恋する乙女は指折り数える   作:栗の原

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かなり、グロいです!
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恋する乙女は指折り数える

「うふん。」

 

艶めかしい体をクネらせ、異形が微笑む。

一歩、また一歩と歩を進め、目的の楽器まで歩く。

 

目当ての楽器まで、あと一歩。

異形は微笑む。

 

「アインズ様が今日こそ、ここに来るのねん。」

 

ボキッと音が鳴り、縛り付けている楽器がビクンと震え、猿轡の隙間からダラダラと透明な汁を流しながら悶える。

 

「うふん、そんなに震えて…心配しなくても、まだ終わらないのねん。」

 

楽器の胸に触手を這わせる。

円を描くように、何度も何度も。

その度に、ピクピク反応するのが可愛くて仕方がない。

 

この楽器はニューロニストのお気に入りだ。

アインズより任された楽団の中でもとびきりの音色を持つ。

今日は志向を変えて、ソロを任せてみたのだが、間違いではなかったようだ。

 

「アインズ様は御多忙だから会いに来れないのねん。」

 

―――バキィッ!

 

「あらん?」

 

甘美な音を出す楽器の頭部から滴る汁を、しっとりと水気を含んだ触手で拭う。

チラリと視線を逸らせば、他の楽員も思い思いの旋律を奏でている。

 

「素晴らしいのねん。貴方達にもようやく自覚が出来たようなのねん。」

口を手で隠し、クスクスと笑う。

淑女たるもの、大口を開けて笑う訳にはいかない。

 

もう一度視線をソロの大役を任された幸福な楽器に移す。

頭部を勢い良く左右に振る楽器を安心させるように撫でたニューロニストはもう一度、音楽を奏でる。

 

「アインズ様が今日こそ足を御運び下さるのねん。」

 

――バキィッ!!

 

「ふふ、綺麗な液体だこと。ハリキリ過ぎよん。」

肉を突き破り姿を現したモノをストローのような舌で ちゅっちゅっと吸い取る。

赤い液体を綺麗にしてやると、楽器は少し落ち着いたようだ。

 

ニューロニストは高揚と頷く。

「アインズ様は外で働かれているから、今日は来れないのねん。」

 

――バキィ!!!

 

楽器が勢いよく跳ね、今日一番のメロディを奏でる。

落として壊してしまわないように、丁寧に括りつけていた革ベルトがくい込んで赤く腫れている。

 

「ねえ、聞いてん。」

 

横に伸びる赤く腫れた皮膚を指の腹で擽る。

 

「これは一種の儀式だったらしいのねん。何でも至高の御方から賜った『はなうらない』という呪いらしいけど、最後の花弁の願いが叶う超位魔法らしいのねん。」

 

ニューロニストは続ける。

 

「超位魔法は第十階を越えたその先―とてもシモベ程度が使えるはずは無いわん。だ・け・ど―」

 

触手の先を左右に振り頬を赤らめる。

言葉にするのを迷うように―口を開き、閉じてを繰り返し、ようやく言葉を発した。

 

「この『はなうらない』は、低位の魔法しか使えない者でも使用可能なのねん。」

 

すごいでしょ?

グネリとニューロニストが体を揺らす。

 

「う゛うううう――。」

楽器が目を見開き、必死に体を揺らす。

 

「察しが良くて助かるわん。そう、残る花弁はあと六本なのねん。」

 

「おへがいだっ!もほ、はへてくへ!」

「元気が出て良かったのねん。じゃあ、一気に四本いくわよん。」

 

――バキバキバキバキ!!

 

「だけどね…。この魔法には欠点があるのねん。」

ニューロニストの顔に影が走る。

力無く項垂れる楽器の顎に指を当て無理矢理 視線を合わす。

 

「誰でも使える代わりに、成功率が著しく低いのねん。まあ、当たり前といえば当たり前だけどねん。恐ろしい力を持った魔法は、それだけのデメリットも存在するのねん。」

 

フーッ、フーッ、っと息を粗げる楽器の花弁に指を這わせ、あらぬ方向へと曲げる。

 

今度は二本だ。

 

「あらん?」

 

ニューロニストは首を傾げる。

 

――おかしい。本当なら最後の花弁で「アインズ様がニューロニストに会いに来る」となるはずだった。

 

だが、最後に残ったのは――。

 

「ああ、あ…ああ。」

ニューロニストは震える。

「まだ、大丈夫なのねん!花弁は下にもあるのねん!」

 

寝台を寝かし、下方へと視線を動かす。

まだ、十本もある。

さあ、早く願いを叶える為に花弁を散らそう。

 

「来る」「来ない」「来る」「来ない」「来る」「来ない」「来る」「来ない」「来る」「来な―」

 

―――バキィ。

 

最後の花弁が小さな音を立てて散る。

 

「ううっ、あんまりなのねん。」

魔法発動は失敗した。

これでもう、愛しいアインズと会うことは出来ないのだ。

 

ニューロニストの瞳から大粒の涙が流れる。

ポロポロと溢れた涙が床に落ち、弾けた。

 

後ろに控えていたトーチャーがニューロニストを宥める。

その手を払い、ニューロニストは膝から崩れ落ちた。

 

涙でマスカラが滲む。今日の為に化粧もネイルも完璧に仕上げてきたというのに台無しだ。

もう、愛しいアインズに会うことは出来ないのだ。

 

「うう、悲運としか言いようがないのねん。愛し合う二人が引き裂かれるなんて。」

両手で顔を覆い、シクシクと泣くニューロニストの肩をトーチャーが叩く。

「なんなのん?慰めなんて―」

 

ニューロニストの前に出されたのは真っ白のハンカチ。

綺麗な刺繍を施されたハンカチを惜しげも無く渡すトーチャーに ふふふ、とニューロニストは笑う。

トーチャーから差し出されたハンカチで涙を拭い、笑う。

 

「ありがとねん。ハンカチはキレイ洗って返すわん。」

構わないと照れくさそうに手を振るトーチャーに精一杯の微笑みを返す。

 

「さて、演奏の途中だったのねん。」

 

ごめんなさいね。と可愛らしくお辞儀するニューロニストにトーチャーはある一点を差し示す。

ニューロニストは目を見開く。

 

「そうだったわん!人間種のオスにはもう一本花弁があったのねん!!」

 

ニューロニストとトーチャーの視線が楽器の下腹部で止まる。

 

「重ね重ねお礼を言わせて、トーチャー。貴方のお陰ねん。ありがと。」

 

語尾にハートマークが付きそうなほど甘ったるしく、ニューロニストは言う。

その表情には、先程までの暗い影は微塵も無かった。

 

「では、願うのねん。」

 

ニューロニストは、楽器の花弁に両手を添え、高らかに願う。

 

「アインズ様が今すぐ会いに来て下さるのねん!」

 

――――――ポキッ。

 

 

ニューロニストが花弁を折った、正にその瞬間、真実の部屋の扉が開かれた――

 

 

 

 

 







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