「さすがは、守護者統括でありんすねぇ。」
「これでアインズ様は―」
「クフフフフフフ。」「フフフフフフフフ。」
不気味な笑い声がナザリックに響き渡る!
ナザリック地下大墳墓が誇る大浴場。
アインズは男と書かれた暖簾をくぐろうと踏み出した足を止める。
もう一度、誰にも見られていないことを確認するとさっと暖簾をくぐった。
無くなった胸をほっと撫で下ろし、脱衣場に向かう。
誰にも見られてはならない。
誰にもだ。特にアルベドには。
以前、守護者と共に風呂に入った時は秘密裏―アインズ的には―に行動したにも関わらず、アルベドやシャルティアに情報が漏れてしまっていた。
背中を流そうというアルベドを押し留め、何とか入浴出来たのも束の間、アルベドとるし☆ふぁーの置き土産のお陰で満足に湯に浸かることが出来なかった為、次こそは と計画するに至ったのだ。
アインズは部屋着用のローブに視線を移した。
骨しかない体は異様に細い。何重にも巻かれた腰ひもをとくと 縛り付けていた物が無くなりローブがするりと床に落ちた。
ほっそりとした手を伸ばし、ローブを持ち上げると乱暴に篭に放った。
皺が出来てしまおうが構わない。
今日こそはゆっくりと湯に浸かるのだ。
アルベドにもるし☆ふぁーにも邪魔されてなるものか。
ふと、隣に並べられた篭を見る。
どの篭にも衣服は入れられていない。
―おかしい。
先程受けた<メッセージ/伝言>では全員揃ったと知らせを受けた。
なのに、誰の服も無いのは何故なのか。
「デミウルゴスの配慮か?ふふっ、あいつらしいな。」
きっと、漏洩しないための配慮だろう。
アインズは納得したように頷くと大浴場を目指し歩を進めた。
ここまで計画するのは大変だった。
外で忙しく駆け回っているデミウルゴスや蜥蜴人達の統治を任せているコキュートス。
マーレはアウラにバレないよう苦心したようだし、皆、この日のためにスケジュール調整等、頑張ってくれたようだ。
そして…前回、仲間外れとなったのを気にしていたアイツが―飛び入り参加したパンドラズ・アクターを含め、5人での入浴となった。
姿を見られてはならない為、先に入っていろと命令したせいか、脱衣場にはなんの気配も無い。
アインズはもう一度、回りを確認すると風呂へと続く扉を開けた。
開いた隙間から、湯気が脱衣場に吸い込まれる。
そして、温かな空気がアインズに触れ、硫黄や様々な薬湯の香りが鼻骨を擽りだす。
ジャングル風呂、岩風呂、露天風呂、五右衛門風呂、砂風呂、地獄風呂、など、風呂好きの日本人には堪らないラインナップに アインズは期待を胸に、一歩を踏み出した。
湯気をかき分けるように進んでいると、楽しげな鼻歌が聞こえてきた。
アインズは目を細め、音のする方へと視線を向ける。
湯気の量が多く遠くまで見通すことは出来無いが誰かが頭を洗っているようだ。
泡の隙間から見える輝くような金髪。
長い耳に、小さな体。
「遅くなってすまないな、マーレ。」
近づきながら声をかけるとその人物は勢い良く顔をアインズへと向けた。
アインズとその人物の視線が交差する。
そして――
「キャーーーー!!!!」
と悲鳴が響き、幾度も反響した。
「なっ!? あ、アウラか!?」
「な、なんでアインズ様がここに!! 」
屈みこみ、両腕で胸を隠すアウラから慌て体ごと顔を反らす。
そこでアインズは自分が裸であることに気付いた。
隠すべきモノはとうの昔に無くなり骨だけの体になってしまっていたが、それでも少女に裸体を―隠すべき場所を曝していることの羞恥心がアンデッドの特性を引き起こす。
アインズの体を光が包み終わると直ぐに空間からタオルを取りだし、腰に巻き付ける。
「アウラよ、すまなかった‼」
外に出る為小走りで大浴場を横切る。
―あと少しで脱衣場に出れる!
と気を抜いたアインズを浴槽から飛び出した二つの影が襲いかかった。
「…アインズ様はまだ来られないのでしょうか?」
パンドラズ・アクターは そわそわと 洗い場を行ったり来たりを繰り返している。
何度も何度も何度も何度も。
デミウルゴスはため息を吐いた。
「…少しは落ち着いたらどうかね?」
最初は放っておくつもりだった。
だが、視界の端を何度も彷徨かれては流石に気になる。
せめて黙ってくれれば我慢出来るのだが、『アインズ様が、アインズ様が』とさっきからブツブツとうるさいのだ。
デミウルゴスから声が掛かるとパンドラズ・アクターの動きが止まり、浴槽に視線を移動させた。
気持ち良さそうに湯に浸かるデミウルゴスと熱さに呻きながらも同じ湯に浸かるコキュートス。
マーレはまだ、体を洗っている最中だ。
「デミウルゴス ノ言ウ通リダ。アインズ様ハ直グニ行クト仰ッタ。ナラバ、黙シテ待ツベキダロウ。」
「そう…なのですが…。」
納得はしていないがしぶしぶと湯船に浸かるパンドラズ・アクターについ、苦笑を漏らす。
「随分と楽しみにしていたようだね。」
「それはもう!! アインズ様と夢の一時を過ごせるのですよ? この日が来るのを指折り数えておりましたとも!!」
ぐっと拳を握りしめるパンドラズ・アクターにコキュートスが湯をかき分け腕を伸ばした。そしてパンドラズ・アクターの肩に手を置くと 良くわかる とばかり頷く。
コキュートスは外見のため、ナザリック外での行動は制限される。
アインズの為に働きたくても、他の守護者やシモベ達のように人間の街に出掛けたりするのは簡単なことではない。
ナザリックの守護任務が最も重要な事だと理解している。
それでも、アインズと共に行動している者に嫉妬してしまうのだ。
パンドラズ・アクターはその能力上、アインズの変わりに行動することが多い。
アインズと入れ替わり、立ち替わる。
コキュートスと同様、アインズと共に何かをするということが ほとんど無いのだ。
そんな 二人に言葉は必要無かった。
デミウルゴスはガシリと握手し、男の友情をかわす二人から視線を反らす。
マーレも洗い終わるところだ。
マーレが頭から湯をかぶり、泡を勢いよく落とした。そしてプルプルと頭を振り、水滴をはらう。
「お、お待たせしました。」
体を洗い終わったマーレが てててっと駆け寄る。
デミウルゴスから 気する必要はありませんよと声が掛かるとマーレは頬を緩め―浴槽に足をつけようとした瞬間、壁の向こう側 女湯から 悲鳴が聞こえた。
守護者達は直ぐに臨戦態勢に入る。
立ち上がり、腰を軽く落とし、今この場にいるメンバーに相応しい陣形を組む。
どのような場合にも対処が出来るようにだ。
流れるような動きは幾度となく練習されたものであり、チームとして戦えるように とアインズが言っていたことを真剣に受け止め、鍛練してきた結果だ。
一番の攻撃力を誇るコキュートスは魔法職のマーレを背に隠すように立つ。
何故かパンドラズ・アクターは壁の方へと進みだした。
そして、臨戦態勢に入っている守護者に構わず、パンドラズ・アクターが叫ぶように言い放つ。
「今!! アインズ様のお声が聞こえませんでしたか!?」
同意を得ようとパンドラズ・アクターが後ろを振り返るとデミウルゴスは困ったような表情を浮かべていた。
「いや、聞こえなかったが…。コキュートス、君はどうかね?」
「…聞コエタノハ、悲鳴ダケダ。」
マーレもコキュートスと同じように頷く。
幻聴では? とデミウルゴスが言うよりも早くパンドラズ・アクターは行動し始める。
湯をかき分けるように素早く進み、女湯と男湯の境―の壁に耳があるだろう場所を押し付けた。
「…パンドラズ・アクター。一応、聞いておくよ。…何をしているのかな?」
引き気味のデミウルゴスの問いをビシッと伸ばした手で黙らせると 続けて 静かにしろと合図する。
「アインズ様の尊き御声が確かに聞こえました‼」
他の守護者達が何を言おうと、パンドラズ・アクターは頑としてその場から動かなかった。
「うわぁぁ!!」
突然、柔らかい何かに飛び掛かられ、アインズの視界がグルリと反転する。
どうにか踏ん張ろうとするが、水気の多い床は摩擦が極端に低く、簡単に床に押し倒された。
湯気が充満した大浴場の天井から自分の上に乗る何かに視線を動かす。
何が飛び掛かってきたのか、そして誰が上にいるのか 何となく予想出来てしまうことに つい、悲しくなる。
「…アルベドにシャルティア、何をしているのだ?」
「アインズ様の御背中を流そうかと。」
アインズに跨がりながら、さも当然のように言うアルベドとシャルティアを睨み付ける。
「いらん。…お前達は自制というものを学ぶべきだ。」
この体勢でどうやって背中を流すつもりだ? とツッコミたい気持ちを抑える。
言ったところで まともな返答は無い。それは断言出来る。
体を起こそうと腕に力をいれた瞬間、起き上がろうとする力よりも遥かに強く床に押し付けられる。
そして―― アルベドとシャルティアの手が伸びた先を見て、アンデッドだというのにアインズの体に戦慄が走った。
アルベドとシャルティアが掴みかかった――今まさに掴まれたタオルを慌てて掴み、剥ぎ取られまいと力を込める。
「な に を して、いるのだ!! 貴様ら…は‼」
一瞬でも気を抜こうものなら 持っていかれてしまう。
歯を食い縛り呻くような声を出すアインズにアルベドが子供をあやすような優しい声をかけた。
「安心して下さい!一瞬、ほんの一瞬で終わりますから!」
「アルベドの言う通りでありんす!アインズ様は何も考えず、身を任せて頂ければ、あとはこちらが全てやりんすから!」
「ぐぅっ!ふざっ、けるのもっ、いい加減にっ!!」
タオルは三方向から引っ張られ、繊維がブチブチと悲鳴を上げる。
それでもナザリック製のタオルは引きちぎれることなく耐える。
異様な姿に変わっていくタオルに縋るような視線を送りながら、アインズは必死に考える。
今、拮抗を保てているのは奇跡。
戦士職二人相手に、魔法職のアインズが綱引きをして負けていないのは、アルベドとシャルティアが冷静で無いからだ。
どちらか片方がアインズの腕を引き剥がすか、タオルを切れば決着は着く。
魔法やスキルを使われても終わりだ。
ならば、第三者が――
アインズは助けを求めるようにアウラの方へと視線を移す。
アウラは どうにかしなければ という責任感があるようだが、身を隠すものが無い為、動くことが出来無いようだ。
「うわっ!!」
ふいにタオルがグイッと引っ張られ、慌てて視線を戻す。
シャルティア側にタオルが どんどんと引っ張られている。
上前腸骨棘が徐々に姿を現し始め、それに気を良くした アルベドとシャルティアの鼻息が更に荒くなる。
「させるかぁぁぁぁ!!!!」
怒号と ともにシャルティア側に引かれていたタオルを無理矢理 引き戻す。
尻側のタオルを仙骨で床としっかりと固定し、絶対に動かないように腹に力を込める。
元の位置まで引き戻されたタオルにシャルティアが驚きの声を上げ、アルベドが目を見開いた。
絶対に負けられない。
負ければ 鈴木悟の大切な何かが失われてしまうと 直感が告げる。
「くうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「俺をっ! 嘗めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アルベドとシャルティアが目配せをし、アインズが魔法を使用するかと思案した時――
限界まで引き伸ばされたタオルが断末魔の悲鳴を上げた。
「やはり‼アインズ様の御声が!」
壁に顔を着けたまま、パンドラズ・アクターが叫ぶ。
「何故、アインズ様ガ女湯ニ イラッシャルノダ?」
「えっ、ぼ、僕に聞かないで下さい!」
コキュートスもマーレも回答を求めてデミウルゴスを見る。
パンドラズ・アクターはその場から全く動かず、向こう側の状況をどうにか把握しようと思案している。
「…これは、あくまでも可能性の話だ。…それでも構わないかね?」
デミウルゴスが諭すようにコキュートスとマーレを交互に見る。
女湯の状況が掴めないため、今から言う話はただの想像にしか過ぎない。
勝手に勘違いして暴走されても困る。
そこをしっかり伝えておかなければ。
二人が頷くのを確認してから、デミウルゴスは重い口を開いた。
「まず、一つは…アインズ様が彼女らに御寵愛を与えているかもしれないということだ。」
マーレが良くわからないと 首を捻っているが 今は説明している暇は無い。
構わずデミウルゴスは続ける。
「まず、先ほどの悲鳴と思われるものは嬉しい悲鳴…つまり、歓声の可能性があります。」
「ソノヨウニハ聞コエ無カッタガ……。」
「えぇ、私もそう思います。ですが、先程の声はアウラのもの…とすれば―」
デミウルゴスはマーレに視線を移す。
デミウルゴスの視線に誘導されるようにコキュートスもマーレを見る。
「慣れていないことに戸惑い、悲鳴を…失礼、つい、驚いて声を上げてしまったとしても不思議ではないと思います。」
「…ソウダナ。有リ得ル。」
マーレが話についていけず、困ったような表情を浮かべるがデミウルゴスは視線をコキュートスに戻し、言葉を続けた。
「そして、もう一つ。最も可能性が低い事ですが……アインズ様が湯屋を間違えたということも―」
「無イナ。」
「な、無いと思います。」
「―ですねぇ。」
さすがにそれは無いと守護者一同頷く。
男湯と女湯の入り口にはそれぞれ色分けされた暖簾がかけられている。
それを間違えたりはしないだろう。
「では、最後に一つ言わせてもらうと……また、アルベドが何かしたかもしれないということです。」
「ムウッッ!!」
突然、槍を取り出し、壁に構えるコキュートスをデミウルゴスは慌てて止める。
「コキュートス!可能性の話だと言っただろう!?」
「ダガ、アルベド ガ本当ニ何カ画策シテイルノナラバ、 アインズ様ヲ オ助ケセネバ!!」
「だから、落ち着けと言っているんだ!! アインズ様が御寵愛を与えていらっしゃった場合、君はどうするつもりなのかね!?」
その言葉にコキュートスは グゥと呻きながらも、槍を下げたことにデミウルゴスは安堵の息を吐く。
のも 束の間――
『安心して下さい!一瞬、ほんの一瞬で終わりますから!』
『アルベドの言う通りでありんす!アインズ様は何も考えず、身を任せて頂ければ、あとはこちらが全てやりんすから!』
『ぐぅっ!ふざっ、けるのもっ、いい加減にっ!!』
とアインズの切羽詰まるような声が響いた。
「やはり! アインズ様の身に危険が‼」
壁から体を離すとパンドラズ・アクターは浴槽から勢い良く飛び出す。
「行く気かね!?」
デミウルゴスが制するように声をかけるとパンドラズ・アクターは驚いたように目を見開いた。
「アインズ様の純潔が散らされようとしているこの状況で!ただ!指を咥えて見ていろと!?」
「そうは言っていない!だが、君は冷静では無い!少しは―」
「―落ち着いていられるものか!!」
一喝でデミウルゴスを黙らせるもパンドラズ・アクターの怒りは抑えられず、尚も続ける。
「私のっ!創造主で在らせられるアインズ様がっ! 襲われているというのに! 落ち着けだと!?………ああっ、アインズ様っ、貴方のパンドラズ・アクターが今、馳せ参じます‼」
パンドラズ・アクターが扉に向かう瞬間、
コキュートスの手が、がしり とパンドラズ・アクターの肩を掴んだ。
「…待テ。」
「離して頂けますか!?あなたたちと争っている時間など無いのです!」
「違ウ!!」
肩に置かれた手を振り払おうとするパンドラズ・アクターをコキュートスから吹き出る冷気のオーラが留める。
コキュートスの下顎がガチガチと鳴り、白い呼気が吹き出る。
「相手ハ 二人。…ナラバ、モウ 一ツ、剣ガ必要ナノデハナイカ?」
「っ!! コキュートス殿、貴方という方はっ!…わかりました!一緒に参りましょう‼」
「だから冷静になれと―」
デミウルゴスが止めるのも虚しく、二人は扉を破壊しながら、女湯へと走り出した。
パンドラズ・アクターとコキュートスが飛び出していった扉を睨み付け、溜め息を吐いたデミウルゴスは完全に置いていかれたマーレに視線を移した。
「マーレ、私達も準備をしましょう。」
「あ、はいっ!」
デミウルゴスは視線を女湯と男湯を隔てる壁に移した。
そしてもう一度 溜め息を吐いた。
あちら側で起こるであろう惑乱を思って。
タオルが千切れ、鈴木悟が悲鳴を上げる 正にその時――
扉が破壊され、爆風が巻き起こった。
ガラスや壁の一部が飛び散り、粉塵が舞う。
そして、ユラユラ揺れる異形の陰が躍り出た。
「アインズ様!ご無事ですか‼」
聞き慣れた声が聞こえ、アインズに一筋の光明が見える。
そして、パンドラズ・アクターに命令しようと視線を向けるよりも先に――
「キャーーーーーーーー!!」
アウラの悲鳴がアインズの鼓膜あたりを劈いた。
続いて、アルベドが乱入者を睨み付け――
大きく目を見開き、大声で叫ぶ。
「パ、パンドラズ・アクター!? 貴方、正気なの!?」
「アルベド、何を言って……って、うえぇっ!?」
シャルティアの声につられ、
遅れてアインズがパンドラズ・アクターを見て、驚愕する。
「パンドラズ・アクター!!な、何故、服を着ていない!?」
そこには鍛え上げられた体を余すとこなく曝した―― 一言で言えば全裸の男が立っていた。
直ぐにアインズの体が光に包まれた。
「アインズ様、今すぐお助け致します!」
腕を大袈裟に振り上げ、アインズの上に乗っているアルベドとシャルティアを指差す。
「私がっ! 来たからには貴女方の好きにはさせませんよ!!」
「あっち行けぇぇ!!」
「こっちを向くなぁ!!」
と叫ぶアルベドとシャルティアを一笑に付し、パンドラズ・アクターは 大袈裟にやれやれと首を振る。
そして溜め息を吐いた。
「ふっ、何を言うかと思えば、謝罪や弁明ではなく『見て見ぬ振りをしろ』と? 貴女方はこの期に及んで、アインズ様をいまだに襲うつもりなのですか?」
ずんずんと進んで来るパンドラズ・アクターに
―うん!そういう意味じゃないぞ‼
とツッコミを入れたかったが、そんな暇は無い。
「<フライ/飛行>」
重力が無くなった体で、するりとアルベドとシャルティアの拘束から逃れる。
思ったより簡単に逃れることが出来た理由は言うまでも無い。
パンドラズ・アクターに動揺したからだ。
空間に手を差し入れ、新たなタオルを取り出し、腰に巻き付ける。
―さすがに、可哀想だよな。
好きでも無い男に体を見られるのは女の子として耐えれないだろう。
アルベドとシャルティアにタオルを投げ、アウラに素早くタオルをかける。
アルベドとシャルティアの求めるような眼差しから逃れるように充分な距離を取るとパンドラズ・アクターがアインズの前に立った。
「ご安心下さい!必ずお助け致します‼」
「いや、あ、うん。その前に、タオルを―」
ひょいっとパンドラズ・アクターに横抱きに抱え上げられ、アインズにそれ以上の言葉を繋げることは出来なかった。
「パ、パンドラ!?」
「後はお任せします!コキュートス殿!!」
「承知シタ!」
いつ現れたか、コキュートスが各々の手に武器を持ち、退路を確保するように立っていた。
コキュートスとすれ違うように女湯から飛び出したパンドラズ・アクターは安心させるようにアインズに微笑みかける。
「アインズ様、ご無事で何よりです。」
「あ、うん。とりあえず服を着ようか。」
―こうして、アインズは救出された。
このあと――
デミウルゴスとマーレに保護されつつ、自室へと戻ったアインズは事の顛末を語った。
アルベドによって男性守護者達が入ったあと 暖簾が逆に設置されていた事―。
アインズと同様にアルベドもかなり前から計画していた事―。
そして湯のなかで息を殺し、アインズが来るのを待ち構えていた守護者二名には、恐怖候の支配領域 黒棺にて 三日間の謹慎処分を言い渡した。
余談ではあるが―
コキュートス、パンドラズ・アクターによる損壊額にアインズは頭を悩ませる事となり、
一部のメイド達がアインズを抱え上げ、廊下に飛び出したパンドラズ・アクターを見てしまい、アウラ同様悲鳴を上げ、
コキュートスはいつも以上に『裸族』とアウラに揶揄されることとなった。
謹慎が解けたアルベドとシャルティアに近付こうとするものはなく、一般メイドは二人に充分な距離を保ちつつ業務に励むこととなった。
今回の出来事を踏まえ、デミウルゴスによる完璧な情報システムとアインズ様守護計画が立案されることとなった。
そして――
「どうしてこうなる!!!!」
アインズが一人叫んだのを誰も知るよしは無い。
アインズ様を助けるナイトが見たかったんだ!
後悔はしていない。