、その純粋さに悶えつつ悔しがったのは余談である。





「私は、泳ぎがちょっと苦手なだけだ。決して泳げないわけではない」


 まー。お前吸血鬼だからなー。泳げなくても不思議はないんだけどよ。

 だが、見張りがいないと困るのだ。主に俺の命的に!

 というわけで!



「OK。なら、泳ぎを俺が教えてやる。そして、一緒に泳ごうぜ」

「なっ!?」

「はいけってーい。ほら来い」


 強引に手をとって、浅瀬の方へと行く。


「ちょっ、ちょ、まて。待てというに!」

「浮き輪いるか?」

「いらんわ!」

「なら行くぞー」

「そうじゃなーい!」

「聞こえない聞こえなーい」


 俺は泳ぎたいんだ。だが、ブラックメンが怖いのだ。だからいるだけでいいから来るのだ。


 あんまり暴れるから、持ち上げて運ぶ事にした(いわゆるお姫様抱っこ)

 幻術で中身は幼女で軽いから楽勝だぜ。



「ちょっ、こらー!」

「U・RU・SAーI」


 本気で逃げる気になりゃ楽勝のはずなのに、そうしないんだから、気にせず連れて行く。

 何度も言うが、俺はこの美しい海で泳ぎたいんだ。


 そのまま、深さが俺の腹くらいまである浅瀬まで運び、海へ放り投げた。




───3-Aの面々───




 エドを海に放り投げる様を見ていた、3-Aの面々。



「あの二人は、顧問先生の言ってた……」
「……あの二人って、怪しいよねー」


「むむむむむー! ラ、ラブ臭を感じるー!」
「やっぱりー!?」


「くはー! 創作意欲が沸いてきたわよ! きたきたきたあぁぁぁぁぁあ!」


 海の中なのに彼女は原稿用紙を取り出した。


「パル、それどこにしまってあったですか……?」

「大丈夫。防水仕様だから!」

「いや、そういう問題じゃなくて……」


 ちなみに四次元ポケットを持っているわけではなくギャグ時空だからなのであしからず。




──────




「と、いうわけで、泳ごうぜ☆」

「無茶言うなこのアホが!」


 ざばーっと跳ね上がる中身幼女。幼女本体だと、浅瀬でも息継ぎが厳しいのか、あっぷあっぷしてる。


「つか、お前なら、吸血鬼として泳げない事なんて克服できるだろ。だから、少しくらい練習してみろよ」

「……」

「な?」


 そのまま、俺は手を伸ばし、幼女の手をとる。

 ふふふふふふ。こうして泳げない幼女の手を引いていれば、うかつに手は出せまいブラックメン!
 泳げない者がいるところで、俺だけをおぼれさせたりなど、出来まい!!

 
 身を守りながら、泳ぎも堪能出来る。
 か、完璧だ。自分の策略に、ほれぼれするぜ。
 幼女には悪いが、泳ぎの練習にもなるのだ。損はない!



「し、しかたないな。少しくらいは、つきあってやる……」

「OKOK。ちょっとずつ深いところ行くからな。手は離すなよ」


 ちなみに俺は、立ち泳ぎどころか、5メートル飛びこみだっていけるぜ!!


「ちょっ! ぜ、絶対に放すなよ! 絶対にだ!!」

「へいへい」



 ばしゃばしゃきゃっきゃ。


 本当なら、その図はエヴァの手をとる彼の図なのだが。

 見える姿はエドという美少年の手をとる彼の姿なので、色々アレであった。


 絶対に放すなよと言われたので放したゆえちょっと溺れかけ、彼の胸に美少年が納まったりしている図とか。
 彼の首につかまって一緒に泳いでいる図とかが見える。


「きたああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 海から上がってパラソルの下、望遠鏡と共に原稿を広げる少女が叫んでいた。

「今年の夏は、もらったわぁー!」

 ぐっとこぶしを握った少女の見る空の上には、彼等の担任がサムズアップしている姿が浮かんでいるのが見えた気がした。




──────




 結局幼女はまともに泳げなかった。
 道具を使えば別だが、そこまでして幼女も泳ぎたがらなかったので、戻ってきた。


「浮かぶ事が出来るから、泳げるようにはなると思うんだけどな~」
「う、うるさい……貴様なんて、きらいだ……」
 ベンチでぐったりの中身幼女。

「よし。そのうち泳ぎの特訓でもするか。お前のとこの別荘に海あったよな」
「あ、あほか貴様は!!」

 そんなに泳ぐの嫌ですか。そうですか。お前にも泳ぐの好きになって欲しかったが、ならしかたないな。



 ちょっと幼女がすねているので、ご機嫌をとる事に。



「飲み物とって来るけどなにがいい?」
「……トマトジュース」

「あいあい。少し休んでろ」
「……ああ」

 だいぶ疲れてるな。やっぱり種族的に水の中はつらかったのか?
 だとすれば謝ろう。違ったら気にしない。

 んじゃ、ちょっと飲み物とってきますかね。ブラックメンに注意しながら。



 飲み物置き場まで、約250メートル。
 その間に、必ず近くにいる3-Aの子達の視界に入る事を心がける!

 そうすれば、ブラックメンも手は出せない!
 やしの実が落ちてきて頭部命中とかも注意!
 油断はしない! 油断は即、死に繋がる!!


 飲み物を取りに行くだけで命がけとは。南の島恐るべし!




───雪広あやか───




 くっ、なんという事でしょう。

 これは、予想外ですわ……

 獣のような男だと思っていたのに、この南の島にあっても陽気に当てられずあくまで紳士的に行動するとは……!


 双子がやしの木を見上げ、ココヤシジュースを飲みたそうに見上げていると、どこからともなくパチンコを取り出し、二つ打ち落とし、一部を切り取り、ストローをさし、渡した。
 ……あのパチンコとストロー一式はどこから取り出したのかしら。手品? だとすれば、ソレによって興味もひけるわけですか。

 探し物を探している子達に向かい、さりげなく、探しているモノを置いて去ってゆく。
 ものすごくさりげなく。だが、去る背中はその子の視界に入るように。まさか、これを計算しているのですか!?

 ジュース置き場に着けば、他の子達へジュースを手際よく作り、渡す。しかもかなり好評。
 あの綾瀬さんの好みに答えるモノを作るとは、様々な意味で恐るべし。

 さらにジュースを運んで、そのまま去ってゆくという紳士的態度。
 なにやら早乙女さんに絵のモデルとか言われていたようですが、断ったようです。詳しい内容は聞こえませんでした。

 おふざけでオイルを頼まれても、やんわりと断る物腰。
 むしろ、きちんと危険性を教え、優しく叱るという態度。


 などなど。


 そして、そのまま友人の元に戻り、自分は休憩。

 周囲の少女達にいやらしい視線を向けるわけでもなく、景色を楽しむ余裕。


 なんという、紳士。

 よ、予想外でしたわ。こうして、外面は良くして、次々と毒牙にかけているのですね!!


 人目のある場所では決して油断しない!
 私の考えが、甘かった!!


 ここまで筋金入りだったとは!!
 これでは、単純なクラスメイトは騙されてもしかたがありません!



 ですが、私は騙されませんよ!!



 クラスメイトも、ネギ先生も、守ってみせますわ!



 くわっ!






 あ、でも彼ばかりにかまっている場合ではありませんわね。

 ネギ先生もなにやら落ちこんでいたご様子。

 お伺いしなくては!!





 ちなみに、彼の悪い噂は、朝倉&カモにより、3-Aに関しては逆に悪くは伝わっていない。
 なので、委員長を除いた3-Aの面々は周囲より彼を好意的に見ていた(ただし男色説は今回でかなり強まったが)




──────




 中身幼女が「散歩をするぞ!」とのたまわった挙句、俺を引っ張って島の散歩に連れ出しやがりました。

 おぉーい。人の視線がなくなったらあからさまに俺消失のチャンスじゃんかよー。

 いや、お前がいればブラックメンは敵じゃないかもしれないけどさ。
 ただ森の中じゃ海の中と違って、くっついているわけにもいかないから不安なんだよー。
 俺不意打ちだけは超苦手なんだってばー。


 だがまあ、機嫌をとるためにはしかたがないか。
 下手するとブラックメンより怖いからなこの幼女。
 それに、ちゃんとエドの目があればブラックメンも無理な行動は出来まい。
 むしろエドこと変身幼女をレーダーとして使えばよいのだ!

 そこを注意して、幼女の散歩につきあうとしよう。


 ……でも、飲み物持って帰ってきてから余計に機嫌が悪いんだよなぁ。無理に泳がしたのそんなに嫌だったのか? だとしたら本当に悪い事したな。




 しばらく島の中を散策していると……




「ササササ、サメー!?」



 そんな声が、海岸の方から聞こえてきた。


「なんだ……?」
「委員長さんの声だね」


 何事かと森の茂みから顔を出してみると、そこは小高い、切り立った崖。
 眼下には、二匹のサメに囲まれ、あっぷあっぷしているネギがいた。




 それを見た俺は──




「ネギ!」




 ──躊躇なく、ネギのところへ、飛びこんでいた。


 


「あ、こら!」


 幼女がなにか言っている。
 制止しているのだろうか。

 だが、考える間もなく、飛びこんだので、なにを言っているのかまで聞こえない。


 サメ相手に俺が飛びこんだところで足手まとい。とか考える前に、もう飛びこんでいたのだから。

 そんな冷静な判断をする前に、本当に、体が動いてしまったのだから。



 飛びこむと、そこにはツインテ少女もいた。


 どうやら、彼女も俺と同じで、なにも考えず、飛びこんできたようだ。


「サメが拳法使ったー!?」

「ネギ!!」

 ツインテ少女アスナが叫ぶ。


 ……あ。

 この時、俺はこれがどういう状況か、思い出した。
 あのサメの中には、人が入っていて、ネギとアスナを仲直りさせる作戦。
 やっと、この展開が原作にあった事を、思い出したのだ。


 やばい!!


 そう思ってポケットに手を入れ、道具を出そうとした時には、もう遅かった。


 ツインテ少女が、アーティファクトの剣を引き抜いているのが見える。


「サメなんかー!」


 海が割れ、俺をふくめたサメ2匹とネギは、一度上空へ吹き飛ばされた。


「海が割れたー!?」
 浜辺にいたお嬢達の声。


 ……あー。これ、あったねー。
 青い空に吸いこまれつつ、俺はそんな事を思った。


 無駄な行動、乙。


 どこからか、そんな声が聞こえた気がする。



 べちゃりと海面に着水し、ずるーりずるーりと浜辺に戻ると、サメの中からカンフー少女+1がいたのがばれて、ネギがぶん殴られ、お怒りツインテ少女が去ってゆくところだった。


「あああああああ……」
 去るツイン手少女の背に、そんな事しか言えないネギ。

「やっぱり、少しやりすぎたでしょうか」
「スススススス、スミマセンネギセンセイ……」


 がっくりと肩を落とし、ネギはとぼとぼと去ってゆく。
 俺の存在にも気づかない。よほどショックだったんだろうな。

 近くにいた半デコちゃんとこのかのお嬢ちゃんが俺にお辞儀してくれた。俺はそのまま手で挨拶し、ネギを追うように手を返す。


 ここに俺がいるのはホント無意味だからな。
 一応気絶しているカンフー少女ともう一人の様子は見ておくか。
 原作じゃ何事もなかったようだけど、ほおっておくのも気分が悪いし。
 『お医者さんカバン』を取り出して、診察。

 さくっと診察すると、カンフー娘+1は二人共気絶しているだけなので、しばらくすれば目を覚ますとわかった。

 んじゃ、あとはタンカを持ってきた黒服執事の人に任せるか。



「……少しだけ、見直しましたわよ」

「ん?」


 診察を終えてカバンをしまうと、背後からお嬢にそう声をかけられた。


「なにが?」

「まさか、ネギ先生を助けるために、明日菜さんと同じように躊躇無く崖から飛びこむとは、思いませんでしたわ」

「まあ、無意味だったけどさ」

「それでも、サメがいるのに飛びこむその勇気は、驚嘆に値します。少しだけ。本当に少しだけ、認めて差し上げますわ」

「そっか、わざわざありがとな。君等の思惑の邪魔をしたというのに」

「……あなたは、怒らないんですの?」

「もう叱られた君等をまた怒ってどうするよ。確かに、ちょっとやりすぎだけど、君達は反省している。なら、同じ事はもうやらないだろうから、俺が怒る必要はどこにもないよ。むしろ、彼女達と君達の仲が悪くならないかが心配だな」

「……はぁ」

 なんかため息つかれましたよ。なんで?




───雪広あやか───




(自分の事は差し置いて、私達の方を心配する。もし、これが演技なら、手に負えませんわね……)
 彼女は、不思議だった。
 これほど自分が彼を邪険に扱っているというのに、結局彼は、一度も自分を非難したりはしていない(逆に褒めた事すらある)

 そして、先ほどの行動を見て、失礼な話だが、実は彼は、明日菜さんクラスのおバカさんなんじゃないか。そう思いはじめていた。
 単純に、人が良くて。他人を優先して考えてしまう。だから、自分が泥を被って悪く思われても、他人が笑えるようになれば、それでいいという。自分は嫌いじゃない、おバカさん。
 そう考えると、命の危険があるサメのいる海へ、躊躇なく飛びこむのも、理解出来てしまう。
 そう考えると、今まで見ていた彼の行動は、計算などではなく、ただ、人の良い、親切な行動に見えてきてしまう。

 彼の悪い噂は、どれも事実無根だった。なんらかの裏があるかと思ったが、むしろ裏がない。そう考えると、とても自然に思えてしまう。

 ネギ先生に後ろめたい事をしたのは事実だろう。だが、先ほどの行動を見ると、『危険』はないように見えてきてしまう。むしろ……




 たった一度の行動。
 だが、事実を知らないならば、命すらかかっている、真に勇気が必要な行動。

 彼は無駄な行動かと思ったが、その行動は、きちんと人の心を動かしていた。




 困りましたわね。

 噂に聞く悪いあなた。他の方と接する紳士的なあなた。目の前にいるちょっと間抜けなあなた。危険をかえりみず行動するあなた。
 どれが本当のあなたなんですか? 本気で答えが帰ってくるとは、思わない。でも、なにを考えているのか、聞いてみたい。そう、彼女は思ってしまった。


「あなたは……」





 私の言葉が、さらに続く前に。



「こんのドアホがー!」

 ヤシの実が、彼にむかってすっ飛んできた。



──────



「はぐあ!」


 すこーんと俺の後頭部に、なにか硬いものがぶち当たった。
 多分、ヤシの実……

 投げたのは、どう考えても。


「このドアホ! あんなの見れば中に人が入っている事くらいひと目でわかるだろう! それなのに、それなのに、なにを考えているんだ!」


 俺の着ているパーカーの襟首をつかみ、ぶんぶんと中身幼女が振り回す。


「ネギが溺れているのも見えたし、体が勝手に動いたんだよ。しかたがないだろーが!」

「もっと冷静に周囲くらいを見ろ。明らかに不審だったろうが! いいか、心配したんじゃないぞ! お前のアホな行動に怒っているんだからな!」

「うるせーな! しかたねーだろ! 危ないと思ったら、考える前に体が動いたんだ。しかたねーだろ!」


 本当に、仕方がないだろ。としか言いようが無い。
 そりゃ、俺だってサメが二匹もいる海に飛びこむとか馬鹿だとしか思えねーよ。
 でも、体が勝手に動いたんだから、しかたねーだろ。


「……まったくもう」
 がくがく首を振られている俺を見て、お嬢がまたため息をついた。
 なんでそんなに満足そうなの? ねえ、なんで? 俺が痛い目見てるから?



(本当に、ただのおバカさんなんですわね。なんだか、彼を敵視しているのも、疑っていたのも、バカバカしくなってきてしまいましたわ。まあ、だからといって、ネギ先生の事は任せませんが)
 ぶんぶん振り回される彼を見て、答えを得た雪広あやかはそう思った。



「あの、すみません」

 がくがく揺さぶられる俺と揺さぶる変身幼女に向かって、泣きぼくろのある女性が声をかけてきた。
 身長170センチ超えてて、すごいナイスバディ。名前は思い出せないが、ここにいるという事はネギのクラスの子なんだろ。ビーチでも何度か見かけたし。
 これで14、5歳って、なんというか、規格外だねぇ。モデルさんみたい。


「は~い。なんですか~?」

 がっくんがっくん揺られつつも、俺が答える。
 中身幼女は無視して俺を揺さぶっている。
 泳ぎで機嫌が悪い。飲み物を取ってきてさらに機嫌悪化。散歩を放り出してさらにさらに機嫌悪化での怒りゲージ3本爆発状態なのだから仕方がないだろう。
 なので俺はそれを大人しく受け入れつつ、彼女の言葉に答える。
 こういう場合は気が済むまでさせておくのが一番だ。




 だが、彼女の発言で、すべての時が、一瞬止まる。




「ぶしつけで悪いのですが。私と、結婚を前提にお付き合い願えませんか?」


 彼女は、俺を見ながら、そう言った。





「……」
「……」
「……」
 俺と幼女とお嬢停止。





「なにいぃぃぃぃぃぃ!?」
 これは、活動再開した中身幼女の声だ。俺の耳元で叫びやがった……

 ぎゃー。耳が。ミミガァ。




「いいい、いきなりなにを言い出しているんですかちづるさん!」

「はい。だってとても素敵な人じゃありませんか。何度かお見かけしましたけど、真面目で誠実な方ですし。ネギ先生のタメにあのような事もできる。こんな方、滅多にいませんよ」


 にこにことしながら、彼女はそう答えた。


 俺と中身幼女は、完全に固まっている。
 いや、彼女以外全員が、固まっている。


「それに……」
 なにかふくみがあって俺を見ていたようだが、固まっていた俺達は、それに反応は出来なかった。


「……」
 あ、お嬢が頭をかかえ、なにか悩んでいる。
 きっとネギ先生と天秤にかけてるんだぜ。

 そして……


「応援いたしますわ!」


 そう言って、ちづると呼んだ子の両手をつかんだ。


 そーきますかー。
 むしろたしなめるべきでしょー。




「どうでしょうか?」
 少し不安そうな少女の顔。こうして見ると、やっぱり年相応の女の子だわ……



「……お、お友達から、で、よろしいですか?」



 中身幼女に首をつかまれたまま、俺は、そう答えた。



「はい。お願いします。あなた」



「ちょっと待てえぇぇぇぇぇ!!」


 そしてそのまま俺は、襟首をつかまれたまま持ち上げられ宙吊り。中身幼女にシメ落とされたのでした。
 な、なにするだー。
 い、いきなりの爆弾発言だからって、絶叫と、共に、力、入れすぎ、です……
 幼女、俺をつかんでるの、忘れてるよね……(告白からずっと彼ではなく千鶴を凝視してた)




 どうでもいいけど、俺のレッドアラートが鳴りまくってます。


 なんすか、これ?



 あ、今が、俺、生命の危機、だからですね……






 彼がシメ落とされた後。
 彼女(那波千鶴)と、彼(エド)の間に、火花が散っているのが見えました。

 そうコメントするのは、タンカで二人の少女を運びつつ、事態を見守っていた執事達であった。









 ちなみにネギの方は、次の日朝、無事、仲直りが出来たようだ。
 めでたしめでたし。




───エヴァンジェリン───




 那波千鶴。

 3-Aの中でも数少ない、落ち着いた精神を持つ、精神的に成熟した者の一人だ。
 保育園で保母のボランティアをしているせいか、この3-A連中のあつかいも非常に上手い。

 そして、クラス最大の巨乳。

 ネギや永遠の10歳である私などとは圧倒的に違う身体スペックを持つ娘だ。


 その娘が、いきなり奴に結婚を前提とした付き合いを申しこんできた。


 突拍子もない行動や発想をする娘だとは知っていたが、いきなりすぎだろう!
 今までそんな接点まったくなかったじゃないか!


 だが、聞けば会話こそしていないが、修学旅行の時奴を見ているし、それ以前。あの100人乱闘事件の事情も正しく知っているのだそうだ。
 なんでも、天文部の知り合いが、その時奴に助けられた者なんだという。
 あの顛末を聞いて、情けないと思うよりも、すごいと思ったのだそうだ(実は修学旅行の時、直接聞けばいいとあやかの背中を押したのは彼女)
 さらに、先のビーチでも何度か顔はあわせているという。

 そして、危険をかえりみず、ネギの元へと飛び込んだ行動。それが、決定的だったそうだ。


 つまり、奴を見て、その誠実さに惹かれたのだという事。
 噂などに騙されず、その心根を見抜いたという事だ。


 修学旅行から今までで、ほとんど会った事もないのに、奴の本質を見抜くとは、侮れない奴だ。



 それにしても、奴も奴だ!


 あっさりと友達からでもと、OKするとは!
 そこはあっさりと断るところだろう!!



 やはり胸か!? 胸なのか!?

 おっぱいなのか!? おっぱいはないと駄目なのか!? ゆれるほどたわわに実っていないと駄目なのか!?


 おっぱいがいっぱいじゃないと駄目なのか!?



 確かに奴は凹凸のない体には興味はないと断言している(しかも幻は効きそうにない)

 ソレはつまり、あの娘ならば問題ないという事!!



 ……ふにふに。



 こ、これは、まずいのではないか!?

 なんでかよくわからんが、ネギ以上のとてつもない危機感を感じる!



 ネギといい那波千鶴といいその他といい、最近は奴の周りにはこう女が集まってくるのだ!



 奴に、最初に目をかけたのは私だぞ!


 私なんだぞー!!





─あとがき─

 最初に言っておこう! 委員長が彼をここまで敵視してきたのはずばり、ここでエヴァと彼を一緒に海に入れるためといっても過言ではない!

 それはさておき。

 とうとう委員長ことお嬢の敵対関係も少しだけ改善が見えはじめました。彼に対する委員長の評価が、明日菜と同系列になったようです。ずばりかなり高くなりました。
 やっと彼にも幸運が舞い降りはじめて来たのかもしれません。
 でも、命の危険がなくなっただけで、彼女の言動が変わるかというと、そうでもないわけですが(明日菜に対する態度と一緒)

 そしてなんと『彼』の魅力に気づいた人がもう一人。
 しかも、その身体スペックは3-A最高!

 凹凸のない体に興味はないと断言していた彼は一体どうする!?
 ネギ以上の最強最大のライバル出現にエヴァンジェリンはどうする!?

 というわけで、そろそろエヴァも自分の気持ちに気づきそうです(どういうわけさ)


 次回、コタロー参上の巻。


 ちなみに当初の予定だとあの100人乱闘事件の時助けられていたのは村上夏美だった。という予定もありましたが、色々あってここでは没になりました。



[6617] ネギえもん ─第15話─ エヴァルート03
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2009/06/01 20:50
初出 2009/06/01 以後修正

─第15話─




 小太郎登場の巻。




──────




 その日は、放課後。突然雨の降りだした日だった。


 村上夏美と、那波千鶴は、最近(修行で)ボロボロのネギを心配しつつ、学校から寮へと帰る道の途中で、一匹の黒い子犬を拾った。


「もー。ちづ姉連れてきてよかったの? この子野良だよー」

「見ちゃった以上仕方ないでしょう? ほっとけないわ」

「でもどうするのー?」

「大丈夫。こんな時、頼りになる腕のいいお医者様に心当たりがあるから」

「え?」



 そう言い、那波千鶴は、携帯電話を取り出した。




──────




 その日の天気予報は、放課後雨だった。

 なので、下手にうろつかず、雨にふられる前に、寮へと戻ってきた。



「……で、帰ってきたのはいいんだけど」

「なんだ?」

「なんで最近お前、自分ち帰んないの?」


 ごそごそと、ゲームを準備している幼女に聞く。
 部屋に入ったとたん変身を解くのやめなさい。
 誰か入ってきたら言い訳が聞かなくなるじゃないですか。まあ、変身確認してからじゃないと鍵は開けないんだけどさ。
 とはいえ、最近は修学旅行の班員だった子とか遊びに来るようになってきたからうっかり鍵しめ忘ればったりハプニングなんてのもありえるから怖いんですけど。


「私の家には修行でネギ達小娘どもが入り浸っているんだ。しかたがないだろう?」

「そのワリには着替えに帰ってるけどな。ついでに本体のお前が指導してやればいいじゃないか」

「バカを言うな。私は今呪いで力が使えないはずなんだ。その私が指導したら呪いが作用していない事がばれる。ばれたら指導も出来なくなるんだぞ?」

「くっ、確かにそれはそれで納得の理由だ……」


 いっそネギ達に幼女の呪いが半分解けてるとか教えてもいいんじゃないかとか考えたけど、なぜか命の危機的予感がしたので考えるのをやめた。
 ちなみに魔法を使わない学科は例外だそうです(あの『魔法剣士』とかのスタイル分けとか)


「今日こそは貴様を倒す!」

「はっ、残念だが今日もお前の負け越しだぜ?」

 最近よく遊んでいるちょっと型遅れの格ゲーソフトを取り出し、俺に突き出した。
 幼女は幼女で、15年間引きこもっていたから、ゲームだけは達者のようだ。

 最近は普通に携帯も使いこなしてきただけだし、単にハイテクに関して努力不足だけだったんじゃねーか?

 まあ。この世界で古い世代の格ゲーを楽しめる相手がいるとは思わなかったからいいけどさ。


 げーむすったーと。


「馬鹿な! 貴様の年齢でこのコンボの裁き方も知っているだと!?」


 はっはー。中身は格ゲー黄金世代育ちだからな! 舐めるなよ!


「ちょっ、こら! 今のハメ技だろ!」

「ふはは。勝てばよかろうなのだー」

「なら俺だってなぁ!」

「カウンターからの鬼コンボだとー!?」


 俺と幼女の格ゲーレベルはハイレベルに互角。
 ただ、幼女はCPU対戦は豊富でも、対人戦経験が少ないためか、勝率は俺の方が上。
 でも幼女パッドであのレベルだからある意味すごいよなー。


「あ、携帯なってる。ちょっとま……」
「断る!!」

「ぎゃー!」


 ゆーるーず。


「て、てめー」
「ふん。余所見をする貴様が悪いのだ」
 ちい。アーケード型コントローラーだからポーズが押しにくいという隙をつかれてしまった事でもあるしな(押しにくいと感じているのは俺だけかもしれないが)

「しゃーねーな。とりあえず、ちょっと待ってろ」

「早くしろよ。次で勝ち越す」

「へいへい」


 電話に出て、事情を聞いた。


「そういえば、誰からだ?」
 携帯の電源を切ったとたんに聞かれた。

「……いや、なんか、ちづるさんが俺を部屋に呼んでる」

「なにいぃぃぃぃぃ!?」
 だから叫ぶなー。ミミガァ!

「最近お前よく叫ぶな!」

「お前達が叫ばせるような事をしているからだ!」


 そんなに叫ぶような事か?


「そんなわけで、ちょっと行ってくる」

「行ってくるじゃない!」

「ああ。なんならお前も来るか?」

「は?」

「怪我した行き倒れを拾ったから、診てくれないか。だとさ」


 そういえば彼女、俺が海でカンフー娘とか診察してたの見てたね。
 それで頼ってきたみたいなんだわ。


 そう言って俺は、『どこでもドア』を取り出した。




───村上夏美───




 どうもこんにちわー。麻帆良学園3-Aの28番村上夏美です。
 ほっぺのそばかすがちょいコンプレックスのカワイイ子ぞろいの3-Aではあまり目立たないごくフツーの女子中学生です。


 今、私の目の前でちづ姉が、心当たりのある頼りになるお医者様へ電話してます。
 行き倒れとして拾った子犬を診察してもらうために。


「すぐ来てくれるそうよ~」


 あ、来てくれるみたい。


「窓開けておいてもらえる?」

「はーい」


 からからからー。


「つきましたよー」

「はわっ!?」


 窓を開けると、ベランダに救急箱らしき箱を持った彼と、金髪の少年がそこにいた。
 彼等の事は知っている。この前南の島へ行った時、知り合った人達だ。黒髪の彼は、ちづ姉のお婿さん候補。
 私が彼等を最初に見かけたのは、修学旅行の時だったかな。あの長い金髪と黒髪のセットには覚えがあります。黒髪の彼にはけっこうすごい噂があるけど、それを知った上で、「そんなの関係ないわ」なんて言ってのけるんだから、さすがちづ姉だと思う。

 そういえば、海で気絶した時、彼が診てくれたとか言ってたっけ。執事さんも処置がとても的確だったって褒めてたのを聞いた覚えがある。それで心当たり。か(ちなみにクーフェイの他もう一匹のサメに入っていたのが彼女)

 というか、早ぁ! 早いなんてモンじゃない。電話して三十秒なんてどんな早業なの!?
 しかも、外で犯罪的に待ってたとかそんな雰囲気じゃなく、まるで今部屋から出てきたかのよう。


 そもそも……


「……ここ、6階だよね?」
 私達の部屋は665号室。つまり、6階にあるのだ。

「……え? うわ、ホントだ!」

 振り返り、ベランダから下を見た彼が、そう驚く。
 ……自分で来たはずなのに。

「やべ、気づかなかった。ベランダに来てというから、てっきりあっさり入れる一階だとばかり……」

「……このアホ」

 金髪の方。エド君が呆れたように言う。

「えへっ」

「アホ」

「ひどいや!」

 自称かわいく笑った彼をばっさり一言で叩きふせる。
 いつ見ても仲イイなぁ。この二人。


「しかし、ベランダに来てくださいと言われたけど、ちづるさんどうやってここに俺等を来させる気だったんだろう……?」

 彼が、私に聞いてくる。

「知らないよー。大体普通に来てるじゃない」

「それを言われると、なんとも言い返せないんだけど……」


「あらあら」

 私達の話し声を聞いてか、ちづ姉が私の後ろに現れた。
 手には、縄梯子。

 ……つまり、それが答え。

「あ、さいですか」

 彼も、ソレを見て悟ったようだ。


「急いでって言われたので急いできたんだけど、早すぎました?」

「いいえ。ベランダからで悪いんですけど、あがってもらえますか?」

「はいはい。お邪魔しますよー。患者さんはどこかしら?」

「はい。こちらですあなた」

「……子犬?」
「行き倒れです」
「人間と獣は管轄が違うんですが」
「あなたなら大丈夫です」

 にっこりと微笑むちづ姉。
 どこからその自信出てくるんだろ。

「いや、確かに出来るんだけどね」

 出来るんだー!!


「緊急を有すると聞いたから行くのを許可してみれば……」
「でも事実ですよ?」
「ふん。お前は単にこいつを呼びたかっただけだろう?」
「あらあら」


 ……ちづ姉とエド君。この二人は、会うたびにこんな感じです。背景に龍と虎が見えます。
 でもエド君、君男の子だよね? 男の子なんだよね? 女の子のような長い髪してるけど、男の子だよね?


「ま、行き倒れにはかわりないか……って、ん?」
「どうしたの?」
「いや、多分気のせいかな。お気になさらず」


 彼は子犬を見て少し頭をひねったけど、持ってきていた救急箱らしきものを広げ、診察を開始。

 絆創膏をはり、飲み薬を犬に飲ませました。
 そうすると、すぐに苦しそうだった呼吸が収まって、普通の眠りになったみたい。


「わ、すごーい」

「あと、これを暖かいミルクに溶かしてあげれば、完璧」

「なにそれ?」

「栄養満点のきびだんご。お腹が一杯になれば、暴れる事も無いだろうしね。噛みつかれたくないでしょう?」

「ナイスアイディア!」
「いえーい!」

 私と彼は、親指を立てた。


「はい。どうぞ」
 まるで、ミルクが必要な事がわかっていたように、ちづ姉がホットミルクを差し出してきた。

「さすがですね」
「妻ですので」
「だからそれは気が早いって……」

 さすがに彼もびっくりしてあきれてます。彼はお友達からのつもりだけど、ちづ姉はけっこうその気みたい。
 ちづ姉に惚れる人は多いけど、ちづ姉が惚れる側になるのははじめて見たなぁ。

 取り出したお団子をミルクに溶かして、子犬に与えました。あの病人にお茶とかを飲ませるきゅうすみたいな道具で(名前知らない)
 寝ているのに、おいしそうに飲んでます。
 あ、寝顔がすごく幸せそう~。


「これであとは、目を覚ますのを待つだけかな」


 ちづ姉はミルクを入れていたカップを洗ってる。
 エド君は壁に寄りかかって私達の方。主に彼と子犬の方を見てる。
 ちなみに私は眼中にないみたい。ほっとするような、さびしいような。ちょっと複雑な気分デス。


 そして彼は、なにか気になったのか、子犬の前足の脇に手を入れ、持ち上げた。


「どうしたの?」
「いや、少し気になって。なにか忘れているような……」


 そういえば、さっきからずっと首をひねってるよね。この子、見た事あるのかな?


「あ、この子女の子」
 彼が持ち上げているので、一緒に見ていたら、気づいた。

「あ、ホントだ……」


 PON☆
 そんな軽い音と一緒に、彼が持ち上げていた子犬が女の子にかわったよ。


「……」
「……」

 彼と一緒に固まる私。
 ひらひらと、子犬のオデコに張られてた一枚の紙が、床に落ちた。


 そして、女の子に変わった子犬は、寝ぼけ眼で彼を見て。

「ん~。大好きや~」

 そのまま、最初に見た彼の首にすがりつくように両手を回して、ごろごろと咽を鳴らしはじめたの。


 ……


「あなたー?」
「きさまー?」


「えー? これ、俺が悪いのー? まあ、この場合悪いんだろうなぁ」


 女の子の柔肌だからねぇ。
 なにか悟ったように、彼がため息をついてます。
 あ、あはは。ごしゅうしょうさまです。

 私は、彼から距離をとった。


 その後彼は、ちづ姉とエド君の二人に頭をぐりぐりされました。




 ……あ、そういえば結局、彼等がどうやってここまで来たのか、聞けなかったなぁ。




──────




 一方その頃、ネギはエヴァの別荘で、自分の過去になにがあったのかを明日菜に見せていた。




──────




「……」

 俺は今、呆然としてます。


「はぐはぐはぐ」


 俺の膝の上で。元気よくご飯を食べている犬っ子がいます。

 いわゆる、小太郎君です。小太郎君なんですが……女の子なんです。

 ネギが女の子だから、その親友も女の子って事ですか?

 というか、食べた動物は必ず人間になつく『桃太郎印のキビダンゴ』食べさせたおかげからか、俺、すげーなつかれてます。
 俺の膝の上から動こうとしません。尻尾がすごく嬉しそうにパタパタゆれてます。俺の体に当たります。もふもふです。
 アレって最初に見た人になつくとか、そういう条件あったっけ?


「お兄さんの膝の上、お気に入りみたいね」
「おう! にーちゃんの上最高や!」

「味の方はどうかしら?」

「んむ。うまい。うまいわコレ!」
「あらよかった。どんどん食べてね」

「うん。おかわり!」

「それで、小太郎君。名前以外の事思い出せたの?」
 ちづるさんが聞く。

「いやアカン。頭に霧がかかったみたくなって……」

「そもそも小太郎と言うのも怪しいな。それは男の名だ」
 中身幼女のエドが、そう言う。

「なにいっとんや。俺男やモン当たり前やん」


 いや、どう見ても女の子でした。
 女の子でした。よ……


「いろいろな事を忘れているみたいねぇ。もしくは、彼の言う記憶の混乱?」

「そうみたいだねー」


 ちづるさんとソバカスちゃんが納得したように話している。
 ちなみに俺が怪我で記憶がまだ混乱しているのかもしれないって言ったからだ。
 むしろ俺の頭が混乱しています。今。


「それじゃ小太郎君。なにか思い出すまでここでゆっくりしていいわよ。わけありみたいだから、誰にも連絡しないし」

「え? あ、うん。ありがとう……」


 ……ちづるさん、得体の知れないものをあっさり受け入れるなんて、君、大物になれるよ。
 でも君まだ中学生なんだからねー。もうちょっと警戒しましょうねー。今回小太郎だからなにも言わないけど。


 しかし、ここで小太郎か。小太郎……んー。なんだろ。俺もなにか、忘れている気がするんだよな~。
 でもネギに続いて小太郎も女の子で脳がまた拒否反応を起しかけてる気がする~。そのせいか~?
 なんだっけな~。



『おい』

 ん?

『聞こえているか?』

 幼女の声が頭の中に響いてきた。

『……念話ってヤツかな?』

『そうだ』

『いきなりなんの用?』

『そんな事はどうでもいい。この犬は、結界を抜け入ってきた侵入者だ』

『ああ。この子多分京都でネギと戦った子だよ。関西から来たんだろ』

『知っているのか』

『ん。一応ね。確かこの子ハーフなんだったかな。なんで自分を男って言ってるのかはわからないけど』

『そんな事(ハーフである事)は見ればわかる。それに、ハーフにはハーフの事情があるからな。そのせいで女である事を隠し、男として生活させる事もあるだろう。理由はわかるな?』

『あー。まあ、ね』
 女の子としての危険を回避するためってとこだね。つまり、そのせいで、この子は自分を男として育てられ、自分を男だと思っている。ってトコかなー。



 ちなみに、そうして育ったため、ズボンは男がはくものと教えられた。言葉使いなども。
 それゆえ、修学旅行のとき、ズボンをはいていたネギを『女』と認めなかったのだ。



『まあ、そんな事はどうでもいい』

『あ、どうでもいいんだ』

『こいつに関して我々が関わる事はこれ以上ないからな。ついでに聞くが、お前、時を戻す道具を持っていたな?』

『ん? ああ』

『それがあれば、石化は解けるのか?』

『いきなりな……ああ、そういう事か』

『……?』

『あれだろ。別荘の方でネギの過去を見たんだろ?』
 むしろ、こっちを聞く方が本命っぽいな。

『っ!? なんでそんな事までわかる!』

『そいつは企業秘密だ。んで、石化の件だけど、答えとすれば、イエス。お前が欠陥品と言ったあれを使えば、多分全員救える』

『っ! ならば!』

『でも、今は駄目だ』

『なぜだ!?』

『色々理由があるのさ。それに関しては俺が自分で言う。だから今は黙っておいてくれ』

『……そういえば、前の時も見せなかったな』
 幼女に『タイム風呂敷』を見せたときの話ですな。

『思い出しましたか。そういうわけだ。頼む』

『しかたがないな』

『悪いな』

『ふん』


 そして、念話は切れた。
 わりーな。毎度の事だが、下手な事して物語は壊したくねーんだ。すでに手遅れという話は断固として右から左に受け流すが。
 人間希望は捨てちゃいけないよ。うん。

 だが、おかげでネギ過去バレで、石化の件を思い出せた。この時期だったのか石化バレ。時期の事なんてすっかり忘れてたぜ。さっきのもきっとこれだな。あー。すっきりしたー。


 しかし、石化の件について考えてやるなんて、あいつもなんだかんだいって、ネギに甘いんだな~。




───ヘルマン───




『どうかね?』

『見つけたぜ。学園の近くで返り討ちにした奴ダ……』

 そうか。見つかったか。
 またあのビンに封じられては厄介だからな。まずは、それから回収しよう。

 今回の仕事は、『学園の調査』。そして、『ネギ・スプリングフィールド』と、『カグラザカアスナ』が今後どの程度の脅威となるかの調査。

 ……そして、もう一つ。ネギ・スプリングフィールドの近くにいる可能性がある、『闇を纏い、闇を祓う者』の発見。
 なんでも、闇の属性であるのにも関わらず、闇を祓えるというその男は、完全な一般人に擬態しているのだとか。

 あくまで、ネギ・スプリングフィールドに近しい者かもしれない。という不確定要素のため、この3番目は今回、あくまでおまけだ。
 依頼主も、これに結果が出るとは期待していないのだろう。

 見つかれば僥倖。見つからなくて当然。その程度なのだろう。


 だが、依頼者が最も見つけたいのは、この3番目。本命の二人や学園の調査などよりその存在の居場所を欲している。自身が忙しくなければ、自分で探しに来たかったのだろう。だが、それを表面上は表に出そうとしていないところが、とても面白い。
 人形のフリをしているが、その事に関しては、まるで人間のようだ。



 まあ、私は別に探す気もないし、見つからないものは仕方がない。私には関係のない事だしな。
 私は、最優先の仕事を片付けるため、動き出した。




──────




「……これはどういう事ですか?」


 入り口から、最近の俺の天敵とも言える子の声が聞こえてきました。
 そこには、当然その本人。委員長兼お嬢がおりました。
 主に俺を睨んできてます。


「確かに私はちづるさんとの交際は応援していますが、あなたがここに入る事を許可した覚えはありませんよ?」

 ですよねー。

「はい、ちづるさん説明してあげて」


 なのでそのまま俺はちづるさんに経緯説明を丸投げする事にした。


「かくかくしかじかというわけで、この子は夏美ちゃんの妹なの」


「「「ぶー!」」」

 さらっと言われたので、俺を含めたソバカスちゃんと犬っ子が噴出す。

「妹よ?」

「そ、そうでした!」
「おう!」

「まあ。そうでしたの……」

「実は夏美ちゃんのご実家は……」


 あることない事平然とお嬢に吹きこんでる。
 ちづるさんてけっこういい性格してるよなー。
 注意したいところだけど、さすがに拾ってきた犬が少女になりましたなんて正直に言えないので、ここはスルー。
 ただ、あんまりひどい事にならないように、俺が端々をあわせフォローしておいた。突拍子もない事は面白いけど、やりすぎは良くない。
 めっ! ですよ。
 一応アイコンタクトでちづるさんが頷くのを見てからね。

「いや、さすがにそれは誇張しすぎです」
「そうでしたね。ごめんなさい」
 ぺろっと舌をだすちづるさん。

「……というわけで、熱出してたから、俺が診察に来たわけだ。他の人に連絡出来ないみたいだからね」


 犬っ子はお嬢に逆らわないよう、俺が頭を撫でて抑えておく。


「そういう事なのよ」
「そういう事ならばしかたがありませんね」
「わかっていただければ幸いです」


「ただ、これ以後、節度を守らなければ許しませんよ?」

「あー。そうだな。先に断っておこうか」


 確かに、節度を守る事は大切だ。


「なんですか?」

「少なくとも、俺はちづるさんに、高校を卒業するまでは指一本触れるつもりはありません」


「あら」
「はい?」
 こっちの意外そうな声はお嬢の。


「友人として、節度ある付き合いをするとここに誓っておきます。ちづるさんがそれが物足りないと感じるなら、遠慮なく俺をフって、他の人をお探しください」


 座ったまま、ぺこりと頭を下げる。

 色々な欲望<自分の身の安全。これ基本図式ね。
 そもそも原作キャラにはどんな隠し設定があるかわからないからな。
 下手に手を出そうものなら即死亡フラグ。
 そんな危険は冒したくありません。

 ついでに古い考えを押しつけて、若い子との溝を作っておこうというわけだ!
 これで幻滅されればよし。つまらない男と思われれば、彼女も自然と距離を置くようになるだろう!

 ほおー。と、なぜか感心された。
 え? これって感心されるような事なの? 若い子には単に考えが古いとか意気地なしとか笑われると思ったのに。


「あなたくらいの年代はおサルさんと聞きましたけど」

「他の子はそうかもしれないけど、俺は我慢出来る人だから。それに、彼女はまだ中学生。気が早い。少なくとも、俺が結婚出来る年齢になるまではなにもしません。責任もとれないからね」

「せきっ……」

 あれ? なんでそこでお嬢赤面するわけ? おサル発言て、実はもっとソフトなものだったの?

「あらあら」
「ふん」

「というわけですので、正式なお返事は高校卒業くらいにしますね」

「はい。お待ちしております」


 今から3年以上も期間があれば、確実に俺がフられてるだろ。
 ゆえに安心安心。

 問題の先送り。ともいう。


「そんなわけだから、こんな理由もない限りは、部屋にも来ないから、安心して」

「当然です。今回は特別ですからね」

「ああ。ありがとう」
 とりあえず、笑顔は基本という事で、微笑んでおいた。

「「「……」」」


 ……なんでみんな、そうやってシーンとなるかな。
 いっせいに俺から顔をそらされても、俺、どう反応していいかわからないよ。
 元の世界でもたまにあったね。俺の感謝する時の笑顔って意外と見ていられないほど酷いって事なのかな……
 ちづるさんだけニコニコしながら俺を見てるけど。


「あらあら」
(……い、意外と……いやいや、なにを考えているんですか私は!)
(……まったく、本当にこいつはどうしようもないバカだな……)
(ど、どうしよう。少しかっこいいとか思っちゃった……ちづ姉のお嫁さん。いやいや、お婿さん候補なのに……)
 ちなみに小太郎は膝の上にいて御飯を食べるのに夢中だったので関係なし。



「それじゃ、この子も元気になった事だし、そろそろおいとましますかね」

「えー。にーちゃんともうちょっと一緒いたいー」
「そう言われてもねぇ」

「そうだ。なら、夕御飯一緒にどうかしら?」

「はい?」
 いきなり言われて俺も困るんですが。

「今回くらいいいわよね? あやか」
 ちづるさんがお嬢を見てにっこり微笑む。

「……はぁ。仕方がありませんわね。今回だけですよ」

「わーい!」
 これは犬っ子喜びの声。


「仕方ないね。エドかまわない?」
「本当にしかたがないな。お前が食べていくのなら私も残るさ」

「あらあら」
「なんだ?」
「いえ。なんでもありませんよ?」


 ……なんでこの二人がそろうと、空間にプレッシャーが発生するんだろ。馬があわないのかなぁ。むしろ馬があっているようにも見えるから不思議だ。
 あとどうにかしろって感じで俺を見てもなにも出来ないよお嬢にソバカスちゃん。
 そもそも俺のせいじゃないだろ。


 よって、俺は、逃げる!


「あ、そうだ。せっかくだから俺に夕飯を作らせてみてよ?」

「はい?」

 驚いた声を上げるのは、お嬢こと委員長。

「こう見えても、料理も出来るんだよ」
 そしてキッチンに逃げさせてもらう!

「情けない人ですわね」
 お嬢は俺の意図を察したようだ。

「そんなわけで委員長さんあとは頼んだ」

「私にふらないでくださいー!」

「あら。それじゃ、私もお手伝いいたしましょう」

 にらみ合いをやめて、ちづるさんが立ち上がる。

「むっ……」

「こちらじゃどこになにがあるのかわからないでしょう?」

「あー。そうだね。それじゃお願いしようか。エドは座っててくれ。せっかくだから俺の料理をご馳走してやろう」

 ちなみに普段俺達は寮の食堂で食べてる。幼女は時と場合によって家で食べたりとかだが(その際俺もご馳走されることもたまにあったりする)

「ふん」


 なんとか二人を引き離せたので、お嬢とソバカスちゃんがグッジョブと親指を立てた。
 俺も意図してないけど、どんなもんだいという感じで親指を立て返しておいた。
 結果オーライ。


 そんなわけでー。

『家庭科エプロン』
 これを身につけると、炊事・洗濯など、家事がなんでも上手に出来るようになる。エプロンには雛と卵の絵が描かれている。
 実践的に動くので、家事を学ぶための教材として使用する事も可能。


 似合いますよ。とか言われたけど、それって褒め言葉ととっていいんだろうか。
 褒め言葉なんだろうなぁ。






「……」

 彼が料理を作っている時、エヴァンジェリンは、ここに近づく異物の存在に、気づいていた。




──────




 一方その頃、寮に帰ってきたネギパーティーの数人が、大浴場にてスライムに誘拐されていた。




──────




「はーい、夕御飯ですよ~」
 ちづるさんと一緒に、和食を作りました。

「うおー、うまそー!」

「まだ食べるの小太郎君!」
「おう。まだまだいける」


 ちなみに犬っ子は小太郎としか名乗らない上、男の子あつかいしないと不機嫌になるので、基本は男あつかいだ(妹と認めたのは千鶴の迫力に押され、思わず答えただけ)
 記憶があいまいみたいなので、今はそっとしておいた方がいいと俺が言ったのも大きな要因だろうか。
 俺の本音は小太郎が女という事実を認めたくないという事だが。あははー。


「あら、意外と美味しいですわね」

 俺の料理を口に運んだお嬢が驚きの声を上げる。

「わ、ホント。おしい~」
「にーちゃん料理も出来るんか! うまいわ~」
「あらあら」
「ちづるさんのには負けるよ」
「ふん」

 俺は道具を使って一流の味になっているんだけど、彼女は素でその俺と同じくらいの美味しさなんだからな。まだ中学生なのに3-Aの子ってのはスペック高くて困るわ~。
 ちなみに最後に鼻を鳴らしたのは中身幼女。不機嫌そうだけど、箸は動いている。


 ワイワイと、総勢6名で食卓を囲む。


「……」

「……? どうかしたの小太郎君?」


 この団らんを見ていた犬っ子を見つけたソバカスちゃんが聞く。


「いや、なんかえーなと思って。俺、こんな風にテーブル囲んで食事した事なかったから。家族の団らんって感じで、なんかうれしーわ」

「まあ……」

「……」

「エドも食べてるかー?」
 同じようにしていた中身幼女に声をかける。

「ああ。まあまあだな」

「サンキュ」
 幼女がまあまあと言う事は、かなり美味しく出来たという事。口に合うようでなにより。

「……ふん」


 そういえば、こいつもこういう普通の団らんて経験あるのかな(自分がエヴァ一家と食卓を囲むのは数に入れてない)
 ないならいい機会だけど、さすがにエドの姿じゃクラスメイトと仲良くするわけにもいかないから、複雑かもなぁ。ちづるさんと空気が変なのもそのせいか?
 まあ、今回ばかりは我慢してくれ。
 ちなみに俺の膝の上に犬っ子。その両隣にちづるさんと中身幼女のエドが座っている。
 俺等の対面にお嬢とソバカスちゃんが座った形になっております。



「にーちゃんもっとー」
「はいはい。あーん」
「あーん」


 ……いつの間にか、俺が犬っ子小太郎にあーんしてます。
 膝の上に居る犬っ子が俺の分まで食べようとするから、注意したら、じゃあ食べさせろ。でないと俺のを食うと。
 それと、家族団らんを盾にされて、押し切られました。
 つかこれだとさ、結局俺食えないよね。しかも最終的に俺のも食われる気がする。
 これは、懐かれすぎなのか、それとも食い意地が張っているのか。とりあえず、膝の上どころかあーんが平気なほど懐かれるとは、さすが『桃太郎印のきびだんご』。というか犬っ子はそれだけ獣分が多いって事か?



「あ、小太郎ほっぺたに御飯ついてるぞ」
「ん……」

 膝の上にいる犬っ子の『お弁当』をとり、そのまま口へはこ……


「ぱく……」


 ……ぼうとしたら、ちづるさんに指ごと食われた。

 ちゅぅ。ぱっ。
 俺の指とちづるさんの唇の間に、銀色のアーチが描かれる。


「ちょっ!?」

「な、なにしているんですかぁぁぁぁ!?」
「なにやっているんだお前達はあぁぁぁぁ!」

「ひゃぁ!」
「なんやぁ!?」

 大声を上げたお嬢と中身幼女。驚くソバカスちゃんと犬っ子。

「あら、つい」
「ついじゃない小娘ぇー!」
「ついじゃありませんちづるさんー! あなたが節度を守らなくてどうしますかー!」


「はいはい」
 ぱんぱんと、大きく手を叩き、立ち上がった二人を静める。

「二人とも落ち着け。それとちづるさんも委員長さんの言うとおりで君が節度を守らないでどうします」

「はい。ごめんなさい」
 しゅんと、ちづるさんが謝る。
 でも、どこか少し嬉しそうなのはなぜだい?


「というわけで、彼女も反省しましたから、二人とも座りなさい」

「「……はーい」」
 中身幼女とお嬢も、しぶしぶだが、素直に着席する。

「よろしい」

「わー、お父さんみたーい」

 ソバカスちゃんが尊敬したような目で言う。

「は、ははははは」

「じゃあ、私がお嫁さんね?」

「いや、にーちゃんは、俺の、嫁や!」

「あらあら」

「もう、この子達は……」

「はは、はははは……」

 乾いた笑いを上げた俺に、嫁宣言をするちづるさん。それに反論する犬っ子。そして頭を抱えているお嬢。そして最後もまた、俺の乾いた笑い。
 犬っ子の『キビダンゴ』効果が切れたらどうなるんじゃろ……

 ちなみに中身幼女は一人ぶすーっとしてました。




 こんな感じで、一家(?)団らんに笑いが絶えない夕食だったのですが。




 ピンポーン。


 寮の部屋のチャイムが鳴った。

「誰だろ?」

「私が出ますわ」
 お嬢が玄関へと対応に行く。



「失礼お嬢さん……」



 老齢の男の声が聞こえた時。


 この時やっと、俺は、忘れていた事を、思い出したんだ……




 やっと、思い出したんだ……






─あとがき─

 不幸だった修学旅行編までに比べ、やっとあつかいが良くなってきた気がする彼でした。
 しかしその反動か、うっかりヘルマン忘却で一番最初に接触です。

 はてさてどうなる事やら。

 ちなみに、彼はちづるの事をちづるさんと呼んでいますが、他の子の事は、『委員長さん』『村上さん』など、基本口に出す時は『さん』とか『君』とかつけます。刹那君とか。
 例外はエヴァンジェリンとエド。それと、先生と呼ばなくていい時のネギです。

 ところで、頬に御飯をつけた事を『お弁当』って今通じるのかな。変な所を不安に思うおじさんでした。



[6617] ネギえもん ─第16話─ エヴァルート04
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2009/06/06 23:17
初出 2009/06/06 以後修正

─第16話─




 主人公。新しい属性を手に入れる。




──────




 ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵が、部屋へと乗りこんできたころ。
 桜咲刹那は、寮の廊下を歩いていた。


「ん? 今なにかの気配が……」

「せっちゃん」

 彼女の背後には、スライムの化けた、近衛このかがいた。

「!」




───エヴァンジェリン───




 あの悪魔が侵入してきている事はわかっていた。
 どうやら、調査が目的で、派手に暴れるつもりはない事もすぐにわかった。
 丁度いい機会だと思い、あの小娘にぶつけ、その潜在能力を測ろうと考えていた。


 あいつなら、ネギのためだと言えば、納得すると思っていた。
 あいつの擬態能力を持てば、悪魔などに目もつけられず、切り抜けられると考えていた。

 だが、その前に、あいつと接触し、私の制止を振り切って行動するとは、思わなかった……



 あの悪魔の存在のなにかが、あいつの逆鱗に触れたのだ。手に負えない、ナニカを呼び覚ます、なにかに。



 まさか、あいつが身の内に、あのようなものを飼っていたとは。

 私は、思いもよらなかったのだ……




───那波千鶴───




 私はよく、大人びているとか、落ち着いていると言われます。
 自分でも、同年代の子達よりは、落ち着いているという自覚はあります。

 年齢を上に見られ、そうあつかわれる事は、慣れています。
 それが、当然だと思っていました。

 でも、あの人は、違ったんです。
 あの人の見る私は、他の人の見る私とは違い、年相応の女の子。3-Aの子達を見るのと同じ視線で、私を見ていたんです。
 どんな大人の人も、クラスメイトも、私を大人としてあつかう中、あの人だけは、私をただの少女として、見てくれていたんです。


 それに気づいた時、私は、とても嬉しかった。


 でもそれは、あの人から見ると、私はただの女の子という事。あの人の目からは、私は、3-Aの生徒の一人でしかない。ですから、少し無茶を言ってしまいました。

 それでも、あの人は笑って許してくれます。
 でも、なんでも許してくれるわけではありません。あの人は、私が本当にいけない事をしたら、駄目だとしっかりと叱ってくれます。たしなめてくれます。
 私がまれに行う、突拍子もない無茶な行動。それはやっぱり、誰かに自分を叱ってほしかった心の現われだったのかもしれません。大人びた私の、子供じみた抵抗。
 そんな私を叱ってくれたのも、あの人でした。

 そんなあの人といる私は、ただの女の子でいられるんです。



 でも、それは、ただの甘えでした……
 あの人が、優しさの仮面の下で、あんなに苦しんでいたなんて、私は、知らなかったんです……




──────





 俺は、思い出した。

 あのおっさんの存在を。

 つーか。



 ヘルマン伯爵ううぅぅぅぅぅ!!



 ネギの村を石化させた悪魔。超重要人物。それなのに。それなのにー!


 今まで存在そのものを忘れてたあぁぁぁぁぁ!!!


 なんたるうかつ。うかつとかそういうレベルじゃないいぃぃぃぃ!!



 ばきぃ!!

 犬っ子が、クローゼットに吹き飛ばされる。
 入り口では、委員長が眠らされ、倒れているようだ。



 どうやら、狙いは犬っ子で、俺が目的とかじゃないらしい。
 そういえば、封印のビンがどうとかって話だったっけか。この段階になって、だんだん思い出してきた。おせーって。
 ならば、ここは空気のように……

 いや、だが、目の前にして見ているだけってのも……


『おい。ここは抑えろ。奴の目的は、お前や私ではない。ならば、ネギの成長のためにも、こいつを利用する。お前は傍観しろ』


 幼女から念話が届く。
 ああ、そういえばそうだったな。

 このままなにもしなくても、ネギが無事解決するはずか。幼女がこうして傍観してたし、確か、世界樹の根元広場で決戦してたな……



 なら、俺もそれにならうべ……





 どくん……



 ……き……か?




 どくん……




 な、なん、だ……?





 どくん!!





───小太郎───




「さて、ビンを渡してくれる気になったかな?」


 いきなり入ってきたおっさんに、俺は吹き飛ばされた。
「きゃああぁぁぁ!」
 夏美姉ちゃんの悲鳴が聞こえる。いきなりなにすんねんこのおっさん!

「我々の仕事の目標はネギ少女だが、そのビンに再度封印されては、元も子もないのでね」


 ネギ……?
 ネギ、やて……?

「失礼ですが……」

 あかんちづる姉ちゃん。でちゃ……
 俺が静止する前に、にーちゃんが制止してくれた。感謝するで。


「金髪の姉ちゃんになにしたんや……」

「なに、眠ってもらっただけだよ。ビンはわたす気になったかな?」


 姉ちゃんが無事ならそれでええわ。
 今度は、全力でいくで!


「なんの事かわからんわ。それに例え持っていたとしても、あんたには渡さんけどな!」




 足に力をこめ走り……



 すっ。



 ……出そうとした瞬間、にーちゃんが、俺とおっさんの間に割りこんできた。


「っ! に、にーちゃん!?」

「おやおや……」


 にーちゃんが、おっさんの方へ、歩いてく。

 き、危険や! そいつ、人間ちゃう! 一般人のにーちゃんじゃ!


 そう思った瞬間。


 次の瞬間、信じられへん事が起きた。


 ボゴォン!!


 そんな重いボディーブローの音と共に、おっさんは真上に吹き飛ばされ、そして、空中で、消えた……



「なっ……!?」


 いや、正確には、ボディーブローを打ち終わった形のにーちゃんと、吹き飛ぶおっさんが見えたというのが正しい。
 次の瞬間は、ただ立つにーちゃんと、消えたおっさん。それはまるで、飛び飛びの連続写真を見せられてるみたいやった。
 にーちゃんが動いたとこも、攻撃が当たった瞬間も、見えへんかった。


 な、なにがおきたんや、いきなり……

 全員が、ただ、呆然と見ているしか、なかったんや。


「ちづるさん。エド」

「はい」
「なんだ?」

 にこにこしてたちづるねーちゃんもエドのにーちゃんも、真剣な表情や。
 にーちゃんも、さっきまでと、まるで雰囲気が違う……

 さっきまでは、優しそうやったのに、今は、少し、怖い……


「すぐネギが来ると思うんで。世界樹下の広場へ行けと伝えておいてください。エドは、念のためこの場に残って、ちづるさん達の警護を頼む」



 そう言って、にーちゃんは、忽然と、消えた……


 なにをするために、消えたのかは、言わなくても、わかる……
 にーちゃんは、あのおっさんを……


 にーちゃん。あんた、何者なんや?


 ネギが、来る……?

 ネギ……ネギ……

 ズキ。
 頭が、痛い。
 なんや、なにか……もう少しで、思い出せそうや。




 この後、部屋にネギが来て、思い出したんや。
 俺が、なにをしにきたのかを。
 俺は、あのおっさんとその手下のスライムが、ネギ達を狙っていたという事を伝えにきたんや!

 そして、俺とネギで、にーちゃんに言われた世界樹広場へ、むかったんや。
 そこには、ネギの仲間がスライムに捕まっとった。

 ちづるねーちゃん達はにーちゃんの言ったとおり、あの部屋に残ってもらって正解やったわ。
「私達はここで待っている。お前達だけで行け」
 と、エドにーちゃんも言ってくれたしな。俺等も足手まといがなくて助かるわ。

 ネギの方は、なんでここにエドにーちゃんがいるのか疑問に思っとったようやけど、男がそんな細かい事気にしてどーすんねん。

 そんな事よりお前の仲間助けるのが先決やろ。


 ま、俺とネギ。二人の連携で、楽勝やったけどな。
 俺が前に出て、ネギが後から魔法&まれに白兵。これで楽勝や。
 ネギも『魔法剣士』か『魔法使い』かなやんどるみたいやが、やっぱ男なら『魔法剣士』やろ!


 戦い終わってからなんやけど、そういや封印の小瓶を持っていたのを思い出したんや。
 学園入る前。このビン奪い返して、魔法にやられて、記憶が飛んでたんやったな。そういや。


 ボコボコにしたスライム達は、ここに封印する事にした。


「もっと早く思い出してよー!」
 ネギが頬を膨らましとる。

「うっさいなー。忘れとったんやからしゃーないやろ」

「それがあればわざわざ戦わなくてもよかったのにー!」

「えーやろ。俺は楽しかったで」

「そりゃ、僕もコタロー君と一緒に戦ったのは楽しかったけど。それとこれとは別だよ」

「男なんやから細かい事は気にすんなや」

「だから僕は女だってばー!」

「僕ちゅー奴が女なわけあらへんやろが!」
 女は『私』ってのしか使えんのや!

「またそういう事言うー!」



 ちなみに、ネギも小太郎の事を女だと気づいていなかったりするので、ある意味お相子とも言える。



「いいから早く助けなさーい!」


 パジャマ姿で縛られたままのアスナねーちゃんにしかられてもーた。




───ヘルマン───





 ……一体、いきなり、なにをされたのだ?


 腹に衝撃をくらい、私は、天井へと突き刺さった。


 いつ、攻撃されたのかわからない。気づいたら、殴られていた。

 これが、聞いていた、意識の外から来る、防御も、回避も出来ないという、『完全なる一撃』?

 となると、あの部屋にいた誰かが、もう一つの目的である、『闇を纏い、闇を祓う者』か。


「いやはや、こうも簡単に見つかるとは、ついているとでも言えばいいのかね」


 天井から抜け出し、部屋に、着地する。


「……?」


 人が、消えた?
 先ほどまで部屋にいたはずの人間が、誰もいない。
 逃がしたのか?

 いや、なにか違和感がある。


 そうか。ここは、異界か。


 学園に入った時より感じていた結界の存在が感じられない。人の気配を感じない。
 どういう手段を使われたのかはわからないが、物の左右が反転している。

 まるで、鏡の世界のようだ。



 ゆらり。



「っ!?」


 私の背後に、突然、先ほどの少年が、現れた。


 気配が、まったく感じられなかった。
 まるで、突然そこに現れたかのようだ。
 私の背後を、こうも容易くとるとは……


 気配は完全な一般人。
 だが、それが擬態なのは、すぐにわかる。

 ただの一般人が、私の背後をこうもたやすく取る事など、出来ないからだ。


 やはり、そうか。彼が、『ネギ・スプリングフィールド』、『カグラザカアスナ』の調査と共に依頼された、『闇を纏い、闇を祓う者』か……

 なんという皮肉。依頼者があれほど探し、居場所を欲して見つからぬものが、探す気もない別の依頼でやってきた者の前に現れるとは。
 この場を抜け出した後、この事を知った、あの依頼者の固まったかのような顔に、驚きや、屈辱が浮かぶかと思うと、楽しみでならない。




「……なあ」

 彼が、静かに口を開いた。

「なにかね?」

「あんたってさ。紳士的な態度でいるけど、実際は人間を見下しているよな」

「ははは。いきなりそれは手厳しい。まあ、事実だがね」
 特に弱い人間などは私に欠片も価値はない。

「あんたさ、弱くて、一方的に弄ばれた事ってある?」

「ないね。それに、弱ければ、強くなればよいと思うよ」

「そうだよね。あんたみたいに、強い人には、ぼくの気持ちなんて、わからないよね」

「?」


 なんだ、少年の雰囲気が、最初に部屋で見た時から、また、変わった?


「一方的に、なぶられる、無力感とか、わからないよね」

「私は強いからね。少なくとも、一方的などという戦いも、悔しいという思いも、した事はない」


 敗北はある。だが、それはほぼ互角。戦士の戦い。私を満足させる戦いだ。
 そもそも爵位級悪魔の私と本気で戦い、倒せるという存在は、数えるほどしかいないわけだしな。


「だろうね。あんた、強いもんね。暴力を楽しめる方だもんね。上からしか見た事ないもんね。弱い人の苦しみとか、抵抗出来ずにやられる側の気持ちなんて、知らないよね」

「知らないね。なにせ、私は悪魔だから。弱き者など、眼中にもないよ」

「だから、教えてやろうと思ったんだ……やられる側の気持ち、わかれば、どんな理由でも、もう、やりたいなんて思わないだろうから……」


 くすくすくす。くすくすくす。


 ……なんだ。この少年は。


 どう考えても、そのような事が、実現できるような存在ではない。
 アリが、象に戦いを挑むようなものだ。
 彼の言う事は、今から自分でやられる側にしか見えない。

 それなのに、なぜだ?
 なぜ、私が、どこか、彼に、畏れを、感じている……?


 つまり、本能が、警告している。油断をするなと、警告しているのだ。
 やはり彼は、『鬼神』を祓ったという『闇をまとい闇を祓う者』本人に違いない。
 ならば、私も、全力で戦わねば、ならないはずだ。
 相手は、不死者も屠れる存在なのだから。



「一つ良いかな? ここは、どういう世界なのかね?」

「ここは、鏡の世界。どれだけ暴れても、他の世界には決して影響しない、完全に独立した、人のいない世界」

「ほう。つまり、私も全力を出してかまわないという事か……」

「ああ。でもあんた、『動けない』けどね」



 異界ならば、私も全力を出せる。
 上級悪魔。爵位級すべての力が出せる。結界により力を封じられてもおらず、調査の仕事など、他を気にせず戦えるならば、『サウザンドマスター』とも互角に戦える自信はある。
 私の真の実力は、あの石化を解ける者が未だにいない事からも十分理解出来よう?
 『ここ』ならば、負ける気など、しない!





 ……だが、私の全力など、彼には関係なかった。




 ゆっくりと、奴が、動き出す。






 その時から……








 私の、地獄の時間が、はじまった……





 体が、一切動かない。(『相手ストッパー』)
 奴は、なにもしていない。ただ、私という相手に、止まれと言っただけだ。

 強力な力。魔力もなにも纏わぬ、ただの『力』で、殴り飛ばされた。
 壁をいくつも突きぬけ、私は建物の外へと吹き飛ばされる。
 なんだこのパワーは。人間の力とは、思えん!(『ウルトラリング』他パワーアップ道具)

 上空で、なにかが爆発した。私の体が、その灰に包まれる。(『ビョードー爆弾』)

 鋼鉄よりも硬い、私の体が、まるで意味も無いように切り裂かれた。(『なんでもカッター』)
 ただのカッターにしか見えないのに、なんなのだそれは!?

 細切れにされる苦痛を味わったかと思えば、時を巻き戻されるかのように、体が復元されてゆく。切り刻まれた苦痛を、逆に味あわされた。(『逆時計』)
 この男は、時すら操るというのか!?

 灰が降り注ぐ時に戻り、体の自由が戻った。(『相手ストッパー』解除)
 即座に私は攻撃に転ずる。だが、私の攻撃が、まったく効かない。それどころか、石化も、悪魔としての能力も、すべてが使えない!? この私の力が、一切、無意味だと!?

 逆に石化させられ、その五体を砕かれた。(『ゴルゴンの首』)
 あれは、ゴルゴンの首!? あの伝説の首を、女神アテナに捧げられたはずの首を、なぜ、この男が持っている!?

 石化される側の苦しみが、これほどの苦しみだったとは……
 意識を失ったかと思えば、また、時が巻き戻され、砕かれる感触と痛みそのままに、復元される。

 次は、体を紙のようにされ、そのままびりびりと体を粉々に引き裂かれた。(『厚み抜き取り針』)
 私の体を、まるで、紙のように!

 苦痛のあまり、悲鳴を上げる。痛みに、耐えられない。悪魔としての耐性が、一切効かない!
 まるで無力なただの人のように、その痛みに、耐えられない!


 終わりを迎えたかと思った瞬間、また、時間を巻き戻される……


 龍が現れ、私を噛み砕く。(『モンスターボール』)
 圧倒的な暴力。ただの、力による、蹂躙……


 古今東西、私の知る知らない、あらゆる魔法を撃ちこまれた……(『魔法事典』)
 男の姿が変わり、見た事も聞いた事もない技をその身に叩きこまれた。(『決め技スーツ』)


 そして私は、星ごと、その身を砕かれた……(『地球破壊爆弾』)


 やっと終わるかと思えば、また、時を引き戻される。
 何度も。何度も。何度も。何度も。
 何度も。何度も。何度も。何度も。
 何度も。何度も。何度も。何度も。


 圧倒的で、一方的。私は、なにもさせてもらえない。
 これが、一方的に蹂躙されるという事……
 相手の意思を無視した、暴力……

 ただの、暴力。


 私が、才能なき、無力な人間を相手に、行ってきた事……


 早くこの苦痛から逃れたい。
 もう、殺してくれ。
 だが、死にたいと思っても、死ねない。
 命さえ握られているという、事実……


「上から見下される気分、どう?」


 奴が、笑う。


 その笑顔に、覚えがあった。
 それは、私が、人々に向けた、笑顔だ……

 これは、私が、力なき人々に行ってきた事だ……
 才能もないと、つまらないと見下し、弄んできた命を見ていた顔だ。


 私は……私は、こんな恐ろしい、顔を、していたのか……


 こんなに、恐ろしい事を、していたのか……!!


 私は……! 私は!!



「お願いだ! お願いだ!! もう、もう、許してくれ! 許してくれぇー!!!!」



「あんたは、そうやって許しを願った人間を、許した事、あるの?」


「っ!!」


 その反応が、私の、答えだった。




 奴が、私に向かって歩んでくる。




 そして、一本のムチを、振り上げた。


「これは、『天罰ムチ』。誰かが悪さをしたときに鞭を打ち鳴らすと、それに見合った罰がその者にくだるというもの。それを『デラックス』化して、今までの罪、すべてに罰がくだる特別版だ。あんたが今まで犯してきたその罪。一体、どれほどなんだろうね?」



 ま、まだ、まだやるのか!? まだ、続くのか!? この、地獄が……もうやめて……



「やめてくれぇぇぇぇ!!!」



 ぱしん。


 次に見えたのは、私が、最初になぶった人間。私は、その者になった。私は、私のしてきた事を、そのまま、その身で体験する……
 私が、私を、なぶりはじめる……私を、見下しながら……


 許して……


 許して……


 許してぇぇぇぇえぇ!!




 その後、罰を受け続ける私は、なにも無い空間にほうりこまれた。
 地平線しか見えない、白い地面と、黒い空のみが広がる世界。



 そこで、私は、永遠に、罰を受け続ける……



 永遠に……



「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」



 永遠に……






 ちなみに、『そこ』は、鏡の世界に『地平線テープ』で作られた、さらなる異世界。
 なので、『入りこみミラー』のスイッチが切られ、一度鏡の世界が消えた今、誰も、彼の元へとたどり着く事は、出来ない……




──────




 伯爵を異世界にほうりこみ。
 そのまま俺は、『入りこみミラー』を頭から通り、部屋の中央へ帰ってきた。上から床に落とすような形で。

 他者から見れば、光の輪から、現れたかのように見えただろう。
 そして、『実』時間では、俺が消えて5分ほどしかたっていない。何度も何度も、『逆時計』により、時間がまき戻されたからだ。それを実際に体感したのは、鏡の世界にいた俺と、あの悪魔のみ。



「はっ、はははははは。はははははははははは」



 俺は、笑った。悪魔に許しを乞わせ、異世界に放り出し。笑った。


 なんだ、この感覚……
 なんだ、この感情……


『ぼくを傷つける世界なんて、なくなってしまえばいい!!』


 壊せ。

 壊せ。

 壊せ、壊せ。

 壊せ壊せ壊せ壊せ!

 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!

 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!

 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!


「はははははは。はははははははははは」


 俺の知らない、『俺』の記憶が、フラッシュバックする。
 『俺』の体験した、負の記憶が、蘇る。


 俺の内側から、ある感情が、あふれ出す。
 俺の内側から、その感情が、暴れだす。


 これは、この世界の、『俺』の、感情……?
 『俺』の、憎しみ……?

 あの悪魔へ爆発した、源……?



 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!


 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!!


 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!!!



 頭の中を、ただひたすらに、その感情が、駆け巡る。
『ヤラレタカラ、ヤリカエスンダ!!』


『ぼくが、この力で、世界を!』


『コンナ世界、ナクナッテシマエバイイ!』


『ぼくが!』


 俺は……


『ぼくが!』



 俺は……




 俺は……





 ふんがー!!





 ……自分の顔面を、思いっきり、ぶん殴った。

 うるせーんだよ頭ん中で勝手にごちゃごちゃ言うんじゃねえー!!
 勝手に、俺を、お前に塗り替えようとするんじゃねえ!!

 俺は、俺で、お前じゃないんだ!!


 あ、やべ。頭が吹き飛ぶかと思うかと思うほどの衝撃が自分を襲った。

 あ、あぶねー。パワーアップした分その人の体もそのパワーに耐えられる未来的技術フォロー+『ウルトラくすり』で守られてなかったら今頭がぱーんて風船爆破してたところだ。



 だが、目は醒めた。



 軽く分析すると、あの悪魔の存在に刺激されたのか、俺の中にあった『俺』のへヴィな事情の記憶がフラッシュバックされて、憎しみと破壊の感情が暴走しかけたんだろう。
 多分、あの悪魔に対してアレは、一種の八つ当たりだ。負の記憶を呼び覚ます、ナニカがあの悪魔にあったがために。


 だが、あのままあの感情に任せていたら、俺は、道具で地球を破壊していたかもしれない。
 憎しみのまま、すべてを破壊しようとしたかもしれない。
 破壊の限りをつくしていたかもしれない。


 おい。『俺』。すでにいないお前に、なにがあったのかは、俺にはわからない。

 だが、俺がここにいる結果が、この力が、『俺』の望んだ結果だとしたら、悲しすぎるぞ……
 力を求めた結果が、これなら、あまりに安易だ……

 こんな力なくたって、ただの人間相手なら、どうにか、出来たのによ……

 14年しか生きていないお前には、わからないかもしれないけどよ……

 お前が、なにを考えていたのかも、もう、わからないけどよ……


 こんな感情だけを、残して、いくなよ……




 やばい。少し欝展開は入りそうだ……




 だって……





 だって……












 これ、どこの厨ニ設定だよ……


 世界を破壊できるほどの強大な力(未来道具)を持って、内面に、破壊衝動を抱えたキャラクターって、邪気眼満開じゃねーか……

 冗談で言うんじゃなくて、マジで内包してるって、なんやねん……

 リアル邪気眼て、マジかよ、『俺』……


 『辛い過去持ち』で『異世界から来た者』で『最強の称号』持ちでさらに『世界を破壊する力』を有し、『破壊の意思で苦しむ』とかって、どんだけやねん。
 これで実は魔族の血をひいていたとかだったら完璧だぜ?


「くっ、俺の『闇』が暴れだそうとしている。みんな、俺から離れろ!」

 という邪気眼夢の展開を、リアルでやれるのか!? やれちゃうの!?
 包帯か? 包帯は必要か? 包帯!?

 痛い視線を受けながら、マジで世界を破壊から守らなきゃならないのか!?
 内面でもう一人の俺と戦えたら、オサレ満載!

 なんて悪い方向での夢の展開!!


 そりゃ、俺だって男の子だからそういう事考えた事はあるよ。でも、実際に人前でやるのって、もう恥ずかしい年頃なんだよ……
 リアル『宇宙刑事』とか、リアル『邪気眼』とか人前でやれるような精神年齢じゃないんだよ母ちゃん。


 なんてものを……


 なんてものを残して逝ってくれたんだ。『俺』……


 そうか、これが、世界を蹂躙できるほどの力(道具)を手に入れた、代償か……

 とか言っておけばいいのか……? 厨ニ的に……


 これ、どこの黒歴史ノート破り捨てれば、開放されるかな……?




 しかも、伯爵俺が感情のままにボコっちゃったじゃないかよ。ネギへの影響、どーなのよこれ……



 マジ、勘弁してくださいよ……




 もう、この厳しい現実に、俺、目から変な汁が出てきちまうよ……




 ほろり……



 あ、ホントに出てきた……





───エヴァンジェリン&那波千鶴───




 あいつが姿を消していたのは、ほんの数分の事だった。
 彼が、姿を消していたのは、ほんの数分の事でした。

 なにをするために姿を消したのかは、すぐにわかった。あの悪魔を粉砕しに行ったのだ。
 なにが起きたのかはわかりませんでしたが、私達を守るためという事はわかりました。

 ネギがこの部屋にやってきて、犬の小娘と去っていっても、2分ほどしかたっていなかった。
 ネギ先生がこの部屋にやってきて、小太郎ちゃんと去っていった時間から、二分ほど。


 だが、戻ってきた奴は、長い間戦い続けたような、雰囲気を持っていた。
 それだけの時間で戻ってきたのに、彼は、とても疲労していたように見えた。


 そして、その背からは、禍々しい狂気を発していた……
 その背中は、まるで、なにかに怒っているようでした……


 奴が、その姿を消した時、違和感を感じていた。
 彼が、姿を消す前。違和感を感じていました。

 奴が戻ってきた時、初めて、その違和感の正体に気づいたのだ。
 彼が戻ってきた時、やっと、その違和感の正体に気づいたんです。

 奴は、あの時、殺意をふりまいて、あの悪魔を追ったのだ。
 彼は、あの時、憎しみの目で、あのコートの人を見ていたのですから。

 私にさえ、あの鬼神や銀髪のガキにさえ、向けなかった、殺意をだ。
 誰にでも優しく、まるで父のように、その瞳を向けていた、彼が……

 そして、戻ってきた奴は、禍々しい狂気を放つ存在となっていた。
 そして、戻ってきた彼は、まるで、世界すべてを憎むかのような目をしていました。

 誰だ、お前は……?
 誰なの? あなたは……

 お前は、誰だ……
 あなたは、誰……?

 あれは、私の知る彼ではない。
 あれは、私の知る彼じゃない。

 笑みから零れるのは、狂気。そして、身に纏うのは、あふれんばかりの、憎しみ。
 笑みから零れるのは憎しみ。そして、身に纏うのは、あふれんばかりの、怒り。


 あんな狂気の中で、お前は正気を保っていたというのか?
 どうしてそんなに他者を憎むんですか?

 ヤマタノオロチを従えるお前は、それ以上の狂気をもって、ソレを従えていたとでもいうのか?
 あなたの事情は、ある程度あやかから聞きました。

 確かに、その狂気に比べれば、ヤマタノオロチなど、赤子に過ぎない。
 確かに、その経験は辛いと思います。

 これが、お前の中にある、『闇』なのか? お前は、こんなものを抑えながら、生活していたのか?
 でも、あなたの中にあるそれを、一人で抱えこまないでください……

 だからお前は、コレを暴れさせないがために、平穏を望んでいたというのか……?
 あなたは、その辛さを知り、それでも、優しい瞳を、他の人に向けていたじゃないですか。

 そして、その身に宿したそれが、今、決壊したというのか……?
 それなのに、あなただけが、壊れていいはずがありません……



 だが、あいつは、決壊する自分を律するように、自分で自分を、殴りつけた。
 でも、彼は、憎しみにかられた自分を破壊するように、自分で自分を、殴りつけました……



 その瞬間、彼の雰囲気は、元へと戻った。

「俺は……俺は……」
 そして、なにかに耐えるよう、彼は両手で自分の顔を覆い隠し、静かに、涙を流した。



 なぜだ……?
 どうして……?


 お前は、憎しみの狂気に飲まれず、自分の力で、自分を律したではないか。
 あなたは、自分に押しつぶされず、ちゃんと立ち上がったじゃないですか。


 それなのに、なぜ、泣く?
 それなのに、なぜ涙を流すの?


 その姿はまるで、自分ひとりで、犯してしまったその業を背負いこもうとしている、咎人。
 その姿はまるで、一瞬でも怒りに溺れた事を、許せない、自分の弱さを悔いる、優しい人。

 一人で狂気に耐える強さを持っているのに、それでも、その心は、孤独の寂しさに、震えているように見えた……
 憎しみを抑える強い心を持っているのに、それでも、他者を傷つけた自分を、責めているように見えた……


 私と同じように、誰かに、一緒にいて欲しいように……
 私と同じように、誰かに、叱られ、許して欲しいように……



 彼は、はるか遠くに居る存在ではなかった。私達と変わらない、弱さも持っているのだ。



 私は、彼の力になりたくて。彼を、救いたくて。彼を、支えたくて。そのまま、彼を、抱きしめた……



 エヴァンジェリンは、正面から。
 那波千鶴は、背後から。



 一人は、母のように。彼を包みこむように。
 一人は、愛しい者のように。彼を、抱きしめるように。



 二人共、泣く彼を、優しく、抱きしめた……



「……え?」


 彼は、抱きしめられた瞬間、ただ、呆然としていた。



「お前は、前に言った。受け入れられている事を、受け入れてみるといいと!」
「あなたは、海の時私達に言いましたよね。君達はやった事を反省している。だから、怒らないと」


「お前は、世界に受け入れられている! だから、受け入れろ! 世界を、憎むな! 私が、お前を受け入れてやる! 私が、受け入れるから……」
「あなたは、反省しています。だから、誰も怒りませんよ。自分を責めないでください。私が、許しますから。あなたを、私が、許しますから……」



 お前の『闇』を、理解する事が出来るのは、私しかいない。だから、一人で抱えこむんじゃない!
 あなたの優しさは、私がわかっています。だから、一人で悲しまないで!



「だから、泣くな!」
「だから、泣かないで!」




 お前を狂気から、支えてやりたい。
 あなたの優しさを、支えてあげたい。




 なぜなら、私は、彼を、愛しているから……





 ……ああ。そうか。この気持ちが……


 この時はじめて、彼女は、彼と共に歩みたいと思った、その時。
 彼女は、自分の気持ちを、正しく理解した……




──────




 俺は、あまりの自分の痛さに、目の前に女の子がいるのも忘れて、泣いた……



 ふわり……



 その時俺は、誰かに、抱きしめられた。


 正面に、エヴァンジェリン。背後から、ちづるさん……


「え……?」


 この時、俺は、体に当たる感触で、一気に我に返った。
 な、なんだこの状況ー!?

 やばい。あまりの痛さに、マジ泣きしていた。

 しかも、そのせいか、慰められている!?
 やばい。めっちゃ恥ずかしい。

 中身大人の俺が人前で泣いたというだけで大ダメージなのに、その理由が、厨ニがこじれて痛くて泣いたなんて、恥ずかしすぎる!
 恥ずかしいどころじゃない。この泣いた理由も致命傷すぎる!!

 どうする!? なんて言い訳すればいい!?



 この時の俺は、リアル邪気眼のショックと、少女達の前で思わずマジ泣きしたショックで、周囲の音はまったく耳に入っていなかった。



 いやまて。俺がなんで泣いていたかなんてわからないはずだ! つまり、なんでもないと繰り返して誤魔化そう!
 泣いていた男にこれ以上追求するような子達じゃないはずだ! これだ!!



「ありがとう。少し、落ち着いた」
 冷静に。勤めて冷静に、俺は、二人に声をかける。

 そして、冷静になって気づいたんだが、背中がいわゆる『当ててんのよ』状態になっていて、今度は別の意味で大ピンチだったのだと気づいたのだ!!


「なにがあったのかは聞きません。でも、夫を支えるのが、妻の役目ですから」


 妻とか気が早いけど、なにも聞かない。それはナイスです! でも、そろそろ抱きしめたこの手を、離してもらえませんかちづるさん!? 俺の滅多に使わないスカウターが、今だけフル稼働して、脅威の数値をたたき出してます。
 BP94! なんという柔らかさ! ば、化け物か!? って!


「もう、平気か?」


 おい幼女。こんな時だけ、俺に対しての幻術を解くな。
 原理はよくわからんが、周囲の子がなにも言わないって事は、俺だけ幼女の姿が見えているって事なんだろ。それとも催眠術も併用か?
 今のお前、なんだかしらんが、震えた子猫のようで、もふもふしたくなるじゃないか!
 よくわからんが、その表情はやめろー!
 俺は幼女お子様は守備範囲外なのに、一瞬その包みこむような笑顔にドキッとしてしまったじゃないかー!

 あと、お前の位置取りはやばいって! 正面から俺に抱きついているなんて! 今背後からの攻撃で、パオーンがあれでそれになったら、お前の位置だとほら! イコール俺が殺される事になるからー!!


「二人共。もう大丈夫だから、離れてくれないか……?」


「嫌だ」
「嫌です」


 おおおおおーい! ちょっとー! いくら俺の精神力がすごいといっても、限界があるのよー!

 なにこの天国!? 天国だけど、即地獄行きなヘヴン状態は!?


「村上さん助けて!」
 離れてくれないので、一人呆然と俺達を見ていたソバカスちゃんに助けを求める。

「む・り!」
 なにか悟った顔で。親指立てられた。
 事態についてこれなくてただ反応しただけかもしれないけど。

「予想通りのお答えありがとう!」
 予想通り過ぎて、一瞬感覚を忘れられたよ。これでまだ戦えます!


「だから、なんで離してくれないのー!?」

「だって離したら、お前は一人でどこかへ行ってしまいそうだ……」
「だって離したら、あなたはいなくなってしまいそうだから……」

「いなくならないから! もう大丈夫だから! だから、離れなさい!」

「約束するか?」
「約束してくれますか?」


「するから! しますから! どこにも行きません。だから、離れてください!」


 その言葉と共に、二人は俺から離れていった。

 あ、危なかった……

 あと3秒遅れていたら、俺の精神が耐えられなかっただろう。すごいBPと、デンジャラスポジションだったぜ。
 なんという連携。


「……でも、気分は、楽になった……かな」

 なんか、いろんな悩みが煩悩と一緒に吹っ飛んでった気がする。
 リアル邪気眼とかで悩むよりもっとデンジャラスな状況だったからな。さっきは。


「それは良かった」
「ふん」

「悪かったね。恥ずかしいところを見せてしまって」

「いえいえ。かまいませんよ。むしろもっと見せてください」
「次泣く時は、私の前だけにしろ。うっとおしくてかなわん」

「……次はないように努力します」


 ソバカスちゃんにため息をつかれました。なぜここで君にですか……?


「まあいいや。さっきのはもう追い返したけど、ネギ達が気になるから、ちょっと行ってくるよ」

「ちゃんと帰ってきますか?」

「いや、ここには戻ってこないかもしれないけど。明日からは普通に会えるから」

「なら、許します」

「ありがとうございます。ああ。ついでに、ちょっと目をつぶってもらえます? あと村上さんも」

「はい?」

 二人が目をつむったら、ぴかっと『復元光線』で壊れた部屋を修理。
 これで委員長もなにが起きたか詮索も出来まい。

「わっ、みんな綺麗に直ってる」
「あらあら」

「今回の事は秘密という事で。俺がここにいた事も説明しなくちゃならなくなるからね。委員長さんには変質者は俺達が追い返したとでも伝えておいてくださいな。実際追い返したんだけど」

「わかりました。秘密を共有できるなんて素敵ですね」

「えーっと、それ喜んでいい事なの?」

「はい」

「おい、さっさと行くぞ!」

「はいはい。それじゃ、またそのうち機会があったら」

「はい。それでは、また」

「さよーならー」


 こうして俺達は、一度ネギ達の方へ向かうのだった。

 よくよく考えてみると、結果は幼女のコピーが見てたかもしれないんだから、そっちに聞いてもよかったんだよな。
 向こうに行ってから気づいたんだけど。



 ちなみにこの頃、ネギと小太郎は、スライムとの戦いを開始したばかりだった。
 それほど短い時間での出来事だった。




───村上夏美───




 彼等がドアから出て行って、残された私達。


「一体、なんだったんだろ……」


 変質者(?)のおじさんが入ってきたかと思ったら、いきなりいなくなって、ネギ先生が来て小太郎ちゃんと行っちゃって、戻ってきた彼は泣き出して、エド君とちづ姉が抱きついて……


「簡単な話よ。あの人は、『王子様』なの。だから、私達を助けてくれた。それだけよ」

「そ、そうかな……?」

 確かに、あのコートの変質者からは守ってくれたようには見えたけど……
 最後は泣きだして、ちづ姉に守られていたような……

「その方が面白いでしょ」

「ちづ姉……」

「でも、とても優しい人……だから、思わず支えてあげたくなってしまうほどの……」


 あの人が出て行ったドアを見てるその姿は、本当に恋する乙女。
 完全に本気になっちゃったんだね。ちづ姉。


 でも、確かにあの人、いい人だもんね。
 相手がちづ姉じゃなかったら、私もアタックしたかもしれないなー。


「でも、ライバルは強敵だから、私もがんばらなくちゃ」


 ちづ姉がポツリと、そんな事をつぶやいた。


「え゛? でも、エド君男の子だよ?」

「いいえ。あの子も、乙女なのよ」

「え? どういう事なの?」

 心は乙女って事?

「そのままの意味よ」

「そのままなんだ……」


 私にはよくわからなかったので、そのままそういう事か。と納得する事にした。



 どの道、あの人が苦労するんだろうなぁ。と思いました。
 そもそもこれだけ想われてるのに、あの人気づいているのか怪しいし。

 あれ? これってちづ姉が苦労するって考えるべきなのかな? まいっか。




───エヴァンジェリン───




 ……お前が、ネギに目をかける理由が、わかった気がする。

 お前は、いざという時、自分を止める者が欲しかったのだな。
 世界を破壊する前に、自分を止めてくれるものが、欲しかったのだな。

 もしも、自分で、自分を止められなかった。その時のタメに。
 自分を倒し、世界を救うものが……

 だから、自分ではなく、別の者に育てさせている。
 自分と同じものを授けたら、自分と同じ事の繰り返しとなってしまうから。


 ……倒される事を望むしかないなんて、悲しすぎるじゃないか。


 そんな事にならないよう、お前の闇は、私が、支えてやる。
 この世界で、その望みと闇を理解出来る、私が。

 支えて、やりたい……私が、お前の、光になりたい。



 だが……


 考えていた。
 私の存在が、こいつの狂気を加速させてしまっているのではないか? と。
 きっかけはあの悪魔だったが、その心の亀裂は、隣に私という闇の存在がいたがゆえに……
 考えていた……

 もし、そうならば……


「おい」

 その思考を、さえぎるように、彼が言葉を紡ぐ。
 まるで、私の知りたい答えを、示してくれるかのように。


「お前こそ、勝手にどこかへ行くなよ」


 そう言い、彼は、私の手をつかみ、走り出した。


 それはまるで、私の存在を、肯定するかのように……
 私が居ても、問題などないように……


 ……それは、本当に、平気なのか、私の心をかばってなのかは、わからない。
 だが、そう言われただけで、私は、彼の傍らに居ていいのだと、信じられた。


「……そうか」


 私は、お前の傍にいても、いいのか……
 共に歩もうと考えても、いいのか……



 それはとても、とても嬉しかった。



 この時から、ほんの少しずつ、私の中に、光が広がりはじめた気がした。
 彼となら、私は、この世界をすべて、受け入れられる気がした。




 あれほどの罪を重ねてきた私が、光を、望んでしまった……


 その罰は、目の前で、彼を失うという事で、支払われるとも、知らずに……


 私は、光を求めてしまったんだ……




──────




 廊下を走っているとあいつが突然、ふらふらと、なにか考え事でもしているのか、目標とは別の廊下へと曲がろうとした。

 ったく。なにしてんだこいつは。
 人に勝手にどっか行くなとか言っておいて、自分は上の空でどっか行くつもりかよ……



 その時だった。



 なぜか俺は、あいつが、居なくなるような気がした。

 このまま別れたら、もう二度と、会えなくなるような気がした。

 『道具』を使ったわけでもないのに、本当に会えなくなるはずはない。
 それに、会えなくなるのなら、好都合じゃないか。
 元々押しかけてきたのはあいつの方だ。居なくなるならば俺の身も安全となり、清々するはずだ。


 それなのに。

 それなのに、なぜか俺は、彼女を呼びとめ、その手をとっていた。


「お前こそ、勝手にどこかへ行くなよ」


 自分でもなぜかはわからない。だが、思わず俺は、その言葉を、彼女に向け、紡いでいた。
 そう言わなくちゃならない、気がしたから……

 なぜだかはわからない。そう言わなくちゃならない、気がしたから。




 この時初めて、二人の気持ちが、正しく通じ合ったのかもしれない。




 そして俺達は、なぜか、手をとりあって、女子寮の廊下を……



 ……女子寮?



「……そういやさ」

 走る俺は、手を引いて走っている、エドこと中身幼女のエヴァに話しかける。

「なんだ?」

「ここって、女子寮だよな?」

「そうだな」

「うっかりドアから出てきちまったけどさ。見つかったらまずいよな?」

「私は変身を解けば問題ない」


 PON☆


「変身ときやがったぁ!」



 やばいよ。これで見つかったらせっかく大人しくなってきた俺の噂がまた大変な事になるよ!
 というか噂どころのレベルじゃないよ! 幼女と女子寮で手をつないで歩いているとか、どんなプレイだよ!

 とりあえず、手を離せ。嫌だとか言うな。いいから離せ! よし離れた。
 なんで俺、普通にドアから出て寮の中走ってんだろ。ベランダから来たんだから、ベランダから帰ればよかったのに!!


「自分から手を取ったくせになんだ!」
「そういう問題じゃねーだろ!」


 さっきまで二人を包んでいた甘酸っぱい雰囲気は、すでに霧散し、いつもの二人に戻っていた。


「あ!」


 ひょえー! 背後から誰かの声。見つかったぁぁぁぁ!?


「なぜ、ここにいるんですか?」

 って、あれ?

「桜咲刹那か」

 すでに幼女のエヴァが答える。

「あれ? 君スライムに襲われなかったっけ?」

「はい。このちゃんに化けていましたが、夕凪で一撃与えたところで逃げられました」


 相手軟体だしねー。刀あんまり意味なさそうだよねー。

 ……じゃなくて。


「さらわれなかったの?」

「あの程度の変身で私を騙そうとは100年早いです」

 えっへん。と、胸を張って自信満々に言い返されました。


 あれー。俺の記憶だと一緒に捕まっていた気もするけど、記憶違いかなー。
 まいっか。


「それで、このちゃんの部屋を見てきたんですが、すでに誰もおらず……」

 ああ。だから、寮内を探し回っていたのか。
 そもそももう寮内に敵はいないからなー(コピーエヴァ情報で確認済み)。式神って紙だから、今降ってる雨に弱いだろうし(彼の自己解釈)、外に出たら探すのも大変だろう。

「あー。場所はすでにわかっているから大丈夫。移動してたりしないよな?」

 念のため、場所の確認をしてみる。

「ああ。世界樹の根元だ。これから私達も向かう」

「なら、私も一緒に行ってもよろしいですか?」

「いいんじゃないかな?」

「ただし、手は出すな。あの程度奴等、あいつらだけで対処出来なくてはしかたがない」

「はい」


 外は、雨がザーザー降っていた。
 玄関で俺達は立ち止まる。


「……行くテンションが下がるねー」
「だなー」

「こ、この場合は、私が、つっこみ。というのをやらねばならないんでしょうか……?」

 半眼になって雨を見ている俺達に、半デコちゃんがおろおろしながら言いました。
 うむ。その行動もナイスです半デコちゃん!


 半デコちゃんを二人でからかうジョークはそこまでにして。でも雨に濡れたくないのは本音なので、『どこでもドア』で行く事にしました。

 半デコちゃんがドアを不思議そうに見てました。
 エヴァが半デコちゃんを最初にくぐらせたあと、あとは面倒だからコピーに任せて私は帰って寝るとか言い出してホントに帰りました(影のゲートで)
 あのやろー……ごろごろ布団に転がってオヤツ片手にこの顛末見るつもりだな。一瞬でもいなくなるとか考えた俺がバカだったぜ。



 ちなみにごろごろはごろごろだが、握られた手の温もりとか、抱きついてしまった事とか言ってしまった事とか言われた事とかを思い出したりとか、気づいてしまった自分の気持ちとかでの赤面ごろごろである。



 仕方ないので、半デコちゃんを追って、俺もドアをくぐりました。

 くぐった先は、世界樹の枝の上。
 すでにコピー幼女と茶々丸さん。さらに忍者娘がいました。

 先に行った半デコちゃんはすでにいたコピー幼女にびっくりしてます。
 俺は忍者娘がいた事にびっくりしました。


 ネギと小太郎は、スライム3匹にあっさり勝利。


 その後小瓶でスライムを封印。なにか言いあってたけど、ツインテちゃんになにか言われて、捕まっている彼女と、その他の仲間達を救出に向かった。
 それと、雨は戦いが終わったあと普通にやんだ。


「どうやら問題はないみたいだねー」
「そうみたいですね」
「ニンニン」

「ふん。雑魚しかいないのだ。楽勝でなくてどうする」
「ボスらしきものがいたはずですが、どうしたのでしょう?」

 不満そうなコピー幼女の言葉に疑問を投げる茶々丸さん。
 そのボスに関しては言わないでください。

「あれはまあ、帰ったので二度と来ません。詳しくは聞かないでください」

 厨ニ的なアレが思い出されて、心の痛む俺が言う。

「わかりました」
「つまり、あなたが倒してしまったんですね? だから、女子寮にいたと!」

 そういう事かー! 納得です! といった感じで半デコちゃんが言う。そしてたまたまエヴァンジェリンと合流。という事にしておいた。
 君のその笑顔には癒されるが、はっきり断言しないでください。

 アレを思い出すと『あれ』もセットで思い出すんですから!


「刹那君。そういう事は口に出しちゃいけないよ」
 興奮する半デコちゃんにむけ、しーっと人差し指を口の前につけてジェスチャーする。

「あ、すみません!」

「ニンニン。さすがでござるな」

「残念ですが、俺は今日ここにはいませんでした。皆さん忘れるように。わかりましたか?」
「「はーい」」


 バレると困るんです。特に女子寮にいたなんて事は。


「さて、どうする?」

 終わったようなので、コピー幼女が聞いてくる。

「拙者は帰るでござる」

「私はこのちゃんのところへ行きます」

「お前は?」


 あ、俺?


「俺はそうだな。雨もやんだし。ネギにちょっと話があるから、俺も行ってくるよ」

 このかお嬢様が成長したら、石化解ける可能性があるよ。とかは誰かがここで教えてた……ような気がするから、そのフォローに。
 あとコタローに俺の事は秘密って言っておかないと。女子寮にいた事話されたらたまらないしな。

 なんで行くんだ? と聞かれたので、このかお嬢様の力で石化解除が可能かもしれないと伝えに行くためと答えておいた。


「……なら、私もついていこうか」
「では私も」

 コピー幼女と茶々丸さんも来るってさ。
 ……お前が行くのなら俺行かなくてもよかったなー。なんて思ったりしたけど、すでに行くって言った後なので、後の祭りである。



 そんなわけで出発。と思ったけど、大浴場で誘拐された子がいるみたいなので、俺は遅れて来いと怒られました……
 その上目隠しされました……



 そして行った瞬間。


「にーちゃーん!」
「はぐあぁ!」

 犬っ子突撃を腹にくらい、俺の意識は転がる体と同じように、そのまま吹っ飛んでったのでした。


 なんで意識飛ぶのんー?
 お疲れですからー。

 目隠しで構えなし&ヘルマン戦での疲労&その後のデンジャラスポジションでの精神疲弊のせいさー。


 俺が寝ている間に、事後処理は綺麗に終わってました。
 どうやら女子寮にいた事はきちんと秘密で通せたようです。
 そりゃ、エドもいたから、今回の件バレたら困るしな。ちゃんと犬っ子の方にも言ふくめておいてくれたそうな。

 犬っ子コタローは原作通りちづるさんのところにお世話になるようです。
 そういや、結局『小太郎』としか名前聞いてないや……


 聞く限りだと、俺が伯爵倒した影響はないように思えました。よかったよかった。




───ネギ───




「このちゃん、大丈夫ですか!?」

 パジャマ姿のアスナさんに絡まっている、スライムの作った縄を解いていると、刹那さんが来ました。

 その後ろから、マスター(エヴァ)と、茶々丸さん。それと、目隠しをされた、あの人が。

 なんで目隠し? と思ったけど、そういえば、このかさんとアスナさん以外は大浴場で捕まったみたいだから、裸なんだっけ。
 刹那さんが、持ってきたタオルをわたしてます。


「にーちゃーん!」
「はぐあぁ!」

「コタロー君!?」

 あの人を見つけた瞬間、コタロー君が、頭からあの人に飛びこんでました。
 目隠しをされていたあの人はそのままお腹で受け止め、転がっていきます。

「……なにをしているんだお前達は……」

 マスターが頭を抑えてます。


「大丈夫ですか?」

「きゅぅ」

 茶々丸さんが、あの人を抱えますが、どうやら気絶してしまったようです。


「元の優しいにーちゃんにもど……にーちゃん!? にーちゃーん!? にーちゃんが死んでもーた!」

「死ぬか! そいつはそのスライムのボスを倒したり他色々あって疲れているんだ。今日はもうそのまま寝かせてやれ」

「あ、そかー。よかったー」

 マスターがコタロー君をしかりつけ、コタロー君が納得してます。


「てかにーちゃんあのおっさん倒したんか。やっぱただモンやなかったんやなー」


 スライム達が言っていました。僕と、アスナさんを調査にしに来たって。
 ボスが戻って来ないと言ってましたが、あの人が相手していたのですね。
 それで、理解しました。僕は、またあの人に、助けられていたんだ。と。

 僕は、明日菜さん達に迷惑をかけて、あの人にはまた守ってもらって……



 この時ネギは、ヘルマンと戦ってはいない。なので、過去のトラウマを引き起こされたりはせず、なぜ力を求めたのか。なぜ戦うのか。という質問もされていない。
 ゆえに今は、純粋に生徒を巻きこんでしまった事による、力のなさに嘆いていた。



「ネギー?」


 ……僕は……え?


 スビシッ!!
 突然、脳天にアスナさんのチョップが振り下ろされました。


「はぎゅ!」


「あんた今、自分のせいで巻きこんだとか思ったでしょ? でも今回あんたはどこも悪くないわよ。この場合悪いのはどう考えたって、襲ってきた奴等なんだから」

「……でも、皆さん、僕に関わっていたから!」


 もう一回、チョップを食らいました。
 ふぐぐぐぐぐ……


「私達は、あんたの過去を見て、手伝うって言った時点で、危険なのはわかってたわよ。それで情けなく捕まって、足手まといになった私達が悪いの」


 でも……


「だから、私は言わせてもらうわ」


 アスナさんは、そう言って、かがんで、僕と同じ視線になって。


「助けてくれて、ありがと。あんた、やっぱりすごいわ」


 そう言って、僕の頭を、撫でてくれた。

「……」

「なによほうけて」


 ……いいんですか?
 ありがとうなんて、言われて、いいんですか?


「いいんですよネギ先生」

 今度は、刹那さんが、僕にそう言ってくれました。


「先生は、正しい事をしただけなんですから」


「そうや、ネギ先生」

 いつの間にか、このかさん達も僕の近くに来ていました。

「助けてくれてありがとう。ネギ先生」

「ありがとうございます。ネギ先生」

 そう。みんなが言ってくれました。


「……僕、僕……」

「ええい、泣くんじゃないわよ。大体、巻きこんだなんて思う方が失礼なのよ。海の時言ったでしょ。ちゃんとパートナーとして見ろって。そう思うこと自体、私の事パートナーだと思ってない証拠じゃない!」

「そ、そういう事じゃありませんよー」

「まあ、いいわ。今回の事は私達が未熟だったって事。次は、必ず力になるから、覚悟しなさいよ! 次は、みんなの力で、勝つんだから!」


 多分、根拠とかそういうのはないのだろうけど、アスナさんが断言する。
 でもそれはなぜか、とてもとても、心強かった。


「はい! お願いします!」


 だから僕も、力強く答えを返しました。


「ん。よろしい」
 アスナさんが満足そうに頷いてます。

「でも、あんまり危険な事しちゃ駄目ですよ」

「って、あんたは、なんで最後にそんな事言うのよー」

「だって僕先生ですから!」

「先生でもまだ10歳のガキでしょうがー」
「でも先生なんですよー!」
「私はあんたのパートナーだぞー」

「まあまあ」
 刹那さんが僕達をなだめる。




「本当に、なにをしているんだお前達は……」

 遠巻きに僕達を見ていたマスターがため息をついてます。

 あ、いつの間にか、階段に座ってあの人を膝枕してる……(コタローは茶々丸に羽交い絞め中&エヴァはいつの間にか本体)


「とりあえず、伝言だ」

「伝言、ですか?」

「こいつが念のため、私に伝えておいた事だ。極東最強の魔力を持つ近衛木乃香。こいつなら、修練次第では世界屈指の治癒魔術師となれる才能を秘めている」
 ちなみにこれを彼女が話すのは、彼が伝えるつもりだったからだ。

「え?」

「その力をもってすれば、今も治療のあてもないまま眠っている村人達も治すことが可能かもしれない。だそうだ。もっとも、何年かかるかは知らんがな」

「ウチの力で……?」

 このかさんも驚いてます。他の皆さんは、まるで自分の事のように喜んでくれていました。
 皆さん……


「……確かに伝えたぞ」


「マスター!!」

「な、なんだ……?」

 いきなり大声を出した僕に、マスターがびっくりしてます。


「僕、『魔法剣士』になろうと思います」

「……そうか」

「ホンマか! やっぱ男なら接近戦やでー!!」

 コタロー君が茶々丸さんの手を逃れ、僕の方へやってきました。


「でも……」

「?」

「でも、『魔法使い』の修行もしたいです!」

「……なに?」
「なんやてー!?」

「それではスタイルわけの意味がないだろう」
 マスターがあきれたように言います。

「でも、成長したら分類する意味がなくなるんでしたら、最初から、区別なくていいと思うんです。むしろいっそ、両方のいいところを取り入れたいと思うんです!」


「……それは、一人ですべてを守るためか?」


 マスターが真面目な顔で聞き返してきました。


「違います。『魔法剣士』も、『魔法使い』も両方出来れば、どんな人と組んだとしても、その人と僕の力を、最大限に発揮出来るようにするためです」


 僕は、自分の拳を見て、ぎゅっと握った。
 僕はコタロー君と一緒に戦って、アスナさんに叱られて、わかったんだ。
 生徒だからという理由で、僕はアスナさん達の気持ちを無視していたんだって。
 それなのに、僕は、いつもみんなを守ろうとして、逆に守られていたって。
 でも、だからって、一人でなんでもやろうとしても駄目だって。

 なにより、一人で戦うより、二人で戦った方が、心強いって、わかったんだ。


「一人で戦った時より、二人で。二人より、仲間と共に戦った時の方が、より強くなるためにです」


 前衛しか居なければ、後衛を。
 後衛しか居なければ、前衛を。
 バランスが取れていれば、それをさらに引き出すために。


 だがそれは、一人で戦える力を持つより、はるかに困難な道……


「アスナさんが、僕をパートナーだと言ってくれた。皆さんが、僕に力を貸してくれると言った。だから僕は、皆さんと一緒に戦える強さを得たいんです!」


 マスターも言っていた。いつか僕が、ためこんだ悩みで、潰れてしまうと。
 仲間はそれを、支えてくれると。
 そして、それは、事実でした。
 でも、それは、僕も、誰かの支えになる事が出来るという事でもあります。


 だから……


「……お前は、欲張りなヤツだな」

「マスターの弟子ですから」

「……ふん」

 あ、少し赤くなって明後日の方向ちゃった。

「それに、そのくらい出来ないと追いつけないとも思いますし」

「……本当に、欲張りなヤツだ。早い話。『魔法剣士』であり、『魔法使い』でありたいのだな?」

「はい!」

「いいだろう。それで鍛えてやる。ただし、修行の厳しさは今までの倍だと思え?」

「がんばります!!」


「そかー。なら、勝負やー!」

「ええー!? コタロー君それ、話繋がってないよー!」

「男が細かい事気にすんなー!」

「だから僕は女だってばー!」


「まったく……」

 自分の言葉に、迷いなく答えたネギの言葉を聴き、エヴァンジェリンは、眠っている彼の髪を撫でつけながら、どこか嬉しそうにため息をつくのだった。



 小さな小さな積み重ねにより、ネギもとうとう、彼の知る『ネギ』とは、違う道を歩み始める事となった。

 彼は、まだ知らない。
 ネギが、『魔法剣士』を目指しても、『魔法使い』の修行もしている事を。

 彼は、まだ知らない。


 まあ、知ったとしても、彼はしばらく呆然としたあと、わりとあっさり「起きてしまった事は仕方がない」と受け入れてしまうのだろうが。




───???───




 ……さすがに、異世界まで入られてしまうと、監視は出来ないか。

 まあいい。彼の力の基点は理解した。

 アレをおさえれば、対抗が出来る。
 これで、私の計画は、成る。


 あとは、タイミング。
 それを決行する、タイミング。

 その時を、待てばいい。


 遠く遠く。エヴァンジェリンですら気づかないほどの遠さから、彼等を監視していたその人影は、そう、一人ごちた。




───おまけ───




 ちなみに、学園長は今回の報告を聞き、ここにも彼が関わっているとわかったが、部屋は証拠もなく修復され、異世界で暴れられたという、証拠もなにもない状態ないので、京都の時と同じく色々裏を考え、その狡猾さにぐぬぬと一人うなっていた。
 仔細は京都の二の舞なので省略する。

 結局明確な証拠がないため、ここでも学園長は彼に対し手は出せないのであった。




 彼への危険視のみが募りながら、世界樹大発光の起きる学園祭が近づいてきていた。








─あとがき─

 主人公。新しい属性。『暴走』『破壊の衝動』を手に入れるの巻。

「くっ、俺の左手が!」

 とか痛い事いいながら、マジで世界を救っているリアル邪気眼が出来上がりました。
 本気で地球を破壊出来るから恐ろしい。
 まさかそんな痛い事を言っている子が本当に地球を守っているとは誰も思うまい。

 まあ、彼ならばそれに負けることなくやってゆけるでしょう。
 最も最大のダメージは副次効果で受ける「まあ、厨二病? 厨二病よ」と後ろ指差される事ですが。

 力の代償で社会的なモノに苦しめられる子ってとても珍しいと思ったヨ!


 そしてこっそり、彼の中でも少しの心情変化が。




─補足─


 ヘルマンバトルにおける、『破壊の衝動』に支配された彼が使用した道具の説明補足。


『入りこみミラー』
 鏡の中の世界に入りこむことのできる道具。この鏡の端についているボタンを押し、鏡面に飛こむことで鏡面世界へ行ける。
 鏡の中の世界は左右が逆なだけで、こちらの世界とまったく同じ。人間が誰もいない上、その世界の物に何をしても何を壊しても、鏡の外の世界に存在する物体には一切影響がない。
 これはいわゆる並行世界を作り出す道具でもある。

『相手ストッパー』
 これを使い、声で命令すると特定の相手の手足の動きを止めることが出来る。
 場合によっては相手の時間も止められるが、今回は動きを止めただけ。
 時間まで止めてしまったら、なにも感じなくなってしまうからだろう。

『ビョードー爆弾』
 小型の打上花火台。「平等」の基準にしたい人の爪の垢を煎じ、弾頭を打ち上げる。
 これが上空で爆発し灰をまき散らし、これを被った者は皆、「平等」基準の人と同程度の知能、体力になるというものである。
 相手の能力を自分と同じにして、自分の方は『道具』を用いてのスーパードーピング。なんという外道。

『なんでもカッター』
 2度目の登場。乗用車だってらくらく真っ二つ。なんでもきれいに切り落とす万能カッター。悪魔の体も楽勝DEATH!!

『逆時計』
 懐中時計を模した道具。
 作動させると針が反時計回りに回転し、それと同時に時間がビデオのように巻き戻されていく。
 自分の周囲にとどまらず広範囲に影響を及ぼし、しかも影響を受けた者は時間を戻す前の記憶が残る。
 影響を受けないものは、時が戻った事にすら気づかない。
 これにより、たった5分が無限のような時間と化す。

『ゴルゴンの首』
 前面にラーメン屋の岡持ちのような蓋の付いた箱に入った首。
 箱の蓋を開けると不気味な咆哮とともに光線が発せられ、その光を浴びた生物は筋肉がこわばって石のようになってしまう。
 固まったものを戻すには、その頭についた蛇の毛を引っ張ればいい。
 ただ、この世界基準により、このゴルゴンは本物のゴルゴンの首が設置されてしまっている。
 万一この首が外に放たれた場合、それだけでネギの村以上の大惨事が引き起こされるだろう。
 ちなみに首は亀ぐらいのスピードで動き回る事が出来る。

『厚み抜き取り針』
 縫い針程度の大きさの道具。
 これで刺した物(者)は、まるで破裂した風船のように一瞬でペタンコになってしまう。水をかけると元に戻る。

『モンスターボール』、『魔法事典』、『地球破壊爆弾』、『決め技スーツ』
 すでに1度使われた外道兵器達。前三つは彼自身は2度と使いたくないと思っている道具達。これを躊躇なく使用出来るのだから、『闇』に堕ちた彼はとても恐ろしい。

『天罰ムチ』
 本文中説明があるとおり、悪さをしたあとに鳴らすと、悪さの度合いに見合った罰がその者にくだる。本来は悪さをしたすぐ後にのみ適応だが、『デラックス』化されたため、その罪すべてが適応された。

『デラックスライト』
 この光を浴びた物はグレードが上がる。物体でも生物でも効果がある。これにより、上記の『天罰ムチ』の性能がアップした。
 今回使用された他の道具にも使用されていた可能性もある。

『地平線テープ』
 部屋の壁と壁の間に張ると挟間の壁が消え、地平線が広がっているのみの世界へ通じる異次元空間を作り出す道具。
 異次元空間は地面と空がある以外は星や太陽などは一切ない。この異次元からは、『どこでもドア』を使用しても脱出は出来ない。テープをはずすと、同じ世界からテープで繋がれない限り、永遠に脱出は不可能である。


 さらに他に防御アップの『ウルトラ薬』、『ウルトラリング』などの自分パワーアップ。他にも『バリアーポイント』、『タンマ・ウォッチ』なども多数使われていたと思われる。
 一つですでに必殺アイテムなのに、それを複数。しかも何度も繰り返すなんてまさに一人フルボッコ。
 ずっと彼のターン。


 ちなみに『バリアーポイント』は超科学の塊である道具を作った未来世界の警察も使っている道具だったりする。
 この説明だけで、ソレがどれほどの防御力を持つのかもわかると言えよう。



─おまけ2─


 本来ならば、刹那もスライムに捕まっているはずである。
 が、彼とのかかわりゆえか、スライムに騙されず、捕まらずにいた。これは明らかな原作との剥離。
 もし、あのまま彼がヘルマンを無視し、原作通りヘルマンVSネギ&小太郎となっていたとしても、彼女が合流し、結局は彼の望む流れとは違っていたかもしれない。
 いやでも、ずっと刹那は寮内を探し回り、終わったところで合流。なんてちょっとお間抜けな可能性もありえるけど。
 刹那ルートの場合、このイベントはなにか重要な意味を持つのかもしれない。

 それとネギルートの場合は明日菜がやったネギへの励ましは、彼の役目でしょうか(むしろエヴァルートだから明日菜にその役目がまわったとも考えられる)



[6617] ネギえもん ─第17話─ エヴァルート05
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2012/02/25 21:28
初出 2009/06/20 以後修正

─第17話─




 学園祭はじまります。




──────




 ヘルマン事件から、しばらくあと。学園祭がはじまる前。




───エヴァンジェリン───




「受け入れる勇気は、出来たか?」

「……ああ。私は、この世界を、受け入れる勇気が、出来た。お前と一緒ならきっと……」

「そうじゃない」

「え?」

「俺を、受け入れる勇気さ……世界なんてどうでもいい。俺だけを受け入れてくれればいいんだエヴァンジェリン。お前は、俺だけを愛してくれればいい……」


 気づくと、私は、彼に押し倒され、彼は、私に覆いかぶさっていた。
 しかもそこはベッドで、私達は一切の布を纏ってはいない……

 鍛えられた男の体。その温もり……


「エヴァンジェリン。お前が、欲しい。そのまま、俺を、受け入れてくれ……」


 覆いかぶさったまま、まっすぐ、私を見て、そう言った。


「愛してる」


 ……だ、だめ。

 そんな目で見られたら、そんな事を言われたら、拒めそうに、ない……


「やさしく……しろよ……」



 そのまま私は、あいつを受け入れ……



 ……



「……てわあぁぁぁぁ!?」


「うわぁ!?」

 飛び起きた私と、二段ベッドの下で私の声で起きたあいつがびっくりした声をあげた。


「な、なんだ!? なにがあった!?」

 二段ベッドの上。私が居るベッドに、あいつがにゅっと顔を出す。

「なんでもない!!」

 奴に枕をぶんなげる。そのまま奴は、枕と一緒に床に落下していった。



 な、ななななな、なんて夢を、なんて夢を私は見ているんだ!



 これはアレか!? 私の願望か!? 世界を受け入れて、あいつも受け入れて……

 んぼっと、脳が沸騰し、頬が赤くなったのがわかる。


「……一体なんなんだ?」

 床で、あいつがそんな事をつぶやくのが聞こえた。


 うるさい。お前が悪いんだ。ぜーんぶお前が悪い!
 お前がこんなにも、私の心をかき乱すのが、悪いのだ!



 ついに、彼女は自分の気持ちに気づいた。
 だが、年上というプライドゆえか、自分から彼にその想いを伝えるという事は、いまだ出来ていなかった。


 ちなみに、エヴァンジェリンが夢の中でどのような姿だったのかはご想像にお任せします。あ、サイズ的な意味ね。




──────




 中間テストも終わり、とうとうやってきました学園祭。


 テストの方は、まあ、それなりの成績をとりました。
 道具があるから満点連発できるだろうって? いや、なんというか、この年(実年齢の三十路直前)になってみて気づいたのだが。勉強は意外に楽しい。
 あ、この年といえば、学園祭中に俺の誕生日があったりする。そしたら中身の俺もついに三十路……いや、話がずれた。
 勉強の楽しさ。ガキの頃は気づかなかったけど、あの頃ちゃんとしなかったのはもったいなかったなー。といまさらながらに思う。
 いや、この頃は興味のあった事とかはすごく詰めこんだけどね。星座の事とか、三国志とか。
 それにどうせ、金銭的な問題はすでにないし、好きな事を好きなように学べるわけだし。だから、わざわざ道具を使わずに、テストなんかも受けているわけだ。


 ちなみにネギのクラスは学年3位だそうだ。このあたりの順位なんて覚えてないのでがんばったな。と普通に褒めておきました。


 まあ、テストは置いといて。


 学園祭までに色々とあった。ネギのクラスで幽霊騒ぎとか。ツインテ明日菜のデート予行演習があったりとか。
 色々あったけど、無事学園祭にたどり着けました。
 うん。かわってない。流れは全然かわってないぞ……たぶん。


 色々あったのはそのうち番外編とか別ルートだそうです。なんすかこのテロップ?


 それと、あの伯爵の時に起きた『破壊衝動』に悩まされた事は、今のところない。
 どうやら、今までどおり普通に生活している分には問題はないらしい。
 夢の中でオサレな白黒反転したもう一人の自分と出会ったりとか、鏡の中の自分が語りかけてくるとか、お腹の牢に繋がれた怪物のおチャクラを感じたりするかと思ってびくびくしたが、杞憂だったようだ。


 閑話休題。


 とりあえず、学園祭の予定は、ネギほど埋まっていない。
 必ず顔を出すのは、ちづるさんの部活の出し物の見物と、ネギのクラスの出し物を見に行くくらい。それと、まほら武道会くらいかな。
 武道会の方はまだ確定じゃないけど、カンフー娘との約束もあるし、犬っ子も誘ってきているので、まほら武道会が発表されたら多分避けられないだろう。
 こればっかりはしかたがない。テキトーに戦って、テキトーにギブアップしよう。
 予選落ちあたりが理想なんだけど、それで許されるかなぁ。
 あの子達俺がいくら弱いと言っても信じてくれないし。

 ああ、武道会といえばカンフー娘にネギが演舞するのも見に来るよう誘われていたっけ。なんか知らんが委員長の馬術部も見に来いとか、ソバカスちゃんも舞台やるとか、茶々丸さんの野点も俺も誘われていたし、一緒にエヴァの囲碁大会のチラシももらった。忍者少女にはさんぽ部と一緒に一周とかも言われたっけ……
 他にも色々誘われた気がする。

 それと、自分のクラスの当番もある。

 基本はエドと回る事になるだろうけど、これ、誘われたの本気で全部回ろうとすると、俺も時間がたりなくないか?
 ついでに、3-A関係の約束多くないか? おかしいなぁ。


 まー、学園祭は、今度こそ本当に、危険はないから、大丈夫なはずだ。
 武道大会は例外だが、怪我はしても殺される事はないし、ギブアップが可能だから問題ないだろう。
 超の計画は、俺にとって成功も失敗もどちらでも関係ないので、一般参加者として楽しめばいい(魔法使いの存在がバレても魔法使いでない彼にはなんの関係もない。むしろ成功した方だとネギがいなくなるので身の安全度は高くなる可能性もある)

 それだけだ。

 ああ、純粋にイベントを楽しめるなんて、なんていい事なんだー。




 当然、そんな甘い事あるわけなかったんだが……




──────




 学園祭開催前夜。寮。彼の部屋。



 明日に学園祭を控え、あとは寝るだけとなった。
 エヴァが本体姿で、ベッドでリラックスしているのも見なれてきた。
 なんせ修学旅行終了後からずっと居るわけだからな。そりゃ慣れもする。



 だから、なにかの気の迷いだったんだろう。



「なーエヴァンジェリン」

「なんだー?」
 ベッドでごろごろしながら、本を読む彼女がけだるげに答える。
 ちなみにエヴァは二段ベッドの上に居るので、俺から表情なんかは見えない。まれにページをめくる音が聞こえるくらいだ。

「初日、せっかくだから一緒にまわらないかー?」
「元々その予定だろうが」

「いや、エドとじゃなくて、エヴァンジェリンと回りたいと……」


 ……って、俺はなにを口走っているんだ!?


「……」

「……あ、あー、えーっと、だな……」

「……い、いいぞ」


 うおっ、いいのかよ。


「そ、そうか……」


 しーん。
 なぜか、二人で思わず、黙りあった。

 な、なんだ、この空気……
 エヴァンジェリン。もし俺をからかっているとしたら、大失敗だぞこれ。


「ク、クラスの準備が終わったら、合流でいいな」

「は?」

「朝からこの姿でお前のクラスに行くわけにも行かないだろうが。このアホが」

「あ、ああ……」

「それじゃ、はじまったら携帯で連絡する。遅れるなよ」

 そう言って、エヴァは自分の家に戻っていきました。


「って、別に今から家に帰らなくてもいいんじゃね?」


 部屋に取り残された俺は、そうつぶやいた。



 本当に、なんであんな事を言ったのか、自分でもよくわからない。
 でも、なぜか、言ってしまったんだ。

 自分の発言を思い出してみる。

 あれじゃまるで、俺がエヴァンジェリンと学園祭でデートでもしたいみたいじゃないか。

 ひょっとして俺……
 いやいや、ありえない。守備範囲を外れたお子様幼女な上、相手は想い人がいるんだぜ。
 ホントにありえないよ。

 大体なんであいつもOKするんだよ。嬉しかったじゃ……


 ……


 じ、自分でもワケがわからないんだからね! 勘違いしないでよ!!




───エヴァンジェリン───




 麻帆良祭開幕前日。

 いつものように部屋でだらだらしていた。

 15年も居れば、この祭りも正直飽きてくる。
 だから、大して興味もなく居たのだが……


「なーエヴァンジェリン」
「なんだー?」
 ベッドにごろごろしながら、本を読んでいたら、あいつが声をかけてきた。

「初日、せっかくだから一緒にまわらないかー?」
「元々その予定だろうが」

「いや、エドじゃなくて、エヴァンジェリンと回りたいと……」


 その瞬間、脳が爆発するかと思った。
 なっ、い、いきなり、なにを言い出しているんだ!?

 エドではなく、私? 私というと、この姿でか!?


「……」

「……あ、あー、えーっと、だな……」


 な、なんなんだこの空気は。
 あいつ自身も、自分がなにを言っているのか、戸惑っているようだった。
 この、甘酸っぱい、少年と少女が、かもし出すような雰囲気はなんなんだ。
 もし私をからかっているとしたら、盛大な自爆だぞ。

 奴はなにか変なものでも食べてしまったんじゃないか!?
 だが……


「……い、いいぞ」


 それはきっと、私も、同じだ……


 あいつが、『私』を見ている可能性なんて、想像もしていなかった。
 あいつにしてみれば、私は小娘達と同じくらいの相手でしかないと思っていた。
 共に歩む存在ではなく、後についてくる存在だと。

 だが、あいつが、『私』と一緒に回りたいだって……?

 これは、私は、なにかを期待してもいいのだろうか?

 この私を、唯一受け入れてくれるかもしれない、あいつを……



「そ、そうか……」


 あいつの声を聞くだけで、自分の頬が赤くなり、頭が沸騰しそうになるのを感じる。


 駄目だ。心構えが出来ていない。
 いけない。このまま、ここにいたら、いけない。

 なにがいけないのかは、もうわからなかった。

 今ならなんでも受け入れられそうな気がする。
 だが、耐え切れる自信がない。
 いや、言っている意味がわからない。なに耐え切れない?

 ……ああ、そうか、このままだと、私が、あいつを襲ってしまうかもしれないんだ。
 力で、自分のモノにしようとしてしまうんだ。
 それは、駄目だ。今日は、駄目だ。私から襲うなんて、駄目に決まっている。

 そういうのは、もっとムードのある。例えばあの夢のよう……いやいやいや。なに初心な乙女のような事を。

 ああもう駄目だ。頭が混乱して、なにを言い出すかわからない。
 このままここにいたら、自分がアイツを愛している事を暴露してしまうかもしれない。


 そんな事をしたら、明日顔もあわせられなくなる!



 私は、思わず自分の家に逃げ帰ってしまった。



 な、なんだ、これは、まるでただの少女みたいじゃないか。
 600年生きた私が、私の10分の1も生きていない奴に、どうしてこんな!


 でも、私と、一緒に歩きたい、かぁ……


「えへへ……」
 嬉しさで、頬が緩むのがわかった。


「ケケケ」
「嬉しそうですね。オリジナル」


 家に戻ると、チャチャゼロとコピーが面白そうに私を見ていた(茶々丸は学園祭のためメンテ中)
 バカにするな。と思うが、そういうコピーも嬉しそうだ。……これは私とリンクしているせいか? 私はそれほど嬉しいのか?
 ちなみに、コピーは明日エドの代わりとして行かせるのは確定だ(幻術は私がかける)

「お任せください!」

 そんなに張り切らなくていい。


「でも、そのためにはオリジナルも体を綺麗にしなくちゃなりませんよね」
「ケケケケケケ」

「ばっ!」


 確かに、エドの場合は、幻術で済むが、この体の場合はそうもいかない。
 ひょっとしたら、あの夢のような事が……


「綺麗に綺麗にして、最後に彼としっぽり……」
「お前は私のコピーなのになぜそんな事を平気でいうのだ!」
「なにを言っているんですか。私はあなたのコピー。その心の底を……」

 ごつん。

「あいたたた……」

 コピーの頭をぶん殴っておいた。
 か、勝手な事を!

「どうして私がこれほど浮かれているか理由わかっているはずなのに……」

「うるさい!」

「もういっそ素直になってしまえばいいと思いますよ?」
「ケケケケケ」

「ふん」

 お前はコピーだから気楽でいいものだ。
 こっちは当人なのだ。お前だってそうしようとあいつを目の前にしたら出来ないくせに。なにせお前は私だからな。


「服はどれにします?」
「ケケ。コッチナンテドーダ?」


 コピーとチャチャゼロが服を選びはじめた。
 まったく。


 あれほど退屈だと思っていた学園祭が、一転して楽しみなものに変わった。


 なぜだろう。
 あいつと一緒に回るのは変わらないはずだ。
 それなのに、『エヴァンジェリン』としてあいつに誘われただけで、これほど嬉しいとは。


 私は、まるで、少女のように、浮かれてしまった。


 一転して、世界の色が変わったように見えた。
 これが、世界を受け入れるという事なのだろうか?


 それは、エヴァンジェリンの中で、今まで止まってきた時が、動き出したかのようだった。



「……そうだ。チャチャゼロ一緒に来るか?」

 チャチャゼロも連れて行ってやる事にする。
 私の家族だからな。あいつも、家族と言っていたし。
 チャチャゼロが居れば、色々間が持つだろうとも考えたわけじゃないぞ。

「バカ言ウンジャネー。馬ニ蹴ラレテ死ニタクネーヨ。遠慮サセテモラウゼ」

 きっぱりと断られた。
 言動はアレな分際で、意外に空気を読めるのが小憎らしい。
 いや、生み出したのは私なのだが。


 結局、二人きりか……
 楽しみだ。が、し、心臓が、もつだろうか……


「ケケケケケケ」
「はははははは」

 人形二人が笑っている。
 あとで覚えておけお前達!




 か、感謝などしないんだからな!




───超鈴音───




 学園祭開催前日夜。
 夜が明ければ、祭りのはじまるその時。少女は、地下の格納庫に眠る『ソレ』を見ていた。


 学園の地下に封印されていた6体の無名鬼神。

 それらと一緒に、さらに、もう一体ある、7体目の『ソレ』を。
 そこに、あるはずのない巨体を。



 彼がそれを見たならば、その巨体を見て、こうつぶやいただろう。

『ザンダクロス』

 と。



 少女の見上げる先。そこには、組み上げられた、外宇宙の機神が、存在していた。



 その瞳は、確かな決意に満ちている。
 彼女は『ソレ』を見上げ、計画を必ず成功させる事を、誓うのであった。




 学園祭が、はじまろうとしている……




──────




 次の日。麻帆良祭開催初日になった。


 なんでか知らんが、よく眠れなかった。
 最近俺、どこかおかしい。

 最近はエドといるより、部屋で幼女に戻ったエヴァンジェリンと居た方が安らぐとか感じたりして、なんかおかしい。


 待ち合わせ場所に行ってみると、学園祭限定タイムマシンをよこせとネギをいじめているエヴァを見つけた。

 てっきり遅刻してくるかと思ったんだが、俺より早く来ているとは。
 ちなみに俺は遅刻されるとわかっていても、10分前には約束場所に来てしまう人間である。




───エヴァンジェリン───




 麻帆良祭初日開催となった。

 くそ、寝不足だ。
 吸血鬼だから、クマなどは出来ていないと思うが、やはり、少しでも美しくありたいと思うのは女としての本能だろう。

 あいつは、この服を見て、私を見て、なんというのだろうか……?(ちなみに服装はチャチャゼロ抜きの原作学園祭初日の服装と同じとお思いください)
 髪型なんて、家を出るまでずっと悩んだくらいだ。

 昨日から、不安でしかなかった。


 エド以外の姿で、アイツと学園内を歩くなんて、京都以来だ。
 くそ。エドでいつも一緒に歩いているじゃないか。なのに、なぜこんなに……


 予定より20分以上早くついてしまった。

 あいつを待っていると、小娘が懐中時計のようなものを片手にくるくる回っているのが目に入った。

 悩みもなく浮ついていたのが癪に障ったので、ちょっとそれを見せてみろと脅してみた。

 おろおろして逃げ出そうとする。それは私の加虐心に火をつける。


 だが、追おうとしたところで、あいつがやってきて、小娘を逃がした。


「なにやってるんだよ」

「お前が遅いのが悪いのだろうが」

「時間より早くついたつもりなんだがな」

「女を待たせた時点で遅いのだ」

「そりゃすまなかった」

「ふん」


 まあ、ネギと一緒に行こうと誘わなかっただけ褒めてやろう。


「とりあえず、最初に言っておこう」

「なんだ?」

「その格好似合っているな」

「ばっ!?」


 さ、最初って、いきなりそんな事……
 ……う、嬉しい。


「に、似合っているのは当然だ。世辞が小娘と同じレベルだぞ!」

「まー、俺もそういうお世辞に関しちゃ自分のレベルが高いとか思ってないからなー」

 これ以上は期待するな。と言われたが、む、むしろ期待以上だ。

「……ま、まあ、そういうお前も、私の隣に並んでもおかしくないレベルにはなっている。一応合格だ」


「ありがとさん。それじゃ、行くとしようか」

「あ、ああ」


 私達は、二人で並んで歩き出した。




──────




 ……なんでだかよくわからんが、いきなり褒めてしまった。

 そ、そう。俺この祭りははじめてだから、あいつを持ち上げて案内に使うためなんだよ。そうに違いない。
 実際あいつが俺を一応合格。なんて言うくらい持ち上げられたのだから大成功だ。うむうむ。
 あいつが合格なんて言うと思わなくてちょっと動揺しかけたとかは絶対に秘密だからな!!


 そんなわけだからお勧めとかを聞いたが、ここしばらくはまともに回っていないので良く知らないと言われた。

 なので、適当に目についたのを回るという事に決定。

 エヴァと歩きはじめた。


 そういえば、チャチャゼロが一緒じゃないのはどうしたんだろう。あいつがいればもうちょっと気が楽なんだが。なんというかこう、間の問題で……なんて思ったその時。


 ふわ……


 いきなり子供が風船を手放して、空へと飛ばしてしまう光景が見えた。
 子供の顔が、悲しみの色に染まっていくのがわかる。

「ほいっと」

 なので、軽くジャンプして、空に飛ぶ前に風船の紐をキャッチ。そして、子供に返してあげた。

「ありがと、おにーちゃん!」
 嬉しそうな笑顔が返ってきた。
「どういたしまして」
 
 そして、手を振って、子供は親と思われる人の方へと走っていった(ちょうど風船をもらって親の元へ戻る途中だったのだろう)


「悪いなエヴァン……」
 きっと勝手な事をして怒っているだろうあいつの方を向こうとしたら……

「……じー」

 いきなりすそをつかまれた。
 振り返り見てみると、涙目になっている、風船の子とは別の幼子が俺を見ていた。
 5歳くらいの女の子。

「ぱぱじゃない……」

 ……はい、迷子ですねそうですね。俺は君のパパじゃありません。


 今にも泣き出しそうだったので、探す事にする。
 学園祭もはじまったばかりなので、そう遠くにも行っていないだろう。


「……はじまったとたんいきなりなにをしているんだ……」

 怒涛の幼児2連発を見て、エヴァも呆れている。

「しょうがねえだろ。見かけちまったんだから」
「まったく……」

 そう言いつつも、幼子を放り出さないのはエヴァのいいところだよな。

 迷子を俺とエヴァの間に挟んで、探す事とする。
 俺はポケットから、一つの杖を取り出した。


『探し物ステッキ』
 人や物を探しているとき、このステッキを地面に突き立てて手を放すと、目当ての人や物の方向に倒れる。ただし的中率は70%。


「……随分中途半端な数字だな」

「確かに。でもまあ、1回勝負じゃなくて何度でも使えるから問題ないさ」

 こてこてと、何度か倒して、もっとも多く倒れた方へ進めばいいわけだからな。
 女の子に倒させ、気を紛らわせてもいい。
 女の子を俺とエヴァではさんで、歩きはじめた。



 この際、この『探し物ステッキ』でナギも探せるかもしれない。という事に、エヴァンジェリンは思い至らなかった。
 早く迷子と別れ、彼と祭りを歩きたいというのもあったのだろう。それにそれだけ、今の彼女にナギは重要ではなくなった。という事なのかもしれない。



「ねーおねーちゃん」

「なんだ?」

「おねーちゃんも迷子?」
「そんなわけあるか!」

「ふぇっ」

「あ、いや、大丈夫だ。怖くない。怖くないぞー」


 女の子をびっくりさせ、おろおろしだすエヴァ。


「あははははは」

「わ、笑うな貴様ー!」
「だって、お前が、あはは」
「ぐぐぐぐぐぐ」

「あはははは」

 はさまれた女の子も、俺とエヴァのやりとりを見て、いつの間にか笑い出した。
 そうして笑う子供とその子を泣かせないためにおろおろしながらも笑顔を見せるエヴァ。
 本当に、子供には優しいんだな。


 探して回ると、10分かからずあっさりと発見。


「よかった。ありがとうございます」
「いえいえどういたしまして」
「ありがとうおにーちゃん、おねーちゃん」

「……ふん」

 ぶんぶんと手を振って、幼子とその親は去っていきました。


「ったく」
「ま、無事会えてなによりだったな」

「あんなの学園の者に任せればよかっただろうが」

「学園の人のトコへ移動して説明する方が時間かかるだろ。手間的に」

「……確かにそうかもしれんな」

「お、動物園? 学園祭で動物園? すげーな。せっかくだ見に……」


「動物達が逃げ出したぞー!」


「……」
「……」

 どどどどどどっと、動物園の動物達が。俺達の方へと突撃してきた。


「喧嘩だー!」


「……」
「……」


「工学部の恐竜ロボットが暴走したぞー!」


「……」
「なあ、エヴァンジェリンさんや?」

「なんだ?」

「ここの学園祭って、女の子と二人で歩いていると動物が脱走したり、喧嘩に巻きこまれたり、ロボットが暴走する呪いとかかかってんのか?」

「なにを言っているんだお前は」


 いや、ツインテパージ明日菜が高畑先生とデートしていた時も、同じような事が起きていたなー。と思って。


「単純に今日が厄日なだけだろう……それとも、世界樹あたりが嫉妬しているのかもな」
「はた迷惑な……」



 騒動自体はずばっと『道具』とエヴァと協力して解決!(喧嘩の場合はエヴァを止める方向で活躍だが)



 信じられるかい?
 これだけの騒動、エヴァと歩き出して1時間の間に起こった事なんだぜ。




───エヴァンジェリン───




 あいつと歩き出して1時間。
 それまでに巻きこまれた騒動、数えただけでも7回。

 一つが終われば次が。次が終わってもまた次が。と、次々と来る騒動を、私達は二人で片付けていった。

 少しくらい大人しく祭りを出来ないのかこの学園は。

 いや、まあ、逃げ出した動物達をあいつと捕まえたり、喧嘩に巻きこまれた際小脇に抱えられ逃げ出したり、暴走した恐竜ロボを止めたりしたのは、それなりに楽しかったが。


 だが、今そういう事は望んでいない。


 騒動に巻きこまれれば、せっかくの服が滅茶苦茶になるし、髪だって乱れる。
 今望んでいるのは、普通にこいつと祭りを歩く事だ。

 余計なイベントはいらないのだ!


 ただ、一つだけ良い事はあった。
 迷子の子供をあやすときの彼の顔。
 本当の子供にしか向けない、私達には見せない、子を安心させる柔らかな笑顔。
 それが見られただけでも、価値はあったと思うべきだろう。



「はー。ひと段落ついたな~」
「まったくだ」


 やっと落ち着いて、やっと二人で静かに歩ける事になった。
 

 ……


 こうして落ち着いて、二人で歩いていると、あいつの手が、目に入る。

 人ごみで、人も多い。下手すると、はぐれてしまうだろう。
 はぐれてしまっては、いくら携帯電話やあいつの『杖』があったとしても、見つけるのは面倒だ。

 つ、つまりだ……


 私は、ゆっくりと、あいつの手に、自分の手を伸ばした……


 私の手が、あいつの手に……


 私の手が……



「にーちゃーん!」
「はんぐら!」


 ……届こうとしたところで、あいつの背後から、黒い塊が突撃してきた。

 背中から奇襲を受け、そのままごろごろと転がっていく。


「にーちゃんみつけたー! 探したんやー。やっと見つけたー!」


 ……あの犬娘め。
 狼の着ぐるみを着ているから、一瞬なにかと思ったじゃないか(彼の手に集中していたため、接近に気づかなかったようです)
 転がった奴の上で、頬ずりなんてするんじゃない!


「貴様なにをしている!」
「なにをしているんですかコタローさん!」
「コタロー君駄目だよー」

「やー」
 私が、犬娘の襟首をつかみ、引き剥がすのと同時に、さらに背後から、ネギと委員長。雪広あやかがやってきた。
 クラスの出し物の格好をしているから、その関係で客引きでもして偶然あいつを見つけたんだろう。
 なにをしているんだ貴様等は。大体貴様等は学園の警備でこんなところをうろついている暇などないはずじゃないのか!?


「おーいて」

「大丈夫か?」
「なんとかね」

「なにをしているんですかコタローさん!」
「だってー」
「駄目だよコタロー君ー」

 私があいつの手をとって、起している間に、犬娘を雪広あやかが叱っていた。


「あー、ネギに、委員長さんか」
「にーちゃーん! 一緒にまわらんー?」
「いや俺もう君に引っ張られてるんだけど。これで一緒に行かないってのはどうすればいいの?」

 ずるずるずる。

「コタロー君待ってよー」

「まったくもう。エヴァンジェリンさん置いていかれますわよ。ところで、なぜ彼と?」

「偶然一緒になっただけだ」

「そうですか。なら、せっかくですし、一緒に回りましょう」

 と、雪広あやかが微笑み、私の手を取った。

 しまった。
 ある意味気を利かせたのだろうが、これでは逆に断る事が出来ないじゃないか。

 こうなってしまっては仕方がない。
 あいつもネギと被ってゆくところがいくつかあったはずだ(エドで一緒に居るから誘われたのは見ている)
 ので、それをネギと共に回って消化してしまうのは良い事だろう。
 あとは適当なところで別れてしまえばいい。


 仕方がないので、私も後を追った。


 だが、後で覚えておけあの犬娘。




──────




 強引に犬っ子に引っ張られ、ネギ&お嬢ご一行と回る事となった。


 このネギは多分1時間前に会ったネギじゃないんだろうなー。タイムトラベル何回目のネギかはわからないけど。
 まあ、お嬢と一緒なのは何回目かは覚えていないし、あっちもその辺のタイムトラベルはエヴァも居るから話さないだろうから華麗にスルーしておいた。
 どうでもいいけど、コタローのキビダンゴの効果はもうとっくにきれていると思うんだけど、態度が全然変わらないのはなぜだろう……?

 この後ネギ達と一緒にネギの演武会を見に行き、委員長ことお嬢の乗馬部。ツインテ明日菜の美術部。ちづるさんの天文部。他もろもろを共に回って行く。
 丁度誘われたところも多かったので、丁度良かった。
 途中、天文部に寄った際、ちづるさんが合流した。

 元々ちづるさんとは一緒に回る約束はしていたので、誰も反対とかはしなかった(初日は予定外だけど)
 ちなみにちづるさんと約束した時ネギもいて、自分もとか言い出したけど、予定がつまっていたので無茶だと気づき、諦めさせた記憶がある。

 そういえば、その付近でされたネギの質問には度肝を抜かれたな。



 回想シーン。


「あの、那波さんとお付き合いしていると聞いたんですけど、本当ですか?」

「ぶー!」

 確かに一緒にいる事は多くなったが、その質問を直接されたのはネギがはじめてだった。
 そもそも付き合ってない。
 誰だ嘘を教えたのは。お嬢か?

 どの道、高校を卒業するまでは誰かとつきあったりはしないと答えておいた。
 正確には、手を出さないわけであって、つきあってもいいわけだが、そのあたりもうやむやにする論点のすり替えがうまく成功しているといってもいい。
 ちなみにこの彼と千鶴の関係をネギが知る事となった際の心情変化などはこのルートでは割愛する。


 回想シーン終了。



 余談だが、天文部で千鶴とあやかが合流した際。

「まああやか。彼と一緒に学園祭を歩いているなんて、うらやましいわ」
 にっこり。
「ぐ、偶然たまたま一緒になっただけです! ふ、深い意味はありませんわよ!!」

 とかいう会話があったりした。



 一通り回るとネギと犬っ子が疲れの限界で眠ってしまったので、お嬢にお任せして、俺とエヴァ。それと合流したちづるさんと一緒に、他を回る事となった。


 ネギと一緒のせいか、お嬢に俺とエヴァがなんで一緒に歩いているのかを聞かれなくてよかったぜ。


 この後、クラスの当番があるので、エヴァとちづるさんを連れて一度クラスに戻った。


 そしたら、クラスがものすごい騒ぎになった。
 おいコラ。


 担任の先生に襟首をつかまれて「信じていたのに!」って言われた。
 ナニガディスカ!?

 そしてエド(コピー)に対して「あなたはいいの!?」と聞いて「いいんです」となんだか儚げに答えたら、なぜかエド人気がうなぎのぼりになってた。


 そしてなぜかクラスメイトに「うまくやりやがって!」的にもみくちゃにされました。
 男の子ピラミッドの完成。

「いいかげんにしろー!」

 そいつらを跳ね除けて、当番に戻らせる。


「仲がよいんですね」
 とちづるさんに言われた。

 そー見えますか?
 そう見えたのならなによりですが、色々複雑デス。


 そういえば、ウチのクラスなにをしているのか言っていなかったね。
 それはズバリ、執事喫茶。

 ひねりとか一切ナシ。ある意味女の子目当ての出し物だ。
 余談だが、執事喫茶を見て、担任の先生は心の中でモエモエしていたりする。が、ホントのホントに余談である。


 二人を席に案内し、俺は着替える。
 待っている間にはエド(コピー)がお相手したりしていたようだ。
 

「そんなわけで、お待たせいたしましたお嬢様方」


 着替えも終わり、二人の方に顔を出し、俺のクラス当番をはじめる。

 ちなみにこの執事の衣装一式や、クラス内の執事的飾りなんかは俺が用意した。
 というかまあ、実はお嬢に頼んでこのあたりの小道具は借りただけなんだけど。こういう時持つべきものはコネだよね。

 本格的執事道具と、さらに美形少年のエドが居るせいか、客は大入りだった。
 あくまで、俺が当番でいた時の話だが。

 それと、なんか知らんが、3-Aの子がけっこうきた。
 この事ほとんど人に言った覚えはないが、まぁ、ネギとかに伝えてあるから、カモ→パパラッチと流れていたりしたら、無意味だよなぁ。と納得した。


 エヴァとちづるさんあんまり相手に出来なかったけど、二人で話していたみたいで問題はなかったようだ。

 ちなみにエドは今日ずっと当番やってるみたい。
 まぁ、今日のエドはコピーだから、わざわざ外に出る必要性ないといえばないからなぁ。


 あと、マスコットキャラとしてチャチャゼロが執事の格好でいて驚いたのは余談だ。




───エヴァンジェリン───




 クラスでの当番があるので、一度クラスへ戻ってくる事となった。
 結局、那波千鶴とも合流する事となりネギ達も眠るまでずっと一緒に歩く事になるとは。

 那波千鶴に関しては、仕方がない。元々エドとあいつと共に歩く約束はしていたからな(初日に合流するのは予定外だが)


 客としてあいつの執事姿を見たときは、普段とまた違った新鮮さがあった。
 エドとして隣で見ていた時も悪くなかったが、こうしてみるのもまた悪くない。
 最初は当番など無視していればいいと思っていたが、考えを改めなくてはならないな。

 しかし、こうしてみると、密かにあいつ目当ての客が多い事に気づく。ここ最近は噂もなりを潜めた上、ソレを知らずに見れば、悪くはない顔立ちはしているからな。


「エヴァンジェリンさん」

「なんだ?」


 執事喫茶ではあいつを待つ関係上、那波千鶴と相席する事となっている。それゆえか、声をかけられた。


 そういえば、この姿であいつと学園内を歩いているのは初めてだ。なにか質問されるかもしれない。
 ネギ達ならば、裏の事情つながりで私とあいつにつながりがあるのは知っているが、一般人である那波千鶴は知るはずもない。
 疑問に思うのは当然だろう。

 だが、那波千鶴の口から出た言葉は、私の想像を超えていた。


「今日は、エドさんの姿じゃないんですね」

「っ!?」

「ふふ。やっぱり」

「……」


 冗談を言っている様子ではない。確信して、言っている。

 初見で、あいつには気づかれた。だが、それ以外の者は、未だに気づいていない。
 それゆえ、油断していたのだろう。不意をつかれ、それが一瞬態度に出てしまった。

 見破られたのは、これで、二人目。しかも、魔法使い以外に気づかれるとは思わなかった。


「どうしてわかった?」

「今日だから気づけました。だって、匂いも、彼を見るまなざしも、エドさんと同じじゃないですか。同じ人を想う私の目はごまかせません」

 恋する乙女の直感。という奴か……

「……」

「なんて冗談ですけど」

「……は?」

「あらあら」
 にっこりと微笑まれた。

「匂いなんてわかりませんよ。答えはもっとシンプルです。だって、エヴァンジェリンさん。エドさんと同じ携帯電話をそのまま使っているじゃないですか」


 しまった。
 そういえば、あいつとの連絡のタメに、今日はエヴァンジェリンである私がエドの携帯を持っていたんだった。

 エドとまったく同じそれ。着信音も動かし方も一緒。エドとしてソレを使っているところは、一緒にいる事も多かった那波千鶴もよく見ていたはずだ。

 だが、それを見てすぐ気づけるようなものではない。むしろそっちで気づく方が難しい気がするぞ。


「それを見て、はじめて気づいたんです。どうやったのかはわからないけど、エドさんとエヴァンジェリンさんが同一人物である。と」
 携帯が同じ事から、先ほどの冗談と言った観察へと繋がったというわけである。


 やはり、この娘は侮れないな。


「でも、もう一つ、わかった事があります」

「なにがだ?」

「かなわないんだなぁって」

「は?」

「悔しいので、教えません」

「どういう……」

「お待たせいたしましたお嬢様」


 だが、そこにあいつが執事となって、注文の品を持ってやってきてしまった。
 そのおかげで、その事に関して、追求する事も出来なくなってしまう。

 時期を逸した。下手に追求すると、今度はどうやってエドとエヴァをやっているのかなどを説明させられかねない。
 あの娘は頭がいい。
 ここで追求しなければ、これ以上あちらも追及はしてこないだろう。

 ……というか、この娘は、本当にただの人間なのだろうか?

 少なくとも、ネギより手ごわい事は確実。か。




───那波千鶴───




 エドさんが、ただの男の子ではなく、乙女の雰囲気を纏っているのは、ずっと前から気づいていました。

 でもそれが、エヴァンジェリンさんだったのは、驚きでした。
 でも、逆に納得している自分もいます。


 そして、もう一つ、気づいてしまった事があります。
 今日、エヴァンジェリンさんの姿で彼と一緒だったからこそ、気づけてしまった事。


 気づいていますか?
 あの人の、私を見る目は、ただ優しく、見守る目なのに、あなたを見る目は、どこか、違うんですよ。


 私とは違って、あなたは特別なんです。

 彼自身も、あなた自身も、まだ、気づいていないようですけど。自覚していないようですけど。


 だから、私もまだ諦めません。かなわないと思っても、まだ諦めませんよ。
 私、こう見えても諦めは悪いんです。


 あの人は、律儀ですから、高校卒業まで、私にもまだチャンスはあるでしょう。


 それに、3人でもいいじゃないですか。ね?


「……なにか不穏な事を考えているだろう?」

「あらあら」


 私は、エヴァンジェリンさんに微笑み返した。




──────




 夕方も近くなり、執事喫茶も無事終わりとなった。


 終わってみると、なぜかカンフー娘が俺を待っていた。
 手には、巨大な大会へと復活したまほら武道会のチラシ。

 あー。

 予想通り、まほら武道会へのお誘いでした。

 ちっ、このままなにもなければ武道会はぶっちしてやろうと思ってたのに。直接迎えに来られたら駄目じゃないか。


 エヴァとちづるさんと共に会場である龍宮神社へと行く。
 そこであの龍宮って子と、同じようにやってきた忍者娘Withさんぽ部とさらに合流。

 それにしても、すごい人出だ。


「あー、すげー大会。本気でこれに出場しなきゃ駄目なの?」

「せっかくこんな大会になったアル! 秋なんて言わず、これにするアル!」
 ちなみに秋とは秋の体育祭の季節に行われる大格闘大会の事である。ついでに言えばカンフー娘クーフェイはそれの前年度優勝者。

「まぁ、約束だからなぁ」

「あらあら」

「まったく、はた迷惑な」
『一つ聞くが、この場で戦って問題はないのか? ほら、暴走とか……』

 ステレオのように、エヴァの声が耳と脳に響く。

「約束しちまったもんはしかたねえだろ」
『ああ。まあ、こんな華やかな大会なら問題ないよ』

 俺も、しゃべりながら答えを返す。
 意外に出来るものだ。

『それに、あんな事はもう二度と起きない(恥ずかしすぎるから起したくない)。だから大丈夫だ。心配してくれてありがとな』

『ばっ!』


 罵声を浴びせられて、念話が切れました。
 勢いよく受話器を電話機に叩きつけられた相手側ような気分です。
 ったく。そりゃあんなふうに暴走したらどれだけ自分に迷惑がかかるかわからんもんな。へんな事心配しやがって。



(あ、ありがとうなんて言われてしまった)
 何気ないたった一言で、思わずどきどきしてしまうエヴァであった。



 そんな事を話しつつ、参加申込所へ向かっていると、パパラッチと未来少女超鈴音のまほら武道会復活の事とかの説明がアナウンスされる。

 一切記録出来ないー。とか言ってるけど、ペテンもいいところだねー。
 主催者側で流出させてりゃ世話ないぜー。


 人ごみをかきわけていると、ネギ一行が居るのを見つけた。
 あ、ソバカスちゃんもいたのか。

 ちづるさんが彼女に挨拶してる。


「あ、にーちゃーん!」
「はぐあ!」

 毎度のごとく、俺を発見したとたん突撃してくる犬っ子突撃を食らう。

 いい加減学習して回避しようとしてはいるんだが、相手は子供でもきちんと修行したプロなので、道具も使っていない俺だと回避もままならない。
 しょせん俺は一般人という事さ!

「俺は、もう、大会は無理そうだ……諦めてくれ……がくり」

「にーちゃーん! にーちゃんが死んでもーたー!」

「……お前達はそれを何回繰り返すつもりだ」

 ぺいんとエヴァに頭をはたかれた。

「まー、今日二回目だしなー」
 やれやれと立ち上がる。

「? 今日にーちゃんにおうたの……」

「そんな事より、コタローも出るのか?」

「おう! 当然や! ひょっとしてにーちゃんも出るんか!?」

「一応な」

 ふー。話題を変えてやる事に成功したらしい。
 どうやら朝会ったのはこの後タイムリープする犬っ子だったようだ。

 ……って、別に俺が話題変えてやる必要性ってなかったね。ついクセでやっちまったぜ。

 まいっか。


 ネギはカンフー少女、忍者少女の他さらに俺が出ると知ってパニックを起している。
 安心しなさい。俺やる気ないから。


「……あれ? そーいやエヴァ。お前って、出るの?」

「出る気はなかったが、気が変わった」

「あ、そーなんだ」

 なんで出る気になったのかよくわからないが、出てくれるなら原作的な意味で無問題なのでそれでいい。

「まあ、弟子の成長ぶりも気になるし、あの犬に仕置きするのも面白そうだからな」

「……ははは」


「マスターまでー!?」


「やあ、楽しそうだね……」


「タカミチまでー!?」


 高畑先生登場でツインテ明日菜も出場を確定。


「あうう……コタロー君。僕やっぱり出場するのやめようかな……」
「なにっ!? なんでやいきなり!?」

「だって、こんなたくさん強い人が居たら、腕試しの前に負けちゃいそうだし……」
「アホかー! 強いヤツがいたらわくわくすんのが男やろ!」

「あ、一つ言い忘れた事があったネ。この大会が形骸化する前。実質上最後の大会優勝者は、学園にふらりと現れた、『ナギ・スプリングフィールド』と名乗る当時10歳の異国の子供だった」
 狙ったかのように、未来少女超の声が響く。

「え?」

「この名前に覚えのある者は、がんばるとイイネ」


 ……これって明らかに、利用する気満々の誘いだよなー。
 ま、超のたくらみに関しては放置の予定だから、このままスルーしておこう。
 実のところを言えば、最終日のあの祭りは普通に楽しみだったりする。


「コタロー君。僕出るよ!」

「おう。当然や!」


 ネギの方もやる気が出たようでなにより。

 ちなみに俺の方は予選であっさり敗北の予定だ。

 ふふふふふ。参加はしてやるが、真面目に戦うとは誰も言っていないからな。これは大会。直接戦えない事だってありえる。
 出場はした。これで約束は果たした事にはなる。


 超の予定も邪魔しないし、ネギの戦いの邪魔もしない。
 完璧。完璧じゃないか。



「なーなーにーちゃん?」
「ん?」


 ちづるさん達参加しない子と別れ、予選のクジを引くために、みんなで移動していた際、犬っ子コタローに呼び止められた。


「にーちゃんあんまりやる気ないやろ」

「どきっ」

「そりゃこのようなお遊びでこいつが本気になるわけもないな」
 エヴァが犬っ子を馬鹿にするようにして笑う。

「ぐぬぬ。せっかく裏でも思いっきりやれる大会やのに。そんなら、もし俺がにーちゃんに勝ったら、にーちゃんに一つ言う事聞いてもらうで!」

「は?」


「「「「っ!!!?」」」」
 コタローのその言葉に一斉に反応する少女達多数。

(このような華やかな大会ならあの時のような問題はない。しかもこの場で『全力』は出さないだろう。という事は……)
 一番大きく反応したエヴァが頭の中で計算を開始する。


「そーすりゃにーちゃんも少しは本気でやるやろ!?」

「い、いや、いきなり言われても……」


「待て。そもそもお前、完全にやる気ないだろう? どうせ、予選で負ければ約束を果たしたとか思っているんじゃないか?」
 エヴァがいきなり鋭い事を言い出した。

「ぐっ……ソ、ソンナコトナイヨ」

「図星のようだな。そうだな。もし予選で敗北した場合は、私達全員の言う事を聞け」

「ちょっ!」

「そして、本戦まで残った場合は、負けたもののいう事を聞く。これなら貴様も少しはやる気を出すだろう?」

「なに勝手な事を……」


 じー。

 なんか期待の視線が俺に向けられてるぅ!


「確かに、予選でワザと負けるとか約束守る気ないのと同じアル」

「僕も、そういうのはいけないと思います!」
「にーちゃんにーちゃん!!」

「ニンニン」

(私には関係のない事だが、権利を売れば金になるか)ばい龍宮。

(……もし勝てば、『宇宙刑事』のパートナーとして認められるという事でしょうか!? そうすれば、私も変身する資格を!)
 一度は諦めた道だが、やっぱりヒーローに憧れてしまう刹那であった。
 なにより、あの時は迷いがあった。だが、今はそれを乗り越えた。あの時より、さらに強くなった。今度こそ、認めてもらえるかもしれない。

(ネギのアネさんが勝てば今度こそ!!)


「あんたらねぇ」

 唯一ツインテ少女明日菜が呆れていた。


「どうせ参加するのなら優勝を目指すのがスジだろう? お前が約束を破るようなヤツでなければ、こんな約束をしても問題はないはずだ」

「お、お前の方こそいきなりなんで……?」

「私は弟子の成長を見るためだと言っただろう。弟子の相手としてお前は適任だからな」

 そもそも俺がやる気ないって最初に認めたのはお前……はっ、それを確認するための誘導か! や、やりおるな……
「なんてこった……」

 エヴァがこんなにも弟子思いだったとは、俺も知らなかったぜ。


「それって、僕が勝ったとしたらどうなるのかな?」
 一緒にいた高畑先生がそんな事をつぶやいた。


 その瞬間、空気が凍る。


 結果、途中で俺が負けた場合、その勝った人に別の人が勝てば、権利はその人に移る事になった。
 つまり、実質的に優勝した人のいう事を俺が聞くといっても過言ではない。

 という事は、だ。
 この大会の優勝はあの食っちゃ寝変人だから、この場に居ない第三者という事になる。

 ならば、この賭けはずばり無意味!! 無効と主張が出来る!! 勝った!


「ったく。しゃーねえなあ。わかったよ。俺に勝ったらそいつの好きな事を1回聞いてやるよ。ただし、命が欲しいとか、俺にも出来ない無茶な事はなしだからな」


 わぁ!
 いっせいに歓声が上がった。

 ふふふ。残念だったな。むしろこの賭けは俺の手のひらの上!
 本戦まで進んでしまえば、あとは俺の勝ち同然よ!




 だが、彼は気づいていなかった。
 当然世の中そんなに甘くはないって。




 まほら武道会予選がはじまった。


 結果を言ってしまえば、俺は予選通過。本編出場を決めた。


 ただし、登録名は本名ではなく偽名。その上顔も隠してだが(クウネルとかの偽名&フードかぶってもOKだから問題なかった)
 本戦に参加すると色々流出間違いないのでそのためだ。

 俺はしつこいくらいに自分は一般人と主張しているので、正体を隠す事に疑問はもたれなかった。
 ついでに半デコ刹那ちゃんも居るから、素顔のままじゃマトモに戦えないってのもあるし。


 そんなわけで、今回は『変身』した。


『変身セット』
 テレビ番組の変身ヒーローを思わせるヘルメットとマントのセット。身につけると車をらくらく放り投げられるほどの怪力や飛行能力が備わる。ヘルメットから伸びたアンテナは、遠くて小さい音も探知可能。
 本当に変身ヒーローになれるセットである。
 コレに『決め技スーツ』を使えば正真正銘『宇宙刑事』の出来上がりだろう。


 幸い予選ではネギ一向などのメインキャラと一緒の組にはならなかったから、これで楽勝でした。
 ネギとかが派手に目立ってたから、俺自身は全然目立たなかったしね(コスプレ色物参加者の一人くらいしか見られなかった。ロボット田中さんくらいの注目度)


 ちなみに登録名は『マスクオブジャスティス』。ジャスティス仮面とどっちにしようかと最後まで悩んだけど、あえてより呼びにくい方にした。
 でも結局ジャスティス仮面選手と呼ばれてちょっとへこんだのは秘密だ。




 んでもって、俺の第1回戦の相手も決定。


 俺VSクウネル・サンダース


 俺の相手はいきなり優勝(予定)の変人。ネギの父親。『サウザンドマスター』の仲間。本名アルビレオなんとか。
 まほら武道会に俺の入った変化は、多分、これだけ。名前は忘れたけど、ここにいたモブのところに俺が入っただけ。
 ネギは高畑先生とだし、明日菜VS刹那だし、龍宮VSクーフェイだし決勝まで行けばちゃんとネギVSクウネルの組み合わせになるしね。

 なにより、いきなり優勝者相手なんだから、最高だね。
 負けてもなんの問題もない!


 ラッキー。





『これで私が勝ったら、なにか『お願い』を聞いてもらえるのですよね?』

「ぶー!」


 脳みそに声があぁ!
 聞いていたのかあの変人! しかも賭け参加する気満々ー!!?



 時にそれは、試合開始直前の事だった。






─あとがき─

 とうとう学園祭がはじまりました。
 麻帆良祭はあんぜーん。なんて思っている彼はそんな事はなかったぜな展開に涙する事でしょう。
 彼は無事、武道大会を乗り切る事が出来るのでしょうか?
 そして、彼への『お願い』の行方は!?

 それと、クウネルことアルビレオの性別はローブのおかげで不明という事で。


 どうでもいいけど、彼の「完璧、完璧じゃないか」って発言は完全に失敗フラグですね。



[6617] ネギえもん ─第18話─ エヴァルート06
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2009/06/23 21:19
初出 2009/06/22 以後修正

─第18話─




 主人公、表舞台より去る。




──────




 時は、彼の試合開始直前からしばし戻り、二日目早朝。まほら武道会本戦開始前。
 場所はエヴァンジェリンの別荘。


 そこにネギとコタローがいた。
 背後では明日菜、刹那、木乃香が別荘の海で遊んでいるが、二人はシャツとハーフパンツで大会の準備をしていた。

 水着にはなっていないので、二人は二人の性別の違いに気づいていない。


 戦いの歌や瞬動術。タカミチの強さ。気の使い方や魔力のまとい方などを話していると、コタローがふと思い出す。

「そーいや、にーちゃんて、魔力も気もまとってるとこ見た事ないなぁ。ネギはあるか?」

「僕も見た事ないよ」

「つーか、エヴァンジェリンと戦った時もリョウメンスクナノカミと戦った時も、吸血鬼化してただけで、実際体に気や魔力を纏わせたり、してなかったみてーだしな」
 カモが付け加える。

「つまり、にーちゃんの本気見た事ある奴って誰もいないって事かいな!?」

「自由に吸血鬼化出来るだけでも規格外だと思うがなー」

「そうだねー」


 そもそも一瞬で種族を変えられるなんて、聞いた事もない。
 関係ない話だが、彼がその気になれば狼男にもなれる。本当に関係ないが。


「つまり、この大会でにーちゃんの本気が見られるかもしれないっちゅーこっちゃな」

「そーいうこったな」
 カモが答える。

「にーちゃんて本当はどれくらい強いんやろ。ぜんぜんつかめへんから困るわー」
「相手の強さをつかめるようになるのも、自分の強さだって言われたけど、難しいよね」
 小太郎の突撃を毎回よけようとしないその余裕。
 一見すると一般人にしか見えない。だが、小太郎は知っている。あの爵位級悪魔を殴ったあの一瞬。彼の凄さを。
 見てくれの情報だけで戦況を判断すると痛い目にあうという好例である。

「だが恥じる事はねーぜ。ダンナは本当に別格だ。あのエヴァンジェリンですらダンナの実力を完全に測りきれてねーんだ。今回のあの賭けは、ダンナの事をもっと知るための手段の一つだな」


 大勢が見ている大会だから、完全な本気は見れないだろう。が、その一端は見られるかもしれない。
 さらに勝てば、その素性など、様々な事を教えてもらう事も可能だ。
 そういった目論見があって、エヴァンジェリンはあんな事を言い出したのかもしれない。


「そういえば、コタロー君は先にあの人とあたるよね」
 トーナメントでは、小太郎が第1試合。彼は第2試合なので、勝ちあがれば二回戦で戦える事となる。


「勝つでー。勝ってにーちゃんを嫁にもらうんやー!」

「よめー!?」
 ネギびっくり。

「そやー。手当てしてくれた時、にーちゃんあったかくってなー。一目ぼれってヤツや!」
「で、でもあの人は男の人で、コタロー君も……」

「なにアホな事を。貴様等であいつに勝てるわけがないだろうが」
 そう言い、彼女達の背後から現れたのは、この別荘の持ち主。エヴァンジェリン本人であった。
 そしてコタローをひとにらみ。

「うっ……」
「マ、マスター!?」

「あの中で奴に勝てる可能性があるとすれば、私くらいのものだ」
 他にあるとすれば、本気を出したタカミチがいいセンいくくらいか? そう考えるエヴァ。

「でもマスター魔力を封じられているじゃないですか」

「ふん。それはどうでもいい。やさしいお師匠様から、弟子にプレゼントだ」


 エヴァンジェリンがひょいっとネギに指輪を渡す。


「杖を持ってカンフーするのは面倒だろう。杖の代わりとなる魔法の発動体だ。ありがたく使え」

「え? あ、ありがとうございます!」

「礼はいい。私の弟子に無様な試合をされたら、あいつに文句を言われるからな。まあ、あいつがお前達を本気で相手にするとは思えんが、タカミチ相手ならいいセンいけるかもしれん。期待を裏切るなよ」

 そう言い、エヴァンジェリンは去っていった。

「わー」
 ネギはうれしそうに指輪を見ている。

「あ、相変わらず怖いなーあの人」
 エヴァにひと睨みされたコタローが汗をぬぐいつつ言う。

「え? そうかな? マスターってやさしいと思うよ?」

「マジか!?」

「特訓は地獄みたいだけどさ」

 そう言いながら、ネギはにこーっと笑う。

「……地獄みたいって、それ、ホンマにやさしいんかそれ?」
 信じられへん。とつぶやくコタローであった。

「まあ。それは僕が望んだ事だしね」
 二つのスタイルを同時に習得しようとしているのだ。やる事は通常の2倍。それこそ原作を超えた地獄の特訓となっていてもおかしくはないだろう。

 それでもネギは、ニコニコしながら、指輪を素直に喜べる。


「つーかエヴァンジェリン、結局アネさんの応援に来てくれたって事か、これ……?」
 ぽつりとカモがつぶやいた。




──────




 まほら武道会本戦開始前。

 ネギ達は会場へとやってきて、入ろうとした時、ネギは一度、他の人達のジュースを買うため、一人で動いていた。
 原作で言えば、ちょうど11巻の50ページ目くらいのところ。
 先に行ったコタロー側では、コタローの過去がさらっと語られている頃である。


 ジュースを買ったネギが、人数分を抱え、走る。

 だが、人ごみにもまれ、ジュースを落としてしまった。

「ああっ!」

 落下する缶ジュース。

 ぱし。

 だがそれは、地面に落下する前に、受け止められた。
 ジュースを受け止めたのは、髪の長い少女。

 ネギは見た事のない人だった。武道会の観客だろうか。

「あ、ありがとうございます」

「かまわないわ」

 少々無表情な少女はそう言い、そのまま会場へと入っていった。

「綺麗な人だったな~」

 人形のように整った顔立ちの美しい少女だった。
 ネギはそう思いつつ、先に入ったコタロー達の元へと走った。




 選手控え室へ彼女達が到着する。

 その場には、『彼』とエヴァンジェリンを除いた選手が全員そろっていた(エヴァは単なる重役出勤。ぶちゃけ遅刻)


「あれ? あの人は?」
 ヒーロースーツに身を包んでいるはずの彼の姿がない事を、ネギは疑問に思う。
 その言葉を聞いた刹那は、上を指差した。

「上?」
「屋根の上にいました。今あの姿ですから、知り合いとは距離を置くそうです」
 正体を隠すための変装だから、正体がわかってしまう行動は避けるという理由だった。

 この後超のルール説明があるが、彼自身はルールの方はすでに知識で把握済みの上、1回戦で負ける気満々なので説明を聞く必要がないのだ。


 最も、彼のいない本当で最大の理由は、そのヒーロースーツ姿を知り合いに見られるのが恥ずかしい。という理由からだったが。


「……な、なんという恥ずかしさ……」
 参加者の中には正体を知っている人といない人がいるから、素の姿でいるわけにはいかない。おかげでずっとヒーローの姿。
 つまり、このヒーローの姿を、正体を知る知り合いにずっと見られている事にもなるというわけだ。
 彼にしてみれば、なんという羞恥プレイ(しかも自爆)

 それゆえ屋根の上で隠れつつ、彼は出番を待っているのであった。

 ちなみに彼は1回戦第2試合。


 1回戦第1試合のコタローは、変化なしなので省略。




──────




 そして、前回のラストへとつながる。


『おおーっと!? 開始の合図がなったにもかかわらず、両者動きませーん!』
『両者表情が見えませんからね。行動が読みにくいという事で、警戒しあっているのでしょう。特にクウネル氏は男か女かすらもわかりませんし』
 アナウンサー朝倉のアナウンスに、解説席にいるリーゼントの脇役が答える。

『しかし、ジャスティス仮面選手登場が派手だったワリに、地味です!』
『ただの格好だけ。ではないという好意的解釈も出来ますが。クウネル選手の実力がいまだ未知数なので判断が難しいところですね……』


 ちなみに、ジャスティス仮面の入場シーンは屋根の上から爆発と共にジャンプして着地。そしてポーズを決め、さらに舞台の四隅が爆発するという派手なものだった。
 対してクウネルは、その爆発が終わったらいつの間にかいたというもの。

 なんだかんだいって、演出などの『魅せる』面では手を抜けない彼であった。


 そう言われている間も、二人は動かない。
 当然二人は警戒しあっているわけではなく、いわゆる念話で、会話をしているだけなのであったりする。




『私も賭けに参加という事で』


 ……この変人の趣味は他人の人生の収集だからなぁ。
 言うこと聞いたら100パーセントそれだよなー。


『……あ、あー、駄目駄目。昨日約束の場にいなかったんですから、無効です。むーこーうー』

 俺は必死に、変人へ断りを入れる。

『つれないですねぇ』

『だってあんたと約束してないもん。だからあんたの言う事を聞く必要性はないもん』

『「もん」とかかわいくていいですね。ですが、あなたはわかってない』

 なっ!?

『私が勝利した後、彼女達の前で権利を宣言してしまえば、あなたは結局拒否など出来ないという事に!』


 ぐっ、つまり、勝利して、権利を持っているから自分に勝てば権利をもらえると主張すれば、おのずと参加決定となるわけか。


『というわけで、あなたに拒否権はないのです』

『俺が約束を守らないと言う可能性は?』
『あなたは律儀な人ですからね。一度した約束は破らない。だからこんなに必死なのでしょう?』


 即答された。
 ……褒められてるような気がするけど、褒められてる気がしないなぁ。


『……しかたがないなぁ。俺さっさと負ける気だったのに』

『ふふ。正直なところ、あなたの人生だけでなく、あなたの本気というものにも興味があるんですよ』

『おいおい』

『これは、私だけでなく、この場にいる者ほとんどがそう思っている事でしょう』


 だから、こうして俺が逃げないように言い出したわけか。

 ……これで俺実は最弱なんだ。って言ったら信じてもらえるかなぁ。
 でもそうすると変人の言う事聞かなきゃならなくなるし……

 正直それは、お断り願いたい。

 なにせアレの趣味は他人の人生収集だ。俺の人生30年の半生録をとられたら、恥ずかしいあんな思い出やこんな思い出を知られるに違いないからだ。人間誰しも人に知られたくない黒歴史ってモノはある。
 現在進行形で黒歴史が増え続けている俺が言うのだ。間違いない。

 正直絶対負けたくない。
 となると、勝たねばならない。
 だが……


『しかし困ったな。これで俺が勝っちゃったら、あんたの目的、はたせなくなるよな?』

『そうなりますね』

『それは、俺も困るし、ネギも困るし、あんたも困る』

『まったくです。しかし、まるで私の目的を知っているかのような口ぶりですね』

『詳しい事は企業秘密です』
 少しくらい困惑すればいいさ。

『残念。まあ、勝てばよかろうなのですからね』

 ですよねー。
 半生を手に入れればその理由などはそれを読めばわかるという事。
 さすがエヴァも手玉に取る変人。今までの誰より揺るがない。

『……あ、いい事考えた』
 ぴーんとひらめいた。

『はい?』

『決勝にネギが勝ち上がってきたらあんたがこれ(変身セット)を着て出ればいいんだよ。これで万事解決』
 この大会、偽名だろうが顔を隠していようが出場が可能だ。なので、途中で中身のチェックなんてのも当然されない。中身がいれかわっていようが、計画に有用なら利用する。未来少女としてはそういう事なんだろう。
 ぶっちゃけ次の試合から変わってもらうのもアリだ。

『それはいい考えですね』

『だろ? というわけで、この試合勝たせてもらう』

『ふふふ。出来ますかね?』

『あんたの事はある程度知ってるぜ。その体、いわゆる分身なんだろ?』

『むむっ』

 これにはさすがに反応したか。
 さすがにこの食っちゃ寝変人のデタラメ能力はよく覚えている。

『そして、倒すには強力な一撃で吹き飛ばすしかない』

『見ただけでそこまで知られるとは、ますます興味深いですね。ですが、そうそう簡単にやられませんよ。出来るとすればそうですね。我が友。『サウザンドマスター』クラスの力はないと』

『それはいい事を聞きました』

『ほうほう』

『確かあんた、その人の能力をそっくり使えたんだよな?』

『ええ』

『実は、俺も出来るんだ』

『それはすばらしい』

 あ、もう驚いてくれないのね。
 それとも、ジョークととられたのかな。

 ま、実行してみればわかるだろ。
 本当はコレ、あんまり使いたくないんだけど、使わないと『勝ち』は難しいしな。


 そう考え、俺は、『道具』を一つ取り出した。




───解説席&パパラッチ朝倉───




『しかし、動かない! 両者開始から一切動きがありません!!』
『いったいどうしたのでしょう』
『さすがに私にもわかりません』
 解説者その2、茶々丸の疑問に、解説者その1。脇役リーゼント豪徳寺がそう答えた時。


 すっ。


 彼が動いた。


『う、動きがありました!』


 彼の手には、今では少し古めかしいカセットテープが一つ。


『なんでしょう?』
『カセット、でしょうか? 最近のヒーローはカードを使う者も珍しくありませんからね。そのオマージュでしょうか。そういえば飛び道具、刃物。そして呪文の詠唱とやらは禁止ですが、このような行動は禁止されていませんでしたね』
 茶々丸の疑問に男の子代表豪徳寺が答える。

『つまり、ついに動きがあるということかー!? 見逃せません!』


 そのまま彼は、そのカセットをベルトのバックル部分へと運ぶ。


『おーっと、ベルトにカセットをさしこんだー!』(実際はお腹に吸いこまれたのだが、ベルトに収納されたように見えた)

『最近はカードタイプがよく見られましたが、カセットとは、新しい。むしろ古いのかもしれませんが。どうなるのでしょう?』
 解説者その1豪徳寺も男の子。ジャスティス仮面なるヒーローの技がいかなるものかとわくわくしながら注目する。
 ちなみに選手席の刹那も同様に目をきらきらさせていた。


『ジャスティス仮面選手、いったいなにをするつもりなのかー!!』


 キュィィン。
 カセットテープが回る音がする。



 再生が、はじまった。



 彼が、かるく気合を入れるよう、こぶしを握る。


 ドン!!


 次の瞬間、圧倒的なプレッシャーが、彼から発せられる。
 感じた者すべてをひれ伏させる力の奔流が、彼を中心に吹いた。




──────




『こ、これは……!』


 俺が気合を入れた瞬間、変人が驚きの声を上げる(念話でだけど)
 ふふふふふふ。驚かせてやった! 大・成・功!!


『あんたの完全再生は1回限り、しかも10分だったっけか』
『ええ』

 確か本としおりだったっけ?
 俺の方はカセット。しかも……

『俺の方は1時間。しかも、回数制限はない!』
 テープゆえ巻き戻しという使用不能時間はあるが。

『それは、困りましたね……』


 完全再生しなくても、能力再生は出来たけど、強い人は数分だっけ? それでも時間はこっちのが上さ!


『はっはっはっはっは』

『まさか、『サウザンドマスター』と双璧をなす存在の力を持ち出すとは……』


 そう。この力ならば、確実にあの分身体を吹き飛ばすことが出来る!!
 変人すら驚愕させるその力とは!

 生けるバグキャラと呼ばれる、『千の刃の男』ジャック・ラカンの力!!
 『サウザンドマスター』と同等の力を持つといわれる男の力!!


 その力が、今、俺に宿っている!!


 なぜ俺が、生けるバグキャラの力を使えるのか、その答えは、これだー!



『能力カセット』
 カセットテープ状の道具。
 マラソン選手、野球選手、歌手など、様々なタイトルのものがある。これを人の腹にあてると、そこに吸いこまれ、それぞれに応じた能力が身につく。1時間テープなので、効果は1時間。

 そして、そのカセットタイトルの中に、『千の刃のラカン(初回封入特典)』というものがあったのだ!
 括弧から察するに、初回にのみついてきているのだろう。
 まあ、初回とか第2版とかはどうでもいい。『能力カセット』の中にこんな素敵なモノが入っていた事実にはかわらない!
 こんなものまであるとはさすがだぜ未来道具! かゆいところに手が届くすばらしいラインナップ!
 これがあれば、この世界で俺は、1時間ほぼ無敵となるのだ!
 万一もしも魔法世界行きとなったら使おうと思っていたのだが、まさかここで使う羽目になるとは思わなかったぜ。


 ひょっとしたら、『サウザンドマスター』とか『イチロー』とかもあるかも。あとで時間が出来たら調べよーっと。
 ちなみに『黄金聖闘士蟹座』があるのはわかってる。でも、カニだからなー(蟹座の人ごめんなさい。冥王神話版めちゃカッケーですよね)



『これなら、分身のあんたを吹き飛ばせるだろ?』

『出来るでしょうねぇ。いやはや、これほどとは……』


 驚いてる驚いてる。
 作中で最も動じなかったこの変人を驚かす。これはとても気分がいい。
 そして、模倣してわかるあのおっさんの凄さ。
 あのおっさん。ホントに強すぎる。これが『サウザンドマスター』クラスの力(能力を使えるので、自分の力の分析も可能になっている)
 これなら確かにあのおっさんの自信は理解出来る。こりゃ負ける気がしねーわ。自称強さ表12000は伊達じゃない。
 ホントにあのおっさん化け物だ。

 そして、だからこそ、はっきりと自信を持って言える。



 この試合、俺の、勝ちだと!!



『これでパクティオカードまで使えたら、完全に私の出る幕はありませんね』

 あんたの代わりも出来るって事だもんな。

 でも……

『さすがにパクティオカードがありませんのだ。だからいくら呼ぼうと思って『来たれ』と言ったとしても……』


 ぱあああぁぁぁぁぁ。


『『?』』


 その瞬間、俺のベルト。というか、腹が光った。
 俺も、変人も疑問符を上げる。

『これは……』


 そのまま、カセットを入れた部分(一見するとベルト)から、白いカードが出てきた。


『パクティオ、カード?』
 とても驚いたように、変人がつぶやく。
 それは、自身でも念話に流しているとも気づいていないようだった。
 それほどの、驚きよう。


「……え゛?」
 それは当然。俺もである。



 ──『千の顔を持つ英雄』──



 白カードにそんな文字が浮かんだ瞬間、光がはじけ、俺の周囲に、大小さまざまな剣が、現れた……


「……アーティファクトすら再現とは、恐れ入ります」


 いや、そう褒められても……



 ピピー。



『判定員の判定により、剣は本物と出ました! よって、ジャスティス仮面選手反則負けー!』


「……ですよねー」
「そうなりますねー」


『反則負け! 反則負けですジャスティス仮面選手ー! いったいなにがしたかったのかー!!』


『奇術まがいでも刃物は反則ですからねー。これならば、名前は正義ではなく自由とか、ストライクもつけておけば、また違っていたかも知れませんねぇ』
『どの道反則負けにはかわりませんが』
 解説席の二人があきれ気味に言う。

『ですが……』
『どうしました?』
『いえ、なんでもありません』
 解説豪徳寺は彼失格の件についてなにかを言おうとして、やめた。


 ぶーぶー!!
 観客からも大ブーイング。

 そりゃそうだ。長いこと動かないで、動いたかと思ったら反則負けなんて……


 ……まさか、初回封入特典て、『千の刃のラカン』カセット『が』初回封入特典。じゃなくて、『千の刃のラカン』カセット『に』。初回封入特典で、パクティオカードが入っているって、事ですか……

 あれだね。コミックスの初回版のみとか、限定版とかにカードがついてくるってヤツの未来版だね。

 なんて素敵な大サービス。
 かゆいところにまで手の届くユーザーフレンドリーはまさに万能!!

 さすが未来のサービス!!
 いたせりつくせり!!


 だから、毎回毎回サービス過剰なんだよ四次元ポケットおぉぉぉ!!!

 かゆいところに手が届きすぎるんだお前はぁぁぁぁ!
 パーフェクトすぎるだろうがぁ!
 クレームのつけようがねーぞ畜生!!


 まさか、初回封入特典で、白カードが入っているなんて……つまり他の魔法使い系カセットを使って他のアーティファクトもOKって事ですか? なんてサービスいいんだこんちくしょう。
 ありがたすぎて涙出てくるぜ。


 愕然として固まっている俺に、ポンと肩をたたく人影が一つ。


「これで、あなたへの『お願い』権利は私のものですね」

 フードに隠れて見えないが、にっこり微笑まれた気がする。

『おぼえとけよこんちくしょー!』

 俺はその場から飛び上がって会場外へと逃げたのだった。


『あとでお茶会にもご招待いたしますね~』


 そんな見送りいらねー!




───ギャラリー───




「……これって、自爆?」
 明日菜はなにしているんだか。とあきれていた。

「「「……」」」
 だが、刹那。ネギ、コタロー。他参加者は声も出なかった。

「? どうしたの?」

「い、いえ、あの人は、わざと負けたのかもしれません……」

「え? どういうことよ刹那さん」

「一瞬です。本当の一瞬ですが、あの人の実力の一端が見えました」

「あ、あれが、にーちゃんの、本気……?」


 気合を入れたほんの一瞬の力の奔流。ある一定以上の実力を持つものならば、それが、どれほど規格外なのか、よくわかった。
 強ければ強いほど、彼が先ほど見せたモノのデタラメさがわかってしまう。その差が、はっきりとわかってしまう。
 はっきり言えば、この場において、強さの桁が違いすぎた。
 数字にすればわかりやすいだろうか。後々原作で記される強さ表を例にあげれば、この時期のネギの戦闘力は500にも満たない。それに対し、先ほどの彼は、数字1万オーバーをたたき出したと言ってもいい。
 その差を感じれば、戦慄するのも、当たり前だろう。


 そして、それを行った後の反則負け。
 一見すると自爆にも見えるが、わかるものには、すぐ悟れる。

 あの強さにおいて、あそこでの反則負けは、あまりにも、不自然。意図的にしか見えなかったからだ。
 その件については、解説者の豪徳寺も言おうとしてやめている。

 ちなみに、彼女達側からは、あの白パクティオカードは視認出来なかったようだ。


「にーちゃんがやる気ださないの、よーわかったわ。俺等と、レベルが違いすぎる……」
「うん……」


 あれほどの力。それでは、いくら自分達が言っても、まともに相手になどされないはずだ。
 それほどの、力の差。

 それは、彼女等に対し、彼と戦う資格が自分達にあるのか? と問いかけているようなものである。
 そして、ほとんどの者が、今の自分にはその資格がない。と判断しても仕方のないレベル差であった。
 ある意味彼は、あの一瞬で、誰一人とも拳を交えず、全員に勝ったと言える。


「かー! でも、負けへんでー! いつか、必ず追いついてやるんやー!」
「ぼ、僕だってー!」


 実力差に打ちのめされるのではなく、更なる高みを。そこを目標として二人は声を上げた。
 刹那はそれを見て、それが狙いだったのかもしれない。そう思うのであった。
 そこまでのぼってみせろ。という。

 『宇宙刑事』として、力を見せられない彼が、今見せたのは、丁度変装し、その力の一端を見せても、知る者にしか知られない。という事もあるからだろう。
 力を見せてくれたのだ。正体を知る我々は格下としてではなく、皆彼の『仲間』として見てもらえているのだろう。
 そう、刹那は思う。
 そして刹那も、いつか彼に追いつきたい。初めて見えたその背中は、あまりに遠かったが、ネギ達と同じくそう思うのであった。


「つまり、秋まで修行あるのみって事アルネ」
「ござるな」

 当然、クーフェイ、楓も彼の強さはよくわかった。
 現段階では、本当に相手にもならないという事も。
 それでも、力を隠す彼が、こうして実力の一端を見せてくれたのは、感謝するしかない。
 予選会で見せなかったのは、クーフェイが予選で負けるのは約束を守った事にならないという言葉を受け止めたのと、本戦ならば、全員がしっかり把握出来るから。なのだろう。
 もっとも予選で~という言葉はクーフェイ本人はすでに忘れているが。

 秋の武道大会に出てくれるかはわからないが、次こそは! と思う二人であった。



「……ところで、『お願い』の権利はどうなってしまうんでしょう?」

「「……あ」」


 その場にいた全員がそう声を上げた。


「関係ない人が勝利しましたから、無効。でしょうか……?」

「ええー! そんなのずるいやんー!」

「これを見越しての反則負けでござるか。抜け目ないでござるなぁ」
「さすがアル」


「ふん。そうは問屋がおろさんさ」

 そこに重役出勤のエヴァンジェリンが、彼女達の背後から現れた。

「マスター」
「エヴァちゃん」


「ならば、アレに勝った奴が権利を得ればいい。それだけの事だ」

「おおー! そのとおりや!」
 次にクウネルと対戦する事となる小太郎は大喜びだ。
 彼女達から見れば、彼よりクウネルの方が勝率が高そうにも見える。


「でも、あの人がいないのに勝手に決めてしまっていいんでしょうか?」
 真面目な刹那が言う。

「その件については私が話をつけてこよう。文句の一つも言ってやらねばならんからな」

「文句ですか?」
 ネギが疑問符をあげる。

「貴様等はまだいい。あいつに相手にされないのはな。だが、さっきのあれは、私も眼中にないと言っているようなものだ。それは文句の一つも言ってやらねば気がすまん」

「あの強さじゃしゃーないやん」

「だから貴様等と私を一緒にするなと言っているだろう。私をないがしろにした行為の罰は受けてもらわねばならん。そのついでに、あの仮装に勝った者の願いをかなえるよういいすくめて来きてやる」

 その言葉に、皆「おおっ!」と期待の声を漏らす。
 そしてエヴァンジェリンは悪そうに笑い、踵を返し、彼女達の前から去って行ったのであった。

「頼りになりますね」
「さすがマスターです!」
「おしゃー! 俺が次あいつだから、にーちゃんは俺のもんや!」

「……結局、エヴァちゃん試合見ないんだ」

 去ってゆくエヴァを見て、明日菜がそうつぶやいた。
 ちなみに次の試合は忍者少女楓VSモブである。




 でも、この時、僕達は知らなかったんだ。
 この大会の裏で、あんな事が起きていたなんて……
 あの人が、たった一人で、世界を守っていたなんて。

 知らなかったんだ。




───エヴァンジェリン───




 あいつはやはり、人前では、本気でやる気はないようだ。
 変装し、正体すら隠しているのに、自分に結びつくような力すらも見せようとはしない。
 最低限の約束を守り、舞台を降りてしまった。
 せっかくの祭りだというのにな。
 溜めこむばかりではなく、たまには暴れて発散する事もよいとは思うのだが。


 ……って、なぜ私がそんな事まで心配してやらねばならない。
 ……いや、心配くらい、させてほしい……なんて事はないぞ!


 まあ、多少の本気が見れたのだから、僥倖としておこう。
 それにしても、やはりというか当然というか、なんとも規格外な男だ。
 あの力。素の力でも『サウザンドマスター』と同等クラスのプレッシャーを持つとは。
 魔法は私と同等以上。武力は『サウザンドマスター』同等。しかもそれは、ただの一端。
 真の『本気』を見せたのならば、一体どうなってしまうのだ?
 この星を破壊出来ると言われても、納得してしまいそうだよ。


 小娘達に実力の一端とはいえ、わざわざ見せてやったのは、反則負けをするゆえのサービスという事だろう。だとしても、あそこまで見せてやるとは、サービス過剰な奴め。
 あれでは普通に戦ってやるより、大きな刺激になってしまうではないか(しかもこれからは「俺は弱い」という逃げ口上が使えなくなる)
 いくら約束を守る律儀な性格だとしても、損な役回り過ぎる。


 しかし、そんな事はどうでもいい。


 あの失格になった反則技。
 あの時、私は見逃さなかった。

 あの時あいつは、パクティオカードを持っていた。

 私は、はっきりと、見た!!

 つ、つまりあいつは誰かと……!

 誰かと、契約をしているとでもいうのか!!?


 この件を、なんとしても確かめねばならない!


 小娘達に言ったのは、それを確認するための建前でしかない。
 実力云々などは正直どうでもいい。そもそも私は一度すでに正面から戦ってあいつに負けている。あの小娘達と同じラインで見られても仕方がないと認識している。


 だが、それとこれとは話が別だ!
 別の大きな問題だ!


 その件については、なんとしても、確かめなくてはならない!


 私は、急いであいつの元へと走った。




 だが、私も、気づいていなかったのだ。
 私の目の前で、あいつが、消えてしまうなんて……


 私は、露ほどにも思っていなかったのだ……




──────




 起きてしまった事はしかたがな……くねー!!


 どうする!? このままじゃあの変人のいう事を聞かなくてはならない。
 それはきっと、俺の人生の収集とみて間違いない。

 いっそこの大会をぶち壊して賭けそのものを無効に……
 いや、あの変人がすでに俺に勝利した後だから逆に無意味か。

 くそっ、人の人生を本にして保存するなんて冗談じゃないぞ。人は誰だって知られたくない過去があるんだから。
 ごすごすと、変身を解き、『能力カセット』に八つ当たりしながら思う。


「安心してください。個人で楽しむ事にしか使いません。他人に知らせたりもしませんよ」


 そうして、頭をかかえ、会場の裏手隅っこでもだえていると、背後から声をかけられました。

「お願いだから突然現れて心を読まないでください」
「読んでなんていませんよ。ただもだえるあなたから想像しただけです」

「ああそう。それだけわかってくれるなら、やめてくれませんか?」

「やです」
「くそ、腹立つ。笑顔の口元すっげー腹立つ」

「ふっふっふっふ」
 くそ、完全にからかわれている。
 試合中驚かした仕返しか?

「ったく。とりあえず、先に聞いておくけど、あんたのお願いは、俺の半生の収集でいいのか?」

「はい」
 躊躇なく答えましたよ。もう決勝で遺言も渡して優勝して賞金も貰って俺の半生も貰う気満々ですね。

「そっか。それなら、しゃーないか。約束は約束だしな」
「あら?」

 意外そうな声。

「だってあんたはからかうのには使うだろうけど、本当に知られたくない事を他人にバラすような人間じゃないからな。そういう意味では安心だ」
 こいつに知られてしまうという点だけは嫌だが、それ以外は信頼出来るはずだ。
 そしてこの場合、むしろ堂々としてしまった方が、どれが知られたくない事なのかわからなくなるはず!
 心理戦は、すでにはじまっているのだ!(意味不明)

「……」

「ん? どした?」

「いえ。あなたは私と初対面のはずなのに、そこまで言いきられると、照れますね」

「あー」

 そっちも同じような事即答したくせに、自分の場合は驚くのかい(約束は守ると言った件)
 あ、そういえば、俺は知識として知っているけど、あっちは別だっけ。

 自分が知られているとはさすがに思わなかったわけか。


「やはりあなたは……」
「ん?」

「いえ。なんでもありません」

「気になりますよ」
「いえいえ。あなたの半生が手に入れば解消するはずですから」

「それずるいよねー」

「私もそう思います。それに、そろそろ時間がない」

「あれ? 第2試合にはまだ早いと思うけど?」
 まだネギの試合もはじまろうとしていないのに。

「いえいえ。あなたの方にお客さんですから」
「は?」

「それでは、また」


 そう、俺の背後を指差し、あの変人は消えて行った。


「あちらの方は見逃してよかたのカネ?」
「あっちは平気じゃよ。いたずらはするが、害はない」
「なら安心ヨ」
「うむ。今はこちらに集中すればよい」


「……あのー」


 困惑する俺。振り返った俺の前には、学園長と超鈴音が立っていた。

 なんでお二人がご一緒して俺の前にいるんですかー?




───超鈴音───




 さて。スデに知ている者も多いと思うが、私は、未来からやてきた存在ネ。
 そして、魔法使いの存在を世界中に認識させるのが、私が過去にやってきた目的でもある。

 しかし、目的の要。学園祭における、全世界強制認識魔法のデータを最終チェックしていた時、私はある違和感に気づいた。
 最新データでのシミュレーションの結果。認識力が予定より高い効果を発揮してしまうのだ。
 逆に言えば、強すぎるほどに。

 データを調べていると、12の聖地が一つ。京都が異常に活性化しているのがわかた。リョウメンスクナノカミが祓われた事により、聖地京都の力が余っている状態になっているからだ。
 そしてここの活性化は、他の聖地の活性化につながり、強制認識魔法の認識力強化にもつながっている。

 これで強制認識魔法を使えば、想定以上の認識力を与る事が出来てしまうだろう。

 極端な例えだが。自らを世界の支配者だと認識させる事も、可能なほど。
 本気で世界征服が出来てしまうレベルネ。

 これは、私の計画にはない、オーバーパワー。

 一体誰が? と問えば、一人しか思い当たらない。『彼』だ。
 彼は、あの時私のすべてを見透かしているようだたネ。
 私のこの計画も、すべて彼は把握しているのではないカ?
 この計画を利用するため、彼は狙ってスクナを祓ったというのだろうカ?


 一つ、私が遡ってきた事による可能性を考えていた。


 彼はひょっとして……


 この可能性ほど、恐ろしいものはない。


 しかし、私の目的は、この世界への認識魔法の成功。
 彼がどのような事を考えていたとしても、今はその邪魔さえされなければいい。

 つまり、学園祭の間、彼になにもさせなければいいワケダ。


 そのために、私は一部計画を変更する事にした。


 それは、学園長にこの計画を打ち明けるというもの。
 最大の敵である学園に、私は協力を求めた。


 分の悪い賭け。信じてもらえなくとも、彼に注意を払ってもらえれば良い。それで成功だと考えていた。
 しかし、学園長は私の言葉を信じた。
 学園長にこの事を説明して、信じてもらえるとは思わなかたネ。

 それほど学園長も、『彼』の事を脅威に思っていたという事。彼の力に気づいていたという事。
 そして、これから先この世界に降りかかる脅威とも。

 これはうれしい誤算ネ。
 学園長が私の計画に賛同してくれるとは思わなかなかたヨ。

 ただ、戦力は学園長と他数人にしか手を借りられなかったのが痛かたガ(下手に話を広げると今度は逆に反対する先生により計画が破綻するから)
 それでも、学園に協力してもらえるというのは大きい。


 初日は、彼に動きらしい動きはなかった。
 このまま何事もなく進むのならば、問題はないネ。

 しかし二日目。大会の第1回戦で事態は急変せざるえなくなる。

 今まで力を隠していた彼が、突如としてその力を誇示したのだ。
 これによって、逆に、秘密にしていた先生達にまでその存在を知られる事となってしまた。

 一部魔法先生は、私の計画そのものに反対するという事もあって、極秘にしていた。それが裏目に出る格好になってしまう。
 あれほどの力だ。
 嫌でも注目を浴びる。

 時がたてば、彼が何者なのか事情を知らない先生達の質問で学園側の動きが鈍くなってしまうだろう。
 映像を見せても、彼は変装している。擬態状態の彼とは、絶対に一致しない。信じてはもらえない。
 下手をすると、計画漏洩につながり、明日の計画にも支障が出るかもしれない(内部分裂してしまっては元も子もない)
 学園と私が別々に動いていたならば、彼が見せた力は両者に警戒を与え、自身へ調査に入るきっかけを作る悪い行動。だが、今私達では、内部に爆弾を抱えてしまう。
 やはり、彼はこちらの動きも正確につかんでいる?

 さらに試合後、正体不明の存在との接触。
 しかし、こちらは学園長により、正体はすぐに判明。
 計画に対して障害にはなりえないとわかった。
 あちらも私達と同じように、彼に興味があったのだろう。


「いやはや。とんでもない力じゃな。今頃高畑先生も驚いとるじゃろうなあ」
「そうネ。初めて彼がその実力を表に出したのダカラ」


 学園長はこの学園の先生で唯一彼の力と脅威を認識していた。
 あの高畑先生ですら、彼の監視と聞いて、なぜと思っていたほどだしネ。

 この点については、彼が実力を見せてくれたおかげで、説得力が増した。
 これで、他の魔法先生も彼を監視した意味を理解してくれたダロウ。
 彼の危険性に気づいてくれたダロウ。


 しかし、これ以上、目的の読めない彼を、自由にさせておくのは危険。
 私と学園長は同じ意見となり、彼を監視下に置けるよう、動く事にした。

 虎穴に入らずんば、虎子を得ず。
 今まで先延ばしにしてきた、彼の目的。彼が何者なのか。それを確かめるために。


 私達は、ハカセを場に残し、彼の元へと移動しはじめた。
 先陣は、私と学園長。その周囲に、高畑先生をふくめた、数少ない協力者の魔法先生。
 普段の彼を見れば話し合えるだろう。
 だが、思い浮かぶ最悪の可能性の場合、これでも戦力は足りない(時間停止なんてされたら、数の差など一瞬で無になる)


「いやはや、恐ろしいネ。本気で暴れられたら、とめられないかもしれないヨ」
「まったくじゃ。しかも、神話クラスの召喚も使える」
「敵ではないといいのだがネ」
「まったくじゃ」
「一応、彼に対していくつか保険はかけてあるケド、通用するかどうか……」
「……ネギ先生の事か。彼女に頼らねばならないなんて、避けたいものじゃ」
「まったくヨ」

 ネギ先生には、いざという時の対抗手段も持たせてある。
 もし、彼が本当に敵だったのならば、ネギ先生が最後の希望かもしれないヨ(ネギはまだなにも知らされていない。下手すると彼の側についてしまうから。だがそれが、逆に彼に対する最大のカード)



 先ほど見せた力。『千の刃』の力は、なにも知らない彼女達に、彼への直接介入を決断させるには十分だった。
 それほど、彼の力は、彼女達にとって正体不明で、脅威だったのだ。

 なにより彼のその力は……



 本来ならば結びつかない二つの勢力。それが彼という点によって結びついた瞬間であった。




───学園長───




 学園祭を目前にして、超君が協力を申し出てきた。
 自らの計画をワシに話してきたのだ。

 超君の計画を聞いた時は驚いたが、それ以上に、その可能性に戦慄させられた。


 これが、奴の本当の狙い!?

 京の霊脈の一つを開放したのは、このためか!
 超君の計画にある広域強制認識魔法が奴の目的通り強化されたとすれば、それは認識を超え、支配とも言える影響力を持つ。

 それはつまり、強制認識によって、すべての人々を、奴隷化する事すら可能という事だ!
 自分を神とでも認識させれば、それだけで、世界の征服が成る!


 それが、超君が示した、最悪のシナリオ。

 これが、京都で行った事の、真の目的だというのか!!?

 な、なんと恐ろしい事を、考えつく……


 彼女の計画の逆利用だけは、避けなければならない。
 だが、彼女の計画も、必ず成功させておかねばならないものでもあった。

 奴等に世界を渡さないためにも。


 こうしてワシは、超君と手を組んだ。
 超君も、ワシが彼女の目的にこうもあっさり理解を示すとは思ってもいなかったようだ。
 だが、ワシだけは彼の脅威に関して、前々から理解している。
 どうやらワシにその力の片鱗を知らせ、利用したのが逆に仇となったようだな。


 この星の未来、必ずや守ってみせよう!




──────




 そんなわけで、俺の前に未来少女超と学園長がいます。


「……えーっと、なんの御用でしょう?」

 俺の記憶にはまったくない展開。
 こんな会場の隅っこに超と学園長が一緒に来るなんて、おいら知りませんよ。


「シンプルな話ネ。私達と一緒に、この大会と、明日の学園祭を回らないか。というお誘いヨ」
「そうそう。ワシ等と一緒にどうじゃね?」

「あー。そういう事ですか」

 わーい。おじいちゃんとかわいい女の子に誘われちゃったー。

 ……って、素直に喜べたらどれだけよい事か。
 この時期にそんな事してる暇ないよね。特に未来少女。

 それなのに、この二人が俺の前に現れたって事は……


「……ひょっとして、俺の事って、すでに把握ずみって事ですか学園長?」

「うむ」
 なに白々しい事をって顔をしてらっしゃるー!

「本来ならばもっと早く君と話をすべきじゃったのじゃろう。じゃが、ここまで二の足を踏んでしまったのは、それだけ君の力を我々が恐れていると思って欲しい」

「つまるところはそういう事ネ。この学園祭中、おとなしくして欲しいヨ」


 ……うん。大体理解した。

 つまり、俺がスクナを倒したり、ヘルマンを倒したりした事はちゃんと把握していたと。
 そして俺が事なかれ主義で学園長とかになにもアプローチしていなかったから、そのせいでなにか変な事企んでいるんじゃないか? とえらいレベルで警戒された。という事か。

 手出しすら躊躇されるほどに。


 じゃあ、なんで今にな……って、あ、『能力カセット』。
 あんなバグキャラレベルのパワー見せたら、そりゃ見過ごせなくもなるわぁ。
 街中で戦車乗り回した上主砲ぶっ放したようなもんだもんな。


 ……あれ? てことはひょっとして、高畑先生って俺も監視してたのかなー?
 むしろ超が学園長と一緒にいるって事は、俺を監視してたのかな? あれー?

 高畑先生でも厳しいと判断されたから、学園最強とか称される学園長が出てきたー?
 ひょっとして俺、なんかとんでもないレベルで警戒されてるー?


 さすが未来道具。学園最高権力者と学園最高の頭脳の未来少女両方からすげぇ恐れられてたみたいだ。

 さっすがだね未来道具ー。


 ……


 こんな事なら早いうちに学園長には正体とか話に行っておけばよかったよ。
 平穏を考えて余計にこんがらがらせてちゃ無意味じゃん。
 問題を先送りにし続けた結果がこれかよ。

 学園長。変に心配かけて、もうしわけないこってす。


「あー、なんというか……」

「む?」

「本当に申し訳ありませんでしたぁ!」

 俺はいきなり頭を下げた。
 もうずばびしーっと90度くらいで。正直土下座してもよかったくらいだね。


「うかつな俺の行動のせいでいろいろ誤解を与えたみたいで。本当にすっみませんでしたー!」


「む、むぅ」
「……」

 あれ、なんか逆効果? むしろ警戒を強められた気がする。


「本当に、ちょっと待ってください。俺は、学園にも、彼女にも敵対する気は全然ありませんから。本当にないんですから」

 俺はそう言いながら、降参するように両手をあげた。

「そちらのお誘いのとおり、ご一緒しますから。ね?」

 にこーっと微笑んでおく。


「それに、こうして俺の前に現れたという事は、俺と話し合いが出来ると判断したからでしょう?」


 二人は一瞬目を合わせ、そしてうなずく。

「話が早くて助かるヨ」
「少々不便な思いをさせるかもしれんが、許してくれるかね?」

「かまいませんよ。それで俺がそちらの敵じゃないとわかってもらえるなら。ああ。エヴァンジェリンとかネギとかへの説明お願いしますね」

 学園祭を楽しめなくなるのは残念だが、この先学園で平穏に過ごすためにも、学園長との誤解は解いておかなくてはならない。
 そのためには、しばらくの不自由も仕方がないだろう。

 変に警戒させちゃったよ。
 そりゃこんな道具を使う正体不明の存在がいたら、学園を守らなきゃならない学園長は警戒もするよなあ。
 手出しするのも躊躇するって、ものすごい心労だったんじゃないか?
 呼び出しないからいっかー。なんてなあなあですごしてたのは悪い事したと思うよ。


 ……それはわかったんだが。


「あのー。ところで、なんでお二人が手を組んでいるんですか?」

 さっきから浮かぶ最大の疑問。
 いくら対俺の為だからって、この時期に未来少女超と学園長の二人が俺の前に来るのおかしくない? 彼女の目的からして、今、魔法使いと相容れるはずがないと思うんだけど……





 その時。





「それは、貴方ではなく、私と戦うためだからよ」
 俺の、耳元で、少女の声が聞こえた。


 ずん!!

 次の瞬間。俺の右胸から、腕が生えた……

「え?」

 そして、力の抜けた、あげたままだった右手をつかまれ、少女の手と共に、手がポケットに入れられる。
 四次元ポケットの中、俺の手に触れた、『ソレ』を、彼女は手に取った。


「観察の結果、貴方の手の先にあると思っていたわ。これが、私の母星を滅ぼした、力の源。これで、貴方の力は、私のもの」


 耳元でささやかれる、この、声……知ってる。これ……
 これ……どこかの、映画館で、聞いた事、ある……


 ずるり。

 俺の胸から引き抜かれる左腕の動きに引っ張られ、俺は、その反動で自分の後ろへと振り返る。


 この子は……


 そこには、俺に向けられた、五指があった。

 ビッ!!

 次の瞬間、俺の視界が、紅く染まる……



「───!!!」



 誰かが、俺の名前を、呼んだ気が、した……






───超鈴音───




 それは、一瞬の出来事だた。

 私も、学園長も、周囲に配置されていた魔法先生も、ソレに反応する事は、出来なかった。


 ソレは、突然彼の背後に現れた。

 空間歪曲転移。
 ワープ。

 そう呼ばれる、科学の技。
 星から星へとわたる、光よりも早く移動する、技術。
 技術がともなわなければ、現れる瞬間すら察知出来ぬ、魔法を超えた科学。

 それを使い、ソレは突然、現れた。


 彼の右胸を貫き、力を失った右手と共に、その腕を、彼のポケットへと入れる。
 そして、その人形のように白い手を彼のポケットから引き抜いたとき、その手には、白い半月型のなにかが、握られていた。


 反応出来ない私達を無視し、彼だけが、ソレに振り向く。

 だが、ソレが、彼の胸から引き抜いた左腕を。その五指を、彼に向けている。


 次の瞬間。


 彼は、五指の光に貫かれ、自らの流す血溜まりへと、崩れ落ちていった……


 その一連の流れに、私も、学園長も、誰も、反応する事が、出来なかった……
 唯一反応していたのは、倒れ行く、彼だけ……


 光に貫かれた、彼、だけ……


 彼が倒れ、彼の影となっていたソレが、私達の前に、完全に姿を現す。

 そこにいたのは、一人の、髪の長い少女だった。
 少女にしか見えないソレ。

 私は、知っている。この存在を。
 こいつは……


「この学園の最高権力者と広域強制認識魔法計画の実行者。そして、私最大の敵。それが一堂に会しているなんて、これほどのタイミングは存在しないわね……」
 彼の血のついた。その胸を刺し貫き、五指の光を放ったそれを、ソレはなめる。


「っ!?」
 私は、その言葉に驚きを隠せない。

 敵!!

 ソレの言った、『私最大の敵』という言葉。これに。

 私の知る歴史ならば、奴等が現れるのは10年後。しかし私は、奴等が、すでにこの地に舞い降りているのを確認してしまっている。
 修学旅行後、ソレを見つけ、私は愕然とさせられた。
 この歴史のズレは、私がこの地へやってきた事による歴史の修正力によるものだろう。

 そして、彼の科学力。あれは、地球のレベルをはるかに超えた科学力だた。
 さらに、私は、奴等が地球人そっくりに擬態したモノを送りこんでくる事を知っている。
 しかも、彼は私の知る歴史にもいなかったイレギュラー。
 それゆえ、私は彼を、その一員の可能性が最も高いと考えてしまた。

 しかし、もう一つ可能性があったはずなのだ。

 彼が、奴等の『敵』であるという可能性。
 それならば、彼が自分の正体を周囲に明かさないのもまた、納得がいく。彼より文明レベルの低い私達は、彼の足手まといでしかないカラ。
 このように、隙を作ってしまうから……

 だが、私は未来を知っている。
 その未来に、彼のような勢力が存在しなかった事を、知っている。

 それが、私の視野を狭くし、その可能性を否定させた。
 未来を、知識として、知っているがゆえに。

 しかし、10年後に現れるはずだった奴等がすでにこの星にいる事を考えれば、ありえる可能性だったのだ。
 なぜ、それに気づかなかったのだろう。
 私は、なんと愚かなのだ。


 彼は、敵ではない。
 となれば、彼の敵……それが、これこそが、私達の警戒していた、真の敵!!

 私は、喉からその名を搾り出す……





「鉄人兵団……!!」



「っ!」
 私の言葉に、学園長もやっと身構える。
 今、この老人も、私と同じ後悔を抱えているだろう。
 私と同じように、彼を危険視していた事に。


「貴方も私を知っていたわね。そう。私は鉄人兵団地球方面前線基地建設用地球人型偵察ロボット。名を、リルルというわ」

 人間にしか見えないそれは、にっこりと。だが、人形そのもののように、微笑んだ。


 これなら、まだ茶々丸の方が人間らしいヨ。
 私は、場違いな事を思わず思ってしまた。




───学園長───




 超君の言った事は、事実じゃった。

 ただ、一つだけ、ワシと彼女の予測と違っていた事がある。

 それは、彼がワシ等の敵ではなかったという事。


 超君は将来鉄人兵団がやってくる事を知っている。そして、彼のような存在がいないと知っていたはずじゃ。
 それゆえ、敵の敵が現れているという可能性など考えつきもしないだろう。
 それを考え付くとすれば、彼女に相談されたワシの方じゃったはずなのに。

 だが、ワシの方も、彼がなにかをたくらんでいると決めつけ、その状況にぴったり符合した鉄人兵団というものだと結び付けてしまった。
 彼が彼女のいう鉄人兵団と敵対するのならば。星々をこえ、襲撃するそれと同等の力を持っていても不思議はないという事に、気づけなかった。

 そして、彼が正体を隠していた理由も、わかるというもの。
 むしろ彼は、その正体を隠しながらも、不自由な力で我々を助けてくれていたのだ。

 ワシは、なんと愚かなのだ。


 しかも、ソレが現れた時、ワシ等はなにも反応出来なかった。
 彼が貫かれた時、彼だけが、唯一反応し、振り向いていたというのに。

 あの時思い返してみれば、彼はワシ等に敵ではない事を示そうとしていた。
 ワシ等の警戒を解くため、ワシ等にも判別出来ぬ障壁などを解いていた可能性もある。

 だとすれば、それは、彼にとって、致命的な隙。
 そこを、狙われた。

 その可能性は、高い。



 この時彼は、最初からバリアなどははっていない。が、この推理はあながち間違いではない。
 もし彼がこの時、なんらかの道具によって防御手段を講じていたとすれば、無用ないざこざを避けるため、それを解除していただろう(『能力カセット』をつけっぱなしにしていたとしても、降参のタイミングで解除しただろう)
 他者に気を使う彼ならは、察知されないと知っていたとしても、思わずやっていただろう。
 なので、学園長の推理は間違いではない。
 つまり、今、この時は間違いなく、彼を襲う、うってつけのタイミングだったとも言えるのだ。



 だとすれば、本当に、ワシは、愚かだとしか言いようがない。
 彼を警戒しすぎた結果がこれか!
 なぜ、もっと早く彼に直接会いに来なかったのだ……
 なぜ、今、直接会いに来てしまったのだ……!!


 彼こそが、我々の真の敵の敵。すなわち真の味方だったというのに……



 彼への疑いは、この時完全に晴れた。
 だが、それはすでに、遅すぎた……




───リルル───




 私は、鉄人兵団地球方面前線基地建設用地球人型偵察ロボット、リルル。祖国メカトピアの忠実な僕。
 だが、この星の暦で言えば、今年の4月のはじまり。

 我が祖国メカトピアが、突然消滅した。
 最初は、なにが起きたのかわからなかった。
 だが、消滅前の情報を整理し、理解する。

 消滅直前。私と同じくこの地球に到着していた『ジュド』の頭脳が、メカトピアに現れていた。
 つまり、何者かが、地球にいた『ジュド』を使い、メカトピア本星を滅ぼすのに利用したと考えられる。
 そこから導き出される答え。メカトピア帝国は、この星にいる何者かに、滅ぼされたのだ。


 祖国は、消滅した。
 だが、私への命令は、消滅などしていない。
 我々の目的は、地球人の総奴隷化。
 その命令は、まだ消えていない。


 メカトピア本星を滅ぼした存在。


 偵察ロボットでもある私は、その存在を突き止め、観察した。
 祖国を一瞬にして滅ぼす存在だ。決して侮ってはいけない。
 人間では決して気づかない程の遠くから観察を重ねる。
 その結果。彼はその手先から、その力を引き出しているのがわかった。
 星を滅ぼすほどの力。
 最初は、それを封じる手段を考えた。
 だが、ある時ふと可能性に気づく。

 その力、奪えないか? と。

 さらなる観察の結果。それが可能かもしれないとわかった。
 そして、それを奪う算段も、つかんだ。
 即死させてはいけない。奴が死んだら扉が開かない可能性がある。よって、一撃は体の自由を。次に力を奪い、そして、とどめをさす。


 あとは、それを奪うタイミングだけであった。


 だが、無理にその力を奪いに行く必要はない。
 調査の結果、我々に対抗しようとするもう一つの計画がある事もつかんでいたからだ。
 
 全世界への強制認識魔法。
 あの計画を考えた者は、私達の襲来を予期し、その計画を考えていたのだろう。
 この世界には、もう一つ、『魔法世界』と呼ばれる別の世界がある。
 そこの存在を明らかとし、我々との戦いから逃れられぬようにする。
 そんな狙いの計画。

 だが、それは我々が利用すれば、逆に人類を総奴隷化する事の出来る諸刃の剣であった。

 彼女達は奴が本星を滅ぼした事はまだ知らない。
 知らせてはならない。
 なぜなら、戦力を失った私は、その計画を逆に利用し、その強制認識魔法をのっとり、そのまま人類を総奴隷化させる事も考えていたからだ。
 計画を逆手に取った人類総奴隷化(そうすれば奴と戦う危険を冒す必要がなくなる)、もしくは、奴の力を奪い、その力によってこの星を征服。
 そのどちらかを考えていた。

 計画発動残り1日となった時。
 最上のチャンスが私の前に現れた。
 この学園の最高権力者と、その世界征服を可能とする計画を実行する者。そして、『奴』。その三者が一同に会したのだ。
 我々がすでに戦力を失っていると知らせないための情報操作。それが功を奏したようだ。
 私によって与えられた情報から、彼女達は、情報隠蔽の甘い彼を、我々鉄人兵団の尖兵だと思ってしまっている。


 そのため彼は、彼女達に敵対意思がない事を見せようと、無防備となった……


 奴の力を手に入れるチャンスと、計画を乗っ取るチャンス。その双方が可能となるタイミング。
 このタイミングを逃す理由はない(逆にここを逃せば、鉄人兵団壊滅を知られ、こちらの計画も破綻する。なので学園長達の行動も決して間違いではない)

 奴から母星を滅ぼす力を奪い、すべての人類を奴隷と出来る計画の実行者。そして、それをサポート出来る学園最高権力者を手中へと収める。

 奴の力も、彼女の計画も老人の権力も利用させてもらおう。
 これらを使用すれば、明日にはこの星は、すべて私の奴隷となる。

 そして、人類を労働力とし、ここを新たなるメカトピアとする。

 いや、奴の、『この』力の源さえあれば、母星さえ、再生も可能かもしれない。

 この、奴の力さえあれば……



 彼女の取り出した白い半月型の『道具』。
 彼を排除するのと共に、彼より手に入れた、『道具』。







 『スペアポケット』






 それが、彼女が取り出した、『道具』の名前。
 すべての『道具』が詰まった、もう一つの『四次元ポケット』。
 彼の『力』そのもの。


 彼女にとっては最高の。他にとっては、最悪の、『道具』。


 いまだ心を持たぬ、人を模した機械の兵と、最強の力を宿した『道具』。

 人類にとって、最悪の組み合わせの敵が、今ここに、出現した。


 超鈴音が恐れ、過去を変えるためにやってきた鉄人兵団より、たった1体でなお恐ろしい存在が、今、ここに、誕生した。








─あとがき─

 というわけで、人類終了のお知らせです。えへっ。

 実は深い意味があった鉄人兵団。
 こっそり第2話で鉄人兵団出てきてあっさり壊滅してますけど、『彼』のいない未来があったとしたら、当然普通にやってきているわけです。
 そして、第9話で、超は自分の知る歴史に、『彼』がいないと言っています。

 つまり、ここに『彼』がいるのはイレギュラー。逆に言えば超のいた『未来』では鉄人兵団は普通に存在しているわけなのです。

 となれば、それが超の歴史改変の理由となっても不思議はないでしょう。
 この理由ならば、学園長も超に協力しても不思議はありません(彼という超存在がなければさすがに鉄人兵団が攻めてくるなんて信じもしなかったでしょうが)

 もっとも、まさかすでに鉄人兵団本星が壊滅しているとは超もさすがに想像外でしょうけど。

 しかし、その歴史のイレギュラーである彼は今回表舞台から退場! さらにその力の詰まった『スペアポケット』の強奪!! そして、鉄人兵団最後の兵。リルル再登場!!!

 10年後に現れるはずだった鉄人兵団の出現と消滅。
 しかし、歴史の修正力からか、その鉄人兵団本隊より手ごわい敵が生まれました。
 鉄人兵団唯一の生き残り。人の心を理解する可能性のある、地球人型偵察ロボット。
 だが、人の心を持たなければ、その命令にただ従う機械のままならば、彼女はまだ、人類の敵なのです。
 そして、従う命令は、『人類総奴隷化』。

 闇に堕ちた彼と同じく、他者を平然と傷つけられる最悪の敵。
 人とのかかわりを持たず、いまだ人の心など理解しない最後の鉄人兵団。
 『スペアポケット』を手に入れた彼女の手にかかれば、人類はまさに風前の灯!

 彼が表舞台からけり落とされた今、この星を、一体誰が守るのでしょう。


 というわけで、次回も超展開が続きます。


 ちなみにラカンのパクティオカードってコミックス24巻限定版についてきていたりします。
 コミックスでもついているんですから未来のカセットにはもっとすごいのがついてきても不思議ないですよ全然。
 え? そんな事言ってる場合じゃないって?




─補足─
 学園祭前の告白阻止通達の際、超はすでに学園長と協力関係にありました。
 なので学園長にその見学を機械により許可されていた(協力してくれる魔法先生との面通しの準備)のですが、計画を知らせていない魔法先生がその機械の存在に気づいてしまい、予想外の追跡がはじまってしまった経緯があったりします。
 学園長から超について知らされていなかったガンドルフィーニチームとネギ達の一戦も発生し、敵対。その後は知っての通りの展開となりました。
 なので、まほら武道会のトーナメントにおいて彼の他に選手変更はありません。

 うまく本編にもりこめなかったのでここで補足しておきます。



[6617] ネギえもん ─第19話─ エヴァルート07
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2012/02/25 21:30
初出 2009/06/26 以後修正

─第19話─




 『オレえもん ネギまと鉄人兵団』




──────




 鉄人兵団。

 それは、生き物の頂点を自称しつつ、生き物ではない存在。
 外宇宙より飛来した、人類。いや、この星に住む生き物すべての敵。

 管理という名目の元に生物すべてを奴隷とし、労働力とする。管理という言葉の意味を違えている種族。
 そもそも、根本的に彼等と生き物は、相容れない。

 あり方そのものが違うのだから。
 そいつ等は、生き物ではないのだから。


 その存在。それが、超鈴音がこの時代へとやってきた、本当の理由。


 超鈴音は知っている。

 将来、鉄人兵団が出現した際、魔法世界はゲートを閉じ、地球を見捨てる事を。
 地球は奴等に支配され、人類は、多くの犠牲を払い、火星へと逃げのびなくてはならなくなる事を。

 魔法使いの力があれば、少なくとも、人類は地球から逃げずにすむかもしれない。
 力を合わせれば、撃退出来るのかもしれない。

 彼女は、魔法の力を知っている。
 それは、彼女のご先祖様が、魔法世界とは違い、唯一この星を見捨てなかった魔法使いだからだ。
 彼女のご先祖は、人類のリーダーとして、人々の希望として戦った。

 それゆえ、彼女は魔法の力を知っている。

 それがあれば、鉄人兵団と戦える可能性がある事を。

 それゆえ、彼女は世界に魔法を公表しようとした。
 自身の計画の成功は、魔法世界を戦いに巻きこむ事になる。それはわかっている。それでも、それは彼女の知る未来より、マシな未来になる事は確かなのだ。


 今の世界の人々に、その行為が理解されなくとも、彼女は、それを実行しようとした。
 悪と罵られようと、人類の未来を勝ち取ろうとした。


 しかし、襲来は10年ずれ。その計画すら、鉄人兵団に利用されようとしている。
 積み重なった偶然により強化されたてしまった認識魔法により、すべての人類が、総奴隷化されようとしている。
 人類総奴隷化に、これほど効率のよい手段もあるまい。

 それは、それだけは、絶対に、避けなくてはならない!
 避けなくてはならないのだ!


 超鈴音は、目の前の偵察機を倒すため、構えた。



「なぜ、この時代にアナタ達が? 私の知る襲来より、10年は早い」
「そうね。私も理由はデータにないわ。ただ、この星の感覚で言えば2年前。突然中枢が計画を前倒しにした。と私のデータにある」

 ……2年前。やはり、私がこの時代に来た影響という事カ。
 やはり、『歴史の修正力』。というやつかネ。


「しかし、私とてお前達への対策をしていないとは限らないヨ」

「あら残念。『ジュド』の体なら、すでに盗り返させてもらっているわ。組み立て、ご苦労様」

「っ!」
 あれは、一種の切り札。あの力は、この星を更地に変えられるほど。ゆえに、鉄人兵団にも有効だと考えていた。それゆえ、超が未来から持ってきたプロテクトが幾重にもかけられていた。
 だが、それすらも、星々をわたる技術を持つ奴には、通用もしなかったという事。
 やはり、科学技術ではマトモに太刀打ち出来ない。

 それどころか、組み立てさせるために利用させられた!? 発見は仕組まれた事。つまり、あれは彼を疑わせるための餌!!
 やはり、彼は、我々に必要な存在だった……
 超は、今更ながら、思い知らされた。


「私の存在は、この星で偵察もかねている。貴女の計画も、すべて私の掌の上。でも、あなたは明日の計画には必要。だから、殺さないわ」

「それは安心ネ」
 冷や汗を流しながらも、超は気丈に答えを返す。

「ええ。安心なさい。貴女も、そちらの老人も、周囲にいる人間も、殺しはしないわ。貴方達は大切な労働力。大切に大切に管理してあげるから、そのこぶしをおろしなさい」

「断るヨ」
「その通りじゃ。残念じゃが、この場でおぬしを倒させてもらう」
 老人と、その周囲にいる魔法使い達も、リルルへと構える。
 いつでも攻撃は、可能だ。

「そう。でも大丈夫。本当に殺しはしないわ。貴方達は私の脅威たりえない。そこに倒れる彼とは違ってね……あら?」

 視線を下におろした瞬間、リルルの表情が一瞬変わる。
 血溜まりの中に転がっていたはずの彼が、そこから消えていたからだ。


「……影による転移。あの真祖の吸血鬼の仕業か」
 助けるために連れ去ったか。
 だが、右胸。さらに、五指の光による頭、腕、胸、腹への損傷。
 それらは、すべて致命傷。生体反応もなし。
 すでに、死は確定している。
 それゆえ、彼に注意など払っていなかった。

 転移後の座標はつかめない。
 異界への転移。さすがのリルルといえど、座標のわからない異界までは追う事は出来ない。
 逆に言えば、座標さえわかれば、ワープで行けるという事だが。

「無駄な事を」
 リルルはその行為を、見下す。
 いくら魔法のある領域だとしても、彼の死は、もう覆せない。なぜなら、確実に死ぬよう攻撃を撃ちこんだのだから。
 命を復活させる魔法などない事を、情報を集めた彼女は知っている。
 この星よりもより進んだ鉄人兵団の科学ですら、生き物の死は覆せないのだから。

 吸血鬼ならば死者を下僕として仮初の命を与えることは出来るかもしれない。だが、『彼』として蘇らせる事など不可能。
 無駄な足掻きだ。

 どの道、その力は手に入れてある。
 すでに用済み。

 母星すらうち滅ぼすこの『力』さえあれば、もう怖いものなどはない。


 さあ、まずは人類総奴隷化のために、目の前の小娘を捕まえよう。


 リルルはゆっくりと動き出す。
 それにあわせ、魔法使いもリルルへと一斉に動き出す。


 だが、リルルは迫る魔法使い達の事など気にも留めないように、言葉を紡ぐ。


「貴方達が、なぜ、そこまで彼を警戒していたか、理由はわかっているわ。その理由の一つ。それが、これでしょう?」

 リルルはそう言い、左腰に貼り付けた半月型のポケットから、一つの懐中時計のようなものを取り出した。


「っ! 彼の力!?」


「ほんの一瞬。気づかない間に、動けなくしてあげる。明日の儀式までの辛抱よ。それが過ぎれば、誰も、なにも、疑問に思わなくなる」
 儀式が終われば、この星のすべては、すべて彼女の奴隷と化す。
 強制認識魔法により、彼女を主と認識してしまう。どのような事も疑問も持たず、言う事を聞くようになってしまう。

 それまでおとなしくしていればいい。


 かちり。

 リルルがボタンを押しこんだその瞬間。




 時が、止まった……





──────




 かち。かちと、時計が時を刻む。

 針が進むにつれ、その炎は、弱ってゆく。
 時が進むにつれ、その灯火は、消えてゆく。

 運命の時間を指し示す、その時を目指し、針は進む。



 ……


 ああ。闇が、せまってくる……


 この感覚は、知っている……
 俺じゃなく、この体が、知っている……
 これは、俺の体が、死ぬって、感覚だ……

 体が一度体験した、『死』が迫っているという感覚だ。

 俺は知らない。でも、この体は、知っている、感覚だ……

 この、奈落へと落ちてゆくような感覚を。
 この体は、知っている……

 だから、俺は確信する。俺は、もう、助からない……

 と。



「──!」


 目の前に、誰かが居る……金色の、髪……ああ、エヴァンジェリンか……


「───! ──!!」


 エヴァが、遠くでなにかを言っている。
 もう、遠すぎて、なにを言っているのかも、わかんねえよ……

 なんで、泣いてんだよ……

 ああ、俺が、死ぬからか……お前、ホントは、優しい、からな……


 泣くなよ……

 俺が、死ぬからって……


 わびとして……
 ああ、せめて、お前だけでも、人間に戻してやってもよかったな……
 あの時、半分騙した、ままだったしな……

 わりぃな……お前の呪い……といてやれなくてよ……
 せめて、死ぬ前に、呪いくらい……

 ダメだ。ポケットに手を入れても、選ぶ余裕もなければ、取り出す力もない。
 手を入れたところで、俺は、そのまま、力尽きるだろう。
 そして、俺が死ねば、たとえ手を入れていても、そのポケットは閉じ、ただのポケットとなる。

 俺は、もう、『道具』を取り出せない……

 死の迫る俺には、なぜか、それがわかる。
 わかって、しまう……


 ああ。俺の命が、死の奈落に、沈んでいく。


 最後に見えた人影。あれは、あの子は、リルル、なんだろうなぁ……
 人の心なんて、まだ理解してない、鉄人兵団の尖兵の、リルルなんだろう、なあ……

 心無いリルルに、『スペアポケット』、奪われたのか……それ、やばい、よな……
 時間とか、とめられたら、手に、負えない……よな……


 ──!


 ……死を目前にして、一つ、ひらめいた。
 たとえ時を止めていたとしても、道具を使っていたとしても、あのリルルに、対抗出来るかもしれない、手段……を……


 俺は、ひらめいた……




───エヴァンジェリン───




「アル、どうにかしろ!!」
 私は、影のゲートを使い、あの憎たらしいアルビレオの場所へと跳躍(と)んだ。

 彼との試合を見て、すぐあのフードがアルビレオだと気づいた。
 だが、彼のパクティオカードの真相を確認する方が重要であったがために、無視していた。
 一応注意はしていたため、彼の元から転移した先はわかる。

 だから即座に、影を使い、彼をアルの元へと運んだ。
 ふらふら逃げ回るヤツだが、今回ばかりは跳躍先を異界とし、私を待っていた。

 ああ見えてアルは、治癒魔法の使い手だ。あいつならばきっと……


「……無理です」


 だが、答えは、非情なものだった。

「いくら私でも、死は、覆せません」


 ……そんな、事、わかっている。


 6ヶ所の致命傷。
 しかも、ご丁寧に対治癒を念頭に入れた、なんらかの呪をこめた攻撃。

 一目見ればわかる。

 傷は治るだろう。
 だが、命は、失われた命だけは、どのような魔法をもってしても、癒す事は出来ない。

 どれほどの魔法使いをもってしても、この傷を。いや、死を、覆す事は、出来ない。

 彼は自らの力で、不死身の吸血鬼へと為る事が出来る。だが、今はそうではない。今の彼は、呪いに封印された私と同じように、ただの人と同じ体なのだ。
 さらに、その『力』は奪われた。すでに、自ら吸血鬼と為る力すら残っていないだろう。


「あなたも、それはわかっているはずです」

「うるさい! お前なら、お前なら出来るはずだ! お前なら!!」
「……」

 いつもふざけ、おどけるあのアルビレオが、すまなそうな顔で私を見返す。
 わかっていた。わかっている。だが……


 エヴァンジェリンはなぜ、今、他人の為に回復魔法を習得していなかったのかを後悔した。
 それが今、無意味な魔法だったとしても、習得を考えていなかった自分に、今なにも出来ない自分に、彼女は悔いていた。


 彼の血を吸い、もしくは血を与え、眷属とする手段があるように見えるかもしれない。
 だが、それは無意味だ。

 眷属にするという事はすなわち、彼の命を自分で奪う事なのだ。
 死を覆すのではない。死の中に彼を閉じこめるという事だ。
 それは、彼を模して動く、彼の抜け殻を作るにすぎない。眷属となっても、命が蘇るわけではないし、死は、覆らない。
 そこに生まれるのは、『命』の源。魂を吸血鬼に奪われ、失った、ただのヌケガラ……
 それは本当に、彼によく似ているだろう。彼そのもののようだろう。だが、それは、彼によく似た、彼とはチガウもの。

 吸血鬼の眷属とする事とは、結局はそういうものなのである。
 魂を闇に落とし為る真祖とは違い、眷属とは所詮、吸血鬼の力で作る、シモベなのだ。
 その彼は、結局、生きてなど、いない……

 眷属となってその人が『蘇る』というのなら、彼女が孤独でいたなどという事は、ないのだから……


 だが、彼を本当に失うならば……と、エヴァンジェリンはその闇の誘惑にかられる。
 ヌケガラでもいい。無に帰るよりはと、彼女自身の自己満足のためだけの誘惑……
 自ら一度も行う事のなかった、人の尊厳を奪い、生み出す、眷属の作成……
 ゆっくりと、その首へと、その唇を近づけてゆく……

 無意味とはわかる。だが、それでも、彼を失いたくは……


「……エ……ヴァ……」

 こひゅーこひゅーと、喉から漏れる音の中で、私の名を呼ぶ声が聞こえた。
 ぱくぱくと、彼の口が動く。

「なんだ!? なにが言いたい! 大丈夫だ。お前は、絶対に助かる!」
 そう言いながら、彼の言葉を聴くために、私は耳を近づける。

「……あいつらの、事。この、世界の、事……たのむ……」
「っ!」


 彼女の耳に、そうささやいた直後、彼は、最後の力を使い、彼女を、そこへと引き寄せた……


 エヴァンジェリンの姿が、その場より、かき消える。




 彼は、アルを見て、微笑む。
『すまない……約束、守れ、ない……』
 そして、彼は、静かに目を閉じた……


「……あなたも、最後まで、自分ではなく、他人を心配するのですか」

 アルビレオは、そのまま、フードを深くかぶりなおした。




 彼の、命の灯火が、今、消える……





───ネギ───




 タカミチとの試合開始直前。
 舞台に上がろうとした時、懐に超さんからいただいたカシオペアが懐に入ったままになっていたのに気づきました。
 緊張しすぎて置いてくるのを忘れちゃったみたいです。
 壊れちゃうと困るから、誰かに預かってもらおうと通路を戻ろうとした、その時でした。

 突然、それは起こりました。

 今まで騒がしかった会場から、いっせいに音が消えたんです。

 応援するアスナさんが、観客のみんなが、まるで、固まったかのように停止しています。
 ふと見ると、懐から出したカシオペアが光り輝いていました。

 これは、タイムトラベルに関係する事?
 これはひょっとして、時間停止……?

 そう気づくのに、あまり時間はかかりませんでした。
 でも、一体なぜ?


 そう思った直後、舞台に、なにかが降ってきたんです。


 派手な音と共に、舞台の床板を破壊し転がり、煙の中で、彼女は、立ち上がる。

「……さすがに、最新の軍用強化服程度では相手にならない、カ」

 そこにいたのは、強化服に身を固めた、超さんでした。

「超さん!?」
 僕は、彼女に駆け寄る。

「時間停止への対抗手段。完成していましたか」
 ふわりと、水面の上に髪の長い少女が降り立つ。
 僕はその少女に見覚えがあった。
 朝、ジュースを拾ってくれた人だ。

「さすがにネ。でも、お前に対して使う事になるとは思わなかたヨ」

「そうですね。我等鉄人兵団といえども時は操れない。時間停止に関して情報は確認不能ゆえ、完成は不確定要素でした。ですが、それでも想定内。人類の戦力は貴女一人。たった一人で、私に勝てますか?」

「残念だが、私一人ではない。もう一人、いるネ」

 超さんが、僕を見た。

「ほう。彼女ですか。データによれば、10年後の人類側の指導者だとか?」
「そこまでデータを盗られてタカ。これは手厳しいネ」

「何度も言いますが、私は偵察ロボット。この程度のデータ収集など朝飯前という事。貴女の集めたデータは全て私の元にあります。それでも、あなた達は私に勝つ気なのですか?」

「厳しいけど、泣き言は言えないネ。私は、お前達に抗うため、この時間へ遡ったのダカラ」

「え? え?」

 僕は、いきなりの事で事態が飲みこめません。
 一体、なにが起きているの?

「ネギ先生! 信じられないかもしれないが、そいつは、人間ではない! 人類の敵ネ!」
「ええー!?」


「ははははは。その通り。と肯定してあげてもよいですが、彼女がそれを理解してくれるかしらね?」

「わからないネ。しかし、嫌でも理解してもらうヨ! ネギ先生! ──!!!」

「え?」


 その言葉を言われた時、僕は、理解出来なかった。
 いや、理解したくなかった!
 あの人が……


「もう一度言うヨ! 彼は死んだ! 力を奪われ、殺されたネ! そこにいる、人類の敵に!」

「年端も行かぬ少女にひどい事実を突きつけますね」

「その左腕に残る、彼の血が、動かぬ証拠!」

「……これはしまった。彼の血、ぬぐっておくべきでした」
 動かぬ証拠である、彼を貫いた腕。
 ぺろりと、どす黒くなったその左腕を、少女はなめる……


 どくんっ……

 感じる。
 その血が、あの人のものだと。

 どっどっどっ……
 心臓が、跳ね上がる。

 わかる。
 目の前の少女が、あの人を、手にかけた。と。


 その血が、紛れもなく、あの人のものだと。それは、致命傷だったと、わかってしまう。


 ……あの人が、死んだ……?
 あの人を、殺し、た……?



 ぷちん。
 僕の中の、なにかが、切れた。




───超鈴音───




 とん。


「っ!?」
 その刹那、ネギ先生は、偵察機の前にいた。

 ドッ!!

 そのまま、偵察機を上空へと跳ね上げる!!


「魔力のオーバードライブ。キレたと言ってもいいネ。さすが未来の指導者。人類の希望。ネギ・スプリングフィールドの潜在能力。さすが私のご先祖様ネ」

 どうやらあの偵察機は、ネギ先生の事を現段階では重要視していなかったようだ(正確には彼しか脅威とみなしていない)
 強引な参戦方法だったが、こちらにも余裕はない。
 あの偵察機は、なんとしても倒さねばならない。

 彼が何度も。それこそ警告するかのように使用していた時間停止。
 その前例のおかげで、ぶっつけ本番だったが、カシオペアによる時間停止への介入を実現出来た。

 しかし、カシオペアによる時間停止への介入。これは、今、この世界樹の魔力が満ちているこの間にしか使えない。
 しかも、カシオペアを起動出来る人間も限られている。学園長達は起動させられなかた。
 これは元々他人に使わせるつもりがなかったのが原因カ(それゆえ、ネギが保険となっていた)


 この機を逃せば、『彼』の力を得た偵察機に、抗う手段すらなくなってしまう。
 そうなっては、人類は本当に終わりだ。

 『彼』の力を奪った鉄人兵団。それはすなわち、最強にして、最悪の敵なのだから。


 暴走したネギ先生が偵察機に攻撃を加えている。
 一人では厳しいだろう。だが、私も加わりさえすれば……!

「科学と魔法の融合。お前達と戦うために生み出された力、見るがいいネ!!」

 一人で戦っていた場合では、解除コードを唱える事が出来なかった。
 こういってはなんだが、ネギ先生を囮として、私は最終手段を起動させる。


 呪紋回路開放封印解除。

 ──ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル!


 私の体に、魔力が流れるのを感じる。
 激痛と、共に……

 だが、この程度の痛みに負けてなどいられない!


 私は、呪文を唱えながら、目標へと向かって、飛んだ!




──────




 オーバードライブ(暴走)状態のネギ。
 さらに、呪文開放の超。

 この二人をもってしても、彼の道具を手にした最後の鉄人兵団。リルルに対して、有効な攻撃は与えられなかった。


 斬!!


「くっ!」
 強化服を『秘剣・電光丸』に切り裂かれ、超は空中を転がるように、距離をとる。


「ああああぁぁぁぁぁぁ!!」
 ネギの咆哮。
 そして、放たれる巨大な雷。

 それにあわせ、超も時間跳躍弾を撃ちこむ。

 だがそれは、『ひらりマント』によって別の方向へとそらされてしまう(マントは茶々丸が視認している。それゆえデータを盗んだリルルも存在を知っている)
 時間跳躍弾が命中すれば、3時間先へ飛ばせる。そうすれば、対策が少しでも立てられるが、そもそも着弾させられなくては意味がない。
 さらに、あの偵察機にはワープという回避手段も残されている。

「まさか、これほどの戦力差があろうとは……」


 超は、彼がどれほど周囲に気を使い、力を抑えて戦っていたのかを痛感していた。
 偵察機。リルルそのものは偵察型だけあって戦闘能力はそこまで高くはない。
 だが、『彼の力』を得た偵察機は、超の想定していた彼の脅威力をもはるかに上回っている(鏡の世界で起きたヘルマン戦は彼以外にその惨状を知る人はいない。知っていれば、それ同等と評価しただろう)

 最大にして究極。『時間停止』に対抗出来たとはいえ、接近戦は刀で。遠距離攻撃は肩から羽織ったマントで。これだけで、手の出しようがなくなる。
 さらにリルルは、他にも道具を準備しているだろう。

 ただ、一つだけ超達に幸運だった事がある。周囲の音を吸いこみ、呪文を封じる『吸音機』。それが未だ壊れたままだったのだ。なぜ直していなかったのかは、彼の気まぐれとしか言いようがない。
 だが、そんな気まぐれによって、彼女達は、呪文を使って戦う事が出来る。


 気づくと、リルルは刀を持つ反対側の手に、本を広げていた。


「っ!」
 超の本能が、危険だと告げる。
「『吹き飛べ』!!」

「くっ!」
 身構える。だが、それは誰にも効果を表さない。

「……やはり、これは彼にしか使えないようね」
 失敗を当然のように納得し、それをポケットへとしまうリルル。
 ルール設定時が時間停止中であり、その後リルルの前で2度と使用していないので、さすがのリルルもそのルールは完全に把握していなかった。


「そして、いい事もわかたヨ。お前はまだ、その力を、完全に使いこなせていない」
「ええ。そうなの。だから、貴方達を相手にこうして実験しているのよ」

 超を馬鹿にするよう、笑う。だが、その表情は、やはり人形だ。

「ずいぶんと余裕ネ。だが、それが命取りになる」

「それもそうね。実験は後からでも出来る。今は、『時間停止』に介入する貴方達を無力化する方向で行きましょう」

「っ!」


 そしてリルルは、一つのカセットを取り出した。それは、『能力カセット』。
 そして、そこにあるタイトルは……


『千の刃のラカン』
 彼女はそれを、腹へと押し当てた。


 キュイィィン!

 ただの偵察機が、魔法世界最強の力を得る。

「死なないように、耐えなさいよ?」

 リルルは、こぶしを握る。


 ボッ!


 超は、そのこぶしを、さけられそうになかった。




───超鈴音───




 この攻撃は、避けられない!
 偵察機の拳を見て、私はそう思った。


「超さん!!」


 だが、私はその攻撃で、死ぬことはなかった。
 代わりに、偵察機が雷に襲われ、巨大な爆発が見える。攻撃の瞬間を狙われたため、回避も反射も出来なかったようだ。


「……ネギ、先生?」
「大丈夫ですか超さん!」

 暴走状態だったネギ先生が、私を救ってくれていた。
 生徒のピンチに正気を取り戻すとは、あなたは本当に、先生なのだナ。

「って、超さんなんですかその体の呪紋! この魔力!」
 暴走中呼び寄せた杖の上に立ち、ネギ先生は聞く。
「……今更の話だヨネギ先生。今は気にしなくてよい」

「気に……いえ。それを使わなくては、勝てない相手なんですね?」
 ネギは理解していた。アレが、本当に人間ではない事を。そして、本当に、人類の敵である事を。
 雰囲気としてはフェイト・アーウェルンクスに近い。だが、それ以上に『命』を感じない事に気づいた。

「物分りが早くて助かるヨ」

「わかりました。じゃあ、超さんの負担が少なくなるよう、二人で倒しましょう」

「……」
 私は、一瞬呆然とした後、くすりと笑った。

「? どうしました?」
「イヤ、優しいのか甘いのか、それとも厳しいのか、判断に困てネ」

 超の体に施された、魔力を強制的に引き出す呪紋。それは、使えば使うほど、体に大きな負荷がかかる代物だ。
 超への体の負荷を考えるならば、戦うな。だろう。彼女はそう言われるかと思ったが、ネギは超の意思も尊重しつつ、それでいて、超の体を考えた答えを返してきたのだ。
 それが、超には予想外で、だが、その予想外に、ネギがきちんと自分を認めてくれたような気がして、うれしかったのだ。

「そんなことより、ネギ先生の方こそ大丈夫カ?」
「僕の方は平気です。さっきのも超さんのおかげでなにかつかめた気がします。いいですか? 今から僕と超さんで、彼女を倒します!」

「……はは。二人でいるのが、これほど心強いとは思わなかったヨ」
「そうです。仲間は心強いものなんです。それでは、行きますよ!」
「了解ネ!」


 雷の爆煙の中から、偵察機が姿を現す。



 ネギ先生も正気に戻た。これからが、仕切りなおしヨ!




───リルル───




「!?」

 ネギ・スプリングフィールドが理性を取り戻し、超鈴音と共に連携をはじめた瞬間。
 二人の動きが、完全に変わった。

 一人ひとりではこの『能力カセット』の能力付与にすらまったくついて来れないはずなのに。二人となれば、それと互角に渡り合えるようになったのだ。

 先ほどの二人を考えれば、この星の魔法世界最強と認識出来るこのカセットの強さに抵抗できるとは思えない。
 だが、事実は違う。
 同じ二人で、私を翻弄している。一方が一方をフォローし、見事に戦い抜いている!
 足りない力を補い合って、私と互角に戦っている!

 さらにこの二人は、共に戦った事などもなかったはず。
 それなのに、まるで幾度も戦いを潜り抜けたような、正確な連携をしている。

 パワーは受け流し、二人で防御を崩し、一方が刀をひきつけ、小さくともダメージを与えようとする。

 しかもネギ・スプリングフィールド。いつの間に、あの魔力暴走をものにした!?
 必要な時だけ発動されるそれは、無駄な消費もなく、とても効率的な力の発動だった。
 超鈴音がなんらかの手助けをしたというのか!?
 それとも、お前達二人で、今この瞬間も、成長しているというのか!?


 1+1が2ではなく4や10になっている!?
 いや、それでも足りないはずだ!
 400と300の戦闘力。500にも満たない力達で、10000を超える力と、どうして互角に戦える!?


 こんなものは、私のデータにはない。
 これが、人間の力だとでもいうのか!?


 まるで、一つの意思と戦っているようだ。
 だが、データリンクでつながる我々の個であり群れであるそれではない。
 もっと、大きく。だが、小さな、意思の繋がり。



 これは一体、なんだ!?



 彼女は知らない。


 それの名を、絆という事を。


 彼女は、まだ知らない。




───超鈴音───




 不思議な感覚だた。
 ネギ先生と共に戦っている。

 それだけなのに、彼の『力』すら持ち、圧倒的な強さを誇っていた偵察機が、恐ろしくなくなった。
 ネギ先生の考える事がわかる。
 私の欲しいフォローが、即座に入る。

 たった二人しかいないのに。
 まるで、何人もの人と共に戦っているように感じた。

 ネギ先生に力の使い方を教えた者達の、想いが力を与えてくれる気がした。
 クーの教えが。エヴァンジェリンの教えが。刹那サンの教えが。明日菜サンの教えが。そして、彼の教えが……

 足し算などではない。力の、乗算。そう感じるほどの、不思議なつながり。

 私の力が、限界以上に引き出される、この感覚。

 ネギ先生とならば、私は、何者にも負けない。
 そう感じさせてくれる、なにかが、この時あった……


 魔力の強大さや、呪文の力などではない。


 人の心を纏める力!


 これが、真の、ネギ・スプリングフィールドの力!




──────




 心を持たぬ機械ではわかりえぬ人間同士の絆。

 今のリルルでは絶対に理解出来ぬ事を目の当たりにし、その一瞬に、リルルは動揺する。


 その隙を、ネギと超は見逃さなかった。


「今です!!」
「行くネ!!」

「『雷の暴風』!」
「『燃える天空』!」

 オーバードライブ状態を意識的に引き出したネギと呪紋完全開放の超。二人の最大魔力をこめた魔法が、リルルへ向け、放たれる。


 しまった! 転移も、肩に設置した『ひらりマント』も間に合わない!
「くっ! あ、あああぁああぁぁぁぁぁ!!」

 雷と炎。
 二つが一つになり、その渦へと飲みこまれ、リルルの体が崩れてゆく……



 自分と仲間の力を最大まで高めあえる戦い方。
 ネギが目指した、『スタイル』。


 それが今、花開いた!




──────




「はぁ。はぁ。や。やった!」
「やったネ! さすがヨ!」

 次の瞬間、超のスーツのいたるところが、火を噴く。
 超の体も、悲鳴を上げていた。

「ぐっ……もう、限界のようだ」
「お疲れ様です。超さん」
 杖の上に超を乗せる。
 ネギの方も、暴走し、その後もその魔力暴走ともいえる魔力をコントロールし、今まで戦いどおしだったため、もう限界が近い。
 
「ありがとうネギ先生……これで……」

 超が礼を言おうとしたその時。



 ──残念だったわね。



「っ!」

 リルルの声が、虚空に響いた。


『復元光線』


 瞬く、光。


 雷と炎の渦が消えた中から現れたリルル。
 その姿は、まったくの無傷だった。

 鉄人兵団のリルルだけならば。ただ、機械の体を持つだけの兵ならば、先ほどの一撃で消滅していただろう。
 魔法があれば鉄人兵団と戦える。超の考えは、確かに正しい。

 だが、今のリルルの手には、どのような損傷も、浴びるだけで復活させてしまう、理不尽の塊ともいえる。彼の『道具』があった……


 手に出現した『復元光線』が、その手の中。開いた掌、見えた機械の『内部』へと吸いこまれてゆく。
 同様に時間停止を実現している『タンマ・ウォッチ』も、『体内』に収納されている。
 これはなんと、武装解除対策でもある。


「今のは確かにデータにありませんでした。これが、人間の強さ。意思と、魔法の力。それを公表し、協力させようとしたのもうなずけます。ですがもう、通用しませんよ」


「そ、そんな……」
「くっ、なんという事ネ……」
 ネギの杖の上で、二人はがくりと、ひざをつく。


「力尽きましたか。そうでしょうね。人間の心を折るには、希望を破壊すればよい。私はそう知っています。さて、それでは、明日まで動けないようにさせてもらいましょうか」

「くっ……」

「眠りなさい」


 リルルが、『ショックガン』を構える。


 その引き金が……




 ──そうは問屋がおろさんさ。




 ……引かれようとしたその時。
 声が、響いた。

「っ!?」

 その声は、なんと、リルルのポケットの中から。


 ずっ。


 『スペアポケット』の中から、しなやかな腕が伸び、それが、リルルの首を狙う!


「止まった時の中に、侵入してくる者がいるだと!?」

 その腕を、『ショックガン』を盾とし、それを吹き飛ばされつつも、リルルはすんでのところでかわす。

 だが、ポケットと自身がつながっているため、そこから現れる存在からは、逃れられない。


 とん。
 ポケットからはいでたその存在の、反対の腕が、ポケットの付け根側。リルルの体に触れる。
 衝撃がリルルを襲う瞬間。

「だが、逃げ切れないのは、貴女も同じ!」

 ポケットから身を乗り出しているという事は、リルルも手を伸ばせばその存在に届くという事!


 ゴッ!!
 リルルの体を衝撃が襲った瞬間。その腕に持っていた『秘剣・電光丸』は、現れた存在の体を刺し貫いた。
 ポケットをリルルから引き剥がそうとしていたその存在は、それを奪う事をあきらめる。


「ぐっ……!」
「ふん」

 苦しみの声を上げたのは、リルル。
 その衝撃で、その存在は完全にポケットから出現し、二人は距離をとった。

 刺し貫かれ、距離をとる事となった原因の刀を引き抜き、そのまま地面へと投げ捨てる金髪の少女。
 その体の傷は、瞬時に再生してゆく。


「……貴女は」
 リルルが、苦々しくその存在を見る。

「エヴァンジェリン……?」
「マ、マスター!?」
 超とネギが、その場に現れたもう一人の魔法使いを見て、驚きの声を上げた。


 そう。『スペアポケット』の中から現れたのは、ネギの師匠。
 彼の四次元ポケットより入り、この場へと導かれた、真祖の吸血鬼。エヴァンジェリンであった。


「あいつの力、好き勝手に使ってくれたな。その罪、万死に値すると思え!」

「そうですか。彼が、最後の力でこの場にあな……っ!?」

 リルルが最後に「貴女」と言い終わる直前。
 次の瞬間、リルルの目の前に、エヴァンジェリンがいた。

 その拳が、リルルにつきささる。

(これは、『デンコーセッカ』!?)
 そう。この雷の様な速さ。リルルは、知っている!!

 そうか。あのポケットを通ってきたという事は、ポケットの中で道具を手にする機会があったという事。

 エヴァンジェリンの拳によって吹き飛ばされ、空中の力場に着地するリルル。

「貴女もその恩恵を受けた。というわけですね」
「そういう事だ。これで、貴様と互角。いや、貴様の場合、機械であるが故、服用系のモノは一切無意味。そういう点では私に分がある」

 リルルも装備している『ウルトラリング』を、エヴァンジェリンが見せる。

「どうでしょうね? やってみなくてはわかりませんよ」
「ふん。道具とやらを取り出させる暇などは一切与えんぞ?」


 二人の視線によって火花が舞ったその瞬間。
 彼の道具を持つモノと彼の道具を持つ者の戦いが、はじまった。




───エヴァンジェリン───




 彼に世界を頼むと言われた瞬間。
 私は、彼のポケットに吸いこまれた。

 ポケットに吸いこまれたその瞬間、その入り口が、私の目の前で閉じたのを感じた。
 扉が閉まり、そこからは、出る事が出来なくなった。

 そして、その扉が、私の目の前から失われた瞬間。私は、彼の命もつきた事を、理解した。

 彼は、死んだ……


 死んでしまった!


 死を司る吸血鬼だからこそわかる。
 彼の命が失われた事が。
 命の灯火が消えた事が。

 わかってしまう。


 私を優しく照らしてくれた光が、消えてしまった……


 彼の『力』の中で、私は呆然とする。
 目の前にいたのに、なにも出来なかった。
 目の前にいたのに、彼の命は、失われてしまった。

 そして、その視界に、もう一つの出口が見えた。

 その先に、彼の『力』を奪い、命も奪った奴がいる。
 それが、直感的に理解出来た。

 さらに、もう一つわかった。外の時間が止まっている事もだ。
 なぜわかったのかはわからない。
 だが、ここの時間は、止まらない。
 そこで、理解する。その止まった時間へ対抗するために、彼がこの道へ私を入れたという事に。

 自分の力を使い、暴れるソレを、止めるために。
 世界を、救うために……


 彼の最後の力で、私は彼の『力』そのものの場へと送られた。
 自分の命を長らえる選択も、彼には出来たのかもしれない。
 だが、それをせず、彼は、この世界を救うための手段をとった。


 世界を、私に、託した。


 闇の誘惑にかられた私と違い、彼は、最後まで、他者を、世界を選んだ。


 どこまで! どこまでお前は、他人に優しいんだ!!
 そして、どこまで、誇り高いのだ……


 私は、涙をぬぐい、そのもう一つの出口へと向かう。


 そこにそいつがいる。
 彼を殺したあの娘がいる!

 わかる。アレは、人間ではない。生き物ですらない。

 アレは、人形だ。人の形をした、心も持たないただの人形だ!


 そいつは、絶対に、私が、破壊してやる!

 彼の受けた痛みを、100倍にして、後悔させてやる!!

 私がこの手で、粉々にしてやる!!


 そして、このような世界も!! 彼のいないこんな世界!
 私を導く光の失った、こんな世界!!

 こんな世界など!!


 ナクナッテシマエバイイ!!


 そう思ったエヴァンジェリンの前に、一つの『力』が現れた。


「っ!」

『地球破壊爆弾』

 すべてを破壊する力。
 この星すら、塵へと返す力。

 それを目の前にした瞬間。私は、彼にしかられたような気がした。
 これを手にとって、それで、すべてを吹き飛ばす事は可能だろう。

 だが、それは、彼は望んでいない。
 彼は、私に言った。この世界を、頼むと……


 彼は、死を目前にして、世界を、私に、託したのだ……


 私は求めた。
 光を。

 だから、私は、決めた。この世界を、受け入れようと……
 彼となら、受け入れられると感じた。

 だから……


 だから私は、この世界を守らねばならない。


 彼が、私に、託したのだから。
 私は、彼に、託されたのだから。


 それだけが。
 それだけしか、今の私には、残されていないと、気づいたから……


 私はその『力』を無視し、他に集まった、アレと戦うために必要な道具へ手を伸ばした。
 今、世界を守るために必要な、力だけを……

 彼の敵だけを倒すためだけの、『力』を。



「だから、私はお前だけを破壊する。例えあいつがいなくても、私は、あいつの望みどおり、この世界を、小娘達を、守る!」




──────




 『デンコーセッカ』による圧倒的な速度と、真祖の吸血鬼であるエヴァンジェリンの実力。
 人知を超えた詠唱速度と、科学の恩恵によるパワー。さらに、すべての攻撃を回避する速さと蝙蝠化による攻撃の無効。そして、不死身の体。
 リルルが科学と科学の組み合わせとすれば、エヴァンジェリンは科学と魔法の組み合わせ。

 科学と科学という、どこかが干渉してしまう組み合わせではなく、科学と魔法という、力同士が相互に高めあえる、最良の組み合わせ。
 魔力と気と同じように、それは、もう一つの究極であった。

 彼と共にあり、まさに最強の魔法使いとなったエヴァンジェリンは、一瞬にして、リルルを追い詰めた。


 攻撃から逃げた先。ワープ出現地点を見切り、そこで魔力を基点に、リルルの体が糸で縛られる。

「くっ!」
 パワーは『道具』と『魔力』の補正によって互角! さらに糸にふくまれた『道具』の力も加わり動きも封じる!

 ならば、リルルは抜け出せない!
 そして、これで、攻撃はかわせない! 跳ね返す事もならない!!


「とどめだ!!」


 右腕に魔力を集中させる。


「『エクスキューショナーソード』!!」



 その攻撃は、リルルの体を──




 かちり。

 どこかで、そんな音が響いた。

 ちちちちちち。
 遠くで、鳥の羽ばたく音が、聞こえる。
 風の音が、かえる。
 止まっていた時計が、動き出す。


「っ!」




 ──貫く事は、なかった。



 右手に集まっていた魔力の刃が消え、エヴァンジェリンの攻撃が、空を切る。



 空中ですれ違うエヴァに、リルルがささやく。
「私は偵察ロボット。貴女が今、魔力で飛んでいる事は知っています。貴女が、どのような状態なのかも。貴女の力は、時が止まっていたからこそ、出せていた力……」

 そう。エヴァンジェリンはまだ、呪いが完全にとけているわけではない。
 『タイム風呂敷』では記憶が失われると思い、『コピーロボット』に呪いの精霊を誤認させているに過ぎない状態だ。

 一定以上の魔力を使えば、その呪いが、エヴァンジェリン本体へと舞い戻る。

 ただ、時が止まっている間は、呪いも働かず、エヴァがどれほど力を使おうと認識される事はない。


 だが、時が動き出せば──



「貴女がまだ、結界に捕縛されている事は知っています。呪いが完全に解けていない事も。それだけの力を出しているという事は、今『分身』ではなく、本体へ呪いがかえるのでしょう?」

 情報。それこそが、偵察ロボットであるリルルの、最大の武器でもあった。

「貴女が速さで勝負をかけてきた理由は察せます。私が時間停止を解除する前に、私を倒す。そのために私の手足も封じた。ですが、残念でしたね。手足が封じられても、私(機械)ならば、スイッチ一つなどどうにでもなります」
 『タンマ・ウォッチ』、『復元光線』はリルルの『体内』に収納してある。それを操作するなど、ロボットである彼女には造作もない。
 さらに、その場にいた誰もが、圧倒的優位(解除すれば数の上でさらに不利になる)を発揮出来る時間停止を、自分から解除するとは、予測もしていなかった……



 ──力を最大限に解放していたエヴァンジェリンに、呪いが、戻る!



「くっ、そ……」


 エヴァンジェリンの体から、力が抜ける。
 彼の道具と彼女の魔法。それはもう一つの最強の組み合わせではあった。

 だが、一方が封じられてしまえば……


 彼女は、一つの力を失い、落下をはじめた。



「さようなら、真祖の吸血鬼。その呪いがなければ、貴女の勝利は揺るがなかったかもしれません……」



「マスター!!」
「エヴァンジェリン!」
 ネギと超が手を伸ばす。
 だが、力を使い果たし、魔力切れに近い彼女も、ただ浮いている事しか出来ない。

 落下するエヴァンジェリンを、助けに行く事など、出来なかった。


 不死身であるがゆえ、彼女はダメージに対する道具を使用していない。
 吸血鬼であったがゆえ、『ヴァンパイアセット』のマントなどは装備していない。
 それゆえ、呪いの戻った今の彼女は、10歳の少女としての耐久力しかない。

 となれば、空に浮いていた今、ここから地面へと落下すれば……




 ……ああ。

 エヴァンジェリンは、落下の中。
 走馬灯を見ていた。

 そこに見るのは、ここ数ヶ月の出来事。


 あの夜、突然出会った、人とは思えぬ化生。
 しばらくして、偶然見つけたあの背中。
 その夜、チャチャゼロを退け、自分をも退けた、出鱈目な存在……

 最初は、気に入らない奴だった。
 半分嫌がらせもかねて、近づいた。

 だが、気づけば、その人柄が、気になっていた。
 いつの間にか、彼に光を見ていた。

 ずっとずっと、一緒にいたいと、思った……


 次々と、思い出がフラッシュバックする。


 彼と出会い。
 止まっていた時が、再び動き出した、思い出。
 ほんの数ヶ月の、思い出……


 600年のうち、もっとも光り輝いた、その時を……




 すまない。お前との約束。守れなかった。
 世界を、守れなかった……



「───」



 ぽつりと。

 彼女はぽつりと、彼の名を、呼んでいた。

 来ないとわかっている、彼の名を。

 呼んでいた。









「呼んだか?」


 ふわり。


 だが、その言葉に答えるように、彼女は抱きとめられた。
 両腕で、優しく。お姫様のように……


 きらきらと、光の粒子が舞っている。
 男は、光を纏い、現れた。魔力の光を纏い、彼女を抱きとめ、空に浮いていた。



「う、そ……」

 エヴァンジェリンは、呆然と、現れた男の顔を見て、つぶやいた。



 エヴァンジェリンを抱きとめた存在。



 それはまさに。


 それはまさに、彼だったのだから。



 エヴァンジェリンを助け、その場に現れたのは、死んだはずの、彼だったのだから。




 そこに彼が、いたのだから!!








─あとがき─


 次回。VSリルル戦、決着!!

 ちなみに学園長&周囲にいた魔法先生はリルルが時間停止したところでそのまま放置され、戦線離脱してます。


 あ、それと一個嘘ついてたかも。
 エヴァの『目の前』で、彼、息を引き取ってないように見えるけど、気のせいです。場の雰囲気ってヤツです。てへっ。



[6617] ネギえもん ─第20話─ エヴァルート08
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2012/02/25 21:31
初出 2009/06/29 以後修正

─第20話─




 満を持して、真打、登場!!




──────




 さて。覚えておいでだろうか?
 彼には魔法使いの血が流れている。という事を。

 知っているだろうか?
 大隔世遺伝という、2度目の死亡と共に、主人公が魔族として復活する超展開を。

 さらに知っているだろうか?
 とある条件のまま30歳に到達すると、魔法使いになれるという伝説を。



 彼の命の灯火が消えようとした、その瞬間。


 かちり。

 時計の針が、丁度、その時間を、指す。
 運命の時間を、指し示す。

 彼の魂が誕生し、30年を経過した、その時間を。



 この時!!

 この時彼は、このすべての条件を、クリアし、『魔法使い』として覚醒したのだ!!



 どくん。


「これは……」
 彼の死を見取ったアルが、驚く。


 魔力が、渦を巻き、彼の体へと流れこむ。
 失われた体を、魔力が再生する。

 消えたはずの命の炎が、再び魔力によって燃える。


 どくん。


 人としての死。そこからの、魔法使いとしての覚醒。


 どくん。


 死者の、復活。


 どくん。


 『それ』を見るのは、アルビレオといえ、初めての事だった。



 だが、それに呼応し、目覚めようとするモノがもう一つ。



 どくん。
『壊せ』


 どくん。
『壊せ壊せ壊せ!』


 どくん。
『壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!』


 鼓動と共に、その内に秘めていた『闇』が、狂気が、あふれ出す。
 彼の覚醒と復活を待ち受けていたかのように、彼の魂が、『闇』に、塗り替えられてゆく。

「こ、この、気配、やはり……」
 その絶対的な圧力に、思わず後ずさるアルビレオ。
 場が異界で助かった。これが外であったら、どのような影響が出たかもわからない。


 男は、なんの反動もつける事なく、直立のまま起き上がった。
 その背には、『闇』の翼が見える……
 覚醒した、禍々しい、魔の力。

 その両の目が今、ゆっくりと開かれてゆく……


『壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!』


 誰にも止められない破壊の力。


『壊せ!!』


 完全にソレが目覚めようとした、その時。


「───」


 彼は、自身を呼ぶ声を、聞いた。


 彼が、拳を握る。


 その声と共に、彼は、目を覚ます。


 一度、その拳で、顔面を殴りつけて。



 その瞬間。闇色だった翼がはじけ、一転して、光に変わった。



「いってぇ。おちおち死なせてももらえねーのか」
 少年は、ぺっと、口の中にたまっていた血を吐き捨てながら、自嘲するように、言う。


 彼を呼ぶ声。それが、彼を、本当に呼び覚ました。



「……は、ははは」
 呆れたように、アルは笑った。
 その滅茶苦茶なありようは、アルビレオ自身もよく知る、友の姿を思い出させた。



 こうして。

 こうして彼は魔法使いとなり、自らの体を再生し、自らを呼ぶ声と共に『闇』を払いのけ、死の淵からよみがえったのだ!!


 『四次元ポケット』の恩恵を受けず、自身の力のみで、死を、覆したのだ!!


 そして時が動きはじめた今、光を纏い、自らの魔力で空を飛び、落下するエヴァンジェリンの元へと彼はやってきたのだ!!

 その姿はまるで、無敵の星を手に入れ、きらきら光る、スーパーなイタリアン配管工! もしくは聖光気を纏った元霊界探偵の様相をイメージすればいいだろう(配管工や探偵の姿まで想像する必要はありません)



 これが、彼復活の真相である!!

 アルビレオのイノチノシヘンでの完全再生ではない。


 この彼は、正真正銘。本物の、彼なのである!!



 だが、最初に言っておこう。魔法使いに覚醒したからといって、魔法が使えるわけではないという事を!(魔力が生まれても魔法を学んでいないから。近衛木乃香が良い例え)

 ただし、今空は魔法の力で飛んでいる。
 あふれた魔力により、勝手に体が浮かんでいるのだ。
 舞い散る光の粒子は、むしろ勝手にもれてる魔力なのだ。

 いわゆる魔力を纏うという行為。これは、覚醒直後の今だけ使えるパワーである。




──────




 まほら武道会会場上空。


 動きはじめた時の中。
 そこにいた、誰もがその姿を、呆然と見ていた。

 なぜなら、そこに彼が、現れるはずなどなかったからだ。


 だが、流れ出た鮮血の汚れそのままに、彼はそこにいた。
 光り輝く魔力を纏い、彼はそこに、現れた。



 とくん。とくん。とくん。
 彼に抱きとめられながら、彼女は、その音を聞いていた。
 彼の胸から、消えたはずの、命の音が、聞こえる。
 心臓の鼓動が、聞こえる。

 これは、本物だ。
 私が、彼を見間違えるはずがない。
 これは、彼だ。

 私が彼のポケットに吸いこまれた時、命が消えるのを感じた彼そのものだ。
 命を再生させたものなど、死から復活した者など、600年生きた彼女ですら、知らない。


 だが、彼は……彼は……!!


 生きている!!

 生きているんだ!!


「ど、どこまで、どこまで出鱈目なんだお前は!」

「泣くなよ」

「な、泣いてなどいない!」

「……はは。そうだな。それじゃ代わりに、お前泣かしたあいつぶっ倒すから。ちょっとどいてろな」

 彼は、優しく微笑む。
 そしてエヴァは、彼のポケットより取り出された『魔法のじゅうたん』に乗せられた。

 その時、泣かしたのはお前だ。とは誰もつっこめなかった(あと、彼は元々『サウザンドマスター』と認識されているので、魔力で空を飛んでいても不思議には思われない)


「……なぜ、貴方がここに? あの傷で、なぜ、貴方が生きている……? それに、それは、魔力……?」
 ありえない事に電子頭脳がエラーを起こしていたリルルが、やっとそこから復帰し、その言葉を搾り出す。

「そいつは企業秘密だ」
 ちっちっち。と、彼は指を振る。
 実は本人も、なんで復活したのかさっぱりわかっていなかったりするのだが、それも秘密だ。


「……ですが、貴方が復活したところで、同じ『力』を使える私に、ヒトである貴方が勝てると?」
 原因はわからない。だが、それならば、もう一度殺してしまえばすむという事。
 例えまた復活しても、何度も何度も殺してやろう。永遠に戻れない宇宙の深淵まで飛ばしてやろう。リルルは、そう結論づけた。


「勝てるさ。だって、あんたのその道具の使い方。この世界じゃぁ2番目だからな」

「ならば世界一は誰だというのです!」

「当然。俺さ」

 そう言い、彼は自分を親指で指差した。


「くっ!」
 あまりの自信に、思わず気おされるリルル。そのままリルルは、『スペアポケット』へと手を伸ばそうとする。

「だが、それはもう使わせない」
 リルルの伸ばした手は、そのまま空を切った。

「っ!?」

「はいざーんねーん」
 彼の手には、リルルも見た事のない婦人用バックが握られていた。
 そして、その反対の手には、彼女の元にあったはずの、『スペアポケット』。


『とりよせバック』
 女性用ショルダーバッグの形をしている道具。バッグに手を入れ、取り寄せたいものを思い浮かべるだけで、それを取り寄せることが出来る。
 取り寄せる際手だけがその場に現れるため、もしそこに誰か人がいたら、その手を見られ、場合によっては手をつねられてしまう事もある。
 だが、気づかれなければ、どのようなものも、どのような場所にあろうと、とりよせる事が出来るのだ。


 ポケットの中でバッグを操り、そこで『スペアポケット』を奪い取っていたのだ。


「それに、これとこれも没収です」

 さらに、『タンマ・ウォッチ』と『復元光線』。
 リルルの『体内』に収められていたそれらがすべて、彼の手に収まり、そして、正しい『四次元ポケット』へと収まってゆく。
 ついでに、落下していた『秘剣・電光丸』『ショックガン』も。
 ちなみに回収の仕方は、自身が把握していない、四次元ポケットの外に出ている『道具』と考えて手を入れている。それゆえ、上記の物以外に、エヴァンジェリンのつけていた『ウルトラリング』も回収してしまっているが気にしない。


「な、なんなの、その道具は……」

「知らないようだね。そりゃそうだ。ここでこれ使ったのはじめてだもん。あんた、俺の使った道具しか使えないだろ」

「くっ……」
「だから、世界じゃ2番目なのさ」

 情報として知らなければ、リルルは使えない。
 リルルは、ロボットであるがゆえ、明確なビジョンを持って道具を取り出している。逆にいえば、アバウトな思考で道具を取り出す発想がない。ロボットゆえ、知らない物を取り出す想像が出来ない。
 それゆえ、知らない『道具』は取り出せない。


「ならば!」

 リルルは、その手を空へと掲げた。
 広がる光の幾何学の模様。


「これは……」
 超が、それを見て驚きの声を上げる。

 なにがこの場に現れようとしているのか、気づいたのだ。


「来なさい。『ジュド』!!」

 そこに現れるのは、人のサイズを大きく超えた、全高20メートルを超える巨神。
 外宇宙より来訪した機神。

 未来の道具と同様。この星には存在しない、破壊の化身。
 この星を更地に変える存在が、その場に現れた。
 リルルはワープでコックピットへと跳ぶ。


「いざという時、最も信頼出来る武器を選ぶのは正解だ。だが、それじゃぁ勝てないぜ」

 だが彼は、それを見ても、自信に満ち溢れていた。
 ちなみに、なんでこんなに自信満々なのかというと、体に魔力が満ちているため、脳汁出まくりでテンション上がって、いわゆるハイってヤツになっているからである。




───ギャラリー───




 まほら武道会大会会場。

 ネギと高畑先生の試合がはじまろうとし、選手入場でネギが舞台へと向かっていたその時。
 彼等の目には、突然舞台床板の一部が吹き飛び、高畑の対戦相手、舞台へ向かっていたはずのネギが忽然と消えたように見えた。


『い、一体どういう事ー!?』
 解説席にいた二人も、パパラッチ朝倉も、ギャラリーも、選手席にいた明日菜も刹那もびっくり仰天である。

 さらに、その直後。

 大会会場である龍宮神社の後方。

 そこに、巨大なロボットが現れたのだ。


 ピピッ。
「え?」
 朝倉のイヤホンに通信が入る。

『あーっと、どうやら舞台が一部修繕の必要があるようです! ですので皆様。明日開催予定の火星ロボ軍団襲来のデモンストレーションをご覧ください!』

 超から受けた通信を、そのまま言葉にし、この場での混乱を抑える朝倉。

(一体なにが起きてんのよー)
 ギャラリーの混乱は巨大ロボへの注目で収まっているが、直っていたはずなのにいきなり壊れた床板や、いきなりいなくなったネギ。さらにいきなり現れた巨大ロボなどの説明はなく、彼女は一人混乱するしかなかった。


 さらにその直後。巨大ロボの前に、今度は光を纏った巨人が、現れた。


(今度は光の巨人ー!?)


『あれは、先ほど失格になったジャスティス仮面選手。ですね』
『いいえ違います』
 茶々丸の言葉を、解説席に座るもう一人のリーゼント。豪徳時が否定する。
『違うのですか?』

『ええ。あのサイズ。光り輝くその体! そう、今の彼は言うなれば、ウルトラジャスティスです!!』
 ウルトラかっけー! 豪徳寺が目を輝かせ、興奮したように言い放った。



(それ完全にアンタの趣味だー!)
 隣で聞いていた長谷川千雨は、心の中で思わずつっこんだ。



 だって男の子だもん。




──────




「よりにもよって『ザンダクロス』か。だが、そいつが相手なら、むしろ都合がいい」

 彼はにやりと笑い、自分のポケットに、手を入れた。

「あんたの知らない道具、もっと見せてやるよ!」


 彼はポケットの中から、一本の懐中電灯のようなものを取り出した。


「超鈴音!」
「は、はい!」

「一瞬で終わらせる。周囲の混乱の収拾。任せた!」

「わ、わかたネ!」


 そして俺は、その道具のスイッチを入れた。

「じゅわっ!」


 俺はこの時、『ビッグライト』と『変身セット』を使い、光の巨人になった。


『ビッグライト』
 これの詳しい説明は不要であろう。光を浴びるとサイズがそのまま拡大されるというものだ。


 本来なら、ホントに光の巨人スーツを着たかったのだが、それを可能にする『きせかえカメラ』は対象にシャッターを切るという、自分にピントを合わせるという行為があの一瞬では出来なかったのであきらめた。

 それゆえ、大会に出場した時のマスクオブジャスティス。ジャスティス仮面のまま、巨大化する事にした。
 今の俺はウルトラ俺。変身くらい、なんともないぜ!(気分がハイになってます)


 周囲に光が瞬き、一瞬、人々の目を焼く。
 その隙に、俺、光を纏いつつ巨大化。

 そして、ザンダクロスと対峙。


「同じサイズになれば互角になったなんて思わない事ね」
 ジュドのコックピット内で、リルルが言う。
 その言葉は、『変身セット』で強化された俺の耳にも届いた。


「ああ。思っていない。だから!」

 俺はさらに、『ビッグライト』を自分へ照射した!


 ぐんぐんぐん。
 さらに照射。

 ぐんぐんぐんぐん。
 どんどん照射!

 ぐんぐんぐんぐんぐん。
 さらにおっきーく!



 観客達の視線が。首の角度が。どんどん上にあがっていく。



 完了!!


 どどーん。


 うん。サイズ的に大人が空き缶(ザンダクロス20メートル超)を踏み潰すようなサイズになりました。

「これで、どうだぁー!」
 俺の言葉一つで、すでに大気が震えるレベルだ。


「んなぁー!?」
 ザンダクロスコックピット内で悲鳴を上げている少女が思い浮かぶ。

 ぽかーん。
 観客達は、全員口をあけているしかない。
 いや、学園祭に来ていた人全員が、それを見上げ、あんぐりしているだろう。


「死なねーように注意しろよー! ぺしゃんこでも気にしないがー」

 そのまま俺は、足を上げ。



 ぷち。
 

 ザンダクロスを踏み潰した。



 ぷち。


 ザンダクロスを踏み潰した(同じ行動を観客視点から)。



 ぷち。


 ザンダクロスを踏み潰した(同じく今度はすごく遠くの視点から)。



 俺!

 大・勝・利!!



 しーん。



 まほら武道会会場は、そのまま沈黙に包まれる。

『えー、以上、明日開催予定の火星ロボ軍団襲来のデモンストレーションでしたー』
 そんな沈黙の中に、テンションの低いパパラッチ朝倉の声だけが響いていた。


 ……あれ? なんか、会場の反応がアレじゃね?
 なんか盛り上がらなかった。的じゃね?


 みょんみょんみょんと小さくなりながら、ハイになったテンションが抜けてきた俺は思う(魔力が抜けきってきた。幸い『変身』しているので落下はない)
 ついでに、ぺらぺらになったザンダクロス&リルルは自身が小さくなるのと一緒に『スモールライト』で小さくしてポケットの方に回収(『とりよせバック』で)

 ちなみに外宇宙から来たザンダクロスを、サイズがでっかくなっただけで潰されるとは思わない方もいるだろう。
 そんな貴方にお答えします。
 実は『ビッグライト』ででっかくなる時(周囲に光が瞬いた時)、その光にまぎれてザンダクロスにこれを照射していたのだ!


『材質変換機』
 この道具から放つ光線を物に浴びせると、その物の材質を変える事が出来る。
 材質としての性質は変化するものの、外観は変化しない。窓ガラスを割れないように鉄板にしたり、紙を細く丸めて鉄に変えて金属バットがわりにしたり、紙で作った服を布に変えて本物の服にしたりと、さまざまな使い道がある。

 これで、ザンダクロスをアルミ缶レベルの硬さにして、踏み潰したのだ。
 まさに、空き缶を踏み潰すかのごとく。


 ……にしても。


 しーん。


 この盛り上がらなっぷりは、ひどいな。

 実は地球の命運をかけてた戦いなんだけど、見てる人から見れば、超の用意したただのデモンストレーションだもんな。

 そりゃあんな手段でロボット倒したら、もりあがらねーよなー。
 戦隊モノでヒーロー側が敵の巨大ロボよりでっかいロボで出てくる展開だもんなー。
 光の巨人が敵怪獣よりでっかくなったわけだもんなー。


 そんなわけだからー。


「ジャスティス!」
 しゅっといつものポーズで俺は逃げ出した。


 その言葉と共に、会場に音が戻る。
 はっと気づいた観客が、やっと声を上げた。


「ずりぃー!!!!」
「最低だー!!」
「卑怯者ー!!」


 ギャラリーから大ブーイングが上がった。


『あー。あれは、ダメですよねー』
 立ち直ったリーゼント豪徳寺が言う。
『戦術的に正しいとは思いますが……』
『ヒーローとしてアレはダメだと思いますねー』
『まあ、ジャスティス仮面ですから』
『あー、ジャスティス仮面ですからねー』

 特攻反則ヤロウのジャスティス仮面だからしかたないかー。
 なんて解説席には、そんな空気が流れていた。



「いやはや。彼がどれほどすごい事をしたのか、本当にわかっている人は何人いるのかネ」
「あはははは」

 外宇宙の機神を宣言どおりああもあっさりと倒した彼を見た超が、あきれるようにつぶやいた。
 ネギもそれに関しては、笑うしかなかった。


「いやはや」
 会場の隅で、それを見上げていたアルビレオも、あまりの事に少し困惑したような声を上げている。


 ちなみに選手席にいた明日菜達は、当然の事ながら、なにが起きていたのかさっぱり理解出来なかった。
 唯一刹那は、『宇宙刑事』としてなにかあったのか? と思うが、さすがにそれ以上はわからない。

 あと、時間停止の解けた学園長や魔法先生も、あの戦いは、呆然と見ているしかなかった。
 ただ、一つ、わかるのは、無事だった彼によって、この星は救われた。という事である。




───リルル───




 これは、学園祭後の出来事である。


「……」

 私は、ゆっくりと、覚醒した。

「……生き、てる?」

 私はあの時……そう。あの時、『ジュド』の体と共に、ぺしゃんこにされたはずだ。
 それなのに、なぜ?

 そもそも、ここはどこだろう。
 どこか、ホテルのようなつくりにも見えるが……(『キャンピングカプセル』という道具の中)

「ああ。目が覚めたみたいだね」

 そこに現れたのは、私を踏み潰した、あの男だった。
 なぜ、あの男が?

「……なぜ私を助けた?」
 私はそのままその疑問を、奴へぶつけた。
 あの状況からして、私を助けられるのは、この男しかいない。

 だが、私を生かしておく理由がわからない。

「なんでって言われてもなあ」
 ぽりぽりと奴は頭をかく。

「だって君、調べたところ、今まで『俺』以外に誰も殺していないみたいだし……結局無事だったし……」

 いや、それだけで十分なのではないか? こいつは、自分が殺されそうになった事は、許すと言うのか?
 それに私は、この星の生き物すべてを奴隷にしようとしているのだぞ。

「……人間のする事って、わからない」

「時々理屈にあわない事をするのが人間なのさ。それに、君が壊れてしまったら、メカトピアは本当に全滅してしまうからね」(それによくよく考えてみて、本星ふっ飛ばしただけじゃ完全な解決になってなかった。とリルルに襲われ彼は気づいた)

「……は?」

「ああそうだ。自己紹介がまだだったか。僕は彼。彼の代わりに、君と新しいメカトピアを創る者さ」

「……はぁ?」
 自己紹介も、意味不明だった。
 貴方は人間ではないか。それとも、メカトピアの伝説にあるような、メカトピアを創った『神』にでもなる気なのだろうか?

「いやいや、違うよ」

 私の疑問に答えるように、彼は苦笑して、答えた。

「彼と僕は、本質的には一緒だ。ただ、一つだけ違うところがある」

 僕? 彼? 貴方は私をつぶした彼ではないの?

「彼は人で、僕はロボットであるという事。彼はあなたと歩む事は出来ないけど、僕なら出来るという事」

 ……! そう言われ、やっと気づいた。
 そうか。違う。目の前にいるのは、その彼ではない。
 目の前の彼は、ロボット。私と同じく、人間そっくりのロボットだ!

 貴方は、彼をコピーしたロボットという事か! あの、真祖の吸血鬼へと手渡した、アレと同じモノ!

「そういう事です。これから、よろしくお願いしますね」
 つまり、私の監視。という事か……

「……私は、あきらめませんよ。何度でも、使命を果たそうとしますよ?」
「かまいませんよ。そのたびに、僕と彼があなたを止めます。何度でもね」
 彼は、平然と言い切った。

「……」

「それに、あなたはすぐにわかってくれると思います」

「なぜ、断言できるのですか?」

「貴女が心を持てる事を、僕とオリジナルは、信じていますから。あなたはそのうち、人を殺せなくなる。その命令に、従えなくなる」

 そう言い、彼は微笑んだ。

「……か、勝手にしなさい!」

 私はそのまま、シーツをかぶってベッドで丸まった。
 ……なんだろう。動力部が、おかしい……
 いくらコピーだからとはいえ、元はあの男だ。なのに、自分を殺そうとした存在に、なぜ、ああも微笑めるの?
 意味がわからない。彼の行動も、自分の行動も……


「そうそう。伝言を忘れていました。忘れていて、ごめん。あとで俺を傷つけた事、後悔する事になるかもしれないけど、俺は気にしていないから気にするな。だそうです」

 忘れていた? ごめん? 後悔する事になる? なにを言っているのかわからない。
 私は、貴方の敵なのに。それなのに。ナゼ……?


 ワカラナイ。
 解らない。
 わからない……


 そしていずれ、彼女達は、外宇宙へと帰る事となる。
 メカトピアを、再生させるために。
 本星以外に取り残された、鉄人兵団を、回収するために。


 この星に負けない、新しい、メカトピアを作るために……


 彼女は、地球に潜伏するため、地球人そっくりに作られたロボット。
 それゆえ、メカトピアで唯一、自分の意思と、心を持てる、ロボット……



 ちなみに、彼と同じ『力』はなぜかコピーロボットにはなかった。が、同じ事は出来るようにしてある(つまり『スペアポケット』(『フエルミラーコピー版』)を持っている)



──────




 会場の隅っこの屋根の上に着地し、変身を解いてため息をつく。
 会場の方では、ぶーぶーといなくなったジャスティス仮面にブーイングを浴びせている観客が見えた。


「まぁ、被害がなくてなによりってとこかな」


 変身していたから、観客のブーイングも俺自身にはダメージないし。なにより、アレが世界の危機だったなんて誰も思っていないという事だ。
 俺の服が自分の血で汚れているけど、俺自身なぜか傷一つないから問題ないだろ。
 にしても、俺一回死んだと思ったんだけど、わりとふつーに目が覚めたなー。
 しかも一時『道具』を使わずに飛んでいた気もする(あの時は気分がハイだったので疑問にも思わなかった)
 なにがあったんじゃろ。


「……おい」

 はぅ!

 背後から声をかけられました。
 思わずびっくーとしてしまった。
 なんか懐かしいねこれ。

 このパターン。この声。そう。声の主は、エヴァンジェリンその人だ。


「……あ、あのー」

 恐る恐る、彼女の方へ振り返ろうとする。
 お、怒ってるかな? あんなに心配させて、無事でしたー。なんて。

 いや、怒ってるよな。
 死ぬ死ぬ詐欺みたいなもんだもんなこれ。

 絶対怒るよな。
 ああ。乗っけた『魔法のじゅうたん』に腕を組んで仁王立ちしている姿が目に浮かぶぜ。


「!?」

 ぎゅうっ!

 だが、恐る恐る振り返ろうとする俺の背中に、なにかが抱きついた。


「……え?」

「本当に……本当に、お前なんだな……」


 そう抱きついてきたのは、エヴァンジェリンその人だった。


「このぬくもりも、お前のにおいも、すべて、すべて、お前なんだな!!」

 彼女は、俺が生きていることを確かめるように、俺の背中に、その体を押しつけてきた。

「え? え?」

 俺の背中に抱きついたエヴァンジェリンは、泣いている。
 泣いている。

 そういえば、俺が死ぬ時も、泣いていた。
 エヴァは優しいから、死ぬ俺に泣いてくれているんだと思った。

 だが、こうして無事だった時、泣くようなキャラだとは、俺は思っていなかった。


「お前が、生きていて、本当に、本当によかった!!」


 ……エヴァに泣かれているが、なぜか俺は、それが、とてもうれしくなった。


「ああ。俺だよ。正真正銘の、俺だ」
 彼女を安心させるように、俺は言う。

 そして、なぜか無性に、このエヴァの顔が見たくなった。
 そう思い、ふりむこうとするが、エヴァが背中から離れない。

「あれ?」
 こう、エヴァを背中にくっつけたまま、くるくる回る事になる。

「なあ」
「ダメだ。絶対に、ダメだ」

「だからこそ余計にお前の顔が見たい」

「……やだ」
「だが断る」

 そう言い、そのまま俺は、エヴァの手を引き剥がして、強引に彼女を見た。
 両手を押さえ、彼女の顔を見る。


「や。いや……」


 涙にぬれた頬。
 白い肌にうっすらと朱に染まった頬。
 そこに残る、涙の後。

 俺のために流してくれた、涙……

 恥ずかしさからか、彼女は俺から目をそらす。
 普段のエヴァからは、想像も出来ない、弱々しい表情。


 どきり。


 それに、俺の胸は、なぜか、高鳴った……


「……」
「……」


 そのまま俺は、自分の両手を彼女の頬へ添え。

 その唇へ……








「あー、非常に申し訳ないのだガ、イイカナ?」






 すぱーんと俺とエヴァは、ものすごい勢いで、離れた。





 あ、ああああああ、あぶな。アブなかったぁぁぁぁ!
 なにしてんだ俺!?

 なにやってんだよ!

 一時の激情で、守備範囲外の上他に好きな人のいる女の唇を奪うところだった!
 幼女の唇を奪うとか犯罪じゃろうがぁぁぁぁ!!
 流れに乗ってとんでもない事をするところだったぁ!

 なにを、なにを考えてんだ俺えぇぇぇえ!

 頭を抱えもだえる俺。


 ちなみにエヴァンジェリンも同じく隣でもだえている。



「いやー、お楽しみのところ非常に申し訳ないネ」


「「楽しんでない!!」」


 俺とエヴァ二人の声がハモる。
 ついでにお前の声全然申し訳なさそうじゃないぞ未来少女。
 半分嫌がらせもかねているだろ未来少女。

 でも助かった。ありがとう。
 でも許さない。おぼえとけ。



「事後処理を頼まれたのはイイが、私では対処できない上、早急に処理せねばならない事案が一つあってネ」

「ん?」
 そうすると、杖の上でぐったりしているネギがふよふよとやってきた。


 どうやら俺がジャスティス逃走した後、緊張の糸が切れたのか、このように倒れたようだ。


「おおぉう!?」
 こんなにネギボロボロなのかよ!

「次はネギ先生の試合なのダガ、肝心のネギ先生が説明不能のボロボロさ。これを、貴方にお願いしたくお邪魔させてもらたヨ」

「あー」
 ネギはまじめだから、こんなボロボロでも試合に出ると言ったのだろう。
 試合中の怪我ならトーナメント上しかたないが、まだはじまる前の上それとは関係ない怪我&疲労。
 超なら傷を治せるだろう。だが、ボロボロになった服や消費した魔力などはさすがの超といえど、この短時間でどうにかするのは無理だ。

 それで、俺に頼ってきた。と。

「すみません。お楽しみのところを……」
 朦朧としたネギが言う。
「……見てた?」
「いいえ。ただ、言わなきゃならないと思って……」

 そうか。子供に悪影響なモノ、見られなくてなにより。
「意味わかっていないのにそういう事は言わなくていいよ」
 俺はあきれつつネギの頭をなで、ポケットから『タイム風呂敷』を取り出した。


「色々面倒なので、これを使用しまーす」

「風呂敷ネ」

「おい、これは!」
 風呂敷の存在に気づいたエヴァが驚きの声を上げる。


「エヴァの発言は無視して、かぶせーる!」

 そのままネギに『タイム風呂敷』をかぶせた。

「はいしゅうりょー!」

 そして、すぐにはずす。時間停止があったので、戻す時間はほんの少しですむ。


「え? それだけカ?」
「これだけネ。ほら、ネギ先生は先の戦闘直前のネギ先生アル」


 すると、杖の上にいたネギはぱちりと目を開き、驚いたように体を起き上がらせた。
 服だって新品綺麗さ!


「わ、わわわ。本当ですよ。魔力も体調も、全部治ってますよ」
 驚きながら、ぐーぱーと手の感触を確かめるネギ。

「なんとも出鱈目ネ」
「君もどうかね?」
「私は平気ヨ」

「だが答えは聞いてない」

 そのまま超の頭から風呂敷をかぶせ、その上から、一度頭をくしゃりとなで、すぐはずす。
 ふはは。些細な復讐だ。

「はいこれで体のダメージもすっかりなくなりました」
「……」

「どした? ほうけて? さっきの戦闘以前からなにか怪我とか病気とかしてたのか? ついでに治すぞ?」

 そう言われた超ははっとして。
「……違うネ。ひどい人ヨ。この痛みは罰だというのに」
 そう言いながら、彼女は目の辺りをぬぐう。

「シリマセーンって、え? 泣くほどの事か?」
「だ、大丈夫ネ。なんでもないヨ!」

「そう言われても……」

「そんな事ヨリ。ネギ先生、これで平気ヨ」
 俺の疑問を振り切るよう、超がネギに言う。
 聞かないでくれって事ですか。しゃーないな。

「はい! ありがとうございました!」

「いえいえ」
 ぶっちゃけリルルと戦った時の肉体経験値が消えてるかもだが、高畑先生となら問題ないだろ。
 というか、経験値が本当に消えるのか。という実験でもある。という壮大な考えもあるのだー。……どんな道具出すのか考えるの面倒だから。じゃないよ。チガウヨ。


「え? あ……お、お前達、記憶は、どうなんだ……?」
 一人困惑しているエヴァが、ネギと超に聞く。

「え? どういう事ですかマスター?」
「記憶がどうしたネ?」
「いや、ほら、さっきの戦いとかの事……」

「イヤですよマスター。あの戦い、忘れるわけないじゃないですか。あ、助けに来てくださり、ありがとうございました!」

 と、救援に来た事に礼をいい、深々と頭を下げるネギ。
 超の方にしても、『タイム風呂敷』の情報は茶々丸からも受け取っていないので、エヴァがなぜそう言っているのか理解出来ない。


 それを見たエヴァは、ぎぎぎぎぎぎっと首を回転させ、俺の方を見る。
 俺はなんの事やら。といった感じで、風呂敷をポケットへ。


「それじゃネギ先生。詳しい事は大会が終わってからゆっくり話すネ。今は目の前の大会を楽しんで欲しいヨ。それと、ありがとう。助かったネ」
「はい」
「がんばってこいよー」
「はい! 行ってきます!」


 そう言い、ネギは試合会場の方へと走っていった。
 がんばってなー。


 そうやってネギを見送っていると……


「おい」
 怒りのエヴァ声が背中に突き刺さります。
「怒ってる?」
「怒っていないとでも思うか?」

「あっはっは。イヤだなー。俺はあの時こう言ったはずだ。可能性がある。と!」

「つまり貴様は、知っていたんだな? 知っていてそう言ったんだな?」

「ザッツライ!」

 ぶん殴られた。

「ザ、つらい!」


「貴様が最初にそれを私に渡していればさっき私は負けなかったものをー! あの京都の時だって、貴様が貫かれる事だってなー!」
「勝手に勘違いしたのはそっちだイタイイタイイタイイタイ」

「ははは。仲がいいネ」

「「良くない!!」」


「……それより、一つ質問はイイかね?」

「にゃにかにゃ?」
 ぐにゅーっと背中に馬乗りになられてほっぺたを引っ張られた俺が答える。


「あの偵察機は、貴方を『敵』と言った。貴方は何者なのカネ? そして、どこまで知っているのカネ?」

「あー」

 そういえば、最初はそのあたりの確認のため俺に学園長と接触してきたんだっけ。
 でもその前に、リルルに襲われた。
 あれってリルルが俺達が手を組むのを恐れたってのもあるんだろうな。

 んで、リルルを倒したから、再び俺の背後関係って事だね。


「貴方の、知っている事を教えて欲しい」


「んー。非常にシンプルに言うと」

 背中にエヴァを乗せたまま腕立ての要領で体を上げ、エヴァを振り落としつつ語りはじめる。

「さっきの、彼女。アレ、が、鉄人兵団、最後の、兵! なんだよ」

 すごく重要な事を話しつつ、エヴァのほっぺたをひっぱったりデコピンしたりアイアンクローしたりひっかかれたり噛みつかれたりを平行でこなす。


「……ハ?」


「つまり……」
 俺は、エヴァと壮絶(笑)な戦いをしながら、未来少女超へしばらく前に鉄人兵団の本星。メカトピア帝国を粉々に吹き飛ばした事を説明した。


「んで、(地球の)残りがさっきのあの子とあのロボットってわけ」


 エヴァと戦うのもひと段落し、ネギとタカミチの戦いを観戦しながら、俺は説明を終える(正確にはネギの戦いがはじまったから争いをやめた)
 お。どうやら、体の経験値は……って、パンピーの俺が見たからってネギが違うのか違わないのかわかんねーっつーの!
 まあ。最終的にネギが自分を弾丸にして突撃勝利したけど。これは(もうあんまり意味はないけど)原作と一緒。……だよな?(ちなみに経験値は体にも残っているようで、体で覚えたともいえるオーバードライブも使いこなし、思わず本気になってしまった高畑とぶつかり、それでも勝利となった)


「は、ははははは……」

「ん? どしたの?」
 俺の説明を聞き終えた未来少女が、なにか壊れたように笑いはじめていた。

「いや、私の計画はまったくの無駄だった。が、私が来た意味はあったようダ」

 なにか満足したように、彼女は俺に微笑んだ。


「そーいや、鉄人兵団が壊滅したとなると、君の目的そのものも終わったって事か」

 鉄人兵団壊滅を説明している時、超が歴史を変える真の目的も聞きました。
 そっかー。超の来ない未来。俺がいない(と思われる)未来は、鉄人兵団に地球が乗っ取られてるのかー。
 そりゃそうだよなー。あの時半デコちゃんがザンダクロス脳見つけなかったら、本隊が普通に来てるわけだもんなー。
 魔法使いもいなかったら人類勝てねーよなー。


 ただ、俺が彼女の未来にいないのは彼女もわからない。だそうだ。

 そもそも彼女が来た事により、鉄人兵団襲来が10年早まっているというから、彼女の知る歴史も役に立たない。との事。まあ、俺がいるのもその影響なのだろうと言ってた。
 正解かどうかはわからないようだが。


「ま、私はもう目的が達成できただけで十分ネ。これで悔いなく未来へ帰れるヨ」

「あー」

 そういえば、この学園祭が終わったら帰る予定なんだっけか。

「そっか。お疲れ様」
 鉄人兵団に関しては、あとは俺に任せなさい。

「はは。その言葉は、この星を救った貴方に言うべき言葉ヨ。星の救世主サマ」

「よせよ。俺はただ、自分の平穏を守っただけさ」
 そう言って、なんとなく、エヴァの頭をなでた。
 ぺしっと無言で跳ね除けられたけど。

「ハハハ。貴方は、本当に不思議な人だヨ」

「そーかな」
 君等のがよっぽどだと思うが。


「ま、計画をただ無駄にするのももったいないカラ、明日の全体イベントにでも使わせてもらうヨ。宣伝もしてしまったしネ」

「それは楽しみだ」
 どうやら最終日はネギ企画ではなく、超企画であのイベントが行われるようだ。
 今学園長とつながりもあるから、武器とか道具とか調達するのも楽だろうしなぁ。

 あのイベント、こっそり楽しみにしていた身としては、なくならないようなのでなにより。


「せっかくだから、世界征服でもしてみようかネ」

「やってみたら? 今度はネギがとめるだろうけど」

「貴方はとめないのカ?」

「俺の出る幕じゃないよ」

 原作と同じ事するなら、ネギがとめるだろうし、そもそもあの魔法じゃ世界征服は無理のはずだからな(彼は認識魔法が強化されているとは知らない)
 でもこの時。超の計画が成功する未来も存在していた事を、すっかり忘れて答えている彼であった。

「残念ネ」

 あれ? なんでそんなにがっかりしてるの?


(どうやら私では、彼の敵にも見てもらえないようダ。いや、最初から私など相手にされていなかった。という事カ)


「ま、イイネ。この武道大会、そして、明日のイベント、楽しんでいって欲しいヨ」

「おう」

「それじゃ、続きの方、ドウゾ。お邪魔したネ」

「「できるか!!」」

 すたすたと去ってゆく超にむけ、俺とエヴァは同時に叫んだ。


「ったく。そんな事を言うのなら、空気を読んでもう少し遅れて出て来い……」

 なんかエヴァがぶつぶつ言ってたけど、俺にそれは聞こえなかった。

 なぜなら、超が去ったら、ものすごく眠くなってきたからだ。
 戦闘の緊張から開放されたからかだろうか? まさに、急に眠気が。というヤツだ(なれない魔力を使った反動がきた)


「ふあ。あー、つっかれた。エヴァ。俺、ちょっと眠らせてもらうわ」
 試合は見たいが、どうせあれは大会側で録画されている。計画がポシャった今、ネットに流れるかはわからないが、超に言えば見せてくれるだろう。

 だから今はそのまま、睡魔に負けてしまおうと思う。

 そのままごろりと、屋根の上に横になろうとすると……


「ん」
 そしたら、『魔法のじゅうたん』を引っ張り戻し、座ったエヴァンジェリンが、なぜか自分の太ももを、ぽんぽんとした。
 恥ずかしそうに、頬を朱に染めながら。

「は?」

「ん」
 そのまま、もう一度、俺の頭を膝。というかその太ももに乗せろといわんばかりに、ぽんぽんと太ももをたたいた。

「え? いや……」
 思わず驚く。お前がそんな事してくるなんて、明日は隕石でも降るんじゃないか?

「いいから従え! お前が寝ている間にまた死なないかをチェックもかねているんだ! そういう事だ! あとはなにも言うな!」

 そう言われ、俺は強引にエヴァの膝に頭をのせられた。

「あー。まぁ、いっか。寝ている間にまた死なないか、頼むわ……」


 眠くて考えるのも面倒になってきた俺はそう言い、そのまま眠りに落ちていった……


「ああ。任せろ……」


 眠る前に聞こえたエヴァンジェリンの声は、とても優しく感じた。





 だが、目が覚めた俺は、とんでもないショックを受ける事になる。

 たぶん。今までで、一番の。




───超鈴音───




 彼の話を聞いて、私はもう、笑うしかなかた。
 まさか、すでに、この時代の鉄人兵団が壊滅した後だたとは。

 本星が滅び、命令系統が失われた鉄人兵団は、次の命令が更新されない。奴等はロボット。本星という統括頭脳の決定した命令がなければ、行動も起こせない。奴等は自己意思があるようで、ないのだ。
 すなわち、鉄人兵団はもう滅んだも同然(あのリルルですら、残された命令。『人類総奴隷化』を実行した後、自己意思を得ていない限り、本当にメカトピアを再建したのか怪しい)


 最も、その彼(コピー)とリルルの手によりメカトピアは再生し、生き物との共存を模索する道を歩む事となるが、それは彼女も知らない話だ。


 まさに、出鱈目としかいいようがない。


 私の計画は完全に無意味だったが、この時間に来た意味は、確かにあった。

 星の外から現れた救世主。
 正確にどこから来たかまでは聞けなかったが、少なくとも、私がそれを聞く資格などない事は確かだ。
 彼には、多くの迷惑をかけてしまったカラ。


 しかし、彼のその懐は、その強さに比例してか、とんでもなく広い。


 彼は、私をあっさりと許した。
 鉄人兵団の仲間と疑い、拘束までしようとしたというのに。
 彼のやる事を、邪魔し、さらには、死ぬかもしれないほどの傷を負わせる一因を作ったというのに。

 それなのに、彼は自分の疲労も無視して私の傷も癒し。私のやった事は無駄ではなかったとでもいうように。頭をなでてくれた。
 彼は、あの呪紋のリスクを、肉体と魂を食らって行使するという事すら理解していたのだろう。
 答えすら聞かず、私の罰すら奪ってしまった。

 しかもその後、褒めるように、「ご苦労様」とまで言ってくれた。


 私は彼の足を引っ張る事しかしかなかったのに。それなのに彼は、それを認めてくれたように感じた。
 無駄ではなかったと言ってくれているように感じた。

 それはとても、うれしかった。
 思わず、彼の目の前で、泣いてしまうかと思ったほどに。


 誰もに悪と罵られると思っていたのに。正しく認められ、褒められた気がしたから。


 ただ、悲しいのは、私は彼と対等にはなれないという事。
 努力は認められたが、結局私は、皆と同じく、彼に見守られる側という事。

 それが、少しだけ悲しいネ。

 卒業までいたりすれば、少しくらいは彼に認められる事は出来るだろうか……?

 私は思わず、そんな事を考えてしまた。


 イカンイカン。決心が鈍ってしまいそうだヨ。



 ……でも、なぜ、あの人は、未来にいないのだろう……



 私は、ふと、そんな事を思った。




───エヴァンジェリン───




 結局、聞きたい事はなにも聞く事が出来なかった。

 彼の手にしていたパクティオカードの事。異星より敵。鉄人兵団と敵対していたという事。星の外よりやってきたという事。
 聞きたい事はなにも聞けず、むしろ、逆に謎が増えたと言ってもいい。


「知りたいですか?」

「……背後から現れるなアル」

 寝ている彼の髪をすいていたら、背後に小憎らしいアルビレオが現れた。

「そうそう。今の私は、その名ではなく、『クウネル・サンダース』とお呼びください」

「そんな事はどうでもいい。お前はなにか知っているのか?」

「いえ。今はまだ。ですがこのまま私が優勝すれば彼の半生を書として手に入れると約束しましたから」

「……あ」

 この時私は、大切な事を忘れていた事を思い出した!
 あんな騒ぎがあり、それどころじゃなかったため、忘れていた!

 そうだ。この大会。彼に願いを聞いてもらうという賞品があったじゃないか!
 彼の無事に安心して、それを完全に忘れていた!

 だがしかし、この時点で私はすでに、私の試合はすでに終わり、私は戦闘を放棄して棄権あつかいとなっていた。
 彼を膝枕するという至福の時間に、そんな事すっかりわすれていた!
 なんという事だ!! なんといううっかりだ!


「そこで、エヴァンジェリン。古き友よ。賭けを一つどうです?」

「なに?」

「そうですね。私はアスナさんの勝ちにかけましょう」

「……明らかに今の神楽坂明日菜にはドーピングが入っているように見えるぞ?」


 私が棄権した事となった試合の次。第1回戦最後の試合。
 そこで、桜咲刹那VS神楽坂明日菜の試合が繰り広げられていた。
 ちなみに、こっそりここの試合順だけ皆の知るものとは繰り変わっていたりするが、トーナメントの一つの山での順番変更。二つの勝者が次の対戦相手となる山なので、大きな流れに変化はない。
 いや、エヴァンジェリン失格という変化はあるが。


「はてさて」

「貴様の仕業か」

 舞台で戦う刹那VS明日菜。
 今の私にはその戦いに興味がなかったが、今の二人の実力ではありえない、互角の戦いが繰り広げられていた。
 その神楽坂明日菜の健闘はこいつがなにかしているのだろう。


「まあいい。それでも私は、あの桜咲刹那が負けるとは思わん」

「おや」

「あの娘は光を知って弱くなるかと思ったが、逆に強くなった。甘くなるかと思ったが、逆に鋭くなった。それを、私は知っているからな」
 腑抜けてスライムに捕らえられる事もなく、刃の鋭さが増した。それでいて、木乃香という立派な鞘を手に入れている。
 そして、それは、いつか彼に追いつきたいという目標があるからでもある。
 あれなら、あの明日菜にも負けまい。


「ならば、賭けは成立ですね」

「それで、掛け金はなんだ? 貴様の権利でもくれるのか?」

「そうですね。アスナさんが負けたら、あなたの知りたい事をこっそりお教えしましょう。例えば、ナギの事。あのアスナさんの事。そして、彼の事を」

「……ふん」
 権利だけでは聞けない事を出してきたか。それに、こいつの力なら、色々。それこそ色々聞けてしまう。

「そして、あの神鳴流剣士のお嬢さんが負けた場合……」


 この時、アルの言い出した事は、たぶん一生忘れないだろう。


「……私と彼の仲をとりもってください」

「ぶー!!!」

 ちょっ!? なぁ!!?
 というか貴様……あれ? そういえばこいつの性別はどっちだ!?
 どっちだった!?


「彼の頭が落ちますよ」
「ぐっ……」

 くそっ、こいつ私が今呪いを受けた状態であり、彼を膝枕しているからって!


「なに。勝てばよかろうなのです。ふふふふふ」

「き、きさまあぁぁぁ!」


 私をおちょくっているのか本気なのか、さっぱりわからない。
 こいつは、昔からこうだ。
 こういう奴だ!!

「ええい、桜咲刹那! なにがなんでも勝てー!!」


 私は彼が寝ているのも忘れ、思わず叫んでいた。


「ふふふふふふ」

 ええい、楽しそうに笑うんじゃないー!!


 刹那VS神楽坂は、ハラハラさせられたが、桜咲刹那の勝利で終わった。


「か、かった、か……」

 ふう。と、最後、神楽坂明日菜の刃が真剣になったところを見たアルも、さすがに安堵のため息をしているのを感じた。
 さすがに私も、神楽坂明日菜があの雰囲気になった時はあせった。
 このアホが。ああいう馬鹿に慣れない事をさせるな!


 ……だが!


「ふっ、ふはははは。どうだ見たか! 賭けだろうがなんだろうが、私に勝とうなどとゆーのが愚かなのだ!」

「ええ。私もひさしぶりにあなたの慌てふためく姿を堪能できて満足です」

「なっ!?」

 くくくくくくと、私を馬鹿にするように笑う。

「貴様、最初っからぁ!!」

 膝の上に彼の頭がなければ、今確実にくびり殺してやっているぞ!


「それはもう賭けなどなくとも教えるつもりでした」

「おお己はぁ!」

「というわけで……といきたいところですが、あなたの望みをかなえられるのは学園祭後になるでしょうから、もう少しお待ちください」

「ふん」

「それと、彼の『力』についてもね」

「……なにか知っているのか?」

「詳しい事は、学際の後。お茶を用意してお待ちしていますよ」

「ん? 貴様今どこに?」

「私の住処は、ネギ君とそのカワイイお友達が知っています」

「なに?」

「おっと、次は私の試合です。行かなくては」

 そう言い、アルはすぅっと消えていった。
 ええい。あいつはなにをしにきたんだ! 私をおちょくっただけか!?


「ああ、そうそう」

「……行ったんじゃないのか?」
 再び背後に現れるアルビレオの気配。

「いえ。最後に言っておきたい言葉が」

「なんだ?」

「綺麗になりましたねエヴァンジェリン。彼の、おかげですか?」

「ばっ!!」

 思わず頬が赤くなる。
 ばっ、馬鹿な事を!!

 そのまま、アルの気配は消えた。

 ……な、なにが言いたいんだあのアホは!





「……本当に。綺麗になりましたよあなたは。そして、変わりましたね」

 どこかうれしそうに。でも、さびしそうに。アルビレオは、そうつぶやき、2回戦の第1試合へ向かうのだった。




──────




 試合そのものの流れは、エヴァンジェリンが1回戦から棄権(試合放棄)するという事があったものの、それ以外に大きな変化は生まれなかった。


 小太郎はクウネルに破れ、屋根の上で涙を流し、運よく勝ち上がった事となるモブは刹那にあっさり倒され、ネギは脱げ女を裸にして勝ち上がる。
 刹那自身は、この時エヴァと戦わずとも、すでに原作でエヴァと戦った時と同じか、それ以上の力と、心構えを持っているので、この後を心配する事はない。

 準決勝も同様に変わらない。

 原作より強くなっていた刹那だが、ネギも同様で、リルル、タカミチと戦った経験により、より強くなっていた。それゆえ、ネギは立派に、正面から刹那を倒す。
 一方クウネルは皆が知るのとまったく同じく、楓にパクティオカードを使い、勝利した。
 その際、彼はぐっすり眠っていたので、どちらの試合も見ていない。


 もうじき決勝というところで、彼は、ようやく目を覚ます。


 来るべき時が来たともいえる、決勝で。



「んあっ……」

 目が覚めた。
 どうやら今から、決勝のようだ。

「目が覚めたか」
「おはよー。相手は~?」

「ネギとアルだ」

「あー。順当だねー」

 てことは、これからおとーさんと、感動の再会か……


 そう思って舞台を見ていた俺は、とんでもない衝撃を受ける。


 クウネルが変身したその姿……

 光が舞い。真っ白な鳩が舞い。
 現れた、その姿。

 変身したナギ・スプリングフィールド。その姿は。

 その姿は!


 女!


 女性だったのだ!!



「……え? あ、レ?」


 俺は、盛り上がる会場の中で一人、呆然とするしかなかった。


 ぎぎぎぎぎぎっと、エヴァを見る。

「なんだ?」


 そして、ナギを見る。

 エヴァを見る。ナギを見る。エヴァを見る。ナギを見る。


「なにをしているんだお前は」

「……だって。ナギ、女だよ?」

「そうだぞ」

「女だよ?」

「それがどうした」

「だって、お前、ナギとーさん、好きなんじゃなかったっけ?」

「んなわけあるか!! 相手は女だぞ!」


「え? だって……あ、あれ? え? あれ?」

「お前はなにを言っているんだ?」


「え? だって、お前、ナギはかーさんで、お前の初恋じゃなくて。え? あれ?」


 混乱の極みに達した俺は、そこで、思わず、聞いてしまう。


「じゃあ、お前……」

「なんだ?」


「誰が、好きなんだ……?」



 ざざざざあ。と、風の音が、吹いた。

 一瞬の沈黙の後。
 一瞬見せた、戸惑いの、後……


 決勝で盛り上がる会場の歓声が響いているというのに。その言葉は、はっきりと、聞こえた。


「お前だ」


 エヴァの、答え。


「私が好きなのは、お前だ」


 俺を見て、彼女は、はっきりと、そう言った。








─あとがき─

 彼復活! 彼復活! 彼復活!!
 魔法使いにならない方がよかった。とか聞こえてきそうですが、私は気にしない!(魔法使い覚醒自体は魔法世界行フラグですが)
 彼が本当に蘇った理由は、魔法使いの血が流れているとか、条件を満たしたからだとか、そんな事ではないからだ!!

 というワケで、今回は最初から最後までクライマックスでした。さらに次回もクライマックスです。

 ついにナギ女バレ! このタイミングのためにエヴァルートは学園祭三日目を切り捨てたと言っても過言ではありません!! このためにエヴァ個別ルートがあったと言ってもいいくらいです!

 そーんなわけで、次回、エヴァンジェリンルートクライマックス!

 彼、自分の気持ちに気づく。
 スーパー学園長土下座タイム。
 ぶっちゃけ第1部完! の3本でお送りします。


 ちなみに、魔法使いに覚醒した彼ですが、その潜在魔力は測定不能です。
 ものすごくあって測定不能なのか、全然なくて測定不能なのかはわかりませんが、測定不能です。
 あと、最初に言ったとおり、魔力があっても魔法は使えません。そもそも習ってないから。習えば使えるって事ですけど。


 ついでに、超の彼がなぜ未来にいないのだろう。という思いは、色々複雑なものをふくんでいました。
 本当に、複雑な気持ちでしょう。



[6617] ネギえもん ─第21話─ エヴァルート09 第1部完
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2009/07/07 21:36
初出 2009/07/06 以後修正

─第21話─




 エヴァンジェリンルート、第1部、完結!!




──────




 ぼー。


 はっ!


 い、いかん。意識が跳んでいた。

 状況を整理しよう。

 ネギの親。ナギ・スプリングフィールドが女だった。

 以上。
 つまりTS。トランスセクシャルの略ですね。わかります。
 ネギや小太郎が女の子だったんだから、このくらい起こりえると想像はしておくべきだった。
 なかなかすごい衝撃だったぜ……

 ……

 ……いや、違う。TSの衝撃はもう3度目だ。たいした衝撃じゃない。
 呆然としていたのは、あの後。あの後、それ以上の衝撃を受けたからだ。



『麻帆良際二日目世界樹周辺では中夜際二日目に突入します。学園生徒の皆様は……』
 校内放送が響いてきた。



 ……うん。こんな事前にもあったね。ここ、俺の部屋だね。
 ぼーぜんとしつつも、第4話の時と同じようにまた戻ってきたみたいだね。
 血だらけだった俺の服もちゃんと着替えてある。
 武道大会決勝から、さっき部屋で気づくまで、色々あった事は覚えている。ただ認識していなかっただけだ。
 それほど、あの言葉は、インパクトがでかかったのだ。

 もう夜中。前回ボーゼンとしていた時は4時間ほどだったけど、今回は8時間ほど脳みそがソレを理解するまでかかった計算になる。
 ……そりゃ、するよな。



 はっきりとしてきた頭で、あの時あった事を思い出す。


 あの時。


 俺が、エヴァンジェリンに、「お前は誰が好きなのか」と聞いた時。

 エヴァは、きっぱりと、「俺が好きだ」と答えた。
 正面から俺を見て。


「私が好きなのは、お前だ」


 そう言ったんだ。


 そして、俺の答えは夜、かつて戦った橋の上で聞かせてくれればいいといい。そう言い、エヴァはその場からいなくなった。

 あの時まだ呪いがかかったままだったから、エヴァは走っていった。頭がパニックを起こしていなければ、追いつけたのかもしれない。
 だが、今はそんな事はどうでもいい事だ。


 俺はずっと、『ネギま』原作どおり、エヴァはナギが好きなんだと思っていた。

 だって、そうだろう? 俺の知っているナギは男で、エヴァが、その男にどれだけ慕情を募らせているか、知っている。
 だからこそ、エヴァの気持ちが、他の人間に向いているなんて、想像も出来ない。
 そういう先入観があるからだ。

 だから、そんな事、考えもしなかった。
 全然気づかなかった。


 だが、その先入観は、ナギが女だと、自分の目で見て、崩壊させられた。

 そして、その想いは、俺に向いていた。


 エヴァの気持ちが、俺に向いているなんて、想像もしなかった。
 異邦人である俺が、そんな風に思われているなんて、考えもしなかった。


 だが、俺の気持ちは、どうだ……?

 俺が呆然としていたのは、そのせいでもある。


「ふー」


 息を吐く。
 一度、心を落ち着けるために。
 落ち着け。これは、現実だ。いつまでも、頭の中で現実逃避しているわけにはいかない。
 あいつは、この世界に生きる、一つの個人だ。きちんと考えてやらねばならない。


「ケケケケケケ」

「お?」
 声のした方を振り向く。
 そこには、チャチャゼロがいた。

「あー、チャチャゼロか」
 そういえば、エヴァといれかわるように、俺のとこに現れていたような気がする。

「ケケケ。ココ二来ルノモ久シブリダゼ」

「つっても一週間ぶりくらいじゃないか?」
 チャチャゼロはワリとよく遊びに来る。エドになれるエヴァと違って、一人で自由に動ける範囲が少ないからな(人形だから)

「ソーダッタカ?」

「……はともかく。なんかようかね? エヴァンジェリンが時間待てずに答え聞きにきたか?」

「イヤ。約束ノ場所デ待ッテルゼ」

「そか」

「カワリニ別ノ奴ガイルガナ」

「は?」

「おお、正気にもどったのかね」
 そう言い、ドアを開けて入ってきたのは、学園長だった。

「あ、学園長」

「うむ。あの決勝直後君のところへ行ったのじゃが、どうにも目の焦点があっとらんかったからな」

「あー、すみません。もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
 俺はぺこりと頭をさげた。

「……」

「……?」

 入り口にいた学園長は、そんな俺を、無言で見ていた。
 意味がわからず、思わず疑問符をあげてしまう。

 すると学園長は。


「本当に、すまんかったぁ!!」

 俺お得意のジャンピング土下座をかましたのだ。

 う、うつくしい……

 それは、土下座スペシャリストの俺も、思わず見とれてしまうほど、華麗で素敵な土下座だった。


 ……じゃなくて。


「い、いきなりなんですか?」


 ぺこぺこと一方的に謝ってくる学園長の話を聞く。
 なんでも、勝手な推論で俺を悪い奴だと断定した事を謝りに来たのだそうだ。

 別に学園長が俺になにかしたわけでもないと思うけど、ここで謝らなくては、お天道様に顔向けが出来なくなるから、こうして謝りに来たのだそうだ。


 だが、俺は別に学園長になにかをされたわけでもないし、俺の方も学園の面倒ごとに巻きこまれるのが嫌だから関わらなくしてもいたので、むしろ俺の方が悪い気がしてきてしまう。

 つーか、別に学園長悪くないと思うけど。
 俺の方がどっちかというと不法侵入者だから、謝るのは俺の方だと思うんだが……

 でも、そこで俺も悪いんです。なんて謝りだしたら、収拾がつかなくなる雰囲気だ。

 だから……


「頭をあげてください。あなたは学園を守ろうとしただけ。当然の事をしたまでです。あなたはなにも悪くない。俺の方も、黙っていたのですから、おあいこですよ」

 と、とりあえず、笑顔を向けておいた。


 手を差し出した俺を、学園長が見る。

 そのまま学園長は一瞬呆然とし、よろよろと、俺の手をとった。


「……こ」

「こ?」

「木乃香の、婿に、ならんかね?」

「は?」


 今度は俺が呆然とする羽目になった。
 どうしてこう、今日は立て続けにインパクトのデカイ事が起きるんだ。


 俺の中で木乃香お嬢様の嫁は刹那君だし。それに俺の嫁は……


 ……


 そして、嫁という言葉が頭にしっかりと響いたとき、俺は、気づいた。
 その事に、気づいてしまった……

 答えは、すごくシンプルだったんだ。


「……あー。学園長」

「なにかね孫よ?」

「申し訳ないんですが、お断りさせていただきます」

「なっ!? なんじゃとー!」

「俺を気に入ってくれたのはうれしいんですが、先約があるんで」

「先約、じゃと?」

「ええ。これから捕まえに行かなきゃならないじゃじゃ馬なんですがね」


 そして、時計が夜の、ある時間が近い事を指し示す。


「げ、もうこんな時間。学園長。悪いんですが、これから用事があるんで、失礼してかまいませんか?」
「ケケケケケ」
「む、そうかね。これは悪い事をした。ワシの方は気にせず行ってくれたまえ」

「ありがとうございます。それじゃ、行かせてもらいますね。なにか他に話がありましたら、後日呼び出してください」

「いやいや。ワシの方からそちらへ行くとするよ。君は、学園はおろか、この星の守り神なんじゃから」

「そういうわけじゃないんですがねぇ。っと、こんな事している場合じゃなかった」

「フォッフォッフォ。行きたまえ行きたまえ」

「それじゃ、また後日!」

「フォッフォッフォ」

「あ、ドアは開けっ放しで問題ないので、そのまま閉めるだけで平気ですから! それと……!」


 部屋を飛び出す時、必要な事を学園長に告げ、答えを聞き、俺は約束の場所へ向かった。




───学園長───




 あの戦いの後、超君からの連絡を受け、試合のある高畑先生を大会に戻し、ワシ等は彼の元へと向かったが、彼はエヴァンジェリンの膝枕で、眠っていた。
 あの怪我から再生、復活してきたのじゃ。疲れが出るのも当然じゃろう。

「こいつはただ平穏を望んでいると言っておいただろうが」
 ワシを睨み、エヴァンジェリンに叱られてしもうた。
 まったくもってその通り。
 ワシも申し訳なく思うよ。

 彼が寝ていたため、ワシをふくめた魔法先生は一度、告白阻止などの仕事へ戻った。
 その後、彼が目を覚ましたのを確認し、ワシが代表し彼の元へと向かったのじゃが、今度はなぜか上の空であった。
 なにがあったのかはわからんが、エヴァンジェリンの従者チャチャゼロ(なぜか彼の頭の上にいた)によれば、ただ驚いているだけだと言う。

 なので、ワシは彼が正気に戻るまで待つ事にした。
 そしてその夜、彼はやっと正気に戻る。

 それを確認すると、ワシは彼の目の前で、土下座をした。

 勝手な推論で、一方的に彼を悪いと断定していた事や、疑っていた事。そして、それで彼に大怪我をさせる原因を作った事。それらをその程度で償えるとは思えんが、精一杯の誠意をこめ、土下座した。


 彼は、一方的な被害者でもあるというのに、ワシを笑って許した。

「頭をあげてください。あなたは学園を守ろうとしただけ。当然の事をしたまでです。あなたはなにも悪くない。俺の方も、黙っていたのですから、おあいこですよ」


 それどころか、自分にも責任があるような言い方までして。


 彼の言葉がきちんと脳に届くまで、しばらく時間がかかった。


 おろろ~ん!
 思わず、泣いてしまうかと思ったくらいじゃった。

 ワシは、ワシはこんな誠実な若者を疑っておったのかー!
 足手まといでしかないワシ等まで気遣ってくれるとは。なんと大きな懐を持つ男なんじゃ!
 ワシ等のせいで死ぬほどの怪我をし、それでもワシ等を護り戦ったというのに、それなのに!!


 直後ワシは彼の手を取り、思わずワシの義理の孫ならんかと持ちかけていた。

 だが、その直後、彼はあっさりと断りを入れてくる。
 それは、なにか自分の気持ちに気づいたような、晴れ晴れとした顔であった。

 ふむ。
 どうやら、彼にはすでに、想い人がいるのだと、悟れた。
 そして、この場にいるエヴァンジェリンの従者……


 彼は、約束の場所へと向かった。


 取り残されるワシと、彼女の従者チャチャゼロ。


「いやはや。いつの間に……」
「ケケケケケケ。残念ダッタナ。ウチノ御主人ノガ先約ダゼ」

「うむむう。力ばかりに目がいって、彼の本質を見抜くのが、ちと遅かったようじゃ。惜しい事をしたのう」

 ひげをなでつけながら、ワシはそう思うのであった。


 じゃが、もう一つの気がかりでもあった少女。

 彼女が幸せとなるのならば、黙って見ているしかない。

 手のかかる少女であると思うが、是非幸せにして欲しいものじゃ。




──────




 一方そのころ、ネギは、超と対峙していた。

「超さん。どうして、退学届けなんかを?」

 超の退学を、クーフェイから聞き、その事について、問うているところである。
 ちなみに、超の計画は途中で実行する事が無意味となったので、まほら武道大会での映像はネット上に流出していない。
 それでも、大会後それを見ていた観客にネギは追い回される事となったが、原作ほどの大騒ぎではなかった。
 もっとも、巨大化したジャスティス仮面と『ジュド』はサイズ上誰からでも見れたので、アレはアレで別の意味で話題となり、最終日火星ロボ襲来全体イベントのデモンストレーションとして、ネット流出の代わりの大きな宣伝となっていたが。


「やっぱり、全部終わったからですか? この世界が、守られたから」

「その通りネ。私の全てだた計画は消えた。もうここには用はない」


「……」
 ネギも、それはわかっていた。大会後聞いた、超が現代に来た理由。
 さらに、超の体に施された呪紋処理。あれは、正気の人間がやったとは思えない。
 あれは、術者の肉体と魂を食らい、それを代償に力を得る狂気の技。
 それを施してまでやってきたのだ。
 あの計画への。鉄人兵団と戦う事への決意が伝わってくる。

 もっとも、その食らわれた魂などの傷は、すべて彼が癒して(戻して)しまったが。


「この時代の、この星が救われた。それだけで、十分ヨ」

「でも!」

 ネギは、超に近づく。

「それが、全てだなんて、嘘ですよ。それに、それを確認せずに帰るなんて、とんでもない! 超さん。せっかくですから、この平和になったこの時代で、僕と一緒に、『立派な魔法使い』を目指しませんか?」

「……一緒に、『立派な魔法使い』を、目指す。か」
 超は、リルルと戦った、あの感覚を思い出した。
 彼女と共に歩めるというは、きっと、とても心地よいだろう。

「そうネ。そんな未来も悪くないかもしれぬナ」

「それじゃあ超さん。ここに残って……」

「いや、帰るネ」


 がーん!


「超さんどうして!?」

「いや、ぶっちゃけるト、学園祭終了時に帰らないと、次は22年後まで故郷に帰れなくなる。目的を失ってしまった今、さすがにそこまで待てないヨ」

「そ、そんな……」

「異常気象がなければ、もう1年いれたけどネ」


「なら、答えは簡単だ」

 突然そこに、彼がふってきた。

「わっ!」
「ナゼ、ここに?」

「ちょっとした野暮用があってね。君等はついでだ。仲裁するぞ。超。俺は世界樹の魔力に頼る必要のない個人用タイムマシン(『タイムベルトなど』)を持っている。それを使えば、22年なんて制限もなく、未来へ帰る事が可能だ」


「え?」
「……あ、相変わらず、出鱈目な人ネ」

 実際彼は、時間停止を魔力なく可能にしている。それならば、タイムトラベルすら可能にしていたとしても、なんら不思議はなかった。


「だが、君の主張も理解出来る。だから、シンプルに、なにかで勝負でもして、勝ったら相手の言う事を聞くとかでもしろ。ネギが勝ったら超は卒業までいる。超が勝ったら勝手に帰るなりなんなりする。そんな感じだ。詳しい事は自分達で決めればいい」

「それ、いい考えネ。ネギ先生。明日、新しい私主催となった全体イベントがあるネ。私はそこでラスボスを勤める。ネギ先生はそれに参加し、私に見事打ち勝てば、私は卒業までいるとしよう」

「ほ、本当ですか!」

「未来人嘘つかないネ。ただし、私が勝ったらネギ先生の方に私のお願いを聞いてもらうヨ」

「わ、わかりました!」


「あ、ちなみにネギを未来に飛ばして不戦勝。なんて事は考えない方がいい」
「ぐっ。そ、そんな事しないネ」

「確かカシオペアにセットしてあったはずだ。気をつけなさいネギ」
 昼間は忘れていたが、今の会話をしていて思い出したようだ。

「は、はい!」

「……なぜそこまで知ってるネ」
 ちょっとすねたように超が言う。

「そいつは企業秘密だ」

「……残念無念ネ」

「というわけで、俺は基本中立で見物してるから、ネギ先生もがんばりなさい」

「はい!」

「それじゃ、俺は忙しいので、さらばだ!」


 杖を二回ぽてりぽてりと倒し、そのまましゅぽーんと、彼は飛び出す。


「なにをしているんでしょう?」
「気になるネ」


 彼女達の問題は片付いた。それゆえ今度は彼へと興味が移るのは、ある意味当然だった。



 その後彼は、超鈴音のお別れ会を準備していた会場へ出没する。

 那波千鶴と話をするためだ(その通り道でネギ達を見かけた。ちなみに『どこでもドア』を使わなかったのは出現地点が不明で人目につく可能性があったから)


「ちづるさん。ちょっといいですか?」
「はい?」




───エヴァンジェリン───




「お前、誰が好きなんだ?」


 武道大会決勝中。
 ナギVSネギが行われている最中。

 彼が、突然まじめな顔で、私にそう聞いてきた。


 不意打ち過ぎる言葉。

 私は、混乱し、そのまま、「お前だ」と答えを返してしまった。

 あの直前。私は、彼を失うかと思った。
 実際、一度、彼の命の灯火は、消えた。
 あの時、私はもう、彼を離したくないと思った。
 二度と、失いたくないと思った。

 それゆえ、不意打ち過ぎたその質問に、そのまま、自分の素直な気持ちが、出てしまった。


 結果。私の気持ちが、彼に伝わってしまった。
 自分の気持ちを、彼に教えてしまった。


 だが、答えた私は、彼の返事を聞くのが怖くて、時間と場所を指定し、逃げ出してしまった。


 家に戻り、その事に悶えても、時間は止まらない。


 時間はそろそろ約束の時間。
 彼の答えを聞く約束の、時間。


 怖い。彼の返事を聞くのが、怖い。
 そもそもなんで時間を設定してしまったんだ。
 彼が拒絶する事はないだろう。少なくとも、嫌いという事はないはずだ。

 だが、結局私の事をなんとも思っていない。という事は十分にありえる。

 もしそうだったとすれば、私は、この心地よかった関係を、自分で捨ててしまった事になる。

 さらに。万一私の事が嫌いで。
「はっ!」
 なんて鼻で笑われたら再起不能だ。
 想像するだけで恐ろしい。

 出会った当初ならともかく、今なら、そんな事は、ないとは思うが……
 可能性が絶対にないとは言えない。


 だがこうなってしまっては、もう逃げる事も出来ない。

 私は、結果を受け入れるしかないのだ。
 彼が、どのような答えを出したとしても。


 ふっ。ふふふふふふ。

 だが、私はもう、彼を離したくない。
 失いたくはない。

 もう、この気持ちは、抑えようがない。
 どうせ効かないとは思うが、いっその事世界樹の力でその心を縛ってもいいと考えてしまうほどに。


 こうなったら、もし「ノー」と言われたとしても、力ずくで私のものにしてやる!
 私は悪の魔法使い! 彼の意思など無視して当然!

 力ずくなんて無理? そんな事はない。恋する乙女をなめるな。
 こちらの準備は万端だ。
 茶々丸に命令し、超鈴音のところにあった、あの時間停止に対抗出来きる航時機の2号機と、あの田中というロボットを拝借してきてある(カシオペアは起動出来ない可能性があるが)
 私の時間さえ止まらなければ、止まった時の中全力が出せる。しかもロボットを『人形使い』で操る事が出来る。

 さらに、あいつに返していない(偶然回収されなかった)『マリオネッター』という道具もある。


『マリオネッター』
 伸びた1本の糸を人につなげると、マリオネットのように人を意のままに操ることができる。
 操るのはかなり難しいが、人形使いであるエヴァンジェリンならば使いこなせるだろう。
 リルルとの戦闘中リルルを動けなくする糸の一本として使われたが、時間停止解除は阻止できなかった(糸をつけても意識、糸をつけていない物までは操れないから)


 田中と戦っている間に、彼にこの『マリオネッター』を取り付ける事が出来れば、私の勝ちだ!

 ふふふ。完璧。完璧じゃないか!


「ふふふふふふ。ふははははは」



 色々テンパったせいか、思考が変な方向へ走り出してしまったエヴァンジェリンであった。




 彼を私のモノとすべく、準備万端とし、私は、橋の上で、彼が現れるのを待った。
 橋の照明はすべて落としてある。場に他の者が現れないようにするためと、彼の視界を少しでも不自由(私は吸血鬼だから問題ない)にし、勝率を上げるためだ。まあ、意味はないだろうが。


 そして、時間通り、彼はやってきた。



「ふふふふふ。よくやってきたな!」

 橋の上で腕を組み、私は言う。

 そのまま彼の答えを聞く前に、勝負だ! 私が勝ったら、お前は私のものとなれ! そう言うつもりで、口を開こうとした。

 だが、その前に、彼が口を開く。


「エヴァンジェリン!」


 彼の声を聞いただけで。
 呼ばれただけで、私の胸は、高鳴った。

 自分の名を呼び、そのまま、無人の野を歩くがごとく、歩いてくる。
 橋の下。湖の中にロボットが待機しているが、そんなもの気づいていないかのように。
 いると気づいているはずだ。だが、そのようなモノ関係ないように。

 ただ歩いてくるだけなのに、私は、目を離せなかった。
 彼に、なにも、言えなかった。

 橋の上を堂々と歩く彼を、ただ見ているしかなかった。


 なぜ? 彼がこちらへ歩くだけなのに、なぜ、こんなにも、期待に胸が高まってしまうの?



 彼が目の前に迫る。



 がばっ!




 そのまま、私は、彼に抱きしめられた。







「俺は、お前が、好きだ」



「え……」

 耳元でささやかれた、言葉。
 私は、目を見開いて、口をぱくぱくとさせるしかなかった。


 それは、あまりに予想外の答えだったからだ。

 きちんと認識するのに、数秒かかるほどに。


「か、からかって、いるの?」
「違う。本気だ。俺も、お前が好きだ」

「わ、私は、お前の好みの女じゃないぞ。凹凸もまともにない、子供の体だ」
「10年もすれば立派な女だ」

「私は吸血鬼だ。人のようにこの体は成長など……」
「人間に戻ればいい。呪いも、吸血鬼も、俺が取り除いてやる」

 それが、本当に出来る事を、私は知っている。
 『タイム風呂敷』。それがあれば、記憶をそのままに、戻せる事を、私は、知ってしまっている。

「どちらも、学園長に許可は貰ってきた」
 彼が部屋を出る時、最後にした質問が、それだ。



「呪いどころか、エヴァンジェリンを人間に戻せるとはのう。こりゃとんでもないお方じゃ」
 フォッフォッフォと、夜道を歩きながら、学園長は笑うのであった。



「那波千鶴はどうするんだ」
「ちゃんと断ってきた。謝ってきた」



 超のお別れ会会場の裏。
「ちづるさん? どうしましたの?」
 一人、屋上の隅でいる千鶴を、雪広あやかが見つけた。

「ううん。なんでもないわ。ちょっと、失恋しちゃっただけ」
「ええっ!?」
 涙をぬぐう千鶴は、あやかの胸で泣く事となる。

(……明日菜さんと連続して胸を貸す事になるとは思いませんでしたわ)
 委員長こと雪広あやかは、千鶴に胸を貸しながら、そんな事を思った。



「私で、いいのか?」
「お前じゃなきゃダメだ」

「私は、性格も、素直じゃないぞ」
「知ってる。それをふくめてお前が好きだ」

「嫉妬深いぞ?」
「俺だって」

「ひどいわがままを言うかもしれないぞ」
「全身全霊でかなえてやるよ」

「600年間、悪行を尽くしてきた、賞金首だぞ?」
「今までの不幸や、悪なんて関係ない。人間としてやり直すんだ。これからを考えろ。これから、俺と一緒にいて、幸せかどうかを考えろ」

「人間に戻ったら、なにも出来ないかもしれないぞ?」
「俺が守るよ」

「一生離さないぞ?」
「望むところだ」

「ずっと一緒だぞ?」
「死ぬまで離さないさ」

「大好きだ」
「俺もだ」



 そのまま、二人は、どちらとなく、その唇を……





 ……重ね合わせようとして、彼が、自重した。


「なぜだ!?」

「エヴァ。俺はこれから、お前の初めてを全部貰うつもりでいる。だが、手を出すのは少なくとも、5年は先だ。もー流されん」

 那波千鶴に対しても、結婚出来る年齢になるまで触れないと断言しただけはある。
 10歳の体である私に対しても、手は出さないという事か。

 変なところで固いヤツめ。
 ますますあの時超鈴音に阻まれチャンスを逃したのが惜しまれる。


「……」

 だが、私はもう、止まらない。
 お前が欲しいという欲求は、止まらない。
 私はお前のもので、お前は私のものだという証が欲しい。

 それゆえそのまま、私は彼の襟を引っ張り。

「んっ」
「……!?」

 自分から、強引に、彼の唇を、奪った。



 その直後、世界樹が大発光を開始する。

 22年に1度の大発光。
 やわらかい光が、私達を照らしだす。

 それはまるで、私達を祝福しているかのようだった。



「お前が、手を出さなくとも、私は、出すぞ……」

「ま、真っ赤になってるくせになにほざいてんだ……」

「ふん」

「だが、それ、盛大な自爆だぞ」

 と、彼は、自分の肩越しに後ろを指差した。

「は?」

 世界樹大発光。全然祝福じゃなかった。
 その先には、3-Aの面々が、自分達を、見ていた。
 彼ばかりに集中し、こそこそ隠れてやってきた彼女達に、エヴァンジェリンはまったく気づかなかったのだ(超、ネギ、刹那その他もいるので、なんらかの小細工もあっただろう)


「なにーっ!?」


「きゃー! エヴァちゃんがー!」
「だいたーん!」

 3-Aの面々が、きゃいきゃい声を上げている。


「お、お前、知っていたのか!?」

「そりゃぁ、ここに来る途中ちづるさんのトコ行ってきたからな。このくらいは覚悟してたよ。もーロリコンだと言われようが、また変な噂が立とうが、気にしないさ」

 やれやれと、彼は肩をすくめた。



 そのまま超鈴音お別れ会&エヴァンジェリンお祝い会へとなだれこむ事となった。
 いろんな意味で、エヴァはからかわれる事となる。
 一気にクラスと少女との距離は縮まったようだ。



 そうそう。余談だが、エヴァコピー。現エドは彼のクラスの中夜祭の打ち上げに顔を出している。
 その際彼がいないのを自分のオリジナルエヴァとよろしくやっているからと、後々のクラスメイトにまたボコられるような報告をして外堀を埋めていたりするが、まったくの余談である。




──────




 エヴァがからかわれるのもひと段落し、一度超お別れ会会場へと戻ろうとなった時(橋の上じゃジュースもなにもないから)

 彼が、エヴァを呼び止めた。

 その周囲には、出遅れたネギと刹那もいる。

「なんだ?」
「実は今日、俺の誕生日なんだよ」

「え!?」
「そうなんですか!?」

 ネギと刹那が驚きの声を上げた。

「なんだ? 誕生日プレゼントでも欲しいのか?」

「そう。だから、この場でお前を人間に戻す」

「は?」

 彼は、エヴァの答えを聞かず、そのまま頭から、『タイム風呂敷』をかぶせた。

「それは……?」

 刹那が聞いてくるが、彼は、今は見てなさい。とジェスチャーで示す。
 ちなみに、これでなにがどうなるのかは、説明を受けていないネギにも刹那にもわからない。
 よって、これで時間が戻せる。という事に、これだけでは思い至らない。


 ほんの少しの時間。
 少女がくるまれていた感覚は、その程度。

 だが、その布が取り払われた時、エヴァンジェリンは感じた。


 とくん。とくん。とくん。

 感じる。正しい、命の流れを。
 吸血鬼にはない、正しい、生命の流れを。

 わかる。

 私が、人間に戻ったのだと……

 それが、わかる。


 戻った……
 私は、人に、戻った……


「……本当に」


 私は……


「戻った……私は、人間に、戻ったんだ……」


 自分を抱きしめるよう、彼女は、その両手でその鼓動を、かみ締める。

 エヴァンジェリンは、刹那やネギに見られているのも気にせず、涙を流した。


「「……綺麗」」
 その奇跡を目の当たりにしたネギと刹那は、エヴァンジェリンの涙を見て、思わずそうつぶやいていた。


「エヴァンジェリン」


 彼が、私を呼んだ。


「10歳の誕生日。おめでとう」

 そして彼は、エヴァンジェリンに向け、優しく微笑んだ。


「え?」


 思わず私は、驚いてしまう。


「あれ? 吸血鬼になったのって、10の誕生日じゃなかったっけ? つまり人間に戻ったって事は、お前今誕生日の日の体って事だろ?」

「「……」」


 その言葉に、そこにいた、ネギも刹那も呆然とする。


「あれ? なんでみんな呆然としてんの? 俺変な事言った?」

「い、いえ。よく知ってるな。と思って」

「え? 刹那君とか知らなかったっけ?」

「いえ、知りませんけど?」

「あれ?」


 ちなみに、刹那と明日菜がエヴァの過去を知るのは、武道会中ではある。が、そもそもここのエヴァは途中で彼を膝枕して武道会を途中棄権してしまっている。
 それゆえ、エヴァの過去を聞くというものがすっぽり存在しなかったりしたのだ。


「あれー?」

 首をひねる彼に。

「……どうして?」
「は?」


 彼は今、ハッピーバースデー(誕生日おめでとう)と言った。
 確かに私は、10の誕生日の朝、目が覚めた時には吸血鬼となっていた。
 時を戻し、人間に戻るという事は、誕生日その日の肉体に戻ったと言ってもいい。

 だが、それを知っている人間は、いるはずなどない……

 いるはずはない……


「どうしてお前は、そんな事まで、知っているんだ……?」

「あー、気にするな。どーせ無意味な事だ。これからの事に関して言えば、もうほとんど知らない。特に、エヴァが人間になってからの未来なんてな」

「……」

「さっきも言ったが、必要なのは、これからだ。そして、これからは、一緒に作っていこうぜ」
 過去は知っていても、これからには無意味だと言いたいらしい。

 そしてさらに、彼は、私の過去を本当に知りながら、私を受け入れたという事でもある。
 私の過去。私の行った所業全てを知った上で、過去などまったく気にせず、私を受け入れ、これからを見ろと言っているのだ。

 この男は、私の六百年を全て奪いながら。その全ての私と共に受け止めてくれているのだ。


 それは、エヴァが悩むかもしれなかった、生まれの不幸も、生きてきた悪も、罪も、全てを跳ね除ける言葉。


 ここから、再び、人間としての人生がはじまるという事。
 彼は、その意味を、知っている。知っていて、手をさしのべている……


 それは、エヴァンジェリンにとって、とてつもないほど、心強い言葉だった。
 まさに、彼と一緒ならば、世界を受け入れ、どこまでも歩いていける言葉だった。


「……そうか。つまり、今日が、私の新しい誕生日というわけだな」

「奇遇にも俺と誕生日が一緒だから、祝いやすくていいな」

 彼は、笑う。


「……ふん。図ったような、奇遇だ」

「まったくだ」

「……だが、悪くない」

 そして、エヴァンジェリンは、彼に抱きつき、その胸(どっちかというと腹)に顔をうずめた。


「……あ、ありがとう」
 顔をうずめ、表情が見えないようにし、少女は言う。

「……どういたしまして」
 男は、それがほほえましく、優しく笑い、答えた。


 彼のぬくもりを、感じる。
 人間として、人として、また、人のぬくもりを感じる時が来るとは、思わなかった。

 吸血鬼で感じていた時よりも、なお、暖かい……
 これが本当の、彼の、体温……
 これほど、うれしい事はない。


 ああ。私の吸血鬼であった時間は、彼と、出会うためにあったんだ。


 闇を抜けた光の先は、ここにあったんだ……
 彼と出会えた事。これほど、これほどうれしい事はない……



 ちなみに、彼に抱きついているのも、なかなか来ないのを連れ戻しに来た3-Aの面々に見られ、更なる大騒ぎの火種となるが、余談である。
 そして、ネギと刹那が、少し切ない表情をしていた事も。



 翌日。
 火星ロボ軍団VS魔法使い達は、緊迫度以外。派手な祭りとなった事以外は、皆の知る内容と大きく変わらない展開であった(超が呪紋展開しなかったなどの差異はあるが)
 結果はネギの勝利となり、超は約束どおり卒業まで学園に残る事となる。


 それと、ふと思い出した白パクティオカードの件については、契約ではなくもっと出鱈目なモノだと説明したら、エヴァンジェリンの納得が得られたようだ。

「……他人のアーティファクトが契約なしに使えるとか、出鱈目にも程があるだろう」
 とエヴァンジェリンは憮然とし、だがほっとしていた。




──────




「と、いうわけで、エヴァは人間に戻りました」


 学園祭後。振り替え休日二日目。ネギ達がクウネルに呼ばれ、お茶会に参加する日。
 彼女達がその場にやってくる前。


 俺達は、学園長も交え、エヴァが本当に人間に戻った事などの報告をしつつ、一足先にお茶会をしていた。


「本当に、人間に戻ったんじゃなぁ」
 学園長がひげをなでつけながら、人間に戻ったというエヴァを見ていた。

「なーんもかわってないように見えるんじゃが」

「当たり前だ。登校地獄の呪いを受けていた時もほぼ人間だったのだからな」
「それもそうじゃな」

「もっとも、人間には戻ったが、知識と魔法は健在だ」
 種族人間。とはなったが、魔法使いレベルと経験は元のままなのである。
 吸血鬼としての種族ボーナスがなくなっただけと考えればいいだろう。

「世界最強の魔法使いは健在というわけじゃな」
「そういう事さ」

「ちなみに、吸血鬼になる事も可能です」
 と、俺がさらっと言う。

「む?」

「こら。このじじいにそこまで説明してやる事もないだろう」

「いや、ちゃんと説明はしておいた方がこの前みたいな事はなくなると思ってね」


 この前の事とは、俺が学園長に危険視されてしまった事である。
 今後の事も考えて、俺は学園長とは仲良く行きたい。だから、俺は、エヴァに『ヴァンパイアセット』の『マント』を渡した事を学園長に報告した。
 ちなみに普段はエヴァの影にしまってあるみたいです。魔法の四次元ポケットです。俺と違って手を入れなくても自動で射出とか可能らしいです。ちょっとうらやましかとです。


「それで、まあ、吸血鬼になれます」

「……つまり、吸血鬼エヴァンジェリンも健在というわけか」

「ふん。そういう事だ」
 秘密にしておく気満々だったエヴァは不満そうだ。
 ちなみに、エヴァのマントは『デラックスライト』を当ててあるので、太陽やにんにくがあっても能力が失われなくなっている。
 エヴァにとっては人間になって彼から貰ったはじめてのプレゼントである。だからというわけでもないが、ちょっと特別仕様。

 実はこっそり、エドイコールエヴァというのは説明していなかったりする。
 俺が説明すべき事じゃない。って事で。他の理由は察するように。


「最強の魔法使いは健在と。つまり、世界最強のカップルがここにおるわけか」

「ばっ、馬鹿な事をいうなこのじじい!」

「おぬしはワシより年齢は上じゃろうが」

「私はもう、十の体に戻ったんだ。肉体の年齢ならこの場の誰よりも若い」

「ですが、これから時間がたてば、成長するのですね。ああ、このちっこいキティがもう見れなくなるなんて、もったいない……」
 アルビレオことクウネルが、楽しそうに笑う。

「貴様もなにを言っている」

「ある意味これはこれで芸術だと思っていたので」

「あー。それはわからないでもありませんけど」

「お前は私がこの体のままでいいというのか!?」

「そうなら吸血鬼のままにしているよ。そんな時こそ人類の英知ってヤツを使えばいい」

「む?」
「ほうほう。どうするのですか?」

「答えはシンプル。写真にでも残しておく。それだけさ」

「……それだけか?」
「それだけさ。人は元々変化していくんだ。それを残したいと思うから、写真が生まれた。残したければ、それを使うだけさ」

「……これは一本とられました」
「フォッフォッフォ。姿の変わらない魔法使いには逆に出ない発想じゃな」

 まあ、魔法で立体画像みたいに残してもいいわけだけどなー。


 閑話休題。


「そして、俺の件ですが……」


 今回の本題。

 俺が何者か。の説明を開始する。

 ……ああ、思い出す。刹那君に『宇宙刑事』と誤解されたあの時も、こうして自分が何者かを説明しようとして、一回おふざけしたら、とんでもない結果を招いた事を。
 今回もまたなにかふざけた事を言ってしまえば、『鉄人兵団』の件とかで、俺が『宇宙刑事』であるとか誤解が広がる可能性が大きい。
 むしろ確定してしまう。なにせ敵は宇宙の侵略者。『宇宙刑事』の説得力はばっちりだ!

 だが、そんなのはお断り! あんな失敗は二度としない!

 刹那君の時のようなミスはしない! 不幸な事故だが、クウネルの半生録も俺が普通の人だという事を補足してくれるはずだ。
 それは、俺が自分で説明するよりも確実! 俺一人だけではなく、他人が一般人だといってくれるのだからな!
 ふふふ。完璧。完璧じゃないか。


 よっておれは、誤解のないように正しく俺の事を伝える事にした!

 俺が、こことは異なる世界から来た事を。
 この体が、平行世界である『俺』の体である事を。
 目が覚めたら、この世界にいた事を。
 そして、この体の持ち主は、すでに死んでいるという事を。

 もっとも、自分でも説明できない事が多くて困る。
 『四次元ポケット』がなぜあるのかとか、なんで俺がこの世界にきたのかとか。言いたくても説明不能でホントに困る。

 それと、この世界が、俺の世界のマンガにあったとも伝えていない。
 そもそも、ネギナギが女で、鉄人兵団が攻めて来ていては、もう完全に違う世界だからだ。
 ここは『ネギま』によく似ている世界。そう考えるしかない。
 ……よく考えてみて、いっちばん最初に鉄人兵団見つけた時に考えろって話だよなこれ。ま、まあ、あの時は思いっきりテンパってたから。ほら、あれだ。あれ。てへ。


 まあ、そのあたりが必要なら、俺の半生を手に入れたクウネルが補足説明するだろう(ポケットを持つ理由が説明できない以上、他人がしないと俺が一般人だと信じてもらえるから)


「というわけで、俺の件で説明不足なところは、さっき半生貰ったクウネルが補足してくれると思うのでヨロシクです」

「その件なのですけど」
 俺の言葉に、クウネルが答える。
「ん?」

「彼の体であるこの世界の彼。その彼の、遺言を預かっています」

「は?」
 この世界の、俺?

「実は、先ほどの儀式であなたの半生は得られませんでした。かわりに、その体の持ち主であった子の半生を得たのです」

「え? それってつまり?」

「はい。完全再生すれば、あなたではないあなたが現れます。これは、あなたになにかを伝えるための、彼の、最後の意思なのかもしれません」


 クウネルのアーティファクト、『イノチノシヘン』は半生の書に記録した人物の完全再生。
 10分間その人物を再生するというもの。いわば、歩く遺言。

 本来ならば、死者を記録しても、再生するのは不可能だ(死んだ状態を再生してしまうから)

 この世界の彼は確かにもういない。だが、彼の体は、まだ生きている。
 それゆえ、その体に残った、この世界の彼を再生可能にしたのかもしれない。
 それとも、死した彼が、本当に、なにか伝えたくて、クウネルの力を利用したのかもしれない。
 どのみち、正しい理由は不明だ。

 ただ言えるのは、この世界の彼の遺言が、ここにある。という事である。


「つまり、話を聞けば、なぜ彼がこの世界に来たのかもわかるかもしれない。という事じゃな?」

「そうかもしれません」

「あー。そっか。それは、興味があります」
 クウネルが俺が普通の人である事を証明してくれないのは痛いが、半生流出を防いでくれたのはやっぱりちょっとうれしい。
 ついでに俺がこの世界になぜ来たのかとかを説明してくれるかもしれないなんて、さすが俺。このまま俺が一般フツーの人だという事も説明してくれ。


「それでは、再生をはじめますよ」

「お願いします」



 クウネルの体が光に包まれ、もう一人の彼が、その場に現れた。



「……これが、この世界の、俺」

 この世界の彼が、ゆっくりと、目を開く。

「……はじめまして。どこかの世界のぼく」
「ああ。はじめまして。この世界の俺」

 俺達は、互いに挨拶を交わす。
 同じ顔。同じ声で会話をするなんて、変な気分だ。


「最初に言っておきます。ぼくは、彼がこの世界に来る前に、あの森で、死んでしまいました。ぼくが死んで、彼がこの世界に呼ばれたんです。だから彼が、ぼくを殺して体を奪ったとか、彼に責任があるとか、そういう事は一切ありません」

 学園長が、うなずく。

「むしろ、彼も被害者なんです。この世界に、強引に呼ばれたんです」


 この世界の俺は、申し訳なさそうに、俺を見た。


「そして、なぜ、彼がこの世界に呼ばれたのかですけど……」


 その瞬間。空気の温度が下がったように感じた。

 ごくり。
 誰かののどがなる。


「ぼくにもさっぱりわかりません」
 この世界の俺は笑顔で言い切った。


「ここまでひっぱっておいてそれかぁぁぁぁ!」
 エヴァがキレた。

「ご、ごめんなさーい。だって、ぼくが死んだあとの事ですからー」

 涙目で頭を抱えてうずくまる『ぼく』と、それに襲い掛かろうとして、俺に羽交い絞めされもがくエヴァの図。


「つまり、君が俺を世界に呼んだわけじゃない?」
「はい。ぼくがあの時死んで、その後。あなたがこの世界に呼ばれたのは確かです。でも、その理由は、ただの中学生だったぼくにはわかりかねます」

「まあ、確かにそうじゃよな」
 期待した全員が、ちょっとがっかりした。

「ただ、あなたの中にあるあの憎しみ。あの『闇』。あれは、ぼくだけのものではありません。ぼくは、確かにあの日、死にましたけど、世界を破壊したいと思うほどの憎しみはありませんでした」


 俺の中で暴れた、『闇』。
 この世界を憎む、『ナニカ』。
 あれは、この世界の俺だけの憎しみではなかった。

 確かに、それなら納得出来る。
 仮にも『ぼく』は、俺だ。
 なにか不幸な理由があったにしても、その俺が、あそこまで世界を憎むとは思えない。
 死者としての念だとしても、アレは異常だ。

 だが、『ぼく』以外のモノもあるのならば、納得がいく。


「では、その『闇』が、彼がこの世界に現れた、原因というわけか……」
 ふむ。と学園長があごをなでる。

「そうだと思います。ただ、どうしてそれが、ぼくの体に宿ったのかも、わかりませんけど」
 この世界の俺。『ぼく』が申し訳なさそうに言う。

「確か、あの日、強力な召喚師が結界内におったな……」
「ああ。刹那が戦っていたあれか……」
「じゃが、それでも彼程の存在を呼べるとはとうてい……」
「いや、むしろきっかけの一つなのやもしれんが……」
 学園長とエヴァが、二人であの日の事を話しあいはじめる。

 だが、当然の事ながら、答えは出そうになかった。


 老人と幼女の推論は『ぼく』には関係なく、彼は俺に話を進める。


「でも、ぼくはこうも思うんです。あの時。ぼくの命が消えるあの時、ぼくは『強い力』と、『強い心』がほしい。もしもぼくが……と願っていたかもしれません。そしてそれが、なんらかの形で、かなってしまったのかもしれない。と」

「は?」

「ぼくの願いが、あの『闇』を呼びこんで、その願いを叶えさせてしまった。あなたを、呼ぶ原因は、やっぱりぼくだったんじゃないかって」

「……」

「あなたは、本当に強い人だ。あの心の『闇』が暴れだした時、あなたは、たった一人でそれを押さえつけた」


「……あの時、か」
 学園長との推論をしつつも聞いていたエヴァンジェリンが、納得したように言う。
 あの時。うん。あのヘルマン伯爵の時だね。


「あの世界を滅ぼそうとする憎しみにも負けなかった。ぼくの欲しかった、『強い心』。そして、『強い力』。でも、もしそうだとすれば、なんの関係もないあなたが、この世界に来た事になる。この世界と関係ないのに、心に宿った憎しみの『闇』と戦っている事になる」

 少年の目に、涙がたまる。

「ぼくが望んだから。あなたが、なんの関係もないあなたが、この世界に呼ばれて、何度も戦いに巻きこまれて、『闇』まで背負わせてしまって……ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」

 そして、涙は決壊し、流れはじめた。


 彼が『力』と『強い心』を望まなければ、『彼』は、この世界に来なかったかもしれない。
 そもそも、そんな事とも関係なく、あの憎しみの『闇』のせいで、『彼』がこの世界にやってきたのかもしれない。
 誰がこの世界に『彼』を呼びこんだのかはわからない。
 だが、『ぼく』は、その責任が、自分にあると思っていた。

 死ぬ前に、もしもと願ってしまった、自分にあると感じていた……


「ごめんなさい。ごめんなさい……ぼくが、ぼくが……」


「ストーップ! それ以上謝るな。俺はお前に怒っていない。気にしていない! 罪を感じているのなら、俺がお前を許そう。今お前のやる事は、未練を断ち切って、笑顔でいる事だ。だから、これ以上謝るな!! 笑え!!」


 ドきっぱりと言ってやったら、この世界の俺は、呆然としていた。


「それに……」

 エヴァを見たら、明後日の方を向かれた。

「俺は楽しくやっているからさ」


 微笑んだ俺を見て、この世界の俺は、安心したように。それでいて、呆れたように、笑った。


「……本当に。あなたはすごいや……」

「よせよ。照れるぜ」
 ったく。ガキの癖に、余計な気ばっかり使いやがって。
 大体、ただの中学生に世界を破壊出来るほどの力。『四次元ポケット』とおまけの俺を呼べるわけがないだろうが。これだから思春期真っ只中の子は。
 最大の問題は、よくわからない『闇』の方でお前には責任のかけらもないだろうに。

「ありがとう、ございます……」
 そして、『ぼく』は、俺に抱きついて、静かに嬉しさゆえの涙を流した。

「気にするなよ。他に気がかりはあるか?」
「この世界、弱いぼくの代わりに、お願いしてもいいですか?」

「ああ」
「父さんや、母さんを、クラスのみんなを、お願いします……」

「全部、任せておけ。俺」
「はい。あとは、任せました。ぼく……」


 この世界の俺は、その身を離し、静かに微笑んだ。


「これでぼくも、悔いを残さず、天にのぼれます……あなたに会えて、本当に、よかった……」

「そうか」

 俺の方も、感謝しなくちゃならない。
 なにせ、君がこうして出てきてくれたおかげで、俺の人生30年もクウネルにとられずにすんだ。
 感謝するのは俺の方かもな。


 ゆっくりと、その姿が消えてゆく。


「さようなら……」
「ああ。またな」

 『ぼく』が、空へと消えてゆく。
 光が消えた後。そこには、微笑むクウネルがいた。

 俺も、感謝の笑みをこめ、微笑み返した。

「この世界の俺も、案外いいやつだったよ」



 そう言った彼の頬には、一滴の涙が、流れていた。



 その彼の姿は、なぜかとても、神々しいほどに美しかった。
 そう、その場で彼の姿を見た者達は、思った。



「……しかし、結局なにもわからんかったのう」
「そうだな」

 エヴァと学園長がうなずいている。
 確かに。結局わかったのは、この世界の俺。『ぼく』が無事成仏した。って事だけだ。

 むしろ『闇』について謎が増えたくらいだ。


「……『闇』については一つ、心当たりがあります」
 クウネルが、その疑問に答えた。

「ほう」
「そういえば、大会の時、『力』について知っているような口ぶりだったな」
 学園長とエヴァがソレに反応する。


「彼の力。それとまったく同じかはわかりませんが、かつて私達は、同じようなモノを見た事があるのです」

「なにっ?」

「それを目の当たりにした時、私達は、この世界であの化け物を倒す事の出来る者は誰もいない。絶対に勝てないと感じました」


 オイオイ。それってひょっとして……


「もっとも、そんな化け物も、ナギが倒してしまったんですがね」

「なんだそれは……」
 絶対勝てないのに勝ったという、あまりに荒唐無稽な話に、エヴァがあきれた声を上げる。


 俺は、その絶対に勝てない。というのには、心当たりがあった。
 確か、ジャック・ラカンが昔話で語っていた……


「……ん? ちょっと待て。それだと俺は、あれか? 『造物主』と同じ雰囲気を持ってるって事か?」

「はい」

 やはり知っているんですね。
 と、感心されてしまった。


「あなたと相対した時、私はソレと同じ感覚に陥りました。あの、世界を消滅させようとしたバケモノと、同じ気配を感じたのです」


 『造物主』。もしくは、『始まりの魔法使い』、だったか?
 た、たしかアレだよな。いわゆるナギパーティーと戦った最大の敵で、過去ナギ編のラスボス。
 あの生けるバグキャラジャック・ラカンにも勝てないと言わしめた。
 復活ラスボス候補ナンバーワンの大フェイト(?)の親玉。


「あなたはそれと、同質の存在。下手をすると、あなたは、その『造物主』そのもの。もしくは、その『器』となりえる存在かもしれません」

「おいおい」

「ただ、確証は持てません。同じ雰囲気と言っても、あなたには勝てない。そう感じている。それだけが根拠ですから」

「つまり、全然関係ない可能性もあるって事?」

「はい。といってもその相手も世界を無に返そうとしましたけど」

「……すっげー嫌な符合しかしませんねー」


 アレと俺が関係あるとか、やめてくれよ。
 思いっきりネギの物語に関わる事になるじゃないか。

 ……あれ? もし関係あった場合、あの時のヘルマンて、ひょっとしてなにかのトリガーとして使われたとかないだろうな。
 でも、フェイトは俺の事知っているようなそぶりは見えなかったから、実際は関係ないのか?
 ただ雰囲気が同じってだけ? フェイトが知らなかっただけ? それともあの時俺が発見された?
 だめだ。原作知識にフェイトも『造物主』もその目的や正体はまだ不明だったから判断出来ねえや(彼にあるのは魔法世界武道大会決勝まで)
 まいったな。

 今一番必要な知識がねーじゃねーか。

 つか、関係あったら、この『四次元ポケット』って元々は『造物主』の持ち物?
 そうだとすると、『造物主』に勝ったナギかーさんマジで最強っすね。

 でも、もう一つ可能性はある。
 この世界に『ドラえもん』の物語はなかった。ここで『ドラえもん』を知っているのは『俺』だけなのだ。
 つまり、俺がこの世界に呼ばれたから、『造物主』かもしれない『闇』の力に、俺の知る最強設定(強い力)が反映された。とかいう可能性も捨てきれないのが怖い。

 ぼくのかんがるさいきょうきゃらくたーはどらえもんです。ってヤツー!?

 でも鉄人兵団がいたわけだから……
 いや、そこを考えるのはやめよう。頭と心がインフェルノペインしてくる。

 あるものはある。それで俺がなにをするかしないか。それでいいだろう。


「しかし、これなら、あなたが彼女の娘。ネギ・スプリングフィールドに目をかけた理由も納得が出来てしまいます」

「ハハハハハハ」

 乾いた笑いを上げる俺。
 いや、全然そーいうわけじゃないんですがね! ないんですがね!!


 しかし、『造物主』の、器の可能性。か……

 ……なんか、また一つ厨二設定が増えた気がするぞぅ。
 いや、むしろ発展したといえばいいのか? もう俺がラスボスもやれそうな勢いだぞぅ。
 心に『闇』を宿した最強系主人公だぞぅ。
 世界、滅ぼしちゃうぞぅ。

 ホント、やめてけろよ。

 相変わらずレベルのたけぇ房設定だぜ。どこまでこの俺を苦しめるんだ。
 どこまで厨二設定を貫けば気が済むんだ。


 つーか器とかってナギかーさんの役目とかじゃねーのかなー。俺と同じ雰囲気のヤツに勝利してるし。
 まあ、本当に関係あるかは不明だしなー。


「もっとも、まったく逆の可能性もありますが」

「逆?」

「復活する『造物主』。もしくは別の世界の破壊神など。もしくはその体に宿る、『闇』を。あなたという『闇』を律する者が止めるという役目です」
「世界の守護者。というわけじゃな」

 『闇』に対するカウンター。それが、『俺』の呼ばれたかもしれない理由。

「あー」
 例えば、今回の鉄人兵団。とかな。あれは目的が世界の破壊とかじゃないから関係ないか?

「20年前のナギのように。私としては、こちらの方が可能性が高いと思います」

「その力は、まさに表裏一体というヤツじゃな」

「ええ。体に『闇』が宿った反動で、『光』もまた宿ったというわけです」

「ま、よくある話ですね」
「……よく、ある?」
 学園長とクウネルが俺の方をちょっと驚いた目で見た。

「ああ、お気になさらず」
 やべえやべえ。あまりの事にうっかりさっきまで考えていた厨二設定に関しての感想が出ちまったよ。

 そうか。と、なにか納得したように学園長はうなずいてたけど、どこに納得するところがありました今?


「結局のところ、『造物主』イコール俺でも俺ががんばれで、別に世界を破壊する者出現イコール俺がんばれで、さらに世界破壊しないように俺自身もがんばれって事ですよね」

「そうなりますね」

 笑顔できっぱり言われました!

「がんばりまーす」


 はあ。どうやら俺には、なにやら壮大な宿命(笑)があるようだ。
 世界の上に物語にも関わってきたかもしれないなんて。
 しかしイコール『造物主』はイヤだなー。
 『造物主』イコールおとうさんで実は俺が四番目DEATHよもヤだけど。

 いろんな意味で。



「というわけで、その認識に立ち、これからどうするのです?」

「どうしようましょうかねー。このまま俺がなにもしないのもある意味世界を守る行動にもなるし」

「確かに。心の『闇』を刺激しない生活というのも大切ですね。大変すばらしい答えです」

「いやいや。褒めてもなにも出ませんよ」

「そういう事でしたら、どうです? 私と一緒にここで暮らしませんか? ここならば、たいていの干渉は撥ね退けられます。食っちゃ寝生活も、結構快適ですよ」

「は?」

「具体的に言えば、私のお婿さんになってみませんか? という事ですが」

「ぶー!!」
 今まで静かに紅茶を飲んでいたエヴァンジェリンが紅茶を噴出した。

 ……なんかこれ、俺の位置がネギで見た事あるような気がする。弟子とそれ以外という違いはあるが。
 というか、クウネルって女だったの? こいつもTS組!? いや、単にからかっているだけの可能性も無きにしも非ずだが。

「ちょっ、ちょっと待てい! アルビレオ!!」
「そうじゃ待つんじゃ! それならうちの木乃香をー」
 学園長はエヴァアッパーで吹き飛ばされた。

「ここだけの話、エヴァンジェリン。あれはいけません。あなたの人生を棒に振ってしまいますよ」
 吹っ飛ばされ、空中を舞う学園長を無視し、クウネルは話を続ける。

「なんだとアル貴様ー!」

「確かに、今考えてみれば、こいつに振り回されるのは目に見えている」
 せっかくだから、おちょくるのに乗ってみる。この人、エヴァをおちょくるために労力をいとわない人だからな。
 それに本気なら、大会優勝の『お願い』を人生録ではなくコレに使っただろうし。

「お前までー!?」

「そうでしょうそうでしょう。エヴァンジェリンをおいしくいただくにはあと5年はかかりますし。それに比べ私ならば……」

「聞こえているぞコラ! アルビレオ!」

「くっ、その提案はずるい!」
 本当に女かどうかすらもローブのおかげで判別もつかないが、話にあわせ相槌を打つ。

「コラァ!」

「というわけで、お買い得ですよ」

「クウネル!!!」

「はい、なんでしょうキティ?」
 くりんと笑顔で振り返った。ホントにクウネルと呼ばないと反応しないねんこの変人。

「私の所有物をとろうなど、貴様なにをたくらんでいる!」

「なにが目的って、貴女がムキになって慌てふためく姿が見たいからにきまっているじゃないですか」
「俺はそれにのって一緒にからかっただけ!」

 ぱぱーんと二人でポーズをとり、その後俺とクウネルは、硬く握手をかわした。
 アンタとはいい友達になれそうだ!


「死ねぇー!!」
 クウネルを攻撃するけど、スカッと外れ。

「ぎゃーす!」
 当然俺には攻撃が当たる。
 しまった……クウネルはんは、無敵なんやった……

「冗談! 冗談なんです! 愛してるよ! だからやめ、やー!」
 当然俺だけフルボッコ。


 ぶすぶすぶす……


「いやはや、貴女の嫉妬する姿というのも、なかなか見ものですね」

「私がいつ嫉妬したー!!」


「ふぉふぉふぉ。仲良き事はよき事かな」
 俺と同じく床でぶすぶすしてる学園長が、なんか老人らしい事を言っていた。

 はっきり言ってカオスです。


 そうやってぽこすかしていると、ネギ達がやってきた。
 学園長は、用件が終わったので帰り、クウネルはネギ達の相手をはじめる。
 これでネギの母。ナギが生きている事が知らされ、夏休み魔法世界行きが決定するだろう。


 その場に残されるのは、俺とエヴァンジェリン。


 周囲に誰もいない事を確認すると、エヴァは自分の膝をぽんぽんとたたいた。
 俺も、それに従い、素直にその膝に、頭を乗せる。

 あの日からしばらくして、いつの間にか、これは当たり前になってしまった。

 エヴァの手が、優しく俺の頭をなでる。


「私は、お前が何者でも、かまいはしないぞ」

「ありがとよ」

「むしろ、どれほどの化生かと思っていたら、体は本当にただの人間だったんだな」

「お前、俺をなんだと思ってんだよ」


「……『王子様』」


「……」

 ぽつりと言われ、俺達二人は、そのまま赤面する事となった。
 こ、この馬鹿エヴァはいきなりなに恥ずかしい事を言っとんじゃ! なんつー乙女な事を。


「エヴァンジェリン」

「なんだ?」

「世界、お前と一緒にいるために、守るよ」
「当然だ」


 そしてそのまま、エヴァの顔が、俺に近づいてくる。

 ……逃げ場ねーやん。




───学園長───




 彼の、『正体』を、聞かされた。

 異世界から召喚された者。この世界を破壊出来る『力』を律する者。
 誰も発言はしなかったが、彼の『力』。それを狙い、この世界の彼の体に、その『闇』が宿り、『力』を呼び寄せたとも考えられる。
 もっとも、呼び寄せた『力』には『彼』という強固なセーフティがかけられておったわけじゃが(学園長は結局『四次元ポケット』は彼の力と思っている)
 『闇』に対する、『光』。
 それが、彼の立ち位置。

 しかし、実は大きな謎が一つ残っておる。
 それは、彼が、異世界の何者か。という事。
 この世界の彼と平行世界の彼とは聞いた。じゃが、その彼が、元いた世界では、真に何者であったかは、語られなかった。

 じゃが、推測は出来る。
 彼は、自身の説明に対し、驚いていたそぶりはなかった。
 世界を無に返そうとしたという『造物主』というものもすでに知っておった。このような事態なのに、「よくある事」と言っていた。
 彼はすでに、自身の宿命というものを、知っているのだろう。
 異なる世界から呼ばれ、全てを捨てさせられ、それでも、何事もないかのように、彼は、この世界に立っている(それゆえ、彼は元の世界の事を話さなかったのかもしれない)

 この世界を、護るために……
 全てのものの営みを護るために……


 この世界の彼を見送った彼は、あまりに神々しかった。


 世界の破壊と創造を司る力と意思。それを律し、相対する事が出来る。それはすなわち、『神』の領域といってもいい。

 人の身を借り、もしくは、人の姿を模し、『神』が降臨する事は、神話においてよくある事だ。
 もしかすると真の彼は、その類なのかもしれない。
 そう考えれば、神話の怪物を平然と召喚するのも、人知を超えたサイズに巨大化出来るのも納得がいく。
 この世界の未来と過去の事をある程度把握しているしているというのも納得がいく。

 ワシは今、まさにその神話を目の当たりにしているのかもしれん。

 となれば、ワシに出来る事はもう、ただ祈る事のみ。
 彼が、『世界の破壊者』にならぬように。彼が、『世界の破壊者』に負けぬように。と。


 じゃが、それも杞憂に終わるじゃろう。

 彼は強い。そして、彼と共に歩む者もまた、強い。

 彼は、『闇』などには負けない。そう、確信が出来た。


 いやはや、しかし、ワシはとんでもないお方の機嫌を損なうところじゃったんじゃなぁ。
 くわばらくわばら。

 とりあえず、拝んでおこうかのう。



 結局、彼本人が一般人だ。という認識は、彼の話を聞いた3人にも、存在しなかった。
 むしろ出来るはずもなかった。
 なぜなら、彼自身の説明はアルに放り投げていて、そのアルは説明していない(出来ない)上、自身もこの世界の身の上を聞いたショックとその後の騒動でその説明をすっかり忘れていたのだから。



 この後学園長に神社に祀られるくらいの待遇を受け、彼はたいそう悶絶する事となる。が、それはまた別の話。




───エピローグ───




 夏休み。

 俺はエヴァと、ネギパーティー一向と共に、魔法世界のゲートを目指していた。

 当初の予定では、成長したネギパーティーに『道具』と『知識』を渡して、心の『闇』を刺激しない事を理由に魔法世界には行かない。と、俺は安全平穏という予定だったのだけど、そうもいかないこの世界。

 すでに知っている人はいると思うんだけど、俺の祖先に魔法世界の住人がいたらしいんだよ。
 おかげであの時魔法使いとして覚醒もしたし、生き返れたわけなんだけど……


 なんと俺、魔法世界にあるとある王国の、王子様なんだってさ……


 なんでも、そこは血筋と魔力によって王が選別されるんだって。
 あの日、魔法使いとして覚醒した俺の姿が、王家の宝石とかいうのに映し出されたんだって。
 よって俺は、その国の王となる権利を得たんだって。


 それで、調べて、学園に連絡が来たと、学園長からお話がありましたとさ。


「王位継承のゴタゴタが生まれたから、夏休みには来て欲しい。だそうじゃ」

「行かないと?」

「その国の内政が大変な事になるじゃろうなぁ。手間をかけさせ大変申し訳ないのじゃが……」


 少なくとも行って、王位継承権を放棄するとか宣言しなくてはならないようだ。
 代理宣言とかはダメなんだってー。

 というか、直接行ってその俺を写した宝石から、俺の姿を消せばいいらしいんだけど、それを消せるのが本人のみだから、行かなきゃならないワケだ。
 精神的に大人になっているせいか、魔法もマトモに発動出来ないってのにいらない面倒だけはやってくるってなんぞこれ。


 そんなわけで、結局ネギ達と一緒に魔法世界へと行く事になりましたとさ。

 ネギにフェイトがゲートに来る事を伝えておこうかと思ったけど、もう俺とエヴァが直接出向くので、そのままこっそりぶっ潰そうと思います。
 ネギ一向はそのまま平穏無事に魔法世界観光でもすればいいさ。大人の残した負の遺産なんて大人がどうにかするよ! 子供は知らなくていいさ!
 原作の流れ? もうそんなの知った事かなのよ!!

 ちなみに、魔法世界についてきちゃう3-Aの子等は、委員長に監視を強化させてついてこさせないように手配済みです。
 部屋から出させません!
 ……まさか、対俺用に増やされたあの黒服執事さん達がここで大活躍するとは、思いもよらなんだ。


「それで、具体的にはどうするんだ?」
 エヴァが俺に聞いてくる。

「ああ。ゲートに現れるフェイト一行をとっ捕まえて、計画やその背後にいるヤツを白状させる。そして、丸ごと叩き潰す!」

 俺達とネギ一行がゲートに行く日、フェイトがゲートに現れる事は、的中率100パーセントの『○×占い』で○。しかも俺達が来る事に気づいているかは×が出ている。
 ならば逆に、そこでフェイトをとっ捕まえて、根本から叩き潰してしまおうというわけである。もし俺と黒幕(『造物主』?)がなにか関係あっても、エヴァもいるから心強い。
 先手必勝。そうすれば、ネギも安全俺も平穏ゲットだぜ。


「あの人形がそう簡単に自白するとは思えんぞ」

「だーいじょうぶ。まーかせて」

 懐から取り出すのは……


『白状ガス』
 スプレー缶に入ったガス。これを吹き付けられた人は、どんなに秘密にしていたことでもペラペラしゃべって白状してしまう。


 エヴァにふきかける。
「はい、しゅっとかけて。エヴァ」

「? なんだ?」

「俺の事、どう思う?」

「大好き」
 エヴァの口が勝手に動いた。
「っ!」

 エヴァがあわてて口を押さえるが、周囲にいる人達大注目。

「もう一度」

「大好き」

「せっかくだからもう一回」

「大好き!」

「とまあ、このように、効果は抜群。なんでも白状してしまうのさ」

「お、おまっ……!」
 人前では絶対に言わない事を言わされたエヴァンジェリンは真っ赤だ。

「それでも俺の事は?」

「大好きだ!」

「俺も好きだ」


 ぶん殴られました。


「こ、こ、この、アホ!! お前なんて、大好きだ!! ああもう!!」
 頭をかきむしるエヴァンジェリンでした。

「ふむ。ちゃんと動けないようにしておかないとダメだな。欠点がわかってなにより」

 背中をぽかぽか殴られているが、気にしない。




 そんなわけで魔法世界、行ってきます!










 第1部、完!!








─あとがき─


 ……後半はずっとエヴァとイチャイチャしてただけな気もする第1部終了のお話でした。

 最後という事からか、主人公がこちらの世界に呼ばれた理由もなんとなく判明でござる。
 彼と『造物主』の関係は、原作でもどういう存在かまだわからないからあえてつなげてみただけでござる。これがどう作用するのかはまだ書いてる人もわかりません。
 クウネルの勘違いでした。とか原作の展開しだいではありえるから注意。マヂで。

 学園長とも誤解が解けてこれから学園では平穏平和かと思ったら、今度はよりでっかい世界レベルのなにかと因縁が発生したでござる。
 魔法使いになったら王子様で魔法世界行き決定でござる。
 物語からも逃げられないようでござる。

 しかも学園長には神として祭られそうなレベルでござる。
 本気で神社とか像とか建てられたらもう、もう一回死ぬかもしれんね。いろんな意味で。

 最初の予定は当然『宇宙刑事』に落ち着くはずだったんですが、気づいたら学園長からは『神』として祀られるレベルになってました。おかしいな。
 そのうち事情を察した学園長が『宇宙刑事』としてあつかいだしたりしたらある意味完璧?
 『宇宙刑事』と『神』。どっちにあつかわれた方がダメージ少なかったかは、読者の皆様の判断にお任せいたします。

 しかし、敵視されていた方がダメージ圧倒的に少ないという不思議。
 このままフェイトの背後が『造物主』で関係があったらフェイトにどう思われるのやら。彼イコール『造物主』(黒幕?)とかなったら彼が憎いのにフェイト従わなきゃならないとかで、わくわくになりそうです(彼の精神ダメージ的な意味で)

 あー。千鶴が魔法世界の住人だったら面白い事になるんだけどなー。さすがにないよなー。


 でもこれからというところで、いったん終了です。


 第2部やるにしても、原作魔法世界編が終わってからな!!
 少なくとも、フェイトの背後関係や目的が判明してから。



 それと、この世界の彼が、どのようにして死に到ったのかは、明かしません。
 すでにあの時、死んでいた。という事実のみを語るのみです。
 その経緯は、想像に任せるという事で。



 数年後とか後日談書こうかと思ったんですが、なんか砂が吐けそうなイチャイチャカップルしか思い浮かばなかったのでやめました。
 これ以上もういらねーよな! いらねーよな!! それとも砂吐きたいか!?

 数年後人間に戻ったころの写真を見てイチャイチャパラダイスなの見てもしゃーないやろ!!

 しゃーないやろー! ないやろー! やろー! ろー!(エコー)



[6617] 人物説明&質問コーナー
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/07/06 21:39
2009/02/25 初出以後追加修正
2009/06/06 人物紹介整理


登場人物説明と質問コーナー
 ※本編のネタバレがあるかもしれないので読み終えてからのが無難?







登場人物説明
『彼』
 この物語の主人公。
 なぜか突然『ねぎま』の世界に飛ばされ、ポケットには四次元ポケットが設置されていた男。
 元々は三十路目前の男だったが、現在は中3の肉体。
 現実来訪じゃなくてその世界の自分への憑依が正しい?
 こちらの彼はすでに死んでいるもよう。
 なんで四次元ポケットとひみつ道具を持っているのかは本人も知らない。
 彼が手を入れたポケットは四次元ポケットにつながり、自分以外のポケットからもひみつ道具を取り出せるが、通常のポケットに入っているものは取り出せない欠点あり。
 その気になれば両手に一つずつ道具を取り出せる。
 『ネギま』原作知識はおぼろげにあり。
 性格はヘタレ。巻き込まれ型。逃げようと努力してドツボにはまるタイプ。
 よくに調子に乗って失敗する。
 ヘタレのクセにノリはいい。逃げ腰のクセにいざとなると勇気を振り絞れるくらいの強さはある。
 彼自身の強さは『ネギま』の強さ表に当てはめれば1かあってせいぜい2。
 あと三十路の精神のクセに中2の心は忘れていない。
 でもある程度の良識があるため、大勢の人の前では逆に致命傷となる。
 第3話時は刹那に『宇宙刑事』と認識され、エヴァには『敵視』されている。
 第4話ではチャチャゼロと互角の戦いを繰り広げ、第5話において『ヤマタノオロチ』を召喚し、エヴァンジェリンを圧倒する。その時吸血鬼であったとの話もある。
 第6話では自らを『サウザンドマスター』。千の未来道具を持つ男と自称する。
 こうして外側だけ上げて見ると化け物以外にありえない。
 自業自得の言葉がよく似合う男。
 起きてしまった事は仕方がない。と気持ちの切り替えは早く、意外に楽天家。頭の回転は速いが、肝心なところでうっかりを起す。
 ピンチになると笑う癖がある。
 基本的に原作キャラは名前で呼ばない(自分の独白中のみ)。例外としてネギは子供先生ではなくネギである。
 彼が原作キャラを心の中で名前で呼ばないのは、まだ自分がこの『ネギま』世界の一人だと認めたくない現実逃避のためだと思われる。
 ゆえに女だったという差異のあるネギだけは名前なのであろう。と思ったがもう一人茶々丸が例外としていた。彼女もロボだから例外と思う。
 第7話でクーフェイと出会い、まほら武道会出場フラグを得る。
 第8話において『宇宙刑事』に変身。赤くて剣を持っている。姿は想像にお任せ。
 同8話で本人意識していないが、エヴァに大きな影響を与えた。そもそも彼はこの世界のナギが女性である事に気づいていない。原作のナギが男だから、男だろうという先入観のせいである。
 第9話で学園長、超鈴音両名から危険視され、ネギにぱおーんをカモ爆弾で粉砕されかけた。
 その際『死ねばいいよ』フラグをゲットした。
 よく考えてみると、彼『ヴァンパイアマント』で自ら吸血鬼化出来るから、彼も『真祖』なんだと書いてる人も気づいた。
 第10話で雪広あやか他と知り合う。
 第12話においてはフェイトに盛大に目をつけられた。
 実は究極魔法『エターナルフォースブリザード』の使い手。
 エヴァルート第14話において那波千鶴に結婚を前提としたお付き合いを申し込まれる。
 そのせいか、なぜか千鶴も脳内では「ちづるさん」と呼んでいる。
 15話で小太郎に『桃太郎印のキビダンゴ』を食べさせた。
 第16話で『破壊衝動』による『暴走』を得る。
 第17話で学園祭突入。微妙な心情変化が。こっそりエヴァンジェリンの事を独白内で『幼女』ではなく『エヴァ』と呼びはじめた。
 第18話にて実力の一端を大勢に見せるも、奇襲にあい死亡確認。

2009/07/06 追加
 第19話ラストにおいて魔力をまとい登場。20話で魔法使いに覚醒したと判明する。
 そして第20話ラストにおいて、エヴァの気持ちを知る。
 第21話において……まあ、これ以上は野暮です。




桜咲刹那
 彼と最初に接触した原作キャラ。
 彼の言葉をそのまま鵜呑みにして『宇宙刑事』と信じる。
 アホの子じゃなくて純粋とか純真とか言ってあげてください。
 今のところ彼に一番のダメージを与えている。
 ちなみに彼は、彼女に嘘がばれた場合、「人を騙すとは言語道断!」とか言われてずんばらりんされると思っている。
 第8話で彼の『宇宙刑事』姿を見る。その後アドバイスを受けたが、迷いはまだ消えない。
 第12話でとうとう迷いを振り切った。天に光が輝く限り、彼女の勇気は尽きる事はないだろう。
 エヴァルート第16話でこっそり更なる成長を見せる。スライム程度に遅れはとらなかった。

2009/07/06 追加
 エヴァルート第21話においては、ある気持ちが破れた事を悟った。




エヴァンジェリン
 彼に馬鹿にされ敵視中。
 第3話で再会。第4話中停電を利用し、チャチャゼロをけしかける。
 第5話で彼に完全敗北をきっした。
 その後6話で未来道具『コピーロボット』を譲り受け、呪いをだまし、エドとして彼のクラスへ転入してきた。
 一応修学旅行で京都にナギの情報を探しに行くためと言っている。
 第7話で彼と買い物に行くはずが、遅刻して邪魔が入る。だがその後彼に色々と奢らせた。
 第8話では、彼に希望の光を見る。だが、それに期待し、また裏切られる事を恐れている。
 第11話で病に倒れた彼の看病をした。
 第12話において、希望の光が広がる。だが、まだ完全ではない。
 第13話でエヴァルートにはいった。
 第14話で実は最大のライバルはネギではなく那波千鶴と判明。
 第16話で自分の気持ちに気づく。だがまだそれを素直に出す事は出来ない。

2009/07/06 追加
 第17話からが本当のエヴァンジェリンルートだった。
 第18話で、一度彼を失いかけ、19話で仇をうとうとするが、呪いに阻まれ、失敗。
 落下するその時、彼の名を呼び、彼に助けられる。
 第20話ラストで、彼に自分の気持ちを伝える。
 第21話。エヴァンジェリンルート第1部、無事完結!




ネギ
 女の子でした。
 さらに、第4話ラストにて原作とは違いエヴァンジェリンに敗北。気絶。
 彼の事を自分の『母』に似ていると評した。
 第9話で彼と温泉ばったりイベントが発生。
 彼に「責任は俺が取る」と言われた。
 第12話においてフェイトにやられる直前、彼に救出される。
 そして、目の前で『奇跡』とも言える魔法を目の当たりとする。
 エヴァルート第13話で責任の問題はクリア。ほぼ白紙となっている。
 第16話において、スタイルを『魔法剣士』と『魔法使い』どちらも選択するという荒業をかました。

2009/07/06 追加
 第19話において、選んだ『スタイル』がついに花開く。が、出鱈目の塊である『道具』に敗北。
 その後、復活した彼に助けられた。
 エヴァルート第21話においては、ある気持ちが破れた事を悟った。




神楽坂明日菜
 第4話初登場。精神を破壊するほどの狂気を放つ『ヤマタノオロチ』を直視しても「おおー」で済むつっこみ少女。
 手に負えない彼やエヴァにつっこみを入れられる数少ない存在。
 実は一番すごいのかもしれない。
 第12話で泣いて逃げた彼を唯一普通の人と評するが、他のものはおろか自分も勘違いだと思っている。
 エヴァルート第16話では立派にネギのパートナーを務めた気がする。




クーフェイ
 第7話初登場。カンフー娘。カタカナ表記なのは漢字変換を面倒がったため。
 彼の100人抜きを見て戦ってみたくなり、さらに、場を収めるために土下座という行動まで出来るため、より興味を持った。
 今のところは彼への評価は『強い人』といったところか。
 第9話修学旅行で超と彼を出会わせるきっかけを作った。
 エヴァルートに入った関係上、出番が大幅に減っていたりする。




学園長
 初登場は第5話。
 第9話において、あまりの奇跡的偶然により、彼がなにかたくらんでいるのでは? と勘ぐる。
 普段は飄々としているが、その裏ではちゃんと生徒達の事を考えている人。学園の平和はこの人の努力によって守られている。
 だが、その努力が彼に対しては裏目に出ているとは、本人はおろか、彼ですら気づいていない。
 第12話において、その警戒をさらに上昇させた。
 そして第16話で同じく警戒を強化した。
 エヴァルート第18話において、それらが全て誤解だったと気づく。が、それはすでに遅すぎた。

2009/07/06 追加
 エヴァルート最終21話において彼と無事和解。土下座スペシャリストの彼に美しいと思わせるほどの土下座を披露する。
 彼の懐の深さに、孫にしたいと思うが、かなわぬ夢だった。
 彼の事情を学園で一番よく知る人物になったが、なぜか彼を『神』あつかいする事になる。
 ある意味刹那の次か同じくらい彼にダメージを与えているかもしれない。

 


超鈴音
 初登場は第3話。
 彼との出会いは第9話。茶々丸がいるので、それ以前から彼のデータは入手していた。
 今のところ唯一、彼の本質を見抜いている。が、真実には気づけていない。
 この世界で唯一彼に対抗出来る可能性を持っている。
 原作本来ならネギの事をネギ坊主と呼ぶが、ネギが女なのでそのままネギ先生と呼んでいる。
 第18話において、未来から来た理由が明かされた。

2009/07/06 追加
 第20話において、彼に地球丸ごと救われていた事を知る。
 自身が来た影響で、歴史の修正が働き、本来彼女の知る歴史と変わってしまったと考えるが、それが本当かどうかは不明である。
 第21話では、ネギと約束をして、学園祭最終日に戦い、敗北。卒業までは現代に残る事となった。




雪広あやか
 初登場は第10話。
 ネギの守護者にして現在表立って彼と敵対している雪広財団の次女。
 第9話でネギと彼の温泉ハプニングの真実は知らないが、そのくらいのレベルの事をしただろうとは感づいている。
 魔法世界を除くと多分一番の強敵。
 エヴァルート第13話、14話で彼と大きく敵対。それにより彼への誤解は解けた。
 那波千鶴と彼の仲は応援しているが、いつの間にか三角関係になっていたりする可能性も否定は出来ない。




那波千鶴
 初登場は台詞だけなら10話。正式登場はエヴァルート第14話。
 いきなり結婚を前提にお付き合いという告白で大勢の度肝を抜いた。
 エヴァルートにおけるエヴァンジェリン最大のライバル。
 ちなみに小太郎を拾った際、彼が小太郎をあっさり治しているため、民間療法へのこだわりは生まれていない。

2009/07/06 追加
 エヴァルート21話では、失恋してしまう結果となった。




犬上小太郎
 初登場は第11話。京都編にて一応登場。正式登場はエヴァルート第15話。
 『桃太郎印のきびだんご』を食べ、彼にものすっごくなついた。
 「彼は俺の嫁」宣言も飛び出している。
 実はネギと同じく女の子。
 どうやら彼に看病されたさい一目ぼれだったらしい。
 エヴァルートでない場合まほら武道会の時色々イベントがあるだろう(たぶん)




リルル
 初登場は第2話。彼が『宇宙刑事』となった時に登場。
 再登場はエヴァルート第18話。
 鉄人兵団本星消滅時より、彼の事を観察し続けていた。
 超の計画も偵察しており、それも利用しようと、本星消滅を悟らせぬため、さまざまな情報工作を行っていた。
 観察の結果、彼の手先と共に自らもその力場に手を入れる事により、彼と同等の力。『スペアポケット』を手に入れる事に成功し、彼を『死亡確認』させた。
 映画鉄人兵団を見ていた人にはかなりの衝撃だったはず。
 でも今の彼女は映画序盤のメカトピアの尖兵状態のままなので容赦がありません。
 彼は映画『鉄人兵団』を見て彼女が人の心に目覚めるのを知っているがために、放置しても問題ないとか思ってしまったんでしょう。

2009/07/06 追加
 第20話において復活した彼に破れ、敵である彼のコピーに修理を受ける。
 人の温かさに触れ、少しずつ、心が芽生えてきているもよう。
 コピーロボの弱点は知っているが、人形に戻すとか、そういう事を実行しようとして、出来なかったりするエピソードとかあったりするんだろう。
 そのうち、新生メカトピアを、彼のコピーと共につくりに行くようである。




質問コーナー
第3話後 2009/02/25 回答
>カモの性別
 断言しない方向性で行こうと思う。そのうちわかるかもですが。

>『アニメーカー』や『アニメ箱』+『テレビトリモチ』で他作品の道具も!
 この話はあくまでドラえもんの道具で勝負する話ですので登場は難しいかと!(建前)
 作者の技量の関係でドラえもん関係アイテムで精一杯です。主に収拾の関係で(本音)

>火星の人との対決
 学園祭編を待て!

>悪魔のパスポート使えば今回のような冤罪からも逃げられるんじゃないでしょうか?
 使えば逃げられるでしょう。でも第3話中は他の道具を使う暇が彼にはなかった。

>あと主人公はワンドラみたいに袖から取り出すことは出来ないんでしょうか?
 まだ挑戦していないので不明。展開に期待?

>それと四次元ポケットにないのはもしもボックスとソノウソホントだけでしょうか?
 その二つは確定。あとは、まあ、話の都合もあるので詳しくは考えてません。
 今だと『悪魔のパスポート』あたりが候補でしょうか。
 彼も全部の道具を把握しているわけではないので、どれがあってどれがないのか完全にはわかりません。名前が挙がっているのは有名かつ凶悪な道具ですので出してみようとしたのでしょう。

>もしもボックスじゃなくてもしもホーン(携帯電話型)が入っているのかも知れません。
 ボックスが出てこなかったのでないだろう。と彼が脳内除外している可能性はあり。元々ない可能性もありますが。
 同様にウソを実現させる道具も『ソノウソホント』がなかった時点で除外している可能性あり。

>ミニどらとかはいるんでしょうか?
 出したいが、パワーバランスが……
 でもミニドラかわいいよねミニドラ。

>超の時代に主人公は生きているのか。
 学園祭編を待つヨロシ! 便利だなこの言葉。

>エヴァ回避
 本気で回避出来てしまったら彼が困らないのできっと、ああなってそうなります。つまり、わかるな?

>生命のねじを茶々丸に
 書いてる人も使ってみたい。少なくともエヴァとの仲直りが必要。機会を待て!


第4話後 2009/03/01 回答
>キティの呪いは『タイム風呂敷』で解決!
 これは解決可能かと思われます。不老不死ですから15年間時間が戻っても問題ないわけですしね。だがそうは問屋がおろさない。

>『独裁スイッチ』でキティを消す
 実はあれ一定時間で戻ってしまうので根本的な解決にはならないのですよね。
 脅しには使えますけど、それだとよりひどい状況に(笑)

>『どこでもドア』はあるのか?
 あります。でも今まだ使う機会がないだけ。

>四次元ポケットに入れるか。
 彼自身は入れないかもしれない。『スペアポケット』ならば可能。他人を入れる事は可能。

>テキオー灯
 物理的なダメージ以外ならほぼ無効ですからね。生身で宇宙とか半端ない。

>『無生物催眠メガホン』
 無生物を一律操る。ではなく、効きにくいものもあるとの事ですので、茶々丸には効果が薄そうです。
 一応彼女自我に近いものありますから。ただ田中さんに効果があるのかは未定。

>VS超。時間停止が有利。
 超の時間停止は擬似ですからねぇ。毎度おなじみ学園祭を待て!

>他に劇場版の敵は?
 現在未定。海底奇岩城とか宇宙開拓史がおじさん好みかな。

>『電光丸』を『透明ハンド』で使う
 その手があったか。
 第三の腕を使ってさらに道具を両手で使うとかもうね。相手がかわいそうなレベルですね。
 やはり彼に準備時間は与えちゃいけねえ。

>ネギの立てるフラグはどうなるの?
 一部百合で一部は先生としてのお仕事で友情にシフト。主人公にフラグは……立つ方が彼にとっては不幸なのか? それなら立ちます。

>健全なエロスのネギまと相性が良いのはスカートめくり用マジックハンドかと!
 その後主人公へ回りまわって不幸がやってくるフラグですね。

>茶々丸と仲良くなって動物変身恩返し薬でぬこハーレム
 なんというアヴァロン。彼はたどり着けるのだろうか。

>キティに『願い星』
 「ナギにあわせろ!」→別のナギに出会うわけですね(笑)


第5話後 2009/03/05 回答
>スクナ戦
 どのような結末となるのかは、かつ目して待て! ただ、彼は話を原作から逸脱しないように努力しているのがちょっとしたヒントです。予定は未定ですが。

>いつか道具無双を!
 おじさんもいつか道具無双をやりたいな!

>未来道具テラチート
 本気で世界征服も世界の破壊も可能なラインナップですからねぇ。それゆえ使う人は万能ではない。

>転ばし屋で転ばしまくる
 でも転ばすだけなので時間稼ぎにしかならないという。

>チャチャゼロは無事元に戻せるのか?
 6話の通り無事戻りました。たぶん断面が綺麗だからくっついたら戻らないかなー。とか近づけたらくっついたんでしょう(笑)

>チャチャゼロフラグ
 エヴァ理解フラグにつながります。

>メジャーな「空気砲」や「ショックガン」は出てくるかな
 ポケットに入っているのは確定ですが、けっこう出す機会が難しい。もっと強力な道具とかあっちゃいますからね。

>月とかだったら詠唱はどうなるのだろう?
 詠唱は精霊に呼びかけるためのなんたらかんたらなので、実際声に出す必要はないのかもしれませんね(笑)
 月だとむしろその精霊がいないから使えないとかいうオチかもしれません。

>武装解除が弱点
 ついにばれた! そもそも生身だと戦闘力1ですからね。食らったら致命傷という。
 ただ、服用系には関係ないのでそれが克服の鍵でしょうか。

>ヤマタノオロチのサイズ
 8つの谷、8つの峰にまたがるほど巨大とされている程ですからね。一つの県ほどあります。背中には苔や木が生えているくらいですから。本来のサイズだったら学園がつぶれちゃってるかもですね(笑)

>宇宙開拓史
 やるなら合法的買収&特攻野郎Aチームばりに相手をコテンパンにする完全勝利ですね!
 コテンパンにした上、「こちらにはちゃんと権利書が!」「残念それはウチが買い取りました」
 完全勝利!
 とか素敵。

>『吸音機』壊れたね。二度と使えない?
 『タイム風呂敷』とか『復元光線』で復活させれば無問題なので大丈夫です。
 作劇上の都合で忘れている可能性あり。でもさすがに魔法使いの世界で忘れるのはなさそうですが。逆に直せなかったとするのも面白そうですけど。
 壊れたのはオロチがドラえもんの世界で想定されているよりネギまという世界の方が魔法がある分強力になるというなんでもドラえもん側のが優位ではないとかいうことのあらわれとかそんな感じで。

>吸音機壊さないでほしかった
 一応未来道具も『道具』なので、壊れる事もある。と表現しておきたかったのです。

>個人レベルで経済破壊や地球破壊や神獣召喚できるのが当たり前とか軍備はいったいどんなだよ
 つまり、それを当たり前にしないと戦いにもならないレベルなのでしょう。平然と宇宙に進出している世界ですし。惑星の一つ二つ壊してもすぐ直せますし……未来テラ怖ス。
 このレベルだと争いを起すと絶滅するから戦う事自体が出来ない可能性もありますね。
 つまり、ドラえもんが持ってもあの世界じゃ違法でもなんでもないただの道具でしかないんだよ!
 な、なんだってー!
 ……未来テラ怖ス。

>消耗品とかはどうなる?
 使ったらなくなるのは当然ですが、やはりタイム風呂敷で戻せそうな気もします。個数制限も面白そうですがね。もしくはフエルミラーであらかじめ増やしておくという手もありますな。特に医薬系は。

>学園長は彼にどう出るのか
 一ついえるのは、『彼』の望む未来はそう簡単に実現しないという事です。つまり、そういう事です。すごい個人的な事ですけど、やはり組織のボスは有能であって欲しいと思います。


第6話後 2009/03/07 回答
>地球破壊爆弾などの完全消耗品を使ったらどうなる?
 まだ未定。

>小太郎に桃太郎印のきび団子を
 いつかぬこハーレムと一緒に!

>不定期でよいので他の世界を!
 外伝という形で思いついたのを形にしてみようかと思います。

>エヴァからネギに『タイム風呂敷』の事がばれる?
 今後の展開上それもありえる話です。たぶんへルマンあたりの時に答えは出るかと。未定ですが。
 ちなみにエヴァがネギのいた村の石化を知るのがその頃です。

>空気砲が威力不足?
 あ、文脈的に説明が足りていませんでしたね。空気砲が弱いとかではなく、使う機会と相手がいないだけというだけです。『強力な道具』というのは、『タンマ・ウォッチ』などのすでに反則系の事。決して威力不足と言っているわけではありません。
 つか空気砲って鉄の塊を貫く位の威力も出せるんですよね。恐ろしい。

>「エヴァフラグ」がたったのか? それになんか「ネギフラグ」もたちそうな感じ?? まあ、ネギはそれが恋ってことにきづかなそうだけどね。
 これからをお楽しみに!

>エヴァの別荘とハカセの位置どうなるんですか? 両方激しく秘密道具にスペック劣る気が……
 基本彼は原作非改変派なので、別荘やハカセの出番を奪う予定はありません。『本気』で関わる事となったらまた別でしょうが。

>「武装解除」は確かに致命的だけど、そもそもどんな攻撃でも一発アウトじゃ?
 そう言われてみればそうだった。そもそも当たったら終わりだったのをうっかり忘れてましたね(笑)

>彼は正確にはサウザンドマスターではない。ドラえもんの道具の総数は公式設定で1330-1(もしもボックス)だから1329! つまり、ワンサウザンドスリーハンドレッドトウェンティーナインマスターだ!!
 な、なんだってー!
 公式ではその数だったのですか。知らなかった。ありがとうございます。
 ちなみに他にも藤子先生がかつて、ファンの子供に答えた際、ドラえもんの身長や体重などである数字129.3から「1293個」と答えたエピソード(逸話)があるらしい。
 とりあえず、千個以上あるのは確実。


第6話後その2 2009/03/09 回答
>ネギの父が『彼』&ナギフラグ
 この発想はなかった。シナリオメモに入れておきます。

>エヴァってナギママにプロポーズしたのか?
 単純に『気に入った』だけかもしれませんね。吸血鬼であっても気にしないというナギの気質が心地よかったとか。単に友達になりたかった。という可能性もあります。

>本気で原作改変を目指すと……
 その一つの答えが外伝その1、身も蓋もないオルタネイティヴになります。
 『本気』で改変するとこのくらい身も蓋もなくなる。という一つの到達点。
 あんまりにもあんまりなので、『ネギま』側の彼はあのくらいヘタレ不幸になってもらっています。

>なんで主人公はハーレムをのぞまないんだー! エロスな方面に行くだろ普通(オイ
 わざわざ火傷をする可能性のある子を選ぶより、漫画にも出てこないけどかわいい子という安全パイを選ぼうとしていただけです。第7話参照。
 ハーレムは自分の安全が確保されてからゆっくりと。とか考えているかもしれません(笑)

>主人公の鬼門である武装解除ですが、あれとひらりマントだとどっちが優先されるんでしょうね?
 命中→ひらりマントが武装解除で吹き飛ぶ→武装解除反射→術者に命中(もしくは回避)。彼自身は無事。双方の効果が現れる。こんなところかと思われます。跳ね返って術者が杖を落としていないと、2発目からが本当の勝負になりますね。

>水も肥料も日光もなくて、鉢植えと種だけで時間を進めて植物を成長させるのはさすがに無茶すぐる。
 そんな無茶も平然と可能にするのが未来の道具たるゆえんDEATH! 肉体の時間を戻しても記憶はちゃんと残るような道具ですから、なんらかの超技術フォローが入っているんでしょう。すげえや!


第7話後 2009/03/11 回答
>まさか相手も手袋や黒帯を身に付けただけの人間に武装解除は使うまいw
>主人公の天敵はネギだね。くしゃみでポケット諸共服飛ばされたらどうしようもない
 本気で最大の敵はネギのくしゃみという説が濃厚になってきましたね(笑)

>彼の両親が学園に流れる彼の風評を聞いたら……
 大丈夫。成績表に噂は書かれたりしないから。そういえば、両親どこに住んでるのか考えてなかったな。寮にいるから離れて住んでいるの確実ですが。
 まあ。彼が心配かけまいとそういう噂は必死に伝わらないようにしているんでしょうね。

>そういえば、あのハンカチはどこに行ったんだろう。あれ洒落にならない道具なんだが。
 回収しているはずです。ネタが思いついたら使えるかなー。と思ってあえて断言していません。うふふ。

>取り寄せバック+ブラックベルトで、防御回避不可射程無限大の転位攻撃
 なんという投げハメ。

>狭いと言われたので広くしたとか言って、四次元建て増しブロックと地平線テープ、ひろびろポンプで無駄に部屋を拡大する
 そしてネギ達にも入り浸られるフラグと化すわけですね(笑)

>エヴァとくっつけて! 幼女エヴァと。幼女エヴァだよ! 幼女エヴァ! 大事な事だから更に2回言ったよ。あのちっこいなりで最強なのがいいんですよ。
 大事な事を更に2回も言われたよ! 合計すると3回もだヨ!
 彼があのかわいさに気づくのはいつになるのやら。
 そもそもまず彼がこの世界のナギが女である事に気づく事がない限り無理でしょう。いつになるのやら。
 誰とくっついたりするのかは今のところ未定です。

>ネギのクラス全員覚えてますか?
 当然覚えてません。第7話の少女も実はネギのクラスの子だった可能性も無きにしも非ずです。
 チア部の3人組とか、水泳部の子とか。バスケ部の子とか。そのあたりのマイナーどころだったかもしれません。
 そう考えると、クーフェイを呼べたのもある意味当然の結果なのかもしれません。真偽の程は少女としてしか表記していないので不明ですが。

>ベルトつけたままの状態でエヴァに蹴られなくてよかったね!
 蹴ってたら収拾がつかない事に(笑)

>エヴァの幻影。男性に変身しても幻影ですよね? 変なとこ触ったらフニフニですよね? エヴァにしても感覚は従来のままですよね?「ちょ、へんなとこさわんな」ですよね?
 ええ。幻影です。変なところを触ればふにふにです。変なトコさわんなでしょう。でもエヴァだって気をつけるでしょうから、そんなラッキースケベ滅多にアリマセンヨ。

>物語開始前からのステータス変遷は「自殺未遂」→「記憶喪失」→「種付け疑惑」→「少年愛」か。
 ウラだとエヴァ「正体不明の気に入らない奴」→「時をうっかりで止められる実力者」→「もう一人の『サウザンドマスター』」とワリとマシ?


第8話後 2009/03/13 回答
>やすにし先生はネタ?
 大丈夫。当然ネタですから。ちゃんと正しい読みはわかってます。

>吹っ飛んだ銀行員のフォローが欲しかった
 なにか悪い事していたんですよ。あんまり明確なラインは決めない方がいいと思ったので説明はしませんでした。ただ、『悪人』には違いありません。

>変身後の姿はある程度自分のイメージとか反映するようにリフォームされてたりするんだろうか?
 『決め技スーツ』はその人にあったスーツの色に変わったので、なにか反映されているのでしょう。きっとせっちゃんは白やでー。

>エヴァがおれおれ詐欺で電話の相手だと思ったのは当然主人公なんよね?
 そうなのでしょうね。なんでわかんなかったの? と思われても、現実でも社会問題になるレベルでひっかかってるので、書いてる人にもわかりません。ホントなんでひっかかるんでしょうね。

>ネギが女だと委員長のフラグはどうやってもたたないけど、そのあたりどうなんでしょ?
 委員長の弟が実は女の子だったら万事解決! って事で。

>この世界って『ドラえもん』は存在するんでしょうか?
 しない。でしょうね。他の創作物があるのかは未定。

>エヴァが振込詐欺に引っ掛かった最大の原因はハイテクじゃない「お前しか頼る奴がいないんだよ」がキラーワードとしか考えられん!その言葉を聞いた時に感じたエヴァのときめきを彼は理解すべきだと思うねっ
 理解されたあぁぁぁぁぁ! でも彼がそれを理解する時は彼が墓に入る時のみ(人生的な意味で)
 なんというたくみなわじゅつだったのでしょう。

>インフェルノペイン
 相手を諭しつつ、自分は致命傷を受けるという『宇宙刑事』必須の必殺技。
 1度使うと死にたくなる。2度使える者は宇宙の伝説となれるという幻の必殺技だ!
 一度挑戦してみるといい!

>エヴァスタイル『130cm B67 W48 H63』スタイル良いと思うよ。おんぶしたらフニフニできるはず。
 意外に引っこむところはちゃんと引っこんでいてちょっとびっくり。絵で見た分にはあるように見えないのに! まあ、ちまいのにはかわりませんが。
 背負った時フニフニだったけど、その時丁度逃走中だから気づかなかったに一票。


第9話後 2009/03/15 回答
>班の構成はエヴァの謀略かと思ったら本当に偶然かYO!
 はっはー。それが狙いです。

>服きるまで待っててくれるアスナ達やさしいw あの流れだと服着てる間、ずっとみられてそうだけどw
 むしろ呆然と目で追うしか出来なかった可能性もあります。「OKやってくれ」でわれに返ったとか。そしてガシボカ。

>ころばし屋でスクナを転ばしたりできるのかな?10円でw
 どう、なんだろ……でも全身出てなくちゃ転ばないから、完全復活待たないと実験できませんよね(笑)

>思うに平穏な生活とか言うから誤解されるんですよ。ぬこハーレム王に俺はなる!くらい言えば警戒もされなかっだろうに……
 なっ!? 馬鹿な事を言うんじゃない! ぬこはーれむ王なんて、世界を2分する戦争を起す気ですか!? 犬派と、猫派の最終戦争がはじまってしまいますよ!

>できるだけせっちゃんや古菲と鉢合わせ無いようにと言われた時のエヴァのときめきを考えるんに、非常にヤバい。そういう危険だけ狙って避けるあたり、さすがは一級フラグ建設士。
 言われてみると確かに。自己保身でそのままキラメクとは手におえねぇぜ。

>『空気砲』の威力
 大体中級から上の下級くらいじゃないでしょうかね。汎用性は高そうですが。

>超は主人公が自分を知っていることに驚いてたけど、超は有名人だから、自分を知られていても不思議じゃないのでは?
 言われてみればそうかもしれない。
 でも、彼女が真に驚いたのは、『見透かされた』というところ。ただ普通の人のように知っている目をしている分には問題なかったのでしょうが、彼は本当に、『知って』いますからね。
 彼女は頭がいいので、そのあたりまで感じ取ってしまったんでしょう。頭のいい人はいい人で大変だ。

>彼の名前出てきたっけ?
 出てません。考えるのが面倒とかじゃないよ。アレだヨ。アレ! そう、ソレ!!

>しかし、ネギの裸をみたということで、ネカネにころされるのでは? 村人を元に戻すことでまぬがれるか?!
 責任を取るから平気DEATHヨ。

>『タイムマシン』はあるのかな?
 『タイムマシン』は無いかな。アレは設置型で基本ポケットに入っていないので。『タイムベルト』や『タイムトンネル』などはあります。

>原作のエヴァからなんか離れているような感じがして違和感が・・・
>エヴァちゃんの心理描写がおかしくならないっすかね。
 断言してしまえば、すでに原作のエヴァとここのエヴァは完全に別物です。ナギは女であり、持っている気持ちが違い、なにより、彼によって一度正面から敗北するという経験もしています。
 なので、すでに別物と考えていただけると助かるかなーと思っちゃったりしちゃったり。
 ですが、『彼』はナギを男と思っていて、エヴァを原作そのままの姿で見ています
 だから、『彼』はエヴァの考え方を勘違いするし、自分の方を見ているなんて、夢にも思わないわけです。
 そんなすれ違いを楽しんでいただければいいかなー。と思っています。
 そして、『彼』がその違いに気づいたとき。『この世界』のエヴァはやっとスタート地点に立てるのかもしれません。

>女性の多いネギま世界、「チアガール手袋」があれば、世界を敵に回しても勝てますが。あれも勝負に限ってはかなりのチートアイテム。
 確かに。『勝負』限定なら無敵になれそうですね。範囲攻撃にチアガールが巻きこまれる可能性はありえますけど。

>『ドラえもん』は『ネギま』原作にはあるみたいなんですよね。チャオお別れ会のシーンで…
>それってどこの某有名猫耳ロボットやねーん>てゆーかセ○シ君!?っていうセリフがあるんですよねコレが
 なんだってえぇぇぇぇ。
 確認中……あ、ほんまや。じゃあ、あ、あるのか!? 深く考えず、『この世界』ではないとしておくのが一番かな。うっかりあるかもしれませんが、基本ないと考えてください。

>今回の話のせいで学園祭時の女装狐娘ネギを思い出した。
 つまりこの世界のネギはその姿のネギを思い浮かべればよいわけですね! 女の子ですからー! ふにふにですからー。


第10話後 2009/03/27 回答
>カモはメスなのかー!?
 あえてもう一度答える。本当にメスかはあえて断言しません。単に雰囲気に酔っただけかもしれませんし、昨日のトラウマで脳が勘違いしているだけかもしれませし、実際にカモキュンしたのかもしれません。
 が、あくまで断言はしません!

>取り寄せバックでナギ取り寄せできるんかな?
 出来るでしょうね。やったら色々アレなのでやりませんが(笑)
 魔法世界にいたとしたら、ひょっとすると、『世界』の壁は飛び越えられないかもしれません。
 あと、バックに手を入れても、相手をつかめないという可能性がありますので、逃げられたり手を噛まれたりするかもしれません。

>ドラキュラセットやメモリーディスク使えば記憶消せる
 自分でそれをやると、自分もやられる事を良しと認めてしまうので、彼はやりません。
 第2話でそれっぽい事を刹那に言っている……と思ったら、ほのめかしただけでした。
 今の今まですっかり忘れてたー! あとでどこかにちゃんと入れないと。でもここに書いたらそのまま忘れそう。

>ゲートを復元光線で修復
 そういえば、なんという原作崩壊アイテム。
 さすがに魔法世界に行く事になれば、そもそも破壊対策考えるでしょうけど。主人公も。

>写真はちょっとキュンと来た。勘違いとか関係なく。ああ、ヘタレで鈍いけど根は善人なんだなー、と。
 ありがとうございます。彼もちゃんと魅力的に書けたらいいな。と精進します。


第11話後 2009/04/19
>タンマウォッチ発動時に接触してなくて、時間停止したひみつ道具って動きましたっけ? 四次元ポケットは接触中ですし、その中身はポケットの名前からして影響を受け付けないでしょうけど。
 時間停止中でも、ポケットの中から出したものは平気でしょう。すでに外に出ていて、手から離れていたら時間停止の影響を受けます。でも、『タンマ・ウォッチ』をもってそれに触れれば動き出したはず。……これ作者の記憶違いだったかな。


第12話後 2009/04/19
>『魔法事典』に永続系バリア加えたら安全じゃね?
 バリアを張れば体は安全。でも心が危険。どちらがいいかで彼は心をとりました。ついでに、彼の中で『魔法事典』はもうこりごりだよ~。って感じて、取り出したくないアイテム3号になってます。なのでもう自分の意思では出そうとしないかと。
 なにせあれを取り出すとフェイトに睨まれたのを思い出すから。ある意味トラウマ製造機(自分にも他人にも(笑))
 ちなみに1号は『地球破壊爆弾』。2号は『モンスターボール』。

>『魔法事典』には、現象をキャンセルする機能はあっても、起こした現象をなかったことにする機能はないんじゃ? だから、逆から呼んでもスクナは粉々のままじゃ?
 その通り。現象をなかった事にするのはないでしょう。同じように『吹き飛べ』で吹き飛んだのを同じ場所に戻す事は出来ないと思います。
 なので、『死』から復活しても、スクナは復活が可能になった状態になるだけで、すぐには動けないと思われます。まあ、他の道具もあわせて使えば、復活→再生→大暴れが可能でしょうけど。
 あ、でも復活するのは封印されていた場所になっちゃうのかしら。どのみちそんな問題もその気になれば道具で解決! か。
 しかしリョウメンスクナ復活も普通に可能なんて、なんて美味しい。使いたいが使い場所を思いつかないのが残念DA!

>フェイトが「吹き飛べ」を「魔法ではない」と判断していましたが、『魔法事典』を使ったのに「魔法ではない」のですか?
 良くぞお気づきになられました。
 あれは魔法です。でも、フェイトはアレを魔法とは認識出来ませんでした。むしろ『吹き飛べ』に関しては誰も魔法と認識出来ないでしょう。
 まず、あれの効果は『エヴァが全盛期の力で殴れるのと同じ衝撃を相手に与える』。なので、エヴァが殴る衝撃と『同じ』。つまり、魔法なのに物理的衝撃が炸裂するのです。
 しかも、殴るのと『同じ』衝撃ですから、インパクトの瞬間魔力すら感じられないという超がつくほど理不尽さ!
 さらに、呪文としての詠唱もないので、あの一瞬ではあれが魔法と判断など出来ないでしょう。
 そもそも詠唱もなく魔力も感じない上物理衝撃なのに魔法。これで魔法とわかれという方が酷な話ってモンです。むしろさすがド利口さん未来道具。書かれた効果に忠実すぎる。とフェイト側に同情してあげましょう。そりゃ、なにされたのかわかるはずもない。と。
 ちなみに書きこんだ彼は当然そんなすげー事考えてません。ついでに本人ド利口な『魔法事典』はもう取り出したくないと思っていますのでこの魔法が発動される事は、自己意思ではないでしょう。
 本文で説明すると「ふっ、KID、別格」時にインパクトが減るかなと思ってあえてカットしました。
 おまけ。それゆえ、「エターナルフォースブリザード」が彼初めての魔法と認識されました。

>『魔法事典』の魔法にアスナの能力は有効ですか?
 『科学』だから無効と言えますが、ここはやはり、『魔法事典』の魔法にはあえて『有効』にしておきます。つまり明日菜は超理不尽魔法『吹き飛べ』も効かないし、伝説の究極魔法でも倒せないという事!! こ、こいつは偉い事実が判明してしまったぜ。
 ただしテストに弱い。
 ……あ、でも一応自身は凍らなくても周囲は凍るんでしたね(原作20巻でエヴァの魔法で氷柱に入れられた)
 それでも案外ネギ&明日菜が彼一番の天敵かもしれない。


第12話後 2009/05/12
>テキオー灯使えば無敵じゃない?
 ドラえもん作中において、ポセイドンのロボット兵のビームなどでドラえもん達はダメージを受けていますし、大王イカの攻撃でドラえもんが気絶している描写があります。
 なので、物理的に来る衝撃や裂傷は防げないと思われます。つまり、炎の中には入れるけれど、たいまつで殴られるとダメージが入る。ブラックホールの重力波は平気でも、そこに吸いこまれる隕石にぶつかるとダメージを受ける。そんなところでしょう。
 あくまで環境変化に耐えるだけですから、『形あるものは防げない』そう考えていただければいいかなー。と思います。
 となると、雷の魔法や炎の魔法とかは平気そうですね。ネギみたいにそれをまとって殴りかかると無効化出来なさそうですが。


第13~15話後 2009/06/06
>エヴァルートに見えないから不思議や
 書いている当人も15話まではそう見えた。でもここから。16話からが真のエヴァルート! これからエヴァンジェリンの逆襲がはじまる!!
 案外15話まではエヴァ、千鶴共通ルートなのかもしれませんね(予定は未定だが)

>お使いがあれだけドラマチックになったのなら「悪魔に捕らえられた女の子を助けに行く」ことに『ドラマッチックガス』を使ったら、どうなるんだろう?
 たぶん単行本108冊くらいの大冒険になるに違いありません! 到着するだけで40巻とか。……イける! ……ごめんうそ。

>そういえば、こいつら女子中学3年生だったのか精神・技術・肉体年齢が高すぎる
 まったくです。でもそれがこっそり千鶴フラグの一つだったり(16話の冒頭に回答)

>病人にお茶とかを飲ませるきゅうすみたいな道具の名前
 『吸いのみ』というそうです。

>主人公の『地の文では原作キャラの名前を呼ばないルール』が千鶴に限って適用されていないのは、仮にもお付き合いしている相手ゆえの礼儀と言うことなんだろうか? 等と思ってみたり。
 たぶんそういう理由もあると思います。決して書いてる人が思い浮かばなかったとかそういうことはありません。だって『泣き黒子ちゃん』と呼べばいいのですから。

>ルート分岐の話
 実際に書けるかどうかは不明ですが、漠然としたルート分岐なんかを一つ。
 エヴァルート→千鶴ルート、委員長ルート、夏美ルート、小太郎ルートに派生?
 ネギルート →明日菜ルート、元祖おでこちゃんルート、本屋ちゃんルート、クーフェイルート、楓ルート、千雨ルートに派生?
 刹那ルート →木乃香ルート、龍宮ルートに派生?
 明日菜デート予習の際ネギにやらせるか(『オトコンナ』使用)、彼がやるかによって和泉亜子ルートが分岐。相坂さよも同様に関わるかどうかで分岐。この二つはエヴァルートでは通りません。
 小太郎、木乃香はどこに進んでもルートに入れそうな気もしますが、これは暫定なのでころころ変わる可能性があります。
 ハーレムルートはこれらのフラグを全部立ててゆくといった感じになるのでしょうかね。


第17話後 2009/06/23
>ザンダクロスコントロール、頭脳なくて出来るの?
 実はコックピットがあるので、操縦法さえわかれば誰でも動かせますぞ。


第18話後 2009/06/23
>地球の危機って第2話で去ってるんじゃないの?
 第2話のあのあたりは、かなりクセモノで、「地球の危機は去った」と、一見するとここで完結しているように見せているひどいミスリードだったりします。
 あの時、地球の危機は確かになくなりましたが、今、また同じ質問をすると、×。再び危機が訪れた事になります。
 答えは、あの時のリルルは四次元ポケットを所有していなかったが、今は所有しているから。
 質問自体に『いつ』が明確にふくまれていないのがミソですね。
 そもそもあの時本当に質問すべきは『鉄人兵団の脅威は去ったか』とかだったんでしょうねぇ。ホンマうっかりでひどいミスリードやで。

>『スペアポケット』って四次元ポケットの中にないんじゃないの?
 ドラえもん原作では主に押入れの布団の下でしたが、そこに『スペアポケット』を置くまでは四次元ポケットに入っていたと考えるのが妥当かと思われます。
 ドラえもんの場合、通常使っているポケットが破れたりして破損し、スペアも取り出せなくなる可能性がありますから外に置くのは当然ですけど、彼の場合どこでも設置状態なので、外にスペアを置いておく必要性がほとんどありません。
 例外として風呂。
 んで、意外に見落とされているというか、あえて一回しか言っていないので忘れ去られている可能性の方が高いのでしょうが、第9話で彼が『スペアポケット』をこれから風呂に持って入ろう。と決意し、ポケットの中に『スペアポケット』が存在している事を示唆するシーンがあったりします。
 つまり、風呂のために『スペアポケット』は四次元ポケットに入れたままですし、それ以後の観察で、リルルも『スペアポケット』の存在に気づけるというわけです。
 ちゃんと気づいていた方はお見事。エヴァに家捜しされるからって理由も案外ありえますな。実際一度されてますし(笑)


第20話、第21話後 2009/07/06
>メカトピアの各方面に展開している軍団ですけど、何らかの事情で本星からの指示が受けられなくなる場合に備え、ある程度の自己判断が出来るように作ってあると思います。
 自己判断はしっかり出来ています。リルルも、自分の考えで彼のポケットを奪ったり、メカトピアを再生出来るかも。とか考えてましたから。
 でも、実際に自己意思での最終判断は出来なかったと思われます。
 なんらかの事情で本星の指示を受けられないなら、最初の命令が終わった後、受信できる位置に移動すればいいだけですし。
 そもそも、本星が破壊されるなんて、鉄人兵団にも想定外過ぎる事態です。
 彼等は進化の最上位。全ての生き物を奴隷として扱えると思うほどの存在です。宇宙の移動すら可能にし、自然すらすでに従える彼等の本星が、なにかに破壊されるなんてありえないはずだったのでしょう。
 そうなる事などありえない。ならばその対策など無用。そういう驕りと、ありえない事はしないという、合理的ともいえる考えゆえ、本当に本星から指示がなくなった時の対策などはしていなかったと思われます。
 その驕りと、命令系統が一本のみという組織だったため、それ以上の力にあっさりやられてしまったというわけですな。
 まあ。そのあたりは本星を再生しにゆく彼のコピーが全部なんとかするのでどうでもいい事ですが!(この一言で回答が台無しだ)

>アルってTS?
 これもカモ同様明確にはしません。おちょくってるだけかもしれませんし、実際TSしてるのかもしれません。
 ……というか、原作のアルって、ホントに男でいいの?(ゲームで声優は男だったみたいだけど)

>ところで主人公は「未来は無限派」だったはずなんで、超の来た未来を救いに行く超ルートがあったりするんじゃなかろうかと予想してみる。それっぽい伏線もあるようですし。
 超が未来に帰ってみるとなぜか彼が待っててすでに地球が開放されてたりして、「平和な時代へようこそ」とかいうのが思い浮かんでしまった。あれ? これ超ルートエンド?(笑)

>エヴァ個別ルートであった理由。
 エヴァだけ個別ルートになったのは、ネギ達の場合だと、リルル登場が三日目でも問題ないけど、エヴァの場合は二日目に登場する必要性がどうしてもあったからです。
 ナギの性別バレをクライマックスに持ってくるという理由が。
 それと、個別ルートにしておかないと、第1部で綺麗に収まるのも難しくなりますし。
 実は、他にルート固定しないで大勢だと書くの大変とか、完結出来なさそうとか以外に、さらにもうひとつ作劇上の理由があったりします。
 三日目は学園結界が茶々丸(もりくはリルル)によって落とされてしまうので、エヴァンジェリンの呪いによる敗北が出来なくなるという問題もあるから。という理由もありました。
 まあ、二日目のあの戦いだから取られた戦術であって、三日目の場合は三日目で他の戦術をとられたのでしょうが、これもあり、エヴァルートでは二日目にクライマックスがやってきた事になります。
 以上。エヴァルートの裏事情というか裏話でした。
 他ルートでエヴァがバトルに参加するかは今のところ未定です。




 他にもお便り募集中。



[6617] 外伝その1 マブラヴオルタ
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/03/13 21:11
初出2009/03/07 以後修正


 最初に言っておこう。これは、身も蓋もない話だ。


 逃げ腰ヘタレばかり書いていたので、たまには違う子も書いてみたくなりました。
 『ネギま』の場合は基本日常に命の危険がないのでヘタレですが、『マブラヴ』はいるだけで死亡確定の世界なので、自力で動く事をはじめましたとさ。



 マジ身も蓋もないので心を強く持ってお読みください。





───とある博士───





 2001年10月18日。


 その報告を聞いたとき、私は耳を疑った。
 火星が、10時間前に消滅し、その5分後、何事もなかったかのように、復活したというのだ。

 なにかの観測ミスかと思った。だが、その後入る観測結果から、それは事実であった事を思い知らされる。

 その観測結果は、火星にいたBATAが、すべて消えているというものだったのだから。
 最古に観測された、かつて生物のいなかったと言われた火星。昔観測されていた赤い星。その時にタイムスリップでもしたかのように。


 次いで月が一度消滅し、復活するという報告が入ってきた。

 結果は、火星の時と同じ。

 火星の場合は、地球から遠かったゆえ、気づくのは10時間ほどかかった。

 だが、月の場合は違う。


 昼間、月が白く見える時がある。その時に、大勢の人々の目の前で、月の消滅する様が、目撃されたのだ。

 破壊の光が収まり、空に空白が生まれて数分。それは、時を戻したかのように、また、天にのぼった。

 誰もが呆然と、それを見ているしかなかった。


 一体なにが起きたのか。世界は一時大混乱となった。
 BETAと敵対する存在が現れたとか、救世主が現れたとか。
 はたまた、世界が終わる前の予兆だとか。

 様々な憶測が成されたが、誰もその真実にたどりつけるものはいなかった。




 ……私を、除いて。




 その二日後、2001年10月20日。

 その男は現れた。

 年の程は、20にも満たない男。207部隊の訓練兵である彼女達と同じくらいの年齢。


 それが、突然私の研究室に現れたのだ。
 セキュリティをすべてを突破して。


 基地の警備や、扉のセキュリティなど、ものともせず、入りこんできたのだ。
 警報も、警告も、一切発せられず、いつもと代わらぬ日常の延長のように、平然と。

 その男は、青と白という、奇抜なカラーリングの制服を着ていた。
 いや、ただ、制服というだけで、どこにも属してはいない。
 ただ、制服に見える青の上下と白のシャツを着ている。と言った方がいいかもしれない。


 明らかに不審。
 だが、その男は、そのような事なに一つ問題にせず、私の研究室へと現れた。


 愕然とする私を前にして、奴は口を開いた。


「火星と月。あの虫達が一掃されたのは聞いてるな?」

 この男は、信じられない事を、口にする。

「それをやってきたのは、俺だ」


 この私でも、その時こいつの言っている事を理解するのが、精一杯だった。


「も、もしそれが本当だとして、なぜわざわざ私のところへ?」


 そうだ。ソレがわからない。
 もし、それが本当だとして、あれほどの事が出来るのならば、こんなところに来ないで、オリジナルハイヴを消すなり、この星を消して、もう一度蘇らせるなりすればいい。


「なんというか、このままゲームを無視して進めたら、アレかなーと思ってな。だから、どうしようか聞くために、あんたのところへ来た」

「ゲーム……?」


 なにを言っているんだこいつは。
 ゲーム? この状態をゲームだと? なにを言っているんだ。
 こいつは、人類が絶望的な状況におちいっている今を、この現状を、楽しいゲームとでも言っているのか?


「まず、この星。俺がいなかった場合、ここ。いや、人類か。人類を救える可能性があるのは、あんた以外にはいない」


 !? この男、オルタネイティヴ4の事も知っている!?


「それが、あんたのところに来た理由」


 理由? それが、理由!? じゃあ、なにが目的なのよ!
 火星と月のBETAを駆逐したお前が、それを出来ていない私に会いにきた!?
 私を、笑いにでも来たの!?


「あんたは、あんたはなにをしたいの!? 何様のつもりなの!?」


「何様でもいいんだけど。とりあえず今、三つのルートが見えてる。一つ。このまま、俺が手を出さないルート。二つ。俺が、君の邪魔をしない程度に手を貸すルート。そして最後。俺が一人で、すべてを終わらせるルート」


 なん、ですって……?


「最初の二つの場合、俺は君達ががんばるのを適当に冷やかしながら、オリジナルハイヴが落ちるのを見てる」

 指を一本ずつ立てながら、こいつは言い放った。

「あ、でもあれか。彼が1回目か2回目にもよるのか。まあ、そのへんはどうでもいいや。君が失敗しても、第5計画の前に俺が人類は救うから」


 なんという腹の立つ笑顔。
 しかも、第5計画。こいつは4の方も知っている事もほのめかした。
 なんなんだこいつは!


「んで、最後の一つは、俺が一人でがんばるルート。これ俺無双ルートね。これをやると、BETAが駆逐された後、今度は戦力の残った人類同士の戦いが勃発する可能性が高いだろうけど」

 男は、やれやれと、わざとらしく肩をすくめる。

「ま。俺がやらなくてもソレ(戦争)の起きる可能性は変わらないからいいか。俺が平穏に過ごせるならどこが戦争していても気にしない。俺が住んでいる所が安全ならさ」


 いざとなったら俺が一つくらい国を作るし。とのたまわった。


「というわけで、どれがいいですか? ゆーこ先生?」


 ……な、なにを、言っているんだこいつは。
 頭がおかしいとしか、言いようがない。

 だが、霞に確認させたところ、この男は、本気だった。
 この男は本気で、自分が火星と月のBETAを駆逐し、オリジナルハイヴをつぶせると思っている!

 たった一人で、そのような事を、考えている!

 実際に、火星と月が消滅するのを知っていなければ、笑っていたところだ。
 ここで、くびり殺していたところだ。
 生身でBETAのところへ放りこんだところだ。


 だがこの男は、自分ひとりで、本気で、この星を。人類を救えると考えているのだ!!



「……な、なら、一人でやってみなさい。世界を、救ってみなさいよ!」



 出来るものならやってみろ。

 半分、自棄だった。
 こいつの存在を認める事は、私の今までの努力や、そのすべてを、無に帰す事になる。
 それは、あまりに腹立たしかった。
 だが、本当に、それが実現するのならば、見てみたかった。

 誰一人の犠牲も出さず、あの怪物共を駆逐する。そんな、『奇跡』を。

 出来るはずなどない。
 だが見てみたい。

 願いと、否定が、同時に出た結果が、この答えだった。



「OK。じゃあ、いっちょやってきますか」


 彼はそう言い、敬礼に良く似たが、その後手首を返すという独特の動きをし、研究室を出て行った。




──地球 オリジナルハイヴ前──




「どらら~」
 彼と共に歩む、たくさんの赤や黄色の丸いたぬきのような存在。
 それらがいっせいに、おなかにあるポケットへ、手を入れた。


「それじゃ、ちょっとダンジョンアタックを敢行しようか」


 彼のその言葉と共に、たぬき達はポケットから、道具を取り出した。





──────





 2001年10月22日。

 三度この地にやってきた白銀武は、驚愕する。


 一階に降りてみれば、そこには夕呼がおり、自分を待っていたのだから。


 しかも、突きつけられた言葉が。

「あんたの仕事、ないわよ」

 だからだ。


 混乱した彼に伝えられる、世界の情勢。

 すでにオリジナルハイヴは落ち、日本のハイヴは一掃。これからゆっくりと、掃討作戦が開始される状態なのだという。

 しかも、それを行うのは、たった一人の男。
 この男がいなければ、人類はハイヴに入る事すら叶わない。


 彼にお願いし救われるか、BETAと戦い続け、滅ぼされるか。


 すでに日本はとても平和だ。
 『彼』が、自らの平穏のため、守っているから。


 いずれ、この男にこの世界は統治されるだろう。
 悪い言い方をすれば、支配。


 それはただ、彼が平穏に暮らせる世界であるために。





「ああ。でも、やる事はあるから安心しなさい」

「へ?」

「鑑純夏のケアよ。体は再生したけど、心は……っと、ああ、その前に、あんた何周目? はじめて? 2回? ちょっと、聞いてるの?」



 もう彼には、なにがなんだかわからなかった。
 本当に、なにがなんだかわからなかった。







 とりあえず、これで締めくくっておこう。








 こうして、人類は救われた。


 めでたしめでたし。








─あとがき─

 外伝第1弾。身も蓋もないマブラヴでした。
 ……うん。全力全壊だと、ホント、身も蓋もない。

 ちなみに最初に火星と月を襲ったのは、どれだけ道具が通用するかの実験。それと、夕呼のところへ顔を出すまでに間があったのは、ミニドラを増やしたりとかした準備期間でしょう。
 戦力整ったー。でもこれであぼーんさせたら『話』にならないなー。よし一応聞きに行こう。→出来るものならやってみろ! →オリジナルハイヴあぼーん。
 こんなノリ。




 人類は救われたのに、なんか釈然としないのはなぜだろう?





 あとやってきたのは2回目じゃなくて三周目以降のウルトラスーパーデラックス白銀。
 ウルトラスーパーデラックス白銀。
 ウルトラでスーパーでデラックスな白銀です。





─追記─ 2009/03/09 追加

 そのうち機会があれば、夕呼が選択1とか2を選んだ話を書きたいな。
「誰があんたの力なんて借りるもんですか!」ってつっぱねて、微妙な妨害(チャチャ)を入れたり、彼が彼女を馬鹿にしながら、それに巻きこまれたスーパー白銀が余計に苦労して進む話。
「よーし、じゃあお兄さんコメリカ側についちゃうぞー」「やめてー」とか「どっちが多くのBETAを狩れるか勝負よ! ちょっと行ってきなさいシロガネ!」「無茶なー」とか。
 魔女と魔王にはさまれた、ウルトラタケルちゃんの明日はどっちだ!
※これでも被害はタケル以外出ませんのでご安心ください。むしろデラックスタケルちゃんがどうにかします。……身と蓋ができてもどうしようもない気がしてきた。



[6617] 外伝その2 リリカルなのは
Name: YSK◆f56976e9 ID:c8cf5cc9
Date: 2009/06/06 21:16
初出2009/04/18 以後修正


 最初に言っておくと、これもワリと身も蓋もない話です。
 外伝第1弾よりはましかもしれませんが、それでも身も蓋もないと思います。
 特に最後の『StrikerS』編はさらに色々アレですが、心を広く持ってください。



 無印編からはじまります。




───ユーノ───




「ジュエルシードシリアルナンバー4~」


 すぽっとジュエルシードが一つ、飛び出す。


「5~」


 それは、運動会の球入れで、入った球の数を数えているようだった。


 目の前では、信じられない事が起きている。

 女性物のバックの中から、次々と、ジュエルシードが取り出され、それを二人の魔導師が、順番に封印しているのだ。


 その光景は、僕。ユーノ・スクライアには、タチの悪いジョークにしか見えなかった。


「あ、これ活性化してる。おねがーい」


 ぽーんと飛び出たソレに向かって、ピンク色の光が突き刺さり、残ったもう一人が、封印。

 二人の魔導師が交互に攻撃、封印を担当するため、活性化していても、触媒が見つかる前に、沈静、封印されていく。


「はいラスト~」


 最後の一つが空中に放り投げられ、それを、なのはが封印した。


「これで、終わりなの!」
「終わり!!」


 デバイスを掲げた、僕のパートナーなのはと、そのバックを持っていた彼が、二人でポーズを決める。


 ……これで、終わり?
 こんなにあっさりと、終わり?

 これで、いいの?
 不謹慎ながら、僕はそんな事を思った。




 その少年が現れたのは、突然だった。

 街の中で強制発動させられたジュエルシードを封印するため、なのはとフェイトが戦っている時。
 そこに、彼は現れた。彼女達と同じ年頃の彼が。


 二人の攻撃を、布で上空へと弾き飛ばし、「このままでは次元震が起きる。双方杖をしまえ!」と言ってきたのだ。

 暴走しそうになっているジュエルシードを魔力以外の攻撃で沈黙させ、それをなぜかフェイトに封印させた。


 だが、いきなりの事態に、フェイトは逃げ去ってしまう。
 その姿を見ていたなのはに、彼は。


「どうして彼女が、あんなさびしい目をしているか、知りたい?」


 そう言った。
 まるで、僕達がなにをしているのかを、すべて理解しているかのように。


 なのははしばらくじっと彼を見ていた。

 しばらく沈黙が続いた後。

「うん。知りたいの!」

 彼の目を見返したまま、彼女はそう、まっすぐ返した。



 彼女は、いきなり現れた彼を、信じたのだ。



「OK。それじゃ彼女のところへ行こうか」


 彼はあっさりと、金髪の魔導師。フェイト・テスタロッサの隠れ家へ、僕達を導いた。
 認識隠蔽の施された、彼女のマンションへと。


 マンションの部屋のチャイムを鳴らすと、無防備に扉を開けたフェイトには驚かされた。


 そして、マンションの外でのなのはとフェイトの戦い。
 僕は、その戦いを見ているしかなかった。


 その間に、彼は、フェイトの黒幕の方をどうにかしたらしい。

 なんでも黒幕は、アリシアという少女の命を蘇らせるために、ジュエルシードを使い、伝説のアルハザードへ行こうとしていたらしいのだ。

 でも、彼はその目標そのものを無意味とした。
 なんと、アリシアをその黒幕の前で、復活させたらしいのだ。



 アリシアという女の子復活の方も、またすごかったらしい。

 死んでいたはずの彼女を穴にほうりこんで、とりだしたら生き返っていたというのだ。

 ワケがわからない。



 彼曰く。

「死んでいるアリシアを、今にも死にそうなアリシアと取り替えただけ」

 らしい。
 『タイムホール』というところから生きているアリシアを取り出し、死んでいるアリシア(死にたてに戻した)を過去に置いてきたのが答えだそうだ。


「これでアリシア嬢ちゃんが死んだ事実はあるが、いつ死んだのか不明というパラドックスが生まれた。あのアリシアちゃんはどこから来たのか。なんとすばらしい!」



 彼の言っている意味が理解出来ると、時空震以上の衝撃を受けると感じ、僕は考えるのをやめた。



 なのはとフェイトの戦いも終わり、彼女達の戦う理由も消えた時。
 フェイトはとうとう、なのはの話を聞いてくれた。


 そして二人は、友達になった。


 その時あがってきた朝日が、二人を照す。その姿は、とても綺麗だった。



 そんな事があって、今に至るというわけである。



「フェイト。よくがんばったわね」
「はい! 母さん!」

 封印している二人を応援していた、フェイトの背後に居た存在。プレシア・テスタロッサがフェイトに声をかけ、彼女を褒める。
 とても穏やかそうな人だ。
 アルフさんが言うには、あんな凶悪そうだったのがよくあんなに変わるもんだ。らしい。
 アリシアが復活して、憑き物が落ちたからさ。元々は優しい人なんだよ。と、彼は言っていた。

「お姉ちゃんすごーい」
「がんばりました。アリシア姉さん!」

 さらに、その娘も。
 5歳ほどの少女を姉と呼び、5歳の少女も姉と呼び合うその姿はおかしいが、どこかほほえましい。

「にゃはは」
「うんうん。コレを見れただけでも、余は満足じゃ」


 こちらの二人は、嬉しそうに笑っている。



 こうして、ジュエルシード事件は、大きな被害もなく、無事終わりを告げた。



 その後僕は、ジュエルシードを持って、地球を後にする事となった。
 レイジングハートは記念になのはへプレゼント。


 彼が引き止めてくれたけど、ジュエルシードをこのまま管理外世界に長く留まらせてもいけないので、プレシアさんの手助けを借りて戻る事にした。


 そういえば結局僕、ずっとフェレットのままだったなぁ。





 リリカルなのは無印完!





───『A´s』編───




 ここから『A´s』編はじまります。




───プレシア───




 ジュエルシード事件の後、私達テスタロッサ一家はそのまま、フェイトの潜伏していたマンションにそのまま住む事となった。

 次元世界にわざわざ私達が戻る理由はない。
 むしろ、せっかく出来たフェイトの友達とフェイトを引き剥がすなんて、鬼の所業ではないか。そのような事、今の私に出来るはずもない。


 それにしても、病んでいた頃の私はなにを考えていたのだろう。
 こんなにかわいい娘がもう一人いたというのに、あんなに辛く当たってバカじゃなかろうか。過去に戻れるのなら、1日くらい説教してやりたい。

 まあ、それはもういい。これからちゃんと、フェイトを幸せにしてやればよいのだから。


 それはさておき。


 私達を救ってくれた『彼』も、今は、ウチに厄介となっている。


 彼の身元がわからなかったからだ。
 彼は自称記憶喪失。というか、この世界においての戸籍はないだろうとの事。
 次元世界の言い方で言えば、異世界からやってきた者。次元漂流者の可能性が高い。らしい。


 ならばそのまま、ウチの家族になってしまえばいいと連れて来たのだ。
 フェイトの友達。高町なのはも家に厄介になればいいと誘ったが、彼女の両親を説得するよりは、ウチの方が後々が楽という事でウチで引き取る事となった。


 かくして私達は、マンションで一家団らん。食事をしながら、テレビを見ている。

 食事の用意は彼がした。
 家事一般もこなし、魔法以外の超技術。はっきり言って、アルハザードクラスのモノが使える。

 それでいて、9歳くらいの外見に反し、精神も大人と同じように成熟し、頼りがいもあるときたものだ。
 子供のクセに私と対等に話せるなんて滅多に居ない(大人でも対等に会話できる者は少ないのに)

 ……この子は本当に、イイ拾いものをしたと思う。 

 フェイトかアリシアを任せてもいいか。なんて思ってしまうのは、助けられた恩があるからだろうか。
 それとも案外私も……? いやいや、それはない。絶対にない。


 そんな事を思っていると、テレビのニュースで、行方不明者の捜索というのが流れはじめた。

「あ、丁度この近くだね」

 彼が場所を聞いて、そんな事を言う。
 そういえば、確かにこのあたりの地名だ。しかも子供。居なくなられた親の気持ちは私にもよくわかる。

 行方不明になった子……


 ……そこにいる、彼の名前と、顔写真が、テレビに映し出された。


「ねえ、これ貴方じゃないかしら?」

「……って、俺だー!」

 彼自身もたいそう驚いていたのが印象的だった。
 貴方でも驚く事があるのね。


 ……しかし、本当に、記憶喪失だったとは。

 この後、警察に出頭(?)。記憶喪失という事で、彼は検査入院となった。

 保護していたという事で、彼の両親に感謝された。
 まったく、こんな人のいい両親を心配させるんじゃないわよ。


 しばらくして、入院している彼の見舞いへ、フェイトとアリシアと共に行く。


 すると待合室で彼は車椅子の少女と仲良く話していた。

 ……病院でいきなり同じ年頃の少女をナンパするとは、やってくれるわね。
 とりあえず、頭にチョップをしておいた。


「いたーい」
 頭をおさえる彼。

「貴方にはウチのフェイトかアリシアが居るというのに、他の子をナンパするなんていい度胸してるわね」
「か、母さん……」

「いやいや。いきなりなに言ってんのよプレシアさん!」

「黙りなさい! 人の感謝をなんだと思っているの!」

「感謝の気持ちはわかりますけど、不器用すぎますよー!」

 うるさいわね。そのくらい察しなさい!


「あはは。面白い人達やなー」


 彼とぎゃーぎゃー口論していると、車椅子の少女に笑われてしまった。

 落ち着いたところで、彼から紹介を受ける。


「この人は俺が記憶喪失になってふらついていた時にお世話になった人。んで、こっちはさっき友達になった子」


 少女は、八神はやてと名乗った。


「よろしくお願いします」
「よろしく……ん?」


 そして、彼女を見て、ようやく気づいた。
 なぜ、彼がこの子に近づいたのかも。


「わかってくれました?」
「一応ね」


 表向きは、フェイトの友達と、はやての友達を増やすため。としておいた。
 この理由には、二人とも喜んでいる。


「それじゃはやてまたねー」
「ほななー」


 少女。はやてと別れ、彼の病室へと向かう。


「貴方、気づいててあの子に近づいたのかしら?」
「そーゆー事でさー。あの子、アレだヨ。『闇の書』にとりつかれてるよ」


 見て気づいた事がある。あの子は普通の病気ではなく、成長途中のリンカーコアがなにかに浸食され、それにより体へ影響が出ているという事に。
 この世界の技術でそれは癒す事はできない。それゆえ彼が近づいたのだと思ったのだが、まさか『闇の書』なんて名前がこんな辺境の管理外世界で出るとはね。
 『闇の書』の影響。そこまでは、さすがの私でも見抜けなかったというのに。


「……貴方、本当に何者なの?」

「アタシ記憶ナクテわからないヨ」

「都合のいい記憶喪失ね!」

「まー、これ以後平穏に過ごすためにも、『闇の書』もどーにかしないとならないなー。と思ったわけ」


 彼の主張は、この世界で平穏に面白おかしく楽しく暮らしたいという事だった。
 それゆえ、管理局がこの世界を見つけて欲しくない。と願う。
 なにせこの子そのものが『ロストロギア』認定されてもおかしくない存在だから。
 その願いを無に返す可能性のある『闇の書』をどうにかしたいと思うのは当然だろう。


「……つまり、どうにか出来るという事かしら?」

「やってみないとわからないけどね」

 貴方はそう言ってアリシアも私の体も復活させたわよね。
 なら、技術的な心配は要らないわね。


「やる事に反対はしないけど、貴方にはフェイトかアリシアをもらってもらう予定なのよ。それは忘れないでちょうだい」

「なんでそういう話になるのかわかりません。あと、娘さんの意思を無視して決めるのはどーかと思いますヨ」

 聞いたところによるとあのはやてという子は今、身よりもなければ友達も居ないという。
 そこへ突然現れて友達になった上、病まで治すなんて、こっちが心配する条件満載じゃない。


「おにーちゃんあそぼー?」
「はいはい。アリシアほおっておいてごめんねー」

 私と真面目に話していたがタメか、退屈したアリシアが声をかけてくる。
 フェイトはまだ顔見知りするのか、あまりおおっぴらに彼へ声はかけないのが現状だ。むしろフェイトの場合は……

 ……というかこの状況でも貴方は自分がどれだけ好かれているか気づいていないのね。
 そういう意味では安心だけど、逆の意味で心配になる。


 まあ、いざとなったらお母さんがどうにかしてあげるから安心しなさいフェイト、アリシア。


 こうしてフェイトにまた一人、友人が増えた。
 そのうち学校へも通わせる予定だけど、あの子にちゃんとした戸籍があるとなると、学校がどこなのかが問題ね。
 あのなのはって子と同じ学校に通わせるつもりだったんだけど、なのはと知り合いじゃないって事は別の学校の可能性が高いかもしれない(戸籍が見つかっていなければ、彼もそこに入れていた)
 困ったものねぇ。




 もっとも、結局同じ学校だったというオチがついたけど(クラスは全然別のクラス)
 私の心配を返しなさい。まったく。




───ぬこしまい───




 そいつが現れたのは、突然だった。

「そこの猫ちゃん」
「にゃっ!?」

 そろそろ『闇の書』が活動を活発化させるかと思い、見に行ったら、いきなり背後から声をかけられた。


「君等ってさ。『闇の書』を永遠にどうにかしたいんだよね? それ、もう終わったから」

 彼はいきなりそう言い放った。


 なにを言っているのかわからなかった。
 だが、事実だった。『闇の書』は、これ以後永遠に現れる事はなくなった。




「……こうして『闇の書』は消え、代わりに『夜天の書』が復活した。と?」

「はい」


 私達は、見てきた事をそのまま、主に説明した。
 歴代の主によって改造され、『夜天の書』が狂い、『闇の書』となっていた事。
 それらの負を排除し、正しい形に直された事。
 さらに、その正しい形から、これ以後変化はしないようされた事。
 それにより、今まで引き起こされていた悲劇はもう起こらない事。


「……にわかには、信じられんな」


 主は、うめくように言う。
 だがそれは、事実だった。

 私達が時間をかけて調べた結果、『闇の書』はすでに失われ、その狂った力はすでになく、正しき姿、『夜天の書』として、あるべき姿と力となっている事が裏付けられた。
 主である八神はやてへの呪いともいえる身体影響も消え、書の闇も、無限再生能力も失われている。以後、『書』を破壊すれば転生する事もないだろう。
 恐れられていた暴走での破壊と無限の再生機能はもう無いのだ。


「つまり、私の計画は、無駄に終わったという事か」

 主が、ため息をつく。
 だが、その声は、どこか嬉しそうだった。
 一人の少女を犠牲にして、『闇の書』を封印する事に、躊躇を覚えていた主は、どこか安心していた。

「『闇の書』がすでに失われたのならば、しかたがないな」


 彼からの頼みがもう一つあった。
「主が居なくなるまでは、『夜天の書』を、回収しに来ないで欲しい」
 と。


 彼は、四人の騎士と、『書』の管制人格を、八神はやてに残してやりたかったからだ。
 そして、新しくやり直す彼等に、新しい人生を歩ませてやりたかったからだ。


 それゆえ、主はその事も許した。『闇の書』を破壊した彼への感謝を示すために。
 主は、「その彼は、とても優しいのだな」と言っていた。



 私達の本心としては、逆に、主が手を引いてくれて安堵したと言ってもいい。

 彼は確かに優しいのだろう。
 だが、それは味方に対してのみだ。
 約束を破り、敵に回したとたん、『闇の書』を修復出来るという規格外の力が、こちらへと降りかかる事となる。
 正直、管理局全体で相手にしても、彼に勝てるとは思えなかった。彼を信じず喧嘩をふっかけてしまい、ぼこぼこにされた相棒の姿が思い出される。

 あんなのともう一回戦うなんてごめんこうむりたい。


 彼はこの世界で平穏に暮らせればそれでいいと言っていた。
 これだけは、絶対的に嘘ではないと確信出来る。
 つまり、こちらから手を出さなければ安全という事。


 幸い、あそこは管理外世界。我々がわざわざ手を出す必要のない世界だ。
 それに彼も『夜天の書』は自分では使えない上、今代の主、八神はやてはそれを悪用するような子ではない。むしろ彼へのストッパーとなるだろう(むしろ彼が彼女のストッパーになる可能性もあるが)
 ならば、今代は手を出さず、時と共に主が失われ、安全になってから回収という手段をとった方が、リスクが少なくていい。少なくとも、『彼』を刺激しなくて済む。


 主の意図した思惑とは違うだろうが、彼女達を見守る事で被害が無く事が収まるのだ。これで十分ではないか。

 ぬこしまいは、こうして『闇の書』の件が被害なく、無事終わる事を喜んだ。



 ちなみに彼女達の主は、これから八神はやてを孫のようにあつかってもなんの問題もなくなったので、プレゼントとかどうしようかとか悩みはじめていたりした。




 一方その頃、八神はやては、多くの友人と共に、5人の新しい家族を手に入れた。


「おめでとうはやてちゃんー!」
「ありがとなー!」




 リリカルなのはA´s編完!





───『StrikerS』編───




※ここから世界観が壊れます。
 どうしても納得出来ない方は、もしもボックスとかが使用されたとでもお思いください。




───ジェイル・スカリエッティ───




 スカッちは驚いていた。
 生身でレーザービームだと?
 一振りで竜巻が起きるだと?

 なんだこの戦闘能力は!!


「ゆくぞ」
「博士、どちらに?」

「メジャーリーグへだ!」


 送られてきたビデオ。そこには、『SUMOU』のごとく修正されていない“正しい”『MAJOR LEAGUE』が映し出されていた。
 そして『野球やろうぜ!』と書かれた手紙。


 管理局をどうこうするより、なお難しい目標を見つけた博士は、楽しそうに歩き出した。
 そこを制する事は、管理局へ反乱を引き起こす事の100万倍難しいだろう。


 なにせ彼等は、あの戦闘能力でスポーツという名の死合をしているのだ!
 ボールを投げれば地面がえぐれ、当たれば、戦闘機人をも砕け散るような威力のソレを生身でかつ木のバットで打ち返し、それすら平然とキャッチする。
 そんな『MAJOR LEAGUE』とはまさに化け物の巣!

 聞くところによればバッターとは元々ブッダがなまったものであり、ホームランとは彼がかつて鉄球をぶつけて相手を暗殺する一族に向け、その鉄球を打ち返し「もう葬れん」と言ったのがこのスポーツのはじまりだとか!!(ブッダに感銘を受けた一族の長が鉄球を場外に打ち出し「もう誰も葬らん」と誓った説もある)
 アウトの事を一殺、二殺というのもその名残だという! 某民明書房刊雑誌より抜粋!

 ベースボールとはすなわち相手を殺さず殺すという高度な戦いだったのだ!
 なんという縛りをつけて戦っているのだ。だが、これほど面白い戦闘方法もあるまい!


 そこのナンバーワン球団を作り上げる。彼等を超える! なんとやりがいのある挑戦だ!!
 手紙の主よ。この挑戦、受けようではないか!!


「くくくくく、ふはははは、はーっはっはっはっは」

 ジェイル・スカリエッティはその未来を想像し、その難しさ、面白さで笑った。
 その笑いには、いつもより狂気に満ちていたような、むしろ正しくなったような。それは、彼の作り出した『娘』にも判別は出来なかった。




「俺、胃潰瘍ってのは民衆を騙す嘘だと思うね。実は地球の平和をかけた裏の戦い。その名も『スペースベースボールクラシック』に招集されたんだよ!」

「あの戦いに米国がメジャーリーガーを出さなかったのは、そういう理由なの!?」

「きっと肉離れで戦線離脱したあの人は先に出場してたんやろうなー」

「……地球って、すごいんだね」

 ジャパンに地震が多い理由が『SUMOU』にあるように、MAJORの国で『竜巻』被害が多いのもそういう理由なのか。金髪の少女はそんな事を思ったのだった。



 その後『彼』と一緒に監督として『MAJOR』を目指す博士の姿が、目撃されたとかいないとか。

「俺の『道具』だけでは、『MAJOR LEAGUER』に勝てないんですよ!」
「私の技術だけでも無理だ! よって私と!」
「俺の二人が手を組めば!」
「「勝つる!!」」

 そんな事を言っている二人組が海鳴市で目撃されたそうな。


 俺達は登り始めたばかりだ。この、野球坂を!



 あれ? 未完にならねぇぞコレ。





「平和ね~」
「そうですね~」
「母さん、エイミィ。二人ともお茶飲んでないで仕事をしてくれ」

 今日も次元世界は平和でした。




 めでたしめでたし。
 でもある意味未完。




─あとがき─

 外伝第2弾リリカルなのはでした。
 本気で介入するとあっさり終わってしまうのは仕様です。
 使った道具の具体名がほとんど出てこないのも仕様です。

 最後のネタは第2回WBC日本優勝記念とか思ってください。
 あの決勝ラストの一打を忘れないためにも。鈴木さんマジ現人神。実は病気で、終わった後倒れるとか『HERO』すぎる。WBCは1回目の決勝進出といい展開がマンガを超えてるぜ。

 ついでに言うと、秘密道具を使って野球をやる『ドラベース』ってマンガもあるから、あながち野球展開は間違ってないのです。うん。
 マジにあるんだよ。


 どうでもいい事ですが、この流れだとなのはもフェイトもはやても管理局所属がなさそうですね。
 まぁ、彼女達が普通に少女としてすごす世界があってもいいでしょう。


 元ネタ解説。
 本当はしないで済むならそれでいいのですが、知らない人のタメに。
 『SUMOU』の元ネタは動画投稿系サイトで『RIKISI』が地球を割ったりするアレです。
 アレの『MAJOR』版だと思ってください。
 わかんない人にはすんませんでした!

 でも某民明書房は説明しませんのでヨロシクな!
 ちなみにぬこしまいが『父様』ではなく『主』と呼んでいるのは、『母さん』ではなく『提督』と呼ぶのと同じような場の雰囲気だからです。



[6617] ネギえもん ─番外編─  エヴァルート幕間
Name: YSK◆f56976e9 ID:e8ca58e9
Date: 2012/02/25 21:09
初出 2012/02/22 以後修正

─第13.5話&16.5話─




 番外編。時間軸は13話と14話の間と16話と17話の間の話です。




───13.5話───




 時は、修学旅行が終わり、南の島へのバカンスへに行く前の話である。


 簡単に今の状況を説明すれば、中身幼女と携帯を買いに行って帰ってきた。
 そういう状況である。


 ただいま。


 ふいー。疲れた疲れた。

 女の子の買い物はやっぱり時間がかかるなぁ。
 だが無事目当ての携帯も買えたし、これで一安心だな。

 契約の方どうするのかと思ったら、やっぱちゃんとダミーの身分証とか色々用意してあったんだな。
 そりゃまあ学園にエドとして入りこんでいるんだから、そういったものをちゃんと用意してあっても不思議はないわな。いざとなりゃあ催眠術も使えるし。

 今日買って今ポケットの中に必要のないものや、部屋に置くものを『四次元ポケット』から取り出し、片付ける。


 幼女の方は手に入れた新しいおもちゃ(携帯)で遊ぶために今日は自分の家に帰って行ったし、ひさしぶりに一人でのんびりってわけか。

 整理も終わり、次は今日の疲れを癒すために、俺は風呂に向かった。
 目指すは男子寮の大浴場である。

 そしてその間に、エヴァの代理、コピー変身エドがポスターに作られたゲートを通ってこの部屋に来ていたのに、俺は気づかなかった。


 さっぱりして部屋に帰ってくると、携帯にメールが届いた。
 誰からかと思えば、幼女からだった。

 そーいや携帯購入特典に俺のメアドと番号を教えたんだっけか。




───エヴァンジェリン───




 風呂上り。

 今日の疲れを湯船で流し、さっぱりとして部屋へと戻った。
 窓を開け、その風を体に浴びる。

 吸血鬼の体であるが、どこかすがすがしいと感じてしまうのは、今が夜だからだろうか?
 それとも、別の理由があるのだろうか……?

 テーブルの上に、袋から出された真新しい箱と、その中身である携帯電話が置いてある。
 今日の戦利品。今日の目的の品であるそれがだ。

 箱から取り出されたばかりの、真新しいそれを手に取り、見る。


 暗かった画面に光がともり、現れるのは、電話帳。
 そこに登録された、一番最初の名前。


 そこには、あいつの名前と電話番号、メールアドレスがあった。


 メールはまだ、一通もない。
 『せきがいせんつうしん』とやらでアドレスなどをもらったから、電話もメールもまだ真っ白の状態だ。

「……」

 袋の中にある、説明書を取り出す。
 ……なんでこんなに分厚いんだ? 世の若者は、ここに書かれるこの小さな箱に詰まった機能すべてを使いこなしているとでもいうのか?

 人間の進歩。科学の進歩とはあなどれんな。


 ともかく、私はベッドに座り、その説明書を見ながら、メールを打ちはじめた。

「……あ、行き過ぎた。うぅ? 違う。これじゃない」

 変換に手間取る。
 説明書とにらめっこをし、どうすれば文字を打ちこめるのかを確認し、また打つ。

 あいつは手馴れたように文章を打ちこんでいたが、なんだこの複雑な仕様は。魔法のように言葉や思念を文字に変えて伝えろ。不便な!

 文章を作り、納得がいかず、また打ち直す。
「なぜだ。日本語が打てなくなった? 今度は数字だけ? ええい。ややこしい!」

 不慣れな操作を繰り返し……

「……よし」
 だが、出来た。

 これはこれで、ちょっとした達成感があるな……!


 あとは、このメールを……


 送れるのは今、あいつしかいない。
 だから、しかたがない。
 しかたがないから、あいつに送ってやるしかないのだ。
 わ、私のはじめてを、あいつにくれてやる。


「と、というわけだから。な……」

 ぷるぷると、なぜか指が震える。なかなかその『送信』ボタンが、押せない……

 な、なにを恐れる。
 時間など、私が考慮してやる問題ではない。
 無視される可能性など、きっとない。ない! はず。


「……っ!」
 意を決し、ボタンを押す。

 ぴっ。
 画面に、メール送信と現れた。


「お、送ってしまった……いや、だがこれで、本当に送れたのか……?」

 携帯をじっと見る。
 送信完了の文字は出ている。

 こ、これでよかったのか?
 はじめましてって変じゃないだろうか。

 本当に届いたのか……?

 なにかミスしていないだろうな。


 じっと、手の中にある携帯を見る。

 そうしていると、いきなり音が鳴った。
「なっ!?」

 びくっと思わずベッドの上で跳ね上がり、携帯をお手玉するが、すぐにメールの着信だと気づく。

 わたわたと、届いたメールを開く。

 そこには……


『こちらこそ、よろしく』


 私の初めてのメールが、とどいた。




──────




 二段ベッドの下。俺のベッドに座り、届いたメールを開く。


「……」
 見て、思わず微笑んでしまった。


 タイトル『はじめまして』

 本文『めーる、送ります。まだまだ使い慣れませんが、これからどうぞよろしくお願いいたします』


 そこにつづられた文は、いつもの生意気な言動をする幼女からは想像も出来ない、とても礼儀正しく、素直なお嬢さんのものだったから。


 まだ慣れないからこれなのか、それとも文章だからこうなのか。
 ただ、なれない携帯でこれを必死に打っているところを思い浮かべると、なぜか微笑ましいと思ってしまった。


 最初はやっぱり届いたか不安だろうから、すぐに返信を返す。


『こちらこそ、よろしく』


 送信完了。短いが、届いた事を知らせる分には十分だろ。

 パタンと中折れ式の携帯を閉じる。


「……ちょっとはかわいいところ、あるんじゃねえか」


 閉じたその時、あの丁寧な文章を思い出し、そんな言葉が出てしまった。



 そしてこの時俺は、上にコピーエドがいるのに、さっぱり気づいていなかったのだ。




「な、なにを言っているんだあいつはー!」

 耳に響いてきた彼の言葉をコピーを通じて認識し、家にいたエヴァンジェリンは、思わずベッドで転がりまわった。



 これは、彼女がはじめて彼にメールを送った時のお話。




───16.5話───




 時はヘルマン侵入事件が終わり、学園祭がはじまる前の話である。
 より正確に言えば、茶々丸メンテナンスのお話です(第9巻75時間目)



 ……あの方の事を考えると、不思議な感覚が、私を包みます。



 その件に関係があるかはわかりませんが、ハカセが興味を持ち、メンテナンスをする事となりました。


 なぜかそのメンテナンスに、ネギ先生達もきました。なぜでしょう。
 ちなみに、私の名前は絡繰茶々丸。よろしくお願いいたします。


 ハカセの下へと到着し、点検、診断、メンテナンスから、いつの間にか実験へと変化し、ついには私の記憶ドライブが検索される事になりました。

「えー、そんな事できるん?」
「ちょっ! さすがにそれは、プライバシーの侵害なんじゃないの!?」

「科学の進歩のためには少々の非人道的行為もむしろやむなしです!」

「「ええー!?」」

 私の記憶ドライブをいじるハカセに、アスナさんとこのかさんが止めるよう言い、ネギ先生と桜咲さんが大変おどろいています。

 ですが、問題はないと私は考えます。


「むむむ、何度も何度も再生している映像郡がお気に入りにフォルダわけされています!」
 ハカセが私のファイルを見つけたようです。

「これですー!」


 それは、ハカセのパソコンの画面に、映し出されました。


 ──もぎゃーんと飛び出したのは、三種に分類された画像。ネコ、ネギ。そして、ある黒髪の少年の姿だった。


「こ、これは……」

 最も再生されている映像。
 ソレを見て、その場に居た彼女達は、固まった……

 そこに映し出される黒髪の少年の映像。ソレを見て。


 少年が動く。
 流れるような動作で床に膝を突き、大地を手で押さえ、重力に逆らうことなく腕を曲げてゆき、そのまま頭をこすりつけるかのように、地面へと落とす。


 ああ……


「本当に、スマンカッタ。これで許してくれ」
 魂を揺さぶるような、よく通り、力強い声が、スピーカーより響く。


 あああ……


 そこに映し出されたその姿。
 彼女達もその名は知っている。
 その行為の名を、知っている!

 平身低頭の構え!


 すなわち、DO・GE・ZA!!


 ああ、なんて、素敵な姿なんだろう……


 あの方は、よくマスターのオリジナルに連れられ、マスターの自宅へ遊びにやって来る。

 そして、よく喧嘩し、よく吹っ飛ばされている。
 とてもお強いのに、マスターと対等に、平等の力で、戦っている。
 むしろ、よくからかっている。

 その悪ふざけの結果生まれる、彼の謝罪や、わざと生まれる敗北の姿。

 やられ、ぐったりとする姿。それを見ると、私は、頬があつくなる。
 マスターと共にだらだらとだらけている姿もまた、私の視線を釘付けにする。
 なにより、土下座するその姿は、胸の主機関部の発熱がとまりません。

 スライディング土下座、ジャンピング土下座。扉を開けたらそこに土下座。雨が降っても雪が降っても玄関前で土下座。極めつけは土下寝。しかし私はこの土下寝は邪道であると考えます。
 やはり座して頭を下げるという過程が重要ですから。

 かの有名なドゲザー1080手を描き、その土下座一つで王まで上り詰めたといわれるシャルル・ド・ゲイザー伯爵も土下寝は邪道とおっしゃっておられましたし。

 あの方の計算された膝の落とし方。この流れるような腕の流れ。頭の位置。背中の流麗さ。どれもこれもが、私のメモリーに刻まれて、消す事が出来ません!

 こんなにもメモリーを魅了するあの構えを思い出すたび。私は不思議な感覚に包まれるのです……!



 ──ネギや猫の画像がかすむほどに存在感を示す、彼の情けない姿集(エドの姿は写さないよう注意してある)


 それが、ネギ達の前に、もぎゃーんと映し出されていた。


「……」
 全員沈黙。

 みんなで顔を合わせ、茶々丸を見る。


 その画像を見て、茶々丸は胸をきゅんきゅんさせている。

 そして視線に気づいた茶々丸は──


「この気持ち、人はモエと呼ぶと聞いた事があります」


 ──きりっとそう言うのであった。


 なんかソレちがう!


 そこにいるメンバー全員が、そう思った。


「……こ、これは、見なかった事にしましょう」
 そっと、全員一致でファイルを閉じるのであった……




「あの人も、こんな情けない姿。するんですね……」
 桜咲さんが複雑そうな顔をしています。

「滅多にない姿を逃さずしっかり記録しましたので、そう見れるものではありません。私のお勧めとしては……」

「見せなくていい! いりませんからー!」

「厳選作品なのに……」
 しょぼん。


「……あ、あはは」
 みんな苦笑するしかなかった。




「……今なんか、すごい勢いで哀れまれた気がする」

「いきなりなにを言っているんだお前は」
 部屋で彼と一緒にゲームをしているエヴァンジェリンは、そう言った。





(……はっ! いや、一般人の擬態の一環として情けなく見えるよう演じているのか! さすがです……!)
「あ、せっちゃん立ち直ったー」




─あとがき─

 番外編です。
 番外編というよりも、追加補足と言った方が正しいかもしれません。

 今回主人公はほぼ脇役なので、そういう意味で番外編という事で。うん。

 ちなみに茶々丸が変な萌に目覚めたのは第13話のドゲザーからです。



[6617] ネギえもん ─第22話─ エヴァルート10 第2部
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/02/25 22:58
初出 2012/02/25 以後修正

─第22話─




 これまでのおさらい。エヴァンジェリンとイチャイチャするようになりました。




──────




 かぽーん。
 そんな音がその空間に響く。


 この擬音からわかるとおり、場所は風呂。この擬音今でも通じるのかちょっと疑問だが風呂なのだ。
 もっとわかりやすく言えば、俺が在籍する男子寮の大浴場である。
 ネギ達がいる女子寮と同じく、ここもなかなか豪勢ででっかい風呂なのである。


 そこで俺は、ぐったりぐだぐだと湯につかっているのであった。


 やはり、風呂はいい……


 頭にタオルを乗っけて大浴場の真ん中に体を肩まで沈め、足まで伸ばせる余裕。


 やはり、風呂はいい……



 大事な事なので二回言ってみた。



 ただ、今の時間は風呂の利用時間をこえた深夜。
 ちょっとした特例使用の為に、俺はだれーもいないこの広い風呂にいる。


 ちゃぷん。


 俺の背後で、誰かが湯船に入る音が聞こえた。
 どうやら、来たようだ。

 湯がゆれ、生まれた波紋が俺の身体を揺らす。その人物が近づいてくるのがわかる。
 気配が近づいてきたのを感じ、俺は振り返った。


 そこにいたのは……


 つるっとし毛のない均整の取れたそれは、洋ナシを思わせ、さらにその年齢では想像も出来ない美しい毛を持った……


「うむ。またせたの」

 ……しおしおの爺さんである。
 にょろーんと伸びた長い頭は洋ナシのようであり、妖怪ぬらりひょんを思わせる。
 この学園で一番偉い人にして、髭がお綺麗な魔法使い。

 そう。学園長その人だ。


 はっはー。エヴァンジェリンかと思ったか? 残念爺さんだよ!
 傍目には全裸で見つめあう15の少年と爺さんという誰得な絵ズラだよ!
 そんな二人が深夜のお風呂で密会だよ!


 俺はちょっと天を仰ぎ見た。
 初めての二人風呂は、好きな人とがよかったなぁ……


 好きな人と一緒だったら確実に理性の方が持たない自信があるが。
 最近気づいたんだが、好きな人(重要)なら凹凸がなくても俺はイけるらしい。やばい。かなりやばい。
 ただ、5年たつまで手は出さないと宣言した手前、そんな自爆確実な事出来ないので我慢するしかないが。


 なぜなら、この宣言を破ってあいつに手を出そうものなら一生そのことをネタに頭が上がらなくなるのは間違いないからだ!


「子供の体には興味がないといっていたのになぁ」にやにや。
「5年たつまで手は出さないと言っていたのになぁ」にやにや。


 こんな感じで事あるごとに持ち出され、にやにやされるに違いない! どSな感じで蔑んで見てくるに違いないのだ!
 それはそれでぞくぞくしておいしいが、俺の逆転するチャンスがなくなるのはいただけない!

 手を出せば最後。一生頭の上がらない弱みを握られてしまう!

 ただでさえ一生モノの事なのだ。
 慎重に事を運ばねばならない!


 道具を使って大人の体にしてヤっちゃえよとかいう意見も聞こえるが、今の設問はお風呂に好きな人と二人きりで理性が持つかというものなので無視をする。
 ついでに言えば、簡単に年齢も性別も変えてしまえるからこそ、最初は素のアイツと素の自分がいい。
 ダメでも下手でも、未来の道具も便利な魔法もなにも使わずに。

 なぜなら初めてだからー!



 ……そんな変なこだわりがあったから、こうして爺さんと二人ではじめての二人風呂になったんだけどね。



 ……


 でもやっぱり、初めての二人きりで広いお風呂は好きな人とがよかったなぁ……
 あ、天窓から見える月が綺麗だ。


「どうしたのですかな?」
「いや、なんでもありません……」
 天を仰ぎ見ていた俺に、学園長が心配の声をかけてくれた。



 かぽーん(仕切りなおしの音)



「それで、なんのようですか? こんな時間に風呂に来いって。特別な事情にもほどがあるでしょう」
 周囲に人やなにかがあればすぐわかる広い風呂の上、どちらも裸でないと話が出来ない状況で話をしなければならないという事は、なにか真剣な話があるに違いないのは察せる。

 まあ今俺はタオルに『スペアポケット』はって潜ませてあるから全然丸腰じゃないけど。


「あなた様に話しておかねばならぬ事が出来ましての」


 ……なぜに敬語。
 この学園長の中で、俺はどんな存在なのだろう?
 聞くときっと凄いダメージをこうむりそうなので、聞きたくても聞かないが……
 聞けない。一度お邪魔した学園長の部屋に置いてあった俺っぽい像は、一体なんだ……! 神棚っぽいアレは、なんなんだ……!


「ですから、俺に敬語はやめてくださいって。そんな大層な存在じゃないんですから」
「ですがのう……」

「やめてください」
 きっぱりはっきりしっかりと告げる。


「……」
 学園長は一度目を瞑り。息を吐いた。


「うむ。では、これからはいつもどおりでいかせてもらおうかの」
「はい。それがいいです。それで、一体なんですか? お孫さんのお婿さんの件はもうやめてくださいよ」

 でも、そんな件ではないと察せる。
 そういう冗談ぶくみの話ならば、どこでもやれるし、エヴァンジェリンの事を知っている学園長なら、そう何度も言ってきたりはしないだろう。
 それでもその件。近衛木乃香との婚姻話を持ち出してくるとすれば、なにかのっぴきならない状況という事だけど。


「うむ。今回はその件ではなく、ぬしに伝えなければならぬ大切な事があってな」
「え? 俺にですか?」


 学園長の口から伝えられた事は、俺を魔法世界行きへと、確定させた。


 先日無事終業式も終わり、はじまった夏休み。
 それを利用してネギ達は当然『母』の行方を捜しに行く。
 当初の予定では、成長したネギパーティーに『道具』と『知識』を渡して、心の『闇』を刺激しない事を理由に魔法世界には行かない。と、俺は安全平穏という予定だったのだけど、そうもいかないこの世界。

 すでに知っている人はいると思うんだけど、俺の祖先に魔法世界の住人がいたらしいんだよ。
 おかげであの時魔法使いとして覚醒もしたし、生き返れたわけなんだけど……


 なんと俺、魔法世界にあるとある王国の、王子様なんだってさ……


 なんでも、そこは血筋と魔力によって王が選別されるんだって。
 あの日、魔法使いとして覚醒した俺の姿が、王家の宝石とかいうのに映し出されたんだって。
 よって俺は、その国の王となる資格を得たんだって。


 それで、調べて、学園に連絡が来たと、学園長からお話がありましたとさ。


「王位継承のゴタゴタが生まれたから、夏休みには来て欲しい。だそうじゃ」

「行かないと?」

「その国の内政が大変な事になるじゃろうなぁ。ぬしという存在を使い、その国の権力を握ろうとする者が出てきてもおかしくはない。手間をかけさせ大変申し訳ないのじゃが……」

「まぁ、勝手に名前使われたり勝手に祭り上げられたりとか十分可能性ありますなぁ」

 少なくとも行って、王位継承権を放棄するとか宣言しなくてはならないようだ。
 代理宣言とかはダメなんだってー。

 というか、直接行ってその俺を写した宝石から、俺の姿を消せばいいらしいんだけど、それを消せるのが本人のみだから、行かなきゃならないワケだ。
 精神的に大人になっているせいか、魔法もマトモに発動出来ないってのにいらない面倒だけはやってくるってなんぞこれ。


「うむ。というわけじゃから、この夏休みに一度、その国へと出向いてもらえませんかの?」


 ふふ、そうきましたか運命さん。

 いいでしょう。旅行の際ネギに今後の流れを伝えたりしようかと思ったけど、こうなったらもう俺が直接出向いてそのままこっそりぶっ潰してさしあげましょう。

 ネギ一向はそのまま平穏無事に魔法世界観光でもすればよろしいのです。大人の残した負の遺産なんて大人がどうにかするのです。子供は知らなくていいのです!
 原作の流れ? もうそんなの知った事かなのよ!!

 でも一人では怖いので、他にも仲間を引き連れていきますけどね。
 行きますよ。ザーボンさんエヴァリアさん!

「わかりました行きましょう。せっかくですから、エヴァンジェリンをつれていってもいいですか?」

「もちろんですとも」
「敬語に戻ってますよ」
「おっとこれはうっかりじゃな」



 というわけで、ネギ達に俺の『道具』と『知識』を与えて夏休みは平和に過ごそう計画は、粉々に砕け散ったのであった……



「ただ、個人的な見解じゃが……」


 話も終わり、独り占め状態の湯船を楽しんでいた俺に、学園長が声をかけてきた。


「なんですか?」
「いっその事、そこの王となって、お嫁さんたくさん生活も悪くないと思うんじゃ」

 あー。王様なら確かに正室側室とかまえていても不思議はありませんものね。
 そんなルールがなくても王様なら俺がルールだやれますもんね。

「あー。それはいい話ですね。俺がもうちょっと気が多くてそういうの平気な性格だったら大喜びだったのでしょうけど」
「残念じゃのう」
「残念ですねえ」

「ホントに、残念じゃのう」
「……」
「残念じゃのう……」

「ちらちら期待した目で見ないでください」


 そんな期待をされても、俺は一人の子しか目に入ってないのだから。




──────




 次の日。

 夜学園長との密会があったため、自分の家へ帰って寮の部屋に居なかったエヴァンジェリンに魔法世界行きの事を話すため、彼女の家へと向かう。
 当然一緒に行くかどうかを聞くために。だ。

 あるであろう原作の流れを無視するという事は、俺が非常に危険な目にあうという事でもある。
 『三番目』ことフェイトをとっ捕まえてその野望をさくっと解決するにも、一人じゃ不安だ。
 だが、エヴァが一緒に来てくれれば心強いし、安心だ。

 当然基本へたれの俺。
 エヴァが万一ついてこないといったら、ネギ達にがんばってもらうつもりでもいる!
 やっぱドンだけ凄い道具持ってても俺は基本一般人。怖いもんは怖いんだい。


 以前(第7話)に『ワープペン』で作ったポスターのゲートを通って出た先。
 出口は二階にあるエヴァの部屋のクローゼット。顔を出した先にも、エヴァはいなかった。
 なので探して部屋を降りる。向かう先は一階のリビング。


 寝室から出て階段を下りていると、がやがやと声が聞こえてきた。
 俺が階段の途中にさしかかったところで、リビングの方に、ちょうど家に帰ってきたと思われるエヴァンジェリンとそのクラスメイト。

 ツインテ明日菜とカンフー娘のクーフェイに忍者娘の楓。さらに+1の四名。ネギと一緒に魔法世界行きの面々も入ってきた(2部では基本名前で考えるようになりました。共通認識のある名の場合もあり)


「おや?」
 なぜに? と疑問符をあげる俺。


「おやおやおやー、エヴァちゃんの部屋から出てこなかったー? ひょっとして、むふふ」

 ふくみわらいをするのは+1にカテゴライズしたオデコちゃんことユエちゃんと本屋ちゃんの親友である漫画を描く女の子。確か……パルっていったっけか。名前は忘れた。てへ(パルこと早乙女ハルナの事)


「あー」
 振り返り、俺が出てきた場所を見る。
 ゲートがエヴァの部屋のクローゼットに繋がっているため、必然的にエヴァの部屋からリビングへ降りる事となるので、俺とエヴァの関係を知っていて、ゲートがある事を知らない人にしてみれば、お泊り出現に見えたのだろう。


 だが、それは誤解である。妄想激しいうら若き乙女にそんな誤解を与えるわけにはいかない。
 というわけで……!


「残念だがエヴァンジェリンとむふふな関係を持つのは18の誕生日を過ぎてからなのでその期待には答えられていない!」
 俺は、腕を組み、そう、階段の上から高らかに宣言した。

「具体的には結婚初夜に女の子なら誰もが夢見る最高の初体験を味あわせる予定だから!」
 くわっ!

「ぶーっ!」
「きゃー」
 俺の宣言を聞いたエヴァが噴出し、その場にいた他の女子全員は黄色い声を上げ赤面する。
 一番冷静そうな忍者少女の楓すら少し頬を赤くしていた。


「というわけだから、いくら誘惑してもその時まで絶対に手を出さないから覚悟しろエヴァンジェリン! お前も俺も生殺しだ!」


「こ、このアホウがー!」
 顔を真っ赤にして近くにあった部屋の小物(テーブルの上のぬいぐるみなど)を手当たりしだい投げてきた。

「ひゅーひゅー。らっぶらぶー」
 パル君が冷やかす。

「ひゅーひゅー。顔まっかー」
 俺も冷やかす。
「貴様は黙れー!」

「わかった黙る。必ず幸せにするよキティ!」
 黙れと言われたのでキラッとキリッと笑顔でそう返したら、花瓶がめごっしゃと俺の顔面に突き刺さりました。



 ちなみにエヴァンジェリンは攻められるのに弱い。
 俺もどちらかと言えば攻められると弱い。
 ただし二人とも自分主導(攻める)なら問題はない。
 なのでどちらも主導権を握って相手をあわあわさせた方が勝つのである!
 今回は俺の勝ち(床に倒れてぴくぴくしつつ親指立てながら)
 勝ちったら勝ち!




──────




 気づくとずるずる引きずられてエヴァの別荘に連れこまれていた。

 別荘に到着した直後、ツインテ明日菜君を残して、他の三人は転移魔法陣に乗って好きな場所へと行ってしまったようで、姿はない。

「そろそろ自力で歩いたらどうだ?」

 三人が居なくなったら、エヴァが俺に声をかけてきた。

「襟首をつかまれてずるずると引きずられるのも貴重な経験かと思いまして」
「そろそろ息を詰まらせるぞ」
 実は優しいエヴァは魔法でちょっと俺を浮かせて運んでいたのだ。が、それを解除して服のみを引っ張る仕様に変更の兆しを見せる。
 当然襟をひっぱられればそのまま……

「おきます!」
 ぴょーんと立ち上がった。

「こんちわっす茶々丸さん!」
 そのままのテンションで入り口に居て転移魔法陣の説明をしていた茶々丸さんに挨拶をした。
 ぺこりと会釈されてしまった。えへへ。

「あとついでに明日菜君も」
「ついでなの!?」

「さらにおまけでやっぱお前はどうでもいい」
「また喧嘩を売っているのかお前は」


 ふっふっふと二人で笑って、俺達はにらみ合いをはじめる。


「相変わらず仲がよろしいですね」
 茶々丸さんに茶々入れられてしまった。

「いやー。照れるなー」
「今のどこにそんな要素があった! 全然なかっただろう茶々丸!」


「はいはい。お暑いお暑い」
 明日菜君にあきれられてしまった。



 茶々丸さんの案内で、正面の魔法陣を通ってでっかい城目指して歩く事に。



「そういや、なんで彼女達が?」
 ネギ達修行組はよくここに来るが、あの漫画描きパル君なんかは滅多に来ない上、あんな大勢で歩くなんて、友達の少なかったエヴァには考えられない!(冗談だよ)


「ああ。それはな……」
 起きた事を思い出してうんざりしたようにエヴァが事情を話しはじめた。


「ネギま部(仮)?」
 聞けば簡単。声に上げたその部活の立ち上げ式で、部室となった地下へ案内しているところに俺が来たというわけだったのだ。
 どうやらちょっと流れがズレたこの世界でも、エヴァはあの部活の名誉顧問になったらしい(原作で言えば第19巻の最初の話のとこ)


「そっかー。名誉顧問になったかー。もうナギかーさん探す理由とかないのに、やさしいなぁエヴァちゃんは」
「子供のようにあつかうな。奴等があまりに哀れで見ていられなかったからしかたがなくだ」


 とかいいつつ、ホントは友達のために力貸してりたかっただけのくせに。
 どーせ送り出すとなると心配でいてもたってもいられなくなるくせに。


「にやにやするな。見ていて気色悪い」
「にやにや」

「次したら殺す」
「じゃあ頭を撫でる」

「よし殺す」
 しゃきーんと右手を掲げやがったー。魔法ダメー。

「助けて茶々丸さーん」

「むしろ土下座をするべきです」

「それって敵なの味方なの!?」

(土下座をしている時の貴方が一番素敵だと私は思います)
 そんな事を思う茶々丸であった。
 変なモエは継続中です。

「もしくはぎゅーっと抱きしめてあげるのも手かと思われます」
(真っ赤になってあわあわするマスター。これもイイものです)
 モエプラス。

「よしそうしよう」

「おいこら茶々丸!」

「ふぁいっ」
 茶々丸さんがバトルをうながすよう手を勢いよくクロスさせた。

 じりっ。
 プロレスのように構えにらみあう俺達。

「いい加減ににしなさーい!」

 即座につっこみマスター明日菜のつっこみが炸裂した。



「閑話休題して」(俺)
「そうだな」(エヴァ)
「はい」(茶々)
 三者頭からハリセンでたたかれた煙を出しつつ。

「……」(明日菜)
 つっこみたんとうはあきれつつ。


「ネギま(仮)部が出来たのならちょうどいいな」
「? なにがだ?」
 エヴァが俺の言葉に答えてくれた。

「明日菜君。せっかくだから、俺も特別会員枠あたりでその部活入れてもらえないかな?」
 部活なのに会員枠とはいかに。だが……

「え? いいの?」
 しかしバカレッドはそこに気づいてくれなかった……つっこみちょっと欲しかった。


「ナギの発見に手は貸さないと言っていたお前が、どういう心変わりだ?」

 もっともな疑問をエヴァが聞いてくる。

「そっちには手を貸すつもりはないけど、別の用件が入っちゃったからね」
「……昨日の話になにかあったか?」

 昨日学園長に会った事を知っているから、さすがに察しが早い。

「ああ。その件でお前に会いに来たからな。今から説明するよ……」



 と、魔法世界の王子様である事を説明しようとしたその時……



「にーちゃーん!」
「はぐあ!」

「コタロー君またー」
 コレネギの声。

 どごーんと毎度おなじみコタロー弾が俺のお腹に決まりました。
 ごろごろ転がります。


「にーちゃんひさしぶりやー。にーちゃーん」
 俺の腹の上でごろごろ喉を鳴らして転がるTS娘。犬っ子コタローがいる。


「い、いや、俺の体感は、そんなたっていないんだけどな……」
 まあ、別荘で修行しているから体感日数が圧倒的に違うのだろうけど。

 ところで、別荘に関しての説明は必要ないよね? 外と流れる時間の速さが違う異世界で、一度入ると別荘内時間で一日たたないと出られないって覚えていればいいから。


「俺がひさしぶりなんやからそれでいいんやー。にーちゃんは俺の嫁やー」


「おい」
 怒りをふくんだエヴァの声が、コタローの後頭部をむんずとつかむ。

「貴様、誰のモノに手を出したと思っている?」
「ひー」

「まあまあ」
 なだめつつ立ち上がると。

「かんにんしてやー」
 コタローは俺の後ろへ隠れた。

「お前もお前だ! いい加減右ストレートをたたきこむか膝蹴りをたたきこむかぶっ飛ばすかぶち殺すかしろ!」

「なんで避けるという選択肢を出さないんだよお前は」

「というかだ。最近癖になっていたりしないだろうな?」
「ソンナコトナイヨ」
 受身が上手くなってきたせいか意外と楽しいとか思ってナイヨ。

「だからわざとかわさないのか!」
 そこはかわせないだけだけどさ!

「なんだよ。そんなに羨ましいならお前もやったらいいだろ」
 両手を広げる。

「さ、どーぞ」


 みんな注目。


「うぐっ……」
 エヴァ怯む。


 じーっと注目。
 周囲には騒ぎをかぎつけた刹那君や木乃香嬢ちゃんなどネギま(仮)部の面々もあつまり、注目しはじめている。
 当然ネギだって見てる。


「遠慮なく!」

「できるかー!」
 むがーっと怒鳴られた。



 主導権を握られた人前だと、プライドの関係上甘えてこないのよねー。この子ネコちゃん。
 だからからかうんだけど。



「じゃあかわりにそこらにいる誰か抱きしめてもいいか?」


 彼は気づかないが、周囲の何人かがぴくんとその言葉に反応した。


「よし死ね」

「うんそのハイライト消えた笑顔素敵。だからお前を抱きしめよう」
「なっ!?」

 というわけで、目の前にいるエヴァをはぐはぐっと抱きしめた。
 抱きしめるは英語でハグ(hug)といいます。賢くなります。

 ぎゅぎゅーっと抱きしめます。ああ、こいついい匂いするなぁ。
 ぽぽーっとエヴァが赤くなります。大人しくなりました。

「やー!」
 どーんと衆人環視のハグを弾き飛ばすのは犬っ子コタロー。
 正確には俺もエヴァも両方とも手を離してその間にコタローがとびこんできた形だが。


 そしてエヴァをずばっと指差して。


「にーちゃん諦めへんからなー! 覚えとけー!」

 走って逃げてった。

「やれやれ」
 冷静になったエヴァンジェリンがため息をついている。


「……ちなみに」
「なんだ?」

「俺は浮気する気は一切ないけど、疑わしいと思ったら遠慮なく罰していいからな」
「ふん。私に魅了されているお前にそんな事出来るわけがなかろう。やれるものならやってみろ」
「なっ!? 勘違いで罰してくれないとお前の嫉妬を感じられないじゃないか! どうしてくれる」
「だ、誰が嫉妬などするか。このアホ! アホ!」
 大切な事ので二度言われました。


「たまには人前で愛してるって言われたいなー」
 ちらっちらと期待をこめた目で言う。
「誰が言うか!」


 誰も居ない時はべたべたしてくるくせに。
 逆に俺は人が居ないとべたべたしないけど。

 いや、たぶん嘘。俺は人が居てもいなくてもべたべたする気がする。


「言ってくれないの?」
「当たり前だ!」
「言ってくれよ!」
「断る!」
「じゃあ俺が言う!」
「こんな場所で言うなアホ!」
「じゃあ言え!」
「アホか!」
「愛してる!」
「私もだ! ってなに言わす!」
「なっ……」
「そして言われて赤くなるな! 逆に私が恥ずかしい!」
「いや、まさか言うとは。これクるわー。だからもう一回」
「言うか!」



 仲ええなぁ。
 仲いいですねぇ。


 そんな言葉が周囲から聞こえてきた気がする。
 完全に見守られてるなー。



「はいはい。イチャイチャするのそれくらいにしてくれない?」
 明日菜君がとうとう止めに入ってくれた。

「……」
「……」
 でも俺等は顔を見合わせる。

「どしたの?」
 明日菜の疑問。

「イチャイチャなんてしていたかな?」
「してないな」
 白々しく一組の男女が顔をあわせます。

「……」
 すちゃっとハリセンを用意するツインテール。

「すんませんでした」
「ふん」
 俺が頭を下げて、エヴァはあさっての方を見る。



「とりあえず、これでみんなそろったわね」
 場を仕切るように明日菜が言った。

「いや、コタローあっち行っちゃったけど」
 逃げた方を俺は指差した。
「あ、戻ってきた」

「にーちゃんが呼んだ気ぃしたー!」
 そりゃすげぇな。


 仕切りなおして。


「よし。とりあえずみんな。部室も名誉顧問(エヴァ)も特別会員(俺)も確保したから、これで活動できるわよ」

「マスターありがとうございます」
 ネギがぺこりと頭をさげるのと、エヴァが明後日の方を向くのはある意味お約束。

「さーてじゃあ、名誉顧問も部室も確保できた事だし。『ナギさん発見』へ向けて本格的に動き出すとしますか」

 パル君の音頭で円陣を組んだ彼女達が、「がんばるぞー」と声を上げた。


 これで、仮だけどネギま(仮)部誕生かー。
 ちなみに俺とエヴァは一歩はなれたところで見てました。




──────




 みんな修行などをするために、一度解散。
 残されるのは、修行も宿題もしない俺とエヴァだけ。


 さてどうするかな。下手するとコタローに稽古つけてとか言われそうだし。
 見つからない場所へ移動するかねー。



 と、きょろきょろと辺りを見回してみて、気づく。



「そーいえば、ここに入るの初めてか」
 漫画で見た事があったから、風景を知っているから初めてという気がしなかったが、自分が移動する気になって道などがさっぱりわからない事に気づいた。

「そういえばそうだったな」

 俺の言葉に、エヴァが相槌を打つ。
 夏前まではネギと鉢合わせノーセンキューだったからここに来る予定なかったしなぁ。

「一回入ると一日出られないんだっけ?」
「そうだ」


 それはやっかいだ。それだけ逃げ回らねばならん。


「しっかし、城か」
 どでかい城にどでかい滝。砂漠に氷の世界までそなえているなんて、すげーなここ。

「すげーな」
「どうした? あまりの凄さに私への畏怖の念がさらに上昇したか?」
「ああ。対抗心も燃え上がりそうだ。こうなったら星のひとつくらい作ってみようか……」
 小さいが星を作る道具(『静止衛星』)もばっちりある。俺も宇宙に別荘の一つくらい作ってみようかな。

 ちなみにその気になればスモールライト照射クラスの小さい地球(『地球セット』)や太陽系(『創生セット』)も作れたりする。パネェ。


「そこまでやれるのかお前は……」


「だってそうすりゃ誰にも邪魔されずにリゾート出来るだろ? ここ、ネギ達のたまり場になっちゃってるし」

「安心しろ。城の最上部に誰にも入れない部屋を用意してある。今からそこで背徳の限りを尽くしてよいのだぞ」
 ふふんと挑発してきました。
 人が居ないからって……!

「そんなに俺に襲われたいのかよ」

「ふふ。なんだ? 襲ってくれるのか?」

「そりゃもう脇をくすぐる足の裏をくすぐるこんにゃくでたたくなど。もう悪逆の限りをつくしてやる」

「もっとマシな事をしろ!」

「なんてな。バーカ。気が早いんだよ」
 頭を優しく撫でる。
 ……でも、かなりの悪行だと思うんだけどなぁ。極悪だと思うんだけどなぁ。

「だから、撫でるな」
 でも手は撥ね退けられない。二人きりだと借りてきたネコみたいだな。
 とろんとしてかわいいなぁ。


「さってと。一度出るか。外に」

 これ以上ここにいるとホントにコタローやクーに稽古を申しこまれてしまう。
 ここを探検するより、外の方が安全安心なのは言うまでもない。


「だから一日たたないと出られんと言っただろう」
 別荘の説明聞いていたか? とバカにされちまったい。
 だから出たいわけだがな!

「別荘時間で一日。それは知っているけど、ちょっと実験したい事もあってね」
 そうエヴァに告げ、俺はポケットからソレをとりだした。

「ほう」


『どこでもドア』
 わざわざ説明する必要もない超々有名な道具。
 行きたい場所を念じて扉を開けば10光年以内ならば好きな場所へと移動出来るテレポーター。


 実験とは、時間と空間がずれたこの場所。この別荘から、このドアで脱出出来るか。

 一応『どこでもドア』は、『地平線テープ』や『入りこみミラー』などで作られた次元そのものが違う世界には行けない。でも、この二つはスイッチが入っている時しか存在しない世界だし、別荘は元々この世界にあるものだ。
 ドアには学習装置がついているので、一度きたこの場所からならどうなるのか。試してみたい疑問である。


「とゆーわけで、がっちゃり」
 開いた扉の先には、『外』がうつしだされていた。
 目指したエヴァの家の外。
 そこがはっきりと存在していた。

 あ、こちらの方が時間の流れが速いためか、外はゆっくり動いて見える。どうやらこのドア、ドア開けても海水とかが入ってこないタイプだったようだ。

「よし。これで1日待たずともここから出られる事が確認出来た」
「……あ、相変わらず、出鱈目な……」
 エヴァがあきれている。


 補足だが、世界に作られた異界からの脱出は、劇場版『パラレル西遊記』において、金角のひょうたん(吸いこんで小さくして閉じこめて溶かす別荘によく似たあれ)に吸いこまれたドラえもんが『どこでもドア』で脱出していたりする。
 アレって深く考えるととんでもない事をさらっとしてるよね。
 ゆえに同じ世界に作られた異界ならば、『どこでもドア』での脱出は可能なのである。


「ところでエヴァ」
「なんだ?」
「ネギ達の事はコピーに任せて、デート行かね?」
 にへっと笑って外を親指で指差した。


「……」
 一瞬エヴァがほうけた。


「し、しかたがないな。お前がそこまで言うのなら、つきあってやろう」
 俺の彼女が赤面して目をそらす。この恥じらいは、正直たまらん!


「よし、んじゃ他の奴等に見つかる前に行くか」

 俺は、エヴァの手をとって、外へと脱出した。



 外は、夏!

 新しい夏が、はじまった!




「そういえば、話とはなんだったんだ?」
「ああ。説明するよ……」


 俺が魔法世界にある国の王位継承権を得たため、夏休みそこへ行かなければならないので一緒に来ないかと誘った。
 答えは、イエスだった。




───エヴァンジェリン───




 それは、あまりに馬鹿げた宣言だった。


「残念だがエヴァンジェリンとむふふな関係を持つのは18の誕生日を過ぎてからなのでその期待には答えられていない!」
 彼は、腕を組み、そう、階段の上から高らかに宣言した。

「具体的には結婚初夜に女の子なら誰もが夢見る最高の初体験を味あわせる予定だから!」


「ぶー!」

 いきなり家に現れて、なにを言っているんだこの男は!
 あまりの事に動揺が隠せない。

 テレを隠すために、近くにあった小物を投げつける。
 それでも彼は、怯まず私にとどめを刺しにきた。


「わかった黙る。必ず幸せにするよキティ!」


 そのまま私は、彼に花瓶をたたきつけ、沈黙させた。


 くそっ、人前でなにを言っているんだこいつは。
 ……うれしい。じゃなくて人目を気にしろ!

 思春期真っ只中の好奇心旺盛な娘達にアホな餌を与えるな!

 二人きりの時はおとなしいくせに、周囲に人がいるとなぜこう強気なのだ!
 

 ……でも、幸せにすると言われてしまった。


 幸せ……


 愛する伴侶と共に歩き、成長し、人としての一生を生きられるまぼろし。
 600年間思い浮かべても、夢でしかなかった結婚や花嫁となる未来。

 だがそれはすべて今ここに現実としてあり、さらに彼は、将来の予定として考えてくれている。
 そんな未来が、きっと待っている。

 彼ならばきっと、私の思い描いていた最高の結婚式や、最高の初夜を、最高の人生を与えてくれるに違いない。
 実現してくれると確信出来る。

 その時が来た事を想像するだけで天にものぼるような夢心地だ。

 だが、その時を期待しているなんて思われてしまうのもしゃくだ。

 仮にも私は600年を生きた年上(たぶん)。姉さん女房。
 年上の余裕というヤツを見せつけてやらねばならない。

 そんなのすでにないとかいう言葉は聞こえない。


 だから、本当は私も人前で愛していると言いたいとか、彼には秘密だ。
 もっとイチャイチャしたいと思っている事も秘密だ。
 ごろごろ転げまわって幸せをかみ締めて、「我が常世の春が来たー!」と叫んでいるのも秘密だ。
 いつか、彼の事を、「あなた」と呼びたいと思っているのも秘密だ。
 名前より、なにより、この夫婦限定であるこの特別な呼び方に、少し憧れているのだって当然秘密だ!


 だが彼は、私の心を見透かしているのか、私のしたいと秘密にしている事を平然と実行してくる。
 結婚式に憧れていて、花嫁さんに憧れていて、そんな乙女な心を、なぜお前は知っている!

 なんなんだあいつは。私の王子様か? なんでも夢をかなえてくれる王子様なのか!?

 ……いや、実際王子様だったが。
 私の王子様で、本物の王子様だったが。
 昨日じじいに呼び出され報告された事。
 魔法世界にあったあの小さな国。あの血筋と魔力で選別されるという小さな王国。
 一度死にかけた事による復活により、その国の王位を継ぐ資格を得てしまったとの事だった。

 なので王位を継承する、しないにかかわらず、この夏魔法世界へ行く事となったそうだ。


 魔法世界、か。正直いい思い出はないが、彼とならば楽しい思い出へとかわるだろう。
 なにより、共に来て欲しいというのだ。行かないわけがない!


 私とて与えられるだけというのは我慢出来ないのだから。
 最高の結婚式を私に与えると言うのならば、私もあなたに最高の結婚式を送ろう。最高の初夜を……努力する。
 最高の伴侶として恥じないよう、あなたを愛そう!


 ふと、私の前に立つ彼の背中が目に入った。


「……おい」
 デートへ行くため、私の家から歩き出したその背中に声をかける。

「なに?」
 私の声に、彼が振り返ろうとする。
 そこに……


「……愛してるぞ」


 万感の思いを、ぶつけた。

「んぐっ……」

 赤くなった。
 ふふ。二人きりの時、私にだけ見せるその姿。

 その時の彼は、とてもかわいい。



 私もあなたを、必ず幸せにするぞ。





─あとがき─

 第2部魔法世界編開始でございます。

 なにこれ。エヴァンジェリンとイチャイチャしてただけじゃね? 壁べこべこじゃね?
 ぶっちゃけ魔法世界でシリアスな話になるまでこんな感じが続きますのでお近くの壁を破壊しないようにご注意ください。


 だがこのイチャイチャが実は伏線だとは誰も思わないだろう。ふっふっふ……

 こう言っておけば許されるよね?





─おまけ─

 没シーン
 どこでもドアで別荘から脱出出来なかった場合のルート。


 『どこでもドア』を開いても、別荘から脱出出来なかった。

「あ、ダメか」
「ふふん」
 あ、勝ち誇られた。なんか腹立つ。

「しかたがない。これだけは使いたくなかったが……」

 俺はもう一度ポケットに手をいれ、別の道具を取り出した。


『鬼は外ビーンズ』
 一見すると豆まきの豆のような道具。
 これ(豆)を人に投げつけると、テレポーテーションによってその人を家の内から外へと瞬時に追い出す事が出来る。
 まさに鬼は外な道具である。


 こっちならば別荘という閉じ込められた空間から脱出するのは問題がないはずだ!
 ただし、この道具。脱出するべきモノがない家の外で使うと、人を服から追い出して、全裸にするという欠点がある。

 つまり失敗すると、この場で裸になるのだ!

 きらりらりーんと某ニュータイプのようにひらめく俺。
 目の前にはエヴァンジェリン!
 うん。それ俺得!

「えーい!」

 なんの説明もせずエヴァへ豆を投げた。


 結果は残念ながら、脱出成功だった……
 さすが未来道具さん。パネェ……


 ってのを最初考えたんだけど、資料見てたら金角様のひょうたんから『どこでもドア』で脱出していたのでならいいやって妥協した。こっちもこっちで捨てがたかったので没シーンとして残しました。
 豆は、他で使おう。



[6617] ネギえもん ─第23話─ エヴァルート11
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/03/03 21:45
初出 2012/03/03 以後修正

─第23話─




 彼女の位置づけは、ゲームクリア後に登場する最強の裏ボスって感じ。




──────




 カッと照りつける太陽。
 ミーンミーンと短い命を燃やしてその存在を世界に刻み付ける蝉の声。


 今はまさに夏である。


 時間はそろそろ昼といったところか。


 学園の通りを、日傘をさした、金色の美しい髪を持つ美少女と、黒髪の少年が歩いていた。


 まあ、俺とエヴァンジェリンなんだけどさ。


 ちなみにエヴァの服装はコミックス第19巻170時間目前半で着ていたのを思い浮かべるといいらしいよ。
 後半で着てたノースリーブでメガネかけてた方は丁度今コピーの方が着て、その上別荘の方では明日菜部長就任試験がとりおこなわれている時だったりもするが、こちらとは関係ない話だ(天の声より)



「さて。今日はどこへ行くか」
「そうだな。あそこはどうだ?」
 俺の質問に、エヴァが答える。
「あそこじゃわからん。ゲーセンか? ショッピングか?」
「ゲームセンターだ。先日のリベンジをしてくれる」
「買い物は?」
「今日は気分が乗らん」
「そっか。ところでアレ持ってない?」
「アレとはどれだ。ガムか? 飲み物か?」
「クレープ」
「持っているわけあるか! 私はアイスの方がいいバニラだな」
「お前も腹は減ってるのか」
「そろそろ昼だからな」
「そーいやそーだね」
「せっかくだ。出かける前に腹ごしらえして行くか?」
「そうだな。超君のところでいい?」
「かまわん」


 というわけで、超包子へ行く事も決まり、てこてこと歩きはじめました。


「……」
 でも、ただ歩くだけじゃつまらないです。

「なあ」
「なんだ?」

「手、つないでいいか?」
 そう手を差し出したら……


「ぶっ!」
 エヴァに噴出された。


「なにいきなり噴出してんだよ」
「い、いや。なんというかだな……」

「恥ずかしいか」
 人前だから。


「……ふん」


 あ、すねた。
 でもそのすねた顔が見れただけで俺は満足です。


「まぁ、今夏だし暑いしなぁ」
「そうだ。暑い。こうして日傘がなくてはか弱い私は倒れてしまうほどだ」

「ならちょうどいいや。実は俺、個人用のクーラーをつけてんだよ。手をつなげば、一緒に適温になるぞ?」


『うでくうらあ』
 腕時計型のクーラー。腕にはめると涼しくなる。
 類似品に『腕こたつ』がある。
 これ、超便利。超涼しい。超快適。


「……お前、図ったな」


 にらまれちった。


 だって、ホントはお前、魔力で体温調節とか出来るんだろ? 氷の魔法使い。
 人間戻ったから学園長に魔法解禁しても怒られないようになったはずだし。


「あー、夏って暑いよなー。でも俺涼しいなー。ちらちら」
「わざとらしく口でちらちら言うな! 大体お前こういう事に力使わないんじゃなかったのか!」」


 うん。そういえば昔そんな事言った覚えあるね(第11話修学旅行の病気で)


「はっはっは。これはお前をおちょくるためだからまったく問題ない!」
「よし。そのクーラーを私によこせ。それで万事解決だ。誰が手などつないでやるかこのアホ!」


 こ、こいつ、なんという解決方法を! 百点満点の切りかえしじゃないか!


「ひどい! ちょっとしたお茶目なのに! 人前で手をつなぐ理由を作ってあげただけなのに!」
 めそめそと両手で顔をおおって泣いたフリ。

「馬鹿な事を大声で言うな! お前、アルと出会ってから性格悪くなったな」

「それはクウネルさんのおかげじゃなくて、好きな子をいじめたいという思春期独特の精神状態のせい」
 キリッと無意味にキメ顔で語ってみる。


 そういえばクウネルはんもエヴァをいじるの、原作中ではそう呼ばれていたから、あの人を例えに出されるのはある意味当然かも……
 それ以前に恋人になってからエヴァいじりはじめたのがあの人と一緒にやった時からって事からかもしれないが。


「思春期とか言うような精神年齢でもないだろうに」
「男はいつまでも少年なのさ」

「少年ならば人前で少女と手をつなぐ事に羞恥を持て」
「残念だが可愛い彼女を周囲に見せびらかしたいという欲求のが大きいのだ」

「……」
 エヴァが無言で目を見開いて俺を見てきた。

「どした?」

「この、アホ」
(ふ、不意打ちで可愛いとか言うな!)

「目をそらしつつ赤面して言われても嬉しいだけです」
「あほ」


「つーわけで手をつなごうぜ」


「……」

「デートなんだから。な?」


「……ふん。お前がそこまで言うのなら仕方がないな」

「ん。ありがとよ」


 そう、手を伸ばす。



 手と手がつながれようとしたその時……



「見つけましたわー!」


 俺達の背後から声がかかった。



 ……すんでのところでつなげないのは、お約束。
 ちゃんちゃん。


 ってしまった。今はもう無視してつないでしまうという行動も出来たではないか!
 次回にはこの反省を生かしていきたいと思います。



 二人で振り返ってみると、そこにいたのは委員長こと雪広あやかお嬢さん。
 そういえば、彼女と会うのは学園祭以来か。


「や、ひさしぶり」
 エヴァの手を取ろうとした方の手を上げて挨拶。

「おひさしぶりですわね」
 あっちも挨拶。

 その後ろにはいまだ存在する対俺用と思われる黒服執事さん達。前より増えたような減ったような屈強になったようななっていないような。
 というか黒スーツで暑くないのかしら。プロだから?

 そうチラッと見たら、黒服執事さんにうなずかれたので、プロだからと納得しておく。


「それで、なんの用だ雪広あやか」
 ちょっと不機嫌になったエヴァがあやかなお嬢に声を返す。
 お前、ホントは手ぇつなぎたかったんだな。


「お二人で居るところ申し訳ございませんけど、お聞きたい事がありまして」

「それで俺を探していたの?」

「はい。なかなか機会がなくて今日になりましたが」


 あー、学際の後は期末テストもあったしね。相変わらずテストは鬼門なネギクラスだったみたいだし。


「……だったら電話とかしてくれればよかったのに」
 俺の携帯番号まで調べあげて把握してるのだから。

「……」
 その言葉を聞いて、お嬢さん固まる。


「?」


「気づきませんでしたわっ……!」


「……」
「……」
 あきれる俺とエヴァ。


 この子、頭はいいんだけど、どこか抜けてますよね。

 ちなみにちらっと黒服の人見たら顔ごと(サングラスだから)視線をそらされた
 あんたら気づいてただろ!

 視線でそう送ったら、おっさん達がいっせいにてへぺろした。すがすがしいくらいにキモイよ!


「? どうしましたの?」

「いえ、ナンデモアリマセン」

 背後で行われた謎コミュニケーションなんて知らなくていいです。お嬢様は純粋培養で居てください。


「それで、聞きたい事とは?」
 俺と黒服のバットコミュニケーションを見てあきれていたエヴァがさっさと不毛な会話を終わらせるため質問を聞きおった。


「そうですわね。本題に入りましょう。一つ解せませんので質問をさせていただきますわ」


「はいはい。なにが聞きたいの?」
 ホントなんだろう。

「エヴァンジェリンさんには少し不愉快な思いをさせてしまいますかもしれませんので、先に謝っておきます」
「まあいいだろう」


「どうして、貴方が選んだのは、エヴァンジェリンさんなのですか?」


「あー」
 ああ。そうか。そういえば、彼女はちづるさんと同室だった。その上ちづるさんの事を応援もしていたし、俺とエヴァとエドの間にあった因縁とか関係も知るはずがない。
 そんな俺とエヴァが良い仲になったとなれば、唐突過ぎて納得がいかないのもあたりまえだろう。

 千鶴と同室でかつ失恋の時胸まで貸した彼女ならば、当然と言えた(胸を貸した事は彼は知らないが)


「エヴァンジェリンさんは日本の方ではございません」

 そりゃぁ、エヴァンジェリンなんだから日本の子じゃありませんよ。

「体の方だって、十歳と言っても納得のいく発育具合。知らない方が見れば、趣味を疑われる事間違いのないほどに」
 まあ、実際10歳の身体だしなぁ。
 普通に考えれば、スタイル抜群のちづるさんを選ぶわなぁ。

「日本の方ではなく、そのうえ十歳の子でもよろしいというのなら、なぜなのです!」


 そりゃ、エヴァは色々例外だから……って、ん? なんか言い方に違和感が……




「なぜ、ネギ先生ではないのです!!」

 それは、絶叫。
 絶叫であった。



 思わずずるっとずっこけるかと思った。
 隣でエヴァもがくんと肩を落としている。


「エヴァンジェリンさんでOKだというのなら、なぜネギ先生を選ばないのです!! それを答えていただきたいですわ!」


 とりあえず、頭を抱えた。


「え、えーっと、なんでそこでネギ? 今までの流れ的にネギじゃねーだろ。ちづるさんはどうしたんだよ。大体ネギとそんな関係になるの許さねーくせに」

「ええ許しませんよ。ですけどエヴァンジェリンさんを選ぶ貴方ならば、ネギ先生のあの可憐さ。あのかぐわしさ。あの優雅さ。それらすべてをあわせもったネギ先生を愛してしかるべきではありませんか!」
 くわっと無意味に集中線が彼女に集まったのが見えた気がした。


 そういえばそうだった。

 この子、ネギの事になると人外のパワーを発揮するけど、凄いアホの子になったりもするんだった。
 どおりで電話に気づかないわけだ……


「いや、万一愛しちゃったりしたら、交際許してくれんの?」
「当然許しません! そんな感情を持つ事すらも!」


「君は俺にどうさせたいんだー!」


「え?」
「おい。そこでなぜわかりませんのこのお馬鹿さんは。的な顔をするな」
 ものすごいきょとんとした顔されたよ今!


 頭をひねるお嬢。
「貴方まさか、ネギ先生の事が、お嫌いなの!?」


「い、いや、好きか嫌いかで言えば、好きな部類に入るよ」
「ならばなぜネギ先生ではなくエヴァンジェリンさんなのですか!」
「意味がわからない!」


「あきらめろ雪広あやか」
 今まで口を挟まなかったエヴァが、くちばしを挟んできた。

「お前がこいつの魅力をきちんと理解しているようだから、許してやる。だから、諦めろ。こいつはもう、私のモノだ。ふさわしいと認めてしまっていても、それはかなわぬ願いだ。こいつはすでに、私のモノなのだから」

 大切な事なので、2度言われました。
 ……あ、俺このフレーズ好きなのか? まあいい。


「……あぁ、つまり、俺は一応、ネギと付き合うにふさわしい男と認めてもらえてはいたってわけね」


「そ、そんな認めるなんてありません。絶対ありませんから!」

「だが、お前の口はそう言っている」
 エヴァがきっぱりと断言する。

「ぐぬぬ」


 そっか。一応俺は、彼女の中で(認めたくはないのだろうけど)は、ネギと釣り合いが取れそうな男カテゴリに入っていたって事か。

「……ありがとな」
「なんのことだかさっぱりですわ」

 ぷんと、視線を外されてしまいましたわ。


「ま、さっぱりならそれでいいけどな。ただ、エヴァの言うとおり、俺はもうこいつのモンのようなもんだから、ネギとそういう関係になる事はないよ」


「え?」
 なにをバカな事をって顔されたー!


「なにを言っているのです。じゃあネギ先生はどうするんですか?」


「こいつぅ」
「認めたくないくせに認めているから逆にやっかいだな」
「まったくだ。困ったな」

 当然黒服さん達は役に立たないのだろうし。


 そうやって、黒服さん達を見たその時。


「あやか」


 よく知る声が、黒服さん達の後ろから聞こえてきた。


 お嬢さんが振り向くと……



 ざっ。


 黒服が二つに割れて、そこから一人の女性が姿を現す。

 ……ちづるさん。なんで黒服さんとそんなにナイスコンビネーションなんです?
 むしろ黒服さん達の趣味ですか? 活き活きしてますモンね趣味ですよね。


「千鶴さん……」

「もう、あやかったら。エヴァンジェリンさんとお付き合いする事が決まったんですから、わがままを言って困らせてはいけないわ」

 にっこりと、まるで母のように彼女は微笑んだ。


「……そう、ですわね」
 なんとか納得したように、彼女も矛を収めてくれた。



 ふう。これで一件落……



「ちなみに私は諦めていませんけどね」

「さっそく困る事を!」



 ……着しなかった!



「だって、約束しましたのに……」
 憂うように、頬に手を当て、彼女は目を伏せる。


 約束。
 高校を出るまで手は出さないというあの約束の事ですね。


「私には卒業まで待てとおっしゃったくせに……」


 ほろり。

 その瞳には涙が……



 うぐっ。泣くのはずるいです……



「ばかもの。女の涙に騙されるな。まだ14、5とはいえこいつも女。愛のためならそのくらいやってくるぞ」
「あらあら。バレましたか」

 エヴァの言葉に、けろりと涙を止めるちづるさん。


「それにあの約束は手を出さないという事であって、それを守れば付き合う事に問題ないという事だ」

「あら、そうでしたね」

「ふふふ」
「うふふ」



 びしっ。



 一瞬にして周辺の温度が下がった気がします。凍った気がします。
 俺今クーラーつけて適温快適状態なのに、なぜか寒気したよ。

 あやかお嬢さんと黒服さん達は俺の背後でがたがたしてますし。



 ちづるさん。しばらく前まではかまってほしくて、ただわがままを言っていた女の子だったのに……



 ……おんなのひとってこわいね。



 あの、だから、背中をぐいぐい押さないでください。
 わかってますお嬢様。

 これ、俺が止めなきゃならない事くらい。

 だから、執事さんをアメフトみたいにスクラム組ませて押させないでください。
 俺を押さないでください。

 ちょっと勇気出るまで時間をください。


 時間をくださいー!



 ぽーんと二人の間に放りこまれた。



「骨は拾って差し上げますわ!」
 背後で不穏な言葉が聞こえる。
 というか遺影とか準備しないでお金持ち!


 そして、突き刺さるのは絶対零度なエヴァの視線と、温かいはずなのに冷たく感じるにこにこしたちづるさんの視線。



 ぞくぅ。



 二つに挟まれ、未来の道具をつけているはずなのに、どんどん寒くなるのを感じる。
 未来道具すら無視させるプレッシャー。これがしゅらばってやつか……


「……」
 ふう。と、勇気を生み出すために息を吐く。

 生まれろ。

 生まれろ勇気!


 俺の勇気!!


「エヴァンジェリン」
「なんだ? 今忙しい」
 視線は俺の方へは向けず、声だけの返答だ。


「知ってる」
 彼女の方へと向かい、そのまま答えを聞かず、問答無用で彼女を抱きかかえる。


 お姫様抱っこだ。


「なっ!?」

 驚くエヴァを抱きかかえ、振り返り、ちづるさんをそのまままっすぐ見る。



「ちづるさん」
「はい」


「そこまで俺を好きでいてくれてありがとう。でも、ごめん。君の気持ちは嬉しいけど、俺の心は、もうこいつのモノだから。こいつの事は裏切れない。だから、君とはそういう関係になる事はないよ」

 さっきあやかお嬢さんに言った事とほぼ同じ内容を、言う。


 ただ、この場の空気に熱がともるほどの意思をこめて!



 この状況を見て、雪広あやかは後に語る。
「彼の言葉は、そこにあった絶対零度の領域を一瞬にして溶かしてしまうほどの熱さを持っていたかのように感じました。風などふいてもいないのに、私はその場で、熱風が吹き荒れたと感じたほどに……」

 堂々と愛する人を抱きかかえ、その気持ちを抱えるのはその人のみだと真剣な顔で発せられたその一言は、まさに魂へ直接響く言葉であった……

「これほどの愛を感じさせられると、女として、少し嫉妬してしまいますわね」
 ふふっ。と、笑う。
 だがその言葉とは裏腹に、どこかさわやかな表情であった。

「ですけど、恐ろしいのは、彼だけでは、ございませんの……」
 その視線が見る先には……



「はい。でも、諦めません。むしろ惚れ直しました」

 そう、ちづるさんに笑顔で切り返されました。


「……そっか強敵だね」

「負けませんよ」

「わかった。強敵のようだから、今日のところは撤退させてもらうよ」

「はい。次は逃がしません」

「いつか、諦めるんだよ」


 俺はそう言って、エヴァを抱えたまま、その場を離れるのであった。
 両手が使えないので、心でしゅっといつものポーズをイメージして。
 ちなみにエヴァは俺の手の中で真っ赤になって沈黙したままだ。




「うふふ」
 千鶴はそのまま、彼の背中を見送った。

「もう」
 恐怖の絶対零度空間から開放されたあやかが、二人を見送る千鶴へ声をかける。

「あらあやか」

「千鶴さんもあの時諦めたんじゃありませんでしたの? そう言っていたではありませんか」
 麻帆良祭二日目の夜、エヴァの為にはっきり振られた彼女は、そう言っていたのだ。


 だからあやかは、千鶴の事を彼に質問したりするつもりはなかった。


「あやか。私思うの。三人で幸せになるっていうのも素敵だなって」

「……わたくし、あなたの事がたまによくわからなくなりますわ」

「あやかも恋をすればわかるようになるわよ。あ、でもあの人はダメよ」

「当たり前です!」

「うふふ」


 去ってゆく二人の背中を、彼女は結局、優しく見つめていた。
 だって彼女は、あの二人が一緒に居るのを見るのも、大好きなのだ。




───エヴァンジェリン───





 一つだけ言うぞ。






 惚れ直すだろうがあぁぁぁぁぁ!





──────




 エヴァを抱えて超包子までやってきた。

 なんというか、あれです。
 エヴァオーバーヒートしちゃったみたいで、動かなくなったのでそのまま運んできたのです。
 なに話しかけても「ああ」としか答えが返ってきません。ちょっと面白くありません。


「いらっしゃいませネー」
 超が出迎えてくれた。


 麻帆良祭最終日の大人しめとなった火星ロボ決戦で敗北したので、彼女は中学卒業まで、ここにいる事が決まっている。
 はい。現状確認終わり。


「おや、ラブラブネ」
「はっはっは。可愛いだろ俺の彼女」
 抱きかかえたままなので、今のうちに自慢する。


 多分目が覚めたらアッパー食らうだろう。でもいいのさ! むしろ満足さ!


「知てるヨ。こういうのバカップル言うネ」
「知ってるネ。バカップル楽しいヨ」


「……少し性格軽くなタ?」
「調子に乗っていると言ってほしいな」

「アナタは相変わらず読めない人ヨ」
 楽しそうに笑われちまったい。照れるぜ。


「とりあえず、席二つ空いてる? 今は一つでいいけど」

「バッチリ空いてるネ。夏休みなので帰省してる子も多いカラ暇ヨ」


 ……この学園って帰省せずに残ってる人多そうだけど、まあ、今だけかもだから気にしないでおこう。


「帰省といえば、渡した『タイムベルト』がどうなったか聞きたいところだけど、今なら人前でこのエヴァにあーんが実現出来そうだからさっそくスプーンで食べさせられるものを持ってきてください」

「わかたネ。杏仁豆腐おススメヨ」

「あ、いや、バニラアイスをカップグラスにお願い」
「承りましたネ!」


 すちゃっと席について待つ。
 膝の上にまだオーバーヒートしてるエヴァを乗せる。

 こうしてみると、人形みたいだ。
 でもいい匂いするし、人形にはない温かさがある。
 首筋のところとかに顔をうずめてくんかくんかしたいが、さすがにソレは色々マズいので我慢する。我慢する!


 迅速に超がバニラアイスを持ってきてくれた。


 テーブルに置かれたスプーンに手を伸ばす。
 指ではじき、無駄にかっこよく片手でくるくるとスプーンを回し、キャッチ!

 きらーんと太陽の光をスプーンが反射した気がした(超包子は基本オープンカフェ営業)

 そのままの勢いで、優しくアイスを掬う!


「さ、エヴァンジェリン。あー……」

「って、なにしてるかー!」

「っぱー!」



 お約束である。



 ぐったりとテーブルの間に倒れる俺を無視し、エヴァは俺が注文したアイスをパクついている。
 俺のアイスぅ。

「このアホ。しね」
 言葉に力がない。まだまだアイスで熱を覚まさないと本調子にならないZO!

「あほ」

「まぁ、エヴァにはしばらくアイスで熱さましをしてもらうとして」


 立ち上がり一度店を出て服についたほこりを落とし、戻ってきて席に着く。


「超君いいかな?」
 休憩として席に呼んで、ちょっと座ってもらう。

「なにカ?」

「さっきの疑問の答えと、もう一つ」

「ふむ。とりあえず、アナタにもらたタイムマシンのおかげで、ワタシはいつでも故郷へ帰れるネ。まあ、それを実行するのは卒業後になるガ」

「それはよかった」

「ちなみに空間移動の方も前回の騒動のおかげで科学のみでいけそうヨ」
「あー」

 前回の騒動とは、鉄人兵団との戦いの事だ。
 リルルの使ったワープを参考に、同じものの再現を試していると聞いている。


 ただし、このワープ技術は超の趣味実験にすぎない。
 『タイムベルト』は確かに基本時間移動しか出来ない。空間移動の装置はついておらず、長時間の時間跳躍を行うと、石の中に居るなんて事もありえる道具である。
 だが、その欠点は魔法の空間転移の応用を云々で解決している。
 帰る準備自体はすでに出来ているのは先ほど超が言ったとおりである。

 とはいえ、俺はそのワープ、『どこでもドア』でやれちゃうのは、秘密だ。
 まあ、伝えても研究止めるとは思えないけど。
 進歩がなくなっちゃうからね!


「まだ実験段階だがネ。まあ、それはイイとして」
「あいあい」

「もう一つトハ?」

「ん。超君はさ、ネギ達と一緒に行く気?」
 場所が場所なので、一応魔法世界という言葉の明言は避けます。

「一応ワタシは留守番の予定ネ」

「そっか。じゃあ、念のため来てもらえないかな?」

「なぜネ?」

「俺も別件で行く事になったから。なんというか、保険?」

「……フム。保険。カ」

「ああ。保険だ」


 クウネルが言っていた。
 俺は、これから起きるであろう魔法世界編に大変関わりあいのありえる『造物主』となにか関係があるかもしれないと(彼の知識は魔法世界編の拳闘大会終了後あたりまでである)
 超がこの時代に来た理由となっている鉄人兵団のような件もある。

 エヴァンジェリンと同じく、保険はあるにこしたことはない。


「そう。わかたネ。でも、エヴァンジェリンに悪いヨ。せかくの二人きりの旅行二」

「俺とじゃなくてネギ達とだから。わざわざ顔赤らめる演技とかいらねーから」

 つかエヴァが行く事はまだ言ってないヨ。
 いや、わかりきってる事なんだろうけど。

「知てるヨ」
 からりと笑顔でいわれたヨ。

「つかそのからかいはあとで俺がエヴァにボコられるから勘弁」
 確かに一緒に行こうと誘ってはいるのだが。

「知てるヨ」
 同じ言葉を同じ笑顔で二度言われましたヨ。

「まあいいや。一緒にゴーOK?」

「OKネ。彼女達の旅にご一緒させてもらうヨ」

「それはありがとさん」

「そもそも貴方の頼み、断れるわけがナイ」


 助かるよ。



 今回起きるだろうイベントは俺とエヴァがどうにかするだろうから、そっちは頼んだよ。
 たぶん、なにもないだろうけど。



「……ふん。私がいれば、なんの問題もない。だから、来なくても問題ないぞ」
 アイスも食べ終わり、熱も冷まし一息ついたエヴァが会話に加わってきた。

「うん。それは信用してる。でも、お前は俺と一緒に来るからさ。ネギの方に保険をってやつ」

「まったくお前は。過保護もいいところだ」

「その分お前が厳しく鍛えているからバランスとれているさ。ところで別荘では今なにしてる?」

「今神楽坂明日菜のアホが部長試験を受けている。下手すれば死ぬな」

「そっか。じゃんじゃん厳しくしてやってくれ。頼んだぞ」

「なにも言わないのか」
「言わなくてもわかるからな」

「……ふん」
(そこまで私を、そしてあいつらを信頼しているという事か。嬉しい事を言ってくれる)



 ……このせいかどうかはわからないが、雪山で七日間生き残るのが本来の部長試練であったが、生き残る+雪山の獣。雪だるまっぽい魔法生物に襲撃されるというサプライズがプラスされてしまったりした。
 が、明日菜はそれでも、アホがアホのままそれを乗り切った。




───エヴァンジェリン───




 部長試験初日。雪山で吼える明日菜を、コピーの知覚から認識するエヴァンジェリンは思う。


 すべての過去を置き去りにして手に入れた平穏と幸福。
 魔法世界へ行けば、お前は、それを手放す事になるかもしれんぞ?


 ……昔の私ならば、そんなお前を見て、嫌悪感を催しただろうな。


 だが、今の私は知ってしまった。すべての過去を受け入れたまま、未来も手に入れられると……



 闇の中にも、必ず光がさしこんでくると……



 ならばお前は、アホのまますべてを乗り切り、その過去を、すべてを受け入れ、未来を手に入れろ。
 ネギと共に。
 仲間と共に。


 ……ふん。私もずいぶんと丸くなったものだ。


 こうなったら、ネギともども私(コピー)が直々に鍛えてあげてやる!



 とりあえず、修行中の服は常にゴスロリ服だな!!




──────




 当初の目的であった昼食を食べつつ、ふと思った事を超に質問した。


「ところで、君はこれからの事、知っているのか?」
 この世界、鉄人兵団なんてものがやってきていたりするから、俺の知識がそのまままるっきり使えるとは限らない。ならば、この世界の未来と情報をすりあわせ、別のなにかが起きる可能性を洗い出してみようと思った。


 が……


「知ているネ。でも、それは誰にも言わないヨ。知ているからこそ、判断を誤る事があるカラ」

 ふっと過去を思い出すように、沈んだ声が耳に届いた。


 あー、しもうた。そういえば超はそれで俺が死ぬ隙を作ってたんやった。
 いやな事思い出させてすまん。


 ホントにすまん。


「ごめん」
 悪いと思うので、ちゃんと声に出して謝ります。


「ふふ。すまないと思うなら、未来に帰た私を嫁にすれば許すネ」


 ……今日はこのネタ多いな。何度目だプロポーズ。


「残念ながら不老化する予定はないので、エヴァンジェリンと二人で幸せに暮らして死ぬよ。子孫に期待しなさい」
「わかたアル。予約するヨ」
 スパッと即答された。


「……マジなの?」
 てっきりさっきまでやってた冗談だと思ってたよ。


「1割冗談ネ」

「ほぼ本気じゃん」
「ワタシ火星人アルから」
「火星関係ないと思うヨ」
「火星人ウソつかない」
「それならしかたがない」


 うんうん納得。


「……納得、するのか?」
 つっこみいれてくれたのは横で聞いてたエヴァンジェリン。

「まあいいじゃないか。未来の子供達の嫁ぎ先が決まったわけだし」
「その時代のそれが男ならな。女の可能性もありえるぞ?」


「「あー」」
 俺と超二人が思わず声を上げてしまった。


「まあ、それはそれだ。たくさん残しとけばいい」
「……お前」
 にっこり微笑んだら、少し赤くなってふてくされたように、嫁が俺の視線から逃げるよう顔を背けた。

「なら安心ネ」


「ただあともう一つあったわ。君が俺とエヴァの子孫として生まれている可能性もあったわ」

「……あ」

 彼女も、この可能性に気づいたようだ。


 ドラえもん原作一番最初にこういう話がある。
 ドラえもんは主人公であるのび太の結婚相手を変えるために過去へとつかわされた。
 だが、それでは送り込んだのび太の子孫は消えてしまうのではないか? と当然の疑問があがる。
 それにのび太の子孫は、のび太が将来どんな人と結婚しても、結局自分は生まれてくるのだと答えた。
 この理論を採用するなら、ネギの子孫である超という存在は必ず生まれてはくる。だが、鉄人兵団撃退で未来が変わった今、俺とエヴァの子孫がネギの子孫と結婚して、超が生まれるという可能性も十分ありえるのだ。


「それは盲点だたネ。まいたヨ」
「その時は諦めな」

「大丈夫ヨ。その時はまた過去を変えればイイ!」
「わーお。そいつは盲点。やるね!」


「「はははははは」」


「お前達は本当になにがしたいのだ」
 エヴァがあきれていた。

「ちょっとしたジョークじゃん」
「またくネ」


 そもそも超が帰ったところで、そこが俺達が変えた、俺達の子供が居る未来とは限らないんだから。


「というかそのネタはもう食傷気味だ。いい加減にしろ」

「はーい」
 おこらりちった。


「私は自分の子孫をあんな小娘の子孫にやる気はないからな」

「……お前もしっかり乗ってんじゃん」

「……」

 そっぽむいてテーブルをこつこつ叩いてごまかしてやがる。


「まあ一応言っておくと、子孫の自由意志にお任せするから、本当に興味があったら探して惚れさせてみておくれ」
「わかたヨ」
 許婚というモノにも少し憧れるが、さすがに100年は遠いので約束は出来ないな。
 いや、道具を使っておけば約束強制出来るけど、さすがにそこまでしても。ねぇ? そもそも以下略だし。


「……あ」
 エヴァのこつこつがとまった。

「そうだ超鈴音」

「ム?」

「ネギま部(仮)の事は聞いていたはずだな?」
「ああ。聞いてるヨ」
 俺がさっき確認してたしネ!

「なら話が早い。そうだな。バッジでも作るから、その手伝いをしろ」

「バッジ?」
 なにそれ? と超が疑問をあげる。

「あー」
 思わず納得の声を上げてしまった俺。
 そーいや用意してたね。ネギま部(仮)あらため、『白き翼』のバッジ。つかこんな早くから作ろうと考えていたんかい。
 もーエヴァちゃんてば友達思いなんだからー。


「ぶべっ」

 なんて考えていたら。後頭部をはたかれた。


「な、なぜわかったし……」
「にやにやするな」
 してないし。微笑ましい目でエヴァを見ただけだし。

「にやにや」
 机に突っ伏しながら言葉で答えます。



 後頭部から煙をふいて意識を飛ばす事になりましたとさ……



 今日は、エヴァの事いじりすぎたようだヨ……


 目を覚ますとバッジの件の話は終わったようでした。




──────




「あら、偶然ですね」


 超包子を出たら、ちづるさんウィズ黒服達。じゃなくてちづるさん+あやかお嬢様と黒服執事軍団がいた。


「どこが偶然だ」
 エヴァがつっこみした。

 まあ、明らかに待ってた感じだものね。


「偶然ですよ~」
「あくまでそう言うつもりか」

「偶然ですから」
 にっこり微笑んでます。


「いくぞ」
 エヴァに左手を引かれた。


「はい。また偶然お会いしましたらよろしくお願いします」


 俺達の歩みが止まった。

 いかん。これは行く先々に『偶然』出現するパターンじゃないか?


「ですから、どうです? ここはみんなで一緒に遊びませんか? 偶然一緒になった事ですし」

 エヴァが手を取る反対側。
 俺の右腕に、彼女は腕を絡ませてきた。

 なんと流れるような自然な動作。
 そこに自分がいるのは自然であるかのように。

 とめる事すら出来なかった!



 そしてエヴァにつかまれた左手が砕けんばかりに痛いぃ。



「ちづるさん。うれしいけど、それはダメです」

「はい」

「例えエヴァとお付き合いしても、あの約束はたがえる事は出来ません」
 なのでその手は離してください。


「そうですね。でも、先ほどから見ていましたけど、節度あるお付き合い、ちょっと逸脱していますよね」


「……」
 冷や汗が出てきた。


 ちづるさんと約束した事の全容は、高校を卒業するまで彼女に指一本も触れず、友人として節度あるおつきあいをするという事だ(返事はその時まで保留)
 卒業前に恋人になってはいけないという条件はなく、あくまで、節度あるという事なのだ。

 ……抱きしめるというのは節度あるお付き合い的にはセーフじゃないかな? うん。
 あれはどちらかというとコント的な色合いが強いと思うし。うん。
 あーんとか出来ないとわかってやってるから。あれネタだから。うん。


 だから無問題!



 ……



 ……すんません。彼女出来て調子乗ってました。
 確かに大人の意味で手は出さないとはいえ、少しハメ外していたみたいです。


 だから、笑いながらハンターみたいな雰囲気出すの止めてください。ちょっと怒ってますかー!?



 ……って。



「というか見てたって言った! 見てたって白状しちゃってますよ!」

「あらあら」


 どちらも追求すると色々まずいので、ここでこの話題は明後日の方向へと飛ばす事が視線で決議されました。



「というわけですから」

「はい?」

「ご一緒させていただきます」
 にっこり。


「え? なんで?」
 脈絡なくない?


「だって言ったじゃありませんか。次に会ったら逃がさない。って」


「……え?」

「言いましたよね? 私」


 リフレイン。


『「わかった。強敵のようだから、今日のところは撤退させてもらうよ」』
『「はい。次は逃がしません」』

『次は逃がしません』

 逃がしません。ません。せん。せん。せん。


 言ってたー!!



 大魔王が現れた!



 勇者は逃げ出した!
 しかし腕を捕まれまわりこまれた!

 勇者は逃げ出した!
 しかしまわりこまれた!

 勇者は逃げ出したい!!
 まわりこまれる以前に足がすくんで動けない!


 ……しっているかい?
 大魔王からは逃げられないんだぜ。


 右手に年不相応に成長した少女。
 左手に年不相応に成長してない少女。


 ただしどっちも美少女。
 正に両手に華!


 すげぇな俺。人生のモテキってやつだ!


 どちらも素敵なトゲを持っているけれど。
 即死級の毒もってるかもしれないけど!



 あのー、あやかお嬢様?

 なんでハンカチもって涙拭いて見送ってくれてますの?
 まるで船出のような雰囲気出さないでくださいまし。

 遺影を掲げないでくださいまし。いえーい。



 その後の記憶はあいまいだ。




 かゆ、うま……




──────




 かぽーん。


 おっす。オラ生きてっぞ。

 調子に乗ってエヴァをいじり倒していたら、いつの間にか大魔王と闇の福音が現れて寿命が何年か縮んだ気がするけど。



 ──自業自得です。※天の声



 大丈夫。清い体は死守してるから。服とか選んでもらって、ちょっと気の使いすぎで寿命が縮んだだけだから。
 これからきっと自重するから。たぶん。きっと。
 ……自信ないけど。


 みんな、約束は、守らないとだめだよ……



 かぽーん(それはさておき的な音)



 さて、と。
 再び深夜の大浴場です。


 なんだか知らないけど、また学園長に呼び出されました。

 昨日と同じくタオル一枚(スペアポケット付)で湯船にぷかぷかしてます。


 今度はなんの話じゃろ? 二度も王子の話をするような事ないと思うんじゃけど。
 それとも他の事かな。

 それは現れた学園長に聞けばいいや。

 今は、この広い風呂を独り占めしよう。
 この密会のいいところは、このひろーい風呂を独り占め出来る事だね。

 のちじじいと二人風呂になるのはアレだけど。



 ちゃぷん。



 背後で誰かが湯船に入った音が聞こえる。

「あ、こんばん……」
 体を起こし振り返った俺は、そのまま固まった。



 しっとりと湿気に濡れ、艶やかさの増えた綺麗な金髪。
 真っ白い、まるで真っ白な陶磁器を思わせる端正な肌。
 まだまだ未熟なラインではあるが、小さく膨らんだ……


「……なぜに、お前が?」

 そこには、俺を見ていたずらが成功したとでも言いたげに笑う、エヴァンジェリンが居た。


「ふっ、じじいの代理だ」

「代理ってお前……」


 どう考えても代理じゃなくてお前が仕組んだ事だろう。
 なんだお前。学園長とお風呂入ったから嫉妬でもしたのか?
 そんなに俺と、お風呂入りたかったのか?


 そうしながら、ゆっくりと不自然じゃないように視線を外し、体をさらに半回転させ、エヴァに背を向ける。


 にやりと、俺を笑うエヴァンジェリンが背後にいるのを感じた。


「どうした? 私の体、もう見なくていいのか? 昔は興味がないと言って平気だったくせに、どんな心境の変化だ?」

「ぐっ……」


 気づかれた。


 やばい。完全にペースを握られた。
 こうなると形成の逆転が難しい。


「いいから水着を着ろ。もしくはタオルで隠せ。俺に肌を見せるな。白い肌にさしたその頬の赤や濡れて艶っぽくなったその表情もダメだ」

「昔は平気だっただろう?」

 にやにやした声が聞こえる。
 出会ってすぐの頃橋の上で裸にマントのエヴァを逆さ吊りにした時の事か。


 あの時とは違うんだよちくしょうがー。


「ああ。今だって凹凸のない身体には興味はねぇよ」

「ならばなんの問題もあるまい」


 ざぶざぶと近づいてきているのがわかる。まずい。
 それ以上近づかれるのはまずい。理性がまずい。本能がまずい。


「でもな、お前は別なんだよ。凹凸があるないに関わらず、お前ならいけちまうから問題なんだよ。好きになった人を愛したいのはある意味本能なんだよ」


 テンパってきている俺は、そのまま本音をぶちまけてしまった。


「はっきり言えばお前にだけしか今欲情しないんだよ。俺にしてみると、お前が今一番魅力的なんだよ。正直いつでも押し倒したいくらいだよ」


 言葉として意識すると、やはり恥ずかしい。
 自身の頬が赤くなっているのを自覚する。

 だが、言ってしまったのだ。ならば、最後まで突っ走るしかない!


「でも、お前を抱くのは結婚式の後って決めているんだ。この手を出さないという宣言だけは、守るって決めているんだ。だから、卒業まで手を出さないという約束だけは、守らせろ」


 真の本音。今日みたいな事&ソレを破って弱みを……は嫌だというのはナイショだ。


「なっ……」
 背後で、エヴァが立ち止まったのがわかる。


 ふぅ。なんとか形勢をイーブンにする事が出来たか……


「意味がわかったんなら俺にその姿を見せるな。新婚初夜味わいたければ動くな。見せたら襲うぞ。イイって言ったら我慢するぞ再起不能になっちゃうぞ」
 主に俺のぞうさんが。



 ちゃぷん。

 お湯が揺れる音が感じられる。



 そして、背中に現れる。やわらかい圧力。
 幸いなのは、それは彼女の背中である事がわかった事。


「この場なら簡単にお前から一生優位に立てる弱みを手に入れられるかもしれないが、今は許してやる。私の優しさにむせび泣くがいい」

「はっ、ここで俺を見逃した事を、あとで大いに満足させてやる。結婚初夜。覚えとけ」
「ふっ、期待せずに待っていよう」

「はは」
「ふふふふふ」


 風呂に俺達の笑い声がこだまする。



 背と背はあわせたままだが、その手と手は、湯船の底でしっかり重ねられていました。




───エヴァンジェリン───




 やはり、最大の敵は那波千鶴に間違いない。


 性格もかくや、あの圧倒的な肉体は、脅威だ。
 あと数年もすれば私も成長し、その差もなくなるだろうが、今は違う。


 比べるまでもなく、素の私では、勝ち目はない。


 なにより、この世には既成事実というモノがある。
 あいつは変なところにこだわりを持つから、私に対しては結婚するまで本当になにもしてこないだろう。
 凹凸のない体には興味はないとはっきり宣言もしていたしな。


 だが、女は違う。


 その愛を手に入れるのなら、己の体すら武器にするのもいとわない生き物だ。

 いかに鋼の理性を持つ彼でも無敵ではない。
 人間であるから、罠にはめられ、なにか間違いを犯させられても不思議はない。


 そうなれば、彼は『責任』をとる事もいとわないだろう。そういう男だ。


 あの娘は、彼を手に入れるために、そのくらいやってきてもおかしくない雰囲気がある。
 恋は女を強くするというが、その通りとしか言いようがないな。


 本当に恐ろしい娘だ。


 本当に14、5なのか? 実ははた……いや、なんか背筋が凍った。そこはスルーしよう。



 ともかく危険な娘が一人居るのは間違いない!



 ならば先手を打つ!



 という事で、少しじじいの名を騙らせてもらった。
 約束に律儀というのは美点でもあるが、欠点でもあるな。


 計画としてはこうだ。子供の姿を見せ、そこから大人の体へと魔法で変化。そのギャップを使い、誘惑する!
 結婚式後の……という甘い夢が失われるのが痛いが、彼そのものを失う事よりはましだ!


 大人の私の魅惑のボディならば、風呂という特殊な状況とあいまって魅力倍増!
 子供からのギャップで倍、さらにお風呂で2倍の3倍の回転までかけて魅力は1200万パワーだ!


 ふふ、完璧。完璧だな!



 だが、実行しようと湯船におもむいて私は、混乱する事になった。
 彼が、素の私の体を見て、動揺したのだ。


 子供の体など、鼻で笑われると思っていた。


 だって、昔はそうだったではないか。


「いいから水着を着ろ。もしくはタオルで隠せ。俺に肌を見せるな。白い肌にさしたその頬の赤や濡れて艶っぽくなったその表情もダメだ」

 私に背を向けた彼は、その耳までも真っ赤だ。


「昔は平気だっただろう?」
 動揺を抑え、平静を装い、声をかける。
 だが少し声に嬉しさがにじんでいる気がする。


 冷静に、冷静にだ。


「でもな、お前は別なんだよ。凹凸があるないに関わらず、お前ならいけちまうから問題なんだよ。好きになった人を愛したいのはある意味本能なんだよ」


 だが、予想を超えた答えが、帰ってきた。


「はっきり言えばお前にだけしか今欲情しないんだよ。俺にしてみると、お前が今一番魅力的なんだよ。正直いつでも押し倒したいくらいだよ」


 思わず、進む足が止まる。


「でも、お前を抱くのは結婚式の後って決めているんだ。この手を出さないという宣言だけは、守るって決めているんだ。だから、卒業まで手を出さないという約束だけは、守らせろ」


 ……あなたは、私の不安を、いつもかき消してくれる。


 う、うれしい……

 こんなにもはっきりと私を求められたのは、初めての経験だ。


 吸血鬼としての力でもなく、闇の魔法使いである私でもない。
 魔法で姿を変えた大人の私でもない。


 彼は、エヴァンジェリンとしての私をすべて愛してくれているのだ。
 ありのままの、私を。



 それが、はっきりとわかったから。



 私が一番。か。


 そうだ。なにを不安になっていたんだ。
 彼はいつでも私を選んでくれたではないか。

 いつでも、堂々と、臆する事もなく。
 私だけを選んでくれたじゃないか。


 それを、信じなくてどうする。


 彼ならば、やってくれるはずだ。
 どんな罠にかかろうとも、どんなに間違いを犯させようとされても。

 なにせ彼は、私を闇から救い上げてくれた。死すら乗り越えて、助けに来てくれた、不可能を可能にする男なのだから。


「意味がわかったんなら俺にその姿を見せるな。新婚初夜味わいたければ動くな。見せたら襲うぞ。イイって言ったら我慢するぞ再起不能になっちゃうぞ」

 そうだな。お前は本当にやってしまいそうで怖いよ。
 再起不能。それは、本当に困る。



 だから……



 無言で、彼の背中にあわせて、体を湯に沈めた。
 その背に、自分の背中を預ける。


 ……広いな。まだまだ少年の体だが、やはり男の体だ。
 小さな私の背中など、簡単に支えてくれる。


 安心する。



「この場なら簡単にお前から一生優位に立てる弱みを手に入れられるかもしれないが、今は許してやる。私の優しさにむせび泣くがいい」

「はっ、ここで俺を見逃した事を、あとで大いに満足させてやる。結婚初夜。覚えとけ」
「ふっ、期待せずに待っていよう」

「はは」
「ふふふふふ」


 私達二人の笑い声が、この広い大浴場にこだました。



 背と背はあわせたまま、私は湯船の底にある彼の手に、自分の手を重ねさせてもらった。






─あとがき─

 爆発しろおおぉぉぉぉ!!!
 はい、皆さんもご一緒に。

 爆発しろおぉぉぉぉぉぉ!!!

 皆さんのおうちの壁は大丈夫ですか? おじさんの家は平気です。もう壁ないから!


 次は夏祭り。
 バッジの争奪戦です。


 しかし千鶴さん。ルート上かませなのに全然そんな雰囲気ない。おそろしい子!



[6617] ネギえもん ─第24話─ エヴァルート12
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/03/10 21:31
初出 2012/03/10 以後修正

─第24話─




 夏祭りのバッジ争奪戦のお話。




──────




 今日はお祭りの日である。


 当然の事ながらエヴァンジェリンと一緒に行く予定なのだが、なんと今日は待ち合わせなのだ。

 一緒に行けばいいのに。なんて思われるかもしれないが、たまには待ち合わせをするのも新鮮だという事で、そういう段取りになったのだ。


 なによりこれはきっとアレだな。
 浴衣を着てくるフラグに違いない!

 テンションあがってきた!


 ひゃっほー。
 祭りじゃ祭りじゃー。



 というわけで、待ち合わせの時間に間に合うよう出発。

 道中学園に残るクラスメイトなんかと軽く挨拶をしながら、会場へ向かいます。
 ちなみに、俺と同室のエヴァ擬態。『エド・マグダエル』は夏休み中実家に帰省している事になっている。
 だから俺の部屋にエヴァが来ている時突然の来訪者が怖いものだが、鍵開けっ放しのハプニングとかは今のところないので安心だ(実は部屋に人を入れさせないエヴァの策略)


 せっかくなので天の声で補足しておくが、クラスにおいて彼の置かれた状況は、また複雑化している。
 麻帆良祭後、エヴァンジェリンとお付き合いをはじめたが、学校ではエドと仲良く話す姿が多く見られ、放課後には一緒に帰る姿多数。だが、学校以外で出歩く時はエヴァンジェリンと一緒。
 なのでクラスメイトから見ると、エド←彼→エヴァと、学校ではエド。放課後はエヴァと、二足のわらじをはいているように見えるのだ。
 クラスメイトからすると、どっちが本命なの? それともどっちもなの? ロリコンをカムフラージュするのがエドなの? エドをカムフラージュするためのエヴァなの? と、憶測は絶えない。
 どっちも本命なわけだが、当然クラスメイトは知らないのでどうしようもない。
 ちなみに憶測の本命はなぜかエド。この時期学生は学校で一緒に過ごす時間が一番多いのが理由だ。だが夏休みになって故郷へ帰っているとなっているので憶測する人はまた混乱しているようであるがどうでもいい。

 ただ、幸いなのはエドとエヴァ以外に興味はないとみなされ、他には無害であると認識されているところである。
 なので、一番初期のようなよそよそしさはなく、むしろ面白がられているのが現状であった。
 今クラスメイト達の興味は、どっちが本命であるか。食券一日分から受け付けるよー。


 なんだろう。

 待ち合わせだと!? やはり本命はそっちか! 食券キター! とか。
 なぜだ! なぜ帰ったままだ! エドはやっぱり諦めたのかー! とか。
 僕と一緒に……あ、待ち合わせがそうですか。なんでもありません。とか。
 一緒に行けない? デートだと、爆発しろ! とかクラスメイトに散々な言われようした。

 お前達、俺をダシにしてなにか遊んでいるだろう。仲間はずれいくない!
 でも真相はあんまり聞きたくない。不思議!


 ……まあいいや。



 そんなわけで、やってまいりました祭り会場。
 ちなみに俺は浴衣は着ていない。

 着付けは出来ないし、持ってないし。
 その気になれば『着せ替えカメラ』で着れるけど、そこまでする必要も感じないのでそのままです。


 むしろエヴァの浴衣をカメラと脳内に焼き付けるのに集中するため着慣れた服の方がいいくらいだ!
 だっ!(無駄にテンション高い)



 ……にしても、ここ、無駄に広いよなー。
 縁日ひとつとってもなんだこの規模。日本何大祭りとかに名前を連ねてもいいくらいの規模あるよ。

 なのにこれはただの夏祭りなのだから。恐ろしいものだね。



「ヤ、待てたネ」
「こんばんは」

「おや」
 夏祭り会場入り口に居たのは最近ニューボディにバージョンアップした茶々丸さんと超の二人。
 二人とも浴衣だ。


「二人とも浴衣似合うね。茶々丸さんの方はニューボディだから新鮮だ」

「いいのかネそんな事言テ」
「社交辞令ってヤツだから大丈夫だよ」

「デハ愛情表現と受けとておくヨ」
「曲解したよね。わざと曲解してるよね」

「はてサテ」
 せっかく褒めたったのに。もうちょっと赤面とかしなさいよ。
 エヴァなら人前だと真っ赤になるんだぞ! 可愛げないぞ火星人!


「まあいいや。んで、待ってたとは? 残念ながら屋台飯はおごらないぞ」

「ソレは違うネ。むしろウチで屋台出してるから食べに来てヨ」

「へいへい」
 超包子屋台か。新作でもあるのなら食べに行こうか。

「宣伝も終えたシ。茶々丸」
「はい。こちらを」

 と、茶々丸さんが取り出したのは、『白き翼』のバッジ。

「あー。そういえばそっか」
「特別部員でも、持っていた方が便利だとマスターがおっしゃていましたから」


 そういや前にエヴァが超と話していたっけね。特別枠である俺の分も用意してくれたってわけか。



 今日の昼間。
 ネギま(仮)部は学園長の認可を得て、正式な部活になったのです。
 部活の建前上の名前は英国文化研究倶楽部。部内では『白き翼』と名称もかわりました。

 その認可記念として、部活の面々が一同に会してえいえいおーをやったのだ。

 ただし場所は女子寮の屋上で。
 入るの苦労した……といっても『どこでもドア』で一発だったけど。
 正確には見つからないようにするのに苦労した。か。

 部員構成はいわゆる原作メンバーに欠けはなく、そこにプラス超と俺がいる構成になっていた。

 ……千雨の嬢ちゃん、学園祭三日目大変じゃなかったのに、結局巻きこまれてました。


 ちなみに学園祭三日目は千雨は超を残らせるために努力をし、ネギの背景を知ってしまったが、ネギと仮契約にまではいたっていない。



 そしてそこでエヴァンジェリンと夏祭りに行く約束をして、今に至るというわけである。



「いい出来だなこれ」
 つまんで持ち上げて、光にかざしてみる。

 素材もよくて、きらきらして。
 あいつのこもった愛情が見えるようだ。これをメンバー分とは、恐れ入る。


「ただ……」
「ただ?」

 思わず俺の口から漏れた言葉を、茶々丸さんが拾った。


「ん? ああ。せっかくだから、エヴァンジェリン本人からもらいたかったかな。なんて」
 あいつが作ったものだから。そんな事を思ってしまったのだ。

「さすがにロマンチストネ」
「伊達にあいつの王子様やってないからな」

「マスターは大変恥ずかしがり屋ですので」

「納得」

「それと、貴方への初プレゼントはもっと特別なものがよいと考えておいでのはずです」

「……」
 そ、そんな乙女チックな事……考えていて……いてくれていても不思議はない。かもしれないなぁ。
 意外とあいつ、オンナノコだから。

「でも最初のプレゼントは俺の中だと人間になったエヴァの笑顔だから、もうもらったと言えばもらったぞ」
 むしろ人間のエヴァンジェリンという最高のプレゼントをもらったとも言える!

「それではマスターの気がすみません。マスターが貴方に直接与えていませんから」

「あー」
 確かに、それは俺が勝手に感じた事で、言ってもいない事だしなぁ。
 俺の誕生日プレゼントで人間に戻すとは言ったけど。

「じゃあ期待していようかね。超君もご苦労様」

「ふふ。問題ないネ。ついでだから、アナタにはこのバッジの機能を説明しておくヨ」
 彼女が取り出すのは、自分に割り当てられたバッジ。

「俺にはって、他の子には?」

「まだしてないヨ。祭りの時間を奪てはいけないカラネ」

「俺はいいんかい」
 そりゃ待ち合わせには余裕を持って出てきているから平気だけど。

「では説明するネ」
「無視かい」

「まず機能その1」
 ホントに無視しやがった。まあ、無駄にコントして引き伸ばされても本末転倒だしな。

「ここを押すと、大きくなるネ」
「おお。一気に掌サイズに」

「使い道は自分で考えてくださいヨ」
「なんのための機能だよ」

「……文鎮?」
「バッジなのに!?」

「機能その2!」
「でっかくなる凄さとか説明せずに進むのか!」

「大きくして相手にぶつけると痛イ」
「大きくなったメリットをその2で語られても! しかも投げる必要性を感じない!」

「機能その3!」
「しかもそのまま3に移行したよ!」

「水に浮くヨ!」
「もう機能以前の問題な気がする」

「さらにその4!」
「まだあるのかよ」

「このバッジの機能は108式まであるヨ」
「そいつはすげぇ。よーし。俺がそれすぐ作り変えてやる。お前の頭出せ」

「この機能108個スベテエヴァンジェリンが考えたのニ?」
「うそつけ。あいつがこんな無駄な機能ふんだんにつけるかよ」

「さすがネ」
「むしろエヴァがつけたのだけ教えてくれ」

「そこだけ聞いてくるとは、さすが歪みないネ」
「当然なのだから教えなさい」

「説明する事なくなたヨ」
「ないのかよ!」

 超無駄な機能つけたの超だけかよ!
 てか他の子にこの機能説明してなくて正解だよ!

「くっ、エヴァンジェリンの声で愛してるとかささやいてくれる機能入ってないのかよ……」
「ワタシの声でならあるヨ」

「それはいらないネ」
「頭出すいいヨ」


「一瞬にして形勢が逆転しました。さすがです」
 茶々丸さんが冷静に分析してくれてます。


「あと、おまけ機能があるヨ」
「一応聞いてやる」

「バッジ同士、近くにいれば通信が可能ネ」
「一番使える機能がおまけだった!」

「おまけなので距離は100メートル程度ヨ」
「まあ、確かにおまけっぽい距離ではあるな。つかおもちゃかよ」

「あんまり広いと面白くないネ」
「確かにこれ使えば缶ケリとか楽しそうだな」

「遊びの幅が広がるヨ!」
「夢が広がるな! さすが科学!」
「すごいネ科学!」

「「はい!」」
 超と俺で二人でポーズを決めた。

 茶々丸さんが拍手をしてくれた。


 周囲は俺達を変な人を見る目で見ている。
 そりゃそうだ。


「……むなしい」
「科学には犠牲がつきものヨ」

 この犠牲科学と関係ないよね。全然関係ないよね。ただのノリだよね。

「ノリノリだたネ」
「ノリノリだね。時間無駄にしたよ」

「計算どおりヨ」
「君実は俺の事嫌いだろ!」

「アナタがエヴァンジェリンをいじるのと同じような感覚ネ」
「なら許す!」

「許されたネ!」
 ぱぱーっと超両手を掲げる。

「……いけません。ここにつっこみがいません」
 茶々丸さんが世紀の大発見をした。


「ちなみにここをこう操作すると、空中に地図が出て周囲にあるバッジの位置を示してくれるネ」
 いわゆる立体映像がバッジから飛び出してきた。

「機能説明されてないのが一番便利だよー!」
 地図が広がり、世界地図から拡大され、この周辺の地図に変わる。

 地図にはバッジの反応がいくつか見える。


「これは便利だな」

「ただし一つ欠点ガ」

「使うと自爆でもするの?」

「イヤ、あっちの地図入ていないから、あっちじゃ役に立たないヨ」
 あっちとは魔法世界の事だろう。
「意味ねぇな」

「まあ、あっちに行て地図を手に入れ次第バージョンアップするネ」
「ダウンロードが出来れば、私も手当たり次第に」

「そうしておくれ」


 一応補足しておくけど、原作どおり茶々丸さんにもバッジの場所を探す機能もついているそうだよ。


「それと、英国行きまでにそのバッジをなくされた場合、強制退部となります」

「ああー」
 そういえばそんな名目での奪い合いがこの夏祭りであったっけねぇ。思い出した思い出した。

「貴方には直接関係はありませんが、お気をつけください」

「だね」


 俺の場合は元々ネギとは別件で行くので、なくなったからといってイギリス旅行にいけなくなるわけではないからな。
 なので、この時万全をきしてバッジを『ポケット』にしまってしまえばよかたのだが、そうはしなかった。

 シャツの襟にぽちっとつけたまま、祭囃子の鳴る会場へと足を踏み入れてしまったのである。




──────




 超、茶々丸さんから別れてすぐ。
 並んだ屋台を見ながら歩いていた時だった。


 おっ。


 祭りらしいチープなおもちゃが並んだ屋台。
 そこに並んだあるものが目にとまった。

「おっちゃん。これくださいな」
 その中にあるそれを指差す。

「そいつは百円だよ」
「はいよ」
「まいど。ぼうず、そんなの買ってどうするんだい? まさかプレゼントでもするんかい?」
「そりゃもう」


 にへっと笑った。


「こんなものをねぇ。ま、がんばんなよ」

「がんばります」

 品物を受け取り、再び待ち合わせの場所を目指し歩き出す。

 おっちゃんにはわからんかったかー。まあ、わかんねーか。
 俺がやっておこうと思った単なる自己満足だしな。


 あいつは気に入ってくれるといいな。




──────




 さらに歩を進めると、なにやら3-Aクラスメイトと会議のようなものをしているあやかお嬢さんを見つけた。

 なーんにも深く考えてなかった俺は、これまた深く考えずに声をかけてしまう。


「よ」


「あら、今日はお一人ですのね」

「今日は待ち合わせの醍醐味を味わう日らしい」

「ああ。そういう事ですか」


 どうやら納得してくれたようだ。


 そして、俺の襟首を見て。

「あー!」
 指差した。


「ん?」


「なぜ、貴方までバッジを!」
「そりゃ、エヴァンジェリンがくれたから」

「お譲りしてくださいまし!」
 ずずいっと詰め寄られた。

「ダメ。部員全員にだけど、エヴァがわざわざ作ってくれたものなんだから」


 そんな物を俺が他人にあげるだろうか? いや、ない!


「相変わらず清々しいまでのバカッポーですわね」

「ははっ。褒めるな褒めるな」


 そういうわけだから、これはやれん!
 ついでについていくのになにも知らない子を追加は出来ん!

 ネギがおこじょにされ……あれって今どうなってんだ?


「ぐぬぬ」

「いいんちょいいんちょ大変!」
「なんですの桜子さん!」
 ちなみに桜子とは3-A(ネギクラス)所属のチアリーディング部でギャンブルにめっぽう強いラッキーガールの事。

「この人、特別枠って書いてあるよ!」
 桜子の手にあるのは英国文化研究倶楽部ことネギま(仮)部こと『白き翼』の仮メンバー表。

 そんなん持ってたんか。


 その瞬間、あやかに、電撃走る。

 ぎぎぎぎっと壊れたロボットのような動きで、俺を見る。


「と……」

「と?」



「特別ぅ!!?」



 ……嫌な予感がした。
 ネギの部活で特別という特別な単語。
 そこから彼女はなにを連想するのだろう……?


「ネギ先生のとくべっ! とくべ……とく。とととととべつー! そんなネギ先生。だめですわー!」


 ぼーんと頭が爆発したようにも見えた……
 かくん。頭をたれ、肩を落とす。


「「「……」」」
 この場に居る俺も含めて、黒服執事さんにさっきの桜子さん他もろもろクラスメイトが沈黙する。


 ぐりん。
 頭が勢いよく回転し、彼女が俺の方を見た。


 びくっ。
 思わずびっくりした。


 その目が、俺を捕える。
 それは、目の周囲を闇が覆い、目の部分だけ真っ赤に染まっているようなに見えた。



 一番わかりやすく例えるのは、そう、暴走。



「バッジ、モラウ。トクベツ、ナルデスワ!」

 そしてそのまま、あやかお嬢が俺に突撃してきた。


「やっぱりー!」

 い、いかん。お嬢さん完全にバーサークした!
 これとってっても特別枠とは関係ありませんよー!



 やばい、舐めてた。
 俺にしてみれば、退部なんてたいした意味もないから気にもしていなかったが、このバッジは彼女からしてみれば、『殺してでも奪い取りたい』一品だった!

 あいすそーど!


 速攻で背を向け、来た道を逃げ出す。
 大丈夫だ。ここは一本道ではない。色々ルートがあるほど広大な祭り。


 人ごみを走って逃げればなんとか……


「オマチナサーイ!」

 はやっ! 浴衣なのに黒服執事さん達より足が速いってどゆこと!?



 バーサーカーが、バーサーカーが来るよー!




───エヴァンジェリン───




 境内前の鳥居にある狛犬像の前。
 そこが、待ち合わせ場所だ。

 待ち合わせをして彼と歩くのは久しぶりだ。
 最近はいつも一緒に居るので、そんな事をする必要がないとも言える。

 だが、今回は違う。
 今日は夏祭りだ。

 15年居た学生生活で、毎年うっとおしいと思っていた祭りだが、今年は違う。
 理由はもういわなくてもわかるだろうから割愛するが。

 わざわざ浴衣を用意して、コピーに着せてどれがいいかなんて悩んだりしていないからな。
 そのための待ち合わせなどではないからな!
 彼が見てどう反応するのか少し怖いなんてないからな!
 そわそわして早く来すぎたなんて事はないからな!


 ……しかし、遅い。


 いや、まだまだ約束の時間まではあるが、遅い。
 彼は約束の時間の前にやってきているタイプの人間である。

 最低でも10分は早く到着しているはずの彼が、今日はまだ来ていない。


 なにかあったのだろうか……?


 ……まさか、あれか?
 今日けしかけた事が一つあるが、いくらなんでも……いや、彼ならありえる。


 そんな事を思っていると、砂煙を上げんばかりの速度で私の方へとやってくる彼の姿を見つけた。


 なんだ。気の回しすぎか。
 そう思い、手を上げ、私の居場所をアピールしようとするが……



「すまんもうちょっと待っててくれ!!」



 そんな言葉と共に、彼は私の前を駆け抜けて行った。
 そして、進む方向と同じ方向へ伸びる、境内から遠くなる道を全力で駆けてゆく。


 その直後、私の前を雪広あやかとそのSPといえる黒服の執事達。さらに遅れ、クラスメイト達が走り抜けていった。



 ……



 事態を理解する。


 バッジ争奪に巻きこまれたのだ。


「……あの、アホ、なにをしている」
 その気になれば逃げるのも簡単だろう。だが相手は一般人。逆に力を使おうとしないのが容易に想像出来た。

 茶々丸が忠告しただろうに、なにをしているんだ……

 だが、バッジの件をクラスメイトに言い出したのは私だ。
 彼が巻きこまれる可能性。というか、彼女達につきあってあげてしまう性分なのを見落としていたのも私だ。


 はあ。


 しかたがないとため息をつき。待ち合わせの時間内に戻ってくるのを待つ事にした。


 助けに行かないのかって? 私の王子様が、ただの小娘達に捕まるはずがないだろう?




 ……例外が一人ほどいるが。




──────




 ひきはなせないー!


 くそっ、こうなったら道具を使うか?

 なんて考えつつ走っていると、進行方向に黒服さん達が現れた。


 しもうた!
 ルートがたくさんあるという事は、まわりこめもするって事じゃないかー!


 ただりんご飴や焼きとうもろこしを持っているのが気になる。
 お面に水風船とか装備しているのが気になる。
 ただサボっていただけだったりしないだろうなー!


 てへっって顔するな。
 きりっと真面目に戻るな!


 しかたがないので直角に曲がって道をはずれ、茂みの方へ突撃。

 さすがにお嬢さん達は追ってこないけど、黒服さん達が追いかけてきます。


「バッジイィィィ。ドコナノデスノォォォォ!」

 ぜんげんてっかい。

 ただし、常に叫んでいるので居場所がわかるのが救いである。


 茂みの中じゃ身体スペックはあまり関係ない。いかに進める道を見極めるかが重要だ!

 そしてそれに関して俺は自信がある!

 黒服さんをまいて、茂みを脱出!



「あら」


 脱出した先には、ちづるさんがいましたの。

 俺を見て、襟元に光るバッジを見つけて、彼女は口を開く。
 どうやら、なにが起きているのか知っているようだ。
 そして、ネギ達だけなら、彼女はわざわざこのバッジ争奪戦に加わらない事を、俺は、知っている。


 だが……


「一つ思うんです。それ手に入れたら、私も一緒に行けますよね」


 にっこり。
 その微笑みは、菩薩であるはずなのに、なぜか俺には死刑の宣告にも見えた。



 脱出失敗!!


「脱出失敗からの脱却!!」


 俺はそのまま来た道を戻る事を選択した。



 イン! 茂み!



 茂みの中には、黒服がうごめく気配がする。


 ちぃぃぃ。

 背に腹は変えられん。
 というか、最初からこうしていればよかった。


 奥の手である『ポケット』に手を入れる。


 今回はわざわざ頭をひねる必要はない。
 言ってしまえばこれは、かくれんぼなのだ。
 なので、そこで取り出すのはこの『道具』。


『石ころ帽子』
 つければ石ころのように誰にも気にもとめてもらえない存在になれる。


 これをつければ見つかる事はない!



 すぽっとヘッドイン!



 ふー。これでひと安心。



 ひとまずエヴァンジェリンと合流するか……




───エヴァンジェリン───




 待ち合わせまでの時間も、あと二分。
 さすがに今回は間に合わんか。


 時間になったら、彼を助けて、小娘達には渇を入れ、彼を追うのは止めさせよう。
 ふふ。彼を助けるような形になるのなら、それはそれでオイシイではないか。


 思わず口元が緩んだその時。


「エヴァ」


「っ!」

 耳元に声が聞こえた。
 よく知る声。
 彼の声。
 だが、聞こえたのは、吐息が聞こえるほどに近い。


 ここまでの接近に自分が気づかなかったとは……


「すまん驚かせた」
 背後にいた彼が、つけていた帽子をポケットにしまいながら言う。

「いや、まさか本気を出して逃げているとはな」

 私に気配を感じさせず私の背後を取る。
 そこまで出来る実力があるのを私は知っている。
 だが、今回そこまでする必要性を感じなかったのも事実だ。


 その疑問に、彼の答えは……


「いや、だって怖かったんだもん」

「怖かったのか」

「ちづるさんがね。それ手に入れたら私も一緒に行けますね。って笑顔で言ったの」


「……」
 それは、本気出すな。うん。


 小娘達の中で、唯一の例外。
 あのネギ達よりも、私が警戒している女。

 あの娘が出てきたのなら、その対応も納得出来る。


「ったく。クラスメイトに機会を与えるのはいいけど、俺は除外しておけよ」
 私の隣へ並び、彼がそう文句を言った。

「私が提示した条件はバッジの入手だからな。そもそも、そのバッジ、懐にしまっておけば狙われもしなかっただろう?」

「いや、あここまでされるとは俺も思ってなかった」

「あほ」

「まったくだ」

「だが、お前もまだ詰めが甘いな」

「え?」


 私は、通りに視線を走らせた。




──────




「だが、お前もまだ詰めが甘いな」


「え?」
 エヴァのそんな言葉を発した時──



「その通りですわ!」



 ──聞いた事のある声が響いてきた。

 ざっとエヴァと俺を囲むように、あやかお嬢さんに黒服さん達にちづるさん。その他エヴァのクラスメイト達がずらっと現れる。


「なっ……」
 囲まれている!?

 なぜ?


「ふふ。簡単な事ですわ。ここにエヴァンジェリンさんが居る! すなわち最終的に貴方がここに来るのは自明の理!」


 ががーん!
 俺に、衝撃が走る!


「なっ、なんてこった。これは盲点だったぜ。がくり……」
 もうあまりのショックで地面に膝を突いて手までついちゃうぜ。

「あほ」


「ふふふ」
 笑う雪広あやか。
 だが実は、この案は彼にまかれ千鶴と合流した時、千鶴の眼力でなだめられた彼女に進言した千鶴の読みであったりするのは秘密である。


「ふっ、だが甘い!」
 がばっと復活。
 本当にそれを、予測していなかったとお思いか?


「なんですって!」
「なぜなら、バッジを持っているのは俺だけではないからー!」


「あっ!」


「え?」
 皆の視線が、俺の指差した先。「え?」と言ったエヴァンジェリンに集まる。
 名誉顧問! 彼女もネギま(仮)部の一員だ!

「馬鹿を言うな。私が今つけているはずなかろう」
「そうそう。俺だってバッジなんてつけてねーよ」
 すかさずエヴァの言葉に同じような言い訳をぶつける。


「なんと白々しい事を!」
 お嬢さんがこの場に居る全員の言葉を代弁する。

「あらあら。そういえば、そちらもありましたね」
 ぎゅぴーんと、ちづるさんの目が光ったように見えたのは、気のせい。うん。気のせい。


「くっ」
 エヴァがうめく。
 そう。あんなエヴァの言葉、誰が信じるというのだ。


「ふふ。持っていない事を証明出来ないもんなー」
 持っている事を証明するならば出せばいいが、持っていない事を持っていると思いこんだ人に証明するのは大変なものだ。

「謀ったな貴様!」
「同じ苦労を味わおうぜ」

 あっはっはと肩をすくめつつ笑う。

「むしろ事態を悪化させただけだと思うが?」
「俺もそう思う」


 少なくとも事態が好転していないのは確かだネ。
 むしろちづるさんが本気になった気もするネ!


「でも、これならお前も俺と一緒に逃げるしかないだろ? 待ち合わせの時間も来た事だし」

「……しかたがないな。策はあるのか?」

「とーぜん。実は予期していたと言ったら驚くか?」

「別に驚かんさ」


 ……ホントは予期はしてなかったと言い出せなくなっちゃったじゃないか。
 いや、予測はしてたけど。


「ならよし!」
 どうせ本気で『道具』を使えば逃げるのなんて簡単だしな!


「皆さんいっせいにかかりなさーい!」
「おー!」
 あやかお嬢さんの号令で、全員が一斉に襲い掛かってくる。


 残念。ここからは本気の本気で逃げさせてもらうよ。
 デートのお時間だ。


 俺はその『道具』を、『ポケット』から取り出し、振りかぶった!


『煙幕ボール』
 ドラえもんズに登場した道具。
 このボールを地面にたたきつけると煙がふき出し煙幕を張る事が出来る。


 地面へシュート!

 どろーんと煙幕が一瞬にして広がる。
 怪盗にでもなった気分である。 
 煙に害はないから安心してな!


「けほっ、煙幕ですって!?」
「んじゃ、あでゅー」

「お待ちなさい!」
「お嬢様、今動いてはなりません!」
 目の見えない混乱の中動くという事は、下手すると怪我につながる可能性があるという事である。
 SPもかねている黒服執事達が、それを許せるはずがなかった。
「くっ!」

「悪いねちづるさん。こいつは渡すわけにはいかないんだ」
 さらにちづるさんへも告げる。

「あらあら」

 煙で視界も鼻も、そして大勢いるから気配も音も使えない。
 さすがの彼女も、この状態では俺達を捕まえられまい。



(この煙、ただの煙幕ではないな。この娘達には意味がないが、魔法感知妨害や追跡探知妨害、それ以外にも79の妨害が秘められている……その上隙を作ったと見せかけ、この場に全員を集めての煙幕。これでは誰も追えん。あの一瞬でこれとは……少し本気を出しすぎだろう)
 エヴァがその煙を見て、分析する。
 それほど自分と一緒に居るのが大事ともとれるが。


 次の瞬間、エヴァンジェリンは体がふわりと浮いた感覚を感じた。



 無事煙を抜け、境内の方へと走る。
 エヴァンジェリンをお姫様抱っこして。


「ちょっ、お前……!」

「緊急事態だ。役と……んんっ。許せ!」
 役得と言いそうになったのは秘密!

「……ふん」


「あともう一つ」

「なんだ?」



「その浴衣、似合ってる。綺麗だ」



「……ばか」



 そしてしまった事に気づく。

 エヴァを抱えてしまったため、未来道具が取り出せないのだ!
 ひゃっはー。間違えたー!


 その時はエヴァンジェリンに頼ろう。うん。




 煙が晴れたその時、当然彼らの姿は、その場にはなかった。


「きー! 逃げられましたわー!」
「さすがにもう、どこにいるかはわからないわね」

 絶対に現れる地点はすでに使ってしまった。これ以上はわからない。千鶴が残念そうに言う。
 最大の油断点かと思って待ち構えてみれば、逆に一網打尽にされてしまった。
 今思い返してみれば、これは罠だったのだろう……


「さすがよねえ」
 また惚れ直しちゃいます。としている千鶴と。

「ぐぬぬ……」
 とくやしがるあやか。


「あ、いいんちょアスナ達いたよー!」
「なんですって! ではそちらへ向かいますわよ!」

「こっちこっちー」


「アスナさあああぁぁん! 勝負ですわー!」

 元気な子達である。



 この後あやかはアスナに負け、例え危険でも、ネギの母を捜すのを手伝いたいという、その真摯な言葉を聞き、バッジの事は諦めるのであった。




──────




 走る。のぼりきって屋台も並ぶ境内もつっきり、さらに走る。


「悪かったな。屋台全然回れないで」
「かまわん。お前だけが悪いわけではないからな」
 俺の腕の中にいるエヴァが、そう謝ってきた。
 謝っているような言葉ではないが、素直にごめんなさいなんて滅多に言わないこいつが俺だけが悪くないなんて言っているのだから、かなり悪いと思っているという事だ。

「それに、祭りは今回だけではない」
「そっか。ありがとよ」


 つまり、また機会があったら来ようという事か!


「……ふん」
 俺の言葉に、ぷいっと明後日の方を向く。
 正直俺は、このしぐさを見るためにエヴァをからかっているのかもしれない。


「どうやら終わたみたいヨ」


 人のいない境内の裏手へと走っていると、バッジ争奪戦がアスナの言葉で幕引きした事がバッジの通信を通じて聞こえてきた。
 この声は、超か。

 てことは、100メートル以内。境内のどこかにいるって事か。

「そちらがドコにいるのかまでは調べないので安心するネ」
「OK。バッジはしまっておくからこれ以後こっち……別に来てもいいけどバレないようにな」

「わかたネ!」


 うん。俺はこう言うけど……

「来たら明日の朝日は拝めないと思え」

 エヴァの有無を言わせぬ言葉が決まった。


「わ、わかたネ! ところで、一緒にワタシの声を聞いているという事はズバりおひ……」ぶっ!


 エヴァが強引に通信をぶっちぎった。

 さすがに共同制作だから操作方法は知っているか。
 襟元にあるバッジからの声は、すぐ近くにいないと聞こえない仕様のようだ。だから、この声が聞こえているという事は、エヴァも俺の襟の近くに居るという事が推理出来るわけか。


「ふん」
「いいじゃん。別に変な事するわけでもないのに」

「うるさい。さっさとコレをしまえ!」
「へいへい」

 といってもお前をその抱っこしたままじゃ、『ポケット』に手が届かないから無理なんだけどなー。
 受け取ってそのままになっちゃうよ。

「ふん」
 と言いつつも、二人きりのままだからか降ろせといまだに言わないエヴァンジェリンなのであった。


「ところで、どこへ向かっているんだ?」

「境内の裏手。見晴らしのいいところがあるんだってよ」

「誰に聞いた情報だ?」

「これはクラスメイト。超君や朝倉君達経由じゃないから安心しな」
 だから多分彼女達は知らない。

「ならいい」


 と、やってきました境内裏。
 ちょっと高めの位置から、学園が見下ろせます。


「……ま、こんなもんか」
「そうだな。空を飛べる我々からすれば、こんなものだろう」


 木々の間から学園の光がチラッと見える程度の場所。
 中学生のおススメスポットなのだから、まあ、こんなものだろう。

 そんな風景を、エヴァと並んで見る。
 ちなみに降ろした時、バッジはちゃんと『四次元ポケット』にしまった。


「でも、こんな風景も、いいとは思うね。俺達まだ、中学生なんだから」
「中身はどちらも大人だがな」


 30歳と600歳だもんなー。


「中身はな。でも見た目はまだ、子供さ」
「そこはさすがに否定は出来ないな。お前も私も、見た目は子供だ」


 15歳と10歳の体だから。


「だから……」
 と、『ポケット』を探す。

「ん?」



「子供らしいプロポーズでもしようと思ってさ」
「ぷろっ……!?」


 じゃん。と取り出すのは、争奪戦に巻き込まれる前屋台で買ったおもちゃ。


 それは、安っぽい。おもちゃの指輪だった。


「……はは。子供の、約束でもする気か?」
 どうやら意図を理解してくれたらしい。よかった。驚いてはいるが、馬鹿にはしていない。


「そ。エヴァンジェリン。高校卒業したら、結婚しようぜ。なーんて子供じみた約束したくってよ」


 そう。子供の約束だ。
 だって俺達はまだ、子供なのだから。

 だが、子供だから出来る約束もある。
 祭りの夜、好きな女の子におもちゃの指輪でプロポーズ。
 こんなの子供の時にしか出来ない。
 今しか出来ない馬鹿げた約束。

 でも、俺は、そんな約束は、とても尊いと思う。


「お、お前は、そんな物でプロポーズなんて、本当に。どこの少女マンガの登場人物だ」
 あ、そっぽ向かれた。絶対赤くなってるな今。


 確かに、そんな約束をするなんて、マンガみたいなのは否定出来ない。
 むしろ、マンガじゃないとやらないようなのだからこそ、そこに痺れる憧れるとも言える。


「なんだ。知らないのか? これ、『ネギえもん』てラブコメなんだぜ?」

「なんだその意味のわからないタイトルは」
 少しあきれられてしまった。

「言ってる俺もよくわからない」
 『ネギま』と『ドラえもん』だからそれを合体させただけのお手軽タイトル。ひねりがなさすぎる!
 むしろ今はもういっそエヴァンジェリンと一緒とかエヴァプラスとかでもいい気がする。


 それはさておき。


「でも、このマンガ、子供の頃に夏祭りで、男の子がおもちゃの指輪でプロポーズするんだ」
 なんとなくマンガで絡めてみた。

「ほう。それは気になるな」
 エヴァも乗ってくれたようだ。

「子供だけど、真剣なんだ。ある少女と一緒に居たいと思った少年が、祭りで見つけた指輪を手に、プロポーズする。そうすれば、ずっと一緒でいられると思ったから。そんな告白を、ヒロインである少女はどうするだろう?」

「もちろん、う、受けるに決まっている」

「子供の他愛ない約束だ。他の人から見れば、馬鹿馬鹿しいほどの、子供の幻想。大人になってしまえば、忘れてしまうかもしれない。そんな、子供の約束を?」

「忘れないな。少なくとも、その少女は、絶対に忘れない」

「そっか。俺も、その少年は忘れないと思う。ただ、実は俺、まだそのマンガの結末、知らないんだ。エヴァは、このマンガの結末、どうなると思う?」

「それはもちろん、その他愛のない約束は、成就するに決まっている。どれほど子供じみた約束だろうと、馬鹿馬鹿しかろうと、その二人にはとても大切な約束だ」


 エヴァンジェリンが、まっすぐ俺を見て言った。


「物語の終わりは、その少年と少女は、末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。だろう? それ以外認めん」
 少女は笑い。


 すっと左手を俺の方へ伸ばした。


「必ず、その少女を幸せにしろよ?」
「もちろん」



 俺は、その細い薬指に、おもちゃの指輪をはめた。



「愛しているよエヴァンジェリン。高校を卒業したら、結婚しよう」
「……はい」
 少し照れるようにして、その小さな返事と共に、小さくうなずいて、彼女は答えをくれた。

 自分でも、驚くほど幸せな気持ちが、この言葉と共に、わいてきた……
 すげぇな、恋って。
 すげぇな。愛って。

 そして、めちゃくちゃかわいいな。俺の、お嫁さん。



「……それで」
「ん?」


「誓いのキスはないのか?」


「それはまだ早い。それは、大人になるまでとっておけよ」
 おでこをつーんと押す。

 ここはさすがに、譲れない。


「しかたがないな」
 だが少女は、嬉しそうに指にはまったおもちゃの指輪を撫で、自分の視線の高さに掲げる。



 安っぽいメッキの銀と、ガラス玉が月の光を反射する。



 ──だがそれは、エヴァンジェリンにとって、世界のいかなるものより、高価な品物だった。



「しかし、ぴったりとは意外だな」

「意外と少年はその少女の事見ているんだぞ? それに、今だけさ。すぐに大きくなってはまらなくなる」
 おもちゃだから、リングを広げる事も出来ないし。


「ふっ、むしろそれがいい。とか思っているのだろう?」
「当然」

 指がはまらなくなるからこそ、忘れられない約束とか、いいじゃん。
 そしてそう言ってくるという事は、お前も同じく思ってるって事だよな?


「だから、それ、人前ではするなよ。宝箱にでも入れておいてくれ」
「当たり前だ。こんな貧相な指輪、他人に見せられるか」

「ああ。絶対見せんなよ」
「ああ。絶対に見せん」



 だってこれは、二人だけの、子供じみた約束の証だから……




 月明かりの下。二人は笑いあった。





─あとがき─

 今回エヴァンジェリンの心情は割愛です。見せたら殺すと脅されました。死んでも本望ですが、続きが書けなくなるので脅しに屈してしまいました。すまないです。

 しかしいかん。第2部はじまってやってる事は本当にエヴァンジェリンとイチャイチャしているだけだ。いやまあ、再開時の宣言どおりなんだけどさ。
 よって私は後悔しないし反省もしない! だってこれは意味のある事だから!

 指輪の話とかやりたいなー。とか思っていたら、丁度いいところに祭りの話が転がっているとは。


 だっておもちゃの指輪をプレゼントするとかやりたいじゃん!

 子供の頃にした約束を、大人になって果たすって最高じゃん?

 結婚して子供にこれなにー? とか言われて思い出話至宝じゃん!?


 一応あの指輪のプレゼントは、バッジのお礼というていもあったんですが、わざわざそれ言ってもなぁ。って気もしたので、ここに書いておきます。


 次回やっとアーニャ登場。
 はてさて。どうしよう。性別とか。








─おまけ─




「ふふ。ふふふ」

 家に戻り、ベッドに転がり、その左手を持ち上げ、広げ、笑う。
 光るのは、おもちゃの指輪。


「ふふふ。ふふふふふふ」


 思い出して、思わずごろごろ転がる。
 いけない。今日はやっぱりこっちに帰ってきて正解だった。
 従者も弟子も今日は祭りの後で全員いなくて助かった(チャチャゼロもコピーとあっちへ)

 こんなにやけた顔、彼には見せられん。誰にも、見せられん。
 見せたら一生ネタにされる。


 わざわざおもちゃの指輪という事は、大人になったら本物でもう一度する気なのだろう。
 おもちゃの指輪というのがニクイ。将来絶対にはめられなくなるのだから、もう一度送ると宣言しているようなものだ。
 さらに、思わず夢見ても、大人になっては決して出来ないプロポーズを実行するとは、なんなんだあの王子様は!
 指がはまらなくなるからこそ、決して忘れられない約束とか、どこのマンガだ!
 今が子供である事を利用するとは、きたない。さすが心は大人。きたない!

 子供のうちから私の心を縛りつけるとは。なんてきたないんだ!
 どれだけ私を幸せにしたら気が済むんだ。なんてずるいやつだ!

 いつか必ず、私がその仕返しをしてやる!
 絶対にしてやる!

 覚えておけ!



 私達二人しか知らない、約束……



「ふふ。ふふふ」


 左手を右手で包み、ベッドの上をごろごろと転がる。


 嬉しくて嬉しくてたまらない。
 幸せで幸せで、死んでしまいそうだ。


 ただ指輪を渡されただけなのに。
 ちっぽけな、おもちゃの指輪だというのに。


 こんなので死にそうになってどうする……
 彼は、まだまだ私を幸せにする気だぞ……
 もっともっと、幸福で満たすつもりだぞ……

 将来その日がきたらきっと、これの比ではないぞ!


 安易に肉体を求めない理由は、ここにもあるのかもしれない……

 心が、繋がっているのがわかる。
 心が、満たされてゆくのがわかる。



 その上で、その日がきたら、私は一体どうなってしまうんだ!?



 想像するだけで、どこかへ飛んでいってしまいそうな気がする。
 ああ……いつか来るその日が、また楽しみになった。



 私は……




 私は、あなたが好きで。好きになって。本当に良かった……!



[6617] ネギえもん ─第25話─ エヴァルート13
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/03/20 21:08
初出 2012/03/15 以後修正

─第25話─




 アーニャ登場!




──────




「元気ですかネカネお姉ちゃん……」


 日本から来た手紙を手に、同封された写真を見る人影が一つ。


「ふふ。半年見ないけど、少し大人びてきた気がするわ」
 ネカネと呼ばれた女性が、嬉しそうにその写真を見ている。


 さらにもう一人。
 同じように手紙を見ながら、写真を見る赤髪の人影が一つ。


「そうか? 相変わらずチビでボケた間抜け顔だと思うが」
「そうかしら」


「それにしても、やはり女の子ばかりか」
 赴任先は女子中学校。当たり前といえば当たり前である。

「ふふ、楽しそうね……あら?」


 ネカネと呼ばれた女性が、一つの黒を見つける。


「ここに男の子いるわよ。二人」

 そこに映し出されているのは、女性ばかりの中で、唯一の黒一点。

 手を引かれ、強引に写真に引っ張りこまれている黒髪の少年と、写真に引っ張り込んだ獣耳をつけた少年がいた。


「否。こっち(コタロー)は女だ。見ればわかる」

「じゃあ、男の子はこの子一人なのね」


「……」

 赤髪の子が、自分のローブをつかむ。


「一体この男は……!」


 纏っていたローブを空へと脱ぎ捨てる。

 そこから現れるのは、むきむきの筋肉。


「一体!」
 むきっ!

 両腕をL字に持ち上げ、はちきれんばかりの筋肉が、背と両腕の上腕二頭筋を強調する。
 ダブルバイセップス・バック!


「何者か!」
 むきむきっ!

 手を腰に当て、ぱっつんぱっつんの筋肉が、背中の広がりを強調し、すべてを超越して語る。
 ラットスプレッド・バック!


「このアーニャ様が、確かめてくれる!」
 むんっ!

 腕を胸の前で組み、横から見た胸(チェスト)の厚みを強調し、すべてを理解する筋肉が吼える!
 サイドチェスト!!


「この、筋肉で!」

 はちきれんばかりの筋肉を持ち、濃い顔の自称アーニャが俺の方を見てばちっとウインクしてきた。
 バチーン!(ウインクの衝撃波)




「誰だお前はああぁぁ!!」



 ……



 目が覚めた。


 そ、そうか、夢か。
 夢オチか。よかった……
 いくらなんでも魔改造過ぎるだろアレは。TSとか憑依とかトリップとかそんなレベルじゃねぇぞ。


 俺も裸足で逃げ出すぞ。


 ああ、夢でよかった……
 本当によかった……

 そして正夢でないといいな。


 きょろきょろとあたりを見回す。
 男子寮の二段ベッドの下段。

 いつもの俺の部屋だ。



 ふにっ。



 なんかベッドの上にあったやわらかい物に触れた。
 その場所を見てみると、誰かの手。

 俺のベッドでエヴァンジェリンがすーすーと寝息を立てていた。


 お前か。


 どーりで暑苦しい夢見たわけだ。
 夏の朝とはいえ隣にもう一人居れば温度もうなぎのぼりに決まっている。

 なに勝手に俺のベッドに入ってきてんだよ。せめーし暑いってのに。

 そんなに俺と一緒にいたいのかよ。ありがとう。


 てか隣にエヴァがいるならもっといい夢見ろよ俺!
 きゃっきゃうふふな夢にしとけよ!
 夢でなら色々出来るだろ! やっちゃえるだろ!


 まあ、それはそれか。本気でそういう夢見たけりゃ『道具』使えばいいわけだし……


 あー。目が覚めちまった。シャワーでも浴びよ。


 ベッドを降りようとしたら、ぐいっとエヴァの手に触れた俺の手が引っ張られた。


「起きてたのかよ」
「お前のぬくもりが足りない……」
 いや、まだ眠そうだ。目をこしこしこすってる。

「暑いから嫌です。ついでにこれ以上同じベッドで寝ていると襲いかかっちゃいそうだからダメです」
 お前は自前魔法クーラー使ってるからいいかもしれないけど。襲われてもいいのかもしれないけど。

「ちっ」


 素直に手は離してくれた。
 そしてそのままエヴァは二度寝に入る。

 こら、俺の枕を抱きしめるな。
 匂いをかぐな。恥ずかしい。


 見てるとなでくりまわしたくなりそうなので、そのままシャワーを浴びにこの場から逃げ出した。



 しゃわー。




──────




 昼になりました。


 相変わらず夏休みだが、今日は少しだけ違うところがある。

 夏祭りも終わり、休息もかねてネギ達が二泊三日の合宿で海へ行ったのだ。
 俺とエヴァは留守番。

 ネギま部(仮)改め『白き翼』のみんなが気を利かせて二人きりにしてくれたと言ってもいい。
 なにせ彼女達から見ると、ずっとエヴァンジェリンが自分達につきっきりで修行をつけてくれるように見えるからだ。


「みんなコピーに任せてサボっているとか知らないからねぇ」
「そうだな」


 一応ネギは『コピーロボット』の事は知っているが、コピー使うなと言われた事を信じて使っていないと思っているようだ。
 なんていい子なんや……

 別荘内は時間の流れが違うから、外で俺とエヴァが歩いているの見た人の話聞いてもそれが一緒に居る時か居ない時かわからないわけでもあるし。

 それと、超グループと茶々丸さんも海に出かけています。一緒に海での防水実験するって言ってた。ネギ達を追ってあやかお嬢ちゃんもちづるさんふくめたクラスメイト達を引き連れて行っているし、俺のクラスメイトもこの時期ほとんど帰省しているようなので、ホントにエヴァと二人きりと言ってもいい状況である。

 帰省で思い出したけど、俺もちゃんとこの世界の両親へ顔を見せに帰ったりしています。関係は良好なのでご安心ください。色々とね。


「さてと。今日はどうするか」
「そうだなぁ……」


 じーわじーわと蝉の声が響く外。
 木陰の下でアイスを食べていた。
 ちなみにチャチャゼロも一緒だ。

「ケケケ。イイのか? セッカク二人キリだってノニ」
「むしろ最近君と遊んでなかったのも思い出したからね」
 俺の膝の上にいるチャチャゼロに声をかける。

「夏祭りノ夜ゲームシタジャネーカ」

「あー、チャチャゼロひんやりしてるー」
「……単ナル氷嚢カよオレハ」

 ついでに言えば、チャチャゼロは賞金首エヴァンジェリンを象徴する人形なので、魔法世界に連れていけない。ので、今のうちに遊んでおかないといけないからだ(無理について行こうとしないのは、多分気を使ってくれたというのもあるんだろう)
 ちなみに、チャチャゼロはクウネルさんのところへ預けていくので魔力切れとかの心配をする必要はない。



 そんな事をしていると。



「あの、ちょっと道をお尋ねしてもよろしいですか?」
 女の子の声で、そう声をかけられた。


「あ、はいはい?」

 そちらの方を見る。
 そこには、いかにも魔法使いといった感じの三角帽をかぶった、赤髪の女の子が居た。


「あー!」
 少女を見た直後、指をさされた。


「あんた、ネギの手紙にいた、唯一の黒一点!」

 ローブを纏った赤毛のサイドツーテール。
 魔女帽に杖。


 そこにいたのは、アーニャ。漫画でよく見たアーニャ嬢その人だった。

 筋肉ムキムキで濃い顔してダブルバイセップスやサイドチェストでウインク衝撃波なんて決めそうにもない、普通に普通で普通の女の子アーニャがそこにいた。

 そうだ。思い出した。
 原作では夏休みに海へ行った時、なかなか帰ってこないネギにじれて英国からやってきていたんだった。
 だからか。だからあんな夢見たのか!


 あんな夢を。そして、正夢じゃなかった! 筋肉じゃない。筋肉じゃなかった! よかった!



 よかった。



「よかったー!」
 俺は思わずベンチから勢いよく立ち上がる。

「アン?」
 転げ落ちるのは膝の上のチャチャゼロ。


 そしてその勢いのまま、目の前で呆然としている彼女に抱きついてしまった。



「普通だ! 普通に普通で普通のアーニャだ! よかった! 筋肉じゃなくてよかった! 正夢じゃなくてよかったあぁぁぁぁぁ!」


 ばんざーい。ばんざーい。
 たかいたかーい。


「アーニャは軽いなー。筋肉なくて軽いなー。すばらしいなー。あはははは。あはははははー」


 くるくるー。くるくるー。


「なっ? ななな、なななななー!?」
 いきなり高い高いされてくるくる回っていては頭の処理もついていかない。アーニャは完全に俺のなすがままとなっていた。


「あははー。杖も落として全然抵抗できてないぞー。筋肉足りないぞー。すばらしいぞー」


 二の腕細いなー。手首なんて触れたら折れそうだー。細い足も回転の遠心力に抗えないなー。小さいなー。小さいぞー。
 魔改造じゃないぞー。TSもしてないぞー。普通のアーニャだぞー。


「な、なんなのよー!」
 やっと頭が働き始めたのか、アーニャが抗議の声を上げる。

 あははー。小さい小さい筋肉のないアーニャじゃそれがやっとかー。やっとだなー。あはははー。




「ああ、なんなのだ?」


「──っっ!!」
 ぴたり。


 高い高いを止める。

 俺の背後から、絶対零度のナントカが感じられる。
 い、いけない。俺は、今、いけない事をしている。間違いない。俺は今、死刑台の上で踊り狂っていた。


 このままでは、この高い高いが、他界他界になってしまう……



 だらだらと冷や汗をたらしながら、ゆっくりとアーニャを降ろし、またゆっくりと、背後を振り返る。



「「ひぃ!」」

 アーニャと二人同時に、悲鳴を上げてしまった。


 そこには、夜叉がいた。
 そこには、吸血鬼がいた。
 そこには、俺の嫁がいた。


 俺のあげた『ドラキュラセットDX化』のマントを羽織り、日の光の下最強の魔法使い状態となった吸血鬼。『闇の福音』であるエヴァンジェリンがそこにいた。


「さて、申し開きはあるか? 貴様は私が浮気と感じたら、罰してよいと自分で言ったな?」

 確かにちょっと前に言っちゃった覚えあるよ。具体的には第22話に!

「……とりあえず、信じてもらえるかはわからないが、聞いてもらえるか?」
 背中にすがりつくようがたがた震えはじめていたアーニャ君に手で下がるよう指示をしながら言う。


「一応聞いてやろう」


「昨日夢でムキムキの筋肉を持った彼女が夢に出てきたんだ。そりゃもう、凄い濃い顔で。悪夢のようなムキムキだった。それはまるで予知夢のようで、今日やってきた彼女の事を現したものだったんだよ」

「ほう」
 目つきがさらに鋭くなりました。

「それで、その今日やってきた子が、夢に出た筋肉ムキムキじゃなくて、凄い普通の子だったから、喜びのあまり、抱きついてしまったんだよ。抱きついてしまった事には謝るしかない。それほど衝撃的な夢で、衝撃的な出来事だったんだ」

「つまり、こういう事だな? 昨日見た夢に、私ではなく別の娘が出てきたという事だな?」

「娘と言っていいかわからないけど、そうなるな……」


「……」
「……」

 無言が続く。




──────




 鳴り響いている蝉の声以外は、無音。
 いや、蝉の音すら聞こえない気がする。


 太陽の熱によって熱せられているはずなのに、この場だけは、まるで南極にでもいるかのような錯覚に陥るような状況だった。


(……ど、どうなっちゃってるのー)
 事態に取り残されているような形のアーニャは、一人混乱しながらこの行方を見守る。
 正直言えば、逃げ出してしまいたかった。

 それほどまでにすさまじいプレッシャーが、目の前の少女から感じられたから。


「ケケ」
 そこに、人形がやってくる。

 びくっ。
 思わずびっくりした。

「安心シロ」
「な、なにが?」
「タダの痴話喧嘩ダ。イヌもクワネー」

 人形はそれだけ言うと、地面の暑さから逃れるよう、アーニャの頭の上に移動した。



 ……じゃあ、その痴話喧嘩で、今から世界は滅びるんだわ。
 アーニャはそんな事を思った。



「一応聞いてやろう」
 夜叉であり、最強の吸血鬼である少女が、自身の伴侶に対し、弁明を求める。


「昨日夢でムキムキの筋肉を持った彼女が夢に出てきたんだ。そりゃもう、凄い濃い顔で。悪夢のようなムキムキだった。それはまるで予知夢のようで、今日やってきた彼女の事を現したものだったんだよ」

 聞いているアーニャにはこの少年の言っている意味がわからなかった。
 わかったとしても、多分意味などはないのだろう。そう思った。


 わかっているのは、目の前の彼も、自分も、消えるのだろうという事だけ……


「ほう」
 少女の目がさらに鋭くなり、プレッシャーが倍以上に増える。
 目に映るその魔力など、大きすぎて形もわからないレベルだ。
 がたがたと足が震えるのがわかった。
 いや、地面が震えているのかもしれない。あまりの恐怖で。

 なにこれ。こんなの、どこの魔王よ……


「それで、その今日やってきた子が、夢に出た筋肉ムキムキじゃなくて、凄い普通の子だったから、喜びのあまり、抱きついてしまったんだよ。抱きついてしまった事には謝るしかない。それほど衝撃的な夢で、衝撃的な出来事だったんだ」


 なるほど。わからん。
 アーニャは理解する事を放棄した。


「つまり、こういう事だな? 昨日見た夢に、私ではなく別の娘が出てきたという事だな?」

「娘と言っていいかわからないけど、そうなるな……」


「……」
「……」



 無言が続く。

 そのままプレッシャーだけが高まり。


 高まり。



 高まりきったその時……




 じわっ。



 少女の瞳に、涙がにじんだ。



 ないたー!!?



「私は毎夜毎夜お前の夢を見ているというのに。お前は、平気で他人を夢に見て、あまつさえその者を抱きしめるのか」
 ぐすっ。

 堰を切って流れはじめた涙は止まらない。


「お、おい」
「うるさい。ばかぁ」


 少女が、涙をぬぐう。

 そこにはもう、絶望を振りまく、まさに恐怖の権化と呼べるような少女はいなかった。
 ただ、不安に泣く、か弱い少女しかいなかった。


 アーニャにはなぜ少女が泣くのかはわからない。

 しかし少女にとって、少年が『自発的に』他人を抱きしめるというのは、大きな裏切りを感じても仕方のない事だった。
 自分だけという絶対の信頼を、裏切ってしまったという事なのだから……

 それは、この少女が人前で涙を流すほど、ショックな事だったのだから……


「信じていたのに……」


「……ごめん」
 少年が、謝罪の言葉をつむぎながら、ゆっくりと近づく。


 少年も、軽率な自分の行動により犯した裏切りの重さを理解している。
 だからただ、自身の過ちを、その非を認め、謝り続けるしかない。



「抱きしめろ」
「ああ」


 少女の言うがまま、少年はその細い背に手を回し、抱きしめる。
 夏の暑さも吹き飛ばすほどに、熱い、熱い抱擁。


「キスしろ」
「……」


 続けて少女は言うが、少年は動かない。
 なにか、出来ない理由でもあるのだろうか?


「キスしろ」
「……」


 二度目の言葉。
 その言葉と共に、少年は動いた。


 少女の前髪に触れ。かきあげ。



 ちゅっ。



「オデコか」
「そこが妥協点だ」



 少年は、少女の肩に手を置き、濡れた瞳をまっすぐと見る。



「エヴァンジェリン」

「なんだ?」


「ごめん」
 ただ一言。真摯に言う。


「……」


「ごめん」
 もう一言。心をこめて。


「……」


「ごめん」
 ただ一言。万感の想いをこめて。


「……」


 その真摯な想いは……



「……ゆるす」
 想いは、伝わる。



「ありがとう!」
 少年に、笑顔の華が咲いた。



 ぎゅー。



「こ、こら、これ以上は人前でするなー!」


 わたわたと、新たに抱きしめられた少女は困惑したように、手足をばたつかせる。
 だが、その声に、拒否も否定のふくみもなく、ただ歓声が少し混じっているのは気のせいか。

 少女も、ぎゅっと抱きしめ返しているのは、気のせいか。



 そこには、なんというか、爆発しろ! な空気しかなかった。



「……なにこれ」
 相変わらず取り残されるのはアーニャ。


「ケケケ。やっぱチャバンだったナ」
 そしてアホラシーと笑う人形だけだった。



 こうして本気でぶつかりあいながら、愛は高まってゆく。



 ああ、青春だなぁ。

 今夏だけど。


 みーんみーんみーん。




──────




「本当にすみませんでした」


 エヴァとアーニャ君をベンチに並べ、俺はその前で、土下座をした。


 アスファルトが熱を持って熱い。
 滅茶苦茶熱い。

 天然焼き土下座と言っても過言じゃない。


 でも、これだけはやっておかねばならないと思った。


「ふん」

 エヴァは明後日の方をむいたのだろう。
 でも、もう怒ってはいないと思う。

 ごめんな。あんな軽率な行動は、もうしないよ。
 もう、お前を裏切ったりはしない。


「ま、まあ、私も別に気にしてないから」
 俺の誠意が伝わったのか、アーニャ君も許してくれた。


「それはよかった!」

 がばっと立ち上がると、さっきを思い出したのか、アーニャ君びっくりしてた。


「というわけで、これはお近づきのしるしです」

 と、ポケットに放りこんでおいたジュースを渡す。
 『四次元ポケット』という時間も空間も超越した場所なので、熱を奪うモノがないからひえひえのままだよ。

「え? 手品?」

「そんなトコです。はい、エヴァ」

「ふん」
 ふてくされたフリして受け取っているが、実は泣いたのアーニャに見られて恥ずかしいって今脳内であわあわしてるのわかるぜ。


 ワザワザ言わなくても言わないだろうが、言わない方がいいぞアーニャ君。言ったら死ぬ。間違いなく。


「ともかく。話を戻そうアーニャ君は、ネギを探しにきたんだね?」

「うんそう。そうしたらネギの写真にあったあんたを見つけて、ああなったわけ」

「悪い悪い。アレは、もう忘れてください。んで、ネギだけど、今ここにはいないよ」

「え?」
 まん丸お目目になって、アーニャ君の動きが止まった。


 まあ、海に行ってるだけなんだがなー。


 行った海岸の場所を伝えると、そこへ行くと言い出した。

 送っていこうか? と言ったが、一人で行けると断られてしまった。


 ……エヴァが怖いからっすね。


 隣にいたエヴァを見て言ったのだから間違いない。


「ではなくまた気を使ったのではないか?」
「かなぁ? お前のあの恐怖の権化の姿見たら怖がると思うぞー」
「誰がそうさせたんだったかなぁ?」
「記憶にございませんねー」
「そうだな。私も記憶がない」
「じゃあしかたないなー」
「しかたないな」

「はは」
「ふふふ」

 もういつもどおり。

「さてと、どうする?」
「どうするか」



 とりあえず、映画にでも行くかー。それともゲーセンかー。ショッピングもいいなー。



 今考えてみると、二人きりにされてもいつもとやる事変わんなかった。


「ケケケケケ」
 あ、すまんチャチャゼロ。今日は三人だったな。




───エヴァンジェリン───




 あああああああ。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!
 なにをしているんだ私は! よりにもよって人前で泣いてしまうなんて!


 なにをしているんだー!



 彼に手渡された飲み物でなんとか頭を冷やす。



 落ち着いて考える。
 闇の中にいた頃には考えられない事だ。
 力を封印され、それでも孤高を保っていた私なら、絶対にあのような涙は流さなかった。


 だが、なぜかはわかる。


 私はそれほど、彼を愛しているという事だ。
 信頼しているという事だ。

 ……いや、信頼しすぎていたという事だ。

 妄信と言ってもいい……



 絶対にない。
 そこにおける『絶対』などないのに、そう考えてしまっていたから、涙が出たのだ。


 彼が私以外の女に触れる事もなく、声をかける事もなく生活する。
 そんな事ないと、わかっていたはずなのに……



 なにより、本当に私が、彼に絶対の信頼を置いていたのなら、涙など出なかったはずだ。

 そうならば、いつものように、頭を叩いて土下座させて終わるはずだから。



 あの涙は、私が彼を、真の意味で信頼していなかったという証……
 あの涙は、彼の愛を、本当に信じきれていなかった、証明……

 あれほど私を、一番に考えてくれている、彼を……
 あれほど私を、優しく包んでくれている、その、愛を……



 だから、名前も知らぬ小娘よ。お前には感謝しよう。
 お前のおかげで、一つ大切な事に気づけた。

 彼にも過ちがあったが、私にも誤りがあった事を知る事が出来た。

 これで私達の絆は、より強くなった。


 より愛を、確認出来た。



 ゆえに、今回だけは見逃してやる。



 当然、この事を言いふらしたらどうなるか、わかっているだろうな?




 ちなみに、自分が弱くなったか? などという定番を考えるほど私は若くない。このような事に強さ弱さを絡めて考える事こそがそもそもの間違いだ。
 そういうのは桜咲刹那にでもさせておけ。もっとも、今のあの娘も、そこに悩むほど『弱い』娘ではなくなっているがな。




───アーニャ───




「マスター達に会ったの?」

 夕方、ネギ達のいる海につき、合流したあと。どうやって来たのかを聞かれた際、麻帆良学園で出会った二人に聞いたと話したら、ネギがそう言った。

「マスター?」

「うん。その女の人の方が僕の師匠なんだ」

「え? あの子が!?」


 確かに、凄い魔力とプレッシャーを放っていたけど……


「そうよ。エヴァちゃんはなにせ、あの『ナミのナンタラ』って賞金首だったんだから!」

 相変わらずネギの隣にいるツインテールの子が自慢げに言う。けどナンタラじゃなにがなにやらわからないわよ。

「『闇の福音』ですよアスナさん。それとあんまり大きな声で言っちゃダメです。マスター公式には倒されてた事になっているんですから」


 『闇の福音』で倒されたって……え? それって?


「え? あんたの師匠って、ひょっとして、あの?」

「うん。あの」


 『闇の福音』といえば、『人形遣い』、『悪しき音信』、『禍音の使徒』なんて呼ばれるあの伝説の大悪党のエヴァンジェリン!?
 元600万ドルの賞金首で、御伽噺にもなって悪い子はたべちゃうぞーとやってくるほどメジャーな怪物じゃない。
 確かにエヴァンジェリンって呼ばれてたけど……


「それってあんたのお母さんが15年前に倒したんじゃなかったの!?」

「まあ、色々あって今は麻帆良にいるんだ」


 思い出す。
 世界を終わらせるんじゃないかと思わせるあのプレッシャー。
 地面を揺るがしているのではないかと錯覚させるあの魔力。


 それが、あの伝説の『闇の福音』であるのなら納得がいく。


 それは確かに、伝説の名にふさわしい恐ろしさだった。
 いや、伝説以上だった。

 『闇の福音』伝説は誇張などではなかったと私は理解した。



 そして、泣いたなんて事をしゃべれば、確実に命がないという事も。



 ぶるるっ。
 また思い出して震えてきた。
 むしろよく生きてた。私!


「あんた、凄い人に師事してるのね。てゆーか、いいの? 賞金首なのに変な事されない?」

「大丈夫だよ。もう賞金首じゃないし、マスターは優しいし」

「……アレのどこがやさしいのよ」
 さっきネギにアスナと呼ばれたツインテールの子が疑問の声を上げる。
 それは私も同意するわ。

「最近どんどん優しくなっていると思いますよ。やっぱりあの人の影響だと思います」

「……どこが~?」

「あの人?」
 あのひと? どのひと? どこのひと?

「うん。ほら、多分一緒に会った男の人。マスターの恋人で、なんと母さんと同じ『サウザンドマスター』なんだよ!」


 『サウザンドマスター』ぁ?
 ネギのお母さんと同じ称号。それは、魔法世界で最強と言っても過言ではない称号の事。

 ネギが目をキラキラさせてる。よっぽど尊敬してるのね……

 でも……

 男の方を思い浮かべる。
 顔はまあまあとして、どこにでもいる普通の少年にしか見えなかった。
 まあ、いきなり抱きついてきたりするところは普通じゃなかったけど。


「全然そうは見えなかったわね」
 私は確信を持って断言した。

「あの人は力を隠してるから」
 あはは。と、ネギも苦笑い。

「見た目で判断したらダメよ。なにせあの人、実力でエヴァちゃん倒したんだから。私もエヴァちゃんに師事してわかったけど、あの人ホントは強いのね。あのエヴァちゃん子どもあつかいだったもん」


 うんうんすごいわ。とツインテールのアスナが一人でうなずいてる。


「アスナさん信じてなかったんですか……」

「だって普通の人にしかみえないんだもん」

「マスターとの戦い(第5話の事)、直接見てたじゃないですか」

「あの頃はなにしてたのかよくわからなかったから仕方ないの!」


 あのエヴァンジェリンを実力で、倒した……?
 あの地獄の帝王としか思えない魔力とプレッシャーを放つあの『闇の福音』を?


「ソレが本当なら確かに凄い人ねー」
 あんなの絶対倒せない。直接見た私はわかる。無理。絶対無理。無理ったら無理。


「僕はあの時気絶してて見てないんだけどね」


「意味ないじゃないその証言!」
 気絶って言葉が気になるけどそれ以前の問題!

「なにそれ!? 私の言う事が信じられないって事!」
 アスナと呼ばれるツインテールの子も憤慨。

「うん」

「なによー」


 だって、あんた……
 思った事を口に出しそうになるが、さすがに気のせいかもしれないのでやめる。


「あ、でも、鬼神を祓うところなら見たよ!」


 聞けば、この国の伝説にある鬼神。


 それを呪文詠唱なしに使用した超極大魔法の一撃で倒し、なおかつ祓ったのだという。
 しかも自身を闇を纏うはずの吸血鬼化させて。


「正直それはなにがすごいんだかわからないけど」
 ツインテールの子があはは。と笑う。

 この言葉で確信する。
 うん。わかった。この子はきっと、お馬鹿なんだ!


 ネギの言った事が本当ならば、その人は魔法史に名前が残るくらいの事をしているのに……
 闇の属性なのに闇を祓うって、普通に考えても、伝説としても名が残るレベルよ。
 火に火をぶつけて消化するようなもんなのよ!


「ま、本当なら。ね」

「あ、アーニャ信じてない!」

「信じられるわけないでしょ! 『闇の福音』を倒して鬼神クラスを祓うなんて、どこの『サウザンドマスター』よ!」


 あんたのお母さんじゃない!


「その『サウザンドマスター』なんだよー」

「まあ、『闇の福音』が師匠って方は信じるけどね」
 さすがにあのプレッシャーを直接見たのだから、それだけは信じざる得ないわ。

「まさか吸血鬼が先生なんてね……」
 少し複雑な気分だ。

「あ、でもマスターはもう吸血鬼じゃないよ」
「なんでよ?」


 あの『闇の福音』なら真祖の吸血鬼じゃないの。やっぱり嘘なの? 偽物なの?


「だって、人間に戻ったから」
「はぁ? 馬鹿な事言わないでよ。一度吸血鬼になった者が。しかも真祖が人間に戻れるはずがないじゃない。常識でしょ?」


 またネギが変な事を言い出した。
 一度闇に堕ちたその肉体が、再び人の体をとりもどせるなんて、あったらそれこそ魔法史が塗り換わる。
 魔法の常識を覆す、大事件だ。


「あはは。信じられないよね。でも、それが出来るのが、マスターの隣にいるあの人なんだ」

「ネギも冗談言うようになったのね」


 鬼神を祓ったりとか吸血鬼を人間に戻したりとか。


「本当だよー」
「はいはい。面白かったわ」



 その時私は、その言葉をまったく信じていなかった。
 当たり前だ。
 魔法に関わる人間で、ネギの言葉を信じるのは誰一人としていない。


 そんな事が出来るのは、神にも等しい存在なのだから。
 世界のルールを三つくらい捻じ曲げなきゃ実現出来ない事なんだから。



 でも、ネギが言っていた事は、事実だった……



 私は、今。信じられないものを見ている。


 イギリス、ウェールズ。
 私達の故郷へ戻ってきたその夜。

 魔法世界へ行くというネギを、おじーちゃんは石像と化しているみんなの下へと連れて行った。
 村のみんなが居る、あの場所へ。

 おじーちゃんはあいつの小さな背中に新しい荷を背負わせるためじゃないなんて言ったし、あいつも一人で背負えないし意味はないって言ってたけど、そんな事ないわね。
 あいつは口でそう言っても、背負っちゃう馬鹿なんだから。

 半年たってもそういうところはかわらない。
 こんなの見せたら、逆に気負っちゃうのに……


 だから、いつものように、強がりを言って、お母さんの埃を落とす。


 ダメね。そうはいっても、結局私だってネギの力にはなれない。
 知ってるのよ。あんたがあの日、自分がピンチになればナギさんが現れると願っていたのが原因だなんて思っているの……
 あいつの後悔をなくすには、この人達が元に戻って、そんな事はないと言ってあげるしかないの。


 でも、そんなの無理。


 これがなくなれば、ネギの囚われている呪縛が一つなくなるのに!

 ……ごめんなさいお父さんお母さん。こんな事を思ってしまう私で。
 あなた達にも、ネギにも、なにもしてやれない無力な娘で……


 そうしていたら、入り口から、あの二人が入ってきた。


 おじーちゃんに麻帆良の学園長からという手紙を見せて、私のお父さんとお母さんの前へとやってきた。


「では、証明させていただきます」

「うむ」

 おじーちゃんがうなずく。
 え? なになに? いきなりなんなの?

 びっくりする私に、おじーちゃんがそのまま見ていなさいと言う。



 すると彼は、懐から一枚の布を取り出し、お父さんにソレをかぶせた。



 私の目の前で、信じられない事が起きた。


 布をかぶせ、ワンツースリーと手品のように、布を外した瞬間。


 目の前にいたお父さんが、生身を取り戻し、私を見たのだ。
 石化が解け、私と目が合ったのだ。



 呆然と見つめあうしか出来ない間に、同じ要領で、お母さんも、生身を取り戻す。



 信じられない事が起きていた。
 思わずほっぺたをつねる。


 痛い。


 現実だ。



 あとで聞けば、同じ方法でネギの怪我を治したり、『闇の福音』を人間に戻したりしたんですって。なにそれ。手品なの? 魔法なの? 奇跡なの?



「アーニャ。アーニャなのか?」
 お父さんの声が聞こえる。
 夢じゃない……

「ああ、アーニャ。こんなに、大きくなって……」
 お母さんの声が聞こえる。
 夢じゃない……!


「お父さん? お母さん……?」


「「そうだよ。アーニャ」」
 二人が、手を広げる。


 夢じゃ、ない……!!


「お父さん! お母さん!!」


 私はそのまま、二人の胸へと飛びこんだ……
 こんな事、本当に……!



「……まさか、本当に……」
 おじーちゃんの驚いた声が聞こえる。

「あとは同じ要領で戻していくだけです。なのでちょっとお時間をください」

「時間なんて気にせん! やってくれたまえ!」

「はいはーい」



 こうして、村のみんなは、石の中から開放された。
 しかも彼は、村の人全員を元に戻して、復興するまで住む仮の住居や食料。日用品まで用意してくれていた。


「いや、食べ物とかは麻帆良の学園長が大部分用意してくれたんだけどね。この後の事も丸投げだし」

 とは彼談。

 疑問なのはそのコンテナをどうやって運んできたか。だけど。

「ソレは秘密です」
 人差し指を唇に当て、そう言われてしまった。



「でもどうしてそこまでしてくれるの?」

「君に怖い思いをさせたお詫び。かな」
 私の質問に、少し考えた彼は、そう答えた。


 麻帆良学園で出会ったあの時のお詫びなんかでここまでしてもらえるなんて、なんだか悪い気がしてしまう……
 あれは確かに怖かったけど、すぐ二人の世界を作ってたから、恐怖というよりは、逆にあきれた方が強いくらいなんだから。

 明らかに、不相応だ。


「そう思うなら、お返しをお願いしようか。続けてお願いするよ。もう一度、『ありがとう』と、笑顔でプリーズ」

 一瞬、ほうけてしまった。
 なにを言ってるの、この人。


「そ、それだけでいいの?」


「バカ言っちゃいけない。可愛い女の子の笑顔は、それだけで世界を救う価値のある最高のお宝だよ。まさにプライスレス!」

 なぜか熱弁された。


「だから是非、お願いしたいね」
 彼が、くすっと笑う。


 ああ、なんだろう。この優しい笑顔は。
 思わず、こっちもつられて笑ってしまった。

 ホント、ネギの言ってた通り。

 あいつの言ってた事、全部本当だったわ。



 だから……



「ありがとう」
 とどけ。私の精一杯の笑顔。
 精一杯の、感謝の気持ち。


「どういたしまして」
 彼もまた、笑顔を返してくれた。




 そしてその後、『闇の福音』に「他の子に色目を使ってすみませんでしたぁ!」と土下座する彼の姿が目撃された。

「なぜ土下座するのかわからんが、許そう。感謝しろ!」
「へへー。ありがたやー」

 ……あの姿見ると、本当に彼女達が『闇の福音』でもう一人の『サウザンドマスター』とは思えないわ。




──────




 ネギ達の見ている前で、次々と村の人達の石化が解かれてゆく。

 暗かった地下には明かりがともり、喜び合うもの。抱き合うもの、涙を流すものの声で溢れていた。


 ネギ達はそれを、部屋の隅で見守っている。

 大忙しで部屋を出て、村の者が元に戻った事を知らせに行く人。
 外に用意してあるという復興用のコンテナへ走る人。

 ネギ達にかまう暇などないほど、この事態は進んでいく。



「あっさり治ってくわねー」
 流れ作業で次々と石化を解除して行く黒髪の少年を見ながら、明日菜は素直な感想を上げる。

「はい。やっぱりあの人は凄いです」
「そやなー」
 それに刹那、木乃香が同意する。

「で、さ」
「なんや?」

「やっぱりあれ、とんでもなく凄い事なの?」
 彼のしている事を指差して、明日菜は思わず確認する。


 あれは誰にも解けない石化で、極東最高の魔力を持つ木乃香が何年も修行してやっと出来るものだ。とは聞いている。
 だが明日菜としては、あれなら自分が触っても戻るんじゃないかなー。なんて気もしてくる。
 それくらいお手軽に解除されていくからだ。


「アスナにわかりやすく説明するとなー。アスナがテストで全教科満点とるくらい難しいんやでー」
「まじですか?」
「しかもその問題はスワヒリ語で書かれてるんや!」
「なにそれ? 絶対無理!」
「それくらい難しいんやでー」

「そうなんだ……ところで、スワヒロ語ってどこの言葉?」

「スワヒリ語なー。アフリカ東岸部で広く使われてる言語や。ケニア。タンザニア。ウガンダでは公用語なんよ~」
「そうなんだ。凄いのねスワヒロ……」


「いえ、凄いのはそこではなく……」
 ここのつっこみ役は刹那が担当します。


「あ、そうよ。そんな絶対無理な事やってたのね」
「そうなんよ。それを難しいと思わせずにやれるからなおすごいんやよ~」
「やっぱりすごいのねぇ」

「せやなー。あこがれるなー。せっちゃん」
 木乃香が刹那を向き、にっこりと微笑む。

「そうですね。それでいてとても自然なお二人で居ますし」
 刹那は木乃香を見て微笑んで、さらに彼を見て、それをサポートするエヴァンジェリンの姿も目に捕らえる。


 そこで二人は関係ないんじゃ? と明日菜は思うが口には出さない。


「そやな~。うちらも負けてられんな~」
「ななっ、なにを言うんですこのちゃん!」
「あはは~」

「ま、このかのやる気がなくなっていないようでなによりね」
「むしろ魔法の勉強やる気でたくらいやよ~」

「うん。ならいいわ」
 明日菜は安心し、残ったもう一人の方を見る。


 明日菜の視線の先。
 そこには……


「……」
 ネギが、無言で石化から開放される彼等を見ていた。
 元に戻り、抱き合ったりしている人達を。


「大丈夫?」
 そんなネギに、明日菜は声をかける。



 原点を失う形になったこの少女は、なにを思うのだろう……?



「ぽっかり、心に穴が空いたみたいです……」
 自分の胸を、その手で押さえ、彼女は問いに答えた。


 明日菜は、ネギの過去を知っている。
 この村が襲われた記憶を、ネギに見せてもらった事があるから。


 だから、その原点を失った彼女は、前に進むのを止めてしまうのではないかと思った。



「……それで、どうするの?」
 もし、アンタがここで歩むのをやめると言うのなら、無理強いはしない。
 いや、出来ない。


「はい。僕は……」


「……」


「僕は、母さんに会いたいです……」
 その視線の先。そには、アーニャとその両親がいた。


「アーニャみたいに、成長したこの姿を見せてあげたい。ぎゅっと抱きしめて欲しい」


 抱き合ったアーニャ達を見て、その欲求はより強くなった。
 その姿を、ただ純粋に、『羨ましい』と思った。


「そんな気持ちが、湧き上がりました」


 心にぽっかりと空いた穴。
 今まであった感情とは別に湧き上がったその気持ち。


 母への憧れでもなく、力への渇望でもなく。



 それはただ、母に会いたいという気持ち。
 ただ、それだけだった。



 母を求めるという、十歳の子供としての願いだけが残った。
 かつて彼に言われた、子供が親に会いたいと思うのは当たり前。それだけが、残ったのだ。


 パンドラの箱が開いたように、最初の闇が吐き出されて残った感情が、それだった。


 いや、正確には、生まれたと言った方が正しいのかもしれない。
 今まであった感情とは別に、失った穴に新しく芽生えたその気持ち。


「母さん……」
 その瞳から、一筋の涙がこぼれる。

 ずっとずっと我慢してきた、寂しいという感情。
 張り詰めた糸がぷつりと切れたかのように、彼女の目から、一滴の涙が溢れた。


 だが、まだ決壊はしない。
 それが起きるとすれば、彼女が母と再会した時だろう……


「……そっか。じゃあ絶対にお母さん見つけないとね」
 それを見て、明日菜はお姉さんの気分で、優しく言った。

「はい!」

(ふふ、珍しくガキ丸出しね)
 そんな姿を自分達に見せてくれて、少しだけ嬉しかった。


「あ、でも明日菜さんも……」
「へ? ああ、私の場合はあんたと違って最初からいないからね。それに、私はもう大人だから! だからこそアンタに会わせてあげたいってもんなの!」

 『神楽坂明日菜』は孤児である。その点をネギは謝ったが、明日菜にしてみれば居ないのも当然だったので、そういう感情はもうない。
 ネギのように一度出会って、会えなくなったというのならば、また違うのだろうが……


「だから、アンタはアンタの感情を優先させなさい。滅多にそういうのしないでしょ!」


「は、はい! ありがとうございます!」


「感謝なさい」
 ふふんと鼻を鳴らす。

「アスナ偉そうやな~。なんもしてないのに」
「このか~」

「あはははは」
 復活の喜びの中、一ヶ所だけ暗かった場所に、笑いが生まれた。


「あれやな~」
「なんでしょう?」

 木乃香の言葉に、刹那が聞き返す。

「あれや。ネギ君、つき物が落ちたって感じや」
「そうですね」


 ネギが背負ってしまっていた暗いなにか。それが、綺麗に消えてしまっているように見えた……


「あれやで。せっちゃんの時と同じやで~」
「私の時と……?」


 木乃香が、納得したように言う。


「京都でウチを助けてくれた時。せっちゃんも同じような顔しとったよ~」
 うふふ。と、あの時を思い出して、木乃香は笑った。


「そうですね。私も、ネギ先生も……」
 影ながら、あの人に救われています。


 刹那は再び、視線を石化の解除に奔走する少年へと向けた。



 素顔で、人々を救える彼の姿を……


 ……皮肉なものですね。

 宇宙刑事でなくなったからこそ、こうして堂々と素顔をさらし、人を救う事が出来る……



 刹那は思い出す。


 あの学園祭の時、彼が影ながら、この星を救っていた事実を教えてくれた事を。


 世界は救った。

 だが、その時の傷が原因で、彼が体を借りていた少年は、完全に死んでしまったのだという。
 彼の命を救うために回していたその力を使わねば、自らが死に、この星の命全てが異星人に侵略されてしまっていたから……


 だから彼は、私に、宇宙刑事である事を辞めたと言ってきました。
 たった一人の命も救えない男に、宇宙刑事という正義を成す事など出来ないと。


 大勢の命よりも、たった一人失われた命の方が大切だと言いました。


 ですが、学園長より聞きました。その少年は、あなたが来る前に自らの命を絶っていたのだと。
 あなたに感謝の言葉を言い、成仏したのだと。
 格闘大会でネギ先生が母のナギさんと出会ったように、その遺言を渡すためだけに、この世界へ一度舞い戻ったのだと。
 その少年もまた、あなたに救われたのでしょう。


 それでもあなたは自分が許せなかった。


 そして、もう一つ。
 あなたには、この星で愛する人が出来てしまった。
 それもまた、この星で犯してはならない宇宙刑事の禁忌……

 だから、宇宙刑事の地位を捨て、この星で、その少年の代わりに、生きてゆく事を決めたのですね。


 少年の代わりに、その少年の生きた証を、この星に残すために。
 その少年として、大切な人を、守るために。


 ですから私だけは、忘れません。この心を。あなたが宇宙刑事であったという事を。そして、あなたが今でも宇宙刑事であるという事を!


 資格を失ったからなんです。
 あなたは私にとって、永遠の宇宙刑事なんです!


 むしろ、その資格を捨ててまでこの地球を守る姿は……



 ……とても、とてもかっこいいと思います!



 きらきらと、尊敬の念は薄まることなく、彼を見るその瞳は、より輝きを増していた。
 恋という余計な感情はすでになく、そこにあるのは、畏怖と尊敬をこめた、宇宙刑事を見る目だった!



 そして一方。石化の治療中に、その刹那の視線に気づいた彼は……



 ぐふっ……


 また、あのキラキラした目が俺を貫いている……
 あの時、全てを清算しようと宇宙刑事は廃業したと伝えたが、やはりダメだった……


 むしろ余計に目がキラキラしたような気がする。


 いまさら全部嘘なんてこのキラキラした瞳には言えない。
 ついでに星を守ったのはある意味事実だから、信じてもらえそうにない。
 ただ一つ幸運なのは、もう正体を隠す必要がないって事かな……
 ヒーローの姿を演じなくても済むって事かな……


 隠せないから余計に大変。という話もあるけれど……


 心の中で血を吐いて、しかしそんな事はちっとも表に出さず、俺は刹那君の視線に答えせっせと石化の解除を進めるのだった。


 いいんだ……俺の心が傷つくだけで、この子の瞳が守られるなら……



 子供の夢は、壊しちゃいけないよね……




 こうして、ネギ最大のトラウマである村の崩壊。
 そのトラウマは、彼女の心をえぐる事なく、一つの区切りを迎えた。

 しかし、ヘルマンに憎しみの原点も刺激されず、この場でそのはじまりすら失った彼女は、そのまま心に抱えるはずだった闇をそっくり失っていた。
 闇の魔法に必要であるそれは、目に見てわかるほどに、失われてしまったのである。




──────




 翌日、早朝。
 復活の宴会もそこそこに、俺達は魔法世界へと旅立つ事となった。


「じゃあ、行ってきます。お姉ちゃん、おじいちゃん、スタンおじいちゃん、アーニャ」

「うん。ごめんねネギ。一緒に行けなくて」


 謝っているのは本来なら魔法世界へ一緒に行くはずのアーニャ。
 両親と再会したのだから、そちらと一緒にいるのも、ある意味あたりまえだろう。
 ネギより年上といっても、たった一つ上の11歳なのだから。

 他に居るのは、校長のじーさんとネカネさん。それと石化から復活したスタンじいさんの四人。
 見送りを望む人は大勢いたが、ネギの生徒にバレるという理由で少数に限定させてもらった。


 かわりに村では、今日からしばらくお祭り騒ぎで残りの子達はVIP待遇でお楽しみとなる。


「気にしないでアーニャ。思う存分おじさんおばさんに甘えていいと思うよ」
「あ、甘えないわよ!」

「あはは」
 赤くなった彼女を見て、俺達は笑う。


 挨拶も終わり、ネギ達一行は霧の向こうへと歩き出す。


「それじゃ、俺達も行ってきます」
 俺の方も、残った人達に手をあげる。

「うむ。君にはいくら感謝してもし足りないくらいじゃ」
 スタンのじーさんが俺にまた頭を下げてくる。

「いえいえ。報酬はちゃんといただきましたし……」
 ちらりとアーニャを見て。


「……それにどうせ、俺がしなくても、数年すればネギがどうにかしたでしょうから」


 むしろ、あいつらのモチベーションの一部を奪う形になってしまったかもしれない。とは思うが、さすがにそれは口には出さない。


「数年早いというのは大きな違いじゃと思うがのう」
「それに、ネギの件でも感謝せねばならぬしな」
 交互に言われるとどっちが話しているのかわかんないよおじーちゃんず!
 ちなみに上が校長で下がスタンさん。


「別にそこまで感謝されるような事やってませんけどね」
 特にネギ!


「では、ワシ等も報酬を払うしかないようじゃの」
 俺の話を聞いた校長のじーさんが不敵な笑いをあげる。


 そして……


「「ありがとなのじゃ」」
 と、爺さん二人が肩を組んで笑った。


「……世界を救える価値があるのは可愛い女の子のなんすけどね」


「そうじゃったかのう?」
「こいつはすまんかったのう」
 ナハハハハと笑う。


 ははっ。おちゃめなじじいどもめ。
 じーさんの笑顔じゃ、村一つがせいぜいですよ。


「そうですよおじいちゃん。かわりに私が……」
 そうネカネさんが言い出した瞬間。


「遅れるぞ。アホ」
 そのまま必要になる宿のローブのフードをエヴァにつかまれ、そのまま引っ張られる事になった。

「ぐえっ」
 ある意味お約束である。



 そのままずるずると、引きずられる形で俺とエヴァはネギ達の後を追うことになった。



「それじゃ、また会いましょう!」
 しゅっといつものポーズで、じいさん達に別れを告げた。




「ふふ、いってしまったわね」
「ネギの事、頼んだわよー!」
 名残惜しそうにするネカネとアーニャが消えた背に言づてを発する。


 そしてもう一方じいちゃんず。

「いやはや、またとんでもないお方をよこしたもんじゃ。コノエモンのヤツ」
 校長が、霧に消えた少年の背を思い出し、ひとりごちる。

「一体、何者だったんじゃ?」
 スタンじいさんが、もっともな疑問を校長へぶつける。

「うむ。ネギはもう一人の『サウザンドマスター』と言っておったが、あやつの手紙によれば、この世に顕現した、日ノ本でいうところの『神』だそうじゃ」
「そいつはまた、とんでもないのう」

「とんでもないじゃろう? 一応、秘密だそうじゃ」
「ま、公には出来んわな」

 なので二人で彼にお祈りをささげておいた。


 きっと彼が聞いたら、耳を押さえて転げまわるに違いない。
 下手すりゃ再建された村に石像とか立っていても不思議はないし。




──────




 ネギ達に追いつこうと歩いていると、明日菜君とあやかお嬢さんが話しているところに出くわした。


「ああ、お邪魔しちゃったかな」


「いえ、ちょうどよかったですわ。このおサルさんとネギ先生、よろしくお願いいたしますわ」

「だ、誰がおサルよ!」
 むきーっと明日菜君が吼える。

 うん。おサルだ。


「任せておきな。エヴァンジェリンがなんとかしてくれるから」

「なぜそこで私にふる」

「俺もまあ、そこそこがんばる」

「そこそこどころではなくネギ先生を全身全霊でお守りなさい!」

「わかったわかった。がんばるから、そっちも頼んだよ」

「当然です。黒服の皆様がしっかりと見張っていますから安心なさい!」

「見張るって?」
 俺とお嬢の会話に、明日菜君が疑問を上げる。

「君のクラスメイト。絶対約束守らない子が何人か居るから、プロに行かせないよう頼んでおいた。宿から出させないように」

「あー」
 彼女にも心当たりがいくつかあるのか、納得したようにうなずいていた。



「アスナさーん。なにしてるんですかー? はぐれちゃいますよー」

 ネギの声が、霧の向こう側から聞こえる。

「つーわけだから、行ってくるわ」
 しゅたとしゅっとお別れをして、俺はエヴァと歩き出す。

「あんたにはいつか話すから」
 そう言い、あやか嬢に別れを告げ、明日菜君も歩き出す。


「行ってらっしゃいませ」
 あやかの見送りも、無事終わった。




 一方村。
「いいんちょずるーい!」
 泊まっている宿の玄関をがたがたと開けようとするが、びくともしない。窓も試したが、無駄だった。
 部屋からは出られた。しかし、外には出られない。

 当然ただの中学生しか居ない彼女達では、彼用に増やされたプロの黒服執事の目を潜り抜ける事は出来ず、村に足止めされていた。

 なにより……

「ちづ姉どーしてー!」
「あらあら」

 さらに彼女達の前には、にこにことその進行を阻む那波千鶴の姿もあった。

「私ね。頼まれたのよ。だから、みんなを行かせるわけにはいかないの」

 あやか嬢の黒服への頼みと同時に、彼女も彼から頼まれたのだ。今から行くところは危険な場所。遊び半分で来てはいけない。
 だから、彼女達をここに留まらせてほしいと。真剣に。

 彼から頼まれてしまったのだ。ならば、その信頼を裏切って、彼を本当に困らせる事は、彼女には出来なかった。
 彼をいつも困らせる自分だからこそ、その頼みは、その信頼は、絶対に裏切れなかった……

「だから、みんな。おとなしく待ちましょうね」
 なにより、好きな人の役に立てるなんて、最高の誉れなのだから。


 その微笑みは、菩薩のようであったが、その前に立つ少女達からすれば、大魔王のようでもあった……


 ですから安心して、行ってきて下さい。お二人共。
 そして、ネギ先生。皆さん。

 私達は、この村であなた方が戻るのを、お待ちしています。




 ……村の方から、エヴァのクラスメイト達の悲鳴が聞こえた気がした。


「それで、具体的にはどうするんだ?」
 ゲートへの道すがら、小声でエヴァが俺に聞いてくる。


 さすがにここで起きる事への対処を手伝ってもらうため、簡単な事は説明してある。
 だが、フェイトが現れるからそれをどうにかするのを手伝って。くらいの説明のため、そんな質問が放たれたわけである。


「ああ。ゲートに現れるフェイト一行をとっ捕まえて、計画やその背後にいるヤツを白状させる。そして、丸ごと叩き潰す!」


 ぐっと、開いた掌を握った。


 俺達とネギ一行がゲートに行く日、フェイトがゲートに現れる事は、的中率100パーセントの『○×占い』で○。しかも俺達が来る事に気づいているかは×が出ている。
 ならば逆に、そこでフェイトをとっ捕まえて、根本から叩き潰してしまおうというわけである。もし俺と黒幕(『造物主』?)がなにか関係あっても、エヴァもいるから心強い。
 先手必勝。そうすれば、ネギも安全俺も平穏ゲットだぜ。

 ちなみに、○×でしかわからないので、関係あるかは聞いていない。質問の加減が難しいので、過信しすぎると逆に危険だから。○が出ても×が出ても叩き潰す事には変わらないし。


「あの人形がそう簡単に自白するとは思えんぞ」

「だーいじょうぶ。まーかせて」

 懐から取り出すのは……


『白状ガス』
 スプレー缶に入ったガス。これを吹き付けられた人は、どんなに秘密にしていたことでもペラペラしゃべって白状してしまう。


 エヴァにふきかける。
「はい、しゅっとかけて。エヴァ」

「? なんだ?」

「俺の事、どう思う?」

「大好き」
 エヴァの口が勝手に動いた。
「っ!」


 エヴァがあわてて口を押さえるが、周囲にいる人達大注目。
 当然周囲に居るのは、ネギ達ご一行だ。
 みんな突然の事に目を丸くしている。


「もう一度」

「大好き」

「せっかくだからもう一回」

「大好き!」

「とまあ、このように、効果は抜群。なんでも白状してしまうのさ」

「お、おまっ……!」
 人前では絶対に言わない事を言わされたエヴァンジェリンは真っ赤だ。

「それでも俺の事は?」

「大好きだ!」

「俺も好きだ」


 ぶん殴られました。


「こ、こ、この、アホ!! お前なんて、大好きだ!! ああもう!!」
 頭をかきむしるエヴァンジェリンでした。

「ふむ。ちゃんと動けないようにしておかないとダメだな。欠点がわかってなにより」

 背中をぽかぽか殴られているが、気にしない。




 そんなわけで魔法世界、行ってきます!





─あとがき─

 やっと、第1部エピローグ部分で語られた個所に追いつきました。想像以上に話数がかかりましたが、不要な話はないはずなのでこれでいいのだ。


 次からが、第二部の本編。いよいよ開幕です。


 ちなみにアーニャは素直に帰ってこないネギを連れ戻しにきただけです。
 主人公に対して敵愾心を持ってたわけではないので注意です。

 しかし、いらんとばっちりを受けてかわいそうにアーニャ。勝手に抱きかかえられて、怒りに振り回されて、最後は二人の世界作られて蚊帳の外とは。
 まあ、そんなトラブルも、お父さんお母さんとの再会のための代償と考えれば、きっと安い物です。



[6617] ネギえもん ─第26話─ エヴァルート14
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/04/07 21:34
初出 2012/03/20 以後修正

─第26話─




 魔法世界編はじまります。




──────




 魔法世界と現実世界をつなぐゲート。


 巨大な魔力を収束させるパワースポットの上に立ち、巨石によって描かれた陣により、異界と異界の扉をつなげる場所。


 巨大な岩の積み木に囲まれたそこ。
 そこが、ウェールズに存在する、ゲートポートであった。



 そこに一人、人形を思わせる白髪の少年が、ローブを纏い紛れこんでいた……




───フェイト───




 ゲート。


 僕は、ある目的の為に、現実世界から魔法世界へと移動しようとしていた。


 ゲートの発動まであと二十数分あまり。
 さすがの僕でも、この発動を早める事は出来ない。


 なのでただ、その時間が来るのを待ち、ゲートの中で待つしかなかった。


 ゲートの要石であり、中心にそびえる巨大な岩を感慨もなく眺めていた時だった……



「テルティウム」



 背後から、声をかけられた。
 しかもその名は、アーウェルンクスとして起動された、地のアーウェルンクスである僕につけられた、『ナンバー』

 三番目という意味のそれ。

 それを、この世界で知るのは……
 この、『現実世界』でその名を呼んだのは……


 振り向いた先にいたのは、一人の少年。
 黒髪で、14、5歳の、一見するとどこにでも居そうな、ただの少年だった。



「ひさしぶり」



 その少年は、この僕に対し、事も無げにそんな言葉をなげつける。


 僕は、この少年を知っている。
 あの吸血鬼の匂いに隠した一般人の雰囲気。あの時感じさせた仮面そのままに、僕の目の前に現れたのだから。

 僕の名とその雰囲気。
 目の前の少年が、あの京都で僕を翻弄した仮面の男だと理解する。


 なぜこの場に!?
 まさか、僕達の計画が漏れていた!?

 憶測を固めても仕方がない。
 思わず距離をとろうとするが、さらに背後から新たな気配を感じる。


「逃げようなどと考えない事だ」


 背後に感じた気配。
 こちらは感じた事はない人間の気配だった。


 だが、その声の主が誰なのかは見当がつく。


 『闇の福音』、エヴァンジェリン!
 あの男と共に僕を挟みこんだという事は、彼女がこの場にいるという事は、やはりあの時、あの伯爵を始末したのは、彼だったんだね。

 そして、いつの間に、学園から出られるようになったんだい? 想定外すぎるよ。


 闇を纏い闇を祓う男と、真祖の吸血鬼に挟まれるとは。分が悪すぎる……


 だが、相手もこの場では下手な事は出来ないはずだ。


 このゲートで騒ぎを起こすのは、彼等とてよしとはしないはず。
 ならば、脱出するチャンスはいくらでも……



「そうそう。動かないでね。無駄だから」


「っ!」

 少年がなにをしたわけでもないのに、体の自由が利かなくなった。
 指一本たりとも動かせない。声すら出ない。


 僕に一体なにをした?
 発したのは言葉のみ。

 この男はたった一小節の呪文であの鬼神を祓った。


 だがこれは魔力すら感じない。


 まさかこの男、言霊すら自由に操るというのか?

 僕が出来る事は、目の前の少年を睨む事だけ。屈辱だよ。



 ちなみにこの時使用されたのは、前にヘルマン戦でも使用された、『相手ストッパー』である。

『相手ストッパー』
 相手を思い浮かべ、声で命令すると特定の相手の手足の動きを止めることが出来る。
 場合によっては相手の時間も止められるとんでもない代物。



『……早く殺したらどうだい?』
 なんとか念話は使えた。
 いや、これは許可されたと言った方が正しいのかもしれない。

 彼等が何者なのかを問うても意味はないだろう。僕も同じ事を質問されたとして、答えはしない。
 そして、こうして捕えられては、目的すら達成は不可能。

 ならばこの身を滅ぼす事が僕の選びえる最善の選択だが、それすら取れないのでは無意味だ……


「命乞いをしないのは潔いね。でも、ここじゃ派手な事は出来ないから、あっちでな」


 そう言いながら、黒髪の少年は一枚のシールを取り出した。
 なにを、する気だ……?


 シールを指差し、少年は説明をはじめる。


「これは、貼られると周囲にそれはここに書いたモノとしか認識されなくて、しかも自身もそうであると思いこんでしまうものさ」

 名を、『代理シール』と言うのだそうだ。



『代理シール』
 このシールにモノの名前を書いてなにかに貼ると、その貼られたモノはその名前のモノになる。外観は変わらないが、周りの人はそのモノをシールの名前のモノと思いこむ。
 また人にシールを貼った場合、貼られた者はその名前のモノになりきってしまう。
 例えばポストと書いたシールを人に貼れば、その人はポストとなって道端に立ちすくみ、通行人はそれに手紙やはがきを入れに来る。人間の場合は、主に口などにそれはいれられる。
 シールを剥がせばその効果は消える。つまり、剥がされない限り……



 彼の手に持つそれには、『ネコ』と書いてあった。


「いきなりやったらなにがなんだかわからないだろうから、実演を一つ」


 と、僕の背中にいた『闇の福音』。エヴァンジェリンを手招きし、自身の隣へと呼んだ。


 僕の背後より、金色の髪をした少女が現れる。
 正体そのままの姿で来るとは、大胆な女だ……


 もっとも、すでに彼女は伝説の『サウザンドマスター』に屠られた事となっているため、逆に本人が居るなどとは思われないのだろうけど。


 隣へ来た少女に、少年はぺたりとそのシールを貼り付けた。



 僕の目の前で、信じられない事が起こった。



 少年の隣にいた少女の姿が突然変わったのだ。
 変化? いや、魔力は感じない。少なくとも、魔法ではない。

 これも僕の動きを封じた、言霊の一種なのか? だが、そのような魔法体系があるなど、僕の知識にもない。


 にゃーにゃーと足元にじゃれつく毛並みのよい美しいネコを、少年は持ち上げ、抱きかかえる。


「おー。かわいいなー」
 抱き上げられたネコが、喉をごろごろ鳴らす。顎をかいてあげ、その頭を撫でやる。


 そこにいるのが、あのエヴァンジェリンとは思えなかった。
 僕の目に映るのは、毛並みの美しい上品な猫にしか見えない。


 少年はネコをあやす事を堪能したのか、シールを貼った場所へ、手を伸ばす。


 するとそのネコは、僕の目の前で真祖の吸血鬼(?)へと姿を変えた。

 いや、姿を変えたというのはやはり正しくない。


 僕の認識が、それをネコだと思いこんでいたというのが正しいのだろう。
 理解してしまう。
 少年が言っていた事が正しいのだと。


「はっ! お前、私になにをした!」
 抱きかかえられた少女が驚いたように声を上げる。

「大丈夫。誰も気づいてないから。かわいかったぞ」
 少年が、あはは。と少女を見て笑う。

「なにをしたー!」
 少女が本気で恥ずかしがっている。あれが演技ならば、人の世のアカデミー賞がもらえるだろうね。


 だが、あの『闇の福音』にすら自身をネコだと思わせてしまう。
 彼女のレジスト(抵抗)を打ち破り、力を行使した……
 それが、どれほどの事なのか理解出来れば、これ以上の抑止力はない。


「それは秘密さ子ネコちゃん」
「誰が子ネコだ!」


 ぎゃーぎゃーと少女を抱きかかえたまま口論をはじめる一つのカップル。



 この僕を目の前にして、なんという余裕だ……



 だが、当然か。
 目の前でそんな事をされていても、僕は動けないのだから……

 このような余興をされても、僕はこの金縛りを抜け出せないのだから……


 喧嘩をはじめたカップルに、周囲の視線が集まる。
 だが、僕の異変に気づくものは誰もいない。


 遠くで「またやってる」とか、「微笑ましいねぇ」なんて声が聞こえるが、僕の異変に気づかない。
 それはそうだろう。
 他者から見れば、僕はただ、そこに立ってその喧嘩を眺めている一人でしかないのだから。

 魔力で縛られているわけでもない。物理的に拘束されているわけでもない。
 ただ立っているだけなのだから。



 喧嘩もひと段落し、少年が少女を降ろし、謝れば、そのイヌも食わないだろう喧嘩も収束したと判断した周囲の視線も散ってゆく。



「と、いうわけだよ」

 きりっとした顔で僕へ言うが、その頬はひっぱられた跡で赤くなっていた。


 少年は隣にいる少女の頭を一度撫で、その手を払いのけられたが、手を握り、共に僕の方へと歩み寄る。



 ……君は、何者だ?



 懐から取り出すのは、同じシール。
 だが、そこに書かれているのは、『キャリーつきバッグ』



 僕の名を知り、僕の現れる場所を予測し、あまつさえ僕のレジスト(抵抗)などないように動きを止める。



 僕に、シールがせまる。



 ぞっ。
 まただ。またこの感覚。


 僕に無いはずの感覚。
 恐怖という、感情。
 それを、感じた。



 君は、何者なんだ!



「というわけだから、しばらくキャリーつきバックになってて」


 それを貼られた瞬間。僕の意識は、バッグになった。
 キャリーつきの。




──────




 ゲート発動直前。


 魔法世界はどんなところかをきゃいきゃい想像し、おしゃべりしているネギ達ご一行の元へ、エヴァンジェリンカップルが姿を現す。


「あ、にーちゃーん!」

 突撃するコタローだが、今回は珍しく、その手に持ったキャリーつきバッグで進行を止められた。
 正確には、盾にして。


「うぐぐ……なんか、中途半端に硬いぃ……」
 つっこんで打ちつけた頭をおさえ、地面にへたりこむ。


「あれ? 鞄持っていましたっけ?」
 コタローが突撃したそれを見て、ネギがそんな声を上げる。

「ああ。向こうで必要な書類とか、出しやすいようにな」
「そうですかー」

 彼の言葉に、ネギはあっさりと納得。


「……」
 それを傍目から見ている少女が居る。


(本当に、カバンと認識されているのか。相変わらず出鱈目な力だな)


 手を握り、共に貼ったので、エヴァンジェリンにも彼が運ぶカバンは、白色の髪をした少年に見えていた。
 彼女には、白髪の少年を手で引く黒髪の少年が目に映る。

 見る人が見れば、ちょっと怪しげに見えるだろう。が、エヴァにその趣味はない。
 心にも余裕がある。この程度の事で腹も立たない。


 ちなみにコタローはフェイトのデコに思いっきり突撃したようだ。


 次は、ゲートの向こう側に居る、ヤツの仲間か……
 そう思いながら、エヴァンジェリンはゲートを制御する要石を見る。



 ゲートの発動が、はじまろうとしていた。




──────




 ゲートが発動し、現実世界と魔法世界が繋がった。



 魔法世界側、ゲートポート。



 そこでフェイトの到着を待っていた三名は困惑する。
 待ち合わせの時間を過ぎてもそのフェイトが姿を現さなかったからだ。


 あの少年が時間に遅れるはずがない。

 つまり、なにか不測の事態が発生した事を意味している。


 だが、彼等の計画。
 このゲートポートの要石を破壊し、ゲートを破壊するのは、フェイトが居なくとも実行が可能である。


 ならば、予定時間がきて彼がいなくとも、動くべきである。

 彼等はそう判断し、少年抜きで計画を実行しようとしたその時。



 顔を見合わせ、うなずいた次の瞬間……



「なのに……なのになぜ私達は、氷の棺に顔だけ出した状態で捕まっているのだー!」
 『完全なる世界』最後の幹部。デュナミスは、思わずそう叫んだ。


 コマがかわったらこうなっていたかのようだ。
 ページをまたいだら、もうこの状態だったような感覚だ。

 過程が完全に吹き飛ばされてしまっている!
 なんだこれは!


「……時間、停止」
 一番小さいローブの存在。小柄で少女のようでもあり、老婆のようでもある、彼等には墓所の主と呼ばれる存在が、ポツリとつぶやく。


「っ!? バカな。時を止めるなど、この場で出来るはずがない。そんな事をする魔力をひとかけらも感じれば、我々だけではなく、ゲートの警備も気づくはずだ」
 そもそも、そんな大魔法、今行おうとしている計画でも実行しない限り、魔力不足で実現不可能だ!


 だが、気づく。


 テルティウム(フェイト)の言っていたあの存在。
 京の鬼神を闇を纏ったまま祓ったというバケモノ。

 あのテルティウムすら認識する事が出来なかったという防御も回避も出来ない、『完全なる一撃』
 あれが、時間停止によって引き起こされたのならば、納得もいく!


 動けない中殴られれば、それは防御も回避も出来ぬだろう!


「ならばそいつが、この場に居るというのか!」
 くわっ。


「あー、もうしばらく黙っててね」


「もがっ」

 黒髪の少年の手により、その口の中に、綿が押しこめられる。
 実はデュナミス。こここまで説明全部口に出して解説していた。


「もが!?」
 訳『さらに気づく事があった』


「もがが!」
 訳『なんと私達は、虫かごの中にとられられて居たのだ!』


 夏に現実世界の日本でよく見かける、半透明のプラスチックで覆われた、上部に網状の蓋がある夏の小学生のお供の虫かごに。


「ももんが!」
 訳『我々のサイズが普段の十分の一以下にされ、そこに入れられ運ばれているのだ! このような魔法、知らぬ!』


「もがが!(バカな!)」
 もがもが。


「もががー!!(バカなー!!)
 ももがー!!



「ええいうるさい。これ以上鳴くな虫」
 金髪の少女にデコピンを受け、デュナミスは意識を失った。



「……」
「……」
 それを虫かご内に残った二人は、ただじと目で見ているしかなかった。


 ちなみに虫かごに捕らわれた最後のもう一人は、月詠である事を一応補足しておく。




──────




 ふー。
 無事確保完了。


 フェイトはゲート前でカバンにしたし、残りは時間を止めてエヴァに魔法で拘束してもらったのちに『スモールライト』で虫かごに入ってもらった。



『スモールライト』
 きっと説明は必要ないと思われるほど有名な、懐中電灯を模した道具。
 ビッグライトとは逆で、光を照射された物体を縮小する。

 効力には時間制限があり、縮小してからある程度(多少個人差がある)時間が経過すると元の大きさに戻る。
 復元スイッチを押すと「解除光線」を発し、縮小されたモノを元に戻す事が可能。



 虫かごには『代理シール』で『中に誰も居ませんよ』と書いてあるので周囲の人から見ると、空の虫かごをもっているようにしか見えない。
 なのでエヴァがデコピンしていたりするのはへんな光景に見えるかもしれないが、税関とかでその虫魔法世界に持ちこんじゃダメですよ。なんて止められる事はない。


 動かない標的を相手に魔法をかけただけでつまらん。弱すぎる。不満だ。とかエヴァが言っているけど、そんな事言っている場合じゃないので却下して。


 どS大発揮するのはこのあとの尋問タイムにしてくれ。
 まあ、それも『白状スプレー』で出番ないだろうけど。


「……私はなにをしに来たんだ……?」
 『白状スプレー』の存在を思い出し、がっくりと肩を落とす。


「保険だよ。保険」
 ちなみに魔法を使ってもらったのはそのなにしに来たのかわからない感を軽減してもらうために使ってもらった。
 世界最強クラスのエヴァの魔法なら、敵も簡単に拘束出来るだろうしね。
 実際出来てるし、楽勝だって言ってたし。



 あえて補足をするなら、エヴァンジェリンは原作中も登場すれば造物主以外の敵を殲滅出来る実力を持っている。そんな彼女に『道具』を有してサポートする彼もいたのだから、素で完封されるデュナミス達に脱出出来ようはずもなかった。



 さて。続きの尋問はネギ達と別れてからだな。
 ゲート内じゃさすがにこれ以上無茶は出来ない。

 いや、鏡の世界とか行けば問題ないけど、今急ぐ必要がない。

「とりあえず、外に出ようか」
「そうだな」


 ネギと別れて、俺が王子様になった国へ行く前に片付けてしまえばいいだろう。


 キャリーつきバッグのフェイトはエヴァが運び、虫かごは俺が持つ。



 そうしてネギ達の後を追って、俺達もゲートの出口へと歩き出そうとした……




 その時……



 どくん。


「っ!?」



 どくん。



 胸の奥で、なにかがうごめいた……



 どくん。



 な、なんだ……?



『困るな。これ以上は……』



 頭に、そんな言葉が響く。


 左手に力が入らない。
 手から、かごが落ちた。

 床に落ち、「もがっ(ぐえっ)」なんて声がした。


「どうした?」
 エヴァンジェリンの声が、ものすごく遠くに聞こえる。



 どくん。



 左手が、勝手に動きはじめる。



 や、やばい。この展開、やばい。まさか、本当に、魔法世界にお父様展開ありえるのかよ……



「や、やばいエヴァ。止めろ」
 喉から声を吐き出す。


「な、に?」
 困惑した彼女の声が、遠くで響く。




「俺を、止めろー!!」




 最後の力を振り絞り、俺は声を絞り出した。


「っ!」
 俺の声に応えて、エヴァが動こうとする。
 こんな事もあろうかと伝えておいた、俺最大の弱点。『武装解除』を使うために。

 だが、エヴァの体は動かない。


 なぜなら、俺の左手には、『相手ストッパー』が握られていたのだから…… 


 しまった……さっきの台詞……止めろ、エヴァ……か……
 俺の意思だけじゃなかった……



 くっ、そ……意識、が……



『原子核破壊砲』
 意識の途切れる直前。そんな単語が、俺の頭に響いた……



 ──その名の通り、命中した目標は原子核が破壊され、消滅する……



 頭の中に、説明が流れる。


 それってつまり、それが外に出たって意味で……



 や、ばっ……




──────




「俺を止めろー!!」


 ゲートポート内に少年の叫びが響いた。

 声を聞き、多くの人がその少年に注目する。


 その中で少年は、その懐から、一本の銃を引き抜いた。1.5メートルほどある長い砲身を持つ銃を。

 その少年は、武器の持込が不可能のゲートポート内で武器を取り出したのだ。



 ──ありえない。


 その警備に関わるもの誰もがそう思い、一瞬思考を停止させてしまった。



 その一瞬が、命取り。


 少年は、躊躇する事もなく、その右手にある銃の引き金を引いていた。

 誰にも止める間もなく、それは目標へと吸いこまれる。



 光が瞬いたかと思った次の瞬間。
 それは、消滅していた。



 現実世界と、魔法世界をつなぐゲートの要石。
 膨大な魔力を蓄える、力の石。


 それが、たったの一撃で、消滅してしまったのだ。



 ずん!



 ゲートポートを襲う、重い衝撃。
 場に居た誰もが、気づいた。


 それが破壊されたという事により、そこに溜まっていた力がどうなるのか。



 ──このままでは、扉をつなぎとめていた魔力が暴走し、大爆発を引き起こす。



 床が、小さく振動をはじめる。


 ゲートに溜め込まれた魔力の暴走が、はじまった。



「き、貴様、なにをしているー!」

 我に返った警備の者が、殺到しようとする。



 だが……



 少年の口が小さく動いたかと思った瞬間。

 全ての警備兵の動きが、とまった。


 エヴァンジェリンと同じく、その指一本たりとも動かなくなったのだ。


 暴走をはじめた魔力の波動が広がる。
 それが小さな衝撃波となり、その場を走り抜けた。


 そんな事など気にも留めず、少年の目が、ゲートの周囲を見回す。



 そこには……

 魔力の暴走に、思考を放棄し、ただ呆然としているもの。
 ゲートから必死に逃げ出そうとする者。
 その場に謎の力で縫い付けられ、身動きがとれない者。

 そして、抗おうとする者がいた。


 しかしその全てに興味がないよう素通りし、ある場所でとまる。


 銃を懐にしまい、ゆっくりと、口を開いた。



「久しいな。我が娘よ」


 少年が唯一興味を示したのは、虫かごに居る者でも、キャリーつきバッグとしている白色の髪をした少年でもなく、背後で動けなくなっている、一人の少女であった。




───フェイト───




 暴走をはじめた魔力の波動が広がる。
 それが小さな衝撃波となり、その場を走り抜けた。


 それは、爆発の予兆であり、警告であった。


 その暴風により剥がれ落ちる一枚のシール。
 衝撃で倒れ、転がった少年は、自分が自分であるという意識を取り戻し、それを、見る。

 顔を上げた先にある、存在を。


 そこにいたのは、自身の主そのものだった。
 不死であり、不滅である、主が、黒髪の少年の体をヨリシロとし、そこに、いた……


 しかし主は今、世界のどこかに封じられているはずだ。
 我々は、その主の悲願を達成するために、この計画を実行しているはずだ。


 完全なる世界。
 死に行くこの魔法世界の生きとし生けるものの魂全てを救済する。

 黄昏の姫巫子を利用し、この魔法世界をリライトする事によって、この世界を『完全なる世界』へ封じ、理想の人生を歩ませる。

 その計画……


 だが、その計画の中に、主が今ヨリシロとしている少年は存在しない。

 しかも、彼は我々よりも、高位の力を持った存在だ。
 予測でしかないが、彼の力があれば、我々の計画手順などを無視し、この魔法世界そのものを救う事も可能であろう。


 なにせ彼は、闇を纏って闇を祓ったのだ。それ以上の奇跡を、現実世界の理すら捻じ曲げていても不思議ではない男なのだから……


 その少年の力は、主が用意したものなのですか?
 なぜ僕は、その少年の存在を知らないのですか?
 その少年の力を使うとすれば、今行っている計画はどうなるのですか?

 僕達は、あの計画を完遂するためのコマだというのに、その計画が失われたら、どうすればいいのです?

 万一その少年の力が本物だとすれば、我々の行った、救済という名の魂を奪う行為は、すべて無意味だったというのですか……?


 それとも、僕にも知らない計画が、あるというのですか……?


 主への目的意識、忠誠心が設定されていないフェイトであるがゆえ、そんな事を考えてしまう。
 主を疑うという行為が出来てしまう。


「ます、たー、なぜ、そのしょう……」
「黙って止まっていなさい。テルティウム。私は、大切な娘と話をしているんだ」

 質問をしようと声を上げた瞬間。また体が動かなくなった。
 倒れたまま、指一本たりとも動かす事が出来ない。


 一瞬向けられたその瞳。

 そこに、僕は映っていなかった。
 僕の知る、主の視線ではなかった……



 そこにあったのは、深遠の闇。

 闇よりもなお暗い、闇……



 そして、確信した。



 主はすでに、僕になど興味はないのだと……
 この計画に、なんの興味もないのだと……


 ゲートの破壊は、ただの気まぐれでしかないのだと……


 愕然とする……
 この計画を失った僕は、なにをすればいい……

 すでに周囲でなにが起きているのかもわからない。


 僕はそのまま、ゲートの爆発にまきこまれ、そのまま意識を失った……




───超鈴音───




「俺を止めろー!!」


 ゲートポート内に少年の叫びが響いた。

 気づいた時スデに遅シ。


 彼の一撃で、ゲートは破壊されてしまた。


 即座に気づく。
 コレが、ワタシに期待された、保険カ。

 まさか、彼本人とエヴァンジェリンが一瞬で無力化されるとは。


 外より現れた少年。
 その力が、鉄人兵団以外に狙われるという可能性はありえた事ダ。

 その器である少年の体。
 その少年が魔法世界の血を引いていると聞いた時から、予測はしていた。


 さすがに原子を破壊するようなあの一撃は止められないが、彼を呼び覚ます事ならば出来るハズ。
 だから、彼を呼び覚ますためのプランを実行するヨ。


「明日菜サンすぐにそれを叩き割るネ!」

 持っていた封印の箱を明日菜サンへと投げる。

 この中には皆の武器やパクティオーカードが入てる。それは、強力な封印がかけられており、ゲートポート内では解けることはない。
 ダガ、彼女の能力ならば、それを解除する事が可能ネ!

「う、うん!」
 事態は理解出来てナイようだガ、体は動いたようだ。
 こういう時、考えるより先に体が動いてくれる人は助かるヨ。


 バギン!
 という音を立て、箱の中から皆の武器が飛び出す。


「ネギ先生! 皆も全力で目の前のヤツに攻撃ヲ!」

「ですけど!」
 ネギ先生が、躊躇する。
 それも当たり前だろう。

 目の前のヤツとは、彼女が尊敬するもう一人の『サウザンドマスター』なのだから。


「世界を滅ぼしたいカ! あの人がワタシ達の攻撃で死ぬはずないネ! あの人を呼び覚ませる衝撃を与えるだけでイイ! 全力でなければ、皆の心は届かないネ!!」


 声を荒げ叱責する。
 ワタシが声を荒げる事態。
 それで、彼女も今のヤバさを理解してくれたようだ。


「っ! わかりました! 皆さん!」

 即座にネギ先生がフォーメーションを指示する。
 今ヤツは、私達に注意を払っていない。
 払う必要もないからだろう。
 それほどの差が有るはずだ。

 チャンスは一度。

 だが、ワタシ達の力を合わせれば、あの人の意識を取り戻せる一撃くらいは放てるハズ!
 その心は、伝わるはず!


「全員。全力デ!」

「はい!」


 ワタシの言葉が、全員に届いたようだ。
 考えている余裕はない。

 皆、ネギ先生の指示の元、最大の一撃を放つ事に集中した。


 ネギ先生の人の心をまとめる力。
 それならば、ワタシ達全員の心を乗せ、あの人に届くハズ!


 ワタシも攻撃に参加したかたが、呪紋は発動から魔法の使用までのタイムラグが長すぎ、科学のアイテムでは技にあわせる事が不可能との事なので、非戦闘員を守る盾を張る以外なかた。
 こういう時、理論のみで技を持たない自分が不甲斐なく思うネ。


「行きます!」

 破壊されたゲートなど、彼ならば一瞬で直してくれる。
 あの鉄人兵団のリルルが、自身を直したあの光線を使って。


 彼さえ取り戻せれば、それでどうにかなる!


 ゆえに、ワタシ達は、ワタシ達に出来る事をするのだ!


 明日菜サンの力で取り出した武器を手に、彼女達の渾身の力をこめた一撃が、放たれる。


 明日菜サンの斬撃により相手の魔法障壁を無効化。
 そこに、各員の必殺技を、ネギ先生の指示で叩きこんでゆく。


 最も効果のあるタイミングを的確な指示で放たせ、それぞれがそれぞれの一撃の効果を高め。
 そして最後は、その必殺技たちをさらに収束させるように、自身の魔法を重ねる!


 近くに居るエヴァンジェリンには当たらぬよう、範囲を狭めさせ、その分収束した事により、威力が上がる。


 ワタシ達の力を、足し算ではなく乗算にするその力!
 ネギ先生のスタイルと、修行により高まったその力で、彼を呼び覚ますしてくれ!


 目標は、彼を操るナニカ!!


 床に転がった少年になにか話しかけ、注意がそこに向いているそこへ。


 その威力を見て、ワタシはいけると確信した。
 これならば、どれほどの魔法障壁があろうと、物理障壁があろうと、とどく! と。



 だが……



「っ!? バカナ」

 皆の必殺技が一つとなり、その光の本流がその男に突き刺さた。



 はずだた。



 暴風が吹き荒れ、光が拡散し、煙がはじける。



 視界を覆う光がはれたその先……



 そこには……



 そこには、傷一つない男が立っていた。いや、無傷どころか、その衣一枚、髪の毛一本たりとも、揺るがせる事すら出来ていない!



 ──この時、彼がネギ達に、何事もない魔法世界旅行をプレゼントしようとせず、事情を説明していたら、なにか変わっていただろうか?
 自身最大の弱点である、『武装解除』を誰かに使うよう指示していれば、なにかが変わったのだろうか?
 その答えは、否である。

 なぜなら……



 男の前には、見えない膜があるのがわかた。
 漂う煙が、その膜の存在を、わずかに映し出す。

 魔法ならば、明日菜サンの一撃で無効化されている。
 ならばあれは、魔法ではない。


 そう。あれは、彼の……



 ……科学の、力……



『バリヤーポイント』
 最大半径約2メートルのバリアを張る『道具』。
 そこを境界に、いかなるものの侵入も跳ね除ける。
 なにかをバリア内に入れたくば、そのモノの頭文字を呼んで「──のつくものはいれ」と言えばその頭文字のモノは全てバリア内に入れるようになるが、その入れる時間は、頭文字を言われてから短い時間だけである。
 ちなみにこれは、これらの『道具』を有する未来の警察が使用している『道具』である。
 アレやソレを持つ人々の盾となる警察組織が。である。
 それだけで、どれほどの防御力を有しているかも想像が出来よう。

 ただ、一つ補足しておけば、超鈴音の行動は、少なくともこの場合、最善ではあった。届かなかっただけで……



 今までこちらに興味を示さなかった男が、こちらを向く。
 こちらを見た彼の目は、ぞっとするホドに冷たかた。
 普段ワタシ達を見る、保護者のような視線ではない。


 その瞳はまるで、深遠の闇であるかのように見えた。


 その瞳でワタシ達を見据え、彼の口が、少しだけ動いた。
 声はこちらまで響いてこない。

 だがこれだけで、ワタシ達全員は、指一本動かす事が出来なくなた。


 発せられた言葉はおそらく、一言か二言。それだけで、ワタシ達も完全に無力化されてしまた!


 これが、あの鉄人兵団すら恐れさせた、力!
 その恐ろしさは、あのリルルの比ではない!

 ワタシ達では、どうしようもなかたというのか!
 あれほど修行し、あれほど強くなた彼女達ですら、彼のその影にすら届かないというのか!

 ワタシは、保険にすらなれなかたというのか!


 ワタシ達を歯牙にもかけず、男は再びそこを振り返る。



 その視線の先にいるのは、金色の髪を持つ少女。エヴァンジェリンだ……




───エヴァンジェリン───




 私は、この雰囲気を知っている。


 あの日学園で見た、憎しみの塊だ。
 あの悪魔が来た時あふれ出た、『闇』だ。


 だが、あの時と大きく違う点がある。


 それは、その『闇』が、強い意志を持ったという事。


 そして、その意思を、私は知っていた……
 600年前に、見た事があった。

 そう。それは、自分を、吸血鬼に変えた、男……!


 やはり、そうなのか……


 夏休みに入る前、アルビレオが彼には秘密で教えてくれた事がある。

 彼が『造物主』とやらと関係があるかもしれないと言われた後、ネギ達がナギの生存を知った後、私達はもう一度『神楽坂明日菜』の秘密を教えてもらうためヤツの所を訪れた。


 その際、彼には秘密で、教えられた事がある。


 それは、私を吸血鬼に変えた存在の事。
 吸血鬼となったその日、私の手で殺したあの男。


 アルに不滅であると言わしめた存在。

 それと、あの時話題に上がった『造物主』が、同一人物だったと教えられたのだ。


 すなわち、今私の前でうごめくその『闇』に宿る意思こそが、私を吸血鬼に変えた存在であり、『造物主』であるという事だ。



 なにがある場所に封印しただあのアホなすび。その意思は動いているではないか。



 だがこれで、彼がこの世界へ現れた理由に納得がいった。

 あの少年の体は触媒とされ、神ごとき力を持つ彼が、この世界へ召喚されたのだ!


 その力を、手に入れるために! その力を、渡さないために!!


 私を吸血鬼にし、彼を呼んだ貴様。貴様が、全ての元凶か!

 『造物主』よ!



「……そうだよ、我が娘よ」


 唯一自由である視線を感じ取った男が、私へ言葉を語る。


「美しくなったな。だが、吸血鬼を捨てたのは、いただけない」


 どこか優しい口調で。
 どこか優しいしぐさで、小さくため息をつく。


 語るな。


 その口で、その姿で、その声で、彼の言葉を、語るな!


 だが、私の想いなど無視し、男は言葉を続ける。


「永遠の命を持つお前は、私に必要なのだ。私を永遠に語る、語り部として……」


 っ!


 その言葉に私の心が締めつけられた気がした。

 またあの闇の中へ、私を引き戻そうというのか?

 しかも、そのようなくだらない理由で。


「ではまた、お前に永遠の命を与えよう。吸血鬼にしてあげよう」


 男の左腕が、私に向かって伸びる。


 思い出す。
 吸血鬼となったあの日の朝を。

 その身に感じた絶望を。
 人の身を失った、あの冷たい感覚を。


 また、この、人のぬくもりを、失うというのか?



 ……



 いやだ。


 あの闇に、戻るのは、イヤだ!



 だが、どれだけあがこうと、体は毛ほどさえも動かない。
 声すら出す事も出来ず、ただその左手がせまり来るのを見ているしかなかった。



 抵抗が出来なくて当たり前だ。
 この力は彼の力。

 その力を無理やり強奪したものなのだから。

 ならば、勝てないのも無理はない。


 それゆえ、それに気づいた時、よりその絶望が、増す……


 その手の軌道。
 その、軌道は、あごに手を当て、角度をあげさせようとするものだったのだから……


 それを認識した瞬間。



 闇に戻される事より、ぞっとした……



 その先に待つ行為は……


 や、めろ!


 だが、その手は止まらない……



 その体で、その行為を行おうとするのは、やめろ!



 私の拒否など完全に無視し、その手は、私へせまりくる。



 貴様は、私はおろか、彼の誇りまで穢すというのか! やめろ! それは、絶対に、やめろ!!



 口も動かない。
 ただ心の中で、必死に拒絶する事しか、私は出来なかった。



 吸血鬼に戻される事など、もはやどうでもよかった。
 その行為を、彼にさせる事こそが、彼の誇りを穢される事こそが、私を絶望させた。



 自分の事などより、その行為を彼にさせてしまう事こそが、涙を流したいほどに、嫌だった!



 せまりくるその左手が、私の顎に触れようとする……



 やめろ!



 やめろぉぉぉ!!




 その、心の叫びに──



 私へ伸ばしたその左手手首が、彼自身の右手に、つかまれ、止まる。



 ──応える者が、いた……!



「ざっけんな……っ!」
 彼の口が、動く。
 声を、取り戻す。


「人の、体で!」
 その右腕が、左腕を強引に、私の前から押し戻す。


「人の嫁に!!」
 押し戻した左腕の手首から右手を放し、拳を、握る!



「なにしようとしてんだてめえはー!!!」



 それをそのまま、彼は自分の顔面に叩きつけた!



 ゴッ!!!!



 衝撃が、彼の体を走り抜ける。

 彼の背から、闇がはじけとぶのが見えた気がした。




──────




 闇の中。また、声が聞こえた。


 俺の大切な人が、俺を思って声をあげたのが聞こえた。


 愛しい人の叫びが。俺を想う声が、聞こえた!



 だれ、だ……!


 エヴァンジェリンに、悲痛な叫びをあげさせたのは、誰だ!!


 俺の嫁をいじめてんのは、どこの、どいつだ!!!



 だから、拳を握って、その憎たらしいヤツをぶん殴った!!



 そうしたら、自分がその衝撃で、のけぞる事になった。


 いってぇ。

 だが、気分は悪くない。


 体からなにかが抜けたのがわかる。
 体に自由が戻……


「っ!」

 左手がまだ、自分の意思を無視して動いた。

 その手は勝手に、俺の意思に反して、ゆっくりと、ポケットへと手を伸ばす。
 俺の抑制に抗い、その力を行使しようと、動いていた。


 俺の左手は、俺の体を勝手に操るヤツは、まだあきらめていない!


 なにを狙っているのかわからないが、前に一度、『スペアポケット』を奪われた経験がある。

 なにを狙っているにしても、渡すわけにはいかない!


 今俺が『道具』を出すチャンスは一度だけしかないだろう。

 それを、こいつより先に取り出し、先に使う。
 それで、こいつに『道具』を使えないようにしないとならない。

 そうしなければ、またこの『道具』が悪用されてしまう!

 ゆえに、俺は、爆発を止めるための行動は出来なかった!


 念じる。こいつに『道具』を使わせない方法を。
 念じる。こいつに『道具』を使わせないよう出来る『道具』を。


 こんな力、使えなければいい! 答えろ、『四次元ポケット』ォ!!


 俺の意思を感じ取り、『四次元ポケット』もまた、俺の意思に応えた。



 取り出したのは、一本の刀。
 流れ来る、その説明。


「っ! そういう事か! いっけえぇぇぇぇ!!」



 『ポケット』へせまる左手よりも先に、俺はその刀を、自分の体へと振り下ろした!




───エヴァンジェリン───




 彼が自身を殴り、その体が大きくよろめいた。

 直後、私の体に自由が戻る。
 他の者達も、自由が戻ったのが見て取れた。


 彼も、私達もその呪縛から脱した。
 そう思ったのもつかの間。

 自由を取り戻したかに思われた彼の体の中で、唯一左手は、いまだ自身の支配下に置かれていないのが見て取れた。


 それに気づいた彼が、私を頼る。


「エヴァ、転移だ! この場所に居る全員を安全な場所に! 頼む!!」


 彼からの頼み。
 その信頼の言葉により、私の体が動く。

 彼が自分で皆を助けようとしないのは、出来ないからだ。
 爆発を止めないのは、そんな事をしている余裕がないからだ。
 彼は、彼に出来るなにかをしなくてはならないからだ!


 だから彼は私に頼んだのだ!


 ゲートポートに存在する者達を安全な場所へ飛ばすのに必要な、強制転移の呪文を瞬時に完成させる。

 時間がない。場所を選んではいられない。ゲートによる空間の歪みによって遠くまで飛ばされるかもしれないが、怪我などはさせない! 五体満足。全身無事に転移させる!


 ──ゲートに居た人の数は、三桁をくだらない。これだけの人数の転移を、ほんの少しの時間で用意出来たのは、世界最高レベルの魔法使いであるエヴァンジェリンだったからこそである。


 脳を最大まで行使し、なんとか危険な場所から安全な場所へと転送が発動し、最後に自分と彼を転送するため、その場を見た。



「なっ……!!」



 爆発の光に包まれようとするゲートの中、転送の光に消える彼女が最後に見た彼の姿は、みずからの体に、刀を突き立てている姿だった……




 全ての人が安全な場所へと転送された直後。
 ゲートが、大爆発を引き起こした。





─あとがき─

 あれほど関わる気がないから原作再現にこだわって、今度は関わって原作を逸脱しようとしたら結局原作と同じイベントを引き起こしてしまうという皮肉。

 世の中なかなかままならないものです。


 しかし、今回一番酷い目にあったのはフェイト一味のような気もしないでもない。


 ちなみに、ネギ達がバリアに傷一つつけられず、その心が届かなかったのは、この場では原作中でも完敗していたから。
 今回は皮肉にも『道具』無双で原作の出来事が再現されてしまう回だったので、ちょっと無力になってもらいました。

 さて、やっぱり魔法世界各地へ飛ばされてしまった彼女達は、一体どうなるのでしょう?



[6617] ネギえもん ─第27話─ エヴァルート15
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/03/26 21:32
初出 2012/03/24 以後修正

─第27話─




 魔法世界放浪編はじまったよ。




──────




 ……ゆっくりと、意識が覚醒してゆく。


 重いまぶたが開かれ、ぼんやりとした視界が、クリアになっていく。



 ここは、知らない天井か。と言っておくべきなのかなぁ。



 なんて事を、なんか南国みたいなファンタジーの天井を見て思った。


「……目を、覚ましたか」

 視線をずらすと、俺を覗きこむエヴァンジェリンの顔。

 ベッドの横にある椅子に座って、俺を診ていたようだ。


「……あぁ、起き抜けに好きな人の顔が見られるとか、俺幸せ」

「ばっ、馬鹿な事を言うな!」

 あわてさせちまったい。
 周りに他の誰かが居るのかと思えば、誰も居なかった。
 ならいいじゃないか。


 むしろ二人きりでエヴァを照れさせた事に、自分で自分を褒めるべきだろうか。


「それより、俺どのくらい寝ていた?」
 ベッドから体を起こす。
 周囲を見渡すと、どこかの宿のようだった。そこはまさに、ファンタジー宿屋。

「丸一日くらいだな」

「そっか」


 ……今の状況を思い出す。
 魔法世界に到着した事。
 そこで俺が大暴れして、ゲートを見事破壊してしまった事。

 そして……


「……一日だけか。ならよかった」

「……一日も、だ」


 ぽつりと。言われた。
 多分、聞こえないように言ったのだろうが、甘い。そこいらのハーレム系主人公と違って、俺は耳がいい。はず。たぶん。

 だから、しっかりその一言は、俺の耳に届いた!


「エヴァンジェリン」

「なんだ?」

「俺が自分に刀を突き立てるの、見てたか?」

「……見ていた」

「そっか。だからか」


 だから、一日も目を覚まさなかったと心配してくれたのか。
 そりゃ、心配するよな。
 当たり前だよな。


「ありがとな。体の方は大丈夫だ」
 たぶん。
 体に違和感はないし、ぐっすり眠ったあとの清々しさすらある。
 だから、体に関しては、問題ない。

「……ふん」
 と、おなじみ明後日の方を向かれてしまった。

「ん?」
 向いたあと、気づく。

「体は、だと?」

「ああ……」


 俺は、ゆっくりと、自分のポケットに手を伸ばす。


 その、確認の、ために……




 その同時刻。

 魔法世界。
 ジャングル。


 俺は、ジャングルの中を走っていた。

 状況としては、アレだ。原作でのゲートポート爆発後、ジャングルに落とされ、お供の電子妖精も失った長谷川千雨嬢ちゃんと似たような状況。

 いや、ぶっちゃけその状況とそっくりだ。


 エヴァの転移で振り落とされた後、気づけばそこは鬱蒼と木々が生い茂るジャングル。
 幸いだったのは、超が手伝った『白き翼』バッジ。

 魔法世界に到着したらバージョンアップして地図を入れると言ったのを実行しておいてくれたようで、自分が魔法世界のどの位置にいるのか、すぐに把握出来た。
 どこに行けば人里があるのか。そして、近くにバッジの反応がいくつかあるのもわかった。


 だから、そのバッジの持ち主と合流しようと一日移動したのはいいが、そこで見事に原生生物に追いかけられているというわけなのである。

 ひゃっはー。こいつはやばいぜー。
 捕まったらエロ展開だぜー。服を溶かされるはずだぜー。俺男だぜー。じーさんとお風呂のように誰得展開再びだぜー。


 あひゃあひゃと現実逃避しながらも、必死に足を動かす。

 だが、逃げた場所が悪かった。

 でっかい。木の根だけで二メートル以上ある木々に行く手をさえぎられ、行き止まり。


 すなわちそれは、大ピンチ。



 木の根を背に、俺はそのせまりくるナマモノを見る。



 ……しかたがない。



 俺は覚悟を決め、ポケットへと手を伸ばした。

 無駄だとわかっていながらも……




「「……やっぱり、『ポケット』は使えないか」」
 手を入れた先は、なんのへんてつもない、その服のポケット。ただの、ポケット……



 エヴァンジェリンと一緒にいる『彼』と、ジャングルにいる『彼』。
 違う場所だが、同じ人間の声が、重なった。


 そう。彼はなぜか、二人に分裂していた……!





 足に触手が絡みつく。さかさまにされて持ち上げられる。


 いやあぁぁぁぁ。溶かされるぅぅぅ!



 くぱぁ。


 なんかナマモノが口らしきものを開いた。
 状況的に、いただきまーす的な……

 え? あれ? ひょっとしてこれ、想像と違うナマモノ?
 千雨嬢ちゃん襲っていた、エロ的ナマモノとは別のモノ?

 俺、おいしくいただかれる?


「ら、らめえぇぇぇぇぇ!」



 どごーん。



「大丈夫ですか!?」

 ナマモノを蹴り飛ばし、魔法先生が助けにきてくれた。

 やばいね。俺が女の子だったら、この状況で惚れてたかもだわ。



 茶々丸さんにお姫様抱っこされながら、そんな事を思った。




──────




「「一体なぜ?」」
 一方は宿屋。
 もう一方は、ジャングルを脱出した水辺で、俺がポケット(力)が使えなくなったのかを聞いてきた。ついでに、あのゲートでなにが起きたのかも。

「たぶん。だけどな……」


 俺は、あの時の事を思い出す。


 あの時俺は、左手を支配した存在に、『ポケット』を使わせないと願った。
 こんな力、使えなくなっていいと願った。
 そして、『四次元ポケット』は、俺の考えを正確に理解し、道具を出してくれた。

 あの時出した道具は……


『半分こ刀』
 この刀でモノを切ると、形は元のまま、大きさが半分の同じもの二つに分かれる。どんなモノでもサイズが半分になるが、倍に増やす事が可能なのである。
 人間をそのまま斬る事も出来、二人となった人間がそれぞれ行動する事も可能である。
 この刀を持った人間が自分を切ると、この刀自身も半分となる。


 その刀で、俺は自分を斬った。
 つまり、俺は今、この世界に二人居るという事になる。

 俺のサイズがそのままなのは、エヴァンジェリンの転移の最中にそれを行ったからなのか、他に理由があるのかはわからない。
 単純に、二人になっていないだけなのかもしれない……
 これに関しては、エヴァ(茶々丸さん)が、転移によって体が転送されたさい、その影響でサイズが修正されたのだろうと言っていたのでそうなのだろう。
 なにせ魔法だから、そのくらいの修正やってのけても不思議はない。

 ちなみに、その刀自体は転移の影響でどこか別の場所へ飛んで行ってしまったから、今どうなって、どこにあるのかも不明だ。


 なぜあの時この道具が出てきたのかはよくわからない。
 二人になっていたとしても、それがどういう因果で『ポケット』を使用不能にするのかも。

 ただ、俺の考えを反映してこの道具が出てきたという事は、それで『四次元ポケット』が使えなくなるという意味でもある。
 事実、使えなくなったのだから。


「本当に二人になっているかはわからないが、そんなわけで、俺はもう力は使えないわけだ……」


 こう、俺は説明を締めくくった。




 神ならざる人の身でしかない彼にはわからないが、先に補足しておこう。
 二人になったという事に、当然意味がある。力も二つに割れた。すなわち、『ポケット』を開ける彼と、『ポケット』を持つ彼。鍵と扉に別れたという事なのだ。

 一応、二人が出会えば一方が『ポケット』をもち、一方が『ポケット』を開くという手段で道具を取り出す事が可能ではある。
 そして、『道具』の中には、二つの物体を一つにするという『道具』もある。つまり……

 が、当然そのような事が出来るなど、まだ誰にもわからない……




───ネギサイド───




「そんな事、本当に可能なんですか……?」
 大変驚いたようにネギが、俺に聞いてくる。

 未確定ながら、俺の体を奪おうとしたのが、フェイトの裏にいるヤツかもしれないというのにも驚いていたが、さらに驚いたのは、俺が二人になったかもしれないという事だった。

「まあ、たぶんな。事実なのは、俺がその力を使えなくなって、俺がいつも言ってた一般人であるという主張がそのまま通る人間になったって事さ」

 本当にもう一人いるのかどうかは、人里に降りて『俺』を探してみないとどうしようもないが。


「……本当の可能性が高いです。バッジの反応が、当初より一つ、多く確認されました。これで、謎が全て解けます」
「ああ。そっか。バッジも二つになってるって事か」
 サイズ半分で同じものという事は、つけてたバッジも二つになってて不思議はないって事だもんな。

「バージョンアップで追加されたナンバリング情報が正しければ、もう一人はマスターと共にいるようです」
「おお。もう一人の俺発見。てか、いつの間にそんなの追加されたの?」
 一番最初に教えてもらった時はバッジの位置だけで、誰が誰だかわかんなかったじゃん。

「はい。正式に部員が決まったさいに、バッジそれぞれへナンバーが割り当てられまして、誰のバッジかわかります」
 それを、魔法世界で地図を入れた時一緒に入れたのだそうだ。
 だから、誰がどのナンバーかは、まだ茶々丸さんと超しか知らない。


 おおー。それは便利。
 ただ……


「ただし、そのバッジをその人が正しくつけていれば。だね?」

「はい。手違いで別の人のバッジをつけていたりすれば、その場所とその人は一致しません」
 当然、落としていたり、部員でもない人が勝手につけていたりする可能性だってある。

「ま、参考程度にってとこか」

「はい」

「それでも、どのあたりに誰がいたのかがわかるのは、大きいです」
 ネギはこの事は俺と合流する前に教えてもらったのだろう。
 だから、大きく取り乱してもいないというわけか。


「じゃあさっそく、この近くにコタロー君がいるみたいですから、合流しに行きましょう!」

「はい」

「おー! ……と言いたいところだが、すまない。休憩させてくれ……」


 昨日今日とジャングルを一人でぐるぐるして疲労がちょうたまっているんだ。


「あ、すみません。そうですよね。ゲートで体を乗っ取られそうになって、その上力まで失って一人ジャングルを移動していたんですから」

 うん非常にわかりやすい説明ありがとう。

「まあ、俺ここで休んでいるから、二人でコタローを探しに行ってもいいと思うよ」

「それは危険ですよ!」
 ネギがそれは絶対にノゥと言ってきた。

 まあ、確かに開けた水場だけど、そこに危険な生き物が現れないなんて保証もないしなぁ。
 『道具』も使えない一般人の俺を置いてはいけないよな。


「……悪い。俺、今足手まといだもんな」


「そ、そういう意味じゃ……」
 ネギは言いよどんだ。


 しかしそれは、逆に俺の心にクリティカル!


「ううう……ごめんなさい」
 ネギに、ネギに今、気を使われてしまったぁ!
 がくりと砂浜に膝をつく。


「ええー!?」
 ネギもなぜそうなったとびっくり。


 彼女だって、今生徒達を助けに行きたいのに必死なのに。
 なのに俺、こんなところで足止めさせて……


 俺、なんて足手まといなんだ……


 その上原作の流れなんかぶっ壊してやろうといきまいていたのに、見事に失敗して自分がゲートを壊しているのだから世話もない。
 ネギ達に安全な旅行をさせてやろうなんて思っていた過去の俺をぶん殴ってやりたい!
 素直にネギ達に教えて、力を貸してもらってさらに対策を練ってればまた違ったかもしれないのに。

 しかもこれから彼女達には国際指名手配犯とかの疑いがのしかかるかもしれない。
 俺が主犯で賞金をかけてくれればいいが、確定とも言えない。


 なのに俺は、完全に足手まとい……


 ごめんよー。ごめんなさいよー。


「ううー。うー」
 砂浜に頭をかかえ、うなることしばらく……



(……なぜでしょう。いつもならば私が素敵だと思う悶え状態というのに、今の姿は、素敵とは思えません。なぜでしょう……)
 彼の情けなく悶える姿&土下座フリークの茶々丸は、そう思った。
 普段彼の魂が発するポジティブネタのようなものは今はなく、今はただ、ネガティブな悲観だけが現れた状態を、彼女は機械ながら敏感に感じ取っていた……

 しかし、今の彼女に、そんな彼へかけられる言葉は見つからない。
 自身のマスターであるエヴァンジェリンならば、きっと彼を一瞬にして元気に出来るのだろう。だが、自分にそんな芸当は出来そうにもなかった……

 そう。茶々丸には……



「……そんな事はありませんよ」

 そんな優しい言葉が俺に降り注ぎ……

 ふわりと、俺はネギに抱きしめられた。


「え?」


「そんな事ありません。足手まといなんかじゃありませんよ。むしろそれで、自分をそんなに卑下しないでください……」

 まるで、子供をあやすように、俺の背中をぽんぽんと、優しく、なでるようにたたく。


「僕は、あなたを頼りにしているんですから」

 ネギの体だって少し震えている。
 いくら取り乱してはいないといえ、本当は、生徒の為に駆け出したいのだろう。
 なのに、俺をこうして慰めてくれている……



 ……なさけねぇなぁ。



 自分の情けなさを、はっきりと理解する。
 そうだ。今の俺は、本当に足手まといなんだ。
 『道具』も使えない、ただの人なんだ。

 そんな俺が、こんな姿で居たら、さらに足手まといになってしまう。
 ネギ達を不安にさせてしまう。

 そんな事、大人である俺が、やっていいわけがない。
 むしろ子供先生の精神的な支えになってやるくらいでないと、この足手まといを返上すら出来ないというのに。

 起きてしまった事はもう変えられないし、後悔しても仕方がない。
 これからどうするかの方が重要じゃないか。


 それを今、俺ははっきりと思い出した。



 それに、子供に幻滅されちゃ、大人失格だもんな。



「……ネギ」

「はい」

「ありがとな」


 抱きしめられたまま手を回し、その頭をぽんぽんと撫でる。


「君も自分の生徒の安否が気になるだろうに」

「大丈夫です。みんな、こういう時のために、訓練してきたんですから」


 ネギが震えているのが止まっているのがわかった。
 そういえば、少なくともイレギュラーな生徒が紛れこんではいないんだったな。
 バッジさえなくしていなければ、全員の安否は確認が出来る。
 だから、少しだけ心に余裕が出来たって事か。


「自分よりテンパった人を見ると人は逆に冷静になってしまう理論ですね」

「うん。的確な指摘をありがとう茶々丸さん」

「そ、そんな事……いえ、少しはありました」

 ネギが正直に答えてくれた。

 えらいなネギ! 正直な子はおじさん嫌いじゃないよ!


「ともかく、もう大丈夫だ。これからしばらく、色々な困難があると思うが、力を合わせてがんばろうな!」

 そうだ。このままネギと一緒に居れば安全だし、『四次元ポケット』という異物も使えない今、あの事件で原作と同じ流れに戻されたと仮定すれば、そのままネギが解決してくれるという事でもある!(ただし彼の知識は原作格闘大会終了後少し後くらいまで)
 『ポケット』に関しては元々偶然拾ったような力だ。色々頼ったが、正直なかったらなかったで生活に困るわけじゃない。
 便利ではあったが、所詮は道具。ずっとある。なんて思っているほど子供でもない。
 ないならないで俺は一般人。むしろ変な超人に狙われる事もなくなるというわけだから、悪い事ばかりでもない。
 そうだ。ネガティブに考えていても仕方がない。

 だから、きっと大丈夫!
 だからがんばれ主人公!


「はい!」


 ひとまず、ネギと握手!



 そして……!


「そして茶々丸さん! この事はどーかエヴァにはご内密にぃ!」


 今最新式の!

 くるりと体を回転させ、茶々丸さんの方を振り向く。


 回転を利用し、我が魂をこめた、砂の上でドゲザー!
 うむ。この流れるような土下座。たとえ『道具』を失おうと、衰えていないぜ。


 弱音を吐いた挙句、ネギに抱きしめられていたなんて知られたら、またエヴァに浮気かとか言われるから!
 情けないと、プゲラ笑いされるから!


 だから、ご内密にお願いしますぅ!!



 ぞくぞくぅ。
 その土下座を見て、茶々丸は、背筋に駆け抜ける、なにかを感じた。
 正体はわからないが、なにかの快感が自分の背を駆け抜けたのを、茶々丸は感じた。
 人が、美しい芸術品を見た時感じる、表現のしようもない電流が、彼女の体を駆け抜けたのだ。

 ……戻った!
 茶々丸は、その姿を見て、確信する。


「さて、いかがいたしましょう」
 記録を残しつつ、もう少し長く。長くと、引き伸ばす。
 真の魂が戻ったその土下座を見て、茶々丸は自分のメモリーにそれを記録しまくっていた。


「なにとぞなにとぞー」
 へへーと土下座を繰り返す少年。


 すばらしい。なんとすばらしい、素敵な土下座か。
 この魂まで光り輝いているかのような美しさ……
 これです。これが見たかった。しかも私にしてくれている。正面から最高画質で録画です。最高です。
 今なら人が、興奮のあまりなぜ鼻血を流すのか、理解出来る気がします。
 この芸術のような動作を、私はいつまでも見ていたい。


「おねげーしますだー」
 ぺこぺこ。


 ……あれって逆効果なんじゃ? 茶々丸のモエを知るネギは、そう思った。
 でも止める手段が思い浮かばなかった。



 彼の土下座を堪能して。



「わかりました。マスターに詳しく聞かれない限りはお話しいたしません」

「……主人であるエヴァに聞かれたのならばしかたがない。わかった。ありがとう!」


 顔を上げ、にっこり笑顔でありがとう!


「はい。ですから……」

「え? なにか条件ですか?」

「いえ。そのままの貴方でいてください」

「それなら大歓迎です。がんばります!」


 そんな簡単な事ならお安い御用さ!


「さて。そういうわけだから、とりあえずコタローと合流するためがんばろうか!」
 すっくと立ち上がりながら、ネギの方を再び見る。

「……あ」
 すると、俺の外れた視界の方で、茶々丸さんがそんな声を上げた。
 ずっと彼の土下座記録してたから気づくのが遅れたのは秘密の話。

「あ」
 ネギも声を上げた。


 なにかを見つけたような感じだ。
 なので、俺もそっちを見る。



 そこには……



「にーちゃーん!!」


 どごーんとつっこんでくる、犬っ子の姿があった……

 音が、あとから、ついてきた……dato?(単に反応出来なかっただけ)


「にーちゃんの匂い追ってここまできたー。やっぱにーちゃんやー。にーちゃーん!」


「ぶくぶくぶく……」
 ちなみにこれは、水辺につっこんで沈む、俺の生存確認音。


「にーちゃん!? にーちゃーん!! にーちゃーん!?」



 ある意味お約束で、俺は意識を失った。



 この後コタローのウエイトトレーニング機器として、ジャングルを進みます。
 わかりやすく言えば、おぶってもらって。

 それが一番移動早いからね!



 大人なさけなし!



 ちなみに、そんな子供におぶさった姿なんかも、これはこれで素敵と、茶々丸の画像フォルダがまた潤うのだが、それは完全に別のお話。




───ネギ───




 あの人は、一人で苦しんでいました。


 たった一人でゲートで起きようとした事を解決しようとして。
 でも、それはうまく行かなくて。

 僕達をまきこんでしまった事を悔やんで……


 情けないのは、僕達も同じです。
 あの時、異変に気づいていたのに、僕達はあなたの助けにもなれなかった。

 あれだけがんばって修行したのに、その背中にすら届かなかった。

 情けなくて、悔しくて。


 でも、それ以上にあの人は、自分を責めていました。


 だから僕は、ほんの少しでも、あの人の力になりたかった。
 いつもいつも影ながら助けてもらってばかりの恩を、少しでも返したかった。


 学園で、京都で、そして、村のみんなを助けてもらったお礼を、少しでも返したかった……


 僕はただ、無心であの人を、抱きしめる事しか出来なかったけど……


 それでも……


「……ネギ。ありがとな」
 背に回した手から、頭をぽんぽんとなでてもらいました。


 雰囲気が変わったのがわかります。

 僕の力かどうかはわかりませんけど、いつものあの人に戻りました。


 いつも学園で見る、飄々としたあの人に。


 少しだけでも、僕が力になれたら、とても嬉しいです。


 その後、僕から抱きしめたのだから、僕が悪いはずなのに、茶々丸さんにわざわざ土下座をして。
 でもどこか、楽しそうで。


 あの人がいるだけで、僕の心も軽くなる気がします。


 ……なんだ。全然足手まといなんかじゃないじゃないですか。

 いるだけで、僕をこんなにも強くしてくれるじゃないですか。
 こんなにも、心強いじゃないですか。


 力、全然なくしていませんよ……



 なんて思っていたら、コタロー君が現れて、まるで、学園に居る時みたいに、どごーんをやってくれました。



 不謹慎ですけど、笑ってしまいました。


 大丈夫。
 僕達も、皆さんも。

 不思議と、そう思えました。


「もー。コタロー君ダメだよー」

 今力を失っているんだから、抑えないとダメだという事を伝えるために。
 水辺に沈んでしまったあの人を助けるために、僕は砂浜を走り出した。




───エヴァンジェリンサイド───




「そう、か。それでか」
 エヴァが俺の説明を聞き、なぜ刀を自分の体につきたてたのか、なぜ力が使えなくなったのかを理解する。


「ああ。そんなトコ見れば、心配にもなるよな。すまない。心配かけた」

「……ああ。心配した。だが、必ず目を覚ますと、信じていた」

「サンキュ。でも、悪いな。これから色々大変なのに、足手まといになってしまって」


 それに、今一瞬、嫌な事を思ってしまった。
 『四次元ポケット』を失った俺。つまり、『ポケット』のない俺。それは、俺の魅力が9割以上減った事を意味する。
 別にない俺が嫌ななわけじゃない。偶然手に入れたような力だ。あったら便利だが、なくなったらただの俺に戻るだけで、執着がそこまであるわけじゃない。
 一般人の俺になって、超人に目をつけられるなんて事もなくなるわけだし。
 嫌なのは、それじゃない。ただ、思いついてしまったのは、『ポケット』の力を通じて俺を見ていたエヴァの心が、離れてしまうんじゃないかって不安だ。

 いかんな。そんな事を考えるのは、あいつに失礼な事だってわかっているのに……


「……それがどうした?」

「え?」
 まるで、俺の心を見透かしたかのような、エヴァの言葉。

「お前は、私が吸血鬼じゃなくなり、力を失うかもしれなかった時、なんて言ったか覚えているか?」

「あの時、か……」


 思い出す。
 橋の上で、語り合った事を。



 前略。


『人間に戻ったら、なにも出来ないかもしれないぞ?』
『俺が守るよ』


 後略。



「今度は、その言葉をそっくりお前に返そう」


 俺をじっと見て、エヴァンジェリンが、そう言ってくれた……


 その言葉を聞いた時、思わず笑みがこぼれてしまった。
 この不安が消えてゆく感覚。

 そうか。エヴァも、こんな気持ちだったのか……


「……俺、力をなくしたら、なにも出来ないかもしれないぞ?」
 だから俺は、あの時の言葉を真似て、返した。

「かまわんさ。今度は私が、お前を一生守る」

「ああ。よろしく、頼む」
 一生なんて、嬉しくてないちゃうぞ。



 ぎしぃ。

 ベッドがきしむ音がした。

 エヴァが、その膝をベッドに置き、両手を、俺の体へ乗せ、俺の元へせまってきている……


「へ?」



 そしてそのまま、唇を奪われた。



「これでもう一度、お前は私のモノだ。これが、その証。もう二度と、そんな不安を抱えるな」
 ゆっくりと、そのやわらかい唇を放し、力強く断言しやがった。

「……てめぇ」
 俺は我慢しているってのに、そう簡単に何度も俺の唇を奪うなばかー。
 あん時の流れだと、お前我慢する方だろうがー。自重する方だろがー。

「どうした? 今はお前が、守られるお姫様みたいなものだろう? 大体、私からする分には問題ないはずだぞ?」
 にやりと、意地悪そうに笑う。

「ちっ、恥ずかしい事を言いやがって……」
 ばかー。

「ふっ、恥ずかしい事ならお前の方が人前で連呼しているだろうが。それに、今回は誰も見ていないからな。いくらでも言ってやるぞ?」

「くっそ……」


 ダメだ。今回は完全に主導権を握られた。勝てそうにない。
 思わず顔を片手で覆って頬が赤くなっているのを隠す。


「ふふ、かわいいぞ」

「ああくそっ。お前に気持ちを察せられるわ、強引に唇を奪われるは、ダメダメだな俺は」
 涙を流していないのが唯一の救いってヤツだ。
 そしてさっきのキスは、このまま落ちこんでいたら、そのまま押し倒すぞとかいう意味もあったんだろうな。
 それでいいのか? 早く立ち直れって、言葉にない励ましが。


「かまわんだろう。たまには私も、お前を支えさせてくれ」


 ふっと、力を抜いたエヴァの笑顔が、俺に降り注いだ。


「……」
 ああ、ダメだ、今日のエヴァはきっと無敵だ。

「……ありがとよ」
 おかげで、楽になった。
 元気出た。

「ふふ、どういたしまして」


 だから、頼りにしてるぜ。


「でも、がんばりすぎないでくれよ」
「お前に言われたくはない。それに、私を誰だと思っている?」

「まったくだ。なら、安心だな」



 俺達は見つめあい、そしてまた、笑いあった。




───エヴァンジェリン───




 さしもの彼も、力を失えば、不安を感じたようだ。
 あれほどの力を失ったのだ。それも当然だろう。

 いや、違う。
 彼にとって、自分の力などどうでもよかったのだろう。
 普段から、力を極力使わず過ごしているのだ。そこに不都合が生まれる事はほとんどない。
 彼はやはり、こういう可能性を想定して、普段から力に頼らない生活をしていたのだな。

 本当に不安に思ったのは、私の足手まといとなって、共にいられないかもしれないという不安。

 確かに私は、元が知られれば狩られる可能性のある600万ドルもの賞金首。
 力を失えば、私と共に居る事も難しくなる可能性すらある。


 そのために出た言葉が、足手まとい……


 あれほどの力を、あの瞬間にすべて捨てると判断をして、全てを捨てる事の出来たあなたに生まれた不安は、私と共に居られないかもしれないという事。

 それはつまり、自分の力などより、私の方が大切だと告げてくれたのと同意ではないか。


 足手まといになる?

 それがどうした。


 私がお前を見捨てる?

 そんな事あるはずがなかろう。


 私は、お前の力だけに惹かれるような女ではないぞ。お前の力になどもう興味はない。

 私は、お前という人間に惹かれたのだ。

 お前の普段はダメなところも、人前で私をからかうところも。あの土下座も。
 どんな時も堂々として馬鹿な事を言っても、いざという時、とてもかっこよいところも。

 お前の力などなくとも、そんなお前が、大好きなのだから。


 なによりあなたはあの時、私が力を失っても守ってくれると言ったじゃないか。
 あの言葉に、私がどれだけ勇気づけられたか、知っているのか?

 あの橋で言われた事を、そのまま彼へ返すと告げたら、目を見開いて驚いていた。
 闇の中に、光を見つけたような顔。きっと、あの時の私も、彼と同じ表情をしていたのだろう……

 その表情は、あまりにも愛おしかった。


 だから私は、我慢が出来なくなって、彼の唇を奪ってしまった。
 あの時彼は、よく我慢したのだと思う(私はあの時逆に手を出すと言ったから問題ない!)


 これは、私からあなたへの誓い。
 それは、あの時したあなたが私のモノで、私があなたのモノであるという証の確認。
 さらに、これで立ち直らなければ、そのまま押し倒してしまうというぞという挑発。

 これらすべては、伝わったはずだ。


 ……しかし、この脳が焼き切れるかのような甘い感覚を、よく我慢するものだ。
 それだけ、将来のその日を大切にしているという証なのだろうが……


 彼の表情が、いつもの生意気な状態に戻った。
 そうだ。それでいい。お前はそのくらい生意気の方が、守りがいがある。


 ……なんだろう。この、守りたいと湧き上がる気持ちは。


 これが、母性本能とでもいうのだろうか?
 いや、違う。母性は、少し違う気がする。

 ただ、一つわかるのは、守る立場も悪くない。という事だ。
 守る者がいるというのは、すばらしいという事だ。
 600年知る事のなかったこの感情を知る事が出来たというだけで、このはじまったばかりの旅も、価値がある。


 それに、可愛い恋人の姿も見れたしな。



 普段はあれほどりりしいくくせに。



 ふふっ……




──────




 さて。

 俺の事がひと段落したところで、今度は他の子の事だ。
 ゲートがあんな事になったのなら、大騒ぎになっているのは間違いないだろう。


「とりあえず、他の子達は?」
「わからん。行き先を決めず転移させるのが精一杯だった。行き先までは不明だ。ただ、死者はいない。怪我人はいれどもな」
 その死者とは、ネギパーティーだけでなく、あの場にいたゲート関係者や他の人などもふくまれる。
 いくらランダムといえども、命の危険にある場所へ人を飛ばしていない自信を見せるエヴァ。なら、それを信じよう。

 死者がないなら幸いだ。ネギ達『白き翼』の面々にはバッジもあるし。


「そーいやあのフェイト達は?」
 バッグにしていたフェイトに虫かごに入れたあの仲間達。どうしたんだろ。

「転移はさせていない。が、あの程度で死ぬようなタマではないだろう。今後出てこなければそれまでだ」

「それもそうだな」
 確かに、考えてもしかたがない。


「あとの問題は、これくらいだな」


 と、エヴァが部屋に備え付けてあるファンタジーテレビをつける。
 電源を入れると平面の画面が飛び出してきた。さすが魔法。


「どうやらちょうどやっているようだ」


 そこには、あるニュースが流れていた。
 ニュースキャスターが、原稿を読み上げる。

『先日起きた、世界各所で同時多発的に起こったゲートポートの魔力暴走事件の続報です』
 あぁ。こいつは俺の知る記憶とおんなじ展開だな。


 ここまでは……


『メセンブリア当局より新たな映像が公開され、賞金600万ドルのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの生存が確認され、賞金が再認定されました。エヴァンジェリンは今回のゲートポート破壊の首謀者と見られており、強力な従者と共に、こちら側に潜伏していると思われます』


 そのテレビの映像には、エヴァンジェリンがゲートを破壊する映像が映し出されていた。


「これは、我々がいたのとは他のゲートを破壊したとされる映像だな」
「捏造か」
 そして、フェイト達が無事だったという証明でもある。


『これにより、エヴァンジェリンの賞金は700万に跳ね上がり、歴代最高額をさらに更新する事となりました』


 凶悪なエヴァの似顔絵と、さらにはその従者として、ネギとその他生徒達の写真が国際指名手配として紹介されてゆく……


「まあ、私をその首謀者にしたのは褒めるべきだな。万一あの小娘の下に私がいたというのなら、その捏造犯の首をねじ切っても足らんところだ」

「賞金再設定されてそんな事言うなよ……って、あれ?」
 賞金首となった子達を見て、俺は疑問の声を上げる。


「気づいたか」

「ああ。何人かあの場に居て指名手配されていない子が居る。それと、俺が指名手配されてない」
 かわりにゲート事件において王子様(俺)行方不明というニュースが流れている。

「小娘達の方は、なぜかはよくわからん。だが、お前の方は、アレのヨリシロであり、大切な体でもあろう。それを危険にさらす賞金首にするなど、奴等にしてみてもよい事ではない」

「そうだな」
 そして、俺の中で暴れたアレが、フェイト達と関係があったのが確実となったわけでもある。いや、ゲートの時から確実だったけど。やっぱ『造物主』だったかぁ。

「そして私。私は元々この世界最大級の賞金首だ。ならば、この私に罪を被せてしまった方が、捏造もたやすい。なにより、その罪がなくとも元々の賞金が600万だからな!」


 えっへん。と胸を張った。


「……悪かった」
 なぜか、思わず謝ってしまった。

「お前の謝る必要性がどこにある。それともなにか? お前は自分の意思で、あのゲートを壊したというのか?」
 きっとにらまれてしまった。

「……はは。お前にそんな事言われるとはな」
 今日はホントに立場が逆転しているぜ。

「なにを自嘲している。それに、私は気にしていない。たった100万増えたところでなんだというんだ」

「今日のエヴァは、なんだかすげぇ頼もしく見えるな」
「おい。今日のとはなんだ今日の。とは」

「ううう。お兄さん嬉しいわ。こんなにちいさかったエヴァちゃんに責任感が生まれたなんて……」
 なきまね。

「せい!」
「ばーぼん!」


 スパーンと後頭部たたかれた。
 くっそ。ベッドから体を起こしていてちょうどいい高さにあるからって!


「ま、そうだよな。起きちまった事を嘆いても仕方がない。このままトンずらして、みんなと合流。そして現実世界へ逃げ帰っちまおうぜ」
 幸いにも、超がバッジでどこに居るのか把握する機能をつけておいてくれた。それを使えば、どこに居るのかすぐわかる。
 原作よりも、把握がしやすいはずだ。

 まあ、結局合流は一ヶ月くらいあとにある祭りになるんだろうけど。


「その前に行くべきところへ行かねばならんがな。王子様」
「あー。確かに、王位継承権も消しておかないと迷惑かかるしな」
「そういう事だ。行くぞ」

「えー。もうちょっとねたーい」
「行くぞアホウ」

 もぞもぞとベッドに入りなおそうとした俺は、襟首つかまれて、部屋から放り出されましたとさ。

「ひどーい」
「これでも優しいくらいだ」


 一度ドアが閉まり、部屋から現れるのは、幻術を使い大人の女に変身したエヴァンジェリン。
 年齢詐称かー。


「では、行きましょうか、王子様」
「へいへい。んじゃあ護衛、よろしくお願いしますよ。ボディーガードさん」


 こうして俺達は、ひとまず俺が王位継承権を持つという、ある王国を目指すのだった。




─おまけ─

(しかし、万一本当に二人になっていたとして、その二人から愛されたりしたら、私はどうなってしまうんだろう……?)
 わりとしょうもない事を考えてしまったエヴァンジェリンであった。


 なに。いざとなったら『コピーロボット』があるからなんとかなるさ!




──────




「テルティウムよ」
「なんだいデュナミス?」


 サイズは戻ったが、いまだ氷の棺にとらわれ、首だけ出した男が言う。
 フェイトの方もゲートの爆発によってダメージは受けたが、従者によってなんとか助け出され、無事活動していた。


「我々の計画は続けるのかね?」
「もちろんだよ。主にこの計画をやめろと言われたのかい?」


「残念だが、あれ以後主の気配はない。あの少年は、主に見つからぬようみずからの力を封じたか、他になにか対策をとったのだろう」


「なら、僕達は僕達の計画を進めるだけだよ」


 例え主に、別の計画があったとしても。


「うむ。そうだな」
「じゃあ、僕は行ってくる」

「うむ。私もこの縛めをどうにかして解けるようがんばってみる」


 そう言って、もう何日そのままだろうか……

 この氷の棺は、呪いに近い。自動で氷を精製し、その身を封じ続ける。さすが『闇の福音』エヴァンジェリンの呪文といえる。
 しかしそんな氷だったからこそ、縮小され虫かごに捕らわれていた三人が、あの爆発の中無事でいられた。



 部屋を出てゆこうとして、フェイトが止まる。



「……ところで、あの賞金首の件は……」
「なにかな?」
「いや、なんでもないよ」

 主のヨリシロであるあの少年に、賞金をかけさせないよう手を回したのは、当然の話ではある。
 現在、真に主の意思が宿る器は封印されている。しかし、なんらかの理由で、あの少年の体を操る事が出来たのだ。ならば、その体を使って、復活するという方法もありえるからだ。


 だがフェイトとしては、賞金をかけ、始末しておいたほうがよいと考えていた。


 この計画を実行する中で、最も危険なのはあの器にすまう少年だと感じたから。
 主から逃れるため、力を封じたのなら、今が絶好の機会でもあるから。


 だが、さすがにそれは口に出さなかった。
 もう一つ、なんとも言えないモノが、胸の奥に存在していたから。

 それは、自分が今行っている計画を、主にとめられるのではないかというものだった。
 主がそう思うのならば、とめてしまえば問題はない。

 この世界を救う方法が別にあり、主がそう望むのならば、その方法を選択する。
 コマである自分に選択の余地はない。


 だが……


 フェイトにはそれが、受け入れがたかった……


 あの主には従いたくない。
 そう思えたから。

 そのような事を考える自分の胸のうちがわからない。
 胸の奥にひっかかったなにか。それがなんなのかわからない。

 だから、その事は口に出さなかった。



「……行ったか。目的意識も忠誠もないというのは、時として御しやすいものだ。主を復活するための目くらまし、がんばってくれたまえ」

 くくく。と笑う。
 君は、その計画の為に出来る限りの準備を進めればいい。
 旧オスティアへ魔力を集め、ゲートとあの場所をつなぎ、時間を稼げばいい。


 さすれば、あの地にて我等の主は蘇る。


「そして、何度もぶっ潰しにきてくれたタカミチとゲーテルを今度こそぼっこぼこにしてくれる!」


 やっぱり私怨で動いているこの男であった。
 ついでに氷の棺に入れられたまま言われても、全然しまらなかった。




───エヴァンジェリンサイド───




 あれから数日後。


 俺とエヴァンジェリンは、無事俺が王様になれる国にやってきた。

 当初の予定では、メガロメセンブリアというところの首都でその国の人と落ち合う予定になっていたのだけど、あのゲート一件による『四次元ポケット』紛失によって、連絡先をメモした手帳が取り出せなくなり、連絡がつけられなくなってしまったのだ。

 エヴァがその連絡先をわざわざ把握してくれているはずもなく。
 直接その国へむかっているというわけだったのです。


 道中そこそこ危険な事もあったけど、世界最強の魔法使いエヴァンジェリンがいるのだから、俺はぼーっと歩いているだけでした。
 いや、馬車とかそういう移動手段も使ったけどね。


 んで、その国に無事到着。


 国境というけれど、別に検問もなくフツーに素通りです。
 まあ、原作でもみんな普通に大陸移動してたから、そんなに厳しくないのだろうね。

 首都などの都市部は厳しいぞ。とエヴァは言ってたけど。

 つまり今から行くところはそんなメジャーな場所じゃないってわけです。
 詳しい事は知らないのでオラまだ説明出来ねーのでご了承を。
 そっこう王位継承権破棄して出て行く予定だったから、詳しく調べてないんだわ。


 ともかく、今度はその国の首都。
 俺を王子としてうつした宝石のある街へ向かっています。

 国境からそこまでは歩き。
 そこそこ近い位置に街があるようなのだ。


 青い青い空の下、幻術で大人になったエヴァとのんびり歩いていると……


「っ!」
 思わず、大変な事に気づき、立ち止まった。


「どうした?」


 俺の異変に気づいたエヴァが、少し心配したように声をかけてくる。
 ああ、これは、大変だ!


「悪いエヴァ。ちょっとお花を摘みに行かせてくれ」
「花?」

「おトイレって事だよ。言わせんな恥ずかしい」

「隠す気ないなら最初からそう言え」
 あきれられてしまった。

 それで気づいてくれればよかったと思ったんだよ。
 やっぱこの隠語は女の子が言わないと通じないよなー。

「ともかく、ちょっと行ってくるから、ここで待っていてくれ」
 ちょっともよおしてきてしまっただけだし。
 女と違って男は簡単に済ませる事が出来るからさ。

「しかたがないな」
 どうやら納得してくれたようだ。
 にしても、大人になって腕組んでふんと鼻を鳴らされると今度はカッコイイなお前。

「覗くなよ」
「覗くか!」

 おこらりちった。

「早く行って来いこのあほ。危険な獣は居ないが、用心はしろよ」

「へーい」


 ひらひらと手を振りながら、俺は道をはずれ、茂みの中へと入っていった。


 その後つるんと音がしました。なにが起きたでしょう?



 1、何事もなく、無事エヴァの下へと帰り着いた。
 2、ハッピーハプニング! 森の中で熊さんとの出会い!
 3、つるりと滑ってハプニング! 坂をころころどんぐりこ!


 お答えは……



 3! 圧倒的3!!



 俺は、坂を、駆け下りているのでした!


 茂みに入ったその先はちょっとした急勾配なくだり坂で、知らずに行った俺は見事に予測していなかった段差にかくんとなったのです。


 そして転ばないようにその反対の足を前に出して。でもそこは坂で。また足をだして。足をついてまだまだ坂の上でさらにバランスをとるため足を前に出して。出して出して出して……



 ……出して出して出して出して出し出し出し出しだだだだだだだだだだ!



 落下するかのごとく、交互に足を坂の上で交差させ、転がらないのが不思議なくらいの速度になりながら、どんどんと勾配がきつくなる坂を、駆け下りています。

 風景がものすごい勢いで流れていきます。
 止まれません。転がる選択肢も出せません。なぜなら草原の上にはまれに石が突き出しているから。


 転がろうものなら……


 ひぃ! 恐ろしい!


 石のサイズが大きいので、位置の確認は可能で足をひっかけないでなんとか進むのが精一杯です!
 逆にサイズが大きいから、倒れた時の危険度がめっちゃ高いのだけど。


「たす、たす、たすたたたたたたたたたた……!」
 転ばないようにがんばればがんばるほど足は加速し、ひたすらに坂を駆け下りて行く。



 そしてそのまま……



 坂が途切れる、小さな崖。


 俺はそこに、そのままの勢いで、飛び出した。



 あーいきゃーん。

「ノットだよー!」

 ふらーい!!



 空中に、俺の体が、舞う。



 まだ足が勝手に、交互に動いてるのがわかる。
 走り幅跳びで長く跳べるような跳び方だ。

 だ、大丈夫。万一高さが10メートルくらいあったとしても、五点着地をかませばきっと大丈夫!


 五点着地。
 正式名称を五接地転回法といい、体をひねり倒れこむ事により、落下の衝撃を5か所に分散させ、無事着地するという方法。
 実践できれば10メートルから飛び降りても無傷でいられるという。


 当然俺は、出来ないけど!!


 スローモーションになった世界の中、そんな事を思っていた。
 せめて、五点着地の真似事はと、足の裏から第一に着地しようとバランスはとる。



 そして……



 ごしっ。


 綺麗に足の裏が着地したそこ。

 そこにはなぜか、人の顔面があった。
 地面に立っていたその人が、最初の衝撃を吸収してくれる。


 そのまま俺は、坂をおりていた時の動作と同じく、バランスをとるように、前へもう一歩。



 めごっ。


 そこにはさらに、もう一人。

 反対の足を綺麗に顔面に叩きこみ、二人目がゆっくりと倒れ行くのにあわせ、俺はその人の顔面に乗ったまま、地面へと着地した。


 ……衝撃全部、足の下になった二人が吸収してくれちゃった。


 すたっと地面に着地し、そのまま崖の方へ二歩バックステップ。


 そこで、どんな事態に落下したのかがわかった。


 目の前には、なにやらファンタジーでいうところの山賊風体のおっさん達多数。とその背後にはぶっ倒れた馬車が一台。
 さらにその周囲に倒れている護衛と思われるファンタジー戦士や魔法使い。


 そして、俺が背に隠すよう立つ事になった、一人のいかにもなお姫様と、残りの護衛(怪我人)


 どうやら俺は、ファンタジー悪漢襲撃の現場に押しかけたようだ……


 だが今の俺は『ポケット』もなにも使えないどこにでも居る中学三年生。中身は三十路のおっさん。
 こんな屈強な荒くれ達にかなうはずもない。


「て、てめえ、なにもんだ! いきなり兄貴達をぶっ倒しやがって!」
 どうやら俺が踏み潰したお髭の二人は、この賊の偉い人たちだったようである。泥沼である。



 だからといって……

 襲われている女の人を、ほおって置くわけには、いかなかった。



「なにもの。か……」

 震えそうになる足をおさえ、俺は、ゆっくりと語りだす。

「そんなに知りたければ、教えてやる!」

 無駄に、仰々しく、芝居かかった風に、俺は片手を広げる。
 上着を無駄にはためかせ……


「我は、この国が王位継承権を得て現れた、王子であるぞ!」


 とりあえず、堂々と名乗りを上げておいた。


 王子と名乗ったのは、それなら誘拐して身代金をとれると思わせたかったから。
 そうすれば、エヴァンジェリンが助けに来るまで時間がゆっくりとかせげるというわけさ!

 ひゅー。さすが俺様。さっくしー。



 そしてこれが、俺の王様への道の、第一歩だった……




───姫───




 その方は、天空から突然現れました。


 わたくしの一団を襲った悪漢をいきなり二人ものして、わたくしと悪漢達の間に立ったのです。
 まるで、わたくし達を守る、勇者のように。


 何者かと問われ、あの方は、堂々と、こう答えました。


「我は、この国が王位継承権を得て現れた、王子であるぞ!」


 と。



 ざわっ!


 悪漢達に動揺が広がります。
 当然、わたくし達も、驚きを隠せません。


 なぜなら、あの方が救おうとしているわたくしは、同じ王位継承権を持つ、ライバルなのですから……
 言われて思い出します。確かに、あの方の姿は、王家の宝石が示した姿そのままでした。


「ええい、なぜ王子がこんなところに! ひけ、ひけ!!」
 悪漢達が引いてゆきます。


 それはそうでしょう。わたくしを殺そうとした理由。それこそが、あの方を王にすえ、権力を握ろうとする何者かの差し金なのでしょうから。

 この場にその王子がいては、手出しをする事も出来ません。


 ですが、ライバルであるはずのわたくしを、なぜ、助けたのです……?



 その答えは、シンプルでした。


「たまたま通りかかったから、つい……」


 自分に困ったように、あの方は言いました。



 わたくしが誰かなど、あの方に関係なかったのです。
 困っている者がいたから、手を差し伸べた。それだけでした……



 きゅん。



 そしてなぜか、わたくしの胸は、謎の高鳴りを見せたのです……


 いけないとはわかりつつも、わたくしは、ライバルであるその方に、恋をしてしまいました。




───エヴァンジェリン───




 お花を摘みに行った彼の背中を見て、ほっとする。
 どうやら完全にいつも通りに戻ったようだ。
 もう、心配はないようだな。


「っ!?」


 ……なんだ? これは、血の匂い?
 遠くから、血の匂いがする。しかも、小さいながら、戦いの音も聞こえてきた。

 そして、さらに気づいた。
 そこへ、彼が走ってむかっている事も。


 まさか、あのおせっかいは!


 いくら最強の力を失ったとはいえ、あの男の基本は高い。
 ただの中学生の体とはいえ、子供の力に封じられていた時の私同様、その『技術』、『感覚』に衰えはない。
 気づけば、どうするか。


 考えるまでもなかった。

 ひょっとすると、茂みへ行ったのはこの戦闘に気づいていたからかもしれない。
 私より先に、この血の匂いを嗅ぎ取っていても不思議はない男ではあるからな……


「あのアホウ。今力を失っているの忘れて動いていないだろうな」

 いや、元々そんな事を考えて動くようなやつではない。
 力があろうとなかろうと、動く時は、考えるより先に動いてしまう男なのだから。


 私の心配は、あたる。

「……やはりか」

 血の気配を追って行けば、そこに立つのは我が恋人と、戦闘の跡。



 そして、別の心配もまた、あたる。



 助けられているのは、一人の女。
 年のころは、20前の、美しい容姿をした、この国の姫と思われる女。

 その娘の見る目の質が、明らかに違ったからだ。


 私は思わず、ため息をついた。



 また、やっかいそうな女を……




─あとがき─

 今回、前半部は主人公がヒロインみたいだ。最後の最後でお約束な事やってますけど。

 『道具』を失ってただの人になった上に魔法世界へ放り出されれば、不安にもなります。
 心強い仲間と恋人の存在のおかげで、すぐに立ち直りましたけど。

 実は当初ネギの方では『四次元ポケット』からエッチな本がとりだせなくなってがっくり来たのを勘違いという案もあったんですが、落ちこむ機会は多分今回だけなので自己嫌悪してもらいました。
 原作ではネギが悩むのを肩代わりしちゃった形ですね。ますますネギの闇がなくなっていく……


 次回は魔法王国の王子様大奮闘記をお送りします。
 王国の詳しい説明などは次回に。

 ネギ拳闘士編はその後になります。他の生徒達の行方もその時に。

 それと、ゲートは一瞬にして破壊されてしまったので、タカミチや龍宮が魔法世界に来る事はありません。



[6617] ネギえもん ─第28話─ エヴァルート16
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/03/26 22:10
初出 2012/03/26 以後修正

─第28話─




 勘違い属性再燃!




──────




 魔法世界に存在する、世界を二分する南の古き民「ヘラス帝国」と 北の新しき民「メセンブリーナ連合」
 魔法都市国家メガロメセンブリアを盟主とする、その北のメセンブリーナ連合に属する小国。


 ゲイザス王国。


 超巨大魔法都市国家メガロメセンブリアもう一つの都市などとも揶揄される事もある、新オスティア統治領にも程近い位置にある国。


 それが、彼が王位継承権を得た国である。


 ちなみに、メガロメセンブリアとこの国の関係をわかりやすく例えるならば、日本とアメリカの関係に似ているそうだ。
 もちろんこの小さな国が日本で、メガロメセンブリアがアメリカだ。
 とはいえ、似ているだけで、丸々同じとは考えないでもらいたい。

 この小さな国にいるのはあくまで、王様だし、この国とメガロが戦争した事はない。

 もっとわかりやすく、この物語的に現すなら、ジャイアンとスネオの関係と言った方がしっくりくるだろうか。

 ともかく、そんな国だ。


 しかし、そんな小さな国で起きた小さな親心が、この世界を揺るがすほどの大事件を引き起こす事になろうとは、誰が想像しただろうか……?




──────




 がたごとと、先ほど助けたお姫様と、追ってきた王家の近衛騎士団とかいう人達の馬車に揺られて、俺達はこの国の首都へと向っております。
 当然、お城へ向うために。


 その中で……


『あれ、人助けだから。下心ないから。ね?』
 エヴァに向って、さっきの襲撃はまきこまれただけで、それ以外他意はないと主張します。

『知っているから安心しろ。だが、それで勘弁するかは別問題だ』
『あとで土下座しますから今は勘弁してください!』

『継承権を辞退したらすぐにこの地を去るぞ。いいな?』
『わーってますわーってます』

 ちなみにこれは、念話とかではなく、目で語り合ってます。

 念話を盗聴される可能性が……
 というわけではなく、普通に無言で痴話喧嘩してるだけっす。はい。


「もし?」

「ああ、はい」
 視線での会話を打ち切り、声をかけてくれたお姫様に対応をはじめる。

 ちなみに、この馬車はさっき倒されていたのとは別の馬車で、周囲には大勢の近衛の人が周りを取り囲んでいます。
 悪漢に襲われていた時とは考えられないくらいに周囲に護衛が増えました。

 なんかお姫様お忍びの視察をしている最中にあの悪漢どもに襲われたんですってよ。
 しかもそのお忍び視察を知るのはごく一部の者だけ。
 つまりは王位継承権争いで、俺を立てて権力を握りたいって人がいるみたいなんですってよ。


 そりゃあ、英才教育受けて育ったお姫様と、外から来た市井のぼーず。どっちを傀儡にしたいかって言ったら圧倒的後者だよな……


 まあ、さっき逃げた悪漢達はエヴァが全部のしてくれていたので、騎士団の方々に捕縛されとります。なのでその黒幕が摘発される可能性もあるかもかもネ。

 しかし、それでお姫様暗殺とか、この国一体どうなっとんねん。
 なぜかは、この後のこの国の王位選抜体制で納得する事になるけど。


 そして今は、話しかけてきたお姫様と、俺。そこに俺の護衛のエヴァにお姫様の護衛が一緒に乗っております。


「先ほどは、本当に助かりました」

「いやいや、たまたま通りかかっただけですから。つい、ね」

 そう。ホントにたまたまだ。たまたま通りかかったところに君等が居ただけだ。マジに。


「では、王位の為に、ですか?」
 恐る恐る、姫がそう質問してくる。

「え? いや、俺まだその王位継承の仕方とか、破棄の仕方とか、なにも聞かされていないんですよ」
 国の事は簡単に教えてもらったけど、そのあたりの詳しいシステムは、学園では説明してもらえなかったのだ。
 俺が王位に興味なくてマトモに調べなかったというのもあるけど……


 そうしたら、なんかすごく驚かれた。


 なにも知らずに、リスクもメリットも考えずに、助けたのかと。
 大層驚かれた。


 まあ、そりゃそうか。
 この国の王様を決めるシステムを知っていれば、確かに助けても当然かもしれない。でも、知らなかったらまた別だもんな。


 この国の王位継承システム。
 まずかなり前に、この国は血筋と魔力によって王が選別されるとは言ってあったはずだ。

 王家の宝石に俺の姿が映し出され、それにより、俺がこの国の王になる資格を得たとも。

 つまり、この国では、王様の血を直接ひいただけでは、王子だろうがお姫様だろうが、その宝石に姿が映らなければ、王様になる資格を得られないという事である。

 そして、俺が宝石に選ばれたように、王も選ぶのは、人間の手ではない。

 この国では、王は精霊が決めるのだそうだ。
 精霊とは、この国に住む目に見えない存在で、まあ、魔法の元とかいう考えがあるが、それとはちょっと違うようで。
 なんというか、一番わかりやすい表現は、お天道様がきちんと見ている。という事らしい。

 悪い事を考えていれば、それを精霊様が見ていて、王としての評価を下げる。
 その際、宝石に映し出されたその継承者の姿。『王の器』という名前らしいけど、それは、どんどん小さくなってゆく。

 逆に、人のためになるよい事。精霊に認められる事をしてゆけば、『王の器』の姿はどんどんと大きくなり、光り輝いてゆくというのだ。

 んで、その『王の器』が大きい方が、王となるわけなのである。


 つまり、精霊がこの国にふさわしい、民の事を考えたやさしい王様を、自動的に選んでくれるという、政治屋さんなら泣いて逃げ出すようなシステムになっているのだ!
 正しい事をすればするほど王として認められるシステム。

 魔法って、凄いね。


 そして、だからこそ困った事が一つ。
 このシステムでは、王や継承者は、不正など一切行えない。

 そんな事を考えたり実行したりすれば、精霊様が見ていて、『王の器』はどんどこ減っていく。なくなってしまえば、当然王位継承権もなくなるし、王様ですらオサラバなのだ。

 しかしそれで、よい王様だけが選ばれないのが人間の世界。

 王は不正は行えないが、王の知らないところで行われる不正は、王位継承には影響を与えないのだ。
 王の関与しない臣下の暴走。王が命じていないのなら、それは関係ない。
 特に継承者の場合は、王ではないため、より臣下の区切りがはっきりしない。

 そして行われるのが、王位継承者の暗殺。
 当然。継承者がソレを望んでするわけではない。
 臣下が、継承権のみを持つ器の低い者を王とするための手段。
 能力の低い者を王とし、その背後から権力を握るための手段。

 例えば、この国の政治も知らぬ、異邦人の子供。そんなのが王になれば、傀儡にも仕立てやすい。
 最低限の器さえあれば、その者はずっと王のままだ。

 死んでしまえば、どれほど『王の器』が大きく、光り輝いていても、関係はないのだから。

 失脚という手段がとれないこの国で最も多く行われる、王位継承者の退場が、それなのである。
 いや、正確には、自主的に継承権を捨てようとしない限り、それ以外での継承権消失は、事実上ないも同じなのだから。


 つまり、姫が驚いたのは、もう一つの意味もある。
 王位継承者なら、あそこで見捨てていても不思議はなかった。と。

 『王の器』が多少減少しても、見捨てただけで王の資格が失われるわけではない。むしろ、見捨てているのが自然なのだ。
 それなのに、俺が助けた事も、驚きだったようだ……


「あー。そりゃ、大変ですなぁ」
 王位継承の闇を聞き、俺は思わず声を上げた。
 自分の都合に悪い人は殺してしまう。うん。人間ならやりかねないねぇ。

「はい。ですからお気をつけください。わたくしだけではなく、貴方も同じように、疎まれて、狙われる可能性を」

「わかりました。ありがとうございます」


 にっこり微笑んだら……


「はい!」

 なんか凄く喜ばれた!
 女の子に喜ばれるのは悪くないよね!


 ちなみに、エヴァが彼をつねろうかとか考えたが、どうせ下心はないのだろうと彼を信じ、そのまま流した。
 そして彼は、あれ? つねられたりしなかった。と少し残念がったりした。


「しかし、俺行方不明あつかいになっていたはずですけど、それなのに、暗殺?」
 ゲート事件で俺って王子様行方不明になってた気がするんだけど。

「貴方が死んでいないのは『王の器』を見れば明白ですから」

「……あ、そっか。俺が死んでいたりすれば、その光も消える。と」

「はい」

 その上、万一行方不明のままなら、代理で……なんてやり方もあるかもだもんね。都合よすぎるね。
 だからこその、国政の混乱か。


 これははやいとこその宝石から俺の姿を消して、王位継承権を破棄しないとな。


 そんなわけで、お城に到着いたしました。


 歓迎もそこそこに、その宝石のあるという王家の間へ向います。




──────




 その『王の器』を映した宝石のあるという王家の間へ向うと、そこに別の人がいらっしゃいました。

 そこにいたのは、王様と、新オスティアの総督とかいう人。


 ……というか王様いるんだね。


 当然お姫様のお父さんで、姫の光が王様を超えたから、世代交代を考えていて、そんな折、俺の存在が宝石に映し出されて、おいそれと王様辞められなくなった人なんだって。
 ちなみに次の王は、現王が死ぬか、『王の器』を自分で消して退位するかで王がいなくなると、一定期間の精霊審査の後、次最も大きい器の人がなるんだって(だから自分の意思で宝石の姿を消せる)


 親心としては、ちゃんとした娘さんに譲渡したいわなぁ……


 納得納得。


「おや。ひょっとして、ゲートの事件で行方不明となった王子様ですか?」
 王様と一緒に居た新オスティアの総督という人が俺に声をかけてきた。

「あ、はい」
 とりあえず、ぺこりと。

「これはお初にお目にかかります。私はメガロメセンブリア元老院議員にしてメガロメセンブリア信託統治領新オスティア総督の、クルト・ゲーテルと申します。以後お見知りおきを」

 なげー肩書き。
 ……って、ん? この人、どっかで見たことあるような気がする。


 首をひねる。


「どうしました?」



 彼が首をひねるのも無理はない。
 目の前にいる総督は、『ネギま』本編にも登場している。
 神鳴流の剣士で、タカミチの友人であり、元『赤き翼』の一員で、そこと袂を分かち、政治家になった男なのである。

 彼の持ついわゆる原作知識は拳闘大会決勝終了後あたりまで。どうやら、この男が本格的に本編で名乗りをあげる前に、彼はこの世界へ飛ばされてしまったようだ。
 見た事があるというのは、小さくコマの隅っこに描かれていた事があるからだろう(総督なので道中普通にテレビで見た事あるだけかもしれないが)
 ゆえに彼は、この世界が火星をヨリシロとして存在する事を、原作知識としては知らない。



「いえ、なんでもありません。はじめまして」
 考えても出てこないのだから仕方がない。

 自己紹介をして、握手をする。
 よくよく考えてみて、これって日本の総理大臣とかアメリカの大統領に会う並にすげー事だよな。

 てかこの総督様、神鳴流の剣士なんだって。なんか意味ある設定なのかしら。ひょっとして原作関係者かしら? かしらかしら?


「これはこれは姫。今日もお美しい」
「ありがとうございます。ゲーテル様も今日はお元気そうで」
 俺と挨拶をして、そのまま流れでお姫様にもご挨拶。

「ははは。いつまでもベッドで寝てはいれませんからね」

 そういえば、病弱とかってさっき言ってたっけ。
 そんな事を思いつつ、壁の花になってエヴァを隣にその会話を見守る。
 ちなみにその間に王様と挨拶もしておいたと報告はしておく。

「ところで、今日はどうしてこちらに?」

「姫に会いにきた。と言いたいところですが、そうではなく、先日のゲート事件でメガロ各地での警備の信頼低下が叫ばれていましてね。そのために、新オスティア総督としての視察のついでに、この地にも外遊に来たというわけです」

「そうだったのですか。確かに、ゲートの事件で今度のお祭りなどの警備に不安を申し出る民も増えていると聞きます。衛兵の方々も、あのような事件があったにもかかわらず、自分達とは関係ないと気を抜いているようですし……」

「そうなのです。ですので、祭りの間、各国の警備も万全にしなくてはいけない。それらの警告もかね、こうして同盟国も回っているというわけなのですよ」

 そんな会話が聞こえる。
 ああ、そういえばもうしばらくしたら、20年前の大戦が終わった記念の祭りをやるんだっけか。

 ゲートを使用しない人ってあんまりあの事件に興味を持っていないみたいだけど、上の方は問題視するよな。
 大問題だよな。だって国家や組織としての面子が完全につぶれたようなテロだもん。

 国のトップならそれが祭りで起きないように動き回らなきゃならないのも当然か。

 その祭りは戦後20周年を記念し、さらには人種、国家、宗教を超えた大祭典。
 それを目前にして、国の警備に不安があると思われていては、各国の沽券にも関わってきてしまう。

 それらの不備がないよう、調整してまわるのも、開催地となる新オスティア総督の役目でもあるのだろう。

 まあ、その下にナントカ大臣とかいてそっちが調整はしているのだろうけど、国の『顔』として色々まわらなくてはならなかったりするんだろうな。
 政治家さんは大変だ。


 ま、オラにはかんけーねーわー。


 そんな政治家の苦労を背負うつもりはないので、さっさと王位継承権を消して、この国ともオサラバし、ネギ達と合流する事にしよう。

 幸い超がパワーアップしてくれたバッジのおかげで、部員全員のバッジの場所はわかっている。ナンバーが誰なのかまではわからないが、合流を繰り返してゆけば、いつかは出会えるだろう。
 ついでに、原作どおりの流れに戻ったのならば、そろそろ全国放送で拳闘士『ナギ』が姿を現すころだ。


 まあ、合流の事は、今はおいといて。

 まずは、王位継承権を破棄してこないとね。

 もう速攻で。
 面倒な暗殺騒動とか起きてるんだから、さっさとしないと。


 お姫様との軽い立ち話も終わり、総督様ご一行は去っていった。


 さて。それでは今度は、こっちの面倒をさっさと終わらせますか。


 お姫様に案内され、俺の姿が映った宝石の前へとやってきた。



 そこは、丸いつくりの部屋で、中心になにか力を持った石があり、それを囲むように柵があって、その柵の支柱に宝石がはまっている形になっていた。

 そのうちの一本が、天井に向って光を放ち、その光が、俺の姿を映し出している。
 ちなみに、この15歳の体の姿ね。元の三十路の方じゃない。

 この柱は、この国にある精霊の泉とかいう公園の噴水とか道路の湧き水とかに通じてその『王の器』を確認出来るのだそうだ。
 なので下手すれば、俺この国で有名人。

 だけど、わざわざそこを見て生活している人なんてほとんどいませんよ。と姫に教えられた。そーいやこのシステムだと民に王の選抜ってあんま関係ないんだもんな(民がどう思っているかという点の精霊の評価はあるが)
 それは逆に安心です。
 それと、お姫様は今部屋の前で俺達を待ってますの。
 『王の器』に触れる場合は、他の継承者はいない方がいいって事で。まあ、ライバルだからねぇ。


「はー。なんか真面目な顔してるなー」

 なんかホントに王子様みたいなかっこうして杓なんか持ってる。
 無駄にきりっとしてる。


「……なかなか悪くない姿だな」


 俺の後ろにボディーガードとしていたお嬢さんが小さい声で言ったのが聞こえたよ。
 まあ、いかにもな王子様の姿だしなぁ。

 正直、この姿、仮装みたいで恥ずかしいんだけど……


「まあいいや。消すのはどうすればいいかわかるか?」
 顔を傾け、背後のエヴァに聞く。

「このタイプは手をかざして念じればいいはずだ」

「ほいほい了解」
 なので、言われたとおり手をかざし、消えろと念じた。

「ただ……あ」
「え?」

 え? なにかまだあったの? やっちゃったよ?


 すると……


 ぱあぁぁぁぁぁ。
 てな感じで光が瞬き。


 光が強くなり。
 ぐんぐんぐんと……

 俺を写した宝石の光。俺の『王の器』が、なぜかでっかくなった……


 そのサイズは、隣にあったお姫様のサイズにせまろうとしている。
 今一番上座にある王様のより大きくなってしまってるよ!


「……なあ」
 思わずエヴァを振り向く。

「なんだ? 今私は頭を抱えるのに忙しい」
 片手で顔を覆ってうめいてた。

「なんで、俺が触れたとたんにこんなに光でっかくなったんだ?」
 とりあえず、俺の器を指差した。

「予測でしかないが……」
 と前置きされ、耳元に顔を近づけ、言われた。

「消えない理由として、お前が今ここに半身しかないからだ。だから、起動そのものは成功し、しかし、消すだけの認証は得られなかったというわけだ」

「あー」
 そーいや、登校地獄の時も二人になってたら変な不具合あったっけ……
 それと似たようなもんか。


「そして、この光はお前の『王の器』をそのまま示している。これまでの評価がプラスされた形だな」


 つまり、これで俺は、完全に王位継承権争いに加わったって事ですか。
 今まではただエントリーされただけの状態だったのね……


「正直言えば、過小評価だぞこれは」

「なんでや」
 いや、お姫様よりでっかくなったらさらに困るだろ!


「……」
 なんかアホを見るような目で見られたー!


「いや、俺、王様なんて器じゃないし」


(すでに一度星を救った男がなにを言うか。それだけであの器の大きさは魔法世界を覆わんばかりでなくてどうする!)
 それはそれで過大評価な気もする。と天の声は一応つっこみを入れておく。


 ため息つかれました。


「まあ、それを論じてもしかたがあるまい」
「まあ、そーだね。消えないのは事実だし」

 光のサイズはともかく、辞退出来ないんじゃ大問題だ。
 宝石叩き壊しても他のところに移るっていうし。


「とりあえず、これ以上ここにいても無駄だ。一度出るぞ」
「そうだなー」


 入り口で見守っていたお姫様と合流して、俺達は一度この王家の間から出る事にした。


 さて。どーしよう。


「とりあえず、一つ早急にやらねばならない事がある」
 出る途中俺は、とてもシリアスな声でエヴァに告げた。

「ほう」

「ひとまず、トイレ」

 エヴァがずるっと肩を滑らせた。


 さっきの騒動でひっこんでたの思い出したんだよ!




──────




 城の一室。いわば、俺がこれから生活するという場所に通された。
 無駄に豪華ででっかいベッドがあったり、見晴らしのいいバルコニーがあったりする凄くいい部屋だ。

 一応隣に俺のボディーガードのエヴァの部屋も用意してあるが、彼女はこっちに毛布とかを持ってきて寝るつもりらしい。

 まあ、暗殺が一番可能性あるんだから、当然といえば当然か。


「さて、どうする?」
 部屋に入り、鍵をかけ、今後の事を話し合い。

「どうしようか。困ったね」

「このまま抜け出す。という選択肢もあるぞ」

「それ、俺が選ぶと思う?」

「残念ながら、思わん」


 そうしたらお姫ちゃんが暗殺される可能性大だし、王様までやられちゃうかもなわけだし……

 だがしかし、残っていたからと言って辞退出来るというわけでもない。
 一人に戻ればいいのだろうけど、一人に戻る方法もわからない。


「一応確認のために聞くが」
 エヴァンジェリンが続けて聞いてくる。

「はいはい?」

「お前は王様になる気はないのか?」
 ホントに一応だな。
 ノーってわかってての確認だよ。

「ねーよ。だってお前、俺王様になったら速攻ハーレム作る自信あるぜ? それでもなれってのか?」
「そうだな。ならせるわけにはいかんな」
「だろー?」

 まあ、実際王様にならないと作るかどうかわからないけど。ハーレム。
 なる予定はないから作る予定もないけど。ハーレム。


「ならば……」
「ん?」


 エヴァが俺の正面まで近づいてきた。
 直後、俺とエヴァの足元に魔法陣が広がる。


「……仮契約をしておくぞ」

「……え?」

「仮契約、するぞ」

 大切な事なのか二度言われました。


「い、いや、いやいやいや。いや、理由は、わかるよ」
 ピンチの時にカードでお話し出来るし、助けも呼べるし俺を召喚ポーンと助ける事も出来る。
 『四次元ポケット』を失った俺には助かる事づくしの機能ばっかりだ。


「今までのお前ならまったく必要はなかっただろうが、今はそうではない。命の危険もあるんだ。背に腹は変えられまい?」


 ぐっ……
 痛いところを……

 どうせするなら結婚式で。と断ってきたが、ノーと言える一番の理由が消えてしまった今、それは正論とも言えた。
 だが、あんまりぽんぽんキスを許すわけにはいかない。

 癖になったら我慢出来なくなるからだ! アイツも俺も!
 そんな事になったら結婚式前に襲っちゃうぞ! ノー! ダメ!!


「安心しろ。キスだけが方法じゃない。それ以外にちゃんと方法は存在している」
 俺のプライドを気遣ったのか、エヴァが小さく微笑んでそう言った。

「え? そーなの?」
 原作じゃちゅーばっかやん。


(それに、今そんな事をしたら、弱ったお前とあいまって、そのままベッドに押し倒してしまいそうだしな……)
 やっぱり最初は結婚してからだからー! なんて思ったのはエヴァンジェリンだけの秘密。


「だとしたら同姓同士の場合困るだろう?」

「ネギ達は同姓でしてたけどな」

「アレはあのおこじょがそれしか知らんからだ」

「というかおこじょ居なくても仮契約出来るんだ……」

「私ほどの大魔法使いならば楽勝だよ」


 そういえば魔法世界には仮契約屋とかいうものがあったっけか。エヴァも茶々丸さんとなんか契約してたもんな(ドール契約という魂がなくとも出来る契約をしている)
 おこじょの専売特許ってわけじゃないんだったなアレ。


「必要なのは、お互いの体液の交換と考えればいい」
 本当のところは、互いの霊的触媒。魂と魂をふくんだ個所を触れさせるのが必要というが、よくわからん。

「えーと? つまり?」


「元吸血鬼らしくいこうか」
 エヴァが自分の右人差し指を切り、そこから血がにじむ。


「同様にお前もだ……」
 と、俺の右手をとり、俺の人差し指もちょんと切る。


「そして、互いにそれをくわえればいい」

「わーお」
 そのまま俺の人差し指は、エヴァの唇にくわえられた……



 ぺろりと舐められた指から脳に、光が走った気がする。



 そして、俺の目の前に、エヴァの人差し指が差し出され。

「ん」

 俺の指をくわえた彼女が、早くしろとせかす。
 ……これは、儀式だから。ぜんぜんえっちくないから。


「わかったよ」
 確かに、背に腹は変えられない。


 俺の安全を考えるのなら、当然の選択だろう。


 俺は空いた手でその手を握り、差し出されたその指先を、口にふくんだ。
 エヴァの暖かい指が、その血が、俺の舌に触れる。



「んっ」
 エヴァがそんな声を上げたような気がした。



 直後、俺にもなにか、体中に電撃が走ったような、なにかが駆け抜けた気がする。

 足元の魔法陣の光が強くなる。
 同時に、体に走るそれ。はっきり言えば、快感が、口元から地面へ駆け抜ける。指から足へ。また足から脳天へ。

 これが、仮契約……!
 やばっ。色々、やばっい……!

 光が体を駆け抜ける。

 頭が真っ白になったかと思ったその瞬間。


 その光が頭上へと集まり、そこに、一枚のカードが現れた。


 仮契約が、終わったようだ……
 あ、あぶねー。あれ以上続いてたら、色々ヤバかった……


 舞い降りたカードを、エヴァンジェリンがキャッチする。


「……ふむ。やはりか」
 それを見たエヴァが、納得したようにそんな事をつぶやく。

「なにがやはり?」

「ああ。カードは出た。が、不完全だ」
 と、俺にそのカードを見せる。


 そこには、カードのふちだけで、中に誰も描かれていなかった。


「て事は……?」

「やはり半身だけだからだろう。アーティファクトは使えんな。念話は……」



『……か? ……き……こえ……か?』



「……雑音がすげぇ」

「召喚は……」


「あ、なんか引っ張られた気がする」
 ちょっとだけ。気がする。


「うん。ダメだな」
 笑顔で言われた。


「いみねぇぇぇぇぇ!」


「まあ仕方がないだろう。人生そんなものだ。安心しろ。SOS信号くらいは出せる」

 と、分断したカードを俺に渡してきた。


「ま、なにか役に立つかもしれないしな……」

 思わず右手。さっき切った方の手でカードを受け取っていた事に気づいた。
 あ、血がつかないかな……?

「と思ったらもう治ってた」

「ああ。簡単な治癒魔法ならば覚えたからな」
 にっとお姉さんが笑いました。


 その笑みは、きっと後悔したくないからだって事が俺にも伝わってきた。
 だから、俺も思わず嬉しくなる。


「向上心のある子は好きだよ。おねーさん」
「からかうな」

 ぷいっとそっぽを向かれましたとさ。


 うん。この恥らってはにかんだような横顔を見るなら俺はこいつに殺されるレベルのいたずらをしてもいいかもしれない。
 いや、殺されるような事したら絶対こんな姿見せてくれないけど。

 しかし、大人の姿でやられると別の色気というか、かっこよさとかわいさがある。


「なにを見ている。私を見ている暇があったら、王にならないで済む方法を考えろ」


 照れてるエヴァに怒られてしまった。
 まあ、確かにエヴァを見てきゅんきゅんしている場合じゃなかった。

 それにあんま邪な事ばかり考えていると……


「……あ」



 ひ、ひらめいたー!!



 逆転の発想!
 良い事をすれば精霊が評価してくれて、光が大きくなる。

 ならば、悪い事をちまちまと継続して行えば、どんどん評価がさがるという事だ! 精霊が、勝手に光を小さくしてくれるという事だ!
 ならば、光が消えるまで悪事を働けばよいのではないか!
 だが、実際に人を傷つけたりするのはNGだ。王にならずとも、普通に逮捕されてしまう。それではおうちに帰れない。
 しかし例え人に見られなくとも、精霊が見ていてくれるのだから、こっそりやれる悪事はたくさんある!

 あとは、王にしてはいけないと精霊が判断するまで、悪行を重ねる。
 そして王の資格を失えば、晴れて自由の身!


 完璧! 完璧じゃないか!


 な、なんという事だ。なんて事を思いついちまったんだ俺は。
 さすが悪の魔法使いの伴侶だけあるぜ。


「なにか思いついたのか?」
 俺の表情がかわった事に気づいたエヴァが、聞いてくる。


「ああ。俺はやはり、お前の伴侶となるべき男だったようだ……」

 きりっ。


「なっ!? い、いきなりなにを言う!」

「だから俺は、王にはなれない!」
 ぐっとガッツポーズをするのだった。


(なんだ、今のアイツは、妙に頼もしい……)
 どきどきと思わず胸が高鳴ってしまったエヴァンジェリンであった。


「そ、それで、一体なにをするんだ?」
「それは……」


 はっ!


 将来を誓った伴侶にすらそれを秘密にする。
 それって、それだけでも王にふさわしくないんじゃないか!?

 そうだよ。俺、なんて悪行を思いついちまうんだよ。
 やっぱり俺は、エヴァンジェリンの夫たる悪だな……!


 やってやる。やってやるぞ! 最低の悪になってやるのだ!


「いや、暗殺の件とかあるとか言ったけど、お前『コピーロボット』持ってきてなかったか?」



『コピーロボット』
 かつてエヴァンジェリンに手渡した、自分の分身を生み出す道具。
 人形の鼻のところを押すとその人そっくりになる。



 さらに平然と嘘まで! 俺は、俺はなんという……自分を外道と呼ぶにふさわしいな。
 自分が恐ろしい!


「ああ。影にしまって持ってきたな。そうか。そういう事か」
「そう。そういう事だ」

 どういう事かもわからないのに相槌まで打つ。なんたる外道。ふふ、自分が恐ろしくて震えてくるぜ……


(暗殺の危険性を少しでも減らし、いざとなったらコレを置いて脱出するというわけか。確かに、悪くないな。学園の精霊すら騙せる道具だ。この場の精霊も騙せる可能性すらある)

 特に、暗殺への影武者とするにはこれ以上ない道具だ。
 自身にくれた吸血鬼化出来るデラックス化『ドラキュラセット』のマントを渡すという手段もあるが、あれは使用者を『吸血鬼』としてしまう。一度は護れるが、その後逆に吸血鬼として認定され、別の危険を呼びこんでしまう欠点がある。
 だが、こちらならば、問題はない。

(万一の場合、今は半身しかないからこそ、死んだとみせかける事すら可能かもしれないしな)
 現状を逆手に取った手段。悪くないとエヴァンジェリンは、分析する。


「私はいい考えだと思う。今すぐ使うか?」

「いや、まだだ。急いでもしかたがないからな」

「そうか。だが、渡しておくぞ」

「ああ」
 『コピーロボット』を手に入れた!

「まあ、私が守るのだからそれを使う事もないだろうがな」


 っ!
 女の子に守ってもらう。こいつもいただけない!


「ああ。頼りにしてるぜ」

「まかせるがいい」


 くっ、エヴァを騙してしまった。少し心苦しいが、これも俺が『王の器』の光を消すため……許してくれっ!


(……それほどまでに私を信頼してくれている。これほど嬉しい事はないな)
 エヴァの信頼度がさらにあがりました。



 こうして、俺の悪行三昧★大作戦ははじまった!




──────




「そうだエヴァンジェリン。少し散歩をしてきてもいいか?」
 さすがに部屋の中に閉じこもっているだけは、『王の器』はなかなか減らせないからな!

「私も一緒に行くのならかまわんぞ」

「それでもOKさ」

 エヴァンジェリンに隠れて悪を行う。
 小さな事でもそれだけで悪はパワーアップからな!


「さあ行こうか!」


 部屋を出ると、衛兵達が待っていた。
 一斉に俺の方へ敬礼する。


 な、なんだぁ?


 さっきの仮契約騒ぎとか聞かれてないよね?
 聞かれたら恥ずかしいし。
 なんて思ってたら、エヴァが視線で『結界をはっていたから安心しろ』と教えてくれた。

 安心!

 そしたら、一番偉いと思われる人がエヴァの方を向いて。


「一つよろしいか?」

「なんだ?」

「王子の護衛は、我々に任せていただこう」
 たくさんいる衛兵達が、言葉にあわせ並ぶ。

「残念だが、私は王子から個人的に雇われている。お前達に従う義理はない」
 むしろいらない。といった感じにエヴァがつっぱねた。


 雇ったといっても金を払っていたりするわけではない。単なる対面的な言い訳ですからね。


「しかし、我々はこの国の……」

「この国の人間で、確実に安全だと言える人間はいるのか?」

 まあ、言い方は悪いけど、お姫様も命を狙われたくらいだから、俺もお姫様の事を思う人から狙われる可能性は十分にあるんだよね。
 エヴァンジェリンがいれば安心安全なのは間違いないのだろうけど。

 そういう意味じゃ、エヴァの心配も最もだ。


 ……はっ! 気づいた。


 城の衛兵と信頼関係も築けない王様。
 ボディーガード一人しかつけないで、他を拒絶する。これって、王様的には最悪じゃないか!?

 いける。これでエヴァに彼等をぼっこぼこにしてもらって、さらに兵士をいじめる王様なんてのもつく。
 一気に評価がさがる! やった。ナイス!


 なので俺は、即座に行動を開始した。


「そうだね。僕も彼女の意見に賛成だ」

 はじまろうとした口論に、俺が割って入る。


「お、王子!!」
 当然のように彼女の肩を持った俺に、彼等は不満のようだ。
 いや、でもなんでそんな不満になるわけ? 知らない君達より、知る人を信頼するのはある意味当然な気もするけど、今は好都合!

「皆さんの言い分もわかります。自分達の領分へ勝手に踏みこまれるのは確かにいい気はしません。ですけど、彼女を雇ったのは僕です。プライベートの部分は彼女に守ってもらう。そういう契約ですから」

「ですが!」

「わかりますわかります。ですから、納得してもらいます。彼女が居れば、僕は安全だと。大変申し訳ありませんが、僕はまだ、皆さんを信用しているわけではありませんから」


 にっこりと、だが、明確に、彼は衛兵を威嚇した。


「くっ……」
 俺の笑顔に、衛兵さんの顔が歪む。

「でも、それで素直に納得出来るなんて、思ってもいません。ですから、今から彼女の実力を知ってもらいます」

「ほう」
 エヴァが、面白そうに笑った。

「どこか、戦うに適した場所はありますか?」


 俺が問うと、闘技場なるものが存在すると言われた。
 さすがファンタジー。そんなもん完備してるのかよ。

 いや、現代的に言えば体育館とか修練場とかそんなモンなのかもしれないけど。


「では、そこで彼女に僕を守ってもらいます。そちらの衛兵さん達は、彼女を打ち倒し、僕を取り戻せれば彼女はもう文句は言いません。逆に、あなた達がやられたら、彼女の言い分に文句は言わない。どうですか?」

「それだけでは不満だな」
 なんとその条件に不満を言ったのはエヴァンジェリン。


「私が守った後、今度は私が王子を護るお前達を襲う。攻めも守りも完璧だと、お前達に思い知らせてやる」


 うわぁ。さらに挑発しくさったー!


「い、いいだろう! 貴様、必ず吼え面かかせてやるからな!」

 完全にお怒りになったー!
 いや、だがコレもよい傾向だ!

 相手を怒らせる部下をほおって置く。これもまたバッドな王様だから!



 そして闘技場へ到着。
 開けた闘技場の中心に俺を置いて、そこで守るのだそうです。

 うわぁ。スゲェ不利な状況。
 でもそれ言い出したのエヴァなんだ。

 それでも守れるって自信満々なんだ。


「いいのか?」
「なにがだ?」
 衛兵さん達の準備が整う間に、エヴァに聞く。

「攻めと守りワザワザ一回ずつやるなんて」

「かまわん。どうせ私が襲撃者になる事などない」

「……あー」
 つまり、防衛の時に力の差をはっきりくっきりわからせてやるって事ね。

「そういう事だ。だからお前は安心して寝ていろ」

「あー、うん。そうするわ。んじゃ、終わったら起こしておくれやー」

「ああ。まかせろ」


 そして闘技場のど真ん中で、俺はごろんと石の床の上に横になった。
 あ、ひんやり気持ちいー。


 ふふふ。今から戦いがはじまるというのに、なんという不真面目!

 さあ、精霊さん! こんなに不真面目な俺の評価、どんどんさげちゃってー!



「いいかお前達! これは我々の誇りをかけた戦いでもある! 城の衛兵として、あんな女一人に遅れをとるわけにはいかない!」
「おー!」
「華麗にスマートにあの娘を打ち倒し、王子に認められ、その後の地位を勝ち取れ!」
「おー!」
「王に気に入られれば、その後も安泰だ!」
「おー!」
「ふふ、そうしたら次の近衛騎士団長は、俺になっちゃったりしちゃったりしてー!」
「隊長、さすがっす!」

「ゆくぞー!」
「おー!」

 目先の欲望で気合を入れ、王子の護衛兵を志願する者達は、実は伝説の魔法使いであるエヴァンジェリンへと戦いを挑んだ。



 ちなみに俺はそのころ、うっつらうっつら夢の世界に入ろうとしていた……


「……おい。起きろ」

「んあ? あれ?」
 エヴァに揺り起こされた。


 全然寝た気がしない。まだまだこれからって気がするのに、起こされた。


「なんだよ。さっき寝たばっかだろ……」
 目をこする。

「いや、もう終わったぞ」

「えー」
 マジかよ。と思いつつ、体を起こしてみると、地面に痛々しく横たわる数十の衛兵さん達がいた。


「安心しろ。かるーくなでただけだ。しばらくそこで悶絶していればそのうち痛みは引く。まあ、一晩そうしているんだな」

「魔法は?」
「身体能力を軽く上げただけだ。それとけん制のマジックアローくらいだな。それ以外この程度に必要はない」


 ああ。あとは投げて踏んで痛めつけたのね。
 主な武器。衛兵そのもの。

 ごしゅうしょうさまです。


「うう……つ、強い……」
「これでわかりましたか? 僕が、あなた達を信頼出来ない理由を」
 倒れた、最初に俺に挨拶してきた人(隊長)へ声をかける。

 くっくっく。民を信用しない王様。
 たった一人のボディーガードだけしかつけないで信頼関係を損なう。まさに極悪な王よ!

「うう……」
「ですが、よかったですね」

「な、なにが……?」
「これが、僕の信頼する従者で。もしこれが、本当に襲ってきた敵だったら、どうなっていたでしょう? きっちりと言っておきます。万が一の時、あなた達では、僕だけではく、この国すら守れない!」
 くぅ、なんと敗者に鞭を打つ言葉! こんな言葉を俺が吐けたなんて。悪の道とは、恐ろしい!

「っ!」
 隊長らしき人は、そのまま言葉を失った。


「それじゃ、行こうか」

 俺の後ろで待っていたエヴァに声をかけ、俺達はそのままその場を後にした。


 ねぎらいの言葉一つかけず、敵にも手も差し伸べずに去る。
 なんて悪い男なんだ俺は……



「いやはや、コレは手厳しい……」
 その戦いを、闘技場の観客席で見ていた男は、思わずそうつぶやいてしまった。

 そこに居たの、衛兵達の長。
 近衛騎士団長であった。

 何事かと騒ぎを聞きつけ、やってきたのだ。

 自分と相手の実力さもわからず、つっかかっていってしまう衛兵達。
 ゲートであのようなテロがあったのにもかかわらず、彼等は自分達が安全だとふぬけていた。

 しかも今は、王位継承者が二人いて、すでに姫は一度何者かに命を狙われている。
 それなのに、そんな不穏な空気も感じ取れず、王子の護衛につこうなど、甘えているとしか言いようがない。

 王子の方も同じように一見すると、戦闘前から寝そべり、なにも考えていないかのようにも見える。
 だが、あれだけ衛兵に囲まれた状況で、暗殺すらありえるあの状況で、本当に寝るとは恐れ入る。
 それほどあのたった一人のボディーガードを信頼している証であり、信用の表れだった。

 この国のシステムとして、王位継承者はどうしても、民に甘くなってしまう傾向がある。
 民の信頼も、精霊の評価へと変わるからだ。
 ゆえに、甘い言葉を繰り返す継承者も存在した(後々実現出来ないと反動で一気にマイナスへ傾くが)
 それなのに、精霊の評価など気にも留めないかのように、衛兵達へ渇を入れてくれた。


「た、隊長……」
 彼等が去ったあと。衛兵の一人が、口を開く。
「気づいたか、お前も……」
「はい……」
「王子の言ったとおりだ……あの方は、命すら狙われる可能性があるというのに、我々の不甲斐なさを教えてくださった……! お前達、くやしくないか!?」
「悔しいです!」
「お前達はなんだ!」
「衛兵です!」
「ならば、なにを守る!?」
「この国です! そして、この国の、王をです!」
「だが今の俺達では、守れんぞ!」
「守ります!」
「守るか!?」
「守ります!」

 闘技場に、男達の声がこだまする。

「おおおおおー!」
 闘技場の床に倒れながら、彼等は自分達の無力さを嘆き、強くなる事を誓った。


 その光景を見る近衛騎士団長が思う。

 倒れた衛兵達が、次々に自分達の情けなさに気づいてゆく……
 これで彼等も、彼女に負けぬよう努力するようになるだろう。

 どれほど言葉をつくしても、この空気を変える事は自分に出来なかった。
 なのに、あの少年は、到着してすぐ、彼等の意識を変えてしまった……

 それは、この国に現れたばかりだからこそ、出来る意識の改革……
 ただ突然選ばれた異国の少年かと思っていたが、どうやらただの少年ではなさそうだ。

 これは私も、王子に負けぬよう、この国の為に手を抜けませんな。
 まずは、姫のお命を狙ったやからを、本格的に探さねば……


 この機会に、この国の膿をすべて、出しきらねば。


 近衛騎士団長は、思わずそう思った。



 王になりたくないと工作をはじめた。精霊の評価が少しダウン。
 自分の部下をあれほど信頼している! 精霊の評価が少しアップ!
 彼の行動により城の兵士達の意識に変化が訪れた。この国はさらによくなった。精霊の評価がアップ!




 彼の『王の器』『 王の器 』
 姫の『 王の器 』




 ふー。護衛兵さん達のプライドをばっきばきに叩き折ってしまった。
 これで兵士との信頼関係もズタボロ。また俺の器は小さくなった事だろう……!


 復讐とかがあってもエヴァンジェリンがいるから大丈夫!
 女の子に頼りまくりで評価もさらにダウン! よいね。よい悪循環だね!

 だがまだまだ俺の悪まっしぐらはこれからよ!
 どんどんいくよー!



 一件落着したので、更なる悪をなすために、俺はボディーガードをつれ、城を突き進むのであった!




──────




「あら、王子」

「おや、姫」


 衛兵の少なくなった廊下でお会いしたのはお姫様。


「この国は、いかがですか?」

「あー……」


 ほぁー!!

 またあくどい事を考えついてしまった。
 俺はこの国の事はまだよく知らない。
 ならば、この国を案内してくれと、連れ出してしまうというのはどうだ!

 お姫様を誘拐して街でつれまわす。
 極悪外道の名をほしいがままに出来る悪行じゃないかあぁぁぁぁ!!


 凄いな。こんなにも俺は、悪を行う才能に溢れていたか……自分が、恐ろしい……


 そして、恋人の目の前で他の女の子を街へ連れ出す。
 これは、とんでもなさ過ぎる裏切り行為だ!

 あとで土下座で謝っても許されるかどうかもわからないほどの!
 ……許して、くれるよね?

 だ、大丈夫。うん。エヴァンジェリンならきっとわかってくれる!
 俺達の絆は、そんなやわくない! と、おもう。


 というわけで!


「姫。実はまだ、この国の事はよくわからないのです。ですから、城ではなく、この街を、案内していただけませんか?」

「え? はい。かまいませんわ。それでは今から馬車で……」

「いいえ姫。ここは馬車などを用意するのではなく、僕と貴方。そして護衛の三人だけで行きましょう」

「え? ええー!?」

「みんなには秘密ですよ」
 しーと、ちょっとかっこつけて!

「は、はい……」
 うつむいてしまった。
 どうやら気障なのはお気に召さないらしい。

「というわけだからお願い出来るかな?」
 エヴァの方を振り返った。
 俺と姫を連れ出しておくれ!


 ……いい、よね?

 ため息つかれたけど、やってくれました。



 テレポート!



 城の近くにある公園の中へ出た。
 ちなみにどこへとぶ? と聞かれてここから見えるそこの公園と言ったのは俺だ。当然適当。

「サンキュ!」
「気にするな。今回は貸しにしておいてやる」


 あとでやっぱりごめんなさい土下座をしよう。
 まとめて3回くらいで許してくれるかな。


「わぁー。護衛もつけず外に出るのは、はじめてです……」
 周りをきょろきょろと興味深そうに見回している。


「それで、なにが目的だ?」
 きょろきょろと公園を見ている姫に聞こえないよう、ひそひそとエヴァが俺に聞いてくる。

「うん。やっぱ自分の目で下々の者の暮らしを見るって重要じゃん?」


 ふっ、また嘘に嘘を重ねてしまった……
 なんと俺は罪深い……!



(やはりか……まったく。姫の為に外を見せてやるとは、お前も優しいというか、悪い男というか)
 ちなみにエヴァは、彼に絶対の信頼を置くと決めている。ゆえに、この程度ではもう揺るがない。
 が、別の心配はする。

(下手に惚れさせるというのは止めてほしいのだがな……)
 こればっかりは、相手の気持ちなので、いくらエヴァンジェリンといえども、どうしようもなかった。



「では行きましょう!」
 うずうずとお姫様が言う。

「あ、ちょっと待て」
「はい?」
 エヴァが引き止める。

「その格好では目立つからな……」
 魔法でポンと服装を変えた。
 これも幻術の一種だそうだ。


「わぁー。すごいですのね!」


 素直にお姫様が喜んでいる頃。



 一方の俺は、公園にある木を見上げていた。


 俺の悪のコンピューターがまた一つ心無い事を思いついてしまった。



 公園の木の枝を無慈悲に折る!!



 なんと、なんと罪深い!
 俺は精霊達に白い目で見られ、公園管理のおっちゃん達に叱られる事間違いない。

 そして、今エヴァと姫は服に注目している! 今しかない!


 えいやっと!


 近くにあった木の枝をぺきぱきっとへし折る。


 ああ、これが日本の桜に似たような傷に弱い種であったらそれが原因で死んでしまうかもしれないというのに……
 なんという罪悪感。


 俺が王になりたくないからという身勝手な理由で!


 くっ、すまない木よ。

 この枝は、ちゃんと再利用してもらえるよう管理者の人に届けておくから!
 そうすれば、気づいた管理人が治療とかもしてくれるだろうし。

 ふと見れば、近くに公園管理者用の小屋があるのを見つけた。
 すまない管理人さん。俺のかわりにこの木に謝っておいてくれ!


 俺はその枝を小屋の前に置き、エヴァとお姫様を追いかけた。


「一体なにをしていた?」
「ちょっとね」


 またエヴァに秘密を作ってしまった。こいつはもう、俺は地獄に落ちるかもしれん……




 公園管理者小屋。


「……こ、こいつは!」
 小屋の前に置かれた枝を見て、公園の管理人は驚愕する。


 なんとその枝葉は、『腐海の病』と呼ばれる、木を腐らせる病にかかっていたのだ。
 外科手術と同じく、その枝を切り取れば、それ以上の汚染は防げるが、それに失敗すれば、木から木へと広がり、木を、林を、森を大地を腐らせて行くとてつもなく恐ろしい病であった。


 その胞子は、木だけではなく人にも多くの害をもたらし、一ヶ月たたずにある国を滅ぼしたとも言われている。


 その初期状態を見つけるのは非常に難しく、内部に巣食いはじめたこの最初期の段階を発見するのは、専門家ですら難しいといわれる。
 だが、この段階で発見出来れば、このように枝の先端を折るだけで治療する事が出来る。
 最初の胞子を切り離す。たったこれだけで、森全体を腐らせる病を、駆逐出来るのだ!


「なんと、見事な……!」

 これを発見した者は、たったコレだけの手術で、その木を、いや、この公園の植物全てを救ったのだ!


「しかもなにも告げずにいなくなるなんて、カッコイイ事するじゃぁねぇか!」




 木の枝を折り、いくつかの嘘を重ねた。精霊の評価がほんの少しダウン!
 だがそれは木の命を救い、さらには公園から広がる森の危機を救った! 精霊の評価が大きくアップ!!




 彼の『 王の器 』『 王の器 』
 姫の『 王の器 』




 公園を抜けて、街に出てきました。

 いわゆる中世ヨーロッパ風のファンタジーな街並みが広がっています。
 どこか緩やかに時間が進む、平和な国です。
 なんというか、感じる空気は日本よりゆるい気がする。


 ただ、俺はこの場だと現代風な格好しているから、ちょっと浮いて見える。着替えてくりゃよかった。
 なので、エヴァにフードつきマントを影の中から出してもらい、装着。来るまでにつけてたマントね。

 ちなみに歩くフォーメーションは歩道の車道側に俺で、その隣に姫。俺達二人のすぐ後ろをエヴァって並びです。
 いざという時は全部エヴァ任せだけど、基本世界最強だから問題ないと思ってます。


「さてと。案内してもらいましょうか」

「はい! といっても、わたくし馬車からばかりでしたので、多くはわかりませんけど」

「まあ、そうだろうな」
 並ぶ俺達の背後にいるエヴァが言う。


 くっくっく。そんなのは予想済みなのよ。

 そして、お姫様に街の知らない事をバンバン質問して困らせてやるのだ!

 無知な女の子をいじめるなんて、まさに鬼畜の所業! 俺は、なんて領域に達してしまったのだ……


「姫、あれはなにかな?」

「も、もうしわけありません。わかりません」

「じゃあ、あっちは?」

「あちらも、ちょっと……」

「あれも? 彼等がなにをしてるのかも?」

「はい。もうしわけありません……」

 最初の興奮はどこへやら。
 どんどんとしゅんとなって行くお姫様。

 くぅ、女の子をしゅんとさせるとは。心が痛む。だがしかし、ここで俺が折れてしまったら、逆効果! ここは、心を鬼にして、姫様を困らせ続けるしかない!




 護衛をただ一人もつけず、街を歩いてわたくしは気づきました。

 わたくしは、この街の事を、ほとんどなにも知らなかったのだと……
 政治や経済の事は学んできました。

 ですが、この街の方々が。国の皆さんがなにを望んでいるのかなど、知ろうともしませんでした。
 視察に行くと馬車で向った時とは全然違う景色。


 わたくしは、この街の現実を一つも知らなかったのです……


 これでは、ゲート事件で気を抜いていると感じた方々とわたくしも同じではありませんか!

 貴方は、自分が街を見たかったのではなく、わたくしにそれを教えたかったのですね……?
 申し訳ありません。
 わたくしは、貴方の事をただの異邦人と思っていました。


 ですが貴方もやはり、宝石に選ばれた王の資格を持ったお方だったのですね。


 わたくしも、貴方に負けぬよう、より精進させていただきます!



 姫の意識に変化が芽生えた。それにより、姫はより国を、民を大切にするだろう。姫への精霊の評価がアップ!
 姫の意識をかえる事に成功した。それもまた王の証。精霊の評価がアップ!




 彼の『 王の器 』『 王の器 』
 姫の『 王の器 』『 王の器 』




 しかし、姫の心情にもう一つ。

 きゅん。

 王になるとう気持ちとは別に、私の胸は、高鳴ってしまった。
 正々堂々と、同じ王を目指すものにその足りないところを教える。その気高い心に。
 ライバルにすら手を差し伸べる、その姿勢に。

 どきん。どきん。
 あの方を見るたび、高鳴り、踊る胸。

 これはやっぱり、恋なのでしょうか……?




──────




 城に戻ると、エヴァンジェリンに変な質問をされた。


「……お前ひょっとして、この国を変えるつもりか?」


「変える? バカ言っちゃいけないよ。俺なんかに国が変えられるわけないだろ?」
 そんなつもりもないし、そんな気もないので、俺は思わず素直にそう答えた。

「そうか」
(ならば、こんな茶番をなぜ続ける?)


 ──私はその時、彼の言った意味がわからなかった。
 だが、しばらく時がたったとき、理解する。

 彼は、確かに自分でこの国を変えようとはしていない。彼は、自分でではなく、この国の人間に、この国を変えさせようとしていたのだと。
 彼は王になるつもりはない。だから、この国の人間に、この国をよくしたいという意識を芽生えさせようとしていたのだと……
 姫に王の意識を。兵に国を護る使命を。民にこの国を想う心を。
 自分達の手で、この国を良い国にして欲しいのだと……


 しばらくして、この国の人々の意識が変わるさまを見て、理解した。


 まったくお前は本当に、敵でない者には甘いのだから……
 しかも、人の意識を変えるという、難行を、こうも簡単に成し遂げるとは……




──────




 次の日。


 今日は『コピーロボット』を部屋に置いて、街を再び散歩する事に。
 昨日は姫様が居たし、時間もあまりなかったから、大胆な悪も出来なかったし!

 さらに部屋にこもっていれば、外は衛兵さんが守っているので、エヴァが外にいなくとも問題はない。
 暗殺が怖くてひきこもる王様。悪くないね!

 ちなみにこれは、王子が与えてくれた挽回のチャンスだと衛兵は考え、さらに精進する事となるのだが、それでのアップ率を描くのは、今は控えておこう。



 さー、今日もどんどん悪い事しちゃうぞー。



 獲物を狙うようにして街を歩いていると、広場でなにやら催し物が開かれているのが目に入った。

 何事かと聞いてみれば、いわゆる児童会で、野菜を作ったので、そこで料理してみんなに鍋を振舞うのだそうだ。
 その準備として、今料理を作っている最中なのだという。


 ……くっくっく。天よ。そうきたか。
 子供達が精魂こめて作ったその野菜達を、鍋に入れたところでぶちまけてしまえというのだな!


 くっ、考えただけで吐き気を催すほどの邪悪! 子供達の汗と涙を、一瞬にして無へと返す! まさに、外道!
 食べ物も粗末にして、かつ子供達に絶望まで与えてしまう……


 ……ちょっとやりすぎなくらいだ。ヒくよ。ヒきまくりだよこんな事したら。


 だが、まだ作りはじめたばかり。
 ならば、ダメにしたあと材料を買いに走り作り直せば、子供達には知らせずに振舞う事は可能だろう。


 いくら邪悪な王の俺でも、全てを台無しにというのはさすがに……


 よって、やるなら早い方がいい!!

 見物してもいいですか? と言ったら、いいですよーとあっさり承諾。
 くっ、この人のいいおばちゃんを悲しませるのはつらい! だが、俺が王になっては暮らしがもっとダメになる! 大事の為に、許してくれ!
 近くに居た児童会の子供達をあやして待機。


 調理テントの中で、おばちゃんが材料を全部投入した!
 いまだー!


「……あ」
 エヴァがなにかに気づいたようだ。
 まさかお前、俺の考えに気づいて、手伝ってくれようとしていたのか!?

 さすが俺の嫁。
 だが、これは王である俺がやらなくてはいけないんだ!


 大丈夫だ! 俺にまかせろ!



 どがっしゃーん。




「いきなりなにすんだい!」
 あたしゃもう、なにがなんだかわかんなかったね。

 折角材料を入れた鍋が、突然ひっくり返されたんだから。
 酷いいたずらするもんだと最初は思ったよ。材料も用意し直しになって。走り回ったりして大変だったもんだ。でもね、しばらく後にかけこんできた児童会の奥さんに、教えられたんだよ。

「た、大変! 育てた野菜の中に、煮ると毒になる苗が入ってたんだって! 食べてしばらくしてから苦しんで大変な目にあうらしいから、食べちゃダメだよみんな!」

 あたしゃ青くなったね。
 だってそうだろう。あのまま味見をしていたら、あたしは確実にそれに当たっていたんだから。それどころか、あのまま作っていれば奥さんの忠告も間に合わず、子供達や、振舞った人達まで。

 聞けば、それは無害なのと見分けるのがとても難しい上に毒性が高くて、苦しんで苦しんで、死んじまう可能性が高かったって話だよ。
 なんでも、外見が同じだから、子供が知らずに持ちこんでたみたいなんだよ。
 煮る以外なら平気ってのも落とし穴だったんわけだね。

 その後大慌てさ。
 料理自体は、早い段階に鍋をひっくり返されてたから、なんとか材料を別のところから集めて、子供達が悲しむ事はなかったんだけど……


 そのあたしを助けてくれた子がね。あの騒ぎの間に姿を消していてねぇ。
 お礼の一つも言えなかったんだよ。

 みんなでお礼を言いたかったんだけどねぇ。
 それだけが心残りさ。


「ぼくしってるよ」


 児童会の者みんなが残念だと思っていたら、児童会のぼうやが指差したんだよ。
 ほら、あの精霊の泉。
 王様の器が映るってアレ。
 あたし達には直接関係ないから、大して気にしてなかったあそこ。

 そこにね、居たんだよ。あの子が。
 あたし達を助けてくれた、王子様が。

 そりゃぁ、姿も消すわよ。
 だって、お忍びですもの。お忍びなのに、助けてくれたんですよ。
 あんなところに居たなんてわかったら、大騒ぎになってしまうというのに。

 あの方は、自分の事なんかより、あたし達の事を選んでくれたんですよ。

 あたし達、思わず拝んでしまいましたよ。


 そして姫様には悪いんですが、こうもおもっちまいましてね。この人が、王様になったらいいのにって。
 姫様も好きなんだけどねぇ。命の恩人には、ねぇ?




 あまりの罪悪感からその場から即行で逃げ出してしまった。
 すまない子供達。
 すみませんおばちゃん達。
 あと食べ物達……!

 この責任はいずれ、地獄に落ちる事でとろう! だから、今は許してくれ!


「……まったくお前は」
 なんかエヴァにあきれられてしまいました。
 逃げるくらいならやるなって事ですか。

「悪いな。気づいたら体がさ」

「気にするな。お前のそういうところは嫌いではない」

「サンキュ!」

(私も投入する時になってやっと気づいた。その私より先に動くとは。さすがと言えばいいのか、なにも考えていないのか……)



 いくつかの食べ物を無駄にした。精霊の評価が下がった。
 おばちゃん達の心のこもった料理を台無しにした。精霊の評価が下がった。
 だが、未来ある国の宝である子供達を救った! 大勢の人の命を救った! 多くの人が感謝した! 精霊の評価、大幅アーップ!!




 彼の『 王の器 』『  王の器  』
 姫の『 王の器 』




──────




 今日は王子としてのお仕事。政策会議とやらに出席する事になった。
 王になれば当然やらねばならない事なのだから、顔見せや雰囲気をちゃんと知っておけって事なのだろう。

 ここで小悪党ならば居眠りとかを考え付くのだろう。
 だが、俺は違う!

 真の悪は一味違うぜ!

 なんと政治にちょっと口を出してやるんだ!
 素人が政治に口を出して政策を混乱させる。こいつは国を混乱させかねない非常に危険な手段だ。

 だが、俺の無能さをアピールするのに丁度いい場でもある。
 やる気のある無能ほど害悪はないからな!

 プレゼンで恥をかくのは慣れている! 土下座が得意な元社会人を舐めるな!
 とはいえ、あまり露骨に無能として目立つのも問題だ。発言の機会がなくなってしまえば、マイナスを得る機会もなくなるという事なのだから!

 小さくこつこつとさりげなく精霊にマイナス修正を受けてゆく。完璧だな!


 というわけで、流れにあわせるようにして素人が適当に政策について意見してみたり、詐欺に近い、甘言まみれの政策をやると宣言してみたり、ちょっと調子に乗って無茶苦茶な計画をやれと強制してみたり、みんなが乗り気な計画にあえてノーをたたきつけたりしてやった!

 どうだ! この空気を読んだ空気の読めなさ! 無能極まりなかろう!



 素人が政策に口を出す。確かにソレは、非常に危険だ。だが、まれにその素人の一言は、プロにはない視点を捉えてしまう事がある。
 彼の指摘したその点は、まさにそのプロが気づかない、穴であった。

 詐欺に近い政策というが、宣言後、それが本当に実現の可能性を持ち、実現出来るのなら、それは詐欺ではない。
 聞いていた者達が、それを実現出来ると支持し、実行すれば、それは、立派な政策であった。

 さらに、どれほど無茶な計画であろうと、実行出来、さらにその国の者には発想出来ない、新しく、発展性のある計画ならば、その国に、新たな光を指し示す光となった。

 そのノーは、誰も止められなかった右大臣の暴走における、暴挙に近い計画へ告げられた、鶴の一声であった。


「なんと、王子は政策までも完璧にこなせるお方だったとは……あの若さで、あの視点、あの手腕。すべてをさりげなく、他者をたて目立たぬように進言しているが、私にはわかる。その才覚、隠し切れておりませんぞ王子!」

 彼の王としての片鱗を垣間見た貴族の一人は、思わずそう言葉を漏らした。



 治世の片鱗をまざまざと見せ付けた。精霊の評価アップ!
 姫も彼の姿に感銘を受けた! さらなる成長を見せるが、彼にちょっと見とれてしまった。が、なんとかプラス!




 彼の『  王の器  』『  王の器  』
 姫の『 王の器 』『  王の器  』





──────




 さて今日はなにをして王としての評価を落とそうか……


 すると、掃除をしているメイドさんが目に入った。


 ずいぶんとたどたどしい掃除の仕方だ。
 はっきり言えば、下手だ。

 きぃらーん。


 これだ。


 だが、ここで掃除が下手だというのは愚の骨頂。
 なぜなら下手と指摘してしまえば、下手だと自覚し、向上心が芽生えてしまう!

 一時的には反感を買うかもしれないが、長期的に見れば、プラスになってしまうかもしれない!

 なにより、それ以上に精霊に評価を下げる方法を俺は気づいている!


 それは、嘘で褒める!
 嘘でかつそのままでいいと思わせ、掃除などを下手のままで居させる!
 長期的に見て下手のまま!

 さらに嘘はいけない! いただけない!

 精霊という人ではない存在が評価する事だからこそ出来る評価の下げ方!


 凄いぜ俺!
 天才か? 天才だろう!


 では、言ってくる!




 あるメイドの言葉。

 その日私は、新たにおいでになった王子にも気づかず、城の掃除をしていました。
 私は、姫も王も尊敬しています。

 ですが、そんな王達は、私にわざわざ声をかけたりはしません。
 当たり前です。私と王達には大きな隔たりがあるのですから。

 でも、王子は違いました。
 私にも分け隔てなく言葉をかけてくださり、あまりの驚きでバケツを倒してしまったというのに、気にした様子もなく。

 なおかつ私の仕事を見て……


「とても綺麗に掃除しますね」


 ……と言ってくれたのです。

 初めてでした。
 お仕事を褒められたのは。

 初めてでした。
 どじな私を、褒めてくれた人は……

 その時から、私は変わったんです。いえ、変われたんです。

 綺麗に掃除が出来る。
 王子の言葉を絶対に嘘にしないようにしようと、心に決めたから。

 そうしたら、世界が開けた気がしました。
 自分に自信が持てたんです……!


 世の中には、褒めて伸ばすという言葉がある。

 例えその時嘘だったとしても、それを聞いたものが、後からそれを本当にしてしまう事もある。
 その褒められた一言が、向上心に繋がる事だってある。

 たった一言で生まれるプロ意識がある!


「とても綺麗に掃除しますね」
 そのメイドは、掃除をより綺麗に、丁寧にするようになった。

 嘘でも褒められたその時から、その仕事にプライドが持てるようになり、今までとは違った、より丁寧に、より綺麗にという心が働きはじめたからだ。


「あなたのその弓は、必ずあの標的に届くでしょう」
 心が折れそうだったその兵士は、その言葉を胸により訓練をつむようになった。


「これはおいしい!」
 その料理人は、その言葉でなにを目指していたのか思い出した。


 庭師は自身の怠慢を思い出し、大工はその木槌ひとうちにプライドをこめるようになった。
 街の警官は、より職務に燃え、消防士達は、その職務を誇りに思う。



 衛兵さんが俺に敬礼をしてくる。

 ……はっ!
 今度は逆に褒める。それってつまり、意見がフラフラしている。態度をころころ変える最低の王様じゃないか!



「王子は、ついに我等の事をお認めになってくださった!」
 衛兵達は、その言葉に、感動した。



 彼の一言により、城の者の、街の人達の仕事効率があがった。

 多くの人の意識が、変わった!



 小さな嘘をついた。精霊の評価が少しダウン!
 しかし彼の言葉で民の意識が変わった! 国がよりよくなった! 精霊の評価がアップ!

 小さな嘘をついた。精霊の評価が少しダウン!
 しかし彼の言葉で兵の意識が変わった! 国がよりよくなった! 精霊の評価がアップ!

 小さな嘘をついた。精霊の評価が少しダウン!
 しかし彼の言葉で民の意識が変わった! 国がよりよくなった! 精霊の評価がアップ!

 その意見がフラフラした。精霊の評価が少しダウン!
 しかし彼の言葉で民の意識が変わった! 国がよりよくなった! 精霊の評価がアップ!


 精霊の評価がアップ! アップ! アップ!! アアップ!! アーップ!!




 彼の『  王の器  』『  王の器  』
 姫の『  王の器  』




 うう。一見褒めているようで、実はけなしているのは心が痛むぜ……

 だが、精霊は見ているはずだ。
 俺が、褒めているようで実はけなしているという事を!

 嘘と偽りに満ちた、人々を惑わす邪悪な王だと!



 調子に乗ってやりまくったら、人々の意識改革に繋がって大変な事になっているが、彼はそれに気づいていない。

 さらにその相乗効果により、近衛騎士団長が進めていた姫暗殺における黒幕、この国の右大臣は、少年の言葉に感化された者達の手により、見事とっ捕まっていた。

 さらにさらに、姫を大切にし、王の心根を案じて彼を暗殺しようとしていた魔法師団長は、彼の言葉によって心を打たれ、その心を入れ替えた。


 が、当然彼は、そんな事知らない。




──────




 あれからしばらくの日時がたった。


 ふー。これだけやったんだ。もう光はめっちゃくちゃ小さくなっているだろう!


 むしろ消えてるんじゃないか!?


 俺は意気揚々と、俺の『王の器』が小さくなっているのを確かめるために、王家の間へと向った。






 彼の『   王の器   』
 姫の『  王の器  』




 めっちゃでかくなってるー!

 がびーん!


 とりあえず、床に手をついて、がっくりしました。
 そこには、滅茶苦茶大きくなった俺の『王の器』があったのだから……


「なぜだ。なぜ……」
 あれほど悪事を働いたというのに、俺のがこんなに大きくなっている……!


(想像以上に姫が育たなかったという事か。まぁ、どちらかといえばお前に気が向いて、国を本気に思えていないからだろうな……)
 国民の意識は変化が訪れている。
 姫も確かに、王としての意識を持ちはじめている。

 だが、彼に刺激される事で、姫だけは純粋にこの国を考えてはいられなくなっていた。
 それが、この差なのだとエヴァンジェリンは思う。
 そして、それが彼の誤算であった事も。

 それに、どれだけ隠そうと、にじみ出てしまうその才覚は、どうしても精霊の目にとまってしまう。


「そろそろ、『コピー』で死を偽装するのが一番かもしれんな……」
 はあ。とため息をついて、エヴァンジェリンは天井を飛び出すほどに成長した彼の『王の器』を見た。


 もうちょっとすると頭が天井飛び出して凄いシュールな絵ズラになるぞコレ……



 その夜。


 やる気もなくぐったりとソファーで横になってエヴァの膝枕でテレビを見ていたら、そこに拳闘士インタビュー中継が流れはじめた。


 そう。原作と同じく、全国中継でネギが語りかけてきたのだ。


 思わず俺も、体を持ち上げる。

「これ、ネギだ」
「だろうな。ふん。ナギなどと名乗って、大胆な娘だ」


 画面のネギ。もとい拳闘士ナギが、マイクを握り喋る。


「皆さん見ていますか! 全員無事です! それに、彼も! ですから、みんなで帰りましょう!」

 一ヵ月後にあるオスティアの祭りで合流しようという事を、テレビを通じて伝えてきたのだ。


「そうか。ネギもちゃんと無事だったか……」
 そしてどうやら、修正されて原作ルートに乗っかったようだ。たぶん。きっと。

「……そうか」
 エヴァがなにかに気づいたように声を上げる。
「どした?」
「おかしいと思わないか? 小娘のパーティーの中で、彼と呼ばれうる『男』はお前一人だ。それがなぜ、ネギの方で無事だと伝えてくる?」

「……あ」
 原作で彼はネギの事をさしていたので、俺は気にも留めなかったが、その通りだ。


「つまり、ネギのところに、もう一人の俺がいる?」
「そういう事だ。もう一人のお前、やはりいたようだな」

「そのようだね。……だからどうしたって気もするけど」
「まあ、いたのならいたで、なにか元に戻る手がかりにでもなるんじゃないか?」

「戻るっていっても、戻ったら戻ったで問題あるけどなー」
「まったくだな」

 そして、ネギのところへ電報を送っておこうという事になった。


 ふー。いやはや。

「どうした?」

「ああ。ネギの顔を見たら、こんな事でふてくされていてもしかたがないな。と思ってな」


 たかがサイズがどでっかくなったからといってどうしたというのだ。
 まだ終わってない。試合終了してないじゃないか。やすにし先生だってきっと諦めないで。って言ってくれるに違いない!


 ネギの無事を見て、俺は覚悟を決めた。


 こうなったら、最後の手段を使うしかないようだ……


「エヴァンジェリン」

「なんだ?」
 同じ部屋で寝泊りする事になっている彼女に声をかける。

 ちなみに、初日にエヴァの部屋からこっちにベッドを運びこんであるので、エヴァをソファーに毛布で寝かせるとか、一緒のベッドで寝るという事は今のところない。
 悪の王ならばここで……という考えもよぎったが、その後に支障が出るのでこれは諦めた。
 さすがのエヴァンジェリンも、この状況では自重しているようだし。


 は、ともかく。


「ちょっとバルコニーでやりたい事あるから、一人にさせてもらっていいか?」

「かまわんが」

「あと、くれぐれも見ないように」

「それもかまわんが」

「絶対絶対見ないように!」

「それは見ろとふっているのか?」

「確かにそう聞こえるかもしれないけど、違うからね。見ないでね。見たら嫌いになる」

「……わ、わかった」
 俺の気迫が伝わったのか、了承してくれた。


 今からするコレは、さすがに見られたらダメージ大だからな……!



(嫌いになるとまで言われたら、さすがに見るわけにはいかんな……)
 そこまで言うほどの事とは一体なんなのかは非常に気になるが、さすがに覗き見る事は怖くて出来なかった(周囲の警戒はするが)



 というわけで、バルコニーに出てきました。


 ふっふっふ。この手段だけはとりたくなかった。

 だが、なぜかどれほど悪逆非道な事を行っても全然精霊は俺の評価を下げてくれなかった。
 ならば最終手段!


 精霊に直接お願いする!!


 これは情けない!
 確実に評価ダウンに間違いない!

 さあ精霊よ。俺のこの情けない姿を、しっかりと見るのだぞ!


 俺はバルコニーで膝をつき、そして両手を下ろし、頭を床にこすりつけんばかりに近づける!
 そう、この姿!
 平身低頭の構え!


 すなわち!


(どーか勘弁してください精霊様ー!)



 DO!



(お願いしますから、評価下げてくださいー!)



 GE!



(なにとぞー。なにとぞー!)



 ZA!!



 俺はそのままぺこぺこと、目には見えない精霊様に向って、土下座をはじめた。


 見よ! なりふり構わぬこの姿勢!
 情けない事を思いつつ精霊に懇願するこの心根。この姿!


 これでちょっとくらい光も小さくなろう! なる! なれ! なってぇ!!


 ぺこぺこ。ぺこぺこぺこ。



 本当に、なりふりかまわない男がここにいた。



 しかし……




 な、なんという事じゃ。
 それをさらに上の階にあるバルコニーから見ている者が居た。

 それは、この国の王。


 その日たまたま寝付けなかった王は、たまたまバルコニーへと姿を現し、たまたま彼のその姿を目撃したのだ。


 いや、これはたまたまなどではない……

 王は思う。

 これを見るのは、必然であったと……

 王が寝付けなかった理由は、新たに現れた王子が、娘をこえるほどの『王の器』を精霊に認められ、このままではその王座を娘ではなくあの少年が手に入れるという不安からだ。
 みずからの娘を王座につけてやりたいと思うのは、当然の親心ではある。
 だが、精霊の導きは絶対だ。自分もそうして選ばれたのだ。従わぬわけにはいかない。

 それはわかっている。が、その心は簡単に納得しない。

 その不安から逃げるように、バルコニーへ行けば、毎日それを行っているだろう彼の姿を見るのは当然! この姿をワシが見つけてしまうのは、必然であったのだ!


 あとにして思えば、これは、民ではなく娘のみを見ていた自分への、精霊の戒めだったのかもしれない……


「あ、あれは、あれは王の中の王である者しか使えない、伝説の精霊への祈り、ドゲザー! な、なぜあの少年が……!」


 その少年の姿を見た王は、衝撃を受けていた。

 この国のはじまりの王は、そのドゲザーと呼ばれる作法一つで、この国の王に上り詰めたのだと言われている。
 精霊に認められたその舞により、この国の基礎を築いたのだ!


 その伝説の祈り。ドゲザー。


 この国におけるドゲザーとは、聖なる祈りの象徴。
 その美しさは、精霊へとささげられる舞の一つでもあるのだ。

 それは、王にしか伝えられない、精霊のための神聖なる舞。
 それは、王が舞う、民の平穏と安寧を願う祈りの儀式!

 流麗にして華麗な姿をとるには、膝つき二十年と呼ばれるほどの難行だという。
 その美しくも完璧なドゲザーを、まだ齢15にしかなっていないという少年は、完璧に踊りこなしていた……!


「な、なんと、美しい……」


 それを目にした王の瞳には、なぜか涙が溢れていた。


 それは、真摯にこの国の行く末を願う、まさに王の姿そのものだったのだ……

 あのような少年すら国の為にみずからをささげようとしているのに!

 ワシは、娘に王の座を継がせたいという身勝手な思いで彼を見ていた!


「ワシは、なんと、愚かであったのだ……」


 この時王は、なにをもって国の王であるのかを、思い出した……



 その魂をこめたドゲザーは、王の意識すら変えた。
 この国はもっとよくなるだろう。



 そのドゲザーの舞は真に美しかった! 精霊の評価アアアーアーップ!!
 さらに、王の意識も変えた事で、精霊の評価アーップ!

 あと、王の心得を思い出した王の評価もアップ!



 彼の『王の器』は、ついに、天井を飛び出した。



「なぜじゃあぁぁぁぁ!」



 その国だとOKを表すポーズが他の国では侮辱のポーズであるように、この国で土下座とは、聖なる舞を表す、神聖な祈りなのであった。
 異文化交流には注意が必要だね!



「でも、俺は、負けないっ!」

 さらなる結果は推して知るべし。




──────




 王の間。

「して、どう思う?」
「はっ、あの『王の器』を見るに、歴代で最も精霊に愛された男やもしれません」
「あの民を見る目も、政治の手腕も少年とは思えません。稀代の名君となる事でしょう」
 王の前にかしずいた二人。

 近衛騎士団長と魔法師団長が答える。

「なにより、王子がきてからの、国の活気が、段違いです」
「うむ。それはワシも気づいておる」
 彼の『王の器』が光り輝くのに比例して、この国も活気が溢れてきているのは、誰の目で見ても明らかだった。

「ほんの二週間ほどだというのにのう……」
「まったくです……」

 たったこれだけの時間で、彼は、まるで長い時間この国に居たかのように、人々に受け入れられているのだ……


「……ワシは、もう姫にこだわらなくともよいと思っておる」

「ま、真ですか王!」
 魔法師団長が驚きの声を上げる。

「うむ。やはり、精霊が王を選ぶというのは、間違ってはおらぬのだろう。彼を偉大な王と認め、次の王するのに、ワシももう、異論はない……」

「なんと……」
 近衛騎士団長は驚きを隠せなかった。


 娘に王位を継がせたいと願い、そのために王の座から退こうとしなかった王。
 あの少年は、ついに、この王の心までもを動かしてしまったのだ……


「これで、これでこの国も、より繁栄いたしますな!」

「うむ。うむ!」

 王の間に、喜びの歌がこだました。


「ただ、一つばかり悩みが、のう」

「言いたい事はわかります。王よ」


 近衛騎士団長がうんうんとうなずく。


「私も、娘がいるのならば、是非と願うに違いありませんから」

「姫の方もまんざらではないごようす。王。彼を招いて、それとなく聞いてみてはどうです?」
 魔法師団長が、進言する。

「うむ。そうしてみるかのう」



 それから、しばらくして、彼は王に呼ばれ、謁見を許される。

 その場には、王以外に誰もおらず、また、そこに来たのは、彼だけであった。



「なんでしょう、話とは?」

「うむ。細かい話はなしにして、単刀直入に言わせてもらおう」

「はい?」

「我が娘を后として、王にならぬか?」

「お断りします」
 しかし彼は、笑顔で断った。

「な、なぜじゃ!」
 思わず王もその玉座から腰を上げてしまった。

「なぜなら、僕にはもう結婚すると決めた人がいるからです。ですから、お姫様を娶る事は出来ません」

「ななっ!?」

「そもそも王様の方もなる気は……って、聞いてます?」

「そ、その相手とは……?」
 王は動揺で、彼が王になる気はないというのは聞こえてはいなかった。

「んー、わざわざ秘密にしているのも変ですし、言えば納得してもらえると思いますので、言いますね。といっても、僕の事を一番近くで守ってくれているあの子なわけですけど」

「や、やはりか……」
 ここまで言われれば、もう想像は出来ていた。


 ここまではっきりと言うという事は、側室として娶る気もないのだろう……


「そうかね。わかった。もうさがってよいぞ……」

「はい。それでは失礼します」


 そうして、彼は王の間から去っていった。


「はぁ」
 残念そうに、王はその椅子へ体を沈める。

 娘があの少年に恋をしているのはうすうす感じ取っていた。
 ゆえに王の理想としては、彼を婿にとり、王とする事であった。


 さすれば娘は王妃として、その生涯を全うし、次代の王も、我が孫として授かる事が出来る。


 だが、あの少年の意志の強い瞳を見れば、それが不可能である事が見て取れた。

 これでは、娘を后につかせる事も、それに連なる地位を与える事も出来ない。

 彼が王になる事に異論はない。
 だが、娘だけが気がかりだった……


 ああ、どうすれば……


 ふらふらと、部屋の奥へと足を向ける。
 そこには、大きな姿鏡があった。


「鏡よ鏡よ……」


 それは、魔法の鏡。
 この国の王族に伝わる、至宝。
 人生に三度だけ、その願いを実現する方法を精霊が教えてくれる鏡。

 これで、王が鏡を使うのは三度目だ。
 だが、娘のためならば、惜しくはない!


「ワシは、どうすればいい……?」


 ぼんやりと、それは映し出された。


 そこに映し出されたのは、結婚式。映し出したのは、未来か?
 そこには、かの王子とそのボディーガードの結婚式が映し出されていた。
 両者共に美しく成長し、幸せそうに手を振る二人の門出。

 一体、なんの茶番だこれは!

 王は思わず激高する。
 ワシが望んだのは、このような未来ではない!

 決して変えようのない未来を映し出すという事は聞いた事がある。
 実現不可能の場合は、それを諦めさすように。

 つまり、王子を諦めろという事か!?


 だが、答えはすぐにわかった。


 時を巻き戻すように、ボディーガードの姿が、変わってゆく。

 まるで十の子供のような姿。それが、王子の腕に抱かれている。


 王は、その姿に見覚えがあった。
 思わず、目を見開き、後ずさる。


 王は、その伝説の賞金首の姿を、知っている。

 それは、伝説の吸血鬼、『闇の福音』、エヴァンジェリン。
 そして、先日起きたゲート破壊の主犯……


 それが、王子が結婚する人だと言った、娘の正体……!


「そ、そんな……まさか……」

 これは、精霊の教え……
 人生にたった三度しか使えない、精霊の鏡の答え。
 それは、つまり……真実!

 そうだ。王子はあのゲート事件で一度行方不明になった。
 その時、『闇の福音』に魅了されたというのか……!


 まさか、『闇の福音』の狙いは、ゲートではなく、王子であった!?


 そうか。そういう事か、鏡よ……
 これは、未来の姿などではない。今、王子がとらわれているという事を伝えたかったのか。


「はっ、ははははは。ははははははは」


 だが、王からこぼれ出たのは、笑み。
 確信の笑みだった。

 なんだ、ならば簡単ではないか。

 それが魔物であるならば、退治すればよいのだ。
 さすれば、王子はあの吸血鬼から開放される。

 とりもどせばよいのだ。


 我等の未来の王を!!


 だが、どうやって……?
 相手はあの伝説の吸血鬼。
 撃退する程度では、また王子をさらいにやってくるだろう。

 この国の騎士団と魔法師団では、とうてい太刀打ちできまい。
 現に一度、あの娘一人に、衛兵達は圧倒されている。
 訓練を積んだ今だといっても、とうてい及ぶまい。


 確実に、確実に捕えるか、消滅させなくては……
 それには、一個師団は確実に必要となる……


 そして、一つ気づいた。

「ふふ。ははは。ふははははは!」

 思いついた。


 メガロメセンブリアは、ゲート事件で地に落ちた警備の信頼を取り戻したいと考えている。
 その相手として、ゲート事件の主犯で、伝説の吸血鬼を倒すというのは格好の汚名返上材料である。
 あの功名心豊かな元老院ならば、確実に手を貸してくれるに違いない!

 メガロメセンブリアの戦力があれば、かの伝説も屠る事が出来よう!


 待っているがよい我が義息子よ。
 必ずやお前を救い出し、この魔物の手から救い出してくれる!


 その暁には、我が娘を嫁に娶り、この国の王へと!!


 そして王は準備をはじめる。
 確実に、あの伝説を屠るために。

 確実に、あの女狐を消滅させるために!


 娘よ、王子よ、まっておれ。すぐに、お前達をあの吸血鬼から解放してやろう!


 エヴァンジェリンその人を知らぬ者から見れば、彼女はやはり、伝説の怪物でしかなかった……
 賞金首として、婿をたぶらかす吸血鬼として、そう判断されても、なんら不思議はない……


 王としての才覚を思い出したこの父親は、数週間の時をかけ、計略を練る。
 確実に、あの怪物を殺せる方法を。

 この国の一部を、かの大国に売り渡してでも。
 それぞれの利益が合致する方法を、さぐり、実現させる。



 そして、その策は、じっくりと、ゆっくりと、誰にも気づかれぬよう、進められた……





─あとがき─

 というわけで、王子様大奮闘したら大変な事になっちゃった編でした。
 エヴァンジェリンの風評もある意味勘違い。

 さて。一体どうなるんでしょうねぇ。

 次回はネギサイド。
 拳闘士&闇の禁呪編です。


 ところで、結局キス以外のパクティオーのしかたってどうやるんでしょうね。テキトーにそれっぽくでっち上げてみましたけど。



[6617] ネギえもん ─第29話─ エヴァルート17
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/03/29 21:08
初出 2012/03/29 以後修正

─第29話─




 ラカン登場!




──────




 ハロー。こっちはネギと一緒に歩いてる俺だよ。そう俺俺。


 あの水場から数日。

 なんとか人里へやってきてみれば、案の定国際指名手配を受けていました。

 町に入る前に可能性は示唆しておいたので、ああやっぱり。程度の衝撃だったのが幸いか。


 ただ、原作どおり全世界ゲート破壊が起きたものの、賞金首の主犯はエヴァンジェリン。ネギ達はその共犯(手下)という形で、賞金がついていた。


 ネギの賞金が20万で、エヴァが記録更新の700万の上、伝説復活だから、インパクトのレベルでは霞みすぎているが。


 そして、俺は指名手配されていない。
 これはやっぱり、映像を捏造した奴等。……フェイト側と俺のアレに関係があったから。なのだろう。
 やっぱり、あの時俺の体を操ったのは、予想通り『造物主』だと考えるのが妥当か……


「……あれ?」
「どうしました?」

 路地裏に隠れ、賞金首のリストを見ていて気づく。

「これ、あのゲートに居た全員じゃないな」


 俺とエヴァを除いた、『白き翼』のメンバーは15名。
 その半分以上には賞金がかけられていなかった。

 具体的には、超、千雨、朝倉、ユエ、ノドカ、パル、木乃香、茶々丸。さらに幽霊のさよの9名。

 ちなみに残り(賞金首)はネギ、コタロー、明日菜、刹那、クー、楓の6名。敬称略。


「はい。この賞金のかけられたメンバーは、ゲートにおいて破壊を働く貴方を目覚めさせようと攻撃した方達になります」

「ああ、そういう……」


 だとすると、俺を助けようとしてくれたのに、巻きこまれた事になる。


「あー……」

「謝らないでください。僕達は、僕達の出来る事をやろうとしてこうなったんですから。責任は、僕達にあります」
「はい。ネギ先生の言うとおりだと思います」
 ネギと茶々丸さんが、俺がなにを言おうとしたのかさっしたのか、俺の言葉をさえぎった。

「……そうだな。お前達は俺を助けようとしてくれたんだもんな。だからここは、こう言わせてもらうよ」


 一呼吸置いて。


「ありがとう」


 姿を隠した路地裏で、俺は精一杯の笑顔を彼女達に向けた。

 そうしたら、にっこりとネギに笑顔を返された。


「にーちゃんにーちゃん俺にもー」

「コタローもありがとな」
 コタローには頭のナデナデもつけてやる!


「わーい!」


「……」
 いいなーとなんか物ほしそうにネギがしてたように見えたので、こっちもわしゃわしゃ。


「……」
 ついでに茶々丸さんもわしゃわしゃだ!



「とりあえず、予想より賞金首の数が少なくてなによりだ」
 うん。むしろ原作より少ないのを喜ぼう。


「そうですね。幸い全員が戦闘能力を保持した方々ですから、大きな心配は少ないかと思われます」
 茶々丸さんが分析してくれる。


「むしろ、戦闘能力のないチサメねーちゃんとかが心配やわ」
 コタローが部内で一番戦闘能力ないかつサバイバル能力のない子を上げる。


 ……あ、そーいやそうだ。つか原作どおりとか全然違うじゃん。俺がいる位置に彼女が居なくちゃダメじゃん!!
 でもバッジで居場所もわかるし、イレギュラークラスメイトは居ないから、奴隷嬢ちゃん達に時間を割かずに、そっちの探索が出来るから問題はないか……?


「ひとまず、近くにバッジの反応が四つあります。そちらと合流するのがよいかと思われます」
 コタローの言葉に、茶々丸さんが答える。

「だな。誰かわかる?」
 俺もそれに肯定し、誰が居るのかを確認した。


「はい。朝倉さん、夕映さん、千雨さん。そして、超鈴音の四名です。位置は……」


「んんー?」



 ……バッジの反応で行き着いた先では、見事に100万ドラクマの奴隷になった三名。

 超、千雨嬢ちゃん、ユエちゃんがいた。



「なんと露骨な……」

 原作再現。とは口には出さない。
 これが、歴史の修正力ってヤツかネ。



 街に入ったところで朝倉君&さよちゃんと合流。
 その後病気でへろへろになっていたのに無理して仕事をしようとしていじめられていたユエじょーちゃんを助けたネギ達の姿を見て、俺はそう思う。

 ちなみに、ネギ達の姿はエヴァ直伝の年齢詐称薬で15歳くらいにアップしている。あと俺は10歳くらいの少年の姿で、茶々丸さんは賞金首ではないのでそのまま。
 俺の方はゲート破壊の件でフェイト達の事を警戒して、念のために。
 年齢を上にあげたかったのだけど、あげるのはネギ達が使うので、無駄遣いするよりはと、下になった。

 あと、ネギもコタローも、アレだけ一緒に修行していたので、互いの性別の誤解は解けているようだ。
 この胸じゃまやー。とコタローが愚痴言っていたのが記憶に新しい。


 ……なのになぜ、いまだに俺を嫁にするという(ネギとコタローにおいて双方での認識誤解がなくなっただけだから)


 ともかく、キャストが若干変わったが、原作とほぼ同じ流れでネギが救出に入り、チンピラのトサカ君は獣のメイド長にぼっこぼこにされているのでした。


 なむー。



「んで、こっちはこーいうわけだったんだが。そっちは、どーいう流れで奴隷に?」
 一番近くに居て説明もわかりやすそうな超に聞く。

「フム。話すと短いヨ」

「短いんかい。なら三行で」


 超、この周辺に飛ばされた。その際ゲートで近くに居た千雨、ユエも付近に落下、バッジの反応を追い合流。
 しかしユエがこの土地特有の風土病にかかる。
 親切な金貸しに100万ドラクマはする薬をいただき、そのおかげでユエ助かる。三人奴隷デビュー。


 キャスト以外、見事に俺が知るのと同じ流れであった。

「ただ驚いた事に、その病ホントにヤバくて、薬も本物だたヨ。借金もその分の金額のみネ。実は凄い親切ヨ。この無法の街のボス」

「だな。借金はともかく、ここ、奴隷の待遇ものすごく良いみたいだし」
 なにせその持ち主であるチンピラが逆にボコられるんだから。
 奴隷という枷をはめたように見せて、実は守ってくれているようにも見える。


「てか予防接種とかはしてたよね。あと君薬はもってなかったの?」

「残念ながら、全ての病の予防は不可能ヨ。ついでに、ワタシがもてきたモノは転移の影響でバックごとふとんだネ。ここにいるワタシ、ただの頭よいだけの子供ヨ」


 超も俺と同じような状態ってわけか。


「あ、でも一つ緊急脱出用にこんな事もあろうかとと取り出せる物が残てるネ」

 俺とは違ったぁー!
 俺は、こんな事もあろうかとなんて用意してないぜよ……


「前に話したあのワープ用の脱出アイテムヨ」
「ああ。あの」


 鉄人兵団リルルが使ったワープを研究して再現しているというアレ。
 完成させ持ってきていたのか。


「うむ。これを使えば、定員一命、念じた場所どこにでも行けるネ」

 さすがに地球までは無理だガ。と、手に持って押し込むタイプのスイッチを渡された。


 ……なんか一命って聞こえた。一名だよね。


「ほほう……」
 そいつは便利だ。当然好奇心が刺激される。
 数メートル先にワープしてみようとボタンを……

「ただし、ワープの衝撃はダンプに轢かれたクラスヨ。ノーブレーキ快速電車でもOKネ」


「死ぬわ!」
 投げつけたった。
 ホントに定員一命かよ! 自殺装置かよ!


「ダンプに轢かれるよう転移してゆくと言っても過言ではないネ!」
 イメージはダンプでどーんでぴゅー!


 と、俺に押し付けてくる。


「押し付けるな!」

「科学に犠牲はつきものヨ! 二人居るのなら、一人くらい!!」
 奴隷になった状況を聞く前に、俺の状況も伝えてあります。
 バッジの反応が二つになってるの超もわかっていたから、すぐ納得してもらえました。

「んな気軽に俺を犠牲にしようとするな!」
 いや、確かに世界の安全を考えるなら、片方いなくなった方が安全なのかもしれないけど!

「ま、当然冗談ヨ」
「冗談じゃなかったら困るヨ」


 あっはっはと二人で笑いあったとさ。


「オメーラこの状況でもコントやれる余裕あるのかよ」
 そんな事和気藹々と話していたら、千雨嬢ちゃんにつっこまれてしまった。


 ここのつっこみ担当は彼女に決まりだね!
 ツッコミがいるのは素晴らしいね!



「経緯はどうあれ、契約は正式なものだし、ここのボスはいくつもの闘技場を所有する有力者でもある。そこから三人を無理やり奪うのは無理があるね」
 と、朝倉君が補足してくれる。

「一番は100万払って買い戻す。って事だろ?」
「そう」
 俺の答えに彼女がうなずく。

「んな金どこにあんねん」
 コタローが正直なお言葉を告げてくれた。


 俺が『道具』を使えれば、100万なんてはした金なんだけど、今ないからどうしようもない。


「超君お金儲けは?」

「色々手段はあるが、元手がないネ。それがあれば、1ヶ月あれば貯められると思うヨ」

「そっか」
 さすが科学者であり、超包子なんて飲食店も営んでいる天才だ。頼りになるぜ!
 となると、これは俺の知る流れに逆らわないで行くしかないようだね。


 だがその前に……


「そっか。ならここに置いていってもあんしんだ。じゃーなー」
「でも見捨てるのはあんまりヨ!」

「ジョーダンジョーダン」
「冗談じゃなかたら困るヨ」


 あっはっはとまた二人で笑いあったとさ。


「オメーラよ……」
 おかえしおかえし。あっはっは。


 ナイスつっこみ!


「にーちゃんヨユーやなー」
「超りんもね」

 コタローと朝倉君にまであきれられてしまった。

「あのお二人はいつもあんな感じです」
 とおっしゃるのは茶々丸さんです。


「放置されるにしても、どの道元手くらいは欲しいヨ」
 それはまったくな話だ。


「なら、いい手段があります」
 ユエちゃんのところからこちらに顔を出したネギが、壁に貼ってある拳闘士のポスターを俺達に見せて、言った。



 こうして拳闘士。ナギ・スプリングフィールド、オオガミ・コジローが誕生する。




──────




 さて。衝撃的なナギのデビュー戦も終わり、約一週間後。

 全国生中継で一ヵ月後にオスティアでの合流宣言も飛び出したあと。


 闘技場の人気のない場所に集まって、今後の事を話し合った。


 俺の力も超の科学力も期待出来ないとなっては、やはり廃都オスティアにあるという休眠中のゲートを使用して地球に帰る以外にないとの事だった。
 ここは、原作と一緒。

 ただ、奴隷三人を解放するのに必要な100万は、ここしばらく戦ったネギ達の賞金を元手に超が色々と事業を展開しはじめているので、無理に拳闘大会で優勝する必要はない。
 まあ、優勝するくらいの実力は身につけてもらわないといけないので、あんまり意味がないが……

 全員の合流は、今回の全国中継を見た子から連絡も来るだろうし、これまたネギ達の賞金で、こちらからバッジの反応を追って回収にも向う。
 向うのは原作同様朝倉君&茶々丸さん+幽霊さよちゃん。
 ちなみに、ここ以外の分散メンバーの分布は、原作と変わらないようだ。楓&木乃香で刹那&明日菜。他は単独なのも一緒。敬称略。はぐれ生徒がいないので、ひと安心である。


 それとあともう一つ。


「あとにーちゃんホントにもう一人いたなー」

 そう。行方不明だった王子様が無事だったとニュースで、大人のエヴァと一緒にいるもう一人の俺が手を振る映像が流れたのだ。
 王子様やってる俺の映像が。

「ああ。あれはなんか変な気分だった」
 ここに自分がいるのに、もう一人別のところに自分がいるのってのが。

 だが、もう一人の俺が、本当にエヴァといるから、俺は安心してここで一般人やってられる。
 それと、王子の姿と、今回のネギの放送。それを見れば、聡い子なら、俺が二人になっているってのにも気づくだろう(電報が届いたら、一応返事で教えるが)


 しかし、なんでいまだ王子をやっているのだろう?
 到着して速攻辞退しているはずなのに。
 と思っていたら、あっちから電報がきて、半身だから継承権抹消出来なくて身動きがとれなくなったとわかった。

 とりあえず、光を消す事に挑戦しているとあったので、がんばってもらうしかないな。


 あっちもあっちでやる事やっているし、こっちもこっちでやる事やらないとな。
 千雨嬢ちゃんが奴隷になって動けない今、こっちの一般人ポジションは、俺がやらなきゃならないから。


 俺の記憶だと、そろそろあのおっさんが出てくる。
 結局原作どおりの流れに沿うような形ならば。



 ……ただ一つ問題は、あのおっさん、おっさんなのか……?



 まあ、それは会ってみりゃわかるか。
 結果が怖くて聞いてこなかった俺も悪いし(原作中ラカンは元々の待ち合わせ場所に来なかった上、彼はネギと別行動になるから会わないとも思っていた)




───ネギ───




 第14戦目。
 僕達は、無事勝利を収めた。


「……」
「どしたん?」


 勝った余韻もなく、ただ立ち尽くしていた僕に、コタロー君が声をかける。


「……僕達、弱いよね」
 ゆっくりと、拳を握る。

「……せやな」


 先ほど殴り飛ばした人達には悪いけど、こんなのじゃダメだ。
 僕の知る、本物の人達。



 タカミチ。クウネルさん。マスター。母さん。そして、もう一人の『サウザンドマスター』である、あの人……



「まだまだ、届かない……」


 この先。
 ゲートを破壊するのが目的だったというフェイト達が、最後に残ったゲートを無事に残しておくとは思えない。

 ならば、必ずどこかでぶつかるはずだ。


 あの人は、今戦えない。
 マスター(エヴァンジェリン)がいるといっても、僕達が足手まといになってしまっては、意味がない。


 最低でも、フェイトと戦って持ちこたえられるようにならなくては。


 そのために、僕達はもう一段上にのぼる必要がある。



 でも、それに必要ななにかが、わからない。



 なにかが足りない。
 それを補うためのなにか。それは、ぼんやりと、頭の中にはあるのだけど、それが明確な形になって出てこない。


 そのなにかが、拳闘士をすればつかめるかと思ったけど、まだダメだった……


「……わかるで」
 コタロー君がうんうんとうなずいた。

「え? わかるの?」

「ああ。俺らに足らないもの。それは、必殺技や!」

「ええー!?」

「なにいってんねん。決め手は大事やで。それに、一撃がつようなれば、あんときの一撃も、また違ったやろ……!」
 コタロー君も、あの時を思い出したのか、悔しそうに拳を握る。


 あの時。
 あの人の意識を取り戻させるために放った、みんなの力を合わせた一撃……


 あの時放てる最大の力をこめたのに、あの見えない障壁に、傷一つつける事は出来なかった。



 僕達の、未熟の証……



 あそこに必殺技があれば、また違ったんだろうか……?



 ……っ!



 ぼんやりとした頭の中の像が、少しだけ固まった気がした。
 でも、まだ足りない。


 僕がマスターに習い、目指したスタイルと、なにかがかみ合おうとしているのに……




──────




 その闘技場で戦ったネギ達を見下ろす人影が一つ。


「くっくっく。なるほどなるほど。まだガキだが、筋は悪かねぇようだな」

 フードをかぶったその人物は、にやりと笑い、そうつぶやいた。




──────




 次の日。


 目の前で、ネギと影使いのカゲタロウが戦っております。
 買出しの為にネギをつれて買い物に行ったところで、見事に絡まれました。


 すごいね魔法使い。
 家を平気でちょんぎって、家一軒平気で跳びこえて。

 しかし、コレは止めた方がいいのだろうか。
 いやでも、怪我は魔法で治るし、経験値も上がるし。

 でもでも、一応ネギ女の子だし。だからってすでに闘技場で戦わせてるし……


 あーもー。


「はぁ」
 思わずため息をついてしまった。

「なんだボウズ、そんなに心配か?」

「いや、茶番すぎると思ってさ」

 俺に声をかけてきたのは、あのラカンだ。
 カゲタロウと組んでこの茶番を多分準備していた、だろう……女だ。


 そう、やっぱり女だった。TS組だった。
 それに関しては予想通りさ!

 だが、てっきり筋骨粒々でムキムキな女かと思ったら、なんかグラマーセクシーな、腹筋が六つに割れていない、すらっと背の高い、褐色の美女でいやがった……!


 あれを女にして、胸にさらしを足して、筋肉を間引きしたという、なんかズルい姿だ!

 なんて茶番。こいつまで女なんて、なんて茶番なんだ!

 筋肉ゴリラじゃないラカンなんて、ラカンじゃないやい!
 ナギさんやネギ、コタローは元々女顔フォーマットだったから、すぐわかったけど、こいつは全然違うから一瞬誰だかさっぱりわからなかったのが悔しいからじゃないぞ。


「……なにが茶番だってぇ?」
 にやにやと笑っていやがる。

「別に。とりあえず、適当なところであの勝負預かっておくれ。俺が止めに入ったら、さすがに死んじゃうから」

「はっ、しゃーねーな」

 最終的に、ネギとカゲタロウは引き分け。
 幸いだったのは、腕を飛ばされなかったという事だ。


 ネギが気絶した後。


「俺はここで待っているからよ。こいつが目ぇさましたら、つれてきてくれや」


 と、メモを渡された。




───ラカン───




 ……茶番と見抜いているヤツがいたか。


 ナリはガキだが、ありゃ外見通りの年齢じゃねぇな。

 ナギの娘と、正体がよくわからんガキ。

 これは、ちったぁ楽しめそうだ。




──────




 闘技場の方へ戻ったら、千雨嬢ちゃんに俺が殴られた。


「なんでテメーが居てあいつに怪我させてんだよ!」
「それに関しては謝るが、いくら俺でも、今の状態じゃ止められないよ。代わりに真っ二つになるくらいしか出来ないからな」
 そもそも、今の俺じゃあの戦いの場所に行く事すら出来ない。家一軒平気でジャンプしちゃうんだもんよ。

「ちっ」

 しかし、やさしいなぁ千雨嬢ちゃんは。
 奴隷状態だから自由に外出出来ないから心配で心配でたまらんのだね。

「無茶しやがって。あのバカ。神楽坂の懸念がわかった気がするぜ……」
 ぶつぶつと、メイド姿でつぶやいてます。

「……君はいい子だねぇ」
 思わずそう声が出た。
 今の俺は子供の姿だから、頭をなでてやる事は出来ないけど。


「なっ!? わ、私はただ……う、うっせぇ!」


「だから、今回の怒りは、全部俺に向けなさい。今回の件を引き起こしたのは、俺の責任だから」
 ゲートから今に至るまで、俺のせいだから。
 闘技場でネギがお金を稼いだり、強くなろうとするのも、全部俺のせい。
 ネギにそれをぶつけると、彼女は必要のない責任を感じてしまうから。


「……確かにそうだな。アンタがあそこでしっかりしてりゃ、私等がこんな目にあわずにすんだんだからな」

 ぺきぺきと指を鳴らされました。


 ……早まったかもしれん。


 そして茶々丸さん。なぜゆえにわくわくしたような感じで俺を見ていますか?
 なにを期待していらっしゃいますか?


 千雨嬢ちゃんが今まで我慢していたモノを吐き出している間、俺はぺこぺこと土下座を駆使して謝るのであった。


 ちなみに、ユエちゃんはネギの看病やってます。


「あ、にーちゃーん。ニュースやニュース。仲間から連絡……って、なにしとるんや?」

「……ストレス発散、かネ?」
 事態を静観していた超が、やってきたコタローに答えてあげた。




───長谷川千雨───




 くそっ! 腹が立つ!

 怪我するリスクを受け入れて、あの名乗りをしたアホガキもアホガキだが、その責任を全部かぶるあの男にも腹が立つ!


 でも、一番腹が立つのは、自分だ!


 言われなくてもわかってるんだよ。あのガキが悪くなんてないって。好きで無茶しているわけじゃないって。
 アンタが、自分に一番腹を立てているって事だって!

 ゲートを破壊して、力ってのを封印して、私と同じ一般人と同じになって。

 そうなって、見ているしか出来ねぇなんて、歯がゆいに決まっている!


 それなのに、私のイライラまで背負おうとしやがって。
 でも、それに甘えている、自分に腹が立つ!

 言われるまま、我慢も出来ず、ぶつけてしまう、自分に……


 自分がどうしようもなくガキなんだと思い知らされる。
 守られるしかないガキなんだと……!


 だから、ネギ先生よ。


 なんとかして、アイツの力になってやってくれよ……

 アンタが必死にあの背中を追っているのは知ってるよ。
 だから、頼むよ。


 私達を、代表してよ……




──────




 ネギが怪我をして治ってしばらくして。

 朝倉君が茶々丸さんと幽霊さよちゃんを伴って、仲間回収の旅へと出る事になった。

 すでにバッジで大体の場所がつかめているので、いまだに連絡のない子達を回収して回るのだ。

 んで、朝倉君のパクティオーカードお披露目で、初ちゅ~の味とかやって、メイド姿の千雨嬢ちゃんと結局追いかけっこ。


 パーティー回収組を見送って、次はネギがラカンのところへと修行へ向います。
 お供は、千雨嬢ちゃんの代わりに、俺がついて。

 一人じゃ心配だからと、千雨嬢ちゃんと茶々丸さんに頼まれたしね。


 だが、それに不服な子が一名。


「にーちゃーん。なぜやー」
 俺にすがり付いてくるのは犬っ子コタロー。


「なぜと言われてもなぁ」
 慕われるのは嬉しいけど、困っちゃうよね。


「ふっ、ならば説得はワタシにお任せネ!」
 ばばーんと顔を出したのは超。

「おお、任せた!」


 そんなわけで、ひそひそ話のためすみっこへ。



「一つよい知恵を授けるヨ」
「なんや?」
「いつも一緒に居ると変化が気づきにくいネ。でも、少し離れて戻ってきた時、見違えるほどに変わていた子を見た時、そのインパクトはいかほどと思うネ?」


 コタローに電撃が駆け抜ける。


「居ない間に磨かれたその姿、その魅力に、思わず惚れ直す。この機会はむしろチャンスと思わないカ?」


「そ、それやー!」


 すみっこでコタローが大声を上げた。


「ちゅーわけで、残るわ」
 そしてしゅたっと手をあげるコタローの姿があった。


 おおー。すごいな超!


「わかった。それじゃ、そっち頼むな」
「まかせてなー!」
「任せるネ」


 というわけで、出発!



 二人が旅立ったあと。
 取り残されたコタローと超達。

「さて。せかくネ。ワタシの改造手術、受けてみないカ?」
 ぴっとコタローに向け、そう言いつつ、人差し指を天に立てる。

「は?」
「改造といても、ベッドでちゅいーんは今無理ネ。正確には肉体改造とかの、バランスアップ。基礎向上などのパワーアップネ」

「なんかよーわからんが、にーちゃん振り向かせるならやったるで!」
「その意気アル!」


 結果。
 女らしくなった。


「間違ってないんだが想像と違った方向に改造されてるー!」
 つっこみ担当の千雨が思わずつっこんだ。


 帰ってくる頃には騙された事に気づいて元に戻ってました。
 男装闘士コジローの人気はうなぎのぼりだったそうです。



「ふむ、なかなかの儲け出たネ」
「そーゆー稼ぎ方かよ」
 人気商売を元手に稼いだ金を数える超に、千雨が思わずつっこんだ。
 だが、コジローの人気が上がれば、関連商品の売り上げは増える。決して無駄ではない。

「それ以外も手を広げてるヨ。超包子で培った五月ほどの腕がなくとも美味しいワタシオリジナルのレシピフランチャイズなどなど。どれも順調ネ!」
「そりゃありがたい話だな」


 このペースならば、さらに人の集まる祭りの開催中のいずれかで、目標金額を超えるそうだ。




──────




「そういえば、ラカンさんのアーティファクト見たんですけど、同じようなもの、学園祭の時使いませんでした?」

 ラカンのいる場所に到着する前の雑談で、ふとそんな話題が出た。
 ネギを助けに入った時、確かにラカンは自身のアーティファクト、『千の顔を持つ英雄』をぶちかましていた。


 ああ。そーいや『能力カセット』で思わず使っちまったっけか。


「詳しく説明するとややこしいから簡単に言うと、似たようなモノだと考えればいいよ。だから、あっちに言わなくていいから」

 今使えないし。とは気を使わせる事になるので言わない。
 下手に説明されたりすると、使用料とか請求されかねないからな。

「わかりました」


 そんな事を話していると、無事ラカンのいるオアシスへ到着。


「おー、ぼうずども。やっときたかー! おせーんだよ!」

「へいへいごめんなさいですよ。大体あの茶番でネギがぶっ倒れてたんだからしかたないでしょうに」

「あの程度2時間も寝ていれば治る!」

「おいネギ。こういうアホの子はマトモに相手にすると疲れるぞ。心してかかれ」

「は、はあ」

「だぁれがアホだ!」

「あんた……いや、この場合、異端なのがネギだけだから、むしろネギか……?」

「……ああ、その通りだな」


 ポンとラカンが手を叩いた。


「つまりお前がアホだ!」
 無駄に勢いよくラカンがネギを指差した。

「ええええー!?」


 一人置いてけぼり食らった可哀想な少女でありました。


「ノリいいなあんた」
「お前もなボウズ。てか、いつの間にそんなでかくなった?」

「あっちは変装。こっちが本体」
「あー」


 どうやら、俺が知るラカンと性格は一緒みたいだ。
 違うのは性別だけ。

 口調も一緒とはどういう事だ女の子。いや、コタローとかも一緒だけどさ……


 ひとまず自己紹介をして、ネギが教えを請う。


「いいぜ。けど、俺の修行はキツイかもだぜ」

「かまいません! どんな修行にも耐えてみせます!」

「ふふ、素直だなオイ。ヤツとは正反対か」
 豪快に笑って、ネギの頭をわしゃわしゃした。

「よーし、二週間であの影使いに勝てるようにしてやるぜ!」

「あのー、それでもいいんですが、もっと強くなる事は出来ないでしょうか?」

「ワッハッハ。欲張ったな。いーぜいーぜ! 気に入った! じゃあ……」


 というわけで、一撃俺の体にぶちこんでみろって言い出した。


 ……女の体でそんな事言われたら、いやんな想像しちゃうわん。


 しかし魔法世界最強の相手に向かい、全力をためらうネギ。

 当然それでやられる気もないラカンは、全力で撃てと激励する。


「そうだぞネギ。全力でいけ。むしろ、やっちまえ!」
 やっちまえに漢字はつけません。

「てめぇ! そのやっちまえはあれだろ。カンジで殺すって入れただろ! 鬼か! 悪魔か!」
 俺の激励に、あくまで余裕のラカンは答えを返す。

 ちっ。そういえば漢字文化を知る神鳴流の人と知り合いだっけか。

「全力でやれって言ったのはあんただろーが! ネギ。ここなら誰も見ていない。今なら完全犯罪だ!」


「え? え? ええー!?」
 よりためらう結果になってしまった。

 ジョーダン通じない真面目っ子だからなー。


 俺とラカンは顔を見合わせて、軽く肩をすくませた。
 そっちにまかせると俺がジェスチャーして、ラカンは苦笑し。


「はっ、んな遠慮すんな。お前の目の前にいるのは、この世界最強の存在だ。てめぇのちっぽけな拳程度じゃ、揺るぎもしねぇよ。だから、一発ぶちかましてこい」
 その迷いを吹き飛ばさすよう、ラカンが言う。


「っ!」


 ──揺るぎもしない。
 ネギが思い出すのは、ゲートポートでの『バリヤーポイント』

 ネギの顔つきが、変わった。



 光と共に、突き刺さる全力の桜華崩拳。



 派手な水しぶきがあがり、跳ね上げられた水が、一時視界を塞ぐ。


「……さて。どーなったかな」
 普通の人間なら確実に消し飛んでいる衝撃だった。
 だが、アレは女になっていても普通じゃないんだろう。


 煙が晴れれば、そこに無事立っているラカンが居た。



 ただしげはーっと血(?)をはいて、いてーなとネギを吹っ飛ばしたが。



 自分でやれって言ったくせに、アレはやっぱ理不尽だよな。


 一瞬意識を飛ばしてしまったネギを湖の上に築かれた青空板間へ運んだ。




「なんだって? あのエヴァンジェリンが師匠だって?」

 これだけの力、どうやって身につけたと聞かれたので、ネギは素直にエヴァが師匠だと答えた。

「はい!」

「……」
 だが、どこか納得しないように、ネギをじろじろと見る。


「はい?」


「いや、あいつが鍛えたにしちゃ、ずいぶんと素直に育ってるな。あいつならもっといやらしくひねた育て方すると思ったんだが……」



 ラカンは、まだ知らない。
 自分の知る過去のエヴァと、今のエヴァは、全然違う存在であると。
 ある男との出会いを経て、その種すら別の存在に生まれ変わっているとは、知る由もない。
 ゆえに、そんな事を思ってしまった。



「そうなんですか?」

「いや、いい。よくわからねーが、大体わかった! 合格だ!」

「え、えー!?」
 いいんですかそれでー。といった感じの声をあげるネギ。


 ネギー。君は真面目だから、真面目につきあっちゃうけど、こういうタイプの人間は、真面目に付き合うと疲れるだけだぞー。


「で、だ。なんでお前は強くなりたい? 誰か倒したい相手でもいるのか?」

「……それは」

「いるのか。目標があるならそれでいい。誰だ? そいつは」
 言いよどんだその瞬間、彼女の頭には誰かが思い浮かんだと、ラカンは察したようだ。

「まだ、絶対に戦うと決まったわけではありません。せめて、そいつの足止めくらいはしたいと思っているだけです」

「ほう。ずいぶんと殊勝だな。で、誰だ?」

「フェイト・アーウェルンクスという少年です」

「っ!?」
 ラカンの顔色が変わった。

「そりゃまた懐かしい名前だな……」

「っ!? 知っているんですか!?」

「まぁな」

「教えてください。そうすれば……」

「聞きたかったら100万な」

「ええー!?」

「はい。後払いってのは可能か?」
 話を見守っていた俺が、手を上げて聞く。

「ダメだ。現金一括のみ!」

「ちっ」
 後払いが可能なら、超が稼ぐ予定の金を担保に色々聞けたり力を貸してもらったり出来たものを。


「だがまあ、そいつが俺の想像どおりなら、厄介だな……」

 置いてあったボードを縦に倒す。


 出たー!
 ラカン特製強さ表!


 基準は俺の1だが、結果はかわらない!
 今のネギは600くらいで、謎の少年は3000だー!


 実はこのネギの数字、原作より100おおいのだが、俺は気づかなかった。


「そ、そんなに……!」

「まあ、マトモにやってたんじゃ無理だわな。だが、マトモじゃない方法なら、ないでもない」


 それは、エヴァンジェリンが生み出したという闇の禁呪。

 ラカンがにやりと笑い、その説明をはじめた。


『闇の魔法』
 マギア・エレベアとルビがふられる。
 エヴァが10年の歳月をかけ生み出した、魔力と気をぶつけパワーとする究極技法『咸卦法』にも匹敵するポテンシャルを持つが、闇の眷属の膨大な魔力を前提とした技法のため、並の人間にはあつかえない代物である。


「なんか凄そうですね」
 ネギが素直に答える。


「興味出てきたか?」

「なるほど、闇。闇ですか……」

「なんだよ。お前向きかと思ったんだが」

「ええー!?」
 ネギガビーン!

「なあ?」
「俺はノーコメント」
 ラカンにふられたが、ここはあえてノーコメント。


「まあ、選ぶのはお前だ。マトモな道もいいと思うぜ? 当面の力不足は仲間の力を借りて乗り切るって手もあるしな。つまり、今のお前には道が二つある」


 ラカンが左腕を広げる。

 一つは正道。じっくり歩む、光への道。
 つまり、マトモな方法。
 みんなでわいわい協力プレイ。


 ラカンが右腕を広げる。

 一つは邪道。力を求める闇への道。
 つまり、マトモじゃない方法。
 一人でひきこもる一匹狼のあなたむけ。


「5年10年かけりゃ、お前でもマトモな道を進んで俺達レベルになれるかもしれん」

「……」
 それを聞き、ネギは顎に手を当て考える。

「どっちがいいとは俺は言わないけど、ただ、とりあえずリスクを説明しておいたらどうかな?」
 どうせ言わなくても説明はするだろうが、一応ラカンに説明を促す。

「そうだな。こいつはリスクもでけぇしな」

「リスク?」

「ああ……って、なんでお前そんな事まで知ってんだ?」
「今はそこにつっこみいれるな。話を進める!」
 わざわざ話を中断しやがったので、しっしと話を進めるよう追い払う。

「わーったわーった。こいつはな術者にけっこう負担がいくんだわ。適正がない人間が使えば、命にも関わる。ゆえに禁呪ってわけだ」

「そ、そうなんですか……」

「よし、いっちょ実演してやろう」

「実演て、出来るんですか!?」
 ネギびっくり。

「ま、実際見てみない事には選びようがないだろうしな。適性のない人間がどれほどのダメージを食らうか見せてやろう」



 そして実際に実演して、見事自爆を果たすラカンであった。



 うん。このシーン見た覚えある。
 お見事な自爆だね。




───ネギ───




 闇の魔法。

 ラカンさんの見せてくれた実演。
 魔法をその身に取りこんだ瞬間。

 僕の中にあったそれが、ついに明確な形を作りました。


 これだ。


 これだったんだ。

 僕が頭の中で思い描いていたモノは、コレだったんだ!



 コレが実現出来れば、僕も、みんなも、力を合わせて、戦える!




──────




 てれれれてってってー(ドラクエの宿屋のテーマ)


 ラカンが自爆してぶっ倒れて、ありゃやめとけとネギに忠告して一夜が明けた。


 朝、拳法の練習をするネギに、俺が闇の魔法の巻物をお届けする。


「一晩考えて、考えはまとまったか?」

「はい」

 どこかすっきりしたように、はっきりと俺の問いに答えた。
 ま、どっちを選択することになっても、後悔しないようにな。

 俺は、どっちを選ぶのか知ってるけど(原作知識的な意味で)



 しかし、彼は知らない。
 万一この禁呪に手を出した場合、ネギは遠からず人をやめる事になるという事を。
 彼が、魔法世界編終了までの知識を持っていたのなら、人間をやめる事になるから止めろ。と言ったかもしれない。
 だが、彼はそのリスクがそこまでだとは知らない。ゆえに、原作同様に進むのならば良いかと、納得するしかない。



 ラカンの元へ。


「よぉ。決めたか?」
 青空板間にいたラカンが挨拶ついでにそんな事を言ってきた。

「その前に一つ、聞いてもらってもいいですか?」

「あん? なにをだ?」

「僕から見た、闇の魔法の本質と、理論の裏づけ、それに、そのリスクや、運用方法です」


 がらがらと、ネギが昨日強さ表を書いた黒板をひっぱりだしてきた。


「まずですね……」

 なんか、難しい話がはじまった。
 

 いかん。勘や気合で生きるあの生物に、こんなの説明しても理解してもらえるはずないぞネギ君! みんな君みたいに机の上で色々考えるのが得意じゃないんだ!※理論が理解出来ないという意味ではない。
 当然、俺も!!


 直感的に、さらに気づく。
 これ、話長くなりそうだ。とも。


 同じように思ったラカンと視線が合う。

 俺はうなずいて。


(あとはまかせた)


 しゅたっと手をあげ、そう笑顔のみで心を告げて、俺はこの美しい湖へ飛びこんでいった。
 ひゃっはー。美しい湖で泳ぐのなら何時間でも泳いでいられるぜー!


「それでですね。ラカンさん!」
「のあー!」

 問答無用で聞かされるラカンの絶叫がこだました。



 二十分後。



「──という事なんです!」

「ああ。そうか。よーくわかった。多分それで間違いねぇ。で、結論はどうなんだ?」

 げんなりとしたラカンが、光の道か闇の道かの答えを問う。
 下手に刺激してはいけない。また同じ事を説明されても困る!


「はい。僕は……」


 ネギは、理解していた。
 闇の魔法真の本質は、気弾、呪文に関わらず、敵の攻撃を我が物とする事だと。
 敵の力を吸収し、我が物とする。

 自分の呪文をその身に宿す事は、その通過点でしかない事に……



 一応、さっきの話をちゃんと聞いていたラカンも、たった一度アレを見ただけで、そこまで理解するとは。と、心の中で驚嘆している。



「……闇の道は、選びません」
 すっと、ラカンへその巻物を、手わたした。

「……選らばねぇのか」
 そこまで理解して、なおかつ選ばないとは、ラカンには意外であった。


「はい。闇の魔法は闇の魔法で、非常に魅力的だと思います。ですが、僕はこれを選べません……」


 ネギは、思い出す。
 これによく似た力の事を。

 超が自らの体に施した、呪紋。あれと、これは良く似ている。
 いや、本質は全然違う。似ているのは、リスクという負の面。

 呪紋は、その身と魂を削り、文字通り、命を削り力を使う方法。
 闇の禁呪は、その魂を呪文にささげ、闇と同化してゆく方法。


 どちらも、人としての体を失ってゆく方法だ……


 そんな魔法を使うのならば、僕は確実に、明日菜さんに叱られてしまう。
 みんなに、心配をかけてしまう……

 自分の体を傷つけて、それでも前に進むのは、かっこいいとは思う。
 体を二つに割ってまで、力を封印したあの人が、そうであるように……

 他人の為に、自分の力を躊躇なく失える。
 そんな事が出来る人は、滅多にいない。


 でも、それが自分に許されるかというと、違うと考える。


 なにより、闇の本質が、自分の今のスタイルにあっていない事も理由の一つだ。

 敵の力を利用する。それは、自分のスタイルではない。
 ネギのスタイルは、仲間と自分が影響し合い、力を高めあうスタイル。


 だから、僕は……


「つまり、ナギと同じ道。光の道をゆくって事か……」
(……それも、ありだろう。少々つまらん気もするが)


「いいえ、違います」


「ほ……?」
 ネギの答えに、また、ラカンが驚きの表情を浮かべる。


「僕は、両方の道を進みます!」

 ネギははっきりと、ラカンの目を見て、そう言い放った!


 だって僕は、母さんもマスターも、どちらも大好きだから!


「はっ、はははははは。そりゃすげぇな。だが、それはどっちを進むのより、困難な道だぞ?」

「わかっています。でも僕は、マスターに前、同じような選択を迫られた事があるんです」


 魔法剣士か、魔法使いか。どちらにするか。その時もネギは、両方を選んだ。


「だから今回も、どちらも選ぶ事にしました!」
 その目は、ただひたすらまっすぐに。まっすぐ、光でも闇でもない、自分の道という新しい道を見据えていた……
 心の闇を刺激されず、闇を持たずにここまで歩んできた彼女が選んだ道。それは、どちらもという、とんでもなく欲張りな道だった!


(……おいおいナギよ、エヴァンジェリンよぉ。ひよって光の道へ向かうのかと思えば、より難しい道を選びやがったぞ。こりゃ、お前の娘は、弟子は、すげぇ器を持っているかもしれねぇな)
 与えられた道ではなく、みずから道を切り開こうとするその意思の力。
 ラカンにそれは、とても懐かしく、そして、まぶしく見えた。


「どちらも。か……だがよ、これ使わねぇで、どうすんだ?」
 受け取った闇の巻物を持ち上げる。


「実は、前々から頭の中にあったものがあるんです。それは、闇の魔法に良く似ていたんですけど、本質的には、逆のものなんです……」

「ほう」

「でも、結局呪文を体にとりこむ事になるので、リスクの面がどうしてもクリア出来なくて、その課題がクリア出来れば、僕の道も完成すると思うんです!」


「はっ、そりゃあいいな。おもしれぇ。なら、その道を進め! こいつはもう、用なしだ!」



 闇の魔法に未練を残さぬよう、ラカンは手に持ったそれを、湖へと放り投げた。



 ひゅるるるるる~。
 巻物が、宙を舞う……



 ぷはっ。

 その落下地点。
 そこに、偶然湖底から浮かび上がってくる人影が一つ。

 そこに、たまたま、少年が出現したのだ。



 そこへ……



 すこーん。



 その巻物は、逃げて湖を泳いでいた、少年の頭に、見事命中した。



 ぷかー。
 少年が、湖に浮かぶ。


「あ……」
「あ」
 ラカンとネギの声が響く。



 さらに…… 


 ぱああぁぁぁぁぁ。

「我ヲ呼ビ覚マシタのは、貴様カ!」
 ぷかーっと湖に浮かんだ少年に、闇の禁呪そのものともいえる、エヴァンジェリンを模した人造霊が襲い掛かった!



「ええええー!?」
「やっべ……」




──────




 ……ここは、どこだ……?

 真っ白な世界に、俺は立っていた。

 確かさっきまで、湖で泳いでいて、頭になにかが当たって……


 そんな事を思い出していると、目の前にエヴァンジェリンが現れた。
 なぜかその格好は、裸にぼろぬのを纏っただけといういでたち……


「サア。ハジメヨウカ」


 あれ? このエヴァ、俺の知らないエヴァだよ。


 実は俺、エヴァのオリジナルとコピーを10割の確率で見分けられる自信がある。
 なにせ、あいつは『私が本物だ』というアピールを、無意識に俺にしてくるから。
 見分けて欲しいというのが、ありありとわかるから!

 だから、俺にはわかる。目の前のエヴァは、本物でも、『コピーロボット』でコピーされたのでもない、また別のエヴァだと……



 ……



 心当たりが一つ。

 ひょっとして……


 ……これ、ひょっとして、アレですか?



 イエスイエス。



 闇の魔法の世界ってヤツですかあぁぁぁぁ!?



 イエスイエスイエース。



 なぜに俺が!? なぜに俺があぁぁあ!?

 やばいて。魔力の刃とかで切りつけられたりすんの嫌よ。絶対嫌よ!



「……深遠ナル土地ヨリあらワれし深キ者ドモの手二握ラレる、憤怒ノ刃……」


 ……え?

 エヴァ(偽)の手にはいつの間にか一冊のノートが握られていた。



「ソノ呪文ヲ使エルのは、魔ト聖ノ血ヲ引ク彼ノみデあり、ソノ威力は一撃デ星ヲも砕ク……」

 それを、彼女は読み上げる……



 ……こ、これって……



「絶対ノ王。我が名ハ『シヴァリアスフェザリオン』第三ノ目が開キシ時、闇ノ衝動に目覚メ、愛する者ヲ殺メてしまウ」


 いやあぁぁぁぁぁぁ!

 俺は頭を抱える。


 こ、こいつ、俺の黒歴史ノートを読み上げよったあぁぁぁぁ!!


 や、止めてください! そんな設定いらないんです! 最終的に落ち着くのは普通の子でいいんです!
 ごてごてした設定とかいらないんです! 今はリアル厨二設定で間に合ってますからぁ!
 だから、俺の記憶に眠る黒歴史を、掘り起こサないで絵ェェェェ!



「『テラスラッシュ』。『ギガストライク』の二倍ノ威力を持チ、伝説ノ魔王と勇者の血を引くものノミが、ディバインダークと呼ばれる、すでに存在しない魔剣を握ル事デのみ放ツ事ガ出来ル」


 やめてぇぇ! 中学時代に思い描いたゲームの設定とか朗読しないでえぇぇぇぇ!!



 もう、もうー。
 俺はこの精神世界でもう、のた打ち回るしかなかった。

 キツイ!
 直接攻撃されるより、何万倍もキツイ!!



 とゆーかこういう場合、こんな黒歴史暴露じゃなくてさ。
 お腹の中に居た九尾的な獣とか、白黒反転した自分とか、黒衣のおっさんとか出てくるもんじゃないの?

 そーゆーのじゃなくて、そーゆーの期待した自分の趣味を暴露され思い出させられるとか、なんぞこれぇ……



「まだまだイクゾ」
「いやあぁぁぁぁ!」



 闇の試練、きついぃぃぃ!!




──────




 現実。
 湖から引き上げられ、床に寝かされた彼が、胸をかきむしり、苦しそうに息を吐く。


「熱が、熱が凄いです! どうしてマスターが、あの人の中に!? どど、どうすればー!」

「落ち着け。さっきのはエヴァの劣化コピー。人造霊だな。巻物が発動して、そいつの中に入ったんだ」

 それが彼の中で暴れて、この熱を引き起こしているのだ。


「ところで、さっきの話は本当か?」

「はい。事情があって力を封じてしまって、今は見た目そのままの力しかないんです」


 彼の状態。今世界に二人の彼が居て、この場には半身しかいない事。そんな人が闇の試練などを受けてしまって大丈夫なのかとネギは聞いたのだ。


「……それは、やべぇな。元々二度と目をさまさねぇ確率が高いってのに、下手すりゃ、死ぬな」

「ええー!?」

「自力で試練を乗り越えられるのが一番なんだが……」
 半身しかないというのなら、その前に体が壊れるかもしれない……

「ど、どど、どどどど……」
 ネギが動揺のあまり、同じ言葉しかいえない状態になっている。

「安心しろ。こういうときの為に、巻物に突き刺せば無効化出来るのを……」


 上着の中をごそごそ。


「……」
 無言で見守るネギ。


 ズボンをがさがさ。


 上着を脱いでばさばさ。


「ふむ」

 ひと呼吸。



「なくしたか……」
 シリアスな顔で、ラカンがそう言った。


「えええええー!?」

「ちょっと待ってろ。多分あそこだ。もしくはあっちだ。探してくる」


 しゅたっと手を上げ、ラカンは去っていった。


「ど、どど……」
 おろおろ。

「どど……」
 言葉を、止める。


 ゆっくりと自分の両手を見つめ……

 ぱんぱん!

 両の手でみずからの頬を叩いた。


 ダメだ。僕は、こういった突発的にはじまった事態に弱い。
 それじゃ、ダメだ。
 これじゃ、いつまでたっても、誰にも追いつけない。
 慌ててもなにもはじまらない。


 だから今は、出来る事をきちんと、しっかりとやるんだ。

 ネギは、呼吸を整え、熱が少しでも楽になるように、彼の額へ濡れたタオルを置くのであった。




──────




 闇の試練。

 心の闇を見つめなおし、それを受け入れる事が、この試練の目的である……
 決して、目の前の敵を倒す事が目的ではない。

 みずからの闇を見つめ、受け入れる事で、それを力とする。
 それが、この試練を生きて終わらせる、唯一の方法……

 それを俺が理解しているからこそ、目の前の影は、俺をワザワザ直接攻撃してこないのだ……


 エヴァ(偽)が、俺の黒歴史ノートを広げ、次々と読み上げてゆく。


(や、やめてくれ……中学の時書いたノートを朗読するなんて、やめて、くれ……)
(校舎内でテロリストとの戦いのシミュレートを、再現しないで、くれ……)
(ちょっと気取って制服を着崩した時の映像とか出さないでくれー!)


 ば、馬鹿な。これを、これを受け入れない限り俺は脱出出来ないだと!?
 これを、この、黒歴史達を、俺に、受け入れろと!?

 受け入れなくては生きて帰れないと!?



 こいつは、こいつは変な意味でへヴィだぜ!!



「ちょっ、ちょっと待て! お前!」
「ナンダ?」

「その姿ダメだ。反則だ。せめて、俺の姿になれ。俺の姿に!」
 エヴァの姿じゃマトモに攻撃も出来ねえし、その姿で言われるとダメージがよりでけぇ。

「ダガ断ル」

「ちくしょー!」


「包帯を巻いて登校」
「ぎゃー! いたいー! それはマジイタイー!! 痛くないのにイタイー!」


 精神世界で、俺はまたのた打ち回った。




──────




 魔法世界。現実。
 日も落ち、夜になった。


「ぐぼぁ!」
 あまりのイタさに、とうとう彼は、血を吐いた。

「そんなっ!」
 ネギが信じられないと声を上げる。
 精神だけでなく、体にまで影響が出てくるなんて……!


「やはりか……」
 そこに、ラカンが姿を現す。


「ラカンさん、血が! 危ないのは、精神だけじゃないんですか?」

「半身しかねぇって話だからな。それに、どうやらお前よりよっぽど闇に向いているらしい。同調がよすぎるんだ」

「同調……」

「そんだけ心ン中に飼ってる闇がでけぇって事だ」

「闇……」
 聞いた事がある。
 彼のその身のウチには、強大な闇が眠っていると。
 それが呼び起こされ、暴れさせたのが、あのゲート事件。


 今はそれが封じられているといっても、なくなったわけじゃない……


「しかし、マズイな。このままだと、精神的にも肉体的にも、死ぬぞ」

「そんな……」

「こうなったら、まずはこれだな……」


 懐から取り出したのは、アルテミシアの葉と呼ばれる薬草だった。
 それをすりつぶして体に塗れば、体の傷はなんとかなるだろう。


「は、はい!」

「ただ問題は、精神の方だな……」

「あ、そうですよ。無効化するなにか、見つかったんですか!?」

「ああ。見つかった事は見つかった」


 懐から、一本のナイフを取り出す。


「でもな……」

「でも……?」


 凄く嫌な予感がする。


「こいつに一般人並の強度しかないのなら、こいつで解除した衝撃で、死んでしまうかもしれん。よくて廃人か」
 ナイフを巻物にさした衝撃に、半身しかない彼が耐えられないかもしれないのだ。

「それじゃ結局ダメじゃないですかー!」

「ああ。マジで笑えねぇ。だから、お前が決めろ。お前は、俺よりこいつを知っているだろう? 信じて、待つか。肉体だけ生きる事になるかもしれないが、その巻物を、こいつで刺すか。出来ねぇってのなら、俺がやる」


 その声は、どこにも茶化すものはなく、真面目で、それだけで、今がどれほど逼迫しているのかがわかった。


「少し、考えさせてください……」

「タイムリミットは今日の夜明け。日が昇る前になる。それまでに決められないなら、俺が、やる」
 ラカンの選択は、決まっている。タイムリミット前に、解除する。それが、生き残る可能性の最も高い方法だと考えるから。

「……わかりました」



 タイムリミットは、夜明け。
 ネギは薬草をさらにすりつぶしながら、どうするか、悩みはじめる……




──────




「いくぞ! 魂のアルペジオ! 天の月のビブラート、水の月がアレグロビバーチェすれば、人の月はその命をアジタートに歌い上げる!」

『ムーンライトレクイエム!』


 俺は死んだ……


 いや、しなねーよ!
 しにたくねーよ!!


「ほう、まだ動くか」


 顔を上げた先には、エヴァのコピーがいた。


「あったりめーだ。厨二病こじらせて死んだとか、歴史に名を残しちまうじゃねーか。そんなの死んでも死に切れねぇよ」

 ゆっくりと、立ち上がろうとするが、体に力が入らない。
 手足をばたつかせるだけで、いう事をきかない。


「そのような状態で、まだそのような事を喋る余裕があるとはな」

 うるせーな。まだまだ、まだまだまだ……負ける気は、少ししかねーよ。


「だが、そろそろ終わりだ……」


 ゆっくりと、俺にとどめを刺すために、最後の黒歴史を語る。


「サウザンドマスター」

「ぐはっ!」
 現在進行形きたあぁぁぁぁ!


「ジャスティス仮面」

「ぐへっ!」


「そして、宇宙刑事」

「うぼあぁぁぁ!」



 がくり……



 彼の頭が、再び地に落ちた。




──────




「がふっ!」
 現実世界でまた、彼は血を吐いた。

「日の出をまたずに、まずいかもしれねぇな……」

「ラカンさん薬草を!」

「おう。いくらでも持ってきたから使え……だが、それで、どうすんだ……?」

「……信じます」

「なに?」


 ネギは、すりつぶした薬草を彼の体に塗ったあと、そっと、その右手を握った。


「僕は、勝って帰ってくると信じます。だってこの人は、僕が尊敬する、もう一人の『サウザンドマスター』なんですから!」

「……」
 ラカンは、その姿を見てため息をついた。

「なら、薬草は俺がすりつぶしてやっか」

「え? あ、ありがとうございます!」

「まぁ巻物ぶち当てちまったの俺だからな」


 にっと笑い、ごりごりとその薬草をすりつぶしはじめた。



 一方ネギは、その右手を握り、祈った……



 同時刻。


 魔法世界に存在する、もう一人の、彼の半身。


「……」


 彼は、なにかに気づいた。
 そっと、自分の近くにいる少女の手を、その右手で握る。

「なんだ?」
 いぶかしむエヴァンジェリン。

「……安心する」
「なっ!? ななな!?」

「そして、だるい……」
 ずるりと、ソファーに体を預ける。


「おい、どうした? おい!」


 やはり彼等は、二人で一人。
 もう一方が死ぬ事があれば、もう一方も……




──────




 精神世界。
 ぐったりと、倒れたまま、ピクリとも動かない男……


「……」


「……これで、終いか。まあ、ただの人にしては、よく耐えたものだ。このような世界に突然飛ばされ、戦いも望まぬ一般人だったというのにな」


「……」


「幸運にも手に入れたあの力、貴様はもっと堪能しておけばよかったのではないか? みずからの欲望の為に。みずからの本能のままに。なんでも出来ただろう? 人を殺しても罪にならぬ道具もあった。他者の存在を自由に消す道具も。人の心さえも自由に変える道具も。肉欲を満たしても足りないほどの薬もあった。それらはもう、お前の手には届かない」


「……」


「ネギの事など考えず、最初からこの物語を破壊する気で動いていればよかったのだ。学園を破壊し、その存在を消し、近づくものをすべて排除すれば、この世界の王はお前だった。それなのに、些細なプライドを守り、得たのは実体もない称号と、娘達の純粋な瞳」


「……」


「全てを捨てて守ったかと思えば、今度はこの闇の中だ。お前の守ろうとするものは、なんだったんだ? 身を削り、少女の瞳に心を削られ、終いにはここで死ぬ。なんとも滑稽だな。そして、そんなお前の真実も知らず、キラキラした目でありもしない宇宙刑事やもう一人のサウザンドマスターを尊敬する少女達も、哀れだ」


 ぴくっ。


「だってそうだろう? なにが宇宙刑事だ。なにがサウザンドマスターだ。馬鹿馬鹿しい。それはただの、幻。ただの三十路のおっさんがついた、壮大な嘘なのだからな。信じた少女達は、あまりに愚かしく、滑稽すぎる」


「……ざっ、けんな……」
 倒れた男が、拳を握る。


「……む?」
 影が、男を見下ろす。


「確かに、俺にとってみればな、宇宙刑事やジャスティス仮面は、のたうちまわりたいほどに、イテェ嘘だよ……」
 拳を握り、膝を震わせながらも、男は、立ち上がろうとする。


「……でもな、その嘘を、本気で信じてる子を。それに本気であこがれ、努力している子を、哀れだとか言うのは許せねぇ」


「な、に……?」
 闇に、一瞬困惑の色が見えた。


「どれだけのたうちまわる俺を笑うのはかまわない。だがな、俺を笑っても、宇宙刑事の生き方や、宇宙刑事という幻想そのものを、馬鹿にはさせねぇ!」


「なぜそれで立ち上がろうとする? その嘘は、貴様を傷つけてきたはずだ。守り通す義理など貴様にないはずだ。そもそも土下座をして許してもらえるのなら、喜んでする男だろう? なのになぜ、そうまでして、みずから傷つくのを望む?」


「そいつはな、俺が、子供達の前で、少しでもかっこいい大人で居たいからだよ。子供を失望させるような大人で、俺はいたくないからだ。俺にとって滅茶苦茶痛い嘘でも、それを信じてくれる子供が一人でもいるのなら、俺は、その嘘を、本当にする努力をする義務がある……!」


「ふっ、ふはは。ありえない幻の夢を見せて、それが義務だと? 世界を救うヒーローなど、テレビの中にしかいないと教えてやるのも大人の役割なんじゃないか?」


 いまだはいずる男に、影は言い放つ。


「それは、幻じゃねぇ! その子の中には、立派に宇宙刑事が存在している! サウザンドマスターがその前を歩いている! 俺には幻でも、はじまりが嘘でも、それを目にした子供達には、幻ではなく、現実の夢だ!」


 俺が傷つく宇宙刑事も、サウザンドマスターも、嘘だが、嘘ではない!
 真実ではないが、いるのは、事実だ!

 その子供達が夢見る道を、誰かに笑わせないためにも、この嘘は事実でなければならない。俺のついた嘘なのだから、俺が責任を持って事実にしなければいけない!

 あの子が、信じているのだから!


「子供の夢は、子供がケリをつけるもんだ。夢を諦めるのは、自分にしか出来ない。子供が自分でケリをつける。だがな、その憧れた夢の時間は、自分で笑う事があっても、他人には絶対笑わせねぇ!」


 その夢そのものを、壊すのは簡単だ。サンタさんはいないと教えてやればいい。困った時、誰も助けに来なければいい。

 だがそれを、子供に教えてなんになる!
 夢を奪ってなんになる!

 サンタは本当にいるかもしれない。ヒーローは本当にいるかもしれない。
 そして、ヒーローに自分がなりたい。なれる!

 そう子供に思わせてやるのが、大人ってモンじゃないのか!?


「子供にはな、大人はスゲェ! かっこいいと思われなきゃいけないんだよ! 子供は大人の背中を見て育つ。その背中が、失望だらけの、かっこ悪いのばっかりじゃ、子供達は大人になりたいと思わなくなっちまう。夢も希望もない未来しかないんじゃ、子供は大人に、未来に期待しねぇだろ!」


 男は、力を振り絞り、膝に手を当て、立ち上がる!
 どれほどボロボロであろうと、膝を震わせながら、立ち上がる!!


「嘘に嘘を重ね、騙し続け、大人になった時、大人はそんなモノじゃなかったと気づかせるのがお前の大人なのか? 厳しい現実を見て、宇宙刑事など幻想だと知る方が、よほど残酷ではないか! 大人になり、現実を知り、こんなはずじゃなかったと大きな挫折を味あわせるのか!」


「はっ、馬鹿言うなよ」


 ゆらりと立ち上がった男の姿は、15の少年ではなかった。
 そこに居たのは、誰も、この世界で見た事はない。スーツを着た、三十路となった男の姿……


「大人になるまで騙せてたら、それ大成功じゃねぇか。確かに大人になれば、挫折する事もあるだろうさ。厳しい現実を知り、それは夢だったと知るかもしれないだろうさ。でも、その時気づくはずだよ。自分の見たその背中は、そのかっこ悪い背中を、その厳しい現実を、後ろから見ている子供に、自分に見せたのか? ってな」


 男は、懐から取り出したタバコに、ゆっくりと火をつけた。


「その時はもう、その子も大人になってんだ。なら、自分に見せた背中の大変さくらいわかるだろうさ。現実の理不尽さも理解しているだろうさ。その時に、自分の後ろにいる子供に、かっこ悪い現実を見せるか、嘘でもかっこいい夢を見せるかは、そいつ次第だ。でも俺は、どんなに厳しい時でもかっこいい。そんな背中を。子供に見せてやりたい……」


 ふーっと、吐き出されたタバコの紫煙が揺れる。


「大人がどれほどかっこよくて、早く大人になりたいって子供に思わせるような夢をな! だから、俺がどれだけ情けなく笑われても、宇宙刑事の背中は、笑わせるわけにはいかないんだよ!!」



 そのまま、右の手に握ったタバコを握りつぶす!



「いまさら黒歴史は受け入れてやれねえが、『宇宙刑事』ともう一人の『サウザンドマスター』くらいは背負って生きていくつもりはある!」



 握ったその拳が、光り輝くのがわかった……
 右手が温かい。
 感じる。そのぬくもりを。


 その、信頼を……


 こいつを感じた俺は、もう無敵だ!



「その背中を見ている子供達が、いるからな!」



 そして男は、握り締めたその拳を振り上げ、こう叫んだ。




「装、着!!」




──────




 夜が明けようとしている。


 手を握り、ネギは信じる。祈り、無事を願う。


 太陽が、昇りはじめた。

「……」
 ラカンが、ついにナイフへ手を伸ばそうとしたその時……


 ぱぁ……

 苦しんでいた少年の体が、光を放った。


 ゆっくりと、その姿は浮かび上がり、ネギの手を離れ、その身を垂直に立て、光の膜が、その体を覆う。

 それは、繭のようであり、彼の体を優しく包みこんでいた。


 その中で、一瞬にして服が光に分解され、素肌の上にインナーが創造される。
 さらにその上へ、スーツが生まれ、ブーツ、グローブ、そして、ヘルメットが生成された。


 赤を基調とした中に、少量の闇色を溶かしたような、ダークレッドの色をしたスーツを纏った、ヒーローがいた。
 それは、学園祭の時、武道大会で見た、ジャスティス仮面に似ているが、どこか鋭角的なデザインが増え、どこか荒々しさが増しているようにも見えた。
 刹那がこの場にいれば、銀行強盗を撃退した『宇宙刑事』の姿に似ているとも言っただろう……


 そこにあるのは、二つの道具が同時に発動した姿。
 学園祭の時使用した、『変身セット』。そこに、『決め技スーツ』のスーツが装着された、真のヒーローの形。


 彼が背負った、二つの称号。『宇宙刑事』と『サウザンドマスター』。
 その意思と闇の禁呪によりほころびた『ポケット』の中から、『再現』された、変身のベルトである!


 本来ならば魂に刻むその呪文を、ベルトに移す事により、一言「装着」と叫べば、『決め技スーツ』を装着するのと同時に、『変身セット』まで装着出来る、リスクを最小に分散させた、ベルト型の変身セットなのだ!


 変身が終わると、彼はゆっくりと、地に着地する……


 だが、その緊張はまだ、終わらない……


「うっ……ううう……」
 彼の様子が、どこかおかしい。

「……まさか、暴走か?」
 その異変に気づいたのはラカン。闇との同調が強すぎる場合、そのまま闇に飲みこまれ、魔物と化してしまう場合がある。

「おい、ネギ気を……」
 つけろと続けようとしたが。


「……」
 ネギはその姿を、ただ呆然と、ほうけて見ていた。

「お、おい!」



 だが、そんな心配をよそに……



「ちくしょおおぉぉぉぉぉ!」
 そのまま少年は、がくりと膝を突き、両手を地面について、めそめそと泣き出した……



 びくっ!
 思わずラカンとネギをかばうようにしつつも、一歩後ずさる。



「ついに、認めてしまった……認めてしまったぁ……黒歴史を……俺はやっぱり、忘れられないのか……しかも、あんな恥ずかしい事を熱く語ってしまった……俺は、おれはぁ……」



 めそめそ。めそめそめそ……



 そのベルトは、『決め技スーツ』と『変身セット』を同時に装着するが、それは同時に、彼の中の黒歴史もあふれ出すという、彼自身の心も大いに傷つける、闇の禁呪よりあふれ出したに相応しい茨の鎧であった……

「イテェ。いてぇよぉ……」
 めそめそめそ。


「ど、どうやら、無事ではあるようだな……」
 たぶん……



 しばらくそうめそめそしていたが……


 ぴたっ。
 それが突然止まる。

 そして何事もなかったように立ち上がって。
 ベルトを外し、装着を解いた。

 光が瞬き、分解された服が再構築され、再装される。

 すぅ。
 一度大きく息を吸い。


「はっ! 俺は今まで、なにをしていたんだ。さっぱりおもいだせないぞ!」
 集中戦が強いられる。


 それはまるで、今はじめて意識が戻ったかのような言葉だった。


「……」
 じとーっとラカンがソレを見る。

「……」
 彼は無言だ。ちょっと汗をかいている。


「……ぶっけたの、誰?」
「そーだな! 俺はなにも見なかった! 無事でよかったぞ!」
 ぼそりと言って、ラカンあわせる。


「はー、死ぬかと思った!」

 さわやかな風が、吹き抜けた。
 かきあげた髪からはじけた汗が、のぼりはじめた朝日に反射し、キラキラと光った。


「お前、意外に図太いな」
「あんたに言われたかないね」


「「HAHAHAHAHA」」


 色々ごまかすために、二人で笑った。


 あの瞬間、謝罪とスルーするが二人の中で一瞬に示し合わされたのは、彼等しか知らない。
 困る事はさらっと流す。ソレが大人の処世術!


「ところで……」
「あん?」

「ネギ、なんでこんなに呆然としてんの?」
「わからん」


 彼が指差した先には、今だぼーぜんとしているネギがいる。


「そんなに俺が無事で嬉しかったのかな?」
「そうは見えねぇな」
 無事だって信じてたから、別のなんだろう。とラカンは思う。

「うん。俺もそれ以外で驚いてるように見える……」
 ちらっと自分の手の中にあるベルトを見た。
 ラカンもソレを見る。


「……そ」
 ネギが、突然声を上げた。


「そ?」


「それです!」


 指差す先は、黒髪の少年と、そのベルト。


「それです! そうですよ! そうだったんです! 纏うんです! とりこむんじゃなくて、纏えばいいんです!!」

「え? え?」
 驚く彼に、悦び勇んで飛びついてきて、そのベルトを持った手をぶんぶんと振り回す。


「ふむ」
 ラカンが顎に手を当て、そんな声を上げる。


「やりました。出来ます! 僕の道が、出来ました!」

「……なんだかよくわからんが、それならよかった!」
 手を振り回される少年が、とりあえずよかったと言った。


 喜びに水をさしても仕方がない事だし。

 そして、それはよかったなぁ。と、頭をなでる。


「ふぁっ! ……あっ! 無事で、無事だったのに、ごめんなさい自分の事ばっかりで!」
 ネギがはっと気づき、手を放し離れ、頭を下げる。

「いやいや。俺の不注意であんな事になったんだし、ラカンももう反省しているから、問題ないさ」
「そうだぞネギ!」


 大人二人で親指を立てた。


「そ、そうなんですか?」

「ああ。だから、俺の事はいいから、お前の道ってヤツを進みな」

「は、はい!」

「よーし。んじゃあ、日も昇ったことだし、早速修行始めるか!」

「はい!」

「……君等徹夜したんじゃねーの?」

「問題なし!」
「ありません!」


 ラカンとネギが元気に親指を立てた。


「そりゃすげぇ。んじゃあ俺は、体を綺麗にして、朝飯作っておくから」

「おう。任せたぜ!」
「お願いします!」


 こうして、ラカンの元へ弟子入りしたネギの修行がはじまった……!




「……って、ネギ、闇の魔法覚えねぇの!?」
 それに気づいたのは、体を洗ってさっぱりして朝ごはん終わって昼の修行を見ている時だった。

「いまさらかよ。そもそもオメーが習得しちまってるだろうが」
 ラカンが少しあきれていた。




───ネギ───




 僕が信じたとおり、あの人は、目を覚ましました。
 しかも、マスターの闇の魔法を習得して。

 目覚めた瞬間に魔法を纏っていたその姿を見て、僕の中で、全てのピースがはまった音がしました。


 そうです。とりこむのではなく、纏えばいいんです。
 一体化する事による、身体の変質が問題ならば、それが起きないように、その力を、体に纏えばよかったんです!
 変身するのではなく、装着する! これが、僕の答えだったんです!


 これなら、出来ます!


 出来ました! 僕の考えていた、一つの道が!
 母さんと、マスターの示してくれた二つの道が、一つになった道が!



 あの人が、導いてくれた、おかげで!




──────




 魔法世界某王国。


「おい、どうした? 大丈夫か?」

 突然ぐったりとした少年のほおを、エヴァンジェリンがたたく。


「……ん、んぅ……も、う……もう、食べられないよ~」

 Zzzz……


「……」

 その後ベッドに放り投げられたそうな。




───ラカン───




 こまけぇ事故があったが、ネギの面倒を見る事になった。

 にしても、闇の魔法のリスクを知っていたり、俺の仕掛けた茶番に気づいたりすると思ったら、あのボウズ、エヴァンジェリンの恋人なんだってな。

 しかも、もう一人の『サウザンドマスター』であり、あのエヴァを実力で叩きのめし、鬼神を闇を纏ったまま祓い、星の外から現れた侵略者を撃退したほどの実力者。
 さらにその腹ン中にはあの『造物主』が狙うほどの力があって、その力を使わせないために体を二つに割って封印した。と。


 ……ずいぶんと盛ったな。というのが正直な感想だった。


 今見ている限りじゃ、ありゃただの一般人だ。

 だが、実際にネギが信じたとおり、半身でしかないのに闇の魔法を習得し、平然と立ち上がりやがった。その上、起きてすぐ、あんな馬鹿みたいな真似までやりやがる。
 あの地獄のような闇の苦痛を受けた直後に、俺とバカなやりとりが出来るとは、精神的には只者じゃねぇのは確かだな。

 まぁ、あれだけ闇と同調が良くて、あのエヴァンジェリンが恋人にするくらいだ。どっかぶっ壊れていても不思議はねぇ。


 ネギのヤツも、想像以上だし、あいつもおもしれぇヤツだ。

 しばらくは退屈しなくてすみそうだな。



 ……そう思っていたが、この後、正直想像もしていなかった事が起きた。



 人間の敵ってのは、どこまで行っても人間なんだな。
 そう、思い出させてくれたぜ……




──────




 それから約三週間後。


 修行もひと段落して、超達と合流するために、街へと戻ったその時……


「ただいまー。皆、どうだった?」


 扉を開けたすぐ先。闘技場の控え室にあるテレビモニター前で固まっていた超やコタロー達に声をかけた。


「た、たいへんやで……」
 コタローが、震えた声で、俺を振り返った。

「? どしたの?」

「エヴァンジェリンが……」
 同じく振り返った超が、モニターを指差す。


 そこには……



『世紀の大悪党。最大の賞金首エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。本日公開処刑!!』



 そうデカデカと現れたテロップと共に、空中庭園において大勢の兵士に囲まれた、大人に偽装したエヴァンジェリンの姿が、そこにはあった……


『ではこれより、裁きをはじめる……』

 ライブと表示されたテレビの向こう側から、無慈悲な言葉が響いた……




 この日、エヴァンジェリンという伝説の賞金首の存在は、魔法世界から、確実に、消滅する。





─あとがき─

 ネギ闇の禁呪手に入れなかったのでしたの巻でした。
 そしてやっとこラカン登場です。今まで色々ぼかしてましたけど、結局TSしてもらいました。
 名前は多分ジャックじゃないんでしょうけど、考えるの面倒なので、全部ラカン表記で押し通す予定ですのでヨロシク!

 しかし、ネギの新しい道ってなんなんでしょうかねー。え? そんな事言ってる場合じゃないって?
 そうですね。真のヒロイン大ピンチですもんね。

 というわけですので、あとがきなんてしている場合じゃないので、次回に続きます。



[6617] ネギえもん ─第30話─ エヴァルート18
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/04/07 21:30
初出 2012/04/01 以後修正

─第30話─




 大逆転裁判!!




──────




 歴代最高額の賞金首エヴァンジェリン。


 いまや伝説となったその賞金首は、今より15年ほど前に倒されたはずだった。
 しかしそれはまやかしで、先日発生したゲートポート破壊事件により、覆され、その生存が確認された。

 600万の賞金額はさらに増額され、歴代最高額をさらに更新し、世界中の賞金稼ぎがまた、その命を狙っている。


 だが、その首を欲しているのは、賞金稼ぎだけではない。


 ゲートを破壊された国々。
 その警備の信頼は、ゲートを破壊された事により、地に落ちた状態であった。

 世界をあげた大きな祭りという、表面上は仲良くしているかに見えても、その裏では、様々な思惑が交錯する。

 世界中の信頼を失墜させた伝説の吸血鬼エヴァンジェリンの討伐。


 それは、世界中が失った兵士達の強さを再認識させるのに、またとない獲物であった。


 そしてある時、メガロメセンブリアへ、一つの情報が入る。
 エヴァンジェリンが、ある場所に潜んでいるという情報が……


 たった一人の王が、我が娘に与えてやりたいと思った親心。
 その少年を、吸血鬼の魔の手から取り戻さんとした計画。


 それと、ある超大国の軍事的プライドと結びつき、一つのパフォーマンスへと駆り立てた……




──────




 祭りを目前としたある日。

 先日挨拶した新オスティア総督様のところへ王様と一緒に挨拶へ行く事になった。
 新オスティアで行われる祭りでの挨拶など、段取りなどへの打ち合わせや、その他もろもろのための準備と聞いていた。

 当初の予定だともっと後だったが、準備が早まったという事なので、素直についてきた。

 これも王子のお仕事だと聞いていたし、挨拶やそのあたりでトンチンカンな事をしゃべれば、評価はきっと下がるだろうと考えていたからだ。



 だが、そんな事関係なかった。



 新オスティアのはずれにある小さな空中庭園。


 そこに王と姫と俺。それに護衛のエヴァと王の護衛は通された。

 そこにいたのは、この新オスティアを統治する総督のクルト・ゲーテル。他付き人やメガロメセンブリアの兵士達。

 護衛の皆さんを庭に待たせ、俺達が一段高いところにある会談場所。庭園の東屋のような場所へと通された直後……


 エヴァンジェリンを取り囲むように、兵士が展開をはじめた。
 護衛の人が下がり、エヴァを囲むように、メガロメセンブリア兵達が、たった一人のエヴァを取り囲む。

 さらに、空中庭園の周囲には、巨大な空中戦艦が何隻も姿を現し、場を包囲してゆく。


 流石の俺も、事態を理解する。

 最も恐れていた事が起きてしまった。
 エヴァンジェリンの正体が、バレてしまったのだ……


「さあ、これでもう安心です王子。あなたの護衛という女、あれは、稀代の賞金首だったのですよ」


 バルコニーから身を乗り出し、下の空中庭園で一人囲まれる様子を見ていた俺に、その場を代表してか、ゲーテル総督が一歩前に出て、声をかけてきた。
 それは、俺をエヴァから救ってくれたかのような言葉だ。


「……あの人は、どうなる?」
 捕まればどうなるのかは大体想像がつく。
 だが、捕まっただけなら、なんとか出来るかもしれない……


「はい。この場で裁判を行い、そのまま刑を執行いたします。全世界にそのさまを公開して」


 にっこりと、笑顔で総督はそう言い放った。


「なっ……!?」


 総督が空を指差した。
 そこには、巨大な一室が浮かび上がる。


「今日の為に特別に用意された、特別公開裁判所です。この特殊裁判は、いつでもどこでもすぐに裁判を行い、そのまま刑を言い渡し執行する事が可能です。一度出された判決は、二度と覆りません。絶対にです。上級や最高などと、何度も上告する事もありません。一回で終わりです。この場で判決、即執行となります。先日メガロメセンブリア元老院議会で可決された特別なやり方ですよ」


 マジ、か……! なんだその無茶苦茶は!
 つまりそれって、エヴァを公開処刑するために作られたって事か!?


 てことは、かなり前からエヴァの正体がバレていたって事にもなる。


 いや、当たり前かもしれない。なにせ賞金をかけたのは、このメガロメセンブリアという国だ。
 ひょっとすると、俺達にもわからない方法で見つけられたのかもしれないが、それは今もうどうでもいい!(発見は王の所有する魔法の鏡である。一応)


「その数は一個師団! いかな伝説といえども、もう逃げられません。彼女はもう、おしまいです」
 総督が、さらなる絶望的を、俺に告げた。


 現実世界なら、こんな無法ありえない。だがここは、魔法が平然とまかり通る異世界。
 ドラゴンすら討伐しなければいけない事もあるこの世界に、現実世界の常識が通じないのもあたりまえだ。

 これはいわば、RPGなどでよく言われる、魔王の居場所がわかっているのに、なんで大軍を持ってせめこまねーの? を実際に実践したようなもの。

 圧倒的な正義をもって、伝説の賞金首『闇の福音』を叩き潰す……
 相手が『伝説』の吸血鬼なのだから、正当な理由にしか聞こえない。


 だが……!


「そこまでして、国家の力を証明したいんですか?」

 先日聞いた。ゲート破壊のおかげで、警備の信頼が落ちたと。
 それを払拭するには、確かに犯人を捕まえるのが有効だろう。


 出来るだけ派手に、出来るだけ人々の目の留まるところで。



 それが、伝説の賞金首であるのならなおさらだ……



「ええ。そうなのです。このような事もやれてしまうんですよ。この国ではね……」
 はき捨てるように言った。


 ……俺だけに見えた、総督のその顔。
 そこには、なにか大きな不満がくすぶっているように見えた……

 俺の気のせいだったのかもしれない。実際彼の顔色や表情に変化があったわけじゃない。
 なのに、こんな方法は、嫌いだと言っているように見えた……


「……総督」
「なにかね?」

「俺も、こんなやり方、嫌いだ。でも、今の俺じゃ止められない……」

「……その通りです。ですが、大丈夫。あなたが罪に問われる事は……」


 総督の後にいた兵が、俺を拘束するために、動きはじめようとする。
 ここはバルコニー。最初から逃げ場はない……


「だからってな! 恋人が無実の罪で裁かれようとしてるの、ただ見ていられるわけないだろうがー!」



 そう叫び、俺はとっさに、バルコニーの柵を飛び越え、途中に見えた突起に上着を引っ掛け衝撃を緩和&振り子の勢いで、横へ大ジャンプ!
 そのままエヴァを囲む兵士の頭、肩を飛び石にして、その場へと走っていった……




───クルト・ゲーテル───




「だからってな! 恋人が無実の罪で裁かれようとしてるの、ただ見ていられるわけないだろうがー!」


 直後彼は、バルコニーから飛び出した。


「なっ!?」
 誰もがそんな行動に出るとは予想していなかった。

 バルコニーへ走り、顔を出せば、途中にある突起に上着をひっかけ、それを反動に、庭園を囲む兵の頭までとび、その頭、肩を使い、器用にあの賞金首の元へとかけて行く。

 まるでそれは、一度その落下からの人間飛び石を経験した事があるような動きであった。
 まさに火事場の馬鹿力とも言える、驚きの運動能力だった。


「ゲーテル殿!」
 王が私に声を上げる。

 王の目的は、彼をあの吸血鬼から救い出すというもの。
 そのために、メガロメセンブリアへ、助けを求めてきた。

「ご安心を王。彼の安全は保証いたします!」
 いざという時は、彼を転移で引き離せばいい。

 転移が阻害されているとはいえ、こちらでコントロール出来るのだ。それくらいは出来る。
 ひとまず怪我をさせないよう、兵に指示を出す。躓かれては事が起きた時逆に危険だ。ひとまず行かせてしまってかまわないだろう。


 あの娘と彼の関係は、つかんでいる。
 ならば、この状況で彼を人質にするような愚かなまねはすまい。


 すでに、状況としては詰んでいるのだから。
 ここから逃げるなどという選択肢は、愚の骨頂であると、あのエヴァンジェリンという存在ならば、気づいているはずだから……


 そもそも、メガロメセンブリア元老院としては、あの少女が本物のエヴァンジェリンであろうがなかろうが、どうでもいいのだ。

 この公開討伐の目的は、ゲート事件によって地に落ちた、メガロメセンブリアの軍事的信頼の回復なのだから……

 ゲートが破壊されたという大失態。
 それを、その犯人を大々的に処刑する事で帳消しにしようとしているのだ。

 ゲートが破壊されたときよりも、より派手に。
 それよりも、強大なインパクトを持って。
 ゲートを破壊したその犯罪者が、全ての人々の前で断罪される。

 拳闘などという野蛮な興行が平然と成り立つこの世界なのだ。その討伐が人々に受けないはずがない。

 それが、伝説の『闇の福音』なのだから、さらにインパクトは大きい!


 わざわざ裁判を用意したのは、保険に他ならない。

 降伏せずに暴れた場合ならば、裁判などせず、そのまま処刑出来る。
 裁判などせず、ド派手な絵が取れ、メガロメセンブリア兵の強さを見せつけるショーがはじまるからだ。


 だが、戦力を見て、降伏された場合は、そのショーを行う事が出来ない。
 だから、特別に裁判を用意した。

 かつて、長い準備期間があったがため、録画が終わったのち奪還された災厄の魔王。その轍を踏まないため、生放送で即死刑の出来る茶番劇を作り上げたのだ。


 裁判での判決から即執行。


 ここで行われる裁判の結果はすでに決まりきっている。
 伝説の賞金首であり、ゲートを破壊した犯人。
 どれほど議論を重ねようと、極刑である死刑以外存在しないのだ。

 そのためにわざわざ用意された、全世界への公開裁判にして、公開処刑。
 そして得られるものは、祭りを前にした、軍事的信頼と、国家的アドバンテージ。
 『伝説』の吸血鬼を排除したという、新しい伝説の誕生。


 冤罪の可能性など関係ない。なぜなら、これを考えた者達は、これが元々冤罪であると、知っているから……


 ゆえに、共犯者である少女達などうでもいい。
 必要なのは、人々に、ゲートの事件は解決したと思わせる事。
 ゲート破壊の理由など、あとからいくらでもつけくわえる事が出来る。
 メガロメセンブリアの軍事力は、『伝説』すらあっさりと倒せると喧伝する事。そして、自分達の、利益!


 この茶番は、祭りを前にした、大失態の幕引きにすぎない。



 災厄の魔王と呼ばれた、一人の王を生贄に、虚偽と不正を守ったあの時と同じように……



 ……ままならないものですね。

 思わず、そう思う。

 王子に言われた、「あんた、このやり方あんまり好きそうじゃないね」という言葉。

 一瞬にじみ出た嫌悪が顔に出てしまったのであろうか?
 演技という面ならば、かなりの自信はあったのだが……


 政治の世界に入り、多くの無力を経験し、斜には構えてきたが、その心根はやはり変えられないようだ……


 王子の言葉と共に、思い出す。

 かつて災厄の魔王と呼ばれたあの人が、処刑された時を。
 あの人も、同じように濡れ衣をかけられ、捏造された挙句に処刑された。
 生きたまま、魔法も使えぬ谷の底に落とされ、魔獣に食わせるという、今回に勝るとも劣らない残酷な処刑方法で。


 処刑中秘密裏に救出されたが、その名誉はいまだ回復していない。
 いまだに災厄の魔王なと呼ばれ、蔑まれている。


 本当は、その王が世界の崩壊を食い止め、魔力喪失によって墜ちるオスティアの人々をぎりぎりまで助け続けたというのに……

 彼もまた、この大国の名誉を守るために生贄にされた。
 目の前で処刑されようとしているその少女は、それと同じだ。

 伝説の吸血鬼というが、それはすでに、ナギによって討伐され、その罪はすでに失われている。
 ゲートの事件も、私の手にいれた情報では、あの根拠となった映像は、捏造であった事もわかっている……


 なのに、私はそれを止める事は出来なかった。


 元老院の賛成多数によっての可決。
 公開裁判の許可……


 すべて、私個人の力だけでは、どうしようもなかった……


 あのような事を二度と起こさぬよう、彼女達。『赤き翼』と袂を分かち、この世界へと飛びこんだというのに。
 メガロメセンブリア元老院の虚偽と不正を正すために、奴等と同じ高さまでのぼりつめたというのに!



 結局やっている事は、私が彼女達を非難した事と、まるでかわりがないではないか!!



 私は……!
 どうして、ここに……!


 己が理想と現実の矛盾。



 クルトは、自分の見ているその光景に、ただ、己の無力さを思い知らされていた。




───ラカン───




 その中継は、唐突にはじまった。


 全世界への一斉生中継。
 一個師団に囲まれた空中庭園。その攻撃の矛先が向いているのは、たった一人の女。


 伝説の賞金首、エヴァンジェリン。


 その罪を、全ての者へ知らしめるための、公開処刑……


「それでは、特別公開裁判をはじめる。この裁判によって定められた判決は、いかなる条件を持っても覆す事は出来ず、何者も異議を唱える事は出来ない。そして、判決後、その刑は速やかに執行される事をここに宣言する……」

 この場での抵抗はせず、一度捕縛されるつもりであっただろうエヴァンジェリンに、焦りの色が一瞬見えた。
 当然だろう。この場を脱し、捕えられた他の場所ならば、脱出が可能かと考えていたのだろうから。

 この完全に準備されていた場では、逃げる事すら出来ないのだろうから。


「本当に、エヴァンジェリンのヤツ、こっちに来ていやがったんだな……」


 大人の姿へ偽装しているが、確かにあれは、エヴァンジェリンだ。
 このただのモニターからじゃわからねぇが、裁判員の奴等は、偽装認識阻害魔法で本当の姿を見ているんだろう。
 ネギの修行中、エヴァンジェリンが吸血鬼じゃなくなった事や、恋人が出来た事などは聞いていたが、まさか本当だとは。


「ど、どうしてこんな事に! いきなり処刑だなんておかしいですよ!」
 事態が飲みこめないネギが、混乱したように言う。それでも、状況は分析しているのは、成長した証か。


「こりゃあ、あれだな。ゲート事件をさっさと解決したいからだな。お前等みたいな小物は正直どうでもよくて、エヴァンジェリンという超大物を倒せば、なんとなーく解決した気になるって事だ」

「そんな……」

「そうすりゃ、祭りも安心というイメージがつくし、事件で失った信頼も回復する。祭りを前にした示威行為もかねてるな」


 それ以外に、理由なんていくらでもあるだろう。
 それらを今ここであげるのも馬鹿馬鹿しい。


「もう一つ言えば、ここで主犯を殺せば事件が解決するってすでにわかっているって可能性もあるぜ」

「僕達だってまだいるのにですか!?」

「なぜって、指名手配にしたのはあいつらなんだ。これが茶番だって知っていて当たり前だろう?」
「あー!」


 事を起こしたのはあいつらだが、指名手配したのはメガロメセンブリアの連中だ。
 なら、その賞金が茶番だって気づいていても不思議はない。

 そう。そもそもが捏造なのだ。
 その破壊の目的や理由なども、あとからどうにでもなる。


「じゃあ……」

「そ。判決だってもう決まったようなモンだよ。だからこんな無茶な方法も取れる」


 相手が『伝説』の吸血鬼エヴァンジェリンというのも大きい。
 万一濡れ衣だったと騒がれても、『闇の福音』討伐を理由にすりかえる事が出来る。


「にしても、この場で裁判して即執行とかおもしれー事考えるじゃねえか」

 思わず出る皮肉。


 ……あの時の奪還経験を生かしてるって事か?


 今から二十年近く前。18年だったか?
 あの時は、ナギの伴侶となる災厄の魔王を処刑する場で、そいつをぎりぎり救い出した事がある。
 あん時は、判決から執行まで二年という余裕があった。あいつらも色々と聞く事があったのだろうから、その期間なのだろうが、そのおかげでこちらも相応の準備が出来た。

 だが、それでも命を救うので精一杯だった。
 俺達『赤き翼』ですら、名誉を捨て、ナギの伴侶の命を助けるので精一杯だったのだ。


 今は、その状況よりさらに悪い。
 悪すぎる。


 これは世界生中継の上、準備もさせてもらえない。
 あん時は俺等の存在を知らない二個艦隊の護衛と3000人の精鋭だったが、今回は準備に準備を重ねた一個師団。
 時間も足りなければ戦力も足りない。ないないないずくしと絶望的な状況だ。

 自分達のいる位置も悪い。
 ここからではあの場所はまだ遠すぎるし、魔法での転移などは当然妨害されるだろう。あれを奪還に動いたりすれば、それこそ祭りどころではない騒ぎになる。


 ガキどもには荷が勝ちすぎている。


 ここであいつを助けるという事は、この魔法世界すべてを敵に回すという事なのだから。
 それは、エヴァンジェリンもわかっているだろう。

 だからこそ、一度捕まろうと考えたはずだ。
 だが、予想外の即裁判即執行……


 俺達にやられた経験、生かしすぎだろう。メガロメセンブリア元老院のヤロウども……



「……こりゃあ、いよいよあいつも年貢の納め時か」



 人間の敵は人間。とは言ったもんだな……



「くそっ! どーにかならへんのか!」

「そーだよあんた、世界最強なんだろ! どうにかならねーのか!?」
 犬耳を生やした嬢ちゃんが地面を踏みつけ、どこで聞きつけたのか、俺を最強と知るメガネをかけたメイド服の嬢ちゃんが、俺につかみかかってきた。


「……その気になりゃぁ、戦って勝てるかもしれねぇ。俺なら、負けはしねぇな」
 俺でも、かなり厳しいがな……


「そ、そうなのか。なら……」

「だが、そのあとどーすんだ? 魔法世界からは逃げられねぇ。その上今度はマジで追いはじめるぞ。末端のお前達もふくめてだ」

 この、今はその末端を狙わない。というのも一つの材料だ。これで、アイツはさらに逃げられない……
 まさにあの場は、アイツを殺すためだけに用意された、最悪の処刑場だ。


「うっ……」
 この嬢ちゃんは頭の回転が速そうだ。
 それだけで、次どうなるのかが理解出来たのだろう。


「アイツは頭がいい。そのあたりまで考えちまって、多分そのままだ」


 嬢ちゃんはそのまま押し黙った……


「にーちゃん! にーちゃんはそれで……」
 勢いよく俺の後ろへ言葉を投げた犬耳の嬢ちゃんの言葉が止まる。


 何事かと俺も振り返れば……

「ん?」

 ……そこに、準備体操をする黒髪の少年がいた。


 屈伸をし、アキレス腱を伸ばしている。


「なに、しとるん?」

「なにって、準備体操」

「そんなん見りゃわかるて!」

「まさか……」
 メガネメイドの嬢ちゃんが、信じられんという声を上げた。

「そ。ちょっと行ってくる」


 ……そいつは、あっけらかんと、信じられない事を言ってのけやがった。


「超君、あれ貸して」
 あれとは、こんな事もあろうかとあのお団子メイド娘が作ってきたという転移用スイッチだそうだ。


「……ホンキかネ? 確かに、アレはワープだから、その技術を持たない魔法使いには邪魔も、感知もされないネ」
 俺は知らねー事だったが、なんでも宇宙人の技術で、あのコノエモンにすら探知できない転移なんだとかな。


「本気も本気の大本気。幸い、ダンプに轢かれても耐えられる体手に入れた事だし」
 そう、笑いながら、その男は、闇色が混ざった赤いスーツを装着した。


 闇の魔法を纏う事により、身体能力が格段に上がるソレ。
 確かにそれを着こめば、俺の一撃くらいにも耐えられるようになっただろう。


 だが……



「……行けば、死ぬヨ」


 お団子頭のメイド少女が、告げる。
 それに関しては、俺も同意見だ……

 生きて帰れる見こみは万に一つもねぇ。それこそ、0だ。


「かもね。でもさ、恋人が無実の罪で裁かれるってのに、俺がただ見ているってわけにはいかないだろ?」

 男は、悲壮感の欠片もなく、そう言ってのけた。


「……わけぇなぁ。おばちゃんびっくりだ。って誰がおばちゃんだー!」
「自分で言ったんじゃねーか」
 ここでのつっこみ担当はこのメガネメイドちゃんか。

「はっはっは」
 こいつは、俺のつまんねーネタにも笑った。この状況で、笑いやがった……
 ダメだこいつ。言ってとまるようなヤツじゃねぇ。


「……とめはしねーぞ。骨も拾ってやらん」
 文字通り、骨も残らんだろうしな……

「それでいいよ。ただ、万一俺が戻ってこなかったら、彼女達の事頼んだよ」

「それくらいは引き受けてやるよ」
 お前のたむけにな……


「じゃあちょっと、行ってくるぜ!」
 そう言い、その男は、一瞬にしてこの場から消えた。

 ぐっとボタンを押しこんだ瞬間、どがぁんとなにかに轢かれたような音だけを残し……



 直後現れたのは、あの中継会場。


 死刑の確定した、処刑会場だ……




──────




 ……やっべぇ。超怖ええ。

 モニターに映る状況から、絶望的な状況が読み取れる。

 一個師団てなんだよ一個師団て。どんだけ戦力持ってきてんだよ。
 たった一人にドンだけの兵力つぎこんでんだよ。
 どれだけ本気なんだよメガロメセンブリア。

 それってつまり、なにがなんでもエヴァンジェリンを殺して、ゲートの主犯として祭り上げたいって事なんだろ。


 絶対死刑……


 不安でこのまま押しつぶされてしまいそうだ。
 余裕はない。顔が強張る。
 泣き出しそうだ。逆に、思わず笑みをこぼしてしまうほどに。

 逃げ出したいし泣き出したいし転がりまわりたい。
 体を動かしていないと、実際やってしまいそうだ。

 だが、俺よりもっと絶望的な立場に立たされているヤツがいる。


 この世界で、今、たった一人の味方もいないヤツがいる。


 なら、ダンプに轢かれる程度の衝撃がなんだ。
 何万人もの兵士を前にするのがなんだ。


 俺にはわかる。
 アイツは今、助けての一言も言わずに、他人の事を考えて、あそこで死を選ぼうとしているんだ!
 せめてネギ達に余計な罪はおよばないようにと……!


 そんな優しくて愛しいお姫様を、俺がほおっておけるかよ!
 どんなへたれだって、立ちあがらなきゃいけない時がある!
 勇気ってのは、こんな時の為にあるんだろう!!


 今俺が行かずして、誰が行くっていうんだよ!

 アイツの絶対の味方が行かないで、どうするってんだ!


 だから、ちょっと行ってくるぜ!


 絶対帰ってくるとは言えないけどな。

 スーツを着こみ、ワープのスイッチを入れる。



 とんでもない衝撃と音を聞きながら、俺は空間の壁を超え、そこへと転がりこんだ。




───フェイト───




 世界同時中継となったその放送を、いまだ氷漬けのデュナミスと見ていた。


「さすがの彼も、これで終わりだね」

「……こうなってはしかたがあるまいな」


 自分達が陥れた一端を担ったとはいえ、人間とは本当に愚かしいところがある。
 世界で唯一僕達に対抗出来うる可能性を秘めた者を、みずからの手で処刑しようとしているのだから。


「しかしまさか、あの状況にみずからとびこんで行くとは……」
 デュナミスが、残念そうに言葉を吐いた。

 かの『サウザンドマスター』とて、伴侶となる災厄の魔王の裁判には手出し出来なかった。
 処刑のどさくさに、処刑されたとして命を救うのが精一杯であったあの状況。


 今回の公開裁判、即執行はそれすら許さないために作られた状況だ。


 それ以上の事がやれない限り、この刑を免れる事は不可能だろう。

 だが、今の彼に、そんな事を引き起こす力はない。
 我等の主から逃れるため、力を封じてしまったからだ。


 彼がいなくなる事は、我等の主のヨリシロが一つなくなる事を意味するが、それはしかたがない。


「……」
 その時僕は、そのヨリシロが、消えてしまう事に、どこか安堵を覚えている事に気づいた。


 これは、計画の邪魔をされなくなるという意味だろうか?
 それとも、主の復活がなくなる事。という意味だろうか……?


 ……いや、今はいい。


 これで、彼の死は決まったようなものだから。
 なんの後ろ盾もない彼に、この政治的な決断を覆せるはずもない。
 個人の力で世界の流れを覆せないのは、かの『サウザンドマスター』が証明している。


 今力すら失っているあの男には、なお不可能の事だ。


 それなのに……


 どうしてこうも、僕の心をざわつかせる。



 なにかするんじゃないかと、なぜ僕は、不安になる……!




───エヴァンジェリン───




 ……狙いは、私か。


 ならいい。彼が、狙いでないのなら、それでいい。


 兵に囲まれ、最初に思ったのは、そんな事だった。



 周囲に異常な量の兵士が配置されていたのは気づいたのは、この庭園に足を踏み入れてからだった。
 ここまで私に気づかせなかったという事は、相当の準備を整えての計画という事になる……


 完全に私一人を狙った罠。


 いつ私の正体がばれていたのかはわからない。
 直接変身解除を見られない限りはありえない話だ。
 だが、そんな記憶はない。見られるような間抜けをした覚えもない。

 ならば、なんらかの偶然が重なったのだろう。
 例えば、魔法の鏡などによる、正体の看破……


 周囲には、32重の包囲網。
 空間転移封じの魔法陣に、外からの転移妨害の陣までも敷かれている。

 空中庭園に配置された兵は、メガロメセンブリアの重装魔法装甲兵。私の魔法への対抗策をたんとしたためた結界用の盾と壁になるつもりか……

 さらに周囲には、鬼神兵すら幾重にも配置している。私への力対策も万全という事だな。


 そして動きを封じた直後、周囲に浮かぶ戦艦とそれが、私を一斉に狙うというわけか。


 最も近い東屋には、当然、障壁とて準備してあるはずだ。
 あの東屋さえも移動するやもしれん。
 さらにあの神鳴流を使える剣士(総督)がいる。
 私が近づこうとすれば、それで迎撃する手はずなのだろう。

 それゆえに、あの総督が我々の窓口となったというわけか。
 一度顔もあわせているゆえ、我々も油断する……


 存在する兵力はざっと見て一個師団。
 『伝説』を相手に舐めて戦力をケチっているわけでもない。むしろあまるほど投入する気概で用意してあるようだ。

 準備は十分にしてあるという事か。
 私のいた小国ではなく、異国の、しかも祭りの式典の準備という名目で兵を集めても不思議はないメガロメセンブリアという大国によって。



 逃がす気も死んだふりなどをさせる気もない、完全に私を抹殺するつもりの布陣だな。



 私は確かに最強の魔法使いの一角かもしれない。
 しかし、それを凌駕するほどの物量と、張りめぐらされた計略を前に、たった一人でこの状況を打破する事などは、不可能であった。

 この包囲を抜け出すには、奴等も思い浮かばない方法をとるしかない。
 例えば、かつて学園にて全ての魔法使いの意表をついた、鉄人兵団が用いたワープ。
 それならば、まったく彼等の及ばない技術ならば、彼等に察知される事もなく脱出が出来るだろう。

 もしくは、時を止められれば、包囲などないがのごとく歩いて脱出する事も出来る。
 だが、そのようなものは今ない。

 あの完璧に私をコピーする『コピーロボット』が今手元にあれば、死んだフリも可能だったかもしれないが、彼に渡し、手元にはない。ないモノをねだっても仕方がない……

 エヴァンジェリンは知らないが、この世界に存在する創造主の鍵があれば、同様にその魔法艦隊の力を無力化し、脱出も可能ではある。
 が、当然そのようなものをエヴァが持ち合わせているはずもない。



 これは、詰んだな。



 ……だが、人間の世界は法の世界でもある。

 抵抗しないのならば、この場で私を殺す事は出来ない。
 ならば、護送中、檻の中、処刑の瞬間。

 どこまでも脱出のチャンスはある。
 この場では、彼も居て不利だが、生きていれば逃げ出すチャンスなどいくらでもあろう……


 周囲を見回し、私は抵抗の意思はないと両手をあげた。



「それでは、この場で、特別公開裁判をはじめる……」

 その言葉に、私はまず、耳を疑った……



「この裁判によって定められた判決は、いかなる条件を持っても覆す事は出来ず、何者も異議を唱える事は出来ない。そして、判決後、その刑は速やかに執行される事をここに宣言する……」
 庭園の正面に現れた、特別裁判長が、私を見据え、そう言った。


「……」
 そして、理解する。

 奴等は、私をこの場で抹殺するために、必要なすべてをここに運んできたのだ。
 ゲート事件は収束したと、世に知らしめるために……
 私という悪を、正義の名のもとに断罪するために……


 確かに、私の過去起こしてきた事を見れば、その罪は極刑以外にないだろう。
 ゲート破壊の濡れ衣一つをとっても、十分な罪だ。
 そこに、わざわざ審議をする余地も少ない。

 だからといって、全ての過程を吹き飛ばし、私に死刑という判決を突きつけるためだけに用意された、この方法は、あまりにも無慈悲で、無法だった……!



 ……やはり私は、悪の魔法使いなのだな。



 どれほど光を求めようと、光に包まれようとやはり、人は私を悪と見る。
 当然だろう……

 それほどの罪を引き起こしてきた真祖の吸血鬼なのだから……
 600年の業を抱えた、大悪人なのだから……
 その存在こそが、『悪』なのだから……



 そんな私が、光を求めてよいはずなどなかったのだ。



 思い知らされる。
 過去から伸びたこの影を……

 思い知らされる。
 自分は、彼とは決して歩めない存在なのだと……


 ……ならば、私はより悪となろう。
 この場での処刑が免れぬというのなら、ネギやあのクラスメイト達の罪は私が持っていこう。

 共に賞金をかけられた少女達の罪は、なかったと私が証言し、あの賞金を無意味とさせよう。
 どうせ、私がゲートを襲った理由など、適当にでっちあげるのだろう? ならば、奴等に都合の良い話をすれば、こちらの話も、少しは通るはず。


 それが、私に出来る、最後の悪だ……


「……そして最後に、ゲートボート破壊事件。以上が、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの引き起こした事に、相違ないか?」


 罪状を読み上げる裁判員が、私を見る。


 私は、それにそのまま……



「いぎありいぃぃぃ!」



 うなずこうとしたその瞬間。兵士達の垣根を踏みこえ、空間の壁をこえ、やってくる者がいた……




──────




 メガロメセンブリア重装魔導装甲兵の頭を飛び石のように渡り、ぽっかりと開いたエヴァンジェリンの周りに、その少年は着地した。

 さらにもう一つ。彼女を挟みこむように、なにもない空中から、この天空の庭へものすごい勢いで吐き出され、転がった少年。
 勢いよく転がったが、すぐ体勢を立て直し、その二つの足で、庭園の大地を踏みしめる。

 踏みしめたその衝撃で、少年の纏うスーツ付属のヘルメットが、光と共に砕け散り、ベルトにもひびが入る。
 ダンプに轢かれる程の衝撃を吸収した結果、それが砕け、必殺に必要なベルトも傷ついたのだ。



 着地し、顔を上げたその少年達の、その二つの双眸が、エヴァンジェリンを捉える。



 突然現れた同じ二つの存在に、場を囲むものは、あまりの事に驚き、思考停止してしまった。
 一方はともかく、突然空中に現れた存在は、この場を取り囲んだ者として、ありえなかったからだ。


 転移妨害の陣を引いているというのに、そこへ平然と転移して現れたからだ。


 なにより、その場に現れたのは、まったく同じ顔をした少年だった。
 双子ではない。双子以上にそっくりな少年達が、まったく同じ歩幅で、その中心に存在する少女の下へと歩み寄って行くのだ。

 それはまるで、幻でも見ているかのようだった。


「「異議ありだ裁判長!」」
 二人の、いや、一人の声が、重なる。


「……法廷に乱入するとは、なにものぞ? 関係者以外は、退場を命ずる」

 空中庭園に展開された、特別裁判の裁判長が、木槌を叩き、その存在を問う。
 関係者でないと判断されれば、裁判転移で強制退場されるのだ。クルトの狙いも、それである。


 つかつかと中心に歩み寄りながら、少年は言葉をつむぐ。


「「関係者以外? なら、安心しろよ……」」


 その同じ顔をした少年は、エヴァンジェリンの前に立つ。


「「俺達は、いや、俺は、こいつの共犯者。むしろ、俺が主犯だ。なにせゲートポートをぶっ壊したのは、俺だからな!」」

 二人が同じ言葉を吐き、同じ動作で、だが、鏡合わせのように、一方は右手で、もう一方は左手の親指で、自身を指差した!



 全世界に、衝撃が、走り抜ける……



「……あぁ」
 それを、バルコニーから見ていた姫が、ふらりと倒れた。
 あまりの事に、気を失ってしまったのだ。

「なななななあぁ!?」
 姫を思わず受け止めたが、開いた口がふさがらないのは、王だ。

「これでは、もう……」
 クルトも、言葉もない。
 さすがに、これでは安全を保証する事は、不可能になった……

 それは、誰もが信じられない言葉だった。

 その場に現れ、そのような事を言えば、どうなるのか。
 あのままならば、催眠術や魔法で操られていたとどうにでもつくろえた。
 だが、自分が主犯であると言っては、それは通じない。

 自分の意思で言ってしまっては、もうどうしようもない!
 これは、裁判なのだ。公開されているのだ。そこに、自身の意思で、偽りなくソレを言えばどうなるか。
 魔法のあるこの世界で、それを行うのが、どういう意味なのか、わかっているはずだ。
 この状況が、どんなモノなのか、理解していたはずだ!
 そうなれば、どうなってしまうのかわかっているはずだ!


 どんな馬鹿にでもわかるはずだ……


 なのに……!!



「それともう一つ! 『闇の福音』は『サウザンドマスター』ナギの手により極東の地により死んだ! ここにいるのはただの少女! 闇に堕ちず、吸血鬼でもない。悪を背負わされ生き続けてきた少女なんかじゃない! 人違いだ!」
 スーツの少年が、吼えた。


「大体勝手な捏造で、一人の女を不幸にしようとするな! ここにいる女はな、いずれ世界で一番幸せになる女なんだぞ! 俺がこれからもっと幸せにする女だ! 『闇の福音』とは、別人なんだよ!」
 王子の少年も、吼えた。


「「なにが言いたいのかと言えば、エヴァンジェリンは、俺の嫁!!」」
 そして同時に、主張した。


「……」
 しーん。
 少年の言葉に、音が一度、止まる……


「「言った。言ってやったぜ。これでもう、後戻りは出来ないな!」」
 少年二人は、同時に自分達へ向け、天へと親指を立てた。

「後戻りじゃないこのアホ! 違うぞ! あれは全部私だ! 私がやったんだ! 主犯は私で、こいつも、それ以外の奴等も全部私に操られただけだ。そういう事だ!」

 エヴァンジェリンの悲痛な叫びが響く。


 だが……



「……よろしい。関係者と認める。以後、両名をゲート破壊事件犯人として、審判を続ける」



 その願いは、聞き入れられる事はない。


「「うっし!」」
 二人の少年は、思わずガッツポーズ。

「ああああ、アホかあぁぁぁぁぁ! お前、なにをしたかわかっているのか!? 結果、どうなるのかわかっているのか!?」


「「……わかっているよ。でも、お前の知る俺は、こんなところで、お前一人をほおっておけると思うのか?」」
 少女に向けられるのは、優しい笑顔……


「……」
 少女の答えは、泣きそうな顔をして、唇をつぐんでの、無言。



 それが、全てを物語っていた……



「……であり、……が、である……」
 そして、彼等の背後では、彼等に言い分をまったく聞かない審議が、進んでいる。



「お前の事なら、なんでもお見通しなんだよ」
「いらない罪まで認めて、ネギ達の安全を考えたとか」
「このまま処刑されれば、俺に迷惑はかからないとか」
「自分は悪い魔法使いなんだから、当然の報いなんだとか」


 二人で一人の少年が、口々にエヴァンジェリンの思っていた事を言い当ててゆく。


「「そして、本当は、俺が来る事を、信じていたとか」」
 最後に、また、一人の言葉が、重なった。
 ずっと考えようとせず、我慢していた想いすら……


「馬鹿だ。お前は、本当に、馬鹿だ……」
 エヴァンジェリンの瞳に、涙がにじんだ。


 嬉しかった。
 来てくれた事は、本当に、嬉しかった……


 だが、来て欲しくはなかった。


 来ればあなたも、確実に死ぬ事になるから……


 なぜ来てしまったの?
 理由は、わかっている……
 なぜ、そこまでしてくれるの?
 理由は、知っている……


 こんな時なのに、私は、これほどまでに、あなたに愛されている……


 これほど嬉しい事はないのに。
 これほど、悲しい事もない……


 ただ、あなたと一緒に死ねるというのは、悪くない……
 絶望の中、唯一残った光は、共にいられるという事だけ。


 そんな、絶望の、光だけ……


「……だが、どうする気だ? このままでは、私もお前も、極刑以外にありえんぞ」
 心の中を悟られまいと、強がりを口にする。

「……そうだな。正直、それはそれで、お前と一緒なら悪くない気もする」
「だよな。ある意味究極の愛って感じだよな」
 一方が言い、一方が肯定する。


 また、心を読まれていた……


「「でもよ、エヴァンジェリン。お前は、それでいいのか?」」
「……よいわけ、ないだろう」
 だが、この状況で、それを覆せるはずがない。


 この判決はすでに決まっている。
 こんな裁判など、名ばかりで、ただの茶番に過ぎない。

 審議も弁護もない。ただ、私に有罪と死刑を突きつけるだけの、ただの手続き。
 この場で処刑を行うための、たんなる建前……


 万一、彼の力が戻っても、それは同じだ。
 戦って勝つ事は出来ても、この場から逃げ出す事が出来ても、この判決を覆す事は出来ない。


 一生の追われ者が、二人に増えるだけだ……
 あなたまで、闇の中に生きる事になってしまう……

 この影の中に、彼を引きずりこんでしまう……



 そんな事、許せるはずがなかった……



 だが、そんな決められた流れを覆すのは、いくらあなたでも不可能だ。

 『悪』が、『正義』の勝利を覆す事など、ありえないのだから……!



 絶体絶命。
 不回避の死。
 そんな、絶望の闇。


 なのに……


 なのに、彼は……


「「ああ。俺もよいとは思わない。だから、二人でここから、無罪放免で帰るぞ」」


 ……その全てを、否定した。

 臆面もなく、彼は、そう言ったのだ。
 いつもと同じく、堂々と。自信満々で。はっきりと、きっぱりと。


 ここから無罪で帰る。
 そんな事は不可能だ。
 それは、私の闇を全部消して、私の罪も、その業も、すべて許されなければならない。
 私の過去が、すべて許されなければならない……!
 絶対に、不可能だ。



 ならば私は……



 私は……




 それを。あなたの言葉を、信じるしかないだろう……!!




 だんだん!
 裁判長の木槌が、この場に響き渡った。


「……判決を言い渡す」



 一方的な審議も終わり、どうやら、終わりの時が来たようだ……





──────




「……なあ、俺」
「なんだ、俺」
 王子の俺が、スーツの俺に言う。

「やっぱ、来てくれたな」
「当たり前だろ。だって俺は、お前なんだから……」



 それは、二つにわかれたとしても、どちらも揺らぐ事なく、一人の少女を想い続けた結果だった。



 そして、スーツの俺が、王子の俺に言う。
「怖かったか?」
「ああ」
「だよな」
「当然だ」



 それは、恐ろしいと感じても、どちらも勇気を振り絞る事が出来た結果だった。



「じゃあよ」
「ああよ」

「「ここから、大逆転といこうぜ」」



 元は一人の少年が、拳と拳をぶつけあわせる。



 本能的に、気づいていたのかもしれない。
 こうなれば、元に戻れると、うすうすは感じていたのかもしれない。

 だが、その場に二人がそろうまで、彼はそれを認識していなかった。
 そのような認識などなく、ただ愛する人の為に、恐怖を勇気で踏み潰し、彼はこの場に現た。
 愛する人を、一人にさせまいと、揺ぎ無い想いを持っていたがために、全ての彼は、そこに現れた。


 ゆえに、この結果は生まれた……


 二人がそろってはじめて、気づいた。

 そうすれば、戻れると。
 体が、教えてくれた。
 本能が、確信させた。


 しかし理性が訴える。その後のリスクを……


 だが、そんなリスク関係ない。
 世界を滅ぼす可能性なんて、関係ない。

 一人の好きな女も救えないのに、世界の事なんて、考えていられるか!
 好きな女一人救えない力に、意味なんてあるか!
 ならば、好きな女を救ったあと、当然のように世界も救ってやる!



 だから、戻るぞ、俺!



 同じ想いをもって、半身と半身の手が、はじめて触れた、その瞬間……


『ウルトラミキサー』
 俺の頭に、その名が浮かんだ。

 それは、二つのものを、一つに融合させる『道具』
 生物だろうが、無生物だろうが、二つのモノを、一つに融合させてしまう。
 生物を融合させると意識が二つに一つの生き物が出来るが、同じ人物ならば、問題はない!


 二人だった姿を光が包み、二人だった少年が、ひとつに戻る。

 右に王子、左にスーツの姿だが、スーツの姿が消えるのと同時に、その服装は、王子のそれに戻る。
 本来ならば、その半分はスーツを着ていた服になってもおかしくはない。が、そこは、スーツが空気を読んで服の変換を変えたのだろう。


 しかし次の瞬間。

 俺の体の奥底へ、なにかが忍び寄ってくるのがわかった。


 『闇』がはいずりよってくる感覚。
 心の中で、なにかがうごめくあの感覚。
 学園で感じ、あのゲートで感じた、アレだ。



 きや、がったな!

 だがな。今お前にかまっている暇はないんだよ!


 今は世界より、なにより、好きな人の一生がかかってんだ!
 てめぇとの心の駆け引きなんざに、つきあってやる理由がねぇんだ!



 だから!



 今はひっこんでろ!!



 一喝。
 それはまさに、一喝であった。


 次の瞬間、その這いずり現れた『闇』は、霧散する。
 それは、俺の中から、はじき出されていた。



 せまり来た『闇』を振り払い。俺はゆっくりと、そのまぶたを開く。



「判決!」



 そして、その手は、みずからの服のポケットへと導かれる。
 その瞬間にあわせ、俺は懐から。『四次元ポケット』から、あるパスポートを取り出し、高く掲げた。




──────




 この世界にいる者全てが、その裁判の行く末を見守っていた。


 突然現れた二人の少年。
 それが、『闇の福音』であるエヴァンジェリンをかばい、みずからが犯人だと言い出し、さらにはそのエヴァンジェリンを嫁だと言いはじめたのだから。

 その少年は、二人いるはずなのに、一人の少年がいるようにしか、見えなかった……
 たった一人の少年が、その場に現れたとしか、思えなかった……!


 それを見るものは、全員が、この少年を愚かだと思った。
 なにを好き好んで、伝説の賞金首に味方するのかと。

 絶対の死刑が決まっているのに、なぜ、自分も自分もと、首を差し出すのかと。

 誰にも、理解は出来なかった……
 だが、そこまで出来る少年のその愛に、ほんの少しだけ、憧れた……
 そこまで行動を共にしてくれる者がいるエヴァンジェリンに、少しだけ、同情した……



「これで、我等の地位も安泰ですな……」
「まったくですな……」
 メガロメセンブリア元老院議会。
 今回の一件の黒幕にして、ネギの村を襲った悪魔の召喚を指示した者達も所属し、その地位のため、ナギの伴侶へ罪をきせた者達の集まり。
 そこで、この茶番の中継も行われていた。彼等が仕掛けた茶番なのだから、当然でもある。

 少年の出現は、一瞬何事かと思わせたが、なんの事もない。ただの自殺志願者であった。
 ならば共に処刑してやればいい。王子? そんなものは関係ない。情報を持ってきた程度の小国の者が死にたいと言ってきたのだ、その願い、かなえてやった方が本望であろう。そもそも勝手に飛びこんだのだ。我々の責任ではない。
 そう判断し、彼等は安堵し、この自分達の地位を約束させるためのこの茶番。それを議会という特等席で、見守っていた。

 判決で死刑が出れば、あれも本気で抵抗をはじめるだろう。おとなしく殺されてしまっても困る。そうでなくては、これだけの戦力を集めた意味がない。
 そのために、このような茶番を準備したのだから。
 派手なショーと共に、圧倒的なパワーと統率力で、最強種にして伝説の吸血鬼を打ち倒し、人々の不安を取り除く。我等の力は世界に示され、そこに生まれるのは、新しい栄光のメガロメセンブリア伝説。
 あの忌まわしい『赤き翼』の伝説も吹き飛ばし、今度こそ我等が牛耳るこの国が、我々が世界のナンバーワンとなるのだ!

「ふふ、ふふふ」
 なんとも素晴らしい。すばらしいぞ!
 バラ色の未来を夢想し、老人達はそのショーのクライマックスを、今か今かと待ち構える。



 カメラは、判決を言い渡す裁判長を映し、モニターを見上げる全ての人は、その木槌の行方に注目した。

 判決の結果を知る者は、彼等に注目した。
 判決が出た直後、一斉に攻撃する手はずだからだ。

 死刑と言い渡された瞬間。その標的を撃ち抜く予定だから。

 裁判長と裁判員は当然、被告を見て、裁判を下す。それが例え、すでに決められた判決であったとしても。



 だんだん!
 木槌の音が世界に響き、判決が言い渡されようとしていた。



「……」
 クルトは思わず、その判決から眼を背けた。
 思い出してしまったからだ。覆らなかった、あの人の汚名を。

 今度は回避出来ない悲劇を、見たくなかったからだ……

 理不尽なものだ。
 あの日、20年前の判決の時を思い出す。
 あの時もまた、人の悪意に彼女達は無力だった。
 そして、今また、私は無力だ。

 あの無力を覆すためこの世界に入ったというのに、結局自分も、それを変える事は出来なかった……



 ネギ達はただ、両手を握り、祈るしか出来なかった。
 世界各地に散らばった、この二人を知る少女達も、祈るしか出来なかった。
 無力でしかない彼女達は、ただ、祈るしか出来なかった……

 その祈りは……







「判決!」





















『無罪!!!』












 世界の音が、止まった。



「被告人は吸血鬼ではなく人間であり、そのどちらもあの場でゲートを破壊した人物とは言えない。なにより、その者がエヴァンジェリンであったとしても、『闇の福音』はすでに討伐されている! その罪はすでになく、賞金首と設定するのは不当である! よって、両名無罪である!」



 それは、誰もが予想だにしなかった判決であった。



 クルトがその判決を聞き、なぜか思わずメガネを外し、レンズを拭き、もう一度見る。

「……」


 もう一回やった。


「って、えええぇぇぇぇぇぇ!!?」



 中継を見ていたすべての人が、同じように、その判決に、目を、耳を、自分の頭を疑った。
 だが、そこにあるのは、無罪。


 絶対的無罪判決!!



「なっ、なにが、おきた……?」
 混乱するのはクルトである。
 バルコニーに駆け寄り、周囲の兵士達を見ると、この判決を至極当然のように受け止めている。
 裁判員全員も、満場一致で無罪にうなずいている。


 あのエヴァンジェリンを、全員許して認めて無罪と判断しているのだ!


 この特別裁判の結果は、二度と覆らない。我々がそう、決めたのだから。
 つまり、ゲート破壊事件の罪も、エヴァンジェリンの今までの罪も、すべて、無罪。

 決して覆らぬと宣言したこの場で、彼女の罪は公式になかったと、認めたのだ。


 そう。これ以後、エヴァンジェリンが賞金首として狙われるいわれは、一切存在しなくなったのだ!



 いや、そんな事はどうでもいい。
 この裁判は、結果が最初から決まっていたはずだ。

 絶対に覆らない死刑だったはずだ!


 それなのに、なぜ、判決が無罪なのだ!!



 だが、判決に不服のある兵士は誰も居ない。
 攻撃するために彼等を見て、待ち構えていた兵士達はすべて、納得して槍を収めてしまっている!

 無罪と言われた直後、周囲を取り囲んでいた兵士は槍を引き、戦艦は場を離れはじめている。


 その無罪が、当然のように、受け入れられている!!



 同様に、モニターで裁判長の判決を見ていた者達は、混乱する。

 まさかの逆転無罪。
 それは、誰もが予測していなかった判決だったから。



 ただ、飛び上がって喜ぶ少女達の姿が、世界のあちこちで見かけられた。
 ……祈りは、通じたのだ。




──────




「さ、これで俺もお前も、完全に無罪だ。今までの罪は、ぜーんぶもう罪に問えない。これでお前は、晴れて自由の身だ。彼等が自分でそう決めたんだから」

 呆然とするエヴァンジェリンに、一人に戻った少年が、そう笑顔で告げる。


「な、なにが、なにが起きた……? なにが、起きたの?」
 ぺたんと座り込み、呆然と、言葉を返す少女。その姿は、驚きのあまり、擬態すら解けてしまっている……
 信じるとは言ったが、実際に起きてみれば、その身を襲う衝撃と安堵は、計りしれないものがあったからだ。

 理解が追いつかないまま、目の前に居る、一人に戻った少年を、見上げるしかない。

「あまりの事に、口調がちょっと女の子になってるぞ。お前だけには教えてやるよ」

 彼はそう言い、判決が出る直前取り出した一冊のパスポートをエヴァンジェリンに見せた。



『悪魔のパスポート』
 表紙には悪魔の顔のシルエットが描かれ、「PASSPORT OF SATAN」と表記があるパスポート状の道具。
 その力は、万能の免罪符。
 このパスポートを提示すれば、小はカンニングから大は殺人、強盗などの凶悪犯罪に至るまで、どんな悪事も、まったく免罪されるという恐ろしい道具。
 どのような犯罪も、これを見せるだけで、その罪が許され、なかった事にされるというモノなのだ。
 すなわち、これがあれば、どのような犯罪も許されてしまう、まさに悪魔の道具なのである!


 ゆえに、彼等を注視していた裁判官や兵士達は、彼女達を無罪として許したのだ!!
 『悪』が、『正義』の勝利を覆したのだ!



「それを使えば、なんでも、許されるというのか……?」
「そ。本当は絶対に使いたくなかったんだけど、今回ばっかりはそんな事言っていられなかったからな」


 絶対に使いたくなかった手段を使ってまで、彼は、私を……


「おい……」
 その瞳に、なにかが溢れてくるのを、エヴァンジェリンは感じていた。

「……今はやめろ」

 彼が、困ったように、私へ告げる。


「……むり……」


「頼むから泣くな。泣くのは結婚式にしてくれ。今はまだ、道の途中なんだ。こんなどーでもいいところで、泣かないでくれ」


「……うぅ。そんなの、無理にきまっているだろうがぁ」

 どうでもいいなんて言えるレベルの事じゃないだろうがぁ。
 今、私は、真の意味でただのエヴァンジェリンになったんだぞぉ。


 吸血鬼の闇も、その業も、すべてあなたに消し飛ばされたんだぞ……
 これから堂々と、光の中を歩けるようになったんだぞ……


 助かったんだぞ。絶体絶命の命の危機から。
 許されたんだぞ。すべての過去が……
 救われたんだぞ。あなたというヒーローのおかげで。
 本当に力が戻るのかもわからないのに、命の危険も顧みず、現れた、あなたのおかげで……

 しかも、みずからが禁忌とした力さえ使って……


 これほどの愛を。これほどの喜びを。これほどの幸せを感じて……


 それなのに、それなのに、涙が出ないなんて、無理に決っている……!



「しょうがないな。このままじゃ泣き顔、世界中継だぞ。どっか別のトコで泣いてこいよ。もしくは俺の背中にくっついてろ」

「……そうする」
 そのまま背を向けた少年の背中にくっついて、エヴァンジェリンはうれし涙を流した。

「なら、こいつかぶってろ」
 かぶせたのは、『石ころ帽子』。これで、どれだけ泣いていても、誰も気にはしない。


「結婚式の時、これ以上に泣かせるからな。これ以上の幸せを、これ以上の喜びを、味あわせてやる。覚えとけ」
 こんな突発的な事態ではなく、自分の力で作った、自分だけの愛で!

「覚えて、おく……」


 少女は王子様の背中で、嬉し涙を流した。


 ただ、泣いた……
 嬉しくて、嬉しくて、泣いた。




 この日『闇の福音』エヴァンジェリンという賞金首は、魔法世界から、消滅した。
 かわりに残されたのは、エヴァンジェリンという、ただの少女……

 過去の闇を全て祓われた、将来世界で一番幸せになる少女だった。




──────




 しばらくして。
 クルトも冷静さを取り戻し、気づいた。

 賞金700万もの賞金首が、目の前で無罪となった。それは、あのエヴァを本物と信じるモノから見れば、どんな無法も許されると認めたといってもいい。

 このままではまた、メガロメセンブリアの信頼は落下する。今度こそ、地に落ちる。
 祭り以前の問題で、メガロメセンブリアという国が滅茶苦茶になってしまう!

「な、なにを。一体なにをすれば、こうなるのです!」
 結果は決まっていたはずだ。
 それを覆す事など、根本的に出来るはずがない。


「それは企業秘密ですけど、正しい判断が行われたってのだけは、事実なんじゃないですか?」


 ふわりと、一人の少年が、バルコニーに降り立った。
 なぜかなにかを背負っているように見えるが、そこになにもいない……


「お、王子……」

「はい。王子です。そして王様。ごめんなさい。俺やっぱり、王様にはなれないわ」
 ごめんと言った風に、敬礼のように手をかざし、その後手首を返すポーズをとる。

「え? あ、ああ……」
 王はまだ、事態が理解出来ていないようだ。
 気絶した姫を抱きかかえたまま、呆然としている。

 いや、理解を拒否している。というのが正しいのだろう……


「ま、王様は今いいとして。総督。ゲートに引き続き、大失態の連続ですね。このままだと、大変な事になりますよね? 魔法世界を統べる人達に対して非難ゴーゴーじゃないですか?」


「ぐっ……」
 痛いところをつかれ、言いよどむ。


「でもね、今の俺は、そんなあんたの窮状も、救ってあげられるよ」

 少年が、クルトを見て、笑った。



 ぞっ!



 その笑顔を見た瞬間。
 彼の肝は、絶対零度になったかと思うほどに、凍えた気がした。

 そこにいたのは、悪魔。天使のような、悪魔だった……


「あなたは、今回の事に乗り気じゃなかったように見えた。だから、その心根に準じて、アンタをヒーローに仕立ててあげるよ……」


 悪魔の、誘惑……
 だが、この混乱を収める方法があるというのなら、聞かないわけにはいかない。
 自分はともかく、こんな茶番で、国を崩壊させるわけにはいかない。


 政治家とは、時には悪魔の話も聞いて交渉出来なくては、勤まらないのだから。


「な、なにを、いや、なにが、出来るというのです……?」


「簡単な話。もっと大きな茶番をはじめよう」
 彼は『ポケット』から、一台のテレビを取り出した。
 時を遡り、事実を映し出すことの出来る、テレビを……


「さあ。ここからが本当のショータイム。メガロセンブリア元老院の虚偽と不正を暴きましょう。政治の闇を、一掃しましょう」

「っ!?」

「今アンタ以外の議員達はどこに?」
「これを議会に集まって、そこで見ているはずです」
 それは、そうまでする必要のある重要な捕り物だった。
「あら。なら好都合」




──────




 ざわざわ。
 ざわざわざわ。

 あまりにもあんまりな超判決であったため、思考停止していた人々が、正気に戻る。


 納得がいかないのは、これを見ていた者達である。


 無罪の判決が出たのはわかる。だが、なぜこんな大掛かりに、無罪の判決を出しにきたのか。
 面白い見世物ではあったが、期待していたものではなかったのだ。当然である。



 一方メガロメセンブリア元老院議会。
 そこも、あまりの超判決に、中継を見ていた者はおろか、中継をしている者すら混乱している。
 誰もなにも言葉を発せずに、ただ止まった判決の画面に釘付けになっていると……


「……皆さんこんにちは。私はメガロメセンブリア元老院議員にして、メガロメセンブリア信託統治領新オスティア総督、クルト・ゲーテルと申します」


 画面が変わり、一人の男が映し出された。
 それは、悪魔と取引をした、総督の姿。


「先ほどの茶番はお楽しみいただけましたでしょうか。誰もが、目の前の少女は、ゲートポートを破壊した、伝説の賞金首だと感じたでしょう。ですが、それは、メガロメセンブリア元老院によって捏造された事実だったのです!」



 ざわっ!
 世界が揺れたかと思うほどの動揺が、すべての人に走った。



「先日のゲートポート崩壊事件。それも、今回の茶番と関係があります。簡単に説明いたしましょう。先日の事件と、今回の闇の福音処刑捏造。それは、それらすべての事件を事前に知り、見逃し、虚偽と不正により利益を得ていた元老院議員をあぶりだすための茶番だったのです!」


 総督が、右手を上げ、指を鳴らす。

 すると、彼の背後の画面が、分割され、様々な画面が映し出された。



  「ゲートの破壊の犯人を、彼女とすればよいのですね」     「そこを無視していればいいと」     「その話、悪くありませんな」
   「よかろう。私は見なかった」   「愚かな民衆には茶番でも見せておけばよかろう。それで私達は安泰だ」
 「こちら山吹色の菓子にございます」   「エチゴーヤ、お主もワルよのう」     「殺せ」
       「村ごと消してしまえばよかろう」      「当然、便宜を図らせていただきます」    「ワシに逆らえばどうなるか、教えてやれ!」
「勝てばよかろうなのだ!」      「すべてはやつが悪い。という事にしてほしい」     「邪魔だな、あの女……」



 そこには、虚偽、密約、不正の瞬間をはっきりと映した画面が、ずらずらと並べられていった。
 いわゆる越後屋。お主も悪よの~。の瞬間が、言い逃れの出来ぬそれが、その画面にはっきりと映し出されていた!

 それを見て、処刑という娯楽を楽しもうとしていた当事者達は、ぎょっとする。


 そこに映し出されていたのは、自分の悪事だからだ。


「幸い、議会の方では全ての議員がお集まりだ。民全てが見ているこの場で証人喚問を行ってはいかがでしょう?」

 クルトが、画面の向こうで笑顔を作る。
 それは、今回のこんな茶番を認めてしまうのだから、それも当然OKですよね。という笑顔であった。

 さらに、クルトの言葉と同時に、今回使用している世界中継。
 それに、議会の映像がさし変わる。
 この時から、この元老院議会が、世界全てに中継されはじめたのだ。


 その瞬間、この場にいた議員達から、言葉にならない悲鳴が上がる。
 あの証拠を見せられ、この場で答えたのならば、もう逃れる事は出来ない。

 あの映像が捏造であったとしても、この場での発言は、映像に残り、正式な証拠になるからだ。


「ば、バカな! このようなおうぼ……私は、その事件でエチゴーヤから金を受け取りましたー!!」


 抗議をあげようとした議員が、いきなり本音を叫んだ。
 あわてて口をつぐもうとするが、それは止まらない。

 いつどこで、なにを誰と誰が、どのような事を。今までの悪事を、詳細に、次々と暴露してゆく。
 この場で話してはいけないというのに。

 絶対に話してはいけない事なのに!

 その証言の中には、同じ議員の名前がある。
 その名を呼ばれ、どういう事かと聞かれた議員は……


「わ、私のきお……はい! 私もやりましたぁー! 一緒に受け取りましたぁー!」


 同じように、その悪事を次々と、正直に話してゆく。
 次から次へと暴いてゆく。
 その暴露は、止まらない。
 暴露の連鎖は止まらない。

 まさに、それは、祭りであった。
 大暴露大会であった!


 心を操られた? 否。この議会会場において、そのような魔法使用は出来ない! 出来れば政治とならないから!
 ならばこれは、みずからの意思による自白以外にない!


 暴露大会の開始と同時に、元老院議会の扉が開かれ、その警備隊が踏みこんで来た。
 議会がはじまっている間は不逮捕特権があるので、逮捕はされない。

 ゆえに、出入り口から逃げられないよう、退路を塞いだのだ。
 証拠隠滅など出来ぬよう。この暴露の連鎖から、逃れられぬよう。

 まるであの処刑が茶番であり、これからはじまる逮捕劇が、最初から仕組まれていたかのように。
 この暴露を、世界に流すのが、目的であったかのように……

 不正を暴かれた議員達は、観念するしかなかった。
 今流れている映像はすべて、過去の自分達をそのまま直撮りしてきたかのような映像であったから。
 そのうち、自分の方へも釈明のチャンスが与えられ、なぜかそれを、正直に話してしまうのだろう……

 聡い者も、どれほど愚かな者も、悟っていた。


 すべてを正直に話し、すべてが記録されてしまっている。
 これを見ている者すべてが証人になった。


 この元老院は、終わりだと……
 自分達はもう、破滅したのだと……


 あの若造。

 新オスティア総督。クルト・ゲーテル。および、今回の計画を立案した。ゲイザス国王の手によって、完膚なきまでに……



 そしてこの大暴露大会に、使われた『道具』がある。



『ショージキデンパ』
 この『道具』から放つ電波を人に浴びせると、相手はなんでも正直に喋ってしまう。ダイヤルで電波の強度を調節でき、強度を上げると、より強く強制させる事が出来る。用途の上では『白状ガス』に近い。


 これを、『取り寄せバック』を使い、議会の適当な位置に設置し、正直強度を高めにして照射。
 科学の塊であり、魔法でないこれに、議会の魔法制限は通じない。
 となれば、この議会で嘘はおろか、秘密を我慢する事が出来ない。

 今の話題は、元老院の虚偽と不正。
 であるから、あのような暴露大会がはじまったのだ。


 全ての人の見ている前で、みずからの悪事を、みずからの口で、暴きはじめたのだ。



「さあ皆様! しっかりとこの不正の自白を、記録にとどめください! メガロメセンブリア元老院にはびこる悪を! 皆さんの目と耳で、しっかり記録し、一掃いたしましょう!」


 そうして、クルトの演説は終わりを告げた。

 元老院の不正暴露大会は、人数が人数だけに、そう簡単には終わらないだろう。

 だが、このまま行けば、彼の念願であった元老院の虚偽と不正は一掃され、その悪徳は消えさるだろう。それだけではなく、災厄の魔王などと言われた、あの人の名声まで取り戻す事が出来るだろう……


 ふと空を見上げれば、他の地域を映したモニターが目に入った。


 そこかしこで、新オスティア総督と、同じく計画を立ち上げたとされるゲイザス王の二人を称える声が響いていた。
 正義の味方として、彼は今、この世界の英雄に祭り上げられた……


 クルトはそれを見て、思わず流れた脂汗をぬぐいながら、一息ついた。

 茶番のすり替えに、なんとか成功した。



 これで、社会の崩壊はない……



「いやー、名演説。アドリブばっかりご苦労様でした」
 ぱちぱちと、演説の間席を外していた王子が、拍手でクルトを出迎えてくれた。

「そりゃあ、私の地位どころか国、社会そのものがかかっていますからね。あのまま『闇の福音』を無罪のまま中継が終わったとすれば、国の面子は丸つぶれ。それこそ暴動が起こりかねませんでした。あのままでは、社会が崩壊します」

「ですよねー」

 あの判決は、ある意味無法がまかり通ると喧伝してしまってもいるから。
 だからこそ、彼もヤバイと思って、別の茶番を作り出す事にした。
 それが、メガロメセンブリア元老院議会の不正暴露。標的に元老院を選んだのは、単に、やられたからやり返しただにすぎない。政治家が全てクリーンとはとうてい思えない。確実に不正が出てくると踏んでいた。
 そしてそれは、成功した。


「しかし……」
 クルトは振り返り、リピートされる背後の映像達を見る。
 捏造とはとても思えない、鮮明な証拠動画。
 いや、捏造などと言えるはずもない。すべて本人登場の、実際にあった事をうつしたモノなのだから。
 時を遡り、カメラで映してきた衝撃画像なのだから。

 あの証拠画像を作るのに使用された『道具』。それは……



『タイムテレビ』
 過去はおろか、未来までも見通す事の出来るテレビ。
 どんな時代や場所でも見る事が出来る。また、特定人物や一族を時代ごとに追うなどの機能もある。
 未来を見る場合は、そのまま先に起きる事だけではなく、他の可能性を加味した未来も見る事が出来る。当然未来は確定したものではなく、参考程度にしかならない。


 その映像は捏造などではなく、実際にあった事を映しただけなのだ。
 ちなみにあの動画は、クルトの知る情報を元に、特定人物を追う機能を駆使し、時間をとめたり伸ばしたりして時計の針が3分移動する間に製作しました。



 さらには、あの秘密を話す事をやめられない道具……
 実際クルトも自分で効果を体験したが、アレも……

「とんでもないものだ……」
 本当に、一掃出来てしまった……
 ありえない事が、出来てしまった。

「あとの事は、お任せしますよ。ネギ達の賞金取り消しとか」
 元老院のこの後などは、クルトに全て丸投げである。

「わかっていますよ。ですが、いいんですか? 君が本当の英雄だと。人々に告げないで」


 たった一人の少女の為に、欺瞞に満ちた裁判をひっくり返し、巨悪の根源を叩き潰した。
 これほどわかりやすい英雄譚もそうはあるまい。
 紹介されれば、この世界の歴史に名を残す事は確実だ。


「よしてください。俺達はただのエキストラ。茶番を盛り上げただけの、学芸員ですよ。それだけで十分。それに、俺は王子とか英雄とか、そんなガラじゃないんで」

「そう、なのですか……」

「王子様の方も、辞めてきましたしね」

「なんと……!」


 クルトが演説している間に、『どこでもドア』で国へ戻り、『王の器』の光を消して戻ってきたのだ。
 一人に戻った彼は、きちんと認識され、屋根も飛び出していた彼の『王の器』は、綺麗さっぱり消えた。
 これで、彼は完全に自由の身となったのである。


「多分俺が居なくなる事が、王様にとって一番の罰になるでしょうからね」
 彼がぽつりと言った。

「……」
 クルトはその通りだと思う。
 彼を王にと考え、その後どれほどの損害も罰でも受けようと考えていた王にとって、それが一番つらい事だろう。
 これ以上の罰もありえまい。それこそ、王にとって死以上の罰だ。

 だがクルトは、王となった彼を、少しだけ見たかった。なんて思った……


「それに、俺とエヴァンジェリンは、他にまだやる事があるんで」

「そうですか。一応、オスティア祭で行われる舞踏会などに招待をしたかったのですけれども……」

「……それはつまり、祭りはつつがなく行われるって事ですね?」

 彼が、その言葉の意図を理解し、笑って答える。

「当然ですよ。この暴露大会が予定通りである事をさらに証明するためには、この祭りはなんの問題もなく開催しなくてはならない。ここで我々がなんの問題もないようあの場に現れなければ、この正義が無意味になってしまいますからね」


 世界が平和になった祭りを前に、自国の悪徳も排除したが、このメガロメセンブリアに問題はないとの喧伝出来なければ、自国だけで開催するわけではない祭りで、他国につけこまれてしまう。
 予定通り出来なければ、なんのための茶番だったのかという事になってしまう。
 ゆえに、祭りを止めるなどという事は当然出来なかった。


「祭りには行くんで、見つけたら招待状をくださいな。そっちに行くかはわかりませんけど」
 はっはっはと少年は笑った。

「じゃ、仲間が待っているのでもう行きますね。王様達には、もう戻る事はないと改めて告げておいてください」

「……わかりました」

「それじゃ、またー」


「あ、最後に。君は、何者なのです?」
 彼の背中に、その質問が投げかけられた。


 王子とは知っている。だが、あのような事が出来るのだ。それ以上のなにかを持つ存在だと、クルトは見ていた。
 かの精霊の選びし国よりやってきたのだ。ひょっとすると天の使いなのかもしれないなどととも考えてしまう。神と魔。どちらのかはわからないが……


「そうだな。ここは、もう一人の『サウザンドマスター』って記憶にとどめておいてくださいな」
 少年は上半身だけ振り返り、笑ってそう言った。


 一度敬礼のように頭に手を当て、しゅっと手首を返すいつものポーズを決めたあと、軽く手を振り、彼はその場を去っていった。


 クルトはその答えを聞き、呆然とするしかなかった。
 まさか、その名を名乗られるとは……

 元『赤き翼』の一員であり、彼女達を否定した自分に、その称号を名乗るとは、なんたる皮肉。
 そして、なんと清々しい事か……


「……ありがとう。このような事を、君に言えた立場ではないが、君のおかげで、私は本懐が遂げられそうだ……」


 消えた少年の背に向かい、クルトは小さく、感謝の言葉を告げた。
 この件が終わったら、議員を止める事も考えた。しかし、動画製作中、続け、よりよい国を作る事が、今日の件でアンタに出来る罪滅ぼしだと彼に言われてしまった。ならば、やめるわけにもいくまい。

 他にする事があるという、彼に、託されてしまったのだから……



 こうして、ナギの伴侶に災厄の魔王の汚名を着せ、ネギの村襲撃を命じた黒幕。メガロメセンブリア元老院の巨悪は、滅んだ……




───ラカン───




 は、ははは……


 茶番が終わり、元老院の巨悪が次々と自白してゆく放送を見ながら、俺は、笑いがこみあげてくるのを止められなかった。
 この暴露大会が、最初から準備されていたわけじゃないのは、わかりきった事だ。
 じゃなきゃ、あのボウズがああまでしてあの場に飛ばない。


 そもそもあの元老院の奴等が、あんな馬鹿な事やらない。


 つまり、あの場に飛んだボウズと、最初から居たボウズ。あの二人が一人になったあの時、なにかやらかしたのがはじまりに違いない……



 その結果が、無罪放免、大暴露大会。あの元老院根絶だ。



「そりゃ、ネギが俺達のスケールを超えるわけだ……」


 思わず顔を手で覆って天を仰ぐ。

 自分でも想像だにしなかった方法で、自由を手に入れたのだ。
 いや、誰もが考えてはいた。実現出来なかっただけで……

 裁判で無罪になる。そうすれば、どんな悪事も罪に問われる事はない。時効なんて目ではない。誰もが、考えつきはする……

 だが、あの状況から無罪放免なんて、ありえねぇ。
 どんな方法を使ったのかも想像もつかないってのに、それを実際に実現させているんだから、恐れ入る……

 あんな存在が身近にいるのだ、ネギが自分の考えた道などより、さらに別の道を導き出すのも納得がいった。


 俺の周りでは、エヴァンジェリンが無罪となり放免された事を喜ぶ小娘達であふれている。


「にーちゃんは、やっぱにーちゃんやー!」
「すごい……本当に……やったです!」
 オデコのメイドと犬耳娘が、抱き合い、手を抱きしめあい、その喜びを、全身で表現していた……

 メガネメイドの嬢ちゃんなんかは、力が入りすぎたせいか、腰を抜かしたような状況になっている。
 お団子メイドの方は、まるでそうなるとわかっていたように装っているが、拳が固まって、開かないのがわかる。それだけ、握りしめていたってこったな。


 そしてネギは、一人真剣そうな目で、モニターの向こう側を見ていた。


「どうした?」
 思わず声をかける。
 喜ばないのか?

「う、うううううう……」
 だが、声をかけた瞬間。両手をぐっとにぎり、力をためるように、縮こまった。

「やったあぁぁぁぁ!」
 そして、びよーんと跳ねるように、飛び上がる。

「やった! やった! やった! やったあぁぁぁぁ!」


 ためて、ためて、爆発させやがった。こんな喜び方をするとは、少し意外だ。
 それほど嬉しかったという事だろう。エヴァンジェリンの事も、ホントに大好きなんだな。


「おー。ネギも爆発したかー。こっちこいやー!」
「うん! やったね!」


 きゃいきゃいぴょんぴょんと、少女達の喜びが跳ねる。



 そこに、がちゃりと扉を開け、二人の人影が姿を現した……

 直後、弾丸のように突撃する少女達と、それを受け止め転がる黒髪の少年。
 その有様を、叱る金髪の少女……



 いつもの光景が、戻ってきた……


 まあ、その金髪の少女も今日は、他の少女から突撃をうけている例外があるが。


「……だが、これからがやべぇな」

 思わず、ひとりごちた。


 あいつに力が戻ったという事は、それを狙う敵がまた現れるという事だ。

 これほどの状況を覆す力。
 それが敵の手にわたれば、それだけで戦況がまた覆る。
 それを思わず封印したって理由も納得がいく。


「……ま、いいか」


 少女達に囲まれ、いつもの光景ってやつになったあいつらを見て、俺は思わずそう思った。


 心配する事はねぇ。
 あいつはきっと、そんな不可能も、可能にしちまうんだろうから。

 ひとまずここは、めでたしめでたしって事でいいだろ。




───姫───




 目を覚ました時、すでにあの方は、王子ではなくなっていました。
 あの公開処刑という茶番を演じたその責任をとって、王位継承権を退いたとの事を、お父様から聞きました。

 その時のお父様の表情は、清々しいような、悲しいような、燃え尽きたような。なんとも言えない表情でした。
 今回の一件で最もこたえたはきっと、お父様に違いありません。

 あの方がいなくなるという最大の罰を受けているのですから。

 残念ですが、今の私に、かける言葉はありませんでした……


 あの方がいたのは、夢だったかのようです。
 王の宝石にはもう、誰も映し出されていません。


 残された継承者は、光り輝くわたくしの器のみ。


 その器を見て、思わずため息をついた時、そこにある文字に気づきました。

 そこには、わが国で使われている文字で、こう書かれていました。



『君なら、よい王様になれるよ』



 あの方の、とても上手な字で。
 たった一ヶ月も居なかったというのに、そうとは思えないほどの、うまさで。
 それだけで、あの方が、この国をどれだけ愛していてくれたのか、わかります。


 最後の最後まで、あの方はわたくしを元気付けてくれるのですね……


 ゲーテル様から、聞きました。
 貴方にはまだ、他にやる事があると……


 ですから貴方は、わたくしにあれほど自覚を促していたのですね。
 自身は、決して王にならないと決めていたから。


 わかりました。
 貴方の変えたこの国を、わたくしはもっとよい国にいたします。


 わたくしがしっかりしなくては、あの方が安心して他の事に集中が出来ませんから。


 いつか必ず、また来たいと思わせるような、よき国に。


 ですからまた会いましょう。
 今は、さようなら。
 私の王子様。

 この国で最高の、王子様……



 この一件により、このゲイザスとメガロメセンブリアの関係は一新する。
 親分子分であった関係が、対等の関係に。

 この関係の改善は、ゲイザス王国史上最も偉大な一歩と呼ばれるが、それをなしたと言われる王は、それを常に否定し、みずからは決して話題にしないという、謙虚な一面も持っていたと、歴史の書には残る……



 そして、その偉大な王のあとを継いだ女王は、歴代で最も優れた王であったと言われる。



 が、その物語は、残念ながらここでは語られない。




──────




 その夜。

 再会の宴会となったひと時の闘技場から、一組の男女ががテラスへと姿を現した。


 一人は黒髪の少年。もう一人は、金髪の美少女だ。


 少年はテラスの手すりに背中を預け、よりかかる。
 少女はふわりと、その手すりに座り、同じ空を見た。



 ま、俺とエヴァンジェリンなわけだけど!



 空の上では、まだメガロメセンブリア元老院議員の大暴露大会が続いている。


「いやー、どんだけ悪事働いてるんだこっちの政治家さんは」
「自業自得だろう。これから罰も受けてゆくのだ」

「ま、そのあたりは正義の味方になったあの総督さんとかにお任せしますか」
「だな」

「これで魔法世界の政治もよくなるといいねぇ」
「そんな事言うなら、お前が王になってやればよかっただろう」

「えー。やだ。マジになったら俺、そっちにばっかり集中するから。お前をないがしろにしちゃうぞ? 独裁しちゃうぞ?」
「ふん。出来るものならやってみろ。お前は仕事も愛も両立すると私は信じている」

「おいおい。買いかぶるなよ」
「買いかぶりか?」

「どうだろうな。家庭も仕事も両立する気ではあるけど。ま、最大限努力する」
「そうか。なら、大丈夫だろう」


 まあ、それ以前に、仕事をなんにするかも問題だけど。
 キャッシュは俺もエヴァもいっぱい持ってるから、いっそ会社とか作ってもいいかもなー。


「そういえば」
「ん?」
 エヴァンジェリンの方が口を開いた。

「記憶はどうなっているんだ?」


 ああ。確かにそれ疑問に思うよね。


「ああ。二つあった事、どちらもちゃんと覚えているよ。お前といた事も、ネギ達といた事も。意識は一つだけど、記憶は二つ分だ」
 『コピーロボット』使っているときのエヴァがこんな感じなのかしらね。

「そうか。どちらもあって混乱もないならいい」

「ああ。ソレは平気」
 むしろ二人になって経験値が二倍入ってきた的な貴重な体験が出来たから、ある意味お得だったような気もしないでもない。

「なんでもポジティブに考えるのは、お前のいい癖だな」

「……こころ読むなよ」
「読めるお前が悪い」


「そーしておくか」
 逆に言えば、俺もお前の心読んでもイイって事だよな?


「むこうでは、闇の魔法、習得したそうだな?」
「ああ。ちょっとした流れでね」
 『ポケット』の方から、一つに融合した『決め技スーツ』と『変身セット』を再現したベルトを出す。
 ワープ転移で破損したが、ちょっとずつ直りはじめている。さすが闇の魔法つき。

「魔法のコアを外に出したのか。なかなか斬新な方法だ。これなら、闇にその身を食われる事もあるまい」
「色々魔科学変化起こしたんだろうな。どうやったのか俺にもよくわからん」


 思い出しても、あの瞬間どうなっていたのか必死すぎてよく覚えてないし。
 おもいだしたくないし。


「やっぱ、ネギに継いでほしかったか?」
「いや、お前でよかった」
 俺の方を見て、優しく微笑んだ。

「そうだな。お前を救いに行くのに役立ったしな」
 俺も、微笑み返した。

「……」
 そしたら、無言で明後日の方へ視線そらされた。


 恥ずかしくなりやがったな。二人きりなのに珍しい。
 ……いや、多分、ほぼ確実にデバガメがいるからだろうけど。


「……私は、お前になにか返せるものはあるか?」
 俺の方を見ないまま、ぽつりと、エヴァがつぶやいた。


(学園祭で人としての私を取り戻してもらって、今回は、かつての業すらもすべて取り払われてしまった。それなのに、私はまだ、あなたになにも返せていない……)


 ……なんて思ってんだろうなぁ(あなたと呼ばれているとはさすがに想像してない)


「今無理に返そうとするなよ。それに、真っ白なお前の全てを、いずれ俺色に染めるんだから。将来的に見れば、俺の方がなに返せばいいのかわからなくなるレベルさ。大盤振る舞いの先払いだ。だから、気にすんな」

「それを言うなら、私だって同等のモノをもらうだろう?」

「男のソレと女のソレの価値は等価じゃねぇって。それに俺は、返して欲しくてお前になにかしているわけじゃない。お前の幸せな顔が見たくてがんばったんだから。ああ、そういう意味じゃ、ちゃんと元はとってるか」


「……ばか」


「そんなもんさ。それでも返したいのなら、みんなの前で、愛してるとか言っておくれ」

「……」

「な?」

「無理」
「無理かよ」
 あははと笑う。


 むしろ言われても困る。
 お前の恥らう姿見れなくなるし。


「……エヴァンジェリン」
「なんだ?」

 だから……


「愛してる」


 ……俺が言った。


「……知っている」

 そうしたら、エヴァがじっと俺を見て、その手が俺の頬に添えられた。
 手すりに座るあいつの方が、今の高さは上だ。そこに、首の角度を上げられ、そのまま、エヴァンジェリンの顔が、俺にせまってくる……


「……多分、見られてんぞ」
「今日は、気にしない事にした……」


 おいおい……


(人前で愛してると言えと言ったのは、お前だろう……?)
 通じ合った瞳が、そう俺に伝えてくる。



 ……言ったけど、言ってねぇじゃん。





─あとがき─

 うん。エヴァンジェリンがヒロインした。満足するほどヒロインした。
 ここはエヴァンジェリンルートなのだから、やっぱり『ポケット』が復活するのならエヴァンジェリンの大ピンチを救わないとね!
 伝説の吸血鬼が相手なんだから、これくらい派手やってもいいよね! 絶体絶命からの一発大逆転だよね!
 これでこそヒロインだよね! ヒーローだよね!!


 いやー、『悪魔のパスポート』ポケットにないって断言しておかなくてよかった。本当によかった。


 というわけで、流れで元老院の巨悪も潰れてしまいました。
 とことんネギのトラウマスイッチは押せませんね。困りましたね。

 最大のトラウマは学園祭でキレた事くらい?
 でもあれ、単純に怒っただけだしなぁ。まさにキレただけだしなぁ。


 まいっか!


 次回、オスティア終戦記念祭はじまります。



[6617] ネギえもん ─第31話─ エヴァルート19
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/04/14 21:12
初出 2012/04/07 以後修正

─第31話─




 拳闘大会。はっじまっるよー。




──────




 さて。無事『四次元ポケット』を取り戻した俺。

 そして、新オスティア総督に恩(?)を売った結果。ネギ達の賞金も無事取り消された事をここに報告しよう。
 まあ、エヴァの賞金がメガロメセンブリア元老院の捏造によるものだったのだから、その手下とされた彼女達の賞金もすぐ取り消されてしかるべきなのだから当然だろう。

 結果、隠れて進む必要のなくなったネギパーティーと、おおっぴらに連絡も取れるようになり、かつ連絡のつかなかったクーとマンガ少女のパルを回収してきた朝倉君一行と合流。

 刹那&明日菜組と木乃香&楓組は途中合流し、自力でこちらまで移動して合流。

 残った本屋ちゃんは元々賞金首でもなく、他の子も解除されたので、お仲間パーティーと共に、無事祭りのある新オスティアの方へと向っている(仲間パーティーが送ってくれるというので、迎えには行かない)

 祭りの方は、大暴露大会などがあり、メガロメセンブリアが大揺れに揺れたが、総督様の尽力により、通常通りの開催となっているので、問題はない。
 あの暴露大会の大混乱を外から見ている分には混乱していないように収めているんだから、あの総督様すげぇや。

 そして、メイドさん達は、100万ドラクマを支払って無事開放されました。
 超が奴隷ながらしっかり稼いでいでくれたお金プラス、『ポケット』の中で眠っていた貯金で。

 貯金は、すごかった。こっち来る前に預けておいた『フエール銀行』が火を噴いて、魔法世界の通貨、キャッシュで一兆ドラクマくらいが、マジで溢れました……


『フエール銀行』
 銀行の形をした道具。
 これに現金を預けると、1時間に1割(複利)で利子がつく。計算上では10円を1週間預けるだけで約9千万円になる。
 定期預金だとさらに利子が高く、1ヶ月定期は利息1時間2割、1年だと5割。ただしこの定期預金は中途解約が不可能。なので、金を下ろすには満期になるのを待たなければならない。
 銀行強盗を防ぐため、フエール銀行を壊そうとした者を電撃で撃退する機能も内蔵しているので、ここに強盗に入るのはおススメできない。
 預けるだけでなく金を借りる事も可能だが、利子は1時間2割とかなりお高い。その上返済しないと利子として1時間ごとに身の周りの物がどんどん消えてしまうのでお借り入れは計画的に。


 予定より、三週間くらい長く預けてたからなぁ……



 これで無事全員……

「しくしくしく……」

 ……あ、すまんカモ。

「いいんだいいんだ、俺っちなんて……」


 大丈夫。ちゃんと思い出して回収しただろ?


「拾ってくれたの朝倉の姉さんですがね!」

「悪かったって」

「お詫びとして、ネギの姉さんとパクティオをー!」

「却下」

「しょぼーん」

 なんて事があったりしたけど、ひとまずオスティア終戦記念祭のはじまる新オスティアまでやってきました。
 祭りも近づき、活気づいてる都です。


 そうそう、『四次元ポケット』が戻った俺だけど、ゲートの方はまだ直していない。
 ひとまずどこからも要請はないし(当たり前だけど)、ゲートを直してしまうと、フェイト達が計画を断念して地にもぐってしまう可能性があるから。

 あいつらを倒しても、その意思を継いだ次代のあいつらがいたなんてなったら洒落にならない。

 ここまできたら、あいつらの計画をちゃんと頓挫させておかないと、気分も悪いからね。
 そして、ネギ達もフェイト達との決着は手伝いたいと言ってきた。
 ここまで関わってしまったのだから、いまさら帰れとも言えないし、ラカンが「ここまで来ちまったらしかたねぇ」と、過去の因縁。『赤き翼』とフェイトの所属する『完全なる世界』の関わりを自主映画として見せてくれたおかげで、もう帰れと言っても帰らないだろう。

 ちなみに映画は、性別が一部入れ替わっていただけで、内容は俺の知っているラカンの映画そのままだったわさ。
 今本屋ちゃんが欠けているけど、合流したらまた見せてくれるって。


 だもんで、明日菜君とかも「ここまで関わったんだから、最後までいるわよ!」って息巻いてた。


 やる気になった彼女達に、俺とエヴァは顔を見合わせて、ため息つくしかなかったわけさ。


「でも、頼りにはしてるよ。今度俺がああなったら、止めてくれ」
「はい!」
 俺の言葉に、ネギが自信を持って答えてくれたのが、印象的でした。




──────




「……ネギ、あんたなにかかわった?」
「え? まだ一ヶ月たってないのに、そんなかわりませんよ」


 これは、合流した時の、ネギと明日菜の会話。


「ううん。なんか、より安定した感じがする。無茶、しなかったでしょうね?」

「はい。大丈夫です。皆さんに心配をかけるような無茶はしていません。新しい呪文はいくつか手にいれましたけど!」
 拳を強く、ぎゅっと握った。

「ホント!? 凄いじゃない」
「……あ、でもですね」

「なによ?」
「これ、明日菜さんの能力と、ものすごく相性悪いんです。たぶん、仲間はずれになっちゃいます」

「なにそれー!?」

「ですから、その時は、僕を守ってくださいね。逆に言えば、アスナさんは、自由に動けますから」


 ネギは、そう明日菜に微笑んだ。


「……ふふ、当たり前じゃない。私はアンタの、一番のパートナーなんだから!」


 ソレを見た明日菜は、嬉しそうに笑っていた。


 ちなみに、ネギの得た呪文の一つは、闇の魔法と同じように、体に呪文を装備すると、今は記憶にとどめておいてくれればいい。




──────




 そして祭りの前日。
 本屋ちゃんことノドカちゃんパーティーご一行が到着し、お別れして彼女が合流。
 ここにネギパーティーが全員集合したのだった。


「さて、と。全員そろったところで」

 豪華で小さめの宿を一つ貸切り、その一室に皆が集ったところで、俺がちょっと音頭をとらせてもらった。


 説明する事は二つ。


 一つは、敵の狙いが俺の力。『ポケット』かもしれない事。
 いざとなったら、再び封印する可能性がある事を伝える。


 二つ目は、明日菜君が狙われるかもしれないという事。


「へ? 私?」
 突然名前を挙げられた彼女は、びっくりするしかない。

 黄昏の姫御子という事情を知っているエヴァ、ラカン。それに、ネギも聞いていたのか、複雑な顔をしていた。
 ラカンの映画では姫御子の事はぼかされていたため、他の子はなぜかわからないだろうけど。


「敵が元々の計画を実行しようとすれば、その時必要になるのは、君のレアスキルなんだよ。だから、君も狙われる可能性が少なからずある」
 20年前と同じ事をやるなら、完全魔法無効化を持つ彼女が必要なのだそうだ。実際原作でも誘拐されているし。


「まあ、確率で言うなら、9対1くらいだがな」
 エヴァが補足してくる。

「ま、そりゃそうよねー。あっちに比べたら、私のなんてたいした事ないし」

「ねーちゃんのスキルも激レア中のレアやけどな。にーちゃんの方はレアっちゅーか、別次元やけど」
 まあ『俺』。は凄くないけどな。

「……へこむからやめてよぉ」

「ほめてるんやでー」
「そうやでアスナー。褒められとるんよー」

「全然そうは聞こえないわ!」
 コタローに木乃香にきーっと声を上げる。

「ねーちゃんが怒ったー」
「アスナおこったー」
 追いかけっこ、はじまる。


「当然、賞金が取り消されたからと言っても、まだ知らない人間もいるし、他の危険もあるから、この祭り中はまだまだ注意を怠らないようにね」
 そんな女の子を尻目に、俺は残った子達に注意を促した。


「はーい」
 女の子達が素直に答えてくれた。


「それでは、門限を守り、残りは自由時間。ラカンの映画、ノドカ君に見せるなり好きにしなさい。では、解散!」
 ぱんぱんと手を叩き、この堅苦しい注意事項は終わった。



 かぽーん。



「あー、いい湯だ……」
 一息ついて、宿の大浴場に俺は一人で入っていた。

 当然男湯である。今日はこの宿お金の力で貸切なので、いるのは俺一人だ。
 念のため小さいが警備が行き届いて、風呂が豪華なところを見繕って借りたのだ。

 警備は刹那君とかの案で、風呂は俺の意見。


 そして新オスティアの名物は、旧オスティアの遺跡だけではなく、温泉でもあるというのだ!

 そう、温泉!

 温泉。風呂。温泉ですよ風呂ですよ。お風呂大好きな俺としてはもう、ほおっては置けないでしょう!


 この宿の温泉の特色は乳白色のにごり湯。
 まったく透明度の無い真っ白の湯。
 透き通った温泉も悪くないが、こういうのも風情があってすばらしい……

 なので、貸切!
 温泉につかりまくり!


 最高だねぇ……


 やはり命の洗濯といわれているのは、魔法世界でもかわらないらしい……


「うあー」
 また一息ついて、風呂のふちにだらーっと両腕と首をあずける。
 もう言葉とも声ともつかないなにかが、俺の喉から漏れた。


 ひとまず、少女達には祭りの前に浮かれた空気を少しくらいは吹き飛ばす事出来たかな……
 まだなにがあるかわからないけど、祭りを楽しみたいのもわかるけど、一応注意は必要だからな~。


 まあ、でも、祭りの間くらいは、気を抜きたいよね……
 俺も今だらけまくりだし……

 あー。癒されるー。
 目の上にタオルを乗せ、だらーっとする。


「……まるで、引率の先生だったな」

 俺の隣から、そんな声が響いた。

「そんなこたねぇよ。むしろそれなら、お前顧問だろ……」
「私は名誉顧問だからお飾りさ」
「……いやいや、おかしいよ。なんかおかしいよ」


 うん。おかしいよ?
 タオルが乗り、瞑っていた目を開……こうとしたが、やめた。


「というか、一番おかしいのは、ここ、男湯って事だよ。なにかおかしいよねエヴァンジェリンさん?」

 そう。いつの間にか隣にいたすげー聞き覚えのある声。
 同じ湯船にいる気配のするのは、エヴァンジェリンその人だ。


「ん? なにもおかしくないが?」
 なんか凄く当然のようにいたから、思わず普通に会話してたけど、やっぱおかしいよね。

「おかしいって。なんでお前男の子のお風呂入ってきてんの?」

「あっちは小娘ばかりで騒がしい」

「あー」
 あっちも女の子入浴中なのね。
 恋に恋するお年頃の女の子ばっかりでもありますしね。
 そりゃぁ、色々聞かれるでしょうね。映画でナギの過去見たばかりだし、俺世界にエヴァの事俺の嫁発信もしたし。


 ……全然女の子達の声が聞こえないのは、壁の質がいいからだと思おう。


「お前のおかげでゆっくり風呂にも入っていられん。だから、来た」

「いやいやそれおかしい。なにかおかしい。だからってなに勝手に入ってきてんだよ。ここ男湯だぞ。男湯。女人禁制」
 大体部屋に風呂、シャワーついてるだろ。小さい宿だから豪華な湯船は大浴場だけだけど。

「お前しか居ないのだから、問題ないだろう。安心しろ。ちゃんとタオルは巻いていない」

「巻いてろよ! 思わず安心して目を開こうとしちまったじゃねぇか!」
 タオルを目の上に乗せて完全防備していなかったら見てたぞ今!

「なんだ。見ないのか? 今がチャンスだぞ? 大サービスだぞ?」

「そのチャンスは結婚式するまで我慢なの。見たいけど見たら襲っちゃうから我慢なの。てかホント襲っちゃうぞ」

「ふっ、残念だが、お前が私を襲うなど、ありえんな」
 きっぱり断言してきやがったよ。

「そんな勇気はないってか?」
「いや、お前なら必ず最高の初夜を与えてくれると確信しているからだ」

「ぶー!」

「どうした? いきなり噴出して」

 くそっ、にやにやしやがって。
 俺の事を信頼しているから平気だなんて言いやがって。お前にそんな事言われるとは思わなかった。襲ってきたら返り討ちだって言われるかと思ったのに。

 これじゃ襲えねぇじゃねえか。いや、襲わないけど。


「ふふ、ゆっくり入っていられる風呂が恋人と一緒というのも、ある意味おかしな話でもあるがな」

「ああ。男湯に関してはもう無視なんだ……」
 確かに、俺は手を出す気ないからな。我慢するからな。一番安全安心だよな。

「どうだ? 元気は出たか?」
「ああ。みなぎってはきた」
 まぁ、乳白色のにごり湯だから、どーなってんのか見てもわかんねーだろうがな!
 なにが、どこがとは聞くな!


「そうか。ならば……」


 ざばぁと、立ち上がる音がした。


「私の髪でも、洗ってもらおうか」

「……なんですと?」

「だから、私の髪を洗わせてやると言っているんだ。光栄だろう?」

「ああ。確かに光栄だ。だが、俺は女の子の髪を洗うなんて、はじめてだぞ?」

「ならなおの事いいだろう。お前のはじめて、私もすべてもらうつもりだからな」

「二人風呂はすでに初めて他の人にとられちゃったけどねー」
 魔法世界来る前に学園長と……

「それに関しては私も似たようなものだ。まぁ、こちらは子供の頃、家族と。だがな」
「そういう意味になると俺もかなり前に卒業してるけどな」

「つまりは問題ない。アレはノーカウントと考えれば私がはじめてだ」
 第23話参照で。
「そーいうもんか?」

「そういうものだ。だから、髪を洗え」

「だから。のつながりがよくわかりませんお嬢様」
「さもなくば、私がお前を襲う」

「もっと意味がわからなくなったぁ!」

「さあ。私の髪を洗うか、私に襲われるか。どちらがいい?」

「お、お前、なんつー選択を……」
 俺がどっちを選ぶかわかりきっているからってよ。
 このまま風呂出て行っちまってもいいんだぞ! 行かないけど!

「しょうがないな。んじゃあお嬢様。髪の方を洗わせていただきます」

「うむ。最大の愛をそそげ」
「当然」


 そんなわけで、エヴァを先にシャワーの前へ座らせて、そこから俺がそっちへ向かう事に。
 一応、タオルは腰に。


 やり方を聞きながら、エヴァの髪を洗う。


「お前の髪、綺麗だよな」
「当たり前だ」
 わしゃわしゃ。


 透き通るような白い肌。水をはじくこの艶やかな髪。


「肌も綺麗だ」
「当然だ」
 しゃかしゃか。


 首から肩。そして背中へと流れる少女の曲線。


「……」


 凹凸のない少女の体に興味はないはずなのに、エヴァンジェリンという女の体と認識するだけで、なぜかとても肉感的に見えた……



 ごくり。
 思わず、喉が鳴った。



「……ふっ、欲情したか?」
「……ノーコメント。それ以上そこに踏みこんできたなら俺は舌を噛み切ってやる。いいな。言うな。お願いな」

「そ、そこまで必死にお願いされたのなら仕方がないな。追求はしないでやる」
「そりゃもう必死だ」


 なので髪を洗う事に再集中。
 集中集中。


「流しますよー」
「ああ」
 わしゃわしゃしゃ。


「さらに洗いますよー」
「……」
 わっしゃわ。


「かゆいところはありませんかー?」
「……ない」
 なでなで。


「……」
「……」
 じゃぼんぼん。


「……」
「……んぅ」
 あわあわ。


「……」
「……んっ」
 洗うと、時々変な声が上がるの。


「気持ちいいですかー?」
「あぁ」
「そっかー」
「っ! い、いや、そんな事ないぞ。違う。もっと、もっと丁寧にやれ!」
「はーい」
 そっか。気持ちよかったか。頭洗われるの。
 思わず本音が出るほどに。


「ふふ」
「ちっ……」

 でもこれ以上は追求しない。
 喉が鳴った件を蒸し返されたりしたらたまったもんじゃないから。



 綺麗に洗い終えて……



「さてお嬢様。これでよろしいですか?」

「うむ。ご苦労だった」

「んじゃあ俺、湯船に戻るわー」


 きびすを返そうとする……


 が。


「まぁ、待て。折角だ。今度は私がお前の背中を流してやろう」

「……マジ?」
 思わず、足が止まる。

「魅力的だろう?」

「うん。魅力的過ぎる。無理。ダメ絶対」

「ふふ、どうした?」
 俺の背中でまた意地悪そうな顔しているのが思い浮かぶ。

「どうしたじゃありません。俺の理性の限界に挑戦するな」
「私は信じているからな」

「その信頼、今つらい! とってもつらいよ!」


 つーか俺の事いじって楽しんでいるだろう!


「わかっているじゃないか」
 心読まれた。

「だからダメ! 俺お前が来る前にもう体は洗ってるから! 俺の我慢の為に我慢しなさい!」


 振り切って、俺は湯船へ!



 ざぶーん。



「まったくもったいない事をしたぞ。今なら背中に当ててやったものを」
 また隣に、エヴァが当然のように入ってきた。


 で、伝説の当ててんのよやろうとしていたのかぁ!
 それはもった……いやいやいや!


「……いや、それはやったらアカンて。俺の理性の限界超えるって」
 再び、目隠しタオルで風呂のへりに頭をのせる。


 隣にほんのり上気した肌の恋人がいるってだけでやヴぁいのに。
 湯が透明でなくて本当に良かった……


「だろうな」
 あっはっはと楽しそうに笑われた。

「くっそー。これだから二人きりは……」
「ふふ」


 見物客がいねぇと大胆になりやがってぇ!
 完全に主導権を握られてしまった。
 あとで覚えとけよ! そのうち二人きりの時でもあわあわさせてやるんだから!


「……ひとまずよ」
「なんだ?」

「こ……」
 言おうと思った事を口にしかけ、止める。
 その前に、確認しておいた方がいい事があったのを思い出したのだ。
 エヴァが来たという事は、他にも人がくる可能性があると。

「今、周りに誰かいるか? 俺とお前以外に」
「……いないぞ」
 俺の言葉に、エヴァの声のトーンもかわる。
 俺の雰囲気を感じ取ってくれたんだろう。真面目な話をするって。

「そっか」
「私にまで確認させて、なにを言いたい?」

「ああ。この数日なにもなかったら、大会で大盛り上がりする時、フェイトの方に奇襲しかけようと思ってさ」
 俺の記憶が正しければ、拳闘大会決勝前に、一度フェイトが明日菜君をさらいにくる。
 計画を変更や頓挫していないのであれば。だが。


 これでなにもないのなら、俺の知る原作知識はもう当てにならない。


 ならば、もうこちらから打って出た方が早いと思う。


 幸い、『どこでもドア』はものすごいアバウトな使い方でも可能だ。
 『フェイトのとこ』でその人の居る場所へ行けるはず。
 しずかちゃんのところへ行こうとして、お風呂にピンポイントで出現するのび太のごとく!


「あの子達は、ラカンに警備でもしてもらえばそこそこに安全だしさ」

「……そうか」

「ネギ達を信頼していないわけじゃないけど、いざって時、俺を手にかける可能性があるの、お前だけがいいじゃん?」

「……馬鹿な事を言うな」
 エヴァの声のトーンが、また下がる。

「馬鹿な事じゃないさ。お前にだけ、頼める事だ……」


 正直、そんな事させたくはない。
 俺だって死にたくないし、エヴァンジェリンと一緒に生きていたい。

 だが、俺があの心の『闇』に負ける可能性だって十分にありえる。
 そうなったら、この『道具』を使ってなんだって出来る。太陽系すら作れるシロモノが入っているんだ。世界を無に返そうとしたというあの一味には渡せない。

 今度、万が一そうなって、封印する暇がないのなら……


「……な?」

「……一応、頭には入れておいてやる。実行してやるかはわからんぞ」

「頭に入っていれば十分さ。お前なら、しっかりやってくれるよ」

「……」


 凄く身勝手な事を言っているのはわかっている。
 俺も、命をかけて世界を守るとか、そんな自己犠牲をするつもりはさらさらない。
 でも、俺の持っている力は、世界の命運を、簡単に左右出来る力だから……


「当然俺だって、負ける気はないからな。万が一。億が一の可能性の時だ。だから、そんな……」
 悲しそうな声を……と言おうとしたその時。



「いや、嬉しいのさ」
 俺の予想を超えた言葉が、返ってきた。



「え?」


「これほどお前に頼られるという事が。弱気な台詞を、言ってもらえるという事が、とても嬉しい。お前は、なんだかんだ言って、最後の最後まで、強がりを通すからな」
 俺の隣で、微笑んだ雰囲気を感じた。


 この時俺が、目を開いていたら、隣で一筋のうれし涙を流すエヴァンジェリンを見れただろう……


「そんなお前が、私だけに弱音を吐いてくれた。私を支えに選んでくれた。私は、お前の支えになっている。これほど嬉しい事は、ないぞ?」
 その声は、とてもとても、嬉しそうで、優しい声だった。


「だから、お前がどれほど深い闇にとらわれようと、今度は私が助けに行く。闇の中から、お前を救い出してみせよう。なぜなら私は、あなたの伴侶だから……世界で一番、あなたを愛しているから……」


「……」
 思わず、俺、動き止った。


「?」
 小首をかしげたのが分かる。


「……あぁ、ダメだ。風呂、出る」
 声のトーンをおさえ、問答無用で、腰にタオルを巻いて湯船から脱出する。


「ど、どうしてだ?」


「これ以上お前と一緒に居ると、お前をもっと好きになる。お前を、マジで求める。だから、逃げる」


 正直、さっきの言葉の時、顔を見ていたら、多分やばかった。
 理性の鎖引きちぎってた。今ですらやばい。
 『あなた』とかやべぇだろ。破壊力ありすぎだろ。


 今、俺の嫁を直視出来ない。見たら、確実に終わる。この物語。発禁的な意味で。第2部完!



 ふらふらと、脱衣所へ移動する。


 その扉を開けたところで……

「……お前、俺の最高の伴侶だと思うよ。お前がいれば、俺は無敵だ。俺の事、好きになってくれて、ありがとな。だが覚えとけよ。解禁したら、たぶんすげーぞ」
 そう、扉に手をかけたまま、振り返らず言う。


「……そちらこそ、私の事をこれほど愛してくれて、感謝の言葉もないぞ。だが、その時は、私の方こそお前を骨抜きにしてくれる」


 すぱっと笑顔(多分)で切り替えしてきやがった。



 はっ、他人には聞かせられねぇ会話だこれ。



 からからからと扉を閉め。俺は、着替えて部屋に戻った。
 その日は、そのままベッドに倒れて、頭を抱えて悶えてから、朝まで熟睡コースだった。残念な事に、夢も見なかった。


 でも、すげぇ幸せだった。




──────




 一方、男湯に残されたエヴァンジェリン。


「くうぅぅぅ」
 彼女は一人、嬉しさのあまり悶えていた。

 今まで頼られた事はあったが、本気で弱音を吐いてくれた事はなかった。

 力を失った時、不安になったのはあった。
 だが、あの時は力を失った無力さからだ。
 私の足手まといになるという事からだ。


 今回は、違う。


 いつも強気で、堂々として、一人でなんでも解決してきた男が見せてくれた、弱さ。

 彼が、私にそんな姿を見せてくれた。これほど嬉しい事はない。
 そしてなにより、私と居れば無敵だとまで言ってくれた。


 私は、彼の支えになれた。


 はじめてづくしの今回の一件で、最大のはじめて。

 それはもう、嬉しさのあまり、悶えもする。



「しかもこれ以上いると私を求めるって。きゃ~!」
 それは確かにまずい。嬉しいがまずいぞー!



 思い出したらもう悶えるしかない。



「……なにやってんだお前?」

 そこになぜか入ってきたラカンが、そんなエヴァンジェリンを見て、あきれたようにつぶやいた。
 手にはなぜか、タオルとヒノキの桶。


「なっ!? 貴様なぜここに入ってきた。ここは男湯だぞ!」


「お前だって同じじゃねぇか。唯一の男が部屋に戻ったの見えたからな。今ならここ、貸切の貸切だろ?」

「……ああ、そうだな。その通りだ。私も同じだ」

「広いからって泳いでんじゃねえよ」


 けらけらと笑いながら、体を洗うために蛇口の前へと向い、座る。


「ふん」
 なにか勘違いしたようだが、下手な詮索をされるよりはマシだとエヴァンジェリンは考え、それ以上の言い訳はしなかった。


 わしゃわしゃと泡を立て、ラカンが体を洗いはじめる。


「……つーかさ」
 泡だらけのラカンが、口を開く。

「なんだ?」

「お前、甘くなったなよな」

「いきなりなにを言い出す。そんなわけあるか」

「いや、精神的にじゃなくて、なんつーか、物理的に。お前等見てると口から砂糖が出そうだ」

「……見ていたのか!?」

「え?」
 ラカンの手が思わず止まる。


「……」
 エヴァンジェリンは見られてもいないのに思わず視線をそらした。


「ははぁ。風呂でもヤってたのかよ」

「まだやってない!」

「……」
「……」


 沈黙が訪れる。

(自爆したっ……!)
 思わずがくりと肩を落とすエヴァだった。
 人が居なければ湯船で膝を突いていただろう。


「ははっ、なんだよ。まだキスしかしてねぇってか?」
 あの処刑事件の夜、テラスでちゅーしているのをラカンはとーぜん隠れて見ていた。

「ふん。あいつと私が、それでいいと考えているのだからそれでいいんだよ」
 平静を取り戻し、言い返す。

「なんでぇ、おあずけか?」

「あいつが言い出した事だ。結婚まで手を出さないとな。我々は身持ちが固いんだよ」
 そして、自分も、望んでその日を待っている。

「なのに一緒に風呂入ってんのか。わけわかんねぇな」
 HAHAHAHAHAと笑いながら、ラカンは体を洗っている。

「二人でソファに座ってテレビを見るのと同じ事だ。それに、ここでは二人きりになる機会が限られているからな」
 さっきはちょっと気分が盛り上がりすぎたが、まあそれは二人だけの秘密だ。

「あー」
 今も隣の風呂で大騒ぎをしているだろう思春期真っ只中の嬢ちゃん達の存在を思い出し、ラカンは思わず苦笑した。
 あの年頃の女の子に色恋は最高の推進活性剤だから。

 にしてもここ、隣の音まったく響いてこないな。いい風呂だ。
 そういやあいつがここ選んだんだっけか。と思い出し、ラカンは少し感心する。

 まあ、隣の声が聞こえるというのも、一つの風情ではあるが。

「お前、やっぱかわったよ」

「人間になったからな」
 エヴァは、その言葉にうなずき、その手で風呂の水をすくいあげる。
 乳白色の液体が、エヴァンジェリンの玉のような素肌を滑り降りた。

「そーいう意味じゃねぇが、まぁ。マジで人間になってんだもんな。ホントとんでもねぇや」
 体を洗い終わり、そうしているエヴァの前に現れたラカンが、それを見てにっかりと笑う。


「その上ナギのかけた登校地獄まで解いて、挙句には世界相手に無罪放免を実現させた……」


 600年の闇を背負ったその所業を理解しながらも、それでもその人を愛すると言い、さらには一度殺されるも、その愛しい人の声で蘇り、助けにまで現れた。


「……トンでもねぇな。言ってて頭痛がしてくるぜ」
 思わずラカンもこめかみを押さえた。


 どれをとってもありえねぇの連続。それを一人の女の為に全て実現させ、彼女の背負っていたその闇を、その業を、全て背負って消し去った男……


「お前が惚れこむわけだ」

「やらんぞ」
 エヴァンジェリンがにやりと笑う。

「馬に蹴られて死にたかねーよ」
 やれやれと肩をすくめる。

(まあ、その実力の方には興味があるけどな)
 ラカンが知るのは、分裂して力を失っていた時の状態のみ。本当の実力がどれほどかは、まだ計りかねていた。


 ラカンは湯船にその身を沈める。


「かー、やっぱオスティアの温泉はいいな」
 思わず声が漏れた。

「もう少し静かに入れんのか貴様は……」


 エヴァにため息をつかれたが、ラカンは気にしない。


「……」
 言われて黙ったラカンが、エヴァンジェリンを見る。

「……なんだ?」

「お前、綺麗になったな」

「アルと同じような事を言うな」

「マジか」
「ああ。マジだ」
 学園祭の時、アルことアルビレオ・イマ。クウネル・サンダースにも言われた。

「かー。俺ももうトシだな。ははは」
「笑うところなのかそれ?」

「……いや、なんつーかな。幸せか?」

「ああ。今は幸せだ」

「そーか。なら、いいんじゃね?」

「いいとはなんだ。お前がなにを決めているというのだ」

「はは、まったくその通りだな」

 けらけらと笑うラカン。


 ああ。俺が心配するような事じゃねぇや。
 あいつの中に、なにが居ようと、外からなにがあろうと、お前等二人なら、どーにでもなるさ。

 むしろ、そいつらが哀れになるな。
 この二人を敵にした挙句、あの砂糖を吐きたくなるような光景を見せ付けられるんだから。


 ラカンは思わず、当面の敵である『完全なる世界』の残党。フェイト・アーウェルンクスに少しだけ同情した。


 ま、そっちよりも問題は、あのゲートを破壊させたってヤツの方か……




──────




 次の日。
 オスティア終戦記念祭がはじまった。

 すでに腕試しの側面が強くなった拳闘大会の予選もネギ達は無事通過し、午後はオフとして、祭りを出歩く。


 その前に、フェイト・アーウェルンクスが単身、姿を現した。


 彼に言われたとおり、警戒し、集団行動をしていた彼女達の前に。

 だが、そこには、大人は一人も居ない状況だった。
 少女達だけでアトラクションを楽しみ、合流するため移動していたその時。

 その、合流するまでの少しの隙。
 そこを狙われたのだろう。


「フェイト……!」
 ネギが、目の前に一人で現れた少年の名を呼ぶ。


 楓と刹那が、明日菜の周囲に立ち、クーとコタローがその他戦闘力のない子達の近くへ立った。


「ひさしぶりだね。ネギ君。京都以来、ずいぶんと強くなったみたいだ」


 ゲートポートでは結局顔をあわせて会話をしていない。ゆえに、ネギとの因縁は、京都以来だった。
 その時から見れば、その強さが段違いなのは確かである。


「安心しなよ。そんなに警戒をしなくても、こんなところで暴れたりはしない。いまや僕達の方が追われる身だからね」

 そう。ネギ達の賞金が消えたかわりに、フェイト達『完全なる世界』の残党が逆に指名手配される事態に陥っている。


 だが、その彼等が、この喧騒の中で周囲の人達を盾に暴れない限らない。
 ゆえに、その言葉を信じて警戒を解くような事はなかった。


 しかし、ネギ達も無理をする必要はない。超と茶々丸の手によって、この事態はすぐにエヴァンジェリンとラカンへ知らされるだろう。


 そうすれば、彼がやってくる。


 どれほど喧騒があろうと、その気になれば言葉一つでフェイトをとめられる彼が現れれば、いかに周囲を人質にしようと関係はなかった。



「そう。時間がないからね。早速用件に入らせてもらうよ」
 当然フェイトもそれは理解している。これは、誘いだ。わかっていて乗った。一応足止めの者を使わしたが、足止めになるかどうかもわからない。
 ゆえに、一定の距離を保ったまま、フェイトは口を開いた。


「彼が復活した今、僕の計画が破綻する事が目に見えてきた。このままでは、遠からず僕達は壊滅する」

「わかってんじゃないの。なら諦めて降伏しなさい!」
 明日菜が降伏を勧める。


「だから、彼を打ち倒すために、力を貸してくれないか?」
 だがフェイトはその言葉を無視して話を進めた。


 衝撃の言葉を持って。


「っ!?」
 ネギにも一瞬動揺が走る。

「こ、このっ……!」
「あ、明日菜さん!」
 思わず飛び出しそうになるが、それを刹那が止める。自分達が暴れてどうするのだ。


「君の成長は、目を見張るものがある。かつての大戦で我が主を倒した英雄の娘。それならば、同じ存在である彼をも打ち倒す事が出来るかもしれない。そう。僕は君に、期待をしているんだ」

「なに馬鹿な事言ってんのよ! 大体アンタ、あの体操ったヤツの仲間なんでしょ!」
 むきーっとハリセンを振り上げ、暴れようとするのは、刹那に抱きつかれとめられている明日菜。
 ちなみに今ハリセンなのは精神的に激高しすぎているから。あと本能的にこの場で刃を出すのはマズイとわかっているから。


 ネギも同じ事を思った。あの人の体は、彼等の『主』が宿りえる、ヨリシロのはずだ。
 それなのに、なぜ彼を倒すと言う。


「そうだよ。あの時のアレは、僕の主だ」


 そのフェイトの言葉に、再びその場に衝撃が走りぬけた。


「っ!? なら、なぜ……!?」
 ネギも、動揺は隠せない。
 ラカンに聞いた話では、彼等はその主に忠実なコマのような存在だったはずじゃ?


「なぜ、というには、多くの説明を要するけど、簡単に表現出来る言葉はある。凄く、チープな言葉だよ。一言で言い表すのなら、『気に入らない』だからね」


 それは、あまりにもシンプルな理由だった。


「彼の力は強大だ。僕が進めてきた計画を一瞬にして無意味にする。しかも、僕達より軽快に、それを実行するだろう」

「計画? 君の目的とは、なんなの、フェイト?」


 ネギの問い。それにフェイトは、あっさりと答えた。


「……この世界の救済だよ」

「救、済……?」
 これもネギ達には衝撃だった。
 しばらく前にラカンが言ったのは、この世界を消滅させる気だったとか、世界征服だったんじゃね? とかいう話だったし、自主制作映画の中では世界を無へ帰そうとしていた。
 なので、まさかその逆の言葉が出てくるとは思わなかったのだ。


「本来ならば、そこにいる彼女の力を使い、膨大な魔力を使用して行う儀式がある」
 刹那に押さえこまれたままの明日菜を見る。

「わ、わたしぃ……?」
 やっぱりホントに私なの? という声。昨日9対1でないって言ったじゃないのといった非難の声でもある。

 黄昏の姫御子。明日菜の力である完全魔法無効化能力。それを触媒とした、この世界の消去。
 そこからの理想の世界への移行。それが、フェイト達の目的。

「だが、そのような事をしなくとも、彼の力ならば、この世界を救えるだろう」

 この、滅びゆく魔法世界そのものすら救う事が出来るだろう。


「いい事じゃない。手間かからないなら」
 明日菜が素直に言う。
 周囲の者も、それに同意する。


「だから、気に入らない。あとから現れ、全てを覆す。まるで、デウス・エクス・マキナだ」


「でうすえくすまきな?」
 当然わからないのは神楽坂明日菜。

「『機械仕掛けの神』という意味です。古代演劇で、都合よくハッピーエンドにする存在、もしくはその展開をさして使われた言葉です」
 注釈をいれてくれたのは元祖オデコ、ユエ。

「へー。別にいいじゃない。ねえ?」
「はい」
 その明日菜の言葉に関しては、刹那も同意する。


「だからネギ君。僕に力を貸して、彼を倒すのを手伝って欲しい」


「なんでそーなんのよ! さっきから意味がわかんないわよ!」
「あああ明日菜さん! 落ち着いて。落ち着いてー!」
 またむがーっと暴れようとする明日菜を、刹那が必死に止める。

 だが、気持ちはわからなくもない。


「つまるところ、折角まかされたプロジェクトが、よりよい方法が見つかったからっていきなり潰されるのが気にいらねーって事か?」
 千雨が、思わず思っていた事を言ってしまった。

「そうとも言えるかもしれないね。実際にやめろとはまだ言われていないけど」
 あっさりと肯定する。

「……おいおい」
 ただのガキの言い分じゃねーのか? とか思うが、それは口に出さない。怖くなってきたから。


「理由は他にもあるよ。アレが、僕の主だとは思えないという事もある」


「? どゆことネ?」
 今度は素直なクーが素直に聞き返す。

「確かにアレは、僕の主だ。あのゲートで彼の中に現れたのは、主以外にはない。それは確実だ。だが、ナニカ違うのさ」


「なにそれ? またわけのわからない事を!」
「そうアル!」


(……いや、その感覚って、オメーラが一番得意とするとこじゃねーのか?)
 なんて千雨は思わず思った。


「その根拠は?」
 その感覚とは一番縁遠いネギが聞いた。



「ただの、勘さ」



 そう。明日菜やクーが一番得意とする分野……


「君が勘なんて言葉を使うとは思わなかったよ」
 ネギも、素直にその事を伝える。

「そうだね。自分でも意外に思うよ」

「でも、そんな話を聞いて、僕がイエスと言うと思った?」


「どうだろうね。でも、感じているんだろう? いつか必ず、彼と相対しなくてはいけない日が来ると……」


「「っ!」」
 それは、その場にいた全員が、つかれた図星だった……

 ありえない事ではない。
 だから、みんな力をつけてきた。


 次は、あのような無力な事はないように……



 だが……



「そこまでわかっているのなら、なおイエスとは言わないとわかっているはずだよ? そんな事は、ないんだから」
 ネギが、断言した。


 ネギは、あの人なら、次は負けないと思っていた。
 これは、勘ではなく確信。
 エヴァンジェリンが隣にいる限り、その次など起きないという、確信。



「そうかい。なら残念だね」
 交渉は決裂。ならば、この場に用はない。
 と、フェイトは、くるりときびすを返す。


「でもフェイト!」
 ネギが呼び止める。


「……なんだい?」
 だが、その足は止まらない。
 ゆっくりと、ネギ達から遠ざかっていく。


「君は、その計画が終わったら、なにをするんだい?」
 それは、潰えても、成功に終わっても。どちらにしても。だ。


「……さあ? 僕はね、主への目的意識、忠誠心が設定されていない。だから、こんな行動も出来る。でも、それがなくなったら……なにをするかなんて、考えていないよ」
 あるのは、その計画を達成するという目的だけ。その先の事など、コマである自分は考えてもいない……

 ただ、その言葉を発したフェイトの、その表情は、彼女達からは、見えなかった……


「そう。なら……」



 この場にいた誰もが、想像だにしなかった事を、ネギは、言った。



「……僕と一緒に、『立派な魔法使い』を目指さないかい?」


 場に、新しい衝撃が、走り抜けた。



 思わず、フェイトの足も、止まる。



「ぷっ……」
 思わず笑ったのは、超。
 天才の彼女の予想すら超える、一言だった。
 かつて自分も同じような事は言われた事がある。まさかそれと同じ事を、同じく敵対するフェイトにも向って言うとは思ってもいなかったからだ。
 今までの事を考えれば、無謀極まりない。
 だが、それは、思わずなにかを期待させてしまう一言だった。


「君が意地になるのは、それしか目的を知らないからだ。世界の救済をしたいのなら、もっと別の方法もある。人を助ける仕事もある。本当に世界を救うために動いていたのなら、あの人と戦う必要もないよ」

 すっと、手を差し出す。


「そして、目的が一緒なら、僕達は手をとりあえるはずだよ」


 さらに、そう、つけくわえた。
 笑顔を持って。


 振り返った白い髪をした少年は、驚いたように、ネギを見た。

 そして、小さく笑う。
 どこか、楽しそうに。
 どこか、寂しそうに。


「……残念だけど、僕はまだ計画を変更するつもりはない。君と手を取り合う事もない。僕の計画を潰えさせたいのなら、僕を倒す以外にない」


「……ほんっとに、意地になってんのね」
 その計画とはつまり、自分を利用するわけなので、人事ではない明日菜が、嫌味をこめて言う。


「なんとでも言うがいいさ。これが、僕の意思だ」
 そして、フェイトの体から、プレッシャーが放たれる。


 交渉決裂による退散から、この場で黄昏の姫御子を奪う事に変更したのだ。
 少女達も、臨戦態勢を取ろうとする。


「……なかなかおもしれぇ事になってんな」
「っ!」


 次の瞬間。フェイトの背後に、ラカンが立っていた。


「話は聞いたぜ」


 フェイトは心の中で舌打ちをした。

 足止めに向わせた彼女達は、退けられてしまったようだ……

 ラカンならば、先日入手した切り札『世界の鍵』を使用すれば、なんとかなるかもしれない。
 だが、次に現れるエヴァンジェリンカップルという、この魔法世界の者ではない存在に、それは効かない。

 ここで使用しても、手の内をさらすのみ。
 計画の破綻を早めるだけだ。


 はっきりと言って、先にラカンが来たというのは、詰んだと言ってもいい。


 しかし、これまたフェイトに予想外がふってきた。



「主に逆らう理由が、気にいらねぇからか。いいな。気に入った! よし、俺はこっちにつくぜ!」



 にやりと笑って、右親指で自分を指差し、フェイトの肩に、ぽんと手を置いた。


「なにほざいてんだあんたはー!」
「なに言ってんのよあんたー!」
 つっこみ担当千雨明日菜ーずが思いっきりつっこんだ。


 だが、そのつっこみを持ってしてもそれは止められる事はなかった。


「俺はよ、こいつと組んで、拳闘大会に出る。勝った方の言う事を聞くって事にしようや。お前もアイツと出て、この大会を、世界を賭けた戦いにしようぜ」


 にやりと、そして豪快に。
 凄く楽しそうに。


 伝説の拳闘士は、無茶苦茶な事を言い出した。




──────




 ……どうしてこうなった。


 俺は、うつろな目で、その場に立っている。


 オスティア終戦記念祭六日目。
 拳闘大会ナギ・スプリンフィールド杯決勝戦。

 大闘技場が模擬合戦開催形態に変形し、中央アリーナ部分の直径は300メートル。12万人もの観客を収容出来るように変化した巨大闘技場。
 はるか天高くにそびえ立つ、つわものどもの祭典会場。

 そのファイナルステージの大舞台に、俺は、決勝トーナメント決勝進出者として、その場に立っていた……


「どうしてこうなった……」


 もう一度、この世界的謎について、天に問うてみた。
 だが、答えは返ってこない。



 回想。



 あの日、ラカンが勝手にフェイトと組んで拳闘大会に出るとか言い出した。

 マスターランクのつっこみを持つ明日菜&千雨ちゃんのつっこみを見事にスルーし、到着した俺とエヴァに向って、さらに挑発をする。


 そしたら。


「いいんじゃないか? お前の強さ、そこの自信過剰な女に見せつけてやれ」


 とエヴァンジェリンまで賛成しやがった。


「アホかお前がやれ」

「私の強さはヤツも知っている。お前の強さを知らしめるというのに、それでは意味がないだろう? ヤツも一度、お前にコテンパンにやられてしまえばいい」
 ふふっといたずらっぽく笑った。


 俺をラカンに自慢したいって事ですかー!?


 まーた買いかぶりやがって……


 さらになぜかネギ達は乗り気で。

 勝てば協力が得られますよ。とか。
 そうすれば、敵の内情が聞きだせます。とか。
 その計画が中止に出来れば平和になります。とか
 メリットを色々並べてくる少女達もいた。


 そのあたりはね。『道具』を使えば問答無用で聞き出せたりするから。戦う必要ないから!


 そりゃあ、フェイトをこの地に完全に拘束出来るのは大きいし、勝てばネギの仲間になる可能性もあったりするのなら、願ったりだ。
 ついでに、俺に牙を向いているという事は、俺の中のアレに対しても敵対するって事だ。
 なら、仲間に出来る可能性にかけた方がまだいいって事でもある。

 というか俺の戦いが見たいって奴等が多いだけなんだろうけどな!
 麻帆良祭の時結局戦わなかったから!
 今は、俺と互角に戦える(と思われる)相手がいるから!


 だから、そんな期待した目でみんな、俺を見つめてこないで……


「つーか、コタローどうすんのさ」

 コタローなんてネギが修行している間ずっと予選がんばってたのに、本戦は俺と交代とか、不憫すぎるだろうが!

「に、にーちゃんが俺のかわり。それってつまり、にーちゃんが、俺! 俺のためににーちゃん! さ、最高や!」

「最高なの!?」


 むしろ大喜びされました。なんでや……


 んで、俺出場の件は、コタローの代理って事になって(ネギの代理をトサカがしてたみたいに)、決勝トーナメントなのに、そこいらの細かいルールや手続きなんかはラカンの伝説の拳闘士権限で全部無視されたの……


 というかいつの間にか世界の命運を賭ける羽目になってたので、逃げるに逃げられなくなったのよさ。


 ラカンにいたっては、当初予定していたはずのカゲタロウの試合にフェイトと乱入する形で、カゲタロウごと相手をぶっ倒して強引に参戦する形にしやがったのよ。
 いいのかアレ? 元々あの人と参戦する気だったんだろ? まあ、いいんだろうけど。


 どこまでフリーダムなんだあのおじょーちゃん。
 てか実はラカンこの大会の出資者の一人とかいう噂聞いたけど、マジ?


 ちなみに、一度は正体を隠してジャスティス仮面再びをやろうとしたのだが、プロフィールとか全部主催者側に流されてて、仮面をかぶっているのにスクリーンには正体バレバレという、最悪の覆面ヒーロー正体暴露状態になったりした。
 アレは、マジで、恥ずかしい……


 俺、この姿で出るって、正体秘密って言ったのに……!!



 俺の黒歴史に、また輝かしい栄光が、一ページ。



 誰か、俺を、殺してくれ……


 フェイトの気配を感じた。


 やっぱ死にたかねぇや!



『さあついにやってきました拳闘大会決勝戦! 最初に姿を現したのは、皆様の記憶にも新しい、先日あの大暴露大会のキャストとしても存在し、その混乱の責任をとり王位継承権を辞退した稀代の元王子! さらにはあの偽エヴァンジェリンの婚約者であると高らかに宣言した、話題の存在だー!」

 アナウンサーが、ノリノリで俺の選手入場をアナウンスする。


 わあぁぁぁぁぁぁぁ!!
 歓声があがる。


 話題性たっぷりだからって、そんなに俺の事を説明するなー!
 せっかくクルト総督を前面に出して注目から逃げていたというのに! これで再注目じゃないか!

 しかもニセナギことネギと一緒に出場してるから、偽エヴァンジェリンとニセナギとの三角関係とか面白おかしく報道される始末……!

 俺だけ、俺だけ変装した姿じゃないなんて、理不尽なっ! りふじんなっ!


 俺は、静かに暮らしたかったのに……
 がっくりと、膝を突いた。


「おいおい。何回やるんだよ。もう決勝だぞ」

 試合で紹介されるたび、こうして同じ事を毎回やってます。
 おめぇが参加させたからだよ! バラしたからだよ!!


『そして、おなじみ伝説の拳闘士ー!』


 わあぁぁぁぁぁぁぁ!
 わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
 わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 その顔がフィールドに現れたとたん、大歓声が上がった。
 俺の耳にはもう、その紹介すら聞こえない。


 さすがにすごい人気だ。


『噂によると、この元王子と戦うためにこの拳闘大会に参加したとかいう話もありますね』
『私としては、そうではなく、あ、今入場してきたナギ選手の正体を確かめにきた説を押しますね』


 歓声がやっと途切れ、聞こえてきたアナウンスが語るように、次に入場するのは、俺のパートナー。ナギ。
 ぎりぎりまで修行していたみたいで、下手すると遅刻で俺一人で戦う事に? とか思ったけど、なんとか間に合ってくれた。よかったよかった。


 うわああぁぁぁぁぁぁあぁ!
 ワアァァァァァァァァ!!!


 こちらも、大変な歓声にございます。

『次に姿を見せたのは、今拳闘界でもっとも話題の新人! それは伝説の生まれ変わりか、はたまたただの偽物か! 謎が謎を呼びながらも、ついにここまでやってきた! それは伝説対伝説なのか、それともただの消化試合なのか!! その疑問は、今日、この場で解き明かされます!!』

 アナウンサーも大絶叫。
 ノリノリですね。

『いやー、突然コジロー選手と交代した元王子と伝説の生まれ変わり。話題性たっぷりのこの二人ですが、これまでの戦闘は、ナギ選手一人で圧勝。王子の側の戦闘力はこの決勝戦までまったくの未知数! 今回こそその強さを拝ませてもらえますかね?』
『当然見せなければ勝ち目はないでしょう。なにせ相手はあの伝説の拳闘士ラカン! いくらナギ選手が強かろうと、一人では到底勝ち目はありません!』


 まぁ、ネギが一人で戦ってたのは、修行って意味もあったんだけどね。
 決して俺がサボっていたわけじゃないんだよ? 俺が本気ならホントに瞬殺なんだからね。うそないよ。


『さて。未知数という言葉が出たところで、もう一方の未知数が姿を現しました!』

 その言葉と共に現れるのは、青年の姿のフェイト。今賞金首だから、この姿なのだそうだ(ネギもナギなので今15歳くらいの姿だよ)

『あのラカン選手が連れてきた、謎謎謎。すべてが謎の白髪の若者! その名前すら非公表と、我々アナウンサー泣かせの存在!』
『その上こちらも戦闘はすべてラカン選手任せ。おかげでこちらもその実力は未知数! しかし、ラカン選手のパートナーという事は、それ相応に期待されます!』


 そしてあっちはなぜかプロフィール非公開! 差別だ! さべつだー!
 いや、公開しちゃだめなのわかるけどさ!

 あのおじょーちゃん俺を本気にさせるためワザとやってんだろ。疑いようないだろこれ。


『ついにそろったこの四名! これよりはじまる一戦は、伝説となるのか! はたまた、若者の夢と消えるのか! あとは皆様、ゴングを待つのみです!!』


 アナウンサーの絶叫と共に、一度舞台は静まり返る。


 フェイトはネギの前に立ち、ラカンは俺の前に立った。

「正直、こんな茶番につきあう必要はないけれど、あの『千の刃』が力を貸してくれるというんだ。僕としてはこの最大のチャンスを逃す手はないね」
 戦力増強の上、逃げ場もなく殺してしまっても罪にはならない場を用意してくれたのだ。罪などフェイトは気にしていないが、逃げ場がなく、ラカンが味方になるというのは無視出来ない。

「させないよフェイト。これで僕が勝ったら、諦めてもらえるね?」

「敗者は勝者に従う。そうだろう?」

「うん。わかりやすいね」
 ネギはフェイトに微笑んだ。

「……だが僕は、君の成長は認めているが、今はまだ、僕のレベルには達していないと判断している」
 フェイトは、ラカンからネギがなにを習得したのかは聞かされていない。それじゃ面白くねぇだろ。と、情報は出してもらえなかったからだ。
 なにより、決勝に至るまでの、ラカンの知らない数日で、成長もとげているだろうから。

 得られた情報は今までの試合からのみ。それを踏まえても、自分を超えるにはいたっていないと判断していた。

「……」

「だから、君を戦闘不能にし、二対一で彼を殺す。それを、君は防げるかい?」

「……出来るよ。僕は、君に勝つ」


 相対する二人は、ゆっくりと構えをとる。



 一方フェイトの最大のチャンス発言のあと。俺は……

「まったくだよ。あほ」
 ラカンに恨みの言葉を飛ばしていた。

「はっ、いいじゃねぇか。祭りを楽しめよ」

「俺は見ている方が好きなんだよ。もしくは主催者側。傍観者。裏方」

「残念お前は参加者だ。かっこいいとこ見せてやれや」
 くいっと、観客席にいる少女達を。むしろエヴァを親指で差す。

「だから喧嘩は嫌いだって言ったのになぁ……」

「はっ、喧嘩じゃねぇさ」


 ぐっと、ラカンが拳を握る。


「バトルだ!」


 うんうん。まあ、言いたい事はわかる。
 喧嘩と拳闘は違うって事よね。わかるけど、そーいう意味じゃないのよね。


 でもま、戦いたくない。なんてのは今さらだ。
 ここまできたら、こっちも覚悟を決めて、行きましょうかね。
 相応の『準備』もしてきた事はしてきたし……



 そして、戦いのゴングが、打ち鳴らされた!!



 フェイトとネギが、構えを取る。
 一方俺とラカンは、ネギ達から離れるように、二人で歩き出す。


『おおーとこれはー!』
『示し合わせたように、一対一の形をとったー!』


 相対するネギとフェイトの間に、空気の緊張が生まれる。
 ゆっくりと二人はその間合いを詰め。

 その間合いが重なった瞬間。
 引き絞った弓のつるがはじけるようにして。

 二人の戦いが、はじまった……!!
 


 歩く背後から、ネギとフェイトの激しい戦いの音が響いてくるのが聞こえた。
 すげぇなぁ。なんであんなふうに戦えるんだ? 人間じゃねーだろ。

 石と雷と風。それとぶつかりあうような音に、大歓声。
 ド派手な戦いをしているようだね。


 一方の俺達は、のんびりと、最初にいた位置より、100メートル近くをゆっくり歩いて移動した。
 この短い時間に、あっちではどれだけの激闘が繰り広げられるのやら。


「さて、こんなもんでいーか?」


 ラカンが足を止め、俺の方を見る。


「まあ、いいんじゃね? 俺はどこでも平気だし」

「余裕だなお前。なんだ? まさか女は殴れねぇなんて言わねえよな?」

「正直言いたいけど、大丈夫。あんたなら心は痛まない」

「ちょっと待て、引っかかる言い方だぞソレ」
「ちっとも待たない。全力でぶん殴る」
 俺は、右拳を握った。

「いぃだろう、俺も全力でぶん殴る」
 ラカンも同じく、右拳を握った。

「OKOK。んじゃあ、最初っから一撃必殺で決めようぜ。ちまちました打ち合いや腹の探りあいなんて無意味なように」

「おいおい、お客を楽しませるエンターテイメント性皆無かよ」
「俺は先日たっぷり楽しませたばっかりだからさ。今度は圧倒的強さ、秒殺ショーをお見せしようかと」
 にぃっと笑う。

「ほぉ。言うじゃねぇか」
 ぴきぴきと、挑発が効いている。


 まぁ、頭ン中は冷静なんだろうけど、この人。


「あんたが強いのは誰もがわかってんだ。それ以上に強いってのをアピールするには、そんなあんたを楽勝。秒殺。無傷。このくらい必要だろ?」

 指を一本ずつ立て、三つアピール。


「だからよ……」


 相手に一撃を出させるため、再び拳を握り、両手を一度胸の前でクロスさせ、気合をいれ、力を解放する。


 ドゥン!


 俺の内側から、力の本流が、流れ出た。

 前にも一度使った、『能力カセット』、ラカンその人の力だ。
 それを、再び魅せるのに使う。


「っ! こいつは……」


 さすがに気づくか。自分と同じ力。


「こいつであんたと俺は、まったく互角だ。だが、俺はここに、俺の力を加える事が出来る」


「アルみてえな事しやがって……」
(いや、さらに足せるって、ホントならアル以上かよ)
 さらにラカンの脳裏には、あの闇の魔法で生まれたスーツの存在が思い浮かぶ。マジかもしれないという懸念が当然生まれる。
 自分+闇の魔法+α。……オイオイマジかよ。だ。


「……後悔しないよう、全力できな。チャンスはこの一回きりだぜ? 次の拳では、あんたをはり倒してる」
 くいっと手を引いた。


 これで、チャンスが本当にこの一回しかない事がわかるだろう。
 なんせ俺の持つのは、あんた自身の力だ。あんたが一番よく知っている。

 あんたを倒すのに、小技でチマチマやりあっても、無意味。


 相手も、ソレに気づいたようだ。


「いいねぇ。この格上と戦う感覚。久しぶりだぜ!」
 ラカンの雰囲気が、変わる。


 ざわっ……
 闘技場の外へと漏れた俺とラカンの気あたりで、観客全体が震える。

 圧倒的なプレッシャーに、こちらへの歓声そのものが、消えた。


『な、なんというパフォーマンス! いきなりです。いきなり一撃必殺の打ち合いー! 打ち合いを所望しましたー!』
『なんと……これは、ただの馬鹿なのか、それとも大馬鹿なのか! 見逃すわけには、いきませんな……!』
『一方の謎の青年VSナギ選手も、とんでもない事になっています! 石柱が生えています! ものすごい数の針を召喚しました! って、発動前にナギ選手くぐりぬけて殴った!? 早い。早いというか、ナギ選手雷になってませんか!?』
『なってますね。しかし、その雷の圧倒的速度を、全方位に砂の壁を置く事で防いでいます。どちらも上級魔術師も真っ青の魔法ですよ! 目が追いつきません!!』

 どっちに注目すればいいのか混乱する観客なんか知った事はなく。
 俺達は、目の前の相手に集中する。


 この拳闘大会で、はじめてラカンが構えをとった。
『ラ、ラカン選手構えたああぁぁぁぁ!』


「おもしれぇ! いっちばん力が残っている状態で、いっちばんの一撃をくらわしてやる! その余裕、後悔しろよ!」
 先手必勝!
 右手に、力が集まる!!


「さいだいぃぃ!」
 集まった力を、拳にこめる。


 その力に、闘技場そのものが、揺れる。

「す、凄いアル」
「な、なんと……!」
「これは……」
 ソレを見た、クー、楓、刹那が、思わず声を上げる。
 その場から見るラカンの周囲は、力によりその像が歪んでさえ見えた……


「ラカン!」


 気を最高に高め、万全の状態で放たれる、一撃。
 一切の遊びも手心もない、ラカン最大の一撃!


「インパクトォォォ!!」


 その光が、俺の元へと放たれた。



 その一撃は、全てを破壊する、エネルギーの奔流。



 ソレを見ていた者すべてが、驚愕する。
 その一撃の強大さだけではない。

 受けた方の予想外な行動に、全員が目玉を飛び出さんばかりに驚かされたからだ。



 それは……



 俺は、それを、なにもする事なく、受け止めた。
 いや、受け止めるという表現は正しくない。

 正確に言うと、その攻撃は、ただポケットに両の手を入れ、直立する俺の腹に……



 ……直撃した。



「なっ!?」
 撃ったラカンですら、その光景に目を疑う。

「にーちゃん!?」
「なんと!」
 観客席にいる、彼をよく知るものですら、その目を疑う光景であった。

「……」
 しかしその中で、たった一人だけは、冷静にそれを見つめ、にやりと笑った。


 彼に絶対の信頼を置く一人を除いて、観客全員が、その光景に目を疑った。


 圧倒的な挑発をみせた彼が、防御も回避もせず、あろうことかポケットに手まで入れ、そのまま無防備に、その攻撃を受けたのだ。


 予想外の事態は、さらに続く。
 なんとその一撃は、爆発も、破裂も、衝撃波も起こさず、全ての威力が、彼の体に、吸いこまれたのだ……


 それは、そのエネルギーを吸収したわけではない。
 ダメージを散らしたわけでもない。

 彼は、なんの傷も負わず、その一撃を、ただ受け止めていたのだ。


「な、なにがおきたんや……?」
 コタローが思わず声を漏らす。



「ごはっ……」
 闘技場の中で、動きがあった……



 腹を押さえ、血を吐き、膝をついたのは、その一撃を放った、ラカンだった。


「なっ……、なにが、起きやがった……」
 思わず、うめく。


 ええええええー!?
 観客もただ驚くしか出来ない。
 理解不能である。


「いやはや、あんた、自分の攻撃の2倍のダメージをくらって、それだけなのかよ」
 そして俺も、そのタフさに驚いた。


「っ!? なん、だと?」


「種明かしをしてあげよう。そうだな。名前は、宇宙忍法。倍返し。なんて言ったトコかな。あんたは、俺の防御をつきやぶれなかった」
 ポケットから両手を出し、手を広げる。タネも仕掛けもございます。
 にんにん。


『ば、倍返しー!? ソレはつまり、防いだだけでなく、いつの間にかダメージを二倍にして返したというのかー!!!』
 俺の声を拾った解説席の人が高らかに叫ぶ。



 うえええぇぇぇぇぇぇ!?
 観客席はもう驚きの坩堝だ。



 当然。宇宙忍法なんかじゃない。
 『道具』を使わせてもらった。


『痛み倍返しミラー』
 これを持つ者が受けたダメージは、そのまま倍にして相手に返すという道具。
 その上、このミラーを持つ者は、無傷で。そう。無傷で!!
 ただし、このミラーを持って相手を傷つけると、今度はそのダメージを自分が受ける事になるというデメリットが存在する。


 つまり、これがあれば、実質ダメージは受けない!
 ポケットに手を入れた時、こいつを握っておいたってわけさ。
 ゆえに挑発したわけさ。

 流石のラカンも、自分と同等の力を持ったヤツが、攻撃反射をするなんて思ってもいなかったようだ。


「それじゃ、今度はこっちの番だ」
 あの一撃で倒れなかった場合。そのための、保険もちゃんと用意しておいた。
 というか、今回はカウンター系最強の布陣を敷いておいた。


 のちに、周囲の者は、俺の背中に、一対の翼が見えたと語った。


 俺の頭の上。

 その翼の中心に、光が集まる。


 シロートにすら、その時集まった力の光がはっきり見えたのだという。
 集まった力の奔流で、俺の体が少しだけ浮かび上がる。
 その背に光る力はまるで、彼の背中に生えた翼のようであり、光の中に舞い降りた、天の使いのようにも見えたのだという。


 正確には、肩につけられた『道具』が、ラカンの技を真似た余波によってそう見えただけなのだけど。
 ミラーはとっくに手元にないので、『道具』で透明にして装着していた、その『道具』の発動を待つ。



『お返しハンド』
 両肩につける、機械の腕。これをつけていると、その人が受けた事を、この道具が3倍にして返す。
 12000のパワーで殴られたのなら、36000のパワーで殴り返すのだ。はっきり言って洒落にならない。
 ただし、受けた恩も3倍にして返すので、使いどころを間違えると大変な事になる。



 つまり、このカウンター系最強布陣は、こっちは無傷で、相手に2倍ダメージを返して、さらに3倍の威力の攻撃で追い討ちするのだ!



「っうぅぅぅ!?」
 ラカンの目が、驚愕に染まった。


 観客席にいた者達も、驚きを隠せない。



 先ほどラカンが放った一撃の、3倍はある力が、そこに集まっているのがわかったからだ。



「マジで受けろよ。ま、死んでも安心しな。生き返らせる事、出来るから」
 ラカンを見て、俺は真面目に言う。今、『能力カセット』のおかげで、ラカンの力を使える俺だからわかる。これは、洒落にならない。


 だが、ここはあえて、最後は笑顔。


「やっ、べぇ」
 マジになったラカンが、防御の体制をとる。
 だが、それは無駄だった。



「いくぜ。三倍ラカンインパクト」



 翼が、光を放った。



 次の瞬間、闘技場の障壁を突きぬけ、その壁も突きぬけ、選手控え室はおろか、闘技場の外壁をこえ、新オスティアの中心にある広場へと、ラカンは吹っ飛んでいった……


 広場のど真ん中。その床に大の字に突き刺さるラカン。
 幸い、この闘技場は、通常より高い場所にあり、上から下への打ち下ろしだったため、人的被害は出なかった。


 しんっ……

「……」
 闘技場が、静まり返っている音が聞こえる。


「えーっと、ちょっとやりすぎちゃった」
 てへっと俺はカメラに向って笑った。



 大歓声が、俺の鼓膜に突き刺さった。



『あ、圧倒的いぃぃぃ! 元王子、圧倒的イィィィ! 圧倒的過ぎるうぅぅぅぅ!』
『か、カウントが入りました! というかラカン選手、どこまで吹っ飛んでいっちゃったんでしょう! これ場外とかありませんよね!?』
『ありません。というか、ありえません! だってあの障壁、連合艦の艦載砲すら防ぐものですよ。その先には緊急障壁まであるんです。人間が破れるはずないんです!』
『破れましたねー』
『ましたねー。あ、今情報が入ってきました! ラカン選手、新オスティア広場まで飛ばされたそうです! 映像、出ます!』

 闘技場に設置してあるモニターには、大の字でぶっ倒れるラカンの姿があった。
 ピクリとも動かないが、一応胸は上下しているので、生きてはいるようだ。


「1、ゼロ! KOー!!」

 カウントが0になった。


 大歓声が、俺をつつむ。


「にーちゃん勝ったでー!」
「す、すごい……本当に、すごいです……」
「忍術まで使えるのでござるか……」
「アイヤー。また遠くなったアルなぁ」


「ふん。当然の結果だ」
 一人大満足のエヴァンジェリンは、当然だとふんぞり返った。

(だが、やはりあいつは、敵に対して容赦がないな……)
 攻撃直前の笑みを見て、本当にそう思う。敵に回せば、再戦を挑むのが馬鹿らしくなるくらいの差で、叩き潰してくるのだ。自身にも覚えがある。あれは、本当に怖い。怖かった。
 ただ、挑んだのはラカン自身なのだから、同情はしない。
 これで少しは、あいつも大人しくなるだろう。


「だが、問題は、むこうだ」
 気を取り直し、視線を、もう一方の戦いへと向ける。


『だがまだ試合はおわらなーい! 残った謎の青年が倒れない限り、この試合はまだ決着しなーい!』



 アナウンサーの声と共に、視線は残ったもう一方の戦いへと動く。




──────




 歓声のボルテージが高まる中。

 一方ネギとフェイトの戦いも、佳境を迎えようとしていた。


 時は少し巻き戻る。


 天より大量に舞い落ちる冥府の石柱を、ネギは千の雷をその体に纏い、かわし、上空にいるフェイトへと接近。一撃を与える。

 だが、拳を捕まれ、同じように拳を振るったフェイトの拳をネギもつかみ、そのまま力比べとなった。


 その背後に響く、闘技場を揺るがす一撃。


 三倍ラカンインパクトにより、闘技場に穴が開いた音だった。


 あまりの事に、力比べのまま、二人はそこを見る。


 そこに無傷で立ち、埃を払うのは、ネギの相棒。
 それはまさに、楽勝。秒殺。無傷の三拍子だった。



 つまり、倒されたのは……



「す、すごい……」

「あの『千の刃』を、雑魚あつかい、か」

「これで君の勝ち目はもうないね」
 にっとネギが笑う。

「……だからといって、僕が降伏すると思うかい?」

「思わないよ。それに、君は、僕が倒す!」


 ばっと、二人が離れ、距離をとる。


「君が、僕を? 足止めではなく?」

「うん。だから、これで、決めるよ」
 ネギが、ぐっと拳を握った。
 それは、彼がラカンを挑発した流れに、少し似ていた。


「……いいだろう。僕もここで君を倒せなければ、そのまま二対一だ。彼が援軍に来れば、君の存在は無意味だけど」


「知ってる。だから、ここで決めるんだ」

「いいよ。相手になってあげよう」
 フェイトが、拳を握った。

「うんじゃあ、行くよ」


 そう言ったあと、ネギは手でメガホンを作って。


「みなさーん! 僕と彼、好きな方の応援をお願いしまーす!」


 と、高らかに叫んだ。


 そして、両手を挙げ、拍手を促す。


「……」
 あまりの事に、フェイトも一瞬ずるっと肩を落とした。


『おーっと、こちらもなにか仕掛けるようだー! では私は、ナギ選手をー!』
『あ、なら私は青年の方をー! せーいねん!』
『ナーギ!』
 アナウンサー。ノリノリである。

「ナーギ! ナーギ! ナーギ! ナーギ!」
「青、年! 青年! 青年! 青年!」
 フェイトの方は名前が公表されていないので、青年とコールが響いた。


 ネギの手拍子に合わせ、ナギコールと青年コールが生まれる。
 二人の背に、応援が降り注ぐ。


「……どういうつもりだい?」
「ふふ、これが、僕の切り札さ」


 ぐっと両手をクロスさせ、思い切り開く。
 それは、彼がラカンに挑発のため見せた動きに似ていたが、最後ネギの手が平手だったのが違う。


「っ!?」
 フェイトのその反応も、ラカンに似ていた。
 だが、ラカンが感じた力とは、明らかに違う。

 それは、外からネギへ、流れる力を感じたからだ。
 通常ならば、その力は、その人の内から外へとあふれ出す。


 それとは逆の事が、ネギには起きていたからだ。


 闘技場に存在する、人々の力が、ネギを応援する言葉と共に、そのネギへと集まってゆくからだ。


「な、なんだ、これは……」

 フェイトは、このような魔法、知らない……


 ネギが『闇の魔法』を捨て、みずから手に入れた、ネギの魔法。

 それは、『闇の魔法』と同じく、体に魔法を装備する技法である。
 ただし、大きく違う点が一つ。闇の魔法は体にその魔法を『取り込み』、力を得るが、これは、体に『纏う』。彼の使うスーツのように、一体となるのではなく、体に着込み、その力を格段にアップさせるのである。


 これならば、体や魂を餌に、闇に侵される事はない。


 ただし、リスクが少ない分、その制御難易度は、『闇の魔法』を軽く上回るが、彼女にとっては、そのような問題、些細な事であった。
 消耗については、のちに理由を説明する。

 この点だけを見れば、これは『闇の魔法』の改良に見える。

 だが、この魔法の本質は、『闇の魔法』とはほぼ逆である。


 『闇の魔法』が敵の気弾、呪文に拘らず敵の力を我が物とする事を究極とするなら、この『ネギの魔法』は、その間逆。
 すなわち、味方の気、魔力に拘らず、味方の力を我がモノとする。
 その魔法は、味方として応援する人達の力を一つにまとめ、それを自分の力にするのだ。

 『闇の魔法』は、魂を削り、己が身体に魔法を宿らせ、力を使う。
 その真髄は、すべてを飲みこむ力。

 だがこれは、他者から力を借り、他者の力に包まれ、それを自分の中で調和させ、力を使う。
 その真髄は、全てを包みこむ力。


 人と人とを繋ぐ力。

 それは、仲間の力を、一つにする魔法!!
 気も、魔法も一つにあわせ、強大な敵への一撃を、協力する人すべてで放つための技。
 仲間と力をあわせる、そのための、力。

 これが、机の上で新たなる魔法理論と魔法技術を開発する事を独壇場とする天才が作り上げた、新しい魔法。
 これが、ネギの見つけた、ネギの道。

 仲間の力を最大に引き出して、自分の力も最大に引き出し共に戦うスタイルに、その力を一点にまとめる魔法。
 エヴァンジェリンの教えによって産まれたスタイルに、自分で歩み見つけた道の到達点。


 なにより、消耗の高い魔法装備への消費も、周囲の力を借りる事によって軽減させている。これもまた、『闇の魔法』とは違う点である!


 高めた力を一つにまとめ、仲間全員と共に戦うための呪文。


 それが、『ネギの魔法』



 我々にとてもわかりやすく表現してしまえば、ソレは『元気玉』である。



 それを、身に纏い、攻撃する!!

 仲間がいればいるほど、味方が多ければ多いほど、その威力は無限に上がってゆく! 無限に、強くなってゆく!
 気も、魔力も、なにもかもを、自身の力へと変えて!



 フェイトは、びりびりと、その威圧を感じた。



 ネギに力が集まってゆく。
 それはまるで、この場にいる人達全ての力が、彼女に集まっているかのようだった。
 その全てが、自分の相手であるかのようだった……!


「いけー! ネ……ナギー!」
 一瞬言い間違えそうになったコタローが観客席から叫ぶ。

「ネギー!」
「ネギくーん!」
(ネギ先生!!)
「いくネー!」
 こっそり。声援に紛れ、小さくネギの本名で応援する。
 明日菜が、木乃香が、刹那が、クーが。
 楓が、朝倉が、さよが、のどかが、夕映が、パルが、千雨が、超が、茶々丸が。


 その応援が、ネギの力へとかわる!


「がんばー」
 おまけで闘技場内にいる黒髪の少年も応援する。

「ふふ、まさか、こうくるとはな……」
 その光景を見たエヴァも、弟子の成長に、どこか感慨深そうであった……

 自身の生み出した魔法を継ぐのではなく、超えていった、その弟子の姿に……


 たった一人の力ではフェイトに勝てないだろう。
 だが、今のネギには、自分だけではなく、この場で応援してくれる観客全てが、自身の力なのだ!


 先ほどの彼が放った一撃が、ラカンの強さ、12000の3倍の威力。36000だとしよう。

 今回この魔法の範囲はアリーナ全体。
 このアリーナの最大収容人数は12万人!
 当然、この試合の観客数は、満員!

 その半分がネギを応援していれば、ネギの味方は6万人!
 その力。一人たった1しかないとしても、その威力はなんと、6万の戦闘力に匹敵する!
 ラカンの5倍の力に匹敵する!!


 その力が、自分の目の前に集まった事を、フェイトは感じていた!


「僕は、あの人みたいに万能じゃないから、これで、死なないでおくれよ……」
 拳を握り、構えたネギが、フェイトへと告げる。



 ──無茶を言う!
 正直に出た感想が、それである。



 ネギの体が、自分にせまりくる。

 全ての力を、防御に回す。

 これの恐ろしいところは、その一撃は、全て他人の力!

 放ったところで、自身は制御と放出以外の消費はない!
 これを耐えるだけでは、話にならない……!!


 だが、耐えなくては、死んでしまうっ!
 消し飛んでしまう!


 闘技場の大地を持ち上げ、壁とする。
 だが、それはガラスでも割るかのように打ち砕かれた。


「あっ、あ、あああぁあぁぁぁぁぁ!」
 喉から声にならない一声を上げ、フェイトは壁を作り上げる。


 最強の障壁を展開する。
 砕かれる。


 展開する。
 砕かれる。


 展開。
 砕く。


 展!
 砕!


 次々と盾が砕かれ、その拳での一撃は、フェイトの元へと向ってくる。
 体に纏う。それはつまり、その威力全てが、ロスなく自分の体へ叩きこまれるというのか……!


 障壁が全て失われた。
 とっさに、そのせまり来た拳を、両の手で挟み、止める。


「あああああああああ!」
 ネギが、吼えた。


 両の手がはじかれ、そのままその拳が、フェイトの顔面へと叩きこまれた……!!



 光。
 爆音。



 衝撃。



 壁。
 障壁。
 貫通。



 闘技場の障壁を突き破り、壁も突き破った。さらに、その威力は闘技場全ての壁を抜け。これまた、新オスティア広場へと突き刺さる。


 しかし、フェイトの体は、闘技場の壁に大の字で突き刺さった状態で存在していた。


 ネギが、死なない程度に、その威力を背後に逃がしたのだ。
 ゆえに、その背後がとんでもない被害になっているが、彼の体は、無事だ。

 ただ、不幸だったのは、突き抜けた先に、ラカンが転がっていた事。
 あまった余波は、ちゅどーんと彼女の体をもう一回吹っ飛ばした……



 壁にめりこみ、フェイトはそのまま、活動を停止させた……



 観客も、アナウンサーさえも、その光景を見て、言葉を発せず動きと止めていた。



 カウントがはじまる。


 永劫とも思える20カウントが進む。


「3!」

 明日菜と木乃香が抱き合う。

「2!」

 コタローが、フェンスを飛び越える準備をする。

「1!」

 皆がガッツポーズをとる!


 ぴくり。フェイトがその身を、振るわせ、壁を抜け出した!



 しーん。



 すべてが、とまる。
 唯一響くのは、フェイトが抜け出した事により、崩れ落ちる壁の音。


 その前に立つのは、フェイトを打ち抜いた、ネギ。


 ふらつく体で、フェイトが、ネギを見た。
 ネギも、フェイトを見て、ゆっくりと、微笑んだ。


「……まだやる?」

「……いや、僕の負けだ……もう、指一本動かす事も、出来ない」


 だから、君の勝ちだ……


 そのままフェイトが力尽き、ネギは倒れるフェイトを抱きとめた。



 そう、フェイトの口から告げられると、闘技場は歓声の渦に包まれた。



「KO! 勝者、ナギ選手!!」


 その言葉と共に、最大の歓声が、闘技場全てを包んだ。


「……」
 薄れ行く意識の中でフェイトは、ぼんやりと思った。

 彼女が使ったのは、会場から集めた応援の力。
 彼女の力になりたいと願った者達の、ほんの少しの力。
 さらに、万一周囲に人がいないとしても、『自然』が彼女に味方すれば……


 つまり、その気になれば、どこまでも戦えるという事だ。


 彼女に、力を貸すものがいる限り……
 彼女に味方がいる限り……


 人と人とが繋がり、大きな力となる……
 僕のような存在には、決してマネできない技だった……



 完敗だ……


 しかも彼女は、自身の力を残して、だ……



 なのに、なぜだろう。どこか、すがすがしい……
 数日、あのラカンと共に居たせいか、自分にもわからない変化があったのだろうか……?
 もちっと楽しめなどとも言われたが、それとは、違う気がする……


 その時彼は、自分に手をさしのべた、ネギの姿を思い出した。
 ただのコマでしかない自分に、差し伸べられたあの手を……

 その少女の、笑顔を……


(……ああ、そういう、事なのか)

 変化は、その時から、はじまっていたのか……



 フェイトは、どこか晴れやかな気持ちで、そのまま意識を失った。



「優勝! 優……は、ナギ…手と……選手!」
 アナウンサーの言葉すら、その歓声にかき消されるほどの大音量。


 圧倒的な、盛り上がりであった。




 こうして、オスティア終戦記念祭、ナギ・スプリングフィールド杯は、幕を閉じた。




───────




 バトルが終わって夜。


 みんなの治療なんかも終わって、闘技場の一室。


「くっくっく、どうだラカン! 完敗した感想は! 観衆の前でコテンパンにやられた気分は! どうだ! どうだったぁ!?」

 いじめっこがおんなのひとをいじめてます。

「うがあぁぁぁあぁ! うるせぇぇぇ! なんでお前に言われなきゃならねぇんだあぁぁぁ!」

「貴様が相手の実力もわからず挑むのが悪いからさぁ! 恥ずかしい。ああ恥ずかしいなぁ!」

「うがあぁぁぁぁ!」
 頭を抱えて転げまわるラカンがおります。


 ……それ、全部お前にも当てはまるじゃん。
 なんて言ったら、怒られっかな。


「……なにか言ったか?」
 じろりとエヴァンジェリンに睨まれたー!

「いいえなんも言ってません! 思ってません!」
 最近俺等の以心伝心率が高すぎる気がする。


「元気やなぁ」
 広場まで吹っ飛ばされて死にかけていたラカンがもう元気に動いてまわるのを見て、木乃香嬢ちゃんが面白そうに言った。

 まぁ、『道具』や魔法を使って治したからね。
 つか、二度もアレで吹っ飛ばされて、生きてるあのおじょーちゃんもおじょーちゃんだけどな。さすがバグキャラ。


「あっちはそっとしておきなさい」

「そやなー。さー、パーティーやろー!」


「あ、少し待ってくれないか?」


 おー! と優勝パーティー開始をはじめようとしたところで、フェイトが声を上げた。


「なんやー? せっかくの空気乱しよって。お前の加入パーティーでもあるんやぞ」
 コタローがつっかかる。

「君達の仲間になったつもりはないけれどね」

「負けたらいう事を聞くで仲間になったやん? ネギと『立派な魔法使い』めざすんやろ?」

「言い換えよう。君と仲間になったつもりはないという事だ」

「なんやと~」
 目を吊り上げ、コタローが指をぽきぽき鳴らす。


 それはまさに一触即発。


「あー、コタローちょっと待って」
 なので、俺が止める。

「なんやにーちゃん。とめんといてや!」

「暴れ足りないのはわかるけど、彼がなにか言いたい事があるみたいだから、それを言わせてからにしよう。そのためにパーティーがはじまるのを止めたんだろ?」

「そういう事さ。話がわかる人がいて助かるよ」


 むきーっとなっているが、そのコタローは茶々丸さんと楓君がつかんで退場させてくれた。
 他にも頭に血が上りやすい子はちょっと離れていてね。


「それで、なに? そのうち俺を殺すとか宣言するのはやめてな。それとも、君の計画のかわりを先に済ます?」

「それはまた別の問題として。君達に話しておいた方がいい事が一つあるからね。このままでは、また別の問題が発生するから」

 別がたくさんあってわかりにくいよ。


 つまり、早急に話しておかなくてはいけない俺達の知らない問題があると。


「僕はもう計画を諦めたけど、まだ諦めていない者が一人いる。彼は、僕と同じ計画を進めつつ、最終的に別の目的を達成しようとしていた」

「ほうほう」


「それは、僕達の主の復活」


「え?」
 みんなの視線が、俺に集まる。

「いや、不完全なヨリシロである彼ではなく、彼の体を操った意思の宿る真の器の事さ。それを今回のゲートの一件で集まった魔力を使い、封印から解放し、万全の状態となったその上で、彼の力を奪う。つまり、まだ完全には終わっていないよ」


 その言葉が響いた瞬間、部屋の空気が少し重くなった。


「まあ、最終的に主が復活すれば、僕の目的も達成されたから、それでよかったんだけど……」

 と、フェイトは俺を見る。


「その復活する主が、本当に僕の知る主ではない可能性があるからね」


 まー、そっちの主は元々俺の知識にないヤツだから、本当に違うのか原作どおりなのかわからないけどな。


「ラスボスの復活ってわけね……」
 明日菜がわかりやすく言ってくれた。

「あ、明日菜が、言ってる事を、理解した……?」

 誰かの言葉に、ざわっと部屋があわだつ。

「つまりソレを阻止すれば終わりって事アルよ!」
「クーまで事態を理解しただと!!」
 こっちの驚きは千雨嬢ちゃん。

「……これは、世界の終わりが近づいているのかもネ」
 超が真面目な顔で言った。

「ひどい!」
「ひどいアル!」


 一同笑った。


「それで、その準備。魔力が集まり終わるのは、いつなの?」

 ネギがフェイトに近づいて、聞く。

「……」
 だが、フェイトはなぜか、視線を外してネギから一定の距離をとる。

「? どうしたの?」

「なんでもないよ。慣れないだけさ……」

「……キター!!」
「キター!!」
 ぎゅぴーんと、パルとカモが二人で跳ねた。

「……」
 そしてノドカちゃんがむーっとフェイトを見ている。


 ……いやいや、あれ単にまだ戸惑っているだけだから。この先どうなるかはわからんけど。
 てか、フェイトには彼を慕う女の子が五人くらいいるから。って、あれの矢印は女の子→フェイトか。まいっか。


「それで、その復活準備が整うのは、いつかな?」

 そのまま追いかけっこされても埒が明かないので、俺が聞く。
 というかネギ、追いかけるのちょっと楽しそうにするのやめなさい。あのフェイトがそうなるのが珍しいのはわかるけど。


「明日だよ。明日の夜。正確に言えば、明後日の0時と言えばわかりやすいかもしれない」


 場の空気が完全に凍った。


「なっ、なななななな。なんでそんな事、今まで黙ってたのー!」
 最初に爆発したのは、まっすぐ明日菜。

「馬鹿な事を言わないでほしいね。さっきまで僕達は敵同士だったからだよ」


 そりゃそうだ。
 そして、今仲間で、期限が明日だから、パーティーを邪魔してでも教えてくれたって事だ。


「つまり、この数日は、完全に時間稼ぎされたって事か」
 ちなみに、フェイトと出会ったのは祭りの初日。決勝の今日は祭り6日目なので、5日くらい相手に時間を与えた計算になる。


「……おい」
 エヴァンジェリンが、ラカンに冷たい声で言う。

「……な、なんだ?」
 言われて、一瞬びくっとしたラカンがいる。

「お前が試合をしたいなんて言っているから、敵に時間の余裕が出来て、我々には時間がなくなったぞ」
「うぐっ……」


 見事に痛いところをつきまくりました。
 まあ、確かに事実だね。


「貴様が趣味と気まぐれであいつと戦いたいなどと言うからこうなるのだ」
「お前だってその強さを見ておけとノリノリだったじゃねぇか!」


 ぎゃーぎゃーと最年長二人組が責任の擦り付け合いをする。


「つまりオメーラ二人の大人気なさが原因だろ」
 辛辣つっこみ担当千雨嬢ちゃんがきっぱりと言う。


 うん。こればっかりはフォロー出来ねぇわ。


「まあ、それは確かに失敗だったけど、まだ時間はあるだろ? なら、ここでそう言っても仕方がない。あっちの策略が見事だったと言っておこうや」


 責任を擦り付け合う大人はほおっておいて、子供達をなだめるために言う。
 一応子供達も、俺VSラカンとかに期待した子がいるし。


「それに……」

 そう言いながら、俺はポケットから一つの『道具』を取り出した。



「それが相手の策略なら、成功していると思っている今が、最高の奇襲タイミングだと思わないか?」


 俺は、にやりと笑った。



 一瞬きょとんとしていた年長者達も、すぐ俺の意図を理解し、にやりと笑う。




──────




「ふふ、予期せぬ時間稼ぎが成功した。これならば、間に合うであろう」


 魔力の満ちたりを測り、デュナミスは氷の棺に入ったまま、儀式の場を見上げた。
 本来なら、そこに黄昏の姫御子が座するはずだが、その儀式とはまた別の儀式だ。

 この祭壇に、魔法世界全土の魔力が満ちた時、封印されし主は真のヨリシロを伴い、復活する。


 テルティウムがみずからの計画にこだわった結果、祭りの間トーナメントに参加するという予想外の時間稼ぎが成功したのが幸いした。


 あとは、明日、魔力が完全に満ちるのを待てばいい!


 さすれば、我が主は蘇る!



「そして、復活した主に、クルトやタカミチをぼっこぼこにしていただく!」
 これで、勝つる!


 心の中で、デュナミスはガッツポーズをあげた。


「……ふーん」
「っ!?」

 その声は、背後から響いた。


 氷の棺にまだ入っているデュナミスは、その顔をなんとか曲げ、そこを見た。


「はい。どーも」
 少しけだるげに、手を上げる黒髪の少年。その後ろから、ぞろぞろと、ピンク色のドアから姿を現すエヴァンジェリン、ラカン、フェイト、ネギなどなどの姿があった。


 みんなも知ってるあの道具。『どこでもドア』から、続々と。


「……え?」
 目が点になるのはデュナミス。
 転移妨害は、バッチリかかっていたはずですよ?
 メガロメセンブリアの者達とは、桁が違うはずですよ?


 だが、科学の塊であるワープ装置は、その技術を知らないものには察知も妨害も出来ないのは、もうお約束である。
 その上これは、超の実験品ではなく、それとは技術的つながりなどない、別個の完全なワープ装置。


「やっぱり、油断していたね。まさか決勝当日の疲れた体で乗りこんでくるとか思わなかったか」


 だが残念! 『道具』には回復を促す物もたくさんあるのだ!


「折角準備を進めているというのに、ラストダンジョンの最深部に問答無用でテレポートとか、外道としか言いようがないな」
「んなRPGのお約束守ってやる義理ねーって」

 そんな事を先頭のカップルがしゃべりながら、残りの者が、身動きがいまだとれぬデュナミスを囲んでゆく。


「……こうなったら、奥の手を使うしかないようだな! 必殺! 死んだフリ!」
 がくり。

「……二度と話せんよう永遠に封じてやる。感謝しろ」


 エヴァンジェリンが指を鳴らすと、デュナミスの頭までが氷に包まれた。


「ぎゃー!」


 デュナミス封印。沈黙。
 ちーん。


「ん? もう終わりか?」
 あっさり残り一人が封印され、つまらん! とラカンが言う。

「あとは掃討戦かな」
 黒髪の少年が、やれやれと、肩をすくめる。


「じゃあ、僕が残りを案内しよう。といっても、先行して召喚された悪魔達がいるくらいで、期待にはそえられないだろうけどね」
 フェイトが案内するように、先頭を歩きはじめた。

「じゃぁ、さっさと終わらせて、宴会をはじめるか!」
「しゃー! 今日暴れへんかった分暴れるでー!」
「にんにん」
「皆さんは念のため扉の向こうにいてください! これで、終わりにしてきますから!」
 ラカンとコタローがやる気を出して、ネギは非武闘派生徒に待機を言い渡す。


「はいがんばってー」


 俺も扉の奥にさがって手を振る。


「アンタも行ってこい!」


 千雨嬢ちゃんに背中を蹴飛ばされて、ドアの番をする事になりましたの。
 もー俺雑魚戦には向かないのー。またアレ俺の心にわくカモでしょー。


「まあ、そこで見ていろ。あとは私達が決着をつける」


 最後にエヴァがそう俺に言い、最後の宴がはじまった。




 こうして、『完全なる世界』の残党は、この日完全に、壊滅した。





─あとがき─

 あれ? 終わっちゃった?

 と思った人。もうちょっとだけ続くんじゃ。


 他にもお風呂とか、ネギの魔法とか、色々語りたい事あるような気もするけど、今回はこれまで。
 とりあえず、やりたかった『ネギの魔法』がやれたので、満足。
 補足ですが、『ネギの魔法』でネギが強くなると、その従者もそこから供給される魔力で強くなります。こう、輪になる感じで。
 ネギのスタイルとしては、それが完成形です。

 そういえば、平均的魔法世界人て、戦闘力は表で言うと2が平均なんだね。

 本編では詳しく描いてませんが、フェイトはラカンと一緒にいた数日で、原作にあった影響は受けてるんじゃないかと思います。


 さて。そろそろ魔法世界編も、終わります。







─おまけ─




 どくん……




 どくん……




 どくん……




 それは、彼の中でまだ、息づいていた……



[6617] ネギえもん ─第32話─ エヴァルート20
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/04/14 21:20
初出 2012/04/14 以後修正

─第32話─




 最後の日常




──────




 どくん……



 予感がする。



 どくん……



 俺の中に現れるあの『闇』が、もう少しで暴れようとする予感が。



 どくん……



 そして、それが、最後の予感が……



 どくん……



 復活のための魔力も失い、最後の最後の力で、俺の体を奪いに来る。



 そんな予感が、する……




 どくん……




──────




 『完全なる世界』の最後の幹部、デュナミスを氷で封印し、さらに奥へと進んだ最後の大暴れにおいて、ザジの双子のお姉さんなる者が現れ、擬似完全なる世界を使ったりして抵抗したが、当然のように効かない人達と、これまた氷漬けのままだった墓所の主の、「彼等ならば別の手段で救うだろう」という説得により、彼女は引いた。
 そして最後に、いまだ氷の棺に閉じこめられていた月詠を回収し、最後の宴は終わりを告げた。


 その後改めてはじまった優勝パーティーの中、この魔力だまりを維持させるのはやはり良くないという事で、『どこでもドア』と『復元光線』を使い、破壊された11ヶ所のゲートを復活させて回ってきた。


 ぴかっと光を当てるだけなので、10分もかからずに終了。


 あとは明日、大騒ぎになるだろうが、それは俺の知った事ではない。


 これで、魔力の流れは正常に戻り、儀式も出来ず、フェイトの主であった『造物主』の意識が現在宿る器とやらは、復活出来ない。



 あと出来る事は、残った力で俺にちょっかいをかけてくるのみというわけである。



「とゆーわけですから。明日の夜あたりが峠っぽいです」


 パーティーも終盤にさしかかり、多くの子達は脱落し、俺とエヴァンジェリン。それにラカンとネギにフェイト。それとなぜか千雨嬢ちゃん。

 この6名が残ったところで、丁度いいかとさっきの台詞を口にしたのでした。


「は? いきなりなに言ってんだアンタ」
 唐突にそんな事を言い出した俺に、辛辣つっこみ担当の千雨嬢ちゃんがつっこみしてくれた。

「うん。いい質問だ。下手すると明日、俺は世界を滅ぼすかもしれないって事」
 人差し指を上げ、千雨嬢ちゃんに説明してあげる。

「だから意味わかんねーって!」

「でも雰囲気は察してもらえだろ?」

「……まあ、な」
 言ってる意味は理解してもらえたようで、千雨嬢ちゃんが引き下がってくれた。


「予測される事としては、至極全うな事だね」
 コーヒーを飲みながら、フェイトが言う。
 その近くで紅茶を飲んでいたネギも、予測していたようにうなずいていた。

「ゲートが復活した事により、あの位置に溜まっていた魔力は拡散。儀式も行われる事はなく、主の復活の目はなくなった。ならば、復活を可能とする者の力を借りなければならない」

「部下ももう全部壊滅。となりゃあ、最後の力を振り絞ってでも、こいつを狙ってくるってわけだ」
 フェイトの言葉を、ラカンが補足する。

「そう。今封印され、動けない器を捨て、彼の体を奪いに来る可能性が最も高い。このままでは、封印されたまま滅せられても不思議はないからね」
 補足された言葉に続き、フェイトは説明を続ける。

「当然の行動だな」
 最後にエヴァがうなずいた。


「そーいう事さ。というかもうしばらく前。俺が復活したあたりからざわざわしていたけど、さっきあそこで最後の幹部を捕まえて、ゲートを修復したあたりから、その感覚がより強くなった」

 だから、エヴァンジェリンと二人風呂した時、思わずあんな事を言ってしまった。
 今はもう、負ける気などさらさらないけど。


「んで、その来る予感が、明日。ん? 明後日? いや、もう日が変わったから今日か。いや、明日だ、明日の0時」

 ちょっとタイムリミットの予感がこんがらがった。
 だが、この言い方なら通じるだろう。


「あー」
「あー」
 ラカンと千雨嬢ちゃんが、思わず声を上げた。

 そこに繋がるわけか。って納得した感じで。

 本来の復活儀式の準備が整うという時間。
 その時刻。


「つまり、今ここで、君を抹殺すれば、万事解決という事だね」
 ソファーに座り、コーヒーをたしなんでいたフェイトが言う。

「そうだな。それが一番確実だな。君の目的も達成出来なくなるが」

「確かにね。それは盲点だったよ」
 そう言い、フェイトはコーヒーをすすった。

「殺す気もねーくせに言ってくれるね」
 本気ならとっくにやって逃げ出してるだろうしな。


「むしろ、こちらからそいつを討つチャンスというわけでもあるな」
 エヴァンジェリンが、なにか考えるよう顎に手を当て、言った。

「そうなる、の?」
 俺は来たのをたたき返すだけなんだけど。

「元々相手の体を奪うというのはリスクの高い方法だ。一方的に体を奪えるなんて都合のいい話はない。失敗を繰り返せば繰り返すほど自分にもダメージが返る。当然の話だろう?」


「あー」
 そりゃ、相手も抵抗するしなぁ。俺も散々抵抗してるし。


「今回は来るのがわかっているんだ。それにあわせて、相手を討つ。幸いにして、精神戦でもあるしな」


 さすがエヴァンジェリン! 俺にはなにがどういう事なのかよくわからないぜ!


「それで、具体的にどうするんだ?」
 なので素直に聞く。

「やれる事はたいした事ではない。明日体を奪いに来たそれに、お前が精神的に負けなければいい。負けた方が体を追い出されて消滅する。それだけだ」


 肉体というヨリシロがなければ、いかな『造物主』といえどもこの世界にとどまってはいられない。
 その封印された別のヨリシロへ逃げる元気があったとしても、その時は、外にいるエヴァ達の出番だ。

 特に明日菜君の力は、それに対して最高のパフォーマンスを発揮する力でもある。
 その上、相手の方から器を捨ててわざわざやってくるのだ。倒しに行くより、迎え撃った方が相応の準備も出来る。


「つまり、お前が勝てば、万事解決という事になる」


「あー」
 でもそれって、俺の精神だけって、『道具』が使えないって事でしょう?
 俺一人で戦って勝つって事でしょう?

「なんだ。お前の隣には私がいる。それでは不服なのか?」
 俺の隣にやってきたエヴァンジェリンが、俺を見上げてそう言った。

「……ああ、そりゃ負けねぇわ」
 エヴァの笑顔を見た俺は、思わずそう返した。


 うん。負ける気ねぇわ。
 隣にエヴァがいる俺は、無敵なんだった。


「ふむ。場所は、旧オスティアの遺跡を使えばどうにでもなるか。魔力消失を受けた場ではあるが、儀式のために集められた魔力がまだ溜まっているだろうから、我々が魔法を使うのに支障もないだろうし」
「あそこならどんだけ暴れても平気だろうしな」

 結論の出た議論は終わりにして、今度はその場所を考えはじめたエヴァに、ラカンが答える。


「必要なのかい?」
 フェイトがその言葉に聞き返す。


「勝つのは確定しているが、その間の主導権争いで周囲に被害が出ないとは限らないからな」


「……そういう考え方を、悪を名乗った君がするとは意外だ」
 エヴァの答えに、聞いたフェイトが声を上げる。


「ふん」

 あ、見下した感じに鼻で笑った。


「私はかまわんが、それで色々こうるさい奴等がいるからな」
 と、ネギや俺などを見てきた。

「ま、確かにな」
 ラカンもネギを見た。

「そりゃ心配するな」
 千雨嬢ちゃんもネギを見た。

「そーだな」
 俺は千雨嬢ちゃんを見てビンを投げつけられた。


「はい。ありがとうございますマスター!」


 そしてとどめのネギ笑顔で、エヴァは明後日の方を向いた。


 結局恥ずかしがるのかよ!


「なにか言ったか?」
「いいえなにも言ってませんし思ってません」


 いつものやり取りで、みんなに笑いが起こった。


「さて。そういうわけだ。聞いていたな弟子よ。明日の夜が最後の戦いだ。だから、明日の昼は後悔のないよう遊んでおけ。この最後の祭りが終わったら、帰るぞ」

 いつの間にかエヴァンジェリンが仕切ってる。
 まあ、名誉だけど顧問だから間違っちゃいないか。


「はい!」
 ネギも元気一杯に答えた。


「……あ、そうだフェイト。一つ聞きたい事があるんだけどいいか?」
 帰るという事で、ふとネギ達の目的を思い出した。


「なんだい?」


「その封印されている主の精神を収めているヨリシロは、誰なんだ?」

「さすがに、気づいているかい。そうだよ。今の主の器は、ナギさ。彼女の母親、『サウザンドマスター』だよ」

「やっぱりか」
 やっぱり、俺がいない場合、本来はその組み合わせがラスボスだったか……


「え?」
 その言葉に、ネギの瞳が揺れる。

 最も知りたかった事だが、ある意味最も知りたくなかった結果だ……
 それでは、ナギは……


「20年前の戦いで一度滅ぼされた主は、ナギの仲間の体をヨリシロとし、その後ナギと相打ちとなった。だが、ナギは体を奪われる事を予測し、みずからの体ごと主を封印したというわけさ」


「じゃあ、母さんは……」
 敵になっているという事?


 だが、そのネギの動揺を破壊するよう、エヴァンジェリンがにやりと笑う。


「ほう。ならば好都合だな。明日が終われば、ナギも封印されている理由もなくなる。胸を張って外へ出てこれるというわけだ」


 希望の言葉が、ネギの胸を打つ。


「つまり、全ての決着が明日つけば、ネギ、晴れてお前は、母と会えるぞ」


 そのエヴァンジェリンの言葉を聞いたネギの瞳から、一筋の涙が溢れた……


「あ、会えるん、ですか?」

「ああ。会える」
 エヴァンジェリンが答えた。

「会えるんですね?」

「そーみたいだぜネギ先生」
 千雨が、微笑んだ。

「会えるんですね!?」

「そのようだよ」
 フェイトが言った。


「母さんに、会える……!」

 少女は、希望の光を胸に、その両手を握り締めた……!



 そしてこの瞬間。
 俺に、負けられない理由が、もう一つ出来た。




──────




 次の日。というか、夜が明けた。


 この日はオスティア終戦記念祭の最終日であり、その夜には新オスティア総督府において、舞踏会が行われる。

 当然の事ながら、祭りの最終日。
 人のにぎわいも最高潮である。

 時間にすれば、10時前……
 そんな祭りの、ベンチににて。


「ねー、今日どこいくー?」
「んー、あそこー」
「あそこってどこよー」
「箒バトルレースに決まってるでしょー。なんでわかんないのよー」
「わかるわけないでしょー。拳闘大会は終わったけど、まだ演劇の公演だってあるし、食べてまわってないお店だってあるのに」
「あはは。とっさに出てこなくて」
「長年連れ添ったわけでもねーのにわかるわけないっしょ。あれでわかるとか、熟年夫婦か」


 そうして今日の予定を考える、一組の女性観光客(モブ)が居た。


 そこに、一組のカップルが通りかかる。
 どちらも10歳くらいの、金色の美しい髪を持つ少女と、黒髪の少年だった。


「さて。どこに行く?」
 少女が口を開き、少年が答える。
「俺アレ見に行きたいな」
「そんな観光スポットに行ってどうする。それよりむこうへ行くぞ」
「あー。それもいいなぁ。お前好きだもんな。あれ」
「別にそういう意味ではない」
「んじゃあまずはそこ行って、次あそこな」
「しかたがないな。昼はあの場所でいいな?」
「いいと思う。俺ひさしぶりにあれ食べようかな」
「ここにあるのかあれ?」
「あるはず。いやだが、あの時のリベンジであっちも捨てがたい」
「今度あのような事やろうとしたらただじゃおかないぞ」
「『あ~ん』いいじゃん。やろうじゃん」
「……墓穴を掘ったか……?」
「なら決まり!」
「勝手に決めるな!」
「いーじゃんあれやろうよ」
「ダメだ」
「それは?」
「当然ダメだ」
「これなら!?」
「もっとダメだ!」


 そんな仲の良い会話をしながら、10歳くらいの若いカップルは、女性観光客がいるベンチの前を通り過ぎて行った。


「「あんなに若いのに以心伝心!?」」
 ベンチに居た二人は思わずそうびっくりした。



 通り過ぎたのは、当然エヴァンジェリンと俺である。


「しかしまさか、指名手配もされていないのに、この姿でお前と歩く事になるなんてな」
 小さくなった手をひらひらさせた。

「指名手配犯の方がはるかに注目度は低いぞ」
「そうかも……」

 あの全国放送で姿を現し、なおかつ拳闘大会で優勝した話題の少年。
 賞金首としてそこらに張り出されるよりも、はるかに有名になってる事だろう。


 という事で、今俺は、エヴァンジェリンとお似合いの10歳くらいの体になって、歩いております。


 エヴァンジェリンは、全国放送で大人の姿が流れていて、賞金首の注目度はもうないも同然なので、いつもの少女の姿のまま。

 なんというか、今の俺達は、年恰好が同じ、子供のカップルというわけである。


 ちなみに、俺の年齢を変えたのは魔法ではない。
 今回使用した『道具』はこいつ。


『としの泉のロープ』
 このロープを輪にし、ロープの繋ぎ目に備えられているボタンを押すと、輪の中に泉が沸く。
 ボタンには赤と青があり、押した方によって効果が違う。赤だと歳をとり、青だと若返る。
 その水をコップですくって飲むと、飲んだ者の年齢が変化する仕組みである。ただし、一杯につき1歳の変化であるため、5歳変化するには5杯飲まないとならない。


 不老を実現する『道具』だけど、正直『タイムふろしき』使った方が簡単だと変身して思ったのは秘密だ!


「それじゃ、当初の予定通……」
 ……り、行こうか。と言おうとしたら、裾をつかまれた。


「じー……」

 振り返り見てみると、涙目になっている、幼子が俺を見ていた。
 5歳くらいの男の子。

「……おにいちゃんじゃない」


 ……はい、迷子ですか。俺は君のお兄ちゃんじゃありません。


 隣でエヴァンジェリンがため息をついていた。
 うん。これさ、前にもあったよね……

「あったな」
 以心伝心が決まった。



 学園祭の時みたいなハプニング満載になりませんように!



 立ったー。フラグが、フラグが立ったー。
 ……とは言わないで。




──────




 そこは、彼等が宿泊する宿のロビー。

 そこに、ラカンとコタロー。さらに楓とクーフェイの姿があった。


「ちゅーわけやから、弟子にしてください!」
 コタローが、ラカンに頭を下げる。

「……おめーらそろそろ帰るんじゃねーのか?」
 ソファーに座っているラカンが、耳をほじりながらそう言った。
 今夜の一件が終わったら、全員一度現実世界へ帰還するはずだ(朝、夜の予定は昨日寝ていた子達にも伝えた)


「……はっ! し、しもたわ。それは、盲点やった……」


「……おいおい。大丈夫かこいつ?」
「平気アル! 私も学びたいアルよ!」

「にんにん。少し稽古をつけて欲しいという事でござる」


 手合わせをして、アドバイスくらいもらえれば嬉しいという事である。
 強者との一戦は、それだけで値千金の価値はあるから。


「なら……」
「現金ならあるでー!」
「あるアルー!」
 ラカンが口を開こうとした瞬間。コタローとクーが飛び出した。
 コジローとして稼いできたお金や道中稼いだ金などを、テーブルに広げる。

「一万ドラクマや!」
「大金アル!」

 ちょーん。
 どや!


 これはダメでござるー!
 楓は思わず思った。

 金にがめついといわれるラカンに教えを請うには、最低100万はないと無理のはずだ。


「……はっ、しゃーねぇな。少しだけ稽古つけてやるよ」


 だが、予想に反し、ラカンは快諾した。


「え? よいのでござるか?」

「あいつらに追いつきてーんだろ? 俺も負けた身だからな。その意趣返しくらいしとかねーと悔しいだろ?」


 そう言い彼女は、エヴァンジェリンの別荘と同じ性質を持つダイオラマの魔法球をどーんと床に置いた。
 今から夜まで、10時間以上の時間が取れる。ここなら、10日以上だ。それだけ修行出来る!


 さらに彼女達の背後を歩き、宿を出てゆこうとしたフェイトがいた。


 きらーんとラカンの目が光る。

「そして特別講師だ!」

 それに向ってラカンは縄を投げ、それを彼に巻きつけ、一本釣りにした。


 ぷらーん。


「……なぜ僕まで」


「ちょっとタッグ組んだ仲じゃねーか。それに、お前だってアイツにやられっぱなしは癪だろ? なら、ちょっと手伝え。それとも、どこか行く予定あるのか?」

「……しかたがないね」
 祭りを回る予定はない。時間をただ潰すのなら、つきあってもいいだろう。
 そんな顔で、フェイトはしぶしぶ了承した。


「よし、お前等今回は大サービスだ! だからあのヤロウを、いつかへこませろ!」


 にっと、いたずらをするように笑った。


「「「はい!」」」
 三人同時に、気持ちよいほど高らかに、返事を返した。




──────




 超包子新オスティア移動支店。
 学園にあるトレーラー型と同じように、いわゆる移動式の店舗が、この新オスティアの地で店を出していた。

 超の宣言どおり、金を稼ぐ手段として、超包子で培ったノウハウと、そのレシピを用いて、魔法世界でフランチャイズ展開をはじめたのだ。

 残念ながら、奴隷の身分を買い戻すには単独では間に合わなかったが、特にその料理のレシピは大当たりし、一気に店舗数を広げていた。

 その中の一つで、最初に作られたこの移動店が、祭りという人の集客を見こまれ、やってきていたのだ。

 ちなみに、この移動支店を取りしきるのは、あの闘技場でネギの代理で出場させられたりしてたチンピラのトサカ君だが、この話とはあまり関係ない。


「いらっしゃいませネー」
 あまりの人気に、そこで手伝いをしている超。それと茶々丸。


 そして……


「……なんでここまできてこんな事しなきゃならねーんだ」
「どうせ暇だたのならよいではないかネ? 奴隷仲間のよしみヨ」

「ちっ」


 暇を持て余していた千雨がウエイトレスとしてなぜかバイトしていた。


「これなら子供先生と一緒に祭りを回ってた方がマシだったぜ……」
「もう遅いヨ! 注文お願いネ!」

「わかってるよ!」

 呼ばれたテーブルへと向う。


 その店の裏手。
 移動支店とは別に建てられた、従業員達が休憩するスペースに、金髪の少女と、元の姿に戻った15の少年が、ぐったりとテーブルにつっぷしていた……


「……結局、サーカスの動物達脱走に巻きこまれ、喧嘩に巻きこまれ、魔法のゴーレムが暴走しているのに巻きこまれたか……」

 少女は、ぐったりしながら巻きこまれた騒動を思い出す。

「そうだな。学園祭の時のようだったな……」
 少年は、以前あった同じような事を思い出す。


「またどこかの世界樹が嫉妬しているのか……?」
「こんなところまで嫉妬を飛ばすか世界樹……」
 少女のつぶやきに答えるよう、少年もげんなりとしたようにつぶやいた。



 見事に立った騒動フラグにより、二人は祭りのハプニングに巻きこまれていたようです。



「おまたせネー」
 そこに超がやってきた。

「どしたネ?」
 ぐったりする二人に、当然の疑問をあげる。

「いや、なんでもない。ワザワザ裏手にありがとう」
 ゆっくりと体を持ち上げる少年。

「イエイエ。有名人は辛いネ」

「まったくだよ。せっかくの祭りだってのにな」
「私はどんな姿でもかまわんがな」

「ならいいや」

 エヴァンジェリンの言葉に、少年はあっさりと自分の発言を翻した。

「さすがネ」
「さすがだろ?」

「ともかく、注文いいか?」
 親指を立てあう超達を無視し、エヴァンジェリンが言う。

「もちろんヨ!」
 無駄にもう一回親指立てた。

「とりあえず、杏仁豆腐と……バニラアイス」


 エヴァンジェリンがその二つを注文すると、少年はぴょこっと耳をあげた。


「なぜそんなに目をキラキラさせているネ?」
「だってほら。思い出してみなさいあの時を」


 夏休みのある日。具体的には23話で超包子へ行った時の話。
 ついでに言えば、さっきあれ、あっちの話題で出たのが杏仁豆腐とバニラアイスだったりする。


「……おお」
 ぽんと手を叩く超。


 あの時彼は、膝の上にエヴァを乗せて、あーんをやろうとしてぶっ飛ばされていた!


「まさか、やるのかネエヴァンジェリン!」

「誰がやるか。ただ頼んだだけだ!」

「えー」
「エー」

「なぜお前までそんな声を上げる超鈴音」

「ただの冷やかしヨ」

「とっとと注文をもってこい!」


 エヴァンジェリンが店員さんおいかえした。


「俺まだ注文してないのに……」
「あとにしろ」

「バニラくれたら許す」
「断る」


「めそめそめそ」


 再び少年はテーブルにつっぷした。



「……相変わらずだなオメーラは」


 そこに注文を持って現れたのは、長谷川千雨。


「長谷川千雨か」

 そのエヴァの声に、少年が顔を上げ、千雨の姿。
 ウエイトレス姿を見る。


「……はっ! 今凄い事を思いついた」
「絶対に着ないぞ」


「……よし、死のう!」


 すぱーんととてもいい音が彼の頭から響いたそうです。


「すまない。取り乱した」
「取り乱すなアホウ」

 思考を読んですぱっと拒否する少女ににすぱっと取り乱した少年の姿がそこにあった。



 しかして少女は少年の耳に唇を近づけ──


「……誰もいないところでなら、着てやる」


 ──そうささやいた。



「……」
 少年は、おもむろに肘をテーブルに乗せ、手を顎の前で組む。

「……俺、明日絶対に死ねない理由が出来た」
 きりっ。


 また後頭部ひっぱたかれてた。


 ちなみに、手を組んだのはにやつくのを見られないようにするためである。


「……なに言われたのかわっかりやすいな今の」

 テーブルに注文の二品。杏仁豆腐とバニラアイスを並べ、厨房に戻る千雨がそうつぶやいた。


「また俺注文忘れた……」
 テーブルに頭からつっぷす少年がいる。

 それを見ている少女がいる。


「……」


 自身の手元には、バニラアイス。


「……」


 しかたがないな。
 と、口元を緩め。


「おい」
「ん?」



「あーん」



 このあとどうなったかはご想像にお任せする。



 それを、厨房の方からちらりと見た千雨と超がいた。


「おい超。あいつら吹き飛ばせる爆弾ねーか?」
「あの二人吹き飛ばせる爆弾なんてこの世にないヨ」

「そーゆーマジレス望んでねーよ」


 なにが言いたいのかというと、リア充爆発しろ。


「……かネ?」
「あーそうだよ。爆発しろ!」

「千雨サンも十分リア充してると思うけどネ」
「じゃあ私も爆発しろ!」

「意味わからないヨ」


 ただ一個言えるのは、あの二人がそろっていたら、なにも心配する必要ねぇって事だ。
 心配していた自分が馬鹿馬鹿しいくらいに……


「ったく、今日の夜には世界の命運をかけたような戦いしなきゃならねぇってのに、なんなんだアイツ等は」

「だからこそなのだろうネ。彼等が、それでもいつも通りでいられるのは、負けるつもりなどないからヨ。ワタシ達の未来の為に、ネ」

「……くそっ。こんな事なら知らずに寝てりゃよかったぜ。そうすりゃ、今日の夜もさっさと寝て、なにも知らずに明日を迎えられたってのに」


 ぶつくさと文句を言う。
 それを見ていた超は。


「……やはり、千雨サン優しいネ」
「なっ!? なに言ってやがる!」

「ワタシが男なら、口説いてたヨ」
「アホか!!」

 ぷんすかしながら、千雨は仕事へと戻って行った。


「……ふふ。この時代も、本当に悪くないヨ」
 どこか嬉しそうに。どこか寂しそうに。超はつぶやいた。




──────




 パルこと早乙女ハルナの手に入れた中古の船。名づけてグレート・パル様号の中では、ペンの音が響いていた。


「あんた行かなくていいの?」
 船の中でペンを走らせていたのは、今回の事を記事にまとめる朝倉。


 そして……


「この記憶が鮮明なうちに絵に残しておきたくてね! アンタは?」
 それをマンガにしたため、残すパルであった。


「私も同じ。今のうちに、記事に出来るようまとめておこうと思って!」
 祭りも今日で終わり。その上今日の夜には最後の戦いがあるかもしれないというのだ。

 それまでに、これまでの事をまとめ、その最後の戦いもきっちりと記録しなくては記者としての名折れである!


「お茶ですよー」
 幽霊のさよが、パルの力を使って等身大の体を一時得て、雑用をしていた。

「さんきゅ」
「いえいえー」




──────




 再びここは超包子新オスティア移動支店。


 食事も終わり、一休みしていると、なんとエヴァンジェリンがテーブルにつっぷし、寝息を立てはじめていた。


 それを窓の影から見ている者は、少年と共にいる事は、あのエヴァンジェリンをこれほどまでに安心させ、無防備にさせるのかと驚いた。


 彼女達のいる従業員休憩所は、クーラーがかかり、涼しい。
 しかし、寝ている者にとっては、少々肌寒く感じる温度ではある。

 少女が寝息を立てていることに気づいた少年は、席を立ち、その背に、『ポケット』から取り出したタオルケットをかけてあげた。

 さらに、音を立てないよう静かに動き、取り出した本をのんびりと見ている。


 見ていた者は、二人きりになればどんないたずらをするのかと期待していたが、額に肉も書かなければ、髪をいじったりもしない!
 普段大勢の前ではあれほどイチャコラしようとする少年なのに、こんな時だけとても静かで、少女をただ優しく見守っていた。

 だが、そのたたずまいだけで、少年がどれほど少女を大切に思っているかがわかる……


 その場には、彼がページをめくる音と、少女の寝息だけが響いていた。


 そしてその休憩所の外には、そんな姿を隠れて見る三つの影が。
 実は最初からいて、彼がテーブルにつっぷしたりするお宝映像を保存していた茶々丸と、他二名。
 休憩に入ろうとして、でも中はあんなんだから、外から見ていたのだ!


「超鈴音」
 彼等から目を離さず、茶々丸が言う。
「なにかネ?」
「私は今、人がどうして鼻血を流すのか、完全に理解出来ました」
「さすがネ!」


 ……それ理解してどーすんだ? と、千雨は思わず思った。




──────




 新オスティア街のはずれ。

 そこは祭りの喧騒とは裏腹に、屋台も観光する場所もない、人がまったく居ない、まるで、世界にたった一人、取り残されているかと錯覚するような場所だった。

 そんな場所に、ネギは一人立っていた。


「……」


 空を見上げ、思う。

 だが、心がまとまらない。ここしばらく、衝撃の展開が多すぎて、頭がまだ混乱しているのだ。


「……あんた、大丈夫?」
 そこに現れたのは、明日菜だ。

「え? あ、はい! 大丈夫です!」
 声をかけられ、自分を取り戻し、彼女の方を見る。

「……やっぱ、お母さんの事、気になる?」


 明日菜達も朝起きたところで、今日の夜の事。そして、ネギの母が救出出来る事を聞いた。


「はい。まさか今回の旅で、ここまでわかるとは思っていませんでしたから」

 いざ会えるとわかったら、なぜか怖くなってきてしまったのだ……
 アーニャが両親と再会しているのを見て、自分も母に会いたいとは願った。

 だが、いざ会えるかもしれないとわかると、どこかに恐ろしさを感じてしまっているのだ……


「怖い?」
 そんなネギの心を見透かすように、明日菜は言う。

「わかっちゃいます?」

「当たり前でしょ。私はあんたのパートナーなんだから」
 ふふんと、胸を張って明日菜は言った。

 明日菜は今だ、明日菜のままだ。
 アホのままだが、立派にネギのパートナーであった。

「まだ、終わったわけじゃないのに、色々と考えちゃって……」
 あはは。と元気なく笑い、また空を見た。


 その姿は、先生などではなく、ただ、まだ見ぬ親を想像して、不安になる、ひとりの少女でしかなかった……


「でもそれはさ、ナギさんも一緒だと思うのよ」
 明日菜はネギの隣に並び、同じ空を見上げながら、そう告げる。

「え?」

「あんたがそう思うのと一緒で、きっとナギさんだって、不安に違いないわ」
 明日菜は、なぜか不思議とそう思う。会った事もないはずの人なのに、なぜか、そう思えてしまった……


「だから、会えたらまず、笑いかけてあげればいいと思う」
 こんな感じで。と、ネギにどこか間抜けな笑いを、向けた。


「ぷっ……」
 その顔を見て、ネギは思わず笑う。

「なんで笑うのよ」
 ぶすーっと頬を膨らます。

「だって、つい……」

「ふふ、そうよ。そんな感じで、笑えばいいの。だって泣きそうな顔してても、しょうがないでしょ」


 あはは。と、明日菜は明るく笑う。


「それにあんた、私と会った時教えてくれたじゃない。わずかな勇気が、本当の魔法だって。それ、実践しなさいよ」


「……」
 その言葉と、明日菜の笑顔を見て、ネギは思わず呆然としてしまった。


「……どしたの?」

「いえ、アスナさんて、凄いんですね」

「なに言ってんのよいきなり。あんたが言った言葉でしょ。自慢してるの?」

「そういう意味じゃないですよー」

「じゃあどういう意味よー」
 ふがふがと、ネギのほっぺたをつかみ、明日菜が笑う。

「ふががー」
 言葉にならない言葉を発し、ネギも笑う。

「ふふ、なに言ってるのかさっぱりわからないわ」
 一通り笑い、手を離す。


 自分のほっぺたを整えながら、ネギは明日菜を見る。


「アスナさん」
「なに?」


「僕、やっぱり母さんに会いたいです。会って、抱きしめてもらいたいです」

 その瞳に、もう迷いはなかった。
 はっきりと、その言葉を、その心を、口にした。


「もちろんよ。明日にはきっと会えるわ!」

「はい!」


 その少女の顔に、不安はもうなかった。
 残されたのはただ、母に会えるという喜びだけだった。



「あ、せんせー」
 そこに姿を現すのは、ノドカ嬢。


「あ、のどかさんどうしたんですか?」

「夕映見ませんでしたー?」

「え? ユエちゃんどうかしたの?」
 明日菜が聞く。

「ちょっとはぐれちゃったみたいで……」

「大変! ネギ、探しに行くわよ」

「はい!」

「お願いします」



 一方迷子のユエは、アリアドネー騎士団の女の子達と出会っていた。

 これは、ある意味運命の出会い……
 ずれた時空ですら生まれる、友情の出会い。




──────




 一方再び従業員休憩室。



 エヴァンジェリンが目を覚ますと、椅子に座り腕を組み、居眠りをしている彼の姿を見つけた。


「……」


 ふと背を見ると、そこにはタオルケットがかけてあった。

 誰がかけてくれたのか、すぐに理解する。


「まったく」


 そうつぶやき、眠りこける少年の頭に、手をのせる。



 なでなで。



「ふふ」



 なでなでなで。



 普段は彼の方が頭一つ以上高いので、こんな事は出来ない。
 こちらの頭や髪はなでるくせに、自分はあまりやらせない。


「んっ……」


 頭をなでられているのからか、その反応がかわいらしい。
 その反応が見たくて、さらに頭をなでてしまう。

 どこか子供のように、気持ちよさそうにする、かわいい姿。

 無意識であるからこそ、見せる姿……

 これは、いつしても、いいものだ。


 少年の頭をなでながら、エヴァンジェリンはそう思う。


 本来ならば、このまま胸に抱きしめたりと、色々としたいところだが……



「……ところで、窓の外いるの」



 びっくぅ!

 エヴァンジェリンの声と共に、窓の外でなにか大きなネコ三匹が動くのが分かった。
 小細工を色々と弄していたようだが、今のエヴァには通用しない。



「いつから見ていたのか、聞いておこうか?」



「……エヴァンジェリン」
 そーっと顔を出した超が声を出す。

「言い訳か?」

「ユー、二人きりになると大胆になるネ」
 そして彼は、逆に紳士になるヨ。


「よし、そこに直れ」


「火に油を注いでどうするー!」
 つっこみ担当長谷川千雨でした。




「……なにしてんの?」

 目を覚ました彼の目に飛びこんできたのは、正座している超、茶々丸、千雨の三名を説教しているエヴァンジェリンだった。



「ナハハ」
「じ、自分で土下座……これは……素敵では、ありません……」
「なんで、私まで……」


 一緒に覗いていたから同罪ではあるけど、一番の災難は千雨嬢かしらね。




──────




「はー、お祭り楽しなー」
「はい」


 二人で祭りを歩く二人の少女が居た。
 わたあめを一緒に食べ、ウインドウショッピングを楽しむのは、木乃香と刹那である。


「もーちょっとで終わりなんやなー」
 名残惜しいように、にぎやかな魔法の都を見て、木乃香がつぶやく。

「はい。最初の予定より長居してしまいまう結果になりましたけど」

「そーやなー。でも、楽しかったなぁ」
「はい。良い経験だったと思います」


 パーティーが一時バラバラになってしまったが、大きな問題もなく合流する事が出来たし、少なくともこの旅で、一回り以上強くなったと刹那は思う。


 今日の夜、最後の戦いが終われば、それももう終わりだ。
 あとは、現実世界へ帰るだけである。


 あの人が負けるわけはないと、信じている。


「ふふ。信じとるんやなぁ」


「え?」


「だって、ぎゅっと拳を握ってるんは、今日の夜の事考えてたんやろ?」

 刹那がふと自分の手を見ると、ぎゅっと拳が握られていた。
 思わず力んでしまったようだ。


「はい」
 なので、素直に肯定する。


「ウチも平気と思う。だって、エヴァちゃん救った時なんて、すごかったもんなぁ」

「はい。あの時は、本当に驚きました」


 旅の宿で突然流れたエヴァンジェリン処刑の中継。
 あの人は、死刑は絶対に避けられない状況で、颯爽と現れ、その絶対を覆した。

 愛する人を守るために、死地へと赴き、すべてを覆したあの姿。

 宇宙刑事とか、従者とか、そんなの関係ない。
 あの姿は、パートナーを守る姿として、とてもかっこよかった。

 私にはとうていマネは出来ないけれど……


「……」
 刹那の足が、止まる。


「?」
 それに気づいた木乃香が、振り返る。


 今までずっと、先延ばしにしてきた事がある……
 今なら、今ならきっと……


 振り返った木乃香に、刹那は意を決して、口を開いた。


「わ、私は、まだまだ未熟で、あんな事はとうてい出来ません。あの人のように、星を守れるような大きな人間でも、たった一人の為に、一国の裁定を覆す事も出来ません。ですけど、このちゃん一人を守る事は、出来ると思います。いえ、守ってみせます! で、ですから……」


 あの、その……


 と、どんどん語尾が小さくなる。



 それを見た木乃香は、思わず嬉しくなって微笑んだ。



「せっちゃん。つよぉなったな」

「え?」

「ウチもな。憧れなんや。颯爽と現れて、人を助けて颯爽と去ってゆく、正義の味方。辛いと泣いている人に、手を差し伸べる、立派な魔法使い」


 ゆっくりと、両手を広げる。


「魔法世界に来て、色々見て、色々知って。ウチ、将来の進路しっかり決まったんや。ウチな、いつかそんな立派な魔法使いに。なりたい」

「……!」

「それでな。いつか今と同じように、せっちゃんにパートナーとして傍にいて欲しいと思っとるんやけど、どぉ?」


 木乃香が、にっこりと微笑んだ。


 その笑顔に、刹那は、勇気をもらう。


「はい! 私に、守らせてください!」


 彼女は、しっかりと、その自分の意思で、その想いを、木乃香に伝えた。


 ……私が本当に目指したのは宇宙刑事ではない。
 それは、きっかけ。


 本当にやりたい事は、人を守る事。
 木乃香と一緒に、人を幸せにする事!


「良かったー!」

 木乃香が刹那に抱きついた。




『パクティオー!』
 刹那、木乃香、仮契約、成立!




 ちなみに、仮契約はカモがやってくれました。いじょう。

「あれ? 俺っちの出番これだけぇ!?」




──────




 思わず長居してしまった移動式超包子を後にし、再び祭りを歩く。


「予想よりすげー長い時間いてしまったな」
「そうだな」

 俺の言葉に、エヴァが答える。


 ちなみに今回の姿はエヴァの魔法での姿変え。
 外見上は10歳だけど、実際はそのままの幻覚さ。


「さて、今度はどこへ……」
 と、周りを見回すと、ある一団が俺達の目に飛びこんできた。


「これはこれは。視察に出てみればこんなところで、偶然ですね」


 先頭を歩く男が、メガネを直しながら、言ってきた。
 そこにいたのは、新オスティア提督。
 数人の護衛と、あの刀を持ってる子供。それを引き連れて、俺達の前に総督。クルト・ゲーテルが俺達の前に姿を現した。

 総督殿がじきじきにお出ましとは。
 確かに祭りに行くとは言ったけど、まさかわざわざ本人が来るとは思わなかったね。
 まあ、俺の姿はともかく、エヴァの方の姿は総督殿も知っているから、見つける気になれば見つけられるわな。


「本当に偶然ですね」
「まったくだ。偶然だな」
 俺は皮肉はこめていないが、エヴァンジェリンは皮肉をこめている。


「それで、なにか御用ですか?」

「はい。二つほど。ここでは目立ちますし、どうです? そこいらの喫茶店にでも」


 総督様が喫茶店とは、個人的には好感度アップだね。
 入ったところすげー迷惑だろうけど。

 もしくはすでに用意してある特別な喫茶店かもしれないけど。


「……どーしよか?」
「お前に任せる」
 ちらりとエヴァに視線を送ると、そう答えが返ってきた。


「それじゃあ、ホットケーキくらいおごってもらいましょう」

「そういえば、そろそろ三時か……」

「ぜひともご馳走させていただきます」


 案内されたのは、案の定VIPが通いそうななんか高級な喫茶店だった。
 というか、いわゆる飛行船だった。

 空の上だった。

 すげぇな魔法世界。すげぇな総督様。


 当然個室なので、変装を解いても問題ないそうです。


「すみませんね。一応総督なので」

「かまいませんよ。俺も気楽ですし」
 窓もあって外が見れるし。
 人がゴミのようだとか言えるし!(言わないけど)

「そちらのお嬢様は変装を解かないのですか?」
「いや、私はこれが本体だ」
「……やはり、本物ですか」
「さて。どうだかな」


「詮索はやめておきましょう。『闇の福音』エヴァンジェリンの罪は許された。これ以後追われる事はないのですから」

「その通りだ」
 エヴァがにやりと笑った。


 飲み物として紅茶が運ばれてきた。
 俺は遠慮なく一口。警戒はエヴァにお任せ。えへへ。


「それで、なにか御用ですか?」

「はい。約束通り、舞踏会の招待状をお渡しに来ました」

 ぴっと、懐から招待状を取り出す。


 あー。そういえば、前に会った時にそんな話もしましたっけね。


「あー。今日でしたっけ。夜」

「はい。せっかくですので、私の全世界スピーチを聞きにいらっしゃいませんか? ぜひとも、ネギ君に聞かせてあげたいので、彼女も一緒に……」


 彼はなんの事かは知らないが、ナギの伴侶であり、ネギの肉親。『災厄の魔王』と呼ばれ、汚名を着せられた旧オスティアの王。
 その名誉を回復させるためのスピーチが、この日予定されているのだ。

 全世界に、20年前本当に世界を救ったのは、誰であるかを、伝えるための……


「あー、悪いんですけど、どうあっても今日の夜は行けません。夜ちょっとやる事があるんで」

「そうなのですか。一体なにがあるのか、聞いても?」

「あはは。ちょっと最後の敵と戦ってこなくちゃいけなくて」

「最後の、敵……?」

「『造物主』だよ小僧。聞いた事くらいあるだろう?」
 エヴァンジェリンがくちばしを挟んできた。

「っ!?」
 その名を聞いて、クルトが驚く。仮にも元『赤き翼』。その存在がどのようなものか知っている。

「すでに滅ぼされたはずでは?」

「ちょっと事情がありまして。今夜そいつを倒さなきゃいけないのです。そんなわけですから、その舞踏会には行けません」
 ごめんなさいと、彼は小さく頭を下げる。


(これが、先日彼の言っていた、やらなければならない事……!)

「そ、そうなのですか。ならば、なにかお手伝い出来る事は?」
 あまりの超大物に、さすがの総督様も動揺してメガネをかっちゃかっちゃしている。


「ある?」
 ちらりとエヴァを見る。

「ないな。むしろメインは精神戦になるから、その後の標的などになられても困る。つまり、邪魔だ」

「だそうです」

「わ、わかりました……」

「小僧は気にせず今日のスピーチの心配をしていればいい。それが一番の手伝いになる」

「……ですが、なにか困った事があれば、言ってください。すぐにでもお力になりますから」


 ホットラインでクルトへと繋げる魔法具を、クルトは彼に手渡した。
 ならせばたとえどんな予定があろうとツーコール以内で出るのだという。


「ありがとうございます。いざという時は頼りますね」
 手渡された少年が素直に礼を言う。

「はい」


「ずいぶんと肩入れしてくれるな」
 エヴァンジェリンが意外だという声を上げた。


「貴方達のおかげで、私の本懐を遂げる事が出来ました。その上、罠にはめたはずなのに、私は例外として見逃してもらった。ですから、どれだけ尽力しようと尽くしたりないくらいです」

 この言葉に、裏はない。クルトは純粋に、彼の力になりたかった。


「そんなの気にしなくていいのに……」

「そうはいかないのですよ」


 後始末とか全部押しつけたというのに。それなのに喜ぶとか。この人ドMなんじゃねーか?
 なんて彼は思う。が、本懐とやらがよほどそれを上回ったって事だろうと判断する。


「むしろ報酬を差し上げたいくらいです。貴方が望むのなら、この国で一生を保証いたしますよ」

「そいつは素敵な提案ですね。でも、お断りします。そーゆーの欲しかったら王子やめてないんで」
 拳闘大会優勝は欲しくて手に入れたわけじゃないし。

「ですよね」
 あははと二人で笑った。


「……一つお聞きしてよろしいですか?」
 笑うのをやめ、真面目な顔で、彼に聞く。


「はい?」


「あなたはなぜ、王子もなにもかもを捨てて、たった一人の為に、あのような事をなしたのです? 拳闘大会の出場も、みずからの望みではなかったと聞きます」

 当初は正体を隠し出場しようとしていたが、あのラカンがその正体からすべてをバラした事を、クルトはつかんでいる。彼が出場した事により、裏でなにかがあると考えていたが、先ほどの『造物主』との最後の戦いという事で、クルトの中で全てが繋がった。
 すなわち、あの裏で、実は『完全なる世界』との戦いが起きていたのだろうと……
 だがそれは、その真の戦いは、結局表に出ていない……

 拳闘大会優勝は、ただの目くらまし……

「なぜ、誰も褒めない裏側で、ひっそりと世界を救うのです? 貴方が望むのならば、本当の名誉も、財宝も思うがままでしょう!」


「なんでって……」


 考える。
 お金は『道具』のおかげでいっぱいあるし、いっぱいあるから、名誉や役職なんて面倒だから興味ない。
 それにあの時や今回は、自分が生きるために逃げられなかったというのもある。
 なぜか。と外に理由を広げれば、エヴァを助けてやりたくて動いたし、今回だって、ネギをナギかーさんにあわせたいからがんばる。


 つまり……


「……簡単な話ですよ。そうすると、可愛い女の子が笑ってくれるんです。その笑顔が見たくて、ついがんばっちゃうんです。だって可愛い女の子の笑顔は、それだけで世界を救う価値のある最高のお宝なんですから」


 その少年は、馬鹿みたいににへらっと、笑った。



「……」
 この瞬間。クルトの目から、滂沱のごとく涙が溢れた。



 びくぅ!?
 びっくりした。いきなりなんや!?



(……なんという、こういう方を、聖人とでも呼べばいいのか)

 クルトは、政治家である。
 ゆえに、言葉の裏を読むのに長けている。
 長けているがゆえに、その裏を考える。
 そのクルトは、その言葉の真意を即座に悟った!

 一見ふざけているようにも聞こえる答えだが、その本質はあまりにも優しい……
 子供の笑顔とは、すなわち未来を現す事と同意。
 その笑顔が見たいという事。


 それは、それはつまり……!


 彼が望むのは、子供達が笑ってすごせる未来……!


 ただ、それだけ……!!


 あの裁定を覆す力を持ち、世界を消滅させうる『造物主』と戦うほどの存在。
 その気になれば、この社会を好きにでも出来うる力を持つ者の願いは、あまりに無垢な願いだった。

 地位など必要ない。名誉もいらない。その未来が守れれば、それでいい……
 あまりに純粋で、あまりにまっすぐな願い……!

 それはかつて、自身も憧れた王と同じ。
 全ての人に等しく幸せを与えようとして、己が命をかけて、救おうとしたあの王と……


 政治家ならば鼻で笑うような願い。
 しかし、その言葉は、私の心に、深く深く響いた……


 彼が自身の手でこの世界を導けばよいと考える者もいるかもしれない。ですが彼は、自身の力が強すぎると認識しているのです。
 彼が統治すれば、確かに平和は続くでしょう。しかし、それは自身が永遠に続けるか、その一代限りで終わる、幻の平和になるかでしかないのです。
 それでは、次に続かない。ただ彼にだけ頼り、堕落した社会では、更なる未来がないと、彼は知っているから。
 だから、彼は王を望まない。いや、望めない!
 力が強すぎるゆえ、真に未来を考える彼は、裏方に徹するしかないのだ!
 そこまで、そこまで深い考えがあったのだとは!


「私にはとうてい、マネなどは出来ない……」

 自分は所詮、しがない政治屋だ。嫌悪する悪徳と不正を正す事も出来ず、世界が崩壊する時がせまろうとしているのに、この世界全員を救うなどとは考えられない……

 それが人間だ。しかたがないと諦めていた……
 全員救うと言うだろう彼女達の言葉など、世を知らぬ者のたわごとだと信じてやまなかった。


 だが、違う……
 真に力を持った人が、こう言う……

 本当に、必要なのは、彼のような、彼女達のような、人だったのだ……!

 どれだけ自分の心に嘘をついても、彼のその心に、共感してしまっている自分がいた。
 真に必要だった事。それは、それを認める、小さな勇気……!


 そう。私は、それが出来うる可能性のある地位にいる……
 彼が望もうと、手にしてはいけない地位にいる……!
 なのに……!


「私は、本当に、なさけない……」



 ……それを見て、彼は少し汗を流す。
 涙を流しながら、テーブルに突っ伏し、ぶつぶつと、総督さんがつぶやいてます。


「……え、えーっと」
「ほおっておけ。自分の矮小さに気づいたんだ」


「そうだ。私は彼ほどではない。だが、出来る事はやろう。それが、それだけが、唯一の方法!」
 がばっと頭を上げる。


「あ、復活した」


「恥を忍んで、一つお願いがあります!」


 そのままクルトは、席を引き、床に膝をつけた。


「え?」


 それはそれは、素敵な土下座であった。
 背筋を伸ばした状態から、流れるように平伏する。その流れは、土下座マスターの彼も、思わずほう。と唸るほどに素晴らしい、魂の座とするに相応しい土下座であった!


「貴方に救っていただきたいものがあります。この世界を、崩壊するこの魔法世界を、どうかお救いください! 私程度では、約6700万人の同胞を脱出させるのが精一杯! ですが貴方ならば、この世界に住む12億の人々。いや、世界そのものを救えると、固く信じております! お願いいたします!」


 あ、そういえば、神鳴流習ったんだから、土下座の文化も知ってるってわけか。
 なんて事を少年は思った。


「……わかりました。お受けしましょう」

 素晴らしい土下座を見せてもらったお礼に!
 『造物主』の目的に世界を無にってあった気もするし、ついでだし!


 この時彼は、この言葉は、『造物主』を倒して、世界を救って欲しいと言っているのだと考えていた……




 クルトは後に、その事をこう語る。

 すっと、その背に手を当て、彼は言った。
「わかりました。お受けしましょう」
 と。


 今この魔法世界は、崩壊の危機に瀕している。
 魔力が失われ、火星をヨリシロとして作られたこの世界が、あと10年ほどで消滅しようとしていたのだ。
 その世界を救う……

 そんな戯言にしか聞こえない事を、彼は、あっさりと引き受けてくれたのだ。
 とても優しい声で……


 いや、すでに最初から気づいていたのかもしれない。
 元々そのつもりだったのかもしれない。

 先日突如として復活したゲート。それをなしたのはおそらく、彼であろうから……


 だが、その言葉だけで、私はもう、この世界は絶対に救われると、確信出来たのです。


 ですから私は、彼から承った最後の言葉を胸に、こうして政治家を続けています。


「その代わり、その涙を止めてください」


 続けて言われたこの言葉こそが、私に求められた報酬。この世界に住む人々の涙を止める事。笑顔まではいかずとも、悲しむ人を減らす事。それが、私に与えられた、政治家としての使命なのだと悟ったのです……



 ──元老院崩壊後、新たに制定された大統領制において、最大にして最高の初代メガロメセンブリア大統領とされる、クルト・ゲーテルの政治家の心得と残された言葉より。




 ……なんかえらい感動された。



 やはり俺も、土下座を一回くらい披露しておいた方がよかっただろうか……

 飛行船を降ろしてもらってから、そんな事を考えた。
 そんな事してたら。


「……あほだな。お前達は」


 なんて、なんかエヴァンジェリンにあきれられてしまった。


「だが、相手がそれでよいと考えているのだから、よしとしておこう」
 でもすぐ納得したようにうなずいてた。

「ふーん。お前がよしと言うのなら、それでいいか」

「お前はただ、テキトーに生きていたいだけなのにな」

「テキトーとは失礼な。ちゃんとその場に適してる正しい意味の『適当』だぞ。テキトーじゃないぞ」

「はは。そうしておこう。ただ一つ言っておくぞ」

「なんだ?」

「笑顔一つで世界を救うのはかまわんが、お前の笑顔は、私のモノだからな」

「心がこもった笑顔って限定つけてくれよ」

「安心しろ。それに関しては心配していない」

「ならよかった」



 当然笑顔をサービスさ。


 そしたら、宇宙を救える価値のある笑顔が返ってきた。




 さてと、それじゃ祭りの続き、まわるか!




──────




 夜。


 旧オスティア。
 先日『完全なる世界』を叩きのめした墓守人の宮殿とは違う、旧オスティア王宮跡。

 20年前の騒動で魔力が枯渇した地であるが、『完全なる世界』の儀式準備によって魔力が集められていた影響により、今は通常並に魔力が満ちていた。
 だが、平時においても霧深く、人が立ち入れるような場所ではない。

 それゆえ、誰も居ないこの場所が、最後の戦いの場所に選ばれた。




「……」
 広い庭の中心に、彼を取り巻くよう、ネギと仲間達がいる。


 そこには、魔法陣が描かれ、その中心に、黒髪の少年が立つ。

 その彼の隣には、エヴァンジェリン。
 自身の伴侶のその手を、握り、時を待つ。


 通じ合う二人の視線が、絡まる。


「……万が一の時は、頼んだぜ」
「まかせておけ」

 嫌な予感がすると言って手渡されたそれを彼に見せ、エヴァンジェリンは微笑んだ。
 それを使えば、万が一の時、自分を救えるかもしれないのだという。

 そんな万が一はないとエヴァンジェリンは確信していたが、対策や保険はいくらあっても足りないわけではない。慢心は、身を滅ぼす第一歩でもある。
 なおかつ、救えるという可能性が増えるのはいい事だ。



「さて。保険もかけたし。最後の戦い、いってみようか」


 刻が来た。



 最後の戦いが、はじまる。





─あとがき─

 最後の日常でした。

 次回、最後の戦い。


 体の主導権争いなので『道具』がまったく役に立たないという不利な状況。
 そしてその力が奪われれば終わりという戦いです。


 無事ハッピーエンドとなるのでしょうか。



[6617] ネギえもん ─第33話─ エヴァルート21
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/05/05 21:03
初出 2012/04/21 以後修正

─第33話─




 最後の戦い。




──────




 20年前の『完全なる世界』が引き起こした儀式の代償として、魔力が失われた土地。

 廃都・旧オスティア。その王宮跡。


 この地は、20年前の騒動で魔力が枯渇した地であるが、先日壊滅した『完全なる世界』の儀式準備によって魔力が集められていた影響により、今は通常並に魔力が満ちていた。

 それゆえ、人のいないこの地が、最後の戦いの場に選ばれたのである。
 平時においても霧深く、人目にもつきにくいという理由もある。



 その広い庭の中心に、彼を取り巻くよう、ネギの仲間達がいる。


 彼の隣には、エヴァンジェリン。
 自信の伴侶のその手を、握り、時を待つ。


 その広大な庭で、最後の戦いが、はじまろうとしていた……



 かちり。
 0時の針を、時計が指し示した瞬間。



 ざわっ!



 周囲にいるネギ達にもわかるほどに、彼の纏う空気が、変わった。



「き、た……」
 残された右手で、顔を抑えうめく。


 周囲にいるものにも、その背に『闇』が溢れようとしているのが見えた。
 かつて、学園祭で溢れようとしたあの『闇』が。

 ゲートで暴れた、あの意思が……


 ゆらゆらと溢れ、揺れるその『闇』に、ラカンは見覚えがあった。
 20年前戦ったあの『造物主』

 そのローブの闇の色に、よく似ていた。
 あの雰囲気に、よく似ていた!


 マジで、勝つのか?
 あの時と同じく、勝てないと、本能が訴える。
 このままでは、あの体に『造物主』が顕現する。そう思えるほどの、プレッシャーだった。

 思わず拳を握るが、周囲にいる少女達を見て、その握りをといた。

 そこにいる少女達は、信じた瞳で、その男を見守っていたから。



(……ガキがあれほど信じているんだ。俺が焦ってもしかたがねぇや)



 溢れようとする『闇』と、彼の心が戦いをはじめた。



 ネギも、刹那も、彼の苦しむ姿を見て、一瞬顔をしかめたが、両の手を握り、信じる事を再開した。

 もう一人の『サウザンドマスター』である彼が、負ける事などないと信じていたから。
 『宇宙刑事』である彼が、負けるはずなどないと、信じていたから。



 明日菜も、木乃香も、楓も、クーも、カモも、その強さを知っている。だから、負けないと信じている。


 ユエ、ノドカ、パル、朝倉、さよも、彼ならば負けないと信じている。


 超、千雨、茶々丸も、エヴァンジェリンが隣にいる彼が、負けるなどとは思っていない!



 少女達の想いを背に、彼は、その右拳を握った……!




──────




 ざわっ……



「き、た……」


 俺の中をなにかが這いずるような感覚。

 胸から背へ溢れるようなナニカが、俺を襲う。

 背から溢れんような『闇』が、俺を覆った。


 あの時と同じだ。


 ゲートを破壊した、あの時と。



 脂汗がにじむのがわかる。
 その『闇』が、俺の心へにじり寄るのがわかる。


 なにかが、この体を我が物顔で動かそうとしているのがわかる。


「……でもな。今回は、あの時とは違うぜ」

 脂汗をたらしながらも、にやりと、俺は笑った。


「その通りだ」
 優しい声が、俺の耳に響いてくる。

 エヴァンジェリンが、その握る手の力をあげる。


 感覚を失いかけたその体に、ぬくもりを感じる。

 失いそうになる自分を、その温かさが、繋ぎとめてくれる。



 ……俺は、一人じゃない。



 隣に感じる愛おしい人とのつながりがあれば。
 やっぱり俺は、無敵だ。



 俺は、ゆっくりと目を瞑り。
 意識を、自分の中へと向けた。



 見える。
 俺の中。


 心の中に、ナニカがいた。

 俺の体を奪い、俺という意識を消そうとする、ナニカが。

 ぼんやりとして、人の形をしているだけで、その姿ははっきりとしない。
 だが、今まで何度も俺の中で暴れた『闇』だと確信する。


 ゆっくりと、それが俺へと這いずりよってくる。
 それが、俺の中で、俺を消そうと、せまりくる。



 エヴァンジェリンが言っていた。俺を消そうとする時、それは、相手にも同等のリスクがあると。
 深遠を覗く時、深遠からもまた、覗きこまれているのと同じように。


 拳を握る。
 ここに、『四次元ポケット』の恩恵はない。


 ただのおっさんである俺の心しか頼るものはない。



 だが、俺の隣にエヴァンジェリンがいて、かっこ悪い背中を見せられない子供達がいて。ハッピーエンドがせまっている!



 なら俺に、負ける要素がどれだけあるっていうんだ!!



「そういうわけだ『造物主』。ここであんたを吹き飛ばして、ネギの母さんの体も取り戻して、ハッピーエンドにさせてもらおうか!」



 せまり来るその『闇』に向かい、俺は拳を握り、振り上げた。



「おらあぁぁぁぁ!」
 その顔面に、力いっぱいその拳を、みんなの想いが乗った拳を、たたきつける!




──────




 次の瞬間。
 彼は、自分自身の顔面に、その右拳を叩きこんだ!!



 彼の背から、闇が噴出す。
 まるで、黒い羽が生えたかのように。



 ぎぃあぁぁぁぁぁあぁあああぁぁぁぁ……!!



 悲鳴のような音が、闇と共に漏れる。
 その闇は、噴出した後、霧散し、消えてゆく……



「はぁ、はあ……」
 ゆっくりと、膝を地面に落とす少年。


 息は荒いが、その目には、はっきりとした自分の意思が見える。


「勝ったな」
 その少年に、隣にいた少女は、声をかける。


「ああ。これで……」
 少年は、その少女を見上げ、言葉を発しようとした……




『……終わりではないさ。むしろ、はじまりだよ』




 虚空から、声が響いた……


 彼等の頭上。
 そこに、闇が広がる。


 いや、闇が、集まる……



「しぶといな。神楽坂明日菜!」
 エヴァンジェリンが指示を出す。

「うん!」

 この事態は予測されていた。

 だが、最後の足掻きでしかない。
 あの状態では、呪文もなにもあつかえない。


 完全魔法無効化の力を持つ明日菜の手によって、消滅させられるのみである。


 自身のアーティファクト、『ハマノツルギ』を振り上げた明日菜が、ネギの作った風のジャンプ台を使い、跳ぶ。


 その集まろうとする闇へと、その剣を、振り下ろす!

「これで終わりよー!」



 が!


 がきーん!


 その一撃は、見えない壁に、さえぎられた。


「っ!」

「アレは!」

 超が見て驚く。
 アレは、ゲートの時自分達が見た、あの壁。

 彼がはった、自分達の手では、傷すらつけられなかったバリア!


「いや、違う……」

 超の言葉を、彼が否定する。

「あれは、あの時のじゃない……もっと、上のものだ……」

 彼の声が震えている。

 あれは、自分の知る『道具』の効果ではない。もっと、もっと上のものだとわかる……


「だが、なぜ……?」


 『ポケット』を奪われたわけじゃない。
 それなのに、なぜ、あの闇が、『道具』を使える!


「……そ、そうか……」
 その闇を見上げ、フェイトはなにかに納得する。

「あれは、確かに僕の主、『造物主』だ。だが、あれは、僕の主ではない……」

「い、意味わかんないわよ!」
 偶然彼の近くに着地した明日菜が、叫ぶ。

「そのままなんだ。あれは、僕の主だが、主ではない。それしか、答えはない!」


 目の前に現れようとしている造物主は、確かに『造物主』である。
 しかし、それは、フェイトの知る『造物主』ではない。

 造物主であるが、『造物主』ではないのだ!

 フェイトには、それしかわからない。
 だが、それだけで、十分でもあった。


「僕達は勘違いしていた。封印された主は、ずっと封印されたままだった。あそこに居たのは、別の主だったんだ……!」

 愕然とした表情で、フェイトはその事実に気づいた。


『そうだよフェイト。私は君の主であるが、君を生み出した者ではない。私は別の世界の『私』。異世界同位体と呼ばれる、別の世界の『造物主』なのだ』


「……異世界同位体」

 黒髪の少年が、ポツリとつぶやく。

 異なる世界の同じ人物。異世界の、同一人物……
 自分と、この体と同じように。


 そう。彼そのものという前例があるのだ。彼以外に同じ何者かが現れない可能性がないなどとは、当然言えない!

 『四次元ポケット』を持つ彼が、他の世界の『彼』であったように。
 目の前に現れたフェイトの主もまた、別の世界の『主』なのだ!


 だからこそ感じたフェイトの違和感。
 だからそれを肌で感じたフェイトは、ソレを倒そうとした!


 しかし、次元を超えた召喚など、別の世界の同じ人物が現れるなど想像も出来ないフェイトは、それを言葉で表す事が出来なかったのだ。


 目の前に存在するあの闇は、『造物主』と同じ存在……


 そして、気づく。

 違った。
 この世界に封印された『造物主』が、外から体を奪いにきていたのではなかった。

 最初から、中に居たのだ。

 あの闇のなかに、それは、最初からいたのだ!
 あれこそが、もう一人の『造物主』だったのだ!


 ならば、あの闇が這いずり出してきた時、打ち払われた闇は、どこへいった……?


『そうだよ。感謝しよう。君のおかげで、私はこの世界に顕現する事が出来た……』


 闇が、心を見透かしたように、彼へと言葉をつむぐ。


『君のように顕現するのは、中々に骨だった。なにせこの世界の私は、封印されているからね。しかも私は、君とは違い、存在が強大すぎる。そう簡単に世界から世界へは渡れなかったのさ。だから、君によって、何度かにわけてこの世界へ呼んでもらったんだよ……』


「な、に……」


『何度だったかな? 君が、自身の中で、身に宿した『闇』を打ち払ってきた回数は?』


 ヘルマン、学園祭、ゲート、あの茶番劇。そして、今。5度にわたり、彼は闇を退けてきた。


『そう。5回だ。そのたびに、私はこの世界へと少しずつ顕現していたのだよ。君が闇に打ち勝つたび、私という存在は、少しずつこの世界に押し出され、現れる事が出来たのだ。君のおかげで、私はこの世界へやってこれた』


「……つまり、お前をこの世界に呼ぶために、俺は呼ばれたって事か?」


『そう。君は選ばれた。体の中の闇を打ち払い、世界へ放出する。この世界と私を繋ぐ門として。闇に負けない意思を持つ者だからこそ、選ばれたのだ』


 途中で闇に押しつぶされては、この世界へやってくる事は出来ない。
 ゆえに、絶対に負けない心を持つ者が、門として必要だったのだ……!
 どんなにへたれでも。どんなに怖くても。絶対に諦めず、絶対にくじけぬ心の強さを持つ者だから、彼は門として選ばれてしまったのだ……!

 ソレが完全に顕現するまで耐えられる精神を持つ者だったから!


 この世界において、その体の持ち主であった少年は、この世から姿を消す前、こう願ったかもしれないと言った。
『もしも僕に、もっと強い心と力があれば』と。

 それに応じて彼が現れたと。自分のせいで。と……

 だが、それは事実ではなかった。
 この世界へ、彼をいざなったのは、この世界の『彼』ではなかった!


 彼をこの世界にいざなったのは、この世界へ現れる事を望んだ別の世界の『造物主』!


 その少年の器が門として選ばれたのは偶然に過ぎない。異界から彼が呼ばれたのは、その体の中でもっとも心が強かったからに過ぎない。
 たまたま選ばれた器の中で、最も門に適していた彼だから、この世界に現れたのだ。


 そしてその『闇』は、計画通り、この世界に顕現した……


 体を奪えても、奪えなくても、どちらもヤツの思い通りだったのだ。
 途中で破れたのならば、彼の力を得た『造物主』が。最後まで勝ったのならば、このように。
 彼がこの世界に現れ、その力を顕現させたその時から、その計画は、成功していたのだ……!


『それは正しくない。なぜなら君の肉体など、その力など、必要ないからだ。君の力は、私の力を劣化して模倣したに過ぎない……』
 だが、その闇は、その仮定を否定する。


「なん、だと……」


『君は知っているだろう? 私の事を。その最強を超えた、究極の、そして、終焉とも言える、科学の力を……』


 声が、集まる。
 闇が、集まる。

 彼が追い出した闇が、集まる……


 その力が、形作られてゆく……


 闇が、そこに、形を作る。
 そこには、一つの仮面が現れていた。


 彼は、それを、知っている……



 その時彼は、なぜそのバリアが、その場にあるのかを、完全に理解した。



 俺は、知っている。
 ドラえもんが、その『道具』を使用しながら、完全敗北した存在を。
 全ての『道具』の性能を上回り、時間停止すら無効化し、ドラえもんを黒焦げにした存在を。
 タイムパトロールという軍隊にも近い組織が来て、ようやく解決する事が出来たその事件の黒幕を!


 あのドラえもんの科学のさらに100年先を行く、23世紀の科学力を持った、最強の敵とも言える存在。



 彼は、その名を、その仮面を持つ者の名を、喉から搾り出した。



「『ギガゾンビ』!」



 それのしていた、自身を象徴する仮面が、なぜここに!?


「だがなぜ『造物主』がその姿をしている!」


『なぜ? この仮面の姿かね? 答えはわかっているんじゃないのかい? 私はね。この世界では『造物主』であり、他の世界では『ギガゾンビ』と呼ばれる存在でもあるからだよ』


「な、に……?」
 彼にもそれは、衝撃的だった。


『ああ、君が知る、『ギガゾンビ』もまた、私とは別の異世界同位体かもしれないな。しかし安心したまえ。私の持つ力は、それと同位なのは間違いない』


「っ!」
 安心など出来るわけがない。同じなどであるはずがない。相手には魔法もありえるのだから。ここにタイムパトロールなどはいないのだから。
 それに察知されぬ肉体を捨てるこの方法で、この世界へ渡ってきたのだから!


『当初の予定では、原始時代で王国を作ろうと思ったのだがね。もしも。も探してみるものだ。それよりも面白い世界を見つけた。だから、この世界へ接触し、顕現する事を決めたのだ』


 仮面が、つらつらと言葉を発する。


『肉体は、こちらでいくらでも調達出来るから、力と、『私』を君に運んでもらったというわけさ』


 誰もが信じられない事を、当然のように。
 だがそれは、全て事実であった……

 そもそも。ただの人である彼に、青ダヌキ以上の利便性を持つ『四次元ポケット』を与えられるのは何者か? を考えれば、ここに『ギガゾンビ』の存在があるのも必然といえる。
 彼が『四次元ポケット』を持つ事。それこそが、『ソレを知る何者か』がこの世界に介入した証なのだから!

 ならば、彼を門としてその内より顕現した、目の前にいるそれは、『造物主』であり、『ギガゾンビ』である以外ないのだ……!


『つまり君の力は、私を運ぶからこそ君にもおまけでつけた、私の模倣であり、私にしてみれば、100年も前の、化石にも等しい前時代の力なのだよ。そんな力、私が必要だと望むと思うかね?』

 正確に言うなら、彼の力は、いわば保険である。
 一度の召喚で顕現が可能で、万一彼が闇に負け、『ギガゾンビ』の力が完全にこの世界へ顕現出来なかった場合、その力を使い、目的を達成する。


 23世紀の科学よりは落ちるが、それでもこの世界を好きにするには、十分な力であるのだから……
 それは、今まで彼がしてきた事を振り返れば、十分すぎるほどに証明されている。


 その言葉に、この場に居た全員が息を呑む。
 彼の力を、化石にも等しいと表現するその自信。

 なにより、力が強大だからと言って、5度にわけなければこの世界に現れる事が出来なかったというのが本当ならば、単純計算で、一度の召喚で現れた彼の、5倍強いという事になる……!


 彼の力の強さを身をもって知るネギ達だからこそ、その宣言に、戦慄せざるをえなかった。



 そんな中……



「はっ、ははははは」


 ……彼が、笑った。


「はははははは」


 楽しそうに。


「ははははははははは」


 嬉しそうに、ひとしきり笑い、それを止める。
 思わずにじんだ涙を目じりから払い。



「一つ、感謝しておくよ」


 正面に仮面を見据え、そう言った。



『なにをだね?』


「血筋とか、才能とかじゃなくて、選ばれた理由が、俺そのものである意思だったってところは悪くない。あんたがそんな事を考えてくれたおかげで、そんな俺だから選ばれて、俺はこの世界に来れた。あんたじゃないが、『造物主』がエヴァを吸血鬼にしてくれたおかげで、俺はエヴァンジェリンに出会えた。この世界に愛着を持てた。それは、感謝するよ」


 仮面に指を突きつける。


「つーわけだから、それに免じて、このまま素直に元の世界へ帰るのなら、見逃してやるよ?」


 自分の5倍強いかもしれない力。
 100年先の科学を持つ者。

 それに対し、彼は臆する事なく、そう言い切った。


 その言葉は、愕然とする者達へ、勇気を与える……


『ふふ。さすが私をこの世界へ呼ぶために選ばれただけはある。そう簡単には絶望しないか』


「あったりめーだ。なにをやりたいのかは知らないが、どうせろくな事じゃないんだろ? なら倒されるの確定しているし、こっちの世界の『造物主』もついでに倒す。それで俺達はハッピーエンドを迎えるんだからな」


『残念だが、それは無理だろう……』


 その仮面が、闇色の光を放つ。

 次の瞬間。宙に浮かぶ『ギガゾンビ』の仮面から、一つの扉が零れ落ちた。

 真っ黒で、荘厳な雰囲気のする扉。


 ぎぃ。


 ゆっくりと、その扉が開く。
 扉の後ろには、なんでもないその後ろの空間があるはずだった。

 しかし、その扉の先にあるのは、水晶のようなものに閉じこめられた、闇色のローブを着た存在。


 知っている。
 その『道具』の存在を、知っている。それは、まるで、『どこでもドア』だ……


 だが、彼等の知る『どこでもドア』とは、それは違った。


 その水晶が、扉へとせまってくる。

 いや、正確には、ドアの空間が、水晶へと進んでいるのが正しい。
 こちら側からだと、水晶が動いているようだが、その実は、扉の空間が勝手に動いているのだ……


 自動で対象をそのドアは飲みこみ、こちら側へ。
 仮面の下へと、それは姿を現した。


 扉から、その水晶などないかのように、そのローブの存在は、姿を現しわしたのだ……



 封印など、関係もなく、目的のモノのみを、こちらに招き入れたのだ!



 その闇色のローブを纏った存在は、空に浮かぶ、扉を吸いこんだ『ギガゾンビ』の仮面を手に取り、頭部を覆うローブを外した。


 そこに現れた姿は、ナギ。

 ネギの母であり、『サウザンドマスター』であり、封印された『造物主』のヨリシロとなっている存在。

 それが、闇色のローブを羽織り、そこにいた……


 つまり、この場に現れたのは、この世界の、『造物主』


「テルティウムよ……」

 そのナギが、言葉を発する。


「今までご苦労だった。もう、消えてなくなってよいぞ……」

 次の瞬間、その正面に魔法陣が現れ、闇のビームが、放たれた。


「っ!」
 フェイトは、あまりの事に反応出来なかった。


「危ない!」
 だが、幸運にも近くに居た明日菜の剣が、その光線をかき消す。


「あ、あぶなぁ……」
 ほっと胸をなでおろす。


『やはり、私の力が必要のようだな』
「そのようだ。私よ……」

 手にした仮面を、ナギはその顔へと収めようとする。


「させるかよ!」
 絶対に勝てないと感じたプレッシャーを、彼の言葉によりはねのけたラカンが、仮面とローブの存在の要る高さまで飛び上がり、拳を握っていた。

 その拳に集まった力。ラカンのラカンインパクトが、そこへ向け飛ぶ。

 だが、その一撃も、光の膜を傷つける事は出来ない。
 ラカンの一撃ですら、そのバリア。


 23世紀製の『バリヤーポイント』に、傷一つ入らない!


「ちっ……」


「なぜ、なぜです主! なぜ……!」

 フェイトが無慈悲な主へ疑問を投げかける。
 どうして、自分の計画をすべて捨てたのか。
 どうして、自分まで不要と言うのか。

 本当の主であるあなたまで、なぜ、消えろなどと!


「簡単な話だよ。お前はもう、必要ない。私は、この魔法世界だけでは足りないのだ。すべてを、作り変える。そのために、もう一人の私を呼んだ。これで私は……」

『そう。私は……』


「『創造主』となる」


 ナギの顔に仮面がかぶさり、二つの声が、重なった……



 この瞬間。『ギガゾンビ』と『造物主』が融合した、『ギガ造物主』が誕生した。



「はは、わかりやすい目的だ。大も小もない。自分の好きな世界を作りたいってか」

 黒髪の少年が、空に浮かぶその存在の言葉を、茶化すよう言う。


「その通りだ」
 その存在は、あっさりとそれを認めた。


「……っ!」
 意外! そうまであっさりとそれを認められるとは、彼も思ってはいなかった。


「どれだけ高尚な理想を掲げようと、なにをどう言いつくろうと、たった一人の存在が、世界を好きに破壊し、作り変え、生み出すというのは、他に存在するすべての者を否定する行為だ。ならばそこに、下手な装飾をつける必要はあるまい? それとも、人類の救済を掲げれば、納得するのかな? 君は、世界を救うためという建前のそれを、受け入れてくれるのかな?」

「ねーな」
 彼もそれは、あっさりと認める。

「ならば、下手な装飾はなしだ。たった一言で、私の目的は伝わっただろう?」


 仮面に隠れたその顔は、すでに見えない。
 声も平坦で、感情はまったく感じ取れなかった。

 ただ、一つだけわかる。
 目の前の存在は、人類はおろか、世界の敵であると。

 すべてを破壊し、新たな世界を創造する存在であると!


「まったくだ。だからこっちも、装飾なしに言っとくぜ。今からあんたをぶっ倒す!」

「ああ、その通りだな。いくぜ小娘ども!」

 彼に続いてラカンが子供達に檄を飛ばす。


「はい!」


 ラカンの言葉で、少女達も一斉に構えを取った。



「エヴァンジェリン」


 しかし、構えた少女達の事など気にも留めないように、『ギガ造物主』は言葉をつむぐ。
 いや、実際大して興味などないのだろう。

 自身が敗北する光景など、考える必要もないほどに差があると知っているから……


「我が娘よ。ご苦労であった。お前のおかげで彼はここまでこれた。半分は、お前のおかげでもあるだろう。だから、お前に、待ち望んだ死を与えよう」

「なっ、に……?」


 ヤツは、ゲートで現れた時、こう言った。

『「永遠の命を持つお前は、私に必要なのだ。私を永遠に語る、語り部として……」』

 と。
 そして、吸血鬼に戻そうとした……


 だが、今はもう消えてよいという矛盾。
 融合したからか?

 否。その本質は、どちらも同じだった。


 ならばそれの意味する事。それはすなわち……

 ゲートでフェイト達の目的通り、ゲートの要石を破壊したのは、彼等の計画を助けるためではない。
 あの破壊は、彼を呼び覚ますための行動。
 だが、彼はそれで目覚めなかった。
 だからその後、エヴァンジェリンに目をつけた。
 彼の意識を、呼び覚ますために!

 すべては、自身の計画の為に!!


「……そういう事か。どこまでも虚仮にしてくれる!」
 左の手を、ごきごきとエヴァンジェリンは鳴らした。



「では……」


 エヴァンジェリンの行動すら無視し、その言葉と共に、『ギガ造物主』は、ゆっくりと手を空へ掲げた。


 ローブの袖から、それは這いずり現れた。


「っ!」
「あれは!」


 一つのカップルが、同時に声を上げた。

 二人はそれを知っている。
 それが、どんな効果を発揮する、爆弾なのかを……



『地球破壊爆弾』
 その言葉の通り、一撃で地球を破壊する威力を持つ爆弾である。



「さらばだ」
 そいつは、事も無げに、それを彼等の元へと、放った。



「そんなのいきなり、使うなあぁぁぁ!」

 その威力を知る少年は、両手を別々のポケットへと入れる。


 その片手には、『ビックライト』
 残った手には、『ひらりマント』


 どちらも説明は必要あるまいな!


 光が瞬き、その空を覆わんばかりのマントが、そこへ翻った。


 その上で、その破壊爆弾が、力を発揮する。



 カッ!!



 はるか遠い地球。
 その光は、遠く遠く離れたその地からも、確認が出来た。

 魔法世界の土台となる、ヨリシロたる火星。そこからもれた光が、光の柱を形成しているのが、現実世界の地球からすら確認が出来たのだ。


 それこそが、星を破壊する光……!


 それが、巨大化した『ひらりマント』によって、その力が跳ね返る。

 生まれた爆風すべてがひるがえり、反射された。

 空へ向って、すべての爆風が、はじけとんだ!

 魔法世界へと溢れようとする星を破壊するほどのエネルギーが、真上。空へと逃がされたのだ!


 光の柱が、生まれる。


 それでもびりびりと、マントの反射をすり抜け、衝撃が響く。

 星を一撃で塵へと返す力なのだ。
 空に逃がしたからといって、この後魔法世界にどんな影響があるのかすらわからない。


「や、やったか!」


 誰かが言った。


「いや……」
 その言葉に、その力を跳ね返した少年が否定の言葉を持って返す。


 衝撃が消えたその先。
 マントという視界をさえぎるものが消えた先。


 そこには、無傷で浮かぶ、その存在がいたのだから……


 爆発という、範囲を破壊する事により、威力が分散されたそれは、相手の『バリヤーポイント』に傷すらつけなかった。


 ある意味当然の結果だろう。
 相手もそれを理解して放ったのだから。

 なにせ、相手が使ったのは、彼も持つ『道具』。
 23世紀の100年も前の技術で作られた、破壊の力なのだから……


 相手の纏うそれは、23世紀製の『道具』なのだから!


「そもそも、わざわざ俺の『ポケット』に入っているの使うというのがいやらしい!」
 びしっと彼は、空に浮かぶギガゾンビに向け、指をさした。


「その『ひらりマント』、使い物にならなくなったな」


 『ギガ造物主』の声が聞こえる。
 『ひらりマント』はその表面に触れたものを反射するという『道具』である。
 ゆえに、威力の高いものを跳ね返せば跳ね返すほど、マントそのものが傷ついてゆくというデメリットがあった。
 この言葉により、少年は一つの確信を持つ。


 ヤツは、『ギガ造物主』は、『道具』の知識も完璧だ!


「わかってんだよそんな事は! その余裕、絶対消してやる!」

 再び彼が、ポケットへと手を入れ、一つの時計を取り出した。


『ウルトラストップウォッチ』
 ストップウォッチを模した『道具』で、かつて使用した『タンマウォッチ』同様時を止める効果を持つ。
 しかし『タンマウォッチ』は時計に触れている者以外の時間を止めるのに対し、こちらは使用者の近くにいればその時間停止の効果を受けず、止まっている相手にこの『道具』で触れる事で時間停止を解除出来るという違いがある。


 ゆえに、この場で彼に触れておらずとも、近くにいる仲間の時間も止まらない!


 時が、止まる。
 煙の動きも、雲の流れも全てが止まる。


 当然空に浮かぶ『ギガ造物主』も……



「……それに意味があると思うのかね?」



 ……止まらない。



 止まっているはずの時の中を、その存在は平然と動く。
 すっと、右腕を正面に突き出せば。



 直後、ガラスが割れるような音と共に、時間の停止が解除された。



 非戦闘員として、その場から脱出し、別の場所から見ていた超は戦慄する。
 あの絶対の力が、こうも簡単に!


 だが、彼は動揺しない。
 にやりと笑い。


「いいや思わない。でもよ、これが発動している限り、あんたも時間は止められない。そうだろ?」

 時計をひらひらと見せ、発動したままのソレを、そのままポケットへとしまった。


 停止が発動している限り、それを解除し続けなければならない。
 時間の流れは、さすがに一つしか存在しない。それを止めないよう進め続けるという事は、自身の時間停止も使えないという事である。
 それが可能ならば、わざわざ時間停止の解除を行う必要がないのだから。



「確かにな。君も中々の知識を持つようだ」



「これで絶対一方的っていう状況はなくなった! みんなひるむなよ!」


 さらに彼は、懐より『道具』を取り出す。
 二度も呼び出すことはないと考えていた、その獣を。



 他の者の回答も待たず、彼は手に掲げたそれを発動させた。



「こい! ヤマタノオロチ!!」



 ぞわっ。


 場にいたもの全ては、一瞬正気を持っていかれるかと感じた。

 場に現れたのは、古の獣。


 かつて麻帆良の地に召喚された、神の獣。
 神話の龍。


 日ノ本の神話に存在する、八つの頭を持つ獣。


 その巨体が出現する事によって、多くの者はこの場から、逆に飛びのく事となる。
 しかし、この巨大さは、非戦闘員の避難と、敵である『ギガ造物主』に、他の者を狙わせないという目的もあった。


 獣が頭をもたげ、その存在の前に巨大な姿を現す。


 王宮にある宮殿の高さよりもさらに上にあるその双眸達が、目の前の『敵』を捕えた。



「今回はその先まで全部廃墟だ! やっちまいなー!」
 オスティアに広がる霧の中、どこからともなく、黒髪の少年の声が響く。

 ヤマタノオロチに全力全開で攻撃を放てと命じたのだ。



「ギャオォォォォォォ!!!」


 ヤマタノオロチが、吼えた。


 その一撃は、相手が相手ならば、新たなる神話として語られたであろう……



 その八つの口より放たれた光に抗える存在など、この世界にいないと、誰もが確信しているほどの、光であった。

 その一撃は、大地をえぐり、地を揺らし、巨大な轟音を生む。



「な、なんちゅー一撃や……」
 場から避難したコタローが、思わず言う。

「ニンニン」
「ですが、これでも……」

 木乃香を抱えた刹那が、思わずつぶやく。


 あれは、日ノ本を代表する伝説の魔物。
 国造りの時代、神に屠られた神獣。

 誰が見ても、その一撃に耐えられるものはいない。

 だが、彼女達は知っている。
 それすら防ぐ力がありえるという事を……



 その光の奔流の中に、それはいた。
 透明の膜により守られ、平然と空に立つそれが。



 その光の奔流の中、揺らぐ事のない存在が、そこに存在した!



 そのバリアは、神話の一撃を受けても、揺るがない!
 神話の怪物ですら、それに傷をつけられない!


 再び、その袖から、一つの『道具』が姿を現す。


 それは、一見すると、なんの変哲もない槍にしか見えなかった。



 その槍が、光の奔流の中、ヤマタノオロチへと向けられる。



『ショックスティック』
 穂先から電撃を放つ槍。
 22世紀のタイプは、原始人が持つ紐で巻いただけの粗末な石槍タイプであるが、23世紀のタイプは、シャープな造詣の槍である。
 旧型は、最大パワーならば、象も一撃で昏倒させるというが……


 彼は、その槍を見た事があった。
 ドラえもんの劇中で、ギガゾンビがふるった、23世紀の、電撃を発する槍だったから。



 穂先がバリアの範囲外へと出るが、その表面が光るだけで、その本流の中、揺るぎもしない。


「神に屠られた獣程度が、『創造主』たる者を倒せるなどと思うな」


 その言葉と共に、雷が、放たれた。


 一本の雷が、オロチの光線を、受け止める。

 二本目が、ゆっくりと、オロチの光を押し返す。

 三本目。四本目。五本、六本、七本……

 細い雷が、次々と生まれる。
 一本一本が重なり、強大な雷へと生まれ変わる。


 その槍の先端から、雷が、次々と放たれてゆく。


 千の雷など、目ではない。
 それこそ、億。兆。いや、数など数えるだけ無駄だ。


 名をつけるならば、『神の雷』が、まさに相応しい……


 獣の一撃が、その雷によってかき消された。


 そこに新たに生まれるのは、巨大な雷の嵐。



 ヤマタノオロチが、『神の雷』に飲みこまれる。



「キギャアァァァァァァァァ」



 ヤマタノオロチの断末魔が、あたりに響き渡った。
 それでも雷の嵐はとまらない。オロチを焼き尽くし、塵へと返し、さらに周囲を飲みこんでゆく……!




「だが、その攻撃の瞬間を、待っていたぜ!」


 雷の槍を掲げる『ギガ造物主』の耳に、そんな声が響いた。


 ふと視線をめぐらせれば、すぐ近くにまで、彼の仲間がきていた。
 オロチの攻撃に紛れ、こちらの隙をうかがっていたのだろう。


「攻撃している間は、あの倍返しは使えねぇんだったな!?」
 先頭にいるラカンが、自分達の最後尾にいる少年へ、声をかける。


 オロチとぶつかり合っている間に、なにか策を授けたのだろう。


「たぶんな!」

 あの倍返しとは、『痛み倍返しミラー』を使用した、ダメージ倍返しのカウンターである。
 あれは、持ったまま攻撃するとダメージが自分に返るというデメリットがあった。
 あれほど強力な『道具』なのだ。あのデメリットは、どれだけ未来になろうと削れはしないだろう。彼はそうあたりをつけていた。

 だが、実際は賭けである。


「なら、いける!」


 全開ラカンインパクトを撃つ準備に入るラカン。

 だが、雷を放ったままとはいえ、『ギガ造物主』の体は、今だバリアに守られている。


「ニン!」

 そこに、そのバリアに、奇妙なフラフープが投げつけられた。


『通り抜けフープ』
 知ってる方も多いと思われる『道具』
 フラフープをかたどった『道具』で、これを壁面などに貼りつけると、その壁の向こうへくぐり抜ける事が出来るという壁抜けの『道具』


 ならば、バリアも通り抜けられるはずだ!


 そこにあわせ……


「我が主よ。いや、あなたはもう、主ではない。だから、こう呼ばせてもらおう。『ギガゾンビ』と」
 フェイトが、空に浮かぶそれに向かい、そう宣言した。


 主はやはり、変質してしまった。
 あの仮面と交信した事で、自分の知る存在とは別の存在に変わってしまった。

『思うた通りに動いてみろ』

 変質する前の主は、こうおっしゃられた。


 ……ならば僕も、思うままに動きます。


「ヴィシュ・タル リシュタル ヴァンゲイト!! 契約に我に従え奈落の王!! 地割り来たれ 千丈舐め尽くす灼熱の奔流!! 滾れ! 迸れ! 赫灼たる亡びの地神!!」

 主との決別を果たし、フェイトが呪文を唱える。


「引き裂く大地!!」


 極大呪文。
 『引き裂く大地』と呼ばれる大地の力を解放して放つ、地の属性最大クラスの呪文。
 地に放てば、溶岩を生み出す力を、その光の膜に空いた穴へと撃ちこんだ。


「いくで! 犬上流獣化奥義狗音影装!」

 小太郎の姿が変わる。獣化。人間の体を捨て、身体能力を大幅にパワーアップさせる、小太郎最大の奥義。

「さらに!」

 しかし、獣に変わった姿が、さらに変わる。人の姿へと、戻ってゆく。
 その力を、右腕に集中し、獣の自分をそのまま相手にぶつけるという、今日ラカンとの修行で身につけた、最新の必殺技!


「名前はまだない!」


 その右腕から、巨大な獣と化した気の塊が、飛び出した!



 三者の攻撃が、空を裂き、その開いた小さな穴へと吸いこまれる。



「やっ……!」

 思わず誰かが叫びそうになった次の瞬間。


 彼女達が撃ちこんだ、その穴から、同じ攻撃が、そのまま返り、放った者達へ直撃する。


 ラカンもフェイトもコタローも、その衝撃で、弾き飛ばされ、地面へ着地する。


「みんな! 今治療するえ!」


 跳ね返されたその一撃達の傷を、刹那に抱きかかえられ、クーに守られた木乃香が次々と癒してゆく。


「かはっ……」
「だめ、やったか……」

「ダメじゃねーか!」
 一応の作戦立案係である黒髪の少年へ、ラカンが怒りを向ける。

「やっぱダメだったか。すまん!」


 確かにギガゾンビは原作中でも『通り抜けフープ』の通路を捻じ曲げ、別の場所へと通じさせていた。
 それは、あの薄い壁でも捻じ曲げる事が可能だという事か……


 だが、一つわかった事は、相手はあのミラーを使用してはいないという事。少なくとも、持っていれば全て跳ね返せるというメリットだけが存在しているわけじゃない事は確認出来た。

 もっとも、結局はバリアがあるから、大きな進歩ではないが。


 やはり、下手に小細工するよりも、正面からあのバリアを破るのが、一番相手の意表をつけるか……
 彼はそう考える。



「ならば次は私だな!」


 地面にいる彼等の元を振り向こうとした『ギガ造物主』の頭上から、声がする。

 マントを翻し、『吸血鬼』へと変化したエヴァンジェリンが、姿を現した。


 両手を目標へと向け、最後の呪文を唱える。



「『凍りつく氷棺』!」



 直後、『ギガ造物主』の周囲を、巨大な氷の棺が覆った。



「やっときたか!」
 待望といった声を、彼が上げた。


「これで身動きは……」
 見上げた刹那が、言おうとするが……


「いや……」

 放ったエヴァンジェリンが、それを否定する。


「次は君か。我が娘よ」

 氷の中。ぽっかりと開いたバリアの中で、それは言葉を平然と発する。
 低温などものともせず、それは平然とそこにある。


 バリアの中から、槍がその氷の棺に突き立てられる。

 その周囲に、魔法陣が生まれた。
 陣から魔力が放たれたその瞬間。



 じゅわっ!



 瞬時にして、その魔法が解除される。


「おいおい」
 思わずラカンがつぶやいた。

 あのエヴァンジェリンの魔法を一瞬で解除とか、前見た時よりとんでもなくなってる。
 それは、もう一人の造物主、『ギガゾンビ』と融合したがゆえだろう……


「この世界で生まれた魔法や気が、私に通じると思ったか?」


「思ってはいないさ。だが、目くらまし程度にはなっただろう?」
 彼の隣へ降り立ったエヴァンジェリンが、そう『父』に告げた。


「む?」



 次の瞬間。舞い上げられた粉塵や、魔力のかく乱、気の放出によって認識のさえぎられた先から、その一撃がバリアに突き刺さった。



 皆の大技に隠れ、準備されてきた、そのネギの一撃が……




──────




 時は、『地球破壊爆弾』が投下された直後に戻る。


 時を止め、ヤマタノオロチを召喚する間に、エヴァンジェリンはこの場にいる非戦闘員をかき集め、近くに止めてあったグレートパル様号へと避難させていた。


「……まさか、嫌な予感とはこういう意味だったとはな」
 エヴァンジェリンが一人ごちる。

 確かに負けはしなかった。
 だが、それもまた、敵の計画のうちだったとは……


 その上、ナギの体を奪った『造物主』まで現れ、それと融合してしまった。
 このままでは、バリアを破ったとしても、直接攻撃が出来ない。


 となれば、あの時教えられた方法を、やるしかない。


「ネギ、お前はあの一撃を放つ準備をしろ」
 もう一人。戦闘の主軸となるネギがエヴァンジェリンにつれられ、その場所に居た。

「え? はい。ですけど、ここじゃ味方の数が少なくて……」

「それは今からどうにかする。お前は、今から最大の力で、この星の者全ての力を借りる勢いで、あの呪文を展開しろ」


「……っ! やれるんですか?」
 エヴァンジェリンのその言葉と共にネギはやるべき事を理解する。


 しかし、ネギの魔法は、味方の力を借りる。最低でも、力を貸すと同意してもらわねばならない。

 だが、どうやって同意を得るというのだろう……?

 そして、自分にソレが本当に出来るのだろうか……?
 この世界全てに範囲を広げるなんて、理論上は可能というレベルでしかない。


「お前ならやれる。準備は任せろ」
 その不安を吹き飛ばすよう、エヴァンジェリンの言葉が、ネギに降り注いだ。

 それは、ネギの心に芽生えた不安を吹き飛ばすに十分の言葉であった。


「はい! ですけど、バリアを破ったあとは……」


 その先にいるのは、ナギの体を器にした『ギガ造物主』だ。


「その点に関しても、考えがある。耳を貸せ」



 エヴァンジェリンは、その考えをネギに伝える。



「わかったか? お前は、この一撃だけを考えろ。力も、限界まで借りてかまわん。どうせ勝てなくてはこの世界は終わりだ」
「はい!」

 拳闘大会の時は、応援したそのエネルギーをそのまま借りただけで、疲労がちょっと増える程度だったが、今回は、たとえ世界全員の力を借りても、それでは足りないと想像出来た。
 相手は星をも砕く力にすら耐えるバリア。全ての人の力を、限界まで借りて、破れるかどうか。
 ゆえにネギも、それに関しては素直に同意する。


「世界の協力は、お前の仲間に任せればいい」
「はい!!」

 そして、エヴァンジェリンの言葉を信じ、ネギは自身の魔法を使うため、グレートパル様号の上で、その魔法を展開しはじめた。
 世界全ての人から、力を借りるための、魔法を……


「残りの非戦闘員! お前達にもやってもらう事がある!」

「はい!」

 グレートパル様号に連れてきた、朝倉、さよ、早乙女、千雨、茶々丸、超、ユエ、ノドカの非戦闘員を、今の光景をカメラで撮り、外へ流せる準備をさせる。

 超と茶々丸がいるので、それを外へ放送するのも楽なものだった。


「まさか、ここでこいつをならす事になるとはな」


 エヴァンジェリンは、手にした小型の魔法具を発動させた。

 今日渡された、総督へのホットラインだ。


 ツーコールもしないうちに、そのラインは繋がった。



「聞こえるかクルト・ゲーテル。世界の危機を救う手助けをしてもらうぞ」




 ……




 そのパーティーは、0時を回ったというのに、今だ盛況であった。
 今日は、24時間休みなしで、その最後の日が祝われる。0時をまわり帰らねばならないシンデレラが存在すれば、今日ほどその制限が残念だと思わなければならぬほどに、その祭りは、絢爛豪華であった。


 なんの因果か、総督の願ったスピーチも、その時間にはじまるという、少々遅めのスピーチとなっていた。
 日が変わり、新しい歩みという意味もこめた、スピーチだから。


 だが、それがある意味、幸運を呼ぶ。


 あの大暴露大会となったあの時と同じように、世界のいたるところで中継が行われる、大切な世界スピーチ。
 災厄の魔王と呼ばれたあの英雄の名誉を回復するためのもうけられた、一幕。


 そのスピーチがはじまろうとしたその時。


 突如として、旧オスティアの方角から、光の柱があがった。


 それは一瞬、魔法世界の夜を、昼に変えた。


 光の後訪れるのは、轟音。
 それは、世界の隅々まで届き、人々の目を覚まさせた。

 光だけを見れば、巨大な花火のようであり、この祭りを祝っているかのようではあった。

 しかし、その後訪れた轟音と振動は、そのような楽天的なものではないと、人々に気づかせるのには十分だった。
 その衝撃は、眠りを起こされた人々に、そこへ注意を向けるきっかけとなる。


 大地震が起きれば、人はテレビをつけ、その被害を確認するように、人々は、空を見上げた。

 きしくも、空にはスピーチ用のモニターが浮かんでいたから。


 モニターが明るく輝き、そこに、新オスティア総督、クルト・ゲーテルが映し出された。

 あの大暴露大会を指揮し、いまや魔法世界で知らぬものはいないほどの有名人であり、一人の英雄として称えられようとしている人物だ。



 彼はそこで、世界の危機を訴えた。



「皆様。かの大暴露大会により、メガロメセンブリアの闇は消え去りました。20年前に処刑されたとされる、災厄の魔王と呼ばれた王は、実は濡れ衣だったのです! 多くの人が信じたとおり、彼は、世界を救っていたのです! そのために、本日のスピーチは用意されました……」


 その背後にモニターが降りてくる。
 クルトの言葉の合間に、そのモニターに光がともった。


 すると、ある戦いの画面が、映し出された。
 一つの爆弾が投げつけられ、巨大なマントが、その衝撃を上へと逃がすその状況。


 それは、先ほど見えた、光の柱そのものであった。


「ですが、今はその事を説明している暇はありません。今世界は、再び危機を迎えております。20年前と同じように、世界を滅ぼそうとする存在と、かの『サウザンドマスター』とその王との娘が、戦っているのです!」


 画面が変わる。

 小さな船の上で魔法陣を作り、準備を進めるネギの背が写る。
 さらにその先。旧オスティアで常に立ち込める霧の向こうに、巨大な龍が召喚されたのが見えた。

 それは、霧のせいで人々にはぼんやりと、シルエットでしか見えなかった(霧、テレビのおかげでオロチの狂気はほとんど感じられない)

 しかし、その大きさは、ヘラス帝国の守護聖獣、古龍龍樹の、何十倍もの巨大さであるのが見てとれる。
 それだけで、その龍の力強さは、はっきりと伝わった。

 どれほどの力を持つ龍なのか。はっきりと。


 龍が八本の首をもたげるのが見えた。


「先ほど見えた光の柱。それは、この守護龍と戦う、世界を破壊せんとする者が放った一撃なのです。世界は今、未曾有の危機に襲われています!」


 姿を現した龍が、その八つあるアギトから、光を放つ。
 列島を真っ二つにしても不思議はない威力の光が。


 その轟音は、大地を砕く音が、遠く離れた新オスティアにまで、生で響くほどであった……


 しかし、仮面をかぶったローブの存在はやすやすとその龍を、巨大な雷の嵐で打ち砕いた。
 その光などものともせず、その槍から生み出した、神ごとき雷をもって。


「このままでは、彼等は勝てません! ですから皆さん、力を貸してください!」


 クルトの切なる願いが、響く。
 その背後で、雷に飲まれ、崩れ行く巨大な龍の姿が見える。
 強大な力を秘めたのが分かる龍が、一瞬にして崩れ落ちてゆく。


 それは、今の事態が、どれほど危険なのかを、わかりやすく物語っていた。


「ですから皆さん! その右手を、掲げてください! 先日の拳闘大会決勝を見ていた方ならばお覚えでしょう! あのナギ選手の使った大技! あれは、皆様の力を貸す事が出来るのです! 世界を救うために、彼女に力を貸してください!」


 クルトが、その右手を掲げる。
 すると、彼の体から、光が溢れ、旧オスティアの方へと、飛び去った。


 それは、画面の向こうにいる、魔法陣の中心にいる少女へと、向っているのがわかる。


「ぜぇ、ぜぇ。……多少の、疲労があります。ですが、それが、世界を救う力となるのです! 皆さん! いつまでも一人の英雄にばかり頼っていて良いと思いますか!? いつも願ってはいませんでしたか!? 自分達が、少しでも、その力になりたいと! 英雄の助けになりたいと!!」


 ざわっ。
 空に映るモニターの声を見ていた人々が、ざわめいた。


「それが、今なのです! 今こそ我々が、その英雄の力となる時なのです! 皆さん! 世界を救うための、力を、貸してください!」


 少しだけ辛そうに、クルトはスピーチ台の上に手を置き、それで体を支えているのがわかった。
 それは、それだけの疲労を伴う事を暗に訴えていた。

 だが、その姿を持って、クルトはさらに、世界の危機を訴える!


「皆さん!」


 モニターの向こうで、なにかが光ったのが見える。
 光に包まれたナニカが、なにかを攻撃したような姿……




 すっ。



 誰かが、右手を掲げた。
 光が、ともる。


 また、誰かが右手を掲げた。
 光が、集まる。


 次々と、右手を掲げられる。



 光が、広がってゆく……


 大きな疲労があるとわかっていても、皆、その手を掲げた。



 空から見る魔法世界に。夜であるはずのそこに、次々と、真昼のような光が生まれる。
 先ほどの破壊とは正反対である、優しい光が。



 その人々の想いは、力となり、光の雨となり、ネギの元へと集った……



「……すごい」

 陣を敷き、両手を掲げ、力を集めていたネギは、思わずそうもらした……



 魔法世界12億人全ての力が……
 いや、魔法世界すべての生き物の力が、自分に宿ったような気がした……


 この世界全ての力が、ここに集まった気がした。


 あの時を思い出す。
 ゲートの事件で、あの人の力になれなかったあの時を……


 でも、今は違う!

 これなら、いける!



 ネギは拳を構え、時を待った……




 そして、今!




 多くの魔法や技によってかく乱されたその視界をつきぬけ、ネギの一撃が、放たれた。


 この世界に住む人々の力を集めた、まったく新しい魔法の力。
 ネギによって生み出された、『ネギの魔法』

 その拳が、『ギガ造物主』の『バリヤーポイント』へ突き刺さった!



「っ!」
 ぴしっ。

 なにを受けても傷一つつかなかったそれに、ひびが入った。



 さしもの『ギガ造物主』も、その表情に変化が現れる。



「ネギ、俺等の力も使えー!」
 コタローが叫ぶ。

 コタローの掲げた右手から、光が流れる。

「ネギ先生!」
「ネギ君!」
 刹那と木乃香の掲げた右手から、光が流れる。

「いくアル!」
 クーが掲げた右手から、光が流れる。

 楓の掲げた右手から、光が流れる。
 ラカンの掲げた右手から、光が流れる。

 超が。
 朝倉が。
 パルが。
 さよが。
 千雨が。
 ユエが。
 ノドカが。

 さらに、フェイトが。茶々丸が掲げた右手からも、光が流れた!

 唯一明日菜だけは、その魔法を無力化してしまうので、掲げても光は出なかった。


 更なる力が、ネギに集まる!


 限界まで力を分け与え、力を合わせたその一撃!


「あああああああああ!」
 ネギが叫び、その『力』が、さらにあがる。
 彼女に集まった『力』が、更なる光をあげる!


 ぴし、ぱき。
 その透明な膜に、小さなひびが広がってゆく。



「あああぁぁぁぁ!!」



 気合と共に、更なる力が、こめられる。
 その刹那……




 ぱきーん。




 23世紀に生まれた、その最強の壁が、魔法世界全ての人の力により、打ち砕かれた瞬間だった……!



「ほう」

 だが、『ギガ造物主』に、焦りは生まれない。

 バリアが一つなくなった程度で、困りはしないからだ。
 こちらから攻撃しないのならば、その身を守るアレがある。

 なんとダメージを100倍にして返す、鏡がある。
 旧式のデメリットはそのままではあるが、その威力は、50倍だ。

 そもそも、この器は、この少女の母親。
 これからどうするのだ? それは逆に、見ものだ。


 しかし、そのあざける思考をさえぎるよう、一人の声が響いた。


「ナイスだネギ!」
 唯一手を掲げなかった男女の片割れの言葉が響いた。

 その手には、パチンコが握られている……
 さらに、その隣にいた少女が、その少年に一つの弾丸を渡す。ソレは……


「っ!」
 ソレを見た『ギガ造物主』は、その『道具』がなんなのか、即座に気づいた。


 あれは、『必中パチンコ』。しかも、その弾になっているのは、『鬼は外ビーンズ』
 そういう事か。バリアを破り、それをぶつける事が出来れば、私は丸裸となる。


 となれば、23世紀の『道具』はすべて使えない。
 次なる防御は、一切行えない。

 豆の当たったダメージが100倍になって返ったところで、所詮は拳骨クラス。たいした痛みではない。
 なによりあのパチンコは絶対に命中するのだから、威力の調整も出来る。
 それまで考えられた、一撃か。

 さすが劣化ながら、同じ力を使う者だ!


『必中パチンコ』
 放てば、狙った的に必ず当たるゴムパチンコ。


 だが、それを無力化出来る『道具』を私が持つ事を、忘れてはいまいな!
 百発百中にはならぬ事を、理解しているだろうな!


「……にっ」
 一瞬、その少年と『ギガゾンビ』の仮面下にある、ヨリシロナギと視線が絡み合った瞬間少年は笑った。


 その思考は、一瞬の隙だった。
 その攻撃を回避する間を外すための、囮だった。



「発動遅延開放! 風花・武装解除!!」



 『ギガ造物主』の目前にせまった少女が、そう叫んだ。


 バリアに拳を放ったのとは反対の腕で、それが、発動した。


 こちらが、真の本命。
 大勢の人の力を借り、魔法使いの始祖ともいわれる『造物主』を超える魔力を使うためのもう一撃。

 世界最強の力を持った状態のネギならば。

 今ならば!



 次の瞬間。闇のローブと、『ギガゾンビ』の仮面。さらには、それの身につけていた『道具』すべてがはじけ飛んだ。
 その場に現れるのは、全ての衣服を失った、ナギの姿……



 『四次元ポケット』を持つ者唯一の弱点。
 それは、ポケットという空間がなければ、『道具』を一切とりだす事が出来ないという事。



「!?」
 アレは、囮であったか!
 だが、甘い! この体は、この世界最強。すぐに、衣服を取り戻し、その力も取り戻す!

 そう。この体は、『サウザンドマスター』ナギの体。
 その能力は、この世界最強!



 しかし、次に『ギガ造物主』の視界が捕えたのは、少年がパチンコを放つ姿だった。

 意識が加速する。スローモーションで、その弾が飛んでくるのがわかる。
 だが、それがどうしたというのだ。

 その豆が命中したところで、どうなる。


『鬼は外ビーンズ』
 一見すると豆まきの豆のような『道具』
 これ(豆)を人に投げつけると、テレポーテーションによってその人を家の内から外へと瞬時に追い出す事が出来る。


 その効果は、家の中から外へテレポートさせるというもの。
 外で、かつ生身で当たっても、服から追い出され裸になるだけ。それは、今の状況と変わりはない。



 ……裸で?



 『ギガ造物主』の思考に、違和感が走る。



「そーさ。ならよ、外でマッパになってる人に、こいつぶつけたら、なにが払われるんだ? 本来の体の持ち主じゃない、異物である不法占拠さんよ?」

 少年の声が、はっきり聞こえた。


「っ!?」


 服を着ていれば、その服という入れ物から、中身が追い出される。
 ならば、裸の存在に、それが当たれば、体という入れ物から……!


 ナギの体が、それをその手ではじこうとするが、『道具』を全て吹き飛ばされたそいつに、それを防ぐ手段はなかった。
 その『道具』は、絶対に、狙った場所へと命中する、22世紀の『道具』……!


 23世紀より、圧倒的前時代の遺物であるのに……!



 それは、ナギの体を操る、『ギガ造物主』の額に、見事命中した。



 ぱぁん!



 なにかがはじける音。

 それと共に、空に浮かぶナギの体が、膝から崩れた。

 そのナギの体を、ネギが優しく抱きとめる……



「明日菜君!」

「まかせて!!」


 そこに飛びこむのは神楽坂明日菜。
 唯一にして無二。『造物主』の憑依が通用しない存在!


 ぴくり。
 吹き飛ばされた『ギガゾンビ』の仮面が、空中で動いた。



「そこかー!」



 彼女のアーティファクト。全ての魔を断ち切る剣。『ハマノツルギ』を大きく振り上げ、上空へと逃げた仮面を追い、そこへと跳ぶ。

 今度は武装解除でバリアもない。魔法のバリアは彼女に無意味! ならば、今度こそいけるはずだ!



 その一撃が、仮面を……






 びたっ!






 ……貫く事は、なかった。


 明日菜の体が、空中で止まる。
 見えない力に、その動きが、止められた! 



「またあぁぁぁ!?」
 明日菜が叫ぶ。



 その場に居た全員が、驚くのを禁じえなかった。


 どうして止められる?


 それは科学の力か?

 否。


 科学のバリアはすでにはれない。
 では魔法の力か?

 否!


 魔法は明日菜に効かない。
 では気の力か?

 否!!


 気の力は関係ない。


 なのにどうして!?



「簡単な話さ。私が、第4の力。新たなる異能を、得たからだよ」



 ……それは、完全なる異能。

 明日菜を止めた力の名は、サイコキネシス。

 もっとわかりやすく言えば、『超能力』といふ。


 言葉と共に、ずるりと、仮面の中。そこにある『ポケット』から、一人の成人男性が姿を現した。
 フェイトは、知識として知っている。
 その姿は、ナギに倒された『造物主』の姿。20年前の器だ。


「なぜ、その姿が……」
 ネギに力を与え、疲労困憊のフェイトが、空を見上げ、つぶやいた……


「っ!!」


 少年に、心当たりがあった。
 そうだ。あった。
 『道具』の中には、人間すら作り出す『道具』があった……!


 しかもそれには、人にない異能が備わっていた……!!


「……まさか、『人間製造機』!」
 思い当たった少年が、その名をつぶやいた。



『人間製造器』
 その名の通り、人間を作り出す機械。身の周りにある品物を材料として、その中から人体を構成する物質を抽出して再構成し、人工的に人間を作り出す。
 必要な材料は石鹸1個(脂肪分となる)、釘1本(鉄分)、マッチ100本(リン)、鉛筆450本(炭素)、石灰コップ1杯、硫黄1つまみ、マグネシウム1つまみ、水1.8リットル。
 この程度の材料で、未来においては簡単にホムンクルスが誕生する。
 ただし、これで誕生する人間は、突然変異であり、念力やテレパシーなどの強力な超能力を持ち、おまけに凶暴で、並の人間では到底太刀打ち出来ないスペックを有している……
 未来ではこのミュータントが勝手に仲間を増やし、人類支配を目論み、軍が出動するほどの騒ぎが引き起こされたのだという。あの未来で、軍が出るほどの。

 23世紀にはすでに製造はされていないが、22世紀の『道具』も持つ『ギガ造物主』ならば問題はない。


 それを、器にする……
 生まれたての精神を奪うなんて、赤子を殺すにも等しい。



「その体を得る事が、その力を得る事が、お前の本当の目的か!」
 この場でたった四人、体力を残した少年が叫ぶ。

 この体もあるがために『ギガゾンビ』は、体を持ってこなかったというのか!


「本当の、というほどでもないが、その一つとしては、おおむね正解だ」


 見えない力でその動きを封じていた明日菜を、眼下へと放り投げる。
 落下する彼女を、もう一人体力を残した少女。エヴァンジェリンの魔力が、影を伸ばし、受け止めた。


 ナギを抱きかかえ、地面に降り立ったネギが、それを見上げる。
 少年とエヴァ、明日菜と同じく、彼女もまだ戦える。しかし、肝心であるネギの魔法。その力の源である人々が、力をすべて貸してくれた後のため、その魔法は有用ではない……
 その上、世界全ての人の力の受け皿となったのだ。いくらネギの魔法が、自身の消費を最小にすると言っても、あれほど強大な力を制御するという疲労は、小さなものではなかった。


「私は、この体が完成するのを、君達とダンスをしながら待っていたのさ。せっかくの晴れ姿なのだ。誰かに見てもらわねば、もったいなかろう?」


 にやりと笑い、明日菜を放り投げた『ギガ造物主』は、さらに近くへ必要のなくなった浮く仮面を投げ捨て、その身に新たに生み出したその闇色のローブを纏った。


「いやだが、先ほどのは確かにひやりとはした。見事ではあったよ。魔法と『道具』のコラボレーション。素晴らしかった。『人間製造機』がなければ、私が相手でなければ、決まっていただろう。ふふ、ははは。はーっははははははは」


 そう、高らかに笑う。


 茶番!

 今までの全てが、茶番だった!!


 すべて、この男の手の上で、踊らされていただけ!
 その待ち時間の、時間つぶしに使われただけ!


 彼女達は全てを出し尽くしたというのに、男は、真の力を新たに得て、さらにパワーアップした!




 ぞっ!



 ネギに体力を渡した者達が、思わず感じる。

 ラカンが、かつて感じたその感覚を……
 絶対に勝てないと悟らせる、あの感覚。

 それが、その場に居たもの全てを、支配した。


 思わずネギが、ナギを抱えたまま、膝をつこうとする。



「だからといって、負ける気もねーけどな」



 しかしその行為を止めさせる一言が、その場に響いた。


「ナギさんは取り戻したし、バリアもさっき壊して吹っ飛んだから、直接攻撃だって当たる。他の『道具』もいくつか吹っ飛んだ。まだ俺は元気だし、世界最強の魔法使いエヴァンジェリンだってネギだって残ってる。ついでに明日菜君もまだ健在だ」


「……ついで」
 しょぼーんと明日菜がするが、その口元は、小さく笑っていた。


「超能力が一つ増えたからってなんだよ。最初から不利なのには変わらないんだ。この程度で、勝ったなんて思ってんじゃねえぞ!」

「ふっ、その通りだ。相手はすでに肉のある化け物。攻撃が決まれば倒せる」


 切り札明日菜を後ろに放り投げ、エヴァンジェリンが、彼の横に並ぶ。


「はっ、ははは。まったくだぜ。この程度で俺等が負けるなんて思ってもらっちゃ、困るな」

 ラカンが、失った体力を無視して、気合で立ち上がる。

「その通りです。まだまだ、私達も戦えます」
「そのとおりや」
 刹那と木乃香が、体を支えあい、立ち上がる。

 クーフェイが、楓が、コタローが、フェイトが、疲労を無視して、立ち上がる。


 ネギが、ナギを防御の魔法陣の書かれたそこに寝かせ、自身の上着を被せ、守るよう前に立つ。



 完全体となった『ギガ造物主』を前にしてさえ、今の彼等は、誰も、負ける気など、微塵もなかった!



「……立つかね」
 『造物主』の記憶が、20年前に戦った『サウザンドマスター』の姿を思い出させる。
 彼女もまた、どれほど絶望的な戦力差であっても立ち上がり、そして、勝った。

 愚直にも前へ前へと歩みを止めず進んでくる。人間を象徴するような存在。


 人々に希望を与える、その背から、太陽のような光を放つ、強き意思を携えた、存在。


 見下ろす先に存在するのは、自身がこの世界へといざなった、少年という器に入った、異世界の存在。



「やはり、君は厄介だな。私が顕現するために必要だったとはいえ、君は、強すぎるかもしれない」


 その、心が。



「だが、そんな君を始末する手段が二つある。一つは魂が再生される事もないほどに、その肉体を粉々にする事。もう一つは、君の存在を消す事」


「……どっちも同じじゃない」
 エヴァンジェリンにぽいっと捨てられ、立ち上がった明日菜が、つぶやく。


「同じではないのだよ……」


 すっと、男はその手にスイッチを握った。
 『ポケット』より取り出された、一つのスイッチを。


「君の意思を折るのは諦めよう。君の存在はやっかいだ。下手に殺せば彼女達の力となりかねない。だから──」


「っ!」


 その手に現れたモノを見て、彼は眼を見開くしか出来なかった。

 あれは……



「──君の存在そのものを、消す」



「ま、さか……!」


 それを見た瞬間、少年の顔色が変わる。
 その身に動揺が走り抜けたのが、わかった。



 ──あれは、『どくさいスイッチ』!



「そう。君の想像したとおりだ。ただし、想像以上に凶悪だがね」



『どくさいスイッチ』
 任意の生き物を消し去る事の出来るスイッチ。
 未来の独裁者が開発させた『道具』とも言われ、消された人物は、最初からこの世界にいなかった事となり、使用者以外の記憶から完全に消えうせる。
 正確に言えば、その存在は、最初からいなかった。という事となる。
 ただしその場で消えるため、その者のなした事実は消えない。起きた事実に変化はないが、記憶や立場の置換がおき、補完がおこなわれる。
 ゆえにいじめっ子を消しても、同じ立場の他のいじめっ子が現れる事となる。
 そのせいか、消滅の無限ループが続く場合が多い。
 実は独裁者を懲らしめるための『道具』であり、消す前の状態に戻す事が可能である。
 つまり、一時的に消すだけの、まやかしの『道具』……



 だが、男は笑う。


「これは教育用の甘いものではない。本当に独裁するためのスイッチだ。この意味、貴様にもわかろう?」



『独裁スイッチ』
 22世紀の『どくさいスイッチ』と効果は同じだが、いくら時間がたとうと存在が消えた人は戻ってこない。
 当然解除のボタンも存在しない。
 教育用などではなく、真に独裁者が開発させた、最悪のスイッチ。



 それはつまり、本当に、その存在そのものが、消えてしまうのだ。
 今まであった事から、その人が『居た』という事実だけが消えてしまうのだ。

 魔法の世界から見れば、それは、アカシックレコードからその存在を消すのと同義。
 運命という名の存在から、その名を抹消されたのと同義。
 自身の因果が消失されるのと同義。


 その者を、最初から存在しなかった事に出来る、究極の排除スイッチ。


 例え記憶の補完が行われようと、彼と『四次元ポケット』が消えてしまえば、それ以後彼と同じ事は誰にも出来ない。
 彼の消えた先にあるのは、まさに独裁……!


 どれほどの強者であろうと、それに抗う事は不可能。
 なぜなら、その存在そのものが、なかった事になるのだから……


「やっ……!」
 少年が、自身の『ポケット』へ手を伸ばす。


 だが、その行為は止まらない……


 いかな『道具』を持ち出そうと、止められない……!




 男は笑みを浮かべたまま、迷うことなくそのスイッチを、押した。











 ……











 しん……っ。
 沈黙が、あたりを包む。



「な、なんだ? 今、なにか起きたか?」
 ラカンがあたりを見回す。

「いや、なにも起きていないね」
 フェイトが答える。


 その反応を見て、空に浮かぶ男はにやりと笑う。
 それこそが、男を満足させる結果だったから。


 それは、音もなく、なんの違和感も生じさせず、発動した。
 その『道具』は、正しく機能を発揮した。


 ラカンが周囲を見回す。


 『ギガ造物主』がなにかをしたようだが、周囲に変化はない。
 ラカンの周りには、この場にいる唯一の男。フェイトがいて、少女達が戦う気力を持って立つだけだ。



 ラカンは気づかない。
 そこに、誰かが足りない事を……



 気づけない。



 誰が、いなくなったのかも……




 同時刻。


「っ!?」
「どうしたの?」
「……僕は、誰だ?」
「あなた? あなたは、消滅したこの星を復活させ、この新生有人&鉄人同盟を、そして、宇宙警察機構を生み出した人じゃない。それ以外に、なにかあるの?」
「……そうか、そうだったね。リルル」
「変な人……」


 遠い遠い星の彼方で、そんな会話がなされていた……




 彼のなした事は残ったが、それをなした少年の存在は、この世界から完全に、消えた……!

 世界の鍵を用いて、魔法世界から消すのとはわけが違う。
 誰の記憶からどころではない。この世界の因果から。運命から、その存在を記したすべてから、その存在は、なかった事になっている。

 最初から、存在しない事になっている!



 次の瞬間。誰かが、膝を突いた。


「……勝てない」


 空を見上げ、そうつぶやいた。


 彼がいなくなった事により、その心を支えた存在も、消えた。

 ゆえに、目の前にいる神にも等しい存在に、誰かの心が、折れた……



「なっ!?」
 ラカンが、膝をついた少女を見る。

 先ほどまで、あれほどやる気があったというのに……


 ……いや、その違和感に、ラカンも気づいた。



 ぞっ……!!



 おかしい。

 今まで自分は、どうしてこんな存在と戦っていられた?
 我々の力で、どうやって抗っていたのだ?

 なぜ自分は、さっきまで、あの存在に、勝てるかもしれないなんて思っていた?

 その根拠は、なんだった?

 わからない。
 どうして戦えたのかすら、理解出来ない。

 わからない。
 なぜ勝てると思っていたのか。


 20年前と同じ、いや、それ以上の絶望を感じる。
 なのに、なぜ、なぜいまさら、それを感じる!?


 だが、ただ一つだけ理解出来る事があった。



 それは、もう、自分達に、勝ち目などないという事だ……
 目の前の、神にも等しい力を手に入れた存在に、絶対に勝てないという事だった……



 次々と、戦意を喪失し、少女達が大地へと膝をつく。



 幾多の経験を重ねたラカンとフェイトはまだ、その絶望に抗っていた。
 だが、それもまだ、時間の問題であろう……



「そう。君達は、勝てない。私には、絶対に」
 空に浮かび、彼女達を見下ろす、神がそう告げた。



「……なにをした」
 エヴァンジェリンが、浮かぶ神に向かい、そう返す。


 怒りをにじませ、それをなしたであろう『ギガ造物主』を睨みつけていた。


「貴様は、私から、誰を奪った! どうしてこんなにも苦しい! 貴様、私から、なにを奪った!!」


 怒りに任せ、叫ぶ。


「ほう。そうか、彼は、君にとっては唯一にして絶対の存在でもあったな。そこまで深く関わっては、記憶の置き換えも完全には出来ないという事か」
 そのようなより酷く、面白い事もありえるのか。思わず神もそうひとりごちた。



 彼がなした事実は消えない。

 だが記憶は、代替が利いてしまうものは、別の者へと置き換えられる。
 別の者がなしたと書き換えられる。

 彼のなした事の大半は、エヴァンジェリンがしたと多くの者は認識しているだろう。
 リョウメンスクナノカミを祓った時も、ヘルマンを倒した時も、鉄人兵団を倒した時も、彼女はそこにいて、最後まで戦った。
 彼のなした事は、彼女がなしたと、置き換わっていた。


 しかし、彼が彼女へなした事は、彼以外にはなしえない事。


 それゆえ、エヴァンジェリンを人間に戻した存在や、彼女を愛した存在は、代替が利かない。
 ネギが男であったならば、その位置にネギが配置された可能性はあるが、このネギは少女であり、その代替とはなりえない。

 彼の存在。そこに、あてはめられる存在がいない。
 彼の代わりとなりえる存在は、どこにもいなかったのだ。


 ゆえに、記憶の補填ではなく、いたはずなのに存在が認識出来ないという事になっていた。


 彼がいなければ、彼女はここにはいない。

 彼と最も深く関わった彼女だから、彼以外に代替の効かない記憶だから、その違和感に、気づいた。
 彼とこの世界で、最も密にいた彼女だから、その違和感に、気づいた。


 彼女だから、気づけた。



 しかし……


 それは、気づけない方が幸せであったのかもしれない。
 わからない方が、まだマシだったのかもしれない。

 それは、あまりに残酷な所業の結果なのだから……
 彼女をより苦しめる事となるのだから……



「しっかりしろエヴァンジェリン! 俺達はまだなにもされていない! 気を強く持て!」
 取り乱すエヴァンジェリンを、ラカンが鎮めようと声をかける。
 彼女以外は、誰もその事実に気づけない。


 ラカンの言葉。それは、逆効果である……



 違う。
 エヴァンジェリンの心は叫ぶ。


 なにかはされた。


 されたのに、それで失ったものがなにかわからない!


 当然である。消えたそれは、最初からいないものになっているのだから。
 彼女にあったその気持ちも、その記憶も、存在しない。


 ただ、彼と長くいた事による事実との違和感。
 それが、彼女になにかが失われたという事を教えていた。


 私は、あの時誰に笑いかけていた?
 私は、あの時誰に笑いかけられた?


 思い出せない。
 いや、その目の前に居た存在など、いなかったと覚えている。

 その存在など、記憶にないのが正解だ。



 だが──



 居ない人に笑いかけるものか?
 居ない人を思って、泣いたりするものか?


 あの時私は、誰に助けを求めた?
 あの時私は、誰を支えたいと思った?


 あの携帯は、どうして私の手元にある?
 あのおもちゃの指輪は、なぜ私の宝箱にある?


 なにかを失ったのに、なにを失ったかわからない。
 ただ、それが私にとって、大切な存在だった事はわかる。


 だが、その喪失に心は動いてくれない。


 大切なものを失ったはずなのに、その感情すらわいてこない。



 今歩んでいるこの光の道。そこにいるはずの、最も大切な『ナニカ』が、ぽっかりと消えていた……



「私から、なにを奪った!」


 もう一度、エヴァンジェリンが、怒りにまかせ叫ぶ。


「ふふ。だが、我が娘よ。エヴァンジェリンよ。それで君の心は、なにに怒りを感じる? それは、私がなにかをしたという理不尽さへの怒りだろう?」


「っ!」


「大切なものを失ったとわかっても、なにを失ったのか認識が出来ない。悲しみすら感じない」


「黙れ!」


「ならば、私を憎め。だが、憎めるのか? なにを憎むのだ? 私は、お前のなにを奪ったのだ?」


「うるさい!」


 ぽっかりと空いた心の穴。
 そこに、なにかがあったのは確実だ。


 誰か、大切な人がいたのは確実だ。


 今、なにかが奪われたのは確実だ。



 なのに、なにも感じない!



 その大きさから、その者がどれほど自分にとって大切な人だったか理解出来た。



 なのに今、涙すら出てこない。

 大切な人だったはずだ。そんな人が、自分に居たはずだ!


 自分を吸血鬼から人間に戻してくれて、闇の中から救い上げてくれた存在。
 世界で最も大切で、世界で唯一無二の存在だった人。



 絶対に、いたはずなのに……


 なのに、その人が消えたというのに、憎しみも、悲しみも、怒りも、わいてこなかった。



 そんな自分が、嫌だ。



 この心の穴。それをあけたヤツに対する怒りは生まれる。


 だが、その人を思う感情はなにも生まれてこない。


 生まれてこない。
 消えてしまった。

 消えてはいけないなにかが、消えてしまった!


 許せない。ただ、それだけだ。
 残った感情は、それだけだ……


 だが、それだけで十分だった。


 それを奪った目の前の存在を、許すわけにはいかなかった!


「だからといって、どうするのだね? 我が娘よ」

「娘などと呼ぶな! キサマを、もう一度、いや、何度でも、殺してやる! コロシテヤル!!」


 それでも、闇は心の中に広がらない。
 怒りもまとまらない……

 心の熱い部分が、ゆっくりと冷えてゆくのがわかる。
 その怒りすら、なにかをされたという怒りすら、疑問に思える。
 その怒りすら、続いてくれない……


 当たり前だ。いくら憎もうとしても、許せないと思っても、その大切な人は、存在すらしなかった事になっているのだ。

 最初から、いないのだ。
 自分の心の中ですら、奪われた事が理解出来ないのだ。


 憎しみの根源たる喪失すら、認識出来ないのだ!


 私を人間に戻し、光を与えてくれたのは誰だ?
 こんなにも人を愛したというのに、その愛した人は誰だ?


 居たはずなのに、居ない。その喪失すら認識出来ない。


 それが、あまりにも悲しい。
 あまりにも、悔しい!



 居たはずなのに。

 居たはずなのに!


 居たはずなのに!!



 それが、欠片も、わからないなんて……!!



「ううううぅぅ、あああああ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 涙すら流せぬその苦しみに、エヴァンジェリンはただ、叫んだ。


 心を、爆発させた。



 その場に、エヴァンジェリンの慟哭だけが、ただただ響いた……










──────




















 ……



 ……消えた。



 俺、消えた……



 消されたー!



 うおおぉぉぉ! 消えた。俺、消えたあぁぁぁ!



 突然なんか真っ暗なところに飛ばされた。感覚的に落ちてる。どこかに落ちてるー。闇の中ひゅーって落ちてるー!



 なんだここ? どこだここ!?
 『独裁スイッチ』であの世界から消し飛ばされたのは確実だ。
 その結果、ここに飛ばされたのは確実だ。
 だが、ここは、どこだ!?



 きらり。



 暗闇の底。落ちる先になにか見えた。
 どんどん近づいてくる。どんどんはっきり見えてくる。


 あれは……


 俺が、元いた、世界?
 こっちに来る前に生活していた、懐かしい世界が、見えた……

 このまま落ち続けると、あの世界に飛ばされるって事か?
 いや、戻されるって事か?


 あぁ、そっか。『独裁スイッチ』であの世界から存在を消されたから、元の世界へ強制送還てわけね。存在ないから。
 納得納得……



 きらっ。
 きら。きらきらきらきら。



 そう思った直後、光が増える。
 落下してゆく先にある光だけではない。

 視界のありとあらゆるところに、光の窓が現れた。

 光の数だけ、俺がいる。俺のいる世界が見える。


 そうか、この光は、他の異世界同位体の俺がいる世界……


 なんだ? なにが起きている……?
 他の世界にも、行けるって事か……? いやいやまさか。



 ぶつん。



 近くにあった光が、まるでテレビの電源を落としたかのように、消えた。



 ぶつん。


 また一つ。


 ぶつんぶつんぶつんぶつんぶつん。



 ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶつつん。



 次から次へと、光の窓が閉ざされてゆく。

 世界の光が、閉ざされてゆく。



 ……いや、消えてゆく。



 次々と広がった光が、また消え去り、闇が広がってゆく。


 そして、最後に。俺が落ちている先の光。俺が元居た世界の光も、消えた。


 まさか……

 これはまさか、このまま、俺はなにもないこの空間で、消えるという事なのか?
 それとも、他の世界の俺も、消えているというのか?


 はっきりした事はわからない。


 だが、一つだけはっきり言える事がある。
 直感的に理解した事がある。


 このまま底に落ちきったらその時、俺は、消える……



 閉じこめられたこの場所で、このままだと俺は、本当の意味で消えるという事が理解出来た。



 このまま落ちれば、このなんにもない世界で、無にかえる……

 誰にも、なんにも認識される事もなく、居た事すらなくなって。


 たった一人、誰にも認識もされず、消えてゆくのだ……


 消える。

 ぞっ……
 ソレを認識した瞬間。背筋が、凍る……


 ……い。


 ……嫌だ。


 そんな事、嫌だ!



 絶対に、嫌だ!



 こんななにもないところで消えてたまるか。

 なめんな。絶対に断る!


 俺は、あいつを幸せにするって約束したんだ。
 こんなところで、消えてなるものか!


 愛しいあいつを、一人置いたまま消えてたまるか!



 落ちる流れに逆らうよう、平泳ぎをするが全然無駄。
 そもそも逆らってどうなる。


 だが、どうすればあっちの世界に帰れるというのだ。


 いや、諦めるな。諦めないのが俺のいいところだ。
 ノーギブアップ。アイキャンフライ。


 なにか、なにかないか!?


 ごそごそとポケットを漁る。

 『四次元ポケット』よ、ここにまだお前があるのなら、力を貸してくれ。
 相手の技術が上だからって、諦めてたまるか。お前にだって負けっぱなしは嫌なはずだ。なにか出来るはずだ。知恵を絞れば負けないはずだ!
 だから、今この場を脱出出来うる『道具』を、俺に出してくれ!


 最後の望みをかけ、俺はポケットから、手を引き抜いた。



 そして出てきたのは……



「……パクティオカード?」
 そうだ。エヴァと契約しようとして失敗した、ふちだけしかないカード。
 いまだ機能不全の、スカ以下のカード。


 ……そこに姿を現したのは、未来の『道具』ではなく、たった一枚の、カードだった。


「っ!」
 一瞬、カードから電気が走ったような気がした。
 静電気のような。ぴりっとしたなにか。

 いや、逆だ。俺の方から、カードになにかが流れこんだような気がした……


 きらり。


 カードが、光を放った。
 さっき見た、世界の光。それと同じ、光を……


 そして、気づく。
 カードに、絵柄が現れている事に。


 ふちだけではなく、俺がそのカードに、描かれている事に。
 俺の姿が、現れている事に。


 それは、俺の魂が一つに戻っていたから起きた、正しいカードの起動。
 その時、俺の手の中のカードが、正しい一枚に生まれ変わった。


 そこに描かれたカードの絵柄。
 俺の持つ、アーティファクトの姿……



 その瞬間、確信する事があった。
 思わず、『四次元ポケット』に感謝の念を送る。



 そして俺は……



「聞こえるかエヴァンジェリン! 俺の声が聞こえているのなら、答えろ! 俺を、呼べええぇぇぇぇぇ!!」



 力いっぱい。心の限り、叫んだ。


 カードが生きているという事は、俺とエヴァンジェリンは、まだどこかで繋がっているという事だ。


 ならば、声が届くはず!


 距離の壁がなんだ。
 世界の壁がなんだ。


 次元の壁がなんだ!


 届け。俺の想い!


 届け! 俺の声!



 届け!!



 届け!!!




 届け届け届け届け!!!




 届けー!!!!




 頼む。エヴァンジェリン。俺を、俺をもう一度、お前の世界へ呼び戻してくれ!!



 距離も空間も次元も超えて、俺を、呼んでくれ!



 最も必要と思い浮かべて『四次元ポケット』から出てきたのがこれなのだ。
 きっと、俺の考えは正しい。


 あとは、この声が届くだけだ。

 俺の想いとあいつの想いが同じだけだ。
 俺達の絆が、未来の力より強いかだけだ。



 俺達の運命の糸が、次元を超えても繋がっているかだ。




 だから……




 だから!




「俺を、お前の世界に、呼び戻してくれ! エヴァンジェリン!!」





 俺の想いは……






───エヴァンジェリン───





「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 少女の慟哭が、今だ響く……



 私の心の爆発が、今だ流れる中……



 ──べ。



「っ!?」
 声が、聞こえた。



 ──呼べ。





 ──俺を、呼べ!





 誰かの、声がする……
 その声は、聞いた事のない声だった。


「……誰?」


 なのに、どこか、懐かしい気がした……

 聞いた事などないはずなのに、懐かしい声が、聞こえる……


 懐から、光が漏れた。

 私の胸のうちから、それが、姿を現す……
 そこにあるのは、カード。


 浮かび上がったのは、契約した記憶すらない、仮契約のカード。
 ふちしか存在しない、存在の意味がわからない、カード。



 そこから、声がする……



「俺を、呼んでくれ。エヴァンジェリン!」



 パクティオーカードの通信機能。
 そこから、誰かの声がする!



「エヴァンジェリン……?」
 突如慟哭がやみ、呆然と光を見つめた私に、誰かが声をかけた。
 違う。女の声ではない。

「な、に?」
 私の姿をあざ笑い、浮かぶ神が、いぶかしむ声を上げた。

 それとも違う……



「俺を、お前の世界に! 呼び戻してくれエヴァンジェリン!!」
 誰かの声……



 いや、私は、この声を知っている。



 そう。知っている!



 私は、あなたを知っている……



 震える手で、目の前に浮かんだカードをつかむ。
 ふちしかなかったカードに、少年の姿が現れた……



 見た事もない、少年。



 でも……



 知っている……


 私は、この人と、約束した。

 そうだ。約束した。



 どれほど深い闇にとらわれようと、必ず、その闇の中から救い出してみせると……



 必ず、助けると。



 約束した!!



 カードに光がともる。



 そこに、誰かが描かれているのがわかる。

 その先に、私の心が繋がっているのがわかる。


 この人だ。

 この人が、失われた、私の大切な人だ……


 たとえ運命などなくても。たとえ因果が消失していたとしても。この世界にいなかったとしても……!



 わかる。
 ここに描かれた人が、誰なのかが……!



 私とあなたは、この絆で繋がっている!



 本来カードの召喚機能は、数キロしか効果はない。



 しかし……



 私の前に、魔法陣が現れる。



「召!」


 その想いに……


「喚!!」


 その絆に……



 ……距離などは、関係ない! 私達は、世界すら、次元すら、運命すら突き抜けて、繋がっていると、私は信じる!



 だから、戻って!


「──!!」


 私は、精一杯の想いをこめて、彼の名を、呼んだ。

 その存在を、望んだ!



 カードが、光り輝く。



 俺の想いは……
 私の想いは……



「まさか……っ!」
 その光を見た、天に浮かぶ神が、驚きの言葉を発した。




 ……届いた。




 光と共に、魔法陣の上に、一人の少年が、姿を現す。



 私の生み出した魔法陣に、現れ、立つ少年が、ゆっくりと、私を見る。
 微笑む。



 やはり、いた……
 私を、光へ導いてくれた人……
 私を、闇から救い上げてくれた人……


 私が、世界で一番大好きな人!


 彼の存在が、私の中で溢れる。
 その想いが、満ちてゆく。
 世界から消えたその記憶が、蘇る!


 私は、彼の名を呼んだ。
 彼は、私の名を呼んだ。



 この場がどのような場なのかも忘れ、私達は、互いを抱きしめあった。
 互いの存在を、確認しあった……


「ありがとう。エヴァンジェリン。お前のおかげで、もう一度、この世界に帰ってこれた」
「私一人では、無理だった。あなたが言葉をくれたから。あなたの声がなければ、私はあなたを、失ったままだった……」


 それ以上の、言葉は要らない。
 抱きしめあい、その存在を、そのぬくもりを、確かめ合う。



 二人が二人を想う絆があったから。


 その想いは。


 二人の絆は。


 断ち切られた因果の鎖すらつむぎなおし。


 隔たれた次元すら突き抜けて。



 その少年を。



 その少年を、彼女の愛しい人を、この世界に、呼び戻した……!!



 直後、『ギガ造物主』の手の中にあったそのスイッチが、小さな爆発を起こす。


 居なかったはずの彼が、再びこの世界に顕現した事により、その矛盾によって、そのスイッチの方が耐え切れず、壊れてしまったのだ。

 この瞬間。失われた、なかった事になったその歴史が、なかった事になった。


 すなわち、元に戻る!


 全員が、彼の存在が失われていた事を、思い出した。
 彼が、何者であったのかを、認識する!


 なにが起きていたのかを理解する。



 絶対不回避の、存在を消すという全てのルールを超えた力の行使を、彼と彼女が打ち破ったのだと、その場に居た者は、その時気づいた。

 不可能を可能にし、世界へ帰還したのだと、その時気づいた!



「ふふ、ふはは。はははははは」


 空から、笑い声が響いた。




──────




「ふふ、ふはは。はははははは」

 『ギガ造物主』が笑う。


「まさか、消えた世界へ舞い戻ってくるとは驚きだ。世界を覆す意思の強さを持っていたのは、君だけではなかったのだな。私には、決して感じない君達の絆。ならば今度は、君達二人を同時に消滅させよう。肉体はおろか、魂すら粉々に打ち砕こう……」


 ゆっくりと、その右手を掲げる。

 袖から現れるのは、テニスボールほどの、小さな爆弾……

 二つ提示した、もう一つの手段。
 魂が再生される事もないほどに、その肉体を粉々にする。

 神が、その最後にして、究極の『道具』の名を、呼ぶ。



「銀河破壊爆弾」



『銀河破壊爆弾』
 22世紀の『道具』である『地球破壊爆弾』が順当に進化した結果生まれた23世紀の破壊爆弾。
 その一撃は、銀河を破壊する。



 ……銀河。
 銀河と申したか?

 銀河とは、星々の集まりの事。宇宙を形成する超巨大な星の集団の事である。
 地球の存在する太陽系ですら、天の川銀河という銀河のほんの一部に過ぎない。
 一つの銀河は約一千億個の星が集まり、その巨大さは、まさに天文学という単位を使うにふさわしいほど、計り知れない。


 その銀河を、一撃で破壊する爆弾。

 そのようなものが、我等の目の前に存在するというのかえ?



 空を見上げた少女達は、愕然とした。


 すでに、誰も動く事は出来なかった。
 目の前より感じる力。
 その差は、圧倒的すぎたのだ。


 いかな拳を集めても、彼女達の力で、銀河を破壊する事はかなわない。
 星一つの行く末で右往左往しているのだから、当然とも言える。



 目の前に広がる光は、絶望でしかなかった……



 だが、そんなモノをここで使えば、使う神とてただでは済むまい。

 しかし、その答えは、すぐに出た。


 『ギガ造物主』の残った手に、一枚の布が現れたから。


『ひらりマント』
 触れたものを、跳ね返す事が出来るマントである。


 超能力により、手も使わず浮かび、それが、筒のようになり、爆弾を覆う。
 ある一点。彼等の方へその筒の穴が開き、反対側は、閉じられていた……


 その『道具』は、触れたものを反射させる。


 22世紀の破壊爆弾の威力を上空へ逃したように。
 23世紀の破壊爆弾の威力を、そこに反射させ、一定方向のみへ放つ。

 超能力によってそのマントは支えられているため、狙いを外すようなマネもしない。


 すなわち、今からそこ。彼女達のいる場所に、銀河を破壊する力が、さらに収束され、一点に降り注ぐという意味である。


 それはもう、爆発などとは呼べるものではなく、一つの線による破壊……


 消滅……



 ぞっ……



 絶望が、さらに増す。



 たった二人を消すために使われる、圧倒的な破壊の力。
 それをとめられるすべを持ったものなど、この世界に存在するはずもない……



「せっかく戻ってきてもらってなんだが、早速、もう一度、消えてもらおう」
 男は一組の男女を見下ろしたまま、冷たくそう言った。



 銀河を砕く光が、彼等に向け、放たれた。


 光……

 感じられる力は、強大すぎ、なにが迫るのかすら理解が出来ない。
 視界のすべてが、感覚の全てが、圧倒的な破壊の力に飲みこまれる感覚しかなかったからだ……



 誰もが、諦めの境地へといたる中。



 その光に立ちふさがるのは、一人の男女。


「エヴァンジェリン」
「ああ」


 少年は、隣にいる少女に笑いかけた。
 隣にいる少女もまた、微笑を返す。


 それだけで、二人の心は通じ合う。
 その絆は、また強固となった。


 ゆえに、その行動に迷いはない。
 確信を持って、それを行える。



 二人は手をつなぎ、少年が、残ったその手で、自身のパクティオーカードを掲げる。



 そして、その言葉を紡いだ。



「アデアット(来たれ)!!」




 カッ!!




 直後、銀河を砕く光が、その二人を、覆いつくした。


 その圧倒的な威力に、衝撃などはない。すべてを貫通し、魔法世界すら破壊しつくすかもしれない。
 ひょっとすると、位相のずれた火星すら打ち砕いたかもしれない。


 だが、世界全てを作り変える『ギガ造物主』には、些細な事だった。

 どうせ、壊すのだ。



 その閃光の瞬きが、終わった。



「終わったか……」

 消えてゆく光を見て、『ギガ造物主』は、思わずそのような言葉をあげた。



「終わるわけねぇだろ……」


 声が、響いた。



「っ!?」


 銀河を破壊する光を放った先。


 そこに……


 そこに、彼等は、居た。

 見下ろす先に、それはまだ存在していた。


 銀河を砕く光にさらされたというのに、光のバリアによって守られた彼等が、そこには存在した。


 魔法世界の大地も、その地に立つ彼等も、その全てが、無事だった。


 手をつなぎ、一枚のカードを掲げた一組の男女。
 その二人が掲げるカードから、生まれた光のバリア。


 そのバリアによって守られたその世界は、しっかりと存在していた。

 銀河を砕く光を、その力を集めた光をぶつけたというのに、たった一枚のバリアによって守られた彼等は、そこにしっかりと存在していた!


「ば、バカな……!」

 さしもの神も、驚きを隠せない。


 銀河を砕く力を、さらに一点へ集め撃ったのだぞ。
 それに耐えられるハズがない。


 彼の手に握られた一枚のカード。

 彼等の持つカードは、ただのパクティオーカード。
 あれでは、通信と召喚しか出来ない……



 ……っ!



 違う。
 アレは、パクティオーカードではない。


 カードではあるが、別のカードだ。


 あれは、『道具』だ。未来の『道具』……!



 だが……



「ありえん……それが、世界に本当に存在するなど、絶対に、ありえん……」


 『ギガゾンビ』の知識が、それを否定する。
 それが、本当に存在するはずがないと。

 しかし、その目には、確かにそれをとらえていた……


 人の到達しえる、終焉の知恵にたどりついた科学の『道具』までもをそろえた『ギガゾンビ』ですら所有していない『道具』が、そこにはあった……!


 なぜならそれは、『伝説の道具』だから……



『親友テレカ』
 ドラえもんのスピンオフ作品『ドラえもんズ』に登場する『伝説のひみつ道具』
 ドラえもんズが所有し、一人1枚ずつ持っている。持っているものを思い浮かべれば、どこでもその者と連絡を取り合う事が可能。
 その力はすさまじく、その際放出するすさまじいエネルギーで敵を倒したり、バリアをはって攻撃を防いだりも出来る。
 これを手に入れるためには、過酷な試練を潜り抜けなければならない上、一定以上の友情度数を満たさなければその力は発揮されない。それを使える者は、不滅の友情と、真の勇気を持つ者だけなのだ。

 その存在は、実在するのかもわからない『伝説のひみつ道具』として語り継がれ、いつ作られたのかすらわからないオーパーツ。
 未来世界の『道具』なのに、『伝説』というとんでもない『道具』
 ちなみにテレカのテレはテレフォンではなくテレパシーの略である。


 その、絆という不確かなものをエネルギーとする、『伝説』
 世が世ならば、それは、神器を超える最強の破壊の矛と、究極の盾ともなりえる。



 そんなものが、なぜ、この場所にある!


 そして、気づく。
 それは、『造物主』の知識。

 この世界の、ルール。


 仮契約という名の魂と魂を結ぶ儀式。
 それによって生まれる、宝具。



 アーティファクト。



 そう。あれは、アーティファクト。

 主と従者の絆の証……



 つまり、あの二人の絆が。その愛が、『伝説』を、呼び起こしたというのか……!



 確かにそれならば、強固なバリアをはる事が出来る。



 だが、ありえない。
 たった二人の絆だけで、銀河を破壊する力を収束させたその一撃を、防げるはずなどない。


「いかな『伝説』といえども、銀河を砕く力に、耐えられるはずがなかろう!」


 思わず、その不可能という思考が、口からもれた。


 しかしその言葉に、少年と少女は笑みを持って答えた。


「馬鹿言ってんじゃねえよ。銀河を砕く程度で、俺とエヴァンジェリンの絆を!」

「私と彼の愛を!」


「「打ち砕けるとでも思ったか!!」」
 二人の声が、重なる。


 『親友テレカ』が、更なる光を放つ。


 そう。このアーティファクト。その力の源は、持つ者の絆。
 二人の情の強さが、そのまま強さに変わる。


 そのバリアを破壊するという事は、すなわち、二人の愛を壊すのと同意。


 二人が今まで築き上げてきた愛の絆。
 すれ違い、信じあい、高めあったその愛の深さ。
 因果ですら、次元の壁ですら断ち切れなかったその愛の強さ。

 それらを省みて、今ここで断言しよう!


 それは、絶対に不可能であると!!


 ならば、銀河を破壊する程度の力で、彼女達の絆を破壊出来ないのも、道理!!
 この結果は、必然なのである!!



「エヴァンジェリン!」
「ああ!」


 少年が、カードから手を離す。

 すると、手をつないだ二人の前に、カードは浮かび上がった。

 残された手を二人はカードへかざす。


 目に見えて、溢れんばかりの力が、そこに集まるのを感じた。
 愛に、溢れているのを感る。


 カードの光が、さらに強まる。



「くらえ、この愛!」



 『親友テレカ』が、光を放った。



 銀河を砕く力を上回る力が、その、愛が、そのカードより、放たれた。



 『ギガ造物主』は、とっさに防御を試みる。
 しかし、全ての『道具』は、その『伝説の道具』の前に、無力であった。
 全ての魔法は、その愛の力に、無力であった。


 残った両腕で、その光を押し戻そうとする。
 新たに得た超能力で、それを捻じ曲げようとする。


 だが、力が光に押し負ける。

 光に自分が飲まれてゆく。


 消える。
 この私が消える。

 世界の『創造主』となるはずの私が。


 なんのとりえもない、異界から呼び寄せた、ただの男と、ただの人に成り下がった、女に、負けるというのか?

 ただの人間の。
 なんの力もない、ただの男と、ただの女の、愛に……

 魔法も、科学も、超能力すら手に入れ、銀河すら破壊する力を得た私が、なんの力もない、ただの男と女に、負けるというのか!?


 その愛に、負けるというのか……!!



「バカな……バカな! バカなあぁぁぁぁぁ!!!」



 光が空へとつきぬけて。



 残ったのは、静かな月明かりだけだった。



 その圧迫感が、完全に消える。



「俺達の絆、壊したいのならこいつより魅力的な女連れてきな」
 空に向かい、最後に彼は、そう言った。

「お前より魅力的な男でもいいな」
 その恋人は、あっさりそう切り返す。

「おい。こういう場合はこいつより魅力的な男は居ないって言うべきところだろ」
「お前こそ率先して私が最高の女性である事を語るべきだろう」

「んだとー?」
「なんだー」


 オデコをぶつけながら、メンチを切りあう二人がそこに居た。
 しかしその腕は絡まりあい、その先端は、しっかりと繋がれている。

 口元は、笑っている。


「はっ、最後の最後で、愛。かよ。くっせぇな」
 思わず地面に座りこんだラカンが、そう茶化す。


「馬鹿を言うなラカン。最高だろう? まさに、人間の手本じゃないか」

 にやりと笑い、堂々と答えるのは、エヴァンジェリン。


「……おめーがそれを語るか」

 ラカンが思わず肩を落とした。


 はははははは。
 少女達の笑い声が、月夜にこだました。





 笑い声がこだまするその中……


 ゆらり。


 完全体となった時、投げ捨てられた『ギガゾンビ』の仮面が、小さく揺れた。


「まダ……しハ……まケ……イ……。せ……テ、み……ズレ……」


 不滅である魂がその仮面に宿り、最後の足掻きを行おうと、仮面を揺らす。
 だが、ダメージが大きいがゆえ、その動きは鈍い。


 それでも、この星を吹き飛ばすくらいは、出来る……!



 しかし……



「三度目の正直よ」
「はい!」


 その仮面を見据え、二人でハマノツルギを振り上げる、ネギと明日菜の姿があった。
 さらに『ネギの魔法』が発動しているのがわかる。体力を残した彼とエヴァンジェリンの力も、重なっている。


「ッ!!」


 すでに、自身を守るモノはなにもない。
 その光から、逃れるすべは、もうなかった……




 最後の光が、闇を貫いた。




 こうして、最後の戦いは、終わりを告げた。





─あとがき─

 最後の戦い、終わりました。
 もう色々詰めこんで、やりたい事はやりつくしました。
 いろんなものが、ここに繋がっていると感じていただければ、書いた人は満足です。
 いろんなものに意味があったと思っていただけると、嬉しいです。

 そう。今までのイチャラブは今回のためにありました。あんだけイチャイチャしてるんですから、次元の壁を突き抜けて繋がっているのも、その愛が破壊不能というのも納得ですよね!!

 使い古された言葉ですけど、『愛が一番強い』を実践してもらいました。


 次回エピローグ。
 この物語も、完結となります。


 補足。
 『親友テレカ』
 それは、本来ならば七枚組である。が、七枚そろわずとも力は発揮する事が可能である。
 ただし、欠けている分だけ力がもろくなる。
 今回の発動は一枚(正確には2枚?)のみ。七枚そろったら一体どれほどの力を発揮したのだろうか?

 いやでも、この状態ですでに無限大だから、あんまり意味ないか。はっはー。



[6617] ネギえもん ─最終話─  エヴァルート22
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/05/05 21:06
初出 2012/04/28 以後修正

─最終話─




 エピローグ




──────




 最後の戦いも終わった。


 まず最初に語る事といえば、これだろう。



 無事『造物主』のヨリシロから開放されたネギの母親ナギ。


 戦いも終わったあと、彼女も無事、目を覚ました。
 『お医者さんカバン』で診断した結果も、異常なしと出たので、後遺症などを心配する必要もない。


 目を覚ました彼女が、ゆっくりと、その身をローブで覆って、立ち上がる。
 自身の意識を持って、体の自由を認識して。


 その視線の先にいるのは、娘であるネギ。


 二人の視線が、絡み合う。


 ネギが、瞳に涙をため、母の元へと走り出した。



 それを見た俺は、そーいや麻帆良武道会だとデコピンだかで迎撃して素直に抱きしめてやってなかったなぁ。なんて思った。

 だが、そんな俺の記憶とは関係なく……



「母さん!」
「ネギ!」


 笑顔で抱きついたネギを、ナギかーさんはしっかりと抱きとめた。


「母さん!」

 甘えるように、ネギがその母のぬくもりを感じる。


「母さん!」

 強く強く、その存在を、確認する。


「母さん!」

 母が、優しくその頭をなでる。


「おかぁさん!」
「うん」
 母が、優しく返事を返す。


「おかあさーん!!」


 抱きつき、そのぬくもりを感じ、その確かな存在を感じたネギの瞳から、溢れんばかりの涙が流れた。


 今まで、ずっとずっと我慢してきたその気持ちが、ついに爆発した瞬間だった。


「よしよし」
「おかあさんー!」


 嬉しさを、涙とその声に乗せて。

 彼女はただ、涙を流した。

 ただただ、流した……


「ふふ。こんなにでっかくなっちゃって」
 ナギも、そのネギを、愛おしそうに抱きしめる。
 娘のぬくもりを感じるように。

 娘の存在を確かめるように……


「ネギ……」

「はい……」
 涙声のネギが、答えを返す。


「ただいま……」
 この言葉は正しくはないのかもしれない。
 だが、この場で言うべき言葉は、これしかないと思った……

「はい! お帰りなさい!!」


「めでたしめでたしやな」
「そうですね」
 その再会を見ていた少女達も、思わず涙ぐむ。

 だってそうだろう。
 あれほどあの少女は、母を求めてきたのだ。


 そのために、魔法世界まで来たのだ。


 これほど嬉しい事はない。



 そして、その光景は、世界に中継されている。
 感動の再会を、世界の全ての人が、涙しながら見ていた。


 世界の危機をその身に封印していた英雄と、その英雄を見事助け出した、新しい英雄の再会を……


 ちなみに、あの戦いの映像は、確かに中継されていたが、戦いの中では接近が難しかったため、鮮明な画像は取る事は出来なかった。

 これは、全てが終わったからこそとれる映像なのである……




──────




 英雄とその娘の再会。


 この中継にあわせ、新オスティア総督の新しいスピーチもはじまった。

 それは、世界の危機をその身に封印し、世界を守っていた英雄の伴侶の名誉を回復する演説。


 メガロメセンブリア元老院によって着せられた汚名を、返上する発表。


 この感動の再会に、それは最高の報告となった……



「世界を救った英雄達と、そして、その力となった皆様全員に、祝福を!!」


 クルトの演説が終わる。


 それが号令のようにしてはじまった、大歓声は、魔法世界を一つに包みこむほどだった。


 魔法世界全ての人の力があわせる事が出来たこの日。
 魔法世界は、本当に一つになったのかもしれない。




──────




 世界各地でお祭り騒ぎが加速をはじめた。
 今日、この日は、夜も昼も関係のない宴へと変わっただろう。


 最後の戦いのあったこの地も、感動の再会は終わり、この場でのテレビ中継の方も、その役目を終えた。



 ネギは泣きつかれ、ナギの膝に頭を乗せ、寝てしまっている。
 その寝顔は、とてもとても幸せそうだった。


 ナギも、その娘を慈愛の瞳で見下ろしながら、優しく髪を撫でつける。


 他の少女達は、その邪魔をしないよう、撤退の準備を進めていた。
 そのうち、新オスティア総督様が編成した出迎えの部隊がやってきてくれるらしいのでその後にあるパーティーの出席準備もしていたりもする。
 ネギの魔法で体力を消費したというのに、元気な子達である。


 しかし、その親子のひと時をわざわざ邪魔しに来た人影が一つ。


「ふん。貴様でも、母らしい顔くらいは出来るのだな」


 腕を組んで、その姿を見下ろすのは、エヴァンジェリン。


「あ、エヴァンジェリン。久しぶり……って、なんであんたここにいるの?」
 言ってナギが気づく。ここは旧オスティア。なのに、学園に封じられた彼女がここにいるはずがない。

「ふっ、貴様の登校地獄など、とっくに解除して私はもう自由の身だ。驚いたか!」
 ふふんと胸を張る。


「え? あ、うん。よかったね」
 あっさり。


「それだけかー!」
 悔しがる顔が見れるだろうと思っていた彼女は、思わずむがーっと吼える。


「ふふ。だって、あの呪いが解けたって事は、あんたが心の底からこの世界で生きたいと願ったって事だからね」
 ナギは、そう嬉しそうに微笑んだ。

 かつてナギは、エヴァンジェリンを学園に縛りつけた時こう言った。
『光に生きてみなさい。そうしたらその時、呪いを解いてあげる』
 と。


 だがエヴァンジェリンは、それを鼻で笑う。


「残念だったな。解除条件を満たしたのではなく、貴様の魔法を無効化したのだ……って、なんて解除条件だ!」

「ありゃ、そうなの? それなのになんであんた、こんなに綺麗になってんの? だからこそって思ったんだけど」

 まさに今、光の中を歩いている。そんな雰囲気を、彼女から感じ取ったから。
 それほど目の前の少女は、美しくあったから。


「……貴様までそれを言うか」

 ナギにそう言われ、思わず照れて視線をそらすエヴァンジェリン。


 にやにやするのはそれを隠れて聞いていたラカン。


「? 私なにか変な事言った?」
 見ていたラカンへ視線を送る。

「安心しろ。単にトシ食っただけだ」
 せっかくなので会話に加わる二人のしんゆー。

「それは聞き捨てならないわね!」


「おめーと同じ事、俺も、アルも言ったんだよ」
 HAHAHAと、ラカンは間抜けズラで笑う。


「……それは、やばいわ……」

 ずーんと思いっきり、落ちこむ英雄であった。




 世界樹下。

「……なんだかとても失礼な事を言われている気がします」

 鼻がむずむずしたクウネルは、そうつぶやいた。

「ケケ。ソリャキットあれダ。カフンショー」

「……季節はずれですねぇ」

「……ツッコミ欲シカッタゼ」

 留守番のクウネルとチャチャゼロが、そんな会話をしていた。
 ちなみにこの物語は、夏休み中のお話である。




「ま、ともかくよ」
 ラカンが笑う。

「ああ。ともかくだ」
 エヴァンジェリンも笑う。


「「おかえり」」
 二人の悪友が、ナギに向って手を伸ばした。


「……ただいま」

 もう一度、親友達に向けて、その言葉をナギは返した。


「話す事は一杯あんぞ。特にエヴァンジェリン。驚け。なんと今、人間に戻ってんだ」
 ラカンがにやりと笑い、言う。

「……は?」
 これについては、流石のナギも目が点になる。

「勝手にばらすな。ならばラカンなどはな、拳闘大会で完敗をきっしたぞ。あとで録画を見せえてやろう」

「あ、てめぇ!」

「どうせすぐ知られる事だ。私の恋人に喧嘩を売って、秒殺されたのだからなぁ!」

「ぐあー! 思い出させるなー!」
 敗北の記憶を思い出し、頭をぶんぶん振るラカン。


「恋人!? え? なにエヴァ? あんた好きな人出来たの? なにそれ。すごく聞きたい」


 ぎゃーぎゃーと口げんかをはじめるラカンとエヴァ。そしてエヴァの恋人に食らいついたナギが、ぎゃーぎゃーとまた騒ぐ。

 かわいそうに、ネギが少し寝苦しそうにしていた。


「おーい。そろそろ戻るよー」

 そこに声をかけてくるのは、件の恋人。



 こうして、盛り上がり続けたオスティア終戦祭の最終日は、最大の盛り上がりをもって、終わりを告げた。




──────




「……と、いうわけで、その後パーティーに招かれたり式典に出たりとてんやわんやでしたが、無事学校がはじまる前までに、なんとか戻ってこれました」

 今日は夏休みの最終日。無事麻帆良に帰り着き、学園長に報告がてら茶をいただいております。エヴァと一緒に。
 学園長も公的に色々報告は受けているんだろうけど、俺の口からも報告する義理もあるだろうから。


「いやはや、一大大冒険になりましたなぁ」
 俺とエヴァと一緒にお茶を飲む学園長が、そう言ってくれた。


「なりましたねぇ」


 行く時は、流れ的に、大きな事に巻きこまれるとは思っていたけど、まさかあそこまでいく事になるとは。
 星どころか下手すると銀河。宇宙消滅レベルの危機だったという。


「これであちらも少しは住みやすくなったでしょう。しかしまさか、魔法世界そのものをお救いになってくるとは思ってもみませんでしたわい」
 よかったよかったと、茶をすする学園長。

「そーですね」


 そういえば、救ってきたのはあの時直面した危機だけじゃなかった。

 もう一つ、宴会の片手間に救ってきたんだった。


 それは、魔法世界そのもの。


 なんでも、あの魔法世界、10年たたずに消滅してしまう危機だったのだそうだ。
 そのため、フェイトは『完全なる世界』という幻想世界へ、人々を封印し、それから回避しようとしていたらしい。

 つまり、彼等もあの魔法世界そのものを救う手段はなかったというわけである。
 そして、あの時クルト総督が言っていたのは、こっちの危機だったのね。『造物主』と違ったのね。勘違いしちゃった。てへっ。


 まあ、それはいいとして。
 総督様。それにフェイトからも頼まれたようなものだから、魔法世界、救ってきた。


 どうやったのかと聞かれば、正直、方法はたくさんありすぎて、目移りするほどだった。と答えられる。
 いや、答えになってないけど。


 ひとまず、この問題を聞いた時、ネギが提案したのは、この魔法世界のヨリシロになっている火星をテラフォーミングするのはどうか? というものだった。

 この世界の崩壊の原因は、魔法世界を支える魔力の喪失。
 であるから、そのヨリシロとなっている火星を命溢れる世界にかえ、それにより魔力を生み、救うというやり方だった。


 時間と人の手が多くかかるが、俺の手を借りずに出来る方法らしい。
 流石ネギ。俺の手を借りないという発想が素敵。


 というか、魔法世界火星に重なるようにあったんだってね。ビックリだね。
 原作でもそうなのかな? その事実出る前に俺こっちの世界に来たからわかんねーや。あっはっは。



 ともかく……


 俺のとった方法は。


 まず一つ。素直に火星をテラフォーミングしてもいい。
 俺がその気になれば、この案も一晩でやってのけられるし。『彼が一晩でやってくれました』とか、カッコイイよね。


 他にも『魔法事典』で魔法世界再生、新生の呪文を作ってもいい。


 『イメージ実体機』で魔力を生む木などを生み出してもいい。

『イメージ実体機』
 人の心の中にある欲しい物のイメージを割り出し、そのイメージを分子で合成して実体化する道具。ただし1回ごとに高額な使用料がかかる(金なら『フエール銀行』でたくさんある)


 『生命のネジ』で同じように模型を作って生命を与えてもいい。

『生命のねじ』(いのちのねじ)。
 このねじを人形やぬいぐるみなどの無生物に対して巻くと、生命を与えることが出来る。
 それが人間や動物をかたどったものならば本物と同じ生態を見せ、自動車など機械の模型であった場合は本物並みに動かせるようになる。

 ……というかこれ、魔法世界に突き刺せば魔法世界、幻じゃなくなるよね。


 失われた魔力を復活させるだけなら、『復元光線』や『タイム風呂敷』でもいい。
 魔法世界は2000年以上の歴史があるから、それだけの時間があれば、今度はこの世界の人達の手で、崩壊を止められる手段が見つけられるだろう。


 他にも、考えれば溢れて出てくるほど、『道具』での手段はたくさんある。



 わかりやすく結論だけを言えば、魔法世界は救われたって事だ。



 ただ、魔法世界の崩壊を救ったのは、まだ公になっていない。
 事態としての衝撃が大きすぎるから、少しずつ小出しにするのだそうだ。

 それをいい事に、誰が救ったのかはあいまいにして、俺の名前を出すのは止めてもらった。



「おかげで、俺もう魔法世界を素顔で歩けそうにありません」
 なのに俺は、もうあの世界をおおっぴらに歩けない。


「でしょうなぁ」
 学園長が納得したように言ってくる。


 なぜなら……


 奇跡の生還を果たしたナギとネギの親子と同様に、あの時期ひっきりなしに起きたメインイベント、大暴露大会、拳闘大会。そして最後の戦いと、とんでもないイベントに立て続けに関わっていた俺は、顔も名前も売れに売れた。
 おかげで『もう一人のサウザンドマスター』がマジで認知され、定着しやがった……


 ……そのため、その知名度は今や魔法世界でナンバーワン。大暴露大会で名前を売ったクルト総督より、元祖サウザンドマスターより、無駄に隠れていた分、その反動で……!!
 世界を救うため、影で尽力した真の英雄とかいうあつかいで!



 マジかよ。マジなんだよ。やめてくれよなんだよ……
 せっかく魔法世界崩壊の危機救ったの黙っててもらっても意味ないんだよー。



 こういうのは人知れずに去っていくのが好きなんだよ。歴史に埋もれた英雄の方がいいんだよ。知る人ぞ知るがいいんだよ。
 後々面倒ないから!(本音)


 ちくしょう。式典出席ノーと断ったのに、全部に映像があるからどうしようもないって、大々的に表彰までしてくれやがってあの総督様め。やっぱ後始末押しつけたの怒ってんのか……?



 ちなみにこれは、地位も名誉も宝も望まず去ってゆく真の英雄の真実を、その偉業を、せめて世に正しく知ってもらい。評価してもらいたい。尊敬する王と同じ誤解はうけて欲しくないという、政治的下心すらないクルトの親切心からだったが、彼にしてみれば、頭を抱えて転がりたい親切心であった。
 相変わらず悪気なき善意でダメージを受ける男である。



「まあ、こっちにいる限りは普通の中学生でいられますからいいんですがね」
 ちらりと、学園長室にある俺っぽい像を見る。
 そーいう事だよ学園長!


「ははは」
 汗をたらりと流して学園長苦笑いした。


 やっぱあれ、俺に関わるなにかなのか……あの神棚っぽいの、いや、これ以上想像するのは止めよう。
 ここで俺はただの人。面倒な事ない一般人。うん。



「それでは、話題を変えましょうか。どうですかな? ウチの木乃香をよ……」

「ってそれしか変える話題がないのか貴様はー!」

「めったー!」

 見事にエヴァアッパーが決まりました。


 このおじーちゃんも懲りないね。


 学園長が床に落下してぶすぶすいう事になったので、復活するまで待ち。



 なので、時間を潰すため学園長室の窓から学園を見下ろす。



 そこには、学園にやってきたネギの両親があった。

 『サウザンドマスター』のナギと、かつて『災厄の魔王』とか呼ばれたというお父さんが、ネギを真ん中にして、クラスメイトの出迎えを受けている。


 なんでもお父さんの方は、ナギが『造物主』との最終決戦の直前に病に倒れて死にかけたところを、仮死状態にして眠らせていたんだってさ。

 そしてまた出番なのが俺。
 宇宙からやってきた謎の病原体すらあっさり駆逐する未来の『道具』の出番です。


『お医者さんカバン』
 本来は未来の子供がお医者さんごっこをする際の道具らしい。
 昔の医者の持つカバンの形をした入れ物であり、カバン本体にレントゲンカメラや顕微鏡の機能も付属し、聴診器のような端末をあてるだけで診察が可能。
 しかしその性能はとんでもなく、宇宙から来た未知のウイルスを撃退したり、人間以外の、その上未確認の動物の病も治せるなど、これがごっこレベルならば、未来の医療はどうなっているの? という治療が行える。


 ちなみに、大昔コタローを治療するのに使ったのもこいつだ。


 そんなわけで、あっさり治って復活しましたので、こうして麻帆良へ両親そろってやってきたのだ。
 なにせ明日から新学期。ネギの方にお仕事がある。

 といっても、お父さんの方はこれまた旧オスティア・ウェスペリタティア王国を(また)俺が復活させてきたので、公務とかがあるゆえ、一夜限りの親子水入らずになるのだろうけど。

 まあ、オスティアが復活したから、この学園にあるというゲートも復活するようなので、その気になれば頻繁に会いに行けるらしいけど。

 いざとなれば『コピーロボット』で影武者仕立ててもいいしな。


 名誉が回復して、オスティアの大地も復活して、王様が『オスティア住民帰還可能宣言』を出して、国が復活する手はずになっています。
 俺は手を貸す予定はないけど、まあ、隣には本物の『サウザンドマスター』がいるのだから、きっと大丈夫でしょ。

 いるから不安という声もあるみたいだけど、そこまでは知らん。
 さらに国として安定したらその後王制を廃止したりするとかどうとか噂を聞くけど、詳しくはオラしらね。



 ちなみに、彼は知らないが、その親子の姿は、原作中にポヨ・レイニーディが見せた『完全なる世界』のレプリカである理想の夢と、同じような光景であった。
 皆の知る形とは、唯一性別が違うが。


 この世界において、その夢想の世界は、実現したとも言える。



 そんな親子と、わいわいがやがや騒ぐエヴァのクラスメイト達を見下ろし、俺は思わずつぶやいた。


「……平和だなぁ」

「なにいきなりじじむさい事を言っている」

「いや、こういう時はやっぱりこの言葉だと思ってさ。いっぺん言ってみたかったんだよ」
 振り返ってエヴァに親指立てた!

「やっぱりお前はお前か」

 くすくすと、彼女が笑った。

 それに釣られて、俺も笑った。



「……うむうむ。青春じゃのう」

 床に突っ伏したまま、じーさんも老人らしい台詞を言った。



 どうやら平和な時間が戻ってきたようだ。




──────




 ……と、思っていたのに。


 学園長室を出た後、クウネルさんに呼ばれたので、世界樹下へほいほい行ったのがまずかった……

 世界樹下。復活したゲート前。


「どうも。お手数かけます」
 頭にチャチャゼロを乗せたクウネルさんが出迎えてくれた。


「どもです。なんの御用で?」
 隣にエヴァを連れて、ご挨拶。


「はい。彼が話したい事があるそうですので、こちらにお呼びしました」


 と、促した先には……


「やあ」
 そこに、フェイトがいた。

「おや。なぜに君が?」

「明日からこの学園に赴任する事になってね」


 へー。もう一人の子供先生ですか。
 まあ、すでに一人いるから、この学園なら問題ないんじゃね?


「だからこそ、君と話したい事があるんだ」

「先生についてはなにも言えないぞ」

「そういう事じゃないさ」


 ま、そりゃそうだろうけどね。
 それならネギに聞いた方がいいだろうし、他の先生に聞いた方がいい。

 とはいえ、魔法世界はもう救ったんだから、話す事も思い浮かばない。


「僕は、あの世界の人々を救う事だけが目的だった。でも、その目的は、もう消えた」

「だろうね」

 そうだから、ネギは一緒に『立派な魔法使い』にならないか? と持ちかけたのだから。


「……」
「……?」

 そしたら、俺をじっと見て、黙った。


「結局君は、本当にただの人なんだね」

「おう。信じてくれるか?」
 今まで何度もそう主張してきたけど、誰も信じてくれなかったんだよ!

「いや、残念ながら、無理だね」

「なら言い出すなよ」
 がっくり。
 いや、まあ、期待はしてなかったけどさ。


「ただの人にしか見えないのに、君は魔法世界を救った。さらに『もう一人のサウザンドマスター』であり、あのネギ君の憧れの人の一人だ」

「あんがとさん」
 お前さんにそこまで褒められると、なんかむずむずするな。


「だから、『僕達』はいつか、『君達』の背中を追い越してみせる。それが、僕に生まれた、新しい目標だ。それを、君に宣言したくて、ここに呼んでもらったんだ」


 その言葉を発したフェイトの顔を見て、俺は思わず微笑む事になった。

 あいつ、あんな顔も出来るのか……

 どうやら本当に、ネギと歩むつもりなんだな。
 ネギは本当に、こいつの心を動かしてしまったんだな。


 それは、本当にフェイトはネギと歩むつもりだという事が伝わってきたから。
 ネギと共に、『立派な魔法使い』を目指すという事が……


「それは楽しみだな。でも、俺達もそう簡単には負けないからな」

「むしろ200年早いな。精進しろ小僧」


 俺とその伴侶が、そろってそのボウズへ笑いかけた。


「……そうだね。それじゃ、早速勝たせてもらおうか」


 石柱ずどーん!


 あぶっ! あぶなっ!
 『テレカ』の最強バリア思わずはれなかったら死んでたぞ!
 でっかい柱俺に直撃してたぞ!


「殺す気か!」

「死なないだろう?」


 ……そりゃ、ま、ね。俺が動かなくても、エヴァが助けてくれただろうし。


「その通りだ」
 フェイトの背後から声がする。
 その喉元に、魔力で作った刃をつきつけた、エヴァの声だ。

 さらに、フェイトの手足も氷に包まれてゆく。


「チェックメイトだ」

 エヴァンジェリンがそう言った直後。


「そいつはどーかな?」

 エヴァのところへ降ってくるなにかがあった。

 エヴァはそれを影に入ってかわし、俺の隣へ戻ってくる。


 ずどーんと現れ、フェイトの氷を吹っ飛ばしたのは、ラカン。


「俺も混ぜてもらおうか!」
 にっと笑った。


 おいおい……


「……なぜ貴様まで」
 エヴァンジェリンも苦笑している。


「私が呼びました」
 そう笑顔で告げてくれたのは、ゲートの正面で魔法陣を広げるクウネルはん。

 魔法世界人て現実世界に出てこれないと聞いたけど、あんたの力でなんとかしてんのネ。
 正確には作り物の体に入ってるんだって。詳しい事は、しらーん!(彼が魔法世界を救った余波で、魔法世界人もそのまま外へ出てこれるようになった可能性もある)


「俺だけじゃねーぜ」


 くいっと、ラカンが親指を立て、自分の背後を指差した。

 そこにあるのは、俺達が入ってきたのとは別の入り口……


「にーちゃーん!」
「にんにん」
「あるアル」
 姿を現すのは、ネギパーティーの女の子達。

「え、えーと、よろしくお願いします」
 ぺこりと俺達に頭を下げてくる刹那君。

「せっちゃんがんばやでー」
 それを応援する木乃香お嬢ちゃん。


 その裏には、現れた彼女達を応援する非武闘派生徒達。


「夏休みも最後だから、挑戦だとよ」

 千雨嬢ちゃんが教えてくれた。

「お二人対参加希望者だそうです」
 その隣には茶々丸さん。ぺこりとこちらも頭を下げてくれたが、それだけだ。どうやら中立って事っすね。


「早い話、祭りネ」
 超が最後の補足を付け加えてくれた。

 うん。夏休み最後の祭りってわけね。


 わかったわかった。よーくわかった。
 やりたい事はな。

 俺はやりたくねーが!


「へぇ。祭りの会場はここ?」
「そのようだ」
「はい」

 姿を現すのは、英雄夫婦親子。


「ネギせんせーがんばってー」
「がんばるですー」
 そしてそのネギを応援するノドカユエコンビ。


「ちなみに、あんた達に勝ったらなんでも願い事一つ聞いてもらえるって、本当?」
 最後に顔を出した明日菜君がそんな事を言った。


 初耳だよ!


「……よし。一ついう事、聞いてもらおうか」


 ぎゅっ。
 と俺の手をつかんだエヴァンジェリンが、にやりと笑った。


 ブルータスお前もか!


「ってんな事しなくても何百個でも聞いてやるよお前のは!」
「なんだつまらん」


 ぱっと手を離してくれた。
 譲れないのはただ『聞く』だけだけどな!


「だがよかろう。弟子よ! これも一つの試練だ。我々に勝てたなら、本当になんでもいう事を聞いてやろう!」

 ふはははははと腕を組んで笑った俺の嫁が、しっかり約束しやがった。
 むしろこれ、お前が企画したんじゃねーだろうな?


「ただし、私達に負けたら当然、それ相応の代償を払う事を覚悟しておくがいい!」


 わあぁぁぁぁぁ!
 大賛成。圧倒的大賛成であった!


「だからそのままやめようねー」


 その大歓声に、俺の言葉は、誰にも届かないようだ。


「というわけだ。一つもんでやれ」

 2対たくさんだというのに、悪い子の笑いをしてマントを装備してやる気満々のうちの嫁。

 こりゃもう止められねーわ。


「しかし、ホントにどこにでも居る子にしか見えないのね」
 俺を見ていたナギかーさんが、素直な感想をのべる。

「回復復活系に優れているのは認めるけど」
 なにせ魔法世界から国から王様までを回復させたの俺だからな!

「見た目に騙されるとイテェ目にあうぞ。俺もあった。ついでにエヴァもあったらしい」
 それにラカンが答えた。

「エヴァンジェリンは私の時でもあんな落とし穴に引っかかるくらいだしねぇ。参考にならないわ」
 あっはっはと昔を思い出して笑うナギ。

「あ~」
 記憶を見た事あるネギも、思い出して声を上げた。


「それを持ち出すなばかもの!」


 耳ざとく聞いていたエヴァが声を上げる。


「ま、事実なんだから言い返せねーわな」
 思わず俺も同意してしまった。
 俺が普通の子なのも、落とし穴も。


「おい。さっそくアレに一泡吹かせてやれ」
 なわけだから、ナギさんを指差して、俺に一言。


「ったく。わがままなお嬢さんだ」


 落とし穴を話題にして色々いじめてもいいが、今回はエヴァに味方する事にする。
 そもそも、これでエヴァンジェリンを敵に回したらここにいる人全部が敵になる。

 なので、仕方がないので、芸を一つ。


 『四次元ポケット』から取り出しますは、一つの『道具』。

 くるくるっと指にかけて回して、皆に見せる。


 それは、リアサイトにマイクのついたおもちゃのような銃だった。
 一見すると、短距離走でならすピストルのような。


「じゃ、いくよみんなー」


 俺の言葉で、全員が一斉に構えを取る。
 まるでそのピストルでの、開始の合図を待つように。


「油断すんなよ。マジでヤベェヤツだ」
 向けられたラカンが、注意を促す。

「わかってるわかってる」
 答えたのはナギ。


 ふふ、かかったね君達。
 勝負はもうはじまっているのだよ。
 誰が合図をするなんて、最初から決まってないだろう?
 このピストルが合図? いいや、違うね!


「ひとまず、デモンストレーション。『ラカン』マイナス『ラ』プラス『ヤ』」


 次の瞬間。ラカンの姿が、『ヤカン』に変わった。
 ぽん。などと軽やかな音を立て、あのラカンが、抵抗も出来ずにヤカンに変わった。


「っ!!!?」
 その場にいたもの全員に、動揺が走る。



『物体変換銃』
 物体を別のモノに変換する事の出来る銃。物体に銃口を向け、リアサイトに備えつけられたマイクに向って言葉遊びをする事で、その物体を別の物体に作りか得る事が出来る。
 『ラカン』から『ラ』を引いて、そこに『ヤ』をたす事で『ヤカン』としたように。
 効果時間は15分。経過すると自動的に元に戻る。



「くくく。問答無用だな」
 俺の意図に気づいていたエヴァが笑う。
 ちゃんといくよーと忠告もしたもんなー。


「つーわけだ。『ナギ』マイナス『ナ』プラス『ネ』」

「まっ!?」


 不意打ちを続ける。
 次の瞬間。ナギの姿が、『ネギ』に変わった。
 ぽんという軽やかな音を立て、あの野菜のネギに、あっさり変わった。


「効果は15分。そしたら勝手に戻るから、安心しておくれ。あ、ちゃんと拾っておかないと危険だからヨロシク」


 その言葉によって、ネギが近くに落ちたネギ化ナギと、ヤカン化ラカンを拾い上げた。
 それを、近くに居たお父さん。王様に渡す。

 王はそれを見て、思わず苦笑していた。




「言霊……? いや、ただの言葉遊びで、あの二人を行動不能にした……!?」
 次点の最強枠であるフェイトが、一瞬にしてその存在を根本から変化させた事に、驚愕する。
 昔体験した存在を別のモノと認識させる事よりさらに出鱈目な行為だ。

「……いやはや、相変わらず無茶苦茶な方ですねぇ」
 クウネルも思わず感嘆する。
 ラカンとナギが想定していたヤバさのさらに一段以上上の想定外を彼は行ったのだ。ゆえにあれほどあっさり不意打ちが決まった。彼女達とて、油断していたわけではない。ただ、次元が違っただけなのだ……
 それほど出鱈目な行為を、彼は事も無げに行ったという事なのだ……!
 ちなみに、上で王が思わず苦笑したのは、こんな事やられたら仕方がないという意味でもある。




「くっくっく。見たかナギ! 私の伴侶の実力をー!」


 ドヤァ!


「なぜお前がドヤ顔する」

「お前は私のモノだから、お前が褒められれば私が褒められたのと同じだろう」

「いや、多分今聞こえてないから。わかんないけど」
 でもドラえもんはドラム缶にされた時ころがされて目が回ってたっけ? まいいや。

「かまわん。他の小娘に知らしめている意味もある!」


 まあ、確かにネ。
 一気に最強の2角が崩れたわけだから。


 明らかに、出鼻をくじかれひるんだのがわかるし。


「フェイトも『フェルト』、クウネル(アルビレオ)さんは『アルマジロ』あたりに変えちゃうから、残りの子はそっちに任せたぞ。最強の魔法使い」
 一応銃口向けるから、かわされる可能性もあるけど、『相手ストッパー』使えばそれもナシに出来るし。防御は最強バリアがあるし。
 ちなみにフェルトは不織布と呼ばれる、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものだ。アルマジロは説明不要じゃろ?


「任せておけ。弟子の成長くらいは確かめさせてもらうさ。こい、チャチャゼロ!」
「ケケケ。ヒサシブリだぜ」

 クウネルの頭から、エヴァのところへチャチャゼロが呼ばれる(エヴァの影の転移)


「さてお前達。一つイイ事を教えてやろう。10から15というお前達の年代は、成長率が非常に高い。肉体しかり、魔力しかりな」

「い、いきなりなに?」
 生徒代表明日菜が、構えたまま聞く。


「簡単に言えば、お前達は、年齢の伸び率以上に、非常によく成長して帰ってきた。という事だ。がんばったな」


 それは、エヴァンジェリンから出た、素直な賞賛だった。

 あのエヴァンジェリンが素直に褒めるなんて!
 生徒達に一瞬嬉しい動揺が走る。


 しかし……


「だが、な。それは当然。人間に戻った私にも当てはまる」

「え゛?」

 直後、彼女達にとって絶望的な宣言が、エヴァから飛び出していた。


 そーいえば、エヴァンジェリン人間に戻ったから、人間としての成長があるんだってよ。つまり、他の少女同様魔法世界でエヴァも成長してきたって事なんだと。
 これからさらに伸びるんだと。


「という事を念頭に入れつつ、はじめようか。15分粘れれば、大人の救援が来るかもしれんぞ」


 ふわりと浮かび上がり、わるそーに笑うエヴァンジェリンがおりましたとさ。



「やっぱ無謀だったかもー!!」


 少女達の誰かが叫んだ。



 ちなみに、敗北の代償は「私達の結婚式に必ず来る事」だった。
 なんと言い出したのは金色の髪を持つ少女。びっくりである。




──────




 そして新学期。


「これから、このクラスの副担任に就任するフェイト・アーウェルンクスです。よろしく」

 新しい副担任が来た。



 俺のクラスに、だけど。


「って、なんで俺のクラスに来るー!」


 思わず立ち上がって叫んでしまった。
 こういう場合って、ネギのクラスの副担任とかなんじゃねーの!?


「子供?」
「なんで?」
「はやりか?」
 クラスメイトもざわつきます。
 でもこの学園の子供先生は有名なので、それもあるのか。なんてクラスメイトが思うのもある意味当然。



 ……でもまあ、確かにひとクラス丸々子供先生って問題あるよな。



 そして、フェイトが俺を見て。一言。


「嫌がらせさ」


「きっぱりゆーな!」
 きっぱり言われた。

 そーゆーの言っちゃダメだろ! いくら縁故採用だからって、そーゆー明らかな私的人事ダメだろー!!
 ※一応世界最高クラスの元危険人物を世界最強の人間に見張ってもらうという名目はあるらしい(+フェイトが彼からなにかを学びたいと考えている可能性も否定は出来ない)


「くくく……」
 隣にいる、久しぶりに登場のエヴァンジェリン擬態、エド・マグダエルが笑った。
 おめーも笑うな。同じような理由でここにきたくせに!


 そして、『またお前か』ってな感じのクラスメイトの視線が、俺に突き刺さった。


 あの綺麗どころの多い子供先生のクラスの子達とも仲が良く、一緒に騒ぎまで起こし(夏祭りなど)、その中の一人とお付き合いしているはずだというのに、それに飽き足らず、こんな男児まで!
 やっぱりお前はアレなのか!? 偽装なのか!?

 そんな視線が。


 みんなー。誤解だよー。勘違いだよー!
 だから、変な噂流したりしないでねー!



(……副担任、生徒。なのに少年。しかも三角関係……た、たまらないわ!)

 毎度おなじみ担任の先生が、その光景を見て、モエモエしていた。



「ったく。このクラスももう少し静に出来んのか」

 隣で楽しそうに文句を言うな!


 てか、きっとネギのクラスもさぞ騒がしい事になってんだろうなぁ……



「では、新学期をはじめます!」

「はーい!」

 先生の声が響き、生徒が素直に、声をあげた。



 こうして、新学期がはじまった!!




──────




 体育祭。クリスマス、卒業式……

 この後も、語りつくせないほどの思い出を、彼と彼女は紡いでゆくだろう。
 だが、この場で語れる事は、もう少ない。


 それでも、出来る限りの事は、語らせてもらい、それからこの物語の幕を、引かせてもらうとしよう。



 ※ここからは、シーンごとに写真アルバムのページをめくるようなイメージを思い浮かべお進みください。




─VS刹那─




 これは、夏休み最後の日の、あの祭りの時のお話。


 フェイトを『フェルト』に変え、さらにクウネルを降参させ雑談しながらエヴァンジェリンの戦いを見ていた彼の前に、刹那が姿を現す。


「えーっと、つまり?」

「はい。お手合わせお願いします」


 それは、エヴァンジェリンを相手にするのでなく、彼を相手にするため。


「言っとくけど、加減出来ないよ」
 今の彼の装備は、『相手ストッパー』に『物体変換銃』である。その気になれば、最初の一つだけで、この場の全員の動きを止められてしまう。


「かまいません。私は今、この場であなたにどれだけ届くのかが知りたいのですから。追い続けた背中が、どれだけ遠いのか、はっきりと知りたいんです」

 その瞳は、その背をただ追うだけの目ではなかった。
 木乃香というパートナーを得て、更なる高みを目指すための、目標をはっきりと持った目だった。


「……君も、強くなったね」

 彼は、思う。
 身体的な事ではなく、精神的な面で、彼女は凄く強くなった。
 引っ込み思案というか、悩む癖があったと思ったけど、そんな事もなく、まっすぐと物事を見ている。

 おじさん、まぶしくなっちゃうなぁ……


「もっと、強くなります!」
 ぐっと、強い瞳で、拳を強く握った。


「いいね、その返し。それじゃあ、少し待って。俺も、手を変える」


 ポケットに『物体変換銃』をしまい、別の物を取り出す。
 その間に、クウネルは『フェルト』化フェイトを回収して安全地帯へさがる。


「君だから見せる、最後の姿だ。これ以後はきっと、この姿にはならない」
(なぜなら、恥ずかしいから!)


 そう言って彼が取り出したのは、一本のベルトと刀。
 刀の方は、『秘剣 電光丸』。ベルトは、闇の魔法によって生まれた、『変身セット』と『決め技スーツ』が同時に装備出来る、アレである。


「まさ、か……」


「そう。最後の晴れ舞台だ。だから、君に送ろう」


 彼はそう刹那に告げ、刀を地面に突き刺し、そのベルトを腰にあて、こう宣言した。



「装、着!!」



 最後の宇宙刑事の戦い。それは、最初の宇宙刑事の弟子との戦いだった……




 ちなみにその後、闇のベルトは、白いベルトとなって、弟子の手に渡る。
 宇宙を守る戦士ではなく、一人の少女を守る、立派な魔法使いを守る白い剣士として、ベルトは闇の魔法を抜かれ、まったく新しい『道具』へ生まれ変わる。




─アクニン─




 お祭り騒ぎのバトルも終わり、エヴァンジェリンと俺の勝利は確定した。
 刹那君をなんとか倒して、全員をひれ伏させたエヴァのところへ合流する。

「ずいぶん手加減していたな」
「いえいえ。彼女が強かったって事ですよ」

「そうしておこう」

「……」

 その時、俺はふと思った。
 今装着しているのは、『決め技スーツ』の力も持っている。

 大昔、俺が銀行強盗を退治する時に使ったあの必殺技も、今だ残されているはずだと……
 今、使ったら一体どうなるんだろう?

 それは、ちょっとした好奇心だった。

 だから、俺は迷わず、その必殺技を使用した。


「ジャスティスボンバー!」


 勝者二人の立つその場に、突然そんな言葉が湧き上がった。



 しーん。



 発動の手ごたえは確かに感じた。
 しかし、なにも起こらない。


 周囲の子達は、何事かと俺を見るが、俺は逆に、その結果に満足して、うんうんとうなずきながら、その装着を解除した。


「な、なんだいきなり……」
 一度それに吹っ飛ばされた経験のあるエヴァは、思わず身構え、困惑していた。

「……いいや気にするな」
 だが俺は、なんだかとっても嬉しくなって、エヴァンジェリンの頭を撫でた。撫でまわした。


 なでなでした!!


「ちょっ、こら! やめろ! やめろー!」


 もう嬉しくて嬉しくて、撫でくりまわした!


 周囲で俺達を見る人は、その理由はさっぱりわからないだろう。
 わかるとすれば、俺がものすごく上機嫌であるという事。


 それだけだ……



『ジャスティスボンバー』
 俺が第8話で作った必殺技。効果:悪人は爆発と共に車田飛びで吹っ飛びます。



 そして、この場で爆発した人はいなかった。
 これほど嬉しい事は、ないだろう?




 ちなみに撫で回しすぎて、俺も張り倒されて、その場に立つのはエヴァンジェリンだけになったとさ。
 その後の勝利宣言後に出た代償の話は、驚かされたなぁ。




 補足:フェイトはその時『フェルト』なので必殺対象外でした。




─ライバル─




 新学期。
 ネギのクラス。


「あら」
「……む」

 教室の後ろにある扉をくぐったところ。
 クラスで当然顔をあわせる事となる千鶴とエヴァンジェリン(コピーだけど)


「おはようございます」
「ああ」

 にっこりと、いつもの通り微笑んでくる千鶴の姿。


 それを見て、エヴァンジェリン本体の意識が、思わず声をかけた。


「はい?」

「一つ言っておこう。私とアイツの間は、もう決して揺らぐ事はない。それでも、お前はアイツを想い続けるのか?」


「はい」
 彼女は、その質問に、堂々と、またはっきりと、答えた。


「……お前は、その位置にいて、辛くはないのか?」


 エヴァンジェリンはもう、確信している。
 彼の心が、他の誰かになびくような事はないと。
 なにがあっても、自分以外を愛さないと。


 それゆえ生まれたのは、その彼を強く想う、少女への心配……

 このままでは、彼女は不幸になるだけではないのか? そう思ったのだ。



 だが、その想像を斜めに超えた答えが、彼女から返ってきた。


「ありませんよ。だって、大好きな人達が幸せになるのって、こっちまで幸せになるじゃないですか」

「は?」

「この位置にいれば、私はいつでもその幸せをわけてもらえます。あの人が私にその瞳を注がないのは、少し寂しいですけど、その瞳を注ぐエヴァンジェリンさんを見るのは、とても幸せな事です」

 そんな寂しさ、お二人の幸せの姿を見れば、すぐ吹き飛んでしまいます。
 そう、彼女は慈愛の笑みを浮かべながら、言った。

「それに、お二人の間にもう隙間はありませんけど、お二人の後ろや、その近くは空いていますよね」

「お前……」

「私は思うんです。お二人が幸せなら、私も幸せ。『三人で』幸せになれれば、素敵だなって」


 にこにこと微笑む、その千鶴の顔に、迷いなどはなかった。
 目の前の人を祝福し、さらに、自分の幸せが、そうだと確信している。


「それに、こういう位置に、油断のならない人がいると、簡単には怠けられませんよね?」


 それは、彼女なりの応援なのだと、エヴァンジェリンは、気づいた。
 彼の幸せがなんなのかを考えた時、それは、エヴァンジェリンが、彼を笑顔にしている事だと、答えに出したのだ。
 そのために、自分は泥をかぶっても良いと考えているのだ。


 ……この娘は、強いな。
 だが、少し強すぎる。諦めるという事を知れば、楽になるというものを……

 決して届かぬその想いを持ち続けるその姿を哀れに思う者もいるだろう。
 決して諦めぬその心を、醜いと感じる者もいるだろう。

 しかし私は、そんな彼女を、美しいと思う。
 それも、彼女の選ぶ、一つの幸せなのだから。
 これもまた、一つの愛の形なのだから。


「言っておくが、同情して一日貸すなどという事は絶対にありえんからな。それは心しておけ」

「はい。こちらも、お二人が少しでも揺らいだのなら、奪ってしまいますからね?」


「ふふ」
「うふふ」


 教室の裏で、二人の笑い声が、こだました。


「……またやってますわ」
「ちづ姉も、すごいねー」


 しかしその二人の間には、今まで見えた絶対零度の空間ではなく、どこか張り詰めているが、どこか温かい、そんな空間だった。




─クラスメイト─




 ライバル直後。


「……ふむ。私、エバちゃん応援する!」
 ふんと、鼻息を荒く宣言したのは、チア部の一人、椎名桜子。

「え? いきなりなにそれ!?」
 同チア部、釘宮円が聞き返した。

「なんか面白そうだから!」
 あとチア部だから!

「じゃあ私は、那波さん!」
 同じくチア部、柿崎美砂が千鶴の応援を名乗り出る!

「……なら私は中立ー。二人共応援する!」
 最後はチア部の残り、釘宮円。


「なっ!? いきなりなにを言い出すお前達!」
 エヴァンジェリンが、いきなりわいた三人組に、驚く。


「なになにエヴァちゃんまた彼氏の取り合いー? ひゅーひゅー」
 朝倉&パルが、冷やかしにやってきた。

「せっかくだから、あんたらの事マンガにしていーい?」


「もう、なにをおっしゃってるのですか皆さん! それならばネギ先生をエントリーさせなさーい!」

 くわっといいんちょこと雪広あやかが吼えた。

「なんでそこでネギせんせいー!」
 千雨がつっこんだ。


「あ、エヴァちゃーん。(魔法の事で)質問あるんやけど、ええー?」

「なぜこのタイミングでそれを聞きにくる近衛木乃香!」
 いつもはこのかと呼ぶが、同じように集まってくる人が多いので、同じくフルネーム呼びになってしまったエヴァである。

「あ、じゃあ私もついでに、エヴァちゃーん。今日の予定なんだけどー」
 明日菜までやってきた。

「あ、私も(魔法関連の事で)いいですか?」
 ユエまで。

「私もー」
 ノドカも。



 わらわらわら。



「ええい、一度に話しかけるなー!」


「あらあら」
 この状況を、楽しそうに笑う、千鶴であった。




 なんだかんだいって、彼女達とこうして話す機会が増えた気がする……




─進路相談─




 三者面談。
 それは、生徒と保護者で、教師と面談し、その子の進路や将来を考える集まりである。


「それで、ウチのエヴァンジェリンはどうなんでしょうネギ先生?」
 そこに保護者として現れたのは、当然俺ぇ!

「ってなんでお前が来ている!」
「なんでって、まだ正式じゃないけど、俺等はもう家族同然だろ? 将来一緒に考えるような仲だろ? ならアリだろ!」


「っぐ……」
 その言葉に、少女はもう反論する事が出来ない。
(その言葉は、反則だろう……)

 ──今の彼女に、彼の言葉を否定する事が出来ようか? それは、否である。
 さらに、それをこうも堂々と言ってくれるのは、その関係をしっかりと実感する事が出来、嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。


「わ、私はただ、お前が保護者というカテゴリに入るのが気に入らないだけだ。お前のどこが保護者だ」
「それに関してはなんとも返答出来ないな。でもよ、こうゆう風に学生生活満喫しているのも、いいだろ?」

 制服姿のままで、確かに保護者には見えないわな。

 なんなら大人の姿のがよかったか?


「そういう意味ではない。まったく、しかたないな」
 以心伝心が決まって、ため息つかれました。

 どうやらこれでOKのようです。


「とゆーわけで、ネギ先生。こいつの進路の第一志望はどうなっていますのん?」

「あ、はい。第一志望は、残念ながら、進学なんです」
 進路志望用紙を見たネギが、そう言う。

「それは残念だなぁ」

「残念ですよねぇ」

 俺はネギと一緒に、思わずため息をついた。


「なにが残念だ。ここはエスカレーター式なのだから当然だろう」
 麻帆良学園は、大学までそろった学校なので、当然そのまま高校へという選択がとれる。

「うんうん。お前が卒業して高校へいけるのは凄くいい事だと思う」
 なにせ、15年間中学生を繰り返してきたのだ。
 だが、今年はそうではなく、クラスメイトと一緒に卒業して、進学出来るのだから。

「はい」
 ネギも、その点に関しては、素直にイエスと言ってくれた。

「でもさ、ここはさ、やっぱりさ」
「はい!」
 しかし、俺のその言葉にも、大きくイエスと答えてくれた。


「俺の嫁とか花嫁さんとか書いておくべきじゃないかな!?」



 教室の後ろの方に頭から煙をふいて放置された俺が居ます。



「ったく。あほ。このあほ」
 赤面したエヴァンジェリンが席に居た。

「あはは」
 進路表を持ったネギが苦笑する。


「まあ、そういうわけだ。ひとまず私は、このまま進学する。文句はないな?」

「ありません。そうですよね。花嫁さんは、高校に入ってから書く進路ですもんね!」


「お前もそれを言うか弟子よ……」


「だって、それ以外の第一志望、あるんですか? マスター」
 担任の先生が、にっこりと微笑んだ。

「……ふん」
 その微笑みに耐え切れず、少女は明後日の方を向いた。



 その少女の少し照れた表情は、大変美しかったといいます。




 ちなみに高校時代、進路希望調査で勝手に『俺の嫁』と書いたら怒られました。
 でも、そのまま提出してくれました。まる。




─進路相談2─




 エヴァの進路相談も終わったあと。
 その日ラストとなる次の子が来るまで時間が余ったので、帰る前に一つ思った事を聞いてみた。


「ところでさ、ネギ」
「はい?」

「お前の進路って、どうなってんの?」
「はい?」

「いや、この三年が卒業したら、どーなるのかなーと思って。今度は1年を担任するのか? それとも、別の修行とか?」

「そうですね。どうなるんでしょうね?」
 あはは。と笑い。

「このあたりは学園からの辞令を待たないとなんとも言えませんから」
 そう答えてくれた。

「あー。つまり、まだしばらくは学園の方にいるって事か」
 そのまま先生続けるって事か。

「はい。修行の期間もありますから、あと3年くらいはいる事になるかと」

「へー」


 ……ははーん。これは、明日菜君達が高校卒業するまでいる事になるなこの子。
 俺の勘がそう告げている。

 そして、高校の英語担当とかもやらされると見た!


 つーか……
 初期設定の先生をやれという命令で、一つ思った事があった。


「……てかさ、その『先生』。家庭教師とか、塾の先生みたいな先生じゃダメなの?」
 というかどういう縛りがあるの?

「え? 修行の内容は、『日本で先生をやること』なので、そう大きな縛りはないかと思いますけど。ここも、おじいちゃん。あ、魔法学校の校長先生が口を利いてくれたので」


 つまり、日本でならどこでどんな先生でもよかった。という事だよな。
 学校で英語で担任でなくても良かったって事だよな。


「ふーん。ならさ、来年度は家庭教師とかの先生になってさ、学校は生徒として通ったら?」

 それは、俺の、本当にテキトーに言った一言だった。


「え?」

「絶対の縛りがないなら、それもアリかと思ってさ。それも一応『先生』だし。いや、勝手な言い分だよ。本当にいいのかわからないし」

「……」


 あ、なんかちょっとマジで考えはじめちゃったよこの子。
 いまさらジョーダンよー。テキトーよー。とか言えないよ。


「……うん。いいかもしれません」

「え?」

「それは、想像もしていませんでした。そうですね。そういう考えもあったんですね。目から鱗が落ちた気分です。ありがとうございます!」

 ものすごい目をきらきらさせて、そのまま立ち上がり、俺に頭を下げて、ネギはヨロコビ勇んでその場から去っていった。


「えーっと……」
 思わず引きとめようとあげた右手が、凄く手持ちぶたさんです。


「お前、またあの小娘に大きな影響を与えたな……」

 そう、隣で黙っていたエヴァンジェリンが、苦笑してました。


「いや、ちょっとした疑問だったんだよ。ちょっとした思い付きだったんだよ」

「万一クラスメイトにでもなった日には、覚えておけよ?」
 飛び級で高校生とか、うん。ありえるね。先生より難易度低そう。

「覚えておくけど責任はとらねーよ。それはネギが言い出すわがままなんだから。あいつがそんな事言うの、多分はじめてだろ。広い心で許してやれって」


 やれやれと、ネギを引きとめようと伸ばしていた右手で髪をかきあげる。


「それはさ、お前達、今のクラスの子と離れたくないって事でもあるんだからさ。あいつまだ10歳なんだぜ」

「ふん。子供には甘い事だな」

「滅多に甘えない子が甘えるんだ。甘くもなるだろ。といっても、決めるのは俺じゃないけどな」
 『道具』を使えばそりゃなんとでもなるけど、流石にそれはやりたくないし。

「……お前以上に甘い大人がそろっているからな、ここ」
 エヴァがため息をつきつつ苦笑する。

「まったくだ」


「……というかさ、私の面談、どうなるわけ?」

 エヴァの次で、ラストとなるはずだった明日菜君が、ドアが開いたままになっていた、担任のいない教室を覗きこんで、そんな事を言った。
 どうやら今ついたらしい。


「あ、君が最後だったんだ。まあ、どーせ君もこのまま進学なんだから、いいんじゃね?」
「そりゃそーだけどさ……」

「いや、進学出来るのか怪しいのかもしれんな」

 エヴァが真相をズバリ!

「エスカレーター式で進学出来ないって、どんだけだよ」
「だが、あの神楽坂明日菜ならば、ありえない事もない」


 俺も思わず納得!


「んなわけないでしょうがー!」


 夕日がさしこむ教室に、俺達の笑い声が響いた。



 みんなで進学、出来るといいな!





 どうなったのかは、ご想像にお任せします。



 ただ、一つだけ補足しておくと、ネギはあのあとすぐ戻ってきました。




─正月─




 あけましておめでとうございます。

 なんだか実家の方で父方のおばあちゃんが足をひねったとかで入院した上、母方のおじいちゃんもぎっくり腰になったなんてアクシデントが重なり、もう、ごたごたしているので今年は帰って来なくて大丈夫だからと言われました。


 何度も大丈夫? と心配されてきたけど、今はもう、逆にこう言われるくらいの信頼は得られているようで、安心でもある。
 やはり、彼女を連れ帰ったのが大きかったか……!


 俺が帰れば一発治療可能なんだけど、さすがに命に関わるわけでもないのをホイホイ治すのは良くないという事で自重。



 というわけで、年末年始も麻帆良にいる事となりました。


 なので、コタツを囲んでエヴァんちです。


「つーわけで、初詣、行かない?」
 みかんを食べながら、そう提案してみる。
 なんせこの学園、敷地の中に神社まであるから。

「寒くて出かけたくない」

 コタツで丸まるエヴァがノーと答えた。


 氷の魔法使いの癖に!


「行こうぜー」

「……しかたがないな。では、行くか」

「わーい」

 よろこびいさんでコタツから出ようとしたら、エヴァはそのまま。コタツに入ったまま……


 ぱんぱんと、俺に拍手を打った。


「今年も良い年でありますように」
「アリマスヨーニ」
 チャチャゼロまで!

「お願いいたします」
 茶々丸さんまでー!?


「なんで俺を拝むの!?」

「私はお前以上の『神』を知らないからな」

「なにそれー」


 やめてえぇぇ! そういう扱い、やめてえぇぇぇ!!


「ちなみに、あのじじ……」

「やめてー! 聞きたくない。そういうの聞きたくない!」


 学園長がそんな感じで見てるとか、気づきたくないカラー!
 世の中知らない方が、気づかない方が幸せな事、あるんだカラー!!


「だから、お前以下の『神』のところへ詣でに行くつもりもない」


 まいったか!
 といった感じで笑われた。

 くそー、お前ワザとやってんな。
 外に出たくないからって、ワザとやってんな! 俺をいじめているな!


「いぎありー。甘酒とか飲みに行こうぜー。屋台回ろうぜー。おみくじひこうぜー」
 振袖とかどーかなー? 見たいなー。

「最大の敵はこの寒さだな……むしろ、コタツ、最高だ……」

 ああもう、こたつむりになった(頭残して首まですっぽり入る事)

 そして茶々丸さんがそんなエヴァを見てなぜか大興奮してる!


 ちくしょう。コタツに負けたー!

 だが、対人類用究極暖房決戦兵器であるこたつが相手ならば、しかたがないっ!


 しゃーないからこたつむり、みかんで餌付けしてやろっと。

「どーぞ」
「うむ。悪くない」



「あけおめー!」
 明日菜君がやってきた。


「なんだ神楽坂明日菜か。なにをしにきた」(エヴァ)
「あけおめ」(俺)


「だってみんな帰省しちゃってるんだもん。ネギも今あっちにいるし。このかと刹那さんも実家に戻っちゃったんだからいいじゃない……って、なんてカッコしてるのよ」


 こたつむり状態のエヴァを見て最後にそんな事を言う。


「世の至宝だ。それ以外の文句は言わせん」
「餌付けする?」

 みかんを差し出す。

「んーん。いいから入れてー」
 さむさむとコタツに足をいれる明日菜君。

「足じゃまー」
「うるさい」


「エヴァンジェリンいるかネー?」


 エヴァと明日菜君が居場所争いしていると、今度はそんな声。


「超鈴音か」
「そーいや君も麻帆良居残り組だっけ」
 なんせ実家ははるか未来だ。


「エヴァちゃんいるー!? あけましてー!」
「あけましてー!」


 続々やってくるエヴァのクラスメイト。


「お前、人気者だな」
「……」

 あ、こたつむりがカラにこもった。


「皆さんあけましておめでとうございます」

 茶々丸さんがぺこりとみんなに挨拶しておりました。



 今年もいい一年になりそうだ。




 ちなみに、明日菜はあくまで『神楽坂明日菜』なので、ワザワザ魔法世界へ顔出しに行ってません。親子水入らずを邪魔しないという意味もあるし、大人達のした事の意義もくんでいるという事で。




─バレンタイン─




 2月。

 あー、豆うめー。
 大豆ってすげぇよなー。


「ダンナダンナ!」

「あ、カモじゃん。いたんだ」
「いたっすよー! ずっといたっすよー!」


 今日はなぜかエヴァが一人で家に帰っちゃったので、俺は一人でぼーっとしていたのだ。
 そしたらおこじょが声をかけてきたのだ!


「ところで、いくつくらいダンナはもらえますかね?」
「え? なにが?」


 あー、豆ウメー。


「だから、チョコですよ。チョコ。えへへ」

「なんで?」

「なんでって、ダンナ本気で言ってるんですか?」
 なんかあきれられてしまった。

「なにがよ?」

「二月ですよ。14日! ほら、あるでしょ!」

「馬鹿だなーカモはー。二月はなー、節分しかなーイベントないんだぞー。基本28日までしかないしなー」


 まめうめー。


「……本気で言ってるんすか?」

「ほかになにか?」

「だって、バレンタインですぜ、バレンタイン!」

「……」


 俺の動きが止まる。
 なんだ、おかしい。頭が痛い……!

 われるようにいたいといいな!
 記憶喪失したいな!


「ダンナー?」

「はいはい。わかってますよ。バレンタインでしょ。ヴァレンティヌスさんが処刑された日ですよ! それ以外ないよ! チョコレートなんてしらねーよ! でも甘いのは大好きだよ!」

「ダンナ、なんで現実逃避してるんすか? ダンナなら確実にもらえるはずなのに……」

「……」
「?」


「……はっ! 本当だ!」
 思わず大声。


 びくぅ。
 カモびっくりする。


「そういえば今俺は、もらえる可能性を持った素敵男子だった!」


 エヴァンジェリンという恋人がいたんだった!
 衝撃の事実だった!


「どーりでここ数日、クラスメイトの視線が厳しいわけだ……」

「……なんで忘れてるんすか……」

「いや、記憶喪失。うん。それ」

「それ、その体の元の持ち主の記憶が。って事だったって聞いてますぜ。しかも一年近く前のネタじゃねーっすか」

「……」


 だって、チョコなんて、家族か仕事の付き合いかネタでしかもらった事ねーし……


「それいくつか本命あったと思うっすよ」

「マジで!?」

「マジっす」

「マジでー?」

「マジだと思いますぜー」

「ま、それは置いといて」
 過ぎた過去にこだわっても仕方がない。
 今は未来を見て生きるしかないのだから!


 なにせ今年は、そんな不確かなモノではないのだから!


「こんなにバレンタインが楽しみなのは生まれて初めてだ!」

「ダンナが生き生きしてきた!」

「大豆食ってる場合じゃねぇ! 今から腹をすかせておかないと! DANJIKIしないと!」

「ダンナが壊れたー!」


 ちなみに、エヴァンジェリンのチョコは手作りで、形がちょっと不細工で、色々ダメだったけど、最高にオイシかったとお伝えしておく。

 だってエヴァが自分で手作りで俺の為に作ってくれたんだから!


「ただ、味は来年に期待」
「きっぱりと言ってくれるなお前!」


 そーだよな。当然ながら、今までこんな乙女イベント参加した事なんてねーもんな。
 今回は多分、みんなに黙って一人で作ったんだろうと俺は分析する。


「むしろ徐々においしくなっていくと考えれば、最高の出だし。この変化を味わえるなんて、俺は幸せ者以外にない!」
 これは、俺にしか味わえない特権!


 だから、このチョコは、最高にオイシイ!!
 その味も、出来事としても!


「だから、きっちり全部食べてもいいかな?」

「ばっ……ばか」
 いつもの通り、目をそらされて言われました。


 いただきましたー!
 その表情が一番のご褒美です。




 まったく。せっかく私が作ったものの感想が、来年に期待とは。
 だが、そう言いつつも、きちんと全部食べてくれるのは、嫌いではない。
 逆に、愛を感じてしまうのは惚れた弱みか。

 まあ、下手に世辞を言われても、しかたがないしな。
 あのくらい直球の方が我々らしい。


 来年は覚えておけ。今年よりももっと美味しいチョコを食べさせてやる。再来年も、その先もだ!




──────




 そして……


 彼と彼女の物語には、他にも多くの騒動があるだろう。
 だが、それを語る時間も、もう終わり。


 最後は、このワンシーンと、この言葉をもって、ひとまずこの物語の幕を引かせてもらうとしよう。




 高校の卒業式。
 その卒業証書をもらったその足で、その式は行われた。

 卒業の祝いと共に開かれた、もう一つの式。


 一組の結婚式。


 卒業と共に、彼と彼女は、本当の家族となる。


 共に卒業した、クラスメイト達。
 はるか未来へ戻り、無事地球を取り戻した事の報告もかね、再びこの地に舞い降りた元クラスメイト。
 さらには、あの日約束を代償とされた彼女の友人までもかけつけ、大勢の人々が、彼女達を祝福する。



 その先には、真っ白いウエディングドレスに身を包んだ花嫁と、花婿がいた。


 その学園にある教会で。
 真っ赤なバージンロードを歩き。


 その指輪の交換も終わり……



「誓いのキスを」


 二人の視線が絡み合う。


『……本当に、あと二年待たず、いいのか?』
『いいんだよ。約束は高校卒業まで。ルールでももう結婚していいんだ。じゃなきゃ、18の誕生日にあんな派手なプロポーズしねーよ』
『受けに行かされたのは私だがな』
『アレは俺のせいじゃない。学園祭の時期に重なったのが悪い』

 絡み合った視線だけで、花嫁と花婿が会話をする。
 以心伝心。魔法も、『道具』も使わずとも、心が目と目だけで通じ合う。

 ちなみに、プロポーズを決めた花婿は、今の花嫁の保護者ともいえる学園長に相談しに行った。その結果、なぜか色々聞き耳を立てていた学園祭スポンサーとなる雪広家のお嬢さんとかその他大勢が飛びこんできて、ソレは学園祭の一大イベントと変化してしまったのである。
 プロポーズを受けたければ用意されたある場所まで邪魔をくぐりぬけ行け! と、なぜかプロポーズを受けるはずのお姫様が、城の最上階で待つ王子様のところへ向うという謎の趣向になっていたが。
 当然。そのラスボスは、あの子。まさにそれは、彼女にとって真のラスボスであった。

『それに、俺の我慢をぶち壊すほど、綺麗になったお前が悪いんだよ』
『人のせいにするな……』
『じゃあ、あと二年待つか?』
『……今すぐ幸せにしろ』
『もちろんさ』


 凛々しく成長した少年の視線に、美しく成長した少女がにこりと笑い、答える。


「だから、お前を一生大切にする。幸せにする。愛しているよ、エヴァンジェリン」


 花婿と花嫁の唇が、重なった。

 それは、初めての、花婿からのキス……


 ずっとずっと少女が待ち続けた、待望の瞬間……


 思い出す。
 出会いは、最悪だった。

 出会ってすぐ喧嘩をして、殺し合いとまで言って挑み、逆に初めての完全敗北を味わった……
 その仕返しの為に、その傍へと近づいたが、そこから、逆に惹かれていった。

 いつからだろう? 気づけば目で追うようになっていたのは。
 いつからだろう? 好きになっていたのは。
 気づいたのは、彼がはじめて闇に囚われそうになった時か……

 それからは、彼の一挙手一投足にドキドキさせられた。

 学園祭での鉄人兵団。死をかけた戦い。だがそれを乗りこえ、想いは通じた。
 闇の道から、救い出され、私は人間へと戻った。

 魔法世界での出来事。
 そこで私は、過去からの全ての業を取り祓われ、本当の意味で、一人の少女として生まれ変わった……
 絶体絶命の私を、命をかけてまで助けに来てくれた……

 さらにその後、姿を現した世界を破壊する存在により、彼は世界に存在する因果すら消され、消滅した。
 それでも、私は彼をこの世界へ呼び戻し、結果、私達は世界を救った。

 いや、救ったのは、私達の絆。世界など、おまけにすぎない。

 それからも、小さな事で一喜一憂し、訪れた、この、今日という時間。


 待ちに待った、この瞬間……


 私の体を、幸せが包む。
 唇から生まれた熱は、脳を駆け抜け、全ての先まで駆け抜ける。

 今まで何度か自分からしては来たが、これほどまで甘美なものだったか?
 今までしてきたものとは一線を画している。これほどまでに幸せなキスははじめてだ……

 光に包まれたかと思うその体は、天にものぼる心地だった。
 それは、今までで感じた事もない、幸せと、喜びと、温かさだった。

 嬉しい。
 嬉しい。
 嬉しい!


 この時私は、世界で一番。いや、宇宙で一番、幸せな花嫁だったに違いない。



 祝福の鐘がなる。

 流れる歌声。

 祝福する、彼等の友人達。


 手を取り合い、新たなる一歩を踏み出す、花婿と花嫁。


 外は、透き通るような青空。
 さえぎるものなどなにもなく、空の果てまで見通せるようだった。


 それは、まるで世界すら祝福しているかのようだった……



 祝福の嵐が吹き荒れ、花嫁がブーケを空に投げる。



 さえぎるものなどなにもない青空に、ブーケが舞った……




 こうしてエヴァンジェリンは、末永く幸せに暮らしましたとさ。





 めでたしめでたし。











 おしまいっ!








─あとがき─

 これで、終わりだあぁぁぁぁぁぁぁ!

 これ以上の言葉はありません!
 完結なのです!

 正直、第1部終わった後に、後日談を書いてなくて本当に良かった。
 アレ書いてたら、多分この第2部はなかった。危なかった!

 いや、ある意味この第2部すべてがその後日談そのものですけど!
 まさに全編第1部のエピローグですけど!

 でもそれでいいんです! だって、どれだけ話が進んでも、この物語のおしまいは、彼女は末永く幸せに暮らしましたとさ。でしめくくられるという事ですから!

 最後は新学期開始のところや卒業式でしめてもよかったのですが、この二人の場合、最後はやっぱり結婚式だよね。という事で、ちょっと時間をすっとばして結婚式でしめさせてもらいました。

 いかがだったでしょう!?

 書いた自分も楽しんで、さらに読んでくれた人も楽しめたのなら、最高だと思います。


 皆様、ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!














─おまけ─




 大人の階段登った次の朝。
 新婚旅行先のレストラン。



「……」
「……」
 その二人の雰囲気は、なぜか異様に暗かった。


 新婚でかつ、先日初夜を迎えたばかりだというのに、二人ともテーブルについても、互いの顔も見ず、ずーんと落ちこんでいるように見えた……
 互いが互いを無視するかのように。


 まるで、険悪であるかのような雰囲気が、そこには漂っていた……


 二人同時にため息をつき、同じタイミングで、顔を上げる。


 顔を上げたところで、二人の目が合った。



 次の瞬間……



 ぼん!
 なんて音を立てたかのように、二人の顔は真っ赤になった。


 二人はあわてて、その視線を相手から外す。



 い、いかん。あいつの顔がマトモに見れん。
 だ、だめだ。エヴァの顔がまともに見れない。

 顔を見ると、昨日の事を思い出す。
 どうしても、意識してしまう。


 今までそんな事はなかったのに、昨日の今日だからか、異様に意識してしまう!
 だから、顔もマトモに見れない!


 異様に暗かったように見えたのは、二人が二人で相手を意識しないようにしていたからだった。
 実際は、ものすごく意識しすぎていたために、雰囲気が悪かったように見えただけだった!


 心も体も。なにもかもが繋がった二人は、その新しい視界に、その姿を捕えただけで、互いを意識してしまうのだ!


「あ、あの……」
「な、なんだ……?」

「いや、その……」
「なんだ、うぅ……」



 顔を見合わせ、まるでおつきあいはじめたばかりのカップルであるかのように赤面し、テーブルに視線を落とす。



 ほてった頭を冷やすため、エヴァンジェリンが水の入ったコップへ手を伸ばした。
 だが、すでに空となっていたそれは、触れられただけで、倒れる。


 転がるコップを二人が止めようとする。
 二人の手が同時にコップへ伸び。

 そのせいで、二人の手が触れる。


「ふゃ!?」
「うぉっ!?」


 思わず二人とも、手を引く。


 ダメだダメだダメだ! 触れられただけで……
 やばいやばいやばい! 触っただけで……


 昨日を思い出し、二人はまた、赤面した……


 今まで気にも留めなかった、互いの『肉』の部分に、目が行ってしまう。
 その指先が、その肩の動きが、その表情が、唇が。昨日までと、まったく違うものに見えた。



 男が席を外す。
 朝食はバイキングなので、水の代わりをとってこようというのだ。


 少し離れた通路に入り、男は壁に腕を置いて、そこに頭を乗せる。


 ……いかんだろ。
 マジでいかんだろ……

 なんだ? 嫁が異常にかわいく見える。
 いや、前からかわいかったのは確かだ。

 だが、今日はそれ以上にかわいい。かわいいだけじゃなくて、それ以上に、なんというか……

 昨日の情事を思い出し……


 ぶふぅ!


 くっ、原因はわかっているさ! 知ったらさらに意識したってだけだ! でもな……!

 席で待つエヴァンジェリンの方を見る。
 そのたたずまいは、まるで月から舞い降りた女神のようだった。

 すると、目が合った。


 次の瞬間。体温が急上昇するのがわかる。
 むこうも真っ赤になったのがわかった。


 いかん。すぐにでも抱きしめたい。だが、そう思った瞬間に、別の映像が頭の中に再生される。


 いかーん!



 彼が席を外した。

 正直言えば、助かったというのが本音だ。

 まずい……
 非常にまずい……

 テーブルに肘を置いて、頭を抱える。

 なんだ……? あいつが、異様にかっこよく見える。
 いや、そんな事、前からわかっていた事だ。

 だが、今日はそれ以上にかっこいい。いや、それだけじゃなくてそれ以上に、たくましいというか……

 昨日の情事を思い出す。


 ぶふぅ!


 くっ……原因はわかっている。知ったらさらに意識してしまっただけだ! だがな……!

 向こうへ行った夫の方を見る。
 その立ち姿はまるで、輝く太陽の神のようであった。

 すると、目が合った。


 次の瞬間。体温が急上昇するのがわかる。
 むこうも真っ赤になったのがわかった。


 ダメだ! 意識するな! 意識をしては……そう思った瞬間。別の映像が頭の中に再生された。

 だから意識するなとー!



 気づけば、その人を目で追っている。
 無意識で、求めてしまっている。
 しかし、その人が視界に入ると、心臓の早鐘が、とまらない。

 その姿を見るだけで、幸せすぎて、なにかが爆発してしまいそうだった……
 より好きになったその気持ちを抑えねば、その場で暴走してしまいそうだった……!


 周囲の心配をよそに、すでに長い時間連れ添ったはずの新婚カップルが、二人して悶えていた。
 なんというか、一周まわりきって、最初に戻ってきたかのようだった。



 その後彼は友人に「嫁がかわいすぎて直視出来ない」と電話して、爆発しろと言われていた。
 当然彼女も、友に「夫がかっこよすぎて直視出来ん」と電話して、同じように爆発しろと言われていた。



 なんなんだほんとに。爆発しろ。天の声も思わずそう言わざるをえなかった。




 きっとこの二人は、この後も手を繋ぐだけでまた新たにドキドキしたり、さらに子をなしたとか、しゃべった立った、歩いた入学したなど、様々な事で一喜一憂し、そのつどイチャイチャして愛を確かめ合い、いつまでたってもラブラブで、幸せな一生を送る事でしょう。




 めでたしめでたしのめでたし。







 今度こそ、ホントのホントにおしまいっ!



[6617] 第2部登場人物説明兼後日談&質問コーナー
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9
Date: 2012/05/05 21:01
初出 2012/05/05 以後修正



第2部登場人物説明兼後日談&質問コーナー






─『彼』─
 この物語の主人公にしてエヴァンジェリンの伴侶。
 魔法世界にある王国の元王子。元老院議会大暴露大会の騒動の騒ぎにおける責任をとるという形で王位継承を辞退したとされている。
 この世界に呼ばれた理由は、『ギガゾンビ』の力をこの世界に顕現させるために使われた門となる少年。その異世界同位体の中で、その闇の負荷に負けない意志の強さを備えた存在だったから。
 ヘタレでも、最終的には勇気を出して行動出来るその強さや、肉欲を我慢出来る鋼の精神が、それを証明している。
 さらに、彼が『四次元ポケット』を持っていた理由は、『ギガゾンビ』の力。23世紀の科学力がこちらへ運べなかった時のための保険であった。
 最終的に、エヴァンジェリンとの愛の絆で発現したアーティファクトにして伝説のひみつ道具『親友テレカ』により、世界を救った。
 魔法世界においては、大暴露大会を裏からサポートして、ラカンを拳闘大会で倒し、魔法世界の危機を救った『もう一人のサウザンドマスター』と認識され、確実に『立派な魔法使い』と認知されているだろう。
 本人すこぶる不満であろうが。
 『もう一人のサウザンドマスター』以外にも『闇を纏いて闇を祓う者』、『星の護り人』、『デウス・エクス・マキナ』、『敵対するべからず』などとも呼ばれる。
 現実世界では、一応普通の男の子として生活している。一部例外ありだが。
 最初の頃は元の体の事情や、噂によってクラスの中でも浮いていたが、夏休みを終えた頃には別の意味で注目されていた。ただ、クラスメイトとの仲は悪くはなく、男の友人もきちんといる。モブなので目立たないだけで。

 その後。
 エヴァンジェリンと幸せな家庭を作るのは間違いない。
 生来の生真面目さから、『フエール銀行』でとんでもないほど金を持っているのにもかかわらず、普通に仕事についていそう。
 エヴァンジェリンとの結婚の際、両親に金銭面での心配もないとの説得力を持たせるため、会社を立ち上げている可能性もある。本編中エヴァと会社を興してもいいかなんて考えていた事だし。
 もしくは、自営業の駄菓子屋とかアパート経営の大家とかでのんびり暮らしている事だろう。
 ただし、世界が危機を迎えれば、なぜかその中心になっている事が多いらしい。
 ネギ達『白き翼』の支援者の一人でもある。

 結局本物の宇宙刑事になるはめになったという話もあるが、真実かどうかは定かではない。



─エヴァンジェリン─
 この物語のヒロイン。
 元『闇の福音』と恐れられた真祖の吸血鬼であったが、今はただの恋する乙女。
 魔法世界においてゲートポート破壊の主犯とされ、一度公開処刑されかかるが自身のヒーローの手によって逆に無罪とされ、その罪全てを許される事となった。
 これにより、彼女の闇も、その業もすべて取り払われる事となる。
 闇とも過去とも決別したあの時、確実に惚れ直しただろうね。
 最後の戦いで、この世界に存在する運命、因果からすら抹消された最愛の人を、その愛の絆で呼び戻す事に成功し、世界で最も強い力は『愛』であるを実践した。

 その後。
 当然その伴侶と幸せな家庭を築くのは決定事項である。
 近くに強大なライバルがいると感じているので、怠ける事もなく、立派な奥さんになるだろう。
 正直彼女達の事って書く事あんまりないね。幸せになる以外ないんだから。
 いつもラブラブいちゃいちゃしてるに違いないんだから。
 なので、子供の人数などは、ご想像にお任せします。



─ネギ─
 ネギまの主人公。
 原作と違い、女の子であり、闇の魔法を手にしていないので、普通に成長を重ねる事となる。
 精神的にもトラウマらしいトラウマはなく、素直にまっすぐと成長を遂げ、光でも闇でもないネギ自身の道を見つけだした。
 闇の魔法のかわりに習得した『ネギの魔法』は、闇の魔法のように魔法を体に装備するが、それを取り込むのではなく、纏う事によってそのリスクを最小に減らす事に成功した。これは、彼女の尊敬するもう一人の『サウザンドマスター』が使用した変身スーツからヒントを得たものである。
 さらに『ネギの魔法』の真髄は、周囲の人達の力をかり、自身をパワーアップする事にもある。仲間と共に、力を合わせる事の究極形ともいえる。わかりやすくいえば、『元気玉』をその身に装備するという事。
 その最大の一撃は、地球を破壊する一撃も防ぐ23世紀製のバリアをも打ち砕くほど。
 その上ネギが強くなると、その従者も強くなるという輪の魔法でもある。
 超といいフェイトといい、その笑顔で多くの敵対した人を仲間に引き入れた。
 ウェスペリタティア王国(オスティア)が復活したため、実はお姫様でもある。

 その後。
 『立派な魔法使い』を目指し、更なる精進を進め、次代の『立派な魔法使い』になった事だろう。偉大な先人を超えるのは難しかっただろうが、それでも彼女とその仲間ならば、やり遂げたに違いない。
 将来は、『白き翼』を率いて、人々を助けているのは間違いない。
 その隣に立つのは、ノドカ嬢なのかフェイトなのか、はたまた別の人かは、ご想像にお任せする。



─神楽坂明日菜─
 ネギのパートナー。バトル的な意味で。
 完全魔法無効化を持つため、『ネギの魔法』に唯一参加出来ない子。そのため、ネギを守るという点では最高に相性がいいわけだが。
 最後の最後まで彼女は『神楽坂明日菜』であった。

 その後。
 『立派な魔法使い』を目指すネギを、その背中をどんどん押して、前に進ませ続ける事だろう。たまには勉強とかで色々支えてもらっているだろうけど。
 意外にもエヴァンジェリンと仲がよく、暇な時は家に来ていたりする。



─桜咲刹那─
 木乃香の嫁。うん。嫁。

 その後。
 白の剣士として、主を守る。木乃香が『立派な魔法使い』なる傍らで、彼女もまた、立派な正義の味方としてその隣に立つであろう。
 もちろん、地球の平和も守ります。



─那波千鶴─
 エヴァンジェリン最大のライバルにして、最大の応援者。
 自分の幸せは、好きな人の幸せであり、その人が笑顔でいられるのなら、他の人も応援出来るという、ある意味本当に菩薩のような人。
 『三人』で幸せになるというのは、そういう意味がある。
 が、ちょっと意地悪な方法もとったりするのはご愛嬌。
 一応二人の間に綻びがあれば、その席を奪うとは豪語するが、そんな事は決してありえないとも悟っているので、少しくらいの意地悪もしていいと書いてる人は思う(その後余計に絆強くするだろうけど)

 その後。
 好きな人の隣は無理だったが、好きな人達の傍らに居続ける事となる。
 将来は保育士となり保育園を経営しているに違いない。
 エヴァンジェリンとは、常に気の置けない関係となった事だろう。正しい意味でも、間違った意味でも。

 バッドなifだと、行方不明になったご両親のかわりに彼等の子供を引き取って、母親代わりとして育て、その子が両親を探して旅に出る新章なんてのがネギま的だな。なんて一瞬頭をよぎったけど、さすがにそれはバッドなので夢でしかありえません。
 てかあの二人が行方不明になるような事態って世界終わってるっちゅーねん。



─犬上小太郎─
 『彼』にものすごくなついていた犬っ娘。
 ネギの親友でもある。

 その後。
 成長し、女として正しい自分に気づいた時、その気持ちはやっと正しく認識された。しっかりとその気持ちを意中の男性に伝え、はっきりと断られた事により、彼女の初恋は終わる。
 その後、楓やクーと修行の旅に出る。仲間のピンチには、忍者と共に颯爽と駆けつけるようだ。



─絡繰茶々丸─
 モエポイントが少しずれた、魂を持ったアンドロイド。

 その後。
 こちらの彼女は、ネギにはついてゆかず、エヴァンジェリンの従者として、その世話を続けている。
 二人の、文字通りともいえる夫婦漫才を一番身近で楽しみながら、幸せな日々を過ごす事となるだろう。
 そして日に日に至福のメモリーは増えてゆくのは間違いない。



─超鈴音─
 魔法世界編においては、エヴァンジェリンを救うのに必須であったワープ装置の開発に成功した天才。
 彼女がいなければ、この物語はバッドエンドで終わっていただろう。

 その後。
 未来世界へ戻った彼女は、今だ鉄人兵団におびえるその世界で、地球を無事取り返す事に成功した。
 その後予約をとりつけていた、次元を超えた運命の出会いがあったかどうかはご想像にお任せしよう。



─長谷川千雨─
 魔法世界編での一般人ポジションに彼が納まったためか、存在が足りなかった100万ドラクマの奴隷三人娘の一人になった。
 明日菜にかわる辛辣系つっこみと、非常に重要なポジションを獲得した。

 その後。
 ネット続けながらも、普通にOLとかになってそうね。ネギ達との交流は当然続いてます。



─相坂さよ─
 本編中では原作と大きな差異は生まれなかった自爆霊。
 原作どおり、卒業式に出席する時の実体化する。が、それが彼の『道具』によるものか、それとも魔法の力によるものかは不明ではある。
 まあ、彼がその気になれば彼女も霊ではなく、生身になれるのは確実なわけだが。

 その後。
 なので、彼女が望むのならば、彼女は生身を得る事が可能。
 だが、どうなったのかは読んでいる方に丸投げさせてもらう。



─雪広あやか─
 ネギ大好きっ子。一応、彼がネギに相応しい男性だとは思っているが、それはあんまり認めたくないらしい。
 でも、なんだかんだ言って認めているのは確かである。

 その後。
 ネギの後援者の一人。結局明日菜から知らされる前。夏休み中に、自力で魔法の事を突き止め、ネギを支援しはじめるであろう。明日菜とはやっぱり喧嘩友達。
 千鶴とも親友なので、そのつながりでエヴァンジェリンの家族とも親交がある。いや、彼女の場合はむしろ彼との喧嘩つながりの方が強いか。



─フェイト・アーウェルンクス─
 魔法世界では色々苦労した気がする子。
 せっかくの計画が上司に邪魔されるという中間管理職の悲哀を感じた気もしないでもない。
 彼の中で感じた『主』に違和感を感じ、倒そうとして、ネギを仲間に引き入れようとした。
 しかし失敗。その後なぜか拳闘大会にラカンと出場する事となる。
 ネギに敗北し、約束どおり仲間になった。
 こちらでは火星を開拓する仲間ではなく、『立派な魔法使い』を目指す仲間として。
 なぜか主人公のいるクラス副担任になった。本人嫌がらせと言っているが、その監視を世界最強の人間に任せたという意味もある。が、あまり意味があるとも思えないので、フェイト本人の意思を学園長が汲み取ったのだと思われる。
 つまり、本心はまた別にあるんじゃないかな? 彼を見て学びたかったとか。とかとか?

 その後。
 ネギと共に『立派な魔法使い』を目指して人助けをするのだろう。最終的に、『彼等』を超えられたのかどうかは、ご想像にお任せします。



─アーニャ─
 中々帰ってこないネギを迎えにきたら、突然抱きかかえられ、『闇の福音』の痴話喧嘩に巻きこまれた上蚊帳の外においてかれたという、ちょっとかわいそうな目にあった少女。
 しかしそれがきっかけで、村の石化が解除されたのだから、結果オーライだろう。
 第25話はある意味彼女が主役。

 その後。
 両親と無事再会を果たした彼女は、笑顔で暮らしているに違いない。
 再建されたネギの村には、彼の像もばっちりあるだろうね。うん。



─ラカン─
 『赤き翼』のバグキャラ。こちらも彼女になっていた。
 完全復活した彼の『力』に興味を持ち、強引に拳闘大会へと参戦。決勝大会にて秒殺、無傷、楽勝の三拍子を有言実行される。
 エヴァンジェリンとは悪口を言い合える親友に近い間柄である。

 その後。
 この人その後も変わってないんだろうなぁ。



─スプリングフィールド夫妻─
 ネギのおとうちゃんおかあちゃん。
 最終的に、ネギと再会出来ました。

 その後。
 王様とお后様になって国を盛り上げるか、王制を廃止してネギと幸せに暮らしているかのどちらかでしょう。それはご想像にお任せします。



─クルト・ゲーテル─
 新オスティアの総督。彼等と一度顔をあわせていたため、エヴァンジェリンの処刑時に会談役として選ばれた。
 大暴露大会において、政治的な英雄となった。
 その後の最終決戦で世界の人達の力を合わせるため、その身を砕くかのごとき演説を行った。
 最後の最後で『彼』を魔法世界の世界的英雄に祭り上げたのはこの人。純粋な善意で。相変わらず悪気なき善意によってダメージを受ける彼であった。

 その後。
 元老院が壊滅したため、新しい制度が作られる事となり、大統領制となったメガロメセンブリアの初代大統領になる。その後、魔法世界の鎖国が解かれる事となったかどうかは、これまたご想像にお任せしておこう。



─『ギガ造物主』─
 この物語のラスボス。
 この世界に元から居た『造物主』と、その異世界の同一人物である『ギガゾンビ』が世界の創造主となるため融合した姿。
 その目的は、二つの存在を合わせ、真の『創造主』となる事。
 はじまりの魔法から、終焉の科学力。そのすべての知識を兼ね備えた最強の敵。その一撃は銀河すら破壊し、人の運命、因果すらもてあそぶ事が出来る。
 最終的には『人間製造機』を使い、第四の異能『超能力』さえも手に入れた。
 この世界へ自分を呼びこむための門であった彼を用なしとして『独裁スイッチ』で処分しようとするも、愛の絆により世界へ取り戻され、さらに銀河を破壊する一撃を放つが、それすらも愛の力で防がれてしまった。
 最終的には『伝説のひみつ道具』である『親友テレカ』と二人の愛。さらに、ネギと明日菜の一撃によって消滅した。
 いかな『道具』や魔法をもってしても敗北はなかったはずだが、唯一の誤算。自身の持たぬ『人の愛』によって敗れた。
 『ギガゾンビ』が呼んだなんの力も持たないただの男と『造物主』が命をもてあそび吸血鬼に変えた女が結んだ愛によって敗れるとは、皮肉としかいいようがない。
 ちなみに、『ギガゾンビ』が仮面だけでこちらに来たのは、自分のいた世界のタイムパトロールに時間、世界移動を知られないためである。その世界に肉体を置いてくる事で、死んだと思わせるためらしい。

 ところで、結局原作の『造物主』はなんの目的があってエヴァンジェリンを吸血鬼に変えたんだろうね?




質問コーナー

第23話
>これだけイチャイチャしていて手を出さないって鋼の意思レベルじゃないぞ。素肌で背中合わせって結構やばいんですよ……
 そりゃもう、血の涙流してでも我慢したに決まっています! ついでに、その意志の強さにも、一応意味ありますし!


第24話
>エヴァンジェリンの心情語ると殺されるって言われたけど、平気なの?
 あくまでおまけだから殺されないんだもん!(へりくつ)

>マウストゥマウスは無理でも右手の薬指にはめた指輪(婚約の意)にキスをするくらいの甲斐性を見せごふぁ!(砂を吐く
 はっ! そ、その方法もあったか! まあ、その方法は大人の婚約の時にとっておくという事で! あの時はあくまで子供の約束って事で。うん。
 きっと高校の時、麻帆良祭二日目で18歳の誕生日の時プロポーズと一緒にやったに違いないね。この時まだ約束の範囲内だから、直接手は出せないし! ぴったりだし! なにソレ完璧じゃん。ぬあー!

>彼の原作知識は結局どこまでなの?
 彼の知っている原作知識の上限は、拳闘大会が終わって、クルトが出てきたか出てこないかのところまでになります。
 コミックスで言うと28巻に入ったところ。最大で251時間目までが目安でしょうか(それより前にきた可能性もある)
 なので、アリカの災厄の女王としての存在と火星に魔法世界がある事を知りませんでした。

>エヴァはひみつ道具についてどの程度知っているんです?
 『道具』に関しては、結局第1部ラストでポケットの説明はなく、エヴァも何者だろうと気にしないと宣言してそのままなので、うやむやのままです。
 エヴァにしてみると、すでにその力など興味はなく、ソレを知るなら彼の好きなものを一つ知る事の方が重要という事でひとつ。
 ちなみに認識としては、この世界の中学生の体に宿った何者か(神?)で、桁外れに凄い道具(神器?)を謎の空間に所有している。こんな感じです。

>彼は小太郎の犬っ子突撃を受け慣れてきたり、2~30キロ代はあるエヴァをお姫様抱っこをしながら普通に会話しつつ更に息一つ切らさず走ったりしています。彼はひょっとしてエヴァにも内緒で素の自分の体を鍛えたりしているのでしょうか。
 自分で意図的には鍛えている意識はありませんが、あのメンバーとの付き合いがあれば、勝手に鍛えられていても不思議はありません。出会えばどごーんとしてくるコタローのに慣れてきていたり、お嬢様の黒服に追い回されたりと。


第25話
>刹那、まだ宇宙刑事だと思ってたのか!
 宇宙刑事はね。実際星変身出来る上に救っちゃってるしね。否定する要素が微塵もないからしかたがないよね。本人否定してないし。
 その上記憶にとどめておけるの自分だけしかいないからね。うん。自業自得だからしょうがないさ!(笑顔)

>彼、エヴァ、チャチャゼロの3人はよくゲームで遊んでいるようですが各々の好きなゲームのジャンルは何なのでしょうか。携帯ゲーム機でも遊んだりするのでしょうか。
 ゲームはみんなで出来るのなら好き嫌いせずにやっているようです。これといったジャンルではなく『ゲーム』で遊ぶのが好きなのでしょう。携帯ゲーム機でも遊んでいるかもしれませんが、描写ありませんでしたね。

>彼はエヴァの影の事を魔法の四次元ポケットと評していますが、これはあくまで彼独自の比喩であってエヴァに四次元ポケットなどを渡している訳では無いんですよね。
 はい。単純に比喩です。

>原作ではエヴァは飲酒していましたが人間状態のここのエヴァが飲酒したらどうなりますか。やはり10歳で内臓機能が未発達なので大いに酔ったり体に害になったりするのでしょうか。
 魔力とかでなんらかの対策をとったり、身体能力をあげなければ色々影響出るでしょう。もう人間ですし。

>希望を。エヴァンジェリンが600年の間にたどった道を大人に成長した彼とエヴァが遡っていくという話を数話跨ぎで読んでみたいです。麻帆良から出発してナギと戦い敗れた海岸、南洋の孤島、まだ力が弱いころに点々と隠れ住んだ場所、彼女が本当に見た目通りの年齢のころに住んでいた幼少時の楽しい想い出と吸血鬼になってしまった忌まわしい記憶とが混在するどこぞの領主の城、そして原作では一つも言及されなかった生家を終点とする旅を。いい想い出は余り無いだろうが彼と一緒ならばきっと楽しいものになるはずです。
 一度は考えたネタですけど、第30話で過去においての業すらも彼に取り払われてしまったので、わざわざ過去を振り返る旅をする必要性がなくなってしまったのですよね。
 辛い思い出を振り返り、良い思い出に変える旅というのではなく、結局はただの旅行になりそうなので、やっぱり収録しませんでした。ただ、二人でその道をたどる事はやったかもしれません。ただの思い出話を聞かせる旅として。
 あ、でもあの出来事があったから過去を見つめる勇気が出たというのもありでしたか。全部終わってから気づいた。


第26話
>ゲートで『ギガゾンビ』がエヴァンジェリンに「久しいな娘よ」って言ったのはなんで?
 『ギガゾンビ』と『造物主』は交信していたため、互いの事は把握しています。それゆえ、彼を呼び覚ますための言葉として、エヴァンジェリンを利用したのでしょう。
 もしくは、あの『ギガゾンビ』のいた世界にも、エヴァンジェリンの異世界同位体がいたのかもしれません。

>ゲートの時、『ギガゾンビ』が『四次元ポケット』に手を入れようとしていたのはなぜ?
 追い出しが不完全だったため、完全に追い出してもらうための行動だったのでしょう。もしくは、彼の勘違い。ただ、あの後の分裂による封印は『ギガゾンビ』にも予想外の事態でした。あのまま二人でいる事が出来たのなら、『ギガゾンビ』はこの世界に顕現する事は不可能だったかもしれません。


第27話
>道具が使えない=一般人というのがすんなり周りに受け入れられたのを見るに本来の能力はすごいけどその力のほとんどを道具に封印しているという風に認識されているんでしょうね。
 その通りになります。普段は封印状態だったエヴァンジェリンのように、自分の意思でその力を封じているのだろうという認識でした。そのまま力を封じた(切り離した)ので、擬態のままの力しかないという事ですね。


第29話
>ラカンもTSという事は、これは、詠春さんもTSしてる?
 実は登場した時『長』と表現しただけで、男か女かはぼかしてあるので、どちらかはわかりません。うっかり婿殿とかおとーさんとか書いちゃってあったら確定ですけど、なかったらご随意にという事です!
 詠春だけ男ですげぇ大変だったってのも面白い気もしますね。真面目な人だけに苦労も倍で。

>そしてラカンのイメージはどうしても龍宮と被るんですけど!
 あ、言われてみたらそう見えてくるから不思議! でも大丈夫。ほら、髪形違うし。

>ジャックをもじるならジャクリーンしかないでしょう!
>ラカンの名前はジャックという名前の女性系がジャクリーンもしくはジャクリーヌなんでそのどちらかですね。
>ジャック=ラカンという名前の元ネタを考えると、スペルは英語風の「Jack」ではなくてフランス語風の「Jacque」だと思われるんで、多分ジャクリーヌ(Jacqueline)だと思うです
 名前案ありがとうございます。本編中では結局確定名は出しませんでしたが、個人的にはジャクリーン推しになりますね。


第30話
>王様が魔法の鏡にどうしたらいい? と聞いた結果起こった事がこれだけど王様にとってこれが最善の結果という事なのかな? やっぱりこれはもはや変えようがない未来だったのか…
 あれは変えようのない未来を暗示していたのでしょうね。鏡的には手ぇ出すなよ。絶対に手ぇ出すなよ! って意味だったのでしょう。
 とはいえ、あの時丁度彼の『ポケット』も使用不可状態でしたから、王様が間違った判断をしたとも言い切れないのですよね。


第31話
>『先取り約束機』に後で自力で押さえこむから闇が出てこない様にしてって頼んで、上げ下げくりで約束の期限を100億年繰り下げってやれば完璧
 先延ばしという手も確かにありでした。でもまあ、すっきり決着をつけたかったので、そういう手段はとりませんでした。
 ちなみに『先取り約束機』とはトランシーバーを模した道具で、これに言葉で「後で――するから、――したい」と約束事をすると、その行為に対する結果をその場で実現出来る。
 たとえば空腹なのに食事にありつけない場面で「明日必ずごはんを食べるから」と約束することで、その場で口に美味しい味が広がり、腹も満たされた。その代り、翌日は2日分の食事を取らなければならなくなる。

>秘密道具って死者蘇生だけは不可能なんじゃなかった? 確か劇中でドラえもんがそんな事はさすがに無理だみたいな事いっていた記憶が
 劇中『タイム風呂敷』でワニ皮のバッグからワニが復活した描写もあるので、そっちを採用してます。とはいえ、主人公がそう思っているだけで、実際に蘇生出来るのかはやっていないので不明ですけど。

>髪を洗う…だと…? 我慢できる訳が無い。最早道具を使って我慢してるとしか思えんw
 我慢出来るからこの世界に呼ばれたという理由もありますが、上の疑問で出た『先取り約束機』を使えば色々我慢も出来るって気づいた。その後解禁したらホントに大変になりますけど。なんせ二倍だ。


第32話
>最後の戦い、『気ままに夢見る機』を使えば夢の中に助太刀に行けるじゃん、夢はしごでも良いけど。
 心の『闇』との戦いは意識を普通に持った中での戦いなので、助太刀にはいけないと判断しました。

>いちゃいちゃしている男女に「なぜいちゃいちゃするのか」というアンケートを取ったところ第一位は「とくに話すことがないから」という理由なんだそうな
 そんなアンケートとってるところあるのか。思わず目からうろこが。この二人の場合いちゃいちゃしながら話すがデフォですから当てはまりませんな! なんせ喧嘩すらいちゃいちゃに変わるような奴等ですから……!


第33話
>『ギガ造物主』ってどう読むの?
 まあ、好きなように読んでください。『ぎがぞうぶつしゅ』でも『ギガライフメイカー』でも。指定はしません。

>恒例? の疑問点ですが、すくなくともドラえもん世界では時間の流れは一つじゃないです。時間にも亜流や副流が存在する事になっています。まぁタイムパトロール(23世紀に本部あり)の科学でも未発見なので、どちらにしろギガゾンビには操作不可能なんですが。
 マジでかですか! それは知らなかった……でもまあ、操作不能ならばあそこで予測した主人公が間違えていただけなので問題なしって事ですね!


最終話
>ネギに学生生活の道を
 修行の期間や縛りが原作では明確に描かれていなかったからやれちゃった流れですね。この初期設定って結局子供先生を生む以外に意味はなかった設定なんでしょうかねえ?

>オリ主の名前含む設定を最小限に留めて描写していたので感情移入しやすかったですね
 ありがとうございます。これは無個性になって欠片も感情移入出来なくなるのと諸刃なので、苦労した点でもあります。それでもそう言っていただけると、書いた人は天にも舞い上がるような気持ちになってしまいます。えへへー。

>没ネタ
 結婚式のラスト。誓いのキスのところにザジ(or姉)が飛びこんできて「大魔王デマオンから魔界を助けてください!」とお預け魔界大冒険の話がはじまるところで終わりにしようかとも考えたけど、最後の最後で水をさすのもなんかな。と思い、ひとまず綺麗に終わらせておこうという事で、ああいう形になりました。
 でもこのタイミングで入ってきたら、きっとあの夫婦ブチキレ金剛してデマオンが大変な事になったね。ヘルマンクラスの後悔する事になったろうね。ちょっと見たかったかもね。

>没ネタ2
 茶々丸がメンテナンスで一日エヴァンジェリンの家を離れる。
「せっかくなので、かわりに一日執事としてやってきました! 今日一日よろしくお願いいたしますねお嬢様」
 というネタも思いついたけど、結局そこからうまく転がらなかったネタ。

>入れられなかったネタ
 最終的なプロポーズは、あの決闘をして告白の返事もしたあの橋の上でもう一度。というのも考えていたけど、スペース上入らなかったのでここにさらしておく。


妄想話
>ifなネタ
 将来彼等の息子が、千鶴に惚れてみるのも面白い(あくまで息子が惚れる)。そうなると、親子そろって年上好きになるなー。なんて思ったネタ。
 実際どうなるかは、皆様のお心の中に!

>もいっこif
 ずっと彼女が諦めなかったら、情にほだされた夫人が子を持つ事を許可しても面白いかもしれないわね(あくまで体外受精になるが)
 そのまま何事もなく別の人と結婚しててもそれはそれで面白そうだけど。
 未来はたくさんの可能性があるから面白い。

>明日菜とアスナ姫
 原作で結局統合されて一人の明日菜になったのか、アスナ姫の人格は居眠り中なのか、この区別がよくわからなかったのでネタにしなかったネタ。
 魔法世界で彼が二人になったのを応用して、明日菜とアスナ姫、二人にわけるという方法がある。
 あとは、一方の封印を解いて、もう一方は明日菜のままとすればいい。
 完全魔法無効化能力が半減する事となるが、まあ、それは些細な代償という事で。
 将来分裂する可能性があるって事でここに記しておきます。


劇場版ネタ
>パラレル西遊記
 夏休み、魔法世界に行く前の修行中のお話。稽古をつけてとせがまれて、実際戦いたくない彼が、別荘内で『ヒーローマシン』を出して、ゲームの中での対戦という形で、お茶を濁す。
 ゲームを利用したリアルダンジョンアタックも可能という事で、修行装置としては完璧なその『道具』は、彼女達の修行兼遊び場へと姿を変える。
 ちょっとした用事でエヴァと出かけなければならない彼が、「絶対蓋を開けたままにするなよ。絶対に」と、注意してゆくが、その言葉はもうフリであったかのように、蓋は開けたままにされ、ゲームの中の登場人物が別荘にあふれ出した。
 ネギ達がその日一度家に戻り、別荘へ戻ってきてみれば、大きく変貌した別荘の姿。
 彼とエヴァンジェリンが帰ってくる前に、別荘を元に戻さないとさあ大変。彼女達は無事、別荘を元の姿へ戻す事が出来るのだろうか!?

>魔界大冒険
 結婚式で飛びこんでこない場合、ザジorその姉が、魔界を大魔王デマオンの手から救ってくれとやってくる。
 彼女を追ってきたメジューサの魔力で、彼が石化とかされれば、パワーバランスがいい感じで面白そうなんて思った。
 思わずザジをかばったとかして。
 魔界大冒険のはじまりはじまり。

>海底鬼岩城
 海に行ったら海辺に打ち上げられていた一人の海底人。誰かが見つけて、彼が診察すると、なぜか『テキオー灯』の使用を指示される。
 元気になった海底人の話を聞けば、バミューダトライアングル付近で火山活動があり、かつて栄えたアトランチス。そこにあった鬼岩城。その中枢コンピューターポセイドンの復活がせまっているのだという。こりゃあ大変だと、地球を救いにひと冒険するのであった。


最後に
>他ルート
 今のところ完全に燃え尽きて作者真っ白で、続く予定はまったくないので、期待しないように!
 書いた私は最後まで楽しんで燃え尽きたので、満足しています。
 ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

 それでは、またあう日まで。
 皆さんも、彼等も、お幸せに!


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